(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。尚、本発明の実施形態は以下に示す実施形態に限られるわけではない。
【0028】
本発明において、生体物質とは、DNAやRNAなどの核酸、蛋白質、ペプチド、抗体、抗原、などの生体内において何らかの機能を発現する化学物質をいう。特に、単位となる化学物質が多数連結した高次構造を有し、個々の単位となる化学物質の配列により生体物質全体としての機能に係る化学物質をいう。本発明においては、生体物質の中でも、核酸が特に適性を有している。
【0029】
本発明の生体物質分析用フローセルを用いて種々の生体物質の分析を行うことができる。例えば、DNA配列(DNAシークエンス)の決定を行うことが可能である。
【0030】
図1を用いて、本発明の実施形態の生体物質分析用フローセルの構成について説明する。ここでは、生体物質として核酸を対象として説明する。本発明の実施形態のフローセル1は、核酸などの分析試料を流路105に流すための流入口103および流出口109を有する透明基板101と、支持基板107と、前記透明基板101と前記支持基板107とに挟まれ、タック性を有し、前記透明基板101と前記支持基板107とに貼り合わされ、核酸などの分析試料の反応チャンバとなる流路105を有するスペーサ104を備えている。反応チャンバは通常、流路105の中に設置されるので、ここでは、反応チャンバを含めた流路を、流路105と表記して説明する。
【0031】
フローセル1の流路105に接するように、スペーサ104の貼り合わせ部分に気泡が存在すると、その気泡内に分析試料や反応試薬などが入り込み、予定していた反応とは異なる反応が起こったり、分析試料や反応試薬などのコンタミネーション(汚染)が起こり、測定精度の低下の原因となる。
【0032】
また、フローセル1の流路105内の検出領域に接するように気泡が存在すると、微粒子の発する蛍光が散乱されることとなり、微粒子が発する蛍光の本来の位置や光強度に誤差が生じたり、バックグラウンドとなって、測定精度の低下の原因となる。
【0033】
さらに、気泡が存在している部分はスペーサ104と透明基板101あるいは支持基板107との貼り合わせができていないために、フローセル1の外観が変形したり、フローセル1としての機械的強度が低下することともなる。
【0034】
特に、本実施形態のように、スペーサ104自体の両面がタック性を有していると、基板101、107間に全く気泡を含むこと無く貼り合わせることは難しい。手作業によって貼り合わせを行う場合、歩留まりや単位時間あたりの製造個数といった観点では効率が悪く、貼り合わせの位置決め精度、貼り合わせの平行度などについても高い精度を求める場合には、高度の熟練を要する。
【0035】
同様に、透明基板101とタック性を有する支持基板107とから構成される2層構造のフローセル1の場合(不図示)であっても、透明基板101と支持基板107との間に全く気泡を含むこと無く貼り合わせることは難しい。
【0036】
このような課題を解決するため、本発明の実施形態の生体物質分析用フローセル1の製造方法は、透明基板101とタック性を有するスペーサ104とを真空条件下で貼り合せる工程、支持基板107とタック性を有するスペーサ104とを真空条件下で貼り合せる工程、および透明基板101とタック性を有する支持基板107とを真空条件下で貼り合せる工程、のうちのいずれか1つ以上の工程を有している。
【0037】
ここで、本発明の実施形態において、タック性とは、常温で粘着性を有することである。タック性の評価方法としては、JIS Z 0237に準拠した傾斜式ボールタック法を用いることができる。この方法を用いたとき、接着強度や取扱性の観点から、タック性としてはボールナンバーで3〜20が望ましい。
【0038】
以下に、図を用いつつ、本発明の複数の実施形態について説明する。尚、各図面において、同一の構成要素には、同一の記号を付して、その説明を省略する。
【0039】
〔本発明の第1の実施形態〕
図1(a)は、本発明の第1の実施形態のフローセル1の見取図であり、
図1(b)は、本発明の第1の実施形態のフローセル1を構成する各部材を示す図である。
図1(b)において、透明基板101は、位置決め用の可動性ピン(以下、適宜「可動性ピン」と記載する。)203(
図2参照)を通すための貫通孔102と、流入口103および流出口109となる貫通孔を有している。スペーサ104は、1本以上の流路105と、可動性ピン203を通すための貫通孔106を有している。支持基板107は、可動性ピン203を通すための貫通孔108を有している。本実施形態のフローセル1では、貫通孔102および貫通孔106が同一の直径を有し、貫通孔108の直径は前記102および106の貫通孔の直径よりも小さい。本実施形態では、貫通孔102、貫通孔106および貫通孔108は、それぞれ3つずつ存在している。
【0040】
透明基板101は、流路105内の検出領域からの検出光を透過する。そのため、透明基板101は、光透過性に優れていることが好ましく、厚さは薄い方が望ましい。一方、支持基板107は、フローセル1に機械的強度を持たせて取扱性を上げるためのものである。そのため、ある程度の厚みを有していることが望ましい。そのため、透明基板101は支持基板107よりも厚みが薄いことが望ましい。
【0041】
透明基板101は、光透過性に優れていることが好ましく、光透過性に優れたガラス、アクリル樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂などを使うことができる。中でもガラスが、透明性、耐薬品性などの面で好ましい。支持基板107は、フローセル1として透明性を付与できることから、透明基板101と同様に、ガラス、アクリル樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂などを使うことができる。中でもガラスが、透明性、耐薬品性などの面で好ましい。本実施形態においては、両基板101、107ともガラスを用いている。
【0042】
スペーサ104は、透明基板101および支持基板107に対してタック性を有する材料からなる。具体的には、ポリジメチルシロキサンなどのシリコーン系軟質ポリマーが好ましく使用される。
【0043】
図2は、本発明の第1の実施形態の治具2の構成を示す図である。治具2を構成する平面基板201は、段付き貫通孔202を、この例では4つ有している。この段付き貫通孔202は、後述するように、内部において、内径の異なる段を有している。段付き貫通孔202には、下から可動性ピン203が挿入される。可動性ピン203は、段付き貫通孔202内を上下することができる。挿入する際には、可動性ピン203にはOリング204がはめられる。このOリング204を用いることにより、可動性ピン203は段付き貫通孔202内で、ずれ落ちることなく一定の位置で止まる構造となっている。可動性ピン203は2本以上用いることが望ましい。
図2では、
図1のフローセル1の貫通孔102、106、108が3つずつであることから、同じ数の3本の可動性ピン203を用いている。
【0044】
平面基板201および可動性ピン203は、本発明の実施形態のフローセル1を製造する際に、各部材をその上に保持したり、真空下においたり、加熱したりするときの土台となるものである。また、可動性ピン203は各部材の位置決め用に用いられるものである。そのため、金属などで構成されることが望ましい。具体的には、アルミニウムやステンレスなどが用いられる。また、Oリング204は、可動性ピン203と段付き貫通孔202の間にあって、可動性ピン203の位置がずれないように、摩擦力で保持するものである。そのため、反発力と摩擦力を有する軟質の材料、たとえばゴムなどが用いられる。
【0045】
図3は、本発明の第1の実施形態の治具2の部品である可動性ピン203の拡大図である。
図3(a)の可動性ピン203は、その上部に基板を支えるための平坦な部分である上部平面303を有している。また、後述するように、治具2全体を真空状態にするときに、可動性ピン203の上部と下部とで差圧が生じることによって可動性ピン203が移動することがないように、軸方向の貫通孔301を内部に有している。
【0046】
図3(b)の可動性ピン203bは、
図3(a)の可動性ピン203aと比べて、上部にテーパ部302を有している。透明基板101や支持基板107として薄いガラス板を用いるとき、各基板の貫通孔に対する可動性ピン203の位置のズレが極めて小さなものであったとしても、加圧時に透明基板101や支持基板107に亀裂が入ってしまうことがある(
図1(a)、(b)参照)。それを防止するため、加圧時において小さな位置のズレを逃がすための構造として、テーパ部302を付与したものである。尚、
図3(a)と(b)の可動性ピン203を区別する場合には、それぞれ符号203aおよび203bを用いる。
【0047】
図17〜19は、本発明の第1の実施形態の製造方法の工程を示す断面図であり、
図2のA−Aの位置における断面図として示してある。上記の治具2を用いてフローセル1を製造する一連の工程を示している。
図17(a)〜(c)、
図18(a)〜(c)、
図19(a)〜(c)はそれぞれ、本発明の第1の実施形態の製造方法を構成する工程1〜9に対応している。
【0048】
図17(a)の工程1において、まず平面基板201に設けられた段付き貫通孔202に可動性ピン203を下面から挿入する。可動性ピン203にはOリング204がはめられており、可動性ピン203が段付き貫通孔202内で位置がずれないように保持される。この段付き貫通孔202は、可動性ピン203が抜けないようにするため、内部に内径の異なる段を有している。
【0049】
図17(b)の工程2において、フローセル1の製造方法に用いる治具2は、平面基板201と可動性ピン203から構成されている。スペーサ104がタック性を有することによってハンドリング性が低下することを防止するため、スペーサ104の両面には剥離シート104aが貼ってある。スペーサ104を平面基板201の上に設置する前に、スペーサ104の上部の剥離シート104aを剥がす。その後、スペーサ104の持つ貫通孔106に、可動性ピン203を通して、スペーサ104を平面基板201の上面に置く。
【0050】
図17(c)の工程3において、支持基板107の持つ貫通孔108に、可動性ピン203の上部を通して、治具2上に置く。このとき、支持基板107に設けられた貫通孔108は、スペーサ104が有する貫通孔106よりも直径が小さいため、支持基板107は、
図3(a)に示す可動性ピン203の上部平面303の位置で保持される。このように、それぞれの部材に設けられた貫通孔(106、108)の直径の違いによって、支持基板107は、治具2の上の中空で保持される(
図4参照)。
【0051】
図4は、上記の
図17(c)の工程3における状況を立体的に図示している。この図では3本の可動性ピン203aを用いている。
【0052】
図17(a)〜(c)の工程1〜3が終わった段階で、治具2に対して、スペーサ104と支持基板107が、それぞれに設けられた貫通孔106、108を通して、位置と平行度において精度よく設置される。
【0053】
図18(a)の工程4において、スペーサ104と支持基板107を設置した治具2を、真空貼り合わせ装置の本体容器3の内部に置く。その後、真空貼り合わせ装置の天板4が降下してきて、真空貼り合わせ装置の本体容器3の内部が密閉される。さらに、本体容器3の内部が真空ポンプ(不図示)により脱気されて真空状態になる。このとき、可動性ピン203に設けられた軸方向の貫通孔301(
図3参照)を通して空気が移動すること、およびOリング204の摩擦力によって、可動性ピン203は位置がずれることはなく、支持基板107は中空に保持されている。
【0054】
図18(b)の工程5において、真空貼り合わせ装置の天板4を降下させ、中空に保持された支持基板107の上部平面に接するようにする。その後、天板4をさらに降下させ、可動性ピン203を押し下げながら支持基板107を降下させる。天板4は、支持基板107がスペーサ104に接するまで降下し続け、接した後は、両者を加圧する。加圧の程度は、支持基板107およびスペーサ104が破損しないよう制御され、また部材によっては加熱や冷却を行うことができる。このとき、本体容器3および天板4が、最初から加熱あるいは冷却されていることも、貼り合わせの時間短縮のためには好ましい。
【0055】
ここで、本実施形態において、スペーサ104と支持基板107とを貼り合わせたものを、一次接合板と呼ぶ。さらに、一次接合板と透明基板101とを貼り合わせたものを二次接合板と呼ぶ。二次接合板がフローセル1として使用される。なお、一次接合板および二次接合板は貼り合わせの順番を意味しており、部材の組み合わせの呼称ではない。そのため、例えば、透明基板101とスペーサ104を先に貼り合わせたものもまた一次接合板である。一次接合板は、上記の工程を経ることによって貼り合わされたものであるので、その後の工程においては、一体化したものとして取り扱われる。
【0056】
図18(c)の工程6において、真空貼り合わせ装置から治具2とともに一次接合板401を取り出す。次に、スペーサ104の下面の剥離シート104aを剥がす。また治具2の可動性ピン203を工程1と同じように押し上げる。
【0057】
図19(a)の工程7において、治具2の上面に透明基板101を設置する。透明基板101は、貫通孔102に可動性ピン203を通すことにより位置決めされる。次に、一次接合板401を設置する。一次接合板401は、
図17(c)の工程3における支持基板107と同様に、可動性ピン203の上部平面303の位置で中空に保持される。
図5は、上記の
図19(a)の工程7における状況を立体的に図示している。
【0058】
図19(b)の工程8において、
図18(a)の工程4と同様に透明基板101と一次接合板401を設置した治具2を、真空貼り合わせ装置の本体容器3の内部に置く。その後、真空貼り合わせ装置の天板4が降下してきて、真空貼り合わせ装置の本体容器3の内部が密閉される。さらに、本体容器3の内部が真空ポンプ(不図示)により脱気されて真空状態になる。このとき、可動性ピン203に設けられた軸方向の貫通孔301(
図3参照)を通して空気が移動すること、およびOリング204の摩擦力によって、可動性ピン203は位置がずれることはなく、一次接合板401は中空に保持されている。
【0059】
図19(c)の工程9において、
図18(b)の工程5と同様に、真空貼り合わせ装置の天板4を降下させ、中空に保持された一次接合板401の上部平面に接するようにする。その後、天板4をさらに降下させ、可動性ピン203を押し下げながら一次接合板401を降下させる。天板4は、一次接合板401が透明基板101に接するまで降下し続け、接した後は、両者を加圧する。加圧の程度は、一次接合板401および透明基板101が破損しないよう制御され、また部材によっては加熱や冷却を行うことができる。
【0060】
以上のように、本実施形態の治具2を使用して、工程1から工程9の製造方法を行うことにより、透明基板101、スペーサ104および支持基板107の貼り合わせが行われ、本実施形態のフローセル1が製造される。両基板(101、107)とスペーサ104とは加圧されるまで触れ合うことがなく、また加圧後は可動性ピン203が押し下げられることによって真空雰囲気下での貼り合わせが可能である。また、加圧をすることにより、タック性を有したスペーサ104は、両基板(101、107)に接着される。また、部材の持つ特性や目的に応じて、さらなる加圧や加熱、冷却、または紫外線硬化などで接合することもできる。
【0061】
本実施形態の製造方法では、透明基板101、スペーサ104および支持基板107の貼り合わせは、真空雰囲気下で行われるため、仮に基板間に気泡が生じたとしても、その後、大気圧に戻したときに、当該気泡は収縮して消滅してしまうため、気泡の発生が抑制されたフローセル1を製造することができる。さらに、本実施形態の治具2を使用することにより、高度の熟練を必要とせず、平行度に優れ、取り扱いが容易な上記フローセル1を製造することが可能である。また、本実施形態の治具2を使用して、貫通孔(102、106、108)により位置決めを精密に行うことができるため、位置精度に優れたフローセル1とすることができる。
【0062】
即ち、タック性を有するスペーサ104を用いて、本実施形態の製造方法を採用することによって、フローセル1を構成する各部材を圧着せずとも、液漏れがないフローセル1を製造することが可能であり、その結果、取扱性に優れたフローセル1を提供することが可能である。
【0063】
〔本発明の第2の実施形態〕
本発明の第2の実施形態は、透明基板101が耐熱性に劣る場合に対処するために実施されるものである。透明基板101は薄いものであるため、一般に耐熱性に劣る。第1の実施形態の製造方法では、二次接合板を製造する際に、平面基板201が高温に加熱される場合があるため、製造が困難な場合がある。そこで、第2の実施形態は、透明基板101を接合の瞬間まで、平面基板201上に置かないことを可能とするものである。
【0064】
図6は、本発明の第2の実施形態の生体物質分析用フローセル1Aの構成を示す図である。第1の実施形態の
図1のフローセル1とほぼ同じ構成ではあるが、第2の実施形態のフローセル1Aが異なる点は、透明基板101の貫通孔102の直径が最も小さく、次に支持基板107の貫通孔108の直径が小さく、スペーサ104の貫通孔106の直径が最も大きいことである。用いる治具2の構成は、
図2の第1の実施形態の治具2の構成とほぼ共通するため、治具2の構成についての説明を省略する。
【0065】
図7は、本発明の第2の実施形態の治具2の部品である可動性ピン203の拡大図である。第2の実施形態においては、第1の実施形態と違ってフローセル1Aを構成する3種類の部材に設けられた貫通孔102、106、108の直径がそれぞれ異なることを利用して貼り合わせを行う。
【0066】
図7(a)の可動性ピン203cは、可動性ピン203aと同様の上部平面303の他、第2上部平面304を設けている。第2上部平面304は、一次接合板401を製造する際に支持基板107を中空に支えるときに用いられる。
図7(b)の可動性ピン203dは、
図7(a)の可動性ピン203cの第2上部平面304に相当する部分がなく、可動性ピン203d自体の直径が可動性ピン203cの直径よりも小さいものであり、上部平面303は、二次接合板を製造する際に透明基板101を中空に支えるときに用いられる。いずれの可動性ピン203も、治具2全体を真空状態にするときに、可動性ピン203の上部と下部とで差圧が生じることによって可動性ピン203が移動することがないように、軸方向の貫通孔301を内部に有している。
【0067】
図8は、本発明の第2の実施形態のフローセル1Aの製造方法の一工程を示す図である。第1の実施形態と同様に、治具2の平面基板201上にはスペーサ104が置かれており、スペーサ104の持つ貫通孔106に可動性ピン203cを通すことで、スペーサ104の位置決めが行われる。支持基板107は、可動性ピン203cが持つ第2上部平面304(
図7参照)に支えられ、その位置決めは貫通孔108に可動性ピン203cの上部を通すことにより行われる。この
図8の構成のままで、
図18(a)および(b)の第1の実施形態の工程4および工程5のように、真空貼り合わせ装置の本体容器3の内部に置き、真空雰囲気下において2本以上の可動性ピン203cを上から平行に押していくことにより、スペーサ104と支持基板107とを貼り合わせることができる。
【0068】
図9は、本発明の第2の実施形態のフローセル1Aの製造方法の一工程を示す図である。平面基板201上には一次接合後の一次接合板401を置き、一次接合板401の貫通孔に直径が小さい可動性ピン203dを通すことで位置決めが行われる。透明基板101は、可動性ピン203dの持つ上部平面303(
図7参照)によって中空に保持される。この
図9の構成のままで、
図19(b)および(c)の第1の実施形態の工程8および工程9のように、真空貼り合わせ装置の本体容器3の内部に置き、真空雰囲気下において2本以上の可動性ピン203dを上から平行に押していくことにより、一次接合板401と透明基板101とを貼り合わせることができる。第1の実施形態との大きな違いは、二次接合板を製造する際に中空に支えられる基板が一次接合板401ではなく透明基板101であるという点である。
【0069】
〔本発明の第3の実施形態〕
本発明の第3の実施形態は、フローセルを構成する各部材に穴を開けることをしないで、フローセルを簡便に製造することを可能とするものである。
【0070】
図10は、本発明の第3の実施形態の生体物質分析用フローセル1Bの構成を示す図である。
第1、第2の実施形態のフローセル(1、1A)とほぼ同じ構成ではあるが、この実施形態においては、各部材の貫通孔102、106、108がそれぞれ存在しない。
【0071】
図11は、本発明の第3の実施形態の治具2Aの構成を示す図である。平面基板201は、段付き貫通孔202を有している。この段付き貫通孔202は、上述したように、内部に内径の異なる段を有している。段付き貫通孔202には、下から可動性ピン203eあるいは203fが挿入される。挿入する際には、可動性ピン203eあるいは203fにはOリング204がはめられる。このOリング204を用いることにより、可動性ピン203eあるいは203fは段付き貫通孔202内で、ずれ落ちることなく一定の位置で止まる構造となっている。
【0072】
第1の実施形態および第2の実施形態との違いは、貫通孔102、106、108が存在しないため、可動性ピン203による最低2点での各基板の保持ができないということである。このため、本実施形態においては長短2種類の可動性ピン203を併用することにより各基板の保持を行う。
【0073】
短い可動性ピン203eは、中空に支える基板の辺に沿って4辺上に設置し、基板を可動性ピン203eの上部平面で中空に保持する機能を有している。また、この短い可動性ピン203eは、下側に置かれる部材の4辺に沿って置かれることで、下側に置かれる部材の位置精度を高める役割を同時に担っている。さらに、長い可動性ピン203fは、基板の4辺に沿って設置し、中空の基板の外辺を可動性ピン203fに押し当てることにより、中空に保持する基板の位置精度を高めている。短い可動性ピン203eおよび長い可動性ピン203fは、共に2本以上使用することが望ましく、
図11ではそれぞれ8本用いている。
【0074】
図12は、本発明の第3の実施形態の治具2Aの平面図であり、
図11に記載した治具2Aを上方から見た図である。
【0075】
図13は、本発明の第3の実施形態の治具2Aの部品である可動性ピン203の拡大図である。(a)は、第3の実施形態における短い可動性ピン203eであり、(b)は、第3の実施形態における長い可動性ピン203fである。この長い可動性ピン203fは、フローセル1Bの総厚み分以下の長さだけ、短い可動性ピン203eよりも長いこととなる。短い可動性ピン203eは、その上部に、上部平面303を有している。
【0076】
図20〜22は、本発明の第3の実施形態のフローセル1Bの製造方法の工程を示す断面図である。
図12のB−Bの位置における断面図として示してある。
図11の治具2Aと2種の可動性ピン(203e、203f)を用いてフローセル1Bを製造する一連の工程を示している。
図20(a)〜(c)、
図21(a)〜(c)、
図22(a)〜(c)はそれぞれ、本発明の第3の実施形態のフローセル1Bの製造方法を構成する工程1〜9に対応している。
【0077】
図20(a)の工程1において、平面基板201に設けられた段付き貫通孔202に短い可動性ピン203eおよび長い可動性ピン203fを下面から挿入する。この段付き貫通孔202は、可動性ピン203eおよび203fが抜けないようにするため、内部に内径の異なる段を有している。可動性ピン203eおよび203fを段付き貫通孔202内の段の最上部で止まるまで押し上げる。短い可動性ピン203eおよび長い可動性ピン203fには、Oリング204がはめられており、可動性ピン203eおよび203fが段付き貫通孔202内で位置がずれないように保持される。
【0078】
図20(b)の工程2において、フローセル1Bの製造方法に用いる治具2Aは、平面基板201と短い可動性ピン203eおよび長い可動性ピン203fから構成されている。スペーサ104がタック性を有することによってハンドリング性が低下することを防止するため、スペーサ104の両面には剥離シート104aが貼ってある。スペーサ104を平面基板201の上に設置する前に、スペーサ104の上部の剥離シート104aを剥がす。その後、スペーサ104を平面基板201の上面に置く。この際に、複数の短い可動性ピン203eの内側に構成される寸法に対してスペーサ104の外縁を合わせることで、スペーサ104を位置精度高く治具2A上に置くことができる。
【0079】
図20(c)の工程3において、支持基板107を治具2Aに設置する。このとき、支持基板107はスペーサ104および透明基板101よりも大きく設計されているため、短い可動性ピン203eの上部平面303(
図13参照)上に置かれることになる。また、支持基板107を置く際に複数の長い可動性ピン203fの内側に構成される寸法に対して支持基板107の外縁を合わせることで、支持基板107を位置精度高く治具2A上に中空に保持することができる。
【0080】
図14は、上記の
図20(c)の工程3における状況を立体的に図示している。この図では、8本の短い可動性ピン203eを用いてスペーサ104の位置決めを行い、さらに短い可動性ピン203eの上で支持基板107を中空に保持し、8本の長い可動性ピン203fを用いて支持基板107の位置決めを行っている。
【0081】
図21(a)の工程4において、スペーサ104と支持基板107を設置した治具2Aを、真空貼り合わせ装置の本体容器3の内部に置く。その後、真空貼り合わせ装置の天板4が降下してきて、真空貼り合わせ装置の本体装置3の内部が密閉される。さらに、本体容器3の内部が真空ポンプ(不図示)により脱気されて真空状態になる。このとき、可動性ピン203eおよび203fに設けられた軸方向の貫通孔301(
図13参照)を通して空気が移動すること、およびOリング204の摩擦力によって、可動性ピン203eおよび203fは位置がずれることはなく、支持基板107は中空に保持されている。
【0082】
図21(b)の工程5において、真空貼り合わせ装置の天板4を降下させ、中空に保持された支持基板107の上部平面に接するようにする。その後、天板4をさらに降下させ、可動性ピン203eおよび203fを押し下げながら支持基板107を降下させる。天板4は、支持基板107がスペーサ104に接するまで降下し続け、接した後は、両者を加圧する。加圧の程度は、支持基板107およびスペーサ104が破損しないよう制御され、また部材によっては加熱や冷却を行うことができる。このとき、本体容器3および天板4が、最初から加熱あるいは冷却されていることも、貼り合わせの時間短縮のためには好ましい。
【0083】
図21(c)の工程6において、真空貼り合わせ装置から治具2Aを取り出し、治具2Aから、スペーサ104と支持基板107とが貼り合わされた一次接合板401を取り出す。次に、スペーサ104の下面の剥離シート104aを剥がす。また治具2Aの可動性ピン203eおよび203fを工程1と同じように押し上げる。
【0084】
図22(a)の工程7において、治具2Aの上面に透明基板101を設置する。透明基板101は、複数の短い可動性ピン203eの内側に構成される寸法に対して、その外縁を合わせることで位置決めされる。次に、一次接合板401を設置する。一次接合板401は、
図20(c)の工程3における支持基板107と同様に、短い可動性ピン203eの上部平面303の位置で中空に保持される。また、複数の長い可動性ピン203fの内側に構成される寸法に対して一次接合板401の外縁を合わせることで位置決めされる。
図15は、上記の
図22(a)の工程7における状況を立体的に図示している。
【0085】
図22(b)の工程8において、
図21(a)の工程4と同様に、透明基板101と一次接合板401を設置した治具2Aを、真空貼り合わせ装置の本体容器3の内部に置く。その後、真空貼り合わせ装置の天板4が降下してきて、真空貼り合わせ装置の本体容器3の内部が密閉される。さらに、本体容器3の内部が真空ポンプ(不図示)により脱気されて真空状態になる。このとき、可動性ピン203eおよび203fに設けられた軸方向の貫通孔301を通して空気が移動すること、およびOリング204の摩擦力によって、可動性ピン203eおよび203fは位置がずれることはなく、一次接合板401は中空に保持されている。
【0086】
図22(c)の工程9において、
図21(b)の工程5と同様に、真空貼り合わせ装置の天板4を降下させ、中空に保持された一次接合板401の上部平面に接するようにする。その後、天板4をさらに降下させ、可動性ピン203を押し下げながら一次接合板401を降下させる。天板4は、一次接合板401が透明基板101に接するまで降下し続け、接した後は、両者を加圧する。加圧の程度は、一次接合板401および透明基板101が破損しないよう制御され、また部材によっては加熱や冷却を行うことができる。
【0087】
以上のように、本実施形態の治具2Aを使用して、工程1から工程9の製造方法を行うことにより、透明基板101、スペーサ104および支持基板107の貼り合わせが行われ、本実施形態のフローセル1Bが製造される。
【0088】
図16は、本発明の第3の実施形態の変形例の治具2Aの部品である可動性ピン203gの拡大図である。可動性ピン203gは、
図13における短い可動性ピン203eおよび長い可動性ピン203fを、一本の可動性ピン203によって代用させるための具体例のひとつである。可動性ピン203gにおいて、各基板の保持は上部平面303を用いて行い、位置合わせは位置決めのための垂直方向の平面305において行うことができる。このことにより、短い可動性ピン203eおよび長い可動性ピン203fの機能を同時に果たすことができる。可動性ピン203gを設置する位置は、短い可動性ピン203eと同等の位置に配置することができる。
【0089】
〔その他の実施形態〕
本発明の実施形態として、透明基板と支持基板とスペーサとから構成される3層構造のフローセルを中心に説明してきたが、支持基板とスペーサとを一体化させたものを作製し、それと透明基板とから構成される2層構造のフローセルとして製造し、使用することもできる。この場合、生体物質分析用フローセルは、分析試料を流路に流すための流入口および流出口を有する透明基板と、タック性を有し、前記透明基板に貼り合わされ、前記分析試料の反応チャンバとなる流路を有する支持基板とを備えることを特徴としているものとなる。
【0090】
このとき、分析試料を分析するために反応試薬を流す流路や反応チャンバは、支持基板内に作成されることとなる。例えば、ガラス製の支持基板表面にレジスト材料で画像を形成した後、エッチングする方法などで流路を形成し、流路内に核酸試料などを固定させることによって、分析試料の反応チャンバとなる流路を有する支持基板とすることができる。さらに、この流路を有した支持基板は、タック性を有しており、透明基板と貼り合わせることができるものである。支持基板の貼り合わせ面に粘着性の軟質材料をコーティングすることなどが可能である。
【0091】
さらに、上記流路を有した支持基板は、可動性ピンを用いて貼り合わせをするために、可動性ピンを通すための貫通孔を有することができる。また、3層構造のフローセルの場合と同様に、透明基板は、光透過性に優れたガラス、アクリル樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂などを使うことができ、中でもガラスが好ましい。
【0092】
本発明の実施形態として、上述してきた種々の可動性ピン203の形状としては、円柱形状であるものに限られない。他には、四角柱、三角柱などの多角形形状や、楕円柱形状などの様々な形状であっても同様に使用することができる。
【0093】
また、これらの可動性ピンは、Oリングを取り付けることによって、その位置を保持するための抵抗力を調節しているが、Oリング以外にもXリング、Uパッキン、Yパッキン、コンパクトパッキンなどに代表される様々なリングまたはパッキンも同様に用いることができる。これらは摺動時の抵抗力やピンの形状から適宜選択できる。
【0094】
また、上述してきた種々の可動性ピン203は、軸方向の貫通孔301を有している。これは前述のとおり、部材を取り付けた治具2を真空貼り合わせ装置の本体容器3内部に置き、貼り合わせする時に、雰囲気を真空状態にする際に、可動性ピン203が下がることが無いようにするためである。しかし、真空貼り合わせ装置の本体容器3の高さを十分に確保することができる場合には、可動性ピン203にロック機構を付けたり、治具2内にバネで下から押し上げる機構を取り付けるなど、他の同様の機能を有する機構を採用することもできる。また、治具2の平面基板201自体に、貫通孔202の側壁から水平方向に、平面基板201の外側面に至るまで細い孔を設けるという方法を用いても、差圧が生じて、可動性ピン203が移動することを防止することができる。