(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、下記式(1)で表される塩素化ハイパーブランチポリマーの製造方法である。
【化4】
式(1)中、Xは塩素原子を表し、R
1は水素原子又はメチル基を表す。nは繰り返し単位構造の数であって2乃至100,000の整数を表す。また、A
1は式(2)で表される構造を表す。
【化5】
式(2)中、A
2はエーテル結合又はエステル結合を含んでいてもよい炭素原子数1乃至30の直鎖状、枝分かれ状又は環状のアルキレン基を表し、Y
1、Y
2、Y
3及びY
4は、それぞれ、水素原子、炭素原子数1乃至20のアルキル基、炭素原子数1乃至20のアルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基又はシアノ基を表す。
【0010】
具体的には、下記式(3)で表される分子末端にジチオカルバメート基を有するハイパーブランチポリマーのジチオカルバメート基を、ハロゲン化剤として塩化スルフリルを用いて塩素原子に置換するものであり、この時、該ジチオカルバメート基の数に対して2.5乃至10倍モル当量の塩化スルフリルを用いることを特徴とする、式(1)で表される塩素化ハイパーブランチポリマーの製造方法に関する。
【化6】
式(3)中、R
1、A
1及びnは前記式(1)に記載の定義と同義である。
また、R
2及びR
3は、それぞれ炭素原子数1乃至5のアルキル基、炭素原子数1乃至5のヒドロキシアルキル基、又は炭素原子数7乃至12のアリールアルキル基を表すか、又はR
2及びR
3はそれらと結合する窒素原子と一緒になって環を形成していてもよい。
なお、式(1)及び式(3)中の各基の具体例(R
1乃至R
3、A
2)、並びに、本発明に使用するジチオカルバメート基を分子末端に有するハイパーブランチポリマーの詳細については後述する。
【0011】
本発明の製造方法は、塩素化剤として塩化スルフリルを選択したこと、そして塩化スルフリルをジチオカルバメート基に対して特定量(過剰量)用いる点に大きな特徴を有する。
前述したように、ジチオカルバメート基を分子末端に有するハイパーブランチポリマーは、光安定性や様々な化合物への誘導化の容易性等を考慮すると、ジチオカルバメート基末端をハロゲン末端に変換しておくことが望まれており、従来は臭素末端のハイパーブランチポリマーが検討されていた。しかしながら、臭素末端のハイパーブランチポリマーは非常に反応性が高く、他の化合物への誘導化の観点からは有利であっても、保存安定性や品質の均一性といった観点から、特に工業スケールでの大規模生産を考慮すると不利とされる。このため、安定性の観点からは、塩素末端のハイパーブランチポリマーが有利であるとみられる。
本発明者らは、塩素末端のハイパーブランチポリマーの製造を検討するにあたり、従来より提案されている塩素やN−クロロコハク酸イミド、塩素化イソシアヌル酸、塩化チオニルなどをはじめとする種々の塩素化剤による塩素化を試みた。しかしながら、実際の塩素化工程、特に工業規模での大量生産工程を考慮すると、取り扱いの困難性(塩素ガスなど)や塩素化剤残渣の発生(N−クロロコハク酸イミドなど)といった問題が発生し、また反応系が不溶化する(塩化チオニルなど)など、従来提案されている上記塩素化剤の適用には課題が残るものであった。
このように様々な塩素化剤の適用を検討した結果、本発明者らは、塩素ガスと比べて扱いが容易であり、塩素化残渣が残らず精製が容易であること、そして反応系が不溶化せず、目的とするポリマーが得られるという観点から、塩化スルフリル(液体)が塩素化ハイパーブランチポリマーの製造において極めて有用な塩素化剤であることを初めて見出した。
そして、塩素化剤として単に塩化スルフリルを選択するだけでなく、その使用量が非常に重要であり、ハイパーブランチポリマーのジチオカルバメート基に対して過剰となる特定量の塩化スルフリルを用いた場合にのみ、さらには両化合物の添加方法や反応温度を種々選択した場合にのみ、不溶化せず品質の安定した塩素化ハイパーブランチポリマーが得られることを見出し、本発明の完成に至った。
以下、本発明の詳細について説明する。
【0012】
[ジチオカルバメート基の塩素化による式(1)で表される塩素化ハイパーブランチポリマーの製造方法]
本製造方法において、ハロゲン化剤として用いる塩化スルフリルは、ハイパーブランチポリマー内のジチオカルバメート基の数に対して2.5乃至10倍モル当量で使用する。好ましくは、ハイパーブランチポリマー内のジチオカルバメート基の数に対して、塩化スルフリルを3.0乃至10倍モル当量で、より好ましくは3.5乃至5.0倍モル当量で使用する。
【0013】
分子末端のジチオカルバメート基を塩素原子に置換する反応は、水又は有機溶媒中で行なうことが好ましい。この時、塩化スルフリルが過剰な状態にある系にジチオカルバメート基を有するハイパーブランチポリマーを投入することが好ましく、例えば、塩化スルフリルを有機溶媒に溶解した溶液中に、ジチオカルバメート基を有するハイパーブランチポリマーを有機溶媒に溶解した溶液を投入することにより、反応を実施することが好ましい。このときのジチオカルバメート基を有するハイパーブランチポリマー溶液の塩化スルフリル溶液への投入方法は、一括投入、連続投入(滴下など)、あるいは何回かに亘っての分割投入のいずれであってもよい。
【0014】
前記置換反応に使用する有機溶媒は、前記のジチオカルバメート基を有するハイパーブランチポリマーと塩化スルフリルとを溶解可能なものが好ましい。なお、事前にジチオカルバメート基を有するハイパーブランチポリマーを製造する場合には、製造に用いた溶媒と置換反応に使用する有機溶媒とが同じものであると、反応操作も簡便になり好ましい。
前記置換反応で使用する有機溶媒の具体例としては、本反応の進行を著しく阻害しないものであれば良く、酢酸等の有機酸類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化物;n−ヘプタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類等が使用できる。これらの有機溶媒は一種を用いてもよいし、二種又はそれ以上を混合して用いてもよい。
前記置換反応で使用する有機溶媒の使用量の総量は、ジチオカルバメート基を分子末端に有するハイパーブランチポリマーの質量に対して0.2乃至1,000倍質量、好ましくは1乃至500倍質量、より好ましくは5乃至100倍質量、最も好ましくは10乃至50倍質量であることが好ましい。
【0015】
前記置換反応は、温度−20℃以上、35℃以下の条件で実施されることが好ましく、より好ましくは−15℃以上、25℃以下の温度条件にて、最も好ましくは−5℃以上、20℃以下の温度条件にて、実施されることが望ましい。
【0016】
前記置換反応は、反応開始前には反応系内の酸素を十分に除去する必要があり、窒素、アルゴン等の不活性気体で系内を置換するとよい。
反応時間としては、0.01乃至100時間、好ましくは0.1乃至10時間である。
【0017】
反応終了後は系内に残存する塩化スルフリルを分解処理することが望ましく、その際、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等の還元剤の水溶液、又は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ水溶液を用いることが出来る。また、エチレン、プロピレン、ブテン、シクロヘキセン等の不飽和結合を含む化合物と反応させてもよい。
これらの使用量は用いた塩化スルフリルに対して、0.1乃至50当量、好ましくは、0.5乃至10当量であれば良い。
上述のような反応によって得られた塩素化ハイパーブランチポリマーは、反応溶液中から溶媒留去又は固液分離により溶媒と分離することができる。また、反応溶液を貧溶媒中へ加えることにより塩素化ハイパーブランチポリマーを沈殿させ、粉末として回収することもできる。
前記貧溶媒としては、水、メタノール、イソプロパノール、n−ヘキサン、n−ヘプタン等を使用できる。これらの貧溶媒は一種を用いてもよいし、二種又はそれ以上を混合して用いてもよい。また前記貧溶媒の使用量は、反応溶液の溶媒(良溶媒)質量に対して1乃至50質量倍の量にて使用することが好ましく、より好ましくは2乃至10質量倍の量で使用することが望ましい。
なお、本発明により得られる塩素化ハイパーブランチポリマーは、分子末端の一部がジチオカルバメート基として残存していてもよい。
【0018】
なお、本発明により得られる塩素化ハイパーブランチポリマーは、ゲル浸透クロマトグラフィーによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwが500乃至5,000,000であり、好ましくは1,000乃至1,000,000であり、より好ましくは2,000乃至500,000であり、最も好ましくは3,000乃至100,000である。また、分散度Mw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)としては1.0乃至7.0であり、好ましくは1.1乃至6.0であり、より好ましくは1.2乃至5.0である。
【0019】
[ジチオカルバメート基を分子末端に有するハイパーブランチポリマー]
本発明の製造方法に用いるジチオカルバメート基を分子末端に有するハイパーブランチポリマーは、下記式(3)で表されるハイパーブランチポリマーである。
【化7】
【0020】
上記式中、R
1は水素原子又はメチル基を表す。
またR
2及びR
3は、それぞれ炭素原子数1乃至5のアルキル基、炭素原子数1乃至5のヒドロキシアルキル基、又は炭素原子数7乃至12のアリールアルキル基を表すか、又はR
2及びR
3はそれらと結合する窒素原子と一緒になって環を形成していてもよい。
上記R
2及びR
3における炭素原子数1乃至5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、シクロペンチル基、n−ペンチル基等が挙げられる。また、炭素原子数1乃至5のヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基等が挙げられる。炭素原子数7乃至12のアリールアルキル基としては、ベンジル基及びフェネチル基等が挙げられる。
R
2とR
3が互いに結合し、それらと結合する窒素原子と共に形成する環としては四乃至八員環が挙げられる。そして、環としてメチレン基を四乃至六個含む環が挙げられる。また、環として酸素原子又は硫黄原子と四乃至六個のメチレン基とを含む環も挙げられる。R
2とR
3が互いに結合し、それらと結合する窒素原子と共に形成する環の具体例としては、ピペリジン環、ピロリジン環、モルホリン環、チオモルホリン環、ホモピペリジン環等が挙げられる。
【0021】
また上記式中、A
1は式(2)で表される構造を表す。
【化8】
式(2)中、A
2はエーテル結合又はエステル結合を含んでいてもよい炭素原子数1乃至30の直鎖状、枝分かれ状又は環状のアルキレン基を表し、Y
1、Y
2、Y
3及びY
4は、それぞれ、水素原子、炭素原子数1乃至20のアルキル基、炭素原子数1乃至20のアルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基又はシアノ基を表す。
上記A
2のアルキレン基の具体例としては、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、n−ブチレン基、n−ヘキシレン基等の直鎖状アルキレン基、イソプロピレン基、イソブチレン基、2−メチルプロピレン基等の枝分かれ状アルキレン基が挙げられる。また環状アルキレン基としては、炭素原子数3乃至30の単環式、多環式及び架橋環式の環状構造の脂環式脂肪族基が挙げられる。具体的には、炭素原子数4以上のモノシクロ、ビシクロ、トリシクロ、テトラシクロ、ペンタシクロ構造等を有する基を挙げることができる。例えば、下記に脂環式脂肪族基のうち、脂環式部分の構造例(a)乃至(s)を示す。
【化9】
また上記式(2)中のY
1、Y
2、Y
3及びY
4の炭素原子数1乃至20のアルキル基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、シクロヘキシル基、n−ペンチル基等が挙げられる。炭素原子数1乃至20のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、シクロヘキシルオキシ基、n−ペンチルオキシ基等が挙げられる。Y
1、Y
2、Y
3及びY
4としては、水素原子又は炭素原子数1乃至20のアルキル基が好ましい。
なお、式(1)中のA
1としては、式(4)で表される構造であることが好ましい。
【化10】
【0022】
上記式(3)で表されるジチオカルバメート基を分子末端に有するハイパーブランチポリマーとしては市販品を用いることができる。市販品としては、日産化学工業(株)製のハイパーテック(登録商標)HPS−200等を好適に使用可能である。
【0023】
なお、式(3)で表されるジチオカルバメート基を分子末端に有するハイパーブランチポリマーは、下記式(5)で表されるジチオカルバメート化合物をリビングラジカル重合することによって得られる。
【化11】
式(5)中、R
1、R
2、R
3及びA
1は前述の定義と同義である。
式(5)で表されるジチオカルバメート化合物の具体例としては、N,N−ジエチルジチオカルバミルメチルスチレンが挙げられる。
上記式(5)で表されるジチオカルバメート化合物のリビングラジカル重合は、Macromolecules Vol.35,No.9,3781−3784(2002)又はMacromolecules Vol.36,No.10,3505−3510(2002)記載の方法、あるいは国際公開第2008/029688号パンフレットに記載の手順を参照して行なうことができる。
【0024】
また、上記式(5)で表されるジチオカルバメート化合物は、下記の式(6)で表される化合物と式(7)で表される化合物との求核置換反応により容易に得ることができる。
【化12】
上記式中、R
1、R
2、R
3及びA
1は前述の定義と同義である。
式(6)中、Yは脱離基を表す。脱離基としてはフルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、メシル基、トシル基等である。式(7)中、Mはリチウム、ナトリウム又はカリウムを表す。
本求核置換反応は、通常上記二種類の化合物を両方溶解できる有機溶媒中で行なうことが好ましい。反応後、水/非水系有機溶媒による分液処理及び再結晶処理を実施することによって式(5)で表されるジチオカルバメート化合物を高純度で得ることができる。
また、式(5)で表されるジチオカルバメート化合物は、Macromol.Rapid Commun.21,665−668(2000)又はPolymer International 51,424−428(2002)に記載の方法を参照して製造することができる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、これによって本発明が限定されるものではない。実施例において、試料の物性測定は、下記の条件のもとで下記の装置を使用して行った。
【0026】
(1)GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)
装置:東ソー(株)製 HLC−8220GPC
カラム:昭和電工(株)製 Shodex(登録商標) KF−804L + KF−803L
カラム温度:40℃
溶媒:テトラヒドロフラン
検出器:UV(254nm)、RI
(2)
1H NMRスペクトル
装置:日本電子(株)製 JNM−L400
溶媒:CDCl
3
内部標準:テトラメチルシラン(0.00ppm)
【0027】
また使用した試薬の略号は以下のとおりである。
HPS:ハイパーブランチポリスチレン[日産化学工業(株)製 ハイパーテック(登録商標)HPS−200]
IPA:イソプロパノール
【0028】
[実施例1]
【化13】
50mLの反応フラスコに、ジチオカルバメート基(以下DC基)を分子末端に有するハイパーブランチポリマーHPS1.5g(DC基として5.7mmol)及びクロロホルム7.5gを仕込み、窒素気流下均一になるまで撹拌した。
別の50mLの2つ口フラスコに、塩化スルフリル[キシダ化学(株)製]2.7g(20mmol、DC基に対し3.6当量)及びクロロホルム7.5gを仕込み、撹拌して均一に溶解させた後、系内を窒素置換した。この塩化スルフリル/クロロホルム溶液中に、前述のHPS/クロロホルム溶液を一括で加えた後、加熱還流下(およそ61℃)で6時間撹拌した。
その後、この反応液へ、シクロヘキセン[東京化成工業(株)製]1.7g(20mmol、塩化スルフリルに対し1.0当量)を加えた。添加後、この反応液をIPA60gに添加してポリマーを沈殿させた。この沈殿をろ取して得られた粉末を、IPA10gで洗浄し、40℃で真空乾燥して、塩素原子を分子末端に有するハイパーブランチポリマー(HPS−Cl)1.0gを淡橙色粉末として得た(収率>99%)。
得られたHPS−ClのGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは14,000、分散度Mw/Mnは2.9であった。
【0029】
[実施例2]
塩化スルフリルの使用量を3.7g(27mmol、DC基に対し4.8当量)に、シクロヘキセンの使用量を2.2g(27mmol)にそれぞれ変更した以外は実施例1と同様に操作し、HPS−Cl1.1gを橙色粉末として得た(収率>99%)。
得られたHPS−ClのGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは12,000、分散度Mw/Mnは2.5であった。
【0030】
[比較例1]
塩化スルフリルの使用量を0.92g(6.8mmol、DC基に対し1.2当量)に変更した以外は実施例1と同様に操作したところ、HPS/クロロホルム溶液を添加直後に淡黄色の不溶物が析出した。この不溶物はその後加熱還流しても溶解せず、目的とするHPS−Clは得られなかった。
【0031】
[比較例2]
塩化スルフリルの使用量を1.8g(14mmol、DC基に対し2.4当量)に変更した以外は実施例1と同様に操作したところ、HPS/クロロホルム溶液を添加直後に淡黄色の不溶物が析出した。この不溶物はその後加熱還流しても溶解せず、目的とするHPS−Clは得られなかった。
【0032】
[実施例3]
50mLの反応フラスコに、DC基を分子末端に有するハイパーブランチポリマーHPS1.5g(DC基として5.7mmol)及びクロロホルム7.5gを仕込み、窒素気流下均一になるまで撹拌した。
別の50mLの2つ口フラスコに、塩化スルフリル[キシダ化学(株)製]2.7g(20mmol、DC基に対し3.6当量)及びクロロホルム7.5gを仕込み、撹拌して均一に溶解させた後、系内を窒素置換した。この塩化スルフリル/クロロホルム溶液中に、前述のHPS/クロロホルム溶液を、反応液の温度を25℃に保持しながら60分間かけて加えた。添加後、そのままの温度を保持しながら6時間撹拌した。
その後、この反応液へ、シクロヘキセン[東京化成工業(株)製]1.7g(20mmol、塩化スルフリルに対し1.0当量)を、反応液の温度を25℃に保持しながら加えた。添加後、この反応液をIPA60gに添加してポリマーを沈殿させた。この沈殿をろ取して得られた粉末を、IPA10g、メタノール10gで順に洗浄し、50℃で真空乾燥して、塩素原子を分子末端に有するハイパーブランチポリマー(HPS−Cl)0.82gを白色粉末として得た(収率>99%)。
得られたHPS−ClのGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは12,000、分散度Mw/Mnは2.6であった。また、得られたHPS−Clの
1H NMRスペクトルを
図1に示す。DC基由来のピーク(4.0ppm、3.7ppm)が消失していることから、得られたHPS−Clは、HPS分子末端のDC基がほぼ全て塩素原子に置換されていることが明らかとなった。
【0033】
[比較例3]
50mLの反応フラスコに、塩化スルフリル[キシダ化学(株)製]2.7g(20mmol、後述のHPSのDC基に対し3.6当量)及びクロロホルム7.5gを仕込み、窒素気流下均一になるまで撹拌した。
別の50mLの2つ口フラスコに、DC基を分子末端に有するハイパーブランチポリマーHPS1.5g(DC基として5.7mmol)及びクロロホルム7.5gを仕込み、撹拌して均一に溶解させた後、系内を窒素置換した。このHPS/クロロホルム溶液中に、前述の塩化スルフリル/クロロホルム溶液を、反応液の温度を25℃に保持しながら60分間かけて加えた。しかし添加と共に淡黄色の不溶物が析出し、目的とするHPS−Clは得られなかった。
【0034】
[実施例4]
HPS/クロロホルム溶液添加時の温度、その後の反応温度及びシクロヘキセン添加時の温度を、それぞれ−15℃に変更した以外は実施例3と同様に操作し、HPS−Cl0.78gを白色粉末として得た(収率>99%)。
得られたHPS−ClのGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは12,000、分散度Mw/Mnは2.6であった。
【0035】
[実施例5]
HPS/クロロホルム溶液添加時の温度、その後の反応温度及びシクロヘキセン添加時の温度を、それぞれ0℃に変更した以外は実施例3と同様に操作し、HPS−Cl0.81gを白色粉末として得た(収率>99%)。
得られたHPS−ClのGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは12,000、分散度Mw/Mnは2.6であった。
【0036】
[実施例6]
HPS/クロロホルム溶液添加時の温度、その後の反応温度及びシクロヘキセン添加時の温度を、それぞれ35℃に変更した以外は実施例3と同様に操作し、HPS−Cl0.77gを白色粉末として得た(収率>99%)。
得られたHPS−ClのGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは12,000、分散度Mw/Mnは2.6であった。
【0037】
[実施例7]
HPS/クロロホルム溶液添加時の温度、その後の反応温度及びシクロヘキセン添加時の温度を、それぞれ40℃に変更した以外は実施例3と同様に操作し、HPS−Cl0/78gを橙色粉末として得た(収率>99%)。
得られたHPS−ClのGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは12,000、分散度Mw/Mnは2.7であった。
また、得られたHPS−Clをクロロホルム及びIPAを使用した再沈殿操作(クロロホルムに溶解しIPAへ添加)を2回繰り返したが、粉末の着色はなくならず、橙色のままであった。
【0038】
[実施例8]
HPS/クロロホルム溶液添加時の温度、その後の反応温度及びシクロヘキセン添加時の温度を、それぞれ反応液の還流温度(およそ61℃)に変更した以外は実施例3と同様に操作し、HPS−Cl0.84gを橙色粉末として得た(収率>99%)。
得られたHPS−ClのGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは12,000、分散度Mw/Mnは2.6であった。
また、得られたHPS−Clをクロロホルム及びIPAを使用した再沈殿操作(クロロホルムに溶解しIPAへ添加)を2回繰り返したが、粉末の着色はなくならず、橙色のままであった。
【0039】
[比較例4]
塩化スルフリルに替えて塩化チオニル1.6g(14mmol、使用するHPSのDC基に対し2.4当量)を使用した以外は実施例3と同様に操作したところ、HPS/クロロホルム溶液を添加後およそ1時間で淡黄色の不溶物が析出した。この不溶物は反応液の還流温度(およそ61℃)まで加熱しても溶解せず、目的とするHPS−Clは得られなかった。
【0040】
[比較例5]
塩化スルフリルに替えて塩化チオニル2.4g(20mmol、使用するHPSのDC基に対し3.6当量)を使用した以外は実施例3と同様に操作したところ、HPS/クロロホルム溶液を添加後およそ1時間で淡黄色の不溶物が析出した。この不溶物は反応液の還流温度(およそ61℃)まで加熱しても溶解せず、目的とするHPS−Clは得られなかった。
【0041】
[実施例9]
20Lの反応容器に、塩化スルフリル[キシダ化学(株)製]1.28kg(9.50mol、後述のHPSのDC基に対して3.6当量)及びクロロホルム2.35kgを仕込み、撹拌して均一に溶解させた。この溶液を窒素気流下0℃まで冷却した。
別の10Lの反応容器に、DC基を分子末端に有するハイパーブランチポリマーHPS700g(DC基として2.64mol)及びクロロホルム7.00kgを仕込み、窒素気流下均一になるまで撹拌した。この溶液を、前記20Lの反応容器に備え付けた3Lの分液ロートに、窒素気流下ポンプで転送した。
前述の0℃に冷却されている塩化スルフリル/クロロホルム溶液中に、窒素気流下、前記3Lの分液ロートに転送したHPS/クロロホルム溶液を、反応液の温度が−5±5℃となるように60分間かけて加えた。添加終了後、反応液の温度を−5±5℃に保持しながら6時間撹拌した。
さらにこの反応液へ、シクロヘキセン[東京化成工業(株)製]0.78kg(9.50mol、塩化スルフリルに対し1.0当量)をクロロホルム2.35kgに溶かした溶液を、反応液の温度が−5±5℃となるように加えた。添加後、この反応液をIPA46.7kgに添加してポリマーを沈殿させた。この沈殿をろ取して得られた白色粉末を、IPA5.25kgで洗浄し、40℃で真空乾燥して、塩素原子を分子末端に有するハイパーブランチポリマー(HPS−Cl)399gを白色粉末として得た(収率99%)。
得られたHPS−ClのGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは14,000、分散度Mw/Mnは2.5であった。
【0042】
上記実施例1乃至実施例9及び比較例1乃至比較例5の結果を下記表1にまとめて示す。
【表1】
【0043】
実施例1及び実施例2並びに比較例1及び比較例2の結果から、使用する塩化スルフリルの量がDC基に対して2.4当量以下の場合(比較例1及び比較例2)では不溶化して目的とするHPS−Clは得られず、少なくとも2.5当量以上の塩化スルフリルが必要であることが確認された。
【0044】
また、実施例3及び比較例3の結果より、HPS/クロロホルム溶液中に塩化スルフリル/クロロホルム溶液を投入する方法では、系が不溶化して目的とするHPS−Clは得られず、塩化スルフリル/クロロホルム溶液中にHPS/クロロホルム溶液を投入する方法により所望のHPS−Clを得ることができる点が確認された。
【0045】
さらに実施例4乃至実施例8の結果より反応温度を−15℃から61℃に変化させても、目的とするHPS−Clの粉末を得られること、特に−15℃から35℃の反応温度では目的物を白色粉末の形態にて得られることが確認された。
なお実施例9に示すように、本製造方法によれば、工業スケールの大規模生産であっても、安定的に目的物のHPS−Clを得ることができた。
【0046】
そして比較例4及び比較例5の結果より、塩化スルフリルに替えて塩化チオニルを用いた場合には、不溶化して目的とするHPS−Clは得られないことが確認された。