【実施例】
【0039】
以下、本発明について実施例および比較例を用いて具体的に説明する。
[実施例1〜4・比較例1〜4]
図1に示す構成の光ファイバテープ心線1を作製するため、外径約125μmのガラス光ファイバの外周に、ウレタンアクリレート系の紫外線硬化樹脂からなる柔らかい一次被覆と硬い二次被覆を形成し、さらにその上に紫外線硬化型着色剤を塗布して着色層を形成して紫外線硬化し、外径約250μmの光ファイバ素線3を製造した。
4本の光ファイバ素線3を平行に並べ、押出機により難燃性樹脂を被覆して内層5を形成し、その上に一般的なテープ心線に用いられる紫外線硬化型樹脂を塗布して外層7を形成する事で厚み350〜400μmの難燃性の光ファイバテープ心線1を製造した。
得られた光ファイバテープ心線1に対して、以下の試験を行った。
【0040】
各実施例・比較例の条件とその評価は、以下の表1に示した。また、各実施例・比較例で用いる樹脂の種類は、以下のとおりである。
難燃性樹脂A:エチレン−アクリル酸エチル共重合体をベースとした樹脂100質量部にリン酸系難燃剤を80質量部添加したもの
難燃性樹脂B:エチレン−アクリル酸エチル共重合体をベースとした樹脂100質量部に水酸化マグネシウムを難燃剤として100質量部添加したもの
UV樹脂1:一般的なテープ心線用UV樹脂
熱可塑性樹脂:ポリエステルエラストマー(ハイトレル非難燃グレード)
難燃UV樹脂A:水酸化物系難燃剤を含むテープ心線用UV樹脂
難燃熱可塑性樹脂:臭素系難燃剤を含むポリエステルエラストマー(ハイトレル、東レデュポン社製)
【0041】
(1)酸素指数
酸素指数はJIS K7201−2に規定された方法で試験した。酸素指数とは、樹脂が有炎燃焼を維持するのに必要な、23℃±2℃での酸素と窒素の混合ガスの最小酸素濃度で評価する。
【0042】
(2)ショアA硬度
ショアA硬度は、内層5の表面に、JIS K6253のタイプAデュロメータを押し付けて測定した。
【0043】
(3)粘度
内層5を構成する樹脂の粘度は、成形前の状態の樹脂を、粘弾性測定装置 DAR−50(レオロジカ インスツルメンツ製)により、直径20mmのパラレルプレートを用い、平行平板間の距離1.0mmの条件で測定した。
各実施例の内層5を構成する樹脂の25℃での粘度は、5〜140の範囲に収まった。
【0044】
(4)PMD測定
PMD測定は、1kmの光ファイバテープ心線を直径30cmのコイル状に束ね、4本の光ファイバそれぞれについてジョーンズマトリックス法によって測定した。そして、4本の光ファイバのPMD値の平均値を、その光ファイバテープ心線のPMD値とした。尚、波長多重通信における通信容量の大容量化に資する光ファイバテープ心線としてはPMD分散値は0.2ps/km
1/2以下が好ましく、さらに好ましい範囲は0.1ps/km
1/2以下である。
【0045】
(5)垂直難燃性試験
評価試料のテープ心線を垂直に試験箱にセットする。テープ心線に取り付けられた表示旗より25cm下部にバーナーの炎が当たるようにセットする。その際、バーナーと試料は20°の角度で添加できるようにセットする。点火時間は15s、休止時間は15sとし、これを5回繰り返す。以下の3項目を合格基準とする。
i)残炎による燃焼が60sを超えないこと。
ii)表示旗が25%燃えないこと。
iii)落下物によって外科用綿が燃焼しないこと。
【0046】
【表1】
【0047】
実施例1のテープ心線は内層にホスフィンなどのリン系難燃剤を配合した樹脂の上にUV硬化樹脂を被覆し、テープ厚を0.35mmで作成した。内層に柔軟な樹脂を用いる事で多量に難燃剤を配合することが可能なため、外層が非難燃性のUV樹脂でもVW−1に合格できた。外層の厚みが薄く燃焼できるものが少なく、かつ内層が燃焼の広がりを抑制していることが原因と考えられる。
実施例2では内層に、ホスフィンなどのリン系難燃剤を使用せず、水酸化物系を配合した難燃性樹脂をテープ厚0.31mmになるように一括被覆した。外層にはUV硬化樹脂を被覆し、テープ厚0.35mmになるように一括被覆した。実施例1と同じく100m/minで製造した。難燃性は内層に難燃性の高い樹脂層を使用することで、外層が非難燃性のUV樹脂でもVW−1に合格できた。実施例1と同様内層に難燃性の高い樹脂を被覆していることがテープ心線の難燃性を高めていると考えられる。しかし実施例1よりは硬度が大きいため、PMDが若干増加している。
実施例3、4では外層に熱可塑性樹脂を使用した。実施例3、4共に、難燃性はVW−1に合格しており、PMD特性も良好である。しかし、PMD特性では実施例1、2よりも実施例3、4の方がPMD特性は大きい。これは外層を押出機により製造する際の熱応力が影響しているものと考えられる。
【0048】
一方、比較例1では外層に難燃性のUV樹脂を用いて難燃化を試みた。このUV樹脂は酸素指数は高いものの、水酸化物系難燃剤を含有することによる可燃性ガスの希釈や、リン系難燃剤を含むことによる発泡断熱効果などが起こらないため、燃焼試験においては難燃化が難しく、0.35mm厚での難燃化には成功していない。
比較例2では内層を一般的な非難燃UV樹脂、外層を難燃性熱可塑性樹脂により被覆した。0.40mmまで厚くすることで難燃化が可能になるが、外層と内層のヤング率の差による応力の発生によってPMD特性も悪化してしまい、望ましくない。
比較例3では難燃UV樹脂をテープ厚0.35mmで、比較例4では難燃熱可塑性樹脂をテープ厚0.35mmで一括被覆した。比較例3、比較例4、共にVW−1には合格した。しかし比較例3、比較例4、共にPMD特性は悪い。PMD特性は外圧の影響を受けるためテープ厚の影響を受けやすい可能性があることは前述した。これはファイバにかかる外圧がテープ層のTgに大きく左右されていることを示唆している。樹脂はTg前後で線膨張係数が大きく変化する。例えばUV樹脂の場合硬化時の温度がTg以上であると、硬化後に常温に戻る過程で被覆層の収縮が伴う。この収縮はTgが低いほど大きくなり、ファイバへ外圧をかけることになる。熱可塑性樹脂に関しても同様である。しかしTgが異なる樹脂層を二層に分けて被覆することで収縮度合いが二層間で異なりファイバへの外圧が異なり、PMD特性が低くなると推測している。よって比較例3や比較例4のような難燃性の高い樹脂で単層一括被覆するとPMD特性が悪くなるものと考えられる。
【0049】
[実施例5・比較例5]
グリースを用いて内層5を形成する以外は、実施例1などと同様に光ファイバテープ心線を作製した。
難燃性グリースを用いる場合、4本の光ファイバ素線3を平行に並べ、難燃性グリースを塗布して内層5を形成し、その上に一般的なテープ心線に用いられる紫外線硬化型樹脂を塗布して外層7を形成する事で厚み350〜400μmの難燃テープ心線を製造した。
なお、グリースを塗布する際は、間欠接着型テープ心線の製造に用いるような、平行に整列させた光ファイバに対して複数のシリンジを並べた形状のディスペンサーを用いて製造した。
【0050】
各実施例・比較例の条件とその評価は、以下の表2に示した。また、各実施例・比較例で用いる樹脂の種類は、以下のとおりである。
難燃グリースA: パラフィン系オイル100質量部、ハンタイト100質量部、水酸化マグネシウム100質量部、ハイドロマグネサイト100質量部からなる難燃性コンパウンド
難燃グリースB: パラフィン系オイル100質量部、ハンタイト100質量部、水酸化マグネシウム200質量部、ハイドロマグネサイト100質量部からなる難燃性コンパウンド
【0051】
(1)稠度
稠度はJIS K2220(2003)に規定された方法で試験し、25℃で60回混和後の混和稠度を求めた。また、−50℃での稠度も測定した。
【0052】
その他、酸素指数、PMD測定、垂直難燃性試験は、実施例1と同様にして行った。
【0053】
【表2】
【0054】
実施例5では、柔軟樹脂のかわりにパラフィンオイルと難燃剤の混和物である難燃性グリースを内層に塗布し、その上にUV樹脂を被覆することで製造した。難燃剤の配合量を選択することで適切な稠度の範囲に調整したものであれば、テープ心線を難燃化しながらPMD特性を損なわないようにすることができる。比較例5のように難燃性を高めようとして配合量を増やした場合、稠度がより硬くなるため安定的な塗布が困難になり、製造そのものが不可能となってしまう。
【0055】
以上、添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しえることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。