【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(ロボット・新技術イノベーションプログラム)「異分野融合型次世代デバイス製造技術開発プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、好適な実施の形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
【0024】
<微細孔を有する基体の製造方法>
(1)第一態様の基体の製造方法(第一の製造方法)
本発明に係る「微細孔を有する基体の製造方法(第一の製造方法)」は、基体の内部において、ピコ秒オーダー以下の時間幅を有する第一のレーザー光の焦点を走査して、エッチング選択性を有する第一改質部および第二改質部を形成する工程Aと、前記第一改質部および前記第二改質部の各々の第一部分と重なるように、前記基体の内部にピコ秒オーダー以下の時間幅を有する第二のレーザー光の焦点を走査して、前記各々の第一部分における改質状態が変性した第一再改質部および第二再改質部を形成する工程Bと、前記第一再改質部および前記第二再改質部を加熱することにより、前記第一再改質部および前記第二再改質部のエッチング耐性を高める工程Cと、前記第一再改質部および前記第二再改質部を除いた前記第一改質部および前記第二改質部をエッチングにより除去して、前記基体内に微細孔を形成する工程Dと、を含む。
【0025】
本発明において、「第一改質部」および「第二改質部」は、以下のように基体が改質された部分をいう。すなわち、「第一改質部」は第一のレーザー光が基体に集光照射された領域(集光部)において、照射時に発生するプラズモン、または電子プラズマ波と入射光との干渉波が強め合う部分であり、一般的に工程Dのエッチング処理によって選択的にエッチングされやすく、エッチング後には微細孔を形成することが可能な部分である。「第二改質部」は第一のレーザー光が基体に集光照射された領域(集光部)において、前記干渉波の影響が前記第一改質部に比べて弱い部分であり、一般的に工程Dのエッチング処理によって比較的エッチングされにくい部分である。
【0026】
本発明において、「第一再改質部」は、第一改質部が前記第二のレーザー光の照射によって変性し、第一改質部よりもエッチング耐性が高められた部分である。「第二再改質部」は、第二改質部が前記第二のレーザー光の照射によって変性し、第二改質部よりもエッチング耐性が高められた部分である。これらの再改質部は、前記加熱処理によって、更にエッチング耐性が高められ、非改質部(レーザー照射を受けていない部分)と殆ど同等のエッチング耐性にまで回復することが可能である。一方、第一改質部及び第二改質部は、前記加熱処理を受けた場合でも、これらの再改質部と同等のエッチング耐性にまで回復することはない。
したがって、工程Dにおいて、第一改質部又は第二改質部を選択的にエッチングして基体から除去することによって、第一改質部又は第二改質部が形成されていた領域に微細孔を形成することができる。このエッチングの際、前記エッチング耐性の差を利用して、第一再改質部および第二再改質部を殆どエッチングせずに残すことができる。
【0027】
工程Dにおいて、目的に合わせたエッチング方法、エッチング条件及びエッチング液(エッチャント)を使用することにより、第一改質部又は第二改質部のどちらかを選択的若しくは優先的にエッチングできる。場合によっては第一改質部及び第二改質部の両方を同時にエッチングできる可能性はあるが、通常は何れか一方の改質部のみを選択的若しくは優先的にエッチングすることになる。
以下、本発明に係る「微細孔を有する基体の製造方法(第一の製造方法)」の各工程をより具体的に説明する。
【0028】
工程Aにおいて第一改質部を形成する際、前記第一改質部に隣接して、前記第一改質部と殆ど同じ長径を有する第二改質部を形成できる。この第二改質部は、後述するように、第一レーザー光の照射強度を加工上限閾値近傍又は加工上限閾値以上に設定した場合に形成されやすい。
前記第一改質部、および前記第一改質部に隣接して形成された第二改質部は、それぞれ、第一部分と前記第一部分を除いた第二部分とによって構成される。工程Aの後、工程Bにおいて、前記第一改質部の第一部分と同様に、第二改質部の第一部分も前記第二レーザー光により形成される再改質部(周期成分を含みうる改質部若しくは周期的な改質群)によって上書きされ、その第二改質部における第一部分の改質の履歴が消去され、且つ、その第二改質部の第一部分と前記再改質部(周期成分を含みうる改質部若しくは周期的な改質群)とが重なる或いは接するように形成される。
したがって、前記第一改質部と同様に、前記第二改質部を構成する前記第一部分の履歴を消去して、前記第二改質部を構成する前記第一部分をエッチング後においても残すことができる。ここで、エッチング液の組成又はエッチング時間等の条件を変更することによって、第一改質部を残して第二改質部を優先的又は選択的にエッチングできる場合がある。この場合においても、微細孔となる第二改質部の径をより小さくした改質部(前記第二部分)を形成できているので、第二改質部をエッチングして形成された微細孔の孔径を、周期構造を形成しなかった場合よりも、小さくすることができる。つまり、第二改質部をエッチングした場合であっても、孔径のより小さいナノオーダーの微細孔を、微細な周期構造を付して形成することができる。
【0029】
工程Cのエッチング処理において、第一改質部をエッチングする方が、第二改質部をエッチングするより容易である。このため、第一改質部をエッチングすることが望ましい。
以下の実施態様においては、第一改質部をエッチングする方法に基づいて本発明を説明するが、第二改質部をエッチングする場合も、エッチング条件を変更することによって同様に行うことができる。第二改質部をエッチングした場合に形成される、微細孔の形状若しくは大きさ及び周期構造の形状若しくは大きさは、第一改質部をエッチングした場合に形成される、微細孔の形状若しくは大きさ及び周期構造の形状若しくは大きさと似ている。これは、第一改質部と第二改質部が互いに似た形状若しくは大きさで隣接して形成されるからである。
【0030】
[第一の製造方法における工程A]
工程Aにおいては、ピコ秒オーダー以下の時間幅を有する第一レーザー光を用いて、基材内の微細孔となる領域を含む領域に、孔径がナノオーダーの第一改質部を形成する。
図1は、第一レーザー光Lを、基体をなす基材4の上面から照射する様子を示した模式図である。
第一レーザー光Lの焦点(集光域)を矢印Uの方向へ走査することによって、エッチング選択性を有する第一改質部1を基材4内に形成する。第一改質部1は、工程Dのエッチング後に微細孔3となる領域を含む領域に形成されている。第一改質部1の第一端部1a及び第二端部1bは、基材4の側面に露呈する。
【0031】
本発明において、「第一改質部」とは、「エッチング耐性が低くなり(エッチング選択比が高くなり)、エッチングによって選択的に又は優先的に除去される部分」を意味する。
【0032】
図1に示した例においては、第一レーザー光Lの偏波方向E1は、走査方向Uに対して直交している。つまり、走査方向Uと偏波方向E1とのなす角は90°である。本発明において、前記第一レーザー光Lの走査方向Uと、前記第一レーザー光Lの偏波方向E1とのなす角は、88°より大きく90°以下であることが好ましく、88.5°以上90°以下であることがより好ましく、89°以上90°以下であることがさらに好ましく、90°であることが特に好ましい。
また、第一レーザー光Lのレーザー照射強度を、加工上限閾値未満且つ加工上限閾値近傍、又は加工下限閾値以上加工上限閾値未満とすることが好ましい。「加工下限閾値」及び「加工上限閾値」の説明は後述する。
【0033】
このように設定した第一レーザー光Lを照射することによって、形成する第一改質部1の孔径のうち、偏波方向E1の径(短径)を、ナノオーダー(1nm〜900nm程度)又はサブマイクロオーダー(0.9μm〜1μm程度)となるように、より容易に形成することができる。一方、形成する第一改質部1の孔径のうち、第一レーザー光Lの伝播方向Zの径(長径)は、通常0.5μm〜5μm程度となる。
【0034】
上記のように第一改質部1を形成する際、その両側に隣接して、第一改質部1とほぼ同形の第二改質部が形成される。
図1において、第二改質部は、第一改質部1の紙面奥側と紙面手前側に、第一改質部1に平行となるように形成されている。なお、図を見やすくするために第二改質部は描いていない。後段の工程Bにおいて、第一改質部1の第一部分が、第二レーザー光の照射によって上書きされる際は、第二改質部の第一部分も同様に上書きされる。
【0035】
[第一の製造方法における工程B]
工程Bにおいては、第一改質部1の少なくとも第一部分と重なるように、ピコ秒オーダー以下の時間幅を有する第二レーザー光Mの焦点を走査して、前記第一部分における改質状態が変性した第一再改質部2を形成する。
図2は、第二レーザー光Mを、基体をなす基材4の上面から照射する様子を示した模式図である。第二レーザー光Mの焦点(集光域)を矢印Kの方向へ走査することによって、第一改質部1の第一部分を変性させ、第一再改質部2へ変換している。つまり、第一改質部1の第一部分を第一再改質部2によって上書きしている。第一再改質部2は、エッチング選択性を有していても良いし、有していなくても良い。通常、第一再改質部2のエッチング耐性は第一改質部1のエッチング耐性よりも高くなっている(すなわち、第一再改質部2のエッチング速度は第一改質部1のエッチング速度よりも遅くなっている)。この理由は、第一再改質部2を形成する際、第一改質部1を上書きする必要があるので、基材4の非改質の領域を直接に改質する場合よりも、該第一再改質部2の改質の程度が小さくなるためである。
【0036】
第二のレーザー光Mの焦点を走査する領域は、第一改質部1と重なる領域から外れた領域を含んでいてもよい。この外れた領域も第二レーザー光Mの照射によって改質されるので、その領域に、エッチング耐性が低下した構造変質部7が形成されうる。構造変質部7は、エッチング選択性を有する程に強く改質されていても良いし、エッチング選択性を殆ど有さない程度に弱く改質されていても良い。レーザーの照射強度及びレーザーの照射条件を適宜設定することにより、どちらの改質程度にすることもできる。
【0037】
工程Bにおいて、第二レーザー光Mの偏波方向E2は、工程Aにおける第一レーザー光Lの偏波方向E1と異なる向きであることが好ましい。つまり、本発明において、第一レーザー光Lの偏波方向E1と、第二レーザー光Mの偏波方向E2とが、互いに異なる向きであることが好ましい。偏波方向が互いに異なるレーザー光を用いることによって、第一改質部1の前記第一部分の改質状態を変性させて、第一再改質部2をより容易に形成することができる。
【0038】
また、
図2に示すように、第一改質部1の長手方向に沿って、第一再改質部2を形成することが好ましい。ここで、第一改質部1の長手方向とは、第一改質部1の第一端部1aと第二端部1bとを結ぶ方向(走査方向K)である。第一改質部1の長手方向に重ねて形成した第一再改質部2のエッチング耐性を、後段の工程Cにおける加熱処理によって高めて、第一再改質部2をエッチングされ難い又は実質的にエッチングされない領域とすることができる。つまり、第一レーザー光Lによって形成した第一改質部1の第一部分を、第一改質部1の長手方向に渡って、第二レーザー光Mを用いて第一再改質部2へ書き換えることによって、実際にエッチングされる第一改質部1の領域を狭めることができる。この結果、エッチングによって最終的に形成される微細孔3の孔径を、第一改質部1の長手方向に渡って小さくできる。
【0039】
この際、第二レーザー光Mの走査方向Kと、第二レーザー光Mの偏波方向E2とのなす角は0°以上88°以下であることが好ましい。
上記範囲のなす角に調整することによって、第一再改質部2及び構造変質部7に含まれうる周期成分を第二のレーザー光Mの走査方向Kに対して交差させて形成できる。つまり、第一再改質部2及び構造変質部7に含まれうる周期成分を第一改質部1の長手方向に対して交差させて形成できる。前記周期成分を前記第一改質部1の長手方向に対して交差させるように、第一再改質部2及び構造変質部7を形成すると、後段の工程Cにおける加熱処理において、前記第一再改質部2及び構造変質部7のエッチング耐性を、より容易に高めることができる。この結果、工程Dにおけるエッチングにおいて、第一改質部1と、第一再改質部2及び構造変質部7とのエッチング速度の差をより大きくすることが可能となり、より小さいサイズの孔径を有する微細孔3を形成できる。
【0040】
第二レーザー光Mの照射強度を加工上限閾値以上に設定した場合、第一再改質部2及び構造変質部7において、改質の程度が比較的強い領域と改質の程度が比較的弱い領域とを、平行且つ交互に、周期を伴って、自己形成的に形成することができる。これら二つの領域を、各々、前記周期を構成する「周期成分」と定義する。そして、これらの周期成分が延びる方向に対して直交する方向であって、周期性が観測される方向を「周期成分の周期方向」と定義する。第二レーザー光Mの走査方向Kと偏波方向E2とのなす角を0°以上88°以下とすることにより、周期成分を走査方向Kに対して交差させて形成した場合、周期成分の周期方向は走査方向Kに一致する。
【0041】
この具体例として、例えば
図8に示す構造変質部7が挙げられる。第一再改質部2は、第一改質部1が形成されていた部分に構造変質部7が上書きして形成された部分に該当するが、
図8においては第一再改質部2を明示していない(構造変質部7の周期成分6を見やすくするためである)。
【0042】
図8の例においては、第二レーザー光Mの走査方向Kと偏波方向E2とのなす角を0°に設定し、レーザーの照射強度を加工上限閾値以上に設定し、第二レーザー光Mの焦点が第一改質部1の少なくとも第一部分と重なるように、第一改質部1の長手方向に沿って走査する。この条件によって照射した場合、周期成分6が含まれる構造変質部7を、第一改質部1の長手方向に沿って形成できる。この際、各周期成分6の延びる方向は第一改質部1の長手方向に対して交差(直交)している。周期成分6として破線によって図示した各領域は、改質の程度が比較的強い領域である。この周期成分6の周期が観測される周期方向は走査方向Kと一致している。周期成分6同士の間隔(離間距離)は、ナノオーダーとすることが可能である。周期成分6の改質の程度は、レーザーの照射強度若しくは照射時間、パルス数を制御することによって、エッチング選択性を有する程度に強く改質することもできるし、エッチング選択性を有さない程度に弱く改質することも可能である。したがって、構造変質部7をエッチング選択性を有する程度に強く改質した場合、工程Cの加熱処理を行った後でも、該エッチング選択性を残存させて、工程Dのエッチング処理によって、周期成分6の配列に対応する周期構造を、微細孔3の長手方向に沿わせて形成することも可能である。
【0043】
第二レーザー光Mの走査方向Kと偏波方向E2のなす角度は、0°以上88°以下であることが好適であり、0°以上15°以下であることがより好適であり、0°以上10°以下であることが更に好適であり、0°以上5°以下であることが特に好適であり、0°であることが最も好適である。つまり、前記なす角度は、小さいほど(0°に近い角度であるほど)好ましい。第二レーザー光Mの走査方向Kと偏波方向E2のなす角度は、小さい角度であるほど、第一改質部1の前記第一部分に第一再改質部2を上書きするために要するレーザー照射強度が小さくなり、効率よく第一再改質部2を形成できる。
【0044】
図2及び
図5A〜
図5Dにおいては、第二のレーザー光Mの伝播方向Zは、基材4の上面に対して垂直である場合を示したが、必ずしも垂直である必要はない。前記上面に対して所望の入射角となるように、第二のレーザーMを照射してもよい。
【0045】
一般に、改質された部分のレーザーの透過率は、改質されていない部分のレーザーの透過率とは異なるため、改質された部分を透過させたレーザー光の焦点位置を制御することは通常困難である。しかし、第一再改質部2及び構造変質部7を形成するための第二レーザー光Mは、工程Aにおいて形成した第一改質部1を通過させて照射させることができる。つまり、第一改質部1は、照射された第二レーザー光Mの制御を困難にさせることがないため、第一再改質部2を第一改質部1に重ねて形成することができる。第一改質部1が、入射された第二レーザー光Mに影響を与えない理由は未解明であるが、第一改質部1の幅が、ナノオーダーであるためだと考えられる。
【0046】
また、
図2において示すように、第二レーザー光Mをレンズを用いて集光して照射することによって第一再改質部2及び構造変質部7を形成してもよい。
前記レンズとしては、例えば屈折式の対物レンズ若しくは屈折式のレンズを使用することができる。さらに、他にも例えばフレネル、反射式、油浸、水浸式で照射することも可能である。また、例えばシリンドリカルレンズを用いれば、一度にガラス基板4の広範囲にレーザー照射することが可能になる。またさらに、例えばコニカルレンズを用いればガラス基板4の垂直方向に広範囲に一度にレーザー光Lを照射することができる。
【0047】
「第一再改質部2又は、第一再改質部2及び構造変質部7」を形成するレーザー照射条件の具体例としては、以下の各種条件が挙げられる。例えばチタンサファイアレーザー(レーザー媒質としてサファイアにチタンをドープした結晶を使用したレーザー)又は1fs以上10ピコ秒未満のパルス時間幅を有するパルスレーザーを用いることができる。照射するレーザー光は、例えば波長800nm、繰返周波数200kHzを使用し、レーザー走査速度1mm/秒としてレーザー光Mを集光照射する。これら波長、繰返周波数、走査速度の値は一例であり、本発明はこれに限定されず任意に変えることが可能である。
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「ピコ秒オーダー以下のパルス時間幅」は、1fs以上1ナノ秒未満のパルス時間幅であることが好ましく、1fs以上10ピコ秒未満のパルス時間幅であることがより好ましく、1fs以上3ピコ秒未満のパルス時間幅であることが更に好ましく、1fs以上2ピコ秒未満のパルス時間幅であることが特に好ましい。
前記パルス時間幅がピコ秒オーダー以下であることで、集光部における基材の電子温度とイオン温度とが非平衡状態となり加熱され、いわゆる非熱過程での加工が進行する。そして、熱拡散長が極限まで抑えられる。さらには多光子吸収に始まる非線形加工が支配的となるため、加工後に得られる形状はナノスケールからマイクロオーダースケールの微細孔とすることが可能である。
一方、ピコ秒オーダーを超えるパルスレーザー、例えば10ピコ秒以上のパルス時間幅を有するレーザー光を用いた場合では、集光部における基材の電子温度とイオン温度とが平衡状態となる熱的加工が支配的となる。熱的加工においては熱拡散長が大きくなり、ナノからマイクロオーダースケールの加工を行うことが困難である。このように、パルス時間幅が約1〜10ピコ秒付近を境にして、全く異なる反応メカニズムとなる。
【0048】
[第一の製造方法における工程C]
工程Cにおいては、「第一再改質部2、又は第一再改質部2及び構造変質部7」を加熱することにより、該「第一再改質部2、又は第一再改質部2及び構造変質部7」のエッチング耐性を高める処理(エッチングされ難くする処理)を行う。基材4内部に形成された「第一再改質部2、又は第一再改質部2及び構造変質部7」を加熱する方法としては、基材4全体を電気炉若しくは赤外線ランプ等によって加熱しても良いし、第一再改質部2とその周辺を限定的に、又は第一再改質部2及び構造変質部7とその周辺を限定的に、加熱用のレーザー照射装置を用いて加熱しても良い。
【0049】
加熱処理前において、第一改質部1を上書きして形成された第一再改質部2の改質の程度(エッチングされ易さ)は、第一改質部1の改質の程度よりも小さい。つまり、第一改質部1に隣接する第一再改質部2のエッチング耐性は、第一改質部1のエッチング耐性よりも高い。これらの第一改質部1及び第一再改質部2が形成された基材4を加熱処理すると、第一改質部1及び第一再改質部2の改質の程度が共に(それぞれ)少なくなり、エッチング耐性が共に(それぞれ)増加する。加熱処理を所定時間行うことによって、第一再改質部2のエッチング耐性を、基材4の非改質部のエッチング耐性と同等レベルまで高めて、且つ、第一改質部1のエッチング耐性は、基材4の非改質部のエッチング耐性よりも充分に低い状態にすることができる。この結果、後段の工程Dのエッチング処理において、第一再改質部2を選択的にエッチングせずに、上書きされずに残された第一改質部1を選択的又は優先的にエッチングして除去できる。
【0050】
具体的には、例えばガラス製の基材4を用いた場合、加熱処理前において、第一改質部1は酸素欠乏の程度が非常に大きい(エッチング耐性が非常に低い)状態にあり、第一再改質部2は酸素欠乏の程度が比較的小さい(エッチング耐性が低い)状態にあり、非改質部は通常のガラス(エッチング耐性は普通)の状態にある。このガラス製の基材4を加熱処理することによって、ガラスを構成する酸素原子の再配置が起こり、第一改質部1の酸素欠乏の程度は少し解消されて、酸素欠乏の程度が大きい(エッチング耐性が低い)状態となり、第一再改質部2の酸素欠乏の程度は殆ど解消された(エッチング耐性は普通と同等)状態となり、非改質部は変化しない。この結果、後段の工程Dのエッチング処理において、第一再改質部2を除いた第一改質部1を選択的又は優先的にエッチングして除去できる。
【0051】
構造変質部7が形成されている場合、工程Cにおける加熱処理によって、第一改質部1及び第一再改質部2と同様に、構造変質部7のエッチング耐性も高められる。前段の工程Bにおいて構造変質部7の改質の程度を第一改質部1と同程度に強くした場合は、加熱処理後においても構造変質部7のエッチング選択性を残存させることができる。一方、前段の工程Bにおいて構造変質部7の改質の程度を第一改質部1よりも充分弱くした場合は、加熱処理によって、構造変質部7のエッチング耐性は基材4の非改質部のエッチング耐性と同等レベルまで高められる。
【0052】
図3において、加熱処理後の基材4を示している。加熱処理後の基材4において、第一再改質部2及び構造変質部7のエッチング耐性は、基材4のエッチング耐性と殆ど同等になっている。このため、第一再改質部2及び構造変質部7は図示していないが、このことは、加熱処理後の第一再改質部2及び構造変質部7の物理的な特性(透明度、硬度等)が非改質部と完全に一致することは必ずしも意味しない。
【0053】
工程Cにおける加熱の温度としては、基材がシリコン、サファイア、ガラス又は石英である場合は、少なくとも第一再改質部2のエッチング耐性を増加できる温度であれば特に制限されない。特に、ガラス、アモルファス構造である石英などの場合、若しくは結晶性基材にレーザー照射することによってアモルファス構造化した場合は、本発明の基体を構成する基材4の材料の粘性率(粘度)が、10
14.5[poise]となる温度以上、且つ10
11.7[poise]となる温度以下であることが好ましい。
この範囲の温度において第一再改質部2及び構造変質部7を加熱すると、第一再改質部2及び構造変質部7のエッチング耐性が容易に高まる。
なお、10
14.5[poise]となる温度未満であっても、加熱時間を調整すれば、第一再改質部2のエッチング耐性の増加が可能である。一方で、10
11.7[poise]となる温度以上において加熱を行うと第一改質部1のエッチング耐性も高まってしまい、微細孔の形成が困難になる。
【0054】
「歪点」とは、ガラス業界において一般的に使用されている用語であり、ガラスの内部応力が数時間で消失する温度であって、約10
14.5dPa・sの粘度に相当する温度をいう。例えばJIS R3103−02:2001に規定される方法によって、上記「歪点」を求めることができる。また、「軟化点」とは、ガラス業界において一般的に使用されている用語であり、ガラスが自重により顕著に軟化変形しはじめる温度であって、約10
7.6dPa・sの粘度に相当する温度をいう。例えばJIS R3103−1:2001に規定される方法によって、上記「軟化点」を求めることができる。
【0055】
より具体的には、例えば、石英で構成された基材4を用いた場合、第一再改質部2のエッチング耐性を充分に高める観点から、加熱処理の温度は800〜1200℃が好ましく、850〜1150℃がより好ましく、850〜1100℃がさらに好ましい。この際、加熱処理の時間は、1〜10hが好ましく、2〜10hがより好ましく、2〜8hがさらに好ましい。ここで挙げた加熱処理の時間は、昇温レートを50℃/分として、室温(20℃)から昇温し、上記加熱温度に達した後、その加熱温度において60分維持し、その後、室温(20℃)まで冷却するまでに要する全時間である。
上記範囲であると、第一改質部1のエッチング選択性を保ちつつ、第一再改質部2及び構造変質部7のエッチング耐性を充分に高めることがより容易である。
【0056】
[第一の製造方法における工程D]
工程Dにおいては、第一再改質部2を除いた第一改質部1をエッチングにより除去して、基体を構成する基材4内に微細孔3を形成する。加熱処理後の基材4において、第一再改質部2のエッチング耐性及び構造変質部7のエッチング耐性と改質部1のエッチング耐性との間に、充分な差を持たせることができるため、第一改質部1を選択的又は優先的にエッチングできる。この結果、
図4に示すように、基材4の側面に第一端部3a及び第二端部3bを有する微細孔3を形成した基体10が得られる。
上記の例においては、第一再改質部2及び構造変質部7は殆どエッチングされないが、高濃度のエッチング液を使用した場合、又はエッチング時間を通常よりも長くした場合には、第一再改質部2又は構造変質部7が、部分的にエッチングされる可能性もある。さらに、加工条件によっては第一再改質部2及び構造変質部7のエッチング耐性が部分的に、第一改質部1に近い状態になることもある。
【0057】
エッチング方法としては、ウェットエッチングが好ましい。第一改質部1は、エッチング耐性が弱くなっているため、選択的又は優先的にエッチングすることができる。
このエッチングは、基材4の改質されていない部分(非改質の部分)に比べて、第一改質部1が非常に速くエッチングされる現象を利用しており、結果として第一改質部1の形状に応じた微細孔3を形成できる。
【0058】
エッチング液は特に限定されず、基材4がガラス製である場合、例えばフッ酸(HF)を主成分とする溶液、フッ酸に硝酸等を適量添加したフッ硝酸系の混酸等を用いることができる。また、基材4の材料に応じて、KOH等の塩基性のエッチャント若しくは他の薬液を用いることもできる。
工程Dにおけるエッチングの結果、ナノオーダーの孔径を有する微細孔3を基材4内に形成できる。
【0059】
前記ウェットエッチングの処理時間を調整することによって、第一改質部1と微細孔3とのサイズ差を小さくしたり大きくしたりすることが可能である。例えば、前記処理時間を短くすることによって、微細孔3の短径(最も短い直径)を数nm〜数十nmにすることも理論的には可能である。これとは逆に、前記処理時間を長くすることによって、微細孔3の前記短径をより大きくするとすることもできる。
【0060】
工程Dにおけるエッチングとしては、ドライエッチングも適用可能である。等方性ドライエッチング法としては、例えばバレル型プラズマエッチング、平行平板型プラズマエッチング、ダウンフロー型ケミカルドライエッチング、などの各種ドライエッチング方式が挙げられる。異方性ドライエッチング法としては、例えば平行平板型RIE、マグネトロン型RIE、ICP型RIE、NLD型RIEなどの反応性イオンエッチング(以下RIE)を用いる方法が挙げられる。また、RIE以外にも、例えば中性粒子ビームを用いたエッチングを使用することが可能である。異方性ドライエッチング法を用いる場合には、プロセス圧力を上げる等の手法によって、イオンの平均自由行程を短くし、等方性エッチングに近い加工も可能となる。その他のドライエッチング方式による加工も可能である。
【0061】
以上で説明した第一態様の工程A〜工程Dにおける基材4の、第一改質部1の長手方向に直交する断面を
図5A〜
図5Dに示す。
図5Aは
図1に示す基材4の断面図に対応し、
図5Bは
図2に示す基材4の断面図に対応し、
図5Cは
図3に示す基材4の断面図に対応し、
図5Dは
図4に示す基材4の断面図に対応する。矢印Zは、第一レーザー光L又は第二レーザー光Mの伝播方向を示す。
図5C及び
図5Dにおける構造変質部7及び第一再改質部2は、エッチング耐性などについてレーザー照射されていない領域(非改質部)と区別できない状態であり得ることを示すために、点線によって描いてある。
図5A〜
図5Dは、本発明にかかる製造方法の第一態様によって、基材4に微細孔3を形成して基体10を製造する一例である。
【0062】
工程A又は工程Bにおけるレーザー照射強度を調節することにより、
図6A〜
図6D及び
図7A〜
図7Dの断面図に示すように、第一改質部1、第一再改質部2、構造変質部7、及び微細孔3を、基材4に形成することもできる。なお、
図6A〜
図6D及び
図7A〜
図7Dの断面図は、
図5A〜
図5Dの断面図に対応する。
【0063】
図6Bにおいては、第二レーザ光Mの焦点(集光域)が第一改質部1に重ねて走査されたにも関わらず(走査された領域は、図において楕円で示した領域である)、第一再改質部2に変換されず、第一改質部1として残存する部分1z(1)がある。これは、第二レーザー光Mの集光域の周縁部のレーザーの照射強度が弱く、第一改質部1を変性して第一再改質部2に変化させるには至らなかったためである。前記部分1z(1)は、工程Cを経て、工程Dにおいてエッチングされうるので、
図5Dと比べて、微細孔3の孔径が大きくなりうる。
【0064】
図7Bにおいては、第二のレーザ光Mの焦点(集光域)を第一改質部1の中央部だけに限定的に走査したため、改質部1p(1)及び改質部1q(1)が残存している。改質部1p(1)及び改質部1q(1)は、工程Cを経て、工程Dにおいてエッチングされうるので、
図7Dに示すように、基体4の上面から見て二つの微細孔3p(3)及び微細孔3q(3)を縦に並べて形成した基体10が形成できる。
【0065】
なお、工程Bおよび工程Cの加工条件を適宜調整することにより、微細孔の長径を小さくすることが可能であり、長径をナノオーダーの長さ(nm単位の長さ)とすることもできる。
【0066】
[レーザーの照射強度]
本明細書及び特許請求の範囲において、「加工上限閾値(加工適正値)」とは、基材内に照射したレーザー光の焦点(集光域)において、基材とレーザー光との相互作用によって生じる電子プラズマ波と入射するレーザー光との干渉が起こり、前記干渉によって基材に縞状の改質部が自己形成的に形成されうるレーザー照射強度の下限値を意味する。
また、本明細書及び特許請求の範囲において、「加工下限閾値(閾値)」とは、基材内に照射したレーザー光の焦点(集光域)において、基材を改質した改質部を形成し、後段のエッチング処理によって選択的又は優先的にエッチングされることが可能な程度に、前記改質部のエッチング耐性を低下させることが可能なレーザーの照射強度の下限値である。この加工下限閾値よりも低いレーザーの照射強度によりレーザー照射した領域は、後段のエッチング処理において選択的又は優先的にエッチングされ難い。このため、エッチング後に微細孔となる改質部を形成するためには、レーザーの照射強度を加工下限閾値以上に設定することが好ましい。
【0067】
加工上限閾値及び加工下限閾値は、レーザー光の波長、レーザーの照射対象である基材の材料(材質)、及びレーザーの照射条件によって概ね決定される。しかし、レーザー光の偏波方向と走査方向との相対的な向きが異なると、加工上限閾値及び加工下限閾値も多少異なる場合がある。例えば、偏波方向に対して走査方向が垂直の場合と、偏波方向に対して走査方向が平行の場合とでは、加工上限閾値及び加工下限閾値が異なる場合がある。したがって、使用するレーザー光の波長及び使用する基材において、レーザー光の偏波方向と走査方向との相対関係を変化させた場合の、それぞれの加工上限閾値及び加工下限閾値を、予め調べておくことが好ましい。
【0068】
[単一の改質部を形成するレーザー照射方法]
工程Aにおいて、第一レーザー光Lを照射する際のレーザーの照射強度としては、加工下限閾値以上且つ加工上限閾値未満に設定することが好ましく、加工上限閾値未満且つ加工上限閾値近傍に設定することがより好ましい。
上記設定にすると、第一改質部1をエッチングした後に形成される微細孔3の短径をナノオーダーの長さとなるように、より容易に形成することができる。
【0069】
また、工程Aにおいて、レーザー光Lの照射強度を、加工下限閾値以上且つ加工上限閾値未満、又は、加工上限閾値未満且つ加工上限閾値近傍に設定すると共に、第一レーザー光Lの偏波方向E1(電場方向)を走査方向Uに対して略垂直となるようにすることが好ましい。つまり、第一レーザー光Lの偏波方向E1とその焦点の走査方向Uとがなす角を88°より大きく90°以下に設定することが好ましい。このようなレーザーの照射方法を、以下ではレーザーの照射方法Sと呼ぶ。
【0070】
レーザーの照射方法Sを、
図9において説明する。第一レーザー光Lの伝播方向は矢印Zであり、第一レーザー光Lの偏波方向(電場方向)は矢印E1である。レーザーの照射方法Sでは、第一レーザー光Lの照射領域を、第一レーザー光Lの伝播方向Zと、第一レーザー光Lの偏波方向E1に対して垂直な方向と、によって構成される平面4a内とする。
【0071】
レーザーの照射方法Sによれば、レーザー光の焦点(集光域)を走査した領域に沿って、単一の改質部1(石英又はガラスにおいては酸素欠乏部)を形成できる(
図10 A)。このようにして形成した改質部1のエッチング耐性は極めて弱いため、そのエッチングを行うと、単一の微細孔3を形成することができる(
図4)。このことは、本発明者らの鋭意検討によって見出された。
【0072】
また、レーザーの照射方法Sによれば、基材4内にナノオーダーの孔径を有する改質部1を形成できる。例えば、短径が20nm程度、長径が0.2μm〜5μm程度の略楕円形状(略矩形)の断面を有する改質部1が得られる。この略楕円形状は、例えば、レーザー光Lの伝搬方向Zに対して走査方向Uが略垂直となる場合には、レーザーの伝播方向Zに沿った方向が長軸となり、レーザーの偏波方向E1に沿った方向が短軸となる。レーザー照射の具合によっては、形成される改質部1の断面は矩形に近い形状となることもある。
【0073】
レーザーの照射方法Sを用いて改質部1を形成する際の、第一レーザー光Lの焦点を走査する方法は特に限定されないが、一度の連続走査によって形成できる改質部1は偏波方向(矢印E1方向)に対して略垂直な1次元方向と、レーザー光Lの伝搬方向(矢印Z方向)の2次元方向(平面4a)内に限定される。この2次元方向内であれば任意の形状となるように改質部を形成できる。
【0074】
図9においては、第一レーザー光Lの伝播方向Zは、基材4の上面に対して垂直である場合を示したが、必ずしも垂直である必要はない。前記上面に対して所望の入射角となるように、第一レーザーLを照射してもよい。
基材4内に、3次元方向に任意形状を有する改質部1を形成することは、レーザーの偏波方向(矢印E1方向)を適宜変更し、焦点の走査方向を適宜調整することによって行うことができる。
【0075】
また、
図9において示すように、第一レーザー光Lをレンズを用いて集光して照射することによって改質部1を形成してもよい。
前記レンズとしては、例えば屈折式の対物レンズ若しくは屈折式のレンズを使用することができるが、他にも例えばフレネル、反射式、油浸もしくは水浸式の方法によって照射することも可能である。また、例えばシリンドリカルレンズを用いれば、一度に基材4の広範囲にレーザー照射することが可能になる。また、例えばコニカルレンズを用いれば基材4の垂直方向に広範囲に一度にレーザー光Lを照射することができる。ただしシリンドリカルレンズを用いた場合には、レーザー光Lの偏波はレンズが曲率を持つ方向に対して水平である必要がある。
【0076】
レーザーの照射条件Sの具体例としては、以下の各種条件が挙げられる。例えばチタンサファイアレーザー(レーザー媒質としてサファイアにチタンをドープした結晶を使用したレーザー)を用いる場合において、照射するレーザー光は、例えば波長800nm、繰返周波数200kHzを使用し、レーザー走査速度1mm/秒としてレーザー光Lを集光照射する。これら波長、繰返周波数、走査速度の値は一例であり、本発明はこれに限定されず任意に変えることが可能である。
【0077】
集光に用いるレンズとしては、例えばN.A.<0.7未満の対物レンズを用いることが好ましい。より微小な微細孔3を形成するための照射条件としては、加工上限閾値近傍、又は加工上限閾値未満且つ加工上限閾値近傍において照射することが好ましい。
具体的には、例えば、パルス時間幅300fs、繰返周波数200kHz、走査速度1mm/s程度の条件である場合には、80nJ/pulse程度以下のパルスエネルギーで、照射強度は550kW/cm
2程度の照射強度で、1パルスあたりのレーザーフルエンスが2.7J/cm
2程度で照射することが好ましい。
一方、加工上限閾値以上の照射強度、或いは、その加工上限閾値に相当する1パルスあたりのレーザーフルエンスよりも大きくすると、周期性を有する複数の改質部1が形成されてしまうことがある。又、パルス時間幅をより短くしたり、走査速度を遅くしたり、繰返周波数を大きくしたりすると、最適なレーザーの照射強度或いは1パルスあたりのレーザーフルエンスがより小さくなり、逆にパルス時間幅をより長くしたり、走査速度を速くしたり、繰返周波数を小さくしたりすると最適な照射強度或いは1パルスあたりのレーザーフルエンスがより大きくなる傾向がみられる。さらにN.A.≧0.7に設定しても加工は可能であるが、スポットサイズがより小さくなり、1パルスあたりのレーザーフルエンスが大きくなるため、より小さなパルスエネルギーに設定したレーザー照射が求められる。なお、レーザーフルエンスとは、単位面積あたりのエネルギー量を指し、J/cm
2またはW/cm
2で表す。
【0078】
[周期性を有する複数の改質部を自己形成的に形成するレーザーの照射方法]
ピコ秒オーダー以下のパルス時間幅を有するレーザー光Lを、加工上限閾値以上に設定して集光照射させると、集光域において電子プラズマ波と入射光の干渉が起こり、レーザーの偏波方向E1に並んだ複数の改質部1が、周期性を伴って自己形成的に形成できる(
図11参照)。
【0079】
レーザー光を上記条件に設定して走査すると、最初のレーザー照射(最初のレーザーパルス)によって形成した周期性を伴う改質部に対して、つづくレーザー照射(つづくレーザーパルス)により形成する周期性を伴う改質部を連続的に繋げられるので、偏波方向E1に所定の間隔で並んだ複数の改質部1、1’、1”を形成できる。この際、複数の改質部1、1’、1”の長手方向は、偏波方向E1に対して略垂直となる。また、並列して形成された複数の改質部1、1’、1”のうち、中央に形成された改質部1’の改質の程度が方が、改質部1、1”の改質の程度より大きくなる傾向がある(
図11参照)。
【0080】
形成された複数の改質部はエッチング耐性が弱くなっている。例えば石英(ガラス)の場合、酸素が欠乏した層と酸素が増えた層が周期的に配列され(
図10B)、酸素欠乏部のエッチング耐性が弱くなっており、エッチングを行うと周期的な構造(周期的に配列した微細孔)が形成されうる。
【0081】
このように周期性を有する複数の改質部を自己形成的に形成する際の、レーザー照射条件の具体例としては、以下の各種条件が挙げられる。例えばチタンサファイアレーザー(レーザー媒質としてサファイアにチタンをドープした結晶を使用したレーザー)を用いる場合において、照射するレーザー光は、例えば波長800nm、繰返周波数200kHzを使用し、レーザー走査速度1mm/秒としてレーザー光Lを集光照射する。これら波長、繰返周波数、走査速度の値は一例であり、本発明はこれに限定されず任意に変えることが可能である。
【0082】
集光に用いるレンズとしては、例えばN.A.<0.7未満の対物レンズを用いることが好ましい。より微小な微細孔3を複数形成するための照射条件としては、加工上限閾値以上且つ加工上限閾値近傍において照射することが好ましい。
具体的には、例えば、パルス時間幅300fs、繰返周波数200kHz、走査速度1mm/s程度の条件である場合には、90nJ/pulse程度以上のパルスエネルギーで、照射強度は600kW/cm
2程度以上の照射強度で、1パルスあたりのレーザーフルエンスが3J/cm
2程度以上の照射条件によって照射することが好ましい。また、N.A.≧0.7に設定しても加工は可能であるが、パルスエネルギーが同一であるときにはスポットサイズがより小さくなり、1パルスあたりのレーザーフルエンスが大きくなるため、より小さなパルスエネルギーに設定したレーザー照射を行うことが求められる。
複数形成される改質部1の周期(離間距離(間隔))は、レーザー光の波長、若しくはパルスエネルギーを変えることによって変化させることができる。一般的にレーザー光の波長が長くなるほど、或いは、レーザー光のパルスエネルギーが大きいほど、前記周期が大きくなる傾向がある。
【0083】
前述した、単一の改質部を形成するレーザー照射方法(レーザー照射方法S)、及び周期性を有する複数の改質部を自己形成的に形成するレーザー照射方法は、工程Aにおいて改質部を形成する際に適用することが好適であるが、工程Bにおいて再改質部、又は再改質部及び構造変質部を形成する際に適用してもよい。また、工程Bにおけるレーザー照射の際のパルスエネルギーは、工程Aにて、レーザー照射方法Sが実現できる程度のパルスエネルギーを用いることが好ましく、さらに好ましくは、レーザー照射方法Sのパルスエネルギーよりもわずかに小さなパルスエネルギーによって照射することが好ましい。また、工程Bにおいて、走査するレーザー光Mの焦点の高さをずらして、基材内の複数の位置へ照射することも可能である。
【0084】
本明細書では、本発明に使用するレーザー光の偏波が直線偏波である場合を詳細に説明した。本発明に使用するレーザー光の偏波が、多少の楕円偏波成分を持つ場合であっても同様な改質部、再改質部、及び構造変質部が形成できることは容易に想像できる。
【0085】
(2)第二態様の基体の製造方法(第二の製造方法)
本発明に係る「微細孔を有する基体の製造方法(第二の製造方法)」は、基体の内部において、ピコ秒オーダー以下の時間幅を有する第二のレーザー光の焦点を走査して、前記基体のエッチング耐性を低下させた構造変質部を形成する工程αと、前記構造変質部と部分的に重なるように、前記基板の内部にピコ秒オーダー以下の時間幅を有する第一のレーザー光の焦点を走査することにより、前記走査した領域のうち前記構造変質部と重ならない領域に、エッチング選択性を有する第三改質部および第四改質部を形成し、且つ、前記走査した領域のうち前記構造変質部と重なる領域に、前記構造変質部のエッチング耐性を変化させた第三再改質部および第四再改質部を形成する工程βと、前記第三再改質部、前記第四再改質部および前記構造変質部を加熱することにより、前記第三再改質部、前記第四再改質部および前記構造変質部のエッチング耐性を高める工程γと、前記第三再改質部、前記第四再改質部および前記構造変質部以外の、前記第三改質部および前記第四改質部をエッチングにより除去することにより、前記基体内に微細孔を形成する工程δと、を含む。
【0086】
[第二の製造方法における工程α]
工程αにおいては、第二レーザー光を用いて、基材内にエッチング耐性を低下させた構造変質部を形成する。
図12は、第二レーザー光Mを、基体を構成する基材4の上面から照射する様子を示した図である。第二レーザー光Mの焦点(集光域)を矢印Kの方向へ走査することによって、エッチング耐性が低下した構造変質部7を基材4内に形成する。構造変質部7は、工程βにおいて第三改質部1を形成する領域に隣接して形成されている。
図12の例においては、構造変質部7の第一端部7a及び第二端部7bは、基材4の側面に露呈している。構造変質部7は、エッチング選択性を有する程度に強く改質されていても良いし、エッチング選択性を殆ど有さない程度に弱く改質されていても良い。レーザーの照射強度及びレーザーの照射条件を適宜設定することにより、どちらの程度にすることもできる。
【0087】
本発明において、「第三改質部」とは、「エッチング耐性が低くなり、エッチングによって選択的に又は優先的に除去される部分」を意味する。また、「構造変質部」とは、「エッチング耐性が低くなるが、エッチングによって、必ずしも選択的に又は優先的に除去されるとは限らない部分」を意味する。
【0088】
工程αにおいて、第二レーザ光Mの偏波方向E2は、工程βにおける第一レーザー光Lの偏波方向E1と異なる向きであることが好ましい。つまり、本発明において、第二レーザー光Mの偏波方向E2と、第一レーザー光Lの偏波方向E1とが、互いに異なる向きであることが好ましい。偏波方向が互いに異なるレーザー光を用いることによって、工程βにおいて、構造変質部7の少なくとも第一部分において改質状態を変性させて、そのエッチング耐性を変化させた第三再改質部2が容易に形成される。この際、第三再改質部2のエッチング耐性は構造変質部7のエッチング耐性よりも一層容易に高まる。
【0089】
また、
図12に示すように、工程βにおいて形成する予定の第三改質部1の長手方向に沿って、構造変質部7を形成することが好ましい。ここで、第三改質部1の長手方向とは、第三改質部1の第一端部1aと第二端部1bとを結ぶ方向(走査方向K)である(
図13)。これにより、工程βにおいて、第三改質部1の長手方向に沿って第三再改質部2を形成できる。
【0090】
この際、第二レーザー光Mの走査方向Kと、第二レーザー光Mの偏波方向E2とのなす角度は0°以上88°以下であることが好ましい。
上記範囲の角度に調整することによって、構造変質部7、及び工程βにおいて形成する第三再改質部2に含まれうる周期成分を第二レーザー光Mの走査方向Kに対して交差させて形成できる。つまり、構造変質部7及び第三再改質部2に含まれうる周期成分を、工程βにおいて形成する第三改質部1の長手方向に対して交差させて形成できる。前記周期成分を前記第三改質部1の長手方向に対して交差させるように構造変質部7及び第三再改質部2を形成すると、後段の工程γにおける加熱処理において、前記構造変質部7及び第三再改質部2のエッチング耐性が容易に高まる。この結果、工程δにおけるエッチングにおいて、第三改質部1と、構造変質部7及び第三再改質部2とのエッチング速度の差をより大きくすることができ、より小さいサイズの孔径を有する微細孔3を形成できる。
【0091】
第二レーザー光Mの照射強度を加工上限閾値以上に設定した場合、構造変質部7及び第三再改質部2において、改質の程度が比較的強い領域と改質の程度が比較的弱い領域とを、平行且つ交互に周期を伴って、自己形成的に形成することができる。これら二つの領域を、各々、前記周期を構成する「周期成分」と定義する。そして、これらの周期成分が延びる方向に対して直交する方向であって、周期性が観測される方向を「周期成分の周期方向」と定義する。第二レーザー光Mの走査方向Kと偏波方向E2とのなす角度が0°以上88°以下であることにより、周期成分を走査方向Kに対して交差させて形成した場合、周期成分の周期方向は偏波方向E2に一致する。このことは、
図8において説明した第一の製造方法と同じである。
【0092】
第二レーザー光Mの走査方向Kと偏波方向E2のなす角度は、0°以上88°以下であることが好適であり、0°以上15°以下であることがより好適であり、0°以上10°以下であることが更に好適であり、0°以上5°以下であることが特に好適であり、0°であることが最も好適である。つまり、前記なす角度は、小さいほど(0°に近い角度であるほど)好ましい。第二レーザー光Mの走査方向Kと偏波方向E2のなす角度が、小さい角度であるほど、構造変質部7を形成するために要するレーザーの照射強度が小さくなり、効率よく構造変質部7を形成できる。つまり、第二レーザー光Mの走査方向Kと偏波方向E2のなす角度が、小さい角度であるほど、構造変質部7のエッチング耐性が下がる傾向がある。
【0093】
図12においては、第二レーザー光Mの伝播方向Zは、基材4の上面に対して垂直である場合を示したが、必ずしも垂直である必要はない。前記上面に対して所望の入射角となるように、第二レーザーMを照射してもよい。また、
図12において示すように、第二レーザー光Mをレンズを用いて集光して照射することによって構造変質部7を形成してもよい。これらの方法は、前述した第一の製造方法と同じである。
また、第二レーザー光Mの種類、その波長、繰返周波数、走査速度等の具体例は、前述した第一の製造方法において例示した条件と同じ条件が挙げられる。
【0094】
[第二の製造方法における工程β]
工程βにおいては、ピコ秒オーダー以下の時間幅を有する第一レーザー光を用いて、基材内の微細孔となる領域を含む領域に、孔径がナノオーダーの第三改質部を形成する。
図13は、第一レーザー光Lを、基体をなす基材4の上面から照射する様子を示した模式図である。第一レーザー光Lの焦点(集光域)を矢印Uの方向へ走査することによって、エッチング選択性がある第三改質部1を基材4内に形成する。第三改質部1は、工程δのエッチング後に微細孔3が形成される領域を含む領域に、形成されている。第三改質部1の第一端部1a及び第二端部1bは、基材4の側面に露呈している。
【0095】
第一レーザー光Lを照射する際、工程αにおいて形成した構造変質部7と部分的に重なるように、第一レーザー光Lの焦点(集光域)を走査して、前記走査した領域のうち構造変質部7と重ならない領域に、エッチング選択性を有する第三改質部1を形成し、且つ、前記走査した領域のうち構造変質部7と重なる領域に、前記構造変質部7のエッチング耐性を変化させた第三再改質部2を形成する。つまり、構造変質部7の長手方向に沿って第一レーザー光Lの焦点を走査して、構造変質部7の少なくとも第一部分において、その長手方向に重ねて第三再改質部2を形成する。
【0096】
第三改質部1の長手方向に重ねて形成した第三再改質部2のエッチング耐性を、後段の工程γにおける加熱処理によって高めることにより、第三再改質部2をエッチングされ難い又は実質的にエッチングされない領域にすることができる。これによって、第一レーザー光Lの焦点(集光域)を走査した領域よりも、実際にエッチングされる第三改質部1の領域を小さくすることができる。この結果、最終的に形成される微細孔3の孔径を、第三改質部1の長手方向に渡って小さくすることができる。
【0097】
図13に示した例においては、第一レーザー光Lの偏波方向E1は、走査方向Uに対して直交している。つまり、走査方向Uと偏波方向E1とのなす角度は90°である。本発明において、第一レーザー光Lの走査方向Uと、第一レーザー光Lの偏波方向E1とのなす角度は、88°より大きく90°以下であることが好ましく、88.5°以上90°以下であることがより好ましく、89°以上90°以下であることがさらに好ましく、90°であることが特に好ましい。
また、第一レーザー光Lの照射強度を、加工上限閾値未満且つ加工上限閾値近傍、又は加工下限閾値以上加工上限閾値未満とすることが好ましい。「加工下限閾値(閾値)」及び「加工上限閾値(加工適正値)」の説明は、第一の製造方法において説明した「レーザーの照射強度」と同様である。
【0098】
このように設定した第一レーザー光Lを照射することによって、形成する第三改質部1の孔径のうち、偏波方向E1の径(短径)を、ナノオーダー(1nm〜900nm程度)又はサブマイクロオーダー(0.9μm〜1μm程度)となるように、より容易に形成することができる。一方、形成する第三改質部1の孔径のうち、第一レーザー光Lの伝播方向Zの径(長径)は、通常0.01μm〜1.5μm程度の長さに形成することができる。第一レーザー光Lの焦点(集光域)の大きさ(範囲)が同じである場合、構造変質部7に形成する第三再改質部2を大きくするほど、第三改質部1の孔径(例えば前記伝播方向Zの径)を小さくすることができる。
【0099】
図13においては、第一レーザー光Lの伝播方向Zは、基材4の上面に対して垂直である場合を示したが、必ずしも垂直である必要はない。前記上面に対して所望の入射角となるように、第一レーザーLを照射してもよい。また、
図13に示すように、第一レーザー光Lをレンズを用いて集光して照射することによって第三改質部1及び第三再改質部2を形成してもよい。これらの方法は、前述の第一の製造方法と同じである。
【0100】
第一レーザー光の種類、その波長、繰返周波数、走査速度等の具体例は、前述の第一の製造方法において例示した条件と同じ条件が挙げられる。また、前述の「単一の改質部を形成するレーザーの照射方法」及び「周期性を有する複数の改質部を自己形成的に形成するレーザーの照射方法」についても、第二の製造方法において適用できる。
【0101】
上記のように第三改質部1を形成する際、第一レーザー光Lのレーザー光の照射強度を加工上限閾値以上に設定することにより、その両側に隣接して、第三改質部1とほぼ同形の第四改質部を形成することができる。この場合、
図13において、第四改質部は、第三改質部1の紙面奥側と紙面手前側に、第三改質部1に平行となるように形成される。なお、図を見やすくするために
図13において第四改質部は描いていない。第四改質部が形成される際、構造変質部7と重なる部分においては、前述の第三再改質部2と同様に、第三再改質部2と同様の性質を有する第四再改質部が形成されうる。
【0102】
一般に、改質されてエッチング耐性が低下した部分のレーザーの透過率は、改質されていない非改質部分のレーザーの透過率とは異なるため、改質された部分を透過させたレーザー光の焦点位置を制御することが困難になる場合がある。このため、第一レーザー光Lは、構造変質部7が形成された領域を透過させず、レーザー照射する側の面から見て、構造変質部7の手前から構造変質部7に向けて照射することが好ましい。つまり、第一レーザー光Lの照射口とその焦点との間に構造変質部7を位置させることを避けて、前記焦点の位置を構造変質部7よりも照射口に近くなるように、その焦点を走査することが好ましい。
【0103】
[第二の製造方法における工程γ]
工程γにおいては、「第三再改質部2及び構造変質部7、又は第三再改質部2」を加熱することにより、その「第三再改質部2及び構造変質部7、又は第三再改質部2」のエッチング耐性を高める処理を行う。基材4内部に形成された「第三再改質部2及び構造変質部7、又は第三再改質部2」を加熱する方法としては、基材4全体を電気炉若しくは赤外線ランプ等によって加熱しても良いし、第三再改質部2及び構造変質部7とその周辺を限定的に、又は第三再改質部2とその周辺を限定的に、加熱用のレーザー照射装置を用いて加熱しても良い。
【0104】
加熱処理前において、第一レーザー光Lの照射によって構造変質部7を変性して形成された第三再改質部2の改質の程度は、第三改質部1の改質の程度よりも小さい。つまり、第三改質部1に隣接する第三再改質部2のエッチング耐性は、第三改質部1のエッチング耐性よりも高い。これらの第三改質部1及び第三再改質部2が形成された基材4を加熱処理すると、第三改質部1及び第三再改質部2の改質の程度が共に(それぞれ)少なくなり、エッチング耐性が共に(それぞれ)増加する。加熱処理を所定時間行うことによって、第三再改質部2のエッチング耐性を、基材4の非改質部のエッチング耐性と同等レベルまで高めて、且つ、第三改質部1のエッチング耐性は、基材4の非改質部のエッチング耐性よりも充分に低い状態にすることができる。この結果、後段の工程δのエッチング処理において、第三再改質部2を選択的にエッチングせずに、第三改質部1を選択的又は優先的にエッチングして除去できる。
【0105】
具体的には、例えば合成石英製の基材4を用いた場合、加熱処理前において、第三改質部1は酸素欠乏の程度が非常に大きい(エッチング耐性が非常に低い)状態にあり、第三再改質部2は酸素欠乏の程度が比較的小さい(エッチング耐性が低い)状態にあり、非改質部は通常の石英ガラス(エッチング耐性は普通)の状態にある。この合成石英製(ガラス製)の基材4を加熱処理することによって、合成石英(ガラス)を構成する酸素原子の再配置が起こり、第三改質部1の酸素欠乏の程度は少し解消されて、酸素欠乏の程度が大きい(エッチング耐性が低い)状態となり、第三再改質部2の酸素欠乏の程度は殆ど解消された(エッチング耐性は普通と同等)状態となり、非改質部は変化しない。この結果、後段の工程δのエッチング処理において、第三再改質部2を除いた改質部1を選択的又は優先的にエッチングして除去できる。
ここで、石英製(ガラス製)の基材において、「酸素欠乏の程度」とは、「レーザー照射前に存在した酸素原子が欠失している割合」を意味する。
【0106】
第三再改質部2が形成される際に残された構造変質部7は、工程γにおける加熱処理によって、第三改質部1及び第三再改質部2と同様に、構造変質部7のエッチング耐性も高められる。前段の工程αにおいて構造変質部7の改質の程度を第三改質部1と同程度に強くした場合は、加熱処理後においても構造変質部7のエッチング選択性を残存させることができる。一方、前段の工程αにおいて構造変質部7の改質の程度を第三改質部1よりも充分弱くした場合は、加熱処理によって、構造変質部7のエッチング耐性は基材4の非改質部のエッチング耐性と同等レベルまで高められる。
【0107】
図3は、第一の製造方法における加熱処理後の基材4の一例を示しているが、第二の製造方法における加熱処理後の基材4の一例も、
図3に示す状態と同じである。つまり、
図13の基材4を加熱処理すると、
図3の状態となる。
図3に示した例の場合、加熱処理後の基材4において、第三再改質部2及び構造変質部7のエッチング耐性は、基材4のエッチング耐性と殆ど同等になっている。このため第三再改質部2及び構造変質部7は
図3に図示していないが、このことは、加熱処理後の第三再改質部2及び構造変質部7の物理的な特性(透明度、硬度等)が非改質部と完全に一致することは必ずしも意味しない。
【0108】
工程γにおける加熱の温度及び加熱処理の時間の説明は、第一の製造方法の工程Cにおける加熱の温度及び加熱処理の時間の説明と同じである。
【0109】
[第二の製造方法における工程δ]
工程δにおいては、第三再改質部2及び構造変質部7以外の、第三改質部1をエッチングにより除去して、基体を構成する基材4内に微細孔3を形成する。加熱処理後の基材4において、第三再改質部2のエッチング耐性及び構造変質部7のエッチング耐性と、第三改質部1のエッチング耐性との間に、充分な差を持たせることができるため、第三改質部1を選択的又は優先的にエッチングできる。この結果、
図4に示すように、基材4の側面に第一端部3a及び第二端部3bを有する微細孔3が形成された基体10が得られる。
図4は、第一の製造方法におけるエッチング処理後の基材4の一例を示しているが、第二の製造方法におけるエッチング処理後の基材4の一例も、
図4に示す状態と同じである。
上記の例においては、第三再改質部2及び構造変質部7は殆どエッチングされないが、高濃度のエッチング液を使用した場合、又はエッチング時間を通常よりも長くした場合には、第三再改質部2又は構造変質部7が、部分的にエッチングされる可能性もある。
【0110】
エッチング方法、エッチング液、及びウェットエッチングの処理時間と微細孔3のエッチング度合いの説明は、前述の第一態様の製造方法における工程Dの説明と同じである。
【0111】
以上で説明した第二の製造方法の工程α〜工程δにおける基材4の、第三改質部1の長手方向に直交する断面を
図14A〜
図14Dに示す。
図14Aは
図12の基材4の断面図に対応し、
図14Bは
図13の基材4の断面図に対応し、
図14Cは
図13の工程βの後で、工程γを経た基材4の断面図に対応し、
図14Dは工程γの後で、工程δを経た基材4の断面図に対応する。矢印Zは、第一レーザー光L又は第二レーザー光Mの伝播方向を示す。
図14A〜
図14Dは、本発明に係る第二の製造方法によって、基材4に微細孔3を形成して基体10を製造する一例である。
【0112】
工程α又は工程βにおけるレーザーの照射強度を調節することにより、
図15A〜
図15Dの断面図に示すように、第三改質部1、第三再改質部2、構造変質部7、及び微細孔3を、基材4に形成することもできる。なお、
図15A〜
図15Dの断面図は、
図14A〜
図14Dの断面図に対応する。
【0113】
図15Bにおいては、第一レーザ光Lの焦点(集光域)を構造変質部7に重ねて走査した領域において、第三再改質部2だけではなく、第四改質部1z(1)を形成している。
このエッチング耐性が低い第四改質部1z(1)が形成された理由は、第一のレーザー光Lの照射強度が強いため又は第二のレーザー光Mの照射強度が弱いため、構造変質部7を強く改質するに至ったからである。前記第四改質部1z(1)は、工程γを経て、工程δにおいてエッチングされうるので、
図14Dと比べて、
図15Dの微細孔3の孔径が大きくなる可能性がある。
なお、工程αおよび工程γの加工条件を適宜調整すれば微細孔の長径を小さくすることが可能であり、長径をナノオーダーの長さ(nm単位の長さ)に形成することもできる。
【0114】
<微細孔を配した基体の使用例>
図16は、本発明に係る基体30の斜視図である。
図17及び
図18は、
図16のA−A線に沿う断面を示す模式図である。
【0115】
基体30は、前述の基体の製造方法によって製造した、微細孔を有する基体の一例である。この基体30は、例えば、微粒子Tを捕捉する用途に使用できる。基体30には、微粒子Tを含む流体Qを流入させる、基材24に内在する空間を構成する第一流路22、内部を陰圧にすることが可能な第二流路23、及び第一流路22と第二流路23とを連通する(連結する)微細孔21、が少なくとも備えられている。第一流路22及び第二流路23は、微細孔21を形成する際に、フォトリソグラフィ等の周知方法により形成できる。
【0116】
微細孔21は、第二流路23を通じて、基材24の外部へ連通する。第一流路22の側面22aに、微細孔21の第一端部21aが露呈する開口部(吸着部S)が形成され、第一流路22の上面22cの少なくとも一部分又は下面22bの少なくとも一部分は、吸着部Sにトラップされた微粒子Tを光学的に観察することが可能なように、透明な部材25によって構成されており、基材24のうち、少なくとも微細孔21を構成する部位は、単一の部材である。
【0117】
基体30において、微細孔21が形成された基材24は、単一の部材である。
前記単一の部材の材料として、例えばシリコン、ガラス、石英、サファイアなどが挙げられる。これらの材料は、微細孔21の加工性に優れるので好ましい。なかでも、結晶方位による加工異方性の影響を受けにくい非結晶質である方が好ましい。
更には、顕微鏡などの光学装置によって、開口部Sにトラップされた微粒子を観察するために、前記材料として、可視光線(波長0.36μm〜0.83μm)を透過させる、ガラス、石英、サファイア等を用いることが、より好ましい。
【0118】
また、前記単一の部材の材料は、波長0.1μm〜10μmを有する光のうち少なくとも一部の波長を有する光を透過させる(少なくとも一部の波長を有する光に対して透明である)ことが好ましい。
具体的には、加工用レーザー光として使用される一般的な波長領域(0.1μm〜10μm)の、少なくとも一部領域の光を透過させることが好ましい。このようなレーザー光を透過させることによって、前述したように、前記部材にレーザー照射して改質部を形成することができる。
また、前記材料は、可視光領域(約0.36μm〜約0.83μm)の光を透過させる材料であることが、より好ましい。可視光領域の光を透過させる材料であることによって、捕捉した微粒子Tを、前記単一部材を透して光学的観察装置によって容易に観察することができる。
なお、本発明における「透明」とは、前記部材に光を入射して、該部材から透過光が得られる状態の全てをいう。
図16においては、基材24を構成する単一の部材は透明なガラス基板である。
【0119】
前記流体Qは液体又は気体のことであり、例えば血液、細胞培養液、飲料用液体、河川水等が挙げられる。また、空気も流体Qに含まれる。
基体30が捕捉する微粒子Tとしては、流体Qに含まれることが可能な微粒子であれば特に制限されず、前記流路を流通することが可能な微粒子であることが好ましい。例えば、微生物、細胞、有機物質で構成される粒子、無機物質で構成される粒子等が挙げられる。前記微生物としては、細菌、真菌、黴、大型のウイルス等が例示できる。前記細胞としては、赤血球、白血球等の浮遊培養することが可能な細胞を例示できる。前記有機物質で構成される粒子としては、樹脂若しくは多糖類等の高分子で構成される粒子、活性炭粒子等を例示できる。前記無機物質で構成する粒子としては、シリカ粒子若しくは金コロイド粒子等の金属粒子を例示できる。
【0120】
前記有機物質で構成される粒子、及び前記無機物質で構成される粒子は、その表面又は内部に抗体分子等を結合させた機能性粒子であってもよい。
前記有機物質で構成される粒子の形状、及び前記無機物質で構成される粒子の形状は、特に制限されない。例えば、球、立方体、直方体、多面体、ドーナッツ形の立体、ひも状の立体等、あらゆる立体形状の粒子が、前記微粒子に含まれる。
前記有機物質で構成される粒子、及び前記無機物質で構成される粒子の大きさは、前記吸着部を構成する微細孔の第一端部の開口径(短径)よりも大きければ、特に制限されない。
つまり、前記微細孔を通過する大きさでなければよい。
【0121】
図17及び
図18に示すように、微細孔21は第一流路22と第二流路23とを連通する。微細孔21の第一端部21a(第一の開口部21a)は、第一流路22の側面22aに露呈し(開口し)、吸着部Sをなす。微細孔21の第二端部21b(第二の開口部21b)は、第二流路23の側面に露呈している。
【0122】
微細孔21は、単一のガラス基板24に形成されており、継ぎ目又は貼り合わせ面を有さない貫通孔である。当然に、微細孔の端部における吸着部Sについても、継ぎ目若しくは貼り合わせ面は存在しない。ここで「吸着部S」とは、第一流路22の側面22aにおける、微粒子Tが接触若しくは近接する領域をいう。
【0123】
吸着部Sを構成する、微細孔21の第一端部21aの、第一流路22の側面22aにおける孔の形状若しくは大きさは、前述の微細孔の孔径の形状若しくは大きさと同様である。
すなわち、微細孔21の開口部の形状は、矩形、三角形、楕円、又は円のいずれであってもよい。微細孔21の開口部の短径(最も短い口径)が0.02μm〜5μmの範囲であれば、微生物又は細胞等の微粒子Tを、吸着部Sにおいてトラップすることができる。細胞よりもサイズの小さい微生物に対しては、短径が0.02〜0.8μmの範囲が好ましい。
つまり、微細孔21の開口部の短径は、微粒子Tが微小吸引孔21を通り抜けることができない程度にすればよい。例えば赤血球細胞(6〜8μm)をトラップする場合には、前記短径を1μm程度にすればよく、納豆菌(枯草菌;0.7〜2μm)をトラップする場合には、前記短径を0.2μm程度にすればよい。
【0124】
前記短径の範囲としては、好適には0.02μm〜2μmである。
上記範囲の下限値(即ち、0.02μm)未満であると、吸着部Sの吸引力が弱すぎて微粒子Tをトラップすることができない恐れがある。上記範囲の上限値(即ち、2μm)超であると、微粒子Tが、微細孔21を通り抜けてしまい、トラップできない恐れがある。
一方、前記孔の長径(最も長い口径)の長さ(サイズ)は、トラップする微粒子Tの大きさによって適宜調整すればよく、例えば0.01μm〜1.5μmの範囲が挙げられる。
【0125】
図17及び
図18において、微細孔21は、第一流路22の側面22aに対して略垂直となるように形成されている。しかし、必ずしも略垂直である必要はなく、基体30の設計に合わせて、単一のガラス基板24において微細孔21は側面22aに対して任意の角度で形成することが可能である。
また、微細孔21は基体30に複数形成されていてもよい。各々の微細孔21に対して吸着部Sが各々備わるため、複数の微粒子Tをトラップすることができる。
【0126】
第一流路22の下面22bはガラス基板24によって構成されている。下面22bに対向する第一流路22の上面22cは、プラスチック若しくはガラス等の部材25によって構成されている。この上面22c又は下面22bから、顕微鏡等の光学的観察装置によって、吸着部Sにトラップされた微粒子Tを観察することができる。
【0127】
第二流路23の下面23bはガラス基板24によって構成され、第二流路23の上面23cは部材25から構成されている。つまり、第二流路23は半密閉状態の空間である。
第二流路23の上流側には、微細孔21の第二端部21bが露呈して開口している。第二流路23の下流側には、第二流路23の内部を減圧することが可能なシリンジ若しくはポンプ等の減圧装置が備えられている(不図示)。したがって、第一流路22の上流側F1から、第一流路22の下流側F2へ流入(流通)された流体Qの一部が、第二流路23の内部を減圧することによって、微細孔21を介して第二流路23側へ引き込まれる。このとき、流体Qに含まれる微粒子Tを、微細孔21の第一端部21aによって構成される吸着部Sに引き寄せて、トラップすることができる(
図18)。
【0128】
また、
図19に示すように、第一流路22の側面22aの一部が部材25で構成されていてもよい。第一流路22における流体Qの流量を、部材25の厚みを調整することによって、適宜調整することができる。
例えば、部材25を複数積層することによって、第一流路22の径を大きくすることができる。さらに、積層した部材25の高さ(厚さ)を利用して、第二流路23の下流側を基体30の上面に配置することも可能である。
【0129】
部材25の材料としては特に制限されない。例えば、PDMS、PMMA等の樹脂基板、若しくはガラス基板を使用することができる。
なお、第二流路23の上面23cを構成する部材としては、観察装置の光線(例えば可視光線)を透過させる部材であっても、透過させない部材であっても良い。微粒子の捕捉のみを目的とする場合は、必ずしも観察装置の光線を透過させる部材である必要はない。観察装置の光線を透過させる部材であれば、上面からの光学的手法による観察が可能となるため好ましい。
【0130】
トラップした細胞(微粒子)Tの電気生理学的測定を行う場合には、例えば
図20に示すように、第一流路22及び第二流路23に、それぞれ電極26,27を配置することができる。または、細胞外バッファー若しくは細胞内液などを介してトラップした細胞に電気的に接続された、外部に備えた電極を用いて、電気生理学的測定を行うことができる。吸着部Sは単一のガラス基板24で構成されるので、細胞Tの細胞膜に対して高抵抗性シールを形成することが可能である。したがって、細胞の電気生理学的測定を行う際、従来公知のパッチクランプ法が適用できる。このとき、吸着部Sを構成する微細孔21の第一端部21aで構成される孔の口径を、従来のパッチピペット等の孔の口径(2〜4μm程度)よりも小さくすることによって、従来よりも精度の高い電気生理学的測定を行うことができる。
なお、電極26,27は、第一流路22及び第二流路23に連通する別の流路に配置されていてもよい。
【0131】
このように、基材4の外部から微細孔21を吸引することによって、微粒子Tを含む流体Qが流入された第一流路22に開口する、微細孔21の第一端部21aで構成される吸着部Sに、前記微粒子Tを吸着して捕捉することができる。吸着部Sは、単一の部材で構成されているため、継ぎ目がなく、段差が実質的に無い。このため、トラップした微粒子Tを吸着部Sに十分に密着し、トラップ状態を安定させ、その状態を継続することができる。したがって、該微粒子Tの観察が容易である。さらに、該微粒子Tが微生物又は細胞である場合、その電気生理学的測定を高精度に行うことが可能である。
【0132】
本発明にかかる基体10における微細孔1が、微粒子Tを捕捉した様子を
図21に示す。微細孔1の第二の開口部1bから流体Qを吸引することによって、流体Qに含まれる微粒子Tが、微細孔1の第一の開口部1aで構成される吸着部Sに捕捉されている。
このように、本発明にかかる基体に形成された微細孔は、その製造工程において、再改質部2を形成し、その再改質部2のエッチング耐性を加熱処理によって高めているため、エッチング後に形成される微細孔3の開口部の口径を小さくすることができる。このため、当該開口部で構成される吸着部Sにおいて、複数の微粒子Tを捕捉する恐れがなく、単一の微粒子Tのみを捕捉することができる。
【0133】
一方、本発明とは異なる基体100においては、その製造工程において、再改質部2を形成せず、その再改質部2のエッチング耐性を加熱処理によって高めていないため、エッチング後に形成される微細孔103の開口部の口径は大きい。その開口部が大きいので、複数の微粒子Tを吸着してしまう(
図22)。この場合、一方向(例えば基体100の上面)から観察すると、微粒子T同士が重なって観察されてしまうことがあり、観察および実験操作が行いづらい問題がある。
【0134】
本発明の基体によれば、基体表面に開口する前記微細孔の開口部(微細孔の第一端部)において、微粒子を吸着することができる。微細孔の第二端部に吸引装置を設置して、微細孔の孔径よりも大きな微粒子を含む流体を、微細孔の第一端部から内部に吸引すると、微細孔の孔径よりも大きな微粒子は微細孔内に入れないため、微細孔の第一端部において、微粒子が捕捉される。
本発明の基体おける微細孔の第一端部(開口部)の孔径を、ナノオーダー(nm単位)又はサブミクロンオーダー(μm未満の単位)のサイズにすることができる。この第一端部において、微粒子を吸着することによって、単一の微粒子は容易に吸着される。つまり、前記第一端部において、複数の微粒子を同時に捕捉してしまう恐れが少ない。したがって、捕捉した微粒子について、測定および観察等の実験が容易に行われる。
【0135】
図23は、本発明に係る基体の製造方法において、改質部の断面が楕円形状である場合に、その楕円形状の断面の長径と、熱処理温度特性との関係を示すグラフである。
図23のグラフにおいて、横軸は熱処理の温度を、縦軸は長径の熱処理前後比(Db/Da)を表す。ここで、Daは熱処理前の前記長径、Dbは熱処理後の前記長径である。このグラフは実験結果を示しており、
図23のグラフにおいて、実線は熱処理の温度保持時間を5分とした場合であり、二点鎖線は熱処理の温度保持時間を30分とした場合である。ここでは、基材(基体の材料)としてガラスを用いており、昇温速度をおよそ50℃/分としている。
【0136】
前記長径は歪点を下回る温度においては一定であり、歪点以上の温度において減少傾向を示した。
本発明においては、ガラス製の基材(基体の材料)を用い、歪点以上の温度において熱処理を行うことにより、短い時間(例えば、5分程度)の熱処理により、前記再改質部、前記構造変質部、又は前記改質部の第一部分を消滅または変性させることが可能である。
【0137】
すなわち、上述した工程C若しくは工程γにおける加熱の温度条件を、歪点以上の温度に設定することにより、工程C若しくは工程γに要する時間の短縮が図れる。そのため、本発明に係る基体の製造方法は、基体を大量に製造する場合等において、好適である。
【0138】
従来の方法により形成される微細孔は、改質部全体をエッチング除去し、除去した領域に形成されている。これに対し、上述した本発明の方法により製造される微細孔は、前記再改質部、前記構造変質部、又は前記改質部の第一部分を消滅または変性させ、残りの部分を選択的にエッチング除去することにより、除去された領域に形成されている。
【0139】
ゆえに、前記再改質部、前記構造変質部、又は前記改質部に対して熱処理を行わない従来の方法に比べて、本発明に係る基体の製造方法によれば、レーザー光による改質後にエッチング除去される領域を減らし、基体(基材)内部に形成される微細孔の開口部(開口面積)又は内部の孔径を小さくすることができる。すなわち、上述した本発明の方法によれば、微細孔の開口部を、レーザー光照射およびエッチングによる加工限界よりも、さらに小さく加工することが可能となる。つまり、本発明の方法は、レーザー光照射およびエッチングによる加工限界よりも、さらに小さな開口部を備えた微細孔を有する基体を提供することができる。具体的には、上述したとおり、基体の表面に開口する微細孔の開口部の短径を1μm以下とするならば、細胞は元より、細胞よりもサイズの小さい微生物に対しても、トラップ能力を有することが可能な微細孔を有する基体がもたらされる。