【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題に鑑み、本発明者らは鋭意検討した。その結果、コバルトアルミネート及びアルミナの両者を一定量含有するジルコニア混合粉末が緑味、赤味などの色味を帯びていない、純粋な灰色を呈する灰色ジルコニア焼結体を与えることを見出した。
【0010】
従来、コバルトアルミネートは青色の着色剤、すなわち、色味を帯びさせることを目的とした着色ジルコニア焼結体の着色剤として用いられている。これに対し、本発明では、コバルトアルミネートを使用することで色味を帯びさせない灰色を得たものである。
【0011】
すなわち、本発明は0.01重量%以上0.5重量%以下のコバルトアルミネート、20重量%以上30重量%以下のアルミナを含有するジルコニア混合粉末である。
【0012】
以下、本発明のジルコニア混合粉末について説明する。
【0013】
本発明のジルコニア混合粉末に含まれるジルコニアは、安定化剤を含んだジルコニア、いわゆる部分安定化ジルコニアである。安定化剤はイットリア(Y
2O
3)であることが好ましい。安定化剤の含有量は2〜4mol%であることが好ましい。これにより、結晶構造が立方晶のジルコニアが得られる。なお、安定化剤の含有量(mol%)は、ジルコニア混合粉末中のジルコニア及び安定化剤の合計に対する安定化剤の割合であり、以下の(1)式により求めることができる。
【0014】
安定化剤(mol)/{安定化剤(mol)+ジルコニア(mol)}×100
・・・・(1)
【0015】
本発明のジルコニア混合粉末は、コバルトアルミネートを含有する。コバルトアルミネートは、コバルト(Co)及びアルミニウム(Al)を含む複合酸化物であり、CoAl
2O
4で表される酸化物であることが好ましい。
【0016】
本発明のジルコニア混合粉末は、コバルトアルミネートを0.01重量%以上0.5重量%以下含有する。コバルトアルミネートの含有量が0.01重量%未満であると、これを焼成して得られる焼結体が色味を帯びていない純粋な灰色を呈する。コバルトアルミネートの含有量は0.03重量%以上であることが好ましく、0.1重量%以上であることがより好ましい。一方、コバルトアルミネートの含有量が0.5重量%を超えると、得られるジルコニア焼結体の色調が特にb値が低くなり、色味を帯びた灰色となる。そのため、コバルトアルミネートの含有量の上限は0.5重量%以下であり、0.4重量%以下であることが好ましい。
【0017】
本発明のジルコニア混合粉末は、アルミナ(Al
2O
3)を含有する。これにより、白色度を調整することができる。アルミナの含有量は、20重量%以上30重量%以下であり、24重量%以上30重量%以下であることが好ましい。上記のコバルトアルミネートの含有量に、この範囲のアルミナの含有量とすることで、これを焼成していられる灰色ジルコニア焼結体の色調が、色味を帯びていない灰色を呈する。
【0018】
なお、コバルトアルミネートの含有量、及び、アルミナの含有量は、それぞれ本発明のジルコニア混合粉末に対する重量の割合であり、以下の(2)式、及び、(3)式で求めることができる。
【0019】
コバルトアルミネート/(安定化剤+ジルコニア+コバルトアルミネート+アルミナ)
・・・・(2)
【0020】
アルミナ/(安定化剤+ジルコニア+コバルトアルミネート+アルミナ)
・・・・(3)
【0021】
本発明のジルコニア混合粉末は、上記の組成を有していれば、その粉末物性は適宜選択することができる。好ましい粉末物性として、例えば、BET比表面積が5m
2/g以上20m
2/g以下、及び、平均粒子径が0.3μm以上0.8μm以下を挙げることができる。
【0022】
次に、本発明のジルコニア混合粉末の製造方法について説明する。
【0023】
本発明のジルコニア混合粉末は、上記の組成を有し、なおかつ、ジルコニア混合粉末全体として均一な組成となっていればよい。好ましい製造方法として、ジルコニア粉末、コバルトアルミネート粉末及びアルミナ粉末を混合し、顆粒化する製造方法を挙げることができる。
【0024】
本発明のジルコニア混合粉末に用いるジルコニア粉末は、安定化剤としてイットリアを2〜4mol%含有し、立方晶の結晶構造を有し、結晶子径が200Å以上400Å以下、BET比表面積が5m
2/g以上20m
2/g以下、平均粒子径が0.4μm以上0.7μm以下のジルコニア粉末であることが好ましい。
【0025】
このようなジルコニア粉末は、例えば、平均粒子径が0.05〜0.3μmのジルコニアゾルをか焼して得られたジルコニア粉末を挙げることができる。ジルコニアゾルをか焼する温度は700℃以上1200℃以下であることが好ましい。これにより、BET比表面積が5m
2/g以上20m
2/g以下のジルコニア粉末が得られやすくなる。
【0026】
本発明のジルコニア混合粉末に用いるコバルトアルミネート粉末は、その平均粒子径が1μm以下であることが好ましく、0.3μm以上0.8μm以下であることがより好ましい。コバルトアルミネート粉末の平均粒子径がこの範囲であることでジルコニア粉末と混合しやすくなる。
【0027】
混合するコバルトアルミネート粉末の混合量は0.01重量%以上0.5重量%以下であることが好ましく、0.03重量%以上であることがより好ましく、0.1重量%以上であることが更に好ましい。一方、コバルトアルミネート粉末の混合量の上限は0.5重量%以下であることが好ましく、0.4重量%以下であることがより好ましい。コバルトアルミネート粉末の混合量をこの範囲とすることで、これを焼結して得られる灰色ジルコニア焼結体の色調が色味を帯びていない灰色となりやすい。
【0028】
本発明のジルコニア混合粉末に用いるアルミナ粉末は、その平均粒子径0.1μm以上0.5μm以下であることが好ましく、0.3μm以上0.5μm以下であることがより好ましい。アルミナ粉末の平均粒子径がこの範囲であることでジルコニア粉末との混合しやすくなる。
【0029】
アルミナ粉末の混合量は、20重量%以上30重量%以下であることが好ましく、24重量%以上30重量%以下であることがより好ましい。
【0030】
ジルコニア粉末、コバルトアルミネート粉末、及び、アルミナ粉末を混合することでジルコニア混合粉末を得ることができる。これらの粉末の混合方法は得られるジルコニア混合粉末の組成が均一になれば適宜選択することができ、湿式混合、粉砕混合のいずれも使用することができる。
【0031】
本発明のジルコニア混合粉末の製造方法では、混合後のジルコニア混合粉末を顆粒化することが好ましい。これにより、流れ性に優れ、得られる成形体の密度が高くなりやすい。好ましい顆粒としては、平均課粒径が40μm以上70μm以下、軽装嵩密度が1.0g/cm
3以上1.3g/cm
3以下のジルコニア混合粉末顆粒を例示することができる。
【0032】
顆粒化の方法として、混合後の粉末を水に懸濁させてジルコニア濃度が40〜60重量%のスラリーとし、これを噴霧乾燥して顆粒化する方法を挙げることができる。
【0033】
本発明のジルコニア混合粉末を成形、焼成することで灰色ジルコニア焼結体を得ることができる。
【0034】
成形条件は特に限定されず、本発明のジルコニア混合粉末又はジルコニア混合粉末顆粒を冷間静水圧プレス(CIP)または一軸プレス法を用いて所定の形状に成形することができる。また、目的に応じて射出成形法や鋳込み成形法等を適用することもできる。この際、得られる成形体としては、その軽装嵩密度が2.4g/cm
3以上となるようにすることが好ましい。また、本発明のジルコニア混合粉末又はジルコニア混合粉末顆粒の軽装嵩密度は2.9g/cm
3以下であれば、これを焼成することで得られる焼結体の密度が高くなりやすい。
【0035】
得られた成形体を焼成することで灰色ジルコニア焼結体を得ることができる。焼成条件は適宜選択でき、1400℃以上1600℃以下で焼成することが好ましく、1400℃以上1550℃以下で焼成することがより好ましく、1400℃以上1500℃以下で焼成することがさらに好ましい。
【0036】
このように、本発明の灰色ジルコニア焼結体はコバルトアルミネート及びアルミナの両者を含有する。これにより初めて塩ビのような色味を帯びない灰色を呈し、なおかつジルコニア特有の重厚感を有した色調を呈する焼結体とすることができる。
【0037】
本発明の灰色ジルコニア焼結体は、その色調がハンター表色系において、a値が−5以上5以下、b値が−5以上5以下であることが好ましい。また、a値が−5以上5以下であることで、赤味及び緑味のいずれの色味を帯びない灰色を呈色することができる。同様に、b値が−5以上5以下であることで青味及び黄色味を帯びない灰色を呈色することができる。なお、a値及びb値の両者を満たすことで初めて色味を帯びていない灰色をとなる。
【0038】
本発明の灰色ジルコニア焼結体はW値が65以上85以下であることが好ましい。W値は白色及び黒色の濃淡を決めるパラメータである。W値が65以上85以下であることで黒色と白色の中間色、すなわち灰色を呈する灰色ジルコニア焼結体となる。同様な理由により、L値が65以上85以下であることが好ましい。
【0039】
本発明の灰色ジルコニア焼結体は機械的強度が高いことが好ましい。これにより、本発明の灰色ジルコニア焼結体が強度を求められる用途にも適用できるようになり、その用途範囲が広がる。そのため、本発明の灰色ジルコニア焼結体は、三点曲げ強度が1000MPa以上であることが好ましく、1100MPa以上であることがより好ましく、1130MPa以上であることが更に好ましい。また、三点曲げ強度は高いほど好ましいが、その上限として1300MPa以下を例示することができる。
【0040】
本発明の灰色ジルコニア焼結体は、その密度が5.0g/cm
3以上6.1g/cm
3以下であることが好ましく、5.3g/cm
3以上5.5g/cm
3以下であることがより好ましい。密度がこの範囲であることで、焼結体全体として色ムラがなく呈色をする灰色ジルコニア焼結体となる傾向にある。
【0041】
本発明の灰色ジルコニア焼結体は、その平均結晶粒子径が0.7μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましい。これにより、本発明のジルコニア焼結体の機械的強度が高くなりやすい。なお、平均結晶粒子径は0.2μm以上であれば、1000MPa以上の高い曲げ強度を有する焼結体を得ることができる。