特許第5874621号(P5874621)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5874621
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】高周波電流伝送用ケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/30 20060101AFI20160218BHJP
   H01B 7/08 20060101ALI20160218BHJP
   H01F 38/14 20060101ALI20160218BHJP
【FI】
   H01B7/30
   H01B7/08
   H01F38/14
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-270982(P2012-270982)
(22)【出願日】2012年12月12日
(65)【公開番号】特開2014-116243(P2014-116243A)
(43)【公開日】2014年6月26日
【審査請求日】2014年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137855
【弁理士】
【氏名又は名称】沖川 寛
(72)【発明者】
【氏名】中谷 克俊
(72)【発明者】
【氏名】佐川 正憲
(72)【発明者】
【氏名】千綿 直文
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀一
(72)【発明者】
【氏名】秋元 克弥
(72)【発明者】
【氏名】二ツ森 敬浩
【審査官】 和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭55−014682(JP,A)
【文献】 特開2012−043966(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/00
H01B 9/00
H01F 38/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁被覆が施されていない複数の導体素線を撚り合わせてなる複数の導体撚線を有し、10KHz以上1000KHz以下の交流電流を伝送するために用いられる高周波電流伝送用ケーブルであって、
前記複数の導体撚線は、それぞれ離間して平行に並んで同一平面を形成するように配置されているとともに、それぞれ同じ撚り方向で撚られている、
ことを特徴とする高周波電流伝送用ケーブル。
【請求項2】
前記複数の導体撚線の外周をそれぞれ被覆するシースを有する、
請求項1に記載の高周波電流伝送用ケーブル。
【請求項3】
前記複数の導体撚線の外周側を一体に被覆する絶縁体を有する、
請求項1又は2に記載の高周波電流伝送用ケーブル。
【請求項4】
前記複数の導体撚線は、それぞれ同ピッチで撚られている、
請求項1〜のいずれかに記載の高周波電流伝送用ケーブル。
【請求項5】
隣り合う前記導体撚線間の距離は、0.3mm以上である、
請求項1〜のいずれかに記載の高周波電流伝送用ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波(例えば、10KHz〜1000KHz)の交流電流を伝送する高周波電流伝送用ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、高周波の交流電流を伝送する高周波電流伝送用ケーブルとして、導体素線に絶縁被覆を施した複数の絶縁導体素線を撚り合わせてなる複数のリッツ線を更に撚り合わせてなるリッツ線撚体からなる高周波電流伝送用ケーブルが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1に記載の高周波電流伝送用ケーブルによれば、各導体素線に絶縁被覆が施されているため、高周波の交流電流を伝送させる際、各導体素線において表皮効果が得られ、絶縁被覆が施されていない導体素線を用いた高周波電流伝送用ケーブルと比較して、大きな電流を伝送することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−108654号公報
【特許文献2】特開2006−222059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載の高周波電流伝送用ケーブルは、各導体素線に絶縁被覆を施さなければならないため、高コストになってしまう。
【0006】
そこで、本発明者らは、低コストに高周波電流伝送用ケーブルを製造するべく、各導体素線に絶縁被覆を施さない導体撚線を用いた高周波電流伝送用ケーブルを製造しようと考えた。
【0007】
しかしながら、単に、各導体素線に絶縁被覆を施さない導体撚線を用いるのみでは、各導体素線に表皮効果が得られないため、大きな電流を伝送することができないという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、上記事情に鑑み為されたものであり、低コストでありながらも、リッツ線を用いた場合と同等以上に大きな電流を伝送することが可能な高周波電流伝送用ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、絶縁被覆が施されていない複数の導体素線を撚り合わせてなる複数の導体撚線を有し、10KHz以上1000KHz以下の交流電流を伝送するために用いられる高周波電流伝送用ケーブルであって、前記複数の導体撚線は、それぞれ離間して平行に並んで同一平面を形成するように配置されているとともに、それぞれ同じ撚り方向で撚られていることを特徴とする高周波電流伝送用ケーブルである。
【0011】
前記複数の導体撚線の外周をそれぞれ被覆するシースを有してもよい。
【0012】
前記複数の導体撚線の外周側を一体に被覆する絶縁体を有してもよい。
【0013】
前記複数の導体撚線は、それぞれ同ピッチで撚られていてもよい。
【0014】
隣り合う前記導体撚線間の距離は、0.3mm以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、低コストでありながらも、リッツ線を用いた場合と同等以上に大きな電流を伝送することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る高周波電流伝送用ケーブルを用いた非接触給電システムの概略を示す構成図。
図2】本発明に係る高周波電流伝送用ケーブルの斜視図。
図3】高周波電流伝送用ケーブルとコイルとの接続部の拡大図。
図4】本発明に係る高周波電流伝送用ケーブル及びリッツ線の抵抗―周波数特性を示すグラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
図1は、本発明に係る高周波電流伝送用ケーブルを用いた非接触給電システムの概略を示す構成図であり、図2は、本発明に係る高周波電流伝送用ケーブルの斜視図である。
【0018】
(非接触給電システムの構成(図1))
非接触給電システム100は、図1に示すように、送電側装置101と、受電側装置102と、を有する。送電側装置101は、インバータ17と、インバータ17からの高周波の交流電流(10KHz〜1000KHz)を伝送する第1高周波電流伝送用ケーブル10と、第1高周波電流伝送用ケーブル10からの高周波の交流電流を電磁共鳴現象又は電磁誘導現象により後述の受電側コイル21へ電力として送信する送電側コイル11と、からなる。また、受電側装置102は、送電側コイル11から送信された電力を受信する受電側コイル21と、受電側コイル21からの高周波の交流電流を伝送する第2高周波電流伝送用ケーブル20と、第2高周波電流伝送用ケーブル20により伝送された高周波の交流電流を直流電流へと整流する整流器24と、整流された直流電流を蓄電する蓄電池25と、からなる。
【0019】
第1高周波電流伝送用ケーブル10の端部、送電側コイル11、及び後述する接続端子13は、第1筐体16により覆われており、第2高周波電流伝送用ケーブル20の端部、受電側コイル21、及び後述する接続端子23は、第2筐体26により覆われている。
【0020】
(第1高周波電流伝送用ケーブル10、第2高周波電流伝送用ケーブル20の構成(図2))
第1高周波電流伝送用ケーブル10及び第2高周波電流伝送用ケーブル20の構成は、同様であるので、以下、第1高周波電流伝送用ケーブル10を例に説明する。
本発明に係る第1高周波電流伝送用ケーブル10は、複数の導体素線1を撚り合わせてなる複数の導体撚線2を有し、10KHz以上1000KHz以下の交流電流を伝送するために用いられるものであって、複数の導体撚線2は、それぞれ離間して平行に並んで配置されるとともに、それぞれ同じ撚り方向で撚られているものである。
【0021】
導体撚線2は、銅からなる素線径0.26mmの複数の導体素線1を撚り合わせてなる。この導体撚線2の撚りピッチは、長手方向に一定である。導体撚線2の外周には、塩化ビニル等の絶縁体からなるシース3が被覆されている。本実施の形態において、シース3は、厚さが0.5mmの塩化ビニルの熱収縮チューブからなる。以下、導体撚線2の外周にシース3が被覆されているものを被覆導体撚線4と称する。
【0022】
被覆導体撚線4は、図2に示すように、それぞれ平行に並んで7本配置されている。被覆導体撚線4は、互いに接触しているが、導体撚線2は、それぞれシース3により隔てられ離間している。上述の通り、シース3の厚さは0.5mmであるので、本実施の形態において、隣り合う導体撚線2は、1.0mm離間していることとなる。なお、隣り合う導体撚線2は、0.3mm以上離間していることが好ましい。このようにすることで、近接効果による抵抗値の増加を低減することが可能となる。
【0023】
被覆導体撚線4は、本実施の形態では、同一平面を形成するように配置されている。すなわち、7本の被覆導体撚線4は、被覆導体撚線4の長手方向に直交する方向に一直線上に並んで配置されている。また、これら7本の被覆導体撚線4の導体撚線2は、同じ撚り方向(本実施の形態では、右回り方向)で撚られており、さらに、同じ撚りピッチで撚られている。
【0024】
7本の被覆導体撚線4の外周には、これら被覆導体撚線4を一体に覆う断面矩形状の絶縁体部5が設けられている。絶縁体部5は、塩化ビニル等の絶縁体からなる。絶縁体部5は、本実施の形態において、押し出し被覆により、7本の被覆導体撚線4の外周に設けられる。絶縁体部5の厚さ、すなわち、被覆導体撚線の外周面から絶縁体部5の外周面までの距離は、0.36mmである。
【0025】
(本発明に係る高周波電流伝送用ケーブルとコイルとの接続方法(図3))
図3は、高周波電流伝送用ケーブルとコイルとの接続部の拡大図である。
本発明に係る高周波電流伝送用ケーブルとコイルとの接続方法に関しては、送電側装置101、受電側装置102共に同様であるので、以下、送電側装置101を例に説明する。また、図3の左側は高周波電流の往路であり、右側は復路である。ここでは、復路側の高周波電流伝送用ケーブルとコイルとの接続方法について述べる。
【0026】
図3に示すように、第1高周波電流伝送用ケーブル10と送電側コイル11とは、接続端子13を介して接続される。接続端子13は、直方体状となっており、銅等の金属からなる。以下、接続方法の詳細について述べる。
【0027】
第1に、第1高周波電流伝送用ケーブル10の絶縁体部5の端部を剥ぎ取り、被覆導体撚線4の端部を露出させる。第2に、7本の被覆導体撚線4のシース3の端部をそれぞれ剥ぎ取り、導体撚線2の端部を露出させる。第3に、露出させた導体撚線2の端部を接続端子13に接触させ、この接触部に半田づけを行い、ケーブル側半田付け部12を形成する。導体撚線2(高周波電流伝送用ケーブル10)と接続端子13とは、このケーブル側半田付け部12により接続される。第4に、送電側コイル11を構成する導体の端部を接続端子13に接触させた状態で、この接触部に半田付けを行い、コイル側半田付け部14を形成する。送電側コイル11と接続端子13とは、このコイル側半田付け部14により接続される。以上のように、第1高周波電流伝送用ケーブル10と送電側コイル11とが、接続端子13を介して接続される。
【0028】
(作用効果)
(1)本発明に係る高周波電流伝送用ケーブルによれば、リッツ線のように絶縁被覆が施された導体素線を用いることなく導体撚線を構成しているので、低コスト化に寄与することが可能となる。さらに、複数の導体撚線をそれぞれ離間させ、なおかつ複数の導体撚線の撚り方向を同じ撚り方向としている。これにより、高価なリッツ線を用いずとも、リッツ線と同等以上に大きな電流を流すことが可能となる。つまり、本発明に係る高周波電流伝送用ケーブルによれば、低コストでありながらも、リッツ線を用いた場合と同等以上に大きな電流を伝送することが可能である。この作用効果に関し、以下に示すように、本発明に係る高周波電流伝送用ケーブルとリッツ線との抵抗−周波数特性の比較を行った。
【0029】
(2)導体素線に絶縁被覆が施されていないので、接続端子に接続する際の絶縁被覆除去作業が不要である。
【0030】
(本発明に係る高周波電流伝送用ケーブルとリッツ線との抵抗−周波数特性の比較(図4))
図4は、本発明に係る高周波電流伝送用ケーブル及びリッツ線の抵抗−周波数特性を示すグラフ図である。
この抵抗−周波数特性の比較に用いた本発明に係る高周波電流伝送用ケーブル及びリッツ線は、以下の通りである。
【0031】
[実施例(本発明に係る高周波電流伝送用ケーブル)]
実施例の高周波電流伝送用ケーブルとして以下のものを用いた。
導体撚線として、銅からなる素線径0.26mmの導体素線を48本撚り合わせたものを用いた。この導体撚線の断面積は、2.55mm2である。被覆導体撚線として、この導体撚線の外周に0.5mmのシースを被覆したものを用い、この被覆導体撚線7本を被覆導体撚線の長手方向に直交する方向に一直線上に並べて配置した。このように配置した被覆導体撚線7本が一体となるように、被覆導体撚線7本の外周に押し出し被覆により絶縁体部を設けた。この絶縁体部の厚さは、上述の通りである。なお、7本の導体撚線の撚り方向は、全て同じ撚り方向(右回り方向)となっており、さらに全て同じ撚りピッチとなっている。なお、導体部(導体撚線)の断面積の合計は、約18mm2である
【0032】
[比較例(素線絶縁電線(リッツ線))]
比較例のリッツ線として、比較条件を等しくするため導体部の断面積の合計を約18mm2とするべく、素線径0.1mmの導体素線の外周に絶縁被覆を施した被覆導体素線2303本を撚り合わせたものを用いた。
【0033】
[比較結果]
図4に示すように、周波数が100KHz付近では、実施例及び比較例ともに同等の抵抗値を示しているが、周波数が10KHz以上40KHzでは、実施例の方が0.8mΩ/m程度抵抗値が小さくなっている。さらに、周波数が100KHzを超えると、実施例と比較例との抵抗値の差は顕著となる。一例として、周波数が300KHzのときには、実施例の方が4.0mmΩ/m程度抵抗値が小さくなっている。このように、本発明によれば、抵抗値をリッツ線以下にすることが可能となり、これにより、リッツ線を用いた場合と同等以上に大きな電流を伝送することが可能であることが確認できた。
【0034】
(実施の形態の変形例)
(1)上述の実施の形態では、複数の被覆導体撚線4は、被覆導体撚線4の長手方向に直交する方向に一直線上に並んで配置されているものとしたが、複数の被覆導体撚線4は、一直線上に並んで配置されていなくともよい。すなわち、複数の被覆導体撚線4は、ジグザグ状に配置されていてもよい。
(2)上述の実施の形態では、導体撚線2の撚りピッチは、長手方向に一定であるものとしたが、長手方向に撚りピッチの異なる部分があってもよい。
(3)上述の実施の形態では、導体撚線2の断面形状として多角形状(六角形状)のものを用いたが、円形状や楕円形状であってもよい。
(4)導体素線1は、銅に限らず、アルミ、銀等の金属を用いることも可能である。
(5)シース3は、塩化ビニルに限らず、ポリエチレン、架橋ポリエチレン、カプトン、ゴム状重合体、テフロン(登録商標)、シリコン、油浸紙、テトロン糸等を用いることも可能である。
(6)絶縁体部5は、塩化ビニルに限らず、ポリエチレン、架橋ポリエチレン、カプトン、ゴム状重合体、テフロン(登録商標)、シリコン、ポリプロピレン等を用いることも可能である。
(7)導体撚線2として、中心部分に導体素線1を有しない中空構造のものを用いることも可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 導体素線
2 導体撚線
3 シース
4 被覆導体撚線
5 絶縁体部
10 第1高周波電流伝送用ケーブル
11 送電側コイル
12 ケーブル側半田付け部
13 接続端子
14 コイル側半田付け部
16 第1筐体
20 第2高周波電流伝送用ケーブル
21 受電側コイル
22 ケーブル側半田付け部
23 接続端子
24 整流器
25 蓄電池
100 非接触給電システム
101 送電側装置
102 受電側装置
図1
図2
図3
図4