(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5874086
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】金属ナノ粒子の製造方法および導電材料
(51)【国際特許分類】
B22F 9/24 20060101AFI20160216BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20160216BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20160216BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20160216BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20160216BHJP
【FI】
B22F9/24 Z
H01B13/00 501Z
H01B1/22 A
B82Y30/00
B82Y40/00
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-9982(P2012-9982)
(22)【出願日】2012年1月20日
(65)【公開番号】特開2013-147713(P2013-147713A)
(43)【公開日】2013年8月1日
【審査請求日】2014年3月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】503221643
【氏名又は名称】日本アトマイズ加工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】509164164
【氏名又は名称】地方独立行政法人山口県産業技術センター
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091409
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100096792
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 八郎
(74)【代理人】
【識別番号】100091395
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 博由
(72)【発明者】
【氏名】金丸 真士
(72)【発明者】
【氏名】岩田 在博
(72)【発明者】
【氏名】木練 透
(72)【発明者】
【氏名】戸嶋 直樹
(72)【発明者】
【氏名】白石 幸英
【審査官】
市川 篤
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−035781(JP,A)
【文献】
特開昭64−015309(JP,A)
【文献】
特開昭63−297511(JP,A)
【文献】
特開2002−180110(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/062186(WO,A1)
【文献】
特開2011−034749(JP,A)
【文献】
特開2010−150619(JP,A)
【文献】
特開2004−332055(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00−9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化還元電位が−1.6Vよりも高く、ニッケル、マンガン、すずおよび鉄からなる群から選ばれた金属の金属イオンに還元剤を触媒存在下で反応させて金属ナノ粒子を製造する方法において、前記還元剤はケイ素−水素単結合(Si−H)を有するケイ素化合物であり、前記触媒はパラジウム、パラジウム化合物、白金および白金化合物からなる群から選ばれた金属または化合物であることを特徴とする金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記金属イオンは金属塩からの電離によって生成され、この金属塩から前記金属イオンともに電離する陰イオンは、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、塩化物イオン、フッ化物イオン、硝酸イオン、過塩素酸イオンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の金属ナノ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液中で金属塩を還元して金属ナノ粒子の懸濁液を製造する方法に係り、特に、懸濁液から余剰還元剤等の夾雑物を効率よく除去して金属ナノ粒子の純度を容易に高めることが可能な金属ナノ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粒径がおよそ数nm〜数100nm程度の金属の微粒子のことを金属ナノ粒子という。金属ナノ粒子は、粒径が小さいことに起因する種々の特性を有しており、従来、様々な分野で利用されている。例えば、マトリクス表示液晶ディスプレイ等においては、液晶セルに充填された液晶に金属ナノ粒子を添加することにより、液晶素子の応答が高速化することが知られている。また、金属ナノ粒子は、通常のサブミクロン以上の塊状の金属に比べて焼結温度が低いことから、配線材料としてプリント配線板と電子部品の接続等に用いられている。
【0003】
金属ナノ粒子の製造方法としては、例えば、坩堝に入れて加熱した原料固体から発生した蒸気に対して不活性ガスの分子等を衝突させて急冷することにより微粒子化するガス中蒸発法が知られている。この方法によれば、高濃度かつ高純度の金属ナノ粒子を得ることができる。しかしながら、原料固体から蒸気を発生させるための設備が必要であるため、金属ナノ粒子を安価に製造することができないという課題があった。そこで、このような特別な設備を必要としないものとして、溶液中で金属塩を還元して金属ナノ粒子を製造する方法が注目されている。
【0004】
例えば、特開2004−232012号公報(特許文献1)には、「高濃度金属微粒子分散液の製造方法」という名称で、有機酸の存在下で有機金属塩を還元することにより、金属微粒子分散液を製造する方法に関する発明が開示されている。この文献に開示された金属微粒子分散液の製造方法は、有機金属塩を炭素数10以下の有機酸が有機金属塩と等モル以上含有された溶媒に溶解させて、金属換算濃度が少なくとも1質量%となるように調製された有機金属塩溶液をジオール又はヒドラジン又はヒドロキシルアミンで還元することを特徴としている。
【0005】
上記の特許文献1に記載の製造方法によれば、高濃度の有機金属塩溶液が生成されるとともに、還元剤により、この有機金属塩溶液に対し強い還元作用が発揮される。また、還元後に金属イオンが残留し難いという作用を有する。したがって、高濃度の金属微粒子分散液を容易に製造することができる。
【0006】
特開2005−220435号公報(特許文献2)には、「金属ナノ粒子及び金属ナノ粒子分散液の製造方法」という名称で、高価な設備を必要とせずに高濃度の金属ナノ粒子分散液を簡便且つ安価に連続して得ることのできる金属ナノ粒子及び金属ナノ粒子分散液の製造方法に関する発明が開示されている。この文献に開示された金属ナノ粒子および金属ナノ粒子分散液の製造方法は、少なくとも1種の金属イオンと有機分子からなる保護剤が混合された溶液を溶媒下で還元するとともに、有機分子で保護された金属ナノ粒子集合体を沈降させて回収するものである。
【0007】
上記の特許文献2に記載の製造方法によれば、生成された金属ナノ粒子は有機分子で保護されているため、溶媒に対する親和性が低下して集合体となって沈降するという作用を有する。これにより、金属ナノ粒子集合体を連続して回収することができる。
【0008】
特開2002−180110号公報(特許文献3)には、「金属コロイド溶液の製造方法」という名称で、均一な粒子径を有する金属コロイド微粒子が単分散した溶液を容易に製造可能な方法に関する発明が開示されている。この文献に開示された金属コロイド溶液の製造方法は、標準水素電極電位が−0.8〜+1.2eVの範囲にある金属塩、安定化剤及び溶媒を混合して調製した金属コロイド溶液調製用母液を、10〜95℃の温度に調整し、さらに、標準水素電極電位が−0.2〜+1.5eVの範囲にあり、かつ上記金属塩を構成する金属よりも標準水素電極電位が高い金属塩を添加するとともに、還元剤を用いてこれら2種類の金属塩を還元することを特徴としている。
【0009】
上記の特許文献3に記載の製造方法によれば、標準水素電極電位が−0.8〜+1.5eVの範囲にある金属からなる核微粒子の表面に、この核微粒子よりも標準水素電極電位が高く、かつ標準水素電極電位が−0.8〜+1.2eVの範囲にある金属が析出した複合金属微粒子が分散したコロイド溶液が生成される。そして、このコロイド溶液中には、粒径分布が狭く、大きさが揃った金属コロイド微粒子が単分散している。すなわち、本製造方法によれば、均一な粒子径を有する金属コロイド微粒子が単分散した溶液を製造することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−232012号公報
【特許文献2】特開2005−220435号公報
【特許文献3】特開2002−180110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述の特許文献1に開示された発明においては、還元剤としてジオールを用いた場合、反応させる際の温度を100℃以上にしなければならず、そのための設備を必要とする。また、ヒドラジンやヒドロキシルアミンは刺激臭を有するため、取扱いが容易でないという課題があった。
【0012】
また、特許文献2及び特許文献3に開示された発明においては、水素化ホウ素ナトリウムを還元剤として利用するため、夾雑物がナトリウム塩となる。この場合、ナトリウム塩を除去する操作を行うための設備が必要となり、製造コストが高くなるという課題があった。
【0013】
本発明は、かかる従来の事情に対処してなされたものであり、安全かつ安価に金属ナノ粒子の懸濁液を製造し、この懸濁液から夾雑物を効率よく除去して高純度の金属ナノ粒子を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明である金属ナノ粒子の製造方法は、酸化還元電位が−1.6Vよりも
高く、ニッケル、マンガン、すずおよび鉄からなる群から選ばれた金属の金属イオンに還元剤を触媒存在下で反応させて金属ナノ粒子を製造する方法において、前記還元剤はケイ素−水素単結合(Si−H)を有するケイ素化合物であり、前記触媒は
パラジウム、パラジウム化合物、白金および白金化合物からなる群から選ばれた金属または化合物であることを特徴とするものである。
【0015】
ケイ素−水素単結合を有するケイ素化合物とパラジウム化合物または白金化合物が速やかに反応し、反応系中でパラジウムまたは白金が生じる。このような製造方法によれば、触媒であるパラジウムまたは白金がケイ素−水素単結合に酸化的付加することでケイ素−水素単結合(Si−H)を有するケイ素化合物のもつ還元する能力を高め、金属イオンを還元し、金属ナノ粒子の懸濁液を生成するという作用を有する。なお、パラジウムまたは白金が存在しなければ金属イオンの還元反応が進行しないものがある。例えば、
酸化還元電位が0Vよりも低いニッケルイオンや亜鉛イオンはパラジウムまたは白金が存在しなければケイ素−水素結合を有するケイ素化合物で還元することは困難である。
酸化還元電位が0Vよりも高い銅イオン(II)の場合は、パラジウムまたは白金が存在しなくても還元反応が進行し銅ナノ粒子を与えるが、パラジウムまたは白金を存在させると還元反応が速く進行することで生産性が飛躍的に向上する。また、金属イオンが還元される際に、還元剤として使用するケイ素化合物の官能基が原料の陰イオンにより変換されるという作用を有する。例えば、酢酸ニッケルを原料に用いた場合、還元剤のケイ素−水素結合が変換されて酢酸のシリルエステルが生成する。このようにニッケルイオンの還元反応後の夾雑物は高分子量のものとなるため、限外濾過等による操作により金属ナノ粒子と高分子量の夾雑物や余剰の還元剤とを分離することとが可能となる。
【0016】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の金属ナノ粒子の製造方法において、金属イオンは金属塩からの電離によって生成され、この金属塩から金属イオンともに電離する陰イオンは、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、塩化物イオン、フッ化物イオン、硝酸イオン、過塩素酸イオンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とするものである。このような製造方法においては、金属イオンが還元される際に、加水分解し難く、空気中の湿気に対して強いケイ素化合物が生成されるという作用を有する。
【0017】
請求項3に記載の導電材料は、請求項1または2に記載の方法によって製造された金属ナノ粒子を利用したものである。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明の請求項1に記載の金属ナノ粒子の製造方法によれば、還元剤の取扱いが容易であるため、安全かつ効率的に製造作業を行うことができる。また、ケイ素化合物や余剰還元剤などの夾雑物を限外濾過等により容易に除去することができる。従って、懸濁液中の金属ナノ粒子の純度を効率よく高めることができる。
【0019】
本発明の請求項2に記載の金属ナノ粒子の製造方法においては、製造環境を無水条件に設定する必要がないため、乾燥設備の設置等による余分な設備費用が発生しない。従って、金属ナノ粒子を安価に製造することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本実施例の金属ナノ粒子の製造方法は、ケイ素−水素単結合(Si−H)を有するケイ素化合物によって金属イオンを溶液中で還元し、金属ナノ粒子の懸濁液を製造することを特徴とする。ケイ素−水素単結合(Si−H)を有するケイ素化合物は、ケイ素原子(Si)の有する4つの結合手のうち、少なくとも1つの結合手に水素原子(H)が直接結合したものであり、この水素原子の数によって区別され、それぞれモノヒドロシラン(Hが1つ)、ジヒドロシラン(Hが2つ)、トリヒドロシラン(Hが3つ)と呼ばれている。そして、ケイ素−水素単結合(Si−H)を有するケイ素化合物はほとんど無臭であり、刺激臭を伴わないため、取扱いが容易である。従って、ヒドロシラン化合物を還元剤として用いることによれば、金属ナノ粒子を安全かつ効率よく製造することができる。このように、上記3種類のヒドロシラン化合物はいずれも還元剤として優れた特性を有している。また、シロキサンポリマーのようなケイ素原子と酸素原子が直鎖状に結合した高分子であってもケイ素−水素単結合が存在すればニッケルナノ粒子の製造に用いることができる。なお、本実施例では、特にポリヒドロメチルシロキサンを用いている。本発明で用いることが可能なケイ素化合物を例示すると、ペンチルシラン、ヘキシルシラン等のアルキシシラン類、ジエチルシラン等のジアルキルシラン類、トリエチルシラン、tert−ブチルジメチルシラン等のトリアルキルシラン類、フェニルシラン、ジフェニルシラン等のフェニルシラン類、ポリヒドロメチルシロキサンなどの有機ケイ素ポリマーなどが挙げられる。
【0021】
本実施例においては、金属イオンの供給源として主に酢酸塩を用いている。同様に、塩化物塩等を用いることも可能である。上記金属塩から電離する陰イオンとしては、例えば、酢酸イオン(CH
3COO
−)、塩化物イオン(Cl
−)などがあげられる。これらの陰イオンは、多くの場合、ケイ素−水素単結合(Si−H)を有するケイ素化合物と反応して新たな化合物を形成する。例えば、酢酸イオン(CH
3COO
−)と金属イオンの溶液にポリヒドロシロキサン化合物を加えると、ポリヒドロシロキサン化合物のケイ素−水素結合の部位が酢酸シリルエステルに変換される。また、塩化物イオン(Cl
−)を含む溶液の場合は、クロロシラン化合物が生成される。
【0022】
本実施例において、触媒となるパラジウムまたは白金の供給源として酢酸パラジウム(II)、塩化白金酸(IV)を用いている。同様にパラジウム、パラジウムアセトナート、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、塩化パラジウム、白金、塩化白金(II)を用いることも可能である。
【0023】
なお、金属イオンとケイ素−水素単結合(Si−H)を有するケイ素化合物を反応させる際には、溶媒や添加剤等を共存させても良い。溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、シクロへキサノール等のアルコール類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ビニルベンゼン、フェニルアセチレン、トラン等の炭化水素類、フルオロベンゼンクロロベンゼン、クロロホルム、ジクロロメタン、ブロモベンゼン、ヨードベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、トリエチルアミン、アニリン、ピリジン等のアミン類、アセトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、安息香酸メチル、γ―ブチロラクトン、エチレンカーボート、プロピレンカーボネート等のエステル類等、N−メチル−2−ピロリドン、アセトアニリド等のアミド類、ベンゾニトリル、4−シアノ−4’−ペンチルビフェニル、4−シアノ−4’−ペンチルオキシビフェニル、等のニトリル化合物類、ニトロベンゼン等のニトロ化合物類、ヘキサンチオール、ヘプタンチオール、オクタンチオール等のチオール類および水等の溶媒から単独あるいは混合して用いることができる。また、カルボン酸塩、アルキルスルホン酸塩等の界面活性剤類、ポリ(N−ビニルピロリドン)、オレイン酸等のカルボン酸類等の酸類、ポリアクリル酸、ポリエチレングリコール、ポリ(ジメチルシロキサン)等の高分子類を添加しても良い。なお、本願発明で使用可能な溶媒は本実施例に示すものに限定されるものではない。すなわち、ポリヒドロシロキサン化合物による金属イオンの還元反応を阻害しないものであれば、上記溶媒以外の溶媒であっても良い。
【0024】
金属イオンとケイ素−水素単結合(Si−H)を有するケイ素化合物を反応させる際に溶媒を用いる場合、反応温度は、溶媒の還流温度以下であることが望ましい。ただし、これに限定されるものではなく、溶媒の沸点以上とすることもできる。また、金属イオンとケイ素−水素単結合(Si−H)を有するケイ素化合物とを、溶媒を蒸発させながら反応させても良い。なお、金属イオンとケイ素−水素単結合(Si−H)を有するケイ素化合物とを反応させる際には、反応を均一に進行させる必要があるため、磁気攪拌子やスリーワンモーター等の攪拌機で溶液を攪拌することが好ましい。また、撹拌機は、得られる金属ナノ粒子の均一性を高めるため、せん断速度が0.5m/秒以上となるように設定することが望ましい。
【0025】
金属イオンとケイ素−水素単結合(Si−H)を有するケイ素化合物との反応時間は、反応温度や溶媒等により異なるが、反応の終点についてはイオンクロマトグラフィー等で残留する金属イオンを定量することで調べることができる。なお、反応の終点は、生成される金属ナノ粒子と原料の金属イオンとで可視−紫外領域の吸収スペクトルが異なるという現象を利用することによっても調べることができる。
【0026】
また、金属イオンとケイ素−水素単結合(Si−H)を有するケイ素化合物を反応させるときの圧力は、特に限定されるものではないが、少なくとも反応に使用する容器の耐圧限界以下で行う必要がある。
【0027】
金属イオンとケイ素−水素単結合(Si−H)を有するケイ素化合物との反応濃度は特に限定されるものではなく、適宜変更可能である。すなわち、金属ナノ粒子の用途に応じて、懸濁液中の金属含有量が所望の値となるように、溶媒等の添加や濃縮等で反応濃度を調整すると良い。
【0028】
本実施例の製造方法によれば、金属ナノ粒子を製造する過程でポリヒドロシロキサン化合物と金属塩の陰イオンの反応によって生成されるケイ素化合物及び懸濁液中に残留する余剰還元剤を限外濾過や遠心分離により安全かつ効率よく除去することが可能である。これにより、懸濁液中の金属ナノ粒子の純度を効率よく高めることができる。そして、このように懸濁液中の夾雑物を限外濾過や遠心分離によって除去することによれば、高価な設備が不要であるため、設備コストの削減を図ることができる。従って、金属ナノ粒子を安価に製造することが可能である。
【実施例】
【0029】
以下に実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。金属微粒子の粒径は、透過型電子顕微鏡、X線小角散乱法により測定を行った。
【0030】
[実施例1]
酢酸ニッケル(II)0.17g、ポリ(N‐ビニルピロリドン)0.17gをエタノール50mLに溶解し、ポリ(ヒドロメチルシロキサン)([−Si(H)(CH
3)O−]n)1gを加えてエタノール還流温度に加熱し、酢酸パラジウム(II)5mgを加えると反応溶液の色が緑色から黒色に変化した。X線小角散乱、X線回折、透過型電子顕微鏡による各測定によりニッケルナノ粒子が生成したことを確認した。
【0031】
[実施例2]
酢酸ニッケル(II)0.17g、ポリ(N‐ビニルピロリドン)0.17gをエタノール50mLに溶解し、トリエチルシラン1.2gを加えてエタノール還流温度に加熱し、酢酸パラジウム(II)5mgを加えると反応溶液の色が緑色から黒色に変化した。X線小角散乱、X線回折、透過型電子顕微鏡による各測定によりニッケルナノ粒子が生成したことを確認した。
【0032】
[実施例3]
酢酸マンガン(IV)0.1g、ポリ(N‐ビニルピロリドン)0.1gをテトラエチレングリコール50mLに溶解し、ポリ(ヒドロメチルシロキサン)([−Si(H)(CH
3)O−]n)2gを加えて200度に加熱し、酢酸パラジウム(II)5mgを加えると反応溶液の色が薄赤色から黒色に変化した。X線小角散乱による測定によりマンガンナノ粒子が生成したことを確認した。
【0033】
[実施例4]
酢酸すず(II)0.4g、ポリ(N‐ビニルピロリドン)0.1gを炭酸プロピレン50mLに溶解し、ポリ(ヒドロメチルシロキサン)([−Si(H)(CH
3)O−]n)2gを加えて180度に加熱し、酢酸パラジウム(II)5mgを加えると反応溶液の色が薄黄色から黒色に変化した。X線小角散乱、X線回折による各測定によりすずナノ粒子が生成したことを確認した。
【0035】
[
実施例5]
酢酸鉄(II)0.2g、ポリ(N‐ビニルピロリドン)0.17gをエタノール50mLに溶解し、ポリ(ヒドロメチルシロキサン)([−Si(H)(CH
3)O−]n)2gを加えて還流温度に加熱し、塩化白金酸5mgを加えると反応溶液の色が青色から赤黒色に変化した。X線小角散乱、透過型電子顕微鏡による各測定により鉄ナノ粒子が生成したことを確認した。
【0036】
[比較例1]
酢酸ニッケル(II)0.17g、ポリ(N‐ビニルピロリドン)0.17gをエタノール50mLに溶解し、ポリ(ヒドロメチルシロキサン)([−Si(H)(CH
3)O−]n)1gを加えてエタノール還流温度で反応させたが、ニッケルナノ粒子が生成しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、電子部品の配線材料や液晶表示装置等、各種分野で使用される金属ナノ粒子に対して適用可能である。例えば、本発明の方法によって製造された金属ナノ粒子をバインダー樹脂、溶媒等と混合することで金属ペーストを作成し、これをインクジェット印刷、スクリーン印刷等の印刷技術等によりパターンを形成し、適当な温度、適当な時間で焼成することで金属の導電パターンを形成することができる。この導電パターンは積層コンデンサの内部電極材料として利用されることが期待される。他にも金属ナノ粒子は燃料電池等の触媒に広く利用することができる。さらに本発明における金属ナノ粒子製造方法は、特殊な製造設備を必要としないため、適用範囲が広く極めて工業的な意義が高い。