【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人情報通信研究機構「革新的三次元映像表示のためのデバイス技術」に係わる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基板上に、磁化自由層、中間層、および磁化固定層の順に積層したスピン注入磁化反転素子構造を備え、前記磁化自由層が積層された側から入射した光をその偏光の向きを変化させて反射して出射する光変調素子であって、
前記磁化固定層は、第1磁化固定層と、第3磁化固定層と、前記第1磁化固定層と前記第3磁化固定層との間に配置された第2磁化固定層と、を面方向に離間して、前記磁化自由層の上にそれぞれ前記中間層を挟んで有し、
前記第1磁化固定層と前記第2磁化固定層とは互いに反平行な方向の磁化に固定され、前記第3磁化固定層は前記第1磁化固定層と同じ方向の磁化に固定され、
前記第1磁化固定層および前記第3磁化固定層に一対の電極の一方を接続し、前記第2磁化固定層に前記一対の電極の他方を接続して電流を供給されることにより、前記磁化自由層の磁化方向が変化することを特徴とする光変調素子。
前記第1磁化固定層および前記第3磁化固定層と、前記第2磁化固定層と、の少なくとも一方は、交換結合した磁性膜を備えた多層構造であることを特徴とする請求項1に記載の光変調素子。
光を透過する基板と前記基板上に2次元配列された複数の画素とを備えて、前記基板を透過して前記複数の画素に入射した光を反射させて出射する空間光変調器において、前記画素が、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の光変調素子、ならびに前記光変調素子の前記第1磁化固定層に接続された第1電極、前記第2磁化固定層に接続された第2電極、および前記第3磁化固定層に接続された第3電極を備え、
前記複数の画素から1つ以上の画素を選択し、前記選択した画素について、前記光変調素子の磁化自由層の磁化方向を異なる2方向のいずれにするかをさらに選択する画素選択手段と、
前記画素選択手段が選択した画素の前記光変調素子に、前記第1電極および前記第3電極を一対の電極の一方とし、前記第2電極を一対の電極の他方として電流を供給して、前記光変調素子の磁化自由層の磁化方向を前記画素選択手段が選択した方向にする電流供給手段と、
前記電流供給手段が電流を供給した前記光変調素子の磁化自由層の磁化方向が、前記画素選択手段により選択された方向であることを判定する画素判定を、前記光変調素子の抵抗の変化を検知することにより行う画素判定手段と、を備えることを特徴とする空間光変調器。
前記画素は、前記第1磁化固定層と前記第1電極との間、または前記第3磁化固定層と前記第3電極との間に、電気的接続を接続解除自在とする選択素子を備えることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の空間光変調器。
前記画素は、前記第1磁化固定層と前記第1電極との間、前記第2磁化固定層と前記第2電極との間、および前記第3磁化固定層と前記第3電極との間から選択される2箇所に、電気的接続を接続解除自在とする選択素子を備えることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の空間光変調器。
前記画素は、前記光変調素子の2以上を、前記第1電極、前記第2電極、および前記第3電極に並列に接続して備えることを特徴とする請求項4ないし請求項7のいずれか一項に記載の空間光変調器。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る光変調素子および空間光変調器を実現するための形態について図面を参照して説明する。
【0025】
[光変調素子]
本発明に係る光変調素子は、
図1に示す空間光変調器10の画素8(空間光変調器による表示の最小単位での情報(明/暗)を表示する手段を指す。)として用いられて、下方から入射した光を反射して異なる2値の光(偏光成分)に変調して下方へ出射する。
【0026】
図2に示すように、光変調素子1は、1つの磁化自由層3と、3つの中間層21,22,23と、3つの磁化固定層11,12,13(第1磁化固定層、第2磁化固定層、第3磁化固定層)と、を積層して備える。この光変調素子1は、光を透過する基板7上に磁化自由層3を形成して、この磁化自由層3の上に、3つの中間層21,22,23を互いに離間して面方向に並べて積層し、中間層21上に第1磁化固定層11を、中間層22上に第2磁化固定層12を、中間層23上に第3磁化固定層13を、それぞれ積層して備える。詳しくは、面方向において、中間層21および第1磁化固定層11と、中間層23および第3磁化固定層13と、の間に、中間層22および第2磁化固定層12が配置される。光変調素子1は、さらに、磁化固定層11,12,13のそれぞれの上に、保護膜4を積層して備える。
図3(a)において、網掛けを付した領域が磁化固定層11,12,13である(保護膜4は図示省略)。この光変調素子1は、ここでは断面視が左90°に回転したE字型である。
図2に示す光変調素子1は、基板7上に形成され、また、第1電極(電極)51、第2電極(電極)52、第3電極(電極)53が、磁化固定層11,12,13に、それぞれ保護膜4を介して接続されている。
【0027】
平面視においては、
図1および
図3(a)に示すように、光変調素子1は正方形(矩形)である。したがって、磁化自由層3は光変調素子1と同じ正方形である。一方、中間層21,22,23および磁化固定層11,12,13は、光変調素子1を縦に3分割したように、長辺が光変調素子1(磁化自由層3)と同じ長さの長方形であり、それぞれ短辺方向(
図1、
図2における横方向)に3つの部位を離間して並べられている。以下、本明細書においては、別途記載のない限り、中間層21,22,23は、平面視における形状および配置が磁化固定層11,12,13と一致するものとして説明を省略する。平面視における大きさについては、光変調素子1が後記する磁化反転動作を好適に行うために、磁化固定層11,13の合計、および磁化固定層12のそれぞれが、300nm×400nm相当の面積以下であることが好ましく、一般的なスピン注入磁化反転素子の一個の大きさである300nm×100nm程度相当の面積であることがさらに好ましい。一方、光変調素子1の全体の、すなわち磁化自由層3の面積は特に規定されず、磁化固定層11,12,13の各面積の合計よりも膜面方向に拡張されても、後記するように磁化反転させることができる。具体的には、光変調素子1は、空間光変調器の画素アレイ(
図1参照)として2次元配列されたときに、隣り合う光変調素子1,1同士が間隔を設けて絶縁されていればよい。本実施形態に係る光変調素子1は、磁化固定層11,13が同じ形状とし、したがって、磁化固定層12が、磁化固定層11,13の2倍の短辺方向長とする。
【0028】
光変調素子1は、3つのスピン注入磁化反転素子を、磁化自由層を共有して接続した構造である。すなわち、光変調素子1は、第1磁化固定層11、中間層21、磁化自由層3からなるスピン注入磁化反転素子構造(以下、適宜、第1素子構造MR1と称する)と、第2磁化固定層12、中間層22、磁化自由層3からなるスピン注入磁化反転素子構造(以下、適宜、第2素子構造MR2と称する)と、第3磁化固定層13、中間層23、磁化自由層3からなるスピン注入磁化反転素子構造(以下、適宜、第3素子構造MR3と称する)を備えるといえる(
図4(a)参照)。なお、磁化固定層11,12,13、素子構造MR1,MR2,MR3、および電極51,52,53に付される「第1」、「第2」、「第3」は、互いを識別し易くするためのものであり、位置関係や何らかの順位付けを規定するものではない。
【0029】
素子構造MR1,MR2,MR3は、磁化が一方向に固定された磁化固定層11,12,13および磁化の方向が回転可能な磁化自由層3を、非磁性または絶縁体である中間層21,22,23を挟んで備えたCPP−GMR(Current Perpendicular to the Plane Giant Magneto-Resistance:垂直通電型巨大磁気抵抗効果)素子やTMR(Tunnel MagnetoResistance:トンネル磁気抵抗効果)素子等のスピン注入磁化反転素子構造である。特に、磁化固定層11,13の磁化方向が平行である素子構造MR1,MR3は、抵抗変化率の高いTMR素子であることが好ましい。さらに、光変調素子1は、光変調素子1の製造時におけるダメージからこれらの層を保護するために、最上層に保護膜4が設けられている。以下、光変調素子を構成する各要素について、詳細に説明する。
【0030】
(磁化固定層)
磁化固定層11,12,13は磁性体であり、後記するように、磁化方向がそれぞれ固定されている。このような磁化固定層11,12,13は、CPP−GMR素子やTMR素子に用いられる公知の磁性材料にて構成することができ、特に、磁化自由層3の極カー効果で旋光角θkが大きくなる垂直磁気異方性材料を適用することが好ましい。具体的には、Fe,Co,Ni等の遷移金属とPd,Ptのような貴金属とを繰り返し積層したCo/Pd多層膜のような多層膜、Tb−Fe−Co,Gd−Fe等の希土類金属と遷移金属との合金(RE−TM合金)、L1
0系の規則合金としたFePt, FePd等が挙げられる。
【0031】
また、磁化自由層3の磁化方向が回転しても磁化固定層11,12,13の磁化が固定されているように、磁化固定層11,12,13は、その保磁力Hcp
1,Hcp
2,Hcp
3が磁化自由層3の保磁力Hcfよりも十分に大きくなるように、それぞれの材料を選択したり、磁化自由層3よりも厚く形成される。具体的には、磁化固定層11,12,13の厚さは3〜50nmの範囲において設計されることが好ましい。
【0032】
光変調素子1において、磁化固定層11,13は同じ(平行)方向の磁化に固定され、磁化固定層12は磁化固定層11,13と反対(反平行)方向の磁化に固定される。このような磁化方向とする初期設定を容易にするために、磁化固定層11,12,13は、保磁力Hcp
1,Hcp
2,Hcp
3が磁化自由層3の保磁力Hcfよりも大きいことに加えて、保磁力Hcp
1と保磁力Hcp
3が互いに略一致する大きさで、かつ保磁力Hcp
2と異なる大きさになるように設計されることが好ましい。ここでは、第2磁化固定層12の保磁力Hcp
2がより大きい、すなわちHcf<<Hcp
1=Hcp
3<Hcp
2とする。本実施形態に係る光変調素子1は、平面視において磁化固定層12が磁化固定層11,13の2倍の面積であるので、第2磁化固定層12の保磁力Hcp
2が比較的大きくなる傾向があるが、さらに、磁化固定層11,12,13(磁化固定層11,13と磁化固定層12)を、互いに異なる材料や厚さとしてもよい。
【0033】
(磁化自由層)
磁化自由層3は磁性体であり、磁化固定層11,12,13が磁化方向を固定されているのに対し、磁化自由層3はスピン注入によって磁化を容易に反転(180°回転)させることができ、磁化固定層11,13および磁化固定層12のいずれか一方と同じ磁化方向を示す。磁化自由層3は前記の公知の磁性材料にて構成することができ、磁化固定層11,12,13と同様に、垂直磁気異方性材料を適用することが好ましい。特に、磁化自由層3は、光変調素子1(空間光変調器の画素)への入射光の波長において磁気光学効果の大きい材料を選択することがより好ましい。例えば、短波長域(400nm近傍)はCo/Pt多層膜、長波長域(700nm近傍)はGd−Fe合金が好適である。
【0034】
また、前記した通り、磁化自由層3は、保磁力Hcfが磁化固定層11,12,13の保磁力Hcp
1,Hcp
2,Hcp
3よりも小さくなるように、材料を選択したり、磁化固定層11,12,13よりも薄く形成される。具体的には、磁化自由層3の厚さは1〜20nmの範囲において設計されることが好ましい。
【0035】
(中間層)
中間層21,22,23は、それぞれ磁化自由層3上に、磁化固定層11,12,13との間に設けられる。中間層21,22,23は、素子構造MR1,MR2,MR3がTMR素子であれば、MgO,Al
2O
3,HfO
2のような絶縁体や、Mg/MgO/Mgのような絶縁体を含む積層膜からなり、その厚さは0.6〜2nm程度とすることが好ましく、1nm以下とすることがさらに好ましい。また、中間層21,22,23は、素子構造MR1,MR2,MR3がCPP−GMR素子であれば、Cu,Ag,Al,Auのような非磁性金属やZnO等の半導体からなり、その厚さは1〜10nmとすることが好ましい。特に中間層21,22,23(以下、区別しない場合に、適宜、中間層2と称する)は、Agを適用して厚さ6nm以上とした場合、光変調素子1に入射した光を高反射率で反射するため、出射する光の量が多くなってコントラストが向上するので好ましい。
【0036】
(保護膜)
保護膜4は、光変調素子1の製造時におけるダメージから磁化固定層11,12,13等の各層を保護するために、最上層に設けられている。保護膜4は、Ta,Ru,Cuの単層、またはCu/Ta,Cu/Ruの2層等から構成される。なお、前記の2層構造とする場合は、いずれもCuを内側(下層)とする。保護膜4の厚さは、1nm未満であると連続した膜を形成し難く、一方、10nmを超えて厚くしても、製造工程において磁化固定層11,12,13等を保護する効果がそれ以上には向上しない。したがって、保護膜4の厚さは1〜10nmとすることが好ましい。なお、磁化固定層11,12,13のそれぞれの上に設けられる保護膜4,4,4は、材料および厚さを同一としなくてもよい。
【0037】
(光変調素子の磁化反転動作)
次に、本実施形態における光変調素子の磁化反転の動作を、
図4を参照して説明する。なお、
図4において保護膜4は図示を省略する。光変調素子1において、第1磁化固定層11および第3磁化固定層13は上向きに、第2磁化固定層12は下向きに、それぞれ磁化が固定されている。また、光変調素子1は、第1電極51および第3電極53が電源95の同極に接続され、異極(対極)に第2電極52が接続される。
【0038】
まず、磁化自由層3を
図4(a)に示す下向きの磁化から、
図4(c)に示す上向きの磁化に反転させる光変調素子1の動作を説明する。
図4(b)に示すように、電源95から電流−I
Wを供給して、第1磁化固定層11に接続した第1電極51および第3磁化固定層13に接続した第3電極53を「−」に、第2磁化固定層12に接続した第2電極52を「+」にして、第1磁化固定層11、第3磁化固定層13のそれぞれの側から電子を注入する。すると、第1磁化固定層11により当該第1磁化固定層11の磁化と逆方向の下向きのスピンを持つ電子d
2が弁別されて、上向きのスピンを持つ電子d
1のみが第1電極51から第1磁化固定層11に注入され、さらにその下の磁化自由層3に中間層21を介して注入される。同様に、第3磁化固定層13により当該第3磁化固定層13の磁化と逆方向の下向きのスピンを持つ電子d
2が弁別されて、上向きのスピンを持つ電子d
1のみが第3電極53から第3磁化固定層13に注入され、さらにその下の磁化自由層3に中間層23を介して注入される。磁化自由層3においては、電子d
1の上向きスピンによるスピントルクが作用することによって当該磁化自由層3の内部電子のスピンが反転し、磁化固定層11,13それぞれの直下の領域から磁化が上向きへと反転する。さらに、磁化自由層3に注入された電子d
1は、磁化が逆方向の第2磁化固定層12により弁別されるために磁化自由層3に留まり、その結果、
図4(c)に示すように、磁化自由層3は、磁化固定層11,13および磁化固定層12が積層された領域だけでなく、磁化固定層11と磁化固定層12、磁化固定層13と磁化固定層12の2つの領域に挟まれたそれぞれの領域も含めて、すなわち全体が、第1磁化固定層11,13の磁化方向と同じ上向きの磁化を示す状態に変化(磁化反転)する。
【0039】
次に、磁化自由層3を
図4(c)に示す上向きの磁化から、
図4(a)に示す下向きの磁化に反転させる光変調素子1の動作を説明する。前記の
図4(b)に示す動作とは反対に、
図4(d)に示すように、電源95から電流+I
Wを供給して、第1電極51および第3電極53を「+」に、第2電極52を「−」にして第2磁化固定層12側から電子を注入する。すると、磁化自由層3には第2磁化固定層12から下向きのスピンを持つ電子d
2のみが中間層22を介して注入され、電子d
2の下向きスピンによるスピントルクが作用することによって当該磁化自由層3の内部電子のスピンが反転し、第2磁化固定層12の直下の領域から磁化が下向きへと反転する。さらに、磁化自由層3に注入された電子d
2は、第1磁化固定層11および第3磁化固定層13へ向かうように
図4(d)において左右に拡がるが、これら磁化が逆方向の磁化固定層11,13により弁別されて留まり、その結果、磁化自由層3は、
図4(a)に示すように、全体が第2磁化固定層12の磁化方向と同じ下向きの磁化を示す状態に変化(磁化反転)する。
【0040】
このように、本実施形態における光変調素子1は、磁化自由層3の同じ側(上側)の面に中間層21,22,23を挟んで積層された3つの磁化固定層11,12,13のそれぞれに電極51,52,53を接続し、両端の電極51,53と間の電極52とに電流−I
W(または+I
W)を供給することで、
図4において左右対称な2つの断面視U字型の電流経路が形成されて、磁化自由層3の磁化方向を変化させる(磁化反転させる)ことができる。言い換えると、光変調素子1は、並設デュアルピン構造のスピン注入磁化反転素子の1つのスピン注入磁化反転素子を二分割して素子構造MR1,MR3とし、もう1つのスピン注入磁化反転素子をそのまま素子構造MR2としたものである。したがって、本実施形態における光変調素子1は、素子構造MR1,MR3の合計および素子構造MR2のそれぞれを、スピン注入磁化反転に好適な小さな面積として、共有される磁化自由層3において電流が流れる膜面方向に磁壁が移動して磁化反転するので、この磁化自由層3を大きな面積に形成することができる。また、光変調素子1は、磁化固定層11,12および磁化固定層13,12のそれぞれ2つ分の磁化固定層によるスピン注入駆動のため、磁化反転動作が安定したものとなる。なお、電流−I
W,+I
Wの大きさ|I
W|は、光変調素子1の磁化自由層3を磁化反転させる電流(磁化反転電流)I
STS以上であればよい。この磁化反転電流I
STSは、電流密度が光変調素子1の3つのスピン注入磁化反転素子構造MR1,MR2,MR3の磁化反転電流密度であり、素子構造MR1,MR2,MR3の各層の材料や厚さ等によって決定される。
【0041】
なお、
図4(a)、(c)にそれぞれ示すように、光変調素子1は、磁化自由層3が下向きの磁化を示すときに電流+I
Wを供給されたり、反対に磁化自由層3が上向きの磁化を示すときに電流−I
Wを供給されても、磁化自由層3の磁化方向は変化しない。また、光変調素子1は、磁化自由層3の磁化方向が上または下に一様であるときに電流供給を停止されても、磁化自由層3自体の保磁力Hcfにより磁化方向が変化することはない。したがって、光変調素子1の駆動電流として、パルス電流のように磁化方向を反転させる電流値(≧I
STS)に一時的に到達する電流を用いることができる。
【0042】
(光変調素子の光変調動作)
次に、光変調素子1の光変調の動作を、
図5を参照して説明する。光変調素子1に入射した光が磁性体である磁化自由層3で反射すると、磁気光学効果により、光はその偏光の向きが変化(旋光)して出射する。さらに、磁性体の磁化方向が180°異なると、当該磁性体の磁気光学効果による旋光の向きは反転する。したがって、
図5(a)、(b)にそれぞれ示す、磁化自由層3の磁化方向が互いに180°異なる光変調素子1における旋光角は−θk,+θkで、互いに逆方向に偏光面が回転する。このように、光変調素子1は、その出射光の偏光の向きを、供給される電流I
Wの向き(正負)に応じて変化させることで後記の空間光変調器等の画素として機能する。なお、旋光角−θk,+θkは、光変調素子1での1回の反射による旋光(カー回転)に限られず、例えば多重反射により累積された角度も含める。
【0043】
本発明に係る光変調素子は、前記した通り、空間光変調器の画素として2次元配列されて設けられる。ここで、多数の画素が2次元状に規則的に配列された構造を有する空間光変調器は、平行な波面を有して直進する光が各画素に入射すると、当該画素の端部でその光の進む方向が曲げられ(回折現象)、出射した光による干渉効果(波の強め合いと弱め合い)によって、光の強め合う方向が複数本に分離する。この回折現象により、入射光の直進方向に対して回折角φ
nの角度に曲げられた±1次、±2次、・・・、±n次の回折光が生じる(nは、0または自然数)。回折角φ
nは、入射光の波長λおよび画素ピッチpに依存する。なお、空間光変調器をホログラフィ装置に応用する際には、一般的には1次回折光が用いられる。n=0における0次回折光は、反射型の空間光変調器においては、入射角と同一角度で反射する反射光と等価である(透過型の空間光変調器の場合は、入射光の直進方向と同一方向の透過光と等価である)。したがって、本明細書において、光変調素子(空間光変調器の画素)から出射した反射光(出射光)とは、前記のn次回折光も含まれるものとして説明する。この回折光においても、磁性体(磁化自由層)の磁化方向に応じて、ファラデー効果またはカー効果による偏光の向きの変化(旋光)が生じる。
【0044】
本発明に係る光変調素子1は、磁化自由層3の側すなわち下方から光を入射され、反射させて下方へ出射する。そのため、
図2に示すように、光変調素子1は透明な基板7上に形成され、基板7を透過した光が入射される。そして、磁化固定層11,12,13上に設けられる電極51,52,53は、光を透過させる必要がないので、低抵抗の金属材料を適用することができる(後記の空間光変調器の実施形態において説明する)。
【0045】
(光変調素子の抵抗変化)
次に、本実施形態における光変調素子の磁化反転による抵抗の変化を、
図5を参照して説明する。
図5(a)、(b)のそれぞれに示す光変調素子1は、
図4(a)、(c)に示す光変調素子1と同じ磁化状態である。なお、詳しくは後記するが、
図5において、光変調素子1に副電源96から供給されている電流I
TSTは、磁化反転電流I
STSよりも小さく、光変調素子1の磁化状態を変化させるものではない。光変調素子1は、前記した通り3つのスピン注入磁化反転素子構造MR1,MR2,MR3を備えている(
図4(a)参照)。
【0046】
図5(a)に示す光変調素子1は、磁化自由層3の磁化方向が下向きで第1磁化固定層11と磁化方向が反平行、すなわち第1素子構造MR1の磁化が反平行(AP)(
図15(b)参照)である。このときの第1素子構造MR1の抵抗をR1
APと表す。そして、このとき、磁化自由層3は第3磁化固定層13とも磁化方向が反平行、すなわち第3素子構造MR3の磁化が反平行(AP)であり、このときの第3素子構造MR3の抵抗をR3
APと表す。同時に、
図5(a)に示す光変調素子1は、磁化自由層3が第2磁化固定層12と磁化方向が平行、すなわち第2素子構造MR2の磁化が平行(P)(
図15(a)参照)である。このときの第2素子構造MR2の抵抗をR2
Pと表す。
【0047】
一方、
図5(b)に示す光変調素子1は、磁化自由層3の磁化方向が上向きで第1磁化固定層11および第3磁化固定層13と磁化方向が平行であり、この磁化が平行(P)である第1素子構造MR1の抵抗をR1
P、第3素子構造MR3の抵抗をR3
Pと表す。同時に、
図5(b)に示す光変調素子1は、磁化自由層3が第2磁化固定層12と磁化方向が反平行であり、この磁化が反平行(AP)である第2素子構造MR2の抵抗をR2
APと表す。
【0048】
磁化が平行、反平行のときのスピン注入磁化反転素子の抵抗は、面積、各層の材料や厚さ等によって決定されるので、素子構造MR1,MR2,MR3の材料、さらに素子構造MR1,MR3の形状等が同一に形成されている、あるいはその差異が抵抗に与える影響が小さく、素子構造MR2の平面視の面積が素子構造MR1,MR3の2倍である場合、下式(1)〜(4)で近似的に表すことができる。ここで、R
P,R
APは、素子構造MR1,MR3の各抵抗を標準化して表したものである。
R
P=R1
P=R3
P ・・・(1)
R
AP=R1
AP=R3
AP ・・・(2)
R
P/2=R2
P ・・・(3)
R
AP/2=R2
AP ・・・(4)
【0049】
光変調素子1について、磁化反転動作における電源95との接続(
図4参照)と同様に、電極52と互いに導通させた電極51,53との間で測定される抵抗は、並列に接続された素子構造MR1,MR3の合成抵抗と素子構造MR2の抵抗との和である。素子構造MR1,MR3は、磁化の平行、反平行の状態が同じであるので、これらの合成抵抗はR
P/2、R
AP/2である。したがって、素子構造MR1,MR3の磁化が平行であるときに反平行となり、反平行であるときに平行となる素子構造MR2と、素子構造MR1,MR3の合成抵抗との和は磁化自由層3の磁化反転で変化しない。
【0050】
これに対して、光変調素子1において、磁化の平行、反平行の状態が同じである素子構造MR1,MR3の合成抵抗は、磁化自由層3の磁化反転により変化する。具体的には、第2電極52を開放(open)状態として、素子構造MR1,MR3の磁化固定層11,13に接続された電極51と電極53との間で測定される抵抗は、素子構造MR1,MR3の各抵抗の和であり、次のように変化する。
【0051】
図5(a)に示す光変調素子1について、電極51,53間で測定される抵抗R13
Dは、下式(5)で表される。同様に、
図5(b)に示す光変調素子1について、電極51,53間で測定される抵抗R13
Uは、下式(6)で表される。
R13
D=R1
AP+R3
AP=2R
AP ・・・(5)
R13
U=R1
P+R3
P=2R
P ・・・(6)
【0052】
スピン注入磁化反転素子は、磁化が反平行の方が平行よりも抵抗が大きい。光変調素子1のスピン注入磁化反転素子構造MR1,MR3の1つあたりの磁化反転による抵抗の変化量(R
AP−R
P)を、ΔR(>0)と表す。すると、式(5)、(6)より、電極51,53間で測定される光変調素子1の抵抗R13
D,R13
Uの変化量ΔR13は、下式(7)で表されることになる。
ΔR13=R13
D−R13
U=2R
AP−2R
P=2ΔR ・・・(7)
【0053】
このように、光変調素子1は、磁化自由層を共有するスピン注入磁化反転素子構造を3つ備えて、うち2つすなわち素子構造MR1,MR3を磁化の平行、反平行が同じとなるように磁化固定層11,13の磁化を同じ(平行な)方向に固定することで、磁化反転動作においては電源95の同極に接続していた電極51,53間の抵抗が、
図15に示すような一般的なスピン注入磁化反転素子と同様に、磁化反転動作により変化する。そして、その変化量は、素子構造MR1,MR3の1つの抵抗の変化量ΔRの2倍である。そして、この抵抗の変化量は、光変調素子1の3つのスピン注入磁化反転素子構造MR1,MR2,MR3のそれぞれの面積あたりの抵抗およびその変化量に差を設ける必要がないので、材料等を特に異なるものを選択することなく、設計や製造が複雑化しない。
【0054】
光変調素子1は、電極51,53間で測定される抵抗であれば磁化反転動作により変化し、第2電極52をopen状態とせずに電極51,53の一方に接続して抵抗を測定することもできる。例えば、同極に接続した電極52,53と、第1電極51との間で測定される抵抗は、並列に接続された素子構造MR2,MR3の合成抵抗と第1素子構造MR1の抵抗との和である。素子構造MR2は、磁化の平行、反平行の状態が素子構造MR1,MR3と異なり(
図5参照)、さらに前記の式(1)〜(4)が成立する場合、その抵抗は素子構造MR1,MR3の1/2であり、すなわち磁化反転による変化量は1/2である。したがって、並列に接続された素子構造MR2,MR3の合成抵抗は、その変化量が第3素子構造MR3単独よりは小さいが、第1素子構造MR1の抵抗と同じように上昇、下降する。このことから、電極52,53と第1電極51との間で測定される抵抗の変化量ΔR123は、素子構造MR1の1個の抵抗の変化量よりも大きく、すなわちΔR123>ΔRである。
【0055】
光変調素子1は、電極51,53の一方をopen状態として、電極53,52間または電極51,52間で抵抗を測定することもできる。この場合に測定される抵抗は、第2素子構造MR2の抵抗と第1素子構造MR1または第3素子構造MR3の抵抗との和であるから、前記の式(1)〜(4)が成立する場合、磁化反転による変化量はΔR/2である。
光変調素子1の抵抗値の測定方法の詳細は、空間光変調器の書込みエラー検出(画素判定)方法の説明にて後記する。
【0056】
光変調素子1の別の実施形態として、磁化固定層11,13と磁化固定層12とは、保磁力Hcp
1(Hcp
3),Hcp
2に差を設けることに代えて、少なくとも一方を、交換結合した磁性膜を備えた多層構造としてもよい。具体的には、磁化固定層11,12,13は、Ru等の磁気交換結合膜を挟んで、Co−Fe膜、またはCo−Fe/Tb−Fe−Co等の積層膜をさらに積層した3、4層程度の多層構造としてもよい。例えば、中間層2の側から、Co−Fe/Ru/Co−Feの3層構造に、Tb−Fe−Co等の保磁力の大きな垂直磁化膜を積層したCo−Fe/Ru/Co−Fe/Tb−Fe−Coの4層構造とすることができる。このような多層構造において、磁気交換結合膜を挟んだ磁性膜同士は、磁気交換結合膜の厚さによって、互いに反平行な、または平行な磁化方向を示す。
【0057】
例えば、磁化固定層11,13はCo−Fe(5nm)の単層とし、磁化固定層12は中間層22の側から、Co−Fe(2nm)/Ru(0.7nm)/Co−Fe(5nm)の3層構造とする。なお、( )内は厚さを示す。このような光変調素子1に磁界を印加すると、磁化固定層11,12,13のそれぞれにおける5nm厚さのCo−Fe膜の磁化方向が印加磁界の向きに揃い、磁化固定層12の中間層22側の2nm厚さのCo−Fe膜の磁化方向が反平行な磁化方向となる。あるいは磁化固定層11,12,13のすべてに磁気交換結合膜を設けた場合、磁化固定層12は前記と同じ3層構造とし、磁化固定層11,13は中間層21,23の側から、Co−Fe(5nm)/Ru(0.7nm)/Co−Fe(2nm)の各層の厚さを変えた3層構造とする。このような光変調素子1に磁界を印加した場合も、磁界の向きに5nm厚さのCo−Fe膜の磁化方向が揃い、Ru膜を隔てた2nm厚さのCo−Fe膜の磁化方向が反平行な磁化方向となるため、磁化固定層11,13と磁化固定層12のそれぞれの中間層2の側のCo−Fe膜の磁化方向が互いに反平行となる。磁化固定層11,13および磁化固定層12の少なくとも一方がこのような多層構造であることにより、磁化固定層11,13と磁化固定層12(多層構造における中間層2の側の磁性膜)を互いに反対方向の磁化に容易に初期設定することができる。このような光変調素子1についても、前記に説明したように磁化自由層3が磁化反転して、光変調動作をし、また抵抗が変化するので、空間光変調器10の画素8に設けることができる。
【0058】
さらに光変調素子1の別の実施形態として、磁化固定層11,12,13、および磁化自由層3は、面内磁気異方性材料で形成されてもよい。具体的には、Ni,Fe,Coのような遷移金属や、Ni−Fe,Ni−Fe−Mo,Co−Cr,Co−Fe,Co−Fe−B,Co−Fe−Si,Co−Fe−Ge等の遷移金属合金、あるいはCo−Pt等の遷移金属と貴金属との合金が挙げられる。あるいはMn−Bi合金、Mn/Bi多層膜、Pt−Mn−Sb合金、Pt/Mn−Sb多層膜等の磁気光学効果の大きなMn含有磁性合金を用いることができる。さらに磁化固定層11,13および磁化固定層12について、少なくとも一方を交換結合した磁性膜を備えた多層構造とする場合は、例えば、中間層2の側からCo−Fe/Ru/Co−Fe/Ir−Mnの4層構造とすることができる。最上層のIr−Mnに代えて、Fe−Mn,Pt−Mn等の反強磁性材料を適用することもできる。
【0059】
このような面内磁気異方性とした磁化固定層11,13と磁化固定層12は、面内方向における一方向とその反対方向に磁化を固定され、例えば
図1および
図3(a)に示す平面視形状の光変調素子1においては、長方形の当該磁化固定層11,12,13の長辺方向(
図1における縦方向)に固定されることが好ましい。このような光変調素子1は、垂直磁気異方性の場合と同様に、磁化反転により、磁化自由層3が磁化固定層11,12のいずれか一方と平行で他方と反平行の磁化方向を示し、また、磁化反転動作に伴い電極51,53間の抵抗が変化する(図示省略)。
【0060】
図4を参照して説明した通り、光変調素子1の素子構造MR1,MR2,MR3はバイポーラ(双極性)駆動によりスピン注入磁化反転するが、ユニポーラ(単極性)駆動式のスピン注入磁化反転素子構造を適用してもよい。一例として、大塚雄太他、「ユニポーラ電流によるスピン注入磁化反転」、2012年春季第59回応用物理学関係連合講演会予稿集、17p−B4−8、2012年2月、に記載された、磁化自由層に特定のフェリ磁性体材料を適用したスピン注入磁化反転素子が挙げられる。かかるスピン注入磁化反転素子を素子構造MR1,MR2,MR3に適用することにより、光変調素子1(1D)は、2値の大きさの電流を一方向に供給することで、磁化自由層の磁化方向を下向きから上向き、上向きから下向きの両方向の磁化反転動作が可能である(図示省略)。
【0061】
光変調素子1は、
図1および
図3(a)にて平面視形状を正方形としたが、これに限られない。さらに、磁化固定層11,12,13(素子構造MR1,MR2,MR3)の配置と形状も縦3分割の同一形状の長方形に限られない。以下、
図3(b)、(c)を参照して、変形例に係る光変調素子について説明する。なお、
図3(b)、(c)において、網掛けを付した領域が磁化固定層11,12,13である(保護膜4は図示省略)。例えば、
図3(b)に示す変形例に係る光変調素子1Bは、平面視において、正方形の対角の2つの角のそれぞれを含む直角三角形に、磁化固定層11,13が形成されている。そして、磁化固定層11,13間に、磁化固定層12が残りの2つの角を含んだ細長い六角形に形成されている。言い換えると、光変調素子1Bは、正方形を斜め45°の線に沿って3分割して、磁化固定層11,12,13を設けたものである。
【0062】
また、光変調素子1は、磁化固定層11,12,13(素子構造MR1,MR2,MR3)を一方向に並べて配置されなくてもよい。例えば、
図3(c)に示す変形例に係る光変調素子1Cは、平面視において、長方形の磁化固定層11,13が、間に磁化固定層12を設けずに、並べて配置されている。そして、磁化固定層12は、磁化固定層11,13の並び方向(
図3(c)における左右方向)に直交する側に対向して配置され、磁化固定層11,13を含む全幅の長さであって、かつ磁化固定層11,13の合計に相当する面積の長方形に形成されている。光変調素子1B,1Cは、このような平面視形状であっても、前記実施形態と同様に、電極51,53と電極52から電流を供給されて磁化反転動作をし、それに伴い電極51,53間の抵抗が変化する。このように、本発明に係る光変調素子は、素子構造MR1,MR2,MR3のスピン注入磁化反転により、当該光変調素子が入射光を光変調する領域(ここでは全体)において磁化自由層3の磁化方向を反転させることができればよい。なお、光変調素子1Cにおいては、素子構造MR1,MR3間の磁化自由層3の一部に電子が注入されず磁化反転しない領域が生じ得るが、入射光の回折限界未満の幅(長さ)であれば、光変調への影響はないといえる。
【0063】
光変調素子1は、中間層21,22,23を、磁化固定層11,12,13と同一形状として互いに離間させて設けているがこれに限られず、離間させずに設けることもできる。詳しくは、隣り合う2つの中間層2,2、すなわち中間層21,22の両方、または中間層23,22の両方が絶縁体のみからなる場合は、このような隣り合う2つの中間層2,2同士が接触していてもよく、特に同じ絶縁体材料からなるのであれば、磁化自由層3と同様に一体に設けてもよい(図示省略)。
【0064】
以上のように、本発明に係る光変調素子は、2つ分の磁化固定層により磁化反転動作が安定し、かつ全体の面積を大きくすることができるので、空間光変調器の画素に備えてその開口率を高くすることができる。さらに、本発明に係る光変調素子は、磁化反転により特定の電極間の抵抗が変化する磁気抵抗効果素子であるので、磁化自由層の磁化方向を検知することが容易で、空間光変調器等の画素としてのみならず、従来のスピン注入磁化反転素子と同様に、MRAM用のメモリ素子に適用することができる。
【0065】
[空間光変調器]
(第1実施形態)
次に、前記の本発明に係る光変調素子を画素に備える空間光変調器について、図面を参照してその実施形態を説明する。
図1に示すように、本発明の第1実施形態に係る空間光変調器10は、基板7と、基板7上に2次元アレイ状に配列された画素8からなる画素アレイ80と、画素アレイ80から1つ以上の画素8を選択して駆動する電流制御部90を備える。
図1は基板7側からの底面図であり、画素8においては、電極51,52,53の下の基板7上に光変調素子1が配される(
図2、
図6参照)。空間光変調器10の光の入射面は底面(下面)であり、空間光変調器10は、基板7を透過して画素8(画素アレイ80)に下方から入射した光を変調して下方へ出射する反射型の空間光変調器である(
図6参照)。
【0066】
空間光変調器10の画素8に設けられた光変調素子1は、前記した通り、磁化反転動作(書込み)においては、電源95に、電極51,53を同極に、異極に第2電極52が接続され、一方、磁化反転動作に伴う抵抗の変化の読出し(書込みエラー検出)においては、第1電極51と第3電極53が副電源96の異極同士に接続されて、第2電極52をopen状態にする。本実施形態に係る空間光変調器10の画素アレイ80において、画素8(光変調素子1)毎に前記の接続を可能とするために、電極51,52,53は互いに独立して光変調素子1に接続するように、以下の通りに設けられる。
【0067】
本実施形態では、画素アレイ80は、説明を簡潔にするために、4行×4列の16個の画素8からなる構成で例示される。画素アレイ80は、平面(底面)視でY方向(
図1における縦方向)に延設された4本の第1電極51と、平面視で第1電極51と直交するX方向(
図1における横方向)に延設された4本の第2電極52と、対角線方向(以下、Z方向と称する)に延設された7本の第3電極53と、を備える。このように、画素アレイ80において、電極51,52,53は、互いに非平行な配線となるように、列単位、行単位、対角線方向の並び単位で画素8に共有されて設けられる。そのため、適宜、第1電極51をX電極51、第2電極52をY電極52、第3電極53をZ電極53と称する。なお、すべての画素8を選択するために、X電極51、Y電極52は、それぞれ画素アレイ80における列数、行数と同じ本数を備えればよいが、Z電極53は(列数+行数−1)の本数を備える。
【0068】
ここで、前記した通り、空間光変調器10の画素8に設けられた光変調素子1は、同一面に離間して形成された磁化固定層11,12,13のそれぞれに電極51,52,53を接続される。また、画素アレイ80において、光変調素子1は、磁化固定層11,12,13の並び方向をX方向にして配置されている。そのため、この並び方向に直交するY方向に延設されて第1磁化固定層11に接続する第1電極51は、隣の(右側のまたは左隣の光変調素子1の)第2磁化固定層12または第3磁化固定層13に接触しない程度の幅の帯状の配線に形成され、
図2に示すように、光変調素子1上に直接に接続する高さ位置に設けられる。
【0069】
一方、Z方向に延設されて第3磁化固定層13に接続する第3電極53は、第1磁化固定層11と第1電極51との接続を妨げないように、かつ第1電極51と短絡しないように、
図2に示すように、帯状の配線部分(配線部53a)が第1電極51の上(光変調素子1から離れた側)に層間絶縁層(絶縁部材6)を介して設けられる。同様に、X方向に延設されて第2磁化固定層12に接続する第2電極52は、第1磁化固定層11と第1電極51との接続を妨げないように、かつ第1電極51や第3電極53と短絡しないように、
図1に示す帯状の配線部分(配線部52a)が第3電極53の配線部53aの上に層間絶縁層(絶縁部材6)を介して設けられる。また、
図3(a)に二点鎖線で示すように、磁化固定層12,13上には、互いに、かつ第1電極51と短絡しないように、電極52,53の各接続部52c,53cが形成される。そして、
図2に示すように、第3電極53は、接続部53cと配線部53aを層間接続部53b(コンタクト)で接続する。一方、第2電極52は、接続部52cを、層間接続部52b1、中継接続部52d、および層間接続部52b2を介して、配線部52aに接続する。特に、第1電極51と第3電極53の接続部53cとの間に配置される接続部52cは、平面視Y方向(
図3(a)では光変調素子1の上方)に張り出して、層間接続部52b1と接続可能な平面視サイズで設けられる。なお、
図2および
図6において、第3電極53の配線部53aは、第2電極52の配線部52aの奥に隠れる位置である。また、
図1において、第2電極52および第3電極53は、それぞれ配線部52a,53aのみを示す。
【0070】
X電極51、Y電極52(配線部52a)、およびZ電極53(配線部53a)は、それぞれ光変調素子1の磁化反転動作のための電流−I
W,+I
Wを流すために、適切な幅および厚さ(高さ)に形成される。本実施形態においては、磁化固定層11,13よりも面積の広い第2磁化固定層12に接続されるY電極52の配線部52aが、X電極51およびZ電極53(配線部53a)よりも幅太に形成される。さらに、画素アレイ80は、隣り合う光変調素子1,1間、X電極51,51間、Z電極53,53間、Y電極52,52間、およびX電極51とZ電極53、Z電極53とY電極52の各層間に、すなわち
図2において空白で表された領域に、絶縁部材6が形成されている。
【0071】
(光変調素子)
光変調素子1は、既に説明した構成であり、説明を省略する。なお、画素アレイ80に設けられたすべての光変調素子1は、ここでは、第1磁化固定層11および第3磁化固定層13を上向きに、第2磁化固定層12を下向きに固定されている(
図6参照)。また、磁化自由層3は、磁化方向が上向きのときには+θk、磁化方向が下向きのときには−θkの角度で、入射した光の偏光の向きを回転させる(
図5参照)。なお、光変調素子1は、基板7への密着性を得るために、基板7との間(磁化自由層3の下)に金属薄膜からなる下地膜を備えてもよい(図示省略)。このような下地膜は、Ta,Ru,Cu等の非磁性金属材料で、厚さ1〜10nmとすることが好ましい。下地膜は、厚さが1nm未満であると連続した膜を形成し難く、一方、10nmを超えると入出射する光が吸収されて効率が低下する。
【0072】
(電極)
電極51,52,53は、いずれも光変調素子1(磁化自由層3)に対して光の入出射側の反対側に配置されるので、光を遮ることがなく、低抵抗の金属材料で形成することができる。したがって、電極51,52,53は、例えば、Cu,Al,Au,Ag,Ta,Cr等の金属やその合金のような一般的な金属電極材料で形成される。そして、スパッタリング法等の公知の方法により成膜、フォトリソグラフィ、およびエッチングまたはリフトオフ法等によりストライプ状等の所望の形状に加工される。
【0073】
(基板)
基板7は、画素8を2次元配列するための土台であり、光変調素子1を製造するための広義の基板である。また、本実施形態に係る空間光変調器10は基板7側から光を入出射するので、基板7は光を透過させる材料からなる。このような基板7として、公知の透明基板材料が適用でき、具体的には、SiO
2(酸化ケイ素、ガラス)、MgO(酸化マグネシウム)、サファイア、GGG(ガドリニウムガリウムガーネット)、SiC(シリコンカーバイド)、Ge(ゲルマニウム)単結晶基板等を適用することができる。また、基板7上に、Si−N(シリコン窒化物)、ZnO(酸化亜鉛)、HfO
2(酸化ハフニウム)、ZrO
2(酸化ジルコニウム)等の、基板7に対して高屈折率の誘電体(絶縁体)層を設けて、その上に光変調素子1を形成してもよい。あるいは、基板7上に、ITO(酸化インジウムスズ)、IZO(インジウム酸化亜鉛)等の高屈折率の透明酸化物半導体(透明導電体)層を成膜し、その上にSiO
2(ガラス)、Si−N(シリコン窒化物)等の誘電体(絶縁体)層を積層し、さらにその上に光変調素子1を形成してもよい。また、前記透明酸化物半導体(導電体)層と前記誘電体(絶縁体)層とを、交互に積層した多層膜を形成し、その上に光変調素子1を形成してもよい(図示省略)。光変調素子1(磁化自由層3)で反射した光が誘電体層と基板7との界面で反射して、再び光変調素子1に入射するという動作を繰り返すため、光が基板7を透過して出射するまでに、光変調素子1で何回も旋光を繰り返して旋光角が累積されて大きくなり、明暗のコントラストが向上する。
【0074】
(絶縁部材)
絶縁部材6は、光変調素子1における磁化固定層11,12間および中間層21,22間(素子構造MR1,MR2間)、磁化固定層12,13間および中間層22,23間(素子構造MR2,MR3間)、ならびに隣り合う光変調素子1,1間、X電極51,51間、Y電極52,52間、Z電極53,53間、さらにX電極51とZ電極53、Z電極53とY電極52の各層間を、それぞれ絶縁するために設けられる。絶縁部材6は、例えばSiO
2やAl
2O
3等の酸化膜やSi
3N
4等の公知の絶縁材料を適用することができる。
【0075】
(電流制御部)
図1に示すように、電流制御部90は、X電極51を選択するX電極選択部91と、Y電極52を選択するY電極選択部92と、Z電極53を選択するZ電極選択部93と、電極51,53および電極52に電流を供給する電源(電流供給手段)95と、この電源95および前記の電極選択部91,92,93を制御する画素選択部(画素選択手段)94と、を備える。これらはそれぞれ以下に説明する動作が可能な公知の装置を適用することができる。さらに、電流制御部90は、電極51,53に電流を供給する副電源(副電流供給手段)96と、画素の書込みエラー検出を行う判定部(画素判定手段)97と、を備える。副電源96は、後記するように、供給する電流の大きさが異なる以外は電源95と同様の装置を適用することができる。判定部97は、電圧比較器97aおよび検査部97bで構成され、後記するように、電圧比較器97aはMRAMにおける公知の読出し回路を、検査部97bは演算処理を行ういわゆるCPUを、それぞれ適用することができる。
【0076】
画素選択部94は、例えば図示しない外部からの信号に基づいて、画素アレイ80の特定の1つ以上の画素8を選択し、選択した画素8の画素アレイ80におけるX,Y座標に基づいて電極選択部91,92,93に電極51,52,53を選択させ、さらに電源95が供給する電流の向きを選択する。そして
図7に示すように、画素選択部94からの命令(図中、94の丸数字で表す)により、X電極選択部91はX電極51の1つ以上を選択し、Z電極選択部93はZ電極53の1つ以上を選択し、Y電極選択部92はY電極52の1つ以上を選択し、選択した電極51,53を同極に、電極52を異極にして、電源95を接続する(
図4参照)。電源95は、選択した画素8に備えられる光変調素子1を磁化反転させるために適正な電圧・電流を供給する公知の電源で、直流パルス電流を正負反転可能に供給することができる。そして、電源95は、画素選択部94が選択した正または負の電流(+I
W/−I
W)を、接続された電極51,53および電極52を介して光変調素子1に供給する。空間光変調器10は、このような構成により、画素アレイ80から所望の画素8が選択され、この画素8の光変調素子1に、所定の大きさのパルス電流が選択された向きに供給されて、磁化自由層3を所望の磁化方向にする。光変調素子1の磁化反転動作は、
図4を参照して説明した通りである。選択された画素8の光変調素子1の磁化反転動作により当該光変調素子1の磁化自由層3の磁化方向が変化することで、この選択された画素8に入射した光を選択的に所望の偏光の向きに変調して出射することができる(後記の空間光変調器の光変調動作(
図6参照)にて、詳細に説明する)。
【0077】
さらに画素選択部94は、電源95に代えて副電源96を、X電極51とZ電極53とに異極同士(一対)にして接続させて、光変調素子1の磁化反転電流I
STSよりも小さい所定の電流I
TSTを供給させることができる。判定部97において、電圧比較器97aは、副電源96と並列に接続され、光変調素子1に電流I
TSTが供給されているときの電極51,53間の電圧を参照電位(閾値)Vrefと比較して、結果を検査部97b(
図7では図示省略)に出力する。この比較結果は、光変調素子1の磁化自由層3の現実の磁化方向を示すものであり、検査部97bは、比較結果が示す磁化方向が画素選択部94が選択した磁化方向であるかを照合する書込みエラー検出を行う。電圧比較器97aは、電極51,53間の電圧を入力されて、参照電位Vrefと比較して高いか低いかを1か0で出力する差動センスアンプSA(
図7参照)や、参照電位Vrefの出力回路(図示省略)を備え、MRAMにおける公知の読出し回路を適用することができる。また、電圧比較器97aは、精度を向上させるために、電極51,53からの電圧を増幅する増幅器を経由して接続されたり、差動センスアンプSAに閾値Vrefとの差分を増幅させる回路を備えたりしてもよい(図示省略)。空間光変調器10の書込みエラー検出方法は、後記にて詳細に説明する。
【0078】
[空間光変調器の製造方法]
本発明に係る空間光変調器の画素アレイの製造方法の一例を、
図8〜10を参照して説明する。画素アレイ80は、はじめに、基板7上に光変調素子1を形成し、次に光変調素子1に接続する電極51,52,53を形成して製造される。
【0079】
(光変調素子の形成)
はじめに、基板7上に、磁化自由層3、中間層2、磁化固定層11,12,13、保護膜4をそれぞれ形成する材料(図中、各層と同じ符号で示す。以下同。)を連続して成膜する。その上に、
図8(a)に示すように、光変調素子1の平面視形状のレジストパターンを形成する。そして、イオンビームミリング法によるエッチングで、
図8(b)に示すように、保護膜4から磁化固定層11,12,13、中間層2、磁化自由層3までを除去して基板7を露出させる。次に、
図8(c)に示すように絶縁膜(絶縁部材6)を成膜して、レジストを絶縁膜ごと除去する(リフトオフ)。
【0080】
次に、光変調素子1におけるスピン注入磁化反転素子構造同士の間を分離する。
図8(d)に示すように、保護膜4上に、光変調素子1のそれぞれの素子構造MR1,MR2間および素子構造MR2,MR3間の領域を空けたレジストパターンを形成する。エッチングで、
図8(e)に示すように、保護膜4から磁化固定層11,12,13、中間層2までを除去して磁化自由層3を露出させる。次に、
図9(a)に示すように絶縁膜(絶縁部材6)を成膜して、レジストを絶縁膜ごと除去する(リフトオフ)。これにより、
図9(b)に示すように、3つの分離したスピン注入磁化反転素子構造が形成され、間が絶縁部材6で埋められるので、3つの素子構造MR1,MR2,MR3を備えた光変調素子1が形成され、上面(保護膜4表面)までが面一に絶縁部材6で埋められる。なお、レジストパターンはY方向(
図1における縦方向)に連続したストライプ状としてもよく、Y方向における光変調素子1,1間の絶縁部材6がエッチングされても、再び絶縁部材6で埋められるので問題ない。
【0081】
(電極の形成)
はじめに、光変調素子1の素子構造MR1の上面(保護膜4)に接続されるX電極51、ならびに素子構造MR2,MR3のそれぞれの上面(保護膜4)に接続されるY電極52の接続部52cおよびZ電極53の接続部53cを形成する。光変調素子1および絶縁部材6上に、絶縁膜(絶縁部材6)をX電極51の厚さで成膜する。そして、
図9(c)に示すように、絶縁部材6上に、X電極51が設けられる領域と電極52,53の各接続部52c,53cが設けられる領域とを空けたレジストパターンを形成する。そして、エッチングで、
図9(d)に示すように保護膜4が露出するまで、絶縁部材6を除去する。次に、
図10(a)に示すように金属電極材料を成膜して、レジストを金属電極材料ごと除去する(リフトオフ)。これにより、
図10(b)に示すように、X電極51と電極52,53の各接続部52c,53cとが、光変調素子1のスピン注入磁化反転素子構造MR1,MR2,MR3に接続される。
【0082】
次に、Z電極53を完成させ、またY電極52の中継接続部52d(
図2参照)までを形成する。X電極51、接続部52c,53c、および絶縁部材6上に、絶縁膜(絶縁部材6)を、電極51,53層間の厚さで成膜する。次に、絶縁部材6上に、接続部52c,53c上のコンタクト領域を空けたレジストパターンを形成する。そして、エッチングで、接続部52c,53cが露出するまで、絶縁部材6を除去する。次に、金属電極材料を成膜して、レジストを金属電極材料ごと除去する(リフトオフ)。これにより、
図10(c)、(d)に示すように、Y電極52およびZ電極53の各接続部52c,53cに、中継接続部52dおよび配線部53aを接続するための層間接続部52b1,53bが形成される。なお、
図10(d)において、絶縁部材6は図示を省略する。さらに、層間接続部52b1,53bおよび絶縁部材6上に、絶縁膜(絶縁部材6)をZ電極53の配線部53aの厚さで成膜し、X電極51等と同様に、リフトオフにて中継接続部52dおよび配線部53aを形成する。
【0083】
最後に、Y電極52を完成させる。X電極51、Z電極53(配線部53a)、中継接続部52d、および絶縁部材6上に、絶縁膜(絶縁部材6)を、電極53,52層間の厚さで成膜する。次に、絶縁部材6上に、中継接続部52d上のコンタクト領域を空けたレジストパターンを形成する。そして、エッチングで、中継接続部52dが露出するまで、絶縁部材6を除去する。次に、金属電極材料を成膜して、レジストを金属電極材料ごと除去する(リフトオフ)。これにより、Y電極52の中継接続部52dに配線部52aを接続するための層間接続部52b2(
図2参照)が形成される。さらに、層間接続部52b2および絶縁部材6上に、絶縁膜(絶縁部材6)をY電極52の配線部52aの厚さで成膜し、X電極51等と同様に、リフトオフにて配線部52aを形成する。
【0084】
このような製造方法によれば、3つのスピン注入磁化反転素子構造を備えた光変調素子1、および光変調素子1に接続する電極51,52,53を互いに非平行な配線として備えた画素8が2次元配列された画素アレイ80を、基板7上に形成することができる。なお、光変調素子1の形成において、各層の材料の成膜後、全体の形状を先に形成してから、素子構造MR1,MR2,MR2間を分割、形成したが、先に、素子構造MR1,MR3間および素子構造MR3,MR3を加工してから、光変調素子1の全体の形状に加工してもよい。
【0085】
(光変調素子の初期設定)
前記した通り、画素アレイ80のすべての画素8の光変調素子1は、第1磁化固定層11および第3磁化固定層13が上向きに、第2磁化固定層12が下向きに、それぞれ磁化が固定されている必要がある。磁化固定層11,12,13は電源95からの電流供給では磁化反転しないため、次の方法で光変調素子1の初期設定を行う。
【0086】
本実施形態に係る光変調素子1は、第1磁化固定層11および第3磁化固定層13の保磁力Hcp
1,Hcp
3よりも第2磁化固定層12の保磁力Hcp
2が大きい(Hcp
1≒Hcp
3<Hcp
2)。そこで、まず、画素アレイ80に、Hcp
2よりも大きい下向きの外部磁界を印加して、すべての磁化固定層11,12,13の磁化を下向きにする。次に、Hcp
2よりも小さくかつHcp
1,Hcp
3よりも大きい上向きの外部磁界を印加して、第1磁化固定層11および第3磁化固定層13の磁化を上向きにする。なお、この2段階の磁界印加は、完成した(製造後の)画素アレイ80に限られず、画素アレイ80の製造工程途中において磁化固定層11,12,13用の磁性膜材料を成膜した後以降であれば、どの段階であっても実施できる。
【0087】
また、磁化固定層11,13および磁化固定層12の少なくとも一方が、交換結合した磁性膜を備えた多層構造である光変調素子1の場合は、磁化固定層11,12,13のすべての保磁力(Hcp
1,Hcp
2,Hcp
3)を超える外部磁界を印加しながら、真空中で200℃程度の熱処理をすることにより、前記磁界印加の1回(1段階)で光変調素子1の初期設定を行うことができる。
【0088】
[空間光変調器の光変調動作]
本発明に係る空間光変調器の光変調動作を、
図6を参照して、この空間光変調器を用いた表示装置にて説明する。表示装置は、前記した従来のスピン注入磁化反転素子を光変調素子としたもの(特許文献1参照)と同様の構成とすればよい。本実施形態に係る空間光変調器10は反射型であり、また、その光変調部となる光変調素子1の磁化自由層3は、透明な基板7上に設けられ、また垂直磁気異方性材料からなり磁化方向が上向きまたは下向きを示すため、表示装置は以下の構成とすることが好ましい。空間光変調器10の画素アレイ80の下方には、画素アレイ80に向けて光(レーザー光)を照射する光源等を備える光学系OPSと、光学系OPSから照射された光を画素アレイ80に入射する前に1つの偏光成分の光(以下、入射光)にする偏光子(偏光フィルタ)PFiと、この下方から画素アレイ80に入射した入射光が画素アレイ80で反射して出射した出射光から特定の偏光成分の光を遮光する偏光子(偏光フィルタ)PFoと、偏光子PFoを透過した光を検出する検出器PDとが配置される。なお、
図6において、空間光変調器10は、電流制御部90を省略して、画素アレイ80のみを示す。
【0089】
光学系OPSは、例えばレーザー光源、およびこれに光学的に接続されてレーザー光を画素アレイ80の全面に照射する大きさに拡大するビーム拡大器、さらに拡大されたレーザー光を平行光にするレンズで構成される(図示省略)。光学系OPSから照射された光(レーザー光)は様々な偏光成分を含んでいるため、この光を画素アレイ80の手前の偏光子PFiを透過させて、1つの偏光成分の光にする。偏光子PFi,PFoはそれぞれ偏光板等であり、検出器PDはスクリーン等の画像表示手段である。
【0090】
光学系OPSは、平行光としたレーザー光を、画素アレイ80へ照射する。ここで、光変調素子1の磁化自由層3の磁気光学効果は、光の入射角が磁化自由層3の磁化方向に平行に近いほど大きい。したがって、入射角は膜面に垂直すなわち0°とすることが光変調度を最大とする上で望ましいが、このようにすると、出射光の光路が入射光の光路と一致する。そこで、入射角を少し傾斜させて、偏光子PFoおよび検出器PD、光学系OPSおよび偏光子PFiが、それぞれ入射光および出射光の光路を遮らない配置となるようにする。具体的には、入射光の入射角は30°以下とすることが好ましい。レーザー光は偏光子PFiを透過して1つの偏光成分の入射光となり、画素アレイ80の下方からすべての画素8に向けて入射する。入射光は、基板7を透過してそれぞれの画素8の光変調素子1で反射して、当該画素8から出射光として出射し、再び基板7を透過する。
【0091】
出射光は偏光子PFoによって特定の1つの偏光成分の光、ここでは入射光に対して+θk旋光した光が遮光され、偏光子PFoを透過した光が検出器PDに入射する。したがって、光変調素子1の磁化自由層3の磁化方向が上向きである画素8からの出射光は偏光子PFoで遮光されるため、この画素8は暗く(黒く)、検出器PDに表示される。一方、入射光に対して−θk旋光した光すなわち光変調素子1の磁化自由層3の磁化方向が下向きである画素8からの出射光は、偏光子PFoを透過して検出器PDに到達するため、この画素8は明るく(白く)検出器PDに表示される。
【0092】
このように、本発明に係る空間光変調器10は、画素8毎に明/暗(白/黒)を切り分けられ、各画素8に供給する電流の向き(+I
W/−I
W)を切り換えれば明/暗が切り換わる。なお、空間光変調器10の初期状態としては、例えば全体が白く表示されるように、すべての画素8の光変調素子1の磁化自由層3の磁化方向が下向きにするべく、電源95からすべての画素8に電流+I
Wを供給すればよい(
図4(d)、(a)参照)。
【0093】
[空間光変調器の画素の書込みエラー検出方法]
図7に示すように、本発明に係る空間光変調器を等価回路図で表す(画素アレイは2行×2列の画素のみを示す)と、光変調素子1の第1素子構造MR1と第3素子構造MR3との合成抵抗が1つの磁気抵抗効果素子として表されるので、第1電極(X電極)51がビット線、第3電極(Z電極)53がワード線となり、画素アレイ80はクロスポイント型のMRAMと同じ回路構造であるといえる。したがって、本発明に係る空間光変調器は、MRAMと同様の読出し動作を行って、選択した画素について光変調素子の磁化反転動作(書込み)が正常になされたかを検査することができる。空間光変調器の画素の書込みエラー検出方法を、
図1、
図5、および適宜
図4を参照して説明する。
まず、光変調素子1に接続した電極51,53間の電圧と磁化自由層3の磁化方向との関係について説明する。
【0094】
(光変調素子における磁化自由層の磁化方向と電圧との関係)
図5(a)、(b)に示すように、光変調素子1に副電源96から所定の大きさの電流I
TSTを供給しているとき、副電源96と並列に接続された電圧計で計測される電圧は、光変調素子1の抵抗に比例する。このとき光変調素子1に供給する電流(抵抗測定用電流)I
TSTは、磁化自由層3の磁化方向を変化させない、すなわち光変調素子1の磁化反転電流I
STSよりも小さい。また、
図5においては、抵抗測定用電流I
TSTを、第1電極51を「+」にして供給しているが、電流の向きは問わず、また、光変調素子1の磁化反転動作のための電流−I
W,+I
Wと異なり電流の向きは一方向でよい。このように、光変調素子1は、磁化反転電流I
STSよりも小さい電流を供給されても、磁化自由層3の磁化方向は変化しない。そして、このような一定の電流I
TSTを光変調素子1に供給して計測される電圧は、光変調素子1の磁化自由層3の磁化方向により変化する。
【0095】
図5(a)に示すように、磁化自由層3が下向きの磁化を示している光変調素子1は、電極51,53間の抵抗の値がR13
Dであるので、電圧の値V
DがI
TST・R13
Dとなる。反対に、
図5(b)に示すように、磁化自由層3が上向きの磁化を示している光変調素子1は、電極51,53間の抵抗の値がR13
Uであるので、電圧の値V
UがI
TST・R13
Uとなる。前記した通り、光変調素子1は、磁化自由層3が下向きの磁化を示しているときの方が電極51,53間の抵抗が高く、前記の式(5)〜(7)よりR13
D>R13
Uであり、したがってV
D>V
Uとなる。すなわち、副電源96と並列に接続された、言い換えると電極51,53に接続された電圧計で計測した電圧の値から、光変調素子1の磁化自由層3の磁化が上向きか下向きかを検知することができる。例えば、電圧V
D,V
Uのそれぞれの許容範囲における限界値として、閾値Vref
L,Vref
H(V
U<Vref
L<Vref
H<V
D)を設定する。計測した電圧の値がVref
H以上であれば磁化自由層3の磁化は下向きであり、Vref
L以下であれば磁化自由層3の磁化は上向きであると検知することができる。したがって、光変調素子1は、電極51,53間の抵抗の変化量ΔR13が大きいほど、磁化反転により変化する電圧V
D,V
Uの差が大きく、閾値Vref
L,Vref
Hによる磁化自由層3の磁化方向の検知が容易かつ正確となる。
【0096】
(画素の書込みエラーの検出方法)
このことから、空間光変調器10は、選択した画素8について、光変調素子1の電極51,53間の電圧を閾値Vref
L,Vref
Hと比較して、当該光変調素子1の磁化自由層3の磁化方向を検知し、光変調素子1の磁化自由層3の磁化方向を上向き、下向きのいずれにするかという画素選択部94による磁化反転動作の選択方向と照合することにより、磁化反転動作が正常に行われたかを検査することができる。ここでは、書込みエラーの検出は、選択された画素8の光変調素子1に対して磁化反転動作を行った直後に、当該画素8に対して行うものとして説明する。
【0097】
光変調素子1は、電極51,53と電極52に接続した電源95が画素選択部94からの命令により電流+I
Wを供給することで、
図4(a)に示すように磁化自由層3が下向きの磁化を示している。ここで、画素選択部94は、光変調素子1の磁化反転動作のための電源95への電流供給指示の際に、磁化自由層3の磁化を下向きにすることを判定部97に通知している(
図1参照)。そして、電源95からの電流+I
Wの供給後(供給停止後)に、画素選択部94からの命令により、この光変調素子1の電極51,53および電極52と電源95との接続を、電極51,53と副電源96との接続に切り替え、
図5(a)に示すように、副電源96から抵抗測定用電流I
TSTを供給する。
【0098】
判定部97は、画素選択部94から入力された磁化反転動作の選択方向:下向きに基づき、予め、電圧比較器97aが比較の基準とする参照電位(閾値)をVref
Hに設定し、さらに、検査部97bがこの閾値Vref
H以上であれば合格(PASS)であると判定するように設定する。そして、副電源96による抵抗測定用電流I
TSTの供給開始に合わせて、判定部97において、電圧比較器97aが電極51,53間の電圧を閾値Vref
Hと比較して、Vref
H以上であるか否かの結果を検査部97bへ出力する。電極51,53間の電圧の値がVref
H以上であれば、
図5(a)に示す通り、磁化自由層3の磁化は下向きであり、光変調素子1の磁化反転動作が正常に行われたことがわかる。一方、電圧の値がVref
H未満である場合、光変調素子1の磁化反転動作が適切になされていない(FAIL)、すなわち書込みエラーであることがわかる。
【0099】
反対に、
図4(c)に示すように電源95から電流−I
Wを供給されて磁化自由層3の磁化を上向きにした場合も、同様に接続を切り替えて、
図5(b)に示すように副電源96から抵抗測定用電流I
TSTを供給する。このとき、判定部97は、画素選択部94から入力された磁化反転動作の選択方向:上向きに基づき、予め、参照電位(閾値)をVref
Lに設定し、検査部97bがこの閾値Vref
L以下であれば合格(PASS)であると判定するように設定する。電圧比較器97aが電極51,53間の電圧の値を閾値Vref
Lと比較した結果、電圧の値がVref
L以下であれば、
図5(b)に示す通り、磁化自由層3の磁化は上向きであり、光変調素子1の磁化反転動作が正常に行われたことがわかる。一方、電圧の値がVref
L超である場合、光変調素子1の磁化反転動作が適切になされていない(FAIL)、すなわち書込みエラーであることがわかる。
【0100】
そして、判定部97の検査部97bは、光変調素子1の磁化反転動作が正常に行われたと判定した場合は、画素選択部94に次の動作、すなわち別の画素8の選択および書込み、または同じ画素8への次の書込みに移行するように命令する。反対に、検査部97bは、書込みエラーを検出した場合は、画素選択部94に同じ画素8に対する先の磁化反転動作を再び実行するように命令する(
図1参照)。このように、判定部97による判定を行いながら、画素選択部94による磁化反転動作(書込み)を行うことで、空間光変調器10は、画素アレイ80のすべての画素8で正確に表示することができる。なお、閾値Vref
L,Vref
Hの設定、および判定部97の検査部97bによる判定方法や画素選択部94への命令等を行うためのプログラムは、例えば電流制御部90に内蔵された記憶装置(図示省略)に予め記憶すればよい。
【0101】
(書込みエラー検出方法の別の実施形態)
光変調素子1の磁化自由層3の磁化方向を検知するための電圧の閾値は、Vref
L=Vref
Hとして1値(Vref)のみを設定してもよい(V
U<Vref<V
D)。すなわち、判定部97は、電極51,53間の電圧の値が閾値Vrefよりも大きいか小さいかにより、磁化自由層3の磁化が下向きか上向きかを検知する。詳しくは、電圧比較器97aが比較の基準とする参照電位(閾値)はVrefに固定され、判定部97は、画素選択部94から入力された磁化反転動作の選択方向に基づき、検査部97bがこの閾値Vrefよりも大きい場合と小さい場合とのいずれを合格(PASS)とするかを設定すればよい。また、電圧の閾値として、電圧V
D,V
Uのそれぞれの限界値の一方のみ、すなわち電圧V
Dの下限値Vref
Hと電圧V
Uの上限値Vref
Lではなく、電圧V
D,V
Uのそれぞれの許容範囲の下限値および上限値の計4値を設定して、より厳密に判定を行ってもよい。
【0102】
また、前記した方法では、画素選択部94が画素8を選択して書込みを行う度に、判定部97が当該画素8に対して書込みエラー検出を行うという動作を繰り返すが、これに限られない。例えば、画素アレイ80のすべての画素8への書込みを完了したら、これらすべての画素8に対して順番に書込みエラー検出をすることもできる。
【0103】
また、2以上の画素8を同時に選択して、それぞれの光変調素子1に対して同一の磁化反転動作を行った場合に、これらの画素8について一括して書込みエラー検出を行ってもよい。同時に選択された2以上の画素8の光変調素子1は副電源96に並列に接続されているので、合成抵抗に基づいた電圧の閾値を予め設定または判定部97が算出することができ、1個の光変調素子1の場合と同様の方法で書込みエラー検出を行うことができる。この場合、判定部97は、選択された画素8のすべての光変調素子1について磁化反転動作が正常に行われたか、1以上のいずれかの光変調素子1について書込みエラーであるか、のどちらかであることを判定することができる。
【0104】
空間光変調器10は、電極51,53への電流I
TSTの供給時に、すべてのY電極52および非選択の画素8におけるZ電極53を、第3磁化固定層13(Z電極53)の接続先である副電源96の「−」側に接続してもよい。これにより、漏れ電流が低減される。
【0105】
以上のように、第1実施形態に係る空間光変調器によれば、面積の大きな光変調素子により画素の有効領域を広くして開口率を高くしつつ、従来のスピン注入磁化反転素子を光変調素子とした空間光変調器と同様に、駆動用配線を用いて書込みエラー検出が可能であり、さらに画素を微細化することができる。
【0106】
(第2実施形態)
次に、
図11を参照して、本発明の第2実施形態に係る空間光変調器について説明する。なお、本実施形態および後記第3実施形態においては、第1実施形態(
図1〜6参照)と同一の要素については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0107】
第1実施形態に係る空間光変調器10は、1つの画素8に1個の光変調素子1を備える構成であったがこれに限られず、1画素に2個以上の光変調素子を備えてもよい。すなわち、
図11に示すように、第2実施形態に係る空間光変調器の画素8Aは、3個の光変調素子1Aを備える。
図11において、
図3(a)と同様に、網掛けを付した領域が磁化固定層11,12,13である(保護膜4は図示省略)。光変調素子1Aは、X方向(
図11における横方向)に拡張した平面視横長の長方形であること以外は、第1実施形態に係る空間光変調器10の光変調素子1と同一の構造である。そして、画素8Aにおいて、3個の光変調素子1Aは、当該光変調素子1Aの短辺方向(Y方向)に並べられて、同一の組の電極51,52,53に並列に接続される。このような画素8Aは、第1実施形態と同様に基板7上に2次元配列されて画素アレイとなり、電流制御部90で動作させることができる。画素アレイおよび電流制御部90は、第1実施形態と同様の構成であるので、図示および説明を省略する。
【0108】
以上のように、第2実施形態に係る空間光変調器によれば、画素サイズを大きくしても、光変調素子の1個のサイズが十分に小さいので好適に磁化反転し、開口率の高い画素とすることができる。
【0109】
(第3実施形態)
次に、
図12を参照して、本発明の第3実施形態に係る空間光変調器について説明する。なお、本実施形態においては、第1実施形態(
図1〜7参照)と同一の要素については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0110】
第1実施形態に係る空間光変調器の画素アレイは、
図7を参照して説明した通り、クロスポイント型のMRAM回路と同じ構造である。このクロスポイント型のMRAMにおいては、非選択の磁気抵抗効果素子にも電流が漏れるため、磁気抵抗効果素子の搭載個数が多いほどデータ読出し時に検出される1個の磁気抵抗効果素子の抵抗変化量が実際の値よりも小さくなることから、抵抗変化量の十分に大きい磁気抵抗効果素子が適用される。すなわち第1実施形態に係る空間光変調器10は、画素アレイ80における光変調素子1の搭載個数(画素数)にもよるが、電極51,53間の電圧が、非選択の画素8の光変調素子1の抵抗成分による影響を受けても、判定部97の電圧比較器97aにて閾値に対する高低の判別可能となる程度に、抵抗変化量が大きくなるように、光変調素子1が設計されている。
【0111】
しかし、このような光変調素子1を適用すると、空間光変調器10は、読出しすなわち判定(書込みエラー検出)に時間を要する。そこで、MRAMに多く適用されているように、選択トランジスタ型とすることもできる。すなわち、
図12に示すように、本実施形態に係る空間光変調器10Aは、書込みエラー検出時にそれぞれの光変調素子1に接続する電極の少なくとも一方、ここでは第3電極53Aと第3磁化固定層13との間に、素子選択回路としてトランジスタTr1を接続する。詳しくは、トランジスタTr1は、ドレインが光変調素子1の第3磁化固定層13に、ソースが第3電極53Aに、ゲートが新たに設けられた配線(素子選択電極58)に、それぞれ接続される。素子選択電極58は、第3電極53Aと独立して画素8Bを選択するために、第3電極53Aとは非平行に設けられる。
【0112】
ここで、第1実施形態に係る空間光変調器10(
図1参照)は、第3電極(Z電極)53を、磁化反転動作時には第2電極(Y電極)52と、書込みエラー検出時には第1電極(X電極)51と、それぞれ非平行にするために、平面視X,Y方向のいずれとも異なる対角線方向(Z方向)に設けている。しかし、本実施形態では、第3磁化固定層13への電流の供給が、第3電極53Aと素子選択電極58とによって、画素8B(光変調素子1)毎の選択が可能である。したがって、空間光変調器10Aは、第3電極53Aを第2のY電極(Y2電極)53AとしてY電極(Y1電極)52と平行に、すなわちX方向に延設し、素子選択電極58を、Y2電極53Aと直交させて、すなわちX電極51と平行に、Y方向に延設する。空間光変調器10Aは素子選択電極58を選択する素子選択部98を新たに備え、素子選択電極58は、素子選択部98に内蔵されたトランジスタTr1の駆動用の電源(
図12参照)から電流を供給される。空間光変調器10Aは、磁化反転動作時には、X方向において電極51,58を、Y方向において電極52,53Aを、それぞれ選択することで、特定の画素8Bを選択する。一方、書込みエラー検出時には、X方向において電極51,58を、Y方向において電極53Aを、それぞれ選択する。
【0113】
このように構成された空間光変調器10Aは、光変調素子1に電流を供給する電極51,52,53Aだけでなく、さらに素子選択電極58により画素8Bを選択するものである。そして、空間光変調器10Aは、書込みエラー検出において、非選択の画素8Bの光変調素子1が、第3磁化固定層13への接続がない(open状態である)ので、第3電極53Aとの間(第3素子構造MR3)には漏れ電流が流れない。これにより、選択された画素8Bの光変調素子1の抵抗は、非選択状態にある他の画素8Bの光変調素子1による抵抗成分の影響が抑えられ、磁化反転による抵抗の変化量が大きくなくても高低の判別が可能となる。また、第1実施形態に係る空間光変調器10の画素アレイ80は、電極51,52,53をすべて互いに非平行とするために、3層の配線構造を要したが、本実施形態においては、画素アレイ80Bは、第1電極(X電極)51と素子選択電極58、第2電極(Y1電極)52と第3電極(Y2電極)53Aのそれぞれが平行に設けられるため、2層の配線構造とすることができる。
【0114】
画素8B毎に設けられるトランジスタTr1は、例えばMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)を適用することができる。ここで、MOSFETは、一般的にSi(シリコン)基板を材料として形成されるが、光変調素子1を形成した上に800℃程度の熱処理を必要とする通常の結晶Si膜を形成すると、光変調素子1にダメージを与えることになる。そこで、空間光変調器10Aには、150℃程度の低温で成膜可能な多結晶シリコン(poly−Si)を適用する。具体的に、一例として、基板7上に光変調素子1を形成し、その上に層間絶縁層(絶縁部材6)を成膜した(
図9(c)参照)後に、poly−Si膜を成膜し、MOSFET(トランジスタTr1)を形成する。そして、光変調素子1の磁化固定層11,12,13上の層間絶縁層にコンタクトホールを形成し、金属電極材料で、第3磁化固定層13とトランジスタTr1のドレインとを接続し、第1磁化固定層11にX電極51を、第2磁化固定層12にY1電極52を、それぞれ接続して形成する。さらに、トランジスタTr1のゲートに素子選択電極58を、ソースにY2電極53Aを、それぞれ接続して形成する。なお、磁化固定層11,12,13への接続の妨げとならないように、トランジスタTr1は平面視で光変調素子1のない領域に形成される。
【0115】
空間光変調器10Aは、X電極51への電流I
TSTの供給時に、すべてのY1電極52を副電源96の「−」側に接続してもよい(図示省略)。書込みエラー検出において、選択されたX電極51を経由して副電源96から光変調素子1に供給された電流I
TSTは、第2磁化固定層12からY1電極52へも流れ、このY電極52を共有する非選択の画素8Bの光変調素子1に流入する。そして、選択された画素8BとX電極51またはY1電極52を共有する非選択の画素8Bの光変調素子1を経由して、選択されたX電極51に合流する。このように、第3磁化固定層13(第3素子構造MR3)にトランジスタTr1を接続していても、Y1電極52により、非選択の画素8Bの光変調素子1を流れる漏れ電流の回路が形成され、選択された画素8の光変調素子1の抵抗にある程度影響を与える。
【0116】
これに対して、Y1電極52を副電源96の「−」側に接続すると、漏れ電流は、非選択の画素8Bの光変調素子1の抵抗に影響されずに副電源96の「−」に流れる。なお、このとき、選択された画素8Bの光変調素子1は、電極52,53Aが共に副電源96の「−」側に接続されて、すなわち同極に接続された状態になるので、前記したように、素子構造MR1,MR3の各抵抗の変化量の和よりも小さく、第1素子構造MR1の抵抗の1個の変化量よりは大きい変化量が測定される。したがって、第2電極(Y1電極)52がopen状態での測定と比較して抵抗の変化量が小さくなるが、それ以上に漏れ電流による影響が大きい場合には、書込みエラー検出の精度が向上する。
【0117】
空間光変調器10Aは、トランジスタTr1を、光変調素子1の第3磁化固定層13(第3素子構造MR3)に代えて第1磁化固定層11(第1素子構造MR1)の方に接続しても、同様の効果が得られる。この場合、トランジスタは、ドレインが光変調素子1の第1磁化固定層11に、ソースがX電極51に、ゲートがX電極51と平面視で直交する配線(素子選択電極58に相当する)に、それぞれ接続される。
【0118】
また、
図12に示すように、空間光変調器10Aは、画素選択部94により同じ列の画素8のX電極51と素子選択電極58が同時に選択されるように構成されるが、独立して選択される構成としてもよい。また、空間光変調器10Aの画素アレイ80Bは、第3電極53Aと素子選択電極58とで、XYを入れ替えてもよい。すなわち、素子選択電極58はY電極52と平行に延設され、一方、第3電極53Aは第1電極(X電極)51と平行に延設されて、同じ列の画素8BのX電極51と同時に選択されるように構成される(図示省略)。
【0119】
以上のように、第3実施形態に係る空間光変調器によれば、抵抗変化量の小さい光変調素子を適用しても、第1実施形態に係る空間光変調器と同様の書込みエラー検出が可能であるので、応答速度を高速化することができる。
【0120】
(第4実施形態)
本発明に係る空間光変調器の画素は、磁化固定層11,12,13から選択される2箇所に選択素子を接続してもよい。例えば、磁化固定層11,13のそれぞれにトランジスタを接続することができる(図示省略)。トランジスタの接続方法は、前記第3実施形態と同様である。選択素子を光変調素子1の2箇所に接続することで、非選択の画素においては、磁化固定層11,12,13のうちの2箇所以上で他の画素と共通する電極(配線)51,52,53に接続されない。したがって、空間光変調器は、磁化反転動作および書込みエラー検出において、非選択の画素の光変調素子1に漏れ電流が流れない。
【0121】
本発明に係る空間光変調器の画素は、選択素子としてダイオードを接続してもよい。ダイオードは、トランジスタTr1と同様に、poly−Si膜に形成して設けることができる。
図13に示すように、第4実施形態に係る空間光変調器10Cは、第3実施形態に係る空間光変調器10A(
図12参照)と同様に、画素8Cに1個のトランジスタTr1を第3磁化固定層53(第3素子構造MR3)に接続して備え、さらに第1磁化固定層51(第1素子構造MR1)にはダイオードDi1を接続して備える。
【0122】
本実施形態に係る空間光変調器10Cは、ユニポーラ駆動式の光変調素子1D(素子構造MR1,MR2)を備え、電源95Aにより第1電極51Aおよび第3電極53Aから第2電極52への一方向にのみ電流を供給して、磁化反転させる(図示省略)。そのため、ダイオードDi1は、アノードに第1電極51Aを、カソードに光変調素子1Dの第1磁化固定層51を接続する。あるいは、空間光変調器10Cは、電源95からの電流供給による磁化反転動作では、光変調素子1に、第1電極51Aおよび第3電極53Aから第2電極52への一方向にのみ電流を供給して、磁化自由層3の磁化方向を下向きにする(
図4(a)、(d)参照)。磁化自由層3の磁化方向を上向きにする場合は、例えば画素8C(画素アレイ80C)への磁界印加により反転させることができる。
【0123】
空間光変調器10Cは、2個の選択素子のうちの1個がダイオードであっても、非選択の画素8Cの光変調素子1Dを経由して電流が流れることを防止する。詳しくは、
図13における最も左上の画素8Cに、太破線で示すような磁化反転動作のための電流を供給したとき、ダイオードDi1を設けることにより、破線で示すような漏れ電流が流れる回路を生じない。空間光変調器10Cは、特に、2個の選択素子のうちの1個に平面視サイズの小さいダイオードを適用することで、画素が大型化を抑制することができる。
【0124】
さらに、
図14に示すように、第4実施形態の変形例に係る空間光変調器10Dは、ユニポーラ駆動式の光変調素子1Dの第1磁化固定層51(第1素子構造MR1)および第2磁化固定層52(第2素子構造MR2)に、それぞれダイオードDi1,Di2を接続して備える。光変調素子1Dは、
図13に示す空間光変調器10Cと同様に、第1電極51Aおよび第3電極53Aから第2電極52Aへの一方向にのみ電流を供給して、磁化反転させる。そのため、ダイオードDi1は、アノードに第1電極51Aを、カソードに光変調素子1Dの第1磁化固定層51を接続し、ダイオードDi2は、アノードに第2磁化固定層52を、カソードに第2電極52Aを接続する。
【0125】
本変形例に係る空間光変調器10Dは、磁化反転動作においては、電極51A,52A,53Aのすべてを電源95Aに接続し、さらに非選択の画素8Dについても、第1電極51A(第1磁化固定層11)および第3電極53A(第3磁化固定層13)の2方向から光変調素子1Dに電流が流れ得る。そのため、空間光変調器10Dの画素アレイ80Dは、電極51A,52A,53Aが互いに独立して光変調素子1Dに接続するように、
図14に示すように、電極51A,52A,53Aは、
図1および
図7に示す第1実施形態に係る空間光変調器10と同様に、XYZ方向に延設される。
【0126】
空間光変調器10Dは、2個の選択素子が共にダイオードであっても、非選択の画素8Dの光変調素子1Dを経由して電流が流れることを防止する。詳しくは、
図14における最も左上の画素8Dに、太破線で示すような磁化反転動作のための電流を供給したとき、ダイオードDi1,Di2を設けることにより、破線で示すような漏れ電流が流れる回路を生じない。空間光変調器10Dは、選択素子のすべてに平面視サイズの小さいダイオードを適用することで、1画素に2個の選択素子を備えても画素が大型化せず、またトランジスタのように、ゲートへの電流供給のための配線を設ける必要がない。
【0127】
以上のように、第4実施形態およびその変形例に係る空間光変調器によれば、書込みエラー検出、磁化反転動作の両方において、非選択画素の光変調素子へ電流が漏れないので、書込みエラー検出においては応答速度をいっそう高速化することができ、磁化反転動作においては、漏れ電流による損失が抑えられるので省電力化することができる。
【0128】
以上、本発明の光変調素子および空間光変調器を実施するための各実施形態について述べてきたが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。