【実施例】
【0027】
以下、本発明による球状銀粉およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0028】
[実施例1]
銀8.63gを含む硝酸銀水溶液753gを分取した1Lビーカーを、水温35℃の水を入れた超音波洗浄機(アズワン株式会社製のUS Cleaner USD−4R、出力160W)に入れ、発振周波数40kHzで超音波照射を開始するとともに攪拌を開始した。
【0029】
次に、上記のビーカー中の硝酸銀水溶液に28質量%のアンモニア水29.1g(銀に対して3.0当量相当)を添加して銀アンミン錯塩を生成させ、アンモニア水の添加から30秒後に、20質量%の水酸化ナトリウム水溶液0.48gを添加し、アンモニア水の添加から20分後に、ホルマリンを純水で希釈した27.4質量%のホルムアルデヒド溶液48.7g(銀に対して11.1当量相当)を添加し、その30秒後に、1.2質量%のステアリン酸エタノール溶液0.86gを添加して、銀粒子を含むスラリーを得た。
【0030】
次に、超音波照射を終了した後、銀粒子を含むスラリーを濾過し、水洗して得られたケーキを、75℃の真空乾燥機で10時間乾燥させ、乾燥した銀粉をコーヒーミルで30秒間解砕して球状銀粉を得た。
【0031】
このようにして得られた球状銀粉について、レーザー回折法による粒度分布、BET比表面積、真比重を測定し、粒子断面を観察し、不純物元素および銀の含有量と、有機成分(炭素、窒素、酸素および水素)の含有量を求めた。
【0032】
レーザー回折法による粒度分布は、球状銀粉0.3gをイソプロピルアルコール30mLに入れ、出力50Wの超音波洗浄器により5分間分散させ、マイクロトラック粒度分布測定装置(ハネウエル−日機装株式会社製の9320HRA(X−100))を用いて測定した。その結果、D
10=1.6μm、D
50=3.0μm、D
90=5.3μmであった。
【0033】
BET比表面積は、60℃で10分間脱気した後、比表面積測定装置(カウンタクローム(Quanta Chrome)社製のモノソーブ)を用いて、窒素吸着によるBET1点法により測定した。その結果、BET比表面積は0.35m
2/gであった。
【0034】
真比重は、球状銀粉10gと、浸液としてイソプロピルアルコールと、容積50mLピクノメーターを使用して測定した。その結果、真比重は9.6g/cm
3であり、バルク銀の真比重10.5g/cm
3に対して密度が9%低下していることが確認された。
【0035】
粒子断面の観察は、集束イオンビーム(FIB)装置(JEOL社製のJEM−9310FIB)で切断した球状銀粉の断面を電界放出形走査電子顕微鏡(FE−SEM)(JEOL社製JSM−6700F)で観察することによって行った。その結果、
図1のFE−SEM写真に示すように、球状銀粉の粒子の内部に閉鎖された空隙が存在することが確認された。また、FE−SEM写真における球状銀粉の全粒子の面積は13.7μm
2、空隙を有する粒子の面積は0.56μm
2、全粒子の面積に対する空隙を有する粒子の面積の比率は4.1%であり、観察した球状銀粉の断面が必ずしも粒子の中心を通るとは限らないことを考慮すると、ほとんどの粒子に空隙が存在すると考えられる。また、FE−SEM写真から求めた平均空隙サイズは0.07μmであり、平均粒径D
50に対して2.3%に相当し、十分な空隙サイズであることが確認された。
【0036】
不純物元素の含有量は、球状銀粉1.0gを(1+1)硝酸10mLに溶解し、(1+1)塩酸5mLを添加して塩化銀を析出させ、ろ過して得られたろ液に純水を加えて定容化した後、ICP(サーモサイエンティフィック(Thermo Scientific)社製のiCAP6300)による定量分析によって求めた。その結果、Cr=1ppm、Mn<1ppm、Fe=7ppm、Co<5ppm、Ni<5ppm、Cu<1ppm、Zn<5ppm、Cd<1ppm、Pb<5ppm、Sn<10ppm、Ca<1ppm、Mg<1ppm、S<50ppm、Zr<1ppm、Bi<10ppm、Al<10ppm、Sr<1ppm、Ba<1ppm、Li<100ppm、Na<100ppm、K<100ppm、Rb<100ppm、Cs<100ppmであり、いずれの不純物も100ppm未満であることが確認された。
【0037】
銀の含有量は、上記のろ過により得られた塩化銀を乾燥させ、その塩化銀の重量を精秤することによって求めた。その結果、銀の含有量は、99.37質量%であった。
【0038】
有機成分(炭素、窒素、酸素および水素)の含有量については、炭素の含有量は、炭素・硫黄分析計(株式会社堀場製作所製のEMIA−U510)を使用して加熱温度1350℃で定量したところ、1700ppmであり、窒素、酸素および水素の含有量は、窒素・酸素・水素分析装置(LECO社製のONH836)を使用して定量したところ、それぞれ745ppm、3020ppm、800ppmであった。
【0039】
次に、このようにして得られた球状銀粉83.4質量%と、樹脂(和光純薬工業株式会社製のエチルセルロース、100cps)1.2質量%と、溶剤(和光純薬工業株式会社製のテルピネオール)15.4質量%を、プロペラレス自公転式攪拌脱泡装置(株式会社シンキー社製のAR250)を用いて30秒間混合する操作を2回行った後、3本ロール(オットハーマン社製のEXAKT80S)を用いてロールギャップ100μmから20μmまで通過させて混練することにより、導電性ペーストを得た。
【0040】
次に、このようにして得られた導電性ペーストを、2枚の96%アルミナ基板上の各々に、スクリーン印刷機(マイクロテック社製)を用いて、スキージ圧0.3MPaで、8mm×10mmの長方形の膜になるようにスクリーン印刷し、大気循環式乾燥機を用いて200℃で20分間乾燥させた後、ボックス炉を用いてそれぞれの基板を400℃と700℃で10分間加熱処理して導電膜を作製した。
【0041】
このようにして得られた導電膜について、表面粗さ計(株式会社小坂研究所製のサーフコーダSE−30D)を用いてアルミナ基板上の導電膜の表面とその導電膜を印刷していない部分との段差を測定することによって導電膜の膜厚を求めるとともに、導電膜の表面抵抗率を抵抗率測定器(三菱ケミカル株式会社製のMCP−T410)を用いて四探針法で測定し、この表面抵抗率を導電膜の体積(=幅×長さ×膜厚)から導電膜の体積抵抗率を求めたところ、400℃で焼成した導電膜では5.2×10
−6Ω・cm、700℃で焼成した導電膜では2.6×10
−6Ω・cmであり、400℃で焼成した導電膜でも10
−6Ω・cmのオーダーの導電性を確保することができた。
【0042】
[実施例2]
銀8.63gを含む硝酸銀水溶液753gを分取した1Lビーカーを、水温20℃の水を入れた超音波洗浄機(アズワン株式会社製のUS Cleaner USD−4R、出力160W)に入れ、攪拌を開始した。
【0043】
次に、上記のビーカー中の硝酸銀水溶液に28質量%のアンモニア水26.2g(銀に対して2.7当量相当)を添加して銀アンミン錯塩を生成させ、アンモニア水の添加から19分後に、発振周波数40kHzで超音波照射を開始し、その1分後に、ホルマリンを純水で希釈した27.4質量%のホルムアルデヒド溶液54.4g(銀に対して12.4当量相当)を添加し、その15秒後に、2.1質量%のベンゾトリアゾールエタノール水溶液1.06gを添加して、銀粒子を含むスラリーを得た。
【0044】
次に、超音波照射を終了した後、銀粒子を含むスラリーを濾過し、水洗して得られたケーキを、75℃の真空乾燥機で10時間乾燥させ、乾燥した銀粉をコーヒーミルで30秒間解砕して球状銀粉を得た。
【0045】
このようにして得られた球状銀粉について、実施例1と同様の方法により、レーザー回折法による粒度分布、BET比表面積、真比重を測定し、粒子断面を観察し、不純物元素および銀の含有量と、有機成分(炭素、窒素、酸素および水素)の含有量を求めた。
【0046】
その結果、レーザー回折法による粒度分布は、D
10=1.5μm、D
50=2.8μm、D
90=4.5μmであり、BET比表面積は0.36m
2/gであった。また、真比重は9.7g/cm
3であり、バルク銀の真比重10.5g/cm
3に対して密度が8%低下していることが確認された。
【0047】
また、粒子断面の観察では、
図2のFE−SEM写真に示すように、球状銀粉の粒子の内部に閉鎖された空隙が存在することが確認された。また、FE−SEM写真における球状銀粉の全粒子の面積は11.8μm
2、空隙を有する粒子の面積は0.34μm
2、全粒子の面積に対する空隙を有する粒子の面積の比率は2.9%であり、観察した球状銀粉の断面が必ずしも粒子の中心を通るとは限らないことを考慮すると、ほとんどの粒子に空隙が存在すると考えられる。また、FE−SEM写真から求めた平均空隙サイズは、0.05μmであり、平均粒径D
50に対して1.7%に相当し、十分な空隙サイズであることが確認された。
【0048】
さらに、不純物元素の含有量については、Cr=1ppm、Mn<1ppm、Fe=6ppm、Co<5ppm、Ni<5ppm、Cu<1ppm、Zn<5ppm、Cd<1ppm、Pb<5ppm、Sn<10ppm、Ca<1ppm、Mg<1ppm、S<50ppm、Zr<1ppm、Bi<10ppm、Al<10ppm、Sr<1ppm、Ba<1ppm、Li<100ppm、Na<100ppm、K<100ppm、Rb<100ppm、Cs<100ppmであり、いずれの不純物も100ppm未満であることが確認された。また、銀の含有量は99.21質量%、炭素、窒素、酸素および水素の含有量は、それぞれ2400ppm、1710ppm、3360ppm、650ppmであった。
【0049】
また、得られた球状銀粉を用いて、実施例1と同様の方法により、導電性ペーストから導電膜を作製し、体積抵抗率を求めたところ、400℃で焼成した導電膜では5.7×10
−6Ω・cm、700℃で焼成した導電膜では2.4×10
−6Ω・cmであり、400℃で焼成した導電膜でも10
−6Ω・cmのオーダーの導電性を確保することができた。
【0050】
[実施例3]
銀9.00gを含む硝酸銀水溶液688gを分取した1Lビーカーを、水温30℃の水を入れた超音波洗浄機(アズワン株式会社製のUS Cleaner USD−4R、出力160W)に入れ、発振周波数28kHzで超音波照射を開始するとともに攪拌を開始した。
【0051】
次に、上記のビーカー中の硝酸銀水溶液に28質量%のアンモニア水27.6g(銀に対して2.5当量相当)を添加して銀アンミン錯塩を生成させ、アンモニア水の添加から1分後に、20質量%の水酸化ナトリウム水溶液2.5gを添加し、その20分後に、ホルマリンを純水で希釈した27.4質量%のホルムアルデヒド溶液79.4g(銀に対して13.0当量相当)を添加し、その5秒後に、2.5質量%のステアリン酸溶液2.3gを添加して、銀粒子を含むスラリーを得た。
【0052】
次に、超音波照射を終了した後、銀粒子を含むスラリーを濾過し、水洗して得られたケーキを、75℃の真空乾燥機で10時間乾燥させ、乾燥した銀粉をコーヒーミルで30秒間解砕して球状銀粉を得た。
【0053】
このようにして得られた球状銀粉について、実施例1と同様の方法により、レーザー回折法による粒度分布、BET比表面積、真比重を測定し、粒子断面を観察し、不純物元素および銀の含有量と、有機成分(炭素、窒素、酸素および水素)の含有量を求めた。
【0054】
その結果、レーザー回折法による粒度分布は、D
10=0.7μm、D
50=1.3μm、D
90=2.3μmであり、BET比表面積は0.77m
2/gであった。また、真比重は9.3g/cm
3であり、バルク銀の真比重10.5g/cm
3に対して密度が11%低下していることが確認された。
【0055】
また、粒子断面の観察では、
図3のFE−SEM写真に示すように、球状銀粉の粒子の内部に閉鎖された空隙が存在することが確認された。また、FE−SEM写真における球状銀粉の全粒子の面積は2.08μm
2、空隙を有する粒子の面積は0.21μm
2、全粒子の面積に対する空隙を有する粒子の面積の比率は10%であり、観察した球状銀粉の断面が必ずしも粒子の中心を通るとは限らないことを考慮すると、ほとんどの粒子に空隙が存在すると考えられる。また、FE−SEM写真から求めた平均空隙サイズは0.11μmであり、平均粒径D
50に対して8.5%に相当し、十分な空隙サイズであることが確認された。
【0056】
さらに、不純物元素の含有量については、Cr=1ppm、Mn<1ppm、Fe=8ppm、Co<5ppm、Ni<5ppm、Cu=1ppm、Zn<5ppm、Cd<1ppm、Pb<5ppm、Sn<10ppm、Ca<1ppm、Mg<1ppm、S<50ppm、Zr<1ppm、Bi<10ppm、Al<10ppm、Sr<1ppm、Ba<1ppm、Li<100ppm、Na<100ppm、K<100ppm、Rb<100ppm、Cs<100ppmであり、いずれの不純物も100ppm未満であることが確認された。また、銀の含有量は99.00質量%、炭素、窒素、酸素および水素の含有量は、それぞれ3700ppm、575ppm、3955ppm、1300ppmであった。
【0057】
また、得られた球状銀粉を用いて、実施例1と同様の方法により、導電性ペーストから導電膜を作製し、体積抵抗率を求めたところ、400℃で焼成した導電膜では4.5×10
−6Ω・cm、700℃で焼成した導電膜では2.3×10
−6Ω・cmであり、400℃で焼成した導電膜でも10
−6Ω・cmのオーダーの導電性を確保することができた。
【0058】
[比較例1]
銀8.63gを含む硝酸銀水溶液28.6gを分取した1Lビーカーを、水温35℃の水を入れた超音波洗浄機(アズワン株式会社製のUS Cleaner USD−4R、出力160W)に入れ、発振周波数40kHzで超音波照射を開始するとともに攪拌を開始した。
【0059】
次に、上記のビーカー中の硝酸銀水溶液に28質量%のアンモニア水52.7g(銀に対して5.0当量相当)を添加して銀アンミン錯塩を生成させ、アンモニア水の添加から5分後に、0.40質量%のポリエチレンイミン(分子量10,000)水溶液2.2gを添加し、アンモニア水の添加から20分後に、6.2質量%の含水ヒドラジン水溶液19.4g(銀に対して1.2当量相当)を添加し、その30秒後に、1.3質量%ステアリン酸溶液0.77gを添加して、銀粒子を含むスラリーを得た。なお、本比較例では、ヒドラジンの使用により小さくなる粒径を調整するためにポリエチレンイミンを添加している。
【0060】
次に、超音波照射を終了した後、銀粒子を含むスラリーを濾過し、水洗して得られたケーキを、75℃の真空乾燥機で10時間乾燥させ、乾燥した銀粉をコーヒーミルで30秒間解砕して球状銀粉を得た。
【0061】
このようにして得られた球状銀粉について、実施例1と同様の方法により、レーザー回折法による粒度分布、BET比表面積、真比重を測定し、粒子断面を観察し、不純物元素および銀の含有量と、有機成分(炭素、窒素、酸素および水素)の含有量を求めた。
【0062】
その結果、レーザー回折法による粒度分布は、D
10=1.8μm、D
50=2.9μm、D
90=4.4μmであり、BET比表面積は0.16m
2/gであった。また、真比重は10.3g/cm
3であり、バルク銀の真比重10.5g/cm
3に対して密度が2%しか低下していないことが確認された。
【0063】
また、粒子断面の観察では、
図4のFE−SEM写真に示すように、球状銀粉の粒子の内部に閉鎖された空隙が存在しないことが確認された。
【0064】
さらに、不純物元素については、Cr=1ppm、Mn<1ppm、Fe=7ppm、Co<5ppm、Ni<5ppm、Cu=2ppm、Zn<5ppm、Cd<1ppm、Pb<5ppm、Sn<10ppm、Ca<1ppm、Mg<1ppm、S<50ppm、Zr<1ppm、Bi<10ppm、Al<10ppm、Sr<1ppm、Ba<1ppm、Li<100ppm、Na<100ppm、K<100ppm、Rb<100ppm、Cs<100ppmであり、いずれの不純物も100ppm未満であることが確認された。また、銀の含有量は99.80質量%、炭素、窒素、酸素および水素の含有量は、それぞれ900ppm、70ppm、320ppm、200ppmであった。
【0065】
また、得られた球状銀粉を用いて、実施例1と同様の方法により、導電性ペーストから導電膜を作製し、体積抵抗率を求めたところ、400℃で焼成した導電膜では1.1×10
−5Ω・cm、700℃で焼成した導電膜では3.0×10
−6Ω・cmであり、400℃で焼成した導電膜では10
−5Ω・cmのオーダーになって実施例1〜3と比べて導電性が劣っていた。
【0066】
これらの実施例および比較例で得られた球状銀粉について、レーザー回折法による粒度分布、BET比表面積および真比重を表1に示し、粒子断面の観察の結果を表2に示す。また、これらの実施例および比較例で得られた導電膜の体積抵抗率を表3に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
これらの実施例および比較例からわかるように、銀イオンを含有する水性反応系に、キャビテーションを発生させながら、アルデヒドを含有する還元剤含有溶液を混合して銀粒子を還元析出させることにより、粒子内部に閉鎖された空隙を有する球状銀粉を製造することができる。