(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して本発明の実施例について説明する。なお、添付図面は本発明の原理に則った具体的な実施例を示しているが、これらは本発明の理解のためのものであり、決して本発明を限定的に解釈するために用いられるものではない。
【0015】
<透過型電子顕微鏡の構成>
図1は、本発明に係る透過型電子顕微鏡(TEM)の全体構成図である。なお、以下の実施例では、電子ビーム顕微装置の一例として透過型電子顕微鏡の構成に関して説明するが、真空中で電子線を照射する他の電子ビーム顕微装置についても同様の構成、作用、効果が得られることは明白である。
【0016】
透過型電子顕微鏡100は、真空排気可能な鏡体1と、電子銃51と、電子レンズ54と、架台50と、試料ステージ6と、ステージコントローラ53と、検出器55と、主制御ユニット57とを備える。鏡体1は、除振された架台50に締結されている。電子銃51は、鏡体1の上部に設けられており、電子レンズ54は、電子銃51の下方に配置されている。また、試料ステージ6は、鏡体1の側面のポート(開口部)に設けられている。試料ステージ6は、主制御ユニット57からの指令を受けたステージコントローラ53によって制御される。検出器55は、試料ステージ6の下方に配置されており、電子銃51からの電子ビームと試料とが相互作用した結果として生じる信号を検出する。
【0017】
透過型電子顕微鏡100において、電子銃51によって生成された電子ビームは、電子レンズ54によって収束され、試料ステージ6に搭載された試料へ照射される。試料ステージ6上の試料を透過した電子は、検出器55によって検出される。そして、検出された信号を主制御ユニット57で取り込んで画像化し、試料を観察する。
【0018】
<試料ステージの構成>
図2は、試料ステージ6の断面図である。鏡体1の側面には、球面受け36が固定されており、球面受け36は、球形支点37と接触している。試料ステージ6は、エアーロック室(エアーロック機構)600を備える。エアーロック室600は、エアーロックバルブ34と外筒38とで囲まれる空間によって構成される。エアーロック室600は、鏡体1を大気解放することなく、鏡体1を真空にした状態で試料ホルダ2を鏡体1内に導入できるものである。また、エアーロック室600は、球形支点37の中心を軸として首振り運動をし、その結果として、試料ホルダ2の先端に搭載された試料3をZ方向(鉛直方向)およびY方向(紙面垂直方向)に移動させることが可能となる。
【0019】
次に、エアーロック室600の構成について説明する。外筒38の内側には、内筒33が配置されている。また、内筒33の内側にはスライダ筒30が配置されている。さらに、スライダ筒30の内側には、試料ホルダ2が配置されており、試料ホルダ2は、ホルダ用Oリング4を介してスライダ筒30に取付けられている。また、スライダ筒30は、ベローズ32によって内筒33と接続されている。
【0020】
次に、試料3をZ方向に駆動させる機構について説明する。鏡体1には、ベース24が固定されており、回転筒20が、ベアリング23を介してベース24と締結されている。Z駆動用リニア機構21は、回転筒20に固定されており、外筒38をZ方向に押すように構成されている。回転筒20においてZ駆動用リニア機構21と対向する位置には、Zバネ22が固定されており、Zバネ22は、外筒38に接触している。これにより、Z駆動用リニア機構21を動作させると、Z駆動用リニア機構21は、対向するZバネ22によって常に反発力を受けながら、外筒38を介して試料ホルダ2をZ方向に駆動させることができる。
【0021】
次に、試料3をX方向に駆動させる機構について説明する。X駆動用リニア機構29が、回転筒20に取付けられている。また、てこ機構25が回転筒20に取付けられており、てこ機構25は、回転筒20に設けられた支点を挟んでX駆動用リニア機構29及びスライダ筒30と接触している。この構成により、X駆動用リニア機構29の駆動力は、てこ機構25によってスライダ筒30に伝えられ、試料ホルダ2をX方向へ駆動することができる。なお、てこ機構25とスライダ筒30との接触部は、試料ホルダ2のZ軸及びY軸方向の駆動に対してすべり機構(図示せず)を備える。
【0022】
図2では、X微動機構として、X駆動用リニア機構29を回転筒20上に設置したが、同様の機構を、外筒38上に設置してもかまわない。その場合、Z軸及びY軸方向の駆動に対してX微動機構は一体となって動くため、前記すべり機構は不要である。なお、ここでは説明を省略するが、Y方向(紙面に垂直方向)に駆動可能な別のリニア機構が、回転筒20あるいは外筒38上に設けられており、試料ホルダ2をY方向へ駆動することができる。
【0023】
<試料ホルダの鏡体への導入>
次に、試料ホルダ2を鏡体1内へ導入する動作について説明する。試料3を取付けた試料ホルダ2を
図2に示す位置まで導入する場合、試料ホルダ2の位置は、試料ホルダ2に取付けられたガイドピン5によって決定される。試料ホルダ2が導入されると、図示しない真空ポンプにて内筒33内を真空排気する。内筒33内の真空度が鏡体1内の真空度と同程度になった後、試料ホルダ2の長手方向を軸として回転させる。このとき、内筒33及びスライダ筒30がともに回転し、内筒33の左端に設けられた傘歯車41がエアーロックバルブ34を開ける。その後、
図2に示すように、試料ホルダ2のホルダ段差部2aとホルダ突き当て部40が接触するまで試料ホルダ2をX方向のマイナス側へ移動させる。通常、この位置が、試料移動機構の原点である。
【0024】
図3は、第1実施例に係る透過型電子顕微鏡(TEM)の試料面における断面図である。鏡体1は、複数のポート(開口部)11a,・・・,11eを備える。鏡体1のポート11a,・・・,11eには、試料ステージ6と、第2の試料ステージ7と、試料室真空排気ポート9と、予備排気経路8と、EDX検出器10と、コールドブロック12とが設けられている。本実施例の特徴として、試料ステージ6と対向する位置で、且つ試料ステージ6に搭載される試料3と略同一平面上に、ポート11aが設けられており、第2の試料ステージ7がポート11aに設けられている。一方、EDX検出器10は、試料ステージ6の試料ホルダ2に対して垂直方向に位置するポート11cに設けられている。
【0025】
第2の試料ステージ7は、
図2で説明した試料ステージ6と同一の構成を備える。第2の試料ステージ7は、エアーロック室(エアロック機構)700を備える。エアーロック室700は、上述したエアーロック室600と同様の構成であり、鏡体1を大気解放することなく、鏡体1を真空にした状態で試料ホルダ701を鏡体1内に導入できるものである。ここで、第2の試料ステージ7が、試料ステージ6に搭載される試料3と略同一平面上のポート11aに設けられているため、第2の試料ステージ7は、試料ホルダ701によって、試料702を試料ステージ6の試料3と略同一平面上に導入することができる。
【0026】
観察試料は、収束イオンビーム装置などによって数10nmオーダまで薄片化され、試料台(図示せず)に搭載される。試料台に取付けられた試料3は、試料ホルダ2に搭載され、試料ステージ6に内蔵されたエアーロック室600を介して鏡体1内に導入される。鏡体1は、試料室真空排気ポート9を経由して10
−5Pa程度まで真空排気されている。電子銃51からの電子ビームを試料3に照射すると、ビーム照射領域に存在する元素に依存した特性X線が発生する。EDX検出器10は、その特性X線を検出して元素分析をする。
【0027】
本実施例では、試料ステージ6の試料3を観察後に、第2の試料ステージ7によって試料702を鏡体1内に導入し、試料3の観察に続けて試料702の観察を行うことが可能となる。しかも、第2の試料ステージ7がエアーロック室700を備えており、エアーロック室700を介して試料702を導入できるので、鏡体1を大気解放せずに試料702を導入することが可能となる。これにより、試料交換時の待ち時間がなくなり、試料の交換時間が短縮されるので、試料観察のスループットが向上する。
【0028】
なお、第2の試料ステージ7の構成は、
図2で示したものと同一でもよいし、エアーロック室700を経由して導入するものの大きさによっては、試料ステージ6よりも大型化もしくは小型化してもかまわない。また、
図3では、試料ステージ6の他に第2の試料ステージ7を搭載した場合の例について説明したが、例えば、試料ステージ6の試料ホルダ2と直交する位置で、且つ試料ステージ6に搭載される試料3と略同一平面上に、第3の試料ステージを搭載してもよい。
【0029】
<マルチステージの真空排気系>
次に、試料ステージ6の試料ホルダ2及び第2の試料ステージ7の試料ホルダ701を鏡体1に導入する際の真空排気系の動作について説明する。
図4は、第1実施例に係る透過型電子顕微鏡(TEM)の真空排気系を説明する図である。
【0030】
透過型電子顕微鏡100は、真空排気系として、ターボ分子ポンプ(真空排気部)60と、スクロールポンプ(真空排気部)61と、複数のバルブ62、63、64、65、66とを備える。以下では、ターボ分子ポンプ60及びスクロールポンプ61を用いて試料ステージ6のエアーロック室600及び第2の試料ステージ7のエアーロック室700を真空排気する流れについて説明する。
【0031】
試料ステージ6から試料ホルダ2を鏡体1内に導入する場合には、まず、
図4に示すバルブ62、63、64、65、66をすべて閉じる。次に、試料ホルダ2を試料ステージ6のエアーロック室600に導入する。次に、バルブ63を開く。そして、試料ステージ6内のエアーロック室600をスクロールポンプ61を用いて10Pa程度まで真空排気する。その後、バルブ63を閉じバルブ66を開き、バルブ62を開く。そして、試料ステージ6のエアーロック室600をターボ分子ポンプ60を用いて10
−4Pa程度まで真空排気する。その後、エアーロックバルブ34を開いて、試料ホルダ2を鏡体1内に導入する。
【0032】
第2の試料ステージ7の試料ホルダ701を鏡体1内に導入する場合には、まず、試料ホルダ701を第2の試料ステージ7のエアーロック室700に導入する。次に、バルブ63、64、66を閉じ、バルブ65を開いて、エアーロック室700をスクロールポンプ61を用いて10Pa程度まで真空排気する。その後、バルブ65を閉じ、バルブ66とバルブ64を開く。そして、第2の試料ステージ7のエアーロック室700をターボ分子ポンプ60を用いて10
−4Pa程度まで真空排気する。その後、エアーロックバルブ67を開いて、試料ホルダ701を鏡体1内に導入する。
【0033】
以上のように、本実施例によれば、ターボ分子ポンプ60及びスクロールポンプ61を用いて2つのエアーロック室600、700を真空排気することが可能となる。
【0034】
<マルチステージの制御系>
図5は、第1実施例に係る透過型電子顕微鏡(TEM)のステージ制御系を説明する図である。透過型電子顕微鏡100は、制御系として、主制御ユニット57と、第1ステージコントローラ53と、第2ステージコントローラ58とを備える。主制御ユニット57は、パーソナルコンピュータやワークステーションなどの情報処理装置によって構成されている。主制御ユニット57は、CPU(Central Processing Unit)などの中央演算処理装置と、メモリと、ハードディスク(記憶装置)と、キーボードなどの入力装置と、ディスプレイなどの出力装置とを備える。なお、主制御ユニット57は、透過型電子顕微鏡100の全体を制御するものであり、例えば、検出器55によって検出された信号を取り込んで画像化し、出力装置に画像を表示することもできる。
【0035】
第1ステージコントローラ53は、主制御ユニット57に接続されるとともに、試料ステージ6を駆動するアクチュエータ(図示せず)に接続されている。第1ステージコントローラ53は、トラックボール56を備えており、試料ステージ6の駆動は、電子顕微鏡操作者がトラックボール56を操作することによって行われる。第2ステージコントローラ58も同様に、主制御ユニット57に接続されるとともに、第2の試料ステージ7を駆動するアクチュエータ(図示せず)に接続されている。第2ステージコントローラ58は、トラックボール59を備えており、第2の試料ステージ7の駆動は、電子顕微鏡操作者がトラックボール59を操作することによって行われる。
【0036】
図5では、各々の試料ステージ6、7ごとに第1及び第2ステージコントローラ53、58とトラックボール56、59を有しているが、1つのステージコントローラと1つのトラックボールで試料ステージ6及び第2の試料ステージ7をコントロールすることも可能である。その場合には、ステージコントローラと試料ステージ6及び第2の試料ステージ7との間に切替スイッチ等を設ければよい。
【0037】
<衝突による破損防止機能>
次に、鏡体1内での試料ステージ6の試料ホルダ2と第2の試料ステージ7の試料ホルダ701との衝突防止機能について説明する。
図6Aは、第1実施例に係る透過型電子顕微鏡(TEM)の試料ステージ6の外筒38の上面図である。
【0038】
図2及び
図6Aに示すように、試料ホルダ2は、ガイドピン5を備えている。ガイドピン5は、内筒33及び外筒38に設けられたホルダガイド溝39に沿って移動し、これにより、試料ホルダ2を観察位置まで導入することができる。
図6Aに示すように、ホルダガイド溝39はクランク形状になっている。
図6Aの「A」の位置にガイドピン5がある状態が、エアーロック室600を真空排気する位置である。また、
図6Aの「B」の位置にガイドピン5がある状態が、試料3が鏡体1内に導入されているが試料観察位置にはない状態である。また、
図6Aの「C」の位置にガイドピン5がある状態が、試料3が試料観察位置にある状態である。試料ホルダ2を試料3の観察位置まで導入する際には、A→B→Cの順で試料ホルダ2のガイドピン5がホルダガイド溝39を通過していくことになる。
【0039】
本実施例では、外筒38の上面において、「A」と「C」との間の位置にホルダガイド溝39を塞ぐゲート101が設けられている。
図6Aの例では、ゲート101が、「B」の位置に設けられており、ガイドピン5が「B」の位置で停止するように制御される。本実施例では、試料ステージ6から導入された試料ホルダ2と第2の試料ステージ7から導入された試料ホルダ701の両方が「C」の位置にある場合に、試料ホルダ2と試料ホルダ701の先端同士が試料の観察位置近傍で衝突する可能性がある。したがって、外筒28の上面において、「A」と「C」との間の位置にゲート101が設けられている。なお、この例では、試料ステージ6の試料ホルダ2の構成について説明したが、第2の試料ステージ7の試料ホルダ701も同様の構成を備える。
【0040】
次に、鏡体1内での試料ステージ6の試料ホルダ2と第2の試料ステージ7の試料ホルダ701との別の衝突防止機能について説明する。
図6Bは、第1実施例に係る透過型電子顕微鏡(TEM)の試料面における断面図である。透過型電子顕微鏡100は、試料3と略同一平面上に、エリアセンサ発光部120と、エリアセンサ受光部121とを備える。エリアセンサ発光部120とエリアセンサ受光部121は、互いに対向するように配置されている。本実施例のエリアセンサは、エリアセンサ発光部120とその対向面にエリアセンサ受光部121を有した透過式のセンサである。エリアセンサ発光部120からのレーザなどをエリアセンサ受光部121で受けることにより、試料ステージ6の試料ホルダ2あるいは第2の試料ステージ7の試料ホルダ701が電子ビームの照射位置(試料の観察位置)にあるかを検出することが可能となる。
【0041】
なお、
図6Bの例では、透過式のセンサを用いているが、エリアセンサ発光部120に受光部を内蔵した反射式のセンサを用いてもよい。
図6A及び
図6Bの実施例によれば、複数の試料ステージ6、7から複数の試料ホルダ2、701が導入される構成において、試料ホルダ同士が衝突して破損することを防ぐことが可能となる。
【0042】
以上では、第2の試料ステージ7から試料ホルダ701を導入する構成について説明したが、試料ホルダ701の代わりに、試料ホルダ701と同形状の筒状部材に観察や分析に用いられる構成要素(例えば、検出器やアパーチャやコールドブロックなど)を取付けて、それらの構成要素を第2の試料ステージ7から鏡体1内に導入することも可能である。以下では、具体的な例について説明する。
【0043】
<マルチステージを用いたEDX検出器の導入>
図7は、第2実施例に係る透過型電子顕微鏡(TEM)の第2の試料ステージ7を説明する図である。第2の試料ステージ7は、鏡体1内に導入可能な筒状部材703を備え、筒状部材703の先端は、EDX検出器704を備える。EDX検出器704は、エアーロック室700を介して鏡体1内に導入される。
【0044】
本実施例では、試料ホルダ2は、対物ポールピース105の上下の間のギャップの間に挿入される。電子ビーム107は、対物ポールピース105によって発生させた磁場によって集束される。EDX検出器704は、ポールピース内挿入型EDX検出器であり、上側の対物ポールピース105と試料ホルダ2との間に挿入されるように構成されている。なお、EDX検出器704としては、対物ポールピース105の側面から特性X線を検出する方式の検出器でもよい。
【0045】
近年、分析感度向上を目的として大面積のX線検出素子を搭載したEDX検出器が製品化されている。本実施例によれば、検出感度を高めたい場合には、試料ステージ6とは別の第2の試料ステージ7からこのようなEDX検出器を導入することが可能となる。
【0046】
また、従来では、鏡体のポートに固定したEDX検出器が用いられていたが、検出器の交換やメンテナンスの場合には、電子ビーム顕微装置を大気解放する必要があり、多大な時間を要する。これに対して、本実施例では、鏡体1を大気解放せずにエアーロック室700を介してEDX検出器704の交換及び導入が可能となる。これにより、検出器の交換やメンテナンスにかかる時間を大幅に減らすことが可能となり、試料観察のスループットが向上する。
【0047】
また、従来では、試料ホルダに検出器等を搭載する手法がとられているが、試料ホルダは10mmφ程度の円筒形状であり、試料ホルダの内部に検出器等を実装することは非常に困難な場合が多い。本実施例によれば、試料ホルダ自身に検出器を搭載する必要がなく、試料ステージ6とは別の第2の試料ステージ7からEDX検出器704を導入できる。
【0048】
また、
図7のように、EDX検出器704を試料ステージ6の対向する位置から導入する構成にすると、試料3と同一平面に対して高角度領域に発生するX線をも検出することができ、試料3からの特性X線の検出精度を向上させることもできる。
【0049】
<マルチステージを用いたガスの導入>
図8は、第3実施例に係る透過型電子顕微鏡(TEM)の第2の試料ステージ7を説明する図である。第2の試料ステージ7は、鏡体1内に導入可能な筒状部材703を備え、筒状部材703の先端は、ガス導入用ノズル705を備える。ガス導入用ノズル705は、エアーロック室700を介して鏡体1内に導入される。本実施例によれば、試料ステージ6から導入した試料3に対して、第2の試料ステージ7から導入したガス導入用ノズル705によってガスを吹き付け、その反応をTEM観察することが可能となる。
【0050】
従来では、
図15に示すように、試料ホルダ150にガス供給用のパイプ151を実装し、そのパイプ151を通してガスを試料152に吹き付ける構成であった。このような試料ホルダ150では、試料ホルダ150自体にパイプ151を実装する必要があり、任意のホルダに搭載された任意の試料にガスを吹き付けることが困難である。また、ガスを吹き付けて観察したい場合には、鏡体を大気開放して通常の試料ホルダを試料ホルダ150に交換する必要があり、試料ホルダの交換やメンテナンスに多大な時間を要する。
【0051】
これに対して、本実施例では、試料ステージ6とは別の第2の試料ステージ7のエアーロック室700を介してガス導入用ノズル705を任意の試料に対して導入することが可能となる。また、従来のように試料ホルダを交換する必要もない。また、鏡体1を大気解放することなくガス導入用ノズル705を導入できるため、試料観察にかかる時間も短くなり、試料観察のスループットが向上する。さらに、試料ステージ6の試料ホルダ2自体にパイプを設ける必要がなくなり、試料ホルダ2自体の構成も簡易な構成とすることができる。
【0052】
<マルチステージを用いたコールドブロックの導入>
図9A及び
図9Bは、第4実施例に係る透過型電子顕微鏡(TEM)の第2の試料ステージ7を説明する図である。
図9Aは、透過型電子顕微鏡の試料面を側方から見た図であり、
図9Bは、コールドブロックの断面図である。例えば、試料を冷却して観察する場合に、試料ホルダに冷媒(液体窒素)タンクを備え、試料近傍まで導いた良熱伝導にて試料の熱を奪い、試料冷却をする方式がとられている。ここで、熱伝導による冷却のみでは試料冷却が不十分な場合があるため、試料周辺に冷却された部材(コールドブロック)を設置し、試料への放射熱を低減する手法も合わせて実施されている。
【0053】
第2の試料ステージ7は、鏡体1内に導入可能な筒状部材703を備え、筒状部材703の先端は、コールドブロック706を備える。また、筒状部材703のもう一方の端部には、冷媒(液体窒素)タンク(図示せず)が取付けられている。筒状部材703は、エアーロック室700を介して鏡体1内に導入される。
【0054】
コールドブロック706は、円筒状に形成されており、内部の空間に試料ホルダ2の試料3が導入されるようになっている。コールドブロック706は、電子ビーム107を通過させるための孔706aを有する。したがって、コールドブロック706で試料3の全体を覆いながら電子ビーム107を試料3に照射することが可能となる。
【0055】
従来では、鏡体にコールドブロックが固定されており、鏡体の1つのポートをコールドブロックが占有するような構成となっていた。しかしながら、試料を冷却して観察する以外はコールドブロックを必要としない場合が多く、ポートを有効に活用できていなかった。本実施例によれば、冷却の必要性に応じて、試料ステージ6とは別の第2の試料ステージ7のエアーロック室700を介してコールドブロック706を任意の試料に対して導入することが可能となる。したがって、コールドブロックが1つのポートを占有することもなく、空いたポートを有効に活用することも可能となる。さらに、本実施例では、試料ステージ6と対向する位置にある別の第2の試料ステージ7からコールドブロック706を導入する構成となるため、コールドブロック706を円筒状に形成して、試料3の全体を覆うことが可能となる。したがって、試料3の冷却効率も向上する。
【0056】
また、従来では、コールドブロックは、試料ホルダの近傍に配置する必要があり、試料ホルダなどと衝突して破損する可能性があり、メンテナンスのために鏡体を大気開放する必要があった。これに対して、本実施例によれば、コールドブロック706を円筒状に形成して、試料3を周囲から覆うような構成としているため、試料ホルダ2との衝突を回避することが可能である。また、コールドブロック706がエアーロック室700を介して鏡体1内に導入されるので、鏡体を大気開放することなくコールドブロック706のメンテナンスも可能となる。
【0057】
<マルチステージを用いたアパーチャの導入>
図10は、第5実施例に係る透過型電子顕微鏡(TEM)の第2の試料ステージ7を説明する図である。TEM観察時には、観察画像のコントラストを高めるために不要な散乱電子を除去する絞りユニットを試料の直下に挿入する必要がある。以下では、絞りユニットの構成について説明する。
【0058】
第2の試料ステージ7は、鏡体1内に導入可能な筒状部材703を備え、筒状部材703の先端は、絞りユニット(TEMアパーチャ)707を備える。絞りユニット707は、エアーロック室700を介して鏡体1内に導入される。絞りユニット707は、試料ホルダ2と同形状であり、異なる径の絞り111及び112を有する。ここで、筒状部材703の導入位置を制御することによって、異なる径の絞り111及び112のいずれかを試料3の直下に配置することができる。本実施例によれば、試料ステージ6から導入した試料3に対して、絞りユニット707を第2の試料ステージ7からTEM観察時のみ導入することが可能となる。
【0059】
従来では、鏡体にTEMアパーチャが固定されていたため、メンテナンスのために鏡体内を大気開放する必要があったが、本実施例によれば、絞りユニット707がエアーロック室700を介して鏡体1内に導入されるので、鏡体1を大気開放することなく絞りユニット707のメンテナンスが可能となる。
【0060】
また、従来では、鏡体にTEMアパーチャが固定されており、鏡体の1つのポートをTEMアパーチャが占有するような構成となっていた。しかしながら、TEM観察時以外(STEM観察)はTEMアパーチャは不要であり、ポートの有効に活用できていなかった。本実施例によれば、TEM観察時のみ、試料ステージ6とは別の第2の試料ステージ7のエアーロック室700を介して絞りユニット707を任意の試料に対して導入することが可能となる。したがって、絞りユニットが1つのポートを占有することもなく、空いたポートを有効に活用することも可能となる。
【0061】
<マルチステージを用いたプラズマクリーナの導入>
図11は、第6実施例に係る透過型電子顕微鏡(TEM)の第2の試料ステージ7を説明する図である。従来より、透過型電子顕微鏡における試料観察時に、ビーム照射領域にカーボン膜(コンタミネーション)が堆積し、透過像のコントラストが低下してしまうという課題があった。これを回避するために、電子顕微鏡へ試料を導入する前に、プラズマを試料に照射し、試料上に付着した炭化水素系のガス成分を除去する方法がとられている。以下では、プラズマを試料に照射する構成について説明する。
【0062】
第2の試料ステージ7は、鏡体1内に導入可能な筒状部材703を備え、筒状部材703の先端は、プラズマクリーナ708を備える。プラズマクリーナ708は、エアーロック室700を介して鏡体1内に導入される。本実施例によれば、試料ステージ6から導入した試料3に対して、プラズマクリーナ708を第2の試料ステージ7から導入することが可能となる。導入後、プラズマクリーナ708は、試料ステージ6から導入した試料3に対してプラズマを照射する。
【0063】
従来の構成では、試料にプラズマ照射後、試料が電子顕微鏡に導入するまでに大気にさらされるために、そこで大気中の炭化水素系ガスが吸着してしまい、プラズマ照射の効果が低減していた。本実施例によれば、真空排気された鏡体1内でプラズマを試料3に照射して、コンタミネーション源となる吸着ガスを除去することが可能となる。しかも、鏡体1を大気解放せずにエアーロック室700を経由してプラズマクリーナ708を導入できるので、プラズマを照射後に試料が大気にさらされることもなく、プラズマ照射の効果が保たれる。
【0064】
<参照試料と観察試料の同時観察>
図12及び
図13は、第7実施例に係る透過型電子顕微鏡(TEM)を説明する図である。
図12は、試料面を上方から見た図であり、
図13は、試料台を拡大した図である。以下では、電子顕微鏡の観察において、試料ステージ6から導入した試料3を参照試料にして、第2の試料ステージ7から導入した試料を観察する構成について説明する。
【0065】
参照試料と観察試料の同時観察を行う場合、各々のサンプルを同時にビーム照射領域に移動させる必要がある。本実施例では、試料ステージ6の試料ホルダ2の先端は、試料回転ホルダ76を備え、第2の試料ステージ7の試料ホルダ701の先端は、試料回転ホルダ71を備える。
図12に示すように、試料回転ホルダ71、76は、電子ビームの照射位置に同時に導入された際に互いに干渉しないような形状で形成されている。例えば、
図12に示すように、試料回転ホルダ71、76の先端部は、上面視でL字形状となっている。
【0066】
試料回転ホルダ76は、試料台80を有する傘歯車74と、回転軸77を有する傘歯車75とを有する。
図13に示すように、試料台80には、試料回転ホルダ用試料82が保持されている。傘歯車74と傘歯車75とは互いに噛み合うように配置されており、傘歯車75を回転軸77で回転させると、傘歯車75と接触する傘歯車74が回転し、結果として試料台80の試料82を回転させることができる。
【0067】
また、試料回転ホルダ71は、試料台79を有する傘歯車72と、回転軸78を有する傘歯車73とを有する。
図13に示すように、試料台79には、試料回転ホルダ用試料81が保持されている。傘歯車72と傘歯車73とは互いに噛み合うように配置されており、傘歯車73を回転軸78で回転させると、傘歯車73と接触する傘歯車72が回転し、結果として試料台79の試料81を回転させることができる。
【0068】
本実施例では、試料台79を有する傘歯車72と試料台80を有する傘歯車74とは、電子ビームの照射位置を挟んで互いに対向するように配置されている。ここで、
図13に示すように、試料台79の先端には試料81が搭載され、試料台80の先端には試料82が搭載される。したがって、試料台79の試料81と試料台80の試料82は、共にビーム照射領域に配置されるようになっている。
【0069】
なお、本実施例では、試料導入時に各々の試料回転ホルダ71、76が十分離れた状態(例えば電子顕微鏡の低倍の観察視野内に収まる数100μ程度離れた状態)となるように試料回転ホルダ71、76を導入し、試料ホルダ導入時のホルダ干渉を回避する。また、観察視野が100μm程度である状態で各々の試料81、82が所望の距離に近づくように試料ステージ6及び第2の試料ステージ7を制御する。もしくは、第2の試料ステージ7から導入した試料81は固定として、試料ステージ6側を操作して各々の試料を所望の位置まで近づけてもよい。
【0070】
本実施例によれば、試料ステージ6から導入した試料82を参照試料にして、第2の試料ステージ7から導入した試料81を観察することが可能となる。しかも、試料回転ホルダ71、76がそれぞれエアーロック室600、700を介して鏡体1内に導入されるので、鏡体1を大気開放することなく、試料81、82を同時にビーム照射領域に導入することが可能となる。これにより、試料観察のスループットが向上する。
【0071】
以上の実施例によれば、透過型電子顕微鏡において、標準試料ステージである試料ステージ6の試料3と同一平面上のポートに別個の第2の試料ステージ7を設けているため、鏡体1を大気開放することなく、次に観察する試料を導入することが可能となる。また、標準試料ステージとは別の第2の試料ステージ7から観察や分析に必要な構成要素(検出器や絞り機構など)を導入できるため、一台の電子顕微鏡で様々な観察や分析に容易に対応できる。さらに、鏡体1を大気解放せずに、鏡体1を真空にした状態で観察や分析に用いる構成要素を導入できるため、観察スループットが向上する。
【0072】
また、試料ホルダを導入する際は、試料に吸着したガスや試料ホルダ導入により鏡体内に持ち込まれたガスによりコンタミネーションが多く、観察に支障をきたす場合があったが、鏡体1を大気解放せずに観察や分析に用いる構成要素を導入できるため、コンタミネーション源となるガスが持ち込まれることも防ぐことが可能となる。また、第2の試料ステージ7から適宜必要な構成要素を導入できるので、構成要素の交換及びメンテナンスも容易になる。
【0073】
なお、本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることがあり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0074】
また、図面における制御線や情報線は、説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。全ての構成が相互に接続されていてもよい。