特許第5873828号(P5873828)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 古河電気工業株式会社の特許一覧

特許5873828光ケーブル被覆用難燃性樹脂組成物及び当該樹脂組成物を備えた光ケーブル
<>
  • 特許5873828-光ケーブル被覆用難燃性樹脂組成物及び当該樹脂組成物を備えた光ケーブル 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5873828
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】光ケーブル被覆用難燃性樹脂組成物及び当該樹脂組成物を備えた光ケーブル
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/04 20060101AFI20160216BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20160216BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20160216BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20160216BHJP
   H01B 11/00 20060101ALI20160216BHJP
【FI】
   C08L23/04
   C08L23/26
   C08K3/22
   C08L83/04
   H01B11/00 L
【請求項の数】3
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-63781(P2013-63781)
(22)【出願日】2013年3月26日
(65)【公開番号】特開2014-189562(P2014-189562A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2014年7月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115842
【弁理士】
【氏名又は名称】秦 正則
(72)【発明者】
【氏名】千葉 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】水野 晃一
【審査官】 久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−296083(JP,A)
【文献】 特開平10−324782(JP,A)
【文献】 特開平07−296649(JP,A)
【文献】 特開2009−114230(JP,A)
【文献】 特開2001−166188(JP,A)
【文献】 特開2000−327861(JP,A)
【文献】 特開2011−233459(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−3/40
H01B 11/00−11/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a1)及び(a2)を(A)樹脂成分として含み、
(a1)0.900〜0.940g/cmの密度を有する、ポリエチレン樹脂及びエチレン−αオレフィン共重合体のうち少なくとも1種:(A)樹脂成分全体に対して70〜98質量%、
(a2)不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィン樹脂:(A)樹脂成分全体に対して2〜30質量%、
前記(A)樹脂成分100質量部に対して、
(b1)水酸化マグネシウム:95〜220質量部、
(b2)水酸化アルミニウム:15〜80質量部、
(c1)シリコーンガム:2〜15質量部、
を含有することを特徴とする光ケーブル被覆用難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(b1)水酸化マグネシウム及び前記(b2)水酸化アルミニウムのうち少なくとも一方がシランカップリング剤により表面処理されていることを特徴とする請求項1に記載の光ケーブル被覆用難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の光ケーブル被覆用難燃性樹脂組成物を被覆材料として備えたことを特徴とする光ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性樹脂組成物及び当該樹脂組成物を備えた光ケーブルに関する。さらに詳しくは、押出成形性、機械的特性、難燃性等に優れるとともに、成形体表面に滑り性を付与し、光ケーブルに用いた場合はケーブル表面が低摩擦となり、管路への通線性も良好な難燃性樹脂組成物及び当該樹脂組成物を備えた光ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
光ケーブルは、1本あるいは複数本が管路内に挿入されて布設される場合があり、また、近年、FTTH(Fiber To The Home)の拡大により、すでに複数本の光ケーブルが挿入された管路の中に、新たな光ケーブルを追加して挿入・布設する場合がある。
【0003】
光ケーブルを布設する方法としては、光ケーブルを引き込むための通線ロッドを管路の中に挿入し、その端部に光ケーブルを取り付け、通線ロッドを引くことによって挿通する方法が一般的である。しかしながら、このような方法にあっては通線ロッドを一度管路の中へ挿入し、その後引き込むので、作業的に効率が悪いという問題があった。そこで、作業性を向上させるため、通線ロッドを用いずに光ケーブルを管路へ押込む方法が求められていた。
【0004】
しかし、通線ロッドを用いずに光ケーブルを管路へ押込む方法(押込み布設)にあっては、ケーブル表面が滑りにくい(高摩擦性/摩擦係数が高い)場合、ケーブル同士の摩擦で上手く押込むことが困難である。さらには条長が長い場合や、曲げられた部分のある管路の場合には、前記のような押込み布設はいっそう困難となっていた。かかる困難性を解決する方法として、ケーブル表面に滑り性(低摩擦性)を付与することが挙げられ、従来は、ケーブルに潤滑油やシリコーンスプレー等を塗布して滑り性を付与して、管路への通線性(通過しやすさ)を向上させるようにしていたが、塗布の手間がかかり、また、潤滑油によって外被材料を劣化させる等の問題があり、好ましい方法ではなかった。
【0005】
一方で、光ケーブルの外被等を構成する樹脂材料には、JIS C3005に規定されている60度傾斜燃焼試験、IEC60332−1の垂直一条燃焼試験、IEC60332−3−24やIEEE St.383の垂直多条燃焼試験を満足する高難燃性を付与するため、多量の金属水和物を配合する必要があったが、多量の金属水和物を配合した場合には、樹脂材料の機械的特性が大きく損なわれてしまうという問題があった。そこで、樹脂材料の機械的特性等を改善すべく、種々の難燃性樹脂組成物が検討されている(例えば、特許文献1ないし特許文献5を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−324782号公報
【特許文献2】特開平11−12397号公報
【特許文献3】特開2000−327853号公報
【特許文献4】特表2007−504339号公報
【特許文献5】特開2008−7723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記した文献に開示される難燃性樹脂組成物に代表される従来の樹脂材料は、光ケーブルの被覆材料として用いた場合には、ケーブルの外径が安定して成形され、ケーブル表面の発泡がない等の押出成形性や、機械的特性及び難燃性に加えて、光ケーブル表面を低摩擦として、管路への通線性が良好であることを兼ね備えることが困難であり、改善が望まれていた。
【0008】
本発明は、前記の課題に鑑みてなされたものであり、押出成形性、機械的特性、難燃性等に優れるとともに、成形体表面に滑り性を付与し、光ケーブルに用いた場合はケーブル表面が低摩擦となり、管路への通線性も良好な光ケーブル被覆用難燃性樹脂組成物及び当該樹脂組成物を備えた光ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するために、本発明に係る光ケーブル被覆用難燃性樹脂組成物は、下記(a1)及び(a2)を(A)樹脂成分として含み、
(a1)0.900〜0.940g/cmの密度を有する、ポリエチレン樹脂及びエチレン−αオレフィン共重合体のうち少なくとも1種:(A)樹脂成分全体に対して70〜98質量%、
(a2)不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィン樹脂:(A)樹脂成分全体に対して2〜30質量%、
前記(A)樹脂成分100質量部に対して、
(b1)水酸化マグネシウム:95〜220質量部、
(b2)水酸化アルミニウム:15〜80質量部、
(c1)シリコーンガム:2〜15質量部、
を含有することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る光ケーブル被覆用難燃性樹脂組成物は、前記した本発明において、前記(b1)水酸化マグネシウム及び前記(b2)水酸化アルミニウムのうち少なくとも一方がシランカップリング剤により表面処理されていることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る光ケーブルは、前記した本発明の光ケーブル被覆用難燃性樹脂組成物を被覆材料として備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る光ケーブル被覆用難燃性樹脂組成物(以下、単に「難燃性樹脂組成物」とする場合もある。)は、樹脂成分として密度が所定範囲であるポリエチレン樹脂及びエチレン−αオレフィン共重合体のうち少なくとも1種、並びに不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィン樹脂をそれぞれ特定量含有し、かかる樹脂成分に対して難燃剤として特定量の水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムを併用し、加えて、特定量のシリコーンガムを含有しているので、押出成形性や機械的特性、難燃性等に優れるとともに、成形体表面に滑り性を付与し、光ケーブルに用いた場合はケーブル表面が低摩擦となり、管路への通線性も良好な難燃性樹脂組成物となる。
【0014】
また、本発明に係る光ケーブルは、本発明に係る光ケーブル被覆用難燃性樹脂組成物を被覆材料として備えているので、前記した効果を享受し、ケーブル表面に発泡がなく、ケーブル外径が安定して成形され、また、優れた機械的特性、難燃性等を備えるとともに、ケーブル表面が低摩擦となり、管路への通線性に優れる光ケーブルとなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】光ケーブルの構造の一例を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一態様を説明する。本発明に係る難燃性樹脂組成物は、(a1)ポリエチレン及びエチレン−αオレフィン共重合体のうち少なくとも1種、(a2)不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂を(A)樹脂成分として、また、(b1)水酸化マグネシウム、(b2)水酸化アルミニウム及び(c)シリコーン系滑剤を、基本構成として含むものである。
【0017】
(A)樹脂成分:
本発明の難燃性樹脂組成物にあっては、(A)樹脂成分として、(a1)ポリエチレン及びエチレン−αオレフィン共重合体のうち少なくとも1種、及び(a2)不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂を必須成分として含む。
【0018】
(a1)ポリエチレン及びエチレン−αオレフィン共重合体のうち少なくとも1種:
本発明の難燃性樹脂組成物に(a1)ポリエチレンやエチレン−αオレフィン共重合体を含有させることにより、機械的強度、低摩擦性を向上することができる。本発明の難燃性樹脂組成物は、ポリエチレン、エチレン−αオレフィン共重合体のそれぞれを単独で使用してもよく、これらを組み合わせて使用するようにしてもよい。
【0019】
ポリエチレンとしては、例えば、LDPE(低密度ポリエチレン)、LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)、MDPE(中密度ポリエチレン)、メタロセン触媒存在下に合成されたLLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)等のポリエチレン樹脂等が挙げられる。これらのポリエチレンの中でも、メタロセン触媒存在下で合成されたLLDPEを使用することが好ましい。これらのポリエチレンは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用するようにしてもよい。
【0020】
また、エチレン−αオレフィン共重合体としては、例えばエチレンと炭素数4〜12のαオレフィンとの共重合体が挙げられ、αオレフィンとしては、1−ブテン、1−へキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン等が挙げられる。これらのエチレン−αオレフィン共重合体は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用するようにしてもよい。
【0021】
前記したポリエチレンやエチレン−αオレフィン共重合体の密度は、0.900〜0.940g/cmの範囲のものを使用する。かかる範囲内の密度のものを選択することによって、後記する(b1)水酸化マグネシウム及び(b2)水酸化アルミニウム等といった難燃剤等のフィラー受容性が向上し、機械的特性に優れるともに、(A)樹脂成分の剛性が向上し、優れた通線性を得られる。ポリエチレンやエチレン−αオレフィン共重合体の密度は、0.915〜0.930g/cmとすることが特に好ましい。
【0022】
なお、ポリエチレンやエチレン−αオレフィン共重合体の密度は、前記した範囲の密度となる1種の樹脂を用いてよいことはもちろんのこと、0.900〜0.940g/cmの範囲の密度からなる2種以上の樹脂を混合させて、かかる範囲の密度に調整して使用するようにしても問題はない。
【0023】
なお、2種以上の樹脂を混合させた場合の混合樹脂の密度は、例えば、下記の式(I)に従って算出すればよい。式中、ρは混合樹脂の密度(g/cm)、Aは、(a1)を合計100質量%としたとき、エチレン−αオレフィン共重合体やポリエチレンの個々の含有量(質量%)(Aは、i番目のAを指す。)、Bは、エチレン−αオレフィン共重合体やポリエチレンの個々の密度(g/cm)(Bは、i番目のBを指す。)、をそれぞれ示す。
【0024】
【数1】
【0025】
例えば、(a1)として2種類の樹脂を使用し、2種の樹脂を樹脂1、樹脂2としたとき、樹脂1の密度が0.940g/cm、樹脂2の密度が0.900g/cmであり、樹脂1と樹脂2を70/30(樹脂1を(a1)全体に対して70質量%、樹脂2を(a2)全体に対して30質量%)でブレンドした場合は、密度ρ(g/cm)は、下記の式により、0.928g/cmと算出される。
【0026】
【数2】
【0027】
本発明に係る難燃性樹脂組成物にあって、前記した(a1)ポリエチレンやエチレン−αオレフィン共重合体の含有量は、これらの合計量として、(A)樹脂成分全体に対して、70〜98質量%とする。かかる含有量が70質量%より少ないと伸び特性が低下する場合がある。一方、含有量が98質量%を超えると引張強度や剛性が低下し、また、通線性に悪影響を与える場合がある。ポリエチレンやエチレン−αオレフィン共重合体の含有量は、これらの合計量として、(A)樹脂成分全体に対して、75〜90質量%とすることが好ましく、80〜85質量%とすることが特に好ましい。
【0028】
なお、本発明に係る難燃性樹脂組成物に使用可能な(a1)ポリエチレンやエチレン−αオレフィン共重合体として、市販されているものとしては、「カーネル」、「ノバテック」(商品名:日本ポリエチレン(株)製)、「エボリュー」(商品名:(株)プライムポリマー(株)製)等を挙げることができる。
【0029】
(a2)不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂:
本発明に係る難燃性樹脂組成物に(a2)不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂(不飽和カルボン酸で変性したポリオレフィン樹脂のこと。以下同じ。)を含有させることにより、機械的特性、耐磨耗性等を向上させることができる。不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂における不飽和カルボン酸による変性量は、ポリオレフィン樹脂に対し、0.5〜15質量%のものを使用することが好ましい。
【0030】
(a2)不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂で使用可能なポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等を挙げることができ、かかるポリオレフィン樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用するようにしてもよい。本発明の難燃性樹脂組成物にあって、不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂で使用可能なポリオレフィン樹脂としては、機械的強度特性及び伸び特性のバランスから、ポリエチレン、ポリプロピレン等を用いることが好ましく、ポリエチレンとすることが特に好ましい。
【0031】
また、不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水フマル酸等を使用することができる。これらの不飽和カルボン酸は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用するようにしてもよい。
【0032】
(a2)不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂におけるポリオレフィン樹脂の変性は、例えば、ポリオレフィン樹脂と不飽和カルボン酸を有機パーオキサイドの存在下で、加熱・混練することにより実施することができる。
【0033】
本発明の難燃性樹脂組成物における、前記した(a2)不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂の含有量は、(A)樹脂成分全体に対して、2〜30質量%とする。含有量をかかる範囲とすることにより、機械的特性、耐磨耗性向上に加えて、(b1)水酸化マグネシウムや(b2)水酸化アルミニウムといった金属水和物と強固に結合し樹脂組成物に剛性が付与されるため、優れた通線性の効果を得ることができる。一方、含有量が2質量%より少ないと、剛性が低下し、通線性が悪くなる場合があり、含有量が30質量%を超えると、柔軟性や伸び特性が低下する場合がある。不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂の含有量は、(A)樹脂成分全体に対して、5〜15質量%とすることが好ましい。
【0034】
なお、本発明に係る難燃性樹脂組成物に使用可能な(a2)不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂として、市販されているものとしては、例えば、「アドテックス」(商品名:日本ポリエチレン(株)製)、「アドマー」(商品名:三井化学(株)製)、「フサボンド」(商品名:デュポン社製)、「ポリボンド」(商品名:ケムチュラ(株)製)等を挙げることができる。
【0035】
なお、本発明の難燃性樹脂組成物の(A)樹脂成分としては、前記した(a1)及び(a2)の必須成分以外の他の樹脂材料を、本発明の目的及び効果を損なわない範囲で使用することができる。他の樹脂材料としては、光ケーブル等のケーブルの構成材料として一般的に使用されている樹脂材料を使用することができる。なお、例として(a3)プロピレン系樹脂を以下に挙げるが、使用できる樹脂材料としてはこれに限定されず、光ケーブル等のケーブルの構成材料として一般的に使用されている所望の樹脂を、本発明の目的及び効果を損なわない範囲で使用することができる。
【0036】
(a3)プロピレン系樹脂:
本発明の難燃性樹脂組成物に(a3)プロピレン系樹脂を含有させることにより、樹脂組成物に剛性を付与し、良好なケーブル通線性を得ることができる。
【0037】
(a3)プロピレン系樹脂としては、例えば、プロピレン単独重合体(ホモポリプロピレン樹脂)や、エチレン−プロピレンランダム共重合体、エチレン−プロピレンブロック共重合体等を使用することができる。かかるプロピレン系樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用するようにしてもよい。本発明の難燃性樹脂組成物にあっては、プロピレン系樹脂として、エチレン−プロピレンブロック共重合体等を使用することにより、良好な引張特性、耐熱性、加熱変形特性を得ることができるので好ましい。
【0038】
ここで、「エチレン−プロピレンランダム共重合体」とは、エチレン成分の含有量が共重合体全体に対して概ね1〜5質量%のものをいい、エチレン成分がプロピレン鎖中にランダムに取り込まれているものをいう。また、「エチレン−プロピレンブロック共重合体」とは、エチレン成分の含有量が概ね5〜15質量%のものをいい、エチレン成分とプロピレン成分が独立した成分として存在するものをいう。
【0039】
(a3)プロピレン系樹脂のMFR(ASTM D−1238に準拠して測定した値)は、0.1〜60g/10分とすることが好ましく、0.1〜25g/10分とすることがさらに好ましく、0.3〜15g/10分とすることが特に好ましい。
【0040】
本発明の難燃性樹脂組成物における、前記した(a3)プロピレン系樹脂の含有量は、(A)樹脂成分全体に対して、0〜20質量%とすることが好ましい。プロピレン系樹脂は融点が140〜165℃程度とポリエチレン系樹脂よりも高温であるため、かかる含有量が20質量%を超えると、200℃以上の押出成形温度が必要となり水酸化アルミニウムが分解し発泡してしまうため、ケーブルの外観を損ねたり、光学特性に劣ったりする。(a3)プロピレン系樹脂の含有量は、(A)樹脂成分全体に対して、0〜10質量%とすることが特に好ましい。
【0041】
(b1)水酸化マグネシウム及び(b2)水酸化アルミニウム:
本発明では、難燃剤(以下、便宜上、(b1)水酸化マグネシウム及び(b2)水酸化アルミニウムをまとめて「難燃剤」として記載する場合がある。)として、金属水和物である(b1)水酸化マグネシウム及び(b2)水酸化アルミニウムを併用するようにする。水酸化マグネシウムと水酸化アルミニウムを併用することにより、それぞれを単独で使用する場合と比較して難燃性が向上する。(b1)水酸化マグネシウムや(b2)水酸化アルミニウムの平均粒径(平均一次粒子径)は、特に制限はないが、例えば、0.1〜5.0μmの範囲内であることが好ましく、0.3〜2.0μmの範囲内であることが特に好ましい。
【0042】
(b1)水酸化マグネシウム及び(b2)水酸化アルミニウムの表面処理については、表面を無処理(以下、単に「無処理」とする場合がある。)のままでも、表面処理を施されていてもよいが、(A)樹脂成分と相互作用を生じ、樹脂組成物の剛性を向上させ優れた通線性を得るため、本発明においては、(b1)水酸化マグネシウム、(b2)水酸化アルミニウムのうち少なくとも一方にシランカップリング剤により表面処理したものが好ましい。表面処理の例としては、脂肪酸処理、リン酸処理、チタネート処理、シランカップリング剤等による処理等が挙げられる。
【0043】
表面処理に使用されるシランカップリング剤は、末端にビニル基、メタクリロキシ基、グリシジル基、アミノ基を有するものが好ましい。具体的にはたとえば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ―アミノプロピルトリプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ―アミノプロピルトリプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらのシランカップリング剤の中でも、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等が好ましい。(b1)水酸化マグネシウム及び(b2)水酸化アルミニウムといった金属水和物をシランカップリング剤で表面処理をする場合には、1種のシランカップリング剤を使用して実施してもよく、2種以上を組み合わせて使用するようにしてもよい。
【0044】
シランカップリング剤による表面処理の方法としては、通常使用される方法で処理を行うことが可能であるが、例えば、表面処理をしていない無処理の水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムをシランカップリング剤とあらかじめドライブレンドしたり、湿式処理を行ったり、混練時にシランカップリング剤をブレンドすること等により得ることが可能である。使用するシランカップリング剤の含有量は、表面処理をするのに十分な量が適宜加えられるが、具体的には、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムといった金属水和物全体に対して、0.1〜2.5質量%の範囲内とすればよく、0.2〜1.8質量%とすることが好ましく、0.3〜1.0質量%とすることが特に好ましい。
【0045】
また、あらかじめシランカップリング剤により表面処理が施された水酸化マグネシウムを入手することも可能である。シランカップリング剤で表面処理された水酸化マグネシウムとしては、例えば、「キスマ5L」、「キスマ5N」、「キスマ5P」(いずれも商品名:協和化学工業(株)製)や、「マグシーズS4」、「マグシーズS6」(いずれも商品名:神島化学工業(株)製)等が挙げられる。一方、表面が無処理の水酸化マグネシウムとしては、「キスマ5」(商品名:協和化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0046】
シランカップリング剤で表面処理された水酸化アルミニウムとしては、例えば、「ハイジライトH42ST−V」(商品名:昭和電工(株)製)等が挙げられる。一方、表面が無処理の水酸化アルミニウムとしては、例えば、「ハイジライトH42M」(商品名:昭和電工(株)製)、「BF−013」(商品名:日本軽金属(株)製)、Martinal(商品名:アルべマール社製)等が挙げられる。
【0047】
本発明の難燃性樹脂組成物における、前記した(b1)水酸化マグネシウムの含有量は、(A)樹脂成分100質量部に対して、95〜220質量部である。水酸化マグネシウムの含有量が95質量部より少ないと難燃性に劣る場合がある一方、220質量部を超えると機械的特性が低下する場合がある。水酸化マグネシウムの含有量は、(A)樹脂成分100質量部に対して、100〜180質量部とすることが好ましく、130〜170質量部とすることが特に好ましい。
【0048】
また、本発明の難燃性樹脂組成物における、前記した(b2)水酸化アルミニウムの含有量は、(A)樹脂成分100質量部に対して、15〜100質量部である。水酸化アルミニウムの含有量が15質量部より少ないと難燃性に劣る場合がある一方、100質量部を超えると機械的特性が低下する場合があり、加えて、押出成形時に分解し、絶縁層が発泡してしまい、得られた絶縁電線等の成形品の外観が悪くなる等押出成形性に悪影響を与える場合がある。水酸化アルミニウムの含有量は、(A)樹脂成分100質量部に対して、20〜80質量部とすることが好ましく、40〜60質量部とすることが特に好ましい。
【0049】
なお、(b1)水酸化マグネシウム及び(b2)水酸化アルミニウムの含有量の総和は、(A)樹脂成分100質量部に対して150〜250質量部とすることが好ましい。総和をかかる範囲とすることで、優れた機械的特性、難燃性を兼ね備えることができる。水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムの含有量の総和は、樹脂成分100質量部に対して180〜220質量部とすることが特に好ましい。
【0050】
(c)シリコーン系滑剤:
本発明の難燃性樹脂組成物に、滑剤としてシリコーン系滑剤を添加することにより、当該樹脂組成物に難燃性を付与、向上させる難燃助剤としてはたらく。また、光ケーブルの被覆材料等として使用され場合にあっては、滑性を付与することで、通線性を向上させるとともに、外傷を低減させる効果がある。なお、滑剤のうちシリコーン系滑剤の使用が、最も好ましく表面滑性を得られ、優れた通線性を付与することができる。
【0051】
シリコーン系滑剤としては、例えば、シリコーンガム、シリコーンパウダー、シリコーンオイル等が挙げられ、この中でも、シリコーンガムを使用することが好ましい。液体(シリコーンオイル等)の場合、ケーブル表面に染み出し過ぎてしまう場合があり、外観や製造性に悪影響を与える場合があるが、また、シリコーンゴム等のような完全な樹脂状の材料の場合、滑り性があまり付与されず、期待される効果を発揮することができない場合がある。シリコーンガムを使用した場合、このような問題がないので好ましい。
【0052】
シリコーンガムは、重量平均分子量が100000以上のものを使用することが好ましい。かかる高分子量のシリコーンガムを使用することによって、構成材料の分子と絡まり、長期に渡って表面状態を維持することができる。シリコーンガムの重量平均分子量は、100000〜800000の範囲内のものを使用することが特に好ましい。かかる(高分子量)シリコーンガムとしては、例えば、「CF−9150」(商品名:東レ・ダウコーニングシリコーン(株)製)、「X21−3043」(商品名:信越ポリマー(株)製)等を使用することができる。
【0053】
ここで、重量平均分子量は、例えば、下記条件のGPC(ゲル−パーミエーション クロマトグラフ)で測定することができる。
【0054】
GPC装置:HLC−8120GPC(商品名、東ソー(株)製)
カラム:TSK gel SuperHM−H/4000/H3000/H2000(商品名、東ソー(株)製)
流量:0.6ml/分
濃度:0.3質量%
注入量:20μl
カラム温度:40℃
【0055】
また、シリコーンガムの25℃における動粘度は、10000cSt以上のものが好ましい。なお、動粘度は、25℃で回転粘度計により粘度を測定した後、かかる粘度を動粘度に換算した値である。かかる動粘度を用いることにより、好ましくシリコーンをケーブル表面にブリードさせることができ、滑り性を得ることができる。
【0056】
本発明の難燃性樹脂組成物における(c)シリコーン系滑剤の含有量は、(A)樹脂成分100質量部に対して、2〜15質量部とする。難燃性樹脂組成物にかかる範囲のシリコーン系滑剤を含有させることにより、滑性を好適に付与し、通線性を向上させることが可能となる。一方、含有量が2質量部より少ないと滑り性が悪くなり、光ケーブル等に用いた場合は通線性に悪影響を及ぼす場合があり、含有量が15質量部より多いと、押出機のスクリューが滑って吐出が不安定になるため、ケーブル外径が大きく変動しケーブルの押出成形性(製造性)に悪影響を及ぼす場合がある。本発明の難燃性樹脂組成物における(c)シリコーン系滑剤の含有量は、(A)樹脂成分100質量部に対して、3〜15質量部とすることがさらに好ましく、6〜10質量部とすることが特に好ましい。
【0057】
(d)任意成分:
本発明の難燃性樹脂組成物には、前記した必須成分以外に、光ケーブル等の各種ケーブル、電線、コード、チューブ、電線部品、シート等において一般的に使用されている各種の添加剤、例えば、酸化防止剤、金属不活性剤、難燃(助)剤、充填剤、(前記(c)シリコーン系滑剤以外の)滑剤、耐候安定剤等を、本発明の目的及び効果を損なわない範囲で適宜配合することができる。
【0058】
酸化防止剤としては、例えば、4,4’−ジオクチル・ジフェニルアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンの重合物等のアミン系酸化防止剤、ペンタエリスリチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン等のフェノール系酸化防止剤、ビス(2−メチル−4−(3−n−アルキルチオプロピオニルオキシ)−5−t−ブチルフェニル)スルフィド、2−メルカプトベンヅイミダゾール及びその亜鉛塩、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ラウリル−チオプロピオネート)等のイオウ系酸化防止剤等が挙げられる。
【0059】
金属不活性剤としては、例えば、N,N’−ビス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル)ヒドラジン、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール、2.2’−オキサミドビス−(エチル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)等が挙げられる。
【0060】
難燃(助)剤、充填剤としては、カーボン、クレー、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化モリブデン、三酸化アンチモン、シリコーン化合物、石英、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ホワイトカーボン、トリアジン誘導体化合物等が挙げられ、特にトリアジン誘導体化合物が好ましい。この中で、特に、トリアジン誘導体化合物は、燃焼時に窒素ガスが炎を遮断するため添加することで優れた難燃性を得ることができる。
【0061】
かかるトリアジン誘導体化合物は、本発明の難燃性樹脂組成物に添加した場合にあっては難燃助剤として作用し、(b1)水酸化マグネシウムや(b2)水酸化アルミニウムといった金属水和物と併用することにより相乗効果を得られる。本発明においてトリアジン誘導体化合物を添加する場合の含有量は、(A)樹脂成分100質量部に対して、10〜60質量部とすることが好ましく、15〜40質量部であることが特に好ましい。
【0062】
かかるトリアジン誘導体化合物の粒径(平均粒径)はできる限り細かく(小さく)することが好ましい。具体的には、トリアジン誘導体化合物の平均粒径は、10μm以下であることが好ましく、7μm以下であることがさらに好ましく、5μm以下であることが特に好ましい。
【0063】
また、本発明で用いることができるトリアジン誘導体化合物としては、例えば、シアヌル酸、メラミン、メラミン誘導体、メラミンシアヌレート等を挙げることができ、この中で、メラミンシアヌレートを使用することが好ましい。これらのトリアジン誘導体化合物は、その1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用するようにしてもよい。使用可能なメラミンシアヌレートとしては、例えば、MC6000(商品名:日産化学工業(株)製)を挙げることができる。
【0064】
メラミンシアヌレート化合物の構造は、下記の化学構造式で表される。
【0065】
【化1】
【0066】
前記した(c)シリコーン系滑剤以外の滑剤としては、例えば、炭化水素系、脂肪酸系、脂肪酸アミド系、エステル系、アルコール系、金属石けん系等の滑剤が挙げられる。耐候安定剤としては、例えば、ヒンダードアミン系耐候安定剤等が挙げられる。
【0067】
以下、本発明の難燃性樹脂組成物および光ケーブルの製造方法を説明する。
(A)樹脂成分、(b1)水酸化マグネシウム、(b2)水酸化アルミニウム、(c)シリコーン系滑剤、さらに必要に応じて(d)任意成分等の他の成分を加え、加熱混練する。混練温度や混練時間等の混練条件は、例えば、(A)樹脂成分の溶融温度以上で適宜設定できる。混練温度は、例えば、160〜200℃とすることが好ましい。
【0068】
混練方法としては、ゴム、プラスチック等で通常用いられる装置を使用し、例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサーあるいは各種のニーダー等が用いられる。これらを使用することにより、各成分が均一に分散された難燃性樹脂組成物を得ることができる。
【0069】
以上説明した本発明に係る難燃性樹脂組成物は、樹脂成分として密度が所定範囲であるポリエチレン樹脂及びエチレン−αオレフィン共重合体のうち少なくとも1種、並びに不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィン樹脂をそれぞれ特定量含有し、かかる樹脂成分に対して難燃剤として特定量の水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムを併用し、加えて、特定量のシリコーン系滑剤を含有しているので、押出成形性や機械的特性、難燃性等に優れるとともに、成形体表面に滑り性を付与し、光ケーブルに用いた場合はケーブル表面が低摩擦となり、管路への通線性も良好な難燃性樹脂組成物となる。
【0070】
本発明の難燃性樹脂組成物は、例えば、一般の電子機器用電線やケーブル、あるいは光ケーブル等の各種成形体等の構成材料として使用することができるが、特に光ケーブルの被覆材料として好ましく使用することができる。かかる難燃性樹脂組成物を被覆材料として備えた本発明の光ケーブルは、ケーブル表面に発泡がなく、ケーブル外径が安定して成形され、また、優れた機械的特性、難燃性等を備えるとともに、ケーブル表面が低摩擦となり、管路への通線性に優れることになる。このような本発明の光ケーブルは、本発明の難燃性樹脂組成物を用いて、例えば、紫外線硬化性樹脂あるいは熱硬化性樹脂を被覆したガラス光ファイバ等の光ファイバと、必要により、例えば、アラミド繊維束あるいは強化繊維としてアラミド繊維を用いたFRP、鋼線等からなる外径が、例えば0.1〜1.0mmのテンションメンバ等の周囲に被覆することにより簡便に製造することができる。
【0071】
図1は、光ケーブルの構造の一例を示した概略図である。図1に示した光ケーブル1は、例えば、紫外線硬化性樹脂(図示せず)を被覆したガラス光ファイバ3、及び接着層5を被覆したテンションメンバ4の周囲に、本発明の難燃性樹脂組成物を中央部にノッチ6を設けた形状で被覆材料2として押出・被覆することにより得ることができる。なお、光ケーブル1の構成は図1の構成に限定されないのはいうまでもなく、例えば、図1におけるガラス光ファイバ3等の光ファイバやテンションメンバ4の種類、サイズや数は、自由に選定することができる。また、光ケーブル1の外径(長径、短径)や断面形状、ノッチ6の形状やサイズ、ノッチ6の形成の有無等も自由に選定することができる。
【0072】
本発明の難燃性樹脂組成物を押出被覆して光ケーブルを得る場合の押出成形は、汎用の押出成形機を用いて、光ファイバ等の周囲に難燃性樹脂組成物を押出被覆することにより製造することができる。このときの押出成形機の温度は、難燃性樹脂組成物の種類、ガラス光ファイバ等の光ファイバ、テンションメンバ等の引取り速度の諸条件により決定することができるが、例えば、シリンダー部で約170℃程度、クロスヘッド部で約185℃程度にすることが好ましい。
【0073】
なお、本発明の難燃性樹脂組成物を用いて押出被覆された光ケーブルは、以下のようなメカニズムによって優れた難燃性を得られるものと考えられる。
【0074】
本発明の難燃性樹脂組成物を構成する難燃剤である(b1)水酸化マグネシウムの分解温度は、一般に300〜350℃であるのに対し、(b2)水酸化アルミニウムのそれは、一般に200〜250℃と、(b1)水酸化マグネシウムのそれと比較して100℃程度低い。そのため、この両者を併用することによって、200〜350℃と幅広い温度域で吸熱反応を生じさせることができるものと考えられる。
【0075】
例えば、IEEE St.383の垂直多条燃焼試験の場合、非金属部分が所定量になるよう複数本垂直にケーブルのサンプルを布設する。その後、サンプル下部を20分間バーナーで接炎し、延焼させる試験であるが、まず、(b2)水酸化アルミニウムが早期に吸熱反応を生じるため、燃焼させているケーブルの樹脂温度の上昇が遅くなり、樹脂を炭化させることができる。続いて、(b2)水酸化アルミニウムの吸熱反応が終了すると、次は(b1)水酸化マグネシウムの吸熱反応に転じ、樹脂を完全に炭化させ延焼を抑制することができるものと考えられる。
【0076】
加えて、(b2)水酸化アルミニウムは、(b1)水酸化マグネシウムに比べて吸熱量が10%程度高いため、(b1)水酸化マグネシウムを単体で使用する場合よりも難燃性を向上させることができる。
【0077】
そして、前記のような現象は他の燃焼試験においても同様で、幅広い温度域での吸熱反応により、優れた難燃性を得られるものと考えられる。
【実施例】
【0078】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0079】
[実施例1〜実施例3、参考例4、実施例5〜実施例12、比較例1〜比較例10]
表1及び表2に組成を示す各成分((A)樹脂成分、難燃剤((b1)水酸化マグネシウム、(b2)水酸化アルミニウム)、(c)シリコーン系滑剤、(d)任意成分)を、バンバリーミキサーを用いて混合し、溶融混練した後、ペレット化して難燃性樹脂組成物(コンパウンド)を得た。
【0080】
次に、得られた難燃性樹脂組成物(コンパウンド)をスクリュー径50mmφ押出機(L/D=25.8)にて、ダイス温度185℃、以下、フィーダー側へ、C3=185℃、C2=180℃、C1=170℃の押出温度条件により、紫外線硬化性樹脂を被覆したガラス光ファイバ、及び接着層を被覆した鋼線の上に、表1及び表2に示されている難燃性樹脂組成物を、中央部にノッチを設けた形状で押出・被覆して、前記の難燃性樹脂組成物を被覆材料として備えた、図1に示した断面(外径1.66(図1のL)mm×2.00(図1のL)mmを有する光ケーブルを得た。
【0081】
なお、表1及び表2において、各成分の値(含有量)は、(A)樹脂成分である(a1)、(a2)については、(A)樹脂成分全体((a1)及び(a2)の全体)を100質量%とした場合の質量%であり、(b1)、(b2)、(c)及び(d)は、(A)樹脂成分の合計を100質量部とした場合の質量部である。
【0082】
表1及び表2に示す組成の各成分としては、以下のものを用いた。
【0083】
(a1)エチレン−αオレフィン共重合体:
(1−1)エチレン−1−ブテン共重合体(密度:0.922g/cm)(商品名:ノバテックUE320、日本ポリエチレン(株)製)
(1−2)エチレン−1−ヘキセン共重合体(密度:0.903g/cm)(商品名:エボリューSP0540((株)プライムポリマー製)
(1−3)エチレン−1−へキセン共重合体(密度:0.938g/cm)(商品名:エボリューSP4030、(株)プライムポリマー製)
(1−4)エチレン−プロピレン−1−へキセン共重合体(密度:0.898g/cm)(商品名:カーネルKF360T、日本ポリエチレン(株)製)
(1−5)エチレン−1−へキセン共重合体(密度:0.944g/cm)(商品名:ユリメット4540F、宇部丸善ポリエチレン(株)製)
【0084】
(a2)不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィン樹脂(不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂):
(2)マレイン酸変性ポリエチレン(商品名:フサボンドE226Y、デュポン社製)
【0085】
(b1)水酸化マグネシウム:
(3−1)シランカップリング剤で表面処理された水酸化マグネシウム(商品名:キスマ5L、協和化学工業(株)製)
(3−2)表面が無処理の水酸化マグネシウム(商品名:キスマ5、協和化学工業(株)製)
【0086】
(b2)水酸化アルミニウム:
(4−1)シランカップリング剤で表面処理された水酸化アルミニウム(商品名:ハイジライトH42ST−V、昭和電工(株)製)
(4−2)表面が無処理の水酸化アルミニウム(商品名:BF−013、日本軽金属(株)製)
【0087】
(c)シリコーン系滑剤:
(5)シリコーンガム(商品名:X21−3043、信越ポリマー(株)製)(重量平均分子量:100000以上、25℃における動粘度:1000000cSt)
【0088】
(d)任意成分:
(6)ヒンダードフェノール系酸化防止剤(商品名:イルガノックス1076、BASF社製)
(7)ヒンダードアミン系耐候安定剤(商品名:チヌビン111FDL、BASF社製)
(8)チタンホワイト(酸化チタン)(商品名:CR−60、石原産業(株)製)
(9)メラミンシアヌレート(商品名:MC6000、日産化学工業(株)製)
【0089】
[試験例1]
得られた実施例1〜実施例3、参考例4、実施例5〜実施例12、比較例1〜比較例10の光ケーブルについて、下記に示した試験方法を用いて、「1.押出成形性(1)」、「2.押出成形性(2)」、「3.引張試験」、「4.60度傾斜燃焼試験」、「5.垂直多条燃焼試験」「6.光ケーブル同士の動摩擦係数」の各試験を実施して、比較・評価した。結果を表1(実施例)及び表2(比較例)に示した。なお、「3.引張試験」については、光ケーブルを押出被覆したのと略同じ条件でシートを製造し、かかるシートを評価した。
【0090】
1.押出成形性(1)
前記押出条件を行った際、ケーブル外径の安定性を評価した。短径方向(1.66mm)の外径変動が±0.04mm以内であるものを「○」、±0.04mmの範囲を外れるものを「×」とした。また、±0.02mm以内であるものを「◎」とした。
【0091】
2.押出成形性(2)
前記押出条件を行った際、難燃性樹脂組成物に発泡が観察されなかったものを「○」とし、発泡が観察されたものを「×」とした。
【0092】
3.引張試験
樹脂組成物を厚さ1mmとなるようにシート状に押出成形し、そのシートをJIS K7127、タイプ5のダンベル形状に打ち抜いてサンプルとし、かかるサンプルについて、引張速度200mm/分で、破断強度(MPa)、破断伸び(%)をそれぞれ測定した。破断強度が4.9MPa以上、破断伸びが100%以上をそれぞれ「○」とし、それらに達しないものを「×」とした。また、破断強度が15MPa以上、破断伸びが150%以上を、それぞれ「◎」とした。
【0093】
4.60度傾斜燃焼試験
JIS C3005に基づき、1本の光ケーブルサンプルを60度に傾け、たるみの無いように布設した後、サンプル下部をバーナーにより炎色反応が生じるまで(3〜5秒程度)接炎した。離火後、炎が60秒以内で自消したものを「○」とし、自消しなかったものを「×」とした。また、「○」とされたものは、10秒間接炎した後離火で、炎が60秒以内に自消するかを再度確認し、自消したものは「◎」とした。
【0094】
5.垂直多条燃焼試験
IEEE St.383に基づき、複数本の光ケーブルサンプルを垂直に布設し、サンプル下部をバーナーにて20分間着火した。20分後、炭化長が1.5m以下であるものを「○」とし、1.5mを超えたものを「×」とした。
【0095】
6.光ケーブル同士の動摩擦係数
通線性の指標として、光ケーブル同士の動摩擦係数を測定した。150mm長の光ケーブルを2本隣接させて並行に並べ、この上に摩擦係数を測定する300mm長の光ケーブルを俵積みする。さらにその上に150mm長で2本隣接させた光ケーブルを俵積みする。その後、上から19.6Nの荷重を加え、この状態で300mm長の光ケーブルを500mm/分の速度で引き抜いた。この際の摩擦力(引き抜き力)をFとして、動き始めのピーク摩擦力(静摩擦力)を過ぎた後、得られたチャートの下限値の平均値を採用し、動摩擦係数μ(=F/19.6N)を求めた。なお、試験環境は、23℃±2℃、湿度50%±10%で実施した。動摩擦係数μが0.25以下を「○」とし、0.25を超えたものを「×」とした。なお、0.20以下を「◎」とした。
【0096】
(実施例)
【表1】
【0097】
(比較例)
【表2】
【0098】
表1に示すように、本発明に係る難燃性樹脂組成物で構成された実施例1〜実施例3、参考例4、実施例5〜実施例12については、全ての項目に対して合格であった。
【0099】
一方、表2に示すように、本発明の構成と比較して、(a1)エチレン−αオレフィン共重合体の含有量が低い((a2)不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィンの含有量が高い)比較例1は、伸び特性が悪く、(a1)エチレン−αオレフィン共重合体の含有量が高い((a2)不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィンの含有量が低い)比較例2は、動摩擦係数が大きく、滑り性が悪かった。
【0100】
また、本発明の構成と比較して、(a1)エチレン−αオレフィン共重合体の密度が低い比較例3は、動摩擦係数が大きく、滑り性が悪く、(a1)エチレン−αオレフィン共重合体の密度が高い比較例4は、伸び特性が悪かった。
【0101】
本発明の構成と比較して、(b1)水酸化マグネシウムの含有量が低い比較例5は垂直多条燃焼試験の結果が悪く、難燃性に問題があり、(b1)水酸化マグネシウムの含有量が高い比較例6は伸び特性が悪かった。
【0102】
本発明の構成と比較して、(b2)水酸化アルミニウムの含有量が高い比較例7は押出成形性(2)で発泡が見られ押出成形性が悪く、(b2)水酸化アルミニウムの含有量が低い比較例8は、比較例5と同様、垂直多条燃焼試験の結果が悪く、難燃性に問題があった。
【0103】
(c)シリコーン系滑剤の含有量が低い比較例9は、動摩擦係数が大きく、滑り性が悪く、(c)シリコーン系滑剤の含有量が高い比較例10は、押出成形性において外径変動が規格外であり、押出成形性に問題があった。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明は、押出成形性、機械的特性、難燃性等に優れるとともに、成形体の表面が低摩擦となるため、通線性に優れた光ケーブルの被覆材料等として有効に利用することができ、産業上の利用可能性は高い。
【符号の説明】
【0105】
1 …… 光ケーブル
2 …… 被覆材料(難燃性樹脂組成物)
3 …… ガラス光ファイバ
4 …… テンションメンバ
5 …… 接着層
6 …… ノッチ
図1