特許第5874142号(P5874142)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5874142
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】誘導検出型ロータリエンコーダ
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/245 20060101AFI20160218BHJP
   G01B 7/00 20060101ALN20160218BHJP
【FI】
   G01D5/245 110Q
   !G01B7/00 101E
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-13458(P2012-13458)
(22)【出願日】2012年1月25日
(65)【公開番号】特開2013-152163(P2013-152163A)
(43)【公開日】2013年8月8日
【審査請求日】2014年12月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】100092820
【弁理士】
【氏名又は名称】伊丹 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100106389
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 和彦
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 康二
【審査官】 深田 高義
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−322927(JP,A)
【文献】 特開2004−101423(JP,A)
【文献】 特開2005−265518(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/245
G01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータと、
回転軸を中心として回転可能で且つ前記ステータと対向して配置されたロータと、
前記ステータに前記回転軸を中心として環状に形成された送信巻線と、
前記ステータに前記送信巻線に沿って前記回転軸を中心として環状に形成された第1の受信巻線及び第2の受信巻線と、
前記ロータに前記回転軸を中心として環状に形成されて前記送信巻線、前記第1の受信巻線及び前記第2の受信巻線とそれぞれ磁束結合する第1の磁束結合体及び第2の磁束結合体とを備え、
前記第1の受信巻線及び前記第1の磁束結合体は、第1のピッチをもって前記ロータの回転方向に周期的に変化する形状を有する第1トラックを形成し、
前記第2の受信巻線及び前記第2の磁束結合体は、前記第1のピッチと異なる第2のピッチをもって前記ロータの回転方向に周期的に変化する形状を有する第2トラックを形成し、
前記第1の受信巻線及び前記第2の受信巻線は、同様の半径で前記回転軸の延びる方向に第1の絶縁層を介して積層形成され、
前記第1の磁束結合体及び前記第2の磁束結合体は、同様の半径で前記回転軸の延びる方向に第2の絶縁層を介して積層形成され
前記第1の受信巻線は、前記第1の磁束結合体と対向し、
前記第2の受信巻線と前記第2の磁束結合体との間には、前記第1の受信巻線及び前記第1の磁束結合体が配置される
ことを特徴とする誘導検出型ロータリエンコーダ。
【請求項2】
前記送信巻線は、同様の半径を有する第1の送信巻線及び第2の送信巻線からなり、
前記第1の送信巻線は、外周側の電流経路と内周側の電流経路とを有し、これら電流経路で前記第1の受信巻線を取り囲み、
前記第2の送信巻線は、外周側の電流経路と内周側の電流経路とを有し、これら電流経路で前記第2の受信巻線を取り囲み、
前記第1の送信巻線の外周側の電流経路に流れる電流の向きは、前記第1の送信巻線の内周側の電流経路に流れる電流の向きと同じであり、
前記第2の送信巻線の外周側の電流経路に流れる電流の向きは、前記第2の送信巻線の内周側の電流経路に流れる電流の向きと逆であり、
前記第1の磁束結合体は、歯車状に連続して形成され、
前記第2の磁束結合体は、島状に分断して形成される
ことを特徴とする請求項1記載の誘導検出型ロータリエンコーダ。
【請求項3】
前記送信巻線は、外周側の電流経路と内周側の電流経路とを有し、これら電流経路で前記第1の受信巻線及び前記第2の受信巻線を取り囲み、且つ接続関係を第1の状態及び第2の状態に切り替え可能に構成され、
前記第1の状態において、前記送信巻線の外周側の電流経路に流れる電流の向きは、前記送信巻線の内周側の電流経路に流れる電流の向きと同じであり、
前記第2の状態において、前記送信巻線の外周側の電流経路に流れる電流の向きは、前記送信巻線の内周側の電流経路に流れる電流の向きと逆であり、
前記第1の磁束結合体は、歯車状に連続して形成され、
前記第2の磁束結合体は、島状に分断して形成される
ことを特徴とする請求項1記載の誘導検出型ロータリエンコーダ。
【請求項4】
前記第1のピッチは前記第2のピッチよりも短い
ことを特徴とする請求項記載の誘導検出型ロータリエンコーダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータとステータとに設けられた配線間の磁束結合を利用して物体の回転角を測定する誘導検出型ロータリエンコーダに関する。
【背景技術】
【0002】
ロータリエンコーダは、送信巻線及び受信巻線が配置されたステータと、これらと磁束結合可能な磁束結合体が配置されたロータとを備える(特許文献1参照)。マイクロメータ等のハンドツールへロータリエンコーダを応用する場合、波長の異なる信号を発生する複数のトラック(送信巻線、受信巻線、及び磁束結合体)を集約しその外径を小さくする必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−322927
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、小型化した誘導検出型ロータリエンコーダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る誘導検出型ロータリエンコーダは、ステータと、回転軸を中心として回転可能で且つ前記ステータと対向して配置されたロータと、前記ステータに前記回転軸を中心として環状に形成された送信巻線と、前記ステータに前記送信巻線に沿って前記回転軸を中心として環状に形成された第1の受信巻線及び第2の受信巻線と、前記ロータに前記回転軸を中心として環状に形成されて前記送信巻線、前記第1の受信巻線及び前記第2の受信巻線とそれぞれ磁束結合する第1の磁束結合体及び第2の磁束結合体とを備え、前記第1の受信巻線及び前記第1の磁束結合体は、第1のピッチをもって前記ロータの回転方向に周期的に変化する形状を有する第1トラックを形成し、前記第2の受信巻線及び前記第2の磁束結合体は、前記第1のピッチと異なる第2のピッチをもって前記ロータの回転方向に周期的に変化する形状を有する第2トラックを形成し、前記第1の受信巻線及び前記第2の受信巻線は、同様の半径で前記回転軸の延びる方向に第1の絶縁層を介して積層形成され、前記第1の磁束結合体及び前記第2の磁束結合体は、同様の半径で前記回転軸の延びる方向に第2の絶縁層を介して積層形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
この発明によれば、小型化した誘導検出型ロータリエンコーダを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1の実施の形態に係る誘導検出型ロータリエンコーダを搭載したデジタル式マイクロメータ1の正面図である。
図2】第1の実施の形態に係る誘導検出型ロータリエンコーダ11の断面図である。
図3】第1の実施の形態に係るステータ13及びロータ15の断面図である。
図4】第1の実施の形態に係る送信巻線31及び第1の受信巻線32aを示す平面図である。
図5】第1の実施の形態に係る受信巻線321aを示す平面図である。
図6】第1の実施の形態に係る第2の受信巻線32bを示す平面図である。
図7】第1の実施の形態に係る受信巻線321bを示す平面図である。
図8】第1の実施の形態に係る第1の磁束結合体41aを示す平面図である。
図9】第1の実施の形態に係る第2の磁束結合体41bを示す平面図である。
図10】第1の実施の形態に係る第1及び第2の受信巻線32a,32bにて得られる信号を示す図である。
図11】第2の実施の形態に係るステータ13及びロータ15を示す断面図である。
図12】第2の実施の形態に係る第1の送信巻線31a、第1の受信巻線32aを示す平面図である。
図13】第2の実施の形態に係る第2の送信巻線31b、第2の受信巻線32bを示す平面図である。
図14】第2の実施の形態に係る第2の磁束結合体41cを示す平面図である。
図15】第2の実施の形態に係る第1の送信巻線31aを流れる電流Id1によって第1、第2の磁束結合体41a、41cに生じる誘導電流を示す概略図である。
図16】第2の実施の形態に係る第2の送信巻線31bを流れる電流Id1によって第1、第2の磁束結合体41a、41cに生じる誘導電流を示す概略図である。
図17】第3の実施の形態に係る送信巻線31cを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に本発明の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
【0009】
図1を参照して、本発明の第1実施形態に係る誘導検出型ロータリエンコーダを搭載したデジタル式マイクロメータの構成について説明する。図1は、デジタル式マイクロメータの正面図である。デジタル式マイクロメータのフレーム3には、シンブル5が回転可能に取り付けられている。測定子であるスピンドル7は、フレーム3の内部で回転可能に支持されている。
【0010】
スピンドル7の一端側は外部に出ており、この一端が測定対象物に当接する。一方、スピンドル7の他端側には送りネジ(図1では図示せず)が切られている。この送りネジがシンブル5内のナットに嵌めこまれている。
【0011】
この構成において、シンブル5を正方向に回転させるとスピンドル7の軸方向に沿ってスピンドル7が前進し、シンブル5を逆方向に回転させるとスピンドル7の軸方向に沿ってスピンドル7が後退する。フレーム3にはデジタル式マイクロメータの測定値を表示可能な液晶表示部9が設けられている。
【0012】
[第1実施形態に係る誘導検出型ロータリエンコーダ11の構成]
次に、図2を参照して、図1のデジタル式マイクロメータに組み込まれた第1実施形態に係る誘導検出型ロータリエンコーダ11の構成について説明する。図2は、誘導検出型ロータリエンコーダ11の断面図である。
【0013】
誘導検出型ロータリエンコーダ11は、ステータ13と、スピンドル7(回転軸)を中心として回転可能で且つステータ13と対向して配置されたロータ15とを備える。ロータ15は円筒状のロータブッシュ19の端面に固定されている。ロータブッシュ19にはスピンドル7が挿入されている。ステータブッシュ21は、フレーム3に固定されている。
【0014】
スピンドル7の表面には、図1のシンブル5の内部に配置されたナットに嵌められる送りネジ23が形成されている。また、スピンドル7の表面には、スピンドル7の長手方向(つまりスピンドル7の進退方向)に沿ってキー溝25が掘られている。キー溝25には、ロータブッシュ19に固定されたピン27の先端部が嵌っている。スピンドル7が回転すると、その回転力がピン27を介してロータブッシュ19に伝わり、ロータ15が回転する。言い換えれば、スピンドル7の回転に連動してロータ15が回転する。ピン27はキー溝25に固定されていないので、ロータ15をスピンドル7と共に移動させずにロータ15を回転させることができる。
【0015】
次に、図3を参照して、ステータ13、及びロータ15の構成について説明する。図3は、ステータ13及びロータ15の断面図である。ステータ13は、図3に示すように、積層された絶縁層33A〜33Dを有する。ステータ13は、ロータ15側の絶縁層33Aに送信巻線31及び第1の受信巻線32aを備え、中間の絶縁層33Cに第2の受信巻線32bを備える。なお、絶縁層33A〜33Dにはスピンドル7を通すための貫通穴34が形成されており、送信巻線31、第1の受信巻線32a、及び第2の受信巻線32bは貫通穴34を中心として環状に形成されている。
【0016】
一方、ロータ15は、図3に示すように、積層された絶縁層42A及び42Bを有する。ロータ15は、絶縁層42Aに第1の磁束結合体41aを備え、絶縁層42Bに第2の磁束結合体41bを備えている。なお、絶縁層42A,42Bにはスピンドル7を通すための貫通穴43が形成されており、第1の磁束結合体41a、及び第2の磁束結合体41bは貫通穴43を中心として環状に形成されている。
【0017】
送信巻線31は、電流方向が周期的に変化する送信電流を流し、これにより発生する磁界をロータ15に形成された第1、第2の磁束結合体41a、41bに与える。送信巻線31は、絶縁層33Aのロータ15側の表面に設けられる。
【0018】
第1、第2の磁束結合体41a、41bは、各々、送信巻線31に流れる送信電流により生じた磁界に基づく誘導電流を発生させる。第1の磁束結合体41aは、絶縁層42Aのステータ13側の表面に設けられる。第2の磁束結合体41bは絶縁層42Bのステータ13側の表面に設けられる。第1、第2の磁束結合体41a、41bは、同等の径を有し、絶縁層42Aを介して積層方向に互いに重なる位置に積層されている。
【0019】
第1の受信巻線32aは、送信巻線31と第1の磁束結合体41aとの磁束結合により第1の磁束結合体41aに誘導電流が生じた場合に、これに基づく磁束結合により生じた誘導電圧を検出する。第2の受信巻線32bは、送信巻線31と第2の磁束結合体41bとの磁束結合により第2の磁束結合体41bに誘導電流が生じた場合に、これに基づく磁束結合により生じた誘導電圧を検出する。
【0020】
第1の受信巻線32aの一部は、絶縁層33Aのロータ15側の表面に形成され、第1の受信巻線32aの残りの部分は絶縁層33Bのロータ15側の表面に形成され、両者は絶縁層33Aを貫通するスルーホール又はビアによって相互に接続されている。第2の受信巻線32bの一部は絶縁層33Cのロータ15側の表面に形成され、第2の受信巻線32bの残りの部分は絶縁層33Dのロータ15側の表面に形成され、両者は絶縁層33Cを貫通するスルーホール又はビアによって相互に接続されている。第1の受信巻線32aと第2の受信巻線32bとは、同等の径を有し、絶縁層33Bを介して積層方向に互いに重なる位置に積層されている。
【0021】
図3において、第1の受信巻線32aは、第1の磁束結合体41aと対向する。また、第2の受信巻線32bと第2の磁束結合体41bとの間には、第1の受信巻線32a及び第1の磁束結合体41aが配置される。この配置によって、第1の受信巻線32aで受信する信号強度を高くすることができる。第1の受信巻線32aの受信信号が測定精度に影響を与える場合、この配置は好ましい。
【0022】
次に、送信巻線31、第1の受信巻線32a、第2の受信巻線32b、第1の磁束結合体41a及び第2の磁束結合体41bの平面的形状について説明する。
【0023】
図4は送信巻線31及び第1の受信巻線32aを示す平面図である。送信巻線31は、図4に示すように、スピンドル7に対して同軸的に形成され、外周側及び内周側に略円形の電流経路を持つ。送信巻線31の外周側の電流経路に流れる電流の向きが送信巻線31の内周側の電流経路に流れる電流の向きと同じとなるように、送信巻線31は形成される(矢印参照)。
【0024】
第1の受信巻線32aは、図4に示すように、スピンドル7に対して同軸的に形成され、送信巻線31の外周側及び内周側の電流経路の間に位置するように環状に形成される。第1の受信巻線32aは、回転方向に位相を異ならせた3つの受信巻線321a〜323aにて構成される。受信巻線321a〜323aは、交差部が短絡しないように、互いに交差する部分が絶縁層33Aを介して上下に配列され、相互がスルーホール又はビアホールにて接続されることにより各々絶縁分離されて配置される。
【0025】
次に、図5を参照して、受信巻線321aの形状について説明する。図5は受信巻線321aを示す平面図である。受信巻線321aは、図5に示すように、ロータ15の回転方向にピッチλ1をもって周期的に変化するループ状(菱型状)の形状を有する。受信巻線321aにおいて、図5に示す例では、菱型状の対PA1は10個設けられる。なお、受信巻線322a、323aも受信巻線321aと同様の形状を有する。
【0026】
次に、図6を参照して、第2の受信巻線32bの形状について説明する。図6は第2の受信巻線32bを示す平面図である。第2の受信巻線32bは、図6に示すように、スピンドル7に対して同軸的に形成され、第1の受信巻線32aと積層方向に重なるように環状に形成される。第2の受信巻線32bは、回転方向に位相を異ならせた3つの受信巻線321b〜323bにて構成される。受信巻線321b〜323bは、交差部が短絡しないように、互いに交差する部分が絶縁層33Cを介して上下に配列され、相互がスルーホール又はビアホールにて接続されることにより各々絶縁分離されて配置される。
【0027】
次に、図7を参照して、受信巻線321bの形状について説明する。図7は受信巻線321bを示す平面図である。受信巻線321bは、図7に示すように、ピッチλ1と異なるピッチλ2(λ2≠λ1)をもってロータ15の回転方向に周期的に変化するループ状(菱型状)の形状を有する。受信巻線321bにおいて、図7に示す例では、菱型状の対PA2は9個設けられる。本実施の形態において、ピッチλ1はピッチλ2よりも短い(λ1<λ2)。なお、受信巻線322b、323bも受信巻線321bと同様の形状を有する。
【0028】
次に、図8を参照して、第1の磁束結合体41aの形状について説明する。図8は第1の磁束結合体41aを示す平面図である。第1の磁束結合体41aは、図8に示すように、スピンドル7に対して同軸的に形成され、第1の受信巻線32aと空隙を介して重なるように形成される。第1の磁束結合体41aは、第1の受信巻線32aと同じピッチλ1をもってロータ15の回転方向に周期的に変化する連続した歯車状の形状を有する。第1の磁束結合体41aは、スピンドル7に近づく方向に窪む凹部411aと、スピンドル7から離れる方向に突出する凸部412aとを交互に構成する。図8に示す例では、凹部411aと凸部412aの対PA3は10個設けられる。
【0029】
次に、図9を参照して、第2の磁束結合体41bの形状について説明する。図9は第2の磁束結合体41bを示す平面図である。第2の磁束結合体41bは、図9に示すように、スピンドル7に対して同軸的に形成され、第1の磁束結合体41aと絶縁層42Aを介して積層方向に重なるように形成される。第2の磁束結合体41bは、ピッチλ2をもってロータ15の回転方向に周期的に変化する連続した歯車状の形状を有する。第2の磁束結合体41bは、スピンドル7に近づく方向に窪む凹部411bと、スピンドル7から離れる方向に突出する凸部412bとを交互に構成する。図9に示す例では、凹部411bと凸部412bの対PA4は9個設けられる。
【0030】
以上図3図9に示した構成により、第1の受信巻線32a及び第1の磁束結合体41aは、ピッチλ1をもってロータ15の回転方向に周期的に変化する形状を有する第1トラックを形成する。また、第2の受信巻線32b及び第2の磁束結合体41bは、ピッチλ1と異なるピッチλ2をもってロータ15の回転方向に周期的に変化する形状を有する第2トラックを形成する。本実施の形態においては第1トラックのピッチλ1が第2トラックのピッチλ2よりも短いので、第1トラックの方が第2トラックよりも測定精度に影響する。このピッチλ1による第1トラックの信号強度を第2トラックの信号強度よりも高めているので、高い測定精度が得られる。
【0031】
次に、図10を参照して、第1の受信巻線32a及び第2の受信巻線32bにて得られる信号について説明する。送信巻線31の外周側及び内周側の電流経路に、例えば図4に示すように時計回りに電流が流れると、各電流経路には、右ねじ方向に磁界が発生するので、この磁界が第1及び第2の磁束結合体41a,41bと結合して第1及び第2の磁束結合体41a,41bには反時計回りに電流が流れる。これにより、第1及び第2の磁束結合体41a,41bの凹部411a,411bには、図8及び図9の紙面の表面から裏面へ、凸部412a,412bには紙面の裏面から表面へ進む磁界が発生する。これらの磁界を第1及び第2の受信巻線32a,32bで受信する。第1の受信巻線32aには、第1の磁束結合体41aからの磁界のみならず、第2の磁束結合体41bからの磁界も結合される。しかし、第1の磁束結合体41aは、1周の長さがピッチλ1×10であるのに対し、第2の磁束結合体41bは、1周の長さがピッチλ2×9であるから、第1の受信巻線32aに結合される磁界の影響は、1周分のトータルでは第2の磁束結合体41bからの磁界の影響が相殺されて、第1の磁束結合体41aからの磁界による影響のみとなる。これにより、第1の受信巻線32aには、第1の磁束結合体41aとの結合位相のみによって決まる受信信号が得られる。同様に、第2の受信巻線32bには、第2の磁束結合体41bとの結合位相のみによって決まる受信信号が得られる。このように、異なるピッチλ1、λ2によって、第1の受信巻線32aでは第2の磁束結合体41bに起因する誘導電圧は打消し合うため、その信号は検出されない。すなわち、第1の受信巻線32aでは第2の磁束結合体41bからのクロストークを抑制することができ、第2の受信巻線32bでは第1の磁束結合体41aからのクロストークを抑制することができる。
【0032】
この結果、図10に示すように、ステータ13に対するロータ15の位置に応じて変化する受信信号が第1の受信巻線32a及び第2の受信巻線32bから得られる。両受信信号は、ロータ15が1回転する間に1周分ずれているので、2つの受信信号から1回転における絶対位置を検出することができる。なお、図10は1相分の信号しか図示していないが、実際には、120°ずつずれた3相の受信信号が得られる。
【0033】
以上、本実施の形態によれば、第1、第2の受信巻線32a、32bをスピンドル7の長手方向に絶縁層を介して重ねることができ、また第1、第2の磁束結合体41a、41bも絶縁層を介してスピンドル7の長手方向に重ねることができるので、エンコーダの外径を小さくすることができる。しかも、クロストークを生じさせることも無い。
【0034】
[第2の実施の形態]
次に、図11を参照して、第2の実施の形態に係るステータ13及びロータ15について説明する。図11は第2の実施の形態に係るステータ13及びロータ15を示す断面図である。第2の実施の形態に係るステータ13は、図11に示すように、第1の送信巻線31a、及び第2の送信巻線31bを有する。この点で1つの送信巻線31しか持たない第1の実施の形態と第2の実施の形態は異なる。また、ロータ15に設けられた第2の磁束結合体41cは第1の実施の形態と異なる形状を有する。その他、第2の実施の形態に係る第1、第2の受信巻線32a、32b及び第1の磁束結合体41a等は第1の実施の形態と同様であるため、その説明を省略する。
【0035】
第1の送信巻線31aは、電流方向が周期的に変化する送信電流を流し、これにより発生する磁界を第1の磁束結合体41aに与える。第2の送信巻線31bは、電流方向が周期的に変化する送信電流を流し、これにより発生する磁界を第2の磁束結合体41cに与える。第1、第2の送信巻線31a、31bへの電流の供給は異なるタイミングで行われる。
【0036】
第1の送信巻線31aは、図11に示すように、絶縁層33Aのロータ15側の表面に形成される。第2の送信巻線31bは、絶縁層33Cのロータ15側の表面に形成される。
【0037】
次に、図12を参照して、第1の送信巻線31aの形状について説明する。図12は第1の送信巻線31a及び第1の受信巻線32aを示す平面図である。第1の送信巻線31aは、図12に示すように、スピンドル7に対して同軸的に形成され、外周側及び内周側の略円形の電流経路を持つ。第1の送信巻線31aの外周側の電流経路に流れる電流の向きが第1の送信巻線31aの内周側の電流経路に流れる電流の向きと同じとなるように、第1の送信巻線31aは形成される(矢印参照)。第1の送信巻線31aの外周側及び内周側の電流経路の間に第1の受信巻線32aが配置される。
【0038】
次に、図13を参照して、第2の送信巻線31bの形状について説明する。図13は第2の送信巻線31b及び第2の受信巻線32bを示す平面図である。第2の送信巻線31bは、図13に示すように、スピンドル7に対して同軸的に形成され、外周側及び内周側の略円形の電流経路を持つ。第2の送信巻線31bの外周側の電流経路に流れる電流の向きが第2の送信巻線31bの内周側の電流経路に流れる電流の向きと逆となるように、第2の送信巻線31bは形成される(矢印参照)。第2の送信巻線31bの外周側及び内周側の電流経路の間に第2の受信巻線32bが配置される。
【0039】
次に、図14を参照して、第2の磁束結合体41cの形状について説明する。図14は第2の磁束結合体41cを示す平面図である。第2の磁束結合体41cは、図14に示すように、スピンドル7に対して同軸的に形成され、ロータ15の回転方向に一定ピッチλ2で配置された複数の孤立した矩形ループのような島状に形成されている。図14に示す例では、第2の磁束結合体41cは9個設けられる。なお、第2の実施の形態に係る第1の磁束結合体41aの形状は第1の実施の形態と同様であるため、その説明を省略する。
【0040】
次に、図15を参照して、第1の送信巻線31aを流れる電流Id1によって第1、第2の磁束結合体41a、41cに生じる誘導電流を説明する。図15に示す例では、第1の送信巻線31aの外周側の電流経路において時計回りに電流Id1が流れる。この場合、第1の送信巻線31aの内周側の電流経路においても時計回りに電流Id1が流れる。これにより、第1、第2の磁束結合体41a,41cの外周側及び内周側の電流経路においては、各々、反時計回りに誘導電流Id2が流れる。したがって、その形状から第1の磁束結合体41aの全体の電流経路では誘導電流が生じる。一方、その形状から第2の磁束結合体41cの外周側及び内周側の電流経路を流れる誘導電流Id2は互いに打ち消し合うため、第2の磁束結合体41cの全体の電流経路では誘導電流は略生じない。
【0041】
次に、図16を参照して、第2の送信巻線31bを流れる電流Id1によって第1、第2の磁束結合体41a、41cに生じる誘導電流を説明する。図16に示す例では、第2の送信巻線31bの外周側の電流経路において時計回りに電流Id1が流れる。この場合、第2の送信巻線31bの内周側の電流経路においては反時計回りに電流Id1が流れる。これにより、第1、第2の磁束結合体41a,41cの外周側の電流経路においては反時計回りに誘導電流Id2が流れ、第1、第2の磁束結合体41a,41cの内周側の電流経路においては時計回りに誘導電流Id2が流れる。したがって、その形状から第1の磁束結合体41aの外周側及び内周側の電流経路を流れる誘導電流Id2は互いに打ち消し合うため、第1の磁束結合体41aの全体の電流経路では誘導電流は略生じない。一方、その形状から第2の磁束結合体41cの全体の電流経路では誘導電流が生じる。
【0042】
ここで、上記第1の実施の形態では、ステータとロータの配置(アライメント、軸偏心、傾き等)を正確に合わせなければ、クロストークが生じて測定精度が劣化する。一方、第2の実施の形態においては、図15及び図16に示したように、第1の送信巻線31aを流れる電流Id1によって第2の磁束結合体41cに誘導電流は生じず、また第2の送信巻線31bを流れる電流Id1によって第1の磁束結合体41aに誘導電流は生じない。すなわち、ピッチを正確に合わせなくとも、第2の実施の形態では、第1の送信巻線31aと第2の送信巻線31bに交互に電流を流すことにより、第1の実施の形態よりもクロストークが抑制され、測定精度を向上させることができる。なお、第2の実施の形態は第1の実施の形態と同様の効果も奏する。
【0043】
[第3の実施の形態]
次に、第3の実施の形態に係る誘導検出型ロータリエンコーダについて説明する。第3の実施の形態は、第2の実施の形態の第1、第2の送信巻線31a、31bを一つの送信巻線31cに置き換え、電流の流す向きを切り替えるようにしたものである。送信巻線31cは、電流方向が周期的に変化する送信電流を流し、これにより発生する磁界を第1、第2の磁束結合体41a、41cに与えるためのものである。この他、第3の実施の形態は、第2の実施の形態と同様の構成を有する。よって、以下、図17を参照して第3の実施の形態に係る送信巻線31c及びその周辺回路のみを説明する。
【0044】
本実施形態のロータリーエンコーダは、図17に示すように、送信巻線31cの内周側の電流経路に流れる電流の向きを反転させるためのスイッチS1、S2を有する。このスイッチS1、S2の切り替えにより、送信巻線31cは、図17(b)に示す状態A、図17(c)に示す状態Bに設定可能とされる。図17(b)に示す状態Aにおいては、送信巻線31cの外周側の経路に流れる電流の向きが送信巻線31cの内周側の経路に流れる電流の向きと同じとなる(矢印参照)。図17(c)に示す状態Bにおいては、送信巻線31cの外周側の経路に流れる電流の向きが送信巻線31cの内周側の経路に流れる電流の向きと逆となる(矢印参照)。なお、送信巻線31cは、第1の実施の形態に係る送信巻線31と同様に、内周側及び外周側の電流経路の間に第1、第2の受信巻線32a、32bを配置している。第2の実施の形態における第1、第2の送信巻線31a、31bはそれぞれ絶縁層33A、33Cのロータ15側の表面に設けられるのに対して、第3の実施の形態における送信巻線31cの内周側及び外周側の電流経路は、より高い信号強度を得るため絶縁層33Aのロータ15側の表面だけに設ける。
【0045】
以上により、第3の実施の形態は第2の実施の形態と同様の効果を奏する。また、第3の実施の形態は、1つの送信巻線31cしか有さないため、2つの送信巻線31a、31bを有する第2の実施の形態と比較して、巻線周りの構成を簡略化することができる。なお、送信巻線31cの内周側及び外周側の電流経路は、絶縁層33Cのロータ15側の表面だけに設けてもよい。また、送信巻線31cの内周側の電流経路は絶縁層33Aのロータ15側の表面に設け、送信巻線31cの外周側の電流経路は絶縁層33Cのロータ15側の表面に設けても良い。或いは、送信巻線31cの外周側の電流経路は絶縁層33Aのロータ15側の表面に設け、送信巻線31cの内周側の電流経路は絶縁層33Cのロータ15側の表面に設けてもよい。
【0046】
以上、発明の実施の形態を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更、追加等が可能である。例えば、第2の受信巻線32bは第2の磁束結合体41bと対向し、第1の受信巻線32aと第1の磁束結合体41aとの間には第2の受信巻線32b及び第2の磁束結合体41bが配置されてもよい。また、第2の受信巻線32bは第1の磁束結合体41aと対向し、第1の受信巻線32aと第2の磁束結合体41bとの間には第2の受信巻線32b及び第1の磁束結合体41aが配置されてもよい。また、第1の受信巻線32aは第2の磁束結合体41bと対向し、第2の受信巻線32bと第1の磁束結合体41aとの間には第1の受信巻線32a及び第2の磁束結合体41bが配置されてもよい。
【0047】
また、第1の実施の形態における送信巻線31は、外周側のみあるいは内周側のみに電流経路を有する形状としても良い。第2の実施の形態における第2の送信巻線31bは、絶縁層33Bのロータ15側の表面に形成しても良い。
【符号の説明】
【0048】
3…フレーム、 5…シンブル、 7…スピンドル、 9…液晶表示部、 11…誘導検出型ロータリエンコーダ、 13…ステータ、 15…ロータ、 19…ロータブッシュ、 21…ステータブッシュ、 23…送りネジ、 25…キー溝、 27…ピン、 31、31c…送信巻線、 31a…第1の送信巻線、 31b…第2の送信巻線、 32a…第1の受信巻線、 32b…第2の受信巻線、 33A〜33D…絶縁層、 41a…第1の磁束結合体、 41b、41c…第2の磁束結合体、 42A、42B…絶縁層。
図1
図2
図3
図4
図5
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図10
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図12
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図17