(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記リン化合物(B)が、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、亜ホスホン酸、ホスフィン酸、亜ホスフィン酸、およびそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である、請求項1または2に記載の多層構造体。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明について、以下に例を挙げて説明する。なお、以下の説明において、物質、条件、方法、数値範囲等を例示する場合があるが、本発明はそのような例示に限定されない。また、例示される物質は、特に注釈がない限り、1種を単独で使用してもよいし2種以上を併用してもよい。
【0032】
特に注釈がない限り、この明細書において、「特定の部材(基材や層等)上に特定の層を積層する」という記載の意味には、該部材と接触するように該特定の層を積層する場合に加え、他の層を挟んで該部材の上方に該特定の層を積層する場合が含まれる。「特定の部材(基材や層等)上に特定の層を形成する」、「特定の部材(基材や層等)上に特定の層を配置する」という記載も同様である。また、特に注釈がない限り、「特定の部材(基材や層等)上に液体(コーティング液等)を塗工する」という記載の意味には、該部材に該液体を直接塗工する場合に加え、該部材上に形成された他の層に該液体を塗工する場合が含まれる。
【0033】
この明細書において、「層(Y)」のように、符号(Y)を付して層(Y)を他の層と区別する場合がある。特に注釈がない限り、符号(Y)には技術的な意味はない。基材(X)、層(W)、金属酸化物(A)、その他の符号についても同様である。ただし、水素原子(H)のように、特定の元素を示すことが明らかである場合を除く。
【0034】
[多層構造体]
本発明の多層構造体は、基材(X)と、基材(X)上に積層された層(Y)とを含む。層(Y)は、金属酸化物(A)とリン化合物(B)とイオン価(F
Z)が1以上3以下である陽イオン(Z)とを含有する。リン化合物(B)は、金属酸化物(A)と反応可能な部位を含有する。本発明の多層構造体は、層(Y)において、金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)のモル数(N
M)と、リン化合物(B)に由来するリン原子のモル数(N
P)は、0.8≦N
M/N
P≦4.5の関係を満たし、かつ、層(Y)において、金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)のモル数(N
M)と、陽イオン(Z)のモル数(N
Z)と、陽イオン(Z)のイオン価(F
Z)とは、0.001≦F
Z×N
Z/N
M≦0.60の関係を満たす。なお、金属原子(M)は、金属酸化物(A)に含まれるすべての金属原子を意味する。以下の説明において、特に注釈がない限り、「多層構造体」という語句は基材(X)と層(Y)とを含む多層構造体を意味する。
【0035】
層(Y)に含まれる金属酸化物(A)とリン化合物(B)とは反応していてもよい。また、陽イオン(Z)は、層(Y)中において、リン化合物(B)と塩を形成していてもよい。層(Y)において金属酸化物(A)が反応している場合、反応生成物のうち金属酸化物(A)によって構成されている部分を金属酸化物(A)とみなす。また、層(Y)においてリン化合物(B)が反応している場合、反応生成物のうちリン化合物(B)に由来するリン原子のモル数は、リン化合物(B)に由来するリン原子のモル数(N
P)に含まれる。層(Y)において陽イオン(Z)が塩を形成している場合、塩を構成する陽イオン(Z)のモル数は、陽イオン(Z)のモル数(N
Z)に含まれる。
【0036】
本発明の多層構造体は、層(Y)において、0.8≦N
M/N
P≦4.5の関係を満たすことによって、優れたバリア性を示す。また、本発明の多層構造体は、層(Y)において、0.001≦F
Z×N
Z/N
M≦0.60の関係をも満たすことによって、本発明の多層構造体は、延伸処理等の物理的ストレスを受けた後においても優れたバリア性を示す。
【0037】
層(Y)における、N
M、N
P、およびN
Zの比(モル比)は、第1コーティング液(U)の作製に用いられるそれらの比に等しいとみなすことができる。
【0038】
[基材(X)]
基材(X)の材質は特に制限されず、様々な材質からなる基材を用いることができる。基材(X)の材質としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の樹脂;布帛、紙類等の繊維集合体;木材;ガラス;金属;金属酸化物等が挙げられる。これらの中でも、熱可塑性樹脂および繊維集合体が好ましく、熱可塑性樹脂がより好ましい。基材(X)の形態は、特に制限されず、フィルムまたはシート等の層状であってもよい。基材(X)としては、熱可塑性樹脂フィルム層、紙層および無機蒸着層からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものが好ましい。この場合の基材は単層であってもよいし、複層であってもよい。基材(X)は、熱可塑性樹脂フィルム層を含むものがより好ましく、熱可塑性樹脂フィルム層に加えて無機蒸着層(X’)をさらに含んでもよい。
【0039】
基材(X)に用いられる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレンテレフタレートやこれらの共重合体等のポリエステル系樹脂;ナイロン−6、ナイロン−66、ナイロン−12等のポリアミド系樹脂;ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体等の水酸基含有ポリマー;ポリスチレン;ポリ(メタ)アクリル酸エステル;ポリアクリロニトリル;ポリ酢酸ビニル;ポリカーボネート;ポリアリレート;再生セルロース;ポリイミド;ポリエーテルイミド;ポリスルフォン;ポリエーテルスルフォン;ポリエーテルエーテルケトン;アイオノマー樹脂等が挙げられる。多層構造体を包装材に用いる場合、基材(X)の材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン−6、およびナイロン−66からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂が好ましい。
【0040】
前記熱可塑性樹脂からなるフィルムを基材(X)として用いる場合、基材(X)は延伸フィルムであってもよいし無延伸フィルムであってもよい。得られる多層構造体の加工適性(例えば、印刷やラミネートに対する適性)が優れることから、延伸フィルム、特に二軸延伸フィルムが好ましい。二軸延伸フィルムは、同時二軸延伸法、逐次二軸延伸法、およびチューブラ延伸法のいずれかの方法で製造された二軸延伸フィルムであってもよい。
【0041】
基材(X)に用いられる紙としては、例えば、クラフト紙、上質紙、模造紙、グラシン紙、パーチメント紙、合成紙、白板紙、マニラボール、ミルクカートン原紙、カップ原紙、アイボリー紙等が挙げられる。基材(X)に紙を用いることによって、紙容器用の多層構造体を得ることができる。
【0042】
[無機蒸着層(X’)]
無機蒸着層(X’)は、酸素や水蒸気に対するバリア性を有するものであることが好ましく、透明性を有するものであることがより好ましい。無機蒸着層(X’)は、無機物を蒸着することによって形成することができる。無機物としては、例えば、金属(例えば、アルミニウム)、金属酸化物(例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム)、金属窒化物(例えば、窒化ケイ素)、金属窒化酸化物(例えば、酸窒化ケイ素)、または金属炭化窒化物(例えば、炭窒化ケイ素)等が挙げられる。これらの中でも、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、または窒化ケイ素で形成される無機蒸着層は、酸素や水蒸気に対するバリア性が優れる観点から好ましい。
【0043】
無機蒸着層(X’)の形成方法は、特に限定されず、真空蒸着法(例えば、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、分子線エピタキシー法等)、スパッタリング法やイオンプレーティング法等の物理気相成長法、熱化学気相成長法(例えば、触媒化学気相成長法)、光化学気相成長法、プラズマ化学気相成長法(例えば、容量結合プラズマ、誘導結合プラズマ、表面波プラズマ、電子サイクロトロン共鳴、デュアルマグネトロン、原子層堆積法等)、有機金属気相成長法等の化学気相成長法を用いることができる。
【0044】
無機蒸着層(X’)の厚さは、無機蒸着層(X’)を構成する成分の種類によって異なるが、0.002〜0.5μmの範囲にあることが好ましく、0.005〜0.2μmの範囲にあることがより好ましく、0.01〜0.1μmの範囲にあることがさらに好ましい。この範囲で、多層構造体のバリア性や機械的物性が良好になる厚さを選択すればよい。無機蒸着層(X’)の厚さが0.002μm未満であると、酸素や水蒸気に対する無機蒸着層のバリア性発現の再現性が低下する傾向があり、また、無機蒸着層が充分なバリア性を発現しない場合もある。また、無機蒸着層(X’)の厚さが0.5μmを超えると、多層構造体を引っ張ったり屈曲させたりした場合に無機蒸着層(X’)のバリア性が低下しやすくなる傾向がある。
【0045】
無機蒸着層(X’)の形成方法としては、特に限定はなく、真空蒸着法(例えば、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、分子線エピタキシー法等)、スパッタリング法、およびイオンプレーティング法等の物理気相成長法を用いてもよいし、熱化学気相成長法(例えば、触媒化学気相成長法)、光化学気相成長法、プラズマ化学気相成長法(例えば、容量結合プラズマ、誘導結合プラズマ、表面波プラズマ、電子サイクロトロン共鳴、デュアルマグネトロン、原子層堆積法等)、および有機金属気相成長法等の化学気相成長法等を用いてもよい。また、層(Y)に無機蒸着層(X’)を蒸着してもよい。
【0046】
基材(X)が層状である場合、その厚さは、得られる多層構造体の機械的強度および加工性が良好になる観点から、1〜1,000μmの範囲にあることが好ましく、5〜500μmの範囲にあることがより好ましく、9〜200μmの範囲にあることがさらに好ましい。
【0047】
[層(Y)]
層(Y)は金属酸化物(A)とリン化合物(B)とイオン価が1以上3以下である陽イオン(Z)とを含む。各成分について以下に説明する。
【0048】
[金属酸化物(A)]
金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)は、原子価が2価以上であることが好ましい。金属原子(M)としては、例えば、マグネシウム、カルシウム等の周期表第2族の金属原子;チタン、ジルコニウム等の周期表第4族の金属原子;亜鉛等の周期表第12族の金属原子;ホウ素、アルミニウム等の周期表第13族の金属原子;ケイ素等の周期表第14族の金属原子等を挙げることができる。なお、ホウ素およびケイ素は半金属原子に分類される場合があるが、本明細書ではこれらを金属原子に含めるものとする。金属原子(M)は1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。これらの中でも、金属酸化物(A)の生産性や得られる多層構造体のガスバリア性や水蒸気バリア性がより優れることから、金属原子(M)は、アルミニウム、チタン、およびジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、アルミニウムであることがより好ましい。すなわち、金属原子(M)はアルミニウムを含むことが好ましい。
【0049】
金属原子(M)に占める、アルミニウム、チタンおよびジルコニウムの合計の割合は、通常60モル%以上であり、100モル%であってもよい。また、金属原子(M)に占める、アルミニウムの割合は、通常50モル%以上であり、100モル%であってもよい。金属酸化物(A)は、液相合成法、気相合成法、固体粉砕法等の方法によって製造される。
【0050】
金属酸化物(A)は、加水分解可能な特性基が結合した金属原子(M)を有する化合物(L)の加水分解縮合物であってもよい。該特性基の例には、後述する一般式[I]のR
1が含まれる。化合物(L)の加水分解縮合物は、実質的に金属酸化物(A)とみなすことが可能である。そのため、本明細書において、「金属酸化物(A)」は「化合物(L)の加水分解縮合物」と読み替えることが可能であり、また、「化合物(L)の加水分解縮合物」を「金属酸化物(A)」と読み替えることも可能である。
【0051】
[加水分解可能な特性基が結合した金属原子(M)を含有する化合物(L)]
リン化合物(B)との反応の制御が容易になり、得られる多層構造体のガスバリア性が優れることから、化合物(L)は、下記一般式[I]で示される化合物(L
1)を少なくとも1種含むことが好ましい。
M
1(R
1)
m(R
2)
n―m [I]
式中、M
1は、アルミニウム、チタン、およびジルコニウムからなる群より選ばれる。R
1は、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、NO
3、置換基を有していてもよい炭素数1〜9のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜9のアシロキシ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜9のアルケニルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数5〜15のβ−ジケトナト基、または置換基を有していてもよい炭素数1〜9のアシル基を有するジアシルメチル基である。R
2は、置換基を有していてもよい炭素数1〜9のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数7〜10のアラルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜9のアルケニル基、または置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基である。mは1〜nの整数である。nはM
1の原子価に等しい。R
1が複数存在する場合、R
1は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。R
2が複数存在する場合、R
2は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0052】
R
1のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ベンジロキシ基、ジフェニルメトキシ基、トリチルオキシ基、4−メトキシベンジロキシ基、メトキシメトキシ基、1−エトキシエトキシ基、ベンジルオキシメトキシ基、2−トリメチルシリルエトキシ基、2−トリメチルシリルエトキシメトキシ基、フェノキシ基、4−メトキシフェノキシ基等が挙げられる。
【0053】
R
1のアシロキシ基としては、例えば、アセトキシ基、エチルカルボニルオキシ基、n−プロピルカルボニルオキシ基、イソプロピルカルボニルオキシ基、n−ブチルカルボニルオキシ、イソブチルカルボニルオキシ基、sec−ブチルカルボニルオキシ基、tert−ブチルカルボニルオキシ基、n−オクチルカルボニルオキシ基等が挙げられる。
【0054】
R
1のアルケニルオキシ基としては、例えば、アリルオキシ基、2−プロペニルオキシ基、2−ブテニルオキシ基、1−メチル−2−プロペニルオキシ基、3−ブテニルオキシ基、2−メチル−2−プロペニルオキシ基、2−ペンテニルオキシ基、3−ペンテニルオキシ基、4−ペンテニルオキシ基、1−メチル−3−ブテニルオキシ基、1,2−ジメチル−2−プロペニルオキシ基、1,1−ジメチル−2−プロペニルオキシ基、2−メチル−2−ブテニルオキシ基、3−メチル−2−ブテニルオキシ基、2−メチル−3−ブテニルオキシ基、3−メチル−3−ブテニルオキシ基、1−ビニル−2−プロペニルオキシ基、5−ヘキセニルオキシ基等が挙げられる。
【0055】
R
1のβ−ジケトナト基としては、例えば、2,4−ペンタンジオナト基、1,1,1−トリフルオロ−2,4−ペンタンジオナト基、1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオナト基、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト基、1,3−ブタンジオナト基、2−メチル−1,3−ブタンジオナト基、2−メチル−1,3−ブタンジオナト基、ベンゾイルアセトナト基等が挙げられる。
【0056】
R
1のジアシルメチル基のアシル基としては、例えば、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基(プロパノイル基)、ブチリル基(ブタノイル基)、バレリル基(ペンタノイル基)、ヘキサノイル基等の炭素数1〜6の脂肪族アシル基;ベンゾイル基、トルオイル基等の芳香族アシル基(アロイル基)等が挙げられる。
【0057】
R
2のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、3−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、1,2−ジメチルブチル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0058】
R
2のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基(フェネチル基)等が挙げられる。
【0059】
R
2のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、イソプロペニル基、3−ブテニル基、2−ブテニル基、1−ブテニル基、1−メチル−2−プロペニル基、1−メチル−1−プロペニル基、1−エチル−1−エテニル基、2−メチル−2−プロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基、3−メチル−2−ブテニル基、4−ペンテニル基等が挙げられる。
【0060】
R
2のアリール基としては、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等が挙げられる。
【0061】
R
1およびR
2における置換基としては、例えば、炭素数1〜6のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロプロピルオキシ基、シクロブチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、sec−ブトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、n−ペンチルオキシカルボニル基、イソペンチルオキシカルボニル基、シクロプロピルオキシカルボニル基、シクロブチルオキシカルボニル基、シクロペンチルオキシカルボニル基等の炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基;フェニル基、トリル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;炭素数1〜6のアシル基;炭素数7〜10のアラルキル基、;炭素数7〜10のアラルキルオキシ基;炭素数1〜6のアルキルアミノ基;炭素数1〜6のアルキル基を有するジアルキルアミノ基が挙げられる。
【0062】
R
1としては、ハロゲン原子、NO
3、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアシロキシ基、置換基を有していてもよい炭素数5〜10のβ−ジケトナト基、または置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアシル基を有するジアシルメチル基が好ましい。
【0063】
R
2としては、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。M
1としては、アルミニウムが好ましい。M
1がアルミニウムの場合、mは、好ましくは3である。
【0064】
化合物(L
1)の具体例としては、例えば、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、トリス(2,4−ペンタンジオナト)アルミニウム、トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリ−n−プロポキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリ−n−ブトキシアルミニウム、トリ−sec−ブトキシアルミニウム、トリ−tert−ブトキシアルミニウム等のアルミニウム化合物;テトラキス(2,4−ペンタンジオナト)チタン、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラキス(2−エチルヘキソキシ)チタン等のチタン化合物;テトラキス(2,4−ペンタンジオナト)ジルコニウム、テトラ−n−プロポキシジルコニウム、テトラ−n−ブトキシジルコニウム等のジルコニウム化合物が挙げられる。これらの中でも、化合物(L
1)としては、トリイソプロポキシアルミニウムおよびトリ−sec−ブトキシアルミニウムから選ばれる少なくとも1つの化合物が好ましい。化合物(L)は1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0065】
化合物(L)において、本発明の効果が得られる限り、化合物(L)に占める化合物(L
1)の割合に特に限定はない。化合物(L
1)以外の化合物が化合物(L)に占める割合は、例えば、20モル%以下が好ましく、10モル%以下がより好ましく、5モル%以下がさらに好ましく、0モル%であってもよい。
【0066】
化合物(L)が加水分解されることによって、化合物(L)が有する加水分解可能な特性基の少なくとも一部が水酸基に変換される。さらに、その加水分解物が縮合することによって、金属原子(M)が酸素原子(O)を介して結合された化合物が形成される。この縮合が繰り返されると、実質的に金属酸化物とみなしうる化合物が形成される。なお、このようにして形成された金属酸化物(A)の表面には、通常、水酸基が存在する。
【0067】
本明細書においては、[金属原子(M)のみに結合している酸素原子(O)のモル数]/[金属原子(M)のモル数]の比が0.8以上となる化合物を金属酸化物(A)に含めるものとする。ここで、金属原子(M)のみに結合している酸素原子(O)は、M−O−Mで表される構造における酸素原子(O)であり、M−O−Hで表される構造における酸素原子(O)のように金属原子(M)と水素原子(H)に結合している酸素原子は除外される。金属酸化物(A)における前記比は、0.9以上が好ましく、1.0以上がより好ましく、1.1以上がさらに好ましい。この比の上限は特に限定されないが、金属原子(M)の原子価をnとすると、通常、n/2で表される。
【0068】
前記加水分解縮合が起こるためには、化合物(L)が加水分解可能な特性基を有していることが重要である。それらの基が結合していない場合、加水分解縮合反応が起こらないもしくは極めて緩慢になるため、目的とする金属酸化物(A)の調製が困難になる。
【0069】
化合物(L)の加水分解縮合物は、例えば、公知のゾルゲル法で採用される手法によって特定の原料から製造してもよい。前記原料には、化合物(L)、化合物(L)の部分加水分解物、化合物(L)の完全加水分解物、化合物(L)の部分加水分解縮合物、および化合物(L)の完全加水分解物の一部が縮合したものからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0070】
[リン化合物(B)]
リン化合物(B)は、金属酸化物(A)と反応可能な部位を含有し、典型的には、そのような部位を複数含有する。リン化合物(B)としては、無機リン化合物が好ましい。リン化合物(B)としては、金属酸化物(A)と反応可能な部位(原子団または官能基)を2〜20個含有する化合物が好ましい。そのような部位には、金属酸化物(A)の表面に存在する官能基(例えば、水酸基)と縮合反応可能な部位が含まれる。そのような部位としては、例えば、リン原子に直接結合したハロゲン原子、リン原子に直接結合した酸素原子等が挙げられる。金属酸化物(A)の表面に存在する官能基(例えば、水酸基)は、通常、金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)に結合している。
【0071】
リン化合物(B)としては、例えば、リン酸、4分子以上のリン酸が縮合したポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、亜ホスホン酸、ホスフィン酸、亜ホスフィン酸等のリンのオキソ酸、およびこれらの塩(例えば、リン酸ナトリウム)、ならびにこれらの誘導体(例えば、ハロゲン化物(例えば、塩化ホスホリル)、脱水物(例えば、五酸化二リン))等が挙げられる。
【0072】
リン化合物(B)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらのリン化合物(B)の中でも、リン酸を単独で使用するか、リン酸とそれ以外のリン化合物(B)とを併用することが好ましい。リン酸を用いることによって、後述する第1コーティング液(U)の安定性と得られる多層構造体のガスバリア性および水蒸気バリア性が向上する。
【0073】
[金属酸化物(A)とリン化合物(B)との比率]
本発明の多層構造体は、層(Y)において、N
MとN
Pとが、0.8≦N
M/N
P≦4.5の関係を満たすものであり、1.0≦N
M/N
P≦3.6の関係を満たすものが好ましく、1.1≦N
M/N
P≦3.0の関係を満たすものがより好ましい。N
M/N
Pの値が4.5を超えると、金属酸化物(A)がリン化合物(B)に対して過剰となり、金属酸化物(A)とリン化合物(B)との結合が不充分となり、また、金属酸化物(A)の表面に存在する水酸基の量が多くなるため、ガスバリア性とその安定性が低下する傾向がある。一方、N
M/N
Pの値が0.8未満であると、リン化合物(B)が金属酸化物(A)に対して過剰となり、金属酸化物(A)との結合に関与しない余剰なリン化合物(B)が多くなり、また、リン化合物(B)由来の水酸基の量が多くなりやすく、やはりバリア性とその安定性が低下する傾向がある。
【0074】
なお、前記比は、層(Y)を形成するための第1コーティング液(U)における、金属酸化物(A)の量とリン化合物(B)の量との比によって調整できる。層(Y)におけるN
MとN
Pとの比は、通常、第1コーティング液(U)における比であって金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)のモル数とリン化合物(B)を構成するリン原子のモル数との比と同じである。
【0075】
[反応生成物(D)]
反応生成物(D)は、金属酸化物(A)とリン化合物(B)との反応で得られる。ここで、金属酸化物(A)とリン化合物(B)とさらに他の化合物とが反応することで生成する化合物も反応生成物(D)に含まれる。反応生成物(D)は、反応に関与していない金属酸化物(A)および/またはリン化合物(B)を部分的に含んでいてもよい。
【0076】
[陽イオン(Z)]
陽イオン(Z)のイオン価(F
Z)は、1以上3以下である。レトルト処理等、物理的ストレスのみならず熱水や加熱水蒸気に対する耐性も必要となる場合は、イオン価(F
Z)は、2以上3以下であることが好ましく、3であることがより好ましい。陽イオン(Z)は周期表第2〜7周期の元素を含む陽イオンである。陽イオン(Z)としては、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、チタンイオン、ジルコニウムイオン、ランタノイドイオン(例えば、ランタンイオン)、バナジウムイオン、マンガンイオン、鉄イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、銅イオン、亜鉛イオン、ホウ素イオン、アルミニウムイオン、およびアンモニウムイオン等が挙げられ、中でも、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ランタノイドイオン(例えば、ランタンイオン)、亜鉛イオン、ホウ素イオンが好ましい。陽イオン(Z)は1種類であってもよいし、2種類以上を含んでいてもよい。陽イオン(Z)の働きについては、現在のところ明確ではない。1つの仮説では、陽イオン(Z)は、金属酸化物(A)やリン化合物(B)の水酸基を介して他の金属酸化物(A)やリン化合物(B)が有する水酸基とイオン結合を形成することによって、層(Y)の物理的ストレスに対する耐性を向上させていると考えられる。そのため、より高い耐性が必要となる場合はより多くのイオン結合を形成できるイオン価(F
Z)が大きい陽イオンを用いることが好ましい。
【0077】
なお、陽イオン(Z)が、イオン価が異なる複数種の陽イオンを含む場合、F
Z×N
Zの値は、陽イオンごとに計算した値を合計することによって得られる。例えば、陽イオン(Z)が1モルのナトリウムイオン(Na
+)と2モルのカルシウムイオン(Ca
2+)とを含む場合、F
Z×N
Z=1×1+2×2=5となる。
【0078】
陽イオン(Z)は、溶媒に溶解した際に陽イオン(Z)を生じるイオン性化合物(E)を第1コーティング液(U)に溶解させることで層(Y)に添加することができる。陽イオン(Z)のカウンターイオンとしては、例えば、水酸化物イオン、塩化物イオン、硫酸イオン、硫酸水素イオン、硝酸イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン等の無機陰イオン;酢酸イオン、ステアリン酸イオン、シュウ酸イオン、酒石酸イオン等の有機酸陰イオン等が挙げられる。陽イオン(Z)のイオン性化合物(E)は、溶解することによって陽イオン(Z)を生じる金属化合物(Ea)または金属酸化物(Eb)(金属酸化物(A)を除く)であってもよい。
【0079】
[金属酸化物(A)と陽イオン(Z)との比率]
本発明の多層構造体は、層(Y)において、F
ZとN
ZとN
Mとが、0.001≦F
Z×N
Z/N
M≦0.60の関係を満たすものであり、0.001≦F
Z×N
Z/N
M≦0.30の関係を満たすものが好ましく、0.01≦F
Z×N
Z/N
M≦0.30の関係を満たすものがより好ましい。
【0080】
[リン化合物(B)と陽イオン(Z)との比率]
本発明の多層構造体は、層(Y)において、F
ZとN
ZとN
Pが、0.0008≦F
Z×N
Z/N
P≦1.35の関係を満たすものが好ましく、0.001≦F
Z×N
Z/N
P≦1.00の関係を満たすものがより好ましく、0.0012≦F
Z×N
Z/N
P≦0.35の関係を満たすものがさらに好ましく、0.012≦F
Z×N
Z/N
P≦0.29の関係を満たすものが特に好ましい。
【0081】
[重合体(C)]
層(Y)は、特定の重合体(C)をさらに含んでもよい。重合体(C)は、例えば、カルボニル基、水酸基、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、およびカルボキシル基の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を含有する重合体である。
【0082】
重合体(C)としては、例えば、ポリケトン;ポリビニルアルコール、炭素数4以下のα−オレフィン単位を1〜50モル%含有する変性ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール(例えば、ポリビニルブチラール)等のポリビニルアルコール系重合体;セルロース、デンプン、シクロデキストリン等の多糖類;ポリ(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、ポリ(メタ)アクリル酸、エチレン−アクリル酸共重合体等の(メタ)アクリル酸系重合体;エチレン−無水マレイン酸共重合体の加水分解物、スチレン−無水マレイン酸共重合体の加水分解物、イソブチレン−無水マレイン酸交互共重合体の加水分解物等のマレイン酸系重合体等が挙げられる。これらの中でも、ポリビニルアルコール系重合体が好ましく、具体的には、ポリビニルアルコールおよび炭素数4以下のα−オレフィン単位を1〜15モル%含有する変性ポリビニルアルコールが好ましい。
【0083】
ポリビニルアルコール系重合体のケン化度としては、特に限定されないが、75.0〜99.85モル%が好ましく、80.0〜99.5モル%がより好ましい。ポリビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度は、100〜4,000が好ましく、300〜3,000がより好ましい。また、ポリビニルアルコール系重合体の20℃での4質量%水溶液の粘度は1.0〜200mPa・sが好ましく、11〜90mPa・sがより好ましい。前記ケン化度、粘度平均重合度および4質量%水溶液の粘度は、JIS K 6726(1994年)に従って求めた値である。
【0084】
重合体(C)は、重合性基を有する単量体(例えば、酢酸ビニル、アクリル酸)の単独重合体であってもよいし、2種以上の単量体の共重合体であってもよいし、カルボニル基、水酸基および/またはカルボキシル基を有する単量体と該基を有さない単量体との共重合体であってもよい。
【0085】
重合体(C)の分子量に特に制限はない。より優れたバリア性および力学的物性(例えば、落下衝撃強さ)を有する多層構造体を得るために、重合体(C)の数平均分子量は、5,000以上であることが好ましく、8,000以上であることがより好ましく、10,000以上であることがさらに好ましい。重合体(C)の数平均分子量の上限は特に限定されず、例えば、1,500,000以下である。
【0086】
バリア性をより向上させるために、層(Y)における重合体(C)の含有量は、層(Y)の質量を基準(100質量%)として、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましく、20質量%以下であってもよい。重合体(C)は、層(Y)中の他の成分と反応していてもよいし、反応していなくてもよい。
【0087】
[層(Y)中の他の成分]
多層構造体中の層(Y)は、金属酸化物(A)、化合物(L)、リン化合物(B)、反応生成物(D)、陽イオン(Z)またはその化合物(E)、酸(加水分解縮合に使用する酸触媒、解膠時の酸等)、および重合体(C)に加え、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、陽イオン(Z)を含まない炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、硫酸水素塩、ホウ酸塩等の無機酸金属塩;陽イオン(Z)を含まない酢酸塩、ステアリン酸塩、シュウ酸塩、酒石酸塩等の有機酸金属塩;層状粘土化合物;架橋剤;重合体(C)以外の高分子化合物;可塑剤;酸化防止剤;紫外線吸収剤;難燃剤等が挙げられる。多層構造体中の層(Y)における前記の他の成分の含有量は、層(Y)の質量に対して50質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以下であることが特に好ましく、0質量%(他の成分を含まない)であってもよい。
【0088】
[層(Y)の厚さ]
層(Y)の厚さ(多層構造体が2層以上の層(Y)を有する場合には各層(Y)の厚さの合計)は、0.05〜4.0μmであることが好ましく、0.1〜2.0μmであることがより好ましい。層(Y)を薄くすることによって、印刷、ラミネート等の加工時における多層構造体の寸法変化を低く抑えることができる。また、多層構造体の柔軟性が増すため、その力学的特性を基材自体の力学的特性に近づけることもできる。本発明の多層構造体が2層以上の層(Y)を有する場合、ガスバリア性の観点から、層(Y)1層当たりの厚さは0.05μm以上であることが好ましい。層(Y)の厚さは、層(Y)の形成に用いられる後述する第1コーティング液(U)の濃度や、その塗工方法によって制御することができる。
【0089】
[層(Y)の赤外線吸収スペクトル]
層(Y)の赤外線吸収スペクトルにおいて、800〜1,400cm
−1の領域における最大吸収波数は1,080〜1,130cm
−1の範囲にあることが好ましい。金属酸化物(A)とリン化合物(B)とが反応して反応生成物(D)となる過程において、金属酸化物(A)に由来する金属原子(M)とリン化合物(B)に由来するリン原子(P)とが酸素原子(O)を介して結合したM−O−Pで表される結合を形成する。その結果、赤外線吸収スペクトルにおいて該結合由来の特性吸収帯が生じる。本発明者らによる検討の結果、M−O−Pの結合に基づく吸収帯が1,080〜1,130cm
−1の領域に見られる場合には、得られた多層構造体が優れたガスバリア性を発現することがわかった。特に、該特性吸収帯が、一般に各種の原子と酸素原子との結合に由来する吸収が見られる800〜1,400cm
−1の領域において最も強い吸収である場合には、得られた多層構造体がさらに優れたガスバリア性を発現することがわかった。
【0090】
これに対し、金属アルコキシドや金属塩等の金属化合物とリン化合物(B)とを予め混合した後に加水分解縮合させた場合には、金属化合物に由来する金属原子とリン化合物(B)に由来するリン原子とがほぼ均一に混ざり合い反応した複合体が得られる。その場合、赤外線吸収スペクトルにおいて、800〜1,400cm
−1の領域における最大吸収波数が1,080〜1,130cm
−1の範囲から外れるようになる。
【0091】
層(Y)の赤外線吸収スペクトルにおいて、800〜1,400cm
−1の領域における最大吸収帯の半値幅は、得られる多層構造体のガスバリア性の観点から、200cm
−1以下が好ましく、150cm
−1以下がより好ましく、100cm
−1以下がさらに好ましく、50cm
−1以下が特に好ましい。
【0092】
層(Y)の赤外線吸収スペクトルは実施例に記載の方法で測定できる。ただし、実施例に記載の方法で測定できない場合には、反射吸収法、外部反射法、減衰全反射法等の反射測定、多層構造体から層(Y)をかきとり、ヌジョール法、錠剤法等の透過測定という方法で測定してもよいが、これらに限定されるものではない。
【0093】
[層(W)]
本発明の多層構造体は、層(W)をさらに含んでもよい。層(W)は、リン原子を含有する官能基を有する重合体(G1)を含む。層(W)は、層(Y)に隣接して配置されることが好ましい。すなわち、層(W)および層(Y)は、互いに接触するように配置されることが好ましい。また、層(W)は、層(Y)を挟んで基材(X)と反対側(好ましくは反対側の表面)に配置されることが好ましい。換言すれば、基材(X)と層(W)との間に層(Y)が配置されることが好ましい。好ましい一例では、層(W)が、層(Y)を挟んで基材(X)と反対側(好ましくは反対側の表面)に配置され、かつ、層(Y)に隣接して配置される。層(W)は、水酸基および/またはカルボキシル基を有する重合体(G2)をさらに含んでもよい。重合体(G2)としては、重合体(C)と同じものを使用することができる。重合体(G1)について、以下に説明する。
【0094】
[重合体(G1)]
リン原子を含有する官能基を有する重合体(G1)が有するリン原子を含有する官能基としては、例えば、リン酸基、亜リン酸基、ホスホン酸基、亜ホスホン酸基、ホスフィン酸基、亜ホスフィン酸基、およびこれらの塩、ならびにこれらから誘導される官能基(例えば、(部分)エステル化合物、ハロゲン化物(例えば、塩化物)、脱水物)等を挙げられる。中でも、リン酸基および/またはホスホン酸基が好ましく、ホスホン酸基がより好ましい。
【0095】
重合体(G1)としては、例えば、アクリル酸6−[(2−ホスホノアセチル)オキシ]ヘキシル、メタクリル酸2−ホスホノオキシエチル、メタクリル酸ホスホノメチル、メタクリル酸11−ホスホノウンデシル、メタクリル酸1,1−ジホスホノエチル等のホスホノ(メタ)アクリル酸エステル類の重合体;ビニルホスホン酸、2−プロペン−1−ホスホン酸、4−ビニルベンジルホスホン酸、4−ビニルフェニルホスホン酸等のホスホン酸類の重合体;ビニルホスフィン酸、4−ビニルベンジルホスフィン酸等のホスフィン酸類の重合体;リン酸化デンプン等が挙げられる。重合体(G1)は、少なくとも1種の前記リン原子含有官能基を有する単量体の単独重合体であってもよいし、2種類以上の単量体の共重合体であってもよい。また、重合体(G1)として、単一の単量体からなる重合体を2種以上混合して使用してもよい。中でも、ホスホノ(メタ)アクリル酸エステル類の重合体および/またはビニルホスホン酸類の重合体が好ましく、ビニルホスホン酸類の重合体がより好ましい。重合体(G1)は、ポリ(ビニルホスホン酸)またはポリ(2−ホスホノオキシエチルメタクリレート)であることが好ましく、ポリ(ビニルホスホン酸)であってもよい。また、重合体(G1)は、ビニルホスホン酸ハロゲン化物やビニルホスホン酸エステル等のビニルホスホン酸誘導体を単独または共重合した後、加水分解することによっても得ることができる。
【0096】
また、重合体(G1)は、少なくとも1種のリン原子含有官能基を有する単量体と他のビニル単量体との共重合体であってもよい。リン原子含有官能基を有する単量体と共重合することができる他のビニル単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、スチレン、核置換スチレン類、アルキルビニルエーテル類、アルキルビニルエステル類、パーフルオロアルキルビニルエーテル類、パーフルオロアルキルビニルエステル類、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、マレイミド、フェニルマレイミド等が挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸エステル類、アクリロニトリル、スチレン、マレイミド、およびフェニルマレイミドが好ましい。
【0097】
より優れた耐屈曲性を有する多層構造体を得るために、リン原子含有官能基を有する単量体に由来する構成単位が重合体(G1)の全構成単位に占める割合は、10モル%以上であることが好ましく、20モル%以上であることがより好ましく、40モル%以上であることがさらに好ましく、70モル%以上であることが特に好ましく、100モル%であってもよい。
【0098】
重合体(G1)の分子量に特に制限はないが、数平均分子量が1,000〜100,000の範囲にあることが好ましい。数平均分子量がこの範囲にあると、層(W)を積層することによる耐屈曲性の改善効果と、後述する第2コーティング液(V)の粘度安定性とを、高いレベルで両立することができる。また、後述する層(Y)を積層する場合、リン原子1つあたりの重合体(G1)の分子量が100〜500の範囲にある場合に耐屈曲性の改善効果をより高めることができる。
【0099】
層(W)は、重合体(G1)のみによって構成されてもよいし、重合体(G1)および重合体(G2)のみによって構成されてもよいし、他の成分をさらに含んでもよい。層(W)に含まれる他の成分としては、例えば、炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、硫酸水素塩、ホウ酸塩等の無機酸金属塩;酢酸塩、ステアリン酸塩、シュウ酸塩、酒石酸塩等の有機酸金属塩;シクロペンタジエニル金属錯体(例えば、チタノセン)、シアノ金属錯体(例えば、プルシアンブルー)等の金属錯体;層状粘土化合物;架橋剤;重合体(G1)および重合体(G2)以外の高分子化合物:可塑剤;酸化防止剤;紫外線吸収剤;難燃剤等が挙げられる。層(W)における前記の他の成分の含有量は、50質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以下であることが特に好ましく、0質量%(他の成分を含まない)であってもよい。層(W)は、金属酸化物(A)、リン化合物(B)、および陽イオン(Z)のうちの少なくとも1つを含まない。典型的には、層(W)は、少なくとも金属酸化物(A)を含まない。
【0100】
多層構造体の外観を良好に保つ観点から、層(W)における重合体(G2)の含有量は、層(W)の質量を基準(100質量%)として、85質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。重合体(G2)は、層(W)中の成分と反応していてもよいし、反応していなくてもよい。重合体(G1)と重合体(G2)との質量比は、重合体(G1):重合体(G2)が15:85〜100:0の範囲にあることが好ましく、15:85〜99:1の範囲にあることがより好ましい。
【0101】
層(W)の一層当たりの厚さは、本発明の多層構造体の物理的ストレス(例えば、屈曲)に対する耐性がより良好になる観点から、0.003μm以上であることが好ましい。層(W)の厚さの上限は特に限定されないが、1.0μm以上では物理的ストレスに対する耐性の改善効果は飽和に達する。そのため、層(W)の合計の厚さの上限は、経済性の観点から1.0μmとすることが好ましい。層(W)の厚さは、層(W)の形成に用いられる後述する第2コーティング液(V)の濃度や、その塗工方法によって制御することができる。
【0102】
[多層構造体の製造方法]
本発明の製造方法によれば、本発明の多層構造体を容易に製造できる。本発明の多層構造体について説明した事項は本発明の製造方法に適用できるため、重複する説明を省略する場合がある。また、本発明の製造方法について説明した事項は、本発明の多層構造体に適用できる。
【0103】
本発明の多層構造体の製造方法は、工程〔I〕、〔II〕および〔III〕を含む。工程〔I〕では、金属酸化物(A)と、リン化合物(B)と、陽イオン(Z)のイオン性化合物(E)とを混合することによって、金属酸化物(A)、リン化合物(B)、および陽イオン(Z)を含む第1コーティング液(U)を調製する。工程〔II〕では、基材(X)上に第1コーティング液(U)を塗工することによって、基材(X)上に層(Y)の前駆体層を形成する。工程〔III〕では、当該前駆体層を110℃以上の温度で熱処理することによって、基材(X)上に層(Y)を形成する。
【0104】
[工程〔I〕(第1コーティング液(U)の調製)]
工程〔I〕では、金属酸化物(A)と、リン化合物(B)と、陽イオン(Z)のイオン性化合物(E)とを混合する。これらを混合するにあたり、溶媒を添加してもよい。第1コーティング液(U)において、イオン性化合物(E)から陽イオン(Z)が生成される。第1コーティング液(U)は、金属酸化物(A)、リン化合物(B)、および陽イオン(Z)の他に、他の化合物を含んでもよい。
【0105】
第1コーティング液(U)において、N
MとN
Pとは、前記の関係式を満たすことが好ましい。また、N
MとN
ZとF
Zとは、前記の関係式を満たすことが好ましい。さらに、N
PとN
ZとF
Zとは、前記の関係式を満たすことが好ましい。
【0106】
工程〔I〕は、以下の工程〔I−a〕〜〔I−c〕を含むことが好ましい。
工程〔I−a〕:金属酸化物(A)を含む液体を調製する工程、
工程〔I−b〕:リン化合物(B)を含む溶液を調製する工程、
工程〔I−c〕:前記工程〔I−a〕および〔I−b〕で得られた金属酸化物(A)を含む液体とリン化合物(B)を含む溶液とを混合する工程。
【0107】
工程〔I−b〕は、工程〔I−a〕より先または後のいずれに行われてもよく、工程〔I−a〕と同時に行われてもよい。以下、各工程について、より具体的に説明する。
【0108】
工程〔I−a〕では、金属酸化物(A)を含む液体を調製する。当該液体は、溶液または分散液である。当該液体は、例えば、公知のゾルゲル法で採用されている手法に従い、例えば、上述した化合物(L)、水、および必要に応じて酸触媒や有機溶媒を混合し、化合物(L)を縮合または加水分解縮合することによって調製することができる。化合物(L)を縮合または加水分解縮合することによって金属酸化物(A)の分散液を得た場合、必要に応じて、当該分散液に対して特定の処理(前記したような解膠や濃度制御のための溶媒の加減等)を行ってもよい。工程〔I−a〕は、化合物(L)および化合物(L)の加水分解物からなる群より選ばれる少なくとも1種を縮合(例えば、脱水縮合)させる工程を含んでもよい。工程〔I−a〕において使用できる有機溶媒の種類に特に制限はなく、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、水、およびこれらの混合溶媒が好ましい。当該液体中における金属酸化物(A)の含有量は、0.1〜30質量%の範囲にあることが好ましく、1〜20質量%の範囲にあることがより好ましく、2〜15質量%の範囲にあることがさらに好ましい。
【0109】
例えば、金属酸化物(A)が酸化アルミニウムである場合、酸化アルミニウムの分散液の調製では、まず必要に応じて酸触媒でpH調整した水溶液中でアルミニウムアルコキシドを加水分解縮合することによって酸化アルミニウムのスラリーを得る。次に、そのスラリーを特定量の酸の存在下に解膠することによって、酸化アルミニウムの分散液が得られる。なお、アルミニウム以外の金属原子を含有する金属酸化物(A)の分散液も、同様の方法で製造できる。酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、乳酸および酪酸が好ましく、硝酸および酢酸がより好ましい。
【0110】
工程〔I−b〕では、リン化合物(B)を含む溶液を調製する。前記溶液は、リン化合物(B)を溶媒に溶解することによって調製できる。リン化合物(B)の溶解性が低い場合には、加熱処理や超音波処理を施すことによって溶解を促進してもよい。溶媒としては、リン化合物(B)の種類に応じて適宜選択すればよいが、水を含むことが好ましい。リン化合物(B)の溶解の妨げにならない限り、溶媒は有機溶媒(例えば、メタノール)を含んでもよい。
【0111】
リン化合物(B)を含む溶液中におけるリン化合物(B)の含有量は、0.1〜99質量%の範囲にあることが好ましく、45〜95質量%の範囲にあることがより好ましく、55〜90質量%の範囲にあることがさらに好ましい。
【0112】
工程〔I−c〕では、金属酸化物(A)を含む液体とリン化合物(B)を含む溶液とを混合する。混合時の温度を30℃以下(例えば、20℃)に維持することによって、保存安定性に優れた第1コーティング液(U)を得ることができる場合がある。
【0113】
陽イオン(Z)を含む化合物(E)は、工程〔I−a〕、工程〔I−b〕、および工程〔I−c〕からなる群より選ばれる少なくとも1つの工程で添加してもよいし、それらのうちのいずれか1つの工程で添加してもよい。例えば、化合物(E)は、工程〔I−a〕の金属酸化物(A)を含む液体または工程〔I−b〕のリン化合物(B)を含む溶液に添加してもよく、工程〔I−c〕における金属酸化物(A)を含む液体とリン化合物(B)を含む溶液との混合液に添加してもよい。
【0114】
また、第1コーティング液(U)は、重合体(C)を含んでもよい。第1コーティング液(U)に重合体(C)を含ませる方法は、特に制限されない。例えば、重合体(C)は、金属酸化物(A)を含む液体、リン化合物(B)を含む溶液、およびこれらの混合液のいずれかに、溶液として添加・混合させてもよく、粉末またはペレットの状態で添加した後に溶解させてもよい。リン化合物(B)を含む溶液に重合体(C)を含有させることによって、金属酸化物(A)を含む液体とリン化合物(B)を含む溶液とを混合した際の金属酸化物(A)とリン化合物(B)との反応速度が遅くなり、その結果、経時安定性に優れた第1コーティング液(U)が得られる場合がある。
【0115】
第1コーティング液(U)は、必要に応じて、塩酸、硝酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、およびトリクロロ酢酸から選ばれる少なくとも1種の酸化合物(J)を含んでもよい。酸化合物(J)の含有量は、0.1〜5.0質量%の範囲にあることが好ましく、0.5〜2.0質量%の範囲にあることがより好ましい。これらの範囲では、酸化合物(J)の添加による効果が得られ、かつ酸化合物(J)の除去が容易である。金属酸化物(A)を含む液体中に酸成分が残留している場合は、その残留量を考慮して酸化合物(J)の添加量を決定すればよい。
【0116】
工程〔I−c〕で得られた混合液は、そのまま第1コーティング液(U)として使用できる。この場合、通常、金属酸化物(A)を含む液体やリン化合物(B)を含む溶液に含まれる溶媒が、第1コーティング液(U)の溶媒となる。また、前記混合液に有機溶媒の添加、pHの調製、粘度の調製、添加物の添加等の処理を行って第1コーティング液(U)を調製してもよい。有機溶媒としては、例えば、リン化合物(B)を含む溶液の調製に用いられる溶媒等が挙げられる。
【0117】
第1コーティング液(U)の保存安定性、および第1コーティング液(U)の基材(X)に対する塗工性の観点から、第1コーティング液(U)の固形分濃度は、1〜20質量%の範囲にあることが好ましく、2〜15質量%の範囲にあることがより好ましく、3〜10質量%の範囲にあることがさらに好ましい。第1コーティング液(U)の固形分濃度は、例えば、シャーレに第1コーティング液(U)を所定量加え、当該シャーレごと加熱して溶媒等の揮発分を除去し、残留した固形分の質量を、最初に加えた第1コーティング液(U)の質量で除することで算出できる。
【0118】
第1コーティング液(U)は、ブルックフィールド形回転粘度計(SB型粘度計:ローターNo.3、回転速度60rpm)で測定された粘度が、塗工時の温度において3,000mPa・s以下であることが好ましく、2,500mPa・s以下であることがより好ましく、2,000mPa・s以下であることがさらに好ましい。当該粘度が3,000mPa・s以下であることによって、第1コーティング液(U)のレベリング性が向上し、外観により優れる多層構造体を得ることができる。また、第1コーティング液(U)の粘度としては、50mPa・s以上が好ましく、100mPa・s以上がより好ましく、200mPa・s以上がさらに好ましい。
【0119】
第1コーティング液(U)において、N
MとN
Pとは、0.8≦N
M/N
P≦4.5の関係を満たす。また、第1コーティング液(U)において、N
MとN
ZとF
Zとは、0.001≦F
Z×N
Z/N
M≦0.60の関係を満たす。さらに、第1コーティング液(U)において、F
ZとN
ZとN
Pが、0.0008≦F
Z×N
Z/N
P≦1.35の関係を満たすものが好ましい。
【0120】
[工程〔II〕(第1コーティング液(U)の塗工)]
工程〔II〕では、基材(X)上に第1コーティング液(U)を塗工することによって、基材(X)上に層(Y)の前駆体層を形成する。第1コーティング液(U)は、基材(X)の少なくとも一方の面の上に直接塗工してもよい。また、第1コーティング液(U)を塗工する前に、基材(X)の表面を公知のアンカーコーティング剤で処理したり、基材(X)の表面に公知の接着剤を塗工したりする等して、基材(X)の表面に接着層(H)を形成しておいてもよい。
【0121】
第1コーティング液(U)を基材(X)上に塗工する方法は、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。塗工方法としては、例えば、キャスト法、ディッピング法、ロールコーティング法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、リバースコート法、スプレーコート法、キスコート法、ダイコート法、メタリングバーコート法、チャンバードクター併用コート法、カーテンコート法等が挙げられる。
【0122】
通常、工程〔II〕において、第1コーティング液(U)中の溶媒を除去することによって、層(Y)の前駆体層が形成される。溶媒の除去方法に特に制限はなく、公知の乾燥方法を適用することができる。乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥法、熱ロール接触法、赤外線加熱法、マイクロ波加熱法等が挙げられる。乾燥処理温度は、基材(X)の流動開始温度よりも0〜15℃以上低いことが好ましい。第1コーティング液(U)が重合体(C)を含む場合には、乾燥処理温度は、重合体(C)の熱分解開始温度よりも15〜20℃以上低いことが好ましい。乾燥処理温度は70〜200℃の範囲にあることが好ましく、80〜180℃の範囲にあることがより好ましく、90〜160℃の範囲にあることがさらに好ましい。溶媒の除去は、常圧下または減圧下のいずれで実施してもよい。また、後述する工程〔III〕における熱処理によって、溶媒を除去してもよい。
【0123】
層状の基材(X)の両面に層(Y)を積層する場合、第1コーティング液(U)を基材(X)の一方の面に塗工した後、溶媒を除去することによって第1の層(第1の層(Y)の前駆体層)を形成し、次いで、第1コーティング液(U)を基材(X)の他方の面に塗工した後、溶媒を除去することによって第2の層(第2の層(Y)の前駆体層)を形成してもよい。それぞれの面に塗工する第1コーティング液(U)の組成は同一であってもよいし、異なってもよい。
【0124】
[工程〔III〕(層(Y)の前駆体層の処理)]
工程〔III〕では、工程〔II〕で形成された前駆体層(層(Y)の前駆体層)を140℃以上の温度で熱処理することによって、層(Y)を形成する。この熱処理温度は第1コーティング液(U)の塗工後の乾燥処理温度よりも高いことが好ましい。
【0125】
工程〔III〕では、金属酸化物(A)同士がリン原子(リン化合物(B)に由来するリン原子)を介して結合される反応が進行する。別の観点では、工程〔III〕では、反応生成物(D)の生成反応が進行する。当該反応を充分に進行させるため、熱処理の温度は、140℃以上であることが好ましく、170℃以上であることがより好ましく、180℃以上であることがさらに好ましい。熱処理温度が低いと、充分な反応度を得るのにかかる時間が長くなり、生産性が低下する原因となる。熱処理の温度の好ましい上限は、基材(X)の種類等によって異なる。例えば、ポリアミド系樹脂からなる熱可塑性樹脂フィルムを基材(X)として用いる場合には、熱処理の温度は270℃以下であることが好ましい。また、ポリエステル系樹脂からなる熱可塑性樹脂フィルムを基材(X)として用いる場合には、熱処理の温度は240℃以下であることが好ましい。熱処理は、空気中、窒素雰囲気下、またはアルゴン雰囲気下等で実施することができる。
【0126】
熱処理の時間は0.1秒〜1時間の範囲にあることが好ましく、1秒〜15分の範囲にあることがより好ましく、5〜300秒の範囲にあることがさらに好ましい。
【0127】
多層構造体を製造するための本発明の方法は、層(Y)の前駆体層または層(Y)に紫外線を照射する工程を含んでもよい。例えば、紫外線照射は、工程〔II〕の後(例えば、塗工された第1コーティング液(U)の溶媒の除去がほぼ終了した後)で行ってもよい。
【0128】
基材(X)と層(Y)との間に接着層(H)を配置するために、第1コーティング液(U)を塗工する前に、基材(X)の表面を公知のアンカーコーティング剤で処理したり、基材(X)の表面に公知の接着剤を塗工したりしてもよい。
【0129】
本発明の多層構造体の製造方法は、工程〔i〕および〔ii〕をさらに含んでもよい。工程〔i〕では、リン原子を含有する重合体(G1)と溶媒とを含む第2コーティング液(V)を調製する。工程〔ii〕では、層(Y)に隣接して配置された層(W)を第2コーティング液(V)を用いて形成する。工程〔i〕の順序は特に限定されず、工程〔I〕、〔II〕または〔III〕と並行して行ってもよく、工程〔I〕、〔II〕または〔III〕の後に行ってもよい。工程〔ii〕は、工程〔II〕または〔III〕の後に行うことができる。層(Y)または層(Y)の前駆体層に第2コーティング液(V)を塗工することによって、層(Y)と接するように層(Y)に積層された層(W)を形成できる。重合体(G2)を含む層(W)を形成する場合、第2コーティング液(V)は重合体(G2)を含む。第2コーティング液(V)において、重合体(G1)と重合体(G2)との質量比は、重合体(G1):重合体(G2)が15:85〜100:0の範囲にあることが好ましく、15:85〜99:1の範囲にあることがより好ましい。当該質量比の第2コーティング液(V)を用いることによって、重合体(G1)と重合体(G2)との質量比が当該範囲にある層(W)を形成できる。第2コーティング液(V)は、重合体(G1)(および必要に応じて重合体(G2))を溶媒に溶解することによって調製できる。
【0130】
第2コーティング液(V)に用いられる溶媒は、含まれる重合体の種類に応じて適宜選択すればよいが、水、アルコール類、またはそれらの混合溶媒であることが好ましい。重合体の溶解の妨げにならない限り、溶媒は、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トリオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、n−ブチルセロソルブ等のグリコール誘導体;グリセリン;アセトニトリル;ジメチルホルムアミド等のアミド;ジメチルスルホキシド;スルホラン等を含んでもよい。
【0131】
第2コーティング液(V)における固形分(重合体(G1)等)の濃度は、溶液の保存安定性や塗工性の観点から、0.01〜60質量%の範囲にあることが好ましく、0.1〜50質量%の範囲にあることがより好ましく、0.2〜40質量%の範囲にあることがさらに好ましい。固形分濃度は、第1コーティング液(U)に関して記載した方法と同様の方法によって求めることができる。
【0132】
通常、工程〔ii〕において、第2コーティング液(V)中の溶媒が除去されることによって、層(W)が形成される。第2コーティング液(V)の溶媒の除去方法は特に限定されず、公知の乾燥方法を適用することができる。乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥法、熱ロール接触法、赤外線加熱法、マイクロ波加熱法等を挙げることができる。乾燥温度は、基材(X)の流動開始温度よりも0〜15℃以上低いことが好ましい。乾燥温度は70〜200℃の範囲にあることが好ましく、150〜200℃の範囲にあることがより好ましい。溶媒の除去は、常圧下または減圧下のいずれで実施してもよい。また、工程〔ii〕を、前述の工程〔II〕と工程〔III〕との間に実施する場合は、工程〔III〕における熱処理によって溶媒を除去してもよい。
【0133】
基材(X)の両面に、層(Y)を介して層(W)を形成してもよい。その場合の一例では、第2コーティング液(V)を一方の面に塗工した後に溶媒を除去することによって第1の層(W)を形成する。次に、第2コーティング液(V)を他方の面に塗工した後に溶媒を除去することによって第2の層(W)を形成する。それぞれの面に塗工する第2コーティング液(V)の組成は同一であってもよいし、異なってもよい。
【0134】
工程〔III〕の熱処理を経て得られた多層構造体は、そのまま本発明の多層構造体として使用できる。しかし、当該多層構造体に、前記したように他の部材(例えば、他の層)をさらに接着または形成した積層体を本発明の多層構造体としてもよい。当該部材の接着は、公知の方法で行うことができる。
【0135】
[押出しコートラミネート]
本発明の多層構造体は、例えば、基材(X)に直接または接着層(H)を介して層(Y)(および必要に応じて層(W))を積層させた後に、さらに他の層を直接または接着層(H)を介して押出しコートラミネート法により形成することによって、押出しコートラミネートにより形成された層をさらに有することができる。本発明で用いることができる押出しコートラミネート法に特に限定はなく、公知の方法を用いてもよい。典型的な押出しコートラミネート法では、溶融した熱可塑性樹脂をTダイに送り、Tダイのフラットスリットから取り出した熱可塑性樹脂を冷却することによって、ラミネートフィルムが製造される。
【0136】
押出しコートラミネート法の中でも最も一般的なシングルラミネート法の一例について、図面を参照しながら以下に説明する。シングルラミネート法に用いられる装置の一例を
図11に示す。なお、
図11は装置の主要部のみを模式的に示した図であり、実際の装置とは異なっている。
図11の装置50は、押出機51、Tダイ52、冷却ロール53、およびゴムロール54を含む。冷却ロール53およびゴムロール54は、そのロール面が互いに接触した状態で配置されている。
【0137】
熱可塑性樹脂は、押出機内で加熱溶融され、Tダイ52のフラットスリットから押し出されて樹脂フィルム502となる。この樹脂フィルム502は、熱可塑性樹脂を含む層となる。一方、シート給送装置(図示せず)からは積層体501が送られ、樹脂フィルム502とともに、冷却ロール53とゴムロール54との間に挟まれる。冷却ロール53とゴムロール54との間に、積層体501と樹脂フィルム502とが積層された状態で挟まれることによって、積層体501と樹脂フィルム502とが一体化されたラミネートフィルム(多層構造体)503が製造される。
【0138】
前記シングルラミネート法以外の押出しコートラミネート法の例には、サンドイッチラミネート法およびタンデムラミネート法等が含まれる。サンドイッチラミネート法は、溶融した熱可塑性樹脂を一方の基材に押出し、別のアンワインダー(巻出し機)から第2基材を供給して貼り合わせる方法である。タンデムラミネート法は、シングルラミネート機を2台つないで一度に5層構成の積層体を作製する方法である。
【0139】
前述した積層体を用いることによって、押出しコートラミネート後も高いバリア性能を維持する多層構造体が得られる。
【0140】
[接着層(H)]
本発明の多層構造体において、層(Y)は、基材(X)と直接接触するように積層されていてもよい。また、層(Y)は、他の層を介して基材(X)に積層されていてもよい。例えば、層(Y)は、接着層(H)を介して基材(X)に積層されていてもよい。この構成によれば、基材(X)と層(Y)との接着性を高めることができる場合がある。接着層(H)は、接着性樹脂で形成してもよい。接着性樹脂からなる接着層(H)は、基材(X)の表面を公知のアンカーコーティング剤で処理するか、基材(X)の表面に公知の接着剤を塗工することによって形成できる。接着剤としては、ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを混合し反応させる2液反応型ポリウレタン系接着剤が好ましい。また、アンカーコーティング剤や接着剤に、公知のシランカップリング剤等の少量の添加剤を加えることによって、さらに接着性を高めることができる場合がある。シランカップリング剤としては、例えば、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基等の反応性基を有するシランカップリング剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。基材(X)と層(Y)とを接着層(H)を介して強く接着することによって、本発明の多層構造体に対して印刷やラミネート等の加工を施す際に、バリア性や外観の悪化をより効果的に抑制することができ、さらに、本発明の多層構造体を用いた包装材の落下強度を高めることができる。接着層(H)の厚さは0.01〜10.0μmが好ましく、0.03〜5.0μmがより好ましい。
【0141】
[他の層]
本発明の多層構造体は、様々な特性、例えば、ヒートシール性を付与したり、バリア性や力学物性を向上させたりするための他の層を含んでもよい。このような本発明の多層構造体は、例えば、基材(X)に直接または接着層(H)を介して層(Y)を積層させた後に、さらに該他の層を直接または接着層(H)を介して接着または形成することによって製造できる。他の層としては、例えば、インク層やポリオレフィン層等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0142】
本発明の多層構造体は、商品名や絵柄を印刷するためのインク層を含んでもよい。このような本発明の多層構造体は、例えば、基材(X)に直接または接着層(H)を介して層(Y)を積層させた後に、さらに該インク層を直接形成することによって製造できる。インク層としては、例えば、溶剤に顔料(例えば、二酸化チタン)を包含したポリウレタン樹脂を分散した液体を乾燥した皮膜が挙げられるが、顔料を含まないポリウレタン樹脂や、その他の樹脂を主剤とするインクや電子回路配線形成用レジストを乾燥した皮膜でもよい。層(Y)へのインク層の塗工方法としては、グラビア印刷法のほか、ワイヤーバー、スピンコーター、ダイコーター等各種の塗工方法を用いることができる。インク層の厚さは0.5〜10.0μmが好ましく、1.0〜4.0μmがより好ましい。
【0143】
本発明の多層構造体において、層(W)中に重合体(G2)を含むと、接着層(H)や他の層(例えば、インク層)との親和性が高い官能基を有するため、層(W)とその他の層との密着性が向上する。このため、延伸処理等の物理的ストレスを受けた後にバリア性能を維持することができるとともに、デラミネーション等の外観不良を抑制することが可能となる。
【0144】
本発明の多層構造体の最表面層をポリオレフィン層とすることによって、多層構造体にヒートシール性を付与したり、多層構造体の力学的特性を向上させたりすることができる。ヒートシール性や力学的特性の向上等の観点から、ポリオレフィンはポリプロピレンまたはポリエチレンであることが好ましい。また、多層構造体の力学的特性を向上させるために、ポリエステルからなるフィルム、ポリアミドからなるフィルム、および水酸基含有ポリマーからなるフィルムからなる群より選ばれる少なくとも1つのフィルムを積層することが好ましい。力学的特性の向上の観点から、ポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレートが好ましく、ポリアミドとしてはナイロン−6が好ましく、水酸基含有ポリマーとしてはエチレン−ビニルアルコール共重合体が好ましい。なお、各層の間には必要に応じて、アンカーコート層や接着剤からなる層を設けてもよい。
【0145】
[多層構造体の構成]
本発明の多層構造体の構成の具体例を以下に示す。多層構造体は接着層(H)等の接着層を有していてもよいが、以下の具体例において、該接着層や他の層の記載は省略している。
(1)層(Y)/ポリエステル層、
(2)層(Y)/ポリエステル層/層(Y)、
(3)層(Y)/ポリアミド層、
(4)層(Y)/ポリアミド層/層(Y)、
(5)層(Y)/ポリオレフィン層、
(6)層(Y)/ポリオレフィン層/層(Y)、
(7)層(Y)/水酸基含有ポリマー層、
(8)層(Y)/水酸基含有ポリマー層/層(Y)、
(9)層(Y)/紙層、
(10)層(Y)/紙層/層(Y)、
(11)層(Y)/無機蒸着層/ポリエステル層、
(12)層(Y)/無機蒸着層/ポリアミド層、
(13)層(Y)/無機蒸着層/ポリオレフィン層、
(14)層(Y)/無機蒸着層/水酸基含有ポリマー層、
(15)層(Y)/ポリエステル層/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(16)層(Y)/ポリエステル層/層(Y)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(17)ポリエステル層/層(Y)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(18)層(Y)/ポリアミド層/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(19)層(Y)/ポリアミド層/層(Y)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(20)ポリアミド層/層(Y)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(21)層(Y)/ポリオレフィン層/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(22)層(Y)/ポリオレフィン層/層(Y)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(23)ポリオレフィン層/層(Y)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(24)層(Y)/ポリオレフィン層/ポリオレフィン層、
(25)層(Y)/ポリオレフィン層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(26)ポリオレフィン層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(27)層(Y)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(28)層(Y)/ポリエステル層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(29)ポリエステル層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(30)層(Y)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(31)層(Y)/ポリアミド層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(32)ポリアミド層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(33)層(Y)/ポリエステル層/紙層、
(34)層(Y)/ポリアミド層/紙層、
(35)層(Y)/ポリオレフィン層/紙層、
(36)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(Y)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(37)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(Y)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(38)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(39)紙層/ポリオレフィン層/層(Y)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(40)ポリオレフィン層/紙層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(41)紙層/層(Y)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(42)紙層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(43)層(Y)/紙層/ポリオレフィン層、
(44)層(Y)/ポリエステル層/紙層/ポリオレフィン層、
(45)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(Y)/ポリオレフィン層/水酸基含有ポリマー層、
(46)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(Y)/ポリオレフィン層/ポリアミド層、
(47)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(Y)/ポリオレフィン層/ポリエステル層、
(48)無機蒸着層/層(Y)/ポリエステル層、
(49)無機蒸着層/層(Y)/ポリエステル層/層(Y)/無機蒸着層、
(50)無機蒸着層/層(Y)/ポリアミド層、
(51)無機蒸着層/層(Y)/ポリアミド層/層(Y)/無機蒸着層、
(52)無機蒸着層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(53)無機蒸着層/層(Y)/ポリオレフィン層/層(Y)/無機蒸着層
【0146】
本発明の多層構造体を電子デバイスの保護シートに用いる場合、前記構成のうち、(1)〜(8)、(11)〜(32)、および(48)〜(53)のいずれかの構成が好ましい。
【0147】
[用途]
本発明の多層構造体は、ガスバリア性および水蒸気バリア性のいずれにも優れ、加工時の延伸、ヒートシールやレトルト処理時に起こる基材(X)と層(Y)の熱収縮率の差に起因する屈曲等の物理的ストレスを受けた後においても、両バリア性を高いレベルで維持できる。また、本発明の好ましい一例によれば、外観に優れる多層構造体を得ることができる。このため、本発明の多層構造体および該多層構造体を用いた包装材は、様々な用途に適用できる。
【0148】
[包装材]
本発明の包装材は、基材(X)と、基材(X)上に積層された層(Y)とを含む多層構造体を含む。包装材は、多層構造体のみによって構成されてもよい。すなわち、以下の説明において、「包装材」を「多層構造体」に読み替えてもよい。また、典型的には、「包装材」を「包装」と読み替えることが可能である。包装材は、多層構造体と他の部材とによって構成されてもよい。
【0149】
本発明の好ましい実施形態による包装材は、無機ガス(例えば、水素、ヘリウム、窒素、酸素、二酸化炭素)、天然ガス、水蒸気および常温常圧で液体状の有機化合物(例えば、エタノール、ガソリン蒸気)に対するバリア性を有する。
【0150】
本発明の包装材が包装袋である場合、その包装袋のすべてに多層構造体が用いられていてもよいし、その包装袋の一部に多層構造体が用いられていてもよい。例えば、包装袋の面積の50%〜100%が、多層構造体によって構成されていてもよい。包装材が包装袋以外のもの(例えば、容器や蓋材)である場合も同様である。
【0151】
本発明の包装材は、様々な方法で作製できる。例えば、シート状の多層構造体または該多層構造体を含むフィルム材(以下、単に「フィルム材」という)を接合して所定の容器の形状に成形することによって、容器(包装材)を作製してもよい。成形方法は、熱成形、射出成形、押出ブロー成形等が挙げられる。また、所定の容器の形状に成形された基材(X)の上に層(Y)を形成することによって、容器(包装材)を作製してもよい。これらのように作製された容器を、本明細書では「包装容器」という場合がある。
【0152】
また、本発明の多層構造体を含む包装材は、種々の成形品に二次加工して使用してもよい。このような多層構造体からなる成形品は、縦製袋充填シール袋、真空包装袋、スパウト付パウチ、ラミネートチューブ容器、輸液バッグ、紙容器、ストリップテープ、容器用蓋材、インモールドラベル容器、または真空断熱体であってもよい。これらの成形品では、ヒートシールが行われてもよい。
【0153】
[縦製袋充填シール袋]
本発明の多層構造体は、縦製袋充填シール袋であってもよい。一例を
図1に示す。
図1の縦製袋充填シール袋10は、多層構造体11が、2つの端部11aと胴体部11bとの三方でシールされることによって形成されている。縦製袋充填シール袋10は、縦型製袋充填機により製造できる。縦型製袋充填機による製袋には様々な方法が適用されるが、いずれの方法においても、内容物は袋の上方の開口からその内部へと供給され、その後にその開口がシールされて縦製袋充填シール袋が製造される。縦製袋充填シール袋は、例えば、上端、下端および側部の三方においてヒートシールされた1枚のフィルム材により構成される。本発明による包装容器としての縦製袋充填シール袋は、ガスバリア性および水蒸気バリア性に優れ、延伸を伴う屈曲処理、変形や衝撃等の物理的ストレスを受けた後でもガスバリア性と水蒸気バリア性の低下が小さい。そのため、該縦製袋充填シール袋によれば、内容物の品質劣化を長期間にわたって抑制できる。
【0154】
[真空包装袋]
本発明の多層構造体を含む包装材は、真空包装袋であってもよい。一例を
図2に示す。
図2の真空包装袋101は、フィルム材131、132を壁部材として備え、周縁部111において互いに接合(シール)されている容器である。密閉された真空包装袋の内部は減圧され、通常、フィルム材131、132は、周縁部111に囲まれた中央部112において、変形して内容物150に密着し、袋101の内部と外部とを隔てる隔壁として機能する。真空包装袋は、ノズル式またはチャンバー式の真空包装機を用いて製造することができる。本発明による包装容器としての真空包装袋は、ガスバリア性と水蒸気バリア性に優れ、延伸を伴う屈曲処理、変形や衝撃等の物理的ストレスを受けた後にもガスバリア性と水蒸気バリア性の維持に適している。そのため、該真空包装袋のバリア性能は、長期間にわたってほとんど低下しない。
【0155】
[パウチ]
本発明の多層構造体を含む包装材は、パウチであってもよい。一例を
図3に示す。
図3の平パウチ20は、2枚の多層構造体11が、その周縁部11cで互いに接合されることによって形成されている。本明細書において、「パウチ」という語句は主として食品、日用品または医薬品を内容物とする、フィルム材を壁部材として備えた容器を意味する。パウチは、例えば、その形状および用途から、スパウト付きパウチ、チャックシール付きパウチ、平パウチ、スタンドアップパウチ、横製袋充填シールパウチ、レトルトパウチ等が挙げられる。パウチは、バリア性多層膜と、少なくとも1層の他の層とを積層することによって形成してもよい。本発明による包装容器としてのパウチは、ガスバリア性と水蒸気バリア性に優れ、変形や衝撃等の物理的ストレスを受けた際にもそのガスバリア性と水蒸気バリア性が維持される。そのため、該パウチは、輸送後や長期保存後においても、内容物の変質を防ぐことが可能である。また、該パウチの一例では、透明性を良好に保持できるため、内容物の確認や、劣化による内容物の変質の確認が容易である。
【0156】
[ラミネートチューブ]
本発明の多層構造体を含む包装材は、ラミネートチューブ容器であってもよい。一例を
図4に示す。
図4のラミネートチューブ容器301は、容器の内部と外部とを隔てる隔壁320としてラミネートフィルム310を備えた胴体部331と、肩部332とを備え、肩部332は、貫通孔(取り出し口)を有する筒状の取り出し部342と、中空の円錐台形状を有する基台部341とを備える。より具体的には、ラミネートチューブ容器は、一方の端部が閉じた筒状体である胴体部331と、胴体部331の他方の端部に配置された肩部332と、端部シール部311と、側面シール部312とを備え、肩部332は、貫通孔(取り出し口)を有し、外周面に雄ねじ部を有する筒状の取り出し部342と、中空の円錐台形状を有する基台部341とを備える。取り出し部342には、着脱自在に、雄ねじ部に対応する雌ねじ部を有する蓋が取り付けられていてもよい。胴体部331の壁部材を構成するラミネートフィルム310は、フィルム材について上述した程度の柔軟性を有していることが好ましい。肩部332には、金属や樹脂等からなる成形体を使用できる。本発明による包装容器としてのラミネートチューブ容器は、ガスバリア性と水蒸気バリア性に優れ、延伸を伴う屈曲処理、変形や衝撃等の物理的ストレスを受けた後でもガスバリア性と水蒸気バリア性の低下が小さく、使用時にスクイーズ(squeeze)された後でも優れたガスバリア性と水蒸気バリア性を維持する。また、透明性に優れた多層構造体を用いたラミネートチューブ容器では、内容物の確認や、劣化による内容物の変質の確認が容易となる。
【0157】
[輸液バッグ]
本発明の多層構造体を含む包装材は、輸液バッグであってもよい。輸液バッグは、輸液製剤をその内容物とする容器であり、輸液製剤を収容するための内部と外部とを隔てる隔壁としてフィルム材を備える。一例を
図5に示す。
図5に示されるように、輸液バッグは、内容物を収容するバッグ本体431に加え、バッグ本体431の周縁部412に口栓部材432を備えていてもよい。口栓部材432は、バッグ本体431の内部に収容された輸液類を取り出す経路として機能する。また、輸液バッグは、バッグを吊り下げるために、口栓部材432が取り付けられた周縁部412の反対側の周縁部411に吊り下げ孔433を備えていてもよい。バッグ本体431は、2枚のフィルム材410a、410bがその周縁部411、412、413、414において互いに接合されることによって形成されている。フィルム材410a、410bは、バッグ本体431の周縁部411、412、413、414に囲まれた中央部において、バッグ内部とバッグ外部とを隔てる隔壁420として機能する。本発明による包装容器としての輸液バッグは、ガスバリア性と水蒸気バリア性に優れ、延伸を伴う屈曲処理、変形や衝撃等の物理的ストレスを受けた後でもガスバリア性と水蒸気バリア性の低下が小さい。そのため、該輸液バッグによれば、加熱殺菌処理前、加熱殺菌処理中、加熱殺菌処理後、輸送後、保存後においても、充填されている液状医薬品が変質することを防止できる。
【0158】
[紙容器]
本発明の多層構造体を含む包装材は、紙容器であってもよい。紙容器は、内容物を収容する内部と外部とを隔てる隔壁が紙層を含む容器である。好ましい一例では、隔壁の少なくとも一部が多層構造体を含み、多層構造体は基材(X)および層(Y)を含む。紙層は、基材(X)に含まれていてもよい。紙容器は、ブリック型、ゲーブルトップ型等、底を有する所定の形状のものであってもよい。本発明による包装容器としての紙容器は、折り曲げ加工を行ってもガスバリア性と水蒸気バリア性の低下が少ない。また、該紙容器は層(Y)の透明性が良好であるため、窓付き容器に好ましく用いられる。一例を
図6に示す。紙容器510は胴体部の側面に窓部511を有する。この窓付き容器の窓部の基材からは紙層が除去され、窓部511を通して内容物を視認できる。紙層を除去した窓部511においてもガスバリア性を高めた多層構造体の層構成がそのまま維持される。
図6の紙容器510は、平板状の積層体を折り曲げたり接合(シール)したりすることによって形成できる。該紙容器は、電子レンジによる加熱にも適している。
【0159】
[ストリップテープ]
層状の積層体を接合(シール)して紙容器を作製する際に、積層体のシール部にストリップテープが使用されることがある。ストリップテープは、紙容器の隔壁を構成する壁材(積層体)を互いに接合するために用いられる帯状の部材である。本発明による紙容器は、積層体が接合される貼り合わせ部にストリップテープを備えていてもよい。この場合、ストリップテープは、紙容器の隔壁に含まれる多層構造体と同じ層構成を有する多層構造体を含んでいてもよい。好ましいストリップテープの一例では、両最外層が、ヒートシールのためのポリオレフィン層である。このストリップテープは、ガスバリア性や水蒸気バリア性が低下しやすい貼り合わせ部における特性低下を抑制できる。そのため、このストリップテープは、本発明による包装容器には該当しない紙容器に対しても有用である。
【0160】
[容器用蓋材]
本発明の多層構造体を含む包装材は、容器用蓋材であってもよい。容器用蓋材は、容器の内部と容器の外部とを隔てる隔壁の一部として機能するフィルム材を備える。容器用蓋材は、ヒートシールや接着剤を用いた接合(シール)等によって、容器本体の開口部を封止するように容器本体と組み合わされ、内部に密閉された空間を有する容器(蓋付き容器)を形成する。容器用蓋材は、通常、その周縁部において容器本体と接合される。この場合、周縁部に囲まれた中央部が容器の内部空間に面することになる。容器本体は、例えば、カップ状、トレー状、その他の形状を有する成形体である。容器本体は、壁面部や、容器用蓋材をシールするためのフランジ部等を備える。本発明による包装容器としての容器用蓋材は、ガスバリア性と水蒸気バリア性に優れ、延伸を伴う屈曲処理後でもガスバリア性と水蒸気バリア性の低下が小さいため、内容物である食品の品質劣化を長期間にわたって抑制できる。
【0161】
[インモールドラベル容器]
本発明の多層構造体を含む包装材は、インモールドラベル容器であってもよい。インモールドラベル容器は、容器本体と、容器本体の表面に配置された本発明の多層ラベル(多層構造体)とを含む。容器本体は、型の内部に溶融樹脂を注入することによって形成される。容器本体の形状に特に限定はなく、カップ状、ボトル状等であってもよい。
【0162】
容器を製造するための本発明の方法の一例は、メス型部とオス型部との間のキャビティ内に本発明の多層ラベルを配置する第1ステップと、該キャビティ内に溶融樹脂を注入することによって、容器本体の成形と該容器本体への本発明の多層ラベルの貼着とを同時に行う第2ステップとを含む。本発明の多層ラベルを用いることを除いて、各ステップは、公知の方法で実施することが可能である。
【0163】
本発明の容器の一例の断面図を
図7に示す。
図7の容器360は、カップ状の容器本体370と、容器本体370の表面に貼着された多層ラベル361〜363とを含む。多層ラベル361〜363は、本発明の多層ラベルである。容器本体370は、フランジ部371と胴体部372と底部373とを含む。フランジ部371は、その先端に、上下に突出している凸部371aを有する。多層ラベル361は、底部373の外側の表面を覆うように配置されている。多層ラベル361の中央には、インモールドラベル成形の際に樹脂を注入するための貫通孔361aが形成されている。多層ラベル362は、胴体部372の外側の表面とフランジ部371の下面とを覆うように配置されている。多層ラベル363は、胴体部372の内側の表面の一部とフランジ部371の上面とを覆うように配置されている。多層ラベル361〜363は、インモールドラベル成形法によって、容器本体370に融着され、容器本体360と一体となっている。
図7に示すように、多層ラベル363の端面は、容器本体360に融着されており、外部に露出していない。
【0164】
[真空断熱体]
真空断熱体は、被覆材と、被覆材により囲まれた内部に配置された芯材とを備える断熱体であり、芯材が配置された内部は減圧されている。真空断熱体は、ウレタンフォームからなる断熱体による断熱特性と同等の断熱特性を、より薄くより軽い断熱体で達成することを可能にする。本発明の真空断熱体は、長期間にわたって断熱効果を保持できるため、冷蔵庫、給湯設備および炊飯器等の家電製品用の断熱材、壁部、天井部、屋根裏部および床部等に用いられる住宅用断熱材、車両屋根材、自動販売機等の断熱パネル、ヒートポンプ応用機器等の熱移動機器等に利用できる。
【0165】
本発明による真空断熱体の一例を
図8に示す。
図8の真空断熱体601は、被覆材610と、粒子状の芯材651とを備え、被覆材610は周縁部611で互いに接合されている2枚のフィルム材631、632により構成され、芯材651は、該被覆材610によって囲まれた内部に配置されている。周縁部611で囲まれた中央部において、被覆材610は、芯材651が収容された内部と外部とを隔てる隔壁として機能し、内部と外部との圧力差によって芯材651に密着している。
【0166】
本発明による真空断熱体の別の一例を
図9に示す。真空断熱体602は、芯材651の代わりに一体に成形された芯材652を備えることを除き、真空断熱体601と同一の構成を有する。芯材652は、典型的には樹脂の発泡体である。
【0167】
芯材の材料および形状は、断熱に適している限り特に制限されない。芯材としては、例えば、パーライト粉末、シリカ粉末、沈降シリカ粉末、ケイソウ土、ケイ酸カルシウム、ガラスウール、ロックウール、人工(合成)ウール、樹脂の発泡体(例えば、スチレンフォーム、ウレタンフォーム)等を挙げることができる。芯材としては、所定形状に成形された中空容器、ハニカム構造体等を用いることもできる。
【0168】
[電子デバイス]
本発明の保護シートを有する電子デバイスの一例について説明する。電子デバイスの一部断面図を
図10に示す。
図10の電子デバイス40は、電子デバイス本体41と、電子デバイス本体41を封止するための封止材42と、電子デバイス本体41の表面を保護するための保護シート(多層構造体)43と、を備える。封止材42は、電子デバイス本体41の表面全体を覆っている。保護シート43は、電子デバイス本体41の一方の表面上に、封止材42を介して配置されている。保護シート43が配置された表面とは反対側の表面にも、保護シート43が配置されてもよい。その場合、その反対側の表面に配置される保護シートは、保護シート43と同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0169】
電子デバイス本体41は、特に限定されないが、例えば、太陽電池等の光電変換装置、有機ELディスプレイ、液晶ディスプレイ、電子ペーパー等の情報表示装置、有機EL発光素子等の照明装置である。封止材42は、電子デバイス本体41の種類および用途等に応じて適宜付加される任意の部材である。封止材42としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体やポリビニルブチラール等が挙げられる。保護シート43は、電子デバイス本体41の表面を保護できるように配置されていればよく、電子デバイス本体41の表面上に直接配置されていてもよいし、封止材42等の他の部材を介して電子デバイス本体41の表面上に配置されていてもよい。
【0170】
電子デバイス本体41の好ましい一例は、太陽電池である。太陽電池としては、例えば、シリコン系太陽電池、化合物半導体太陽電池、有機薄膜太陽電池等が挙げられる。シリコン系太陽電池としては、例えば、単結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、非晶質シリコン太陽電池等が挙げられる。化合物半導体太陽電池としては、例えば、III−V族化合物半導体太陽電池、II−VI族化合物半導体太陽電池、I−III−VI族化合物半導体太陽電池等を挙げることができる。有機薄膜太陽電池としては、例えば、pnヘテロ接合有機薄膜太陽電池、バルクへテロ接合有機薄膜太陽電池等を挙げることができる。また、太陽電池は、複数のユニットセルが直列接続された集積形の太陽電池であってもよい。
【0171】
電子デバイス本体41は、その種類によっては、いわゆるロール・ツー・ロール方式で作製することが可能である。ロール・ツー・ロール方式では、送り出しロールに巻かれたフレキシブルな基板(例えば、ステンレス基板や樹脂基板等)が送り出され、この基板上に素子を形成することによって電子デバイス本体41が作製され、この電子デバイス本体41が巻き取りロールで巻き取られる。この場合、保護シート43も、可撓性を有する長尺のシートの形態、より具体的には長尺のシートの捲回体の形態として準備しておくとよい。一例では、送り出しロールから送り出された保護シート43は、巻き取りロールに巻き取られる前の電子デバイス本体41上に積層され、電子デバイス本体41とともに巻き取られる。他の一例では、巻き取りロールに巻き取った電子デバイス本体41を改めてロールから送り出し、保護シート43と積層してもよい。本発明の好ましい一例では、電子デバイス自体が可撓性を有する。
【0172】
保護シート43は、上述した多層構造体を含む。保護シート43は、多層構造体のみから構成されていてもよい。あるいは、保護シート43は、多層構造体と、多層構造体に積層された他の部材(例えば、他の層)とを含んでもよい。保護シート43は、電子デバイスの表面の保護に適した層状の積層体であって上述の多層構造体を含んでいる限り、その厚みおよび材料に特に制限はない。
【0173】
保護シート43は、例えば、多層構造体の一方の表面または両方の表面に配置された表面保護層を含んでもよい。表面保護層としては、傷がつきにくい樹脂からなる層が好ましい。また、太陽電池のように室外で利用されることがあるデバイスの表面保護層は、耐候性(例えば、耐光性)が高い樹脂からなることが好ましい。また、光を透過させる必要がある面を保護する場合には、透光性が高い表面保護層が好ましい。表面保護層(表面保護フィルム)の材料としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等が挙げられる。保護シートの一例は、一方の表面に配置されたポリ(メタ)アクリル酸エステル層を含む。
【0174】
表面保護層の耐久性を高めるために、表面保護層に各種の添加剤(例えば、紫外線吸収剤)を添加してもよい。耐候性が高い表面保護層の好ましい一例は、紫外線吸収剤が添加されたアクリル樹脂層である。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系、シアノアクリレート系、ニッケル系、トリアジン系の紫外線吸収剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、他の安定剤、光安定剤、酸化防止剤等を併用してもよい。
【0175】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的範囲内において、前記の構成を種々組み合わせた態様を含む。
【実施例】
【0176】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。以下の実施例および比較例における分析および評価は次のようにして行った。
【0177】
(1)層(Y)の赤外線吸収スペクトル
フーリエ変換赤外分光光度計を用い、減衰全反射法で測定した。測定条件は以下の通りとした。
装置:パーキンエルマー株式会社製Spectrum One
測定モード:減衰全反射法
測定領域:800〜1,400cm
−1【0178】
(2)各層の厚さ測定
多層構造体を収束イオンビーム(FIB)を用いて切削し、断面観察用の切片(厚さ0.3μm)を作製した。作製した切片を試料台座にカーボンテープで固定し、加速電圧30kVで30秒間白金イオンスパッタを行った。多層構造体の断面を電界放出形透過型電子顕微鏡を用いて観察し、各層の厚さを算出した。測定条件は以下の通りとした。
装置:日本電子株式会社製JEM−2100F
加速電圧:200kV
倍率:250,000倍
【0179】
(3)金属イオンの定量
多層構造体1.0gに分析等級の高純度硝酸5mLを加えてマイクロ波分解処理を行い、得られた溶液を超純水で50mLに定容することによって、アルミニウムイオン以外の金属イオンの定量分析用溶液を得た。また、この溶液0.5mLを超純水で50mLに定容することによって、アルミニウムイオンの定量分析用溶液を得た。前記の方法で得られた溶液中に含まれる金属イオン量を誘導結合プラズマ発光分光分析装置を用いて内部標準法で定量した。各金属イオンの検出下限は0.1ppmであった。測定条件は以下の通りとした。
装置:パーキンエルマー株式会社製Optima4300DV
RFパワー:1,300W
ポンプ流量:1.50mL/分
補助ガス流量(アルゴン):0.20L/分
キャリアガス流量(アルゴン):0.70L/分
クーラントガス:15.0L/分
【0180】
(4)アンモニウムイオンの定量
多層構造体を1cm×1cmのサイズに裁断し、凍結粉砕した。得られた粉体を、呼び寸法1mmのふるい(標準ふるい規格JIS−Z8801−1〜3準拠)でふるい分けした。前記のふるいを通過した粉体10gをイオン交換水50mL中に分散させ、95℃で10時間抽出操作を行った。得られた抽出液中に含まれるアンモニウムイオンを陽イオンクロマトグラフィー装置を用いて定量した。検出下限は0.02ppbであった。測定条件は以下の通りとした。
装置:Dionex社製ICS−1600
ガードカラム:Dionex社製IonPAC CG−16(5φ×50mm)
分離カラム:Dionex社製IonPAC CS−16(5φ×250mm)
検出器:電気伝導度検出器
溶離液:30ミリモル/L メタンスルホン酸水溶液
温度:40℃
溶離液流速:1mL/分
分析量:25μL
【0181】
(5)酸素透過度の測定
酸素透過量測定装置にキャリアガス側に基材の層が向くようにサンプルを取り付け、等圧法により酸素透過度を測定した。測定条件は以下の通りとした。
装置:モダンコントロール社製MOCON OX−TRAN2/20
温度:20℃
酸素供給側の湿度:85%RH
キャリアガス側の湿度:85%RH
酸素圧:1気圧
キャリアガス圧力:1気圧
【0182】
(6)水蒸気透過度の測定(等圧法)
水蒸気透過量測定装置にキャリアガス側に基材の層が向くようにサンプルを取り付け、等圧法により透湿度(水蒸気透過度)を測定した。測定条件は以下の通りとした。
装置:モダンコントロール社製MOCON PERMATRAN W3/33
温度:40℃
水蒸気供給側の湿度:90%RH
キャリアガス側の湿度:0%RH
【0183】
(7)水蒸気透過度の測定(差圧法)(実施例1−36〜1−39;比較例1−7の透湿度の測定)
水蒸気透過量測定装置に水蒸気供給側に基材の層が向くようにサンプルを取り付け、差圧法により透湿度(水蒸気透過度)を測定した。測定条件は以下の通りとした。
装置:Technolox社製Deltaperm
温度:40℃
水蒸気供給(上室)側の圧力:50Torr(6,665Pa)
水蒸気透過(下室)側の圧力:0.003Torr(0.4Pa)
【0184】
<重合体(G1−1)の合成例>
窒素雰囲気下、2−ホスホノオキシエチルメタクリレート8.5gおよびアゾビスイソブチロニトリル0.1gをメチルエチルケトン17gに溶解させ、80℃で12時間攪拌した。得られた重合体溶液を冷却した後、1,2−ジクロロエタン170gに加え、デカンテーションによって重合体を沈殿物として回収した。続いて、重合体をテトラヒドロフランに溶解させ、1,2−ジクロロエタンを貧溶媒として用いて再沈精製を行った。再沈精製を3回行った後、50℃で24時間真空乾燥することによって、重合体(G1−1)を得た。重合体(G1−1)は、2−ホスホノオキシエチルメタクリレートの重合体である。GPC分析の結果、該重合体の数平均分子量はポリスチレン換算で10,000であった。
【0185】
<重合体(G1−2)の合成例>
窒素雰囲気下、ビニルホスホン酸10gおよび2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)2塩酸塩0.025gを水5gに溶解させ、80℃で3時間攪拌した。冷却後、重合溶液に水15gを加えて希釈し、セルロース膜であるスペクトラムラボラトリーズ社製の「Spectra/Por」(登録商標)を用いてろ過した。ろ液中の水を留去した後、50℃で24時間真空乾燥することによって、重合体(G1−2)を得た。重合体(G1−2)は、ポリ(ビニルホスホン酸)である。GPC分析の結果、該重合体の数平均分子量はポリエチレングリコール換算で10,000であった。
【0186】
<第1コーティング液(U−1)の製造例>
蒸留水230質量部を撹拌しながら70℃に昇温した。その蒸留水に、トリイソプロポキシアルミニウム88質量部を1時間かけて滴下し、液温を徐々に95℃まで上昇させ、発生するイソプロパノールを留出させることによって加水分解縮合を行った。得られた液体に、60質量%の硝酸水溶液4.0質量部を添加し、95℃で3時間撹拌することによって加水分解縮合物の粒子の凝集体を解膠させた。その後、その液体に濃度が1.0モル%の水酸化ナトリウム水溶液2.24質量部を加え、固形分濃度が酸化アルミニウム換算で10質量%になるように濃縮した。こうして得られた液体18.66質量部に対して、蒸留水58.19質量部、メタノール19.00質量部、および5質量%のポリビニルアルコール水溶液(株式会社クラレ製PVA124;ケン化度98.5モル%、粘度平均重合度2,400、20℃での4質量%水溶液粘度60mPa・s)0.50質量部を加え、均一になるように撹拌し、金属酸化物(A)を含む液体である分散液を得た。続いて、液温を15℃に維持した状態で前記分散液を攪拌しながらリン化合物(B)を含む溶液である85質量%のリン酸水溶液3.66質量部を滴下して加え、滴下完了後からさらに30分間攪拌を続け、表1に記載されたN
M/N
P、F
Z×N
Z/N
M、およびF
Z×N
Z/N
Pの値を有する目的の第1コーティング液(U−1)を得た。
【0187】
<第1コーティング液(U−2)〜(U−5)の製造例>
第1コーティング液(U−2)〜(U−5)の調製では、分散液の調製において、F
Z×N
Z/N
MおよびF
Z×N
Z/N
Pの値が後掲の表1に示す値となるように1.0モル%の水酸化ナトリウム水溶液の添加量を変更した。このこと以外は第1コーティング液(U−1)の調製と同様の方法によって、第1コーティング液(U−2)〜(U−5)を調製した。
【0188】
<第1コーティング液(U−6)の製造例>
第1コーティング液(U―6)の調製では、分散液の調製において、水酸化ナトリウム水溶液を添加せず、かつ、加える蒸留水の量を58.09質量部とした。また、分散液にリン酸水溶液を滴下した後、1.0モル%の水酸化ナトリウム水溶液0.10質量部を添加した。これらのこと以外は第1コーティング液(U−1)の調製と同様の方法によって、第1コーティング液(U−6)を調製した。
【0189】
<第1コーティング液(U−8)の製造例>
リン化合物(B)を含む溶液のリン化合物(B)としてリン酸の代わりにリン酸トリメチルを用いたこと以外は第1コーティング液(U−5)の調製と同様の方法によって、第1コーティング液(U−8)を調製した。
【0190】
<第1コーティング液(U−9)の製造例>
分散液の調製において、5質量%のポリビニルアルコール水溶液の代わりに5質量%のポリアクリル酸水溶液を用いたこと以外は第1コーティング液(U−5)の調製と同様の方法によって、第1コーティング液(U−9)を調製した。
【0191】
<第1コーティング液(U−7)および(U−10)〜(U−18)の製造例>
分散液の調製において1.0モル%の水酸化ナトリウム水溶液の代わりに各種金属塩の水溶液を使用した以外は第1コーティング液(U−5)の調製と同様の方法によって、第1コーティング液(U−7)および(U−10)〜(U−18)を調製した。金属塩の水溶液として、第1コーティング液(U−7)では1.0モル%の塩化ナトリウム水溶液、第1コーティング液(U−10)では1.0モル%の水酸化リチウム水溶液、第1コーティング液(U−11)では1.0モル%の水酸化カリウム水溶液、第1コーティング液(U−12)では0.5モル%の塩化カルシウム水溶液、第1コーティング液(U−13)では0.5モル%の塩化コバルト水溶液、第1コーティング液(U−14)では0.5モル%の塩化亜鉛水溶液、第1コーティング液(U−15)では0.5モル%の塩化マグネシウム水溶液、第1コーティング液(U−16)では1.0モル%のアンモニア水溶液、第1コーティング液(U−17)では塩水溶液(1.0モル%の塩化ナトリウム水溶液と0.5モル%の塩化カルシウム水溶液との混合液)、第1コーティング液(U−18)では塩水溶液(0.5モル%の塩化亜鉛水溶液と0.5モル%の塩化カルシウム水溶液との混合液)を用いた。
【0192】
<第1コーティング液(U−19)〜(U−23)の製造例>
N
M/N
PおよびF
Z×N
Z/N
Pの比率を後掲の表1に従って変更したこと以外は第1コーティング液(U−5)の調製と同様の方法によって、第1コーティング液(U−19)〜(U−23)を調製した。
【0193】
<第1コーティング液(U−34)、(U−36)、(U−37)、(U−39)、および(CU−5)の製造例>
分散液の調製において、第1コーティング液(U−34)では0.19質量部の酸化亜鉛、第1コーティング液(U−36)では0.19質量部の酸化マグネシウム、第1コーティング液(U−37)では0.38質量部のホウ酸、第1コーティング液(U−39)では0.30質量部の炭酸カルシウム、第1コーティング液(CU−5)では0.38質量部のテトラエトキシシランを、水酸化ナトリウム水溶液の代わりに用いた。これらはいずれも、ポリビニルアルコール水溶液を添加した後に添加した。また、第1コーティング液(U−1)の調製で添加する蒸留水の量58.19質量部を、第1コーティング液(U−34)および第1コーティング液(U−36)では58.00質量部、第1コーティング液(U−39)では57.89質量部、第1コーティング液(U−37)および第1コーティング液(CU−5)では57.81質量部とした。これらの変更以外は第1コーティング液(U−1)の調製と同様の方法によって、第1コーティング液(U−34)、(U−36)、(U−37)、(U−39)、および(CU−5)を調製した。
【0194】
<第1コーティング液(U−40)および(U−41)の製造例>
第1コーティング液(U−40)および(U−41)の調製では、分散液の調製において、F
Z×N
Z/N
MおよびF
Z×N
Z/N
Pの値が後掲の表1に示す値となるように1.0モル%の水酸化ナトリウム水溶液および1.0モル%の水酸化カリウム水溶液の添加量を変更した。このこと以外は第1コーティング液(U−1)の調製と同様の方法によって、第1コーティング液(U−40)および(U−41)を調製した。
【0195】
<第1コーティング液(U−42)〜(U−44)の製造例>
分散液の調製において、第1コーティング液(U−42)では0.015質量部の酸化ランタン、第1コーティング液(U−43)では0.006質量部のホウ酸、第1コーティング液(U−44)では0.007質量部の酸化亜鉛を、水酸化ナトリウム水溶液の代わりに用いた。これらはいずれも、ポリビニルアルコール水溶液を添加した後に添加した。また、第1コーティング液(U−1)の調製で添加する蒸留水の量58.19質量部を、第1コーティング液(U−42)では58.17質量部、第1コーティング液(U−43)および(U−44)では58.18質量部とした。これらの変更以外は第1コーティング液(U−1)の調製と同様の方法によって、第1コーティング液(U−42)〜第1コーティング液(U−44)を調製した。
【0196】
<第1コーティング液(U−45)および(U−46)の製造例>
第1コーティング液(U−45)および(U−46)の調製では、分散液の調製において、5質量%のポリビニルアルコール水溶液を添加せず、第1コーティング液(U−45)、(U−46)に添加する蒸留水の量を58.57質量部に変更したこと以外は第1コーティング液(U−40)および(U−41)の調製と同様の方法によって、第1コーティング液(U−45)および(U−46)を調製した。
【0197】
<第1コーティング液(U−47)〜(U−49)の製造例>
第1コーティング液(U−47)〜(U−49)の調製では、分散液の調製において、5質量%のポリビニルアルコール水溶液を添加せず、第1コーティング液(U−47)に添加する蒸留水の量を58.56質量部、第1コーティング液(U−48)、(U−49)に添加する蒸留水の量を58.57質量部とした。これらの変更以外は第1コーティング液(U−42)〜(U−44)の調製と同様の方法によって、第1コーティング液(U−47)〜(U−49)を調製した。
【0198】
<第1コーティング液(CU−1)の製造例>
分散液の調製において1.0モル%の水酸化ナトリウム水溶液を添加しなかったこと以外は第1コーティング液(U−1)の調製と同様の方法によって、第1コーティング液(CU−1)を調製した。
【0199】
<第1コーティング液(CU−2)および(CU−6)の製造例>
分散液の調製において、F
Z×N
Z/N
Mの値が表1に示す値となるように1.0モル%の水酸化ナトリウム水溶液の添加量を変更したこと以外は第1コーティング液(U−1)の調製と同様の方法によって、第1コーティング液(CU−2)および(CU−6)を調製した。
【0200】
<第1コーティング液(CU−8)の製造例>
分散液の調製において5質量%のポリビニルアルコール水溶液を添加せず、添加する蒸留水の量を58.57質量部に変更したこと以外は第1コーティング液(U−1)の調製と同様の方法によって、第1コーティング液(CU−8)を調製した。
【0201】
<第1コーティング液(CU−3)および(CU−4)の製造例>
N
M/N
Pの値を表1に従って変更したこと以外は第1コーティング液(U−5)の調製と同様の方法によって、第1コーティング液(CU−3)および(CU−4)を調製した。
【0202】
<第2コーティング液(V−1)〜(V−6)の製造例>
まず、合成例1で得た重合体(G1−1)を水とメタノールの混合溶媒(質量比で水:メタノール=7:3)に溶解させ、固形分濃度が1質量%の第2コーティング液(V−1)を得た。また、合成例1で得た重合体(G1−1)を91質量%、ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製PVA124;ケン化度98.5モル%、粘度平均重合度2,400、20℃での4質量%水溶液粘度60mPa・s)を9質量%含む混合物を準備した。この混合物を、水とメタノールの混合溶媒(質量比で水:メタノール=7:3)に溶解させ、固形分濃度が1質量%の第2コーティング液(V−2)を得た。また、合成例1で得た重合体(G1−1)を91質量%、ポリアクリル酸(数平均分子量210,000、重量平均分子量1,290,000)を9質量%含む混合物を準備した。この混合物を、水とメタノールとの混合溶媒(質量比で水:メタノール=7:3)に溶解させ、固形分濃度が1質量%の第2コーティング液(V−3)を得た。さらに、重合体(G1−1)を重合体(G1−2)に変更した以外は第2コーティング液(V−1)〜(V−3)の調製と同様の方法によって、第2コーティング液(V−4)〜(V−6)を得た。
【0203】
実施例および比較例で使用したフィルムの詳細は以下のとおりである。
1)PET12:延伸ポリエチレンレテフタレートフィルム;東レ株式会社製、「ルミラー P60」(商品名)、厚さ12μm
2)PET125:延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム;東レ株式会社製、「ルミラー S10」(商品名)、厚さ125μm)
3)PET50:エチレン−酢酸ビニル共重合体との接着性を向上させたポリエチレンテレフタレートフィルム;東洋紡株式会社製、「シャインビーム Q1A15」(商品名)、厚さ50μm
4)ONY:延伸ナイロンフィルム;ユニチカ株式会社製、「エンブレム ONBC」(商品名)、厚さ15μm
5)CPP50:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC−21」(商品名)、厚さ50μm
6)CPP60:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC−21」(商品名)、厚さ60μm
7)CPP70:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC−21」(商品名)、厚さ70μm
8)CPP100:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC−21」(商品名)、厚さ100μm
【0204】
[実施例1]<実施例1−1>
まず、基材(X)としてPET12を準備した。この基材上に、乾燥後の厚さが0.5μmとなるようにバーコーターを用いて第1コーティング液(U−1)を塗工した。塗工後のフィルムを100℃で5分間乾燥することによって基材上に層(Y)の前駆体層を形成した。続いて、180℃で1分間熱処理することによって層(Y)を形成した。このようにして、層(Y)(0.5μm)/PETという構造を有する多層構造体(1−1)を得た。
【0205】
多層構造体(1−1)の赤外線吸収スペクトルを測定した結果、800〜1,400cm
−1の領域における最大吸収波数は1,107cm
−1であり、前記領域における最大吸収帯の半値幅は37cm
−1であった。結果を表1に示す。
【0206】
多層構造体(1−1)に含まれるナトリウムイオンを定量分析した結果、{(ナトリウムイオンのイオン価)x(ナトリウムイオンのモル数)}/(アルミニウムイオンのモル数)=0.005であった。結果を表1に示す。
【0207】
多層構造体(1−1)から21cm×30cmの大きさのサンプルを切り出し、このサンプルを23℃、50%RHの条件下で24時間静置した後、同条件下で長軸方向に5%延伸し、延伸した状態を10秒間保持することで、延伸処理後の多層構造体(1−1)とした。続いて、多層構造体(1−1)の延伸処理前後の酸素透過度および透湿度を測定した。結果を表2に示す。
【0208】
<実施例1−2〜1−23>
第1コーティング液(U−1)の代わりに第1コーティング液(U−2)〜(U−23)を用いたこと以外は実施例1の多層構造体(1−1)の作製と同様にして、実施例1−2〜1−23の多層構造体(1−2)〜(1−23)を作製した。実施例1−4の多層構造体(1−4)の金属イオン含有量を分析した結果、{(ナトリウムイオンのイオン価)x(ナトリウムイオンモル数)}/(アルミニウムイオンモル数)=0.240であった。
【0209】
<実施例1−24>
PET12上に、乾燥後の厚さが0.5μmとなるようにバーコーターを用いて第1コーティング液(U−4)をコートし、塗工後のフィルムを110℃で5分間乾燥することによって基材上に層(Y)の前駆体層を形成した。続いて、得られた積層体に対して、160℃で1分間熱処理することによって層(Y)を形成した。このようにして、層(Y)(0.5μm)/PETという構造を有する多層構造体を得た。この多層構造体の層(Y)上に、乾燥後の厚さが0.3μmになるようにバーコーターによって第2コーティング液(V−1)をコートし、200℃で1分間乾燥することによって層(W)を形成した。このようにして、層(W)(0.3μm)/層(Y)(0.5μm)/PETという構造を有する実施例1−24の多層構造体(1−24)を得た。
【0210】
<実施例1−25〜1−29>
第2コーティング液(V−1)の代わりに第2コーティング液(V−2)〜(V−6)を用いたこと以外は実施例1−24の多層構造体(1−24)の作製と同様の方法によって、実施例1−25〜1−29の多層構造体(1−25)〜(1−29)を得た。
【0211】
<実施例1−30>
PET12上に、厚さ0.03μmの酸化アルミニウムの蒸着層(X’)を真空蒸着法によって形成した。この蒸着層上に、乾燥後の厚さが0.5μmとなるようにバーコーターを用いて第1コーティング液(U−4)をコートし、塗工後のフィルムを110℃で5分間乾燥することによって基材上に層(Y)の前駆体層を形成した。続いて、得られた積層体に対して、180℃で1分間熱処理することによって層(Y)を形成した。このようにして、層(Y)(0.5μm)/蒸着層(X’)(0.03μm)/PETという構造を有する多層構造体(1−30)を得た。
【0212】
<実施例1−31>
実施例1−4で得られた多層構造体(1−4)の層(Y)上に、厚さ0.03μmの酸化アルミニウムの蒸着層(X’)を真空蒸着法により形成して、蒸着層(X’)(0.03μm)/層(Y)(0.5μm)/PETという構造を有する多層構造体(1−31)を得た。
【0213】
<実施例1−32>
PET12の両面に、厚さ0.03μmの酸化アルミニウムの蒸着層(X’)を真空蒸着法によって形成した。この、両方の蒸着層上に乾燥後の厚さが0.5μmとなるようにバーコーターを用いて第1コーティング液(U−4)をコートし、塗工後のフィルムを110℃で5分間乾燥することによって層(Y)の前駆体層を形成した。続いて、得られた積層体に対して、乾燥機を用いて180℃で1分間熱処理することによって層(Y)を形成した。このようにして、層(Y)(0.5μm)/蒸着層(X’)(0.03μm)/PET/蒸着層(X’)(0.03μm)/層(Y)(0.5μm)という構造を有する多層構造体(1−32)を得た。
【0214】
<実施例1−33>
PET12の両面に、乾燥後の厚さがそれぞれ0.5μmとなるようにバーコーターを用いて第1コーティング液(U−4)をコートし、塗工後のフィルムを110℃で5分間乾燥することによって基材上に層(Y)の前駆体層を形成した。続いて、得られた積層体に対して、乾燥機を用いて180℃で1分間熱処理することによって層(Y)を形成した。この積層体の2つの層(Y)の上に厚さ0.03μmの酸化アルミニウムの蒸着層(X’)を真空蒸着法によって形成した。このようにして、蒸着層(X’)(0.03μm)/層(Y)(0.5μm)/PET/層(Y)(0.5μm)/蒸着層(X’)(0.03μm)という構造を有する多層構造体(1−33)を得た。
【0215】
<実施例1−34>
第1コーティング液(U−1)の代わりに第1コーティング液(U−34)を用いたこと以外は実施例1−1の多層構造体(1−1)の作製と同様の方法によって、実施例1−34の多層構造体(1−34)を得た。
【0216】
<実施例1−35>
第1コーティング液(U−1)の代わりに第1コーティング液(U−34)を用い、第2コーティング液(V−1)の代わりに第2コーティング液(V−4)を使用したこと以外は実施例1−24の多層構造体(1−24)の作製と同様の方法によって、実施例1−35の多層構造体(1−35)を得た。
【0217】
<実施例1−36>
PET125上に、バーコーターを用いて第1コーティング液(U−36)を乾燥後の厚さが0.3μmとなるように塗工し、110℃で5分間乾燥させた後、180℃で1分間熱処理を行った。このようにして多層構造体(1−36)を得た。
【0218】
<実施例1−37〜1−39>
第1コーティング液(U−36)の代わりに第1コーティング液(U−37)、(U−34)、および(U−39)を使用したこと以外は実施例1−36の多層構造体(1−36)の作製と同様にして、実施例1−37〜1−39の多層構造体(1−37)〜(1−39)を得た。
【0219】
<比較例1−1〜1−6>
第1コーティング液(U−1)の代わりに第1コーティング液(CU−1)〜(CU−6)を用いたこと以外は実施例1−1の多層構造体(1−1)の作製と同様にして、比較例1−1〜1−6の多層構造体(C1−1)〜(C1−6)を作製した。比較例1−1の多層構造体(C1−1)の金属イオン含有量を分析した結果、検出下限未満({(ナトリウムイオンのイオン価)x(ナトリウムイオンモル数)}/(アルミニウムイオンモル数)=0.001未満)であった。
【0220】
<比較例1−7>
第1コーティング液(U−36)の代わりに第1コーティング液(CU−7)を用いたことを以外は実施例1−36の多層構造体(1−36)の作製と同様にして、比較例1−7の多層構造体(C1−7)を作製した。
【0221】
実施例1−1〜1−39における層(Y)、層(Y)に対応する比較例1−1〜1−7の層(CY)、および層(W)の形成条件を表1に示す。なお、表1中の略号は、以下の物質を表す。
PVA:ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製PVA124)
PAA:ポリアクリル酸(東亜合成株式会社製アロン−15H)
PPEM:ポリ(2−ホスホノオキシエチルメタクリレート)
PVPA:ポリ(ビニルホスホン酸)
【0222】
【表1】
【0223】
実施例1−2〜1−39および比較例1−1〜1−7の多層構造体について、実施例1−1の多層構造体(1−1)と同様に評価を行った。実施例および比較例における多層構造体の構成、およびそれらの評価結果を表2に示す。なお、表2中の「−」は、測定を行っていないことを示す。
【0224】
【表2】
【0225】
表2から明らかなように、実施例の多層構造体は、強い物理的ストレスを受けても、ガスバリア性および水蒸気バリア性の両方を高いレベルで維持できた。また、層(Y)に加えて層(W)を含む多層構造体は、層(Y)のみの多層構造体に比べて延伸後のバリア性がさらに高かった。また、層(Y)に加えて層(W)および無機蒸着層(X’)を含む多層構造体は、層(Y)のみの多層構造体に比べて延伸後のバリア性がさらに高かった。
【0226】
<実施例1−40〜1−49>
第1コーティング液(U−1)の代わりに第1コーティング液(U−40)〜(U−49)を使用したこと以外は実施例1−1の多層構造体(1−1)の作製と同様にして、実施例1−40〜1−49の多層構造体(1−40)〜(1−49)を得た。
【0227】
<比較例1−8>
第1コーティング液(U−1)の代わりに第1コーティング液(CU−8)を用いたこと以外は実施例1の多層構造体(1−1)の作製と同様にして、比較例1−8の多層構造体(C1−8)を作製した。
【0228】
実施例1−40〜1−49における層(Y)および層(Y)に対応する比較例1−1および1−8の層(CY)の形成条件を表3に示す。なお、表3中の略号は、以下の物質を表す。
PVA:ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製PVA124)
【0229】
【表3】
【0230】
実施例1−40〜1−49、比較例1−1および1−8で得られた多層構造体(1−40)〜(1−49)、(C1−1)および(C1−8)上に接着層を形成した後、該接着層上にONYをラミネートすることによって積層体を得た。次に、該積層体のONY上に接着層を形成した後、該接着層上に、CPP50をラミネートし、40℃で5日間静置してエージングした。このようにして、基材(X)/層(Y)/接着層/ONY/接着層/CPPという構造を有する多層構造体(1−40−2)〜(1−49−2)、(C1−1−2)、および(C1−8−2)を得た。前記2つの接着層はそれぞれ、乾燥後の厚さが3μmとなるようにバーコーターを用いて2液型接着剤を塗工し、乾燥させることによって形成した。2液型接着剤には、三井化学株式会社製の「タケラック A−520」(商品名)と三井化学株式会社製の「タケネート A−50」(商品名)とからなる2液反応型ポリウレタン系接着剤を用いた。多層構造体(1−40−2)〜(1−49−2)、(C1−1−2)、および(C1−8−2)の酸素透過度を測定した。結果を表4に示す。
【0231】
多層構造体(1−40−2)〜(1−49−2)、(C1−1−2)、および(C1−8−2)を幅120mm×120mmに裁断し、CPPが内側になるように2枚の多層構造体を重ね合わせ、長方形の3辺をヒートシールすることによって平パウチを形成し、水100gをパウチ内に充填した。続いて、得られたパウチに対して以下の条件でレトルト処理(熱水貯湯式)を行った。
レトルト処理装置:株式会社日阪製作所製 フレーバーエースRSC−60
温度:130℃
時間:30分間
圧力:0.21MPaG
【0232】
レトルト処理後すぐに、パウチから測定用サンプルを切り出し、該サンプルの酸素透過度を前記の方法で測定した。結果を表4に示す。
【0233】
【表4】
【0234】
表4から明らかなように、実施例の多層構造体は、レトルト処理前後において、ガスバリア性を高いレベルで維持できた。
【0235】
[成形品の製造例]
以下では、成形品を製造した例について説明する。
【0236】
<実施例1−50>
本発明の多層構造体を用いて縦製袋充填シール袋を作製した。まず、実施例1−1と同様の方法によって、多層構造体(1−1)を作製した。次に、三井化学株式会社製の「タケラック A−520」(商品名)と三井化学株式会社製の「タケネート A−50」(商品名)とからなる2液反応型ポリウレタン系接着剤を多層構造体(1−1)上にコートして乾燥したものを準備し、これとONYとをラミネートして積層体を得た。続いて、その積層体の延伸ナイロンフィルム上に、2液反応型接着剤(上述の「A−520」および「A−50」)をコートして乾燥したものを準備し、これとCPP70とをラミネートした。このようにして、PET/層(Y)/接着層/ONY/接着層/CPPという構造を有する多層構造体(1−50−2)を得た。次に、多層構造体(1−50−2)を幅400mmに切断して、縦型製袋充填包装機(オリヒロ株式会社製)に供給し、合掌貼りタイプの縦製袋充填シール袋(幅160mm、長さ470mm)を作製した。次に、製袋充填包装機を用いて、多層構造体(1−50−2)からなる縦製袋充填シール袋に水2kgを充填した。製袋充填包装機における多層構造体(1−50−2)の加工性は良好であり、得られた縦製袋充填シール袋の外観には、皺や筋のような欠点は見られなかった。
【0237】
<実施例1−51>
本発明の多層構造体を用いて真空包装袋を作製した。まず、実施例1−1と同様の方法によって、多層構造体(1−1)を作製した。次に、2液型の接着剤(実施例1−40で説明したA−520およびA−50)をONY上にコートして乾燥したものを準備し、それと多層構造体(1−1)とをラミネートした。次に、ラミネートされた多層構造体(1−1)上に、2液反応型接着剤(実施例1−50で使用した「A−520」および「A−50」)をコートして乾燥したものを準備し、それとCPP70とをラミネートした。このようにして、ONY/接着層/層(Y)/PET/接着層/CPPという構成を有する多層構造体(1−51−2)を得た。次に、多層構造体(1−51−2)から、22cm×30cmの長方形の積層体2枚を切り取った。そして、CPP70が内側となるように2枚の多層構造体(1−51−2)を重ね合わせ、長方形の3辺をヒートシールすることによって袋を形成した。その袋に、固形食品のモデルとして木製の球体(直径30mm)を、球体同士が接触するように1層に敷き詰めた状態で充填した。その後、袋の内部の空気を脱気して、最後の1辺をヒートシールすることにより、真空包装体を作製した。得られた真空包装体において、多層構造体(1−51−2)は球体の凹凸に沿って密着した状態となっていた。
【0238】
<実施例1−52>
本発明の多層構造体を用いてスパウト付パウチを作製した。まず、実施例1−50で説明した多層構造体(1−50−2)を所定の形状に2枚切り出した後、CPP70が内側となるように2枚の多層構造体(1−50−2)を重ね合わせ、周縁をヒートシールし、更に、ポリプロピレン製のスパウトをヒートシールによって取り付けた。このようにして、平パウチ型のスパウト付パウチを問題なく作製できた。
【0239】
<実施例1−53>
本発明の多層構造体を用いてラミネートチューブ容器を作製した。まず、実施例1−1と同様の方法によって、多層構造体(1−1)を作製した。次に、2枚のCPP100のそれぞれに、2液反応型接着剤(実施例1−50で使用した「A−520」および「A−50」)をコートして乾燥したものを準備し、多層構造体(1−1)とラミネートした。このようにして、CPP/接着層/層(Y)/PET/接着層/CPPという構造を有する多層構造体(1−53−2)を得た。次に、多層構造体(1−53−2)を所定の形状に切り出した後、筒状にして重ね合わせた部分をヒートシールすることによって、筒状体を作製した。次に、その筒状体をチューブ容器成形用のマンドレルに装着し、筒状体の一端に、円錐台状の肩部とそれに連続する先端部とを作製した。肩部および先端部は、ポリプロピレン樹脂を圧縮成形することによって形成した。次に、前記先端部に、ポリプロピレン樹脂製のキャップを付けた。次に、筒状体の開放している他端をヒートシールした。このようにして、ラミネートチューブ容器を問題なく作製できた。
【0240】
<実施例1−54>
本発明の多層構造体を用いて輸液バッグを作製した。まず、実施例1−50で説明した多層構造体(1−50−2)を所定の形状に2枚切り出した後、CPP70が内側となるように2枚の多層構造体(1−50−2)を重ね合わせ、周縁をヒートシールし、更に、ポリプロピレン製のスパウトをヒートシールによって取り付けた。このようにして、輸液バッグを問題なく作製できた。
【0241】
<実施例1−55>
本発明の多層構造体を用いて容器用蓋材を作製した。まず、実施例1−50で説明した多層構造体(1−50−2)を、容器用蓋材として、直径88mmの円形に切り出した。また、直径78mm、フランジ幅が6.5mm、高さ30mmで、ポリオレフィン層/スチール層/ポリオレフィン層の3層で構成される円柱状容器(東洋製罐株式会社製ハイレトフレックスHR78−84)を準備した。この容器に水をほぼ満杯に充填し、多層構造体(1−50−2)からなる容器用蓋材を、フランジ部にヒートシールした。このようにして、容器用蓋材を用いた蓋付き容器を問題なく作製できた。
【0242】
<実施例1−56>
本発明の多層構造体を用いて紙容器を作製した。まず、実施例1−1と同様の方法によって多層構造体(1−1)を作製した。次に、400g/m
2の板紙の両面に接着剤を塗工した後、その両面にポリプロピレン樹脂(以下、「PP」と略記することがある)を押出しコートラミネートすることによって、板紙の両面にPP層(厚さ各20μm)を形成した。その後、一方のPP層の表面に接着剤を塗工し、その上に多層構造体(1−1)をラミネートし、さらに多層構造体(1−1)の表面に接着剤を塗工し、CPP70と貼り合わせた。このようにして、PP/板紙/PP/接着層/層(Y)/PET/接着層/CPPという構成を有する多層構造体(1−56−2)を作製した。多層構造体(1−56−2)の作製において、必要に応じてアンカーコート剤を用いた。このようにして得た多層構造体(1−56−2)を用いて、ブリック型の紙容器を問題なく作製できた。
【0243】
<実施例1−57>
本発明の多層構造体を用いて真空断熱体を作製した。まず、実施例1−51で説明した多層構造体(1−51−2)を所定の形状に2枚切り出した後、CPP70が内側となるように2枚の多層構造体(1−51−2)を重ね合わせ、長方形の3辺をヒートシールすることによって袋を形成した。次に、袋の開口部から断熱性の芯材を充填し、真空包装機(Frimark GmbH製VAC−STAR 2500型)を用いて、温度20℃で内部圧力10Paの状態で袋を密封した。このようにして、真空断熱体を問題なく作製できた。なお、断熱性の芯材には、120℃の雰囲気下で4時間乾燥したシリカ微粉末を用いた。
【0244】
[実施例2]容器
まず、基材となるPETボトル(容積500mL、表面積0.041m
2、重量35g)の表面にプラズマ処理を施した。このPETボトルの表面に、浸漬法によって第1コーティング液(U−1)を塗工した後、110℃で5分間乾燥した。次いで、120℃で5分間の熱処理を施した。このようにして、基材(X)/層(Y)という構成を有する容器(2−1)を得た。
【0245】
容器(2−1)の胴部から、15cm(円周方向)×10cm(長さ方向)の大きさの測定用のサンプルを切り出し、延伸処理前後の酸素透過度および透湿度を測定した。その結果、延伸処理前の酸素透過度は0.4mL/(m
2・day・atm)、透湿度は0.2g/(m
2・day)であり、延伸処理後の酸素透過度は1.1mL/(m
2・day・atm)、透湿度は1.6g/(m
2・day)であり、本発明の容器は、強い物理的ストレスを受けても酸素バリア性および水蒸気バリア性を高いレベルで維持した。なお、延伸処理は、円周方向にサンプルを5%延伸した状態を10秒間保持することによって行った。
【0246】
[実施例3]縦製袋充填シール袋
まず、基材(X)として、PET12を用い、この基材上に、バーコーターを用いて第1コーティング液(U−1)を乾燥後の厚さが0.5μmとなるように塗工し、110℃で5分間乾燥させた。さらに180℃で1分間熱処理を行うことによって、基材(X)/層(Y)という構成を有する多層構造体(3−1−1)を作製した。多層構造体(3−1−1)の赤外線吸収スペクトルを測定した結果、800〜1,400cm
−1の領域における最大吸収波数は1,107cm
−1であり、前記領域における最大吸収帯の半値幅は37cm
−1であった。
【0247】
得られた多層構造体(3−1−1)上に接着層を形成した後、該接着層上にONYをラミネートすることによって積層体を得た。次に、該積層体のONY上に接着層を形成した後、該接着層上に、CPP70をラミネートし、40℃で5日間静置してエージングした。このようにして、基材(X)/層(Y)/接着層/ONY/接着層/CPPという構造を有する多層構造体(3−1−2)を得た。前記2つの接着層はそれぞれ、乾燥後の厚さが3μmとなるようにバーコーターを用いて2液反応型接着剤(実施例1−50で使用した「A−520」および「A−50」)を塗工し、乾燥させることによって形成した。多層構造体(3−1−2)を幅400mmに裁断し、CPP層が互いに接触してヒートシールされるように縦型製袋充填包装機(オリヒロ株式会社製)に供給した。縦型製袋充填包装機によって、
図1に示したような合掌貼りタイプの縦製袋充填シール袋(3−1)(幅160mm、長さ470mm)を作製した。縦製袋充填シール袋(3−1)から測定用のサンプルを切り出し、酸素透過度および透湿度を測定した結果、酸素透過度は0.4mL/(m
2・day・atm)、透湿度は0.2g/(m
2・day)であった。
【0248】
縦製袋充填シール袋(3−1)10個をダンボール箱(15×35×45cm)に入れた。真空包装袋とダンボール箱との隙間には、緩衝材を詰めた。そして縦製袋充填シール袋(3−1)が入ったダンボール箱をトラックに積み、岡山県と東京都の間(距離約700km)を10往復させる輸送試験を実施した。輸送試験後の縦製袋充填シール袋(2−1)から測定用のサンプルを切り出し、酸素透過度および透湿度を測定した結果、輸送試験後の酸素透過度は0.9mL/(m
2・day・atm)、透湿度は0.8g/(m
2・day)であった。本発明の縦製袋充填シール袋は、強い物理的ストレスを受けても酸素バリア性および水蒸気バリア性を高いレベルで維持した。
【0249】
[実施例4]真空包装袋
実施例3で作製した多層構造体(3−1−2)から、22cm×30cmの長方形の積層体2枚を切り取った。そして、CPP層が内側となるように2枚の多層構造体(3−1−2)を重ね合わせ、長方形の3辺をヒートシールすることによって袋を形成した。その袋に、固形食品のモデルとして木製の球体(直径30mm)を、球体同士が接触するように1層に敷き詰めた状態で充填した。その後、袋の内部の空気を脱気して、最後の1辺をヒートシールすることによって、球体の凹凸に沿って密着した状態で真空包装された真空包装袋(4−1)を得た。真空包装袋(4−1)から測定用のサンプルを切り出し、酸素透過度および透湿度を測定した結果、酸素透過度は0.6mL/(m
2・day・atm)、透湿度は0.3g/(m
2・day)であった。
【0250】
真空包装袋(4−1)50個をダンボール箱(15×35×45cm)に入れた。真空包装袋とダンボール箱との隙間には、緩衝材を詰めた。そして真空包装袋(4−1)が入ったダンボール箱をトラックに積み、岡山県と東京都の間を10往復させる輸送試験を実施した。輸送試験後の真空包装袋(4−1)から測定用のサンプルを切り出し、酸素透過度および透湿度を測定した結果、輸送試験後の酸素透過度は0.9mL/(m
2・day・atm)、透湿度は0.8g/(m
2・day)であった。本発明の真空包装袋は、強い物理的ストレスを受けても酸素バリア性および水蒸気バリア性を高いレベルで維持した。
【0251】
[実施例5]ラミネートチューブ容器
2枚のCPP100のそれぞれに接着層を形成し、実施例3で得られた多層構造体(3−1−2)とラミネートした。このようにして、CPP/接着層/多層構造体/接着層/CPPという構造を有するラミネートフィルムを得た。接着層は、乾燥後の厚さが3μmとなるようにバーコーターを用いて2液反応型接着剤(実施例1−50で使用した「A−520」および「A−50」)を塗工し乾燥させることによって形成した。
【0252】
得られたラミネートフィルムを所定の形状に切断した後、筒状にして重ね合わせた部分をヒートシールすることによって、筒状の胴体部を製造した。このヒートシールは内側のCPP層と外側のCPP層との間で行った。次に、筒状の胴体部をチューブ容器成形用のマンドレルに装着し、胴体部の一端に、取り出し部を備えた肩部を接合した。肩部は、ポリプロピレン樹脂を圧縮成形することによって形成した。次に、取り出し部に、ポリプロピレン樹脂製の蓋(キャップ)を取り付けた。次に、開口している胴体部の他方の端部から、内容物として練りわさびを充填し、この端部を内側のCPP層の内周面同士を接触させてヒートシールした。このようにして、練りわさびが充填されたラミネートチューブ容器(5−1)を得た。ラミネートチューブ容器(5−1)から測定用のサンプルを切り出し、酸素透過度および透湿度を測定した結果、酸素透過度は0.6mL/(m
2・day・atm)、透湿度は0.3g/(m
2・day)であった。
【0253】
ラミネートチューブ容器(5−1)の胴体部を指で挟み、一定の力を加えながら胴体部の長手方向に沿って指を往復運動させ、スクイーズ試験を行った。5,000往復した後に、内容物の練りわさびを取り出した。スクイーズ試験後のラミネートチューブ容器(5−1)から測定用のサンプルを切り出し、酸素透過度および透湿度を測定した結果、スクイーズ試験後の酸素透過度は0.9mL/(m
2・day・atm)、透湿度は0.8g/(m
2・day)であった。本発明のラミネートチューブ容器は、強い物理的ストレスを受けても酸素バリア性および水蒸気バリア性を高いレベルで維持した。
【0254】
[実施例6]スパウト付きパウチ
実施例3で得た多層構造体(3−1−2)から20cm×13cmの大きさの2枚のラミネート体を裁断した。続いて、裁断した2枚のラミネート体を、CPP層が内側になるように重ね合わせ、外周を0.5cmの幅でヒートシールし、さらにポリプロピレン製のスパウトをヒートシールによって取り付けた。このようにして、平パウチ型のスパウト付きパウチ(6−1)を作製した。パウチ(6−1)から測定用のサンプルを切り出し、酸素透過度および透湿度を測定した結果、酸素透過度は0.4mL/(m
2・day・atm)、透湿度は0.2g/(m
2・day)であった。
【0255】
パウチ(6−1)を、パウチ側面(ヒートシール側)を下にし、1.5mの高さより5回落下させ、屈曲試験を行った。屈曲試験後のパウチ(6−1)から測定用のサンプルを切り出し、酸素透過度および透湿度を測定した結果、酸素透過度は0.9mL/(m
2・day・atm)、透湿度は0.8g/(m
2・day)であった。本発明のスパウト付きパウチは、強い物理的ストレスを受けても酸素バリア性および水蒸気バリア性を高いレベルで維持した。
【0256】
[実施例7]平パウチ
実施例3で作製した多層構造体(3−1−2)から20cm×13cmの大きさの2枚のラミネート体を裁断した。続いて、裁断した2枚のラミネート体を、CPP層が内側になるように重ね合わせ、3辺の外周を0.5cmの幅でヒートシールした。さらに、残る1辺の開口部端部に長さ30mmのパウチ開口部を形成した。次に、幅30mmのポリテトラフルオロエチレンのシートを開口部の端部に挿入し、その状態でヒートシールを行った。ヒートシール後、ポリテトラフルオロエチレンのシートを抜き取ることによって平パウチ(7−1)を得た。平パウチ(7−1)から測定用のサンプルを切り出し、酸素透過度および透湿度を測定した結果、酸素透過度は0.4mL/(m
2・day・atm)、透湿度は0.2g/(m
2・day)であった。
【0257】
平パウチ(7−1)に400mLの蒸留水を充填し、ヘッドスペース部分を極力減らした後に開口部をヒートシールして、充填した蒸留水が漏れないように密封した。蒸留水を密封した平パウチ(7−1)の側面(ヒートシール側)を下にし、1.5mの高さより5回落下させ、屈曲試験を行った。屈曲試験後の平パウチ(7−1)から測定用のサンプルを切り出し、酸素透過度および透湿度を測定した結果、酸素透過度は0.9mL/(m
2・day・atm)、透湿度は0.8g/(m
2・day)であった。本発明の平パウチは、強い物理的ストレスを受けても酸素バリア性および水蒸気バリア性を高いレベルで維持した。
【0258】
[実施例8]輸液バッグ
実施例3で作製した多層構造体(3−1−2)から、12cm×10cmの多層構造体を2枚切り出した。続いて、切り出した2枚の多層構造体を、CPP層が内側になるように重ね合わせ、周縁をヒートシールするとともに、ポリプロピレン製のスパウト(口栓部材)をヒートシールによって取り付けた。このようにして、
図5と同様の構造を備えた輸液バッグ(8−1)作製した。輸液バッグ(8−1)より、測定用のサンプルを切り出し、酸素透過度および透湿度を測定した結果、酸素透過度は0.4mL/(m
2・day・atm)、透湿度は0.2g/(m
2・day)であった。
【0259】
輸液バッグ(8−1)に100mLの蒸留水を充填後、側面(ヒートシール側)を下にして1.5mの高さより5回落下させ、屈曲試験を行った。屈曲試験後の輸液バッグ(8−1)から測定用のサンプルを切り出し、酸素透過度および透湿度を測定した結果、酸素透過度は0.9mL/(m
2・day・atm)、透湿度は0.8g/(m
2・day)であった。本発明の輸液バッグは、強い物理的ストレスを受けても酸素バリア性および水蒸気バリア性を高いレベルで維持した。
【0260】
[実施例9]紙容器
400g/m
2の板紙の両面にポリプロピレン樹脂(PP)を押出しコートラミネートすることによって、板紙の両面に無延伸PP層(厚さ各20μm)を形成した。その後、一方のPP層の表面に接着層を形成し、その上に、実施例3で得た多層構造体(3−1−1)をラミネートした。接着層は、実施例5で説明した接着剤を用いて形成した。次に、多層構造体の表面に前記接着剤を塗布し、多層構造体とCPP50を貼り合わせた。このようにして、(外側)PP/板紙/PP/多層構造体/CPP(内側)という構成を有する多層構造体(9−1−2)を作製した。なお、多層構造体(3−1−1)は、層(Y)が基材(X)よりも板紙側となるようにラミネートした。次に、多層構造体(9−1−2)のCPPが容器の内側に面するように多層構造体(9−1−2)を成形することによって、ブリック型の紙容器(9−1)(内容量500mL)を作製した。
【0261】
紙容器(9−1)の折り曲げ部を含む部分から、円形のサンプル(直径:6.5cm)を切り出した。次に、切り出した円形のサンプルを、10cm四方のアルミ箔(厚み30μm)に開けた直径4.5cmの円の上に置き、サンプルとアルミ箔との間を2液硬化型エポキシ系接着剤(ニチバン株式会社製 「アラルダイト」(登録商標))で封止した。該サンプルの酸素透過度および透湿度を測定した結果、酸素透過度は0.7mL/(m
2・day・atm)、透湿度は0.4g/(m
2・day)であった。本発明の紙容器は、折り曲げ変形時の強い物理的ストレスを受けても酸素バリア性および水蒸気バリア性を高いレベルで維持した。
【0262】
[実施例10]ストリップテープ
実施例10では、ストリップテープを用いたブリック型紙容器を作製して評価した。まず、多層構造体(3−1−1)上に、実施例5で用いた2液型接着剤を塗布して乾燥させ、これとCPP50とをラミネートしてラミネート体を得た。続いて、そのラミネート体の多層構造体上に、前記2液型接着剤を塗布して乾燥させ、これとCPP50とをラミネートした。このようにして、CPP/接着層/多層構造体/接着層/CPP、という構成を有する多層構造体(10−1−2)を得た。この多層構造体(10−1−2)を短冊状に切断し、ストリップテープを作製した。
【0263】
次に、実施例9と同様に紙容器を作製した。ただし、実施例10では、四面の側面のうちの一側面の中央でCPPとポリプロピレン樹脂層(PP)をヒートシールしたのちに、さらにこの側面の中央部にあるヒートシール部分を多層構造体(10−1−2)からなるストリップテープで覆った。そして、ストリップテープの部分を紙容器の内側から加熱することによって多層構造体を貼り合せ、紙容器(10−1)を作製した。
【0264】
紙容器(10−1)から、紙容器の側面中央の貼り合わせ部がサンプルに占める割合が最大となるように円形のサンプル(直径:6.5cm)を切り出した。次に、切り出した円形のサンプルを、10cm四方のアルミ箔(厚み30μm)に開けた直径4.5cmの円の上に置き、サンプルとアルミ箔との間を2液硬化型エポキシ系接着剤(ニチバン株式会社製 「アラルダイト」(登録商標))で封止した。該サンプルの酸素透過度および透湿度を測定した結果、酸素透過度は0.6mL/(m
2・day・atm)、透湿度は0.2g/(m
2・day)であった。本発明のストリップテープは、ヒートシール時に圧力や熱に伴う強い物理的ストレスを受けた後も酸素バリア性および水蒸気バリア性を高いレベルで維持した。
【0265】
[実施例11]容器用蓋材
実施例3で作製した多層構造体(3−1−2)から、直径100mmの円形の多層構造体を切り取り、容器用の蓋材とした。また、容器本体として、フランジ付きの容器(東洋製罐株式会社製、「ハイレトフレックス」(登録商標)、「HR78−84」(商品名))を準備した。この容器は、上面の直径が78mmで高さが30mmのカップ形状を有する。容器の上面は解放されており、その周縁に形成されたフランジ部の幅は6.5mmである。容器は、オレフィン層/スチール層/オレフィン層の3層の積層体によって構成されている。次に、前記容器本体に水をほぼ満杯に充填し、蓋材をフランジ部にヒートシールすることによって、蓋付き容器(11−1)を得た。このとき、蓋材のCPP層がフランジ部に接触するように配置して蓋材をヒートシールした。なお、本実施例で用いられる測定方法による前記容器の酸素透過度は、実質的にゼロであった。蓋付き容器(11−1)の蓋材から測定用サンプルを切り出し、酸素透過度および透湿度を測定した結果、酸素透過度は0.4mL/(m
2・day・atm)、透湿度は0.2g/(m
2・day)であった。
【0266】
蓋付き容器(11−1)10個をダンボール箱(15×35×45cm)に入れた。蓋付き容器(11−1)とダンボール箱との隙間には、緩衝材を詰めた。そして、蓋付き容器(11−1)が入ったダンボール箱をトラックに積み、岡山県と東京都の間を10往復させる輸送試験を実施した。輸送試験後の蓋付き容器(11−1)を20℃、65%RHで1時間放置した後、容器本体の底部に穴を開けて水を抜き出した。続いて、輸送試験後の蓋付き容器(11−1)の蓋材から測定用のサンプルを切り出し、酸素透過度および透湿度を測定した結果、酸素透過度は0.9mL/(m
2・day・atm)、透湿度は0.8g/(m
2・day)であった。本発明の蓋付き容器は、強い物理的ストレスを受けても酸素バリア性および水蒸気バリア性を高いレベルで維持した。
【0267】
[実施例12]インモールドラベル容器
2枚のCPP100のそれぞれに、乾燥後の厚さが3μmとなるようにバーコーターを用いて2液型接着剤(実施例1−50で使用した「A−520」および「A−50」)を塗工して乾燥させた。次に、2枚のCPPと実施例1−1の多層構造体(1−1)とをラミネートし、40℃で5日間静置してエージングした。このようにして、CPP/接着層/基材(X)/層(Y)/接着層/CPPという構造を有する多層ラベル(12−1−2)を得た。
【0268】
多層ラベル(12−1−2)を容器成形型のメス型部の内壁表面の形状にあわせて切断し、メス型部の内壁表面に取り付けた。次に、オス型部をメス型部に押し込んだ。次に、溶融させたポリプロピレン(日本ポリプロ株式会社製の「ノバテック」(登録商標)の「EA7A」)をオス型部とメス型部との間のキャビティに220℃で注入した。このようにして、射出成形を実施し、目的の容器(12−1−3)を成形した。容器本体の厚さは700μmであり、表面積は83cm
2であった。容器の外側全体が多層ラベル(12−1−2)で覆われ、つなぎ目は多層ラベル(12−1−2)が重なり、多層ラベル(12−1−2)が容器の外側を覆わない箇所はなかった。このとき、容器(12−1−3)の外観は良好であった。
【0269】
容器の胴部から多層ラベルのつなぎ目を含まないように測定用のサンプルを切り出し、該サンプルの酸素透過度および透湿度を測定した。その結果、酸素透過度は0.4mL/(m
2・day・atm)、透湿度は0.2g/(m
2・day)であった。本発明のインモールドラベル容器は、インモールドラベル成形時に圧力や熱に伴う強い物理的ストレスを受けても酸素バリア性および水蒸気バリア性を高いレベルで達成した。
【0270】
[実施例13]押出しコートラミネーション
実施例1−1において多層構造体(1−1)上の層(Y)上に接着層を形成した後、ポリエチレン樹脂(密度;0.917g/cm
3、メルトフローレート;8g/10分)を厚さが20μmになるように該接着層上に295℃で押出しコートラミネートした。このようにして、基材(X)/層(Y)/接着層/ポリエチレンという構造を有する多層構造体(13−1−2)を得た。前記の接着層は、乾燥後の厚さが0.3μmとなるようにバーコーターを用いて2液型接着剤を塗工し、乾燥させることによって形成した。この2液型接着剤には、三井化学株式会社製の「タケラック」(登録商標)の「A−3210」と三井化学株式会社製の「タケネート」(登録商標)の「A−3070」とからなる2液反応型ポリウレタン系接着剤を用いた。
【0271】
多層構造体(13−1−2)の酸素透過度および透湿度を上述した方法によって測定した。その結果、酸素透過度は0.4mL/(m
2・day・atm)、透湿度は0.2g/(m
2・day)であった。このように、本発明で用いられる多層構造体を用いることによって、押出しコート時に圧力や熱に伴う強い物理的ストレス受けた後も高い酸素バリア性と水蒸気バリア性が達成された。
【0272】
[実施例14]真空断熱体
CPP60上に、実施例13で用いた2液反応型ポリウレタン系接着剤を乾燥後の厚さが3μmとなるように塗工し、乾燥させることによって接着層を形成した。このCPPと実施例3で作製した多層構造体(3−1−2)のPET層とを貼り合せることによって積層体(14−1−1)を得た。続いて、ONYの上に、前記の2液型接着剤を乾燥後の厚さが3μmとなるように塗工し、乾燥させることによって接着層を形成した。そして、このONYと積層体(14−1−1)とを貼り合わせることによって、CPP/接着層/多層構造体/接着層/ONY、という構造を有する多層構造体(14−1−2)を得た。
【0273】
多層構造体(14−1−2)を裁断し、サイズが70cm×30cmであるラミネート体を2枚得た。その2枚のラミネート体をCPP層同士が内面となるように重ね合わせ、3方を10mm幅でヒートシールして3方袋を作製した。次に、3方袋の開口部から断熱性の芯材を充填し、真空包装機を用いて20℃、内部圧力10Paの状態で3方袋を密封した。このようにして、真空断熱体(14−1)を得た。断熱性の芯材にはシリカ微粉末を用いた。真空断熱体(14−1)を40℃、15%RHの条件下において360日間放置した後、ピラニー真空計を用いて真空断熱体の内部の圧力を測定した結果、37.0Paであった。
【0274】
真空断熱体(14−1)から測定用のサンプルを切り出し、延伸処理前後の酸素透過度および透湿度を測定した。その結果、延伸処理前の酸素透過度は0.4mL/(m
2・day・atm)、透湿度は0.2g/(m
2・day)であり、延伸処理後の酸素透過度は1.1mL/(m
2・day・atm)、透湿度は1.4g/(m
2・day)であった。なお、延伸処理では、長軸方向に相当する一方向にサンプルを5%延伸した状態を10秒間保持することによって行った。このように、本発明の多層構造体は、強い物理的ストレスを受けても酸素バリア性および水蒸気バリア性を高いレベルで維持し、それを用いた真空断熱体は内部の圧力を良好に維持した。
【0275】
[実施例15]充填物の影響
<実施例15−1>
実施例7で説明した平パウチ(7−1)に液状物500mLを充填した。液状物として、1.5%エタノール水溶液(実施例15−1)、食用酢(実施例15−2)、pH2のクエン酸水溶液(実施例15−3)、食用油(実施例15−4)、ケチャップ(実施例13−5)、醤油(実施例15−6)、しょうがペースト(実施例15−7)、および、みかん200gを含む液体(実施例15−8)を用いた。作製した平パウチを23℃、50%RHの条件下で6ヶ月保管した。保管後の平パウチから測定用サンプルを切り出し、該サンプルの酸素透過度を測定した。実施例15−1〜15−8のサンプルの酸素透過度はいずれも、0.2mL/(m
2・day・atm)であった。
【0276】
<実施例15−2>
実施例10で説明した蓋付き容器(10−1)に、液状物を充填してシールした。液状物として、1.5%エタノール水溶液(実施例15−9)、食用酢(実施例15−10)、pH2のクエン酸水溶液(実施例15−11)、食用油(実施例15−12)、ケチャップ(実施例15−13)、醤油(実施例15−14)、しょうがペースト(実施例15−15)、および、みかん100gを含む液体(実施例15−16)を用いた。作製した蓋付き容器を23℃、50%RHの条件下で6ヶ月保管した。保管後の蓋付き容器の蓋材から測定用サンプルを切り出し、該サンプルの酸素透過度を測定した。実施例15−9〜15−16のサンプルの酸素透過度はいずれも、0.2mL/(m
2・day・atm)であった。
【0277】
実施例15−1〜15−16から明らかなように、本発明の多層構造体を用いた包装材は、食品を充填した状態で保存試験を行った後でも良好なバリア性能を示した。
【0278】
[実施例16]保護シート
<実施例16−1>
基材として、PET12を用い、その基材(PET)上に、バーコーターを用いて第1コーティング液(U−1)を乾燥後の厚さが0.5μmとなるように塗工し、110℃で5分間乾燥させた後、180℃で1分間熱処理を行った。このようにして、基材(X)/層(Y)という構成を有する多層構造体(16−1)を得た。得られた構造体の赤外線吸収スペクトルを測定した結果、800〜1,400cm
−1の領域における最大吸収波数は1,107cm
−1であり、該最大吸収帯の半値幅は37cm
−1であった。
【0279】
厚さ50μmのアクリル樹脂フィルム上に接着層を形成した後、これと多層構造体(16−1)とをラミネートすることによって積層体を得た。続いて、該積層体の多層構造体(16−1)上に接着層を形成した後、該積層体とPET50とをラミネートした。このようにして、PET/接着層/基材(X)/層(Y)/接着層/アクリル樹脂フィルム、という構成を有する保護シート(16−1)を得た。前記2つの接着層はそれぞれ、2液型接着剤を乾燥後の厚さが3μmとなるように塗工し、乾燥させることによって形成した。2液型接着剤には、三井化学株式会社製の「タケラック」(登録商標)の「A−1102」と三井化学株式会社製の「タケネート」(登録商標)の「A−3070」とからなる2液反応型ポリウレタン系接着剤を用いた。
【0280】
得られた保護シート(16−1)の酸素透過度および透湿度を測定した。酸素透過度は0.4mL/(m
2・day・atm)、透湿度は0.2g/(m
2・day)であった。また、保護シート(16−1)について、15cm×10cmの大きさの測定用サンプルを切り出した。そして、そのサンプルを23℃、50%RHの条件下で24時間放置した後、同条件下で長軸方向に5%延伸し、延伸した状態を10秒間保持することによって延伸処理を行った。延伸処理後の保護シート(16−1)の酸素透過度および透湿度を測定した。延伸処理後の酸素透過度は1.1mL/(m
2・day・atm)、透湿度は1.6g/(m
2・day)であった。
【0281】
<比較例16−1>
第1コーティング液(U−1)に代えて第1コーティング液(CU−1)を用いたこと以外は実施例16−1の多層構造体(16−1)の作製と同様にして多層構造体(C16−1)を作製した。
【0282】
多層構造体(16−1)に代えて多層構造体(C16−1)を用いたこと以外は実施例1の保護シート(16−1)の作製と同様にして、保護シート(C16−1)を作製した。保護シート(C16−1)について、実施例16−1と同様に評価を行った。延伸処理前の酸素透過度は0.2mL/(m
2・day・atm)、透湿度は6.1g/(m
2・day)であり、延伸処理後の酸素透過度は0.4mL/(m
2・day・atm)、透過湿度は7.2g/(m
2・day)であった。
【0283】
実施例の保護シート(多層構造体)は、比較例の保護シートよりも高い耐延伸性を示した。
【0284】
<実施例16−2>
実施例16−1で得た保護シート(16−1)について、可撓性の試験を行った。具体的には、ステンレス製の円筒(外径30cm)の外周面に沿って保護シート(16−1)を20周巻き付ける試験を実施した。この試験による保護シート(16−1)の破損は観察されなかった。このことから、保護シート(16−1)が可撓性を有することが確認された。
【0285】
<実施例16−3>
実施例16−1で得た多層構造体(16−1)を保護シートとして用いて太陽電池モジュールを作製した。10cm角の強化ガラス上に設置されたアモルファス系のシリコン太陽電池セルを厚さ450μmの2枚のエチレン−酢酸ビニル共重合体シートで挟み込んだ。次に、光入射側となるエチレン−酢酸ビニル共重合体シート上に多層構造体(16−1)のPET層が外側となるように貼り合わせた。このようにして太陽電池モジュールを作製した。貼り合わせは、150℃にて真空引きを3分間行った後、9分間圧着を行うことによって実施した。作製された太陽電池モジュールは、良好に作動し、長期に渡って良好な電気出力特性を示した。
本発明は、基材(X)と基材(X)上に積層された層(Y)とを含む多層構造体であって、層(Y)は、金属酸化物(A)と、金属酸化物(A)と反応可能な部位を含有するリン化合物(B)と、イオン価(F