【文献】
AKIYAMA, T. et al.,Bull. CHem. Soc. Jpn.,1988年,61,p.3531-3537
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
また、本明細書において式(X)で表される化合物を「化合物(X)」とも称する。
【0031】
<含フッ素芳香族化合物>
本発明の含フッ素芳香族化合物は、下記式(2−1)で表される化合物又は式(2−2)で表される化合物である。
【0033】
ただし、Rf
1及びRf
2は、それぞれ独立に置換基を有してもよい炭素数1〜12の含フッ素アルキル基である。Rf
1とRf
2は同一でも異なっていてもよい。含フッ素アルキル基とは、アルキル基の水素原子の1個以上がフッ素原子に置換された基をいう。
【0034】
一般的に縮合環の数が増えるにつれて、π−πスタックによる強い分子間相互作用により、キャリア移動度が増加する傾向がある。本発明の含フッ素芳香族化合物中の含フッ素アルキル基は、有機溶媒に対する溶解性を一層向上させる。また、含フッ素アルキル基は、その電子求引性からアセン骨格の電子遷移エネルギーを制御する。
【0035】
該含フッ素アルキル基は総炭素数1〜12のポリフルオロアルキル基が好ましく、総炭素数1〜12のパーフルオロアルキル基が好ましい。ポリフルオロアルキル基とは、アルキル基の水素原子の2個以上がフッ素原子に置換された基をいう。パーフルオロアルキル基とは、アルキル基の水素原子の全てがフッ素原子に置換された基をいう。含フッ素アルキル基の炭素骨格は直鎖状又は分岐状が好ましく、直鎖状が好ましい。
また、Rf
1及びRf
2が置換基を有する場合の該置換基は、例えば、臭素原子、ヨウ素原子、ニトリル基、カルボキシル基、及びエステル基(アシルオキシ基又はアルコキシカルボニル基)が挙げられる。
【0036】
Rf
1及びRf
2は非置換の基、すなわち炭素数1〜12の含フッ素アルキル基が好ましく、有機半導体としての性能が良い点及び収率が良い点で、炭素数1〜12のポリフルオロアルキル基が特に好ましく、炭素数1〜12のパーフルオロアルキル基がとりわけ好ましい。Rf
1の炭素数は1〜6が好ましい。さらに、Rf
1は炭素数1〜6のポリフルオロアルキル基が好ましく、炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基が特に好ましい。Rf
2の炭素数は4〜7が好ましい。さらに、Rf
1及びRf
2は有機半導体としての性能の観点から、直鎖構造の基が好ましい。
【0037】
Rf
1及びRf
2としては、具体的には、トリフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロイソプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロイソブチル基、パーフルオロ−sec−ブチル基、パーフルオロ−tert−ブチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロヘプチル基又はパーフルオロオクチル基が好ましく、有機溶媒への溶解性において、トリフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロイソプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロイソブチル基、パーフルオロ−sec−ブチル基、パーフルオロ−tert−ブチル基又はパーフルオロヘキシル基が特に好ましい。
【0038】
化合物(2−1)において、Rは、水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜12のアルキル基、又は置換基を有してもよい1価芳香族基であり、好ましくは、水素原子、フッ素原子以外の総炭素数2〜12の置換基を有してもよいアルキル基、又は置換基を有してもよい1価芳香族基である。
アルキル基としては、直鎖状又は分岐状の炭素数2〜12のアルキル基、及び炭素数3〜12のシクロアルキル基が好ましく、有機溶媒への溶解性が向上する観点から、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、及びドデシル基が好ましい。
アルキル基であるRの置換基としては、フッ素原子以外の置換基が好ましく、具体的には塩素原子、臭素原子、アミノ基、及びシアノ基等が挙げられる。置換基の数は限定されず、1個が好ましい。
また、1価芳香族基としては、非置換の1価芳香族基が好ましく、フェニル基及びチエニル基が挙げられる。
1価芳香族基であるRの置換基としては、アルキル基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。置換基の数は限定されず、1個が好ましい。
Rとしては、水素原子又は非置換の炭素数2〜12のアルキル基が好ましい。
【0039】
化合物(2−1)及び化合物(2−2)において、m及びnは単位構造の繰り返し数であり、mは1以上の整数、nは0以上の整数、m+nが1以上5以下の整数である。好ましくはm+nが2又は4である。
特に、化合物(2−1)及び化合物(2−2)においては、m=n=1又は2であるのが好ましい。m=n=1である場合、Rf
1、Rf
2の結合位置がそれぞれ、アセン骨格の9位及び10位であることが好ましい。すなわち、下記化合物(3−1)又は化合物(3−2)が好ましい。
【0041】
化合物(3−1)及び化合物(3−2)において、Rf
1、Rf
2及びRは前記と同じ意味を表す。Rf
1及びRf
2としては置換基を有してもよい総炭素数1〜12のポリフルオロアルキル基が好ましく、特に置換基を有してもよい総炭素数1〜12のパーフルオロアルキル基が好ましい。
化合物(3−1)におけるRf
1としては、非置換の基が好ましく、炭素数1〜12のポリフルオロアルキル基が好ましく、特に炭素数1〜12のパーフルオロアルキル基が好ましく、直鎖構造の炭素数1〜12のパーフルオロアルキル基がとりわけ好ましい。Rf
1の炭素数は1〜6が好ましい。Rf
1は炭素数1〜6のこれらの基が好ましい。
化合物(3−2)におけるRf
1及びRf
2としては、同一でも異なっていてもよい、Rf
1は、炭素数1〜12のパーフルオロアルキル基、Rf
2は、炭素数4〜7のパーフルオロアルキル基がとりわけ好ましく、直鎖構造のこれらの基がさらに好ましい。
【0042】
m=n=2である場合は、Rf
1、Rf
2の結合位置がそれぞれ、化合物(2−1)又は化合物(2−2)におけるアセン骨格の6位及び13位であることが好ましい。すなわち、下記化合物(4−1)又は化合物(4−2)が好ましい。
【0044】
ただし、Rf
1、Rf
2及びRは前記と同じ意味を表す。Rf
1及びRf
2としては置換基を有してもよい炭素数1〜12のポリフルオロアルキル基であることが好ましく、特に置換基を有してもよい炭素数1〜12のパーフルオロアルキル基が好ましい。さらに、Rf
1及びRf
2としては非置換の基が好ましく、炭素数1〜12のポリフルオロアルキル基が好ましく、特に炭素数1〜12のパーフルオロアルキル基が好ましい。
化合物(4−1)のRf
1は、炭素数1〜12のポリフルオロアルキル基が好ましく、炭素数1〜12のパーフルオロアルキル基が特に好ましく、直鎖構造の炭素数1〜12のパーフルオロアルキル基がとりわけ好ましい。Rf
1の炭素数は1〜6が好ましい。Rf
1は炭素数1〜6のこれらの基が好ましい。
【0045】
さらに、本発明の含フッ素芳香族化合物としては、下記式で表される化合物群から選択される化合物が挙げられる。
【0047】
<含フッ素芳香族化合物の製造方法>
本発明の含フッ素芳香族化合物は、方法(a)または方法(b)により製造できる。
【0049】
Rf
1、Rf
2、R、m、及びnの定義及び好ましい態様は、上記含フッ素芳香族化合物の説明における記載と同様である。
X
1、X
2は、臭素原子又はヨウ素原子であり、収率が良い点でヨウ素原子が好ましい。X
1、X
2は同一でも異なっていてもよい。
【0050】
方法(a):含ハロゲン溶媒中で、チオ硫酸塩の存在下、式アセン化合物(1)と式Rf
1X
1で表される化合物とを光照射下で反応させる工程、及び加熱する工程を含む製造方法により、含フッ素芳香族化合物(2−1)を得る。
【0051】
方法(b):アセン化合物(1)においてRが水素原子のとき、方法(a)の製造方法で得られた化合物(2−1)を用い、さらに、含ハロゲン溶媒中で、チオ硫酸塩の存在下、化合物(2−1)と式Rf
2X
2で表される化合物とを光照射下で反応させる工程、及び加熱する工程を含む製造方法により、化合物(2−2)を得る。
【0052】
方法(a)により含フッ素アルキル基が一置換した化合物が得られ、同様の工程を繰り返す方法(b)により二置換した化合物が得られる。方法(b)において、方法(a)で用いた式Rf
1X
1で表される化合物のRf
1部分と、式Rf
2X
2で表される化合物のRf
2を変えることにより、Rf
1とRf
2の構造が異なる化合物(2−2)が合成できる。
方法(a)及び方法(b)における加熱の温度は200℃以上が好ましく、200〜300℃が特に好ましい。
【0053】
アセン化合物(1)のRが水素原子である場合の反応は、化合物(1−1’)を経由する以下の反応が進行する。
【0055】
アセン化合物(1−1)と式Rf
1X
1で表される化合物とを光照射下で反応させることにより、中間化合物として化合物(1−1’)が得られる。そして化合物(1−1’)を加熱することにより、化合物(2−1−1)が得られる。化合物(2−1−1)を更に式Rf
2X
2で表される化合物と反応させることにより、含フッ素芳香族化合物(2−2)が得られる。
化合物(1−1’)は、後述する方法により、そのまま基板に塗布して熱処理することにより、基板上に本発明の含フッ素芳香族化合物の膜を形成できる。
【0056】
出発物質であるアセン化合物(1)としては公知の化合物を用いることができる。Rが水素原子である化合物の例としては、アントラセン、ペンタセン等が挙げられる。Rが水素原子以外である化合物の例としては、9−エチルアントラセン、9−プロピルアントラセン、9−ブチルアントラセン、9−ペンチルアントラセン、9−ヘキシルアントラセン、9−ヘプチルアントラセン、9−オクチルアントラセン、9−デシルアントラセン、9−ドデシルアントラセン、9−フェニルアントラセン、6−エチルペンタセン、6−プロピルペンタセン、6−ブチルペンタセン、6−ペンチルペンタセン、6−ヘキシルペンタセン、6−ヘプチルペンタセン、6−オクチルペンタセン、6−デシルペンタセン、6−ドデシルペンタセン、6−フェニルペンタセン等が挙げられる。
【0057】
製造に用いる含ハロゲン溶媒とは、ハロゲン化脂肪族溶媒が好ましい。含ハロゲン溶媒のハロゲン原子は塩素原子又はフッ素原子であることが好ましい。
含ハロゲン溶媒としては、塩素化炭化水素類、塩素化フッ素化炭化水素類、含フッ素エーテル化合物が例示できる。具体的には、塩化メチレン、クロロホルム、2,3,3−トリクロロヘプタフルオロブタン、1,1,1,3−テトラクロロテトラフルオロプロパン、1,1,1−トリクロロペンタフルオロプロパン、1,1−ジクロロ−2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパン、1,3−ジクロロ−1,2,2,3,3−ペンタフルオロプロパン、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、n−C
6F
13−C
2H
5、n−C
4F
9OCH
3、n−C
4F
9OC
2H
5等を用いることができる。なかでも、塩化メチレン等の塩素化炭化水素類;1,1−ジクロロ−2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパン、1,3−ジクロロ−1,2,2,3,3−ペンタフルオロプロパン等の塩素化フッ素化炭化水素類が好ましく、塩化メチレンが特に好ましい。
【0058】
Rf
1X
1及びRf
2X
2は、含フッ素アルカンのヨウ化物または臭化物であり、パーフルオロアルキルヨーダイド、パーフルオロアルキルブロミドが好ましいが、パーフルオロアルキルヨーダイドが特に好ましい。
【0059】
チオ硫酸塩における塩は特に制限されない。チオ硫酸塩としては、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸アンモニウムがより好ましく、チオ硫酸ナトリウムが特に好ましい。また使用量はアセン化合物(1グラム)に対して5〜50モルであり、Rf
1X
1及びRf
2X
2の総量に対して2〜20モルが好ましく、通常は、Rf
1X
1及びRf
2X
2の総量基準の量が好ましい。
本反応における反応温度は0〜60℃が好ましく、10〜30℃がより好ましい。
【0060】
本発明の光照射反応には、紫外線を用いるのが好ましい。紫外線光源は、通常化学反応や分解、殺菌等に用いられる250〜600nmの紫外線光を照射可能なものが好ましく、高圧水銀灯が好ましい。紫外線照射波長は300〜600nmが好ましく、330〜470nmが特に好ましい。また、本発明において用いる紫外線照射反応は、公知の光照射装置により行うことができる。具体的にはメリーゴーランド型光反応装置等が挙げられる。
光照射時間としては1〜24時間が好ましく、1〜8時間が特に好ましい。
【0061】
前記方法(a)、方法(b)によれば、含フッ素アルキル基の導入に際し重金属カップリング反応を用いないことから、生成物中には、重金属を含まないか、含んだとしてもその割合を非常に少なくすることができる。本発明の製造方法により得られる生成物中に含まれる金属含有量は、化合物1gに対してNi、Cu、Zn、Pdの金属含有量は各々1質量ppm以下であり、かつ、金属の総含有量は10質量ppm以下とすることができる。
【0062】
<有機半導体材料>
本発明の有機半導体材料は、特定構造の含フッ素芳香族化合物を含み、有機半導体として使用される材料をいう。本発明の有機半導体材料は、本発明の含フッ素芳香族化合物のみからなっていてもよく、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、他の有機半導体材料、種々のドーパントが挙げられる。ドーパントとしては、例えば、有機EL素子の発光層として用いる場合には、クマリン、キナクリドン、ルブレン、スチルベン系誘導体及び蛍光色素等を用いることができる。
【0063】
本発明の含フッ素芳香族化合物は、融点が約300℃未満である。含フッ素アルキル基の鎖長による熱的な運動が分子間の結晶性を弱めたことによると考えられる。
また、含フッ素アルキル基の存在は、主骨格である芳香環の面と面が向かい合う分子配列(π−πスタッキング)を安定化し、電荷移動度の発現に寄与すると考えられる。
【0064】
含フッ素芳香族化合物がアントラセンの場合は、9位及び10位の少なくとも一方に、ペンタセンの場合は、6位及び13位の少なくとも一方に、含フッ素アルキル基が位置することにより、ペンタセン同士の二量化を阻止し、大気中の酸素や水分により、キノン骨格の劣化挙動を防いでいると考えられる。
また、隣接分子の含フッ素アルキル基は、親和力により凝集し(フルオロフィリック効果)、より効率的な電荷移動に寄与する。したがって、本発明の含フッ素芳香族化合物を用いれば、高いキャリア移動度を保持した有機半導体薄膜、及びこれを利用したトランジスタ等の電子素子が作製できる。
【0065】
また、アントラセン、ペンタセンはp型半導体としてふるまうのに対して、本発明の含フッ素芳香族化合物は、置換基によって導電性及び電子遷移エネルギーが変化する。よって、本発明の含フッ素芳香族化合物を用いれば、導電型が制御された有機半導体材料が得られる。
【0066】
<有機半導体薄膜>
本発明に係る有機半導体材料は、ドライプロセスまたはウェットプロセスを用い、通常の製造方法にしたがって、基板上に有機半導体に膜を形成できる。該膜としては、薄膜、厚膜、または結晶性を有する膜が挙げられる。
【0067】
ドライプロセスで薄膜を形成する場合、真空蒸着法、MBE(Molecular Beam Epitaxy)法、スパッタリング法、レーザー蒸着法、気相輸送成長法等の公知の方法を用いうる。
得られた有機半導体薄膜は、光電変換素子、薄膜トランジスタ素子、発光素子など種々の機能素子の電荷輸送性部材として機能し、多様な電子デバイスに応用できる。
【0068】
真空蒸着法、MBE法、または気相輸送成長法を用いて薄膜を形成する場合には、有機半導体材料を加熱して昇華した蒸気を、高真空、真空、低真空、または常圧で基板表面に輸送する。薄膜の形成は、公知の方法や条件に従って実施でき、具体的には、基板温度は20〜200℃、薄膜成長速度は0.001〜1000nm/secが好ましい。該条件とすることで、結晶性があり、かつ、薄膜の表面平滑性がある膜を形成しうる。
基板温度は、低温であると薄膜がアモルファス状になりやすく、高温であると薄膜の表面平滑性が低下する傾向がある。また、薄膜成長速度が遅いと結晶性が低下しやすく、速すぎると薄膜の表面平滑性が低下する傾向がある。
【0069】
ウェットプロセスで薄膜を形成する場合、含フッ素芳香族化合物を含む有機半導体材料を有機溶媒に溶解して溶液化したものを、基板上に被覆することによって有機半導体薄膜を形成することができる。
本発明の含フッ素芳香族化合物は、従来の有機半導体材料に比して有機溶媒に対する溶解性が改善された化合物であるため、ウェットプロセスの適用ができる。ウェットプロセスによる膜形成は、半導体結晶にダメージを与えることなく加工できる利点がある。
【0070】
ウェットプロセスにおける製膜方法(基板を被覆する方法)としては、塗布、噴霧、及び接触等が挙げられる。具体的には、スピンコート法、キャスト法、ディップコート法、インクジェット法、ドクターブレード法、スクリーン印刷法、ディスペンス法等の公知の方法が挙げられる。また、平板状結晶や厚膜状態の形態を取る場合には、キャスト法等が採用できる。製膜方法及び有機溶媒は、作製するデバイスに適した組み合わせを選択することが好ましい。
【0071】
ウェットプロセスにおいては、含フッ素芳香族化合物の溶液と基板との界面に、温度勾配、電場、及び磁場から選ばれる少なくとも1つを設けて、結晶成長を制御する方法が採用できる。該方法を採用すれば、より高結晶性の有機半導体薄膜を製造でき、かつ、高結晶性の薄膜の性能に基づく優れた半導体特性を得ることができる。また、ウェットプロセス製膜時に、環境雰囲気を溶媒雰囲気にすることにより、溶媒乾燥における蒸気圧を制御して、高結晶性の有機半導体薄膜を製造することもできる。
【0072】
ウェットプロセスにおいて、含フッ素芳香族化合物を溶解できる有機溶媒の例としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、フェノール、クレゾール等の芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコール類;またはこれらの混合物等の、非ハロゲン系の溶媒の例が挙げられる。
【0073】
含ハロゲン溶媒の例としては、塩素化炭化水素類、塩素化芳香族炭化水素類、フッ素化炭化水素類、塩素化フッ素化炭化水素類、含フッ素エーテル化合物が例示できる。具体的には、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、2,3,3−トリクロロヘプタフルオロブタン、1,1,1,3−テトラクロロ−2,2,3,3−テトラフルオロプロパン、1,1,1−トリクロロペンタフルオロプロパン、1,1−ジクロロ−2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパン、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、ジクロロペンタフルオロプロパン、n−C
6F
13−C
2H
5、n−C
4F
9OCH
3、n−C
4F
9OC
2H
5等が挙げられる。
溶媒は1種のみを用いても2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合には、非ハロゲン系溶媒と、含ハロゲン溶媒とを併用するのが好ましく、これらを任意の割合で混合した溶媒が好ましい。
【0074】
本発明における含フッ素芳香族化合物を有機溶媒に溶解させて、ウェットプロセスを行う場合には、作業効率の観点等から、有機溶媒に溶解させる有機半導体材料の濃度は、有機溶媒中に0.01質量%以上が好ましく、0.01〜10質量%が特に好ましく、0.2〜10質量%がとりわけ好ましい。本発明の含フッ素芳香族化合物は有機溶媒に対する溶解性に優れるため、上記の製造方法で得た含フッ素芳香族化合物をカラムクロマトグラフィーや再結晶などの簡易な精製方法によって、高純度化してもよい。
【0075】
ウェットプロセスによる基板上の被覆は、大気下または不活性ガス雰囲気下で行うことができる。特に半導体材料の溶液が酸化しやすい場合には、不活性ガス雰囲気下にすることが好ましく、窒素やアルゴン等を用いることができる。
基板上を被覆した後、溶媒を揮発させることで有機半導体薄膜が形成される。当該薄膜中の溶媒残存量が多いと薄膜の安定性や半導体特性が低下するおそれがあるため、薄膜形成の後に、再度加熱処理や減圧処理を施し、残存している溶媒を除去することが好ましい。
【0076】
ウェットプロセスに使用しうる基板の形状は特に限定されず、通常はシート状の基板や板状の基板が好ましい。基板に用いられる材料も特に限定されずセラミックス、金属基板、半導体、樹脂、紙、不織布等が挙げられる。
【0077】
基板の例としては、ガラス、石英、酸化アルミニウム、サファイア、チッ化ケイ素、炭化ケイ素等の基板が挙げられる。金属基板としては金、銅、銀等の基板が挙げられる。半導体基板としては、シリコン(結晶性シリコン、アモルファスシリコン)、ゲルマニウム、ガリウムヒ素、ガリウムリン、チッ化ガリウム等の基板が挙げられる。樹脂基板としては、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニル、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、環状ポリオレフィン、ポリイミド、ポリアミド、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、トリアセチルセルロース、ノルボルネン等の基板が挙げられる。
【0078】
含フッ素芳香族化合物を用いることにより、得られた有機半導体薄膜は、結晶性の薄膜とすることができる。結晶性の薄膜は高い結晶性によって高いキャリア移動度を有し、それによる優れた有機半導体デバイス特性を発現する。
薄膜の結晶状態は、薄膜の斜入射X線回折測定、透過型電子線回折、薄膜のエッジ部にX線を入射させ回折を測定する方法により知ることができる。特に薄膜分野の結晶解析手法である斜入射X線回折によるのが好ましい。
X線回折法としては、測定する格子面の方向によって、Out−of−planeXRD法とIn−planeXRD法がある。Out−of−planeXRD法は基板に対して平行な格子面を観察する手法である。In−planeXRD法は基板に対して垂直な格子面を観察する手法である。
薄膜が結晶性であるとは、薄膜を形成する有機半導体材料に由来する回折ピークが観察されることを意味する。具体的には有機半導体材料の結晶格子に基づく回折、分子長さ由来の回折、あるいは分子が基板に対して平行、あるいは垂直に並ぶ配向性を有する際に現れる特徴的な回折ピークが観察されることを意味する。薄膜が非結晶状態である場合は、回折は観察されない。回折ピークが現れた薄膜は結晶性の薄膜であることを意味する。
【0079】
有機半導体素子に使用する有機半導体薄膜層の厚さは、通常10〜1,000nmが好ましい。
【0080】
<有機半導体素子、有機半導体トランジスタ>
本発明における含フッ素芳香族化合物は高いキャリア移動度を有する。よって、これを含む有機半導体材料は含フッ素芳香族化合物の高いキャリア移動度を損なうことなく、有機半導体薄膜を形成することができる。
有機半導体薄膜の層を積層することにより形成した半導体層を含む有機半導体素子は、様々な半導体デバイスに非常に有用である。
【0081】
半導体デバイスの例としては、有機半導体トランジスタ、有機半導体レーザー、有機光電変換デバイス、有機分子メモリ等が挙げられる。このうち半導体デバイスとしては有機半導体トランジスタが好ましく、さらに電界効果トランジスタ(FET)がより好ましい。
【0082】
有機半導体トランジスタは、通常、基板、ゲート電極、絶縁体層(誘電体層)、ソース電極、ドレイン電極、及び半導体層で構成される。その他にバックゲートやバルクなどが含まれていてもよい。
有機半導体トランジスタ中の構成要素が配置される順序等については、特に限定されない。また、上記構成要素のうち、ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極、及び半導体層は複数層設けてもよい。複数層の半導体層が存在する場合には、同一平面内に設けても、積層して設けてもよい。
【0083】
本発明の含フッ素芳香族化合物は、高いキャリア移動度を有し、半導体材料として優れた性質を有する。本発明の含フッ素芳香族化合物は有機溶媒に対する高い溶解性を有するため、キャスト法または印刷法等の簡便な製膜工程を利用することができるので、含フッ素芳香族化合物の高いキャリア移動度を損なうことなく、有機半導体薄膜または有機半導体素子を製造することができる。
【0084】
本発明の化合物(1−1’)は塗布型有機半導体材料の変換型前駆体材料として利用できる。具体的には、化合物(1−1’)を有機溶媒に溶解した溶液を基板に塗布した後、真空中220℃以上の熱処理を行うと、本発明の含フッ素芳香族化合物(2−1−1)に変換することができる。この手法により、含フッ素芳香族化合物の有機半導体薄膜又は有機半導体素子を製造することができる。
【実施例】
【0085】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されない。
【0086】
本実施例における核磁気共鳴分析は、日本電子社製フーリエ変換高分解能核磁気共鳴装置(NMR)、JNM−AL400を使用した。多重度は、singlet:s、doublet:d、triplet:t、quartet:q、multiplet:m、broad:brと略記する。
【0087】
1H NMR(400MHz)は、溶媒としてクロロホルム−d(CDCl
3)、内部標準としてテトラメチルシラン(TMS)を用いて測定した。
13C NMR(100MHz)は、溶媒としてクロロホルム−d(CDCl
3)、内部標準としてクロロホルム−d(CDCl
3)を用いて測定した。
19F NMR(313MHz)は、溶媒としてクロロホルム−d(CDCl
3)、内部標準としてヘキサフルオロベンゼン(C
6F
6)を用い、C
6F
6を−163ppm、CFCl
3を0ppmとして測定した。
【0088】
質量分析は、サーモフィッシャー社製Extractive又は日本電子社製JMF−S3000 SpiralTOF(MALDI−TOFMS)を使用した。Extractiveでは、試料をメタノールに溶解し、イオン化法はESI若しくはAPCIを用いて測定した。MALDI−TOFMSにおいては試料をテトラヒドロフランに0.2質量%で溶解し、カチオン化剤と混合して、分析を行った。カチオン化剤は0.1質量%ヨウ化ナトリウム/アセトニトリル溶液を使用した。
【0089】
融点測定は、Bruker社製示差走査熱量計TG−DTAを使用した。
【0090】
<実施例1−a>9−パーフルオロヘキシルアントラセン(化合物(a))の合成例
パイレックスチューブ中でアントラセン(東京化成社製、0.1782g、1.0mmol)を塩化メチレン(関東化学社製、25mL)に溶解させ、n−C
6F
13I(ダイキン社製、0.24mL、1.1mmol)、チオ硫酸ナトリウム(関東化学社製、1.5811g、10mmol)及び水(5mL)を加え、冷却水を流して反応系の温度を一定に保ちながら、450W高圧水銀ランプ(ウルトラバイオレット社製、紫外線ランプUVG−11)を用いて紫外線を照射した。反応の進行状況は、薄層クロマトグラフィー(TLC:Merck社製、silica gel60F254)を用いて、アントラセンの消失と生成物の出現を適宜確認した。6時間照射後、水層を除去し、反応溶液を塩化メチレンで抽出した後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過した。ろ液をロータリーエバポレーターで溶媒留去し、濃縮して得られた混合物を220℃で1時間加熱した。その後、カラムクロマトグラフィー(関東化学社製、silica gel60FC(spherical))を用いて分離・精製し(展開溶媒:ヘキサン(ゴードー社製))、目的の生成物である9−パーフルオロヘキシルアントラセン(化合物(a))(0.4365g、88%収率)を黄色の固体として得た。
【0091】
【化14】
【0092】
(分析結果)
1H NMR(400MHz,TMS,CDCl
3)δ 8.68(1H,s,Ar−H),8.40(2H,d,J=9.2Hz,Ar−H),8.05(2H,d,J=8.4Hz,Ar−H),7.61−7.57(2H,m,Ar−H),7.53−7.49(2H,m,Ar−H).
13C NMR(100MHz,CDCl
3)δ 134.46(s),131.52(s),131.33(s),129.38(s),127.87(s),125.39−125.23(m),125.07(s).
19F NMR(400MHz,CDCl
3)δ −80.6(3F,s,CF
3),−93.4(2F,s,CF
2),−118.9(2F,s,CF
2),−121.4(2H,s,CF
2),−122.4(2F,s,CF
2),−125.9(2F,s,CF
2).
m.p.(98.7℃)
HRMS(APCI)m/z 497.05579([C
20H
9F
13+H]
+)
【0093】
<実施例1−b>10,10’−ビス(パーフルオロヘキシル)−9,9’,10,10’−テトラヒドロ−9,9’−ビアントラセン(化合物(b))の合成例
パイレックスチューブ中でアントラセン(0.1782g、1.0mmol)を塩化メチレン(25mL)に溶解させ、n−C
6F
13I(0.24mL、1.1mmol)、チオ硫酸ナトリウム(1.5811g、10mmol)及び水(5mL)を加え、冷却水を流して反応系の温度を一定に保ちながら、450W高圧水銀ランプ(ウルトラバイオレット社製、紫外線ランプUVG−11)を用いて紫外線を照射した。6時間照射後、水層を除去し、反応溶液を塩化メチレンで抽出した後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過した。ろ過後、ろ液をロータリーエバポレーターで溶媒留去し、濃縮した。その後、カラムクロマトグラフィー(関東化学社製、silica gel60FC(spherical))を用いて分離・精製し(展開溶媒:ヘキサン)、10,10’−ビス(パーフルオロヘキシル)−9,9’,10,10’−テトラヒドロ−9,9’−ビアントラセン(化合物(b))(0.2584g、52%収率)を黄色の固体として得た。
【0094】
【化15】
【0095】
(分析結果)
1H NMR(400MHz,TMS,CDCl
3)δ 7.57−7.55(1H,m,Ar−H),7.52−7.44(2H,m,Ar−H),7.37−7.31(2H,m,Ar−H)7.15(1H,t,J=7.2Hz),6.75(1H,t,J=7.2Hz),6.24(1H,d,J=7.6Hz),5.61(1H,s),5.03(1H,t,J=18.0Hz)
13C NMR(100MHz,CDCl
3)δ 141.20(s),137.63(s),130.93(s),130.86(s),130.62(s),130.48(s),129.83(s),128.72(s),126.66(s),126.35(s),125.93(s),125.58(s),50.29(t,J=21.9Hz)39.14(s)
19F NMR(400MHz,CDCl
3)δ −80.7(3F,s,CF
3),−110.17(2F,q,J=270.4Hz),−118.37(2F,s,CF
2),−121.45(2F,s,CF
2),−122.65(2F,s,CF
2)−125.99(2F,s,CF
2)
m.p.(119.5℃)(MALDI−TOFMS)
m/z 413([C
20H
10F
13]
+),1017([C
40H
20F
26+Na]
+)
【0096】
<実施例1−c>化合物(b)を出発物質とする9−パーフルオロヘキシルアントラセン(化合物(a))の合成例
200mLナスフラスコ中で、実施例1−bで得られた10,10’−ビス(パーフルオロヘキシル)−9,9’,10,10’−テトラヒドロ−9,9’−ビアントラセン(化合物(b))(0.2584g、0.3mmol)を220℃で1時間加熱した。その後、カラムクロマトグラフィー(関東化学社製、silica gel60FC(spherical))を用いて分離・精製し(展開溶媒:ヘキサン)、黄色の固体を得た。上記分析方法を用いた構造決定により、9−パーフルオロヘキシルアントラセン(化合物(a))であることを確認した。
【0097】
<実施例2>9−パーフルオロ−n−ブチルアントラセン(化合物(c))の合成例
C
6F
13IをC
4F
9I(ダイキン社製、0.22mL、1.1mL)に変えた以外は実施例1−aと同様にして、9−パーフルオロn−ブチルアントラセン(化合物(c))(0.3357g、85%収率)を黄色の固体として得た。
【0098】
【化16】
【0099】
(分析結果)
1H NMR(400MHz,TMS,CDCl
3) δ 8.68(1H,s,Ar−H),8.40(2H,d,J=9.2Hz,Ar−H),8.04(2H,d,J=8.4Hz,Ar−H),7.60−7.57(2H,m,Ar−H),7.53−7.49(2H,m,Ar−H)
13C NMR(100MHz,CDCl
3)δ 134.43(s),131.52(s),131.30(s),129.35(s),127.83(s),125.39−125.23(m),125.05(s)
19F NMR(400MHz,CDCl
3)δ −80.7(3F,s,CF
3),−93.5(2F,s,CF
2),−119.9(2F,s,CF
2),−125.3(2F,s,CF
2)
m.p.(76.6℃)
HRMS(APCI)m/z 497.05579([C
20H
9F
13+H]
+)
【0100】
<実施例3>9,10−ビス(パーフルオロブチル)アントラセン(化合物(d))の合成例
パイレックスチューブ中で化合物(c)(0.3951g、1.0mmol)を塩化メチレン(23mL)に溶解させ、n−C
4F
9I(0.22mL、1.1mmol)、チオ硫酸ナトリウム(1.5811g、10mmol)及び水(5mL)を加え、冷却水を流して反応系の温度を一定に保ちながら、450W高圧水銀ランプ(ウルトラバイオレット社製、紫外線ランプUVG−11)を用いて紫外線を照射した。6時間照射後、水層を除去し、反応溶液を塩化メチレンで抽出した後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過した。ろ液をロータリーエバポレーターで溶媒留去し、濃縮して得られた混合物を酢酸エチル(ゴードー社製)に溶解させ、沈殿物をろ過により除去した。濃縮したろ液をカラムクロマトグラフィー(関東化学社製、silica gel60FC(spherical))を用いて分離・精製し(展開溶媒:ヘキサン)、9,10−ビス(パーフルオロブチル)アントラセン(化合物(d))(0.1317g、21%収率)を黄色の固体として得た。
【0101】
【化17】
【0102】
(分析結果)
1H NMR(400MHz,TMS,CDCl
3) δ 8.43−8.38(4H,m,Ar−H),7.62−7.59(4H,m,Ar−H)
13C NMR(100MHz,CDCl
3)δ 131.13(s),126.93(s),125.98−124.23(m)
19F NMR(400MHz,CDCl
3)δ −80.6(3F,s,CF
3),−91.1(2F,s,CF
2),−117.8(2F,s,CF
2),−125.5(2F,s,CF
2)
m.p.(119.4 ℃)
HRMS(APCI)m/z 614.03418([C
22H
9F
18]
+)
【0103】
<実施例4>9,10−ビス(パーフルオロヘキシル)アントラセン(化合物(e))の合成例
パイレックスチューブ中で化合物(a)(0.4365g、0.9mmol)を塩化メチレン(23mL)に溶解させ、n−C
6F
13I(0.22mL、1.0mmol)、チオ硫酸ナトリウム(1.423g、9.0mmol)及び水(5mL)を加え、冷却水を流して反応系の温度を一定に保ちながら、450W高圧水銀ランプ(ウルトラバイオレット社製、紫外線ランプUVG−11)を用いて紫外線を照射した。6時間照射後、水層を除去し、反応溶液を塩化メチレンで抽出した後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過した。ろ液をロータリーエバポレーターで溶媒留去し、濃縮して得られた混合物を酢酸エチルに溶解させ、沈殿物をろ過により除去した。濃縮したろ液をカラムクロマトグラフィー(関東化学社製、silica gel60FC(spherical))を用いて分離・精製し(展開溶媒:ヘキサン)、昇華による精製を行った。目的の生成物9,10−ビス(パーフルオロヘキシル)アントラセン(化合物(e))(0.1092g、15%収率)を黄色の固体として得た。
【0104】
【化18】
【0105】
(分析結果)
1H NMR(400MHz,TMS,CDCl
3) δ 8.45−8.40(4H,m,Ar−H),7.63−7.59(4H,m,Ar−H)
13C NMR(100MHz,CDCl
3)δ 131.09(s),126.93(s),125.54−125.43(m)
19F NMR(400MHz,CDCl
3)δ −80.5(3F,s,CF
3),−90.8(2F,s,CF
2),−116.8(2F,s,CF
2),−121.4(2F,s、CF
2),−122.4(2F,s、CF
2),−125.8(2F,s,CF
2)
m.p.(147.4℃)
HRMS(APCI)m/z 814.01935([C
26H
8F
26]
+)
【0106】
<実施例5>9−パーフルオロ−イソプロピルアントラセン(化合物(f))の合成例
パイレックスチューブ中でアントラセン(0.1782g、1.0mmol)を塩化メチレン(25mL)に溶解させ、CF(CF
3)
2I(ダイキン社製、mL、1.5mmol)、チオ硫酸ナトリウム(1.5811g、10mmol)及び水(5mL)を加え、冷却水を流して反応系の温度を一定に保ちながら、450W高圧水銀ランプ(ウルトラバイオレット社製、紫外線ランプUVG−11)を用いて紫外線を照射した。6時間照射後、水層を除去し、反応溶液を塩化メチレンで抽出した後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過した。ろ液をロータリーエバポレーターで溶媒留去し、濃縮して得られた混合物を220℃で1時間加熱した。その後、カラムクロマトグラフィー(関東化学社製、silica gel60FC(spherical))を用いて分離・精製し(展開溶媒:ヘキサン(ゴードー社製))、目的化合物9−パーフルオロイソプロピルアントラセン(化合物(f))(0.2056g、46%収率)を黄色の固体として得た。
【0107】
1H NMR(400MHz,TMS,CDCl
3)δ 8.63(1H,s,Ar−H),8.55(1H,t,J=8.4Hz,Ar−H),8.28(1H,d,J=9.2Hz,Ar−H),8.04(2H,t,J=6.8Hz,Ar−H)7.58−7.47(4H,m,Ar−H)
19F NMR(400MHz,CDCl
3)δ −69.9(6F,s,CF
3),−73.6(1F,s,CF)
【0108】
【化19】
【0109】
<実施例6>9−パーフルオロブチル−10−パーフルオロヘキシルアントラセン(化合物(g)の合成例
C
6F
13IをC
4F
9Iに変えた以外は実施例4と同様にして、9−パーフルオロブチル−10−パーフルオロヘキシルアントラセン(化合物(g))(0.1092g、15%収率)を黄色の固体として得た。
【0110】
【化20】
【0111】
(分析結果)
1H NMR(400MHz,TMS,CDCl
3)δ 8.45−8.40(4H,m,Ar−H),7.63−7.59(4H,m,Ar−H)
13C NMR(100MHz,CDCl
3)δ 131.07(s),126.92(s),125.56−125.43(m)
19F NMR(400MHz,CDCl
3)δ −80.5(6F,s,CF
3),−90.2(4F,d,J=61.2Hz,CF
2),−116.8(2F,s,CF
2),−117.8(2F,s,CF
2),−121.4(2F,s、CF
2),−122.4(2F,s、CF
2),−125.5(2F,s,CF
2),−125.8(2F,s,CF
2)
m.p.(114.9℃)
HRMS(APCI)m/z 714.02759([C
24H
8F
22]
+)
【0112】
<実施例7−a>13−パーフルオロヘキシルペンタセン(化合物(h))の合成例
アントラセンをペンタセンに変えた以外は実施例1−aと同様にして、13−パーフルオロヘキシルペンタセン(化合物(h))を暗青色の固体として得た。
【0113】
【化21】
【0114】
(分析結果)
1H NMR(400MHz,TMS,CDCl
3)δ 8.45−8.40(4H,m,Ar−H),7.63−7.59(4H,m,Ar−H)
19F NMR(400MHz,CDCl
3)δ −80.5(3F,s,CF
3),−90.8(2F,s,CF
2),−116.8(2F,s,CF
2),−121.4(2F,s、CF
2),−122.4(2F,s、CF
2),−125.8(2F,s,CF
2)
【0115】
<実施例7−b>化合物(h)からの6,13−ビス(パーフルオロヘキシル)ペンタセン(化合物(i))の合成例
化合物(a)を化合物(h)に変えること以外は実施例4と同様にして、目的の生成物(i)を暗青色の固体として得ることができる。
HRMS(APCI)m/z 914.([C
34H
12F
26]
+)
【0116】
【化22】
【0117】
<実施例8>
塩化メチレンをAK225(旭硝子社製、フッ素系溶媒、25mL)に変えた以外は実施例1−aと同様にして、目的の生成物9−パーフルオロヘキシルアントラセン(化合物(a))を黄色の固体として得た。
【0118】
<実施例9>
アントラセンをナフタレン(関東化学社製、0.0667g、0.5mmol)に変え、紫外線を22時間照射した以外は実施例1−aと同様にして、トリフルオロメチルナフタレン(0.1472g、66%収率、α:β=85:15)を得た。異性体比は
1H NMRのAr−Hに対応するピーク面積比により決定した。
(分析結果)
1H NMR(400MHz,TMS,CDCl
3)δ 8.29(1H,d,J=9.2Hz,Ar−H),7.63−7.40(4H,m,Ar−H),7.63−7.59(4H,m,Ar−H)
19F NMR(400MHz,CDCl
3)δ −80.9(3F,s,CF
3),−104.1(3F,s,CF
3),−109.7(3F,s,CF
3),−120.06(3F,s,CF
3),−121.322(3F,s,CF
3),−122.6(3F,s,CF
3),−126.05(3F,s,CF
3),
MS(ESI)m/z446
【0119】
<参考例1>
窒素雰囲気下、200mL反応容器に9,10−ジブロモアントラセン(0.6g、1.78mmol)と銅粉(1.14g、17.8mmol)を加え、無水ジメチルスルホキシド(25mL)に溶解させた。α,α,α−ベンゾトリフルオリド(25mL)及びC
6F
13I(1.96mL、8.93mmol)を加え、130℃で4時間反応した。氷水でクエンチし、反応溶液を塩化メチレンで抽出した後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過した。ろ液をロータリーエバポレーターで溶媒留去し、その後、カラムクロマトグラフィーを用いて分離精製した。9,10−ビス(パーフルオロヘキシル)アントラセンを黄色の固体として得た。
【0120】
<化合物中の金属含有量の定量試験1>
実施例4と参考例1で得られた9,10−ビス(パーフルオロヘキシル)アントラセンの昇華精製(1回)後の各種金属元素のコンタミネーション分析試験を行った。
白金坩堝に試料5mgをはかりとり、ガスバーナーで灰化した。硫酸0.2mLを入れて、ホットプレート上で蒸発乾固後、温度を上げて白煙処理した。残渣を塩酸溶液で溶解し、ICP−MS法にて各種元素(Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Pb、P)を定量した。装置は四重極型ICP−MS(パーキンエルマー社製ELAN−DRCII)を用いた。P定量は二重極型ICP−MS(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製ELEMENT2)を用いた。
結果を表1に示す。
【0121】
【表1】
【0122】
<化合物中のハロゲン含有量の定量試験2>
実施例4と参考例1で得られた9,10−ビス(パーフルオロヘキシル)アントラセンの昇華精製(1回)後のBr、Cl元素のコンタミネーション分析試験を行った。
試料約5mgを酸素燃焼フラスコ法による前処理で溶液化し、イオンクロマトグラフ法(Dionex社製イオンクロマトグラフィーDX500型)にてBr、Clを定量した。該試料中のBr、Cl元素の含有量を表2に示す。
【0123】
【表2】
【0124】
表1及び表2より、本発明の製造方法により合成した含フッ素芳香族化合物は、金属不純物の含有量が非常に少ないことが分かる。市販の有機半導体の金属含有量(25質量ppm程度)と比べると、金属の含有量が格段に低いことが分かる。
【0125】
<化合物の溶解性試験>
上記実施例4で得られた化合物(e)のウェットプロセスへの適用性を検討するために、化合物の各種溶媒への溶解性試験を行った。また、参考例2としてアントラセンの溶解性試験も行った。
具体的には、試料20mgを図りとり、室温で溶媒10gに溶解するか(0.2質量%)、目視により判断した。
結果を、表3に示す。
【0126】
【表3】
【0127】
表3において、○は溶解、×は不溶を表す。
【0128】
溶解性試験の結果、本発明において合成された化合物は、ヘキサンやシクロヘキサンのような低極性溶媒にも溶解することが分かった。
【0129】
<半導体材料及び移動度評価>
洗浄済みのシリコン基板をn−オクチルトリクロロシランのトルエン溶液に浸漬させ、シリコン酸化膜表面を処理した。上記基板に対して、実施例4で得られた化合物(e)(9,10−ビス(パーフルオロヘキシル)アントラセン)を真空蒸着(背圧〜10
−4Pa、蒸着レート0.1Å/s、基板温度25℃、膜厚:70nm)することにより、有機半導体層を形成した。
【0130】
この有機半導体層上部にシャドウマスクを用いて金を真空蒸着し(背圧〜10
−4Pa、蒸着レート1〜2Å/s、膜厚:50nm)、ソース、ドレイン電極を形成した(チャネル長50μm、チャネル幅1mm)。電極とは異なる部位の有機半導体層及びシリコン酸化膜を削り取り、その部分に導電性ペースト(藤倉化成社製、ドータイトD−550)を付け溶媒を乾燥させた。トップコンタクト・ボトムゲート構造の電界効果型トランジスタ(FET)素子を作成した。
【0131】
この部分をゲート電極として用い、シリコン基板に電圧を印加した。得られたFET(電界効果型トランジスタ)素子の電気特性はAgilent社製半導体デバイスアナライザーB1500Aを用いて真空中(<5×10
−3Pa)で評価した。その結果、n型トランジスタ素子としての特性を示した。この有機薄膜トランジスタの電流―電圧特性における飽和領域から、電界効果移動度を求めた。キャリア移動度は9.1×10
−5cm
2/V・sであった。
【0132】
同様の方法により、実施例3で得た化合物(d)(9,10−ビス(パーフルオロブチル)アントラセン)を用いて有機半導体層の形成、FET素子を作成できる。
【0133】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2012年2月17日出願の日本特許出願(特願2012−033156)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。