(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
塗布、焼付けにより絶縁皮膜を形成しうる樹脂を含む絶縁塗料を導体上に塗布、焼付けする工程を含む絶縁電線の製造方法であって、前記絶縁塗料中に沸点が160℃以上の、炭素数が10以上の化合物である、一級アルコール、二級アルコール、ポリオール、一級チオール、二級チオールおよび糖類からなる群から選ばれる少なくとも1種の還元剤を含有する、絶縁電線の製造方法。
塗布、焼付けにより絶縁皮膜を形成しうる樹脂を含む絶縁塗料を導体上に塗布、焼付けすることにより絶縁皮膜を形成し、絶縁皮膜上に沸点が160℃以上の、炭素数が10以上の化合物である、一級アルコール、二級アルコール、ポリオール、一級チオール、二級チオールおよび糖類からなる群から選ばれる少なくとも1種の還元剤を塗布、焼付けする、絶縁電線の製造方法。
沸点が160℃以上の、炭素数が10以上の化合物である、一級アルコール、二級アルコール、ポリオール、一級チオール、二級チオールおよび糖類からなる群から選ばれる少なくとも1種の還元剤を導体上に塗布、焼付けし、さらに塗布、焼付けにより絶縁皮膜を形成しうる樹脂を含む絶縁塗料を塗布、焼付けすることにより絶縁皮膜を形成する、絶縁電線の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、導体に対する密着性を有し、耐熱性に優れた絶縁被膜を形成しうる、絶縁塗料の提供を課題とする。
さらに、本発明は、高温環境に長時間晒されても絶縁皮膜の密着力が低下しない絶縁電線の提供を課題とする。
さらに本発明は、前記絶縁電線の製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題に鑑み、絶縁電線の絶縁皮膜に特定の還元剤を含有させることにより、導体表面の酸化皮膜の生成を抑制し、高温環境下でも金属導体に対する絶縁皮膜の密着力を保持できる絶縁電線の製造方法について鋭意検討を行った。その結果、絶縁皮膜を構成する樹脂組成物の溶剤成分に均一分散し、かつその沸点が十分に高い特定の還元剤を含有させた絶縁塗料を用いて絶縁皮膜を形成することで、焼付け工程後の皮膜中に残留している還元剤によって熱処理後の導体の酸化を防ぐことができ、絶縁皮膜の諸特性を損なうことなく、長期耐熱性に優れた絶縁電線を作製できることを見出した。本発明はこの知見に基づきなされたものである。
【0009】
本発明によれば、下記の手段が提供される。
(1)塗布、焼付けにより絶縁皮膜を形成しうる樹脂と、沸点が160℃以上の、炭素数が10以上の化合物である、一級アルコール、二級アルコール
、一級チオール
および二級チオー
ルからなる群から選ばれる少なくとも1種の還元剤を含有する、絶縁塗料。
(2)前記還元剤の含有量が、樹脂固形分に対して1質量%以上30質量%以下である、前記(1)項記載の絶縁塗料。
(3)前記還元剤が還元性のヒドロキシ基を有する化合物である、前記(1)又は(2)項記載の絶縁塗料。
(4)前記還元剤がヒドロキシ基を有するテルペノイドである、前記(1)〜(3)のいずれか1項記載の絶縁塗料。
(5)前記還元剤が、シトロネロール、ゲラニオール及びドデカンチオールからなる群より選ばれる、前記(1)又は(2)項記載の絶縁塗料。
(6)
焼付塗布層である1層又は2層以上の絶縁皮膜を
導体上に有する絶縁電線であって、該絶縁皮膜の少なくとも1層中に沸点が160℃以上の、炭素数が10以上の化合物である、一級アルコール、二級アルコール、ポリオール、一級チオール、二級チオールおよび糖類からなる群から選ばれる少なくとも1種の還元剤が含まれる、絶縁電線。
(7)前記還元剤の含有量が、樹脂固形分に対して1質量%以上30質量%以下である、前記(6)項記載の絶縁電線。
(8)前記還元剤が還元性のヒドロキシ基を有する化合物である、前記(6)又は(7)項記載の絶縁電線。
(9)前記還元剤がヒドロキシ基を有するテルペノイドである、前記(6)〜(8)のいずれか1項記載の絶縁電線。
(10)前記還元剤が、シトロネロール、ゲラニオール及びドデカンチオールからなる群より選ばれる、前記(6)又は(7)項記載の絶縁電線
。
(11)塗布、焼付けにより絶縁皮膜を形成しうる樹脂を含む絶縁塗料を導体上に塗布、焼付けする工程を含む絶縁電線の製造方法であって、前記絶縁塗料中に沸点が160℃以上の、炭素数が10以上の化合物である、一級アルコール、二級アルコール、ポリオール、一級チオール、二級チオールおよび糖類からなる群から選ばれる少なくとも1種の還元剤を含有する、絶縁電線の製造方法。
(
12)塗布、焼付けにより絶縁皮膜を形成しうる樹脂を含む絶縁塗料を導体上に塗布、焼付けすることにより絶縁皮膜を形成し、絶縁皮膜上に沸点が160℃以上の、炭素数が10以上の化合物である、一級アルコール、二級アルコール、ポリオール、一級チオール、二級チオールおよび糖類からなる群から選ばれる少なくとも1種の還元剤を塗布、焼付けする、絶縁電線の製造方法。
(
13)沸点が160℃以上の、炭素数が10以上の化合物である、一級アルコール、二級アルコール、ポリオール、一級チオール、二級チオールおよび糖類からなる群から選ばれる少なくとも1種の還元剤を導体上に塗布、焼付けし、さらに塗布、焼付けにより絶縁皮膜を形成しうる樹脂を含む絶縁塗料を塗布、焼付けすることにより絶縁皮膜を形成する、絶縁電線の製造方法。
(
14)前記還元剤が還元性のヒドロキシ基を有する化合物である、前記(
11)〜(
13)のいずれか1項記載の絶縁電線の製造方法。
(
15)前記還元剤がヒドロキシ基を有するテルペノイドである、前記(
11)〜(
14)のいずれか1項記載の絶縁電線の製造方法。
(17)前記還元剤が、シトロネロール、ゲラニオール及びドデカンチオールからなる群より選ばれる、前記(
11)〜(
13)のいずれか1項記載の絶縁電線の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の絶縁塗料によれば、導体に対する密着性を保持し、耐熱性に優れた絶縁被膜を形成することができる。
また、本発明の絶縁電線は、高温環境に長時間晒されても導体に対する絶縁皮膜の密着力が低下しないという、優れた効果を奏する。
さらに、本発明の絶縁電線の製造方法は、高温環境に長時間晒されても導体に対する絶縁皮膜の密着力が低下しない絶縁電線を提供することができる。
また、絶縁電線の耐熱試験としては、実際の使用環境よりも高い温度領域にて熱処理が施されるが、本発明の絶縁電線はこのような試験をクリアできる。そのため、本発明によれば、信頼性の高い絶縁電線を提供することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を、図面を参照して詳細に説明する。しかし、本発明はこれに制限されるものではない。
なお、本明細書において、「還元剤」とは、絶縁電線の金属導体中の酸素との反応によって生成される酸化膜の生成を、長時間にわたり高温環境下においても還元反応によって抑制する還元性物質の総称である。金属導体の表面を還元剤により常に正常な状態に保つことで、熱処理後も絶縁皮膜の密着力を一定にすることが可能になることを本発明者らが見出した。
【0013】
図1〜5は、本発明の絶縁電線の好ましい一実施形態を示す概略断面図である。
図1〜5に示すように、本発明の絶縁電線10は、導体1の外周に、還元剤を含む絶縁皮膜2が設けられている。なお、還元剤を含む絶縁皮膜2は、
図2、4及び5に示すように導体1の外周に直接設けてもよいし、
図3に示すように、密着改良剤を含有する層4等、他の層を介して導体1上に設けてもよい。さらに、
図1〜3及び5に示すように、導体1と還元剤を含む絶縁皮膜2との間、還元剤を含む絶縁皮膜2の外側、などに還元剤を含まない絶縁皮膜3等を設けてもよい。すなわち、本発明において、還元剤の含まれる層(皮膜)は、導体上に直接形成されていてもよいし、他の層を介して導体の外周に設けられていてもよい。
【0014】
本発明の絶縁塗料は、絶縁皮膜を構成する樹脂組成物の溶剤成分に、特定の還元剤が均一に分散している。本発明に用いる溶剤成分としては特に制限はなく、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒;N,N-ジメチルエチレンウレア、N,N-ジメチルプロピレンウレア、テトラメチル尿素等の尿素系溶媒;γ-ブチロラクトン、γ-カプロラクトン等のラクトン系溶媒;プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;スルホラン等のスルホン系溶媒などが挙げられる。これらのうち、高溶解性、高反応促進性等の点でアミド系溶媒、尿素系溶媒が好ましく、加熱による架橋反応を阻害しやすい水素原子をもたない等の点で、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルエチレンウレア、N,N-ジメチルプロピレンウレア、テトラメチル尿素がより好ましく、N-メチル-2-ピロリドンが特に好ましい。
【0015】
本発明において、絶縁塗料を導体上に塗布、焼付けすることで還元剤が完全に蒸発することを避けるために、その沸点が160℃以上(好ましくは180℃以上、より好ましくは210℃以上、好ましくは290℃以下、より好ましくは250℃以下、好ましくは180℃〜290℃、より好ましくは210℃〜250℃)のものを用いる。還元剤の沸点が160℃未満の場合、還元剤の反応性が高いため、熱硬化性樹脂を構成する低分子量成分同士が重合して硬化する温度領域で、還元剤が当該低分子量成分と反応を起こすことにより熱硬化性樹脂の重合反応を阻害し、焼き付けによる硬化が不足する結果となり、絶縁皮膜の強度が低下してしまう。
還元剤の沸点を160℃以上のものとすれば、還元剤が完全に蒸発したり、熱硬化性樹脂の成分と反応したりすることなく、程よく熱硬化性樹脂中に混入させることが可能になる。このような還元剤としては、塗布、焼付けにより絶縁皮膜を形成しうる樹脂と相溶し、導体の酸化膜の生成を抑制するものであれば特に制限はなく、アルコール類、ポリオール類、アルデヒド類、チオール類、ヒドロキノン類、糖類等の有機化合物が挙げられる。また、前記還元剤は、150℃以上250℃以下の範囲で酸化されるものが好ましい。還元剤は、標準状態(23℃)にて固体状でも、液体状でもよい。
【0016】
一級アルコール、二級アルコール、一級チオール、二級チオールは酸化されてそれぞれカルボン酸、カルボニル基、スルフィン酸、チオカルボニル基にそれぞれ変換し、導体の還元が可能となる。この導体の還元は熱環境に置かれたときに特に反応が促進されることから、高温環境に長時間晒されたときの導体と絶縁皮膜との間の密着力の維持が可能となる。
【0017】
本発明に用いることができるアルコール類としては特に制限はないが、モノテルペン(炭素数:10)、セスキテルペン(炭素数:15)、ジテルペン(炭素数:20)、セスタテルペン(炭素数:25)、トリテルペン(炭素数:30)、テトラテルペン(炭素数:40)等のテルペン類のうち、ヒドロキシ基を持つテルペノイド(例えば、ゲラニオール、リナロール、ファルネソール、ピクロトキシン、ホルボールアニサチン、リナロール、グリチルレチン酸、テルピネオール、カルベオール、シトロネロール、テルピネオール);アニスアルコール、ベンジルアルコール、ジヒドロミルセノール、ジメチルベンジルカルビノール、ジプロピレングリコール、ドデカノール、フェンキルアルコール、3-メトキシ-3-メチルブタノール、オクタノール、3-(5-イソカンフィル)-シクロヘキサノール、テトラヒドロリナロール、ヘキサノール、2-t-ブチルシクロヘキサノール等の飽和アルコール;シトロネロール、ファルネソール、ネロール、2-フェニルエチルアルコール、アスコルビン酸、フェニルエチルジメチルカルビノール、2-メチル-4-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテン-1-イル)-2-ブテン-1-オール、サンタロール、カルベオール、シトロネロール、テルピネオール、シンナミックアルコール、シス-3-ヘキセノール等の不飽和アルコール等が挙げられる。本発明において、これらのアルコール類のうち、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
本発明に用いることができるポリオール類としては特に制限はないが、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、ジプロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール-1,5-ペンタンジオール及びポリエチレングリコールなどのジオール類が挙げられる。本発明において、これらのポリオール類のうち、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのポリオール類のうち、両末端にヒドロキシ基を有するジオール類がより好ましく、熱硬化性樹脂の溶解力に優れている点でテトラエチレングリコールがさらに好ましい。
【0019】
本発明に用いることができるアルデヒド類としては特に制限はないが、ペリルアルデヒド、シトロネラール、ゲラニアール、ネラールが挙げられる。これらのうち、酸素の存在下でのワニス安定性、溶剤への溶解性の点でゲラニアール、ネラールがより好ましい。これらのアルデヒド類のうち、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
本発明に用いることができるチオール類としては特に制限はないが、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、オクタデカンチオール等の脂肪族チオール類、ビス(2-メルカプトエチル)スルフィド、ビス(2,3-ジメルカプトプロピル)スルフィド、1,2-ビス(2-メルカプトエチルチオ)エタン、2-(2-メルカプトエチルチオ)-1,3-ジメルカプトプロパン、1,2-ビス(2-メルカプトエチルチオ)-3-メルカプトプロパン、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン、2,4-ビス(メルカプトメチル)-1,5-ジメルカプト-3-チアペンタン、4,8-ビス(メルカプトメチル)-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ビス(メルカプトメチル)-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、5,7-ビス(メルカプトメチル)-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、1,2,7-トリメルカプト-4,6-ジチアヘプタン、1,2,9-トリメルカプト-4,6,8-トリチアノナン、1,2,8,9-テトラメルカプト-4,6-ジチアノナン、1,2,10,11-テトラメルカプト-4,6,8-トリチアウンデカン、1,2,12,13-テトラメルカプト-4,6,8,10-テトラチアトリデカン、テトラキス(4-メルカプト-2-チアブチル)メタン、テトラキス(7-メルカプト-2,5-ジチアヘプチル)メタン、1,5-ジメルカプト-3-メルカプトメチルチオ-2,4-ジチアペンタン、3,7-ビス(メルカプトメチルチオ)-1,9-ジメルカプト-2,4,6,8-テトラチアノナン、1,1,3,3-テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、2,5-ビス(メルカプトメチル)-1,4-ジチアン、2,5-ビス(2-メルカプトエチル)-1,4-ジチアン、2,5-ビス(メルカプトメチル)-1-チアン、2,5-ビス(2-メルカプトエチル)-1-チアン、ビス(4-メルカプトフェニル)スルフィド、ビス(4-メルカプトメチルフェニル)スルフィド、3,4-チオフェンジチオール等のポリチオール類、及びこれらの2量体〜20量体といったオリゴマーなどのチオール類が挙げられる。これらのうち、溶剤への溶解性、空気中で劣化しにくい点でドデカンチオール、4,7-ビス(メルカプトメチル)-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンがより好ましい。これらのチオール類のうち、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
本発明に用いることができるヒドロキノン類としては特に制限はないが、ヒドロキノン、モノメチルヒドロキノン、モノエチルヒドロキノン、2,3-ジメチルヒドロキノン、2,5-ジメチルヒドロキノン、2,6-ジメチルヒドロキノン、及びヒドロキノン化合物(例えば、3-メチル-4-ヒドロキシフェニルバレレート、3-メチル-4-ヒドロキシフェニルデカノエート、3-メチル-4-ヒドロキシフェニルオレエート、3-エチル-4-ヒドロキシフェニルオクタノエート、3-エチル-4-ヒドロキシフェニルオレエート、3-プロピル-4-ヒドロキシフェニルミリステート、3-プロピル-4-ヒドロキシフェニルパルミトレエート、3-イソプロピル-4-ヒドロキシフェニルパルミテート、3-イソプロピル-4-ヒドロキシフェニルミリストレエート、3-ブチル-4-ヒドロキシフェニルラウレート、3-ブチル-4-ヒドロキシフェニルリノレエート、3-イソブチル-4-ヒドロキシフェニルバレレート、3-イソブチル-4-ヒドロキシフェニルリノレネート、3-sec-ブチル-4-ヒドロキシフェニルステアレート、3-sec-ブチル-4-ヒドロキシフェニルミリストレエート、3-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルバレレート、3-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルデカノエート、3-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルオレエート、3-ペンチル-4-ヒドロキシフェニルオクタノエート、3-ペンチル-4-ヒドロキシフェニルリノレネート)が挙げられる。これらのうち、溶剤への溶解性の観点からヒドロキノン、モノエチルヒドロキノンがより好ましい。これらのヒドロキノン類のうち、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
本発明に用いることができる糖類としては、単糖類及び多糖類が挙げられる。具体的には、アロース、アルトロース、グルコース、フルクトース、ラクトース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース等が挙げられる。本発明において、これらの糖類のうち1種を単独用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの糖類のうち、汎用的な物質であり、かつ安価である点からグルコースを用いることが好ましい。
【0023】
本発明に用いることができるカルボン酸としては特に制限はないが、高温で分解されるとホルミル基(アルデヒド)を持つギ酸に変換するシュウ酸や、ヒドロキシ基を有するアスコルビン酸が挙げられる。
【0024】
本発明に用いる還元剤としては、180℃以上の高温で活発に還元作用が発現することが好ましい。このような観点から、本発明に用いる還元剤として、還元性のヒドロキシ基を有する化合物が好ましい。
また、本発明に用いる還元剤としては、絶縁塗料を導体上に塗布、焼付けしても還元剤が完全に分解、蒸発することのないよう、ある程度の分子量を有する化合物であることが好ましい。このような観点から、本発明に用いる還元剤として、還元剤1分子中の炭素数が10以上(好ましくは15以下、より好ましくは12以下、好ましくは10〜15、より好ましくは10〜12)である化合物
が用いられる。
さらに、本発明に用いることができる有機系還元剤としては、高沸点、かつ熱硬化性樹脂オリゴマーの溶解能が十分であることが好ましい。このような観点から、本発明に用いる還元剤として、不飽和炭化水素基を有するために揮発性が高く、気体となって初めて還元性を示す、ヒドロキシ基を有するテルペノイドが好ましい。
【0025】
本発明において、前記還元剤のうち1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
本発明の絶縁塗料における還元剤の含有量は、還元剤の種類によって適宜設定することができるが、樹脂固形分に対して1質量%以上(好ましくは2質量%以上)30質量%以下(好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%)、あるいは、1〜30質量%、好ましくは1〜15質量%、より好ましくは2〜10質量%である。還元剤の含有量が樹脂固形分に対して少なすぎると、焼き付け時にすべての還元剤が蒸発して効果が発現しにくくなる。一方還元剤の含有量が樹脂固形分に対して多すぎると、樹脂固形分の溶解能が低下し、熱硬化性樹脂の硬化反応が進行しにくくなり、熱硬化性樹脂の析出が発生するなど、ワニスの安定性が悪くなり、絶縁皮膜の強度が低下する。
【0027】
本発明に用いる、絶縁皮膜を形成しうる樹脂としては特に制限はないが、耐熱性の観点から、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂などの熱硬化性樹脂が好ましく用いられる。本発明において、熱硬化性樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0028】
本発明に用いることができるポリエステル樹脂としては特に制限はないが、芳香族ポリエステルにフェノール樹脂などを添加することによって変性したものが挙げられる。具体的には、耐熱クラスがH種のポリエステル樹脂が挙げられる。市販のH種ポリエステル樹脂としては、Isonel200(商品名、スケネクタディインターナショナル社製)等を挙げることができる。
本発明に用いることができるポリイミド樹脂としては特に制限はないが、熱硬化性芳香族ポリイミドなどの通常のポリイミド樹脂、例えば、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン類を極性溶媒中で反応させて得られるポリアミド酸溶液を用い、絶縁皮膜を形成する際の焼付け時の加熱処理によりイミド化させることによって熱硬化させるものが挙げられる。市販のポリイミド樹脂としては、Uワニス(商品名、宇部興産社製)、Uイミドワニス(商品名、ユニチカ社製)等を挙げることができる。
本発明に用いることができるポリアミドイミド樹脂としては特に制限はないが、極性溶媒中でトリカルボン酸無水物とジイソシアネート類を直接反応させて得たもの、極性溶媒中でトリカルボン酸無水物にジアミン類を混合しジイソシアネート類でアミド化して得たものが挙げられる。市販のポリアミドイミド樹脂としては、HI406(商品名、日立化成社製)等を挙げることができる。
本発明に用いることができるポリエステル樹脂としては特に制限はないが、市販のポリエステルイミド樹脂としてNeoheat 8200K2、Neoheat 8600、LITON 3300(商品名、東特塗料社製))等を挙げることができる。
【0029】
本発明の絶縁塗料に、本発明の効果を損なわない範囲内で、結晶化核剤、結晶化促進剤、気泡化核剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線防止剤、光安定剤、蛍光増白剤、顔料、染料、相溶化剤、滑剤、強化剤、難燃剤、架橋剤、架橋助剤、可塑剤、増粘剤、減粘剤及びエラストマーなどの各種添加剤や、メラミン樹脂、エポキシ樹脂などの密着改良剤、皮膜強度を向上させるための無機酸化物フィラー、樹脂フィラー、タルク等の鉱物を配合してもよい。
【0030】
本発明の絶縁電線に用いる導体1としては、例えば、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金又はそれらの組み合わせなど、絶縁電線の導体として通常使用されているものが挙げられる。また、導体1の断面形状も特に制限はなく、
図1〜4に示すように丸形状でも、
図5に示すように矩形で角が丸くなったものでもよい。
【0031】
本発明の絶縁電線は、絶縁皮膜を形成しうる樹脂を含む絶縁塗料を導体上に塗布、焼付けるより1層又は2層以上の絶縁皮膜を形成した絶縁電線であって、該絶縁皮膜の少なくとも1層中に沸点が160℃以上の還元剤が含まれる。絶縁皮膜中に含まれる還元剤が高温環境で導体に発生する酸化膜の成長を抑制することで、絶縁皮膜の導体に対する密着性が保持される。したがって、本発明の絶縁電線は、耐熱性と機械特性に優れるとともに、高温環境に長時間晒されたときであっても絶縁被膜の密着性が低下しないという、優れた効果を奏する。
本発明の絶縁電線に用いる絶縁皮膜を形成しうる樹脂及び還元剤の具体例としては、前記絶縁塗料に用いられるものと同様であり、好ましい範囲も同様である。また、還元剤の含有量の好ましい範囲についても、前記絶縁塗料における好ましい範囲と同様である。
【0032】
本発明の絶縁電線の製造方法としては、絶縁皮膜中に160℃以上の沸点を有する還元剤が含まれる方法であれば特に制限はない。本発明の絶縁電線における絶縁被膜の形成方法としては、本発明の絶縁塗料を導体上に塗布、焼付けする方法;還元剤を含まない絶縁塗料を導体上に塗布、焼付けた後又は焼付け中に、気体状の還元剤を吹き付ける方法;絶縁皮膜を形成しうる樹脂を含む絶縁塗料を導体上に塗布、焼付けすることにより絶縁皮膜を形成し、絶縁皮膜上に還元剤を塗布、焼付けする方法;還元剤を導体上に塗布、焼付けし、さらに絶縁皮膜を形成しうる樹脂を含む絶縁塗料を塗布、焼付けする方法、等が挙げられる。これらの方法により、高温環境に長時間晒されたときであっても、絶縁電線の導体と絶縁被膜との間の密着力を保持することができる。
【0033】
還元剤を導体上又は絶縁皮膜上に塗布、焼付ける場合、導体又は絶縁皮膜に還元剤単体又は還元剤組成物を噴霧してもよいし、導体又は絶縁皮膜を設けた導体ごと還元剤組成物に浸漬してもよい。この場合、還元剤組成物における還元剤の濃度に特に制限はないが、還元剤組成物の溶剤が焼き付けで蒸発しやすいよう、30重量%以上であることが好ましい。前記溶剤としては、還元剤が溶解すれば特に制限はないが、例えば、エチルメチルケトン、アセトン、酢酸エチル、酢酸メチル、トルエン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、クロロホルム、ジクロロメチレンなど比較的揮発性の高いものを用いるのが好ましい。
【0034】
本発明の絶縁電線に用いる還元剤は、還元剤を含む絶縁塗料を導体上やその他の層として塗布、焼付けしなくとも、その効果を発現させることができる。本発明において、沸点が160℃以上の還元剤を導体上に直接塗布し、その上に、還元剤を含まない熱硬化性樹脂層を形成してもよい。還元剤の塗布方法に特に制限はないが、熱硬化性樹脂ワニス塗布の前に、還元剤溶液を導体にスプレー塗布してもよいし、還元剤溶液に導体を浸漬させてもよい。あるいは、還元剤を含まない絶縁層を導体上に形成し、その上に還元剤溶液をスプレー塗布してもよいし、還元剤溶液に浸漬させてもよい。
【0035】
本発明において、還元剤は単体でそのまま塗布しても良いし、揮発性の良い有機溶剤(例えば、酢酸エチル、メタノール、アセトン、メチルエチルケトン、クロロホルム、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、テトラヒドロフランなど)で希釈して用いてもよい。還元剤の濃度に特に制限はないが、5%〜80体積%が、還元剤の強い香りを抑えることができる点で好ましい。
【0036】
本発明の絶縁電線は、本発明の絶縁塗料を塗布、焼付けて形成した絶縁皮膜を少なくとも1層有することが好ましい。このような絶縁皮膜は、導体上に直接設けてもよいし、他の層を介して導体の外周に設けてもよい。
【0037】
本発明の絶縁電線において、導体との密着性に優れた、密着改良剤を含む密着層を形成してもよい。密着層は、導体上に密着層用の熱硬化性樹脂ワニスを塗布し、焼き付け硬化を行うことで形成することができる。このような密着層を形成することにより、特に、初期の密着性、すなわち導体上に絶縁皮膜を形成する工程における絶縁皮膜の密着性を高めることができる。
密着層に使用できる熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリイミド、ポリウレタン、ポリアミドイミド、ポリエステル、ポリベンゾイミダゾール、ポリエステルイミド、メラミン樹脂、エポキシ樹脂などを挙げることができる。
密着改良剤としては、例えば、シランアルコキシド系密着改良剤(シランカップリング剤)、チタンアルコキシド、チタンアシレート、チタンキレートなどチタン系密着改良剤、トリアジン系密着改良剤、イミダゾール系密着改良剤、メラミン系密着改良剤、カルボジイミド系密着改良剤、チオール系密着改良剤など、絶縁電線の密着改良剤として通常用いられるものを用いることができる。
密着改良剤の添加量に特に制限はないが、樹脂固形分に対して0.01質量以上が好ましく、10質量%以下が好ましく、0.01〜10質量%程度が好ましい。また、密着層の厚さに特に制限はないが、1μm以上であることが好ましい。
【0038】
本発明では、沸点が160℃以上であり、約150〜250℃で特に酸化されやすい還元剤を用いているので、前記範囲又はそれ以上の温度範囲に絶縁電線が晒された場合に初めて、還元剤による導体に含まれる酸素のとの反応によって生成される酸化膜の生成が抑制される。
絶縁電線の被膜に密着改良剤が含まれる場合、密着力を発現させるべく密着改良剤と導体金属との間で配位結合を形成させるために、密着改良剤を含む密着層は導体に直接接していなければいけない。さらに、この密着改良剤による反応は固体又は液体の状態でのみ起こる。これに対して、本発明に用いる還元剤は、例えば導体が銅である場合、液体又は気体状態で導体表面に生成される酸化銅に作用し、これを銅に還元する作用を有する。そのため、還元剤単体又は還元剤を含む絶縁層が導体表面に直接接していなくとも、絶縁皮膜を構成する樹脂内部を気体となった還元剤が透過して、導体表面に達すればよい。本発明に用いる還元剤は、約140℃程度で気化反応が始まる。これにより、導体表面における酸化銅の成長を抑制することができる。また、還元剤による還元反応は、絶縁電線の晒される温度が高いほうが進みやすい。
さらに、絶縁塗料の焼付けは500℃以上で行う場合があっても、絶縁塗料に含まれる溶剤が蒸発している間は、絶縁皮膜の温度が前記温度にまで上昇することはなく、300℃にも満たないとされている。したがって、この点を考慮し、本発明の絶縁電線においては、焼付後でも絶縁皮膜に還元剤が残存するよう、焼付温度、焼付時間、還元剤の種類、還元剤の沸点、還元剤の含有量など、適宜設定すればよい。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
2Lセパラブルフラスコに、熱硬化性樹脂ワニスとして熱硬化性ポリエステル樹脂ワニス(商品名:Neoheat 8200K2、東特塗料社製、樹脂固形分:40%)2000gを少量ずつ加え、溶剤としてN,N’-ジメチルアセトアミド670gを加えた。室温にて攪拌し、暗褐色透明の、導体に接する層用絶縁樹脂ワニスを得た。
別の2Lセパラブルフラスコに、熱硬化性樹脂ワニスとして熱硬化性ポリエステル樹脂ワニス(商品名:Neoheat 8200K2、東特塗料社製、樹脂固形分:40%)2000gを少量ずつ加えた。さらにシトロネロール19.2gを添加し、室温にて攪拌し、暗赤色透明の、還元剤含有絶縁塗料(外層用)を得た。
導体(導体径1mmの銅線)上に、前記導体に接する層用ワニスを塗布し、およそ10mの熱風循環式の竪型炉で520℃にて通過時間10〜20秒で塗布・焼付を行い、厚さ8μmの層を形成した。さらに、この上に、前記還元剤含有絶縁塗料を用いて、およそ10mの熱風循環式の竪型炉で520℃にて通過時間10〜20秒で塗布・焼付を行い還元剤層を形成し、絶縁皮膜の厚さ30μmの絶縁電線を作製した。
この実施例1に係る絶縁電線の断面図を
図1に示す。
【0041】
(
参考例1)
2Lセパラブルフラスコに、熱硬化性樹脂ワニスとして、ポリアミドイミド樹脂ワニス(商品名:HI−406シリーズ、日立化成社製、樹脂固形分:32%)2000gを少量ずつ加えた。さらにオクタノール19.2gを添加し、室温にて攪拌し、暗褐色透明の還元剤含有絶縁塗料を得た。
別の2Lセパラブルフラスコに、熱硬化性樹脂ワニスとして、ポリアミドイミド樹脂ワニス(商品名:HI−406シリーズ、日立化成社製、樹脂固形分:32%)2000gを少量ずつ加え、さらに希釈溶剤としてNMP(N-メチル-2-ピロリドン)を135g加えた。室温にて攪拌し、暗褐色透明の外層用の絶縁塗料を得た。
調製した還元剤含有絶縁塗料を用いて、およそ10mの熱風循環式の竪型炉で520℃にて通過時間10〜20秒で導体径1mmの銅線に塗布・焼付を行い、厚さ8μmの還元剤層を形成した。さらに、この上に、前記外層用絶縁塗料を還元剤層と同様に塗布・焼付し、厚さ22μmの外層を形成し、絶縁皮膜の厚さ30μmの絶縁電線を作製した。
この
参考例1に係る絶縁電線の断面図を
図2に示す。
【0042】
(実施例
2〜6、参考例2、5および6、並びに比較例2
〜4)
熱硬化性樹脂、還元剤、及び熱硬化性樹脂の固形分に対する還元剤の含有量を表1〜3の通り変更した以外は
参考例1と同様に、絶縁電線を作製した。
これらの実施例
、参考例及び比較例に係る絶縁電線の断面図を
図2に示す。
【0043】
(
参考例3)
2Lセパラブルフラスコに、熱硬化性樹脂ワニスとして、ポリアミドイミド樹脂ワニス(商品名:HI−406シリーズ、日立化成社製、樹脂固形分:32%)2000gを少量ずつ加えた。さらにアスコルビン酸6.4gを添加し、室温にて攪拌し、暗褐色透明の、導体に接する層用の還元剤含有絶縁塗料を得た。
別の2Lセパラブルフラスコに、熱硬化性樹脂ワニスとして、ポリアミドイミド樹脂ワニス(商品名:HI−406シリーズ、日立化成社製、樹脂固形分:32%)2000gを少量ずつ加え、さらに希釈溶剤としてNMPを135g、及びアスコルビン酸6.4gを加え、室温にて攪拌し、暗褐色透明の外層用の還元剤含有絶縁塗料を得た。
調製した導体に接する層用の還元剤含有絶縁塗料を用いて、およそ10mの熱風循環式の竪型炉で520℃にて通過時間10〜20秒での銅線に塗布・焼付を行い、還元剤層を形成した。さらに、この上に、外層用塗料を塗布・焼付して外層を形成し、絶縁皮膜の厚さ30μmの絶縁電線を作製した。
この
参考例3に係る絶縁電線の断面図を
図2に示す。
【0044】
(
参考例4)
還元剤、及び熱硬化性樹脂の固形分に対する還元剤の含有量を表1の通り変更した以外は
参考例3と同様に、絶縁電線を作製した。
この
参考例4に係る絶縁電線の断面図を
図2に示す。
【0045】
(実施例
7)
2Lセパラブルフラスコに、熱硬化性樹脂ワニスとしてポリアミドイミド樹脂ワニス(商品名:HI−406シリーズ、日立化成社製、樹脂固形分:32%)2000gを少量ずつ加え、密着改良剤としてメラミン樹脂(商品名:スーパーベッカミン、DIC社製)24gを加えた。室温にて攪拌し、暗褐色透明の密着改良剤含有絶縁樹脂ワニスを得た。
別の2Lセパラブルフラスコに、熱硬化性樹脂ワニスとしてポリアミドイミド樹脂ワニス(商品名:HI−406シリーズ、日立化成社製、樹脂固形分:32%)2000gを少量ずつ加えた。さらにリナロール19.2gを添加し、室温にて攪拌し、暗赤色透明の還元剤含有絶縁塗料(中間層用)を得た。
さらに別の2Lセパラブルフラスコに、熱硬化性樹脂ワニスとして ポリアミドイミド樹脂ワニス(商品名:HI−406シリーズ、日立化成社製、樹脂固形分:32%)2000gを少量ずつ加え、さらに希釈溶剤としてNMPを135g加えた。室温にて攪拌し、暗褐色透明の最外層用絶縁樹脂ワニスを得た。
前記密着改良剤含有絶縁樹脂ワニスを用いて、およそ10mの熱風循環式の竪型炉で520℃にて通過時間10〜20秒で導体径1mmの銅線に塗布・焼付を行い、厚さ6μmの密着層を形成した。さらに、この上に、前記還元剤含有絶縁塗料を密着層と同様に塗布・焼付して還元剤層を形成し、さらにこの上に、前記最外層用絶縁樹脂ワニスを還元剤層と同様に塗布・焼付して最外層を形成し、絶縁皮膜の厚さ30μmの絶縁電線を作製した。
この実施例
7に係る絶縁電線の断面図を
図3に示す。
【0046】
(実施例
8)
熱硬化性樹脂としてポリイミド樹脂ワニス(商品名:U−ワニス、宇部興産社製、樹脂固形分:20%)を導体上に塗布し、10mの熱風循環式の竪型炉で520℃にて通過時間10〜20秒で導体径1mmの銅線に塗布・焼付を行い、絶縁皮膜の厚さ30μmの絶縁電線を作製した。さらに、シトロネロール150gを酢酸エチル500gで希釈した還元剤溶液に前記絶縁電線を1秒程度浸漬し、空気乾燥によって酢酸エチルを除去した。
この実施例
8に係る絶縁電線の断面図を
図4に示す。
【0047】
(実施例
9)
絶縁電線を還元剤溶液に浸漬するのに代えて、シトロネロール150gを酢酸エチル500gで希釈した還元剤溶液を導体上に直接スプレーを用いて塗布した以外は、実施例
8と同様にして、絶縁皮膜の厚さ30μmの絶縁電線を得た。
この実施例
9に係る絶縁電線の断面図を
図4に示す。
【0048】
(比較例1)
2Lセパラブルフラスコに、熱硬化性樹脂ワニスとして、ポリアミドイミド樹脂ワニス(商品名:HI−406シリーズ、日立化成社製、樹脂固形分:32%)2000gを少量ずつ加え、さらに希釈溶剤としてNMPを135g加えた。室温にて攪拌し、暗褐色透明の絶縁塗料を得た。
絶縁塗料を用いて、およそ10mの熱風循環式の竪型炉で520℃にて通過時間10〜20秒で導体径1mmの銅線に塗布・焼付を行った。さらに、この上に、同じ絶縁塗料を用いて外層を形成し、絶縁皮膜の厚さ30μmの絶縁電線を作製した。
【0049】
(比較例5)
熱硬化性樹脂としてポリイミド(商品名:U−ワニス、宇部興産社製、樹脂固形分:20%)を用いた以外は比較例1と同様にして、絶縁皮膜の厚さ30μmの絶縁電線を作製した。
【0050】
実施例1〜15及び比較例1〜5の絶縁電線に対して、下記の試験を行った。試験結果を表1〜3に示す。
【0051】
<可とう性>
JIS C3003に記載のエナメル線試験方法に準じて、可とう性を試験した。実施例1〜15及び比較例1〜5の絶縁電線から適当な長さの試験片を3本切り取り、それぞれについて試験片自身の周囲に線と線とが接触するように緊密に10回巻きつけたとき、皮膜に導体が見える亀裂を生じないかを目視で観察した。亀裂の発生しなかったものを可とう性が良好(GOOD)と判断し、亀裂が発生したものを可とう性が不良(BAD)と判断した。
【0052】
<剥離捻回>
210℃、24時間の熱処理前後の絶縁電線について、長さ30cmの試験片を取り、片側を回転機に、もう一方の側も固定する。固定した試験片の円周上の一点から線の流れ方向に傷をつけて回転機を回し、絶縁皮膜が切断されるまでの回数を測定した。回数が多いほど、絶縁電線の絶縁被膜の密着力が高いことを示す。
【0053】
<熱処理後の剥離強度>
引張試験機(JIS B7721に準拠)を用いて、絶縁電線の180°剥離試験を行った。210℃、24時間の熱処理前後の絶縁電線をプレス機で潰し、絶縁皮膜に対して1mm幅のスリットを入れた。スリット部の絶縁皮膜を引張り試験機に固定して、25℃、20mm/分の速度で剥離強度を測定した。強度が大きいほど、絶縁電線の絶縁被膜の密着力が強いことを示す。
【0054】
<伸長切断>
210℃、24時間の熱処理前後の絶縁電線について、長さ40cmの試験片を取り、その中央部に長さ250mmの標線を記した。引張試験機(JISB7721に準拠)を用いて、25℃、200mm/分の速度で切断するまで引っ張り、切断時の標線の変位を絶縁電線の伸びの目安として測定した。さらに、切断時の絶縁皮膜の収縮によって露出した導体の長さを絶縁電線の絶縁被膜の密着力として観測した。なお、導体の露出について、伸長した場合に、密着している箇所が少なく筒状になっているものについては不良(NG)と判断した。
【0055】
<還元法酸化膜厚測定>
210℃、24時間の熱処理前後の絶縁電線に幅0.5mmのスリットを入れ、0.1mol/Lの塩化カリウム水溶液中に浸漬し5mAの電流を流した。測定の記録速度は20mm/minとした。このとき導体の還元に使用した電力から、絶縁電線の酸化皮膜の厚さを測定した。
【0056】
なお、表1〜3中、PAI、PEsI及びPIは、下記のものを示す。
PAI:ポリアミドイミド樹脂ワニス(商品名:HI−406シリーズ、日立化成社製、樹脂固形分:32%)
PEsI:熱硬化性ポリエステル樹脂ワニス(商品名:Neoheat 8200K2、東特塗料社製、樹脂固形分:40%)
PI:ポリイミド樹脂ワニス(商品名:U−ワニス、宇部興産社製、樹脂固形分:20%)
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
表1及び2に示すように、実施例1〜
9では、機械特性に優れ、長時間の熱処理後であっても導体の酸化を防ぐことができ、絶縁皮膜の密着力の低下が抑制された。
これに対して、表3に示すように、比較例1及び比較例5では、絶縁皮膜に還元剤を含まないので、高温環境で導体に発生する酸化膜の成長を抑制することができず、絶縁皮膜の密着性が低下した。比較例2及び比較例3では、還元剤の沸点が低く、熱硬化性樹脂の低分子量成分が硬化する温度領域で還元剤と反応してしまい、焼付け後の分子量が低くなってしまう熱硬化性樹脂の硬化反応を阻害してしまい、焼付後の絶縁皮膜の強度が低下した。比較例4では、還元力のないフェノール性のヒドロキシ基を持つクレゾールを用いたので、導体と絶縁層とが密着している箇所が少なく、加熱処理後に何らかの機械特性に端を発する密着不良が発生した。