特許第5874245号(P5874245)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5874245-船舶バラスト水の処理方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5874245
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】船舶バラスト水の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/50 20060101AFI20160218BHJP
   B63B 13/00 20060101ALI20160218BHJP
   B63B 59/00 20060101ALI20160218BHJP
   B63B 59/04 20060101ALI20160218BHJP
   C02F 1/76 20060101ALI20160218BHJP
   C02F 1/78 20060101ALI20160218BHJP
   C02F 1/72 20060101ALI20160218BHJP
   C23F 11/18 20060101ALI20160218BHJP
【FI】
   C02F1/50 520F
   B63B13/00 Z
   B63B59/00 C
   B63B59/04 A
   C02F1/50 510A
   C02F1/50 531M
   C02F1/50 531P
   C02F1/50 531Q
   C02F1/50 531R
   C02F1/50 540B
   C02F1/50 550H
   C02F1/76 A
   C02F1/78
   C02F1/50 510D
   C02F1/50 532C
   C02F1/50 532D
   C02F1/50 532H
   C02F1/50 560Z
   C02F1/72 Z
   C23F11/18 102
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-186171(P2011-186171)
(22)【出願日】2011年8月29日
(65)【公開番号】特開2013-46892(P2013-46892A)
(43)【公開日】2013年3月7日
【審査請求日】2014年8月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】林 一樹
(72)【発明者】
【氏名】福澤 耕太郎
(72)【発明者】
【氏名】平野 昭英
(72)【発明者】
【氏名】深瀬 哲朗
【審査官】 井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−144391(JP,A)
【文献】 特開2010−202893(JP,A)
【文献】 特開2002−254083(JP,A)
【文献】 特開2002−079260(JP,A)
【文献】 特開2003−082479(JP,A)
【文献】 特開昭60−099380(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00〜 1/78
B63B 13/00
B63B 59/00〜59/10
C23F 11/00〜11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶のバラストタンクに注水する水に殺菌剤又は殺藻剤と防食剤とを併用添加するとともに、前記バラストタンク内に亜鉛の板状体をあらかじめ吊設することを特徴とするバラスト水の処理方法。
【請求項2】
前記殺菌剤又は殺藻剤が、酸化物又は過酸化物であることを特徴とする請求項1に記載のバラスト水の処理方法。
【請求項3】
前記殺菌剤又は殺藻剤が、前記船舶において電解もしくは化学反応により生成される化学種であることを特徴とする請求項1に記載のバラスト水の処理方法。
【請求項4】
前記防食剤が、ホスホン酸塩、リン酸塩から選ばれた1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の船舶バラスト水の処理方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶のバラストタンクに積み込まれるバラスト水に含まれる細菌類およびプランクトンなどの微小水生生物の殺滅を行う船舶バラスト水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に船舶、特に貨物船は、積載貨物などの重量を含めて設計されているため、空荷または積荷が少ない状態の船舶は、プロペラ没水深度の確保、空荷時における安全航行の確保等の必要性から、出港前に港において海水を取水して船舶のバランスを取るが、このバラストとして用いられる水のことをバラスト水とよぶ。このバラスト水は、無積載で出港するとき、その出港地で港の海水などをバラストタンクに積み込む一方、逆に港内で積荷をするときには、バラスト水の排水を行う。
【0003】
ところで、環境の異なる荷積み港と荷下し港との間を往復する船舶によってバラスト水の注排水が行われると、荷積み港と荷下し港におけるバラスト水に含まれる微生物の差異により沿岸生態系に悪影響を及ぼすことが懸念されている。そこで、船舶のバラスト水管理に関する国際会議において2004年2月に船舶のバラスト水及び沈殿物の規制及び管理のための国際条約が採択され、バラスト水の処理が義務付けられることとなった。
【0004】
バラスト水の処理基準として国際海事機構(IMO)が定める基準は、船舶から排出されるバラスト水に含まれる50μm以上の生物(主に動物プランクトン)の数が1m中に10個未満、10μm以上50μm未満の生物(主に植物プランクトン)の数が1ml中に10個未満、コレラ菌の数が100ml中に1cfu未満、大腸菌の数が100ml中に250cfu未満、腸球菌の数が100ml中に100cfu未満となっている。
【0005】
このようなバラスト水の処理基準を満たすために、バラストタンクへ注水する海水中の微生物等を殺菌する方法が種々提案されている。例えば、特許文献1には、原水をろ過した後、紫外線(UV)を照射することにより微生物等を殺菌する装置が開示されている。また、特許文献2には、電解装置により電解塩素を発生させて、微生物等を殺菌するバラスト水の処理方法が開示されている。特許文献3には、バラスト水中にオゾンを注入することにより微生物等を殺菌する装置が開示されている。特許文献4には、バラスト水に次亜塩素酸ナトリウムや次亜塩素酸カルシウムなどの塩素系の殺菌剤を添加して、滞留時間を確保することにより微生物等を殺菌するバラスト水の処理方法が開示されている。さらに、塩素酸塩、過酸化水素及び硫酸から酸化物としての二酸化塩素を生成させて殺菌剤とする技術、過酸化水素と酢酸とから過酢酸を生成させ、余剰の過酸化水素と過酢酸とにより殺菌する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−207796号公報
【特許文献2】特表2010−536540号公報
【特許文献3】特開2010−13098号公報
【特許文献4】特開2009−297610号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されたバラスト水処理装置では、紫外線を発生するための装置が必要であるばかりでなく、多量の電気が必要であり、発電機を設けなければならない場合が多い。さらに、UVランプの定期的な洗浄が必要で手間がかかり実用的でない、という問題点がある。
【0008】
また、電解装置により電解塩素を発生させて、微生物等を殺菌するバラスト水の処理方法が特許文献2に開示されているが、電解装置は高価でその制御も煩雑であり、多量の電気が必要で発電機を設けなければならない場合が多いうえに、塩分濃度の低い水を被処理水(原水)とする際には、処理時の電圧が上昇し消費電力が増加してしまう、という問題がある。
【0009】
そこで、特許文献3に記載されているようにオゾンガスのような酸化性ガスを殺菌剤として用いたり、特許文献4に記載されているように次亜塩素酸ナトリウムや次亜塩素酸カルシウムなどの塩素系の殺菌剤を用いたり、プランクトンの殺滅効果が高い酸化物としての二酸化塩素や過酸化物としての過酸化水素などの活性物質を用いたりしてバラスト水を処理することが広く行われている。そして、これらの処理は、それ自体単独で用いられる場合もあるが、前処理として濾過装置やサイクロンなどの分離手段と組み合わせて使用されることが多く、これらの前処理は、注入するバラスト水全量に対して行われることになる。
【0010】
しかしながら、これらの殺菌剤は酸化剤(酸化性)であるので、十分なプランクトンの殺滅効果を得られるだけの量を添加すると、バラスト水の配管やバラストタンクが腐食することがある。このような腐食の問題は、建造されて間もない船舶の場合には十分な塗装が施されているので問題とならないが、塗装から数年を経過したものでは、塗装の劣化や亀裂が生じ、極めて腐食しやすい状態となっている。このため、既存の船舶においては、これらの殺菌剤による腐食が大きな問題となっている。特にバラストタンクは船舶の外周側に設置されることが多いため、腐食が進むと浸水等の問題が生じかねないため、バラストタンクの腐食は船舶の寿命に大きく影響する。
【0011】
本発明は、かかる課題を解決して、バラストタンクの腐食を抑制したバラスト水に含まれる細菌類およびプランクトンなどの微小水生生物の殺滅を行う船舶バラスト水の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、船舶のバラストタンクに注水する水に殺菌剤又は殺藻剤と防食剤とを併用添加するとともに、前記バラストタンク内に金属亜鉛を存在させることを特徴とするバラスト水の処理方法を提供する(発明1)。
【0013】
かかる発明(発明1)によれば、殺菌剤又は殺藻剤によりバラスト水の細菌類およびプランクトンなどの微小水生生物の殺滅を行う一方、防食剤によりバラストタンクの腐食を抑制することができ、船舶の長寿命化を図ることができる。このとき、防食剤によりバラストタンクの十分な腐食抑制効果を得るには、例えば5mg/L以上、場合によっては10mg/L以上の多量の防食剤を添加することが必要となるが、バラストタンク内に金属亜鉛を投入することにより、防食剤の使用量を大幅に削減することができる。
【0014】
上記発明(発明1)においては、前記殺菌剤又は殺藻剤が、酸化物又は過酸化物であるのが好ましい(発明2)。
【0015】
かかる発明(発明2)によれば、効率的に細菌類およびプランクトンなどの微小水生生物の殺滅を行うことができる。
【0016】
また、上記発明(発明1)においては、前記殺菌剤又は殺藻剤として、前記船舶において電解もしくは化学反応により生成される化学種を用いることができる(発明3)。
【0017】
かかる発明(発明3)によれば、船舶において殺菌剤又は殺藻剤を生成することで、殺菌剤又は殺藻剤を積載することなく、バラスト水の処理を行うことができる。
【0018】
上記発明(発明1〜3)においては、前記防食剤が、ホスホン酸塩、リン酸塩から選ばれた1種又は2種以上であるのが好ましい(発明4)。
【0019】
かかる発明(発明4)によれば、これらの防食剤は殺菌剤又は殺藻剤に対する耐性を有するので、効果的にバラストタンクの腐食を抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の船舶バラスト水の処理方法によれば、船舶のバラストタンクに注水する水に殺菌剤又は殺藻剤と防食剤とを併用添加することにより、バラストタンクの腐食を抑制しながら、細菌類およびプランクトンなどの微小水生生物の殺滅を行うことができる。このとき、バラストタンク内に金属亜鉛を投入することにより、防食剤を単独で使用した時に比べて防食剤の使用量を大幅に削減することができる。これは、溶解した亜鉛が防食剤と反応して、この反応物がバラストタンクの内面に防食皮膜を形成するためであると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施の形態に係る船舶バラスト水の処理方法を概略的に示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本実施形態のバラスト水の処理方法は、船舶のバラストタンクに注水する水に殺菌剤又は殺藻剤と防食剤とを併用添加するとともに、バラストタンク内に金属亜鉛を存在させる。
【0023】
上記殺菌剤又は殺藻剤としては、オゾン、ハロゲン系化合物、過酸化水素などの過酸化物及び過酢酸などを用いることができ、これらの中では、ハロゲン系化合物が好ましい。ハロゲン系化合物としては、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウムなどの次亜塩素酸塩、ジクロロイソシアヌル酸、トリクロロイソシアヌル酸などのイソシアヌル酸、二酸化塩素などを用いることができる。特に次亜塩素酸ナトリウム及びジクロロイソシアヌル酸が好ましい。
【0024】
これらの殺菌剤又は殺藻剤は、単独でもしくは2種以上を用いることができ、それぞれ市販の薬剤を船舶に搭載して用いることもできるし、あるいは電解反応による塩素の生成、塩素酸塩と過酸化水素と硫酸からの二酸化塩素の生成、過酸化水素と酢酸とから過酢酸を生成させてこれを余剰の過酸化水素と併用する、など化学反応により生成される化学種を用いることで、薬剤自体を船舶に搭載せずに船舶にてオンサイトで生成してこれを用いることもできる。
【0025】
上述したような殺菌剤又は殺藻剤の添加量は、使用する殺菌剤又は殺藻剤の能力に応じて適宜設定すればよい。例えば、次亜塩素酸塩を用いる場合には2〜50mg/L程度、過酸化水素を用いる場合には5〜500mg/L程度、二酸化塩素を用いる場合には2〜50mg/L程度、及びジクロロイソシアヌル酸、トリクロロイソシアヌル酸を用いる場合には1〜100mg/L(塩素換算)程度をそれぞれバラスト水に対して添加すればよい。なお、殺菌剤又は殺藻剤の添加量は、バラスト水中の有機物(DOC、POCなど)の量やアンモニアの濃度によって適宜調整すればよい。
【0026】
防食剤としては、上述した殺菌剤又は殺藻剤と反応しにくい物質が好ましく、正リン酸塩、重合リン酸塩(ピロリン酸塩、トリポリリン酸塩、ヘキサメタリン酸塩など)等のリン酸塩、ホスホン酸塩、二価金属塩(亜鉛塩、ニッケル塩など)、カルボン酸系低分子量ポリマー(アクリル酸やマレイン酸系のカルボキシ基を有する水溶液の低分子量ポリマー)、亜硝酸塩、クロム酸塩、アミン、アゾール類などを用いることができる。これらの中では、安定でかつ低濃度で効果が高い点からリン酸塩及びホスホン酸塩が好ましい。
【0027】
これらの防食剤は、単独でもしくは2種以上を用いることができる。上述したような防食剤の添加量は、使用する防食剤の能力や海水、汽水、淡水などのバラスト水の水質に応じて適宜設定すればよく、塩類濃度が高いほど多く添加するのが好ましい。例えば、リン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム及びヘキサメタリン酸ナトリウムを用いる場合には1〜20mg/L程度、ホスホン酸ナトリウムを用いる場合には0.5〜20mg/L程度をバラスト水に対して添加すればよい。
【0028】
また、金属亜鉛としては、特に制限はなく、亜鉛の板状体、粒状体、粉状体などを用いることができ、防食のためには、一定量以上の亜鉛が溶解する必要があることから、表面積の大きい粒状体が少ない添加量で済む。一方、実用的には、亜鉛の板状体をあらかじめバラストタンク内に吊設するのが簡単である。なお、本明細書中において金属亜鉛とは、純亜鉛に限らず、亜鉛を50%以上、特に70%以上含有する亜鉛合金も含む。
【0029】
この金属亜鉛は、亜鉛溶出量が電流値として5〜50mA/mとなる量を設置すればよく、電流値5mA/m以下では防食剤の低減効果が十分でない一方、50mA/mを超えると亜鉛が無駄になるため好ましくない。なお、金属亜鉛の設置量は、海水、汽水、淡水などのバラスト水の水質に応じて適宜設定すればよく、塩類濃度が高いほど多く設置するのが好ましい。
【0030】
さらに、バラスト水は、バラスト終了後荷積み港で環境中に排出されるため、環境に悪影響を及ぼしてはならない。殺菌剤又は殺藻剤は、酸化剤として機能するものであるので、通常、殺菌後は還元剤で還元処理し、無害化した後放流する。上記還元剤としては、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム(亜硫酸水素ナトリウム)、チオ硫酸ナトリウムなどを用いることができる。特にチオ硫酸ナトリウムを用いるのが好ましい。
【0031】
次に、上述したような殺菌剤又は殺藻剤、防食剤及び還元剤を用いた本実施形態の船舶バラスト水の処理方法の一例について、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る船舶バラスト水の処理方法を実施可能なシステムを示すフロー図である。
【0032】
図1において、船舶バラスト水の処理システムは、バラスト水としての原水Wの取水部1と、この取水部1に接続した原水Wを送給するメインライン2と、このメインライン2の末端に設けられたバラストタンク3とを備え、メインライン2の途中には、図示しない開閉弁や調整弁などの流量制御機構を介してバイパスライン4が付設されている。このバイパスライン4の途中には、殺菌剤溶液供給装置5と防食剤供給装置6とが設置されていて、殺菌剤と防食剤とを併用添加可能となっている。そして、この防食剤供給装置6の下流側でメインライン2に合流している。さらに、バラストタンク3内には金属亜鉛片7が吊設されている。
【0033】
また、バラストタンク3には、排バラスト水WBを排出するための排出ライン8も接続しており、この排出ライン8の末端は排水部9となっていて、さらに該排出ライン8の途中には、還元剤供給機構10に連通した還元剤供給管11が接続されている。この還元剤供給機構10は、塩素が残留する排バラスト水WBに還元剤を供給して残存する塩素を還元し、残留塩素濃度を目標残留塩素濃度にまで低減するものである。目標残留塩素濃度にまで低減した上で外部環境に排水する。なお、排出ライン8は、実機上はメインライン2と共用とすればよい。
【0034】
上述したような船舶バラスト水の処理システムを用いて、バラスト水の積込み時に細菌類やプランクトンの死滅処理を行う本実施形態のバラスト水の処理方法について以下説明する。
【0035】
まず、原水(バラスト水)Wの積込み時には、取水部1を開放して、必要に応じて図示しない送液ポンプすることにより、原水Wが取水部1からメインライン2を通過してバラストタンク3に流入する。
【0036】
このとき、メインライン2から原水Wの一部をバイパスライン4に分岐させ、殺菌剤溶液供給装置5を通過させることで、殺菌剤が所定の濃度で溶解した殺菌剤溶液W1を得ることができる。続いて、防食剤供給装置6から防食剤を所定の濃度で添加しメインライン2に合流させればよい。
【0037】
このとき本実施形態においては、バラストタンク3に金属亜鉛片7を吊設しているので、金属亜鉛片7なしの場合と比べて防食剤の供給量を大幅に削減しても所望とするバラストタンク3の防食効果を得ることができる。具体的には、防食剤として、リン酸塩、ホスホン酸塩を用いた場合には、金属亜鉛片7なしの場合と比べて防食剤を1/5以下の使用量とすることができる。なお、金属亜鉛片7のみを用いて防食剤を用いなかった場合と比べて、金属亜鉛片7も1/5以下でよい。このようにして、IMOが定めるバラスト水基準を満たすバラスト水Wの処理が実現しつつバラストタンク3の腐食を抑制することが可能となり、しかも防食剤の使用量を削減することも可能となっている。
【0038】
次に、バラスト水の排出時について説明する。バラスト水をバラストタンク3から排出する際には、排水部9を開放した状態で、必要に応じて図示しない送液ポンプにより送水することにより、バラストタンク3内の排バラスト水WBが排出ライン8からを経由して排水部9から排出される。
【0039】
このとき、排バラスト水WB中の残留塩素濃度に応じて、還元剤供給機構10から排出ライン8に還元剤を供給することにより、残留塩素を還元してトリハロメタンの生成を抑制することができる。
【0040】
以上、本発明について添付図面を参照して説明してきたが、本発明は前記実施形態に限定されず、種々の変形実施が可能である。例えば、殺菌剤としてオゾンを用いる場合には、オゾン発生装置を別途搭載するとともに、オゾン溶解槽を設けてオゾン溶解水を調整し、このオゾン溶解水を用いればよい。
【実施例】
【0041】
以下の具体的実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
〔実施例1、2及び比較例1〜3〕
【0042】
塩類濃度4重量%の人工海水を原水とし、この原水に表1に示す濃度で、殺菌剤としての次亜塩素酸ナトリウムと、各種防食剤とを添加して模擬バラスト水を調製した。
【0043】
日本海事協会規格KA鋼材(無塗装)を試験鋼材として、この試験鋼材それぞれ4枚を25℃の恒温室で密閉容器に入れ、模擬バラスト水に全水没させ、3ケ月後に腐食生成物を除去した後重量変化を測定した。このとき亜鉛板(50mmk×100mm)を浸漬したものを実施例とした。この重量変化に基づき1年間の腐食速度を算出した結果を表1に示す。また、殺菌剤及び防食剤を添加せずに、人工海水のみに浸漬した場合についての重量変化を測定した場合について、参考例としてあわせて表1に示す。
【0044】
なお、試験鋼材は70mm×150mm×5mmで下地処理はショットブラスト(Sa>2.5)であり、試験前の試験鋼板の重量は24枚で408.114g〜413.169gであった。
【0045】
【表1】
【0046】
表1から明らかなとおり、次亜塩素酸ナトリウムのみを添加した比較例1では、人工海水(原水)のみの参考例よりも鋼板の腐食が大幅に促進され、次亜塩素酸ナトリウムと防食剤を併用した比較例2でも鋼板の腐食が促進していた。これに対し、次亜塩素酸ナトリウムと防食剤を併用し、試験鋼材とともに亜鉛板を存在させた実施例1、2では、対応する比較例2,3よりも鋼板の腐食が抑制されており、参考例とほぼ同程度にまで抑制できることがわかった。
〔比較例4〜6、及び実施例3,4〕
【0047】
塩類濃度4重量%の人工海水を原水とし、この模擬原水に表2に示す濃度で、殺菌剤としてのジクロロイソシアヌル酸と、各種防食剤とを添加して模擬バラスト水を調製し、この模擬バラスト水を用いて、実施例1と同様にして亜鉛板を存在させて腐食速度を算出した。結果を表2に示す。また、殺菌剤及び防食剤を添加せずに、人工海水のみに浸漬した場合についての重量変化を測定した場合について、参考例としてあわせて表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
表2から明らかなとおり、ジクロロイソシアヌル酸と防食剤と亜鉛板を併用した実施例3、4では、腐食速度が参考例とほぼ同程度にまで抑制できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の船舶のバラストの水処理方法は、各種船舶、特に大型の船舶のバラスト水の処理に好適に使用できる。
【符号の説明】
【0051】
1…取水部
2…メインライン
3…バラストタンク
4…バイパスライン
5…殺菌剤溶液供給装置
6…防食剤供給装置
7…金属亜鉛片
8…排出ライン
9…排水部
10…還元剤供給機構
11…還元剤供給管
図1