特許第5875462号(P5875462)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5875462
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】スパッタリング方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/35 20060101AFI20160218BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20160218BHJP
【FI】
   C23C14/35 B
   C23C14/34 J
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-115318(P2012-115318)
(22)【出願日】2012年5月21日
(65)【公開番号】特開2013-241647(P2013-241647A)
(43)【公開日】2013年12月5日
【審査請求日】2015年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】特許業務法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】大谷 佑介
(72)【発明者】
【氏名】新井 真
(72)【発明者】
【氏名】倉田 敬臣
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 重光
【審査官】 塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/050618(WO,A1)
【文献】 特開2007−138275(JP,A)
【文献】 特開2008−274366(JP,A)
【文献】 特開2004−346388(JP,A)
【文献】 O.Nakamura,High Tc thin films with roughness smaller than one unit cell,Applied Physics Letters,1991年10月15日,60,120
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットが設置された真空チャンバ内に基板を対向配置し、真空チャンバ内にスパッタガスを導入し、ターゲットに電力投入して真空チャンバ内にプラズマを形成してターゲットをスパッタリングし、基板のターゲットとの対向面に成膜するスパッタリング方法において、
ターゲットの基板との対向面側を上として、ターゲット下方でこのターゲットの一方向であるX方向に複数の磁石ユニットを所定間隔で並設して各磁石ユニットによりターゲットの上方にトンネル状の漏洩磁場を形成し、
スパッタリング中、各磁石ユニットを一体にX方向に所定のストロークでターゲットに対して相対的に往復動させると共に、基板をX方向に所定のストロークでターゲットに対して相対的に往復動させ、
各磁石ユニットと基板とを相反する方向に相対移動させると共に、各磁石ユニットと基板とが往復動の起点から折り返し位置に到達するまでの時間を同等としたことを特徴とするスパッタリング方法。
【請求項2】
請求項1記載のスパッタリング方法であって、前記ターゲットが同一形状のターゲット材の複数枚をX方向に等間隔で並設して構成され、各ターゲット材に夫々対応させて磁石ユニットを設けたものにおいて、
隣接するターゲットの中心間距離を、磁石ユニットのストロークと基板のストロークとの和と同等としたことを特徴とするスパッタリング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターゲットが設置された真空チャンバ内に基板を対向配置し、真空チャンバ内にスパッタガスを導入し、ターゲットに所定の電力を投入して真空チャンバ内にプラズマを形成してターゲットをスパッタリングし、基板のターゲットとの対向面に所定の薄膜を成膜するスパッタリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス等の処理すべき基板表面に所定の薄膜を成膜する方法の一つとしてスパッタリング(以下、「スパッタ」という)法があり、特に、マグネトロン方式のスパッタ法は、ターゲットの後方(スパッタ面と背向する側)に配置した磁石ユニットからのトンネル状の磁束により、ターゲットのスパッタ面前方で電離した電子及びスパッタリングによって生じた二次電子を捕捉することで、その前方での電子密度を高め、これらの電子と、真空チャンバ内に導入される希ガスからなるスパッタガスのガス分子との衝突確率を高めてプラズマ密度を高くできる。このため、成膜速度を向上できる等の利点があり、近年では、FPD製造用のガラス基板のように、面積の大きい基板に対する成膜にも多く利用されている。
【0003】
ここで、大面積の基板に対して膜厚分布よく成膜するスパッタ装置として、真空チャンバ内で同一形状のターゲットを等間隔で複数枚並設したものが知られている。このものでは、ターゲット相互間の領域からスパッタ粒子が放出されないため、基板表面に所定の薄膜を成膜すると、薄膜の膜厚分布や反応性スパッタリングの際の膜質分布が波打つように(例えば膜厚分布の場合、同一の周期で薄厚の厚い部分と薄い部分とが繰返すように)不均一になり易い。このように波打つ膜厚分布や膜質分布があると、例えばガラス基板に透明電極(ITO)を形成し、液晶を封入してFPDを製作したとき、表示面にむらが発生するという不具合がある。
【0004】
そこで、スパッタリング中、各ターゲットを、一体にかつ基板に対し平行に所定ストロークで相対的に往復動させてスパッタ粒子が放出されない領域をかえることで、つまり、基板全面に亘って、ターゲットからスパッタ粒子が放出される領域と対向させることで、上記膜厚分布や膜質分布の不均一を改善することが知られている。この場合、膜厚分布や膜質分布の均一性をより高めるために、各磁石ユニットもまた、基板に対し平行に所定ストロークで相対的に往復動させて、スパッタレートが高くなるトンネル状の磁束の位置をかえている(例えば特許文献1参照)。然しながら、この従来例でも、基板全面に亘って微小に波打つ膜厚分布や膜質分布を十分に改善できない、言い換えると、局所的に微小に波打つ膜厚分布や膜質分布が残ることが判明した。そこで、本発明者らは、鋭意研究を重ね、ターゲット(または基板)の往復動と磁石ユニットの往復動とを同期させれば、波打つ膜厚分布や膜質分布の発生を効果的に抑制できることの知見を得た。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−346388号公報(例えば、特許請求の範囲の記載参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、ターゲットをスパッタリングして成膜する際に、特に、複数枚のターゲットを所定間隔で並設したものをスパッタリングして成膜する際に、波打つ膜厚分布や膜質分布が生じることを効果的に抑制できるスパッタリング法を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、ターゲットが設置された真空チャンバ内に基板を対向配置し、真空チャンバ内にスパッタガスを導入し、ターゲットに電力投入して真空チャンバ内にプラズマを形成してターゲットをスパッタリングし、基板のターゲットとの対向面に成膜するスパッタリング方法において、ターゲットの基板との対向面側を上として、ターゲット下方でこのターゲットの一方向であるX方向に複数の磁石ユニットを所定間隔で並設して各磁石ユニットによりターゲットの上方にトンネル状の漏洩磁場を形成し、スパッタリング中、各磁石ユニットを一体にX方向に所定のストロークでターゲットに対して相対的に往復動させると共に、基板をX方向に所定のストロークでターゲットに対して相対的に往復動させ、各磁石ユニットと基板とを相反する方向に相対移動させると共に、各磁石ユニットと基板とが往復動の起点から折り返し位置に到達するまでの時間を同等としたことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、各磁石ユニットと基板とを相反する方向に相対移動させると共に、各磁石ユニットと基板とが往復動の起点から折り返し位置に到達するまでの時間を同等としたため、基板全面に亘って、ターゲットからスパッタ粒子が放出される領域と対向するようになり、その結果、局所的に微小に波打つ膜厚分布や膜質分布が残ることがなく、膜厚分布や膜質分布の不均一を効果的に抑制することができる。
【0009】
本発明において、前記ターゲットが同一形状のターゲット材の複数枚をX方向に等間隔で並設して構成され、各ターゲット材に夫々対応させて磁石ユニットを設けたものにおいて、隣接するターゲットの中心間距離を、磁石ユニットのストロークと基板のストロークとの和と同等とすることが好ましい。これによれば、ターゲットからスパッタ粒子が放出される領域が、基板全面に亘ってより一層均等に対向するようになり、膜厚分布や膜質分布の不均一を一層効果的に抑制することができる。尚、本発明において、同一形状を有するターゲットとは、平面視でのターゲット形状が同一であることをいうものとし、各ターゲットの厚さが相互に異なっていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のスパッタ装置の構成を説明する模式断面図。
図2図1のII−II線に沿った断面図。
図3】(a)〜(c)は、相反する方向に移動する基板Wと磁石ユニットとを模式的に示す図。
図4】(a)は発明実験の測定結果、(b)は比較実験1の測定結果、(c)は比較実験2の測定結果を夫々示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、同一形状を有するターゲットの複数枚をスパッタ室内に所定間隔で並設し、この並設されたターゲットのうち、対をなすものに交流電力を投入して各ターゲットをスパッタすると共にスパッタ室内に酸素ガスを導入して、ガラス基板等の処理すべき基板に、ターゲット材からなる金属膜や反応性スパッタにより金属酸化物膜を成膜するものを例に本発明の実施形態のスパッタ装置SMを説明する。
【0012】
図1及び図2に示すように、マグネトロン方式のスパッタ装置SMはスパッタ室1aを画成する真空チャンバ1を備える。真空チャンバ1の壁面に、排気口11が開設され、この排気口11には、ロータリーポンプ、ターボ分子ポンプなどの真空排気手段Pに通じる排気管12が接続され、スパッタ室1a内を真空引きして所定の真空度に保持できる。真空チャンバ1の壁面に、ガス導入手段2が設けられている。ガス導入手段2は、マスフローコントローラ21a,21bを夫々介設したガス管22a,22bを通して図外のガス源に連通し、アルゴン等の希ガスからなるスパッタガスや反応性スパッタの際に用いる反応ガスを一定の流量で導入することができる。なお、反応ガスとしては、基板W上に成膜しようする薄膜の組成に応じて、酸素、窒素、炭素、水素を含むガス、オゾン、水若しくは過酸化水素またはこれらの混合ガスなどが用いられる。以下においては、スパッタ室1aにて後述のターゲットと基板Wとが対向し、ターゲットから基板に向かう方向を「上」、基板Wからターゲットに向かう方向を「下」、ターゲット及び磁石ユニットの並設方向をX方向(図1中、左右方向)、これに直交する方向をY方向として説明する。
【0013】
スパッタ室1aの底部には、マグネトロンスパッタ電極Cが配置されている。マグネトロンスパッタ電極Cは、スパッタ室1aを臨むように設けられた略直方体(平面視矩形)の4枚のターゲット3〜3と、各ターゲット3〜3の下方に夫々設けられた磁石ユニット4〜4とを備える。なお、ターゲットを並設する個数は上記に限定されるものではなく、また、ターゲットとしては、Si、Al及びその合金、MoやITOなど基板W上に成膜しようとする薄膜の組成に応じて公知の方法で作製したものを用いることができる。また、各ターゲット3〜3は、平面視で同一の形状を有していればよく、厚みが夫々異なっていてもよい。
【0014】
各ターゲット3〜3は、スパッタリングによる成膜中、当該ターゲット3〜3を冷却する銅製のバッキングプレート31にインジウムやスズなどのボンディング材を介して接合されている。そして、バッキングプレート31にターゲット3〜3を接合し、ターゲット3〜3を上側とした状態で真空シール兼用の絶縁体32を介してスパッタ室1a内に設けられる。この場合、ターゲット3〜3の上面が、成膜時に後述のスパッタガスのイオンでスパッタリングされるスパッタ面3aを構成する。また、各ターゲット3〜3は、スパッタ室1a内においてY方向に等間隔で、かつ、未使用時のスパッタ面3aが、基板Wに平行な同一平面内に位置するように配置され(図2参照)、並設した各スパッタ面3aの総面積が基板Wの外形寸法より大きくなるように各ターゲットの形状が設計されている。
【0015】
スパッタ室1a内にターゲット3〜3を配置した後、各ターゲット3〜3の周囲には、ターゲット3〜3が臨む開口51を備えた板状のシールド5が夫々配置される。各シールド5は、例えばアルミニウム製のもので構成される。また、並設したターゲット3〜3のうち相互に隣接する2枚のターゲット3と3並びに3と3を夫々対とし、対をなすターゲット3〜3には、交流電源Eからの出力Eoが夫々接続されている。そして、成膜時に、交流電源Eから所定周波数(例えば、1Hz〜100kHz)の交流電力が対をなすターゲット3〜3に夫々投入される。
【0016】
各バッキングプレート31の下方(スパッタ室1aの外側)に夫々配置された磁石ユニット4〜4は同一形態を有し、一の磁石ユニット4を例に説明すると、磁石ユニット4は、バッキングプレート31に平行に設けられ、磁石の吸着力を増幅する磁性材料製の平板から構成される支持板41(ヨーク)を備える。支持板41上には、この支持板41の長手方向にのびる中心線上に位置させて配置した中央磁石42と、この中央磁石42の周囲を囲うように、支持板41の上面外周に沿って環状に配置した周辺磁石43とがターゲット側の極性をかえて設けられている。この場合、例えば、中央磁石42の同磁化に換算したときの体積をその周囲を囲う周辺磁石43の同磁化に換算したときの体積の和(周辺磁石:中心磁石:周辺磁石=1:2:1(図1参照))程度になるように設計される。これにより、各ターゲット3〜3の上方で釣り合ったトンネル状の漏洩磁場M1、M2が夫々形成される。なお、中央磁石42及び周辺磁石43は、ネオジム磁石等の公知のものであり、これらの中央磁石及び周辺磁石は一体ものでもよく、または、所定体積の磁石片を複数列設して構成してもよい。
【0017】
支持板41は、その外形寸法がターゲットの輪郭より一回り小さく形成され、各支持板41を介して各磁石ユニット4〜4が第1の移動手段6に連結されている。第1の移動手段6は、各支持板41の下面に夫々垂設したナット部材41aに螺合する送りねじ61と、この送りねじ61を正逆方向に回転駆動するモータ62とを備える。そして、送りねじ61を回転駆動すると、その回転方向に応じて各磁石ユニット4〜4が一体にX方向で同一平面上を所定速度かつ一定のストロークS1で往復動する。なお、図1に示すように、送りねじ61を、ベース板63上に設けられ、Y方向でターゲット41の長手方向全長に亘って水平にのびる左右一対のレール部材64R、64Lに摺動自在に係合させ、図示省略の駆動モータを備えたスライダ65R,65Lで保持されてもよい。そして、両スライダ65R,65Lを同期してY方向に移動させると、各磁石ユニット4〜4を一体にY方向で同一平面上を所定速度かつ一定のストロークで往復動させることもできる。これにより、各磁石ユニット4〜4が、所定の起点から、磁石ユニット4〜4がその直上に位置するターゲット3〜3に対して相対移動されて前記起点に戻されることが繰り返される。
【0018】
また、真空チャンバ1内の上部には、並設したターゲット3〜3に対向するように基板Wを保持するホルダ7が設けられている。ホルダ7には、基板Wの輪郭に対応して凹入させた凹部71が設けられ、凹部71の下面には、基板Wの下面(成膜面)がターゲット3〜3を臨む中央開口72が形成されている。また、ホルダ7には、第2の移動手段8が連結されている。第2の移動手段8は、ホルダ7の下面に設けたナット部材73に螺合し、真空チャンバ1の側壁を貫通して設けた送りねじ81と、この送りねじ81を正逆方向に回転駆動するモータ82とを備える。そして、送りねじ81を回転駆動すると、その回転方向に応じてホルダ7、ひいては基板WがX方向で同一平面上を所定速度かつ一定のストロークS2で往復動する。この場合、隣接するターゲット3〜3の中心間距離(「カソードピッチ」ともいう)Dtを、各磁石ユニット4〜4のストロークS1と基板WのストロークS2との和と同等としている。
【0019】
次に、図3を更に参照して、上記スパッタ装置SMを用いたスパッタリング法による成膜を説明する。先ず、基板Wをホルダ7にセットした後、スパッタ室1a内を所定圧力まで真空引きする。このとき、ホルダ7は、図1及び図3(a)に示す如く、往復動の右端の起点位置にあり、また、各磁石ユニット4〜4は、往復動の左端の起点位置にある。そして、ガス導入手段2を介して所定のスパッタガス及び反応ガスを導入し、交流電源Eを介して対をなす各ターゲット3〜3に交流電力を夫々投入する。これにより、対をなす2枚のターゲット3と3並びに3と3が夫々アノードとカソードとの役割を果たし、各ターゲット3〜3の上方に、トンネル状の漏洩磁場が形成され、この漏洩磁場の垂直成分が0となる位置を通るレーストラック状に高密度のプラズマが発生する。図3(a)に示す起点位置では、ターゲット3〜3左側部分の上方に漏洩磁場が形成されるため、ターゲット3〜3の左側部分が夫々スパッタされる。そして、各ターゲット3〜3から放出されたスパッタ粒子が、対向する基板W表面に付着堆積する。
【0020】
スパッタ中、第1の移動手段6により各磁石ユニット4〜4は、左端の起点位置から右端の折り返し位置に向けて移動され、他方で、第2の移動手段8によりホルダ7、ひいては基板Wが右端の起点位置から左端の折り返し位置に向けて移動される。図3(b)に示すように、基板Wが左端と右端との中間位置にあるとき、各磁石ユニット4〜4も右端と左端との中間位置にある。このように基板W及び各磁石ユニット4〜4の双方が中間位置にあるとき、各ターゲット3〜3中央部分の上方に漏洩磁場が形成されるので、ターゲット3〜3中央部分がスパッタされ、この中央部分から放出されたスパッタ粒子が、対向する基板W表面に付着する。そして、図3(c)に示す如く基板Wが往復道の折り返し位置(左端位置)にあるとき、各磁石ユニット4〜4も往復動の折り返し位置(右端位置)にある。このとき、各ターゲット3〜3右側部分の上方に漏洩磁場が形成されるので、ターゲット3〜3右側部分がスパッタされ、この右側部分から放出されたスパッタ粒子が、対向する基板W表面に付着する。
【0021】
その後、各磁石ユニット4〜4は右端の折り返し位置から左端の起点位置に向けて移動され、他方で、基板Wは左端の折り返し位置から右端の起点位置に向けて移動される。
【0022】
このように磁石ユニット4〜4と基板Wとを相反する方向に移動させ、このとき、往復動の起点から折り返し位置に到達するまでの時間を同等になるように移動速度が設定される。そして、この操作を繰り返しながら、ターゲット3〜3からのスパッタ粒子が(反応ガスと反応しながら)基板W表面に付着、堆積して所定薄膜が成膜される。
【0023】
以上によれば、磁石ユニット4〜4と基板Wとを相反する方向に移動させ、往復動の起点から折り返し位置に到達するまでの時間を同等としたため、基板W全面に亘って、ターゲット3〜3からスパッタ粒子が放出される領域と均等に対向するようになり(即ち、基板W全面に亘って、プラズマが照射されるようになり)、その結果、局所的に微小に波打つ膜厚分布や膜質分布が残ることがなく、膜厚分布や膜質分布の不均一を効果的に抑制することができる。
【0024】
更に、上記の如くターゲット中心間距離Dtを、磁石ユニットのストロークS1と基板WのストロークS2との和と同等にすることで、各ターゲット3〜3からスパッタ粒子が放出される領域が、基板W表面の全体に亘ってより一層均等に対向するようになり、膜厚分布や膜質分布の不均一を一層効果的に抑制できる。
【0025】
以上の効果を確認するため、図1に示すスパッタリング装置SMを用いて次の実験を行った。本実験では、ターゲット3〜3としてITO製のものを用い、同一の平面視略長方形に成形し、バッキングプレート31に接合した。また、磁石ユニット4〜4の支持板41として、130mm×1300mmの外形寸法を有するものを用い、各支持板41上に、ターゲット3〜3の長手方向に沿った棒状の中央磁石42と、支持板41の外周に沿って周辺磁石43とを設けた。
【0026】
そして、基板Wとして、所謂第8.5世代フラットパネルディスプレイ用のガラス基板を用い、また、スパッタ条件として、真空排気されているスパッタ室1a内の圧力が0.3Paに保持されるように、マスフローコントローラ21a、21bを制御してスパッタガスであるアルゴンと水蒸気ガスとをスパッタ室1a内に導入し、ターゲット3〜3への投入電力(交流電圧)を15kW投入することで、スパッタを行った。尚、基板Wとターゲット3〜3との間の距離は216mmとした。
【0027】
発明実験では、上記スパッタ中、磁石ユニット4〜4とホルダ7、ひいては基板Wとを相反する方向に移動させ、往復動の起点から折り返し位置に到達するまでの時間を同等とした。このとき、隣接するターゲット3〜3の中心間距離Dt(=250mm)を、磁石ユニット4〜4のストロークS1(=84mm)と基板WのストロークS2(=166mm)との和と同等とし、磁石ユニット4〜4の移動速度を14.8mm/secとし、ホルダ7(基板W)の移動速度を47.88mm/secとした。発明実験で成膜されたITO薄膜につき、300〜800nmの波長領域の光に対する反射率を測定し、その測定結果を図4(a)に示す。測定箇所は、基板Wの左側(上記往復動の起点側)の端部をゼロとしたとき、0mm、100mm、200mm、300mm、400mmの箇所とした。測定した反射率の面内均一性は0.61%であり、波打つ膜厚分布や膜質分布が生じることを効果的に抑制できることが確認された。
【0028】
上記発明実験に対する比較実験1では、上記スパッタ中、基板Wは移動させずに固定し、磁石ユニット4〜4を14.8mm/secの速度で往復動させた。上記発明実験と同様に、本比較実験1で成膜されたITO薄膜の反射率の測定結果を図4(b)に示す。反射率の面内均一性は1.12%と低く、膜厚分布や膜質分布が不均一であることが確認された。
【0029】
他の比較実験2では、上記スパッタ中、基板Wと磁石ユニット4〜4の双方を移動させたが、これら基板Wと磁石ユニット4〜4との同期を行わないようにした。即ち、両者を相反する方向だけでなく同一方向にも移動させた。上記発明実験と同様に、本比較実験2で得られたITO薄膜の反射率の測定結果を図4(c)に示す。反射率の面内均一性は0.74%であり、比較実験1に比べて面内均一性が向上するものの、発明実験に比べて面内均一性が低いことが判った。この場合も、波打つ膜厚分布や膜質分布が生じることとなる。
【0030】
以上、本発明の実施形態のマグネトロン式のスパッタ装置SMについて説明したが、本発明は、上記の形態のものに限定されるものではない。上記実施形態では、真空チャンバ1内にホルダ7を設けて基板Wを往復動するものを例に説明したが、例えば、スパッタリング装置SMがインライン式のものとして構成され、真空チャンバのターゲットと対向した位置にキャリアを用いて基板が搬送されてくるような場合には、スパッタリング中に、当該キャリアを往復動させるようにしてもよい。
【0031】
また、上記実施形態では、複数枚のターゲットを並設し、対をなすものに交流電源により交流電力を投入するものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、ターゲットを1枚で構成する場合にも本発明を適用できる。ターゲットが1枚の場合、上記実施形態の如くターゲット間の隙間が存在しない。このため、バッキングプレート31がスパッタされて異常放電が発生することを防止すべく、図3(a)に示すように、磁石ユニット4〜4を移動させない領域Dmを設ける必要がないが、何らかの理由により当該領域Dmが存する場合には、本発明を好適に適用することができる。
【0032】
また、DC電源にて直流電力を投入するような場合にも本発明は適用し得る。また、円形のターゲットで磁石ユニットがターゲットの中心を回転中心として回動するようにしたものにも本発明は適用し得る。
【符号の説明】
【0033】
SM…スパッタリング装置、1a…スパッタ室、31〜34…ターゲット、41〜44…磁石ユニット、5…フローティングシールド、6…移動手段、E…交流電源、M1、M2…漏洩磁場、W…基板。
図1
図2
図3
図4