特許第5874558号(P5874558)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5874558プレス成形用プリフォームおよびプリフォームから作られる光学素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5874558
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】プレス成形用プリフォームおよびプリフォームから作られる光学素子
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/068 20060101AFI20160218BHJP
   G02B 1/00 20060101ALI20160218BHJP
【FI】
   C03C3/068
   G02B1/00
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-162535(P2012-162535)
(22)【出願日】2012年7月23日
(65)【公開番号】特開2014-19632(P2014-19632A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】▲萱▼▲場▼ 徳克
【審査官】 立木 林
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−006318(JP,A)
【文献】 特開2006−016286(JP,A)
【文献】 特開2005−097102(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00−14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準の質量%で、
:10〜20%、
SiO:0.5〜12%、
ZnO:5〜19%、
Ta:3〜17%、
LiO:0.2〜3%
ZrO:0.6〜4.9%、
WO:6.1〜20%、
La:32.5〜50%、
:0.2〜1.5%未満で含有し、
に対するLaの含有量の質量%分率(La/Y)が40以上で、かつ、屈折率n:1.83〜1.88、アッベ数ν:39〜42の光学恒数を有することを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
液相温度Tが1100℃以下である請求項1記載の光学ガラス。
【請求項3】
TaとLaの含有量の合量が、45%超である請求項1または2記載の光学ガラス。
【請求項4】
ホットサーモカップル法で測定した1000℃での溶融ガラスの失透開始時間が500秒以上である請求項1〜3のいずれか1項記載の光学ガラス。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに1項記載の光学ガラスよりなるプレス成形用プリフォーム。
【請求項6】
請求項5に記載のプリフォームをプレス成形して光学素子を製造することを特徴とする光学素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高屈折率で低分散性の光学ガラス、それを用いた精密プレス成形用プリフォームおよびそれを用いた光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラなどの光学系では、高屈折率で低分散の光学特性を有するガラス製の光学レンズ、特に非球面レンズが使用されている。現在、成形型を用いた高精度のプレス成形技術が発展を遂げており、非球面レンズは精密プレス成形法により製造される。
【0003】
精密プレス成形法には、ガラス融液から滴下等により、一度、所定の質量、形状を有するプリフォームとし、得られたプリフォームを金型内に入れて再加熱、プレス成形するリヒートプレス法がある。
【0004】
リヒートプレス法の生産性を向上するためには、精度のよいプリフォームが必要である。失透や脈理がなく、所定の質量を有するプリフォームを、精密プレス成形すると、研磨工程が不要となる。一方、金型の耐久性を高める観点から、プリフォームは低いガラス転位温度(T)が望まれる。
【0005】
プリフォームは、一例として、ガラス原料を白金タンクなどにおいて高温で溶解し、融液温度を下げてパイプを通し、白金ノズルから融液を滴化し、受け型において冷却して製造される。パイプ内で融液温度は、生産性と失透防止の観点から、液相温度(T)程度に保たれる。ここで、前記液相温度Tとは、ガラス融液をその温度に保持した際にその中に結晶が析出しない最低の温度である。融液に結晶が析出すると、プリフォーム製造時に、ガラスが失透し、外観不良の原因になる。そのため、プリフォームの製造では、融液の温度は失透が発生しない程度に高く保持される。
【0006】
一方で、融液の温度を高くすると、ノズルから融液を滴下する際および受け型で冷却する間に融液表面から成分が揮散しやすくなる。成分が揮散すると、融液表面のガラス組成が不均一になり、ガラス表面に脈理が発生し、外観不良の原因となる。そのため、プリフォームの成形では、融液の温度は成分が揮散しない程度に低く保持される。
【0007】
高屈折率で低分散特性を示す光学ガラスの組成として、B‐Laを主成分とするガラスが広く使用されている。B‐La系のガラスは、ガラス転位温度Tが高いため、LiOなどのアルカリ成分を含有してガラス転位温度Tを下げている。しかし、アルカリ成分を含有すると屈折率nが低くなり、所望の光学恒数が得られないおそれがある。
【0008】
特許文献1、2には、B‐La系のガラスにおいて、LiOを0.2〜3質量%含有し、La、GdおよびYを合量(La+Gd+Y)で35〜60質量%含有することで、ガラス転位温度Tが630℃以下のプレス成形に適したガラスが記載されている。これらのガラスは、屈折率nが1.82〜1.86、アッベ数νが37〜44の光学恒数を有している。
【0009】
しかし、これらのガラスは、液相温度Tが1000℃以上と高い。そのため、融液を液相温度T以上に保持すると、Bやアルカリ成分が揮散して、プリフォーム成形時に表面脈理が発生するおそれがある。
【0010】
一方で、液相温度Tが高く、融液温度が高くても、プリフォーム表面の脈理発生を抑制する製造方法が知られている。特許文献3には、プリフォーム成形において、ガラス融液滴化時に、ガラス融液にガスを吹き付けて表面温度を急速に下げて、成分の揮散を抑制する方法が記載されている。この方法によれば、成分の揮散を抑制でき、表面脈理を防止できるが、ガスの吹き付け条件は、経験知によるところが大きく、再現性が低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2011−6318号公報
【特許文献2】国際公開2009/72335号パンフレット
【特許文献3】特開2009−263228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述のとおり、B‐La系でアルカリ成分を含む組成は、成分の揮散による表面脈理が問題であった。一方で、液相温度Tが高いため、融液温度を下げると、融液に結晶が析出し、ガラスが失透する問題があった。
【0013】
本発明は、上記課題を解決し、高屈折率・低分散の光学特性を有し、プレス成形性に優れたガラスであって、その液相温度Tが高くても、プリフォーム成形時においてガラス表面での脈理発生が抑制され、かつ、失透しにくいガラスの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、液相温度Tよりも低い温度において、融液中に結晶が析出する時間、すなわちガラスの失透が開始する時間(以下、失透開始時間という)に着目し、本発明に到った。本発明は、液相温度T以下でプリフォームを成形しても、失透開始時間が十分に長いため、失透を防止できる。
【0015】
本発明者は、B‐La系ガラスで、失透開始時間がYの含有量とYに対するLaの含有量の質量%分率(La/Y)とに依存していることを見出し、本発明に到った。
【0016】
本発明の光学ガラスは、酸化物基準の質量%で、B 10〜20%、SiO 0.5〜12%、ZnO 5〜19%、Ta 3〜17%、LiO 0.2〜3%、ZrO 0.6〜4.9%、WO 6.1〜20%、La 32.5〜50%、Y 0.2〜1.5%未満で含有し、Yに対するLaの含有量の質量%分率(La/Y)が40以上で、かつ、屈折率n 1.83〜1.88、アッベ数ν 39〜42の光学恒数を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の光学ガラスの光学恒数は、屈折率n 1.83〜1.88、アッベ数ν 39〜42である。本発明の光学ガラスのガラス転位温度Tは、630℃以下である。
【0018】
の含有量が低く、また、Yに対するLaの含有量の質量%分率(La/Y)が40以上とすることで、ガラスを液相温度T以下に保持した際の失透開始時間を十分に長くできる。
【0019】
液相温度T以下での失透開始時間が長いので、ガラス融液を低温にしてもガラスの失透を抑制できる。そのため、プリフォーム成形時のガラス融液温度を低くできるので、成分の揮散量を小さくできる。これにより、B‐La系のガラスを低温で成形でき、所望の光学恒数を有しかつ、外観不良のないプリフォームが得られる。
【0020】
さらに、良品で均一なプリフォームをプレス成形して光学素子を製造することにより、高品質な光学素子を高い生産性のもとに量産でき、生産性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明のガラスの液相温度T近傍における揮散試験を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本ガラスの各成分範囲を設定した理由を以下に説明する。
【0023】
本ガラスにおいて、Bはガラス骨格を形成し、また液相温度Tを低下させる成分であり、必須成分である。本ガラスにおいて、B含有量は10〜20質量%である。B含有量が10質量%未満ではガラス化が困難になり好ましくない。耐失透性の良好なガラスを得るためにはB含有量を10質量%以上とする。B含有量が11質量%以上であるとより好ましい、12質量%以上であると液相温度Tが低下するとともに、アッベ数νを高くできるためさらに好ましい。
【0024】
一方、本ガラスでは、B含有量が20質量%超では屈折率nが低くなり、または耐水性等の化学的耐久性が低下するおそれがある。本ガラスにおいて、B含有量が20質量%以下である。屈折率nを高くしたい場合には、B含有量は19質量%以下が好ましく、18.5質量%以下がさらに好ましい。なお、Bの含有量は、モル%で示すと、24〜45モル%である。
【0025】
本ガラスにおいて、SiOはガラスの安定化および高温成形時の失透の抑制に有効な成分であり、必須成分である。本ガラスにおいて、SiO含有量は、0.5〜12質量%である。SiO含有量が12質量%を超えると、成形温度が高くなり、屈折率nが低くなるおそれがある。SiO含有量は11質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
【0026】
一方、SiO含有量を0.5質量%以上とすることで高温成形時の失透を抑制でき、またはガラス融液の粘性を調整できる。SiO含有量は1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましい。なお、SiOの含有量は、モル%で示すと、3〜20モル%である。
【0027】
本ガラスにおいて、ZnOはガラスを安定化させ、成形温度および溶解温度を低下させる成分であり、必須成分である。本ガラスにおいて、ZnO含有量は5〜19質量%である。ZnO含有量が、5質量%未満ではガラスが不安定になるか、成形温度が高くなるおそれがある。ZnO含有量は6質量%以上が好ましく、6.5質量%以上がより好ましい。一方、本ガラスにおいて、ZnO含有量が19質量%を超えると、ガラスの安定性が悪くなり、また化学的耐久性も低下するおそれがある。ZnO含有量は18質量%以下が好ましく、17質量%以下がより好ましい。なお、ZnOの含有量は、モル%で示すと、10〜30モル%である。
【0028】
本ガラスにおいて、Taはガラスの安定化、屈折率nの向上、融液からの成形時の失透の抑制をもたらす成分であり、必須成分である。本ガラスにおいて、Ta含有量は3〜17質量%である。Ta含有量が、少ないと屈折率nが低くなり、液相温度Tが高くなるおそれがある。そのため、Ta含有量は3質量%以上である。Ta含有量は5質量%以上が好ましく、8質量%以上がより好ましい。
【0029】
一方、Ta含有量が多すぎると溶解温度が高くなり、ガラスの比重が大きくなる。また、Ta含有量が多くなると、液相温度T以下でTaを含む結晶(例えば、LaTaO、LiTa)も析出しやすくなる。さらに、Taは希少元素で、高価な成分であるため、生産原価が高くなる。そのため、本ガラスでは、Ta含有量は、17質量%以下である。Ta含有量は16質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。なお、Taの含有量は、モル%で示すと、1〜8モル%である。
【0030】
本ガラスにおいて、LiOは、ガラスを安定化させ、精密プレス成形温度、溶解温度を低下させる成分であり、必須成分である。本ガラスにおいて、LiO含有量は0.2〜3質量%である。LiO含有量が0.2質量%未満では、成形温度が高くなるおそれがある。LiO含有量は0.25質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましい。
【0031】
一方、LiO含有量が3質量%を超えると失透しやすくなり、化学的耐久性の低下や溶解時の成分の揮散が激しくなるおそれがある。LiO含有量は2質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。なお、LiOの含有量は、モル%で示すと、0.5〜5モル%である。
【0032】
本ガラスにおいて、ZrOはガラスを安定化させ、屈折率nを高くし、ガラスプリフォーム成形時の失透を抑制する成分で、必須成分である。本ガラスにおいて、ZrO含有量は0.6〜4.9質量%である。ZrO含有量が4.9質量%を超えると成形温度が高くなり、アッベ数νが小さくなるおそれがある。また、ZrO含有量が4.9質量%を超えると液相温度T以下でZrOが析出しやくすなり、ガラスが安定化せず、液相温度Tが上昇するおそれもある。
【0033】
ZrO含有量は4.8質量%以下が好ましく、4.7質量%以下がより好ましく、4.5質量%以下がさらに好ましい。一方、添加の効果を得るためには、ZrO含有量は0.8質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましく、1.5質量%以上がさらに好ましい。また、本ガラスのZrO含有量は、0.5〜10モル%である。
【0034】
本ガラスにおいて、WOはガラスの安定化、屈折率nの向上、ならびに高温成形時の失透の抑制に効果的な成分であり、必須成分である。本ガラスにおいて、WO含有量は6.1〜20質量%である。WO含有量が6.1質量%未満では屈折率nが低くなり、液相温度Tが高くなるおそれがある。WO含有量は、6.3質量%以上が好ましく、6.5質量%以上がより好ましい。一方、WO含有量が20質量%を超えるとアッベ数νが小さくなり、目的とする低分散特性が得られなくなる。そのため、WO含有量は16質量%以下が好ましく、12質量%以下がより好ましい。なお、WO含有量は、モル%で示すと、3〜12モル%である。
【0035】
本ガラスにおいて、Laは屈折率nを高くし、アッベ数νを大きくし、かつ化学的耐久性を向上させる成分であり、必須成分である。本ガラスにおいて、La含有量は32.5〜50質量%である。La含有量は、32.5質量%未満では屈折率nが低くなるおそれがある。La含有量は32.7質量%以上が好ましく、33質量%以上がより好ましい。
【0036】
一方、La含有量が50質量%を超えるとガラス化しにくくなり成形温度が高くなり、液相温度Tが高くなるおそれがある。La含有量は45質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。なお、Laの含有量は、モル%で示すと、10〜25モル%である。
【0037】
本ガラスにおいて、YはLaと同様に屈折率nを高くし、アッベ数νを大きくし、化学的耐久性を向上させる成分であり、必須成分である。さらに、Yは、ガラスを安定化させる他、他の希土類元素酸化物に比べて粘性を上げる成分でもある。本ガラスにおいて、Y含有量は0.2〜1.5質量%未満である。
【0038】
含有量は0.3質量%以上が好ましく、0.4質量%以上がより好ましい。一方、Y含有量が1.5質量%以上では、1000℃における失透開始時間が短くなり、プリフォームの成形において、ガラスが失透するおそれがある。そのため、Y含有量は1.4質量%以下が好ましく、1.3質量%以下がより好ましい。なお、Yの含有量は、モル%で示すと、0.1〜1.5モル%である。
【0039】
本ガラスにおいては、Yに対するLaの含有量の質量%分率(La/Y)が40以上である。質量%分率をこの範囲にすることで、ガラス融液の失透開始時間を長くできる。質量%分率は、好ましくは41以上であり、より好ましくは、45以上である。
【0040】
本ガラスにおいては、TaとLaの含有量の合量(Ta+La)は、45質量%超が好ましい。前記2成分の合量をこの範囲にすることで、屈折率nを高くし、アッベ数νを大きくし、失透開始時間を長くできる。前記2成分の合量は、より好ましくは、45.5質量%以上であり、さらに好ましくは、46質量%以上である。
【0041】
本ガラスにおいて、Gdは必須成分ではないが、Laと同時に含有させることにより、屈折率nを高くし、アッベ数νを大きくし、ガラスの安定性を向上させる成分である。しかしながら、Gdは、多量に導入すると、液相温度Tが上昇し、しかも液相温度T以下でLaBO以外の結晶GdBOが析出するおそれがあるため、プリフォーム成形性の制御で問題である。そのため、本ガラスにおいて、Gd含有量は0〜15質量%に制限される。高屈折率の達成ならびにガラスを安定化させるため、Gd含有量は1質量%以上がより好ましく、2質量%以上がさらに好ましい。
【0042】
一方、Gd含有量が15質量%を超えると液相温度Tが高くなり、屈折率nが低くなるおそれがある。そのため、Gd含有量は14質量%以下がより好ましく、13質量%以下がさらに好ましい。なお、Gdの含有量は、モル%で示すと、0〜8モル%以下である。
【0043】
本ガラスにおいて、アッベ数νが小さくなり、もしくは液相温度Tが高くなるおそれがあるためNbは実質的に含有しない。本明細書において、実質的に含有しないとは、意図的に添加しないことを意味し、不可避的な不純物として含有することを排除するものではない。
【0044】
本ガラスにおいて、TiOは、ガラスの安定化、屈折率nの向上等に効果のある成分であるが、一方で相対的に失透しやすい成分でもある。そのため、本ガラスにおいて、実質的に含有しないことが好ましい。
【0045】
本ガラスにおいて、Ybは必須成分ではないが、屈折率nの向上、あるいは高温成形時の失透の抑制等のために0〜10質量%含有してもよい。含有量が10質量%を超えると、ガラスが不安定になったり、成形温度が高くなりすぎたり、さらに比重が大きくなりすぎるおそれがある。そのため、Ybの含有量は、5質量%以下であると好ましく、さらに実質的に含まない方がより好ましい。
【0046】
本ガラスにおいて、Al、GaまたはGeOはいずれも必須成分ではない。ガラスを安定化し、あるいは屈折率nの調整等の目的でそれぞれの成分を0〜10質量%含有してもよい。Al、GaまたはGeOの含有量が10質量%を超えると、アッベ数νが低くなるおそれがある。Al、GaまたはGeOの含有量が8質量%以下であるとより好ましく、6質量%以下であるとさらに好ましい。また、GaとGeOは極めて希少かつ高価な成分であるため、実質的に含有しないことが望ましい。なお、Al、GaまたはGeOのそれぞれの含有量は、モル%で示すと、0〜8モル%である。
【0047】
本ガラスにおいて、BaO、SrO、CaOまたはMgOはいずれも必須成分ではない。ガラスを安定化し、アッベ数νを大きくし、または成形温度を低くし、ガラスの比重を小さくする等のためにそれぞれ0〜15質量%含有しても良い。BaO、SrO、CaOまたはMgOのそれぞれの含有量が15質量%を超えると、ガラスが不安定になる。または屈折率nが低くなる等のおそれがある。
【0048】
また、ガラスをより安定化し、屈折率nの調整、比重調整、溶解温度の低下等の目的のために、NaO、KO、RbOまたはCsOの各成分を合量で0〜5質量%含有してもよい。NaO、KO、RbOまたはCsOの各成分の合量が5質量%を超えると、ガラスが不安定になる、屈折率nが低くなる、硬度が小さくなる、または化学的耐久性が低下するおそれがある。なお、硬度または化学的耐久性を重視する場合には、NaO、KO、RbOまたはCsOの各成分をいずれも実質的に含有しないことが好ましい。なお、NaO、KO、RbOまたはCsOの各成分の含有量は、モル%で示すと、0〜5モル%である。
【0049】
本ガラスにおいて、上記以外の任意成分としては、それぞれの要求特性に応じて選択できる。例えば、高屈折率と低ガラス転移点を重視する場合には、SnOを0〜4質量%(0〜4モル%)まで含有してもよい。同様に、高屈折率を重視する場合には、TeOおよび/またはBiを単独でまたは合量で0〜6質量%含有してもよい。TeOおよび/またはBiの含有量が6質量%を超えるとガラスが不安定になるか、あるいは透過率が著しく低下するおそれがある。ただし、アッベ数νを大きくしたい場合には、TeOまたはBiのいずれも実質的に含有しないことが好ましい。なお、TeOおよび/またはBiを単独でまたは合量は、モル%で示すと、0〜10モル%である。
【0050】
例えば、清澄等の目的で、本ガラスにSbをたとえば0〜1質量%(0〜1モル%)含有してもよい。なお、Sbの含有量は、モル%で示すと、0〜1モル%である。
【0051】
本発明の目的を損なわない範囲でその他の成分を含有してもよい。そのような成分を含有する場合それら成分の含有量の合計は、好ましくは10質量%(10モル%)以下、より好ましくは8質量%(8モル%)以下、さらに好ましくは6質量%(6モル%)または5質量%(5モル%)以下である。なお、その他の成分の含有量は、モル%で示すと、上述の通り、10モル%以下、より好ましくは8モル%以下、さらに好ましくは6モル%または5モル%以下である。本ガラスは基本的に上記成分からなることが、さらに好ましい。
【0052】
本ガラスにおいては、環境面での負荷を減少させるため、成分として鉛(PbO)、ヒ素(As)、タリウム(TlO)、トリウム(ThO)、カドミウム(CdO)のいずれも実質的に含有しないことが好ましい。また、フッ素を含有すると、熱膨張係数が大きくなり、離型性、成形性に悪影響を与えるほか、成分が揮散しやすいことから、ガラスの溶解時に光学ガラスの組成が不均一になりやすい。また、精密モールド成形時には離型膜など金型の耐久性を下げるなどの問題があるため、本ガラスでは、フッ素も実質上含有しないことが好ましい。
【0053】
本ガラスにおいては、着色の防止等の理由により、Feを代表とする遷移金属化合物を実質的に含有しないことが好ましい。たとえ原料から不可避的に混入した場合でも、本ガラスにおいて遷移金属化合物の総含有量は0.01質量%以下とすることが好ましい。
【0054】
本ガラスの光学特性は、屈折率nは1.83〜1.88が好ましい。屈折率nが1.83以上では、レンズの小型化、薄型化に適するため好ましい。屈折率nは1.845以上がより好ましい。一方、本ガラスの屈折率nが1.88を超えるとアッベ数νが小さくなり、またその他の熱物性に悪影響を及ぼすため好ましくない。本ガラスの屈折率nは1.87以下がさらに好ましい。本ガラスのアッベ数νは、39〜42が好ましい。アッベ数νが39以上では、ガラスが低分散特性を示すため好ましい。また、アッベ数νが、42以下では、ガラスの耐失透性が良好となり好ましい。
【0055】
本ガラスのガラス転移温度Tが、630℃以下では、精密プレス成形時に金型の劣化が生じにくいため好ましい。ガラス転位温度Tは、625℃以下がより好ましく、620℃以下がさらに好ましい。
【0056】
本ガラスの比重は、5.3以下が好ましい。5.3を超えると、光学素子として、例えば光学レンズとして使用した際、光学系の質量が大きくなり、レンズの駆動系に負担がかかるおそれがある。そのため、ガラスの比重は、5.27以下がより好ましく、5.25以下がさらに好ましい。
【0057】
本ガラスの液相温度Tは、1100℃以下が好ましい。液相温度Tが、1100℃を超えると高温成形時に被成形物が失透しやすくなり、高温成形の受け型として用いられるカーボンや耐熱合金が劣化するため好ましくない。本ガラスの液相温度Tは、1090℃以下がより好ましく、1080℃以下がさらに好ましい。なお、液相温度Tは、その温度に1時間保持した場合に、ガラス融液から結晶が生成しない最低温度として定義される。
【0058】
本ガラスの液相温度粘性ηTLが、5dPa・s以上ではプリフォーム成形性に優れるため好ましい。液相温度粘性ηTLは、6dPa・s以上がより好ましく、7dPa・s以上がさらに好ましい。
【0059】
今回、本発明者は、B‐La系のガラスにおいて、ガラス融液の温度が1000℃を超えると、ガラス成分が揮散しやすくなることを見出した。実施例の例1に示すガラスの液相温度T近傍における揮散試験を図1に示す。揮散試験によると、融液の温度を、1000℃以上にすると、ガラスの質量減少率が大きくなることがわかる。質量減少率が大きくなると、成分が揮散し、表面脈理の原因になる。
【0060】
揮散試験での質量減少率は、ガラスを所定の温度に保持した際の質量の変化を測定して算出したものであり、本明細書においては、以下のようにして測定した値をいう。まず、1cmガラスブロックの質量(単位:g)と白金皿の質量2(単位:g)を測定する。次に、前記ガラスブロックを白金皿に乗せて、所定の温度で1時間保持した後のガラスと白金皿の合算質量(単位:g)を測定する。これにより得られた質量から、質量変化率は、下記式(1)から算出する。
質量変化率(%/h)={質量−(質量−質量)}/質量×100・・・・・(1)
本発明においては、表面脈理を抑えるため、質量減少率は、1000℃で、0.05%/h以下が好ましく、0.04%/h以下がより好ましく、0.03%/h以下がさらに好ましい。
【0061】
また、本発明のB‐La系ガラスは、1000℃より高くなると、質量変化率が高くなり、脈理が発生する。したがって、プリフォームの成形温度は1000℃以下が好ましい。
【0062】
一方、上記のとおり、ガラス融液温度が液相温度T以下では、ガラス融液中に結晶が析出しやすくなり、ガラスが失透しやすくなる。しかし、失透開始時間が十分に長いガラスは、表面脈理と失透の発生を抑制してプリフォームを成形できる。
【0063】
本発明者は、鋭意検討の結果、B‐La系ガラスの失透開始時間は、ガラス中に含まれるYの含有量と、La/Yに依存することを見出した。これにより、B‐La系で、液相温度Tが1000℃よりも高く、高屈折率・低分散の光学特性を有し、かつ、失透と脈理の外観不良を解消した高品質なガラスのプリフォームを得られる。
【0064】
ガラスの製造設備にも依存するが、失透開始時間は、500秒以上が好ましい。750秒以上がより好ましく、1000秒以上がさらに好ましい。失透開始時間が長いほど、プリフォームの成形において失透が起こりにくくなり、様々な設備に適用できるため好ましい。
【0065】
本明細書において、前記失透開始時間は、hot−thermocouple法により測定した時間をいう。hot−thermocouple法は、ホットサーモカップル装置(テクセル株式会社製)を使用して測定できる。まず、熱電対ホルダーにセットされたU字状の熱電対の先端部分にガラス小片を挟み、熱電対ホルダーをチャンバーにセットする。次に、試料を1250℃まで昇温し3分間保持した後、1000℃まで急冷、保持する。この間のガラスの様子を、チャンバー前面に設置された顕微鏡で観察する。1000℃に保持してから、ガラス融液内部に結晶が析出し始める時間が、失透開始時間である。
【0066】
本ガラスは、上記のような特性を有するため、光学設計がしやすく、光学素子、特には、デジタルカメラ等に使用される非球面レンズに好適である。
【実施例】
【0067】
以下、本発明の具体的な態様により説明するが、本発明はこれらに限定されない。表1は、質量%表示であり、表2は、モル%表示である。例1と例2が本発明の実施例であり、例3と例4は比較例である。なお、例3は特許文献2の例16(実施例)であり、例4は特許文献1の例10(実施例)である。
【0068】
原料調製法としては、表1に示す組成のガラスが得られるように下記原料を調合して白金製るつぼに入れ、1250〜1450℃で2時間溶解した。この際白金製スターラにより0.5時間撹拌して溶融ガラスを均質化した。均質化された溶融ガラスを流し出して板状に成形後、T+10℃の温度で4時間保持後、−1℃/minの冷却速度で室温まで徐冷した。作製したガラスサンプルの形状は、縦40mm×横40mm×厚さ10mmである。また、物性を評価する際は、このガラスサンプルを切断して評価を行った。
【0069】
原料としては、ホウ酸、酸化亜鉛、炭酸リチウム、酸化ジルコニウムとして、関東化学社製の特級試薬を使用した。酸化ランタン、酸化イットリウムおよび酸化ガドリニウムとして信越化学工業社製の純度99.9%の試薬を使用した。酸化タンタル、二酸化珪素、酸化タングステンとして、高純度化学研究所社製の純度99.9%以上の試薬を使用した。
【0070】
得られたガラスについて、波長587.6nm(d線)における屈折率n、波長656.3nm(C線)における屈折率nC、波長486.1nm(F線)における屈折率nF、アッベ数ν、ガラス転移点T(単位:℃)、液相温度T(単位:℃)、液相温度T以下で結晶が析出する時間(失透開始時間)、および比重dを測定した。これらの測定法を以下に述べる。
【0071】
熱的特性(ガラス転移点T):直径5mm、長さ20mmの円柱状に加工したサンプルを、熱機械分析装置(ブルカーエイエックスエス社製、商品名:TD5000SA)を用いて5℃/分の昇温速度で測定した。
【0072】
光学恒数(屈折率n、アッベ数ν):一辺が20mm、厚みが10mmの直方体形状に加工したサンプルを、精密屈折率計(島津デバイス製造社製、商品名:KPR−2000)を用いて測定した。アッベ数νは、計算式{(n−1)/(n−n)}により求めた。
【0073】
液相温度T:1辺が10mmの立方体形状に加工したガラスを白金製の皿に載せ、一定温度に設定した電気炉内で1時間静置した後に取り出したものを100倍の光学顕微鏡で観察し、結晶の析出が見られない最低温度を液相温度Tとした。
【0074】
比重d:約20g程度となるように切り出したガラスを、比重測定器(島津社製、商品名:SGM300P)を用いて、水を用いたアルキメデス法により測定した。
【0075】
失透開始時間:前記ホットサーモカップル装置を用いて1000℃で測定した値である。
【0076】
外観:実施例のガラスのプリフォームを作製し、透過像を拡大観察し脈理や失透の有無を確認した。なおプリフォームは、ガラス原料を白金タンクにおいて高温で溶解し、融液温度を1000℃に下げてパイプを通し、白金ノズルから融液を滴化し、受け型において冷却することで作製した。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
図1