特許第5871431号(P5871431)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5871431光ファイバテープ心線および光ファイバケーブル
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  • 特許5871431-光ファイバテープ心線および光ファイバケーブル 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5871431
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】光ファイバテープ心線および光ファイバケーブル
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/44 20060101AFI20160216BHJP
【FI】
   G02B6/44 371
   G02B6/44 381
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-110715(P2012-110715)
(22)【出願日】2012年5月14日
(65)【公開番号】特開2013-238695(P2013-238695A)
(43)【公開日】2013年11月28日
【審査請求日】2015年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 豪
(72)【発明者】
【氏名】新子谷 悦宏
(72)【発明者】
【氏名】須山 健一
【審査官】 吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−237482(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
並設された複数本の光ファイバ素線と、
前記光ファイバ素線を包み込む内層と、
前記内層を覆う外層と
を有し、
前記外層は、樹脂で形成され、
前記内層は、ベース樹脂に難燃剤を添加してなる、ショアA硬度が40以下、酸素指数25以上の難燃性樹脂であって、かつ紫外線硬化樹脂でない樹脂で形成される
ことを特徴とする光ファイバテープ心線。
【請求項2】
前記難燃性樹脂の前記ベース樹脂が、ブチルゴム、アクリルゴム、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、熱可塑性ポリウレタン、オレフィン系エラストマー、プロック共重合体系エラストマーからなる群から一つ以上が選択されることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバテープ心線。
【請求項3】
前記難燃性樹脂は、リン酸エステル、ホスホン酸エステル、ホスフィンオキシド類、難燃性窒素含有へテロ環状エチレン性不飽和化合物、リン含有アクリレート、メタクリレート官能性オリゴマー、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属酸化物からなる群から一つ以上を選択した難燃剤を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の光ファイバテープ心線。
【請求項4】
前記外層が、放射線硬化樹脂または熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の光ファイバテープ心線。
【請求項5】
前記外層が、紫外線硬化樹脂であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の光ファイバテープ心線。
【請求項6】
前記外層は、リン酸エステル、ホスホン酸エステル、ホスフィンオキシド類、難燃性窒素含有へテロ環状エチレン性不飽和化合物、リン含有アクリレート、メタクリレート官能性オリゴマー、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属酸化物からなる群から一つ以上を選択した難燃剤を、内層よりも低い割合で含有することを特徴とする請求項1〜のいずれか一つに記載の光ファイバテープ心線。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか1項に記載の光ファイバテープ心線を使用していることを特徴とする光ファイバケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信などに使用される光ファイバテープ心線などに関し、特に難燃性の光ファイバテープ心線に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータや映像機器などが取り扱う情報量が多くなり、伝送容量と伝送速度の面から、電気電送方式での限界が見られる。今後はこういった機器における配線方法として、光インターコネクションを用いることで、広帯域での伝送が可能となるとともに小型で低消費電力の電送システムを構築できる。
【0003】
機器の内部のボード間や、制御ボードとディスプレイ間などを接続するには、柔軟な配線が可能な光ファイバテープ心線を用いることが有効である。一方、機器内で使用する際には、一般的に火災に対する燃焼防止の目的から難燃性が要求される。柔軟性やサイズをそのままに光ファイバテープ心線に難燃性を付与する必要がある。
【0004】
一般に、光ファイバテープ心線は紫外線硬化樹脂で光ファイバ素線を一括被覆し、テープ化している。紫外線硬化樹脂に難燃剤を配合すると紫外線が透過しにくくなるため、光ファイバテープ心線の被覆に用いる紫外線硬化樹脂の難燃化は困難であり、垂直難燃性等の厳しい難燃性の基準を満たすことは難しい。
【0005】
また、光ファイバ素線を、紫外線硬化樹脂でなく、難燃性熱可塑性樹脂で一括被覆する難燃性光ファイバテープ心線が開示されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0006】
また、光ファイバ素線を製造する際、裸ファイバの外周の、一般的にはプライマリやセカンダリと呼ばれる被覆自体を難燃性の紫外線硬化型樹脂で形成する難燃性光ファイバテープ心線が開示されている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−214492号公報
【特許文献2】特開2005−008448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、光ファイバ素線は、難燃剤を含む熱可塑性樹脂と直接接触することになるため、難燃剤の粒子が光ファイバ素線に強く押し付けられることで、光ファイバ素線の断面方向に非等方的な応力が作用し、伝送光の偏波方向に依存した速度差が生じ、偏波モード分散(PMD)の原因となる。
【0009】
また、特許文献2に記載の発明では、プライマリやセカンダリが難燃性紫外線硬化型樹脂である、特殊な光ファイバ素線を用いるため、光ファイバ素線の価格が高価であった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、その目的とすることは、難燃性と伝送特性に優れた光ファイバテープ心線を得ることである。
【0011】
前述した目的を達成するために、以下の発明を提供する。
(1)並設された複数本の光ファイバ素線と、前記光ファイバ素線を包み込む内層と、前記内層を覆う外層とを有し、前記外層は、樹脂で形成され、前記内層は、ベース樹脂に難燃剤を添加してなる、ショアA硬度が40以下、酸素指数25以上の難燃性樹脂で形成されることを特徴とする光ファイバテープ心線。
(2)並設された複数本の光ファイバ素線と、前記光ファイバ素線を包み込む内層と、前記内層を覆う外層とを有し、前記外層は、樹脂で形成され、前記内層は、ベース油に、難燃剤を添加してなる、室温での稠度440以下、−50℃での稠度200以上、酸素指数25以上の難燃性グリースで形成されることを特徴とする光ファイバテープ心線。
(3)前記難燃性樹脂の前記ベース樹脂が、ブチルゴム、アクリルゴム、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、熱可塑性ポリウレタン、オレフィン系エラストマー、プロック共重合体系エラストマーからなる群から一つ以上が選択されることを特徴とする(1)に記載の光ファイバテープ心線。
(4)前記難燃性グリースにおいて、前記ベース油が、鉱油、合成炭化水素油、ジフェニルエーテル油、エステル類、グリコール類からなる群から一つ以上が選択され、前記難燃剤が水酸化マグネシウム、ハンタイト粉末、ハイドロマグネサイトからなる群から一つ以上が選択されることを特徴とする(2)に記載の光ファイバテープ心線。
(5)前記難燃性樹脂または前記難燃性グリースは、リン酸エステル、ホスホン酸エステル、ホスフィンオキシド類、難燃性窒素含有へテロ環状エチレン性不飽和化合物、リン含有アクリレート、メタクリレート官能性オリゴマー、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属酸化物からなる群から一つ以上を選択した難燃剤を含有することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の光ファイバテープ心線。
(6)前記外層が、放射線硬化樹脂または熱可塑性樹脂であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の光ファイバテープ心線。
(7)前記外層が、紫外線硬化樹脂であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の光ファイバテープ心線。
(8)前記外層は、リン酸エステル、ホスホン酸エステル、ホスフィンオキシド類、難燃性窒素含有へテロ環状エチレン性不飽和化合物、リン含有アクリレート、メタクリレート官能性オリゴマー、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属酸化物からなる群から一つ以上を選択した難燃剤を、内層よりも低い割合で含有することを特徴とする(1)〜(7)のいずれか一つに記載の光ファイバテープ心線。
(9)(1)〜(8)のいずれかに記載の光ファイバテープ心線を使用していることを特徴とする光ファイバケーブル。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、難燃性と伝送特性に優れた光ファイバテープ心線を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る光ファイバテープ心線1を示す断面斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態を示す概略断面図である。本発明の光ファイバテープ心線1は、並んで設けられた複数本の光ファイバ素線3と、光ファイバ素線3を被覆する一括被覆9を有する。一括被覆9は、内層5と、さらに内層5を被覆する外層7とを有する。光ファイバテープ心線1の厚さは、仕様により適宜変更可能であるが、JIS C6838で規定される「テープ形光ファイバ心線」の規定である厚さ480μmに合わせて、300μm〜600μmであることが好ましい。特に、外層7までを含めて、光ファイバテープ心線の厚さが350μm以下であることが好ましい。外層の厚さが厚すぎると、外層と内層のヤング率の差による応力の発生によってPMD特性も悪化してしまい、望ましくない。
【0015】
[光ファイバ素線3]
光ファイバ素線3は、ガラスまたは樹脂製の光ファイバの線引き直後に、一次被覆(プライマリ)と、必要に応じてさらに二次被覆(セカンダリ)により被覆された光ファイバ素線である。また、図1では光ファイバ素線が4本であるが、光ファイバ素線が2本や8本の2心や8心であっても良い。一次被覆および二次被覆は、紫外線硬化型の樹脂、例えば、紫外線硬化型のウレタンアクリレートなどの樹脂組成物を用いて被覆され、紫外線を照射することにより硬化して形成される。通常、光ファイバ素線3の直径は、125μmか、250μmである。
【0016】
[内層5]
内層5は、ショアA硬度が40以下、酸素指数25以上の難燃性樹脂を用いて、光ファイバ素線3の束の全体を包み込むように形成される。
【0017】
ショアA硬度が40以下であることにより、内層5を構成する難燃性樹脂は十分に柔らかく、難燃剤の粒子が光ファイバ素線3を圧迫して伝送ロスが発生することを防ぐことができる。
【0018】
なお、内層5を構成する難燃性樹脂は、25℃での粘度が0.5〜600Pa・sであることが好ましく、さらに、25℃での粘度が5〜140Pa・sであることが好ましく、5〜60Pa・sであることがより好ましい。内層5を構成する難燃性樹脂の25℃での粘度に関しては、0.5Pa/s未満では流動性が高すぎ、600Pa/s超では粘りが強すぎ、樹脂の塗布が困難である。
【0019】
ここで、ショアA硬度は、デュロメータの押針を樹脂に押し付けた際の押針移動量を元に計測される。
また、ここでの粘度は、難燃剤配合後の難燃性樹脂の粘度であり、JIS K7117−2(回転粘度計による定せん断速度での粘度の測定方法)で規定される。
【0020】
内層5を構成する難燃性樹脂は、ブチルゴム、アクリルゴム、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、熱可塑性ポリウレタン、オレフィン系エラストマー、ブロック共重合体系エラストマーからなる群から一つ以上を選択したベース樹脂に、難燃剤を添加してなる。なお、ブロック共重合体系エラストマーとしては、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)を用いることができる。
【0021】
また、内層5は、ベース油に、難燃剤を添加してなる、室温での稠度440以下、−50℃での稠度200以上、酸素指数25以上の難燃性グリースで形成されてもよい。
【0022】
室温での稠度が440を超えると、難燃性グリースの流動性が非常に高いため、内層5として封入することが難しくなってしまう。また、−50℃での稠度が200未満である場合、硬くなりすぎてしまい、PMD特性も悪くなり、内層5の形成も困難となる。
【0023】
前記ベース油は、鉱油、合成炭化水素油、ジフェニルエーテル油、エステル類、グリコール類からなる群から一つ以上が選択される。
【0024】
ここでの稠度は、JIS K2220(2003)において示される、混和稠度(1/10mm)であり、グリースに対して円錐が貫入した深さを基準に求められる。
【0025】
内層5を構成する難燃性樹脂または難燃性グリースに添加される難燃剤は、リン酸エステル、ホスホン酸エステル、ホスフィンオキシド類、難燃性窒素含有へテロ環状エチレン性不飽和化合物、リン含有アクリレート、メタクリレート官能性オリゴマー、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属酸化物からなる群から一つ以上を選択した難燃剤を含有する。含有量としては、ベース樹脂100質量部に対して、難燃剤を20〜120質量部加えることが好ましく、60〜100質量部加えることがより好ましい。難燃剤が少なすぎると難燃性が不足し、難燃剤が多すぎるとマイクロベンドが発生してしまう。
【0026】
並んで設けられた光ファイバ素線3の頭頂部を結んだ線からの内層5の厚さ(すなわち、図1のA部分の厚さ)が32μm以下であることが好ましい。内層5の厚さが厚すぎると、光ファイバテープ心線1の厚さが厚くなってしまう。
【0027】
[外層7]
外層7は、放射線硬化樹脂または熱可塑性樹脂であり、さらには、紫外線硬化樹脂であることが好ましい。
【0028】
光ファイバテープ心線1全体が、内層5があることにより十分な難燃性を備えていれば、必ずしも外層7も難燃性を有する必要はないが、外層7も難燃剤を含み、難燃性を有することが好ましい。
外層7に加える難燃剤としては、内層5に加える難燃剤と同様の難燃剤を加えることができるが、内層5の難燃剤の含有量より、外層7の難燃剤の含有量のほうが低いことが好ましい。難燃剤の含有量が少ない方が、被覆工程を行いやすいためである。
【0029】
また、外層7の厚さは10μm以上である。外層の厚さが薄すぎると、成形が困難である。また、外層の厚さは100μm以下であることが好ましい。外層の厚さが厚すぎると、光ファイバ素線3の直径が250μmであることが多いため、光ファイバテープ心線の厚さが、JIS C6838で規定される「テープ形光ファイバ心線」の規定である厚さ480μmを超えてしまう可能性が高いためである。
【0030】
外層7に用いられる熱可塑性樹脂としては、ポリ塩化ビニル樹脂、フッ素系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエチレン系共重合樹脂、アクリルゴム、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂のいずれを用いてもよく、2種以上の樹脂を混合して用いても良い。ポリエチレン樹脂としては高密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレンなどがありいずれを用いても良い。ポリエチレン系共重合樹脂としてはエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、エチレン−アクリル酸エチル共重合樹脂(EEA)、エチレン−アクリル酸メチル(EMA)のいずれを用いてもよい。
【0031】
外層7に用いられる放射線硬化樹脂や紫外線硬化樹脂は、アクリレート樹脂など、光ファイバの被覆に用いられる一般的な放射線硬化樹脂や紫外線硬化樹脂を用いることができる。
【0032】
また、難燃剤として水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムの金属水和物難燃剤を使用する場合には、その平均粒子径を1.5μm以下のものを使用することが好ましい。平均粒子径は金属水和物単体またはコンパウンドの適当な部分を脆性破壊した断面に露出する難燃剤の径を顕微鏡下で50カ所測定することで求める。平均粒子径が大きすぎると、被覆する際に外層7が内層5の上から光ファイバ素線3に応力を加えてしまい伝送ロスの原因となってしまう。
【0033】
なお、光ファイバテープ心線1は、内層5と外層7のみを有しているが、三層目被覆を設ける構成を完全に排除するものではない。しかし、被覆する工程が増えること、心線分離が困難になることから、三層目被覆を設けることは少ない。
【0034】
(本発明に係る光ファイバテープ心線1の効果)
本発明に係る光ファイバテープ心線1は、内層5に多量の難燃剤を加えることができるため、高度な難燃性を有する。
【0035】
また、本発明に係る光ファイバテープ心線1は、内層5が、特定の性質を持つ難燃性樹脂または難燃性グリースにより構成されており、内層5が柔らかいため、難燃剤の粒子が光ファイバ素線3を圧迫して伝送ロスが発生することを防ぐことができる。
【0036】
また、本発明に係る光ファイバテープ心線1は、内層5を紫外線硬化樹脂でない樹脂などにより構成するため、樹脂の紫外線透過性を気にする必要はないため、内層5に多量の難燃剤を加えることができる。
【0037】
また、本発明に係る光ファイバテープ心線1は、光ファイバ素線3のプライマリやセカンダリを難燃化する必要がないため、一般的な光ファイバ素線3を用いることができ、低コストである。
【0038】
本発明に係る光ファイバテープ心線1を、光ファイバケーブルに用いることができる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明について実施例および比較例を用いて具体的に説明する。
[実施例1〜4・比較例1〜4]
図1に示す構成の光ファイバテープ心線1を作製するため、外径約125μmのガラス光ファイバの外周に、ウレタンアクリレート系の紫外線硬化樹脂からなる柔らかい一次被覆と硬い二次被覆を形成し、さらにその上に紫外線硬化型着色剤を塗布して着色層を形成して紫外線硬化し、外径約250μmの光ファイバ素線3を製造した。
4本の光ファイバ素線3を平行に並べ、押出機により難燃性樹脂を被覆して内層5を形成し、その上に一般的なテープ心線に用いられる紫外線硬化型樹脂を塗布して外層7を形成する事で厚み350〜400μmの難燃性の光ファイバテープ心線1を製造した。
得られた光ファイバテープ心線1に対して、以下の試験を行った。
【0040】
各実施例・比較例の条件とその評価は、以下の表1に示した。また、各実施例・比較例で用いる樹脂の種類は、以下のとおりである。
難燃性樹脂A:エチレン−アクリル酸エチル共重合体をベースとした樹脂100質量部にリン酸系難燃剤を80質量部添加したもの
難燃性樹脂B:エチレン−アクリル酸エチル共重合体をベースとした樹脂100質量部に水酸化マグネシウムを難燃剤として100質量部添加したもの
UV樹脂1:一般的なテープ心線用UV樹脂
熱可塑性樹脂:ポリエステルエラストマー(ハイトレル非難燃グレード)
難燃UV樹脂A:水酸化物系難燃剤を含むテープ心線用UV樹脂
難燃熱可塑性樹脂:臭素系難燃剤を含むポリエステルエラストマー(ハイトレル、東レデュポン社製)
【0041】
(1)酸素指数
酸素指数はJIS K7201−2に規定された方法で試験した。酸素指数とは、樹脂が有炎燃焼を維持するのに必要な、23℃±2℃での酸素と窒素の混合ガスの最小酸素濃度で評価する。
【0042】
(2)ショアA硬度
ショアA硬度は、内層5の表面に、JIS K6253のタイプAデュロメータを押し付けて測定した。
【0043】
(3)粘度
内層5を構成する樹脂の粘度は、成形前の状態の樹脂を、粘弾性測定装置 DAR−50(レオロジカ インスツルメンツ製)により、直径20mmのパラレルプレートを用い、平行平板間の距離1.0mmの条件で測定した。
各実施例の内層5を構成する樹脂の25℃での粘度は、5〜140の範囲に収まった。
【0044】
(4)PMD測定
PMD測定は、1kmの光ファイバテープ心線を直径30cmのコイル状に束ね、4本の光ファイバそれぞれについてジョーンズマトリックス法によって測定した。そして、4本の光ファイバのPMD値の平均値を、その光ファイバテープ心線のPMD値とした。尚、波長多重通信における通信容量の大容量化に資する光ファイバテープ心線としてはPMD分散値は0.2ps/km1/2以下が好ましく、さらに好ましい範囲は0.1ps/km1/2以下である。
【0045】
(5)垂直難燃性試験
評価試料のテープ心線を垂直に試験箱にセットする。テープ心線に取り付けられた表示旗より25cm下部にバーナーの炎が当たるようにセットする。その際、バーナーと試料は20°の角度で添加できるようにセットする。点火時間は15s、休止時間は15sとし、これを5回繰り返す。以下の3項目を合格基準とする。
i)残炎による燃焼が60sを超えないこと。
ii)表示旗が25%燃えないこと。
iii)落下物によって外科用綿が燃焼しないこと。
【0046】
【表1】
【0047】
実施例1のテープ心線は内層にホスフィンなどのリン系難燃剤を配合した樹脂の上にUV硬化樹脂を被覆し、テープ厚を0.35mmで作成した。内層に柔軟な樹脂を用いる事で多量に難燃剤を配合することが可能なため、外層が非難燃性のUV樹脂でもVW−1に合格できた。外層の厚みが薄く燃焼できるものが少なく、かつ内層が燃焼の広がりを抑制していることが原因と考えられる。
実施例2では内層に、ホスフィンなどのリン系難燃剤を使用せず、水酸化物系を配合した難燃性樹脂をテープ厚0.31mmになるように一括被覆した。外層にはUV硬化樹脂を被覆し、テープ厚0.35mmになるように一括被覆した。実施例1と同じく100m/minで製造した。難燃性は内層に難燃性の高い樹脂層を使用することで、外層が非難燃性のUV樹脂でもVW−1に合格できた。実施例1と同様内層に難燃性の高い樹脂を被覆していることがテープ心線の難燃性を高めていると考えられる。しかし実施例1よりは硬度が大きいため、PMDが若干増加している。
実施例3、4では外層に熱可塑性樹脂を使用した。実施例3、4共に、難燃性はVW−1に合格しており、PMD特性も良好である。しかし、PMD特性では実施例1、2よりも実施例3、4の方がPMD特性は大きい。これは外層を押出機により製造する際の熱応力が影響しているものと考えられる。
【0048】
一方、比較例1では外層に難燃性のUV樹脂を用いて難燃化を試みた。このUV樹脂は酸素指数は高いものの、水酸化物系難燃剤を含有することによる可燃性ガスの希釈や、リン系難燃剤を含むことによる発泡断熱効果などが起こらないため、燃焼試験においては難燃化が難しく、0.35mm厚での難燃化には成功していない。
比較例2では内層を一般的な非難燃UV樹脂、外層を難燃性熱可塑性樹脂により被覆した。0.40mmまで厚くすることで難燃化が可能になるが、外層と内層のヤング率の差による応力の発生によってPMD特性も悪化してしまい、望ましくない。
比較例3では難燃UV樹脂をテープ厚0.35mmで、比較例4では難燃熱可塑性樹脂をテープ厚0.35mmで一括被覆した。比較例3、比較例4、共にVW−1には合格した。しかし比較例3、比較例4、共にPMD特性は悪い。PMD特性は外圧の影響を受けるためテープ厚の影響を受けやすい可能性があることは前述した。これはファイバにかかる外圧がテープ層のTgに大きく左右されていることを示唆している。樹脂はTg前後で線膨張係数が大きく変化する。例えばUV樹脂の場合硬化時の温度がTg以上であると、硬化後に常温に戻る過程で被覆層の収縮が伴う。この収縮はTgが低いほど大きくなり、ファイバへ外圧をかけることになる。熱可塑性樹脂に関しても同様である。しかしTgが異なる樹脂層を二層に分けて被覆することで収縮度合いが二層間で異なりファイバへの外圧が異なり、PMD特性が低くなると推測している。よって比較例3や比較例4のような難燃性の高い樹脂で単層一括被覆するとPMD特性が悪くなるものと考えられる。
【0049】
[実施例5・比較例5]
グリースを用いて内層5を形成する以外は、実施例1などと同様に光ファイバテープ心線を作製した。
難燃性グリースを用いる場合、4本の光ファイバ素線3を平行に並べ、難燃性グリースを塗布して内層5を形成し、その上に一般的なテープ心線に用いられる紫外線硬化型樹脂を塗布して外層7を形成する事で厚み350〜400μmの難燃テープ心線を製造した。
なお、グリースを塗布する際は、間欠接着型テープ心線の製造に用いるような、平行に整列させた光ファイバに対して複数のシリンジを並べた形状のディスペンサーを用いて製造した。
【0050】
各実施例・比較例の条件とその評価は、以下の表2に示した。また、各実施例・比較例で用いる樹脂の種類は、以下のとおりである。
難燃グリースA: パラフィン系オイル100質量部、ハンタイト100質量部、水酸化マグネシウム100質量部、ハイドロマグネサイト100質量部からなる難燃性コンパウンド
難燃グリースB: パラフィン系オイル100質量部、ハンタイト100質量部、水酸化マグネシウム200質量部、ハイドロマグネサイト100質量部からなる難燃性コンパウンド
【0051】
(1)稠度
稠度はJIS K2220(2003)に規定された方法で試験し、25℃で60回混和後の混和稠度を求めた。また、−50℃での稠度も測定した。
【0052】
その他、酸素指数、PMD測定、垂直難燃性試験は、実施例1と同様にして行った。
【0053】
【表2】
【0054】
実施例5では、柔軟樹脂のかわりにパラフィンオイルと難燃剤の混和物である難燃性グリースを内層に塗布し、その上にUV樹脂を被覆することで製造した。難燃剤の配合量を選択することで適切な稠度の範囲に調整したものであれば、テープ心線を難燃化しながらPMD特性を損なわないようにすることができる。比較例5のように難燃性を高めようとして配合量を増やした場合、稠度がより硬くなるため安定的な塗布が困難になり、製造そのものが不可能となってしまう。
【0055】
以上、添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しえることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0056】
1………光ファイバテープ心線
3………光ファイバ素線
5………内層
7………外層
9………一括被覆
図1