(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記TiN単位膜を形成する工程で形成された前記TiN単位膜に存在する引張ストレスを、前記プラズマ窒化処理を施す工程の際に緩和することにより、ストレスが低減されたTiN膜を得ることを特徴とする請求項1に記載のTiN膜の成膜方法。
前記TiN単位膜を形成する工程と、前記プラズマ窒化処理を施す工程との繰り返し回数を、前記成膜しようとするTiN膜の膜厚に応じて設定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のTiN膜の成膜方法。
成膜されるTiN膜の厚さが10〜40nmであり、前記TiN単位膜を形成する工程と、前記プラズマ窒化処理を施す工程との繰り返し回数が3〜10回であることを特徴とする請求項3に記載のTiN膜の成膜方法。
前記TiN単位膜を形成する工程と、前記プラズマ窒化処理を施す工程とは、325〜450℃の範囲の温度で行われることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のTiN膜の成膜方法。
前記プラズマ窒化処理を施す工程において、処理時間またはプラズマを生成するための高周波パワーを調整することによりTiN膜のストレスを調整することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のTiN膜の成膜方法。
1回目の前記TiN単位膜を形成する工程および前記プラズマ窒化処理を施す工程において、膜のストレスが低減されるように条件設定することを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のTiN膜の成膜方法。
1回目および2回目の前記TiN単位膜を形成する工程および前記プラズマ窒化処理を施す工程において、膜のストレスが低減されるように条件設定することを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のTiN膜の成膜方法。
コンピュータ上で動作し、成膜装置を制御するためのプログラムが記憶された記憶媒体であって、前記プログラムは、実行時に、請求項1から請求項10のいずれかのTiN膜の成膜方法が行われるように、コンピュータに前記成膜装置を制御させることを特徴とする記憶媒体。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明する。
図1は本発明の一実施形態に係るTiN膜の成膜方法の実施に用いる成膜装置の一例を示す概略断面図である。
【0019】
なお、以下の説明において、ガスの流量の単位はmL/minを用いているが、ガスは温度および気圧により体積が大きく変化するため、本発明では標準状態に換算した値を用いている。なお、標準状態に換算した流量は通常sccm(Standard Cubic Centimeter per Minutes)で標記されるためsccmを併記している。ここにおける標準状態は、温度0℃(273.15K)、気圧1atm(101325Pa)の状態である。
【0020】
この成膜装置100は、平行平板電極に高周波電界を形成することによりプラズマを形成しつつCVD法によりTiN膜を成膜するPECVD(Plasma Enhanced CVD)装置として構成され、略円筒状のチャンバ1を有している。チャンバ1の内部には、被処理基板であるウエハWを水平に支持するための載置台(ステージ)として、AlNで構成されたサセプタ2がその中央下部に設けられた円筒状の支持部材3により支持された状態で配置されている。サセプタ2の外縁部にはウエハWをガイドするためのガイドリング4が設けられている。また、サセプタ2にはモリブデン等の高融点金属で構成されたヒーター5が埋め込まれており、このヒーター5はヒーター電源6から給電されることにより被処理基板であるウエハWを所定の温度に加熱する。サセプタ2の表面近傍には平行平板電極の下部電極として機能する電極8が埋設されており、この電極8は接地されている。
【0021】
チャンバ1の天壁1aには、絶縁部材9を介して平行平板電極の上部電極としても機能するプリミックスタイプのシャワーヘッド10が設けられている。シャワーヘッド10は、ベース部材11とシャワープレート12とを有しており、シャワープレート12の外周部は、貼り付き防止用の円環状をなす中間部材13を介してベース部材11に図示しないネジにより固定されている。シャワープレート12はフランジ状をなし、その内部に凹部が形成されており、ベース部材11とシャワープレート12との間にガス拡散空間14が形成されている。ベース部材11はその外周にフランジ部11aが形成されており、このフランジ部11aが絶縁部材9に支持されている。シャワープレート12には複数のガス吐出孔15が形成されており、ベース部材11の中央付近には一つのガス導入孔16が形成されている。
【0022】
そして、上記ガス導入孔16は、ガス供給機構20のガスラインに接続されている。
【0023】
ガス供給機構20は、クリーニングガスであるClF
3ガスを供給するClF
3ガス供給源21、Ti化合物ガスであるTiCl
4ガスを供給するTiCl
4ガス供給源22、Arガスを供給するArガス供給源23、還元ガスであるH
2ガスを供給するH
2ガス供給源24、窒化ガスであるNH
3ガスを供給するNH
3ガス供給源25、N
2ガスを供給するN
2ガス供給源26を有している。そして、ClF
3ガス供給源21にはClF
3ガス供給ライン27および30bが、TiCl
4ガス供給源22にはTiCl
4ガス供給ライン28が、Arガス供給源23にはArガス供給ライン29が、H
2ガス供給源24にはH
2ガス供給ライン30が、NH
3ガス供給源25にはNH
3ガス供給ライン30a、N
2ガス供給源26にはN
2ガス供給ライン30cが、それぞれ接続されている。そして、各ガスラインにはマスフローコントローラ32およびマスフローコントローラ32を挟んで2つのバルブ31が設けられている。
【0024】
TiCl
4ガス供給源22から延びるTiCl
4ガス供給ライン28にはClF
3ガス供給源21から延びるClF
3ガス供給ライン27およびArガス供給源23から延びるArガス供給ライン29が接続されている。また、H
2ガス供給源24から延びるH
2ガス供給ライン30には、NH
3ガス供給源25から延びるNH
3ガス供給ライン30a、N
2ガス供給源26から延びるN
2ガス供給ライン30cおよびClF
3ガス供給源21から延びるClF
3ガス供給ライン30bが接続されている。TiCl
4ガス供給ライン28およびH
2ガス供給ライン30はガス混合部47に接続され、そこで混合された混合ガスがガス配管48を介して上記ガス導入孔16に接続されている。そして、混合ガスは、ガス導入孔16を経てガス拡散空間14に至り、シャワープレート12のガス吐出孔15を通ってチャンバ1内のウエハWに向けて吐出される。
なお、シャワーヘッド10は、TiCl
4ガスとH
2ガスとが全く独立してチャンバ1内に供給されるポストミックスタイプであってもよい。
【0025】
なお、窒化ガスとしては、N
2ガスおよびH
2ガス、あるいは、NH
3ガスを用いることができる。また、Arガスの代わりに他の希ガスを用いることもできる。
【0026】
シャワーヘッド10には、整合器33を介して高周波電源34が接続されており、この高周波電源34からシャワーヘッド10に高周波電力が供給されるようになっている。高周波電源34から高周波電力を供給することにより、シャワーヘッド10を介してチャンバ1内に供給されたガスをプラズマ化して成膜処理を行う。
【0027】
また、シャワーヘッド10のベース部材11には、シャワーヘッド10を加熱するためのヒーター45が設けられている。このヒーター45にはヒーター電源46が接続されており、ヒーター電源46からヒーター45に給電することによりシャワーヘッド10が所望の温度に加熱される。ベース部材11の上部に形成された凹部にはヒーター45による加熱効率を上げるために断熱部材49が設けられている。
【0028】
チャンバ1の底壁1bの中央部には円形の穴35が形成されており、底壁1bにはこの穴35を覆うように下方に向けて突出する排気室36が設けられている。排気室36の側面には排気管37が接続されており、この排気管37には排気装置38が接続されている。そしてこの排気装置38を作動させることによりチャンバ1内を所定の真空度まで減圧することが可能となっている。
【0029】
サセプタ2には、ウエハWを支持して昇降させるための3本(2本のみ図示)のウエハ支持ピン39がサセプタ2の表面に対して突没可能に設けられ、これらウエハ支持ピン39は支持板40に支持されている。そして、ウエハ支持ピン39は、エアシリンダ等の駆動機構41により支持板40を介して昇降される。
【0030】
チャンバ1の側壁には、チャンバ1と隣接して設けられた図示しないウエハ搬送室との間でウエハWの搬入出を行うための搬入出口42と、この搬入出口42を開閉するゲートバルブ43とが設けられている。
【0031】
成膜装置100の構成部であるヒーター電源6および46、バルブ31、マスフローコントローラ32、整合器33、高周波電源34、駆動機構41等は、マイクロプロセッサ(コンピュータ)を備えた制御部50に接続されて制御される構成となっている。また、制御部50には、オペレータが成膜装置100を管理するためにコマンドの入力操作等を行うキーボードや、成膜装置100の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等からなるユーザーインターフェース51が接続されている。さらに、制御部50には、成膜装置100で実行される各種処理を制御部50の制御にて実現するためのプログラムや、処理条件に応じて成膜装置100の各構成部に処理を実行させるためのプログラムすなわち処理レシピが格納された記憶部52が接続されている。処理レシピは記憶部52中の記憶媒体52aに記憶されている。記憶媒体52aはハードディスク等の固定的なものであってもよいし、CDROM、DVD等の可搬性のものであってもよい。また、他の装置から、例えば専用回線を介して処理レシピを適宜伝送させるようにしてもよい。そして、必要に応じて、ユーザーインターフェース51からの指示等にて任意の処理レシピを記憶部52から呼び出して制御部50に実行させることで、制御部50の制御下で、成膜装置100での所望の処理が行われる。
【0032】
次に、以上のような成膜装置100における本実施形態に係るTiN膜の成膜方法について説明する。
【0033】
本実施形態では、被処理基板であるウエハWのエッチング対象膜である層間絶縁膜、例えばポーラスLow−k膜をエッチングするためのメタルハードマスクとしてTiN膜を成膜する。
【0034】
まず、チャンバ1内を排気装置38により真空引き状態とし、Arガス供給源23からArガスをシャワーヘッド10を介してチャンバ1内に導入しつつ、ヒーター5によりチャンバ1内を325〜450℃に予備加熱し、温度が安定した時点で、TiCl
4ガス、N
2ガス、H
2ガス、Arガスをシャワーヘッド10を介して所定流量でチャンバ1内に導入し、チャンバ1内壁、排気室36内壁およびシャワーヘッド10等のチャンバ内部材表面にTiN膜をプリコートする。
【0035】
プリコート処理が終了後、ゲートバルブ43を開にして、ウエハ搬送室から搬送装置により(いずれも図示せず)搬入出口42を介してウエハWをチャンバ1内へ搬入し、サセプタ2に載置する。そして、チャンバ1内にArガスを供給しつつヒーター5によりウエハWを成膜温度に予備加熱する。ウエハの温度がほぼ安定した時点で、TiN膜の成膜を開始する。
【0036】
本実施形態に係るTiN膜の成膜方法においては、Low−k膜のエッチングのためのメタルハードマスクとしてのTiN膜を成膜する。具体的には、
図2に示すように、PECVDによるTiN単位膜の成膜(ステップ1)と、N
2ガスおよびH
2ガスによるプラズマ窒化処理(ステップ2)とを複数回繰り返し、所定の膜厚のTiN膜を成膜する。成膜温度は325〜450℃であることが好ましい。これは、成膜温度が300℃付近では膜が変色して潮解現象が見られ、また450℃を超えると配線工程で配線にダメージが入るためである。
【0037】
ステップ1のPECVDによるTiN単位膜の成膜に際しては、ウエハWを加熱し、かつ高周波電源34から例えば13.56MHzの高周波電力をシャワーヘッド10に印加しつつ、成膜原料であるTiCl
4ガスと、窒化ガスとしてのN
2ガスおよびH
2ガス、さらにArガスを導入してこれらのガスのプラズマを生成し、TiN単位膜を成膜する。
【0038】
ステップ2のプラズマ窒化処理に際しては、ウエハWを加熱し、かつ高周波電源34から例えば13.56MHzの高周波電力をシャワーヘッド10に印加しつつ、N
2ガス、H
2ガスおよびArガスを導入してこれらのガスのプラズマを生成し、プラズマ窒化処理を行い、TiN単位膜の窒化を強化する。窒化ガスとしてはN
2ガスおよびH
2ガスの代わりにNH
3ガスを用いてもよい。
【0039】
ステップ1とステップ2との間は、プラズマを停止し、N
2ガス、H
2ガスおよびArガスを流してチャンバ内をパージする。また、ステップ1とステップ2とではプラズマの状態が異なるので、整合器33の設定(可変コンデンサの設定)を切り換える。あるいは、ステップ1とステップ2との間もプラズマを保持しながら整合器33の設定を調整しても良い。
【0040】
これらステップ1およびステップ2の好ましい条件は以下の通りである。
・温度:325〜450℃
(より好ましくは350〜400℃)
・圧力:13.3〜1330Pa
(より好ましくは133〜800Pa)
・TiCl
4流量:5〜100mL/min(sccm)
(より好ましくは、15〜50mL/min(sccm))
・Ar流量:5〜10000mL/min(sccm)
(より好ましくは、100〜5000mL/min(sccm))
・H
2流量:5〜10000mL/min(sccm)
(より好ましくは、50〜5000mL/min(sccm))
・N
2流量:1〜5000mL/min(sccm)
(より好ましくは、10〜1000mL/min(sccm))
・NH
3流量:1〜10000mL/min(sccm)
(より好ましくは、10〜5000mL/min(sccm))
・高周波パワー:100〜5000W
(より好ましくは、300〜3000W)
・1回の成膜膜厚:0.1〜40nm
(より好ましくは、1〜10nm)
・1回の窒化時間:0.1〜60sec
(より好ましくは、1〜30sec)
【0041】
このように、TiCl
4ガスおよび窒化ガスのプラズマを用いてTiN単位膜を成膜するのでTiとNとの反応性が高まり、400℃以下という低温で成膜した場合においても、強固なTi−N結合を形成することができ、かつ膜中の不純物(Cl等)の濃度を低減することができる。また、TiN単位膜の成膜に引き続いて行われるプラズマ窒化処理により、窒化が強化されるとともに、膜中の不純物(Cl等)の濃度をさらに低減し、かつ膜ストレスを低くすることができる。そして、これらを繰り返して本実施形態により形成されたTiN膜は、Ti−N結合が強固であるため、メタルハードマスクとして必要な高いエッチング耐性が得られ、かつ、TiN単位膜成膜の1回あたりの膜厚や窒化時間、繰り返し回数等を適宜調整することにより、最終的なTiN膜をストレスおよび不純物の少ない極めて良質な膜とすることができ、このようなTiN膜を、エッチング対象としてポーラスLow−k膜のような機械的強度が低いものを用いた場合のメタルハードマスクとすることにより、溝パターンの歪みを解消することができる。具体的には、ストレスの絶対値が5×10
9dyne/cm
2以下、さらには1×10
9dyne/cm
2以下であり、不純物濃度の指標となる比抵抗が150μΩ・cm以下のTiN膜を得ることができる。
【0042】
この際のTiN膜のストレスコントロールのメカニズムについて
図3を参照して説明する。TiN結晶は柱状晶であり、したがって成膜の段階では膜には引張ストレスがかかる。そして、成膜後の窒化処理によって膜中の不純物であるClが徐々に抜けていく過程でストレスの方向が圧縮側となり引張ストレスが緩和され、ストレスの低い膜とすることができる。この際の引張ストレスおよび窒化処理の際の圧縮ストレスは、TiN単位膜の厚さ、窒化時間、高周波(RF)パワー、圧力、処理ガス、サイクル数等の条件により調整することができるから、これらをコントロールすることにより膜のストレスをコントロールすることができる。なお、膜のストレスは、正方向を引張ストレス、負方向を圧縮ストレスとして表すが、「ストレスが低い」とはストレスの絶対値が小さいことをいう。
【0043】
次に、各条件の膜ストレスや不純物濃度に対する影響について説明する。
まず、ステップ1とステップ2の繰り返し回数の影響について説明する。ここでは、以下のコンデションAおよびコンデションBの2つの条件で成膜を行った。また、サイクル数の影響を評価するにあたり、トータルの成膜時間および窒化時間を一定としてターゲット膜厚を一定としている。したがって、この場合のステップ1とステップ2の繰り返し回数が少ないほどTiN単位膜の膜厚が厚くなり、繰り返し回数が多いほどTiN単位膜の膜厚が薄くなる。このような場合の繰り返し回数を以下「TiN膜の分割サイクル数」と記す。
【0044】
[コンデションA]
・ウエハ温度:400℃
・シーケンス(以下の繰り返し)
RF印加→成膜(Dep)→原料ガス供給停止→ガス種変更1→窒化→ガス種変更2
・TiN膜の分割サイクル数:1,3,5,6,9,12,15回
・成膜
圧力:260Pa
TiCl
4流量:31.4mL/min(sccm)
Ar流量:1600mL/min(sccm)
H
2流量:4000mL/min(sccm)
N
2流量:400mL/min(sccm)
RF:1200W
成膜時間:トータル30sec
・窒化
圧力:667Pa
Ar流量:1600mL/min(sccm)
H
2流量:4000mL/min(sccm)
N
2流量:400mL/min(sccm)
RF:1200W
窒化時間:トータル45sec
・ターゲット膜厚:30nm
・TiN膜の分割サイクル数と成膜・窒化時間との関係
1回→ 成膜時間30sec、窒化時間45sec
3回→ 成膜時間10sec、窒化時間15sec
5回→ 成膜時間6sec、窒化時間9sec
6回→ 成膜時間5sec、窒化時間7.5sec
9回→ 成膜時間3.4sec、窒化時間5sec
12回→ 成膜時間2.5sec、窒化時間3.8sec
15回→ 成膜時間2sec、窒化時間3sec
【0045】
コンデションB
・ウエハ温度:350℃
・シーケンス(以下の繰り返し)
RF印加→成膜(Dep)→ガス種変更1→窒化→ガス種変更2
・TiN膜の分割サイクル数:9,10回
・成膜
圧力:260Pa
TiCl
4流量:38mL/min(sccm)
Ar流量:1600mL/min(sccm)
H
2流量:1600mL/min(sccm)
N
2流量:400mL/min(sccm)
RF:1350W
成膜時間:トータル28sec
・窒化
圧力:260Pa
Ar流量:1600mL/min(sccm)
H
2流量:4000mL/min(sccm)
N
2流量:400mL/min(sccm)
RF:1350W
窒化時間:トータル66sec
・ターゲット膜厚:30nm
・TiN膜の分割サイクル数と成膜・窒化時間との関係
9回→ 成膜時間3.1sec、窒化時間7sec
10回→ 成膜時間2.8sec、窒化時間6.6sec
【0046】
これらの条件で成膜したときの、TiN膜の分割サイクル数と膜のストレスとの関係を
図4に示す。なお、
図4において縦軸の膜ストレスは、+側が引張ストレスであり、−側が圧縮ストレスである。この図に示すように、膜のストレスは、分割サイクル数が10回まではあまり変化しないが、分割サイクル数が10回を超えて12回、15回となると、圧縮側に急激にかつ大きくシフトしていることがわかる。このことからTiN膜の分割サイクル数が10回を超えると膜ストレスを小さくすることが困難であることがわかる。
【0047】
このようなストレス変化が生じる要因としては、後述の膜の元素分析結果(
図6)にも示すように、TiN膜の分割サイクル数が10回までは成膜工程で膜中にCl膜がある程度残存しているため、窒化処理によって膜中の不純物であるClが徐々に抜けていき、TiとNの組成比が1:1であるTiNに近づいていくのに対して、膜中の不純物濃度がかなり低くなっている、TiN膜の分割サイクル数が12回、15回の成膜においては、窒化処理時に不純物であるClがほとんど抜けなくなり、TiN膜が過剰に窒化され始めるため、膜自体の膨張の仕方が変化して、ストレスが急激に変化するためであると考えられる。したがって、膜ストレスを低減する観点から成膜の際のTiN膜の分割サイクル数は10回以下であることが好ましい。
【0048】
また、
図5は成膜の際のTiN膜の分割サイクル数と成膜レートおよび膜厚との関係を示す図であるが、分割サイクル数を増加させていくと、膜厚
も成膜レート
も低下する傾向にあり、分割サイクル数を増加しすぎるのはスループットの点からも好ましくないといえる。
【0049】
次に、上記コンデションAにより得られたTiN膜について、X線電子分光分析(XPS)により元素分析を行った結果について説明する。
図6はTiN膜の分割サイクル数と膜中のCl、Ti、Nの濃度との関係を示すものであり、
図7は
図6のCl濃度のみ拡大して示す図である。なお、Clについては平均値(Ave.)と最大値(Max)の両方を示している。
【0050】
これらの図から、TiN膜の分割サイクル数の増加とともに、Cl濃度が減少する傾向にあるが、分割サイクル数が9回以上はCl濃度にあまり変化がないことがわかる。TiN膜の分割サイクル数が12回以上の場合には、チタン元素よりも窒素が増加する傾向にあり、Clを減少させる効果が頭打ちであるのに対し,無駄な窒素が増えて膜のストレスの原因となっているものと考えられる。TiN膜の分割サイクル数が3回のものは若干Cl濃度が高いが許容範囲であると考えられる。
【0051】
以上から、膜のストレスとCl濃度の両方を考慮すると、成膜の際の分割サイクル数は3〜10回が好ましい範囲であるといえる。上記結果はターゲット膜厚が30nmの結果であるから、この結果は膜厚が10〜40nmの場合にほぼ成り立つものと考えられる。
【0052】
また、1サイクル当たりの膜厚、つまりTiN単位膜の厚さは、最終的なTiN膜のストレスや不純物の抜け性に直接影響を及ぼすため、TiN単位膜の厚さを調整することにより、TiN膜のストレスおよび不純物の分布を調整することが好ましく、上記結果を考慮すると、TiN単位膜の厚さは3〜12nmの範囲が好ましい。
【0053】
次に、上記TiN膜のうちTiN膜の分割サイクル数が3回、6回、9回のものについて、X線電子分光分析(XPS)により深さ方向の元素分析を行った結果を
図8に示す。なお、
図8では横軸がスパッタ時間であるが、このスパッタ時間が深さに相当する。この図に示すように、TiN膜の分割サイクル数が3回の場合には、膜の深さ方向に対してCl濃度が高濃度の部分と低濃度の部分が3回周期的に確認され、膜の深さ方向に膜組成(Cl濃度)が一定でないことがわかる。これに対して、TiN膜の分割サイクル数が6回の場合には、膜の表面付近ではCl濃度の高低が生じているものの、下地側では一定となり膜中の膜組成(Cl濃度)はほぼ安定しており、TiN膜の分割サイクル数が9回の場合には、ほとんど膜の深さ方向のCl濃度の変動がないことがわかる。本実施形態のTiN膜が想定しているメタルハードマスクへの適用を考えると、エッチング時の削れ方が一定であることが好ましいが、深さ方向で組成比が変化すると削れ方が変化してしまう。このような観点からはTiN膜の分割サイクル数が3回よりも6回、9回のほうが好ましく、9回のほうがより好ましいことがわかる。
【0054】
次に、上記コンデションAの条件で、TiN膜の分割サイクル数を3回、6回、9回とした場合のCl濃度およびそのバラツキを詳細に検討した結果について説明する。ここでは、最終的なTiN膜を厚さ方向で表面側および基板側で半分に分け、XPSにより厚さ方向のCl濃度を求めた。その結果を
図9に示す。
図9から、Cl濃度のみならずCl濃度のバラツキも分割サイクル数が増加するにつれて減少していくことがわかる。また、いずれの分割サイクル数も基板側のほうがCl濃度のバラツキが小さいが、分割サイクル数が3回では、基板側でもバラツキが大きくなっている。分割サイクル数が6回では、表面側のCl濃度のバラツキは大きいが、基板側ではCl濃度のバラツキは小さく安定している。分割サイクル数が9回では基板側も表面側もCl濃度のバラツキは小さく安定した膜が形成されていることがわかる。このことからも、分割サイクル数が3回よりも6回、9回のほうが好ましく、9回のほうがより好ましいことといえる。
【0055】
次に、TiN膜のストレスに対するプラズマ窒化処理(ステップ2)の影響について説明する。
ここでは、ステップ1の成膜の条件を固定し、ステップ2のプラズマ窒化処理の条件を変化させ、ステップ1のTiN単位膜の形成およびステップ2の窒化を以下の繰り返し回数(以下、単にサイクル数という)で繰り返してTiN膜を成膜し、膜のストレスについて把握した。
【0056】
基本条件を以下に示す。
・温度:400℃
・サイクル数:9回
・成膜
圧力:260Pa
TiCl
4流量:38mL/min(sccm)
Ar流量:1600mL/min(sccm)
H
2流量:3000mL/min(sccm)
N
2流量:400mL/min(sccm)
RF:1200W
1回あたりの時間:3.8sec
・窒化
圧力:260Pa
Ar流量:1600mL/min(sccm)
H
2流量:4000mL/min(sccm)
N
2流量:400mL/min(sccm)
【0057】
上記基本条件で、窒化の際のRFパワーを1200Wに固定し、1回の窒化時間を変化させた際における窒化時間と成膜されたTiN膜のストレスとの関係および窒化時間と膜密度との関係を
図10に示す。
【0058】
図10に示すように、窒化時間の増加に従って、TiN膜のストレスは圧縮ストレス側に変化していることがわかる。このことから、窒化時間を変化させることにより膜のストレスを調整できることが確認された。窒化時間が短いときには膜のストレスは引張ストレスであり、窒化時間の増加により圧縮ストレス側に変化するから、窒化時間の調整によりストレスフリーのTiN膜を得ることも可能である。
【0059】
また、窒化時間を変化させて膜のストレスを変化させても、膜の密度はほとんど変化しないことが確認された。
一般的なTiN膜のストレスを低減する方法としては、TiN膜の窒化の割合を変更して、膜中のNの量を減らす手法が挙げられる。しかし、この手法は膜中のN量を減らすことによりストレスを低減するものであるため、TiリッチなTiN膜となってストレスが低減されるのと同時に膜密度も低下してしまう。これに対して、本実施形態では、成膜の際にTiCl
4ガスとN
2ガスとを用いてプラズマ処理を行うため、成膜時にしっかりとしたTi−N結合が形成されて主要な膜構造が決定される。そして、この成膜の際の引張ストレスを条件設定により3〜8×10
9dyne/cm
2以下の低ストレスに予め調整しておくことにより、引き続き実施されるプラズマ窒化処理では、膜の主構造にあまり影響しない形でTiN膜中の不純物の除去や窒化の強化を行うと同時にTiN膜のストレスを微調整することができる。このため、膜密度を大きく変化させることなく膜のストレスの微調整が可能となる。
【0060】
また、上記基本条件で、窒化時間を4.1secに固定し、RFパワーを変化させた際におけるRFパワーと成膜されたTiN膜のストレスとの関係およびRFパワーと膜密度との関係を
図11に示す。
【0061】
図11に示すように、RFパワーの増加に従って、TiN膜のストレスは圧縮ストレス側に変化していることがわかる。また、RFパワーが変化しても膜密度はあまり変化しないことがわかる。このことから、RFパワーを変化させることによっても膜密度をあまり変化させずにストレスを調整できること、およびその調整によりストレスフリーのTiN膜が得られることが確認された。
【0062】
次に、成膜温度とストレスとの関係について検討した結果について説明する。ここでは、1回あたりの成膜時間を5.5sec、1回あたりの窒化時間を8.0ecとし、サイクル数を6回として、温度を300〜375℃の間で変化させて膜のストレスを測定した。その結果を
図12に示す。300℃では膜の変色が生じたが、325〜375℃では膜のストレスの絶対値が5×10
9dyne/cm
2以下となった。
【0063】
次に、成膜初期における膜のストレスについて検討した結果について説明する。
図13はTiN膜を成膜する際のサイクル数と膜厚および膜厚の面内バラツキとの関係を示す図、
図14はTiN膜を成膜する際のサイクル数と膜のストレスとの関係を示す図である。
図13に示すように、TiN膜の膜厚は1サイクル目から9サイクル目まで直線的に変化し、サイクル数と膜厚はほぼ原点を通る比例関係にあるので、インキュベーションタイムもなく、各サイクルにおいて同程度の膜厚で成膜できていることがわかる。しかしながら、膜厚の面内分布を見ると、1サイクル目のみ膜厚の面内バラツキが大きく、1サイクル目のみ様相が異なっている。また、
図14に示すように、膜のストレスについても、3サイクル目以降は膜ストレスが連続的に低下しているのに対し、1サイクル目だけ非連続である。以上のことから1サイクル目における膜の成長の仕方が異なっていることがわかる。
【0064】
ポーラスLow−k膜の上にメタルハードマスクとしてTiN膜を成膜する場合、成膜途中で膜にストレスが発生すると、ポーラスLow−k膜に影響を与える可能性があるため、成膜初期のサイクルでの成膜の制御が重要である。
【0065】
そこで、次に、PECVDによる成膜とプラズマ窒化処理を1サイクルのみ行う場合において、窒化時間を変化させて膜のストレスの調整を実施した。ここでは、N
2ガスおよびH
2ガスを用いた窒化処理と、NH
3ガスを用いた窒化処理とを行った。
図15は、その際の窒化時間と膜ストレスとの関係を示す図である。この図に示すように、どちらの窒化ガスを用いた場合も10〜15secで膜のストレスが引張から圧縮へ急激に変化しており、1サイクル目のストレスコントロールは非常に難しいことがわかる。
【0066】
このような点を踏まえて、成膜初期のサイクルにおいて膜のストレスコントロールを行ったものと行わなかったものとを比較した。
図16は、サイクル数を9回にしたTiN膜の成膜において、以下に示すように、各サイクルを同じ条件で行った場合(ケースA)と、1サイクル目のみ条件を変更して膜のストレスを低減した場合(ケースB)と、1サイクル目および2サイクル目の条件を変更して膜のストレスを低減した場合(ケースC)とで、各サイクルにおける膜のストレスを示す図である。
【0067】
この際の条件を以下に示す。
1.共通条件
・温度:400℃
・成膜
圧力:260Pa
TiCl
4流量:31.4mL/min(sccm)
Ar流量:1600mL/min(sccm)
H
2流量:1600mL/min(sccm)
N
2流量:400mL/min(sccm)
RF:1200W
成膜時間:3.9sec/サイクル
ターゲット膜厚:3.7nm/サイクル
・窒化
圧力:260Pa
Ar流量:1600mL/min(sccm)
H
2流量:4000mL/min(sccm)
N
2流量:400mL/min(sccm)
RF:1200W
2.ケースA
全サイクル上記基本条件で成膜
窒化時間:7.1sec/サイクル
3.ケースB
1サイクル目の条件
・成膜
圧力:260Pa
TiCl
4流量:31.4mL/min(sccm)
Ar流量:1600mL/min(sccm)
H
2流量:4000mL/min(sccm)
N
2流量:400mL/min(sccm)
RF:1200W
成膜時間:3.9sec/サイクル
・窒化
圧力:260Pa
Ar流量:1600mL/min(sccm)
H
2流量:4000mL/min(sccm)
NH
3流量:400mL/min(sccm)
RF:1200W
窒化時間:10sec
2〜9サイクル目
・成膜:上記共通条件
・窒化:上記共通条件、窒化時間6.1sec/サイクル
4.ケースC
1サイクル目
・成膜
圧力:260Pa
TiCl
4流量:31.4mL/min(sccm)
Ar流量:1600mL/min(sccm)
H
2流量:4000mL/min(sccm)
N
2流量:400mL/min(sccm)
RF:1200W
成膜時間:3.9sec/サイクル
・窒化
圧力:260Pa
Ar流量:1600mL/min(sccm)
H
2流量:4000mL/min(sccm)
NH
3流量:400mL/min(sccm)
RF:1200W
窒化時間:9.1sec
2サイクル目
・成膜:上記共通条件
・窒化:上記共通条件、窒化時間8.1sec/サイクル
3〜9サイクル目
・成膜:上記共通条件
・窒化:上記共通条件、窒化時間7.6sec/サイクル
【0068】
この図に示すように、いずれのケースも最終的な膜のストレスは0に近いものの、各サイクルでのストレスを考慮せずに各サイクル同じ条件としたケースAでは、1サイクル目のストレスが比較的大きいものとなった。これに対して1サイクル目の窒化時間を調整して1サイクル目の膜のストレスを0付近まで低減させたケースBでは全体的にはストレスが低減しているものの、2サイクル目以降、圧縮ストレスがかかっている。2サイクル目に膜のストレスが0付近になるように調整したケースCでは、1サイクル目の膜のストレスがケースBよりも少し大きいものの、3サイクル目以降は安定して膜のストレスを低く保てることが判明した。
【0069】
以上の詳細な実験により、TiCl
4ガスと窒化ガスを用いたプラズマCVDによりTiN単位膜を成膜する工程と、プラズマ窒化処理を行う工程とを繰り返すことにより成膜されたTiN膜は、繰り返しのサイクル数や窒化処理の条件等、種々の条件を適正に調整することにより、不純物が少なくかつストレスが極めて低いものとなり、ポーラスLow−k膜をエッチングする際のメタルハードマスクとして適したものとなることが確認された。
【0070】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されることなく種々変形可能である。例えば、上記実施形態で用いた
図1の成膜装置は、あくまで例示であって、
図1の装置に限るものではない。