特許第5874598号(P5874598)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5874598アノード鋳造用鋳型及びアノード鋳造用鋳型を製造するための母型
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5874598
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】アノード鋳造用鋳型及びアノード鋳造用鋳型を製造するための母型
(51)【国際特許分類】
   B22D 25/04 20060101AFI20160218BHJP
   C25C 1/00 20060101ALI20160218BHJP
【FI】
   B22D25/04 B
   C25C1/00 303Z
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-235766(P2012-235766)
(22)【出願日】2012年10月25日
(65)【公開番号】特開2014-83574(P2014-83574A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年1月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】中野 修
(72)【発明者】
【氏名】森 一広
(72)【発明者】
【氏名】続木 浩二
(72)【発明者】
【氏名】大原 卓也
【審査官】 酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−069995(JP,A)
【文献】 実開昭63−056268(JP,U)
【文献】 実開昭52−147101(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 25/04,
B22C 9/06,9/22,
C25C 1/00,1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード本体の頂部両側に、該アノード本体よりも厚さが小さい、一対の垂下用耳部を有する電解用アノードを鋳造する電解用アノードの鋳造設備であって、
所定の回転方向に回転可能なターンテーブル上に、熔融銅を鋳込むアノード鋳造用鋳型が複数個載置されていて、
前記アノード鋳造用鋳型は、前記アノード本体に対応する本体凹部と、前記垂下用耳部に対応する耳部凹部と、前記本体凹部と前記耳部凹部との深さの差に応じて、該本体凹部と該耳部凹部との間に形成される傾斜面である中間凹部とを有し、
前記中間凹部の傾斜角度が3.0°以上5.2°以下である、電解用アノードの鋳造設備。
【請求項2】
前記中間凹部の傾斜角度が4.5°以上である請求項1に記載の電解用アノードの鋳造設備。
【請求項3】
前記中間凹部の傾斜角度が4.5°である請求項1又は2に記載の電解用アノードの鋳造設備。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の電解用アノードの鋳造設備を用いる電解用アノードの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅電解用アノード等を鋳造するためのアノード鋳造用鋳型、及びそれを製造するための母型に関する。
【背景技術】
【0002】
銅製錬操業において、銅品位を凡そ98%として製造される銅電解用アノードは、電解工程で銅品位凡そ99.99%の電気銅に仕上げられて製品とされる。このような銅電解用アノード10の形状は、図1図2に示すように、一般的に、幅W=約1055mm程度、高さH=約1090mm程度とされる概略矩形状とされるアノード本体11と、アノード本体11より上方及び両側へと突出した垂下用耳部12(12A、12B)とを有する形状とされる。又、垂下用耳部12(12A、12B)の厚さは、T(T1A、T1B)=30〜45mm程度、アノード本体11の厚さは、T=35〜50mm程度とされる。
【0003】
図8は、一般的なアノード鋳造設備50を示す概略図である。このアノード鋳造設備50は、鋳型搬送設備であるターンテーブル51上に、アノード鋳造用鋳型20を複数個載置して、所定の回転方向Rにターンテーブル51を回転させながらアノード鋳造用鋳型20を連続的に搬送し、樋52から熔融銅30をアノード鋳造用鋳型20に鋳込み、熔融銅30を冷却装置53で固化させて銅電解用アノード10を鋳造し、その後、銅電解用アノード10を剥取機54で剥ぎ取るように構成されている。尚、簡略化のために図8ではアノード鋳造用鋳型20の個数を5個としたが、通常、アノード鋳造用鋳型の個数は20個程度で実施される。
【0004】
ここで、銅電解用アノードの形状は、電解工程の操業の安定性に大きな影響を及ぼすことが知られている。具体的には、銅電解用アノードは、表面が平滑であり、又、その厚みが各部毎に均一であることが求められる。
【0005】
しかし、上記設備によって鋳造されるアノードは、ターンテーブルの駆動時や停止時に生じる慣性力による熔融銅の偏り等に起因して、図2における左右の垂下用耳部12Aと12Bの厚さが不均一となってしまう場合があった。一般的には、特に図8におけるターンテーブル51の駆動時に進行方向Rの反対側に熔融銅が偏ることに起因して、進行方向Rの反対側において形成される方の耳部の厚みが所望の厚さを超えて厚くなってしまう場合が多い。
【0006】
アノードの形状の不均一に対する一般的対策として、例えば、アノード鋳造用の鋳型について、アノード本体の底部に隣接する部分に熔体が流出することにより形成されるいわゆる鋳張り等の発生を防止するための堰を設けてアノード本体の形状均一性を安定化する鋳型が開示されている(特許文献1参照)。
【0007】
又、アノード鋳造用の鋳型の歪みの発生を抑止する手段として、鋳込み面に格子状に筋状凸部を設けたアノード鋳造用の鋳型も開示されている(特許文献2参照)。
【0008】
又、従来、鋳型から取り出したアノードに対して、プレス加工等による形状矯正も行われているが、プレス加工による形状矯正が行われたアノードの垂下用耳部の厚さをプレス工程内において速やかに高精度で検知し、不適切な厚さをもつアノードを不良品として除去するアノード作製方法も開示されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−96354号公報
【特許文献2】特開2003−211264号公報
【特許文献3】特開2000−96280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1及び2に記載のアノード鋳造用の鋳型によれば、例えば、主にアノード本体についての形状均一性を向上させることはできる。しかし、特に、鋳造方法自体に由来する垂下用耳部の厚さの不均一を、効果的に是正するための手段は、未だ出せていないのが現状であった。
【0011】
そこで、特許文献3に記載の方法では、不適切な厚みの垂下用耳部を有するアノードを不良品として排除する方法が提案されている。しかし、鋳造の段階で垂下用耳部の厚さの均一性を十分に高めて不良品の発生を低減することができれば、より望ましく、そうすることができれば、アノードの生産性を大きく向上させることができる。鋳造時においてアノードの垂下用耳部の厚さの均一性を十分に高めることができる手段が求められていた。
【0012】
本発明は、例えば銅電解用アノード等のノードの製造に用いることによって、アノードの垂下用耳部の厚さの不均一を十分に低減することのできるアノード鋳造用鋳型、及びそのような鋳型を製造するための母型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、アノード鋳造用鋳型において、アノード本体に対応する本体凹部と、垂下用耳部に対応する耳部凹部との間に形成される傾斜面である中間凹部の傾斜角度を、従来よりも大きくすることによって、鋳造されるアノードの垂下用耳部の左右の厚さの不均一を十分に低減することができることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0014】
(1) アノード本体の頂部両側に一対の垂下用耳部を有する電解用アノードを鋳造するための鋳型であって、前記アノード本体に対応する本体凹部と、前記垂下用耳部に対応する耳部凹部と、前記本体凹部と前記耳部凹部との深さの差に応じて、該本体凹部と該耳部凹部との間に形成される傾斜面である中間凹部とを有し、前記中間凹部の傾斜角度が3.0°以上5.2°以下であるアノード鋳造用鋳型。
【0015】
(2) (1)に記載のアノード鋳造用鋳型を製造するための母型であって、前記本体凹部に対応する本体部と、前記耳部凹部に対応する耳部と、前記本体部と前記耳部との厚さの差に応じて、該本体部と該耳部との間に形成される傾斜面である中間部とを有し、前記中間部の傾斜角度が3.0°以上5.2°以下である母型。
【0016】
(3) (1)に記載のアノード鋳造用鋳型を用いた鋳造工程を備える銅電解用アノードの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、例えば、銅電解用アノード等のノードの製造に用いることによって、アノードの垂下用耳部の厚さの不均一を十分に低減することのできるアノード鋳造用鋳型、及びそのようなアノード鋳造用鋳型を製造するための母型を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明のアノード鋳造用鋳型を用いて製造することのできる銅電解アノードの平面図である。
図2】本発明のアノード鋳造用鋳型を用いて製造することのできる銅電解アノードの図1におけるA方向から見た場合における側面図である。
図3】本発明のアノード鋳造用鋳型の斜視図である。
図4】本発明のアノード鋳造用鋳型の注湯後の状態における断面図である。
図5】本発明のアノード鋳造用鋳型の中間凹部の拡大断面図である。
図6】本発明のアノード鋳造用鋳型の母型の断面図である。
図7】本発明のアノード鋳造用鋳型の母型の中間部の拡大断面図である。
図8】本発明のアノード鋳造用鋳型を好ましく用いることができるアノード鋳造設備を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1〜2は、本発明のアノード鋳造用鋳型(以下、単に「鋳型」とも言う)を用いて製造することのできる銅電解アノードを示す図である。図3〜5は発明の実施の形態の鋳型を示す図であり、そのうち、図3は鋳型の斜視図であり、図4は注湯後の鋳型の断面図であり、図5は、鋳型の中間凹部の拡大断面図である。
【0020】
又、図6〜7は発明の実施の形態のアノード鋳造用鋳型を製造するための母型(以下、単に「母型」とも言う)を示す図であり、そのうち、図6は母型の断面図であり、図7は、母型の中間部の拡大断面図である。
【0021】
<銅電解用アノード>
図1に示す通り、銅電解用アノード10は、銅電解工程において電解液に浸漬されるアノード本体11と、アノード本体11を電解槽に垂下するための一対の垂下用耳部12を有する。
【0022】
従来のアノードにおいては、鋳造方法に由来する左右の垂下用耳部の厚さの不均一性が、その後のアノードのプレス加工工程でのトラブルや、運搬中の耳折れを招くことが問題となっていた。
【0023】
本発明のアノード鋳造用鋳型20を用いて鋳造される銅電解用アノード10は、垂下用耳部12の厚さの不均一性が十分に低減されていることを特徴とし、上記問題を解決できるものとなっている。
【0024】
<アノード鋳造用鋳型>
図3〜5に示すように、本発明の実施形態であるアノード鋳造用鋳型20は、アノード本体11(図1参照)の形状に対応する本体凹部21と、垂下用耳部12の形状に対応する耳部凹部22が形成されている。そして、耳部凹部22の深さDと、本体凹部21の深さDとの差に応じて、本体凹部21の端部と耳部凹部22の端部の間を連接して形成される傾斜面である中間凹部23とを有する。
【0025】
図5に示す通り、アノード鋳造用鋳型20は、本体凹部21の底面を水平面(0°)としたときの中間凹部23の表面の傾斜角度θが3.0°以上5.2°以下であることを特徴とする。又、この傾斜角度θは、4.0°以上5.0°以下であることがより好ましい。
【0026】
従来のアノード鋳造用鋳型においては、この傾斜角度θについては、特段着目されることがなかった。このような従来のアノード鋳造用鋳型においては、アノード鋳造用鋳型20内に中湯された熔融銅30に対して、ターンテーブルの回転による慣性力が働いた場合に、いずれか一方の耳部凹部22への熔融銅30の偏りが誘発される場合があったが、上記の中間凹部23の表面の傾斜角度に対する配慮が何らなされておらず、傾斜角度θが小さいため、この偏りを抑制することができなかった。
【0027】
本発明のアノード鋳造用鋳型20は、図5に示す通り、この傾斜角度θを3.0°以上として斜面の勾配を従来品よりも大きくしたものである。これにより、アノード鋳造用鋳型20内に中湯された熔融銅30にターンテーブルの回転による慣性力が働いたときであっても、上記のような一方の耳部凹部22への熔融銅30の偏りを抑制することができる。よって、アノード鋳造用鋳型20を用いて製造される銅電解用アノード10の左右の垂下用耳部12Aと12Bとの間における厚さの不均一性を十分に低減することができる。
【0028】
<アノード鋳造用鋳型を製造するための母型>
図6〜7に示すように、本発明の実施形態である母型40は、アノード鋳造用鋳型20の補完形状の面を持ち、アノード本体11の形状に対応する本体部41と、垂下用耳部12の形状に対応する耳部42を有する。そして、耳部42の厚さT11と、本体部41の厚さT00の差に応じて、本体部41の端部と耳部42の端部の間を連接して形成される傾斜面である中間部43とを有する。
【0029】
尚、母型40は、上記の通り、アノード鋳造用鋳型20の補完形状の面を持つものであり、この母型40を型枠44に設置した状態で熔体を流し込み、熔体冷却後に、型枠44及び母型40を取り除くことによりアノード鋳造用鋳型20を製造することができる。
【0030】
図7に示す通り、母型40は、本体部41の底面を水平面(0°)としたときの中間部43の表面の傾斜角度θ11が3.0°以上5.2°以下であることを特徴とする。又、この傾斜角度θ11は、4.0°以上5.0°以下であることがより好ましい。傾斜角度θ11を上記範囲とすることによって、アノード鋳造用鋳型20を安定的に上記形状とすることができ、これにより、アノード鋳造用鋳型20を用いて製造される銅電解用アノード10の左右の垂下用耳部12Aと12Bの厚さの不均一性を十分に低減することができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0032】
(実施例)
図8に示すものと同様の構成を有する鋳造設備において、上記において説明したアノード鋳造用鋳型20を設置して、アノードの製造を行った。尚、鋳型の中間凹部の傾斜角度θは、4.5°とした。
(比較例)
比較例については、上記の傾斜角度θを2.7°とした他は、実施例と同条件でアノードの製造を行った。
【0033】
実施例と比較例につき、鋳造されたアノードの左右の垂下用耳部の厚さを測定した。得られた結果を下記表1に示す。尚、進行方向とは、図8中のR方向、すなわちターンテーブル51の回転方向のことを言う。又、アノードは実施例、比較例とも各40個を製造して、それぞれの左右の耳部の厚さを測定した。
【0034】
【表1】
【0035】
表1より、本発明のアノード鋳造用鋳型を用いた実施例において、従来の鋳型を用いた場合と比較して、垂下用耳部の厚さの左右における不均一性と、特に進行方向反対側における厚さのバラツキが大幅に抑制されていることが分る。
【0036】
以上より、本発明によれば、銅電解用アノードの製造において、垂下用耳部の厚さの左右の不均一性やバラツキを十分に低減することのできるアノード鋳造用鋳型、及びそのような鋳型を製造するための母型を提供することができることが分る。
【符号の説明】
【0037】
10 銅電解用アノード
11 アノード本体
12 垂下用耳部
20 アノード鋳造用鋳型
21 本体凹部
22 耳部凹部
23 中間凹部
30 熔融銅
40 母型
41 本体部
42 耳部
43 中間部
50 アノード鋳造設備
51 ターンテーブル
52 樋
53 冷却装置
54 剥取機
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8