特許第5874140号(P5874140)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5874140
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】色素増感太陽電池
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/20 20060101AFI20160218BHJP
   H01L 51/44 20060101ALI20160218BHJP
【FI】
   H01G9/20 107C
   H01G9/20 113A
   H01G9/20 113B
   H01L31/04 112C
【請求項の数】6
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2011-288918(P2011-288918)
(22)【出願日】2011年12月28日
(65)【公開番号】特開2013-137963(P2013-137963A)
(43)【公開日】2013年7月11日
【審査請求日】2014年10月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】100076532
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 修
(74)【代理人】
【識別番号】100143856
【弁理士】
【氏名又は名称】中野 廣己
(72)【発明者】
【氏名】秋本 賢作
(72)【発明者】
【氏名】矢野 亨
(72)【発明者】
【氏名】坂巻 功一
【審査官】 ▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−075474(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02386607(EP,A2)
【文献】 Zhou YF,,Performances improvement of eosin Y sensitized solar cells by modifying TiO2 electrode with silane-c,Chinese Sciene Bulletin,2009年,54(15),2633-40
【文献】 Kakiage K,,High Performance of Si-O-Ti Bonds for Anchoring Sensitizing Dyes on TiO2 Electrodes in Dye-sensitize,Chemistry Letters,2010年,39(3),260-262
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/20
H01M 14/00
H01L 51/44
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒膜を有する作用電極と、対向電極と、電解質含有層又は固体電荷移動層とを具備する色素増感太陽電池であって、
上記電解質含有層又は固体電荷移動層に塩基性化合物を含み、光触媒膜が、下記一般式(1)で表される色素化合物を含む酸化物半導体層により形成されることを特徴とする色素増感太陽電池。
【化1】
(式中、Yは、基中に−CO−NR4−若しくは−SO2−NR4−を有する置換されていてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基であり、Zは共役系の基であり、R1、R2及びR3は、置換されていてもよい炭化水素基又は置換されていてもよい炭化水素オキシ基を表し、R1、R2及びR3の少なくとも一つが置換されていてもよい炭化水素オキシ基であり、R4は、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基を表す。)
【請求項2】
上記一般式(1)におけるZが、下記部分構造式(2−1)〜(2−5)の何れかで表される請求項1に記載の色素増感太陽電池。
【化2】
(式中、A1は置換されていてもよい芳香族炭化水素環基又は置換されていてもよい芳香族ヘテロ環基であり、A2は直接結合又は下記式(A2−1)〜(A2−15)で表される基から選ばれる基を1〜7個連結した基であり、R5及びR6は、置換されていてもよい炭化水素基を表し、R5及びR6は、互いに連結して環を形成してもよく、R5及びR6は互いに独立してA1と連結して環を形成してもよい。)
【化3】
(式中、A2は直接結合又は下記式(A2−1)〜(A2−15)で表される基から選ばれる基を1〜7個連結した基であり、R11、R12及びR13は、ハロゲン原子、−NCS又はシュウ酸を表し、M1及びM2は金属元素を表し、式中の水素原子は、フッ素原子、塩素原子、ヨウ素原子、臭素原子、シアノ基、ニトロ基、−OR7基、−SR7基、置換されていてもよい脂肪族炭化水素基又は−Y−SiR123で置換されていてもよく、R1、R2及びR3は上記一般式(1)におけるものと同様の基を表し、R7は、水素原子又は置換されていてもよい炭化水素基を表す。)
【化4】
(式中、Xは、S、O又はNRを表し、Rは水素原子又は置換されていてもよい炭化水素基を表し、基中の水素原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、−OR7基、−SR7基、−NR78基又は置換されていてもよい脂肪族炭化水素基で置換されていてもよく、R7及びR8は、水素原子又は置換されていてもよい炭化水素基を表す。)
【請求項3】
上記部分構造式(2−1)中の下記部分構造式(3)が、下記部分構造(3−1)〜(3−8)の何れかである請求項2に記載の色素増感太陽電池。
【化5】
(式中、A1、R5及びR6は上記部分構造式(2)と同じである。)
【化6】
(式中、R5及びR6は上記部分構造式(2−1)と同じであり、式中の水素原子は、フッ素原子、塩素原子、ヨウ素原子、臭素原子、シアノ基、ニトロ基、−OR7基、−SR7基、置換されていてもよい脂肪族炭化水素基又は−Y−SiR123で置換されていてもよく、R1、R2及びR3は上記一般式(1)におけるものと同様の基を表し、R7は、水素原子又は置換されていてもよい炭化水素基を表す。)
【請求項4】
塩基性化合物がピリジン誘導体、イミダゾール誘導体又はグアニジン塩である請求項1〜3の何れかに記載の色素増感太陽電池。
【請求項5】
電解質含有層が溶媒を含む層であって、該溶媒に少なくとも3−メトキシプロピオニトリル、プロピレンカーボネート又は3−メチル−1−プロピルイミダゾリウムヨージドを含有することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の色素増感太陽電池。
【請求項6】
酸化物半導体層を構成する酸化物半導体が酸化チタン又は酸化亜鉛である請求項1〜5の何れかに記載の色素増感太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質含有層又は固体電荷移動層に塩基性化合物を有する色素増感太陽電池において、特定の構造を有する増感色素を含む酸化物半導体層を用いた、色素増感太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
色素増感太陽電池(Dye-sensitized Solar Cell)は、(1) 製造コストがシリコン系太陽電池の1/5から1/10になると予想され、安価である、(2) 製造時におけるCO2排出量が単結晶シリコン太陽電池の1/10以下であり、少ない、(3) エネルギーペイバックタイム又はCO2ペイバックタイムが多結晶シリコン太陽電池の半分以下であり、短い、(4) 原材料の資源的制約が少ない、(5) 意匠性・加工性に優れ、大面積化が容易である、(6) アモルファスシリコン太陽電池に匹敵する10%以上の比較的高い光電変換効率を有するなどの優れた特長を有していることから、シリコン系太陽電池に替わる次世代の太陽電池として活発に開発研究が進められている。
【0003】
図1図3及び図4は、従来の色素増感太陽電池の一例の断面構成を模式的に表すものであり、図2は、図1に示した色素増感太陽電池の主要部を抜粋し拡大して表すものである。図1に示す色素増感太陽電池は、導電層11B及び金属酸化物半導体層12が積層された基板11Aからなる作用電極10と対向電極20とが電解質含有層30を介して対向配置されたものであり、作用電極10及び対向電極20のうちの少なくとも一方は、光透過性を有する電極である。図3及び図4に示す色素増感太陽電池は、基板11Aが透明なものであれば、導電層11Bが透明である必要が無い為、低コストで製造可能なため注目されている。尚、図3又は図4の構成をとる場合、導電層11Bは多孔質状又は格子状の電解質成分が透過できるものを用いる必要がある(非特許文献1及び2)。
【0004】
図1及び図2に示すように、色素増感太陽電池は、作用電極(光電変換素子)10と対向電極20、この二つの電極に挟まれる電解質含有層(電解液)30部分から構成されている。作用電極10は、ガラスのような基板11A表面に導電層11Bが形成された導電層側にナノサイズの金属酸化物半導体粒子12Bを塗布焼成して、金属酸化物半導体層12を形成し、この金属酸化物半導体粒子に色素13を化学的・物理的吸着により固定化することによって作製される。対向電極20は、ガラスのような基材21表面に導電層22が形成されたものであり、導電層側に触媒量の白金処理、もしくは導電性カーボン処理を施すことによって作製される。作用電極10と対向電極20とを重ね合わせ、その電極10,20間にヨウ素化合物を含む電解質組成物(電解質含有層30)を注入することにより太陽電池が作製される。
【0005】
また、色素増感太陽電池の発電メカニズムは、太陽光(可視光)照射によって励起された増感色素から金属酸化物半導体の伝導帯へと電子が注入され、注入された電子は光電極を通して外部回路へと導かれて対電極へと移動し、電解質組成物のレドックス反応を介して、酸化状態となった増感色素(色素カチオン)が電子を受け取り再生する。このサイクルによって、光電変換が達成される。
【0006】
しかし、現在市販されているシリコン系太陽電池と比較して光電変換効率が低いため、色素増感太陽電池は実用化には至っていない。色素増感太陽電池の光電変換効率低下の主な要因は、酸化物半導体層から電解質組成物及び色素カチオンへの逆電子移動による電圧の低下にあり、逆電子移動を抑制し電圧降下を防ぐために、電解質組成物への塩基性化合物の添加が検討されている。
【0007】
塩基性化合物の添加により、逆電子移動は抑制される一方で、金属酸化物半導体に吸着させた増感色素の脱着が起こりやすいという課題があり、増感色素にカルボキシル基、シラノール基等のアンカー基を持たせることで、金属酸化物からの脱着を抑制する試みがなされている(特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−063390号公報
【特許文献2】特開2010−027749号公報
【特許文献3】特開2011−026412号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】X.Fan, et.al., Appl. Phys. Lett., 90, 073501(2007)
【非特許文献2】Y.Yoshida, et.al., Appl. Phys. Lett., 94, 093301-093302(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、塩基性化合物を含む電解質含有層又は固体電荷移動層を用いた場合でも、増感色素の脱着を抑制できる色素増感太陽電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定の構造を有する色素化合物と塩基性化合物の組み合わせを見出し、斯かる組み合わせが上記目的を達成し得ることを知見し、本発明に至った。
【0012】
即ち、本発明は、光触媒膜を有する作用電極と、対向電極と、電解質含有層又は固体電荷移動層とを具備する色素増感太陽電池であって、
上記電解質含有層又は固体電荷移動層に塩基性化合物を含み、光触媒膜が、下記一般式(1)で表される色素化合物を含む酸化物半導体層により形成されることを特徴とする色素増感太陽電池を提供するものである。
【0013】
【化1】
(式中、Yは、基中に−CO−NR4−若しくは−SO2−NR4−を有する置換されていてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基又は直接結合であり、Zは共役系の基であり、R1、R2及びR3は、置換されていてもよい炭化水素基又は置換されていてもよい炭化水素オキシ基を表し、R1、R2及びR3の少なくとも一つが置換されていてもよい炭化水素オキシ基であり、R4は、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基を表す。)
【発明の効果】
【0014】
本発明の色素増感太陽電池は、電解質含有層又は固体電荷移動層に塩基性化合物を含む場合であっても、増感色素が、炭化水素オキシ基とSiとが結合したシリル基を有することで、金属酸化物半導体への吸着性に優れるものである。また、吸着性が高いため、本発明の色素増感太陽電池は、高効率、高耐久の素子である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、従来の色素増感太陽電池の一例における断面構成を示す模式図である。
図2図2は、図1に示した色素増感太陽電池の主要部の拡大図である。
図3図3は、従来の色素増感太陽電池の別の例における断面構成を示す模式図である。
図4図4は、従来の色素増感太陽電池の更に別の例における断面構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の色素増感太陽電池について、好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の色素増感太陽電池の構成自体は、光触媒膜を有する作用電極と、対向電極と、電解質含有層とを具備していれば、特に限定されず、具体例としては、図1図3及び図4で示されるような構成のものであればよい。
【0017】
この色素増感太陽電池では、作用電極10に担持された色素13に対して光(太陽光又は、太陽光と同等の紫外光、可視光あるいは近赤外光)が照射されると、その光を吸収して励起した色素13が電子を金属酸化物半導体層12へ注入する。その電子が隣接した導電層11Bに移動したのち外部回路を経由して、対向電極20に到達する。一方、電解質含有層30では、電子の移動に伴い酸化された色素13を基底状態に戻す(還元する)ように、電解質が酸化される。この酸化された電解質が上記対向電極20に到達した電子を受け取ることによって還元される。このようにして、作用電極10及び対向電極20の間における電子の移動と、これに伴う電解質含有層30における酸化還元反応とが繰り返される。これにより、連続的な電子の移動が生じ、定常的に光電変換が行われる。
【0018】
作用電極10について説明する。作用電極10は、例えば、導電性基板11と、その一方の面(対向電極20の側の面)に設けられた金属酸化物半導体層12と、金属酸化物半導体層12に担持された色素13とを有している。本発明の色素増感太陽電池においては、色素13が上記一般式(1)で表される化合物である。
作用電極10は、外部回路に対して、負極として機能するものである。導電性基板11は、例えば、絶縁性の基板11Aの表面に導電層11Bを設けたものである。
【0019】
基板11Aの材料としては、例えば、ガラス、プラスチック等の絶縁性材料が挙げられる。プラスチックは、例えば透明ポリマーフィルムの形態で用いられ、透明ポリマーフィルムを形成するプラスチックとしては、例えば、テトラアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAR)、ポリスルフォン(PSF)、ポリエステルスルフォン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、環状ポリオレフィンあるいはブロム化フェノキシ等が挙げられる。
【0020】
導電層11Bとしては、例えば、酸化インジウム、酸化スズ、インジウム−スズ複合酸化物(ITO)あるいは酸化スズにフッ素をドープしたもの(FTO:F−SnO2)等を含む導電性金属酸化物薄膜や、金(Au)、銀(Ag)あるいは白金(Pt)等を含む金属薄膜及び金属メッシュ、導電性高分子等で形成されたもの等が挙げられる。
【0021】
なお、導電性基板11は、例えば、導電性を有する材料によって単層構造となるように構成されていてもよく、その場合、導電性基板11の材料としては、例えば、酸化インジウム、酸化スズ、インジウム−スズ複合酸化物あるいは酸化スズにフッ素をドープしたもの等の導電性金属酸化物や、金、銀あるいは白金等の金属や、導電性高分子等が挙げられる。
【0022】
金属酸化物半導体層12は、色素13を担持する担持体であり、例えば、図2に示したように多孔質構造を有している。金属酸化物半導体層12は、緻密層12Aと多孔質層12Bとから形成されている。緻密層12Aは、導電性基板11との界面において形成され、緻密で空隙の少ないものであることが好ましく、膜状であることがより好ましい。多孔質層12Bは、電解質含有層30と接する表面において形成され、空隙が多く、表面積の大きな構造であることが好ましく、特に、多孔質の微粒子が付着している構造であることがより好ましい。なお、金属酸化物半導体層12は、例えば、膜状の単層構造となるように形成されていてもよい。本明細書中、担持とは、色素13が、多孔質層12Bと化学的、物理的又は電気的に結合又は吸着している状態である。
【0023】
金属酸化物半導体層12を構成する材料(金属酸化物半導体材料)としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ニオブ、酸化インジウム、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化バナジウム、酸化イットリウム、酸化アルミニウムあるいは酸化マグネシウム等が挙げられる。中でも、金属酸化物半導体材料としては、高い変換効率が得られるため、酸化チタン及び酸化亜鉛が好ましい。また、これらの金属酸化物半導体材料は、いずれか1種を単独で用いてもよいが、2種以上を複合(混合、混晶、固溶体、表面被覆等)させて用いてもよく、例えば、酸化チタンと酸化亜鉛等の組み合わせで使用することもできる。
【0024】
多孔質構造を有する金属酸化物半導体層12の形成方法としては、例えば、電解析出法や、塗布法や、焼成法等が挙げられる。電解析出法により金属酸化物半導体層12を形成する場合には、金属酸化物半導体材料の微粒子を含む電解浴液中において、導電性基板11の導電層11B上にその微粒子を付着させると共に金属酸化物半導体材料を析出させる。塗布法により金属酸化物半導体層12を形成する場合には、金属酸化物半導体材料の微粒子を分散させた分散液(金属酸化物スラリー)を導電性基板11の上に塗布したのち、分散液中の分散媒を除去するために乾燥させる。焼結法により金属酸化物半導体層12を形成する場合には、塗布法と同様にして金属酸化物スラリーを導電性基板11の上に塗布、乾燥したのち、焼成する。中でも、電解析出法あるいは塗布法により金属酸化物半導体層12を形成すれば、基板11Aとして耐熱性が低いプラスチック材料やポリマーフィルム材料を用いることができるため、フレキシブル性の高い電極を作製することができる。
【0025】
また、金属酸化物半導体層12は、有機塩基、尿素誘導体、環状糖鎖を用いて処理してもよい。有機塩基としては、ジアリールアミン、トリアリールアミン、ピリジン、4−t−ブチルピリジン、ポリビニルピリジン、キノリン、ピペリジン、アミジン等の有機塩基が挙げられる。該処理は、下記で説明する色素13を吸着させる前でも後でもよい。処理方法としては浸漬処理が挙げられ、処理剤が固体の場合、有機溶媒に溶解した上で浸漬処理すればよい。
【0026】
色素13は、金属酸化物半導体層12に対して、例えば吸着しており、光を吸収して励起されることにより、電子を金属酸化物半導体層12へ注入することが可能な1種あるいは2種以上の色素(増感色素)を含んでいる。本発明の色素増感太陽電池において、上記一般式(1)で表される化合物が色素13に該当するものである。色素13として上記一般式(1)で表される化合物を用いることで、後で説明する電解質含有層30に塩基性化合物を含んでいても色素13の脱着が抑制される。
【0027】
色素13として用いられる上記一般式(1)で表される化合物について説明する。
上記一般式(1)におけるYが表す基は、2価の基であり、−CO−NR4−若しくは−SO2−NR4−を有する置換されていてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基又は直接結合である。置換されていてもよい炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基、無置換芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素基で置換された芳香族炭化水素基、無置換ヘテロ環基又は脂肪族炭化水素基で置換されたヘテロ環基が挙げられる。
【0028】
2価の脂肪族炭化水素基としては、直鎖、分岐鎖又は環状の脂肪族炭化水素基であり、具体的には、メタン−1,1−ジイル、エタン−1,2−ジイル、1−メチルエタン−1,2−ジイル、プロパン−1,3−ジイル、ブタン−1,4−ジイル、2−メチルプロパン−1,3−ジイル、ペンタン−1,5−ジイル、ヘキサン−1,6−ジイル、ヘプタン−1,7−ジイル、オクタン−1,8−ジイル、ノナン−1,9−ジイル、デカン−1,10−ジイル又はシクロヘキサン−1,4−ジイル等が挙げられる。中でも、メタン−1,1−ジイル、エタン−1,2−ジイル、1−メチルエタン−1,2−ジイルは、作用電極(光電変換素子)10の変換効率が高くなるため好ましい。
【0029】
2価の無置換芳香族炭化水素基としては、1,2−フェニレン、1,3−フェニレン又は1,4−フェニレン等が挙げられる。
【0030】
2価の無置換ヘテロ環基としては、フラン−2,5−ジイル、フラン−3,5−ジイル、チオフェン−2,5−ジイル、チオフェン−3,5−ジイル、2H−クロメン−3,7−ジイル、ベンゾチオフェン−2,6−ジイル又はベンゾチオフェン−2,5−ジイル等が挙げられる。
【0031】
脂肪族炭化水素基で置換された2価の芳香族炭化水素基及び脂肪族炭化水素基で置換された2価のヘテロ環基としては、例えば、上記2価の無置換芳香族炭化水素基及び無置換ヘテロ環基の水素原子が炭素原子数1〜4の脂肪族炭化水素基で1〜3箇所置換されたものが挙げられる。
炭素原子数1〜4の脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、s−ブチル、t−ブチル、イソブチル、シクロプロピル、シクロブチル等の直鎖、分岐鎖又は環状のアルキル基が挙げられ、炭素原子数1〜4の脂肪族炭化水素基は、−O−、−COO−、−OCO−、−CO−、−S−、−SO−、−SO2−、−NR10−、−C=C−又は−C≡C−で中断されていてもよく、R10は炭素原子数1〜4の脂肪族炭化水素基であり、その例としては上記炭素原子数1〜4の脂肪族炭化水素基と同じであり、中断する基に炭素原子を含む場合、中断される基を含めた炭素原子数が1〜4である。
【0032】
以上に挙げた脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基又はヘテロ環基は、さらに置換されていてもよく、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基及び芳香族ヘテロ環基を置換してもよい基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、水酸基、チオール基又は−NR78基等が挙げられる。R7及びR8は、後述する式(A2−1)〜(A2−15)におけるR7及びR8と同様の基を表す。また、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基又はヘテロ環基中にメチレンを有する場合、二つの水素原子は同一の酸素原子で置換されカルボニルであってもよい。
【0033】
Yが表す基の好ましい具体例としては、下記部分構造式(Y−1)〜(Y−12)の何れかで表されるものが挙げられる。
【0034】
【化2】
【0035】
Zはπ共役基であれば特に限定されず、置換基を有していてもよい。本発明においては、Zが表すπ共役基に窒素原子を含む又はZを置換する基がアミノ基であることが好ましい。本発明において、π共役基とは、不飽和結合が連なって形成されていることを表し、Zが表すπ共役基の中でも、作用電極(光電変換素子)10の変換効率が高くなる点で、連なって形成されている不飽和結合の炭素数が4〜60であることが好ましく、12〜40であることが更に好ましい。尚、Zが複数の窒素原子を有する場合、最も小さい不飽和結合炭素の連結数が上記好ましい範囲を表す。
【0036】
また、Zが表すπ共役基の好ましい具体例としては、下記部分構造式(2−1)〜(2−5)の何れかで表されるものが挙げられる。
【0037】
【化3】
(式中、A1は置換されていてもよい芳香族炭化水素環基又は置換されていてもよい芳香族ヘテロ環基であり、A2は直接結合又は下記式(A2−1)〜(A2−15)で表される基から選ばれる基を1〜7個連結した基であり、R5及びR6は、置換されていてもよい炭化水素基を表し、R5及びR6は、互いに連結して環を形成してもよく、R5及びR6は互いに独立してA1と連結して環を形成してもよい。)
【化4】
(式中、A2は直接結合又は下記式(A2−1)〜(A2−15)で表される基から選ばれる基を1〜7個連結した基であり、R11、R12及びR13は、M2に配位する公知の配位子を表し、M1及びM2は金属元素を表し、式中の水素原子は、フッ素原子、塩素原子、ヨウ素原子、臭素原子、シアノ基、ニトロ基、−OR7基、−SR7基、置換されていてもよい脂肪族炭化水素基又は−Y−SiR123で置換されていてもよく、R1、R2及びR3は上記一般式(1)におけるものと同様の基を表し、R7は、水素原子又は置換されていてもよい炭化水素基を表す。)
【0038】
【化5】
(式中、Xは、S、O又はNRを表し、Rは水素原子又は置換されていてもよい炭化水素基を表し、基中の水素原子は、フッ素原子、臭素原子、塩素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、−OR7基、−SR7基、−NR78基又は置換されていてもよい脂肪族炭化水素基で置換されていてもよく、R7及びR8は、水素原子又は置換されていてもよい炭化水素基を表す。)
【0039】
上記部分構造式(2−1)におけるA1が表す基は、2価の基であり、置換されていてもよい芳香族炭化水素環基又は置換されていてもよい芳香族ヘテロ環基である。
上記芳香族炭化水素環基としては、無置換芳香族炭化水素環基又は脂肪族炭化水素基で置換された芳香族炭化水素環基等が挙げられ、上記芳香族ヘテロ環基としては、無置換芳香族ヘテロ環基又は脂肪族炭化水素基で置換された芳香族ヘテロ環基等が挙げられる。
【0040】
2価の無置換芳香族炭化水素環基としては、1,2−フェニレン、1,3−フェニレン、1,4−フェニレン、ナフタレン−1,2−ジイル、ナフタレン−1,3−ジイル、ナフタレン−1,4−ジイル、ナフタレン−1,5−ジイル、ナフタレン−1,6−ジイル、ナフタレン−1,7−ジイル、ナフタレン−1,8−ジイル、ナフタレン−2,3−ジイル、ナフタレン−2,6−ジイル、アントラセン−1,4−ジイル、アントラセン−1,5−ジイル、アントラセン−1,10−ジイル、アントラセン−9,10−ジイル、ペリレン−3−10−ジイル、ペリレン−3,10−ジイル、ピレン−1,6−ジイル又はピレン−2,7−ジイル等が挙げられる。
【0041】
脂肪族炭化水素基で置換された2価の芳香族炭化水素環基としては、例えば、上記2価の無置換芳香族炭化水素環が炭素原子数1〜20の脂肪族炭化水素基で1〜3箇所置換されたものが挙げられる。
炭素原子数1〜20の脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、s−ブチル、t−ブチル、イソブチル、アミル、イソアミル、t−アミル、ヘキシル、ヘプチル、イソヘプチル、t−ヘプチル、n−オクチル、イソオクチル、t−オクチル、ノニル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル、シクロデシル等の直鎖、分岐鎖又は環状のアルキル基が挙げられ、炭素原子数1〜20の脂肪族炭化水素基は、−O−、−COO−、−OCO−、−CO−、−S−、−SO−、−SO2−、−NR9−、−C=C−又は−C≡C−で中断されていてもよく、R9は炭素原子数1〜20の脂肪族炭化水素基であり、その例としては上記炭素原子数1〜20の脂肪族炭化水素基と同じであり、中断する基に炭素原子を含む場合、中断される基を含めた炭素原子数が1〜20である。
【0042】
2価の無置換芳香族ヘテロ環基としては、フラン−2,5−ジイル、フラン−3,5−ジイル、チオフェン−2,5−ジイル、チオフェン−3,5−ジイル、2H−クロメン−3,7−ジイル、ベンゾチオフェン−2,6−ジイル又はベンゾチオフェン−2,5−ジイル等が挙げられる。
【0043】
脂肪族炭化水素基で置換された2価の芳香族ヘテロ環基としては、例えば、1−アルキル−ピロール−2,5−ジイル又は1−アルキル−ピロール−3,5−ジイル等、上記2価の無置換芳香族へテロ環基が炭素原子数1〜20の脂肪族炭化水素基で1〜3箇所置換されたものが挙げられる。また、炭素原子数1〜20の脂肪族炭化水素基は、上記と同様の基である。
【0044】
以上に挙げた芳香族炭化水素環基又は芳香族ヘテロ環基は、さらに置換されていてもよく、芳香族炭化水素環基及び芳香族ヘテロ環基を置換してもよい基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、水酸基、チオール基又は−NR78基等が挙げられる。R7及びR8は、上記式(A2−1)〜(A2−15)におけるR7及びR8と同様の基を表す。また、芳香族炭化水素環基又は芳香族ヘテロ環基中にメチレンを有する場合、二つの水素原子は同一の酸素原子で置換されカルボニルであってもよい。
【0045】
上記式(2−1)〜(2−5)におけるA2が表す基としては、直接結合又は上記式(A2−1)〜(A2−15)で表される基から選ばれる基を1〜7個連結した基であり、好ましくは1〜4個連結した基であり、更に好ましくは2〜4個連結した基である。上記式(A2−1)〜(A2−15)で表される基は、それぞれ連結する方向は自由である。尚、上記式(A2−1)〜(A2−15)中の*は、これらの式で表される基が、*部分で、隣接する基と結合することを意味する(以下同様)。
【0046】
上記式(A2−1)〜(A2−15)において、Xは、S、O又はNRを表し、Rは水素原子又は置換されていてもよい炭化水素基を表す。Rで表される置換されていてもよい炭化水素基は、R1、R2及びR3で表される置換されていてもよい炭化水素基として後に挙げるものと同様である。
【0047】
上記式(A2−1)〜(A2−15)で表される基に含まれる水素原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、−OR7基、−SR7基、−NR78基又は置換されていてもよい脂肪族炭化水素基で置換されていてもよく、R7及びR8は、水素原子又は置換されていてもよい炭化水素基を表す。これらA2を置換する基は互いに連結して環を形成してもよい。
上記の置換されていてもよい脂肪族炭化水素基としては、例えば前述の炭素原子数1〜20の脂肪族炭化水素基が挙げられ、それらを置換してもよい置換基は、芳香族炭化水素環基及び芳香族ヘテロ環基を置換してもよい基として挙げたものと同様である。
7及びR8で表される上記の置換されていてもよい炭化水素基は、R1、R2及びR3で表される置換されていてもよい炭化水素基として後に挙げるものと同様である。
【0048】
上記部分構造式(2−1)におけるA1−A2部分の構造の具体例としては、以下のA(1)〜(35)の何れかで表わされるものが挙げられる。以下に示すA部分において、左端の環構造がA1であり、それ以外の部分がA2に該当する。
尚、以下には、置換基を有していないものを示しているが、上記の通り、A1は置換基を有していてもよく、A2中の水素原子は置換基で置換されていてもよい。また、以下のA(16)〜(36)において、複数の環にまたがって記載されている結合手は、それらの環を構成する炭素原子のいずれかに結合することを意味する(以下同様)。
【0049】
【化6】
【0050】
上記一般式(1)におけるR1、R2及びR3で表される置換されていてもよい炭化水素基の炭化水素基としては、芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素で置換された芳香族炭化水素基又は脂肪族炭化水素基等が挙げられる。
上記芳香族炭化水素基としては、フェニル、ナフチル、シクロヘキシルフェニル、ビフェニル、ターフェニル、フルオレイル、チオフェニルフェニル、フラニルフェニル、2’−フェニル−プロピルフェニル、ベンジル又はナフチルメチル等が挙げられ、上記脂肪族炭化水素基としては、例えばA1の説明で用いた炭素原子数1〜20の脂肪族炭化水素基が挙げられ、上記脂肪族炭化水素基で置換された芳香族炭化水素基としては、上記脂肪族炭化水素基で置換されたフェニル、ナフチル又はベンジル等が挙げられる。
これらの炭化水素基を置換してもよい基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、水酸基、チオール基又は−NR78基等が挙げられ、R7及びR8が表す基は、A2において説明したR7及びR8と同様である。
【0051】
上記一般式(1)におけるR1、R2及びR3で表される置換されていてもよい炭化水素オキシ基とは、上記R1が表す置換されていてもよい炭化水素基とSi原子との間が−O−で中断されるものである。
【0052】
1、R2及びR3が表す基は、少なくとも一つが置換されていてもよい炭化水素オキシ基である。後で説明する担持体への吸着性が優れる点で、好ましくは、R1、R2及びR3の少なくとも一つが脂肪族炭化水素オキシ基又はR1、R2及びR3のすべてが置換されていてもよい炭化水素オキシ基である。更に好ましくは、R1、R2及びR3の2〜3個が直鎖又は分岐鎖脂肪族炭化水素オキシ基(特に炭素原子数1〜5のもの)であり、0〜1個が直鎖又は分岐鎖脂肪族炭化水素基(特に炭素原子数1〜5のもの)であり、最も好ましくは、R1、R2及びR3のすべてが直鎖又は分岐鎖脂肪族炭化水素オキシ基(特に炭素原子数1〜5のもの)である。
【0053】
上記部分構造式(2−1)におけるR5及びR6で表される置換されていてもよい炭化水素基としては、R1で表される置換されていてもよい炭化水素基として上記で説明した基が挙げられ、R5及びR6は、互いに連結して環を形成してもよく、R5及びR6は互いに独立してA1と連結して環を形成してもよい。
【0054】
上記式(2−3)において、M1の金属元素としては、具体的には、Cu、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Sn、Yb、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Th、U、Mn、Cr、Fe、Co、Zn、Mo、Ni又はRh等が挙げられ、これらの中でも、Cu、Ti、Ni、Fe又はZnが好ましく、Cu又はZnがより好ましい。
上記式(2−4)及び(2−5)において、M2の金属元素としては、4配位又は6配位が可能な金属を表し、好ましくはRu、Fe、Os、Cu、W、Cr、Mo、Ni、Pd、Pt、Co、Ir、Rh、Re、Mn又はZnであり、更に好ましくはRu、Fe、Os又はCuであり、特に好ましくはRuである。
【0055】
上記式(2−4)及び(2−5)において、R11、R12及びR13で表されるM2に配位する公知の配位子としては、単座、二座又は三座の配位子であり、また、配位子は中性配位子であっても陰イオン性の配位子であってもよい。具体的な配位子としては、特に限定されないが、好ましくはハロゲン原子、−NCS又はシュウ酸等が挙げられ、より好ましくはハロゲン原子又は−NCSである。
【0056】
上記式(2−1)で表される化合物の中でも下記部分構造(3)が、下記部分構造(3−1)〜(3−10)の何れかである化合物は、光電変換用途として特に良好な特性を示すため好ましい。特に下記部分構造(3−1)、(3−2)又は(3−7)の骨格を有するものは、製造が容易であり、金属酸化物半導体への電子注入効率が高いため好ましい。
尚、下記部分構造(3)及び(3−1)〜(3−8)において、A1からA2への結合手は記載を省略している。下記部分構造(3−1)〜(3−8)においては、A1からA2への結合手は、芳香族炭化水素環及び芳香族ヘテロ環を構成するいずれの炭素原子に付いていてもよい。
【0057】
【化7】
(式中、A1、R5及びR6は上記部分構造式(2−1)と同じである。)
【0058】
【化8】
(式中、R5及びR6は上記部分構造式(2−1)と同じであり、式中の水素原子は、フッ素原子、塩素原子、ヨウ素原子、臭素原子、シアノ基、ニトロ基、−OR7基、−SR7基、置換されていてもよい脂肪族炭化水素基又は−Y−SiR123で置換されていてもよく、R1、R2及びR3は上記一般式(1)におけるものと同様の基を表し、R7は、水素原子又は置換されていてもよい炭化水素基を表す。)
【0059】
また、上記一般式(1)で表される化合物の中でもYの表す基が、基中に−CO−NR4−又は−SO2−NR4−を有する置換されていてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基である化合物は、製造が特に容易であるため好ましい。
【0060】
上記一般式(1)で表される化合物の具体例としては、以下のNo.1〜135の化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。尚、式中Meはメチル基、Etはエチル基、Prはプロピル基、Buはブチル基、Hexはヘキシル基、Octはオクチル基、Nonはノニル基、Decはデシル基、TBAはテトラブチルアンモニウム基を表す。
【0061】
【化9】
【0062】
【化10】
【0063】
【化11】
【0064】
【化12】
【0065】
【化13】
【0066】
【化14】
【0067】
【化15】
【0068】
【化16】
【0069】
【化17】
【0070】
【化18】
【0071】
本発明の色素増感太陽電池に用いられる上記一般式(1)で表される化合物は、公知或いは周知一般の反応を利用した方法で得ることができ、その合成方法には特に限定されない。例えば、上記一般式(1)におけるYが直接結合の化合物(1’)は、下記反応式(ア)に示す通り、ハロゲン体(11)及びシリル化剤(12)を反応させることにより得られる。尚、必要に応じて触媒、配位子及び塩基は変更してもよい。
また、Yが基中に−CO−NR4−又は−SO2−NR4−を有する置換されていてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基である化合物は、カルボン酸基を有する共役体のカルボン酸を酸クロリドへ変換した後、シリル基を有する1級又は2級アミン化合物を反応させることにより得られる。尚、反応に用いる試薬は必要に応じて変更してもよく、また、カルボン酸の替わりにスルホン酸を用いた場合も同様に合成できる。
【0072】
【化19】
(式中、Z、R1、R2、R3は上記一般式(1)と同じ基を表し、Xはハロゲン原子を表し、dbaはジベンジリデンアセトン配位子を表す。)
【0073】
色素13は、上記一般式(1)で表される化合物を少なくとも一種含んでいればよく、他の色素を含んでいてもよい。他の色素としては有機色素(以下、他の有機色素という)及び有機金属錯体化合物が挙げられ、好ましくは、金属酸化物半導体層12に吸着できる基を有する色素が好ましい。
【0074】
他の有機色素としては、エオシンY、ジブロモフルオレセイン、フルオレセイン、ローダミンB 、ピロガロール、ジクロロフルオレセイン、エリスロシンB(エリスロシンは登録商標)、フルオレシン、マーキュロクロム、シアニン系色素、メロシアニンジスアゾ系色素、トリスアゾ系色素、アントラキノン系色素、多環キノン系色素、インジゴ系色素、ジフェニルメタン系色素、トリメチルメタン系色素、キノリン系色素、ベンゾフェノン系色素、ナフトキノン系色素、ペリレン系色素、フルオレノン系色素、スクワリリウム系色素、アズレニウム系色素、ペリノン系色素、キナクリドン系色素、無金属フタロシアニン系色素、無金属ポルフィリン系色素又は無金属アザポルフィリン系色素等が挙げられる。
有機金属錯体化合物としては、芳香族複素環内にある窒素アニオンと金属カチオンとで形成されるイオン性の配位結合と、窒素原子又はカルコゲン原子と金属カチオンとの間に形成される非イオン性配位結合の両方を有する有機金属錯体化合物や、酸素アニオン又は硫黄アニオンと金属カチオンとで形成されるイオン性の配位結合と、窒素原子又はカルコゲン原子と金属カチオンとの間に形成される非イオン性配位結合の両方を有する有機金属錯体化合物等が挙げられる。具体的には、銅フタロシアニン、チタニルフタロシアニン、コバルトフタロシアニン、ニッケルフタロシアニン、鉄フタロシアニン等の金属フタロシアニン系色素、金属ナフタロシアニン系色素、金属ポルフィリン系色素、金属アザポルフィリン系色素ならびにルテニウム、鉄、オスミウムを用いたビピリジル金属錯体、ターピリジル金属錯体、フェナントロリン金属錯体、ビシンコニン酸金属錯体、アゾ金属錯体あるいはキノリノール金属錯体等のルテニウム錯体等が挙げられる。
【0075】
また、色素13は、上記した色素の他に、1種あるいは2種以上の添加剤を含んでいてもよい。この添加剤としては、例えば、色素中の化合物の会合を抑制する会合抑制剤が挙げられ、具体的には、化学式(13)で表されるコール酸系化合物等である。これらは単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
【0076】
【化20】
(式中、R91は酸性基又はアルコキシシリル基を有するアルキル基である。R92は化学式中のステロイド骨格を構成する炭素原子の何れかに結合する基を表し、水酸基、ハロゲン基、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、複素環基、アシル基、アシルオキシ基、オキシカルボニル基、オキソ基、酸性基あるいはアルコキシシリル基又はそれらの誘導体であり、それらは同一であってもよいし異なっていてもよい。tは1以上5以下の整数である。化学式中のステロイド骨格を構成する炭素原子と炭素原子との間の結合は、単結合であってもよいし、二重結合であってもよい。)
【0077】
次に、対向電極20について説明する。対向電極20は、例えば、導電性基板21に導電層22が設けられたものであり、外部回路に対して正極として機能するものである。導電性基板21の材料としては、例えば、作用電極10の導電性基板11の基板11Aの材料と同様のものが挙げられる。導電層22は、1種あるいは2種以上の導電材と、必要に応じて結着材を含んで構成されている。導電層22に用いられる導電材としては、例えば、白金、金、銀、銅(Cu)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)あるいはインジウム(In)等の金属、炭素(C)、又は導電性高分子等が挙げられる。また、導電層22に用いられる結着材としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、セルロース、メラミン樹脂、フロロエラストマー又はポリイミド樹脂等が挙げられる。なお、対向電極20は、例えば、導電層22の単層構造であってもよい。
【0078】
次に、電解質含有層30について説明する。本発明の色素増感太陽電池における電解質含有層30は、光電変換素子の発電効率向上、耐久性向上等の目的で、ピリジン系化合物(特開2003−331936号公報)等の塩基性化合物を含有していれば特に限定されず、公知の電解質(電解液)を用いることが出来る。好ましい塩基性化合物としては、ピリジン誘導体、イミダゾール誘導体又はグアニジン塩が挙げられる。これらの誘導体や塩のうち、特に好ましく用いられる具体的な塩基性化合物として、4−t−ブチルピリジン(TBP)、ピリジン、N−メチルベンズイミダゾール(NMB)、チオシアン酸グアニジン(GuSCN)、1−プロピル−2,3−ジメチルイミダゾリウムヨージド(DMPII)、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムヨージド(PMII)、4−トリメチルシリルピリジン(TMSP)が挙げられる。
【0079】
本発明に用いられる電解質含有層の構成としては、例えば、酸化還元対を有するレドックス電解質を含んで構成されており、レドックス電解質としては、例えば、I-/I3-系、Br-/Br3-系、キノン/ハイドロキノン系、Co錯体系、ニトロキシラジカル化合物系、Cu錯体系、チオレート/ジスルフィド錯体系等が挙げられる。具体的には、ヨウ化物塩とヨウ素単体とを組み合わせたもの、又は臭化物塩と臭素とを組み合わせたもの等のハロゲン化物塩とハロゲン単体とを組み合わせたもの等である。このハロゲン化物塩としては、ハロゲン化セシウム、ハロゲン化四級アルキルアンモニウム類、ハロゲン化イミダゾリウム類、ハロゲン化チアゾリウム類、ハロゲン化オキサゾリウム類、ハロゲン化キノリニウム類あるいはハロゲン化ピリジニウム類等が挙げられる。具体的には、これらのうちヨウ化物塩としては、例えば、ヨウ化セシウムや、テトラエチルアンモニウムヨージド、テトラプロピルアンモニウムヨージド、テトラブチルアンモニウムヨージド、テトラペンチルアンモニウムヨージド、テトラヘキシルアンモニウムヨージド、テトラへプチルアンモニウムヨージドあるいはトリメチルフェニルアンモニウムヨージド等の4級アルキルアンモニウムヨージド類や、3−メチルイミダゾリウムヨージドあるいは1−プロピル−2,3−ジメチルイミダゾリウムヨージド等のイミダゾリウムヨージド類や、3−エチル−2−メチル−2−チアゾリウムヨージド、3−エチル−5−(2−ヒドロキシエチル)−4−メチルチアゾリウムヨージドあるいは3−エチル−2−メチルベンゾチアゾリウムヨージド等のチアゾリウムヨージド類や、3−エチル−2−メチル−ベンゾオキサゾリウムヨージド等のオキサゾリウムヨージド類や、1−エチル−2−メチルキノリニウムヨージド等のキノリニウムヨージド類や、ピリジニウムヨージド類等が挙げられる。また、臭化物塩としては、例えば、四級アルキルアンモニウムブロミド等が挙げられる。ハロゲン化物塩とハロゲン単体とを組み合わせたものの中でも、上記したヨウ化物塩のうちの少なくとも1種とヨウ素単体との組み合わせが好ましい。
【0080】
また、レドックス電解質は、例えば、イオン性液体とハロゲン単体とを組み合わせたものでもよい。この場合には、さらに上記したハロゲン化物塩等を含んでいてもよい。イオン性液体としては、電池や太陽電池等において使用可能なものが挙げられ、例えば、「Inorg.Chem」1996,35,p1168〜1178、「Electrochemistry」2002,2,p130〜136、特表平9−507334号公報、又は特開平8−259543号公報等に開示されているものが挙げられる。中でも、イオン性液体としては、室温(25℃)より低い融点を有する塩、又は室温よりも高い融点を有していても他の溶融塩等と溶解することにより室温で液状化する塩が好ましい。このイオン性液体の具体例としては、以下に示したアニオン及びカチオン等が挙げられる。
【0081】
イオン性液体のカチオンとしては、例えば、アンモニウム、イミダゾリウム、オキサゾリウム、チアゾリウム、オキサジアゾリウム、トリアゾリウム、ピロリジニウム、ピリジニウム、ピペリジニウム、ピラゾリウム、ピリミジニウム、ピラジニウム、トリアジニウム、ホスホニウム、スルホニウム、カルバゾリウム、インドリウム、又はそれらの誘導体が挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種を混合して用いられてもよい。具体的には、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウム、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムあるいは1−エチル−3−メチルイミダゾリウム等が挙げられる。
【0082】
イオン性液体のアニオンとしては、AlCl4-あるいはAl2Cl7-等の金属塩化物や、PF6-、BF4-、CF3SO3-、N(CF3SO22-、F(HF)n-あるいはCF3COO-等のフッ素含有物イオンや、NO3-、CH3COO-、C611COO-、CH3OSO3-、CH3OSO2-、CH3SO3-、CH3SO2-、(CH3O)2PO2-、N(CN)2-あるいはSCN-等の非フッ素化合物イオンや、ヨウ化物イオンあるいは臭化物イオン等のハロゲン化物イオンが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種を混合して用いられてもよい。中でも、このイオン性液体のアニオンとしては、ヨウ化物イオンが好ましい。
【0083】
電解質含有層30には、上記したレドックス電解質を溶媒に対して溶解させた液状の電解質(電解液)を用いてもよいし、電解液を高分子物質中に保持させた固体高分子電解質を用いてもよい。また、電解液とカーボンブラック等の粒子状の炭素材料とを混合して含む擬固体状(ペースト状)の電解質を用いてもよい。なお、炭素材料を含む擬固体状の電解質では、炭素材料が酸化還元反応を触媒する機能を有するため、電解質中にハロゲン単体を含まなくてもよい。このようなレドックス電解質は、上記したハロゲン化物塩やイオン性液体等を溶解する有機溶媒のいずれか1種あるいは2種以上を含んでいてもよい。この有機溶媒としては、電気化学的に不活性なものが挙げられ、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、バレロニトリル、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、N−メチルピロリドン、ペンタノール、キノリン、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、3−メチル−1−プロピルイミダゾリウムヨージドあるいは1,4−ジオキサン等が挙げられ、3−メトキシプロピオニトリル、プロピレンカーボネート又は3−メチル−1−プロピルイミダゾリウムヨージドが本発明の効果が高い点で好ましい。
【0084】
本発明に用いられる電解質含有層30には、本発明で用いている塩基性化合物の他に、光電変換素子の発電効率向上、耐久性向上等の目的で、非円環状糖類(特開2005−093313号公報)、尿素誘導体(特開2003−168493号公報)、層状粘土鉱物(特表2007−531206号公報)等を添加してもよい。
【0085】
本発明の色素増感太陽電池は、例えば、以下のように製造することができる。
【0086】
まず、作用電極10を作製する。最初に、導電性基板11の導電層11Bが形成されている面に多孔質構造を有する金属酸化物半導体層12を電解析出法や焼成法により形成する。電解析出法により形成する場合には、例えば、金属酸化物半導体材料となる金属塩を含む電解浴を、酸素や空気によるバブリングを行いながら、所定の温度とし、その中に導電性基板11を浸漬し、対極との間で一定の電圧を印加する。これにより、導電層11B上に、多孔質構造を有するように金属酸化物半導体材料を析出させる。この際、対極は、電解浴中において適宜運動させるようにしてもよい。また、焼成法により形成する場合には、例えば、金属酸化物半導体材料の粉末を分散媒に分散させることにより調製した金属酸化物スラリーを導電性基板11に塗布して乾燥させたのち焼成し、多孔質構造を有するようにする。続いて、有機溶媒に上記一般式(1)で表される化合物を含む色素13を溶解した色素溶液を調製する。この色素溶液に金属酸化物半導体層12が形成された導電性基板11を浸漬することにより、金属酸化物半導体層12に色素13を担持させる。
【0087】
上記色素溶液における色素13の濃度は、1.0×10-5〜1.0×10-3mol/dm3が好ましく、5.0×10-5〜5.0×10-4mol/dm3がより好ましい。上記色素溶液に用いる有機溶媒は、上記一般式(1)で表される化合物を溶解できるものであれば特に制限はなく、具体例としては、トルエン、ベンゼン、キシレン等の炭化水素類;メタノール、エタノール、t−ブタノール等のアルコール類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ブチルジグリコール等のエーテルアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシエチル等のエステル類;アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸エステル類;2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール等のフッ化アルコール類;メチレンジクロライド、ジクロロエタン、クロロホルム等の塩素化炭化水素類;アセトニトリル等が挙げられ、これらの有機溶媒を任意に混合してもよい。好ましくは、トルエン、アセトニトリルが挙げられる。
【0088】
次に、導電性基板21の片面に導電層22を形成することにより、対向電極20を作製する。導電層22は、例えば、導電材をスパッタリングすることにより形成する。
【0089】
最後に、作用電極10の色素13を担持した面と、対向電極20の導電層22を形成した面とが所定の間隔を保つと共に対向するように、封止剤等のスペーサ(図示せず)を介して貼り合わせ、例えば、電解質の注入口を除いて全体を封止する。続いて、作用電極10と対向電極20との間に、電解質を注入したのち注入口を封止することにより、電解質含有層30を形成する。これにより図1及び図2に示した色素増感太陽電池が完成する。
【0090】
本発明の色素増感太陽電池では、色素13が上記一般式(1)で表される化合物を含むため、該化合物とは異なる化合物を用いた場合と比較して、色素13を担持させた担持体(金属酸化物半導体層12)から色素13が電解質含有層30へ溶出することが抑制できる。ついては、金属酸化物半導体層12に担持した色素13の量が低下しないため、色素13から金属酸化物半導体層12への電子注入量が低下しない。このような効果により、本発明の色素増感太陽電池の耐久性及び変換効率、特に耐久性を向上させることができる。
【0091】
なお、上記した光電変換素子では、作用電極10と対向電極20との間に電解質含有層30を設けた場合について説明したが、電解質含有層30に代えて固体電荷移動層を設けてもよい。この場合、固体電荷移動層は、電解質含有層30同様、塩基性化合物を含有する。塩基性化合物としては、電解質含有層30に含まれる塩基性化合物として上記で挙げたものが挙げられる。また、固体電荷移動層は、例えば、固体中のキャリアー移動が電気伝導にかかわる材料を有している。この材料としては、電子輸送材料や正孔(ホール)輸送材料等が好ましい。
【0092】
正孔輸送材料としては、芳香族アミン類や、トリフェニレン誘導体類等が好ましく、例えば、オリゴチオフェン化合物、ポリピロール、ポリアセチレンあるいはその誘導体、ポリ(p−フェニレン)あるいはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)あるいはその誘導体、ポリチエニレンビニレンあるいはその誘導体、ポリチオフェンあるいはその誘導体、ポリアニリンあるいはその誘導体、ポリトルイジンあるいはその誘導体等の有機導電性高分子等が挙げられる。
【0093】
また、正孔輸送材料としては、例えば、p型無機化合物半導体を用いてもよい。このp型無機化合物半導体は、バンドギャップが2eV以上であることが好ましく、さらに、2.5eV以上であることがより好ましい。また、p型無機化合物半導体のイオン化ポテンシャルは色素の正孔を還元できる条件から、作用電極10のイオン化ポテンシャルより小さいことが必要である。使用する色素によってp型無機化合物半導体のイオン化ポテンシャルの好ましい範囲は異なってくるが、そのイオン化ポテンシャルは、4.5eV以上5.5eV以下の範囲内であることが好ましく、さらに4.7eV以上5.3eV以下の範囲内であることがより好ましい。
【0094】
p型無機化合物半導体としては、例えば、1価の銅を含む化合物半導体等が挙げられる。1価の銅を含む化合物半導体の一例としては、CuI、CuSCN、CuInSe2、Cu(In,Ga)Se2、CuGaSe2、Cu2O、CuS、CuGaS2、CuInS2、CuAlSe2等がある。このほかのp型無機化合物半導体としては、例えば、GaP、NiO、CoO、FeO、Bi23、MoO2又はCr23等が挙げられる。
【0095】
このような固体電荷移動層の形成方法としては、例えば、作用電極10の上に直接、固体電荷移動層を形成する方法があり、そののち対向電極20を形成付与してもよい。
【0096】
有機導電性高分子を含む正孔輸送材料は、例えば、真空蒸着法、キャスト法、塗布法、スピンコート法、浸漬法、電解重合法又は光電解重合法等の手法により電極内部に導入することができる。無機固体化合物の場合も、例えば、キャスト法、塗布法、スピンコート法、浸漬法又は電解メッキ法等の手法により電極内部に導入することができる。このように形成される固体電荷移動層(特に、正孔輸送材料を有するもの)の一部は、金属酸化物半導体層12の多孔質構造の隙間に部分的に浸透し、直接接触する形態となることが好ましい。
【0097】
本発明で用いられる上記一般式(1)で表される化合物は、電解質含有層30に代えて固体電荷移動層を設けた色素増感太陽電池においても、電解質含有層30を設けた場合と同様に、耐久性及び変換効率、特に変換効率を向上させることができる。
【実施例】
【0098】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0099】
(実施例1−1)
まず、縦2.0cm×横1.5cm×厚さ1.1mmの導電性ガラス基板(F−SnO2)よりなる導電性基板11を用意した。続いて、導電性基板11の、縦0.5cm×横0.5cmの四角形を囲むように厚さ70μmのマスキングテープを貼り、この四角形の部分に金属酸化物スラリー3cm3を一様の厚さとなるように塗布して乾燥させた。金属酸化物スラリーとしては、10重量%となるように酸化チタン粉末(TiO2、Solaronix社製Ti−NanoxideD)を、水に懸濁したものを用いた。続いて、導電性基板11上のマスキングテープを剥がし取り、この基板を電気炉により450℃で焼成し、厚さ約5μmの金属酸化物半導体層12を形成した。続いて、化合物No.1を3×10-4mol/dm3の濃度になるようにトルエンに溶解させて、色素溶液を調製した。続いて、光触媒膜12(金属酸化物半導体層)が形成された導電性基板11を上記の色素溶液に浸漬し、色素13を担持させた作用電極10を作製した。
作製した作用電極10を25℃、4時間の条件で、剥離液(0.5M 4−t−ブチルピリジン/アセトニトリル:水=10:1)に浸漬した。剥離液浸漬前の色素担持量(色素のλmaxにおけるAbs.)を100としたときの、剥離液浸漬後の色素担持量を、耐剥離性として〔表1〕に示した。剥離後の色素担持量が100に近いほど耐剥離性が高いといえる。尚、剥離液は、塩基性化合物(4−t−ブチルピリジン)を含有する電解質組成物を表すものであり、10%添加している水は、色素剥離を加速させる劣化促進剤である。
【0100】
(実施例1−2〜1−5及び比較例1−1〜1−3)
化合物No.1を〔表1〕に示す化合物に替えた以外は実施例1−1と同様の操作により、各化合物を担持させた作用電極10を作製し、色素の耐剥離性を求めた。結果を〔表1〕に示す。
【0101】
【化21】
【0102】
【表1】
【0103】
(実施例2−1)
実施例1−1と同様の手順で作製した作用電極10を、予め作製した2種の剥離液(塩基性化合物を含有する剥離液a及び塩基性化合物を含有しない剥離液a’)に25℃、4時間の条件でそれぞれ浸漬させ、下記式により剥離パラメータを算出した。
剥離パラメータ=(塩基性化合物有の場合の色素残存率)/(塩基性化合物無の場合の色素残存率)
剥離パラメータの数値が大きいほど塩基性化合物を含有する電解液において色素の保持効果が高いといえる。尚、色素担持量は実施例1−1と同様の手法により求めた。結果を〔表3A〕に示す。
<剥離液a> 0.5M 4−t−ブチルピリジン/アセトニトリル:水=10:1
<剥離液a’> アセトニトリル:水=10:1
【0104】
(実施例2−2〜2−34及び比較例2−1〜2−20)
色素化合物、酸化物半導体及び剥離液を〔表2〕、〔表3A〕及び〔表3B〕に示すものに変更した以外は実施例2−1と同様の操作により、剥離パラメータを算出した。結果を〔表3A〕及び〔表3B〕に示す。
TBP:t−ブチルピリジン
NMB:N−メチルベンズイミダゾール
GuSCN:チオシアン酸グアニジン
DMPII:1−プロピル−2,3−ジメチルイミダゾリウムヨージド
TMSP:4−トリメチルシリルピリジン
【0105】
【表2】
【0106】
【表3A】
【0107】
【表3B】
【0108】
【化22】
【0109】
上記結果より、本発明の色素増感太陽電池に係る色素化合物は、塩基性化合物を含有する電解質組成物を用いた素子においても、酸化物半導体からの剥離を抑制することが明白である。
【符号の説明】
【0110】
10 作用電極
11A 基板
11B 導電層
12 光触媒膜
12A 緻密層
12B 多孔質層
13 色素
20 対向電極
21 基板
22 導電層
30 電解質含有層
図1
図2
図3
図4