(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
表面粗さが前記算術平均粗さRaとして0.05μmである金型を用いて、シリンダー温度320℃、金型温度150℃、保圧力60MPaの条件で80mm×80mm×2mmの成形品を射出成形する場合に、樹脂の流動方向の収縮率と、樹脂の流動方向に対して直角方向の収縮率との平均値が0.44%以下であって、表面粗さが前記算術平均粗さRaとして0.12μm以下である成形品を与える、請求項1に記載の、金属、ガラス、又はセラミックからなるインサート部材を使用するインサート成形に用いられるためのポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0023】
≪ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物≫
ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物は、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂と、(B)粉粒状充填剤と、(C)繊維状充填剤と、(D)エポキシ基含有オレフィン系共重合体とを含有する。(D)エポキシ基含有オレフィン系共重合体は、α−オレフィンに由来する構成単位と、α,β−不飽和酸のグリシジルエステルに由来する構成単位とを含有する。また、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の全質量に対する、α,β−不飽和酸のグリシジルエステルに由来する構成単位の質量の比率が0.04質量%以上である。
【0024】
さらに、本発明に係るポリアリーレンサルファイド樹脂組成物は、表面粗さがJIS B 0601に準拠した算術平均粗さRaとして0.05μmである金型を用いて、シリンダー温度320℃、金型温度150℃、保圧力60MPaの条件で80mm×80mm×2mmの成形品を射出成形する場合に、樹脂の流動方向の収縮率と、樹脂の流動方向に対して直角方向の収縮率との平均値が0.60%以下であって、表面粗さがJIS B 0601に準拠した算術平均粗さRaとして0.13μm以下である成形品を与えるものである。
【0025】
所定の条件で成形された成形品の、樹脂の流動方向の収縮率と、樹脂の流動方向に対して直角方向の収縮率との平均値を0.60%以下とすることにより、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を用いてインサート成形品を製造した際の、樹脂部材の固化収縮を小さくすることができる。樹脂部材の固化収縮が小さければ、インサート部材と樹脂部材との間に微小な空隙が生じにくく、気密性の高いインサート成形品を得やすい。ここで、収縮率について、樹脂の流動方向の収縮率と、樹脂の流動方向に対して直角方向(以下、流動直角方向ともいう。)の収縮率との平均値を用いる理由としては、実際の成形品において、インサート部材と樹脂部材との間に生じる収縮は、形状により異なるものの、樹脂の流動方向の収縮率と、流動直角方向の収縮率のどちらか一方のみの影響を受けることは少なく、両方の収縮率の影響を受けるため、両者をあわせて考える必要があると推定されるためである。
【0026】
所定の条件で成形された成形品の、JIS B 0601に準拠した算術平均粗さRaが0.13μm以下であれば、金型表面の形状が良好に転写される。金型表面の転写性が良好な樹脂組成物であれば、インサート部材の表面の微細な凹凸形状も樹脂部材の表面に良好に転写されるため、樹脂組成物がインサート部材の表面の微細な凹部にまで入り込みやすく、インサート部材と樹脂部材との間に微小な空隙が生じにくく、気密性の高いインサート成形品を得やすい。
【0027】
所定の条件で成形された成形品の、樹脂の流動方向の収縮率と、樹脂の流動方向に対して直角方向の収縮率との平均値は0.44%以下であるのが好ましい。また、所定の条件で成形された成形品の、JIS B 0601に準拠した算術平均粗さRaは、0.12μm以下であるのが好ましい。
【0028】
所定の条件で成形された成形品の、樹脂の流動方向の収縮率と、樹脂の流動方向に対して直角方向の収縮率との平均値と、算術平均粗さRaとを所望する値に調整する方法は特に限定されない。当該調整方法としては、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物に含まれる、(B)粉粒状充填剤の質量Xと、(C)繊維状充填剤の質量Yとの比率X/Yを調整する方法が挙げられる。X/Yの値が大きくなるほど、樹脂の流動方向の収縮率と、樹脂の流動方向に対して直角方向の収縮率との平均値が大きくなり、算術平均粗さが小さくなる傾向がある。
また、算術平均粗さRaは、(B)粉粒状充填剤の平均粒子径を調整することによっても調整できる。(B)粉粒状充填剤の平均粒子径が過度に小さいと、ポリアリーレンサルファイド樹脂の溶融粘度が高まり、算術平均粗さRaの値が大きくなる場合がある。これに対して、(B)粉粒状充填剤の平均粒子径を適度に大きくすることで、算術平均粗さRaの値を所望する範囲内にまで下げられる場合がある。
【0029】
以下、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物が含有する、必須又は任意の成分と、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の製造方法とについて説明する。
【0030】
[(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂]
(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂(PAS樹脂)は、繰り返し単位として、−(Ar−S)−(なお、「Ar」はアリーレン基を示す)を主として構成されたものである。本発明では一般的に知られている分子構造のPAS樹脂を使用することができる。
【0031】
アリーレン基としては、特に限定されないが、例えば、p−フェニレン基、m−フェニレン基、o−フェニレン基、置換フェニレン基、p,p’−ジフェニレンスルフォン基、p,p’−ビフェニレン基、p,p’−ジフェニレンエーテル基、p,p’−ジフェニレンカルボニル基、ナフタレン基等が挙げられる。このようなアリーレン基から構成されるアリーレンサルファイド基の中で、同一の繰り返し単位を用いたホモポリマーの他、用途によっては異種のアリーレンサルファイド基の繰り返しを含んだポリマーが好ましい。
【0032】
用途にもよるが、ホモポリマーとしては、アリーレン基としてp−フェニレンサルファイド基を繰り返し単位とするものが好ましい。p−フェニレンサルファイド基を繰り返し単位とするホモポリマーは、極めて高い耐熱性を持ち、広範な温度領域で高強度、高剛性、さらには高い寸法安定性を示す。このようなホモポリマーを用いることで、非常に優れた物性を備える成形品を得ることができる。
【0033】
コポリマーとしては、上述したアリーレン基を含むアリーレンサルファイド基の中で相異なる2種以上のアリーレンサルファイド基の組み合わせを使用することができる。これらの中では、p−フェニレンサルファイド基とm−フェニレンサルファイド基を含む組み合わせが、耐熱性、成形性、機械的特性等の高い物性を備える成形品が得られるという点から好ましい。また、p−フェニレンサルファイド基を70mol%以上の割合で含むポリマーがより好ましく、80mol%以上の割合で含むポリマーがさらに好ましい。なお、フェニレンサルファイド基を有するポリアリーレンサルファイド樹脂は、ポリフェニレンサルファイド樹脂である。
【0034】
ポリアリーレンサルファイド樹脂は、従来公知の重合方法により製造することができる。一般的な重合方法により製造されたポリアリーレンサルファイド樹脂は、通常、副生不純物等を除去するために、水あるいはアセトンを用いて数回洗浄した後、酢酸、塩化アンモニウム等で洗浄する。その結果として、ポリアリーレンサルファイド樹脂末端には、カルボキシル末端基を所定量の割合で含む。
【0035】
本発明に用いるポリアリーレンサルファイド樹脂の重量平均分子量(Mw)は、15000以上40000以下である。ポリアリーレンサルファイド樹脂の重量平均分子量を40000以下にすることにより、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物は金型充填時の溶融状態で高い流動性を有するようになる。これにより、溶融樹脂は容易に金型内のインサート部材を回り込むことが可能となる。また、ポリアリーレンサルファイド樹脂の重量平均分子量を15000以上にすることにより、優れた機械的強度、成形性を有するようになる。また、ポリアリーレンサルファイド樹脂の、より好ましい重量平均分子量の範囲としては、20000以上38000以下であり、このような範囲であることにより、機械的物性と流動性とをより優れたバランスで有する樹脂組成物となる。
【0036】
なお、重量平均分子量は、高温ゲル浸透クロマトグラフ法により、標準ポリスチレン換算された重量平均分子量として測定される。高温ゲル浸透クロマトグラフ法は、例えば、株式会社センシュー科学製のSSC−7000等の装置(UV検出器:検出波長360nm)を用いて測定することができる。測定用の試料は、ポリアリーレンサルファイド樹脂を、溶媒である1−クロロナフタレンに230℃10分の条件で濃度0.05質量となるように溶解させたものを用いることができる。
【0037】
(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂は、インサート部材と樹脂部材とのより良い密着性が得られるため、310℃で測定した、剪断速度1216/秒での溶融粘度が8〜300Pa・sであることが好ましく、10〜200Pa・sであることが特に好ましい。
【0038】
また、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物が、シリコーンオイルやシリコーンゴムを含有する場合、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の難燃性が向上しやすい。ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物が、シリコーンオイルやシリコーンゴムを含有する場合、上記溶融粘度は、好ましくは90Pa・s以上であり、より好ましくは90〜300Pa・sであり、さらに好ましくは100〜200Pa・sであり、特に好ましくは110〜150Pa・sである。
【0039】
[(B)粉粒状充填剤]
ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物は、(B)粉粒状充填剤を含有する。ここで、(B)粉粒状充填剤とは、異径比の平均値が1以上4以下であり、アスペクト比が1以上2未満であるものをいう。なお、この定義は、(B)粉粒状充填剤がポリアリーレンサルファイド樹脂組成物に配合される前の(B)粉粒状充填剤の形状に関する。また、(B)粉粒状充填剤には、球状又は略球状の充填剤も含まれる。(B)粉粒状充填剤としては、従来から樹脂製品用の充填剤として使用されているものを特に制限なく使用することができる。
【0040】
(B)粉粒状充填剤の具体例としては、カーボンブラック、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、硅酸カルシウム、硅酸アルミニウム、カオリン、タルク、クレー、硅藻土、ウォラストナイトのごとき硅酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナのごとき金属の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムのごとき金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムのごとき金属の硫酸塩、その他炭化硅素、窒化硅素、窒化硼素、各種金属粉末が挙げられる。これらの(B)粉粒状充填剤は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
これらの中では、安価であり入手しやすいことや、所定の条件で成形して得た成形品の、樹脂の流動方向の収縮率と、樹脂の流動方向に対して直角方向の収縮率との平均値と、算術平均粗さRaとを所望する値に調整しやすいことから、ガラスビーズ及び炭酸カルシウム粉末が好ましい。
【0042】
(B)粉粒状充填剤の平均粒子径は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。(B)粉粒状充填剤の平均粒子径は、1〜400μmが好ましい。かかる範囲の粒子径の(B)粉粒状充填剤を用いることにより、より気密性に優れるインサート成形品を与えるポリアリーレンサルファイド樹脂組成物が得られる。
【0043】
なお、本出願の特許請求の範囲及び明細書において、「平均粒子径」とは、レーザー回折・散乱法により測定された値であり、体積基準の粒度分布における積算値50%の粒子径である。
【0044】
(B)粉粒状充填剤の使用量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。(B)粉粒状充填剤は、後述する(C)繊維状充填剤と共に、(B)粉粒状充填剤の質量Xと、(C)繊維状充填剤の質量Yとの比率X/Yが0.8以上15.0以下であり、且つポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の全質量に対する、(B)粉粒状充填剤の質量Xと(C)繊維状充填剤の質量Yとの合計量の比率が3〜60質量%以下であるように、使用されるのが好ましい。
かかる量の(B)粉粒状充填剤と、(C)繊維状充填剤とを用いることにより、気密性に優れるインサート成形品を与えるポリアリーレンサルファイド樹脂組成物が得られる。
【0045】
(B)粉粒状充填剤の質量Xと、(C)繊維状充填剤の質量Yとの比率X/Yは、0.9以上10.0以下がより好ましく、1.5超4.0未満が特に好ましい。ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の全質量に対する、(B)粉粒状充填剤の質量Xと(C)繊維状充填剤の質量Yとの合計量の比率は、30〜60質量%がより好ましい。
【0046】
[(C)繊維状充填剤]
(C)繊維状充填剤としては、従来から種々の樹脂組成物において、充填剤又は強化剤として使用されているものを特に制限なく使用することができる。ここで、(C)繊維状充填剤とは、異径比の平均値が1以上4以下であり、アスペクト比が2以上1500以下であるものをいう。なお、この定義は、(C)繊維状充填剤がポリアリーレンサルファイド樹脂組成物に配合される前の(B)繊維状充填剤の形状に関する。
【0047】
(C)繊維状充填剤の具体例としては、ガラス繊維、アスベスト繊維、カーボン繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維、さらにステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等金属の繊維状物等の無機質繊維状物質が挙げられる。これらの(C)繊維状充填剤は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0048】
これらの中では、安価であり入手しやすいことや、所定の条件で成形して得た成形品の、樹脂の流動方向の収縮率と、樹脂の流動方向に対して直角方向の収縮率との平均値と、算術平均粗さRaとを所望する値に調整しやすいことから、ガラス繊維が好ましい。
【0049】
ガラス繊維としては、通常、断面形状が円形又は略円形であるものが使用されるが、所謂異形断面を有するガラス繊維を用いることもできる。異形断面の形状としては、これらに限定されないが、長方形やひし形等の多角形、楕円形、まゆ型等が挙げられる。
【0050】
ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物中の(C)繊維状充填剤の数平均繊維長は、特に限定されないが、(C)繊維状充填剤がポリアリーレンサルファイド樹脂組成物に配合される前の(C)繊維状充填剤の数平均繊維長は、1〜5mmが好ましく、1〜3mmがより好ましい。(C)繊維状充填剤の断面の数平均径は、3〜25μmが好ましく、3〜15μmがより好ましい。ただし、繊維状充填剤の断面の外周の任意の二点間の距離のうち最も長い距離を、(C)繊維状充填剤の断面の径とする。
【0051】
(C)繊維状充填剤の使用量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。前述の通り、(C)繊維状充填剤は、(B)粉粒状充填剤の質量Xと、前記(C)繊維状充填剤の質量Yとの比率X/Yが0.8以上15.0以下であって、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の全質量に対する、(B)粉粒状充填剤の質量Xと前記(C)繊維状充填剤の質量Yとの合計量の比率が3〜60質量%以下であるように使用されるのが好ましい。
【0052】
[(D)エポキシ基含有オレフィン系共重合体]
ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物は、(D)エポキシ基含有オレフィン系共重合体を含有する。(D)エポキシ基含有オレフィン系共重合体としては、α−オレフィン由来の構成単位と、
α,β−不飽和酸のグリシジルエステルに由来する構成単位とを含むオレフィン系共重合体が使用される。(D)エポキシ基含有オレフィン系共重合体は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物が、当該組成物中のα,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位の含有量が所定の範囲内の量となるように、前述の(D)エポキシ基含有オレフィン系共重合体を含むことにより、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物とインサート部材との密着性を良好にすることができる。
【0054】
また、成形性、機械的特性、及びインサート部材との密着性に優れるポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を得やすいことから、(D)エポキシ基含有オレフィン系共重合体は、α−オレフィン由来の構成単位、及びα,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位に加えて、(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を含むのも好ましい。なお、以下、(メタ)アクリル酸エステルを(メタ)アクリレートともいう。例えば、(メタ)アクリル酸グリシジルエステルをグリシジル(メタ)アクリレートともいう。また、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸とメタクリル酸との両方を意味し、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートとメタクリレートとの両方を意味する。
【0055】
α−オレフィンとしては、特に限定されず、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等が挙げられ、特にエチレンが好ましい。α−オレフィンは、1種単独で使用することも、2種以上を併用することもできる。(D)エポキシ基含有オレフィン系共重合体がα−オレフィン由来の構成単位を含むことで、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を用いて形成される成形品に可撓性を付与しやすい。成形品が可撓性を有する場合、インサート成形品を製造する際に、インサート部材、特に金属インサート部材と樹脂部材との接合強度を高めやすい。
【0056】
α,β−不飽和酸のグリシジルエステルとしては、特に限定されず、例えば、アクリル酸グリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステル、エタクリル酸グリシジルエステル等が挙げられ、特にメタクリル酸グリシジルエステルが好ましい。α,β−不飽和酸のグリシジルエステルは、1種単独で使用することも、2種以上を併用することもできる。(D)エポキシ基含有オレフィン系共重合体がα,β−不飽和酸のグリシジルエステルを含むことで、インサート成形品を製造する際に、インサート部材と樹脂部材との間の接合強度を高めやすい。
【0057】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、特に限定されず、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸−n−ヘキシル、アクリル酸−n−オクチル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸−n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸−n−アミル、メタクリル酸−n−オクチル等のメタクリル酸エステルが挙げられる。中でも、特にアクリル酸メチルが好ましい。(メタ)アクリル酸エステルは、1種単独で使用することも、2種以上を併用することもできる。(D)エポキシ基含有オレフィン系共重合体が(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を含むことによって、インサート成形品を製造する際に、インサート部材と樹脂部材との間の接合強度を高めやすい。
【0058】
α−オレフィン由来の構成単位と、α,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含む(D)エポキシ基含有オレフィン系共重合体、及び、さらに(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を含む(D)エポキシ基含有オレフィン系共重合体は、従来公知の方法で共重合を行うことにより製造することができる。
例えば、通常よく知られたラジカル重合反応により共重合を行うことによって、上記共重合体を得ることができる。共重合体の種類は、特に問われず、例えば、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。また、上記オレフィン系共重合体に、例えば、ポリメタアクリル酸メチル、ポリメタアクリル酸エチル、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル、ポリアクリル酸−2エチルヘキシル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル・スチレン共重合体、アクリル酸ブチル・スチレン共重合体等が、分岐状に又は架橋構造的に化学結合したオレフィン系グラフト共重合体であってもよい。
【0059】
本発明に用いるオレフィン系共重合体は、本発明の効果を害さない範囲で、他の共重合成分由来の構成単位を含有することができる。
【0060】
より具体的には、(D)エポキシ基含有オレフィン系共重合体としては、例えば、グリシジルメタクリレート変性エチレン系共重合体、グリシジルエーテル変性エチレン共重合体等が挙げられ、中でも、グリシジルメタクリレート変性エチレン系共重合体が好ましい。
【0061】
グリシジルメタクリレート変性エチレン系共重合体としては、グリシジルメタクリレートグラフト変性エチレン重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート−アクリル酸メチル共重合体を挙げることができる。中でも、特に優れた金属樹脂複合成形体が得られることから、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体及びエチレン−グリシジルメタクリレート−アクリル酸メチル共重合体が好ましく、エチレン−グリシジルメタクリレート−アクリル酸メチル共重合体が特に好ましい。エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体及びエチレン−グリシジルメタクリレート−アクリル酸メチル共重合体の具体例としては、「ボンドファースト」(住友化学(株)製)等が挙げられる。
【0062】
グリシジルエーテル変性エチレン共重合体としては、例えば、グリシジルエーテルグラフト変性エチレン共重合体、グリシジルエーテル−エチレン共重合体を挙げることができる。
【0063】
(D)エポキシ基含有オレフィン系共重合体の含有量は、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の全質量に対する、α,β−不飽和酸のグリシジルエステルに由来する構成単位の質量の比率が0.04質量%以上である量であれば特に限定されない。
【0064】
ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の全質量に対する、α,β−不飽和酸のグリシジルエステルに由来する構成単位の質量の比率が0.04質量%以上であることにより、インサート成形品における、インサート部材と樹脂部材との界面の親和性が良好である。
【0065】
ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の全質量に対する、α,β−不飽和酸のグリシジルエステルに由来する構成単位の質量の比率は、0.06〜1.0質量%が好ましく、0.09〜0.50質量%がより好ましい。後述の(E)ケイ素化合物を併用して、難燃性を付与させる場合は、0.10質量%以下がより好ましい。
【0066】
上記のα,β−不飽和酸のグリシジルエステルに由来する構成単位の質量の比率が全組成物中0.04質量%未満であると、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を用いてインサート成形品を製造する際に、インサート部材と樹脂部材との間の接合強度が低下しやすい。
また、インサート金属部材と樹脂部材との密着性には、これら部材間の線膨張差が影響している。(D)エポキシ基含有オレフィン系共重合体が応力緩和を実現することで、ひずみが小さくなり、上記接合強度が改善すると考えられる。応力緩和には、靭性が効いており、靭性は、引張伸びで評価できる。エラストマーとして機能する(D)エポキシ基含有オレフィン系共重合体の含有量が少ないと、引張伸びが小さく、十分な応力緩和効果が得られないと考えられる。
【0067】
組成物の全質量に対する、上記のα,β−不飽和酸のグリシジルエステルに由来する構成単位の質量の比率の上限は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。組成物中の、α,β−不飽和酸のグリシジルエステルに由来する構成単位の量が過多であると、インサート成形時の離型性が悪化したり、発生ガスが多くなったりすることにより、金型メンテナンスの頻度が高くなる場合がある。
【0068】
[(E)ケイ素化合物]
ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物は、シリコーンゴム及びシリコーンオイルから選択される1種以上の(E)ケイ素化合物を含んでいてもよい。当該(E)ケイ素化合物は、難燃剤として機能する。即ち、本発明で用いる樹脂組成物が、特定の(E)ケイ素化合物を含むことで、上記樹脂組成物から得られる樹脂部材は、薄肉であっても難燃性に優れたものとなりやすい。(E)ケイ素化合物であるシリコーンゴム及びシリコーンオイルは、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0069】
(E)ケイ素化合物は、シリコーンゴム及びシリコーンオイルから選択されるが、シリコーンゴムが好ましい。
【0070】
・シリコーンゴム
シリコーンゴムは、R
A2SiO
2/2(式中、R
Aは有機基を表す。)で示される単位を有する線状の重合体が架橋された構造の架橋物を含み、ゴム弾性を有するものであれば、特に限定されず、ケイ素原子に結合している有機基、上記架橋物の分子構造等も特に限定されない。
【0071】
シリコーンゴムの性状は特に限定されないが、例えば、シリコーンゴム微粒子として、本発明で用いる樹脂組成物に添加される。シリコーンゴム微粒子の形状としては、特に限定されず、例えば、球状が挙げられる。シリコーンゴム微粒子の平均粒子径は、好ましくは1〜40μmであり、好ましくは2〜20μmである。なお、本明細書において、平均粒子径としては、実体顕微鏡画像をCCDカメラからPCに取り込み、画像測定機によって画像処理手法により測定された値を採用する。
【0072】
・シリコーンオイル
シリコーンオイルとしては、特に限定されず、例えば、下記一般式で表わされるシリコーンオイル等が挙げられる。
【0073】
【化1】
(式中、Rは同一又は異なり、炭素数1〜3のアルキル基であり、R’は同一又は異なり、非置換又は置換のアルキル基又はフェニル基を表し、R’’は炭素数1〜3のアルキル基又はアルコキシ基を表し、n及びmは独立に0〜10000の整数であり、但し、同時に0ではない。)
【0074】
上記一般式中、Rで表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。
【0075】
上記一般式中、R’で表されるアルキル基は、Rで表されるアルキル基として説明したものと同種のものである。置換されたアルキル基としては、例えば、ハロゲン原子で置換された3,3,3−トリフロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等が挙げられる。また、置換されたフェニル基としては、例えば、ハロゲン原子で置換されたクロロフェニル基等が挙げられる。
【0076】
上記一般式中、R’’で表されるアルキル基は、Rで表されるアルキル基として説明したものと同種のものである。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基等が挙げられる。
【0077】
nは0〜5000の整数であることが好ましく、mは0〜5000の整数であることが好ましく、n及びmがこれらの好ましい範囲を同時に満たすことが特に好ましい。
【0078】
上記一般式で表されるシリコーンオイルの具体例としては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、これらのメチル基、フェニル基の一部が、エチル基、プロピル基等で置換されたアルキル変性シリコーンオイル等が挙げられ、中でもジメチルシリコーンオイルが好ましい。
【0079】
(E)ケイ素化合物の含有量は、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対し、通常、0.3〜5質量部であり、好ましくは0.4〜4質量部である。上記含有量が0.3質量部未満であると、薄肉である場合に樹脂部材の難燃性が低下する場合がある。上記含有量が5質量部を超えると、インサート部材と樹脂部材との間の接合強度が低下する場合がある。
【0080】
[その他の成分]
ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物は、上記成分の他に、本発明の効果を阻害しない範囲で、所望の物性付与のために、有機充填剤、(E)ケイ素化合物以外の難燃剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、着色剤、カーボンブラック、離型剤、可塑剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0081】
[ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の製造方法]
ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の製造方法は、この樹脂組成物中の成分を均一に混合できる方法であれば特に限定されず、従来知られる樹脂組成物の製造方法から適宜選択することができる。例えば、1軸又は2軸押出機等の溶融混練装置を用いて、各成分を溶融混練して押出した後、得られた樹脂組成物を粉末、フレーク、ペレット等の所望の形態に加工する方法が挙げられる。
【0082】
≪インサート成形品≫
本発明に係るインサート成形品は、上述したポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を用い、インサート成形によりインサート部材と一体的に成形してなる。上述したポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を材料として用いることを除いては、一般的なインサート成形品と同様である。
【0083】
ここで、一般的なインサート成形品とは、成形用金型に金属等をあらかじめ装着し、その外側に樹脂組成物を充填して複合成形品としたものを指す。樹脂組成物を金型に充填するための成形法としては、射出成形法、押出圧縮成形法等があるが、射出成形法が一般的である。特に、射出成形法の場合には、本発明に係る樹脂組成物のような優れた流動性が求められる。
【0084】
また、インサート部材としては、特に限定されないが、その特性を生かし且つ樹脂の欠点を補う目的で使用されるため、成形時に樹脂と接触したときに形が変化したり溶融したりしないものが好ましく使用される。例えば、主として、アルミニウム、マグネシウム、銅、鉄、真鍮、及びそれらの合金等の金属や、ガラス、セラミックスのような無機固体により、あらかじめ棒、ピン、ネジ等に成形されているものが使用される。本発明においては、インサート部材として金属を用いた場合に、本発明の効果が顕著に表れる。なお、特に、インサート部材の形状等については限定されるものではない。
【0085】
インサート部材には、サンドブラストやレーザー照射等の物理的な方法により粗面化処理が施されてもよい。
また、インサート部材は、化学的に処理されていてもよい。化学的に処理をすることで、インサート金属部材とインサート成形される樹脂部材との間に、共有結合、水素結合、又は分子間力等の化学的接着効果が付与されるため、インサート部材と樹脂部材との界面における気密性が向上しやすくなる。化学的な処理としては、例えば、コロナ放電等の乾式処理、トリアジン処理(特開2000−218935号公報参照)、ケミカルエッチング(特開2001−225352号公報)等が挙げられる。また、インサート部材を構成する材料がアルミニウムである場合には、温水処理(特開平−142110号公報)も挙げられる。温水処理としては、100℃の水への3〜5分間の浸漬が挙げられる。複数の化学的な処理を組み合わせて施してもよい
【0086】
以上説明した、本願発明に係るポリアリーレンサルファイド樹脂組成物は、気密性に優れるインサート成形品を与える。本願発明に係るポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を用いて製造されたインサート成形品は種々の用途に用いられるが、特に高度な気密性が要求される用途に好適に用いられる。
【0087】
例えば、本願発明に係るポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を用いて製造されたインサート成形品は、湿度や水分により悪影響を受けやすい電気・電子部品等を内部に備えるインサート成形品として好適である。特に、高レベルで防水が求められる分野、例えば、川、プール、スキー場、お風呂等での使用が想定される、水分や湿気の侵入が故障に繋がる電気又は電子機器用の部品として用いることが好適である。また、本願発明に係るポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を用いて製造されたインサート成形品は、例えば、傾斜センサー、燃料センサー等のセンサーとして有用である。傾斜センサーとしては、姿勢制御等の車載用途に用いられるものや、ゲームコントローラに用いられるものが例示される。燃料センサーとしては、燃料量計測等の車載用途に用いられるものが例示される。さらに、本願発明に係るポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を用いて製造されたインサート成形品は、例えば、内部に樹脂製のボスや保持部材等を備えた、電気・電子機器用筐体としても有用である。ここで、電気・電子機器用筐体としては、携帯電話の他に、カメラ、ビデオ一体型カメラ、デジタルカメラ等の携帯用映像電子機器の筐体、ノート型パソコン、ポケットコンピュータ、電卓、電子手帳、PDC、PHS、携帯電話等の携帯用情報あるいは通信端末の筐体、MD、カセットヘッドホンステレオ、ラジオ等の携帯用音響電子機器の筐体、液晶TV・モニター、電話、ファクシミリ、ハンドスキャナー等の家庭用電化機器の筐体等を挙げることができる。
【実施例】
【0088】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0089】
〔実施例1〜13、及び比較例1〜8〕
実施例及び比較例ではポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の材料として、以下の材料を用いた。
【0090】
<(A)成分:ポリアリーレンサルファイド樹脂>
フォートロン KPS W203A(株式会社クレハ製、溶融粘度30Pa・s(せん断速度1216sec
−1、310℃))
<(B)成分:粉粒状充填剤>
B1:ガラスビーズ、EGB731A(ポッターズ・バロティーニ株式会社製、平均粒子径20μm)
B2:炭酸カルシウム粉末、ホワイトン P−30(東洋ファインケミカル株式会社製、平均粒子径5μm)
<(C)成分:繊維状充填剤>
ガラス繊維のチョップドストランド ECS03T747(日本電気硝子株式会社製、平均繊維径13μm)
<(D)成分:エポキシ基含有オレフィン系共重合体>
ボンドファースト7L(住友化学株式会社製、エチレン−グリシジルメタクリレート−アクリル酸メチル共重合体、グリシジルメタクリレート単位含有量3質量%)
<(E)成分:ケイ素化合物(シリコーンエラストマー)>
シリコーンエラストマー(東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製、DY33−315(シリコーンゴム微粒子、平均粒子径:10μm以下))
【0091】
それぞれ表1及び表2に記載の種類及び量の、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、及び(E)成分をシリンダー温度320℃の二軸押出機で溶融混練して、実施例及び比較例の樹脂組成物のペレットを作製した。なお、(B)成分及び(C)成分については、サイドフィーダーを用いて押出機に導入した。
【0092】
得られたポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を用いて、以下の方法に従って平板成形品を得た。
<平板成形品製造方法>
シリンダー温度320℃、金型温度150℃、保圧力60MPa、保圧時間15秒、冷却時間10秒、射出速度34mm/秒、及び保圧速度34mm/秒の条件で射出成形により、縦80mm、横80mm、厚み2mm(サイドゲート、ゲートサイズ2mmW×1mmt)の平板状樹脂成形品を得た。
【0093】
得られた成形品を5枚用い、5枚の成形品について、三次元測定器(株式会社ミツトヨ製、三次元寸法測定器 Crysta−Apec C574)を用い、成形収縮率を、
図3に示す範囲を流動方向a、流動直角方向bとして測定し、各成形品について、流動方向と流動直角方向の成形収縮率の平均値を算出した。5枚の成形品に関する測定結果の平均値を、各ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の、樹脂の流動方向の収縮率と、樹脂の流動方向に対して直角方向の収縮率との平均値とした。求められた値を表1及び表2に記す。
【0094】
また、得られた成形品を3枚用い、平板成形品の算術平均粗さRaを求めた。3枚の成形品について、表面粗さ測定器(株式会社ミツトヨ製、輪郭形状測定器サーフテストSV−3000CNC)を用い、
図4に示すように、平板中央部の流動直角方向15mmの範囲について表面粗さを測定した。各成形品の測定結果より、JIS B 0601に基づく算術平均粗さRaを求めた。3枚の成形品の算術平均粗さRaの平均値を、各ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の算術平均粗さRaとした。求められた値を表1及び表2に記す。
【0095】
さらに、得られたポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を用いて、
図1に示すインサート成形品を製造し、得られたインサート成形品を用いて後述の方法に従って、インサート成形品の気密性を評価した。
【0096】
インサート部材としては、長さ35mm、幅3.5mm、厚さ1.3mmの銅製の棒状の部材を用いた。なお、インサート部材には、
図1に示す形状のインサート成形品の厚さ方向の中央部(上面又は下面からの距離が5.5mmである位置)に相当するインサート部材の位置を中心として、インサート部材の長手方向の処理幅が3mm、4mm、又は5mmとなるように化学処理を施したものを用いた。
【0097】
インサート部品に対する化学処理としては、以下の方法に従ったケミカルエッチングを行った。
具体的には、銅製のインサート金属部材の表面を、下記組成のエッチング液A(水溶液)に1分間浸漬して防錆皮膜除去を行い、次に下記組成のエッチング液B(水溶液)に5分間浸漬して金属部品表面をエッチングした。
・エッチング液A(温度20℃)
過酸化水素 26g/L
硫酸 90g/L
・エッチング液B(温度25℃)
過酸化水素 80g/L
硫酸 90g/L
ベンゾトリアゾール 5g/L
塩化ナトリウム 0.2g/L
【0098】
インサート部材をそれぞれ金型に配置し、実施例及び比較例のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を用いて、インサート成形を行い、インサート部材と樹脂部材とが一体化されたインサート成形品を製造した。成形条件は以下の通りである。
[成形条件]
成形機:ファナックα−50c
シリンダー温度:310℃−320℃−320℃−300℃
金型温度:150℃
射出速度:17mm/s
保圧力:70MPa×20秒
【0099】
<気密性評価方法>
上記の方法で作成したインサート成形品2について、以下の方法に従って気密性評価を行った。気密試験機1は、気密試験機本体3と気密試験機蓋4とを備える。Oリング10を介してインサート成形品2を気密試験機本体3に取り付け、
図2中のインサート成形品2下面を封止した。その後、気密試験機蓋4をインサート成形品2上に載せて、クランプした。インサート成形品2の上に蒸留水11を注ぎ、インサート成形品2の樹脂部材部分を蒸留水11中に完全に浸した。ライン12を介して気密試験機本体内部13に500MPaの圧力を1分間加え、インサート部材と樹脂部材との界面から気泡の漏れがあるか否かを目視で観察した。以下の評価基準で評価した気密性の結果を表1及び表2に示す。
○:上記の試験を3回実施し、1回も気泡の漏れが確認されなかった。
×:上記の試験を3回実施例、1回以上の気泡の漏れが確認された。
【0100】
また、実施例10及び11のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物については、以下の方法に従って、難燃性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0101】
<難燃性評価方法>
ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を、成形温度250℃、金型温度80℃で、射出成形して製造し、0.8mm厚又は1.6mm厚の試験片について、アンダーライターズ・ラボラトリーズのUL−94規格垂直燃焼試験に準拠して燃焼性を評価した。
【0102】
下記表1及び2中の比率1〜3は、以下の比率を表す。
比率1:(B)成分の質量/(C)成分の質量
比率2(質量%):((B)成分の質量+(C)成分の質量)/組成物全体の質量×100
比率3(質量%):(D)成分中のグリシジルメタクリレート由来の単位の質量/組成物全体の質量×100
【0103】
【表1】
【0104】
【表2】
【0105】
表1によれば、実施例1〜13のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を用いて形成されたインサート成形品は、インサート部材の化学処理された箇所の幅が狭くとも、気密性が良好であることが分かる。
実施例1〜13のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物は、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂と、(B)粉粒状充填剤と、(C)繊維状充填剤と、α,β−不飽和酸のグリシジルエステルに由来する構成単位を含む(D)エポキシ基含有オレフィン系共重合体とを含有し、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の全質量に対する、α,β−不飽和酸のグリシジルエステルに由来する構成単位の質量の比率と、平板成形品の樹脂の流動方向の収縮率と、樹脂の流動方向に対して直角方向の収縮率との平均値、及び算術平均粗さRaが、それぞれ所定の範囲を満たす。
【0106】
他方、表2によれば、比較例1〜8のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を用いて形成されたインサート成形品は、インサート部材の化学処理された箇所の幅が狭い場合に、気密性に劣ることが分かる。
比較例1〜8のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物は、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂と、(B)粉粒状充填剤及び(C)繊維状充填剤の少なくとも一方と、α,β−不飽和酸のグリシジルエステルに由来する構成単位を含む(D)エポキシ基含有オレフィン系共重合体とを含有するが、平板成形品の樹脂の流動方向の収縮率と、樹脂の流動方向に対して直角方向の収縮率との平均値、及び算術平均粗さRaの少なくとも一方が、所定の範囲から外れるものである。
気密性に優れるインサート成形品を製造可能とするポリアリーレンサルファイド樹脂組成物と、当該ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を用いて製造されるインサート成形品とを提供すること。
(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂と、(B)粉粒状充填剤と、(C)繊維状充填剤と、α,β−不飽和酸のグリシジルエステルに由来する構成単位を含む(D)エポキシ基含有オレフィン系共重合体とを含有し、当該組成物の全質量に対する、α,β−不飽和酸のグリシジルエステルに由来する構成単位の質量の比率、及び表面粗さRaが0.05μmの金型を用いて所定の条件で射出成形された成形品の、樹脂の流動方向の収縮率と、樹脂の流動方向に対して直角方向の収縮率との平均値と、表面粗さとが、それぞれ所定の範囲内に調整されたポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を用いる。