(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記内側鍔部および外側鍔部には一対の切り欠き部がそれぞれ設けられ、前記円筒部の軸方向から見て、前記内側鍔部に設けられた一対の切り欠き部は180度の回転対称の位置にあり、前記外側鍔部に設けられた一対の切り欠き部もまた180度の回転対称の位置にある請求項1または2に記載のコアケースユニット。
径方向における前記円筒部の中心から前記溝部の底面までの距離と、前記径方向における前記円筒部の中心から前記円筒部の側面までの距離が実質的に等しい請求項4に記載のコアケースユニット。
前記導線端を支え止めるための突起が、前記内側鍔部の表面から前記円筒部の軸方向外側に向けて突設されている請求項1から5のいずれか一項に記載のコアケースユニット。
前記内側鍔部の外径が前記外側鍔部の外径よりも大きく、前記突起の突設位置が、前記円筒部の軸方向から見て前記外側鍔部の外周の外側である請求項6に記載のコアケースユニット。
前記内側鍔部の切欠き部の底部は前記円筒部の側面と前記円筒部の中心軸からの距離が実質的に等しく、前記外側鍔部の切欠き部の底部は前記ギア部の歯先円の周面と前記円筒部の中心軸からの距離が実質的に等しい請求項1から8のいずれかに記載のコアケースユニット。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載のボビンを用いる場合であっても、溝318あるいはコイル端巻付溝427に導線の巻始め端部を確実に固定することは困難である。機械巻線における巻き始めにおいては、コイルを構成する導線の端部に大きな張力が作用しやすく、導線の端部が溝から外れたり、巻き付けが緩む場合がある。ボビンを回転させてコイルを形成する際に、導線の端部が一旦溝から外れたり、巻き付けが緩むと、導線の端部が鍔部と駆動歯車との間に噛み込まれたり、導線の巻回部分(コイル部分)に巻き込まれたりして、正常な巻線作業を阻害してしまう。かかる問題は、複数のコイルを多層に形成し各コイルを構成する導線の端部が複数ある場合ほど、また、導体の巻始め端部が長くなればなるほど顕著になる。特許文献2のボビンでは鍔部414にコイル端部の移動を規制する爪が設けられているが、回転力が与えられる鍔部414の外周面と近接しているため、鍔部と駆動歯車との間に噛み込まれる恐れは依然として残っている。巻き終わり側においても同様の理由がある。以下コイルを構成する導線の端部について導線端と呼ぶ。
【0008】
またボビンに複数のコイルを構成しトランスとする場合、導線端のボビンからの引き出しの処理について、一次コイルと二次コイル間の絶縁を確保することが必要である。更に1kWを超えるようなパワートランス等のコイル部品では、導体損失による発熱が大きいので、コイルやコイル巻枠の熱損傷を防ぐように放熱させることが必要である。だが、特許文献1や特許文献2ではそれ等の点については無頓着である。
【0009】
そこで、上記課題に鑑み、本発明は、ギア駆動による機械巻線に適用可能なボビンを備えたコアケースユニット、それを用いたコイル部品および該コイル部品の製造方法において、ギアおよびコイル部分への導線端の巻き込み防止に好適な構成を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態によるコアケースユニットは、磁心を収容するための環状のケースと、導線を巻回するためのボビンとを備え、前記ボビンは、前記導線を巻回するための円筒部と、該円筒部の両端側に配置された内側鍔部と、前記内側鍔部の外側にそれぞれ導線端を収容可能な空間を介して配置された外側鍔部と、前記外側鍔部のうち少なくとも一方の外側に設けられ回動力を受けるためのギア部とを有し、前記円筒部において前記ケースに回動可能に支持されるものであり、前記外側鍔部の外径は前記ギア部の歯先円で規定される外径よりも大きく、前記内側鍔部と外側鍔部には、それぞれ導線端を通す切欠き部が設けられている。
【0011】
ある実施形態において、前記円筒部の軸方向から見て、前記内側鍔部の切欠き部と外側鍔部の切欠き部とが少なくとも部分的に重なっていることが好ましい。
【0012】
ある実施形態において、前記内側鍔部および外側鍔部には一対の切り欠き部がそれぞれ設けられ、前記円筒部の軸方向から見て、前記内側鍔部に設けられた一対の切り欠き部は180度の回転対称の位置にあり、前記外側鍔部に設けられた一対の切り欠き部もまた180度の回転対称の位置にあることが好ましい。
【0013】
ある実施形態において、前記導線端を収容可能な空間は前記円筒部の円周方向に1周する溝部であるのが好ましく、更に径方向における前記円筒部の中心から前記溝部の底面までの距離と、前記径方向における前記円筒部の中心から前記円筒部の側面までの距離が実質的に等しく構成するのが好ましい。
【0014】
ある実施形態において、前記コアケースユニットにおいて、前記導線端を支え止めるための突起が、前記内側鍔部の表面から前記円筒部の軸方向外側に向けて突設されていることが好ましい。
【0015】
ある実施形態において、前記内側鍔部の外径が前記外側鍔部の外径よりも大きく、前記突起の突設位置が、前記円筒部の軸方向から見て前記外側鍔部の外周の外側であることが好ましい。
【0016】
ある実施形態において、前記円筒部の軸方向から見て、前記突起が180度の回転対称の位置にあることが好ましい。
【0017】
ある実施形態においては、前記内側鍔部の切欠き部の底部は前記円筒部の側面と前記円筒部の中心軸からの距離が実質的に等しく、前記外側鍔部の切欠き部の底部は前記ギア部の歯先円の周面と前記円筒部の中心軸からの距離が実質的に等しいことが好ましい。
【0018】
本発明の実施形態によるコイル部品は、前記いずれかのコアケースユニットと、前記ケースに収容されたノーカットの閉磁路の磁心と、導線を前記ボビンに巻回して構成されたコイルとを有し、前記コイルは前記円筒部の両端側に配置された内側鍔部の間に設けられている。
【0019】
本発明の実施形態によるコイル部品は、切欠き部が設けられた前記コアケースユニットと、前記ケースに収容されたノーカットの閉磁路の磁心と、導線を前記ボビンに巻回して構成されたコイルとを有し、前記コイルは前記円筒部の両端側に配置された内側鍔部の間に設けられており、前記コイルを構成する前記導線の導線端が前記内側鍔部と外側鍔部とに設けられた切欠き部を介して外側鍔部の外に導出されている。
【0020】
また、ある実施形態において、前記コイル部品において、前記コイルは、トランスを構成する一次コイルおよび二次コイルを有し、前記一次コイルを構成する導線の巻回部と二次コイルを構成する導線の巻回部が前記円筒部の径方向に多層に交互に配置されていることが好ましい。
【0021】
また、ある実施形態において、前記コイル部品では、前記内側鍔部と外側鍔部とにそれぞれ2つの切欠き部が設けられ、前記一次コイルを構成する導線の導線端は、前記内側鍔部と外側鍔部とにそれぞれ設けられた2つの切欠き部のうちの一方から導出され、前記二次コイルを構成する導線の導線端は、前記内側鍔部と外側鍔部とにそれぞれ設けられた2つの切欠き部のうちの他方から導出されることが好ましい。
【0022】
本発明の実施形態によるコイル部品の製造方法は、ノーカットの閉磁路の磁心をケースに収容する第1の工程と、導線を巻回するための円筒部と、該円筒部の両端側に配置された内側鍔部と、前記内側鍔部の外側にそれぞれ配置された外側鍔部とを備えたボビンを前記ケースに回転可能に取り付ける第2の工程と、前記円筒部に導線を巻回してコイルを形成する第3の工程とを有し、前記ボビンは、回動力を受けるためのギア部を前記外側鍔部のうち少なくとも一方の外側に有し、前記外側鍔部の外径は前記ギア部の歯先円で規定される外径よりも大きく、前記第3の工程において、前記ギア部を介して前記ボビンを回転させることによって前記円筒部に前記導線を巻回してコイルを形成し、導線端を前記内側鍔部と外側鍔部の間の空間に配置した状態で前記第3の工程を繰り返して、複数のコイルを前記円筒部の外側に形成する。
【0023】
また、ある実施形態において、前記コイルは、トランスを構成する一次コイルおよび二次コイルを有し、前記一次コイルを構成する導線の巻回部と二次コイルを構成する導線の巻回部とを前記円筒部の径方向に交互に多層に形成することが好ましい。
【0024】
さらに、ある実施形態において、前記導線端を支え止めるための突起が、前記内側鍔部の表面から前記円筒部の軸方向外側に向けて突設されており、前記第3の工程において、前記導線端を前記突起に支え止めて前記外側鍔部の外側に向けての前記導線端の移動を規制することが好ましい。
【0025】
また、ある実施形態において、前記内側鍔部と外側鍔部とには、それぞれ切欠き部が設けられており、前記第3の工程の後に、前記導線端を前記内側鍔部と外側鍔部に設けられた切欠き部を介して外側鍔部の外に導出する工程を有することが好ましい。
【0026】
また、ある実施形態において、前記内側鍔部と外側鍔部とにそれぞれ2つの切欠き部が設けられており、前記第3の工程の後に、前記一次コイルを構成する導線の複数の導線端と前記二次コイルを構成する導線の複数の導線端を、それぞれ別々の切欠き部から導出させる工程を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の実施形態によれば、ギア駆動による巻線に適用可能なボビンを備えたコアケースユニット、それを用いたコイル部品および該コイル部品の製造方法において、ギアおよびコイル部分への導線端の巻き込み防止に好適な構成が提供される。かかる構成を用いることで巻線の作業性が向上する。また、ボビンに複数のコイルを設けるコイル部品に適用したときに、それぞれコイルの端部を分離して引き出すことを容易にする。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施形態に係るコアケースユニットの構成を以下に説明する。
【0030】
本発明の実施形態に係るコアケースユニットは、磁心を収容するための環状のケースと、導線を巻回するためのボビンとを備える。前記ケースは、典型的には、前記磁心の磁路に沿った直線部を有している。また、前記ボビンは、前記導線を巻回するための円筒部と、該円筒部の両端側に配置された内側鍔部と、前記内側鍔部の外側にそれぞれ配置された外側鍔部と、前記外側鍔部のうち少なくとも一方の外側に回動力を受けるためのギア部とを有し、前記円筒部において前記ケースに回動可能に支持されるものである。かかる構成によって、ギア部を介した回動による機械巻線(以下、ギア巻ともいう)が可能となるため、磁心を収容した環状のケースを用いた場合の、巻線の作業性を確保することができる。しかも、内側鍔部と外側鍔部との間に形成された空間を巻線の際に導線端の収容に利用することができる。また巻線時に複数のコイルの導線端を溜めておくことも出来る。
【0031】
さらに、前記外側鍔部の外径は、前記ギア部の最外径よりも大きい。かかる構成によれば、導線を巻回する際の導線端の暴れ、ばたつき、乱れが生じても、内側鍔部と外側鍔部との間の空間に収容する導線端がギア部に噛み込むことをより確実に防止することができる。
【0032】
以下、本発明に係るコアケースユニット、それを用いたコイル部品およびコイル部品の製造方法の実施形態を、図面を参照しながら、より具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、各実施形態において説明する構成は、その実施形態の趣旨を損なわない限りにおいて他の実施形態においても適用することが可能であり、その場合、重複する説明は適宜省略する。以下の説明においては、参照する図面に数字の後にアルファベットを付した符号のみを付していても、特にアルファベット符号による限定の必要がない場合には、アルファベットを付さない代表数字を用いて説明する場合がある。
【0033】
図1は本発明のコアケースユニットの実施形態を示す斜視図であり、
図2は
図1に示す実施形態に用いるケースの分解斜視図であり、
図3はボビンの分解斜視図である。以下の説明でコアケースユニットを適用するコイル部品としてはトランスを想定しているが、コアケースユニットの用途はこれに限定するものではない。コアケースユニット100は、磁心4を収容するための環状のケース1と、導線を巻回するためのボビン2とを備える。環状のケース1に収容される磁心4の構成はこれを特に限定するものではないが、例えば磁性合金薄帯を用いたノーカットコアを用いることができる。ノーカットとは、磁性合金薄帯の磁路の途中に切断部分を持たないことをいう。ノーカットの閉磁路の磁心は、磁気ギャップを持たないため、漏れ磁束の影響が排除され、高い動作磁束密度でのトランスの駆動が可能となる。磁心の構成の詳細については後述する。
【0034】
(ケース)
ケース(保護部材)1は、上下方向(図中のz方向)に分割された上ケース1aと下ケース1bとの組立体である。なお、ここでいう上下の概念は、組立時の方向性を示す便宜的なものである。下ケース1bに磁心4を収容する空間51が形成されており、かかる空間に上ケース1aで蓋をするように、上ケース1aと下ケース1bとが嵌合する。
図1に示す実施形態では、上ケース1aと下ケース1bとの接合部(重ね合わせ部分)は、環状のケース1の側面(
図1に示すz軸に平行な面)において形成されている。ケース1は、磁心4の磁路に沿った(図中のx方向に沿った)一対の直線部3を有する。ケース1は、磁心4の形状に適合するように構成した矩形環状のケースであり、図中のy方向に沿った直線部も有する。なお、ケース1の四つの角には、上ケース1aと下ケース1bとを締結するための固定部としてy方向に突出した部分が形成されている。かかる突出した部分や角のアール部分(曲面部分)などが形成されている場合も、ケースの全体的な形状としては矩形として取り扱う。ケース1によって、磁心4とコイルとの間の絶縁距離(空間距離や沿面距離)が確保される。
【0035】
磁性合金薄帯を用いた磁心の場合、巻磁心、積層磁心のいずれの形態であっても、磁路に垂直な断面は通常矩形となる。したがって、それを収容するケースの断面の内形も通常矩形である。ケース断面の外形は矩形以外にすることも可能であるが、ケース構造の簡略化の観点からは矩形であることが好ましい。
【0036】
ボビン2の円筒部を支持するケース1の直線部の断面の外形を円形やn角形(nは5以上の自然数)にすることも可能であるが、断面の外形が矩形のケースを用いることには以下の利点もある。例えば、コアケースユニットを用いてトランスを構成する場合、トランス駆動時には磁心が発熱するが、コイルに覆われている部分は放熱がコイルによって阻害されるため、トランスの温度が高くなる。これに対して断面の外形が矩形のケースを用いると、ケース外面とボビン内面との間にボビン外側に通じる大きな空間が形成されるため、放熱が促進され、トランスの温度上昇を抑えることができる。
【0037】
図1に示す実施形態では、磁心4の磁路方向に垂直な断面の形状が長方形であり、上ケース1aと下ケース1bの接合部側、すなわち環状のケースの内周側および外周側に、磁心4の長方形断面の長辺側が配置されるように、磁心4がケース1内に収容される。ボビンに巻回する巻線の全長を短くするためには、ボビンの円筒部分の内側に配置されるケースの断面形状はなるべく正方形に近いことが好ましい。しかしながら、ケースを薄くして小型化を図る場合、上ケース1aと下ケース1bの接合部は他の部分に比べて相対的にケースの厚さは大きくなる。これに対して、断面が長方形の磁心を用意し、その長辺が接合部側(側面側)になるように配置すれば、前述のようにケースが厚くなる分を、磁心の長辺と短辺との寸法差で相殺することができる。かかる構成を備えた上で、ケース1の外形における、磁心4の磁路方向に垂直な断面の形状が、磁心4の断面の形状よりも正方形に近い(短辺と長辺の比が1に近い)か、正方形であることが好ましい。このうち正方形がもっとも好ましく、
図1の構成ではケース1の断面形状は正方形である。ただし、磁心4の磁路方向に垂直な断面は略正方形の形状を有していても良く、この場合にも、ケース1が十分に薄く形成されているときは、ケース1の断面の外形も磁心4と同様に略正方形となる。
【0038】
ケース1は、磁心4の保護、絶縁性の確保等の目的で用いられる。かかる目的に適うものであれば、ケースの材質はこれを特に限定するものではないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等の樹脂を用いることができる。
【0039】
なお、以上には保護部材としてのケース1を複数の部材(上ケース1aおよび下ケース1b)を組み合わせて構成する形態を説明したが、これに限定されない。例えば、磁心に適合する収容空間を有する開口型の単一部材からなるケースを用いてもよい。この場合、ケース内に磁心を収容してから、絶縁性テープなどを用いて磁心がケースから脱離しないように固定するとともに磁心4とコイル間の絶縁を確保すればよい。また、上記に説明した形態では、磁心4の全体を収容する空間を形成するように構成されたケース1を用いているが、これに限られず、保護部材は、磁心の一部のみを覆う形態であってもよい。ただし、保護部材は、少なくともボビン2が取り付けられる部分において、磁心4を覆うように設けられていることが好ましい。これによって、後述するように、ボビン2を磁心4の周りで回転させるときに、磁心が損傷する可能性を保護部材により低減することができる。また、保護部材だけでは強度が不足するときには、磁心4に対して樹脂含浸を行うことによって磁心自体の強度を向上させてもよい。
【0040】
(ボビン)
ボビン2は、導線を巻回しコイルを構成するための円筒部5と、円筒部5の両端側に配置された内側鍔部6と、内側鍔部6の外側にそれぞれ配置された外側鍔部7と、外側鍔部7の外側に設けられたギア部8とを有する。ギア部8は、図示しない駆動装置に備えられたギアと噛み合わせ可能に構成されている。後述するように、駆動装置のギアを回転させることによって、ギア部8を介してボビン2をケース1の直線部の周りで回転させることが可能である。
【0041】
ボビン2も二つの分割部2a、2bの組立体として構成されており、二つの分割部2a、2bでケース1を挟み込むようにしてボビン2が組立てられる。内側鍔部6(6a,6b)は、その外径が円筒部5(5a,5b)の外径よりも大きい円板状であり、導線の巻回部分を画定する。つまり、間隔を空けて配置された一対の内側鍔部6で挟まれた円筒部5の周面上においてコイルを形成するための導線が巻回される。また、内側鍔部6(6a,6b)の外側(
図1に示すx方向で、導線の巻回部分とは反対側)に、内側鍔部6と間隙を開けて配置された外側鍔部7および回動力を受けるためのギア部8とを有する。
【0042】
図4および
図5は、
図3に示した2分割構造のボビンの部分拡大図である。この分割可能なボビンは2つの部材を組み合わせて構成され、軸中心を通る仮想分割線(図示せず)で2つに別れる。分割面には組み合わせが容易に、かつ正確に行えるように、また軸方向のずれが生じないように突起部60,70と窪み部61,71が設けられている。
【0043】
ボビン2の円筒部5の内周側とケース1の角とは緩やかに接するか、両者の間にわずかなクリアランスを介して配置され、ボビン2は円筒部5においてケース1の直線部3に回動可能に支持される。ギア部8は円筒部5と軸を共通にしており、円筒部5がギア部8と一体的に回動する。したがって、モータ等の駆動力をギア部8に与えることにより、導線の巻回が可能となり、巻線の作業性が確保される。
【0044】
導線の巻回部分を画定する内側鍔部6と回動力を受けるギア部8との間に外側鍔部7が配置されている点が、
図1および2に示す実施形態の特徴的な構成の一つである。かかる構成を
図6も参照しつつ説明する。
図6(a)〜(c)はそれぞれ、ボビンの側面図、正面図および上面図である。外側鍔部7も、内側鍔部6と同様に、その外径が円筒部5の外径よりも大きい円板状である。内側鍔部6と外側鍔部7とは互いに円筒部5の全周に渡って離間しており、内側鍔部6と外側鍔部7との間には導線端を収容するためのリング状の空間11が形成されている。前記空間11は、前記円筒部5の円周方向に1周する溝部として構成されており、導線端は、例えば、空間11の中で溝部の底部の周囲に巻回するように収容することができる。外側鍔部7の外径はギア部8の歯先円で規定される外径(歯先円直径)よりも大きくなるように構成されているので、ギア巻の際に、導線端のギア部側への回り込みを防止することができる。導線端は空間11の中で巻回するように収められればよく、ギア部8は外側鍔部7の外周よりも径方向内側に遠く位置するので、導線端の部分が長くなっても確実に導線端のギア部側への回り込みを拘束しておくことができるし、ギア部8への巻き込みを防ぐことが出来る。
【0045】
また、前記円筒部5の軸中心から径方向における前記空間(溝部)11の底面までの距離と、同様に径方向における前記円筒部5の側面までの距離とを実質的に等しくして段差なく構成することが好適である。このようにすれば、前記空間(溝部)11から前記円筒部5へ引き回された導線を、後述する切り欠き部を介して、段差を経ずに溝部底面および円筒部外周面に密着させた状態で巻き始めることが容易となって、多層にコイルを形成する場合に、内側鍔部6の近傍でコイルの巻乱れが生じるのを抑制することが出来る。
【0046】
図1〜6に示す実施形態では、ギア部8(8a、8b)は外側鍔部7(7a,7b)の外面において軸方向外側に突出するように形成されている。すなわち、外側鍔部7とギア部8は一体で構成されているため、外側鍔部7とギア部8との間に隙間は形成されていない。外側鍔部7とギア部8とが円筒部の軸方向(x方向)に離間した構成を用いることも可能であるが、ボビン2が大型化することを回避するためには、外側鍔部7とギア部8とが一体である構成が好ましい。
【0047】
図1〜6に示す実施形態では、円筒部5の両端側の内側鍔部6と外側鍔部7には、それぞれの外周から円筒部5(5a,5b)の中心方向に向かって切欠き部15(15a,15b),16(16a,16b)が設けられている。内側鍔部6に穴を設けて、該穴から各コイルの導線端を内側鍔部の外側に導出することも可能であるが、切欠き部を設けて、そこから導線端を引き出す構成の方が巻線の作業性が高く、好ましい。切欠き部を設けることによって、円筒部5にコイルを形成した後、各コイルの導線端を円筒部5の径方向に不必要に引き回さずに、軸方向にそのまま直線的に引き出すことができる。かかる観点から、
図1〜6に示した実施形態のように、切欠き部15,16は円筒部5の外周面まで達していることが好ましい。また、
図5のボビンの部分拡大図に示すように、外側鍔部7の切欠き部16を、前記ギア部8の強度が向上するように、その底部の位置が外側鍔部7の径方向において前記ギア部の歯先円の周面よりも外側となるようにするのが好ましい。
【0048】
切欠き部15,16の形状はこれを特に限定するものではないが、例えば導線を引き出すのに十分な幅を持つスリット状に形成すればよい。当然に切欠き部15,16の幅(特に外側鍔部7に設けられた切り欠き部16の幅)は、外側鍔部7が有する導線端のギア部側への回り込みを拘束する機能を阻害しない程度に広すぎない幅となっている。
【0049】
一方で、外側鍔部7に設けられた切り欠き部16の幅は、ギア部8を構成する歯車の歯溝の幅(歯車のピッチ円上における歯間の隙間の長さ)よりも大きく設計されていてよい。また、切り欠き部16の幅は、歯車のピッチよりも大きくても良い。本実施形態では、ギア部8の内側に設けられた、より大径の外側鍔部7において切り欠き部16を設ける構成を有しているので、切り欠き部16の形状やサイズを比較的自由に設計することができる。これによってコイルの導線端を、コイルを巻回した後、テンションをかけずに軸方向に沿ってまっすぐ引き出すことが容易になり、導線損傷の可能性を低減することができる。
【0050】
図1〜6に示す実施形態では、外側鍔部7にも切欠き部16が設けられており、巻線終了後に、導線端を外側鍔部7の外側まで導出することが可能になっている。特に、円筒部5の軸方向(x方向)から見て、内側鍔部6の切欠き部15と外側鍔部7の切欠き部16とが重なっていることで、導線端を外側鍔部7の外側まで最短で導出し、導線端の引き出し構造および導線端の処理作業を簡略化することができる。内側鍔部6の切欠き部15と外側鍔部7の切欠き部16との重なりは部分的であってもよいが、
図1〜3に示す実施形態のように、内側鍔部6の切欠き部15と外側鍔部7の切欠き部16とは、幅方向端部が一致するように構成されていることがより好ましい。
【0051】
円筒部5の軸方向(x方向)から見て分割部2a、2bの接続部を挟んだ両側に切欠き部15,16が設けられ、コイルの導線端(リード)を、各切欠き部から引き出すことが可能である。なお、
図1に示す実施形態では、各鍔部6、7の片側に二つずつ、それぞれ計四つの切欠き部15,16が設けられている。かかるコアケースユニットを用いてトランスを構成すれば、コイルの導線端の引き出し位置を円筒部5の軸を中心として180度離間させて、導線端処理におけるコイルとの絶縁性、各コイルの導線端間の絶縁性を高めることが可能である。
図1〜6に示す実施形態では、切欠き部15,16は一方の鍔部につき一対設けられているが、コイルの構成に応じて二対以上設けることも可能である。但し、引き出された異なるコイルの導線端間の間隔を確保する観点からは、一つの鍔部につき切欠き部は一対だけ形成されていることが好ましい。
【0052】
ボビンは、上述のように引き出された各コイルの導線端がギア巻作業中にばらけないように支え止める構造を備えていることが好ましい。この点、
図1〜6に示す実施形態におけるボビンでは、導線端の内側鍔部6の径方向の移動を規制するための突起10が、内側鍔部6の表面から円筒部5の軸方向(x方向)外側に向けて突設されている。詳細は後述するが、内側鍔部6の切欠き部15から引き出された導線端は内側鍔部6と外側鍔部7との間の空間11を引き回される。導線端を突起10にまで及ばせておけば突起10によって支え止められて、ボビンを回動させることで生じる遠心力によって導線端がばらけるのを防ぐことが出来る。導線端を突起10に絡げて固定しても良い。
【0053】
内側鍔部6の表面からの突起10の高さは、好適には、導線端を絡げることができるように設定される。また、突起10が巻線作業時のギア駆動の障害にならないように、少なくともギア部8にかからない範囲に設定される。さらに、
図1〜6に示す実施形態のように、内側鍔部6の外径が外側鍔部7の外径よりも大きく、突起10の突設位置が、円筒部5の軸方向から見て外側鍔部7の外周の外側であることが好ましい。導線端を空間11に収める作業が容易になるからである。また、導線端を突起10に絡げる場合に、その作業も容易となる。また、かかる作業性確保のために内側鍔部6と外側鍔部7との間隔を必要以上に大きくする必要もなくなる。
【0054】
ギア巻作業後の端子接続等の導線端処理のために十分な導線端の長さを確保するために、突起10を設ける位置は、それに絡げる導線端が導出される一方の切欠き部よりも他方の切欠き部に近い位置であることが好ましい。
図1〜6に示した実施形態では、切欠き部15,16および突起10は、内側鍔部6および外側鍔部7の半割部の周方向でそれぞれ中心角θにして130度以上離れた両端側(半割面側)に配置されている。好ましくは前記円筒部の軸方向に見て、前記切欠き部と突起がそれぞれ180度の回転対称の位置である。上記切欠き部と突起の配置は半割部を組み合わせた状態で実現されていればよいので、切欠き部15,16と突起10は各半割部の中央付近に配置することも可能である。但し、
図1〜6に示す実施形態のように突起10の位置を半割部の末端とすれば、突起付のボビンの形成も容易になる。
【0055】
図1〜6に示す実施形態では、ギア部8は円筒部5の両端側の外側鍔部7の外側それぞれに設けられているが、ギア部8は外側鍔部7のうち少なくとも一方の外側に設けられていれば、回動は可能である。したがって、
図7に示すように一方の外側鍔部7の外側にギア部を設けないようにしてボビンを小型化することも可能である。但し、両端側で駆動してボビンを安定に回動させる観点からは、円筒部両端側の外側鍔部7の外側それぞれにギア部8を設けることが好ましい。
【0056】
ボビン2の材質はこれを特に限定するものではないが、ケース1と同様に、例えばPET、PBT、PPS等の樹脂を用いることができる。
【0057】
(コイル部品)
上述のコアケースユニットを用いたコイル部品とその製造方法について更に
図8〜15を参照しつつ説明する。
図14(a)はコイル部品の正面図であり、
図14(b)はその側面図である。上述のコアケースユニットは、ギア巻をトランスに適用する場合に好適な構成であるため、以下コイル部品としてトランスを想定して説明するが、コイル部品はこれに限定するものではなく、チョークコイル等を構成することもできる。
図14(a)、(b)に示す実施形態のコイル部品200は、ケース1およびボビン2からなるコアケースユニットと、ケース1に収容されたノーカットの閉磁路の磁心とを有する。コアケースユニットおよび磁心は、
図1〜3を用いて説明した実施形態におけるコアケースユニット100および磁心4と同じ構成を有していてよい。また、コイル部品200は、導線をボビン2に巻回して構成されたコイル40とコイル41とを有する。コイル40,41は円筒部5の両端側に配置された内側鍔部6の間に多層に構成されている。
【0058】
図14(a)、(b)に示すコイル部品200は2つのボビンのそれぞれに設けられたコイル40,41を有する。
図15に断面模式図として示すように、各ボビンにおいて複数のコイル40を並列接続して一次副コイルとし、複数のコイル41を並列接続して二次副コイルとし、一次副コイル同士、二次副コイル同士をそれぞれ直列接続して一次コイルNp、二次コイルNsを構成している。
【0059】
一次コイルNpを構成する導線、および二次コイルNsを構成する導線として、例えば線径がφ1mm以上の3層絶縁電線等の絶縁被覆付き電線を使用し、かかる絶縁被覆によって、一次コイルNpと二次コイルNsとの間の絶縁を確保することができる。但し、導線毎の絶縁被覆によって一次コイルNpと二次コイルNsとの間の絶縁を確保しようとすると、絶縁被覆自体の厚みで巻回部全体の体積が増えるため、通常のマグネットワイヤ(エナメル線)を使用し、一次コイルを構成するコイルと二次コイルを構成するコイルとの間に絶縁シートを配置することが行われる。ボビン2に巻回可能な柔軟性、強度、絶縁耐力を有する絶縁シートを用いることで、上述のギア部8の回動を利用して絶縁シートの巻回も可能になる。絶縁シートの材質は、例えばポリエステル、不織絶縁紙:ノーメックス(デュポン社の登録商標)等が好ましい。厚さは絶縁性や柔軟性を考慮して、例えば25μm〜50μmのポリエステルシート、50μm〜200μmのノーメックスシートを用いることが望ましい。図示した例ではコイル40,41の最表面に絶縁シートが巻かれた状態を示している。
【0060】
一次コイルNpの端部40aおよび二次コイルNsの端部41aは絶縁の為に筒状の樹脂部材に通される。一次コイルNpの端部40aの一方端どうしを圧着接続子90で接続し、他端側を丸型端子96に圧着接続して一次コイルNpとした。同様に、二次コイルの端部41aの一方端どうしを圧着接続子90で接続し、他端側を丸型端子96に圧着接続して、二次コイルNsとした。更に、ケース1の前記圧着接続子90側に、実装の為の中継部材70を接続して、コイル部品200を形成した。中継部材70は、ケース1の直線部3を繋ぐ脚部に設けられたねじ穴に通されたボルト95によって固定されている。中継部材70には実装の為の貫通孔が設けられており、コイル部品200が固定される実装面に対して縦置き可能としている。コイル部品200を縦置きすることで、コイルの発熱によってケース1の外面とボビン2の内面との間の空間の空気が温められ、煙突効果によって前記空間に空気の流れが生じて放熱を促進することが出来る。
【0061】
ノーカットの磁心4としては、磁性合金薄帯を環状に巻回して構成した巻磁心でもよいし、所定形状に打ち抜かれた複数の磁性合金薄帯を積層した積層磁心でもよい。
図2に示す磁心4は長方形の磁路を構成している矩形環状の磁心であるが、磁心の形状はこれに限定されるものではない。但し、直線部3を有するケース1に収容するため、その一部に直線部を有する形状のものを用いる。例えば、矩形環状(ロの字状)、レーストラック状、中足付矩形環状(日の字状)などの磁心を用いることができる。矩形環状(ロの字状)、レーストラック状などの単純な環状の磁心に対しては、生産性の観点から巻磁心の構成が特に好適である。中足付矩形環状(日の字状)の磁心は、かかる形状に打ち抜いた磁性合金薄帯を積層する方法や、並置した二つの巻磁心をさらに別の巻磁心で囲む方法で得ることができる。なお、磁心の形状を表す矩形の文言は完全な矩形に限らず、磁性合金薄帯を巻回する際に必然的に生じる角のアール部分等を有する形状も含む趣旨である。
【0062】
上述のように磁心4は磁性合金薄帯を巻回または積層して構成することができる。磁性合金薄帯は、例えば、溶湯を急冷して得られるFe基アモルファス合金薄帯、Co基アモルファス合金薄帯、Fe基ナノ結晶合金薄帯である。比較的飽和磁束密度が低いCo基アモルファス合金薄帯でもおおよそ0.55T以上の飽和磁束密度を有しており、これらの磁性合金薄帯は、フェライトに比べて飽和磁束密度が高く、トランスの小型化に有利である。かかる優位性を最大限に利用するため、磁心4はノーカットコアとして構成される。
【0063】
磁心4を構成するために用いる磁性合金薄帯の組成および特性は特に限定されない。例えば絶縁式スイッチング電源等に用いるトランス用途であれば、用いる磁性合金薄帯は、飽和磁束密度Bsが1.0T以上であり、かつ、飽和磁束密度Bs対する残留磁束密度Brの比Br/Bsが0.3以下である磁気特性を有することが好ましい。具体的には、磁界中熱処理において、磁路に対し垂直な方向に異方性を付与することによってBrを低下させた材料が好適である。磁界中熱処理によって磁路に対し垂直な方向に異方性を付与することで、飽和磁束密度Bsに対する残留磁束密度Brの比Br/Bsを小さくすることができる。
【0064】
次に、コイル部品の好ましい形態について
図8〜
図13を参照し製造方法を交えつつ説明する。上述のコイル部品の説明と重複する部分の具体的な説明や図示を適宜省略する。本発明の実施形態に係るコイル部品の製造方法は、ノーカットの閉磁路の磁心を、前記磁心の磁路に沿った直線部を有するケースに収容する第1の工程と、導線を巻回するための円筒部と、該円筒部の両端側に配置された内側鍔部と、前記内側鍔部の外側にそれぞれ配置された外側鍔部とを備えたボビンを前記ケースの直線部に取り付ける第2の工程と、前記円筒部に導線を巻回してコイルを形成する第3の工程とを有する。前記ボビンは、前記円筒部において前記ケースの直線部に回動可能に支持されるとともに、回動力を受けるためのギア部を前記外側鍔部のうち少なくとも一方の外側に有する。外側鍔部の外径は前記ギア部の最外径よりも大きい。第3の工程において、前記ギア部を介して前記ボビンを回転させることによって前記円筒部に前記導線を巻回してコイルを形成し、導線の巻端を前記内側鍔部と外側鍔部の間に配置した状態で次の導線の巻回を行う。
【0065】
具体的には、まず導線の一端(巻端)を一方側の内側鍔部と外側鍔部との間に配置した後、円筒部に導線を巻回してコイルを形成する。コイルの巻終わり(巻端)は他方側の内側鍔部と外側鍔部の間に配置する。かかる状態で、次の導線の巻回を同様にして行う。全ての導線の巻回が終了した後、巻端の結線処理を行いコイルの形成が完了する。
【0066】
第3の工程について更に説明する。
図8(a)はコイル部品の巻線作業時のボビンの巻き終わり側端部周辺のA−A断面図であり、
図8(b)は巻線の途中の状態を示している。
図8(b)にてx方向の巻き始め側の内側鍔部6に設けられた切欠き部15aを通して導線の端部(導線端)が空間11に収容される。前記空間11において、導線端はボビンの回転とは逆方向に約1巻されて、内側鍔部6に設けられた突起10bに絡げられる。ギア部8を回動して円筒部5の巻き終わり側で所定の巻数となるように巻線を行い、導線の端部を所定の長さで切断する。
図9(b)は巻線の後の状態を示し、
図9(a)はボビンの巻き終わり側端部周辺のA−A断面図である。コイル40の巻き終わり側の導体端もまた、ボビンの回転とは逆方向に約1巻されて、内側鍔部6に設けられた突起10bに絡げられる。
【0067】
次にコイル40に重ねてコイル41を形成する。
図10(b)は2層に巻線の後の状態を示し、
図10(a)はボビンの巻き終わり側端部周辺のA−A断面図である。コイル41の巻き始めの導線端は、x方向の巻き始め側の内側鍔部6に設けられた切欠き部15b(図示せず)を通して空間11に収容される。前記空間11において、導線端はボビンの回転とは逆方向に約1巻されて、内側鍔部6に設けられた突起10a(図示せず)に絡げられる。コイル41の巻き終わり側の導線端もまた、ボビンの回転とは逆方向に約1巻されて、内側鍔部6に設けられた突起10aに絡げられる。第3の工程ではコイル40の形成、コイル41の形成を順次複数回行い多層に重ねる。コイル層間及び側面として現われる最外層のコイル41には絶縁シート55が配置されるがその形成方法については説明を省略する。
【0068】
ギア部を回動して巻線を行うことで、ノーカットの磁心を用いた場合でも巻線作業が容易である。しかも、内側鍔部とギア部との間に、ギア部の最外径よりも外径が大きい外側鍔部を有するため、内側鍔部と外側鍔部との間の空間に巻端を収容して、導線端がギア部側等に回り込まないようにして巻線作業を行うことができる。かかる構成は、トランスを構成する一次コイルNpおよび二次コイルNsを巻回する場合に好適である。一次コイルNpを構成する導線の巻回部と二次コイルNsを構成する導線の巻回部とを円筒部の径方向に精度よく交互に形成することができる。
【0069】
一次コイルNpおよび二次コイルNsが、それぞれ、並列接続または直列接続された複数の巻回部に分割された構成、鍔部の切欠き部に係る構成、鍔部の表面に突設された突起に係る構成など、好ましい形態は上述の通りである。このうち、突起に係る構成について以下に補足する。
【0070】
導線端は、内側鍔部と外側鍔部との間の空間で巻回するだけでも空間内に保持することが可能である。例えば、1ターン以上巻回したり、
図11に示すように、導線端の末端を突起10a,10bの内径側に配置させて突起10a,10bの内側をくぐるように巻回することで空間内に保持可能である。図示した例では内側鍔部6の切欠き部15a、15bから引き出されたコイル40,41のそれぞれの導線端は、空間11にて約半周巻かれて、コイル40の導線端は突起10bと、コイル41の導線端は突起10aに支え止められている。
【0071】
より確実には、
図10等に示すように、第3の工程において、内側鍔部の表面に突設された突起を利用して、各巻回部毎に巻端を突起に絡げることが好ましい。各巻回部毎にその巻端を一時的に突起に絡げておき、全ての巻回部の形成が終わった後に、巻端の接続等の処理を行えば、巻端がばらけることがなく、巻線作業も容易になる。
【0072】
さらに、内側鍔部6と外側鍔部7に切欠き部15、16を設けておくことで、
図12に示すように、第3の工程の後に、導線の巻端を内側鍔部6と外側鍔部7に設けられた切欠き部15、16を介して外側鍔部7の外に導出することができる。
【0073】
内側鍔部6と外側鍔部7との間に空間11に収められたコイルの巻き始め側、巻き終り側の導線端は、その端部40a,41aの絶縁被膜が取り除かれている。ボビンの円筒部からコイル40は切欠き部15a、16aを介して引き出され、コイル41は切欠き部15b、16b(図示せず)を介して引き出される。円筒部5の軸方向から見て、内側鍔部6の切欠き部15と外側鍔部7の切欠き部16とが重なる構成で、導線端が内側鍔部6から外側鍔部7へ直線状に導出されている。複数のコイル40の導線端を縒り、複数のコイル40を並列接続して一次副コイルとし、同様に複数のコイル41の導線端を縒り、複数のコイル41を並列接続して二次副コイルとする。各副コイルはもう一方のボビンに設けた副コイルと直列に接続して、
図14に示したコイル部品とする。
【0074】
なお、
図13に示すように、巻端を収容した空間をカバー30で覆うことで、より確実に巻端を拘束することができる。
図13に示すカバーは内側鍔部6と外側鍔部7の間隔以下の幅を有し、側面形状は略C字状である。プラスチックや板バネ等の弾性体を用いてカバーを構成することで、その着脱も容易になる。なお、
図13に示すカバー30は略C字状であるが、カバーの形態はこれに限らない。巻端を収容した空間の外周を覆う側面形状が略円形状のカバーであればよい。例えば、カバーの先端側が重なるように閉じた形態も適用可能である。
【0075】
次に、コイル部品の実施形態に適用されるコイルの他の構成例について説明する。
図16は、コイルとして、トランスを構成する一次コイルおよび二次コイルを有するコイル部品の一実施形態を示す断面模式図である。便宜上、磁心4を収容するケースの図示は省略している。一次コイルNpを構成する導線の巻回部と二次コイルNsを構成する導線の巻回部がボビン2の円筒部5の径方向に交互に配置されている。一次コイルNpの巻回部と二次コイルNsの巻回部とを磁心4の同じ部位に巻回し、一次コイルの導線と二次コイルの導線同士を密接させてコイルが構成されるので、コイル間の結合が高められる。高結合係数のトランスを実現することで、実効抵抗(交流抵抗)の増大を抑えることができる。すなわち、一次コイルの巻回部と二次コイルの巻回部を円筒部の径方向に交互に配置する構成によれば、銅損の増大抑制の効果が得られるため、上述のノーカットの磁心を用いることによるギャップ損失低減の効果と併せて、トランスの損失低減および小型化に寄与する。
【0076】
巻回部において、導線は円筒部5の一端側から他端側(x方向)に巻回されて構成されている。巻回部では導線を径方向に重ねて巻回してコイルを構成することも可能であるが、上記のコイル間の結合を高める趣旨からは、各巻回部は、コイルごとに導線を重ねないで一層巻で構成することが好ましい。
【0077】
また、巻回部を円筒部5の径方向に交互に配置する構成として各コイルの巻回部をそれぞれ一つずつ配置して重ね一次コイルNpおよび二次コイルNsを構成することは可能である。しかしながら、
図15に示す実施形態のように、一次コイルNpおよび二次コイルNsが、それぞれ、並列接続された複数の巻回部に分割され、該複数の巻回部が、前記一次コイルおよび二次コイル毎に前記円筒部の径方向に交互に重ねられて配置されていることが好ましい。かかる構成によって、コイルの抵抗が低減されるとともに、一次コイルNpと二次コイルNsとの結合が高められる。分割されたコイルの接続形態は、並列接続だけに限らず、直列接続も適用することができる。導線を重ねて巻回するよりも、分割して、上述のように交互に配置する方が、コイル間の結合に有利である。
【0078】
上述のコイルの構成は中足付矩形環状(日の字状)の磁心を用いたトランスにも適用できる。
図17はその一実施形態を示す断面模式図である。本実施形態は、一次コイルNpと二次コイルNsとを設けたボビン2を磁心4の中足に配置した点で他の実施形態と異なるが、コイルやボビンの構成は他の実施形態と同様であるので説明は省略する。
【0079】
一次コイルおよび二次コイルを、それぞれ、並列接続または直列接続された複数の巻回部に分割する構成は、上記実施形態に限定されるものではない。一次コイルおよび二次コイルが並列接続または直列接続で分割された部分を含んでいればよい。接続形態として、かかる並列接続または直列接続を単独で適用することもできるし、並列接続と直列接続を組み合わせて適用することもできる。
【0080】
本発明の実施形態に係るコイル部品は、巻線の作業性を確保しながら、高磁束密度を有する磁性合金薄帯の特性を有効に活かすことができるため、各種電源装置、特に出力が1kWを超えるスイッチング電源、絶縁式インバータ等の電源装置用のトランスに好適である。
コアケースユニット(100)は、磁心(4)を収容するための環状のケース(1)と、導線を巻回するためのボビン(2)とを備え、ボビン(2)は、導線を巻回するための円筒部(5)と、円筒部の両端側に配置された内側鍔部(6)と、内側鍔部の外側にそれぞれ導線端を収容可能な空間を介して配置された外側鍔部(7)と、外側鍔部のうち少なくとも一方の外側に回動力を受けるためのギア部(8)とを有し、円筒部においてケースに回動可能に支持され、外側鍔部(7)の外径はギア部の歯先円で規定される外径よりも大きく、内側鍔部(6)と外側鍔部(7)とには、それぞれ導線端を通すための切欠き部(15、16)が設けられている。