特許第5872545号(P5872545)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5872545
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】熱伝導性組成物及び熱伝導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/14 20060101AFI20160216BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20160216BHJP
   C08K 7/18 20060101ALI20160216BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20160216BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20160216BHJP
   C08K 5/36 20060101ALI20160216BHJP
   C09J 9/00 20060101ALI20160216BHJP
【FI】
   C09K5/14 E
   C08K3/08
   C08K7/18
   C08K5/098
   C08K5/17
   C08K5/36
   C09J9/00
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-507784(P2013-507784)
(86)(22)【出願日】2012年3月30日
(86)【国際出願番号】JP2012058583
(87)【国際公開番号】WO2012133767
(87)【国際公開日】20121004
【審査請求日】2014年11月14日
(31)【優先権主張番号】特願2011-79043(P2011-79043)
(32)【優先日】2011年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(74)【代理人】
【識別番号】100078662
【弁理士】
【氏名又は名称】津国 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100135873
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 圭子
(74)【代理人】
【識別番号】100146031
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 明夫
(74)【代理人】
【識別番号】100125106
【弁理士】
【氏名又は名称】石岡 隆
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亜由子
【審査官】 馬籠 朋広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−037145(JP,A)
【文献】 特開平11−150135(JP,A)
【文献】 特開2005−197021(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/098938(WO,A1)
【文献】 特開2006−183072(JP,A)
【文献】 特開2011−040493(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00
C08K 3/08
C08K 5/098
C08K 5/17
C08L 101/00
C09J 9/00
C09J 11/04
C09J 11/06
C09J 201/00
C09K 5/00
C09K 5/08
C09K 5/14
B22F 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)銀粉、(B)銀微粒子、(C)脂肪酸銀、及び(D)アミンを含み、
前記(A)銀粉は、平均粒径が0.3μm〜100μmであり、
前記(B)銀微粒子は、
1次粒子の平均粒子径が50〜150nmであり、
結晶子径が20〜50nmであり、かつ、
結晶子径に対する平均粒子径の比が1〜7.5であり、
さらに、(E)銀レジネートを含む、
熱伝導性組成物。
【請求項2】
さらに、(F)樹脂を含有する請求項1に記載の熱伝導性組成物。
【請求項3】
前記(C)脂肪酸銀は、酢酸銀である、請求項1または請求項2に記載の熱伝導性組成物。
【請求項4】
前記(D)アミンは、メトキシプロピルアミンまたはジアミノシクロヘキサンである、請求項1から請求項3のうちいずれか1項に記載の熱伝導性組成物。
【請求項5】
前記(E)銀レジネートは、以下の式(1)で表される化合物である、請求項1から請求項4のうちいずれか1項に記載の熱伝導性組成物。
R−S−Ag …(1)
(上式(1)において、Agは銀原子を表しており、Sは硫黄原子を表しており、Rはアルキル基を表している。)
【請求項6】
前記(E)銀レジネートは、t−ドデシルメルカプタンと酢酸銀との反応物である、請求項5に記載の熱伝導性組成物。
【請求項7】
請求項1から請求項6のうちいずれか1項に記載の熱伝導性組成物を、100〜400℃の温度範囲で加熱処理する工程を含む、熱伝導体の製造方法
【請求項8】
請求項1から請求項6のうちいずれか1項に記載の熱伝導性組成物を含む接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性組成物及びそれを加熱処理して得られる熱伝導体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体チップをリードフレーム等の金属板に接着・固定(ダイボンディング)するために、銀粉末、熱硬化性樹脂、及び溶剤を含む銀ペーストが用いられている。この銀ペーストを用いてチップを接着・固定した場合には、銀は高い熱伝導率を有しているために、チップで発生した熱を速やかにリードフレームに逃がすことができる。また、樹脂の硬化温度が比較的低いために、チップの接着・固定の際に、チップが熱によって劣化を起こしにくい。また、銀ペーストに含まれる銀や樹脂は、金などに比べて安価である。さらには、銀ペーストに含まれる粘度調製剤(溶剤)の添加量を調整することによって、銀ペーストの粘度やチクソトロピーを制御できる。銀ペーストは、取り扱いが容易であるため、印刷による塗布や、注入、滴下等により、接着面へ選択的にかつ一定量付与することができる。このため、銀ペーストは、チップの接着・固定に多く用いられている。
【0003】
このような銀ペーストとして、特許文献1には、銀粉、熱硬化性樹脂および溶剤を含有する導電性ペーストに、銀粉よりも小さい球状の銀微粒子を混在させてなる銀ペーストが開示されている。特許文献2には、銀粉、熱硬化性樹脂、及びスルフィド結合と水酸基を有する化合物を含む熱伝導性樹脂組成物が開示されている。特許文献3には、高級脂肪酸または高級脂肪酸の誘導体で被覆された銀粒子を加熱処理して得られる電子回路接続用バンプの製造方法が開示されている。特許文献4には、銀イオンを還元して得られる銀微粒子と、接着剤成分としての熱硬化性樹脂とを含む、熱伝導性に優れる接着ペーストが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−150135号公報
【特許文献2】特開2009−191214号公報
【特許文献3】特開2009−289745号公報
【特許文献4】特開2003−183616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、半導体チップを用いた電子部品の高性能化により、チップからの発熱量が増加しており、チップをリードフレームに接着・固定するための銀ペーストには、高い熱伝導率を有することがより強く要求されている。
【0006】
そこで、本発明は、高い熱伝導率を有する熱伝導体を得ることのできる熱伝導性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するために研究を行った。
その結果、本発明者らは、銀粉と、銀微粒子と、脂肪酸銀と、アミンとを含有する熱伝導性組成物を用いることによって、従来の銀粉及び銀微粒子を含む銀ペーストよりも、高い熱伝導率を有する熱伝導体が得られることを発見した。
本発明は、このような新規な発見に基づいて完成されたものである。
【0008】
本発明は、(A)銀粉と、(B)銀微粒子と、(C)脂肪酸銀と、(D)アミンとを含有することを特徴とする熱伝導性組成物である。
【0009】
前記(A)銀粉は、平均粒径が0.3μm〜100μmであることが好ましい。
【0010】
前記(B)銀微粒子は、
1次粒子の平均粒子径が50〜150nmであり、
結晶子径が20〜50nmであり、かつ、
結晶子径に対する平均粒子径の比が1〜7.5であることが好ましい。
【0011】
前記(B)銀微粒子は、カルボン酸の銀塩と脂肪族第一級アミンとを混合し、次いで還元剤を添加して、反応温度20〜80℃で銀微粒子を析出させることにより製造されたものであることが好ましい。
【0012】
本発明の熱伝導性組成物は、さらに、(E)銀レジネートを含有することが好ましい。
【0013】
本発明の熱伝導性組成物は、さらに、(F)樹脂を含有することが好ましい。
【0014】
本発明は、上記いずれかの熱伝導性組成物を100〜400℃の温度範囲で加熱処理して得られる熱伝導体を提供する。
【0015】
本発明は、上記いずれかの熱伝導性組成物を含む接着剤を提供する。
本発明は、上記の熱伝導体を含む電子部品を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高い熱伝導率を有する熱伝導体を得ることのできる熱伝導性組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1〜3の熱伝導性組成物より得られた熱伝導体膜の断面の電子顕微鏡写真を示している。
図2】比較例1〜3の熱伝導性組成物より得られた熱伝導体膜の断面の電子顕微鏡写真を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
本発明の実施形態に係る熱伝導性組成物は、(A)銀粉、(B)銀微粒子、(C)脂肪酸銀、及び(D)アミンを含有することを特徴とする。
【0019】
(A)銀粉
本発明における銀粉としては、純銀または銀合金からなる粉末を用いることができる。銀粉の形状は、特に限定されず、例えば、球状、粒状、あるいはフレーク状(鱗片状)の銀粉を用いることが可能である。
【0020】
本発明において用いる銀粉の平均粒径は、0.3μm〜100μmが好ましく、より好ましくは1μm〜50μmであり、最も好ましくは2.4μm〜16μmである。ここでいう平均粒径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により得られる一次粒子の平均粒径(D50)のことを意味する。
【0021】
熱伝導体の熱伝導率を高くするためには、熱伝導性組成物に含まれる銀粉の粒径を大きくするのが好ましい。しかし、銀粉の粒径が大きすぎる場合、熱伝導性組成物のデバイスへの塗布特性や作業性が損なわれることになる。したがって、デバイスへの塗布特性や作業性が損なわれない限りにおいて、粒径の大きい銀粉を用いることが好ましい。これらのことを考慮すると、本発明において用いる銀粉の平均粒径は、上記の範囲であることが好ましい。
【0022】
また、充填密度(タップ密度)が高い銀粉を用いることによって、銀粉同士の接触点あるいは接触面を増やすことができる。その結果、銀粉同士の熱伝導点あるいは熱伝導面を増やすことができる。銀粉の充填密度をより高くするためには、粒度分布及び/又は形状の異なる複数種の銀粉を混合して用いることが好ましい。
【0023】
本発明の熱伝導性組成物は、銀粉同士の熱伝導点における金属融着を促進するための添加剤を含んでいる。このような添加剤を含むことによって、熱伝導性組成物を加熱して得られる熱伝導体の内部に、より大きな熱伝導パスが形成される。本発明では、このような添加剤として、後述の(C)脂肪酸銀、及び、(D)アミンを用いている。
【0024】
銀粉の製造方法は、特に限定されない。銀粉は、例えば、還元法、粉砕法、電解法、アトマイズ法、熱処理法、あるいはそれらの組合せによって製造することができる。フレーク状の銀粉は、例えば、球状または粒状の銀粒子を、ボールミル等によって押し潰すことによって製造することができる。
【0025】
(B)銀微粒子
本発明における銀微粒子は、例えば、上記した銀粉よりも相対的に小さい平均粒径を有する、純銀あるいは銀合金からなる粒子である。
【0026】
本発明の銀微粒子は、1次粒子の平均粒径が40〜150nmであり、好ましくは50〜150nmであり、より好ましくは70〜140nmである。銀微粒子の平均粒径がこの範囲であると、銀微粒子の凝集が抑制され、銀ペーストの保存安定性が良好になる。なお、ここでいう平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)で粒子を観察して画像解析により求めたヘイウッド径の平均値のことを意味する。
【0027】
本発明において用いる銀微粒子は、結晶子径が15〜50nmであり、好ましくは20〜50nmである。結晶子径がこの範囲であると、熱伝導性組成物を加熱処理した時の体積収縮が抑制されるとともに、加熱処理後に形成される熱伝導体の緻密性や表面平滑性が向上する。なお、この結晶子径は、CuのKα線を線源とした粉末X線回折法による測定から、面指数(1,1,1)面ピークの半値幅を求め、Scherrerの式より計算した値のことを意味する。
【0028】
本発明において用いる銀微粒子は、1次銀微粒子の結晶子径に対する平均粒子径の比(平均粒子径/結晶子径)が1〜10であり、好ましくは1〜7.5であり、より好ましくは1〜5の範囲である。
【0029】
本発明において用いる銀微粒子は、カルボン酸の銀塩と脂肪族第一級アミンとを混合し、次いで還元剤を添加して、反応温度20〜80℃で銀微粒子を析出させることにより製造することができる。
【0030】
はじめに、カルボン酸の銀塩と脂肪族第一級アミンとを混合して、カルボン酸の銀塩を溶解させた溶液を得る。溶液中では、カルボン酸の銀塩に脂肪族第一級アミンが配位し、一種のアミン錯体を形成していると考えられる。
【0031】
カルボン酸の銀塩は、脂肪族、芳香族いずれのカルボン酸の銀塩であってもよい。また、カルボン酸の銀塩は、モノカルボン酸の銀塩であっても、ジカルボン酸等のポリカルボン酸の銀塩であってもよい。脂肪族カルボン酸の銀塩は、鎖状脂肪族カルボン酸の銀塩であっても、環状脂肪族カルボン酸の銀塩であってもよい。脂肪族カルボン酸の銀塩は、好ましくは鎖状脂肪族モノカルボン酸の銀塩であり、より好ましくは、酢酸銀、プロピオン酸銀又は酪酸銀であり、特に好ましくは、酢酸銀である。これらは、1種類のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
脂肪族第一級アミンは、鎖状脂肪族第一級アミンであっても、環状脂肪族第一級アミンであってもよい。また、モノアミン化合物であっても、ジアミン化合物等のポリアミン化合物であってもよい。脂肪族第一級アミンには、脂肪族炭化水素基の水素原子が、ヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基で置換されたものであってもよい。脂肪族第一級アミンは、より好ましくは、3−メトキシプロピルアミン、3−アミノプロパノール、又は1,2−ジアミノシクロヘキサンである。これらは、1種類のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
脂肪族第一級アミンの使用量は、カルボン酸の銀塩1当量に対して、1当量以上であることが好ましい。脂肪族第一級アミンの使用量は、カルボン酸の銀塩1当量に対して、1.0〜3.0当量であることが好ましく、より好ましくは1.0〜2.0当量であり、特に好ましくは1.2〜1.8当量である。
【0034】
カルボン酸の銀塩と脂肪族第一級アミンとの混合は、有機溶媒の非存在下又は存在下で行うことができる。有機溶媒の使用により、混合を容易にすることができる。有機溶媒の例としては、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、プロピレングリコールジブチルエーテル等のエーテル類、トルエン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。これらの有機溶媒は、1種類のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。有機溶媒の使用量は任意であり、混合のしやすさ、後の工程での銀微粒子の生産性等を考慮して決定することができる。
【0035】
カルボン酸塩の銀塩と脂肪族第一級アミンとを混合するためには、例えば、第一級脂肪族アミン、又は第一級脂肪族アミンと有機溶媒の混合物を攪拌しながら、カルボン酸の銀塩をこれに添加する。添加終了後も、適宜、攪拌を続けることができる。その間、温度を、20〜80℃に維持することが好ましく、20〜60℃に維持することがより好ましい。
【0036】
その後、カルボン酸の銀塩と脂肪族第一級アミンとの混合物に還元剤を添加して、銀微粒子を析出させる。還元剤は、反応の制御の点から、ギ酸、ホルムアルデヒド、アスコルビン酸又はヒドラジンが好ましく、より好ましくは、ギ酸である。これらは1種類のみをしてもよく、2種以上を併用してもよい。還元剤の使用量は、カルボン酸の銀塩に対して酸化還元当量以上であることが好ましく、より好ましくは酸化還元当量の1〜3倍である。
【0037】
還元剤の添加及びその後の反応の間は、温度を20℃〜80℃に維持する。温度は、20〜70℃が好ましく、20〜60℃がより好ましい。温度がこの範囲にあると、銀微粒子が十分に成長するとともに、生産性が高くなり、銀微粒子の二次凝集も抑制される。還元剤の添加及びその後の反応に要する時間は、反応装置の規模にも依存するが、通常、10分〜10時間である。なお、還元剤の添加及びその後の反応に際して、必要に応じて、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、プロピレングリコールジブチルエーテル等のエーテル類、トルエン等の芳香族炭化水素等の有機溶媒を追加で添加することができる。
【0038】
還元剤の添加及びその後の反応においては、カルボン酸の銀塩と脂肪族第一級アミンとを混合した溶液と、還元剤と、有機溶媒との合計の容積(L)に対する、カルボン酸の銀塩の量(mol)は、1.0〜6.0mol/Lであることが好ましく、2.0〜5.0mol/Lであることがより好ましく、2.0〜4.0mol/Lであることがさらに好ましい。カルボン酸の銀塩の濃度がこの範囲にある場合、反応液の攪拌を十分に行うことが可能であり、反応熱を除去することができる。その結果、析出する銀微粒子の平均粒径が適切となるため、後の工程で行われる沈降デカント、溶媒置換等の操作に支障が生じることを防止することができる。
【0039】
カルボン酸の銀塩と脂肪族第一級アミンとを混合した溶液と、任意の有機溶媒とを反応容器に入れた後、この反応容器に還元剤を連続的に供給する。このようなセミバッチ方式で反応を行った場合、還元剤の添加開始から反応終了までの1時間当たりの銀微粒子の析出量は、例えば0.3〜1.0mol/h/Lとなる。したがって、セミバッチ方式で反応を行った場合、銀微粒子の生産性は非常に大きくなる。ここでいう銀微粒子の析出量は、カルボン酸の銀塩と脂肪族第一級アミンとを混合した溶液と、還元剤と、有機溶媒の合計の容積1Lに対する、銀微粒子の析出量を意味する。連続反応方式(連続式完全混合糟、流通式)で反応を行った場合、銀微粒子の生産性はさらに大きくなる。
【0040】
上記の反応により析出した銀微粒子を沈降させた後、デカンテーション等により上澄みを除去するか、又は、アルコール等の溶媒、例えば、メタノール、エタノール、テルピネオール等を添加する。これにより、反応液から銀微粒子を分離することができる。
【0041】
なお、上記で説明した銀微粒子の製造方法自体は公知であり、例えば特開2006−183072号公報に開示されている。
【0042】
(C)脂肪酸銀
本発明における脂肪酸銀としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、アクリル酸、オレイン酸、リノール酸、アラキドン酸などの銀塩を用いることができる。この中では、酢酸の銀塩を用いることが最も好ましい。
また、(C)脂肪酸銀として、上記(B)銀微粒子の原料であるカルボン酸の銀塩を用いることもできる。
【0043】
(D)アミン
本発明におけるアミンとしては、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミンのいずれであっても用いることができる。アミンの例としては、脂肪族アミン、芳香族アミン、変性ポリアミン(例えば、ポリアミノアミド、ポリアミノイミド、ポリアミノエステル、ポリアミノ尿素、ポリエーテル変性アミンなど)、第三級アミン化合物、イミダゾール化合物(例えば、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル −5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2,2−ジアミノ−6−[2'−メチルイミダゾリル−(1')]−エチル−s−トリアジンなど)、ヒドラジド化合物、ジシアンアミド化合物、メラミン化合物などが挙げられる。
また、(D)アミンとして、上記(B)銀微粒子の原料である脂肪族第1級アミンを用いることもできる。
【0044】
(E)銀レジネート
本発明の熱伝導性組成物は、さらに、(E)銀レジネートを含有することが好ましい。
本発明において用いる銀レジネートは、以下の式(1)で表される化合物である。
R−S−Ag …(1)
【0045】
上式(1)において、Agは銀原子を表しており、Sは硫黄原子を表しており、Rはアルキル基を表している。Rで表されるアルキル基の炭素数に特に制限はなく、炭素数は任意である。また、アルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。また、アルキル基は、飽和炭化水素から1個の水素を取り除いたアルキル基であってもよいし、不飽和炭化水素から1個の水素を取り除いたアルキル基であってもよい。また、アルキル基は、連続する炭素原子同士の間が酸素原子によって分断されていてもよい。また、アルキル基の水素原子の一部が、ヒドロキシル基等の他の官能基によって置換されていてもよい。
【0046】
上式(1)で表される銀レジネートは、カルボン酸の銀塩とメルカプタンとの反応物であることが好ましく、カルボン酸の銀塩とt−ドデシルメルカプタンとの反応物であることがより好ましい。
【0047】
カルボン酸の銀塩は、脂肪族、芳香族いずれのカルボン酸の銀塩であってもよい。また、カルボン酸の銀塩は、モノカルボン酸の銀塩であっても、ジカルボン酸等のポリカルボン酸の銀塩であってもよい。また、カルボン酸の銀塩は、鎖状脂肪族カルボン酸の銀塩であってもよく、環状脂肪族カルボン酸の銀塩であってもよい。カルボン酸の銀塩は、好ましくは、酢酸銀、プロピオン酸銀、又は酪酸銀であり、特に好ましくは、酢酸銀である。これらは、1種類のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0048】
メルカプタン(チオール)は、分子中に1個以上のメルカプト基(−SH)を有する化合物である。メルカプタンは、好ましくは、ベンジルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンであり、より好ましくは、t−ドデシルメルカプタンである。これらは、1種類のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0049】
上記したカルボン酸の銀塩とメルカプタンとを攪拌しながら混合することによって、銀レジネートを製造することができる。カルボン酸の銀塩とメルカプタンとの混合は、有機溶媒の非存在下又は存在下で行うことができる。有機溶媒の使用により、混合を容易にすることができる。有機溶媒の例としては、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、プロピレングリコールジブチルエーテル等のエーテル類、シクロヘキサン等の環状炭化水素、トルエン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。これらの有機溶媒は、1種類のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0050】
(F)樹脂
本発明の熱伝導性組成物は、さらに、(F)樹脂を含有することができる。
本発明において用いる樹脂は、熱硬化性樹脂であってもよく、熱可塑性樹脂であってもよい。
熱硬化性樹脂は、特に制限するものではなく、加熱により硬化する樹脂であればよい。熱硬化性樹脂の例としては、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ビニルエステル樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリイミド樹脂等を挙げることができる。
熱可塑性樹脂は、特に制限するものではなく、加熱により軟化する樹脂であればよい。熱可塑性樹脂の例としては、エチルセルロース、ニトロセルロース等のセルロース系樹脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ブチラール樹脂、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース等を挙げることができる。
これらの樹脂は、1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0051】
(G)溶剤
本発明の熱伝導性組成物は、粘度調整等のために、さらに、(G)溶剤を含有することができる。
溶剤は、当該分野において公知のものを使用することができる。溶剤の例として、メタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジヒドロターピネオール等のアルコール系溶剤;トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、アミルベンゼン、p−シメン、テトラリン及び石油系芳香族炭化水素混合物等の芳香族炭化水素系溶剤;テルピネオール、リナロール、ゲラニオール、シトロネロール等のテルペンアルコール;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコ−ルモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテルアルコール系溶剤;メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;並びにエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤、水等が挙げられる。これらの溶剤は、1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0052】
(H)その他
さらに、本発明の熱伝導性組成物は、以下の物質のいずれか1種以上を含んでもよい。
・無機充填剤(例えば、ヒュームドシリカ、炭酸カルシウム、タルクなど)
・カップリング剤(例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネートなどのチタネートカップリング剤など)
・シランモノマー(例えば、トリス(3−(トリメトキシシリル)プロピル)イソシアヌレート)
・可塑剤(例えば、カルボキシル基末端ポリブタジエン‐アクリロニトリルなどのコポリマー、シリコーンゴム、シリコーンゴムパウダー、シリコーンレジンパウダー、アクリル樹脂パウダーなどの樹脂パウダー)
・難燃剤
・酸化防止剤
・消泡剤
【0053】
上記(A)銀粉、(B)銀微粒子、(C)脂肪酸銀、及び(D)アミンを加えて混合することによって、本発明の熱伝導性組成物を調製することができる。
また、上記(E)銀レジネート、(F)樹脂、(G)溶剤、及び(H)その他の成分から選択された1種以上を任意成分としてさらに加えて混合することによって、本発明の熱伝導性組成物を調製することができる。
なお、上記(A)〜(H)成分を加える順番は任意であり、上記(A)〜(H)成分を同時に加えて混合してもよいし、上記(A)〜(H)成分を順番に加えて混合してもよい。
【0054】
次に、上記のようにして得られた熱伝導性組成物を用いて基板上に熱伝導体を形成する方法について説明する。
【0055】
上記(A)〜(D)成分、及び、必要に応じて(E)〜(H)成分を混合してペースト状の熱伝導性組成物を調製する。この調製した熱伝導性組成物を、基板上に塗布する。塗布方法は任意であり、例えば、ディスペンス、ジェットディスペンス、孔版印刷、スクリーン印刷、ピン転写、スタンピングなどの方法によって塗布することができる。
【0056】
基板上にペースト状の熱伝導性組成物を塗布した後、この熱伝導性組成物を100〜400℃、より好ましくは150〜350℃、さらに好ましくは200〜300℃の温度範囲で加熱処理する。これにより、基板上に、熱伝導体からなる膜を形成することができる。
【0057】
このようにして得られた熱伝導体膜は、熱伝導率が非常に高いという特性を有している。その理由は明らかではないが、(C)脂肪酸銀、及び、(D)アミンの2つの成分がある種の錯体を形成し、この錯体が銀粉及び銀微粒子同士を互いに接近させることによって、加熱処理の際に銀粉及び銀微粒子同士の融着を促進していると考えられる。
【0058】
本発明の熱伝導性組成物は、各種電子部品の導電回路の形成、例えば、プリント基板における回路パターンの形成に用いることができる。
また、本発明の熱伝導性組成物は、半導体チップをリードフレームに接着・固定するための接着剤(ダイボンディング剤)として用いることができる。
本発明の熱伝導性組成物を加熱して得られる熱伝導体は、熱伝導率が非常に高い。本発明の熱伝導性組成物を用いることによって、例えばチップで発生した熱を容易に逃がすことのできる放熱性の高い電子部品を製造することができる。
【0059】
また、本発明の熱伝導性組成物は、チップの接着・固定以外にも、例えば、コンデンサ、抵抗、ダイオード、メモリ、演算素子(CPU)等の基板への接着・固定に用いることができる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0061】
(A)銀粉
銀粉は、以下の2種類(A1及びA2)の銀フレークを、1:1の割合で混合したものを使用した。
(A1)
組成「銀」、形状「球状」、粒度分布「D50:1.4μm、D10:0.7μm、D90:4.1μm」、タップ密度「5.1g/ml」
(A2)
組成「銀」、形状「フレーク状」、粒度分布「D50:4.2μm、D10:1.9μm、D90:7.9μm」、タップ密度「5.2g/ml」
【0062】
(B)銀微粒子
銀微粒子は、以下の方法で調製した。
まず、10Lのガラス製反応容器に、3−メトキシプロピルアミン4.0kg(45.0mol)を入れた。この3−メトキシプロピルアミンに、反応温度を45℃以下に維持しつつ、酢酸銀5.0kg(30.0mol)を攪拌しながら添加した。酢酸銀を添加した直後において、酢酸銀は透明な溶液であり、3−メトキシプロピルアミンに溶解した。酢酸銀をさらに添加すると、酢酸銀は次第に濁り始めた。酢酸銀を全量添加すると、酢酸銀は濁った灰色の、粘性のある溶液となった。その溶液に、95重量%のギ酸0.7kg(15.0mol)をゆっくり滴下した。ギ酸を滴下した直後、溶液は激しく発熱した。その間、反応温度を30〜45℃に維持した。濁った灰色の、粘性のある溶液は、茶色へ変化し、さらに黒色へ変化した。ギ酸を全量滴下した後、反応が終了した。反応によって得られた混合物を40℃で静置すると、その混合物は二層に分離した。上層は、黄色の透明な液体であった。下層は、沈殿した黒色の銀微粒子であった。上層の液体には、銀が含まれていなかった。上層の液体を、デカンテーションで除去した。メタノールを使用した分離によって、銀含有率90重量%の真球状の銀微粒子を得た。
【0063】
得られた銀微粒子は、平均粒子径130nm、結晶子径40nm、平均粒子径/結晶子径=3.25であった。平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して画像解析により求めたヘイウッド径の平均値である。結晶子径は、マックサイエンス社製X線回折測定装置(M18XHF22)で測定した値であり、CuのKα線を線源とした粉末X線回折法による測定から、面指数(1,1,1)面ピークの半値幅を求め、Scherrerの式より計算した値である。
【0064】
(C)脂肪酸銀
脂肪酸銀は、酢酸銀を用いた。
【0065】
(D)アミン
アミンは、以下の2種類のアミンを用いた。
(D1)メトキシプロピルアミン
(D2)ジアミノシクロヘキサン
【0066】
(E)銀レジネート
銀レジネートは、t−ドデシルメルカプタンと酢酸銀との反応物を用いた。
【0067】
(F)樹脂
樹脂は、ポリエステル粉末を用いた。
【0068】
(G)溶剤
溶剤は、以下の2種類(G1〜G2)の溶剤を用いた。
(G1)メタノール
(G2)ノルマルパラフィン混合物(炭素数C14〜C16の混合物)
【0069】
上記(A)〜(G)成分を、以下の表1に示す割合で混合した。これにより、実施例1〜3、及び、比較例1〜3の熱伝導性組成物を調製した。なお、表1に示す各成分の配合割合は、全て重量%で示している。
【0070】
【表1】
【0071】
実施例1〜3及び比較例1〜3の熱伝導性組成物からなる銀ペーストを、孔版印刷法によって、それぞれテフロン(登録商標)製の基板に塗布した。つぎに、基板を、200℃で、30分間、加熱処理した。加熱処理後、塗膜を、テフロン(登録商標)製の基板から剥がし取った。これにより、厚み300μmの熱伝導体からなる膜を得た。熱伝導体からなる膜の熱伝導率を、レーザーフラッシュ法でそれぞれ測定した。測定結果を、上記の表1に示す。
【0072】
なお、レーザーフラッシュ法とは、熱拡散率を測定する方法であり、サンプル裏面にキセノンフラッシュ光をパルス状に照射し、サンプル表面への熱の伝わり方を赤外線検出器で測定する方法である。熱伝導率は、熱拡散率×比熱×密度で算出することができる。
【0073】
表1に示す結果から分かる通り、実施例1〜3の熱伝導性組成物を加熱処理して得られた熱伝導体は、熱伝導率が45.0[W/mK]以上であり、高い熱伝導率を有していた。
この結果より、(A)銀粉、(B)銀微粒子、(C)脂肪酸銀、及び(D)アミンを含有する熱伝導性組成物は、(A)銀粉のみ、あるいは、(A)銀粉及び(B)銀微粒子のみを含有する熱伝導性組成物よりも、高い熱伝導率を有する熱伝導体が得られることが実証された。
【0074】
実施例1と実施例3の結果を比較すれば分かる通り、(E)銀レジネートを含む熱伝導性組成物は、(E)銀レジネートを含まない熱伝導性組成物よりも、高い熱伝導率を有する熱伝導体が得られることが分かった。
【0075】
実施例3と比較例2の結果を比較すれば分かる通り、(A)銀粉、(B)銀微粒子、(C)脂肪酸銀、(D)アミン、及び(E)銀レジネートを含有する熱伝導性組成物は、(A)銀粉、(B)銀微粒子、及び(E)銀レジネートのみを含有する熱伝導性組成物よりも、高い熱伝導率を有する熱伝導体が得られることが分かった。
【0076】
図1は、実施例1〜3の熱伝導性組成物を加熱して得られた熱伝導体膜の断面の電子顕微鏡写真を示している。図2は、比較例1〜3の熱伝導性組成物を加熱して得られた熱伝導体膜の断面の電子顕微鏡写真を示している。
図1及び図2を比較すれば分かる通り、実施例1〜3の熱伝導性組成物を加熱して得られた熱伝導体膜は、銀粉及び銀微粒子同士が互いに融着することで大きな熱伝導パスを形成しており、高い熱伝導率を有していた。これに対し、比較例1〜3の熱伝導性組成物を加熱して得られた熱伝導体膜は、銀粉及び銀微粒子同士があまり融着しておらず、高い熱伝導率を有していなかった。
図1
図2