(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1〜4のいずれかに記載のフェライト焼結磁石の製造方法において、前記粉砕工程が、第一の微粉砕工程と、前記第一の微粉砕工程によって得られた粉末に熱処理を施す工程と、前記熱処理が施された粉末を再度粉砕する第二の微粉砕工程とからなることを特徴とするフェライト焼結磁石の製造方法。
Ca、希土類元素の少なくとも1種であってLaを必須に含むR元素、Ba及び/又はSrであるA元素、Fe及びCoを必須元素とし、Ca、R、A、Fe及びCoの金属元素の組成比が、
一般式 Ca1−x−yRxAyFe2n−zCoz
により表わされ、
それぞれCa、R元素、A元素及びCoの原子比率を表わす1−x−y、x、y、z、及びモル比を表わすnが、
0.3≦1−x−y≦0.65、
0.2≦x≦0.65、
0≦y≦0.2、
0.25≦z≦0.65、及び
4≦n≦7
を満たす六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相と、Siを必須に含む粒界相とを有するフェライト焼結磁石であって、
前記粒界相が、前記フェライト相からなる粉末100質量%に対して、1質量%を超え、1.6質量%以下のSiO2粉末と、CaO換算で1.2〜2質量%のCaCO3粉末とを添加(ただし、CaCO3添加量とSiO2添加量との比:[CaCO3添加量(CaO換算)/SiO2添加量]が、0.25≦z<0.3の場合は0.9〜1.1であり、0.3≦z≦0.65の場合は1.1〜1.4である。)してなる割合で存在し、
400 kA/mを超える保磁力HcJを有することを特徴とするフェライト焼結磁石。
【背景技術】
【0002】
フェライト焼結磁石は、各種モータ、発電機、スピーカ等、種々の用途に使用されている。代表的なフェライト焼結磁石として、六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するSrフェライト(SrFe
12O
19)及びBaフェライト(BaFe
12O
19)が知られている。これらのフェライト焼結磁石は、酸化鉄とストロンチウム(Sr)又はバリウム(Ba)の炭酸塩等とを原料とし、粉末冶金法によって比較的安価に製造される。
【0003】
近年、環境に対する配慮などから、自動車用電装部品、電気機器用部品等において、部品の小型・軽量化及び高効率化を目的として、フェライト焼結磁石の高性能化が要望されている。特に、自動車用電装部品に用いられるモータには、高い残留磁束密度B
rを保持しながら、薄型化した際に発生する反磁界により減磁しない、高い保磁力H
cJを有するフェライト焼結磁石が要望されている。
【0004】
フェライト焼結磁石の磁石特性の向上を図るため、上記のSrフェライトにおけるSrの一部をLa等の希土類元素で置換し、Feの一部をCoで置換することにより、保磁力H
cJ及び残留磁束密度B
rを向上させる方法が提案されている(例えば、特開平10-149910号、特開平11-154604号)。
【0005】
特開平10-149910号及び特開平11-154604号に記載の、Srの一部をLa等の希土類元素で置換し、Feの一部をCo等で置換したSrフェライト(以下「SrLaCoフェライト」という)は、磁石特性に優れることから、従来のSrフェライトやBaフェライトに代わり、各種用途に多用されつつあるものの、さらなる磁石特性の向上も望まれている。
【0006】
一方、フェライト焼結磁石として、上記SrフェライトやBaフェライトとともに、Caフェライトも知られている。Caフェライトは、CaO-Fe
2O
3又はCaO-2Fe
2O
3の組成式で表される構造が安定であり、Laを添加することによって六方晶フェライトを形成することが知られている。しかし、得られる磁石特性は、従来のBaフェライトの磁石特性と同程度であり、充分に高くはなかった。
【0007】
特許第3181559号は、Caフェライトの残留磁束密度B
r及び保磁力H
cJの向上、並びに保磁力H
cJの温度特性の改善を図るため、Caの一部をLa等の希土類元素で置換し、Feの一部をCo等で置換した、20 kOe以上の異方性磁界H
Aを有するCaフェライト(以下「CaLaCoフェライト」という)を開示しており、この異方性磁界H
AはSrフェライトに比べて10%以上高い値であると記載している。
【0008】
しかしながら、特許第3181559号に記載のCaLaCoフェライトは、SrLaCoフェライトを上回る異方性磁界H
Aを有するものの、B
r及びH
cJはSrLaCoフェライトと同程度であり、一方で角型比が非常に悪く、高い保磁力と高い角型比とを満足することができず、モータ等の各種用途に応用されるまでには至っていない。
【0009】
特開平10-149910号及び特開平11-154604号で提案されたSrLaCoフェライトについて、特開2007-123511号はB
rを維持したままH
cJを向上させる方法を提案している。一般にフェライト焼結磁石は、(1)原料となる酸化鉄とSr又はBaの炭酸塩等とを配合及び混合する配合工程、(2)前記混合原料を仮焼してフェライト化し仮焼体を得る仮焼工程、(3)前記仮焼体を粉砕し粉末を得る粉砕工程、(4)前記粉末を成形し成形体を得る成形工程、(5)前記成形体を焼成し焼結体を得る焼成工程により製造される。特開2007-123511号は、粉砕工程を第1の微粉砕工程、粉末熱処理工程及び第2の微粉砕工程で構成する方法を開示しており、この方法によって1.1μm以下の粒子径を有する結晶の数の比率を95%以上とし、もってH
cJを向上させている。
【0010】
しかしながら、特開2007-123511号に記載の方法よれば、H
cJは向上するものの、製造工程の増加に伴うコストアップが避けられない。特に、Co、La等の高価な元素を必須成分として含有するSrLaCoフェライトは、従来のSrフェライトに比べ原材費が高いため、工程費がさらに上昇することで、経済性に優れるといったフェライト焼結磁石の一番の特徴がなくなり、市場における価格面の要求を満足することができない。
【0011】
特許第3181559号が提案するCaLaCoフェライトについても、種々の高性能化が図られている。例えば、特開2006-104050号は、各構成元素のモル比及びnの値を最適化し、かつLa及びCoを特定の比率で含有させたCaLaCoフェライトを提案しており、国際公開第2007/060757号は、Caの一部をLaとBaで置換したCaLaCoフェライトを提案しており、国際公開第2007/077811号は、Caの一部をLa及びSrで置換したCaLaCoフェライトを提案している。しかしながら、特開2006-104050号、国際公開第2007/060757号及び国際公開第2007/077811号に記載のCaLaCoフェライトによっても、市場の要望を満足するほどの高いH
cJを有するフェライト焼結磁石は得られていない。
【0012】
さらに、特開2008-137879号及び国際公開第2008/105449号は、特開2007-123511号に記載の粉砕工程をCaLaCoフェライトの製造工程に採用することにより、H
cJの向上を図った技術を開示している。しかしながら、特開2008-137879号及び国際公開第2008/105449号に記載のCaLaCoフェライトは、H
cJの向上は図られているものの、特開2007-123511号と同様に、原料費と工程費との二重のコストアップとなり、市場における価格面の要求を満足することができない。
【0013】
このように、近年の要求を満足する磁石特性及び価格面の両方を満足するフェライト焼結磁石は未だ提案されていない。
【0014】
フェライト焼結磁石において、トレードオフの関係にあるB
rとH
cJとのバランスを変化させようとする場合、焼結助剤としてSiO
2、CaCO
3等を添加することが知られている。高いB
rを得るには、非磁性成分となる焼結助剤の添加量を焼結に必要な液相成分を確保できる範囲で少なくしたり、SiO
2に比べCaCO
3の添加割合を増やしたりすることが有効であるが、微細な焼結組織を維持することが困難になりH
cJが低下する。一方、高いH
cJを得るには、焼結助剤の添加量を増やしたり、CaCO
3に比べSiO
2の添加割合を増やしたりすることが有効であるが、非磁性成分の増加や焼結性の低下によりB
rが低下し、角型比H
k/H
cJ[H
kは、J(磁化の大きさ)-H(磁界の強さ)曲線の第2象限において、Jが0.95B
rの値になる位置のHの値]の低下が避けられない。
【0015】
従来のフェライト焼結磁石、特に近年提案されたSrLaCoフェライト及びCaLaCoフェライトにおいては、高いB
rを維持する必要性から、SiO
2、CaCO
3等の焼結助剤の添加量はできるだけ少なくすることが一般的であった。例えば、特開2006-104050号は、仮焼体の粉砕時に、CaO換算で0.3〜1.5質量%のCaCO
3、及び0.2〜1.0質量%のSiO
2を添加するのが好ましいと記載しており、国際公開第2007/060757号は、仮焼体の粉砕時に、0.2〜1.5質量%(CaO換算で0.112〜0.84質量%)のCaCO
3、0.1〜1.5質量%のSiO
2を添加するのが好ましいと記載しており、特開2008-137879号は、焼結材料に、1.35質量%以下のSiO
2を添加するのが好ましいと記載している。
【0016】
しかしながら、特開2006-104050号、国際公開第2007/060757号及び特開2008-137879号の実施例には、SiO
2及びCaCO
3(CaO換算)の添加量がそれぞれ0.9質量%以下であるCaLaCoフェライト磁石しか記載されていない。つまりこれらのフェライト磁石はB
rの向上を重視しているため、0.9質量%を超えてSiO
2及びCaCO
3を添加することは想定されておらず、そのようなCaLaCoフェライト磁石の磁気性能(B
r、H
cJ及びH
k/H
cJ)については全く知見がない。
【発明を実施するための形態】
【0035】
[1] フェライト焼結磁石
本発明のフェライト焼結磁石は、Ca、希土類元素の少なくとも1種であってLaを必須に含むR元素、Ba及び/又はSrであるA元素、Fe及びCoを必須元素とし、Ca、R、A、Fe及びCoの金属元素の組成比が、
一般式 Ca
1-x-yR
xA
yFe
2n-zCo
zにより表わされ、
それぞれCa、R元素、A元素及びCoの原子比率を表わす1-x-y、x、y、z、及びモル比を表わすnが、
0.3≦1-x-y≦0.65、
0.2≦x≦0.65、
0≦y≦0.2、
0.03≦z≦0.65、及び
4≦n≦7
を満たす六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相と、Siを必須に含む粒界相とを有するフェライト焼結磁石であって、
前記Siの含有量が、フェライト焼結磁石全体に対してSiO
2換算で1質量%を超え、1.8質量%以下であることを特徴とする。
【0036】
Caの含有量(1-x-y)は、0.3≦1-x-y≦0.65である。Caが0.3未満では、R元素及びA元素が相対的に多くなり、B
r及びH
k/H
cJが低下するため好ましくない。Caが0.65を超えると、R元素及びA元素が相対的に少なくなり、B
r及びH
k/H
cJが低下するため好ましくない。1-x-yの好ましい範囲は0.35≦1-x-y≦0.55であり、より好ましい範囲は0.42≦1-x-y≦0.5である。
【0037】
R元素は、希土類元素の少なくとも1種であってLaを必須に含むものである。高い磁石特性を得るには、R元素中のLaの比率は50原子%以上であるのが好ましく、70原子%以上であるのがより好ましく、La単独(ただし、不可避的不純物は許容される)が最も好ましい。R元素の中でLaがM相に最も固溶し易いため、Laの比率が大きいほど磁気特性の向上効果が大きい。R元素の含有量(x)は、0.2≦x≦0.65である。xが0.2未満及び0.65を超えるとB
r及びH
k/H
cJが低下する。xの好ましい範囲は0.4≦x≦0.6であり、より好ましい範囲は0.45≦x≦0.55である。
【0038】
A元素は、Ba及び/又はSrである。A元素の含有量(y)は、0≦y≦0.2である。A元素を含有しなくても本発明の効果が損なわれることはないが、A元素を添加することにより、仮焼体における結晶が微細化されアスペクト比が小さくなるため、H
cJがさらに向上する。yの好ましい範囲は0≦y≦0.15であり、より好ましい範囲は0≦y≦0.08である。
【0039】
Coの含有量(z)は、0.03≦z≦0.65である。zが0.03未満ではCoの添加による磁気特性の向上効果が得られない。また仮焼体に未反応のα-Fe
2O
3が残存するので、湿式成形時に成形型のキャビティからスラリー漏れが発生する。zが0.65を超えるとCoを多く含む異相が生成して磁気特性が大きく低下する。 zの好ましい範囲は0.1≦z≦0.4であり、より好ましい範囲は0.2≦z≦0.3である。
【0040】
Coはその一部をZn、Ni及びMnから選ばれた少なくとも1種で置換することもできる。特に、Coの一部をNi及びMnで置換することにより、磁石特性を低下させずに製造コストを低減することができる。また、Coの一部をZnで置換すると、H
cJは若干低下するが、B
rを向上させることができる。Zn、Ni及びMnの合計の置換量はモル比でCoの50%以下であるのが好ましい。
【0041】
CaLaCoフェライトにおいては、基本的にCo及びLaの増加に伴いH
cJが向上する。しかし、Co及びLaはレアメタル(希少金属)に分類され、希少かつ高価な金属のため、省資源化又はフェライト焼結磁石の低価格化を図るには、できるだけその含有量を少なくすることが望まれる。本発明によれば、高いB
rと角型比H
k/H
cJを維持したままH
cJを著しく向上させることができるため、従来のCaLaCoフェライト焼結磁石と同じH
cJの磁石を提供する場合、Co及びLaの含有量を低減することができる。そのため、これまで高いH
cJが望めず実用化が困難であったCoの原子比率を0.2とした組成においても、実用化レベルのH
cJを得ることが可能となり、Co及びLaを低減した高性能なフェライト焼結磁石を安価にして提供することができる。
【0042】
nは(Fe+Co)と(Ca+R+A)とのモル比を反映する値で、2n=(Fe+Co)/(Ca+R+A)で表される。モル比nは4≦n≦7であるのが好ましい。nが4未満では非磁性部分の比率が多くなるとともに、仮焼体粒子の形態が過度に扁平になりH
cJが大きく低下してしまう。nが7を超えると仮焼体に未反応のα-Fe
2O
3が残存し、湿式成形時の成形型のキャビティからスラリー漏れが発生する。nの好ましい範囲は4.5≦n≦6であり、より好ましい範囲は4.8≦z≦5.2である。
【0043】
Siは必須元素であり、磁石全体に対してSiO
2換算で1質量%を超え、1.8質量%以下含有する。Siは、フェライト仮焼体にSiO
2として添加するのが好ましく、添加するSiO
2の量は、仮焼体100質量%に対して1質量%を超え、1.8質量%以下であるのが好ましい。すなわち、仮焼体に添加したSiO
2は焼結磁石においても基本的にそのまま含有される。但し、粉砕工程や成形工程において若干流出することがあり、仮焼体への添加量よりも焼結磁石中の含有量が少なくなる場合がある。Siは基本的に粒界相を形成し、六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相には含有されない。Siの好ましい範囲は1.1〜1.6質量%(SiO
2換算)である。
【0044】
R元素とCoとのモル比x/zの値は、0.73≦x/z≦15.62であるのが好ましい。より好ましい範囲は1≦x/z≦3であり、最も好ましい範囲は1.2≦x/z≦2である。これらの値を満たす組成を選択することにより、磁石特性をより向上させることができる。
【0045】
本発明において、R元素含有量>Co含有量>A元素含有量であるとき、すなわち、x>z>yであるとき、磁石特性の向上効果が大きい。また、Ca含有量>A元素含有量であるとき、すなわち1-x-y>yであるとき、磁石特性の向上効果が大きい。
【0046】
本発明のフェライト焼結磁石、
及びそれを形成するために用いる仮焼体は、六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相を有する。ここで「六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有する」とは、フェライト焼結磁石又は仮焼体のX線回折を一般的な条件で測定した場合に、六方晶のM型マグネトプランバイト構造のX線回折パターンが主として観察されることをいう。X線回折等により極少量(5質量%以下程度)観察される異相(オルソフェライト相、スピネル相等)や不純物相の存在は許容される。X線回折からの異相の定量にはリートベルト解析のような手法を用いることができる。
【0047】
本発明のフェライト焼結磁石は、前記六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相と、Siを必須に含む粒界相とを必須に有している。前記粒界相は、X線回折パターンで観察することが困難であるため、透過電子顕微鏡等で確認するのが好ましい。
【0048】
本発明において、フェライト仮焼体におけるフェライト相と、フェライト焼結磁石におけるフェライト相は、いずれも六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するものであり、基本的に同じものである。フェライト仮焼体では成形時における結晶配向の達成や焼結時の組織制御のために予めフェライト相を主成分とすることが望ましく、粒界相の存在は問わない。一方、フェライト焼結磁石においては、フェライト相を主成分とし、さらに焼結時の組織制御及び緻密化のためにSiを必須に含む粒界相を必要とする。
【0049】
本発明のフェライト焼結磁石は、上述した好ましい範囲を選択することにより、保磁力H
cJが450 kA/m以上、残留磁束密度B
rが0.4 T以上、角型比H
k/H
cJが80%以上の磁石特性を有し、さらに好ましい範囲を選択することにより、保磁力H
cJが460 kA/m以上、残留磁束密度B
rが0.44 T以上、角型比H
k/H
cJが80%以上の磁石特性を有する。
【0050】
[2]フェライト焼結磁石の製造方法
フェライト焼結磁石は、フェライト仮焼体を準備する工程、前記仮焼体を粉砕し、粉末を得る粉砕工程、前記粉末を成形し成形体を得る成形工程、前記成形体を焼成し焼結体を得る焼成工程により製造する。ここで前記粉砕工程の前に、前記仮焼体に、仮焼体100質量%に対して1質量%を超え、1.8質量%以下のSiO
2を添加することにより、焼結磁石の保磁力H
cJを著しく向上させることができる。
【0051】
前記フェライト仮焼体は、Ca、希土類元素の少なくとも1種であってLaを必須に含むR元素、Ba及び/又はSrであるA元素、Fe及びCoを必須元素として含有し、Ca、R、A、Fe及びCoの金属元素の組成比が、
一般式 Ca
1-x-yR
xA
yFe
2n-zCo
z
(但し、それぞれCa、R元素、A元素及びCoの原子比率を表わす1-x-y、x、y、z、及びモル比を表わすnが、0.3≦1-x-y≦0.65、0.2≦x≦0.65、0≦y≦0.2、0.03≦z≦0.65、及び4≦n≦7を満たす。)により表わされる六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相を有している。
【0052】
また、前記フェライト仮焼体は、O(酸素)を含めた組成が、
一般式 Ca
1-x-yR
xA
yFe
2n-zCo
zO
α
(但し、1-x-y、x、y、z、αはそれぞれCa、R元素、A元素、Co及びOの原子比率を表わし、nはモル比を表わし、0.3≦1-x-y≦0.65、0.2≦x≦0.65、0≦y≦0.2、0.03≦z≦0.65、及び4≦n≦7を満たし、R元素とFeが3価でCoが2価であり、x=zでかつn=6の時の化学量論組成比を示した場合はα=19である)で表される。
【0053】
前記O(酸素)を含めたフェライト仮焼体の組成において、酸素のモル数は、Fe及びCoの価数、n値、R元素の種類などによって異なってくる。またフェライト焼結磁石においては、還元性雰囲気で焼成した場合の酸素の空孔(ベイカンシー)、フェライト相におけるFeの価数の変化、Coの価数の変化等により金属元素に対する酸素の比率が変化する。従って、実際の酸素のモル数αは19からずれる場合がある。そのため、本発明においては、最も組成が特定し易い金属元素で組成を表記している。
【0054】
(1)フェライト仮焼体を準備する工程
フェライト仮焼体は、酸化物の粉末、仮焼により酸化物となる化合物(Ca化合物、R元素の化合物、必要に応じてBa化合物及び/又はSr化合物の粉末、鉄化合物、Co化合物の粉末)を上記の組成になるように配合し、得られた混合物を仮焼(フェライト化)することにより製造する。なお、Ca、R元素、A元素、Fe及びCoの各元素の組成の限定理由は、上述したフェライト焼結磁石の場合と同様である。
【0055】
原料粉末は、価数にかかわらず、それぞれの金属の酸化物、炭酸塩、水酸化物、硝酸塩、塩化物等
の粉末を使用することができる。原料粉末を溶解した溶液であってもよい。Ca化合物としては、Caの炭酸塩、酸化物、塩化物等を使用する。R元素の化合物としては、La
2O
3等の酸化物、La(OH)
3等の水酸化物、La
2(CO
3)
3・8H
2O等の炭酸塩等を使用する。特に混合希土類(La、Nd、Pr、Ce等)の酸化物、水酸化物、炭酸塩等は安価なためコストを低減できるので好ましい。A元素の化合物としては、Ba及び/又はSrの炭酸塩、酸化物、塩化物等を使用する。鉄化合物としては、酸化鉄、水酸化鉄、塩化鉄、ミルスケール等を使用する。Co化合物としては、CoO、Co
3O
4等の酸化物、CoOOH、Co(OH)
2、Co
3O
4・m
1H
2O(m
1は正の数である)等の水酸化物、CoCO
3等の炭酸塩、及びm
2CoCO
3・m
3Co(OH)
2・m
4H
2O等の塩基性炭酸塩(m
2、m
3、m
4は正の数である)を使用する。
【0056】
CaCO
3、Fe
2O
3及びLa
2O
3以外の原料粉末は、原料混合時から添加しておいてもよいし、仮焼後に添加してもよい。例えば、(1)CaCO
3、Fe
2O
3、La
2O
3及びCo
3O
4を配合し、混合及び仮焼した後、仮焼体を粉砕し、成形及び焼結してフェライト焼結磁石を製造しても良いし、(2)CaCO
3、Fe
2O
3及びLa
2O
3を配合し、混合及び仮焼した後、仮焼体にCo
3O
4を添加し、粉砕、成形及び焼結してフェライト焼結磁石を製造することもできる。
【0057】
仮焼時の反応促進のため、必要に応じてB
2O
3、H
3BO
3等のBを含む化合物を1質量%程度以下で添加しても良い。特にH
3BO
3の添加は、H
cJ及びB
rのさらなる向上に有効である。H
3BO
3の添加量は、0.3質量%以下であるのが
より好ましく、0.2質量%程度が最も好ましい。H
3BO
3の添加量が0.1質量%よりも少ないとB
rの向上効果が小さく、0.3質量%よりも多いとB
rが低下する。またH
3BO
3は、焼結時に結晶粒の形状やサイズを制御する効果も有するため、仮焼後(微粉砕前や焼結前)に添加してもよく、仮焼前及び仮焼後の両方で添加してもよい。
【0058】
原料粉末の配合は、湿式及び乾式のいずれで行ってもよい。スチールボール等の媒体とともに撹拌すると原料粉末をより均一に混合することができる。湿式の場合は、溶媒に水を用いるのが好ましい。原料粉末の分散性を高める目的でポリカルボン酸アンモニウム、グルコン酸カルシウム等の公知の分散剤を用いてもよい。混合した原料スラリーは脱水して混合原料粉末とする。
【0059】
混合原料粉末は、電気炉、ガス炉等を用いて加熱することによって、固相反応し、六方晶のM型マグネトプランバイト構造のフェライト化合物を形成する。このプロセスを「仮焼」と呼び、得られた化合物を「仮焼体」と呼ぶ。
【0060】
仮焼工程は、酸素濃度が5%以上の雰囲気中で行うのが好ましい。酸素濃度が5%未満であると、異常粒成長、異相の生成等を招く。より好ましい酸素濃度は20%以上である。
【0061】
仮焼工程では、フェライト相が形成される固相反応が温度の上昇とともに進行し、約1100℃で完了する。仮焼温度が1100℃未満では、未反応のヘマタイト(酸化鉄)が残存するため磁石特性が低くなる。一方、仮焼温度が1450℃を超えると結晶粒が成長し過ぎるため、粉砕工程において粉砕に多大な時間を要することがある。従って、仮焼温度は1100〜1450℃であるのが好ましく、1200〜1350℃であるのがより好ましい。仮焼時間は、0.5〜5時間であるのが好ましい。
【0062】
仮焼前にH
3BO
3を添加した場合は、フェライト化反応が促進されるため、1100℃〜1300℃で仮焼を行うことができる。
【0063】
(2)SiO
2の添加
本発明の製造方法は、粉砕工程の前に、仮焼体100質量%に対して1質量%を超え、1.8質量%以下のSiO
2を仮焼体に添加するのが特徴である。これによって、H
cJが特異的に向上する。SiO
2の添加量が1質量%以下ではH
cJの向上効果が得られず、1.8質量%を超えるとH
cJが低下するとともに、B
r及びH
k/H
cJも低下するため好ましくない。より好ましい添加量は1.1〜1.6質量%である。
【0064】
なお、SiO
2は仮焼体に対して添加するのが最も好ましいが、全添加量のうちの一部を仮焼前(原料粉末を配合するとき)に添加することもできる。仮焼前に添加することにより、仮焼時の結晶粒のサイズ制御を行うことができる。
【0065】
(3) CaCO
3の添加
SiO
2の添加量に応じて、粉砕工程の前に、仮焼体100質量%に対してCaCO
3をCaO換算で1〜2質量%添加するのが好ましい。CaCO
3の添加によって、B
rやH
k/H
cJの低下が極力防止でき、従来は得ることができなかった高いB
r及びH
k/H
cJを維持しつつ、高いH
cJを有するフェライト焼結磁石が得られる。CaCO
3の添加量(CaO換算)が1質量%未満
であるか2質量%を超えるとB
r及びH
k/H
cJが低下するため好ましくない。より好ましい添加量は1.2〜2質量%である。
【0066】
なお、SiO
2の好ましい添加量は上記CaCO
3の添加量(CaO換算)によって若干変化する。また、後述する実施例にて示す通りCoの含有量(z)によっても若干変化する。例えば、H
cJの向上効果から見れば、Coの含有量(z)によらず、CaCO
3の添加量が多くなるとSiO
2の好ましい添加量も多い方にシフトする傾向にある。また、Coの含有量が少なくなるとSiO
2の好ましい添加量は多い方にシフトする傾向にある。但し、SiO
2の添加量が多くなり過ぎるとB
r及びH
k/H
cJが低下する。そのため、高いB
r及びH
k/H
cJを維持しつつ高いH
cJを実現するには、Co含有量(z)がz≧0.3の場合は、SiO
2添加量が1.1〜1.5質量%かつCaCO
3添加量(CaO換算)が1.2〜2質量%であるのが好ましく、Co含有量(z)がz<0.3の場合は、SiO
2添加量が1.4〜1.6質量%かつCaCO
3添加量(CaO換算)が1.5〜2質量%であるのが好ましく、両方を考慮すると、前述の通り、SiO
2添加量は1.1〜1.6質量%が好ましく、この時CaCO
3添加量(CaO換算)は1.2〜2質量%であるのが好ましい。
【0067】
本発明において、SiO
2及びCaCO
3の両方を添加する場合、前記SiO
2の添加量の範囲内及び前記CaCO
3の添加量の範囲内において適宜添加すればよく、好ましくは、前述の通り、SiO
2添加量が1.1〜1.6質量%の範囲内及びCaCO
3添加量(CaO換算)が1.2〜2質量%の範囲内で設定することにより、高いB
r及びH
k/H
cJを維持しつつ高いH
cJを有するフェライト焼結磁石が得られる。
【0068】
SiO
2及びCaCO
3の両方を添加する場合、[CaCO
3添加量(CaO換算)/SiO
2添加量]を0.8〜2にすることによって磁石特性をさらに向上させることができる。この時、[CaCO
3添加量(CaO換算)/SiO
2添加量]の好ましい範囲は、後述する実施例にて示す通りCoの含有量(z)によって若干変化する。z≧0.3の場合は1〜1.7が好ましく、1.1〜1.4がより好ましい。z<0.3の場合は0.8〜1.4が好ましく、0.9〜1.1がより好ましい。z≧0.3とz<0.3の両方を考慮すると、0.8〜1.7が好ましく、0.9〜1.4がより好ましい。[CaCO
3添加量(CaO換算)/SiO
2添加量]をこれらの範囲から設定することにより、高いB
r及びH
k/H
cJを維持しつつ高いH
cJを有するフェライト焼結磁石が得られる。
【0069】
(4)粉砕工程
仮焼体は、振動ミル、ボールミル、アトライター等によって粉砕し、粉砕粉とする。粉砕粉の平均粒度は0.4〜0.8μm程度(空気透過法)にするのが好ましい。粉砕工程は、乾式粉砕及び湿式粉砕のいずれもよいが、双方を組み合わせて行うのが好ましい。
【0070】
湿式粉砕は、水及び/又は非水系溶剤(アセトン、エタノール、キシレン等の有機溶剤)を用いて行う。湿式粉砕により、水(溶剤)と仮焼体とが混合されたスラリーが生成される。スラリーには公知の分散剤及び/又は界面活性剤を固形分比率で0.2〜2質量%を添加するのが好ましい。湿式粉砕後は、スラリーを濃縮、混練するのが好ましい。
【0071】
粉砕工程において、上述したSiO
2及びCaCO
3の他に、磁石特性向上のためにCr
2O
3、Al
2O
3等を添加することもできる。これらの添加量は、それぞれ5質量%以下であるのが好ましい。
【0072】
粉砕した粉末には脱水性悪化や成形不良の原因となる0.1μm未満の超微粉が含まれるので、これらの超微粉を除去するために粉砕した粉末に熱処理を施すのが好ましい。熱処理を施した粉末は再度粉砕するのが好ましい。このように、第一の微粉砕工程と、前記第一の微粉砕工程によって得られた粉末に熱処理を施す工程と、前記熱処理が施された粉末を再度粉砕する第二の微粉砕工程とからなる粉砕工程(以下「熱処理再粉砕工程」という)を採用することにより、SiO
2及びCaCO
3の添加によるH
cJ向上効果に加えさらにH
cJを
向上させることができ、これまで得ることができなかった高いB
r及びH
k/H
cJを維持しかつ格段に高いH
cJを有するフェライト焼結磁石を提供することができる。
【0073】
通常の粉砕工程においては0.1μm未満の超微粉が不可避的に生じ、その超微粉の存在によってH
cJが低下したり、成形工程において脱水性が悪くなり、成形体に不良を生じたり、脱水に多くの時間がかかることによってプレスサイクルが低下したりする。第一の微粉砕工程によって得られた超微粉を含む粉末に熱処理を施すと、比較的粒径の大きい粉末と超微粉との間で反応が起こり、超微粉の量を減少させることができる。そして、第二の微粉砕工程によって粒度調整やネッキングの除去を行ない、所定粒度の粉末を作製する。これによって、超微粉の量が少なく、粒度分布に優れた粉末を得ることができ、H
cJを向上させることができるとともに、成形工程における上記の問題を解決することができる。
【0074】
熱処理再粉砕工程によるH
cJの向上効果を利用すると、第二の微粉砕工程による粉末の粒径を比較的大きく設定しても(例えば平均粒度0.8〜1.0μm程度)、通常の粉砕工程によって得られる粉末(平均粒度0.4〜0.8μm程度)を用いた場合と同等のH
cJが得られる。従って、第二の微粉砕工程による時間短縮が図れるとともに、さらなる脱水性の向上、プレスサイクルの向上を図ることができる。
【0075】
このように、熱処理再粉砕工程によれば、種々の利点は得られるものの、前述した通り、製造工程の増加に伴うコストアップは避けることができない。しかしながら、本発明のフェライト焼結磁石の製造において、熱処理再粉砕工程を採用した場合に得られる磁気特性の改良効果は、従来のフェライト焼結磁石を製造する場合に比べ非常に大きいので、前記コストアップを相殺することができる。従って、本発明において、熱処理再粉砕工程は実用的にも有意義な工程である。
【0076】
第一の微粉砕は、前述した通常の粉砕と同様であり、振動ミル、ジェットミル、ボールミル、アトライター等を用いて行う。粉砕後の粉末の平均粒度は0.4〜0.8μm程度(空気透過法)が好ましい。粉砕工程は、乾式粉砕及び湿式粉砕のいずれもよいが、双方を組み合わせて行うのが好ましい。
【0077】
第一の微粉砕工程後に行う熱処理は、600〜1200℃で行うのが好ましく、800〜1100℃で行うのがより好ましい。熱処理の時間は特に限定しないが、1秒〜100時間が好ましく、1〜10時間程度がより好ましい。
【0078】
熱処理工程後に行う第二の微粉砕は、第一の微粉砕と同様に、振動ミル、ジェットミル、ボールミル、アトライター等を用いて行う。第一の微粉砕工程においてすでに所望の粒径はほとんど得られているので、第二の微粉砕工程においては、主として粒度調整やネッキングの除去を行う。従って、第一の微粉砕工程よりも粉砕時間の短縮等により粉砕条件を軽減するのが好ましい。第一の微粉砕工程と同程度の条件で粉砕を行うと再度超微粉が生成されるため好ましくない。
【0079】
第二の微粉砕後の粉末の平均粒度は、通常の粉砕工程によって得られるフェライト焼結磁石よりも高いH
cJを得たい場合は、通常の粉砕工程と同様に0.4〜0.8μm程度(空気透過法)にするのが好ましく、粉砕工程の時間短縮、さらなる脱水性の向上、プレスサイクルの向上等の利点を活用したい場合は、0.8〜1.2μm
にするのが好ましく、0.8〜1.0μm程度(空気透過法)にするのが
より好ましい。
【0080】
(5)成形工程
粉砕後のスラリーは、水(溶剤)を除去しながら磁界中又は無磁界中でプレス成形する。磁界中でプレス成形することにより、粉末粒子の結晶方位を整列(配向)させることができ、磁石特性を飛躍的に向上させることができる。さらに、配向を向上させるために、分散剤、潤滑剤を0.01〜1質量%添加しても良い。また成形前にスラリーを必要に応じて濃縮してもよい。濃縮は遠心分離、フィルタープレス等により行うのが好ましい。
【0081】
(6)焼成工程
プレス成形により得られた成形体は、必要に応じて脱脂した後、焼成する。焼成は、電気炉、ガス炉等を用いて行う。
【0082】
焼成は、酸素濃度が10%以上の雰囲気中で行うのが好ましい。酸素濃度が10%未満であると、異常粒成長、異相の生成等を招き、磁石特性が劣化する。酸素濃度は、より好ましくは20%以上であり、最も好ましくは100%である。
【0083】
焼成温度は、1150℃〜1250℃が好ましい。焼成時間は、0.5〜2時間が好ましい。焼成工程によって得られる焼結磁石の平均結晶粒径は約0.5〜2μmである。
【0084】
焼成工程の後は、加工工程、洗浄工程、検査工程等の公知の製造プロセスを経て、最終的にフェライト焼結磁石を製造する。
【実施例】
【0085】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0086】
実施例1
組成式Ca
1-x-yLa
xA
yFe
2n-zCo
zO
19-δにおいて、x=0.5、y=0、z=0.3、n=5.2及びδ≧0になるように配合したCaCO
3粉末、La(OH)
3粉末、Fe
2O
3粉末及びCo
3O
4粉末に、前記配合後の粉末の合計100質量%に対してH
3BO
3粉末を0.1質量%添加し原料粉末を得た。この原料粉末を湿式ボールミルで4時間混合し、乾燥して整粒した。大気中において1300℃で3時間仮焼し、得られた仮焼体をハンマーミルで粗粉砕して粗粉砕粉を得た。
【0087】
前記粗粉砕粉に対して、SiO
2粉末とCaCO
3粉末(CaO換算)とを表1に示す量添加し、水を溶媒とした湿式ボールミルで、空気透過法による平均粒度が0.55μmになるまで微粉砕した。得られた微粉砕スラリーを、溶媒を除去しながら、加圧方向と磁場方向とが平行になるように約1.3 Tの磁場をかけながら約50 MPaの圧力で成形した。得られた成形体を大気中で、1200℃で1時間焼成し、焼結磁石を得た。
【0088】
得られた焼結磁石の残留磁束密度B
r、保磁力H
cJ及び角型比H
k/H
cJ[H
kは、J(磁化の大きさ)-H(磁界の強さ)曲線の第2象限において、Jが0.95B
rの値になる位置のHの値]を測定した。測定結果を
図1〜
図3に示す。
図1〜
図3は、横軸をSiO
2添加量(質量%)、縦軸をそれぞれ残留磁束密度B
r(T)(
図1)、保磁力H
cJ(
図2)及び角型比H
k/H
cJ(
図3)とし、各値をプロットしたものである。図中、同じCaO添加量のデータを直線で結んだ。なお、
図3のH
k/H
cJ=80%における点線は実用の可否の目安であり、たとえ高B
r、高H
cJを有していても、H
k/H
cJが80%を下回ると、特に薄型化に対応できなくなるため、実質的に自動車用電装部品、電気機器用部品等の各種用途に供することができなくなる。以下の実施例においても同様である。
【0089】
【表1】
【0090】
図1〜
図3から明らかなように、SiO
2の添加量が1質量%を超え、かつCaOの添加量が1質量%以上である場合に高い磁石特性が得られ、SiO
2の添加量が1.1〜1.5質量%、かつCaOの添加量が1.3〜2質量%である場合によりさらに優れた磁石特性が得られた。特に、試料113(SiO
2が1.2質量%及びCaOが1.5質量%)及び試料119(SiO
2が1.5質量%及びCaOが2.0質量%)は、B
rやH
k/H
cJの低下が最小限に抑えられ、H
cJが特異的に向上していることが分かる。
【0091】
図4は、
図2から試料113及び試料119と、SiO
2の添加量が1質量%以下の試料とを抜き出して比較したものである。従来、最適添加量と考えられていたSiO
2の添加量が1質量%以下の試料に比べて、試料113(SiO
2が1.2質量%及びCaOが1.5質量%)、及び試料119(SiO
2が1.5質量%及びCaOが2.0質量%)は、H
cJが約20%以上向上していることが分かる。
【0092】
前述の通り、Coの原子比率を0.3としたCaLaCoフェライトの異方性磁界H
Aの値は2.1 MA/mであるので、SiO
2の添加量が1質量%以下の試料のH
cJ(400 kA/m以下)は、前記異方性磁界H
Aの値の約19%以下であるが、試料113及び試料119のH
cJは前記異方性磁界H
Aの値の約23%となり、材料本来のポテンシャルに近づいていることが分かる。さらに、試料113及び試料119のCaO/SiO
2はそれぞれ1.25及び1.33であり、さらに比較的磁気特性の優れている試料109も考慮すると、CaO/SiO
2の比がおよそ1.1〜1.4の範囲において、優れた磁石特性が得られることが分かる。
【0093】
図5は、
図2のデータから、CaOの添加量がそれぞれに0.7、1.0、1.3、1.5及び2.0質量%の場合おいて、最もH
cJが高かった試料103(CaO=0.7質量%及びSiO
2=0.6質量%)、試料107(CaO=1.0質量%及びSiO
2=0.9質量%)、試料109(CaO=1.3質量%及びSiO
2=1.1質量%)、試料113(CaO=1.5質量%及びSiO
2=1.2質量%)及び試料119(CaO=2.0質量%及びSiO
2=1.5質量%)を抜き出して、横軸をCaO添加量(質量%)、縦軸を保磁力H
cJとしてプロットしたものである。
図5から明らかなように、CaO添加量が増えるに従って保磁力H
cJが向上し、特にCaO添加量が1.5質量%及び2質量%で最も高い保磁力H
cJが得られた。またCaO添加量が1.2〜2質量%の範囲にある場合に、保磁力H
cJはCoの原子比率を0.3としたCaLaCoフェライトの異方性磁界H
Aの値に対して約20%以上となり、CaO添加量が1.5〜2質量%の範囲にある場合に、保磁力H
cJは前記異方性磁界H
Aの値に対して約23%となった。
【0094】
試料113及び試料114の焼結磁石のSiO
2及びCaOの処方値及びICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析による定量値を表2に示す。処方値は、全組成の合計に対する添加したSiO
2及びCaOの質量%である。
【0095】
【表2】
【0096】
表2に示す通り、仮焼体に添加したSiO
2は、焼結磁石においてもそのまま含有されていることが分かる。SiO
2の定量値の方が処方値より多くなっているのは、SiO
2以外の元素が相対的に処方値よりも少なく分析されたことによると推定される。
【0097】
実施例2
組成式Ca
1-x-yLa
xA
yFe
2n-zCo
zO
19-δにおいて、x=0.5、y=0、z=0.2、n=4.8及びδ≧0とし、SiO
2粉末とCaCO
3粉末(CaO換算)とを表3に示す量添加した以外は実施例1と同様にして焼結磁石を作製した。
【0098】
得られた焼結磁石の残留磁束密度B
r、保磁力H
cJ及び角型比H
k/H
cJを測定した。測定結果を
図6〜
図8に示す。
図6〜
図8は実施例1と同様に、横軸をSiO
2添加量(質量%)、縦軸をそれぞれ残留磁束密度B
r(T)(
図6)、保磁力H
cJ(
図7)及び角型比H
k/H
cJ(
図8)とし、各値をプロットしており、同じCaO添加量のデータを直線で結んだものである。
【0099】
【表3】
【0100】
図6〜
図8から明らかなように、Co置換量を変化させた組成においても実施例1と同様、SiO
2の添加量が1質量%を超え、かつCaOの添加量が1質量%以上である場合に高い磁石特性が得られ、SiO
2の添加量が1.4〜1.6質量%、かつCaOの添加量が1.5〜2質量%である場合により優れた磁石特性が得られ、特に、試料215(SiO
2が1.6質量%及びCaOが1.5質量%)は、B
rやH
k/H
cJの低下を最小限に抑えつつ、H
cJが特異的に向上した。
【0101】
図9は、
図7から試料215(SiO
2が1.6質量%及びCaOが1.5質量%)と、SiO
2の添加量が1質量%以下の試料とを抜き出したものである。
図9から明らかなように、従来、最適と考えられていたSiO
2の添加量が1質量%以下の試料に比べて、試料215(SiO
2が1.6質量%、CaOが1.5質量%)は、H
cJが約27%向上した。
【0102】
Coの原子比率を0.2としたCaLaCoフェライトの異方性磁界H
Aの値をSPD法により測定した結果、1.9 MA/m(約23.9 kOe)であった。従って、SiO
2の添加量が1質量%以下の試料のH
cJ(300 kA/m以下)は、前記異方性磁界H
Aの値の約16%以下であるが、試料215(SiO
2が1.6質量%、CaOが1.5質量%)は前記異方性磁界H
Aの値の約20%となり、材料本来のポテンシャルに近づいていることが分かる。さらに、試料215におけるCaO/SiO
2は0.94であり、CaO/SiO
2の比がおよそ0.9〜1.1の範囲において、優れた磁石特性が得られることが分かる。
【0103】
実施例3
組成式Ca
1-x-yLa
xA
yFe
2n-zCo
zO
19-δにおいて、x=0.5、y=0、z=0.25、n=5.0及びδ≧0とし、SiO
2粉末とCaCO
3粉末(CaO換算)とを表4に示す量添加した以外は実施例1と同様にして焼結磁石を作製した。
【0104】
得られた焼結磁石の残留磁束密度B
r、保磁力H
cJ及び角型比H
k/H
cJを測定した。測定結果を
図10〜
図12に示す。
図10〜
図12は実施例1と同様に、横軸をSiO
2添加量(質量%)、縦軸をそれぞれ残留磁束密度B
r(T)(
図10)、保磁力H
cJ(
図11)及び角型比H
k/H
cJ(
図12)とし各値をプロットしたものである。なお、
図10〜
図12においては、Coの含有量(z)による傾向を比較できるようにするため、実施例1における試料111〜115と実施例2における試料211〜217を併せてプロットし、同じCoの含有量(z)のデータを直線で結んだ。
【0105】
【表4】
【0106】
図10〜
図12から明らかなように、Coの含有量(z)がz=0.25においても、実施例1及び実施例2の結果と同様に、SiO
2の添加量が1質量%を超え、かつCaOの添加量が1質量%以上である場合に高い磁石特性が得られ、特に、SiO
2が1.5質量%の時に、B
rやH
k/H
cJの低下を最小限に抑えつつ、H
cJが特異的に向上した。
【0107】
また、
図10〜
図12から、z=0.3の場合とz=0.25及びz=0.2の場合とではSiO
2の好ましい添加量が異なり、Coの含有量(z)が少なくなるとSiO
2の好ましい添加量が多い方にシフトする傾向にあることが分かる。すなわち、Co含有量(z)がz=0.3の場合、高いB
r及びH
k/H
cJを維持しつつ高いH
cJを実現するSiO
2添加量は1.1〜1.2質量%の範囲であり、Co含有量(z)がz=0.25及びz=0.2の場合、SiO
2添加量は1.4〜1.6質量%の範囲であった。
【0108】
図13は、これらのデータを用いて、横軸をCaO/SiO
2、縦軸を保磁力H
cJとし、同じCoの含有量(z)のデータを直線で結んだものである。
図13から明らかなように、SiO
2及びCaOの両方を添加する場合は、CaO/SiO
2を0.8〜2.0にすることによって磁石特性を向上させることができる。この時、CaO/SiO
2の好ましい範囲は、z=0.3の場合と、z<0.3(z=0.25、z=0.2)の場合とではやや異なっていることが分かる。すなわち、高いB
r及びH
k/H
cJを維持しつつ高いH
cJを実現するCaO/SiO
2の値は、z=0.3の場合、好ましくは1〜1.7、より好ましくは1.2〜1.4であり、z<0.3(z=0.25、z=0.2)の場合、好ましくは0.8〜1.4、より好ましくは0.9〜1.1、z≧0.3とz<0.3の両方を考慮すると、好ましくは0.8〜1.7、より好ましくは0.9〜1.4である。
【0109】
なお、
図11から、Coの含有量(z)の減少に伴い、H
cJの最高値が低下する傾向にあることが分かる。しかしながら、実施例1及び実施例2で考察した通り、同じCo含有量(z)の中では、従来、最適添加量と考えられていたSiO
2添加量が1質量%以下の試料に比べて、H
cJは20%以上向上しており、異方性磁界H
Aの値に対するH
cJの値は4%以上向上していることから、材料本来のポテンシャルに近づいているのは確かである。従って、従来のCaLaCoフェライト焼結磁石と同じH
cJの磁石を提供する場合、希少かつ高価なCo及びLaの含有量を低減することができる。また、実施例2の通り、これまで高いH
cJが望めず実用化が困難であったCoの含有量z=0.2の組成においても、実用化レベルのH
cJを得ることが可能となり、Co及びLaを低減した高性能なフェライト焼結磁石を安価にして提供することができる。
【0110】
実施例4
組成式Ca
1-x-y1-y2La
xSr
y1Ba
y2Fe
2n-zCo
zO
19-δにおいて、x=0.5、y1+y2=0.05、z=0.3、n=5.3及びδ≧0となるように、CaCO
3粉末、La(OH)
3粉末、SrCO
3粉末、BaCO
3粉末、Fe
2O
3粉末及びCo
3O
4粉末を配合し、これらの配合粉末の合計に対するSiO
2粉末及びCaCO
3粉末(CaO換算)の添加量を表5に示すように変更した以外は実施例1と同様にして焼結磁石を作製した。Sr原子比(y1)及びBa原子比(y2)も合わせて表5に示す。試料111〜115は実施例1で評価した焼結磁石である。
【0111】
得られた焼結磁石の残留磁束密度B
r、保磁力H
cJ及び角型比H
k/H
cJ[H
kは、J(磁化の大きさ)-H(磁界の強さ)曲線の第2象限において、Jが0.95B
rの値になる位置のHの値]を測定した。測定結果を
図14〜
図16に示す。
図14〜
図16は横軸をSiO
2添加量(質量%)、縦軸をそれぞれ残留磁束密度B
r(T)(
図14)、保磁力H
cJ(
図15)及び角型比H
k/H
cJ(
図16)とし各値をプロットしたものである。図中、「無置換」は試料111〜115、「Ba」はBaのみを添加した試料401〜404、「Sr」はSrのみを添加した試料405〜408、「Sr+Ba」はSr及びBaを同時に添加した試料409〜412のデータを直線で結んだものである。
【0112】
【表5】
【0113】
図14〜
図16から明らかなように、Sr及び/又はBaを置換した組成においてもSr及びBaを含まない実施例1〜3と同様、SiO
2の添加量が1質量%を超え、かつCaOの添加量が1質量%以上である場合に高い磁石特性が得られた。
【0114】
図17は、これらのデータから、横軸をCaO/SiO
2、縦軸を保磁力H
cJとしてプロットしたグラフである。
図17から明らかなように、Sr及び/又はBaを置換した組成においてもSr及びBaを含まない実施例1〜3と同様、SiO
2及びCaOの両方を添加した場合は、CaO/SiO
2の値を0.8〜2.0にすることによって高い磁石特性が得られた。
【0115】
実施例5
組成式Sr
1-xLa
xFe
2n-zCo
zO
19-δにおいて、x=0.2、z=0.2、n=5.8及びδ≧0となるように、SrCO
3粉末、La(OH)
3粉末、Fe
2O
3粉末及びCo
3O
4粉末を配合し、SiO
2粉末及びCaCO
3粉末(CaO換算)の添加量を表6に示すように変更した以外は実施例1と同様にして焼結磁石を作製した。これらの焼結磁石は、基本組成が本願発明から外れる、いわゆるSrLaCoフェライト磁石である。
【0116】
得られた焼結磁石の残留磁束密度B
r、保磁力H
cJ及び角型比H
k/H
cJを測定した。測定結果を
図18〜
図20に示す。
【0117】
【表6】
【0118】
図18〜
図20から、SrLaCoフェライト磁石においては、1質量%を超えてSiO
2を添加した場合、著しいH
cJの改良効果は見られず、また角型比が80%未満となり良好な磁気特性が得られないことが分かる。
【0119】
実施例6
組成式Ca
1-x-yLa
xA
yFe
2n-zCo
zO
19-δにおいて、x=0.5、y=0、z=0.3、n=5.2及びδ≧0になるように配合したCaCO
3粉末、La(OH)
3粉末、Fe
2O
3粉末及びCo
3O
4粉末に、前記配合後の粉末100質量%に対してH
3BO
3粉末を0.1質量%添加し原料粉末を得た。この原料粉末を湿式ボールミルで4時間混合し、乾燥して整粒した。大気中において1300℃で3時間仮焼し、得られた仮焼体をハンマーミルで粗粉砕して粗粉砕粉を得た。
【0120】
前記粗粉砕粉に対して、SiO
2粉末1.2質量%とCaCO
3粉末(CaO換算)1.5質量%とを添加し、水を溶媒とした湿式ボールミルで平均粒度が0.5μm(空気透過法)になるまで第一の微粉砕を行った。得られた粉末を乾燥させた後、大気中で1000℃で5時間熱処理した。熱処理後の粉末の平均粒度は1.4μm(空気透過法)であった。熱処理後の粉末を再度湿式ボールミルで平均粒度が0.8μmになるまで第二の微粉砕を行った。上記の熱処理再粉砕工程によって得られた微粉砕スラリーを、溶媒を除去しながら、加圧方向と磁場方向とが平行になるように約1.3 Tの磁場をかけながら約50 MPaの圧力で成形した。得られた成形体を大気中で、1200℃で1時間焼成し、焼結磁石を得た。
【0121】
また、熱処理及び第二の微粉砕を行わずに、第一の微粉砕のみで平均粒度を0.8μm(空気透過法)とした以外は上記と同様にして焼結磁石を得た。
【0122】
得られた焼結磁石の残留磁束密度B
r、保磁力H
cJ及び角型比H
k/H
cJ[H
kは、J(磁化の大きさ)-H(磁界の強さ)曲線の第2象限において、Jが0.95B
rの値になる位置のHの値]を測定した。測定結果を表7に示す。表7において試料No.601は熱処理再粉砕工程で粉砕した場合、試料No.602は第一の微粉砕のみで粉砕した場合を示す。
【0123】
【表7】
【0124】
表7から明らかなように、熱処理再粉砕工程を採用することにより、通常の1回のみの粉砕を採用した場合に比べB
r及びH
k/H
cJは同等でH
cJが大きく向上した。
【0125】
また、実施例1の表1の試料No.113は、通常の1回のみの粉砕で平均粒度を0.55μmにした以外は本実施例と同様の方法で得られたものであり、その磁石特性は
図1〜
図3よりH
cJ=476 kA/m、Br=0.443 T及びH
k/H
cJ=81.6%である。この試料と本実施例の試料No.601とを比較すると、本実施例の試料は粉砕後の粉末の平均粒度が大きい(0.8μm)にもかかわらず、実施例1の試料(平均粒度0.55μm)に比べB
r及びH
k/H
cJはほぼ同等でH
cJは若干向上していることが分かる。すなわち、熱処理再粉砕工程を採用することにより、第二の微粉砕工程後の粉末の粒径を比較的大きくしても、通常の粉砕工程によって得られる比較的小さい粒径の粉末を用いた場合と同等のH
cJが得られる。従って、第二の微粉砕工程の時間短縮が図れるとともに、さらなる脱水性の向上、プレスサイクルの向上を図ることができる。