(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記リン化合物(B)が、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、亜ホスホン酸、ホスフィン酸、亜ホスフィン酸、およびそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電子デバイス。
前記層(Y)が、カルボニル基、水酸基、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、およびカルボキシル基の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を含有する重合体(C)を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明について、以下に例を挙げて説明する。なお、以下の説明において、物質、条件、方法、数値範囲等を例示する場合があるが、本発明はそのような例示に限定されない。また、例示される物質は、特に注釈がない限り、1種を単独で使用してもよいし2種以上を併用してもよい。
【0026】
特に注釈がない限り、この明細書において、「特定の部材(基材や層等)上に特定の層を積層する」という記載の意味には、該部材と接触するように該特定の層を積層する場合に加え、他の層を挟んで該部材の上方に該特定の層を積層する場合が含まれる。「特定の部材(基材や層等)上に特定の層を形成する」、「特定の部材(基材や層等)上に特定の層を配置する」という記載も同様である。また、特に注釈がない限り、「特定の部材(基材や層等)上に液体(コーティング液等)を塗工する」という記載の意味には、該部材に該液体を直接塗工する場合に加え、該部材上に形成された他の層に該液体を塗工する場合が含まれる。
【0027】
この明細書において、「層(Y)」のように、符号(Y)を付して層(Y)を他の層と区別する場合がある。特に注釈がない限り、符号(Y)には技術的な意味はない。基材(X)、化合物(A)、およびその他の符号についても同様である。ただし、水素原子(H)のように、特定の元素を示すことが明らかである場合を除く。
【0028】
[電子デバイス]
本発明の多層構造体を用いた電子デバイスは、電子デバイス本体と、電子デバイス本体の表面を保護する保護シートを備える。本発明の電子デバイスに用いる保護シートは、基材(X)と、基材(X)上に積層された層(Y)とを含む多層構造体を含む。以下の説明において、特に注釈がない限り、「多層構造体」という語句は基材(X)と層(Y)とを含む多層構造体を意味する。また、「本発明の多層構造体」という語句は、「本発明で用いられる多層構造体」を意味する。多層構造体の詳細については後述する。保護シートは、多層構造体のみによって構成されていてもよいし、他の部材や他の層を含んでもよい。以下では、特に注釈がない限り、保護シートが多層構造体を備える場合について説明する。
【0029】
本発明の電子デバイスの一例の一部断面図を
図1に示す。
図1の電子デバイス11は、電子デバイス本体1と、電子デバイス本体1を封止するための封止材2と、電子デバイス本体1の表面を保護するための保護シート(多層構造体)3と、を備える。封止材2は、電子デバイス本体1の表面全体を覆っている。保護シート3は、電子デバイス本体1の一方の表面上に、封止材2を介して配置されている。保護シート3は、電子デバイス本体1の表面を保護できるように配置されていればよく、電子デバイス本体1の表面上に直接配置されていてもよいし(図示せず)、
図1のように封止材2等の他の部材を介して電子デバイス本体1の表面上に配置されていてもよい。
図1に示されるように、第1の保護シートが配置された表面とは反対側の表面に、第2の保護シートが配置されてもよい。その場合、その反対側の表面に配置される第2の保護シートは、第1の保護シートと同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0030】
好適な保護シートは、量子ドット蛍光体材料を、高温、酸素、および湿気等の環境条件から保護する。好適な保護シートとしては、疎水性で、量子ドット蛍光体材料と化学的および機械的に適合性があり、光および化学安定性を示し、高温耐熱性を有し、非黄変の透明な光学材料が挙げられる。好適には、1つ以上の保護シートは、量子ドット蛍光体材料と屈折率が整合される。好ましい実施形態において、量子ドット蛍光体材料のマトリックス材および1つ以上の隣接する保護シートは、類似の屈折率を有するように屈折率が整合され、その結果、保護シートを通じて量子ドット蛍光体材料に向かって伝送する光の大半が、保護シートから蛍光体材料内に伝送されるようになる。この屈折率整合により、保護シートとマトリックス材料との間の界面における光学的損失が減少される。
【0031】
本発明の量子ドット蛍光体材料のマトリックス材料としては、ポリマー、有機および無機の酸化物等が挙げられる。好適な実施形態において、ポリマーは、実質的に半透明または実質的に透明である。好適なマトリックス材料としては、後記する分散用樹脂の他に、例えば、エポキシ、アクリレート、ノルボルネン、ポリエチレン、ポリ(ビニルブチラール):ポリ(ビニルアセテート)、ポリ尿素、ポリウレタン;アミノシリコーン(AMS)、ポリフェニルメチルシロキサン、ポリフェニルアルキルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン、ポリジアルキルシロキサン、シルセスキオキサン、フッ化シリコーン、ならびにビニルおよび水素化物置換シリコーン等のシリコーンおよびシリコーン誘導体;メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、およびラウリルメタクリレート等のモノマーから形成されるアクリルポリマーおよびコポリマー;ポリスチレン、アミノポリスチレン(APS)、およびポリ(アクリルニトリルエチレンスチレン)(AES)等のスチレン系ポリマー;ジビニルベンゼン等、二官能性モノマーと架橋したポリマー;リガンド材料との架橋に好適な架橋剤、リガンドアミン(例えば、APSまたはPEIリガンドアミン)と結合してエポキシを形成するエポキシド等が挙げられる。
【0032】
保護シートは、好適には、固体材料であり、硬化された液体、ゲル、またはポリマーであってもよい。保護シートは、特定の用途に応じて、可撓性または非可撓性材料を含んでもよい。保護シートは、好ましくは、平面層であり、特定の照明用途に応じて、任意の好適な形状および表面積構造を含んでもよい。好適な保護シート材料には、後記する多層構造体の材料以外にも、当該技術分野で既知の任意の好適な保護シート材料を使用できる。後記する多層構造体を備える保護シート以外の保護シートに用いる好適なバリア材料としては、例えば、ガラス、ポリマー、および酸化物が挙げられる。ポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)等が挙げられる。酸化物としては、SiO
2、Si
2O
3、TiO
2、Al
2O
3等が挙げられる。これらは、1種類で使用してもよく、2種類以上を組み合わせても使用できる。好ましくは、量子ドット蛍光体を含む電子デバイスの各保護シートは、異なる材料または組成物を含む少なくとも2つの層(例えば、基材(X)と層(Y))を含み、その結果、多層状の保護シートが、保護シート内のピンホール欠陥配列を排除または減少させ、量子ドット蛍光体材料内への酸素および湿気の侵入に対する効果的なバリアを提供するようになる。量子ドット蛍光体を含む電子デバイスは、任意の好適な材料または材料の組み合わせ、ならびに量子ドット蛍光体材料のいずれかもしくは両方の側面上の任意の好適な数の保護シートを含んでもよい。保護シートの材料、厚さ、および数は、具体的な用途に依存することになり、好適には、量子ドット蛍光体を含む電子デバイスの厚さを最小化しながらも、量子ドット蛍光体のバリア保護および輝度を最大化するように、選択されることになる。好ましい実施形態において、各保護シートは、積層体(積層フィルム)、好ましくは二重積層体(二重積層フィルム)を含み、各保護シートの厚さは、ロールツーロールまたは積層製造プロセス時の皺を排除するのに十分に厚い。保護シートの数または厚さは、さらに、量子ドット蛍光体材料が、重金属または他の毒性材料を含む実施形態においては、法的な毒性指針に依存し、その指針は、より多いまたはより厚い保護シートを要する場合がある。バリアのさらなる検討事項には、費用、入手可能性、および機械的強度が挙げられる。
【0033】
好ましい実施形態において、量子ドット蛍光体を含む電子デバイスは、量子ドット蛍光体材料の各側面に隣接する2つ以上の本発明の多層構造体を備える保護シートを含む。また、各側面上に、前記本発明の多層構造体を備える保護シート以外の保護シートを1つ以上備えていてもよい。すなわち、前記各側面上に2つまたは3つの層(保護シート)を含んでいてもよい。より好ましい実施形態において、量子ドット蛍光体を含む電子デバイスは、量子ドット蛍光体材料の各側面上に、本発明の多層構造体を備える保護シートを含む、2つの保護シートを含む。
【0034】
本発明の量子ドット蛍光体を含む層は、任意の望ましい寸法、形状、構造、および厚さであり得る。量子ドット蛍光体は、所望の機能に適切な任意の充填率で、マトリックス材料内に埋め込むことができる。量子ドット蛍光体を含む層の厚さおよび幅は、湿式コーティング、塗装、回転コーティング、スクリーン印刷等、当該技術分野で既知の任意の方法によって制御することができる。特定の量子ドット蛍光体フィルムの実施形態において、量子ドット蛍光体材料は、500μm以下、好ましくは250μm以下、より好ましくは200μm以下、さらに好ましくは50〜150μm、最も好ましくは50〜100μmの厚さを有し得る。
【0035】
好ましい実施形態において、本発明の量子ドット蛍光体を含む電子デバイスの上部および底部保護シート層は機械的に密封される。
図1に示す実施形態に示されるように、上部保護シート層および/または底部保護シート層は、一緒に狭圧されて、量子ドット蛍光体を密封する。好適には、端部は、環境内の酸素および湿気への量子ドット蛍光体材料の曝露を最小化するために、量子ドット蛍光体および保護シート層の被着の直後に狭圧される。バリア端部は、狭圧、スタンピング、溶融、ローリング、加圧等によって、密封することができる。
【0036】
好ましい実施形態において、本発明の量子ドット蛍光体を含む電子デバイスの上部および底部保護シート層を機械的に密封する際には、任意の接着剤を用いてよいが、端部接着の容易さ、量子ドットの高い光学特性を保持するという観点から、エポキシ等の好適な光学接着材料を用いることが好ましい。
【0037】
本発明の量子ドット蛍光体を含む電子デバイス本体は、例えば、液晶ディスプレイ(LCD)、テレビ、コンピュータ、携帯電話、スマートフォン、携帯情報端末(PDA)、ゲーム機、電子読書装置、デジタルカメラ等のディスプレイ装置のためのバックライトユニット(BLU)、屋内または屋外の照明、舞台照明、装飾照明、アクセント照明、博物館照明、園芸的、生物学的、および他の用途に高度に特異的な波長の照明を含む、任意の好適な用途、ならびに本明細書に記載の発明について調べると、当業者には明らかであろうさらなる照明用途に使用可能である。
【0038】
本発明の量子ドット蛍光体を含む電子デバイス本体は、光起電力用途での使用に好適な、量子ドット下方変換層またはフィルムとして使用することもできる。本発明の量子ドット蛍光体を含む電子デバイス本体は、太陽光の一部を、太陽電池の活性層によって吸収可能な、より低エネルギーの光に変換することができる。その変換された光の波長は、本発明の量子ドット蛍光体を含む電子デバイス本体によるこのような下方変換なしでは、活性層によって吸収および電力に変換することのできなかったものである。したがって、本発明の量子ドット蛍光体を含む電子デバイス本体を採用する太陽電池は、増加した太陽光変換効率を有し得る。
【0039】
本発明の量子ドット蛍光体を含む電子デバイス本体は、光源、光フィルター、および/または一次光の下方変換器としての使用を含む。ある特定の実施形態において、本発明の量子ドット蛍光体を含む電子デバイス本体は一次光源であり、量子ドット蛍光体を含む電子デバイスが、電気的刺激時に光子を放出する電子発光性量子ドット蛍光体を含む、電子発光性デバイスである。ある特定の実施形態において、量子ドット蛍光体を含む電子デバイスは光フィルターであり、量子ドット蛍光体が、ある特定の波長または波長範囲を有する光を吸収する。量子ドット蛍光体を含む電子デバイスは、特定の波長または波長範囲の通過を、その他のものを吸収またはフィルタリング除去しながら、可能にすることができる。ある特定の実施形態において、量子ドット蛍光体を含む電子デバイスは、下方変換器であり、それによって、一次光源からの一次光の少なくとも一部分が、量子ドット蛍光体を含む電子デバイス内で量子ドット蛍光体によって吸収され、一次光よりも低エネルギーまたは長い波長を有する二次光として再放出される。好ましい実施形態において、量子ドット蛍光体を含む電子デバイスは、フィルターおよび一次光下方変換器の両方であり、それによって、一次光の第1の部分が、量子ドット蛍光体を含む電子デバイス内の量子ドット蛍光体によって吸収されることなく量子ドット蛍光体を含む電子デバイスを通過することを可能にし、一次光の少なくとも第2の部分は、量子ドット蛍光体によって吸収され、一次光よりも低エネルギーまたは長い波長を有する二次光に下方変換される。
【0040】
封止材2は、電子デバイス本体1の種類および用途等に応じて適宜付加される任意の部材である。封止材2としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体やポリビニルブチラール等が挙げられる。
【0041】
本発明の量子ドット蛍光体を含む電子デバイスの保護シートは、可撓性を有してもよい。この明細書において、可撓性とは、直径が50cmのロールに巻き取ることが可能であることを意味する。例えば、直径が50cmのロールに巻き取っても、目視による破損が見られないことを意味する。直径が50cmよりも小さいロールに巻き取ることが可能であることは、電子デバイスや保護シートはより柔軟性が高いことになるため好ましい。
【0042】
多層構造体を含む保護シートは、ガスバリア性および水蒸気バリア性に優れる。そのため、該保護シートを用いることによって、過酷な環境下でも劣化が少ない電子デバイスが得られる。また、保護シートは、高い透明性を有するため、光の透過性が高い電子デバイスが得られる。
【0043】
多層構造体は、LCD用基板フィルム、有機EL用基板フィルム、電子ペーパー用基板フィルム等基板フィルムと称されるフィルムとしても使用できる。その場合、多層構造体は、基板と保護フィルムとを兼ねてもよい。また、保護シートの保護対象となる電子デバイスは、前記した例示に限定されず、例えば、ICタグ、光通信用デバイス、燃料電池等であってもよい。
【0044】
保護シートは、多層構造体の一方の表面または両方の表面に配置された表面保護層を含んでもよい。表面保護層としては、傷がつきにくい樹脂からなる層が好ましい。また、太陽電池のように室外で利用されることがあるデバイスの表面保護層は、耐候性(例えば、耐光性)が高い樹脂からなることが好ましい。また、光を透過させる必要がある面を保護する場合には、透光性が高い表面保護層が好ましい。表面保護層(表面保護フィルム)の材料としては、例えば、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、4−フッ化エチレン−パークロロアルコキシ共重合体、4−フッ化エチレン−6−フッ化プロピレン共重合体、2−エチレン−4−フッ化エチレン共重合体、ポリ3−フッ化塩化エチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル等が挙げられる。保護シートの一例は、一方の表面に配置されたアクリル樹脂層を含む。
【0045】
表面保護層の耐久性を高めるために、表面保護層に各種の添加剤(例えば、紫外線吸収剤)を添加してもよい。耐候性が高い表面保護層の好ましい一例は、紫外線吸収剤が添加されたアクリル樹脂層である。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系、シアノアクリレート系、ニッケル系、トリアジン系の紫外線吸収剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、他の安定剤、光安定剤、酸化防止剤等を併用してもよい。
【0046】
量子ドット蛍光体を含む電子デバイス本体を封止する封止材に保護シートを接合する場合、保護シートは、封止材との接着性が高い接合用樹脂層を含むことが好ましい。封止材がエチレン−酢酸ビニル共重合体からなる場合、接合用樹脂層としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体との接着性を向上させたポリエチレンテレフタレートが挙げられる。保護シートを構成する各層は、公知の接着剤や上述した接着層を用いて接着してもよい。
【0047】
[実施形態1]
本発明の実施形態1にかかる量子ドット蛍光体を含む電子デバイスでは、量子ドット蛍光体分散樹脂成形体を使用する。量子ドット蛍光体分散樹脂成形体は、樹脂中に量子ドット蛍光体を分散させて分散液(組成物)を得て、該分散液を用いて成形することで得られる。成形方法は、特に限定されず、公知の方法を使用できる。分散用樹脂としては、シクロオレフィン(共)重合体が好ましい。シクロオレフィン(共)重合体としては、例えば、下記式[Q−1]で表されるシクロオレフィン重合体(COP)または下記式[Q−2]で表されるシクロオレフィン共重合体(COC)が挙げられる。このようなシクロオレフィン(共)重合体として、市販品を使用できる。市販品としては、例えば、COPタイプとして、ZEONEX(登録商標)シリーズ(日本ゼオン株式会社製)、COCタイプとして、APL5014DP(三井化学株式会社製、化学構造;―(C
2H
4)
x(C
12H
16)
y―;添字x、yは0より大きく1より小さい実数であり、共重合比を表す)等が挙げられる。
【0048】
【化1】
【化2】
式[Q−1]中、R
1、R
2は、それぞれ独立に、同一または異なって、水素原子;炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基;塩素もしくはフッ素のハロゲン原子;およびハロゲン原子が塩素原子もしくはフッ素原子であるトリハロメチル基からなる群から選ばれる一価基を表わす。また、R
1、R
2の炭化水素基は、隣り合う置換部位で互いに結合して5〜7員環の飽和炭化水素の環状構造を少なくとも1つ形成してもよい。rは、正の整数である。
式[Q−2]中、R
3は、水素原子;炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基(アルキル基);塩素もしくはフッ素のハロゲン原子;およびハロゲン原子が塩素原子もしくはフッ素原子であるトリハロメチル基からなる群から選ばれる一価基を表わす。R
4、R
5は、それぞれ独立に、同一または異なって、水素原子;炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状の飽和の炭化水素基;塩素もしくはフッ素のハロゲン原子;およびハロゲン原子が塩素原子もしくはフッ素原子であるトリハロメチル基からなる群から選ばれる一価基を表わす。また、R
4またはR
5の炭化水素基は、隣り合う置換部位で互いに結合して5〜7員環の飽和炭化水素の環状構造を少なくとも1つ形成してもよい。x、yは0より大きく1より小さい実数であり、x+y=1の関係式を満たす。
【0049】
式[Q−1]で表されるシクロオレフィン重合体(COP)は、例えばノルボルネン類を原料とし、グラブス触媒などを利用した開環メタセシス重合をした後、水素化することにより得られる。式[Q−2]で表されるシクロオレフィン共重合体(COC)は、例えばノルボルネン類を原料とし、メタロセン触媒等を利用してエチレン等との共重合により得られる。
【0050】
樹脂中に量子ドット蛍光体を分散させる方法は特に限定されないが、不活性ガス雰囲気下で樹脂を溶媒に溶解した溶液に、量子ドット蛍光体を分散媒に分散させた分散液を不活性ガス雰囲気下で加えて混練することが好ましい。その際に用いる分散媒は樹脂を溶解する溶媒であることが好ましく、分散媒と溶媒が同一であることがより好ましい。前記溶媒および分散媒は制限なく使用できるが、好ましくはトルエン、キシレン(o−、m−またはp−)、エチルベンゼン、テトラリン等の炭化水素系溶媒が使用できる。また、クロルベンゼン、ジクロルベンゼン(o−、m−またはp−)、トリクロルベンゼン等の塩素系炭化水素溶媒も使用できる。また、以上の工程で使用する不活性ガスとしては、ヘリウムガス、アルゴンガス、窒素ガスが挙げられ、これらを単独で用いてもよいし、任意の割合で混合して用いてもよい。
【0051】
なお、実施形態1に適用される量子ドット蛍光体は、その粒径が1〜100nmを指し、数十nm以下の場合は、量子効果を発現する蛍光体である。量子ドット蛍光体の粒径は、2〜20nmの範囲内が好ましい。
【0052】
量子ドット蛍光体の構造は、無機蛍光体コアおよびこの無機蛍光体の表面に配位したキャッピング層(例えば、脂肪族炭化水素基を有する有機不動態層)から構成され、無機蛍光体のコア部(金属部)は有機不動態層によって被覆されている。一般に、量子ドット蛍光体粒子の表面には、主に凝集防止等を目的として有機不動態層がコア表面に配位されている。さらに、有機不動態層(シェルとも呼ばれる。)は、凝集防止以外に、コア粒子を周囲の化学的環境から保護すること、表面に電気的安定性を付与すること、特定溶媒系への溶解性を制御することの役割を担う。また、有機不動態は、目的に応じて化学構造を選択できるが、例えば直鎖状または分枝鎖状の炭素数6〜18程度の脂肪族炭化水素(例えばアルキル基)を有する有機分子であってもよい。
【0053】
[無機蛍光体]
無機蛍光体としては、例えば、II族−VI族化合物半導体のナノ結晶、III族−V族化合物半導体のナノ結晶等が挙げられる。これらのナノ結晶の形態は特に限定されず、例えば、InPナノ結晶のコア部分に、ZnS/ZnO等からなるシェル部分が被覆されたコア・シェル(core−shell)構造を有する結晶、またはコア・シェルの境が明確でなくグラジエント(gradient)に組成が変化する構造を有する結晶、あるいは同一の結晶内に2種以上の化合物結晶が部分的に分けられて存在する混合結晶または2種以上のナノ結晶化合物の合金等が挙げられる。
【0054】
[キャッピング剤]
次に、無機蛍光体の表面に配位するキャッピング剤(有機不動態層を形成する為の試剤)としては、炭素数2〜30、好ましくは炭素数4〜20、より好ましくは炭素数6〜18の直鎖構造または分岐構造を有する脂肪族炭化水素基を有する有機分子が挙げられる。無機蛍光体の表面に配位するキャッピング剤(有機不動態層を形成するための試剤)は、無機蛍光体に配位するための官能基を有する。このような官能基としては、例えば、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、ニトリル基、水酸基、エーテル基、カルボニル基、スルフォニル基、ホスフォニル基またはメルカプト基等が挙げられる。これらの中でも、カルボキシル基が好ましい。
【0055】
実施形態1の量子ドット蛍光体を含む電子デバイスにかかる量子ドット蛍光体分散樹脂成形体の製造に用いる組成物には、0.01〜20質量%の濃度範囲で樹脂(例えば、シクロオレフィン(共)重合体)中に量子ドット蛍光体が均一に分散されている。また、実施形態1の量子ドット蛍光体を含む組成物には、好ましくは0.1質量%を超え15質量%未満、より好ましくは1質量%を超え10質量%未満の濃度範囲でシクロオレフィン(共)重合体中に量子ドット蛍光体が均一に分散されているのがよい。量子ドット蛍光体の濃度が0.01質量%未満の場合には、発光素子用の量子ドット蛍光体分散樹脂成形体として十分な発光強度が得られず、好ましくない。一方、量子ドット蛍光体の濃度が20質量%を超える場合には、量子ドット蛍光体の凝集が起こる可能性があり、量子ドット蛍光体が均一に分散された量子ドット蛍光体分散樹脂成形体が得られず、好ましくない。
【0056】
[量子ドット蛍光体の調製方法]
実施形態1で使用する量子ドット蛍光体は、所望の化合物半導体のナノ結晶が得られる金属前駆体を用いてナノ結晶を製造した後、次いで、これをさらに有機溶媒に分散する。そして、ナノ結晶を所定の反応性化合物(シェル部分の化合物)により処理することにより、無機蛍光体の表面に炭化水素基が配位した構造を有する量子ドット蛍光体を調製することができる。処理方法は、特に制限されず、例えば、ナノ結晶の分散液を反応性化合物の存在下に還流させる方法が挙げられる。また、量子ドット蛍光体の製造方法としては、例えば、特開2006−199963号公報に開示された方法を用いてよい。
【0057】
本実施の形態で使用する量子ドット蛍光体において、無機蛍光体(コア部)表面を被覆する有機不動態層を構成する炭化水素基の量は特に限定されないが、通常、無機蛍光体1粒子(コア)に対し、炭化水素基の炭化水素鎖が2〜500モル、好ましくは10〜400モルで、より好ましくは20〜300モルの範囲がよい。炭化水素鎖が2モル未満の場合は、有機不動態層としての機能を付与することができず、例えば蛍光体粒子が凝縮しやすくなる。一方、炭化水素鎖が500モルを超える場合は、コア部からの発光強度を低下させるだけでなく、無機蛍光体に配位できない過剰の炭化水素基が存在するようになり、液状封止樹脂の性能低下を引き起こしやすくなる傾向がある。また、量子ドット蛍光体のコストアップとなってしまう。
【0058】
また、実施形態1にかかる量子ドット蛍光体分散樹脂成形体は、量子ドット蛍光体を含む組成物を成形物に成形して製造してもよい。この成形物は、光源から照射された光の少なくとも一部を吸収して、成形物中に含まれる量子ドット蛍光体から2次光を発光する成形物として有効な働きをする。量子ドット蛍光体を含む組成物の成形方法としては、例えば当該組成物を基材に塗布あるいは型に充填した後、前記不活性ガス雰囲気下で加熱乾燥により溶媒を除去し、必要に応じて基材または型から剥離する方法等がある。また、量子ドット蛍光体を含む組成物を、LEDチップを封止する封止材として使用することもできる。
【0059】
量子ドット蛍光体分散樹脂成形体の製造方法としては、例えば、シクロオレフィン系(共)重合体を溶媒に溶解した溶液を調製する工程と、前記溶液に、得られる成形体中の量子ドット蛍光体の濃度が0.01〜20質量%の範囲となるように、量子ドット蛍光体を分散させて、次いで混練することにより量子ドット蛍光体を含む組成物を製造する工程と、前記量子ドット蛍光体を含む組成物を基材に塗布あるいは型に充填して、加熱乾燥する工程と、を備える方法が挙げられる。溶媒および分散媒は前記したとおりである。
【0060】
前記加熱乾燥等により量子ドット蛍光体分散樹脂成形体を製造、あるいはさらにその後、加圧成形により、樹脂レンズ、樹脂板および樹脂フィルム等を製造することができる。
【0061】
図2には、実施形態1にかかる量子ドット蛍光体を含む組成物を封止材の少なくとも一部に使用した発光装置の例の断面図が示される。
図2において、発光装置100は、LEDチップ10、リード電極12、カップ14、封止材16,17を含んで構成されている。必要に応じて、発光装置100の上部に樹脂レンズ20が配置される。カップ14は、適宜な樹脂またはセラミックスにより形成することができる。また、LEDチップ10は限定されないが、量子ドット蛍光体と協働して適宜な波長の光源を構成する発光ダイオードを使用することができる。また、封止材16は、量子ドット蛍光体18が分散された量子ドット蛍光体を含む組成物を用いて形成することができる。これらにより、例えばLEDチップ10からの発光を使用して封止材16から白色光を出す白色光源等を形成することができる。また、封止材17は、LED、リード線等を封止しており、エポキシ樹脂またはシリコーン樹脂等の、LEDの封止樹脂として通常使用される樹脂により構成されている。これらの封止材16および封止材17の製造は、不活性ガス(例えば、アルゴンガス)雰囲気下で、まずカップ14内に樹脂(例えば、エポキシ樹脂またはシリコーン樹脂)等を所定量注入し、公知の方法により固化して封止材17を形成し、その後封止材17上に量子ドット蛍光体を含む組成物を注入し、加熱乾燥することにより封止材16を形成することにより実施することができる。
【0062】
また、カップ14に収容された封止材16の上方に、前記量子ドット蛍光体分散樹脂成形体により形成されたレンズ状の樹脂(樹脂レンズ20)、または少なくともその一部に凸状部を有するフィルムまたは均一な膜厚を有するフィルムを配置し、樹脂レンズ20から光を放射する構成としてもよい。この場合には、封止材16中に量子ドット蛍光体18を分散させなくてもよい。なお、量子ドット蛍光体を含む組成物をLEDチップの封止材の少なくとも一部に使用した場合の、当該封止材16の厚みは、0.01mm以上0.4mm未満であることが好ましい。当該封止材16の厚みが0.4mmを超える場合は、カップ14の凹部内の深さにも依存するものの、当該封止材16をカップ14の凹部内に封止する際にリード電極12に接続しているワイヤーに過大な負荷を与えてしまい、好ましくない。また、量子ドット蛍光体を含む組成物をLEDチップの封止材の少なくとも一部に使用した場合の、当該封止材16の厚みが、0.01mm未満であると、蛍光体を含む封止材として十分ではない。
【0063】
封止材16中に量子ドット蛍光体18を分散させない場合には、量子ドット蛍光体分散樹脂成形体により形成されたレンズ状の樹脂20(樹脂レンズ20)を配置するのが好ましい。
【0064】
図3には、実施形態1にかかる量子ドット蛍光体分散樹脂成形体を使用した発光装置の例の断面図が示され、
図2と同一要素には同一符号を付している。
図3は、実施形態1にかかる量子ドット蛍光体を含む組成物を封止材に使用しない発光装置の例である。この場合、レンズ状の樹脂(樹脂レンズ20)は、量子ドット蛍光体18を、濃度0.01〜20質量%の範囲でシクロオレフィン(共)重合体に分散させた組成物を成形した量子ドット蛍光体分散樹脂成形体により形成される。
【0065】
図4には、実施形態1にかかる量子ドット蛍光体を含む組成物および量子ドット蛍光体分散樹脂成形体を使用した発光装置の例の断面図が示され、
図1と同一要素には同一符号を付している。
図4は、実施形態1にかかる量子ドット蛍光体を含む組成物を封止材の一部に使用し、その上部に量子ドット蛍光体分散樹脂成形体からなる樹脂レンズ20を配置した発光装置の例である。この場合においても、いずれの樹脂にも、量子ドット蛍光体18が濃度0.01〜20質量%の範囲でシクロオレフィン(共)重合体に分散されて形成される。
【0066】
また、
図2、
図3および
図4に示された発光装置は、量子ドット蛍光体の消光を抑制でき、発光装置として安定した動作が維持できるため、この発光装置を組み込んだ携帯電話、テレビ、ディスプレイ、パネル類等の電子機器や、その電子機器を組み込んだ自動車、コンピュータ、ゲーム機等の機械装置類は、長時間安定した駆動が可能である。
【0067】
[実施形態2]
図5には、実施形態2にかかる量子ドット蛍光体を含む構造物の一例の断面図が示される。
図5において、量子ドット蛍光体を含む構造物は、量子ドット蛍光体18が分散用樹脂中に濃度0.01〜20質量%の範囲で分散されている量子ドット蛍光体分散樹脂成形体22と、量子ドット蛍光体分散樹脂成形体22の全面を被覆し、量子ドット蛍光体分散樹脂成形体22への酸素等の透過を低減するガスバリア層(保護シート)24とを含んで構成されている。なお、他の実施形態において、ガスバリア層24は、量子ドット蛍光体分散樹脂成形体22の表面の一部を被覆する構成であってもよい(
図6、7参照)。また、前記ガスバリア層24は、酸素の他、水蒸気の透過を低減できるものであることが好ましい。
【0068】
ここで、ガスバリア層24とは、量子ドット蛍光体を含む構造物の近傍で発光ダイオード(LED)を2,000時間連続発光させた場合における量子ドット蛍光体18の分光放射エネルギーが初期値の80.0%以上を維持できる程度に量子ドット蛍光体18を酸素等から保護できる層をいう。また、本発明の電子デバイスとしては、2,000時間連続発光させた場合における量子ドット蛍光体18の分光放射エネルギーが初期値の85.0%以上であるものが好ましく、89.0%以上であるものがより好ましく、90.0%以上であるものがさらに好ましい。なお、前記分光放射エネルギーは、量子ドット蛍光体の蛍光波長における放射エネルギーである。
【0069】
前記量子ドット蛍光体分散樹脂成形体22を構成する分散用樹脂には、例えば実施形態1で説明したシクロオレフィン(共)重合体を使用することができる。また、量子ドット蛍光体分散樹脂成形体22の製造方法としては、実施形態1において説明した量子ドット蛍光体分散樹脂成形体の製造方法を適用できる。
【0070】
また、ガスバリア層24としては、本発明の多層構造体より構成することができる。これらの材料は、いずれもガスバリア性が高いため、これらを使用してガスバリア層24を構成することにより、量子ドット蛍光体18を酸素および水等から保護することができる。
【0071】
なお、以上の量子ドット蛍光体分散樹脂成形体22およびガスバリア層24を構成する本発明の多層構造体は、いずれも光透過性を有しており、発光ダイオードが発生した光を量子ドット蛍光体18まで、および量子ドット蛍光体18で波長が変換された光を量子ドット蛍光体分散樹脂成形体22の外部まで透過することができる。
【0072】
図6には、実施形態2にかかる量子ドット蛍光体を含む構造物を応用した発光装置の一例の断面図が示される。
図6において、発光装置100は、LEDチップ10、リード電極12、カップ14、量子ドット蛍光体18が分散されている封止材16、量子ドット蛍光体18が分散されていない封止材17及びガスバリア層24を含んで構成されている。
図6の例では、カップ14の蓋として前記ガスバリア層24が使用されている。また、封止材16は、実施形態1で説明した量子ドット蛍光体を含む組成物から成形した前記量子ドット蛍光体分散樹脂成形体22により構成されている。前記封止材16及び封止材17は、
図1の場合と同様にして製造できる。これらの構成要素のうち、量子ドット蛍光体18、量子ドット蛍光体分散樹脂成形体22、ガスバリア層24は上述した通りである。LEDチップ10は限定されないが、量子ドット蛍光体と協働して適宜な波長の光源を構成する発光ダイオードを使用することができる。また、カップ14は、適宜な樹脂またはセラミックスにより形成することができる。また、封止材17は、エポキシ樹脂またはシリコーン樹脂等により形成され、LEDチップ10、リード電極12等を封止する。
【0073】
図7には、実施形態2にかかる量子ドット蛍光体を含む構造物を応用した発光装置の他の例の断面図が示され、
図6と同一要素には同一符号を付している。
図7の例では、カップ14の表面(
図6の蓋の部分を含む)と、カップ14の外に露出しているリード電極12の表面がガスバリア層24により被覆されている。なお、リード電極12の表面は、その一部がガスバリア層24により被覆されずに露出している。これは、例えば実装基板上の電源供給経路との間で電気的に導通をとるためである。本例でも、ガスバリア層24が封止材16の図における上面を被覆している。これにより、酸素等が封止材16中に分散された量子ドット蛍光体18まで浸透することを回避あるいは低減することができる。また、LEDチップ10からの光の一部は、封止材16中に分散された量子ドット蛍光体18で他の波長の光に変換された後、LEDチップ10からの光と混合され、ガスバリア層24を透過して外部に取り出される。
【0074】
図6に示された構成では、カップ14の蓋がガスバリア層24で形成されており、封止材16の図における上面を被覆している。これにより、酸素等が封止材16中に分散された量子ドット蛍光体18まで浸透することを回避あるいは低減することができる。
【0075】
また、以上に述べた量子ドット蛍光体分散樹脂組成物もしくはその成形体または量子ドット蛍光体を含む構造物は、例えば植物育成用照明、有色照明、白色照明、LEDバックライト光源、蛍光体入り液晶フィルタ、蛍光体含有樹脂板、育毛機器用光源、通信用光源等に適用することもできる。
【0076】
[多層構造体]
本発明の電子デバイス(好適には量子ドット蛍光体を含む電子デバイス)に用いる多層構造体は、基材(X)と、基材(X)上に積層された層(Y)とを含む。層(Y)は、金属酸化物(A)とリン化合物(B)とイオン価(F
Z)が1以上3以下である陽イオン(Z)とを含有する。リン化合物(B)は、金属酸化物(A)と反応可能な部位を含有する。層(Y)において、金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)のモル数(N
M)と、リン化合物(B)に由来するリン原子のモル数(N
P)とは、0.8≦N
M/N
P≦4.5の関係を満たす。層(Y)において、金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)のモル数(N
M)と、陽イオン(Z)のモル数(N
Z)と、陽イオン(Z)のイオン価(F
Z)とは、0.001≦F
Z×N
Z/N
M≦0.60の関係を満たす。なお、金属原子(M)は、金属酸化物(A)に含まれるすべての金属原子を意味する。
【0077】
層(Y)に含まれる金属酸化物(A)とリン化合物(B)とは反応していてもよい。また、陽イオン(Z)は、層(Y)中において、リン化合物(B)と塩を形成していてもよい。層(Y)において金属酸化物(A)が反応している場合、反応生成物のうち金属酸化物(A)によって構成されている部分を金属酸化物(A)とみなす。また、層(Y)においてリン化合物(B)が反応している場合、反応生成物のうちリン化合物(B)に由来するリン原子のモル数は、リン化合物(B)に由来するリン原子のモル数(N
P)に含まれる。層(Y)において陽イオン(Z)が塩を形成している場合、塩を構成する陽イオン(Z)のモル数は、陽イオン(Z)のモル数(N
Z)に含まれる。
【0078】
本発明の多層構造体は、層(Y)において、0.8≦N
M/N
P≦4.5の関係を満たすことによって、優れたバリア性を示す。また、本発明の多層構造体は、層(Y)において、0.001≦F
Z×N
Z/N
M≦0.60の関係をも満たすことによって、本発明の電子デバイスに用いる多層構造体は、延伸処理等の物理的ストレスを受けた後においても優れたバリア性を示す。
【0079】
層(Y)における、N
M、N
P、およびN
Zの比(モル比)は、第1コーティング液(U)の作製に用いられるそれらの比に等しいとみなすことができる。
【0080】
[基材(X)]
基材(X)の材質は特に制限されず、様々な材質からなる基材を用いることができる。基材(X)の材質としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の樹脂;木材;ガラス;金属;金属酸化物等が挙げられる。これらの中でも、熱可塑性樹脂および繊維集合体が好ましく、熱可塑性樹脂がより好ましい。基材(X)の形態は、特に制限されず、フィルムまたはシート等の層状であってもよい。基材(X)としては、熱可塑性樹脂フィルムおよび無機蒸着層からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものが好ましい。この場合の基材は単層であってもよいし、複層であってもよい。基材(X)は、熱可塑性樹脂フィルム層を含むものがより好ましく、熱可塑性樹脂フィルム層に加えて無機蒸着層(X’)をさらに含んでもよい。
【0081】
基材(X)に用いられる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレンテレフタレートやこれらの共重合体等のポリエステル系樹脂;ナイロン−6、ナイロン−66、ナイロン−12等のポリアミド系樹脂;ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体等の水酸基含有ポリマー;ポリスチレン;ポリ(メタ)アクリル酸エステル;ポリアクリロニトリル;ポリ酢酸ビニル;ポリカーボネート;ポリアリレート;再生セルロース;ポリイミド;ポリエーテルイミド;ポリスルフォン;ポリエーテルスルフォン;ポリエーテルエーテルケトン;アイオノマー樹脂等が挙げられる。基材(X)の材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン−6、およびナイロン−66からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂が好ましい。
【0082】
前記熱可塑性樹脂からなるフィルムを基材(X)として用いる場合、基材(X)は延伸フィルムであってもよいし無延伸フィルムであってもよい。得られる多層構造体の加工適性(例えば、印刷やラミネートに対する適性)が優れることから、延伸フィルム、特に二軸延伸フィルムが好ましい。二軸延伸フィルムは、同時二軸延伸法、逐次二軸延伸法、およびチューブラ延伸法のいずれかの方法で製造された二軸延伸フィルムであってもよい。
【0083】
[無機蒸着層(X’)]
無機蒸着層(X’)は、酸素や水蒸気に対するバリア性を有するものであることが好ましく、透明性を有するものであることがより好ましい。無機蒸着層(X’)は、無機物を蒸着することによって形成することができる。無機物としては、例えば、金属(例えば、アルミニウム)、金属酸化物(例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム)、金属窒化物(例えば、窒化ケイ素)、金属窒化酸化物(例えば、酸窒化ケイ素)、または金属炭化窒化物(例えば、炭窒化ケイ素)等が挙げられる。これらの中でも、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、または窒化ケイ素で形成される無機蒸着層は、酸素や水蒸気に対するバリア性が優れる観点から好ましい。
【0084】
無機蒸着層(X’)の形成方法は、特に限定されず、真空蒸着法(例えば、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、分子線エピタキシー法等)、スパッタリング法やイオンプレーティング法等の物理気相成長法、熱化学気相成長法(例えば、触媒化学気相成長法)、光化学気相成長法、プラズマ化学気相成長法(例えば、容量結合プラズマ、誘導結合プラズマ、表面波プラズマ、電子サイクロトロン共鳴、デュアルマグネトロン、原子層堆積法等)、有機金属気相成長法等の化学気相成長法を用いることができる。
【0085】
無機蒸着層(X’)の厚さは、無機蒸着層(X’)を構成する成分の種類によって異なるが、0.002〜0.5μmの範囲にあることが好ましく、0.005〜0.2μmの範囲にあることがより好ましく、0.01〜0.1μmの範囲にあることがさらに好ましい。この範囲で、多層構造体のバリア性や機械的物性が良好になる厚さを選択すればよい。無機蒸着層(X’)の厚さが0.002μm未満であると、酸素や水蒸気に対する無機蒸着層のバリア性発現の再現性が低下する傾向があり、また、無機蒸着層が充分なバリア性を発現しない場合もある。また、無機蒸着層(X’)の厚さが0.5μmを超えると、多層構造体を引っ張ったり屈曲させたりした場合に無機蒸着層(X’)のバリア性が低下しやすくなる傾向がある。
【0086】
基材(X)が層状である場合、その厚さは、得られる多層構造体の機械的強度や加工性が良好になる観点から、1〜1,000μmの範囲にあることが好ましく、5〜500μmの範囲にあることがより好ましく、9〜200μmの範囲にあることがさらに好ましい。
【0087】
[金属酸化物(A)]
金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)は、原子価が2価以上であることが好ましい。金属原子(M)としては、例えば、マグネシウム、カルシウム等の周期表第2族の金属原子;チタン、ジルコニウム等の周期表第4族の金属原子;亜鉛等の周期表第12族の金属原子;ホウ素、アルミニウム等の周期表第13族の金属原子;ケイ素等の周期表第14族の金属原子等を挙げることができる。なお、ホウ素およびケイ素は半金属原子に分類される場合があるが、本明細書ではこれらを金属原子に含めるものとする。金属原子(M)は1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。これらの中でも、金属酸化物(A)の生産性や得られる多層構造体のガスバリア性や水蒸気バリア性がより優れることから、金属原子(M)は、アルミニウム、チタン、およびジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、アルミニウムであることがより好ましい。すなわち、金属原子(M)はアルミニウムを含むことが好ましい。
【0088】
金属原子(M)に占める、アルミニウム、チタンおよびジルコニウムの合計の割合は、通常60モル%以上であり、100モル%であってもよい。また、金属原子(M)に占める、アルミニウムの割合は、通常50モル%以上であり、100モル%であってもよい。金属酸化物(A)は、液相合成法、気相合成法、固体粉砕法等の方法によって製造される。
【0089】
金属酸化物(A)は、加水分解可能な特性基が結合した金属原子(M)を有する化合物(L)の加水分解縮合物であってもよい。該特性基の例には、後述する一般式[I]のR
1が含まれる。化合物(L)の加水分解縮合物は、実質的に金属酸化物(A)とみなすことが可能である。そのため、本明細書において、「金属酸化物(A)」は「化合物(L)の加水分解縮合物」と読み替えることが可能であり、また、「化合物(L)の加水分解縮合物」を「金属酸化物(A)」と読み替えることも可能である。
【0090】
[加水分解可能な特性基が結合した金属原子(M)を含有する化合物(L)]
リン化合物(B)との反応の制御が容易になり、得られる多層構造体のガスバリア性が優れることから、化合物(L)は、下記一般式[I]で示される化合物(L
1)を少なくとも1種含むことが好ましい。
M
1(R
1)
m(R
2)
n―m [I]
式中、M
1は、アルミニウム、チタン、およびジルコニウムからなる群より選ばれる。R
1は、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、NO
3、置換基を有していてもよい炭素数1〜9のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜9のアシロキシ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜9のアルケニルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数5〜15のβ−ジケトナト基、または置換基を有していてもよい炭素数1〜9のアシル基を有するジアシルメチル基である。R
2は、置換基を有していてもよい炭素数1〜9のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数7〜10のアラルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜9のアルケニル基、または置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基である。mは1〜nの整数である。nはM
1の原子価に等しい。R
1が複数存在する場合、R
1は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。R
2が複数存在する場合、R
2は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0091】
R
1のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ベンジロキシ基、ジフェニルメトキシ基、トリチルオキシ基、4−メトキシベンジロキシ基、メトキシメトキシ基、1−エトキシエトキシ基、ベンジルオキシメトキシ基、2−トリメチルシリルエトキシ基、2−トリメチルシリルエトキシメトキシ基、フェノキシ基、4−メトキシフェノキシ基等が挙げられる。
【0092】
R
1のアシロキシ基としては、例えば、アセトキシ基、エチルカルボニルオキシ基、n−プロピルカルボニルオキシ基、イソプロピルカルボニルオキシ基、n−ブチルカルボニルオキシ、イソブチルカルボニルオキシ基、sec−ブチルカルボニルオキシ基、tert−ブチルカルボニルオキシ基、n−オクチルカルボニルオキシ基等が挙げられる。
【0093】
R
1のアルケニルオキシ基としては、例えば、アリルオキシ基、2−プロペニルオキシ基、2−ブテニルオキシ基、1−メチル−2−プロペニルオキシ基、3−ブテニルオキシ基、2−メチル−2−プロペニルオキシ基、2−ペンテニルオキシ基、3−ペンテニルオキシ基、4−ペンテニルオキシ基、1−メチル−3−ブテニルオキシ基、1,2−ジメチル−2−プロペニルオキシ基、1,1−ジメチル−2−プロペニルオキシ基、2−メチル−2−ブテニルオキシ基、3−メチル−2−ブテニルオキシ基、2−メチル−3−ブテニルオキシ基、3−メチル−3−ブテニルオキシ基、1−ビニル−2−プロペニルオキシ基、5−ヘキセニルオキシ基等が挙げられる。
【0094】
R
1のβ−ジケトナト基としては、例えば、2,4−ペンタンジオナト基、1,1,1−トリフルオロ−2,4−ペンタンジオナト基、1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオナト基、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト基、1,3−ブタンジオナト基、2−メチル−1,3−ブタンジオナト基、2−メチル−1,3−ブタンジオナト基、ベンゾイルアセトナト基等が挙げられる。
【0095】
R
1のジアシルメチル基のアシル基としては、例えば、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基(プロパノイル基)、ブチリル基(ブタノイル基)、バレリル基(ペンタノイル基)、ヘキサノイル基等の炭素数1〜6の脂肪族アシル基;ベンゾイル基、トルオイル基等の芳香族アシル基(アロイル基)等が挙げられる。
【0096】
R
2のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、3−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、1,2−ジメチルブチル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0097】
R
2のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基(フェネチル基)等が挙げられる。
【0098】
R
2のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、イソプロペニル基、3−ブテニル基、2−ブテニル基、1−ブテニル基、1−メチル−2−プロペニル基、1−メチル−1−プロペニル基、1−エチル−1−エテニル基、2−メチル−2−プロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基、3−メチル−2−ブテニル基、4−ペンテニル基等が挙げられる。
【0099】
R
2のアリール基としては、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等が挙げられる。
【0100】
R
1およびR
2における置換基としては、例えば、炭素数1〜6のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロプロピルオキシ基、シクロブチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、sec−ブトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、n−ペンチルオキシカルボニル基、イソペンチルオキシカルボニル基、シクロプロピルオキシカルボニル基、シクロブチルオキシカルボニル基、シクロペンチルオキシカルボニル基等の炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基;フェニル基、トリル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;炭素数1〜6のアシル基;炭素数7〜10のアラルキル基、;炭素数7〜10のアラルキルオキシ基;炭素数1〜6のアルキルアミノ基;炭素数1〜6のアルキル基を有するジアルキルアミノ基が挙げられる。
【0101】
R
1としては、ハロゲン原子、NO
3、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアシロキシ基、置換基を有していてもよい炭素数5〜10のβ−ジケトナト基、または置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアシル基を有するジアシルメチル基が好ましい。
【0102】
R
2としては、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。M
1としては、アルミニウムが好ましい。M
1がアルミニウムの場合、mは、好ましくは3である。
【0103】
化合物(L
1)の具体例としては、例えば、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、トリス(2,4−ペンタンジオナト)アルミニウム、トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリ−n−プロポキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリ−n−ブトキシアルミニウム、トリ−sec−ブトキシアルミニウム、トリ−tert−ブトキシアルミニウム等のアルミニウム化合物;テトラキス(2,4−ペンタンジオナト)チタン、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラキス(2−エチルヘキソキシ)チタン等のチタン化合物;テトラキス(2,4−ペンタンジオナト)ジルコニウム、テトラ−n−プロポキシジルコニウム、テトラ−n−ブトキシジルコニウム等のジルコニウム化合物が挙げられる。これらの中でも、化合物(L
1)としては、トリイソプロポキシアルミニウムおよびトリ−sec−ブトキシアルミニウムから選ばれる少なくとも1つの化合物が好ましい。化合物(L)は1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0104】
化合物(L)において、本発明の効果が得られる限り、化合物(L)に占める化合物(L
1)の割合に特に限定はない。化合物(L
1)以外の化合物が化合物(L)に占める割合は、例えば、20モル%以下が好ましく、10モル%以下がより好ましく、5モル%以下がさらに好ましく、0モル%であってもよい。
【0105】
化合物(L)が加水分解されることによって、化合物(L)が有する加水分解可能な特性基の少なくとも一部が水酸基に変換される。さらに、その加水分解物が縮合することによって、金属原子(M)が酸素原子(O)を介して結合された化合物が形成される。この縮合が繰り返されると、実質的に金属酸化物とみなしうる化合物が形成される。なお、このようにして形成された金属酸化物(A)の表面には、通常、水酸基が存在する。
【0106】
本明細書においては、[金属原子(M)のみに結合している酸素原子(O)のモル数]/[金属原子(M)のモル数]の比が0.8以上となる化合物を金属酸化物(A)に含めるものとする。ここで、金属原子(M)のみに結合している酸素原子(O)は、M−O−Mで表される構造における酸素原子(O)であり、M−O−Hで表される構造における酸素原子(O)のように金属原子(M)と水素原子(H)に結合している酸素原子は除外される。金属酸化物(A)における前記比は、0.9以上が好ましく、1.0以上がより好ましく、1.1以上がさらに好ましい。この比の上限は特に限定されないが、金属原子(M)の原子価をnとすると、通常、n/2で表される。
【0107】
前記加水分解縮合が起こるためには、化合物(L)が加水分解可能な特性基を有していることが重要である。それらの基が結合していない場合、加水分解縮合反応が起こらないもしくは極めて緩慢になるため、目的とする金属酸化物(A)の調製が困難になる。
【0108】
化合物(L)の加水分解縮合物は、例えば、公知のゾルゲル法で採用される手法によって特定の原料から製造してもよい。前記原料には、化合物(L)、化合物(L)の部分加水分解物、化合物(L)の完全加水分解物、化合物(L)の部分加水分解縮合物、および化合物(L)の完全加水分解物の一部が縮合したものからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0109】
[リン化合物(B)]
リン化合物(B)は、金属酸化物(A)と反応可能な部位を含有し、典型的には、そのような部位を複数含有する。リン化合物(B)としては、無機リン化合物が好ましい。リン化合物(B)としては、金属酸化物(A)と反応可能な部位(原子団または官能基)を2〜20個含有する化合物が好ましい。そのような部位には、金属酸化物(A)の表面に存在する官能基(例えば、水酸基)と縮合反応可能な部位が含まれる。そのような部位としては、例えば、リン原子に直接結合したハロゲン原子、リン原子に直接結合した酸素原子等が挙げられる。金属酸化物(A)の表面に存在する官能基(例えば、水酸基)は、通常、金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)に結合している。
【0110】
リン化合物(B)としては、例えば、リン酸、4分子以上のリン酸が縮合したポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、亜ホスホン酸、ホスフィン酸、亜ホスフィン酸等のリンのオキソ酸、およびこれらの塩(例えば、リン酸ナトリウム)、ならびにこれらの誘導体(例えば、ハロゲン化物(例えば、塩化ホスホリル)、脱水物(例えば、五酸化二リン))等が挙げられる。
【0111】
リン化合物(B)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらのリン化合物(B)の中でも、リン酸を単独で使用するか、リン酸とそれ以外のリン化合物(B)とを併用することが好ましい。リン酸を用いることによって、後述する第1コーティング液(U)の安定性と得られる多層構造体のガスバリア性および水蒸気バリア性が向上する。
【0112】
[金属酸化物(A)とリン化合物(B)との比率]
本発明の多層構造体は、層(Y)において、N
MとN
Pとが、0.8≦N
M/N
P≦4.5の関係を満たすものであり、1.0≦N
M/N
P≦3.6の関係を満たすものが好ましく、1.1≦N
M/N
P≦3.0の関係を満たすものがより好ましい。N
M/N
Pの値が4.5を超えると、金属酸化物(A)がリン化合物(B)に対して過剰となり、金属酸化物(A)とリン化合物(B)との結合が不充分となり、また、金属酸化物(A)の表面に存在する水酸基の量が多くなるため、ガスバリア性とその安定性が低下する傾向がある。一方、N
M/N
Pの値が0.8未満であると、リン化合物(B)が金属酸化物(A)に対して過剰となり、金属酸化物(A)との結合に関与しない余剰なリン化合物(B)が多くなり、また、リン化合物(B)由来の水酸基の量が多くなりやすく、やはりバリア性とその安定性が低下する傾向がある。
【0113】
なお、前記比は、層(Y)を形成するための第1コーティング液(U)における、金属酸化物(A)の量とリン化合物(B)の量との比によって調整できる。層(Y)におけるモル数(N
M)とモル数(N
P)との比は、通常、第1コーティング液(U)における比であって金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)のモル数とリン化合物(B)を構成するリン原子のモル数との比と同じである。
【0114】
[反応生成物(D)]
反応生成物(D)は、金属酸化物(A)とリン化合物(B)との反応で得られる。ここで、金属酸化物(A)とリン化合物(B)とさらに他の化合物とが反応することで生成する化合物も反応生成物(D)に含まれる。反応生成物(D)は、反応に関与していない金属酸化物(A)および/またはリン化合物(B)を部分的に含んでいてもよい。
【0115】
[陽イオン(Z)]
陽イオン(Z)のイオン価(F
Z)は、1以上3以下である。陽イオン(Z)は周期表第2〜7周期の元素を含む陽イオンである。陽イオン(Z)としては、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、チタンイオン、ジルコニウムイオン、ランタノイドイオン(例えば、ランタンイオン)、バナジウムイオン、マンガンイオン、鉄イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、銅イオン、亜鉛イオン、ホウ素イオン、アルミニウムイオン、およびアンモニウムイオン等が挙げられ、中でも、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、亜鉛イオンが好ましい。陽イオン(Z)は1種類であってもよいし、2種類以上を含んでいてもよい。陽イオン(Z)の働きについては、現在のところ明確ではない。1つの仮説では、陽イオン(Z)は、金属酸化物(A)やリン化合物(B)の水酸基との相互作用によって、無機化合物粒子の肥大化を抑制し、より小さな粒子の充填によってバリア層の緻密性が向上する結果、量子ドット蛍光体を含む電子デバイスの性能低下を抑制していると考えられる。そのため、より高い性能低下抑制機能が必要となる場合は、イオン結合を形成できるイオン価(F
Z)が小さい陽イオンを用いることが好ましい。
【0116】
なお、陽イオン(Z)が、イオン価が異なる複数種の陽イオンを含む場合、F
Z×N
Zの値は、陽イオンごとに計算した値を合計することによって得られる。例えば、陽イオン(Z)が1モルのナトリウムイオン(Na
+)と2モルのカルシウムイオン(Ca
2+)とを含む場合、F
Z×N
Z=1×1+2×2=5となる。
【0117】
陽イオン(Z)は、溶媒に溶解した際に陽イオン(Z)を生じるイオン性化合物(E)を第1コーティング液(U)に溶解させることで層(Y)に添加することができる。陽イオン(Z)のカウンターイオンとしては、例えば、水酸化物イオン、塩化物イオン、硫酸イオン、硫酸水素イオン、硝酸イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン等の無機陰イオン;酢酸イオン、ステアリン酸イオン、シュウ酸イオン、酒石酸イオン等の有機酸陰イオン等が挙げられる。陽イオン(Z)のイオン性化合物(E)は、溶解することによって陽イオン(Z)を生じる金属化合物(Ea)または金属酸化物(Eb)(金属酸化物(A)を除く)であってもよい。
【0118】
[金属酸化物(A)と陽イオン(Z)との比率]
本発明の多層構造体は、層(Y)において、F
ZとN
ZとN
Mとが、0.001≦F
Z×N
Z/N
M≦0.60の関係を満たすものであり、0.001≦F
Z×N
Z/N
M≦0.30の関係を満たすものが好ましく、0.01≦F
Z×N
Z/N
M≦0.30の関係を満たすものがより好ましい。
【0119】
[リン化合物(B)と陽イオン(Z)との比率]
本発明の多層構造体は、層(Y)において、F
ZとN
ZとN
Pが、0.0008≦F
Z×N
Z/N
P≦1.35の関係を満たすものが好ましく、0.001≦F
Z×N
Z/N
P≦1.00の関係を満たすものがより好ましく、0.0012≦F
Z×N
Z/N
P≦0.35の関係を満たすものがさらに好ましく、0.012≦F
Z×N
Z/N
P≦0.29の関係を満たすものが特に好ましい。
【0120】
[重合体(C)]
層(Y)は、特定の重合体(C)をさらに含んでもよい。重合体(C)は、例えば、カルボニル基、水酸基、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、およびカルボキシル基の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を含有する重合体である。
【0121】
水酸基を有する重合体(C)の具体例としては、ポリケトン;ポリビニルアルコール、炭素数4以下のα−オレフィン単位を1〜50モル%含有する変性ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール(例えば、ポリビニルブチラール)等のポリビニルアルコール系重合体;セルロース、デンプン、シクロデキストリン等の多糖類;ポリ(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、ポリ(メタ)アクリル酸、エチレン−アクリル酸共重合体等の(メタ)アクリル酸系重合体;エチレン−無水マレイン酸共重合体の加水分解物、スチレン−無水マレイン酸共重合体の加水分解物、イソブチレン−無水マレイン酸交互共重合体の加水分解物等のマレイン酸系重合体等が挙げられる。これらの中でも、ポリビニルアルコール系重合体が好ましく、具体的には、ポリビニルアルコールおよび炭素数4以下のα−オレフィン単位を1〜15モル%含有する変性ポリビニルアルコールが好ましい。
【0122】
ポリビニルアルコール系重合体のケン化度としては、特に限定されないが、75.0〜99.85モル%が好ましく、80.0〜99.5モル%がより好ましい。ポリビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度は、100〜4,000が好ましく、300〜3,000がより好ましい。また、ポリビニルアルコール系重合体の20℃での4質量%水溶液の粘度は1.0〜200mPa・sが好ましく、11〜90mPa・sがより好ましい。前記ケン化度、粘度平均重合度および4質量%水溶液の粘度は、JIS K 6726(1994年)に従って求めた値である。
【0123】
重合体(C)は、重合性基を有する単量体(例えば、酢酸ビニル、アクリル酸)の単独重合体であってもよいし、2種以上の単量体の共重合体であってもよいし、カルボニル基、水酸基および/またはカルボキシル基を有する単量体と該基を有さない単量体との共重合体であってもよい。
【0124】
重合体(C)の分子量に特に制限はない。より優れたバリア性および力学的物性(例えば、落下衝撃強さ)を有する多層構造体を得るために、重合体(C)の数平均分子量は、5,000以上であることが好ましく、8,000以上であることがより好ましく、10,000以上であることがさらに好ましい。重合体(C)の数平均分子量の上限は特に限定されず、例えば、1,500,000以下である。
【0125】
バリア性をより向上させるために、層(Y)における重合体(C)の含有量は、層(Y)の質量を基準(100質量%)として、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましく、20質量%以下であってもよい。重合体(C)は、層(Y)中の他の成分と反応していてもよいし、反応していなくてもよい。
【0126】
[層(Y)中の他の成分]
多層構造体中の層(Y)は、金属酸化物(A)、化合物(L)、リン化合物(B)、反応生成物(D)、陽イオン(Z)またはその化合物(E)、酸(加水分解縮合に使用する酸触媒、解膠時の酸等)、および重合体(C)に加え、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、陽イオン(Z)を含まない炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、硫酸水素塩、ホウ酸塩等の無機酸金属塩;陽イオン(Z)を含まない酢酸塩、ステアリン酸塩、シュウ酸塩、酒石酸塩等の有機酸金属塩;層状粘土化合物;架橋剤;重合体(C)以外の高分子化合物;可塑剤;酸化防止剤;紫外線吸収剤;難燃剤等が挙げられる。多層構造体中の層(Y)における前記の他の成分の含有量は、層(Y)の質量に対して50質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以下であることが特に好ましく、0質量%(他の成分を含まない)であってもよい。
【0127】
[層(Y)の厚さ]
層(Y)の厚さ(多層構造体が2層以上の層(Y)を有する場合には各層(Y)の厚さの合計)は、0.05〜4.0μmであることが好ましく、0.1〜2.0μmであることがより好ましい。層(Y)を薄くすることによって、印刷、ラミネート等の加工時における多層構造体の寸法変化を低く抑えることができる。また、多層構造体の柔軟性が増すため、その力学的特性を基材自体の力学的特性に近づけることもできる。本発明の多層構造体が2層以上の層(Y)を有する場合、ガスバリア性の観点から、層(Y)1層当たりの厚さは0.05μm以上であることが好ましい。層(Y)の厚さは、層(Y)の形成に用いられる後述する第1コーティング液(U)の濃度や、その塗工方法によって制御することができる。
【0128】
[層(Y)の赤外線吸収スペクトル]
層(Y)の赤外線吸収スペクトルにおいて、800〜1,400cm
−1の領域における最大吸収波数は1,080〜1,130cm
−1の範囲にあることが好ましい。金属酸化物(A)とリン化合物(B)とが反応して反応生成物(D)となる過程において、金属酸化物(A)に由来する金属原子(M)とリン化合物(B)に由来するリン原子(P)とが酸素原子(O)を介して結合したM−O−Pで表される結合を形成する。その結果、赤外線吸収スペクトルにおいて該結合由来の特性吸収帯が生じる。本発明者らによる検討の結果、M−O−Pの結合に基づく吸収帯が1,080〜1,130cm
−1の領域に見られる場合には、得られた多層構造体が優れたガスバリア性を発現することがわかった。特に、該特性吸収帯が、一般に各種の原子と酸素原子との結合に由来する吸収が見られる800〜1,400cm
−1の領域において最も強い吸収である場合には、得られた多層構造体がさらに優れたガスバリア性を発現することがわかった。
【0129】
これに対し、金属アルコキシドや金属塩等の金属化合物とリン化合物(B)とを予め混合した後に加水分解縮合させた場合には、金属化合物に由来する金属原子とリン化合物(B)に由来するリン原子とがほぼ均一に混ざり合い反応した複合体が得られる。その場合、赤外線吸収スペクトルにおいて、800〜1,400cm
−1の領域における最大吸収波数が1,080〜1,130cm
−1の範囲から外れるようになる。
【0130】
層(Y)の赤外線吸収スペクトルにおいて、800〜1,400cm
−1の領域における最大吸収帯の半値幅は、得られる多層構造体のガスバリア性の観点から、200cm
−1以下が好ましく、150cm
−1以下がより好ましく、100cm
−1以下がさらに好ましく、50cm
−1以下が特に好ましい。
【0131】
層(Y)の赤外線吸収スペクトルは実施例に記載の方法で測定できる。ただし、実施例に記載の方法で測定できない場合には、反射吸収法、外部反射法、減衰全反射法等の反射測定、多層構造体から層(Y)をかきとり、ヌジョール法、錠剤法等の透過測定という方法で測定してもよいが、これらに限定されるものではない。
【0132】
[層(W)]
本発明の多層構造体は、層(W)をさらに含んでもよい。層(W)は、リン原子を含有する官能基を有する重合体(G1)を含む。層(W)は、層(Y)に隣接して配置されることが好ましい。すなわち、層(W)および層(Y)は、互いに接触するように配置されることが好ましい。また、層(W)は、層(Y)を挟んで基材(X)と反対側(好ましくは反対側の表面)に配置されることが好ましい。換言すれば、基材(X)と層(W)との間に層(Y)が配置されることが好ましい。好ましい一例では、層(W)が、層(Y)を挟んで基材(X)と反対側(好ましくは反対側の表面)に配置され、かつ、層(Y)に隣接して配置される。層(W)は、水酸基および/またはカルボキシル基を有する重合体(G2)をさらに含んでもよい。重合体(G2)としては、重合体(C)と同じものを使用することができる。重合体(G1)について、以下に説明する。
【0133】
[重合体(G1)]
リン原子を含有する官能基を有する重合体(G1)が有するリン原子を含有する官能基としては、例えば、リン酸基、亜リン酸基、ホスホン酸基、亜ホスホン酸基、ホスフィン酸基、亜ホスフィン酸基、およびこれらの塩、ならびにこれらから誘導される官能基(例えば、(部分)エステル化合物、ハロゲン化物(例えば、塩化物)、脱水物)等を挙げられる。中でも、リン酸基および/またはホスホン酸基が好ましく、ホスホン酸基がより好ましい。
【0134】
重合体(G1)としては、例えば、アクリル酸6−[(2−ホスホノアセチル)オキシ]ヘキシル、メタクリル酸2−ホスホノオキシエチル、メタクリル酸ホスホノメチル、メタクリル酸11−ホスホノウンデシル、メタクリル酸1,1−ジホスホノエチル等のホスホノ(メタ)アクリル酸エステル類の重合体;ビニルホスホン酸、2−プロペン−1−ホスホン酸、4−ビニルベンジルホスホン酸、4−ビニルフェニルホスホン酸等のホスホン酸類の重合体;ビニルホスフィン酸、4−ビニルベンジルホスフィン酸等のホスフィン酸類の重合体;リン酸化デンプン等が挙げられる。重合体(G1)は、少なくとも1種の前記リン原子含有官能基を有する単量体の単独重合体であってもよいし、2種類以上の単量体の共重合体であってもよい。また、重合体(G1)として、単一の単量体からなる重合体を2種以上混合して使用してもよい。中でも、ホスホノ(メタ)アクリル酸エステル類の重合体および/またはビニルホスホン酸類の重合体が好ましく、ビニルホスホン酸類の重合体がより好ましい。重合体(G1)は、ポリ(ビニルホスホン酸)またはポリ(2−ホスホノオキシエチルメタクリレート)であることが好ましく、ポリ(ビニルホスホン酸)であってもよい。また、重合体(G1)は、ビニルホスホン酸ハロゲン化物やビニルホスホン酸エステル等のビニルホスホン酸誘導体を単独または共重合した後、加水分解することによっても得ることができる。
【0135】
また、重合体(G1)は、少なくとも1種のリン原子含有官能基を有する単量体と他のビニル単量体との共重合体であってもよい。リン原子含有官能基を有する単量体と共重合することができる他のビニル単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、スチレン、核置換スチレン類、アルキルビニルエーテル類、アルキルビニルエステル類、パーフルオロアルキルビニルエーテル類、パーフルオロアルキルビニルエステル類、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、マレイミド、フェニルマレイミド等が挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸エステル類、アクリロニトリル、スチレン、マレイミド、およびフェニルマレイミドが好ましい。
【0136】
より優れた耐屈曲性を有する多層構造体を得るために、リン原子含有官能基を有する単量体に由来する構成単位が重合体(G1)の全構成単位に占める割合は、10モル%以上であることが好ましく、20モル%以上であることがより好ましく、40モル%以上であることがさらに好ましく、70モル%以上であることが特に好ましく、100モル%であってもよい。
【0137】
重合体(G1)の分子量に特に制限はないが、数平均分子量が1,000〜100,000の範囲にあることが好ましい。数平均分子量がこの範囲にあると、層(W)を積層することによる耐屈曲性の改善効果と、後述する第2コーティング液(V)の粘度安定性とを、高いレベルで両立することができる。また、後述する層(Y)を積層する場合、リン原子1つあたりの重合体(G1)の分子量が100〜500の範囲にある場合に耐屈曲性の改善効果をより高めることができる。
【0138】
層(W)は、重合体(G1)のみによって構成されてもよいし、重合体(G1)および重合体(G2)のみによって構成されてもよいし、他の成分をさらに含んでもよい。層(W)に含まれる他の成分としては、例えば、炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、硫酸水素塩、ホウ酸塩等の無機酸金属塩;酢酸塩、ステアリン酸塩、シュウ酸塩、酒石酸塩等の有機酸金属塩;シクロペンタジエニル金属錯体(例えば、チタノセン)、シアノ金属錯体(例えば、プルシアンブルー)等の金属錯体;層状粘土化合物;架橋剤;重合体(G1)および重合体(G2)以外の高分子化合物:可塑剤;酸化防止剤;紫外線吸収剤;難燃剤等が挙げられる。層(W)における前記の他の成分の含有率は、50質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以下であることが特に好ましく、0質量%(他の成分を含まない)であってもよい。層(W)は、金属酸化物(A)、リン化合物(B)、および陽イオン(Z)のうちの少なくとも1つを含まない。典型的には、層(W)は、少なくとも金属酸化物(A)を含まない。
【0139】
多層構造体の外観を良好に保つ観点から、層(W)における重合体(G2)の含有率は、層(W)の質量を基準(100質量%)として、85質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。重合体(G2)は、層(W)中の成分と反応していてもよいし、反応していなくてもよい。重合体(G1)と重合体(G2)との質量比は、重合体(G1):重合体(G2)が15:85〜100:0の範囲にあることが好ましく、15:85〜99:1の範囲にあることがより好ましい。
【0140】
層(W)の一層当たりの厚さは、本発明の多層構造体の物理的ストレス(例えば、屈曲)に対する耐性がより良好になる観点から、0.003μm以上であることが好ましい。層(W)の厚さの上限は特に限定されないが、1.0μm以上では物理的ストレスに対する耐性の改善効果は飽和に達する。そのため、層(W)の合計の厚さの上限は、経済性の観点から1.0μmとすることが好ましい。層(W)の厚さは、層(W)の形成に用いられる後述する第2コーティング液(V)の濃度や、その塗工方法によって制御することができる。
【0141】
[多層構造体の製造方法]
本発明の製造方法によれば、本発明の多層構造体を容易に製造できる。本発明の多層構造体について説明した事項は本発明の製造方法に適用できるため、重複する説明を省略する場合がある。また、本発明の製造方法について説明した事項は、本発明の多層構造体に適用できる。
【0142】
本発明の多層構造体の製造方法は、工程〔I〕、〔II〕および〔III〕を含む。工程〔I〕では、金属酸化物(A)と、リン化合物(B)と、陽イオン(Z)のイオン性化合物(E)とを混合することによって、金属酸化物(A)、リン化合物(B)、および陽イオン(Z)を含む第1コーティング液(U)を調製する。工程〔II〕では、基材(X)上に第1コーティング液(U)を塗工することによって、基材(X)上に層(Y)の前駆体層を形成する。工程〔III〕では、当該前駆体層を110℃以上の温度で熱処理することによって、基材(X)上に層(Y)を形成する。
【0143】
[工程〔I〕(第1コーティング液(U)の調製)]
工程〔I〕では、金属酸化物(A)と、リン化合物(B)と、陽イオン(Z)のイオン性化合物(E)とを混合する。これらを混合するにあたり、溶媒を添加してもよい。第1コーティング液(U)において、イオン性化合物(E)から陽イオン(Z)が生成される。第1コーティング液(U)は、金属酸化物(A)、リン化合物(B)、および陽イオン(Z)の他に、他の化合物を含んでもよい。
【0144】
第1コーティング液(U)において、N
MとN
Pとは、前記の関係式を満たすことが好ましい。また、N
MとN
ZとF
Zとは、前記の関係式を満たすことが好ましい。さらに、N
PとN
ZとF
Zとは、前記の関係式を満たすことが好ましい。
【0145】
工程〔I〕は、以下の工程〔I−a〕〜〔I−c〕を含むことが好ましい。
工程〔I−a〕:金属酸化物(A)を含む液体を調製する工程、
工程〔I−b〕:リン化合物(B)を含む溶液を調製する工程、
工程〔I−c〕:前記工程〔I−a〕および〔I−b〕で得られた金属酸化物(A)を含む液体とリン化合物(B)を含む溶液とを混合する工程。
【0146】
工程〔I−b〕は、工程〔I−a〕より先または後のいずれに行われてもよく、工程〔I−a〕と同時に行われてもよい。以下、各工程について、より具体的に説明する。
【0147】
工程〔I−a〕では、金属酸化物(A)を含む液体を調製する。当該液体は、溶液または分散液である。当該液体は、例えば、公知のゾルゲル法で採用されている手法に従い、例えば、上述した化合物(L)、水、および必要に応じて酸触媒や有機溶媒を混合し、化合物(L)を縮合または加水分解縮合することによって調製することができる。化合物(L)を縮合または加水分解縮合することによって金属酸化物(A)の分散液を得た場合、必要に応じて、当該分散液に対して特定の処理(前記したような解膠や濃度制御のための溶媒の加減等)を行ってもよい。工程〔I−a〕は、化合物(L)および化合物(L)の加水分解物からなる群より選ばれる少なくとも1種を縮合(例えば、脱水縮合)させる工程を含んでもよい。工程〔I−a〕において使用できる有機溶媒の種類に特に制限はなく、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、水、およびこれらの混合溶媒が好ましい。当該液体中における金属酸化物(A)の含有量は、0.1〜30質量%の範囲にあることが好ましく、1〜20質量%の範囲にあることがより好ましく、2〜15質量%の範囲にあることがさらに好ましい。
【0148】
例えば、金属酸化物(A)が酸化アルミニウムである場合、酸化アルミニウムの分散液の調製では、まず必要に応じて酸触媒でpH調整した水溶液中でアルミニウムアルコキシドを加水分解縮合することによって酸化アルミニウムのスラリーを得る。次に、そのスラリーを特定量の酸の存在下に解膠することによって、酸化アルミニウムの分散液が得られる。なお、アルミニウム以外の金属原子を含有する金属酸化物(A)の分散液も、同様の方法で製造できる。酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、乳酸および酪酸が好ましく、硝酸および酢酸がより好ましい。
【0149】
工程〔I−b〕では、リン化合物(B)を含む溶液を調製する。前記溶液は、リン化合物(B)を溶媒に溶解することによって調製できる。リン化合物(B)の溶解性が低い場合には、加熱処理や超音波処理を施すことによって溶解を促進してもよい。溶媒としては、リン化合物(B)の種類に応じて適宜選択すればよいが、水を含むことが好ましい。リン化合物(B)の溶解の妨げにならない限り、溶媒は有機溶媒(例えば、メタノール)を含んでもよい。
【0150】
リン化合物(B)を含む溶液中におけるリン化合物(B)の含有量は、0.1〜99質量%の範囲にあることが好ましく、45〜95質量%の範囲にあることがより好ましく、55〜90質量%の範囲にあることがさらに好ましい。
【0151】
工程〔I−c〕では、金属酸化物(A)を含む液体とリン化合物(B)を含む溶液とを混合する。混合時の温度を30℃以下(例えば、20℃)に維持することによって、保存安定性に優れた第1コーティング液(U)を得ることができる場合がある。
【0152】
陽イオン(Z)を含む化合物(E)は、工程〔I−a〕、工程〔I−b〕、および工程〔I−c〕からなる群より選ばれる少なくとも1つの工程で添加してもよいし、それらのうちのいずれか1つの工程で添加してもよい。例えば、化合物(E)は、工程〔I−a〕の金属酸化物(A)を含む液体または工程〔I−b〕のリン化合物(B)を含む溶液に添加してもよく、工程〔I−c〕における金属酸化物(A)を含む液体とリン化合物(B)を含む溶液との混合液に添加してもよい。
【0153】
また、第1コーティング液(U)は、重合体(C)を含んでもよい。第1コーティング液(U)に重合体(C)を含ませる方法は、特に制限されない。例えば、重合体(C)は、金属酸化物(A)を含む液体、リン化合物(B)を含む溶液、およびこれらの混合液のいずれかに、溶液として添加・混合させてもよく、粉末またはペレットの状態で添加した後に溶解させてもよい。リン化合物(B)を含む溶液に重合体(C)を含有させることによって、金属酸化物(A)を含む液体とリン化合物(B)を含む溶液とを混合した際の金属酸化物(A)とリン化合物(B)との反応速度が遅くなり、その結果、経時安定性に優れた第1コーティング液(U)が得られる場合がある。
【0154】
第1コーティング液(U)は、必要に応じて、塩酸、硝酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、およびトリクロロ酢酸から選ばれる少なくとも1種の酸化合物(J)を含んでもよい。酸化合物(J)の含有量は、0.1〜5.0質量%の範囲にあることが好ましく、0.5〜2.0質量%の範囲にあることがより好ましい。これらの範囲では、酸化合物(J)の添加による効果が得られ、かつ酸化合物(J)の除去が容易である。金属酸化物(A)を含む液体中に酸成分が残留している場合は、その残留量を考慮して酸化合物(J)の添加量を決定すればよい。
【0155】
工程〔I−c〕で得られた混合液は、そのまま第1コーティング液(U)として使用できる。この場合、通常、金属酸化物(A)を含む液体やリン化合物(B)を含む溶液に含まれる溶媒が、第1コーティング液(U)の溶媒となる。また、前記混合液に有機溶媒の添加、pHの調製、粘度の調製、添加物の添加等の処理を行って第1コーティング液(U)を調製してもよい。有機溶媒としては、例えば、リン化合物(B)を含む溶液の調製に用いられる溶媒等が挙げられる。
【0156】
第1コーティング液(U)の保存安定性、および第1コーティング液(U)の基材(X)に対する塗工性の観点から、第1コーティング液(U)の固形分濃度は、1〜20質量%の範囲にあることが好ましく、2〜15質量%の範囲にあることがより好ましく、3〜10質量%の範囲にあることがさらに好ましい。第1コーティング液(U)の固形分濃度は、例えば、シャーレに第1コーティング液(U)を所定量加え、当該シャーレごと加熱して溶媒等の揮発分を除去し、残留した固形分の質量を、最初に加えた第1コーティング液(U)の質量で除することで算出できる。
【0157】
第1コーティング液(U)は、ブルックフィールド形回転粘度計(SB型粘度計:ローターNo.3、回転速度60rpm)で測定された粘度が、塗工時の温度において3,000mPa・s以下であることが好ましく、2,500mPa・s以下であることがより好ましく、2,000mPa・s以下であることがさらに好ましい。当該粘度が3,000mPa・s以下であることによって、第1コーティング液(U)のレベリング性が向上し、外観により優れる多層構造体を得ることができる。また、第1コーティング液(U)の粘度としては、50mPa・s以上が好ましく、100mPa・s以上がより好ましく、200mPa・s以上がさらに好ましい。
【0158】
第1コーティング液(U)において、N
MとN
Pとは、0.8≦N
M/N
P≦4.5の関係を満たす。また、第1コーティング液(U)において、N
MとN
ZとF
Zとは、0.001≦F
Z×N
Z/N
M≦0.60の関係を満たす。さらに、第1コーティング液(U)において、F
ZとN
ZとN
Pが、0.0008≦F
Z×N
Z/N
P≦1.35の関係を満たすものが好ましい。
【0159】
[工程〔II〕(第1コーティング液(U)の塗工)]
工程〔II〕では、基材(X)上に第1コーティング液(U)を塗工することによって、基材(X)上に層(Y)の前駆体層を形成する。第1コーティング液(U)は、基材(X)の少なくとも一方の面の上に直接塗工してもよい。また、第1コーティング液(U)を塗工する前に、基材(X)の表面を公知のアンカーコーティング剤で処理したり、基材(X)の表面に公知の接着剤を塗工したりする等して、基材(X)の表面に接着層(H)を形成しておいてもよい。
【0160】
第1コーティング液(U)を基材(X)上に塗工する方法は、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。塗工方法としては、例えば、キャスト法、ディッピング法、ロールコーティング法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、リバースコート法、スプレーコート法、キスコート法、ダイコート法、メタリングバーコート法、チャンバードクター併用コート法、カーテンコート法等が挙げられる。
【0161】
通常、工程〔II〕において、第1コーティング液(U)中の溶媒を除去することによって、層(Y)の前駆体層が形成される。溶媒の除去方法に特に制限はなく、公知の乾燥方法を適用することができる。乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥法、熱ロール接触法、赤外線加熱法、マイクロ波加熱法等が挙げられる。乾燥処理温度は、基材(X)の流動開始温度よりも0〜15℃以上低いことが好ましい。第1コーティング液(U)が重合体(C)を含む場合には、乾燥処理温度は、重合体(C)の熱分解開始温度よりも15〜20℃以上低いことが好ましい。乾燥処理温度は70〜200℃の範囲にあることが好ましく、80〜180℃の範囲にあることがより好ましく、90〜160℃の範囲にあることがさらに好ましい。溶媒の除去は、常圧下または減圧下のいずれで実施してもよい。また、後述する工程〔III〕における熱処理によって、溶媒を除去してもよい。
【0162】
層状の基材(X)の両面に層(Y)を積層する場合、第1コーティング液(U)を基材(X)の一方の面に塗工した後、溶媒を除去することによって第1の層(第1の層(Y)の前駆体層)を形成し、次いで、第1コーティング液(U)を基材(X)の他方の面に塗工した後、溶媒を除去することによって第2の層(第2の層(Y)の前駆体層)を形成してもよい。それぞれの面に塗工する第1コーティング液(U)の組成は同一であってもよいし、異なってもよい。
【0163】
[工程〔III〕(層(Y)の前駆体層の処理)]
工程〔III〕では、工程〔II〕で形成された前駆体層(層(Y)の前駆体層)を140℃以上の温度で熱処理することによって、層(Y)を形成する。この熱処理温度は第1コーティング液(U)の塗工後の乾燥処理温度よりも高いことが好ましい。
【0164】
工程〔III〕では、金属酸化物(A)同士がリン原子(リン化合物(B)に由来するリン原子)を介して結合される反応が進行する。別の観点では、工程〔III〕では、反応生成物(D)の生成反応が進行する。当該反応を充分に進行させるため、熱処理の温度は、140℃以上であることが好ましく、170℃以上であることがより好ましく、180℃以上であることがさらに好ましい。熱処理温度が低いと、充分な反応度を得るのにかかる時間が長くなり、生産性が低下する原因となる。熱処理の温度の好ましい上限は、基材(X)の種類等によって異なる。例えば、ポリアミド系樹脂からなる熱可塑性樹脂フィルムを基材(X)として用いる場合には、熱処理の温度は270℃以下であることが好ましい。また、ポリエステル系樹脂からなる熱可塑性樹脂フィルムを基材(X)として用いる場合には、熱処理の温度は240℃以下であることが好ましい。熱処理は、空気中、窒素雰囲気下、またはアルゴン雰囲気下等で実施することができる。
【0165】
熱処理の時間は0.1秒〜1時間の範囲にあることが好ましく、1秒〜15分の範囲にあることがより好ましく、5〜300秒の範囲にあることがさらに好ましい。
【0166】
多層構造体を製造するための本発明の方法は、層(Y)の前駆体層または層(Y)に紫外線を照射する工程を含んでもよい。例えば、紫外線照射は、工程〔II〕の後(例えば、塗工された第1コーティング液(U)の溶媒の除去がほぼ終了した後)で行ってもよい。
【0167】
基材(X)と層(Y)との間に接着層(H)を配置するために、第1コーティング液(U)を塗工する前に、基材(X)の表面を公知のアンカーコーティング剤で処理したり、基材(X)の表面に公知の接着剤を塗工したりしてもよい。
【0168】
本発明の多層構造体の製造方法は、工程〔i〕および〔ii〕をさらに含んでもよい。工程〔i〕では、リン原子を含有する重合体(G1)と溶媒とを含む第2コーティング液(V)を調製する。工程〔ii〕では、層(Y)に隣接して配置された層(W)を第2コーティング液(V)を用いて形成する。工程〔i〕の順序は特に限定されず、工程〔I〕、〔II〕または〔III〕と並行して行ってもよく、工程〔I〕、〔II〕または〔III〕の後に行ってもよい。工程〔ii〕は、工程〔II〕または〔III〕の後に行うことができる。層(Y)または層(Y)の前駆体層に第2コーティング液(V)を塗工することによって、層(Y)と接するように層(Y)に積層された層(W)を形成できる。重合体(G2)を含む層(W)を形成する場合、第2コーティング液(V)は重合体(G2)を含む。第2コーティング液(V)において、重合体(G1)と重合体(G2)との質量比は、重合体(G1):重合体(G2)が15:85〜100:0の範囲にあることが好ましく、15:85〜99:1の範囲にあることがより好ましい。当該質量比の第2コーティング液(V)を用いることによって、重合体(G1)と重合体(G2)との質量比が当該範囲にある層(W)を形成できる。第2コーティング液(V)は、重合体(G1)(および必要に応じて重合体(G2))を溶媒に溶解することによって調製できる。
【0169】
第2コーティング液(V)に用いられる溶媒は、含まれる重合体の種類に応じて適宜選択すればよいが、水、アルコール類、またはそれらの混合溶媒であることが好ましい。重合体の溶解の妨げにならない限り、溶媒は、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トリオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、n−ブチルセロソルブ等のグリコール誘導体;グリセリン;アセトニトリル;ジメチルホルムアミド等のアミド;ジメチルスルホキシド;スルホラン等を含んでもよい。
【0170】
第2コーティング液(V)における固形分(重合体(G1)等)の濃度は、溶液の保存安定性や塗工性の観点から、0.01〜60質量%の範囲にあることが好ましく、0.1〜50質量%の範囲にあることがより好ましく、0.2〜40質量%の範囲にあることがさらに好ましい。固形分濃度は、第1コーティング液(U)に関して記載した方法と同様の方法によって求めることができる。
【0171】
通常、工程〔ii〕において、第2コーティング液(V)中の溶媒が除去されることによって、層(W)が形成される。第2コーティング液(V)の溶媒の除去方法は特に限定されず、公知の乾燥方法を適用することができる。乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥法、熱ロール接触法、赤外線加熱法、マイクロ波加熱法等を挙げることができる。乾燥温度は、基材(X)の流動開始温度よりも0〜15℃以上低いことが好ましい。乾燥温度は70〜200℃の範囲にあることが好ましく、150〜200℃の範囲にあることがより好ましい。溶媒の除去は、常圧下または減圧下のいずれで実施してもよい。また、工程〔ii〕を、前述の工程〔II〕と工程〔III〕との間に実施する場合は、工程〔III〕における熱処理によって溶媒を除去してもよい。
【0172】
基材(X)の両面に、層(Y)を介して層(W)を形成してもよい。その場合の一例では、第2コーティング液(V)を一方の面に塗工した後に溶媒を除去することによって第1の層(W)を形成する。次に、第2コーティング液(V)を他方の面に塗工した後に溶媒を除去することによって第2の層(W)を形成する。それぞれの面に塗工する第2コーティング液(V)の組成は同一であってもよいし、異なってもよい。
【0173】
工程〔III〕の熱処理を経て得られた多層構造体は、そのまま本発明の多層構造体として使用できる。しかし、当該多層構造体に、前記したように他の部材(例えば、他の層)をさらに接着または形成した積層体を本発明の多層構造体としてもよい。当該部材の接着は、公知の方法で行うことができる。
【0174】
[接着層(H)]
本発明の多層構造体において、層(Y)は、基材(X)と直接接触するように積層されていてもよい。また、層(Y)は、他の層を介して基材(X)に積層されていてもよい。例えば、層(Y)は、接着層(H)を介して基材(X)に積層されていてもよい。この構成によれば、基材(X)と層(Y)との接着性を高めることができる場合がある。接着層(H)は、接着性樹脂で形成してもよい。接着性樹脂からなる接着層(H)は、基材(X)の表面を公知のアンカーコーティング剤で処理するか、基材(X)の表面に公知の接着剤を塗工することによって形成できる。接着剤としては、ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを混合し反応させる二液反応型ポリウレタン系接着剤が好ましい。また、アンカーコーティング剤や接着剤に、公知のシランカップリング剤等の少量の添加剤を加えることによって、さらに接着性を高めることができる場合がある。シランカップリング剤としては、例えば、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基等の反応性基を有するシランカップリング剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。基材(X)と層(Y)とを接着層(H)を介して強く接着することによって、本発明の多層構造体に対して印刷やラミネート等の加工を施す際に、バリア性や外観の悪化をより効果的に抑制することができる。接着層(H)の厚さは0.01〜10.0μmが好ましく、0.03〜5.0μmがより好ましい。
【0175】
[他の層]
本発明の多層構造体は、様々な特性、例えば、ヒートシール性を付与したり、バリア性や力学物性を向上させたりするための他の層を含んでもよい。このような本発明の多層構造体は、例えば、基材(X)に直接または接着層(H)を介して層(Y)を積層させた後に、さらに該他の層を直接または接着層(H)を介して接着または形成することによって製造できる。他の層としては、例えば、インク層やポリオレフィン層等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0176】
本発明の多層構造体は、商品名や絵柄を印刷するためのインク層を含んでもよい。このような本発明の多層構造体は、例えば、基材(X)に直接または接着層(H)を介して層(Y)を積層させた後に、さらに該インク層を直接形成することによって製造できる。インク層としては、例えば、溶剤に顔料(例えば、二酸化チタン)を包含したポリウレタン樹脂を分散した液体を乾燥した皮膜が挙げられるが、顔料を含まないポリウレタン樹脂や、その他の樹脂を主剤とするインクや電子回路配線形成用レジストを乾燥した皮膜でもよい。層(Y)へのインク層の塗工方法としては、グラビア印刷法のほか、ワイヤーバー、スピンコーター、ダイコーター等各種の塗工方法を用いることができる。インク層の厚さは0.5〜10.0μmが好ましく、1.0〜4.0μmがより好ましい。
【0177】
本発明の多層構造体において、層(W)中に重合体(G2)を含むと、接着層(H)や他の層(例えば、インク層)との親和性が高い官能基を有するため、層(W)とその他の層との密着性が向上する。このため、延伸処理等の物理的ストレスを受けた後にバリア性能を維持することができるとともに、デラミネーション等の外観不良を抑制することが可能となる。
【0178】
本発明の多層構造体の最表面層をポリオレフィン層とすることによって、多層構造体にヒートシール性を付与したり、多層構造体の力学的特性を向上させたりすることができる。ヒートシール性や力学的特性の向上等の観点から、ポリオレフィンはポリプロピレンまたはポリエチレンであることが好ましい。また、多層構造体の力学的特性を向上させるために、ポリエステルからなるフィルム、ポリアミドからなるフィルム、および水酸基含有ポリマーからなるフィルムからなる群より選ばれる少なくとも1つのフィルムを積層することが好ましい。力学的特性の向上の観点から、ポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレートが好ましく、ポリアミドとしてはナイロン−6が好ましく、水酸基含有ポリマーとしてはエチレン−ビニルアルコール共重合体が好ましい。なお、各層の間には必要に応じて、アンカーコート層や接着剤からなる層を設けてもよい。
【0179】
[多層構造体の構成]
本発明の多層構造体の構成の具体例を、以下に示す。また、多層構造体は接着層(H)等の接着層を有していてもよいが、以下の具体例において、当該接着層の記載は省略している。
(1)層(Y)/ポリエステル層、
(2)層(Y)/ポリエステル層/層(Y)、
(3)層(Y)/ポリアミド層、
(4)層(Y)/ポリアミド層/層(Y)、
(5)層(Y)/ポリオレフィン層、
(6)層(Y)/ポリオレフィン層/層(Y)、
(7)層(Y)/水酸基含有ポリマー層、
(8)層(Y)/水酸基含有ポリマー層/層(Y)、
(9)層(Y)/無機蒸着層/ポリエステル層、
(10)層(Y)/無機蒸着層/ポリアミド層、
(11)層(Y)/無機蒸着層/ポリオレフィン層、
(12)層(Y)/無機蒸着層/水酸基含有ポリマー層、
(13)層(Y)/ポリエステル層/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(14)層(Y)/ポリエステル層/層(Y)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(15)ポリエステル層/層(Y)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(16)層(Y)/ポリアミド層/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(17)層(Y)/ポリアミド層/層(Y)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(18)ポリアミド層/層(Y)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(19)層(Y)/ポリオレフィン層/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(20)層(Y)/ポリオレフィン層/層(Y)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(21)ポリオレフィン層/層(Y)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(22)層(Y)/ポリオレフィン層/ポリオレフィン層、
(23)層(Y)/ポリオレフィン層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(24)ポリオレフィン層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(25)層(Y)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(26)層(Y)/ポリエステル層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(27)ポリエステル層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(28)層(Y)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(29)層(Y)/ポリアミド層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(30)ポリアミド層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(31)無機蒸着層/層(Y)/ポリエステル層、
(32)無機蒸着層/層(Y)/ポリエステル層/層(Y)/無機蒸着層、
(33)無機蒸着層/層(Y)/ポリアミド層、
(34)無機蒸着層/層(Y)/ポリアミド層/層(Y)/無機蒸着層、
(35)無機蒸着層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(36)無機蒸着層/層(Y)/ポリオレフィン層/層(Y)/無機蒸着層
【実施例】
【0180】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。以下の実施例および比較例における分析および評価は次のようにして行った。
【0181】
(1)層(Y)の赤外線吸収スペクトル
フーリエ変換赤外分光光度計を用い、減衰全反射法で測定した。測定条件は以下の通りとした。
装置:パーキンエルマー株式会社製Spectrum One
測定モード:減衰全反射法
測定領域:800〜1,400cm
−1【0182】
(2)各層の厚さ測定
多層構造体を収束イオンビーム(FIB)を用いて切削し、断面観察用の切片(厚さ0.3μm)を作製した。作製した切片を試料台座にカーボンテープで固定し、加速電圧30kVで30秒間白金イオンスパッタを行った。多層構造体の断面を電界放出形透過型電子顕微鏡を用いて観察し、各層の厚さを算出した。測定条件は以下の通りとした。
装置:日本電子株式会社製JEM−2100F
加速電圧:200kV
倍率:250,000倍
【0183】
(3)金属イオンの定量
多層構造体1.0gに分析等級の高純度硝酸5mLを加えてマイクロ波分解処理を行い、得られた溶液を超純水で50mLに定容することによって、アルミニウムイオン以外の金属イオンの定量分析用溶液を得た。また、この溶液0.5mLを超純水で50mLに定容することによって、アルミニウムイオンの定量分析用溶液を得た。前記の方法で得られた溶液中に含まれる金属イオン量を誘導結合プラズマ発光分光分析装置を用いて内部標準法で定量した。各金属イオンの検出下限は0.1ppmであった。測定条件は以下の通りとした。
装置:パーキンエルマー株式会社製Optima4300DV
RFパワー:1,300W
ポンプ流量:1.50mL/分
補助ガス流量(アルゴン):0.20L/分
キャリアガス流量(アルゴン):0.70L/分
クーラントガス:15.0L/分
【0184】
(4)アンモニウムイオンの定量
多層構造体を1cm×1cmのサイズに裁断し、凍結粉砕した。得られた粉体を、呼び寸法1mmのふるい(標準ふるい規格JIS−Z8801−1〜3準拠)でふるい分けした。前記のふるいを通過した粉体10gをイオン交換水50mL中に分散させ、95℃で10時間抽出操作を行った。得られた抽出液中に含まれるアンモニウムイオンを陽イオンクロマトグラフィー装置を用いて定量した。検出下限は0.02ppbであった。測定条件は以下の通りとした。
装置:Dionex社製ICS−1600
ガードカラム:Dionex社製IonPAC CG−16(5φ×50mm)
分離カラム:Dionex社製IonPAC CS−16(5φ×250mm)
検出器:電気伝導度検出器
溶離液:30ミリモル/L メタンスルホン酸水溶液
温度:40℃
溶離液流速:1mL/分
分析量:25μL
【0185】
(5)酸素透過度の測定
酸素透過量測定装置にキャリアガス側に基材の層が向くようにサンプルを取り付け、等圧法により酸素透過度を測定した。測定条件は以下の通りとした。
装置:モダンコントロール社製MOCON OX−TRAN2/20
温度:20℃
酸素供給側の湿度:85%RH
キャリアガス側の湿度:85%RH
酸素圧:1気圧
キャリアガス圧力:1気圧
【0186】
(6)水蒸気透過度の測定(等圧法)
水蒸気透過量測定装置にキャリアガス側に基材の層が向くようにサンプルを取り付け、等圧法により透湿度(水蒸気透過度)を測定した。測定条件は以下の通りとした。
装置:モダンコントロール社製MOCON PERMATRAN W3/33
温度:40℃
水蒸気供給側の湿度:90%RH
キャリアガス側の湿度:0%RH
【0187】
(7)水蒸気透過度の測定(差圧法)(実施例1−36〜1−39;比較例1−7の透湿度の測定)
水蒸気透過量測定装置に水蒸気供給側に基材の層が向くようにサンプルを取り付け、差圧法により透湿度(水蒸気透過度)を測定した。測定条件は以下の通りとした。
装置:Technolox社製Deltaperm
温度:40℃
水蒸気供給(上室)側の圧力:50Torr(6,665Pa)
水蒸気透過(下室)側の圧力:0.003Torr(0.4Pa)
【0188】
<重合体(G1−1)の合成例>
窒素雰囲気下、2−ホスホノオキシエチルメタクリレート8.5gおよびアゾビスイソブチロニトリル0.1gをメチルエチルケトン17gに溶解させ、80℃で12時間攪拌した。得られた重合体溶液を冷却した後、1,2−ジクロロエタン170gに加え、デカンテーションによって重合体を沈殿物として回収した。続いて、重合体をテトラヒドロフランに溶解させ、1,2−ジクロロエタンを貧溶媒として用いて再沈精製を行った。再沈精製を3回行った後、50℃で24時間真空乾燥することによって、重合体(G1−1)を得た。重合体(G1−1)は、2−ホスホノオキシエチルメタクリレートの重合体である。GPC分析の結果、該重合体の数平均分子量はポリスチレン換算で10,000であった。
【0189】
<重合体(G1−2)の合成例>
窒素雰囲気下、ビニルホスホン酸10gおよび2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)2塩酸塩0.025gを水5gに溶解させ、80℃で3時間攪拌した。冷却後、重合溶液に水15gを加えて希釈し、セルロース膜であるスペクトラムラボラトリーズ社製の「Spectra/Por」(登録商標)を用いてろ過した。ろ液中の水を留去した後、50℃で24時間真空乾燥することによって、重合体(G1−2)を得た。重合体(G1−2)は、ポリ(ビニルホスホン酸)である。GPC分析の結果、該重合体の数平均分子量はポリエチレングリコール換算で10,000であった。
【0190】
<第1コーティング液(U−1)の製造例>
蒸留水230質量部を撹拌しながら70℃に昇温した。その蒸留水に、トリイソプロポキシアルミニウム88質量部を1時間かけて滴下し、液温を徐々に95℃まで上昇させ、発生するイソプロパノールを留出させることによって加水分解縮合を行った。得られた液体に、60質量%の硝酸水溶液4.0質量部を添加し、95℃で3時間撹拌することによって加水分解縮合物の粒子の凝集体を解膠させた。その後、その液体に濃度が1.0モル%の水酸化ナトリウム水溶液2.24質量部を加え、固形分濃度が酸化アルミニウム換算で10質量%になるように濃縮した。こうして得られた液体18.66質量部に対して、蒸留水58.19質量部、メタノール19.00質量部、および5質量%のポリビニルアルコール水溶液(株式会社クラレ製PVA124;ケン化度98.5モル%、粘度平均重合度2,400、20℃での4質量%水溶液粘度60mPa・s)0.50質量部を加え、均一になるように撹拌し、金属酸化物(A)を含む液体である分散液を得た。続いて、液温を15℃に維持した状態で前記分散液を攪拌しながらリン化合物(B)を含む溶液である85質量%のリン酸水溶液3.66質量部を滴下して加え、滴下完了後からさらに30分間攪拌を続け、表1に記載されたN
M/N
P、F
Z×N
Z/N
M、およびF
Z×N
Z/N
Pの値を有する目的の第1コーティング液(U−1)を得た。
【0191】
<第1コーティング液(U−2)〜(U−5)の製造例>
第1コーティング液(U−2)〜(U−5)の調製では、分散液の調製において、F
Z×N
Z/N
MおよびF
Z×N
Z/N
Pの値が後掲の表1に示す値となるように1.0モル%の水酸化ナトリウム水溶液の添加量を変更した。このこと以外は第1コーティング液(U−1)の調製と同様の方法によって、第1コーティング液(U−2)〜(U−5)を調製した。
【0192】
<第1コーティング液(U−6)の製造例>
第1コーティング液(U−6)の調製では、分散液の調製において、水酸化ナトリウム水溶液を添加せず、かつ、加える蒸留水の量を58.09質量部(第1コーティング液(U−1)の調製では58.19質量部)とした。また、分散液にリン酸水溶液を滴下した後、1.0モル%の水酸化ナトリウム水溶液0.10質量部を添加した。これらのこと以外は第1コーティング液(U−1)の調製と同様の方法によって、第1コーティング液(U−6)を調製した。
【0193】
<第1コーティング液(U−8)の製造例>
リン化合物(B)を含む溶液において、リン酸の代わりにリン酸トリメチルを用いたこと以外は第1コーティング液(U−5)の調製と同様の方法によって、第1コーティング液(U−8)を調製した。
【0194】
<第1コーティング液(U−9)の製造例>
分散液の調製において、5質量%のポリビニルアルコール水溶液の代わりに5質量%のポリアクリル酸水溶液を用いたこと以外は第1コーティング液(U−5)の調製と同様の方法によって、第1コーティング液(U−9)を調製した。
【0195】
<第1コーティング液(U−7)および(U−10)〜(U−18)の製造例>
分散液の調製において、1.0モル%の水酸化ナトリウム水溶液の代わりに各種金属塩の水溶液を使用した以外は第1コーティング液(U−5)の調製と同様の方法によって、第1コーティング液(U−7)および(U−10)〜(U−18)を調製した。金属塩の水溶液として、第1コーティング液(U−7)では1.0モル%の塩化ナトリウム水溶液、第1コーティング液(U−10)では1.0モル%の水酸化リチウム水溶液、第1コーティング液(U−11)では1.0モル%の水酸化カリウム水溶液、第1コーティング液(U−12)では0.5モル%の塩化カルシウム水溶液、第1コーティング液(U−13)では0.5モル%の塩化コバルト水溶液、第1コーティング液(U−14)では0.5モル%の塩化亜鉛水溶液、第1コーティング液(U−15)では0.5モル%の塩化マグネシウム水溶液、第1コーティング液(U−16)では1.0モル%のアンモニア水溶液、第1コーティング液(U−17)では塩水溶液(1.0モル%の塩化ナトリウム水溶液と0.5モル%の塩化カルシウム水溶液との混合液)、第1コーティング液(U−18)では塩水溶液(0.5モル%の塩化亜鉛水溶液と0.5モル%の塩化カルシウム水溶液との混合液)を用いた。
【0196】
<第1コーティング液(U−19)〜(U−23)の製造例>
N
M/N
PおよびF
Z×N
Z/N
Pの比率を後掲の表1に従って変更したこと以外は第1コーティング液(U−5)の調製と同様の方法によって、第1コーティング液(U−19)〜(U−23)を調製した。
【0197】
<第1コーティング液(U−34)、(U−36)、(U−37)、(U−39)、および(CU−5)の製造例>
分散液の調製において、第1コーティング液(U−34)では0.19質量部の酸化亜鉛、第1コーティング液(U−36)では0.19質量部の酸化マグネシウム、第1コーティング液(U−37)では0.38質量部のホウ酸、第1コーティング液(U−39)では0.30質量部の炭酸カルシウム、第1コーティング液(CU−5)では0.38質量部のテトラエトキシシランを、水酸化ナトリウム水溶液の代わりに用いた。これらはいずれも、ポリビニルアルコール水溶液を添加した後に添加した。また、第1コーティング液(U−1)の調製で添加する蒸留水の量58.19質量部を、第1コーティング液(U−34)および第1コーティング液(U−36)では58.00質量部、第1コーティング液(U−39)では57.89質量部、第1コーティング液(U−37)および第1コーティング液(CU−5)では57.81質量部とした。これらの変更以外は第1コーティング液(U−1)の調製と同様の方法によって、第1コーティング液(U−34)、(U−36)、(U−37)、(U−39)、および(CU−5)を調製した。
【0198】
<第1コーティング液(CU−1)の製造例>
分散液の調製において1.0モル%の水酸化ナトリウム水溶液を添加しなかったこと以外は第1コーティング液(U−1)の調製と同様の方法によって、第1コーティング液(CU−1)を調製した。
【0199】
<第1コーティング液(CU−2)および(CU−6)の製造例>
分散液の調製において、F
Z×N
Z/N
Mの値が表1に示す値となるように1.0モル%の水酸化ナトリウム水溶液の添加量を変更したこと以外は第1コーティング液(U−1)の調製と同様の方法によって、第1コーティング液(CU−2)および(CU−6)を調製した。
【0200】
<第1コーティング液(CU−3)および(CU−4)の製造例>
N
M/N
Pの値を表1に従って変更したこと以外は第1コーティング液(U−5)の調製と同様の方法によって、第1コーティング液(CU−3)および(CU−4)を調製した。
【0201】
<第2コーティング液(V−1)〜(V−6)の製造例>
まず、合成例1で得た重合体(G1−1)を水とメタノールの混合溶媒(質量比で水:メタノール=7:3)に溶解させ、固形分濃度が1質量%の第2コーティング液(V−1)を得た。また、合成例1で得た重合体(G1−1)を91質量%、ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製PVA124;ケン化度98.5モル%、粘度平均重合度2,400、20℃での4質量%水溶液粘度60mPa・s)を9質量%含む混合物を準備した。この混合物を、水とメタノールの混合溶媒(質量比で水:メタノール=7:3)に溶解させ、固形分濃度が1質量%の第2コーティング液(V−2)を得た。また、合成例1で得た重合体(G1−1)を91質量%、ポリアクリル酸(数平均分子量210,000、重量平均分子量1,290,000)を9質量%含む混合物を準備した。この混合物を、水とメタノールとの混合溶媒(質量比で水:メタノール=7:3)に溶解させ、固形分濃度が1質量%の第2コーティング液(V−3)を得た。さらに、重合体(G1−1)を重合体(G1−2)に変更した以外は第2コーティング液(V−1)〜(V−3)の調製と同様の方法によって、第2コーティング液(V−4)〜(V−6)を得た。
【0202】
実施例および比較例で使用したフィルムの詳細は以下のとおりである。
1)PET12:延伸ポリエチレンレテフタレートフィルム;東レ株式会社製、「ルミラー P60」(商品名)、厚さ12μm
2)PET125:延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム;東レ株式会社製、「ルミラー S10」(商品名)、厚さ125μm)
3)PET50:エチレン−酢酸ビニル共重合体との接着性を向上させたポリエチレンテレフタレートフィルム;東洋紡株式会社製、「シャインビーム Q1A15」(商品名)、厚さ50μm
4)ONY:延伸ナイロンフィルム;ユニチカ株式会社製、「エンブレム ONBC」(商品名)、厚さ15μm
5)CPP50:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC−21」(商品名)、厚さ50μm
6)CPP60:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC−21」(商品名)、厚さ60μm
7)CPP70:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC−21」(商品名)、厚さ70μm
8)CPP100:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC−21」(商品名)、厚さ100μm
【0203】
[実施例1]
<実施例1−1>
まず、基材(X)としてPET12を準備した。この基材上に、乾燥後の厚さが0.5μmとなるようにバーコーターを用いて第1コーティング液(U−1)をコートし、塗工後のフィルムを100℃で5分間乾燥することによって基材上に層(Y)の前駆体層を形成した。続いて、180℃で1分間熱処理することによって層(Y)を形成した。このようにして、層(Y)(0.5μm)/PETという構造を有する多層構造体(1−1)を得た。
【0204】
多層構造体(1−1)の赤外線吸収スペクトルを測定した結果、800〜1,400cm
−1の領域における最大吸収波数は1,107cm
−1であり、前記領域における最大吸収帯の半値幅は37cm
−1であった。結果を表1に示す。
【0205】
多層構造体(1−1)に含まれるナトリウムイオンを定量分析した結果、{(ナトリウムイオンのイオン価)x(ナトリウムイオンのモル数)}/(アルミニウムイオンのモル数)=0.005であった。結果を表1に示す。
【0206】
多層構造体(1−1)から21cm×30cmの大きさのサンプルを切り出し、このサンプルを23℃、50%RHの条件下で24時間放置した後、同条件下で長軸方向に5%延伸し、延伸した状態を10秒間保持することで、延伸処理後の多層構造体(1−1)とした。続いて、多層構造体(1−1)の延伸処理前後の酸素透過度および透湿度を測定した。結果を表2に示す。
【0207】
<実施例1−2〜1−23>
第1コーティング液(U−1)の代わりに第1コーティング液(U−2)〜(U−23)を用いたこと以外は実施例1の多層構造体(1−1)の作製と同様にして、実施例1−2〜1−23の多層構造体(1−2)〜(1−23)を作製した。実施例1−4の多層構造体(1−4)の金属イオン含有量を分析した結果、{(ナトリウムイオンのイオン価)x(ナトリウムイオンモル数)}/(アルミニウムイオンモル数)=0.240であった。
【0208】
<実施例1−24>
PET12上に、乾燥後の厚さが0.5μmとなるようにバーコーターを用いて第1コーティング液(U−4)をコートし、塗工後のフィルムを110℃で5分間乾燥することによって基材上に層(Y)の前駆体層を形成した。続いて、得られた積層体に対して、160℃で1分間熱処理することによって層(Y)を形成した。このようにして、層(Y)(0.5μm)/PETという構造を有する多層構造体を得た。この多層構造体の層(Y)上に、乾燥後の厚さが0.3μmになるようにバーコーターによって第2コーティング液(V−1)をコートし、200℃で1分間乾燥することによって層(W)を形成した。このようにして、層(W)(0.3μm)/層(Y)(0.5μm)/PETという構造を有する実施例1−24の多層構造体(1−24)を得た。
【0209】
<実施例1−25〜1−29>
第2コーティング液(V−1)の代わりに第2コーティング液(V−2)〜(V−6)を用いたこと以外は実施例1−24の多層構造体(1−24)の作製と同様の方法によって、実施例1−25〜1−29の多層構造体(1−25)〜(1−29)を得た。
【0210】
<実施例1−30>
PET12上に、厚さ0.03μmの酸化アルミニウムの蒸着層(X’)を真空蒸着法によって形成した。この蒸着層上に、乾燥後の厚さが0.5μmとなるようにバーコーターを用いて第1コーティング液(U−4)をコートし、塗工後のフィルムを110℃で5分間乾燥することによって基材上に層(Y)の前駆体層を形成した。続いて、得られた積層体に対して、180℃で1分間熱処理することによって層(Y)を形成した。このようにして、層(Y)(0.5μm)/蒸着層(X’)(0.03μm)/PETという構造を有する多層構造体(1−30)を得た。
【0211】
<実施例1−31>
実施例1−4で得られた多層構造体(1−4)の層(Y)上に、厚さ0.03μmの酸化アルミニウムの蒸着層(X’)を真空蒸着法により形成して、蒸着層(X’)(0.03μm)/層(Y)(0.5μm)/PET(12μm)という構造を有する多層構造体(1−31)を得た。
【0212】
<実施例1−32>
PET12の両面に、厚さ0.03μmの酸化アルミニウムの蒸着層(X’)を真空蒸着法によって形成した。この、両方の蒸着層上に乾燥後の厚さが0.5μmとなるようにバーコーターを用いて第1コーティング液(U−4)をコートし、塗工後のフィルムを110℃で5分間乾燥することによって層(Y)の前駆体層を形成した。続いて、得られた積層体に対して、乾燥機を用いて180℃で1分間熱処理することによって層(Y)を形成した。このようにして、層(Y)(0.5μm)/蒸着層(X’)(0.03μm)/PET/蒸着層(X’)(0.03μm)/層(Y)(0.5μm)という構造を有する多層構造体(1−32)を得た。
【0213】
<実施例1−33>
PET12の両面に、乾燥後の厚さがそれぞれ0.5μmとなるようにバーコーターを用いて第1コーティング液(U−4)をコートし、塗工後のフィルムを110℃で5分間乾燥することによって基材上に層(Y)の前駆体層を形成した。続いて、得られた積層体に対して、乾燥機を用いて180℃で1分間熱処理することによって層(Y)を形成した。この積層体の2つの層(Y)の上に厚さ0.03μmの酸化アルミニウムの蒸着層(X’)を真空蒸着法によって形成した。このようにして、蒸着層(X’)(0.03μm)/層(Y)(0.5μm)/PET/層(Y)(0.5μm)/蒸着層(X’)(0.03μm)という構造を有する多層構造体(1−33)を得た。
【0214】
<実施例1−34>
第1コーティング液(U−1)の代わりに第1コーティング液(U−34)を用いたこと以外は実施例1−1の多層構造体(1−1)の作製と同様の方法によって、実施例1−34の多層構造体(1−34)を得た。
【0215】
<実施例1−35>
第1コーティング液(U−1)の代わりに第1コーティング液(U−34)を用い、第2コーティング液(V−1)の代わりに第2コーティング液(V−4)を使用したこと以外は実施例1−24の多層構造体(1−24)の作製と同様の方法によって、実施例1−35の多層構造体(1−35)を得た。
【0216】
<実施例1−36>
PET125上に、バーコーターを用いて第1コーティング液(U−36)を乾燥後の厚さが0.3μmとなるように塗工し、110℃で5分間乾燥させた後、180℃で1分間熱処理を行った。このようにして多層構造体(1−36)を得た。
【0217】
<実施例1−37〜1−39>
第1コーティング液(U−36)の代わりに第1コーティング液(U−37)、(U−34)、および(U−39)を使用したこと以外は実施例1−36の多層構造体(1−36)の作製と同様にして、実施例1−37〜1−39の多層構造体(1−37)〜(1−39)を得た。
【0218】
<比較例1−1〜1−6>
第1コーティング液(U−1)の代わりに第1コーティング液(CU−1)〜(CU−6)を用いたこと以外は実施例1−1の多層構造体(1−1)の作製と同様にして、比較例1−1〜1−6の多層構造体(C1−1)〜(C1−6)を作製した。比較例1−1の多層構造体(C1−1)の金属イオン含有量を分析した結果、検出下限未満({(ナトリウムイオンのイオン価)x(ナトリウムイオンモル数)}/(アルミニウムイオンモル数)=0.001未満)であった。
【0219】
<比較例1−7>
第1コーティング液(U−36)の代わりに第1コーティング液(CU−7)を用いたことを以外は実施例1−36の多層構造体(1−36)の作製と同様にして、比較例1−7の多層構造体(CA7)を作製した。
【0220】
実施例における層(Y)、層(Y)に対応する比較例の層(CY)、および層(W)の形成条件を表1に示す。なお、表1中の略号は、以下の物質を表す。
PVA:ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製PVA124)
PAA:ポリアクリル酸(東亜合成株式会社製アロン−15H)
PPEM:ポリ(2−ホスホノオキシエチルメタクリレート)
PVPA:ポリ(ビニルホスホン酸)
【0221】
【表1】
【0222】
実施例1−2〜1−39および比較例1−1〜1−7の多層構造体について、実施例1−1の多層構造体(1−1)と同様に評価を行った。実施例および比較例における多層構造体の構成、およびそれらの評価結果を表2に示す。なお、表2中の「−」は、測定を行っていないことを示す。
【0223】
【表2】
【0224】
表2から明らかなように、実施例の多層構造体は、強い物理的ストレスを受けても、ガスバリア性および水蒸気バリア性の両方を高いレベルで維持できた。また、層(Y)に加えて層(W)を含む多層構造体は、層(Y)のみの多層構造体に比べて延伸後のバリア性がさらに高かった。また、層(Y)に加えて層(W)および無機蒸着層(X’)を含む多層構造体は、層(Y)のみの多層構造体に比べて延伸後のバリア性がさらに高かった。
【0225】
<実施例1−40>
実施例1−1で得た多層構造体(1−1)を保護シートとして用いて太陽電池モジュールを作製した。10cm角の強化ガラス上に設置されたアモルファス系のシリコン太陽電池セルを厚さ450μmの2枚のエチレン−酢酸ビニル共重合体シートで挟み込んだ。次に、光入射側となるエチレン−酢酸ビニル共重合体シート上に多層構造体(1−1)のポリエチレンテレフタレート層が外側となるように貼り合わせた。このようにして太陽電池モジュールを作製した。貼り合わせは、150℃にて真空引きを3分間行った後、9分間圧着を行うことによって実施した。作製された太陽電池モジュールは、大気下で良好に作動し、長期に亘って良好な電気出力特性を示した。
【0226】
以下の実施例および比較例において、量子効率および分光放射エネルギーは、大塚電子製量子効率測定装置QE−1000により測定した。なお、前記分光放射エネルギーは、本実施例で使用した量子ドット蛍光体の蛍光波長における放射エネルギーである。
【0227】
[量子ドット蛍光体を含有する電子デバイス]
<実施例2−1>
50mLガラス製スクリューボトルに、アルゴンガス雰囲気下、シクロオレフィン重合体(日本ゼオン株式会社製、ZEONEX(登録商標)480R;構造式[Q−1]を含む非晶質樹脂)5gと、真空凍結脱気した後にアルゴンガス雰囲気下で保存した脱水トルエン(和光純薬工業株式会社製)5gとを仕込み、室温下ローラー式攪拌機上で撹拌することで溶解させ、樹脂溶液1を得た。
【0228】
得られた樹脂溶液1に、82mg/mLに調製された量子ドット蛍光体のトルエン分散液3.05gをアルゴンガス雰囲気下で加えた。ここで量子ドット蛍光体の分子構造としては、コア・シェル構造を有し、コアがInP、シェルがZnSで、ミリスチン酸をキャッピング剤として用いたナノ粒子であって、コアの直径2.1nmのものを用いた。その後、株式会社シンキー社製自転・公転式撹拌装置ARV310−LEDを用いて十分に混練し、量子ドット蛍光体をシクロオレフィンポリマーに対して5質量%含有した分散液(量子ドット蛍光体を含む組成物)1を得た。その分散液をポリメチルペンテン製シャーレ上に置いたシリコーンリング(外径55mm×内径50mm×厚1mm)の内側に注ぎ込んだ。そのままアルゴンガス雰囲気下で風乾させ板状の成形物を得た後に、窒素雰囲気下、40℃で5時間乾燥させることにより溶媒を完全に除去し、量子ドット蛍光体分散樹脂成形体1を得た。
【0229】
次に、量子ドット蛍光体を大気から保護するために、前記量子ドット蛍光体分散樹脂成形体1の表面に実施例1−1に記載の多層構造体(1−1)を接着性樹脂を用いて張り合わせ、ガスバリア層を形成し、量子ドット蛍光体を含む構造物1を得た。ガスバリア層の厚さは12.5μmであった。この量子ドット蛍光体を含む構造物1の量子効率を大塚電子株式会社製量子効率測定装置 QE−1000を用いて測定したところ74%であった。この値は、元になった量子ドット蛍光体トルエン分散液で同様の測定をした場合に得られる量子効率80%と遜色のない結果である。
【0230】
また、量子ドット蛍光体を含む構造物1を22mW、450nmの青色LEDパッケージ上に配置して、大気下で2,000時間連続して発光させた。LEDの発光初期における量子ドット蛍光体の分光放射エネルギーが0.42mW/nmであったのに対し、2,000時間経過後の分光放射エネルギーは0.40mW/nmであった。従って、2,000時間経過後の分光放射エネルギーは初期の値に対して95.2%という高い値を保っていた。
【0231】
<実施例2−2>
実施例2−1で得た量子ドット蛍光体分散樹脂成形体1を180℃に加熱したプレス機を用いて、20MPaのプレス圧で加工し、100μmの厚みを持った量子ドット蛍光体を含む樹脂フィルム1を得た。
【0232】
次に、量子ドット蛍光体を大気から保護するために、前記量子ドット蛍光体を含む樹脂フィルム1の表面に実施例1−1に記載の多層構造体体(1−1)を接着性樹脂を用いて張り合わせ、ガスバリア層を形成し、量子ドット蛍光体を含む構造物2を得た。ガスバリア層の厚みは12.5μmであった。
【0233】
前記構造物2につき、実施例1と同様の測定を実施したところ、量子効率は76%と良好な値を示した。結果を表3に示す。また、構造物2につき、実施例2−1と同様にして測定した発光初期における分光放射エネルギーは0.39mW/nmであり、2,000時間経過後の分光放射エネルギーは0.37mW/nmであった。従って、2,000時間経過後の分光放射エネルギーは初期の値に対して94.9%という高い値を保っていた。
【0234】
<比較例2>
量子ドット蛍光体を大気から保護するために、前記量子ドット蛍光体分散樹脂成形体2の表面に比較例1−1に記載の多層構造体を用いた以外は、実施例2−1と同様の方法で量子ドット蛍光体を含む構造物3を得た。この量子ドット蛍光体を含む構造物3の量子効率を大塚電子株式会社製量子効率測定装置 QE−1000を用いて測定したところ76%であった。この値は、元になった量子ドット蛍光体トルエン分散液で同様の測定をした場合に得られる量子効率82%と遜色のない結果である。
【0235】
また、量子ドット蛍光体を含む構造物1を22mW、450nmの青色LEDパッケージ上に配置して、大気下で2,000時間連続して発光させた。LEDの発光初期における量子ドット蛍光体の分光放射エネルギーが0.42mW/nmであったのに対し、2,000時間経過後の分光放射エネルギーは0.33mW/nmであった。従って、2,000時間経過後の分光放射エネルギーは初期の値に対して78.5%まで減少した。
【0236】
<比較例3>
量子ドット蛍光体を大気から保護するために、前記量子ドット蛍光体分散樹脂成形体2の表面にEVOHフィルム(日本合成化学工業株式会社製、「ソアノール D2908」(商品名)を共押出法により作製した厚さ15μmのフィルム、酸素透過度0.5mL/(m
2・day)、透湿度130g/m
2・24hrs)を用いた以外は、実施例2−1と同様の方法で量子ドット蛍光体を含む構造物4を得た。この量子ドット蛍光体を含む構造物4の量子効率を大塚電子株式会社製量子効率測定装置 QE−1000を用いて測定したところ76%であった。この値は、元になった量子ドット蛍光体トルエン分散液で同様の測定をした場合に得られる量子効率82%と遜色のない結果である。
【0237】
また、量子ドット蛍光体を含む構造物1を22mW、450nmの青色LEDパッケージ上に配置して、大気下で2,000時間連続して発光させた。LEDの発光初期における量子ドット蛍光体の分光放射エネルギーが0.42(mW/nm)であったのに対し、2,000時間経過後の分光放射エネルギーは0.30(mW/nm)であった。従って、2,000時間経過後の分光放射エネルギーは初期の値に対して71.4%まで減少した。
【0238】
【表3】
本発明は、電子デバイス本体1の表面を保護シートで被覆された電子デバイスであって、保護シートは基材(X)と、基材(X)上に積層された層(Y)とを含む多層構造体を含み、層(Y)は、金属酸化物(A)とリン化合物(B)とイオン価(F
)が1以上3以下である陽イオン(Z)とを含有し、リン化合物(B)は、金属酸化物(A)と反応可能な部位を含有する化合物であり、層(Y)において、金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)のモル数(N