特許第5877110号(P5877110)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5877110リン含有スルホン酸アミド化合物、非水電解液用添加剤、非水電解液、及び、蓄電デバイス
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  • 特許5877110-リン含有スルホン酸アミド化合物、非水電解液用添加剤、非水電解液、及び、蓄電デバイス 図000010
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5877110
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】リン含有スルホン酸アミド化合物、非水電解液用添加剤、非水電解液、及び、蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/40 20060101AFI20160218BHJP
   C07F 9/6544 20060101ALI20160218BHJP
   H01G 11/64 20130101ALI20160218BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20160218BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20160218BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20160218BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20160218BHJP
【FI】
   C07F9/40 ZCSP
   C07F9/6544
   H01G11/64
   H01M10/052
   H01M10/0567
   H01M10/0568
   H01M10/0569
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-74516(P2012-74516)
(22)【出願日】2012年3月28日
(65)【公開番号】特開2013-203699(P2013-203699A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000195661
【氏名又は名称】住友精化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野塚 智洋
(72)【発明者】
【氏名】藤本 翔平
(72)【発明者】
【氏名】藤田 浩司
【審査官】 石井 徹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−203343(JP,A)
【文献】 特開2009−252545(JP,A)
【文献】 特開2006−278106(JP,A)
【文献】 特開2010−219011(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0154815(US,A1)
【文献】 G.Schroeter,et al.,Ueber die Methionsaure,Berichte der deutschen chemischen Gesellschaft,1905年,Vol.38,Issue3,PP.3389-3393
【文献】 Michel Vincent et al.,Condensation du methane disulfochlorure avec quelques diamines 1,2 et 1, 3 etudes des heterocycles obtenus,Journal of heterocyclic chemistry,1977年,Vol.14,Issue3,PP.493-495
【文献】 H.J.Backer et al.,Nitramides de L'acide Methionique,Recueil des Travaux Chimiques des Pays-Bas,1928年,Vol.47,Issue11,PP.942-949
【文献】 Debao Su et al.,Synthesis of fluorinated phosphonic, sulfonic, and mixed phosphonic/sulfonic acids,Canadian Journal of Chemistry ,1989年,Vol.67,Issue11,PP.1795-1799
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 9/40
C07F 9/6544
H01G 11/64
H01M 10/052
H01M 10/0567
H01M 10/0568
H01M 10/0569
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されることを特徴とするリン含有スルホン酸アミド化合物。
【化1】
式(1)中、R及びRは、それぞれ独立し、置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基、又は、置換されていてもよいフェニル基を示す。R及びRは、それぞれ独立し、置換されていてもよい炭素数0〜6のアルキレン基を示す。X及びXは、それぞれ独立し、水素原子、置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基、又は、置換されていてもよいフェニル基を示す。R及びRは、それぞれ独立し、水素原子、置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基、若しくは、−QX(Qは、置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキレン基を示し、Xは、置換されていてもよいフェニル基又は置換されていてもよいフェノキシ基を示す)を示すか、又は、R及びRが共通の基となることにより環状構造となった置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキレン基若しくは置換されていてもよいフェニレン基を示す。Yは、水素原子、置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換されていてもよいフェニル基、又は、ハロゲン原子を示す。
【請求項2】
下記式(2)で表されることを特徴とする請求項1記載のリン含有スルホン酸アミド化合物。
【化2】
式(2)中、R、R、R、R、X、X、及び、Yは、それぞれ式(1)におけるR、R、R、R、X、X、及び、Yと同じ原子又は基を示す。
【請求項3】
下記式(3)で表されることを特徴とする請求項1記載のリン含有スルホン酸アミド化合物。
【化3】
式(3)中、R、R、R、R、X、X、及び、Yは、それぞれ式(1)におけるR、R、R、R、X、X、及び、Yと同じ原子又は基を示す。R及びRは、それぞれ独立し、水素原子、置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基、又は、−QX(Qは、置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキレン基を示し、Xは、置換されていてもよいフェニル基又は置換されていてもよいフェノキシ基を示す)を示す。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載のリン含有スルホン酸アミド化合物からなることを特徴とする非水電解液用添加剤。
【請求項5】
請求項4記載の非水電解液用添加剤、非水溶媒、及び、電解質を含むことを特徴とする非水電解液。
【請求項6】
非水溶媒は、非プロトン性溶媒であることを特徴とする請求項5記載の非水電解液。
【請求項7】
非プロトン性溶媒は、環状カーボネート、鎖状カーボネート、脂肪族カルボン酸エステル、ラクトン、ラクタム、環状エーテル、鎖状エーテル、スルホン、及び、これらのハロゲン誘導体からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項6記載の非水電解液。
【請求項8】
電解質は、リチウム塩を含有することを特徴とする請求項5、6又は7記載の非水電解液。
【請求項9】
リチウム塩は、LiAlCl、LiBF、LiPF、LiClO、LiAsF、及び、LiSbFからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項8記載の非水電解液。
【請求項10】
請求項5、6、7、8又は9記載の非水電解液、正極、及び、負極を備えたことを特徴とする蓄電デバイス。
【請求項11】
蓄電デバイスがリチウムイオン電池である、請求項10記載の蓄電デバイス。
【請求項12】
蓄電デバイスがリチウムイオンキャパシタである、請求項10記載の蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規のリン含有スルホン酸アミド化合物に関する。また、本発明は、非水電解液二次電池、電気二重層キャパシタ等の蓄電デバイスに用いた場合に、電極表面上に安定な固体電解質界面を形成してサイクル特性、充放電容量、内部抵抗等の電池特性を改善することができる非水電解液用添加剤に関する。更に、本発明は、該非水電解液用添加剤を用いた非水電解液、及び、該非水電解液を用いた蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題の解決、持続可能な循環型社会の実現に対する関心が高まるにつれ、非水電解液二次電池、電気二重層キャパシタ等の蓄電デバイスの研究が広範囲に行われている。なかでもリチウムイオン電池は高い使用電圧とエネルギー密度から、ノート型パソコン、携帯電話等の電源として用いられている。これらリチウムイオン電池は、鉛電池やニッケルカドミウム電池と比較してエネルギー密度が高く、高容量化が実現されるため期待されている。
【0003】
しかしながら、リチウムイオン電池には、充放電サイクルの経過に伴って電池の容量が低下するという問題がある。これは長期間の充放電サイクルの経過に伴い、電極反応による電解液の分解や電極活物質層への電解質の含浸性の低下、更にリチウムイオンのインターカレーション効率の低下が生じること等が要因に挙げられる。
【0004】
充放電サイクルの経過に伴う電池の容量の低下を抑制する方法として、電解液に各種添加剤を加える方法が検討されている。添加剤は、最初の充放電時に分解され、電極表面上に固体電解質界面(SEI)と呼ばれる被膜を形成する。SEIは、充放電サイクルの最初のサイクルにおいて形成されるため、電解液中の溶媒等の分解に電気が消費されることはなく、リチウムイオンはSEIを介して電極を行き来することができる。すなわち、SEIの形成は充放電サイクルを繰り返した場合の非水電解液二次電池の蓄電デバイスの劣化を防ぎ、電池特性、保存特性又は負荷特性等を向上させることに大きな役割を果たすと考えられている。
【0005】
SEIを形成する電解液用添加剤として、例えば、特許文献1〜3には、環状モノスルホン酸エステルが開示されている。また、特許文献4には、含硫黄芳香族化合物が開示されており、特許文献5にはジスルフィド化合物が開示されている。更に、特許文献6〜9にはジスルホン酸エステルが開示されている。
また、特許文献10〜13には、ビニレンカーボネート及びビニルエチレンカーボネートを含有する電解液が開示されており、特許文献14、15では1,3−プロパンスルトン及びブタンスルトンを含有する電解液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−102173号公報
【特許文献2】特開2000−003724号公報
【特許文献3】特開平11−339850号公報
【特許文献4】特開平05−258753号公報
【特許文献5】特開2001−052735号公報
【特許文献6】特開2009−038018号公報
【特許文献7】特開2005−203341号公報
【特許文献8】特開2004−281325号公報
【特許文献9】特開2005−228631号公報
【特許文献10】特開平04−87156号公報
【特許文献11】特開平05−74486号公報
【特許文献12】特開平08−45545号公報
【特許文献13】特開2001−6729号公報
【特許文献14】特開昭63−102173号公報
【特許文献15】特開平10−50342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電極表面に形成されるSEIの性能は、用いる添加剤によって異なり、サイクル特性、充放電容量、内部抵抗等多くの電池特性に深く関与している。しかしながら、従来の添加剤を用いた場合では、充分な性能を持つSEIを形成させ、長期に亘ってその電池特性を高く維持し続けることは困難であった。
例えば、特許文献10〜15に記載されているビニレンカーボネート系化合物や1,3−プロパンスルトン等のスルトン系化合物を添加剤として用いた電解液は、負極表面上に電気化学的還元分解を生じて生成したSEIによって、不可逆的な容量低下を抑制することが可能となっている。しかし、これらの添加剤によって形成されたSEIは電極を保護する性能に優れるものの、リチウムイオンのイオン伝導性が低いため、内部抵抗を低下させる性能は小さかった。更に、形成されたSEIは、長期間の使用に耐える強度がなく、使用中にSEIが分解したり、SEIに亀裂が生じたりすることによって負極表面が露出し、電解液溶媒の分解が生じて電池特性が低下するといった問題点があった。
【0008】
このように、従来の非水電解液用添加剤は、電極を保護する性能や内部抵抗を低下させる等の性能において、長期に亘って充分な性能を有するものではなく、改善の余地があった。即ち、電極表面上に安定で、かつ、サイクル特性、充放電容量、内部抵抗等を向上させるSEIを形成させ、非水電解液二次電池等の電池特性を向上させる新規な電解液用添加剤の開発が望まれていた。
本発明は、特に非水電解液用添加剤に好適に用いられる新規のリン含有スルホン酸アミド化合物を提供することを目的とする。また、本発明は、該化合物を非水電解液二次電池等の蓄電デバイスに用いた場合に、電極表面上に安定なSEIを形成してサイクル特性、充放電容量、内部抵抗等の電池特性を改善することができる非水電解液用添加剤を提供することを目的とする。更に、本発明は、該非水電解液用添加剤を用いた非水電解液、及び、該非水電解液を用いた蓄電デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記式(1)で表されるリン含有スルホン酸アミド化合物である。
【0010】
【化1】
【0011】
式(1)中、R及びRは、それぞれ独立し、置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基、又は、置換されていてもよいフェニル基を示す。R及びRは、それぞれ独立し、置換されていてもよい炭素数0〜6のアルキレン基を示す。X及びXは、それぞれ独立し、水素原子、置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基、又は、置換されていてもよいフェニル基を示す。R及びRは、それぞれ独立し、水素原子、置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基、若しくは、−QX(Qは、置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキレン基を示し、Xは、置換されていてもよいフェニル基又は置換されていてもよいフェノキシ基を示す)を示すか、又は、R及びRが共通の基となることにより環状構造となった置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキレン基若しくは置換されていてもよいフェニレン基を示す。Yは、水素原子、置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換されていてもよいフェニル基、又は、ハロゲン原子を示す。
以下に本発明を詳細に説明する。
【0012】
非水電解液二次電池等の電極における電気化学的還元に対する非水電解液用添加剤の適応性の指標として、例えば、「Geun−Chang,Hyung−Jin kim,Seung−ll Yu,Song−Hui Jun,Jong−Wook Choi,Myung−Hwan Kim.Journal of The Electrochemical Society,147,12,4391(2000)」には、非水電解液用添加剤を構成する化合物のLUMO(最低空分子軌道)エネルギーのエネルギー準位を用いる方法が報告されている。このような文献では、LUMOエネルギーが低い化合物ほど優れた電子受容体であり、非水電解液二次電池等の電極表面上に安定なSEIを形成することができる非水電解液用添加剤になるとされている。従って、化合物のLUMOエネルギーを測定することにより、該化合物が非水電解液二次電池等の電極表面上に安定なSEIを形成する性能を有するかどうかを容易に評価することができ、この方法が現在では非常に有用な手段となっている。
本発明者らは、前記式(1)で表されるリン含有スルホン酸アミド化合物は、電気化学的還元を受けやすい低いLUMOエネルギーを示し、かつ、化学的に安定であることを見出した。そこで本発明者らは、該リン含有スルホン酸アミド化合物からなる非水電解液用添加剤を非水電解液に用い、更に該非水電解液を非水電解液二次電池等の蓄電デバイスに用いた場合に、電極表面上に安定なSEIを形成してサイクル特性、充放電容量、内部抵抗等の電池特性を改善することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
本発明は、前記式(1)で表されるリン含有スルホン酸アミド化合物である。
前記式(1)中、R及びRは、それぞれ独立し、置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基、又は、置換されていてもよいフェニル基を示す。
前記式(1)中、R及びRの少なくとも1つがアルキル基である場合、R及びRで示されるアルキル基の炭素数が7以上であると、非水溶媒への溶解性が低下するおそれがある。R及びRで示されるアルキル基の炭素数の好ましい上限は3である。
【0014】
前記式(1)中、R及びRで示される、炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、1−メチルエチル基、n−ペンチル基、n−へキシル基等が挙げられる。なかでも、エチル基であることが好ましい。
また、R及びRで示されるアルキル基が置換されている場合、ハロゲン原子で置換されていることが好ましく、フッ素原子で置換されていることがより好ましい。
【0015】
前記式(1)中、R及びRの少なくとも1つが置換されていてもよいフェニル基である場合、該置換されていてもよいフェニル基としては、例えば、フェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2−エチルフェニル基、3−エチルフェニル基、4−エチルフェニル基、2−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、2−エトキシフェニル基、3−エトキシフェニル基、4−エトキシフェニル基、2−(ジメチルアミノ)フェニル基、3−(ジメチルアミノ)フェニル基、4−(ジメチルアミノ)フェニル基、2−フルオロフェニル基、3−フルオロフェニル基、4−フルオロフェニル基、2−クロロフェニル基、3−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、2−ブロモフェニル基、3−ブロモフェニル基、4−ブロモフェニル基等が挙げられる。なかでも、電気化学的還元を受けやすい低いLUMOエネルギーを示すことから、フェニル基、2−フルオロフェニル基、3−フルオロフェニル基、4−フルオロフェニル基であることが好ましい。
【0016】
前記式(1)中、R及びRは、それぞれ独立し、置換されていてもよい炭素数0〜6のアルキレン基を示す。R及びRで示されるアルキレン基の炭素数が7以上であると、非水溶媒への溶解性が低下するおそれがある。R及びRで示されるアルキレン基の炭素数の好ましい上限は3である。
なお、前記式(1)中、R及びRについて「炭素数0のアルキレン基である」とは、RやRと結合している窒素がXやXと直接結合していることを意味する。
【0017】
前記式(1)中、R及びRで示される、炭素数1〜6のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、n−ブチレン基、1−メチルエチレン基、1−エチルエチレン基、n−ペンチレン基、n−へキシレン基等が挙げられる。なかでも、メチレン基であることが好ましい。
また、R及びRで示されるアルキレン基が置換されている場合、ハロゲン原子で置換されていることが好ましく、フッ素原子で置換されていることがより好ましい。
【0018】
前記式(1)中、X及びXは、それぞれ独立し、水素原子、置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基、又は、置換されていてもよいフェニル基を示す。
前記式(1)中、X及びXの少なくとも1つが置換されていてもよいアルキル基である場合、X及びXで示されるアルキル基の炭素数が7以上であると、非水溶媒への溶解性が低下するおそれがある。X及びXで示されるアルキル基の炭素数の好ましい上限は3である。
【0019】
前記式(1)中、X及びXで示される、炭素数1〜6のアルキル基としては、前記R及びRについて記載したものと同様のものが挙げられる。
また、X及びXで示されるアルキル基が置換されている場合、ハロゲン原子で置換されていることが好ましく、フッ素原子で置換されていることがより好ましい。
【0020】
前記X及びXの少なくとも1つが置換されていてもよいフェニル基である場合、該置換されていてもよいフェニル基としては、前記R及びRについて記載したものと同様のものが挙げられる。なかでも、電気化学的還元を受けやすい低いLUMOエネルギーを示すことから、フェニル基、2−フルオロフェニル基、3−フルオロフェニル基、4−フルオロフェニル基であることが好ましい。
【0021】
前記式(1)中、R及びRは、それぞれ独立し、水素原子、置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基、若しくは、−QX(Qは、置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキレン基を示し、Xは、置換されていてもよいフェニル基又は置換されていてもよいフェノキシ基を示す)を示すか、又は、R及びRが共通の基となることにより環状構造となった置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキレン基若しくは置換されていてもよいフェニレン基を示す。
【0022】
前記式(1)中、R及びRの少なくとも1つが置換されていてもよいアルキル基である場合、R及びRで示されるアルキル基の炭素数が7以上であると、非水溶媒への溶解性が低下するおそれがある。R及びRで示されるアルキル基の炭素数の好ましい上限は3である。
【0023】
前記式(1)中、R及びRで示される、炭素数1〜6のアルキル基としては、前記R及びRについて記載したものと同様のものが挙げられる。
また、R及びRで示されるアルキル基が置換されている場合、ハロゲン原子で置換されていることが好ましく、フッ素原子で置換されていることがより好ましい。
【0024】
前記式(1)中、R及びRの少なくとも1つが−QX(Qは、置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキレン基を示し、Xは、置換されていてもよいフェニル基又は置換されていてもよいフェノキシ基を示す)である場合において、前記Qで示されるアルキレン基の炭素数が7以上であると、非水溶媒への溶解性が低下するおそれがある。Qで示されるアルキレン基の炭素数の好ましい上限は3である。
【0025】
前記Qで示されるアルキレン基としては、前記R及びRについて記載したものと同様のものが挙げられる。
また、Qで示されるアルキレン基が置換されている場合、ハロゲン原子で置換されていることが好ましく、フッ素原子で置換されていることがより好ましい。
【0026】
前記Xが置換されていてもよいフェニル基である場合、該置換されていてもよいフェニル基としては、前記R及びRについて記載したものと同様のものが挙げられる。なかでも、電気化学的還元を受けやすい低いLUMOエネルギーを示すことから、フェニル基、2−フルオロフェニル基、3−フルオロフェニル基、4−フルオロフェニル基であることが好ましい。
【0027】
前記Xが置換されていてもよいフェノキシ基である場合、該置換されていてもよいフェノキシ基としては、例えば、フェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、3−メチルフェノキシ基、4−メチルフェノキシ基、2−エチルフェノキシ基、3−エチルフェノキシ基、4−エチルフェノキシ基、2−メトキシフェノキシ基、3−メトキシフェノキシ基、4−メトキシフェノキシ基、2−エトキシフェノキシ基、3−エトキシフェノキシ基、4−エトキシフェノキシ基、2−(ジメチルアミノ)フェノキシ基、3−(ジメチルアミノ)フェノキシ基、4−(ジメチルアミノ)フェノキシ基、2−フルオロフェノキシ基、3−フルオロフェノキシ基、4−フルオロフェノキシ基、2−クロロフェノキシ基、3−クロロフェノキシ基、4−クロロフェノキシ基、2−ブロモフェノキシ基、3−ブロモフェノキシ基、4−ブロモフェノキシ基等が挙げられる。なかでも、電気化学的還元を受けやすい低いLUMOエネルギーを示すことから、フェノキシ基、2−フルオロフェノキシ基、3−フルオロフェノキシ基、4−フルオロフェノキシ基であることが好ましい。
【0028】
前記式(1)中、R及びRが共通の基となることにより、置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキレン基となる場合、前記アルキレン基の炭素数が7以上であると、非水溶媒への溶解性が低下するおそれがある。前記アルキレン基の炭素数の好ましい上限は3である。
【0029】
前記R及びRが共通の基となることによるアルキレン基としては、前記R及びRについて記載したものと同様のものが挙げられる。
また、前記R及びRが共通の基となることによるアルキレン基が置換されている場合、ハロゲン原子で置換されていることが好ましく、フッ素原子で置換されていることがより好ましい。
【0030】
前記式(1)中、R及びRが共通の基となることにより、置換されたフェニレン基となる場合、ハロゲン原子で置換されていることが好ましく、フッ素原子で置換されていることがより好ましい。
【0031】
前記式(1)中、Yは、水素原子、置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換されていてもよいフェニル基、又は、ハロゲン原子を示す。
Yで示される、炭素数1〜6のアルキル基としては、前記R及びRについて記載したものと同様のものが挙げられる。
また、Yで示されるアルキル基が置換されている場合、ハロゲン原子で置換されていることが好ましく、フッ素原子で置換されていることがより好ましい。
【0032】
前記式(1)中、Yが置換されていてもよいフェニル基である場合、該置換されていてもよいフェニル基としては、前記R及びRについて記載したものと同様のものが挙げられる。なかでも、電気化学的還元を受けやすい低いLUMOエネルギーを示すことから、フェニル基、2−フルオロフェニル基、3−フルオロフェニル基、4−フルオロフェニル基であることが好ましい。
【0033】
前記式(1)中、Yがハロゲン原子である場合、該ハロゲン原子は、フッ素原子であることが好ましい。
【0034】
前記式(1)で表されるリン含有スルホン酸アミド化合物としては、なかでも、特に化学的に安定であり、SEIを形成した場合に電解液の分解等による電池の劣化を防止することができ、かつ、低いLUMOエネルギーを示すこと等により、下記式(2)、(3)で表されるリン含有スルホン酸アミド化合物が好ましい。
【0035】
【化2】
【0036】
式(2)中、R、R、R、R、X、X、及び、Yは、それぞれ前記式(1)におけるR、R、R、R、X、X、及び、Yと同じ原子又は基を示す。
【0037】
【化3】
【0038】
式(3)中、R、R、R、R、X、X、及び、Yは、それぞれ式(1)におけるR、R、R、R、X、X、及び、Yと同じ原子又は基を示す。R及びRは、それぞれ独立し、水素原子、置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基、又は、−QX(Qは、置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキレン基を示し、Xは、置換されていてもよいフェニル基又は置換されていてもよいフェノキシ基を示す)を示す。
【0039】
前記式(3)のR及びRにおける置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基、Qにおける置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキレン基、並びに、Xにおける置換されていてもよいフェニル基及び置換されていてもよいフェノキシ基としては、前記式(1)におけるR及びRについて挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0040】
前記式(1)で表されるリン含有スルホン酸アミド化合物を製造する方法としては、例えば、ブロモ酢酸と亜リン酸トリアルキルとを反応させた後、クロロスルホン酸と反応させ得られたものを、更にアミンと反応させる方法等が挙げられる。
【0041】
例えば、前記式(2)において、Rがエチル基、Rがエチル基、Rがメチレン基、Rがメチレン基、Xがエチル基、Xがエチル基、Yが水素で表されるリン含有スルホン酸アミド化合物を製造する場合は、ブロモ酢酸と亜リン酸トリエチルとを反応させた後、クロロスルホン酸と反応させ得られたものを、更にN,N’−ジエチルメチレンジアミンと反応させる方法を用いることができる。
また、前記式(3)において、Rがエチル基、Rがエチル基、Rがメチレン基、Rがメチレン基、Rがメチル基、Rがメチル基、Xがフェニル基、Xがフェニル基、Yが水素で表されるリン含有スルホン酸アミド化合物を製造する場合は、ブロモ酢酸と亜リン酸トリエチルとを反応させた後、クロロスルホン酸と反応させ得られたものを、更にベンジルメチルアミンと反応させる方法を用いることができる。
【0042】
本発明のリン含有スルホン酸アミド化合物からなる非水電解液用添加剤もまた、本発明の1つである。本発明のリン含有スルホン酸アミド化合物は、化学的に安定であり、SEI被膜を形成した場合に電解液の分解等による電池の劣化を防止することができ、かつ、電気化学的還元を受けやすい低いLUMOエネルギーを示す。
更に、本発明のリン含有スルホン酸アミド化合物からなる非水電解液用添加剤を用いることにより、例えば、電解質としてLiPFを用いた場合、LiPFの分解反応によって生じるPFが起因とされるガスの発生等を抑制する効果もあると考えられる。その理由は詳らかではないが、PFが本発明のリン含有スルホン酸アミド化合物の有する>P=Oと配位することから、PFの活性化を抑制し、電池特性を更に向上させることができると考えられる。
また、該化合物からなる本発明の非水電解液用添加剤は、非水電解液に含有され非水電解液二次電池等の蓄電デバイスに用いた場合に、電極表面上に安定なSEIを形成してサイクル特性、充放電容量、内部抵抗等の電池特性を改善することができる。
【0043】
本発明の非水電解液用添加剤、非水溶媒、及び、電解質を含有する非水電解液もまた、本発明の1つである。
【0044】
本発明の非水電解液における本発明の非水電解液用添加剤の含有量(即ち、前記式(1)で表されるリン含有スルホン酸アミド化合物の含有量)は特に限定されないが、好ましい下限は0.005質量%、好ましい上限は10質量%である。本発明の非水電解液用添加剤の含有量が0.005質量%未満であると、非水電解液二次電池等に用いた場合に電極表面での電気化学反応によって安定なSEIを充分に形成できないおそれがある。本発明の非水電解液用添加剤の含有量が10質量%を超えると、溶解しにくくなるだけでなく非水電解液の粘度が上昇し、イオンの移動度を充分に確保できなくなるため、電解液の導電性等を充分に確保することができず、非水電解液二次電池等の蓄電デバイスに用いた場合に充放電特性等に支障をきたすおそれがある。本発明の非水電解液用添加剤の含有量のより好ましい下限は0.01質量%である。
【0045】
前記非水溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン等の環状カーボネート、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル等の鎖状カーボネートや、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチル等の脂肪族カルボン酸エステルや、γ−ブチロラクトン等のラクトンや、ε−カプロラクタム、N−メチルピロリドン等のラクタムや、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン等の環状エーテルや、1,2−エトキシエタン、エトキシメトキシエタン等の鎖状エーテルや、スルホラン等のスルホンや、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン等のハロゲン誘導体等が挙げられる。これらの非水溶媒は、単独で用いてもよいし、複数種を混合してもよい。
【0046】
前記非水溶媒としては、得られる非水電解液の粘度を低く抑える等の観点から、非プロトン性溶媒が好適である。なかでも、環状カーボネート、鎖状カーボネート、脂肪族カルボン酸エステル、ラクトン、ラクタム、環状エーテル、鎖状エーテル、スルホン、及び、これらのハロゲン誘導体からなる群より選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。これらの中でも、環状カーボネート及び鎖状カーボネートをそれぞれ1種以上混合することがより好ましい。
【0047】
前記電解質としては、リチウムイオンのイオン源となるリチウム塩が好ましい。なかでも、LiAlCl、LiBF、LiPF、LiClO、LiAsF、及び、LiSbFからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、LiBF、LiPFであることがより好ましく、LiPFが更に好ましい。これらの電解質は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、前記LiPFが用いられる場合、非水溶媒としては、環状カーボネート及び鎖状カーボネートをそれぞれ1種以上混合することが好ましく、炭酸エチレン及び炭酸ジエチルを混合することがより好ましい。
【0048】
本発明の非水電解液における前記電解質の濃度は特に限定されないが、好ましい下限は0.1mol/L、好ましい上限は2.0mol/Lである。前記電解質の濃度が0.1mol/L未満であると、非水電解液の導電性等を充分に確保することができず、非水電解液二次電池等の蓄電デバイスに用いた場合に充放電特性等に支障をきたすおそれがある。前記電解質の濃度が2.0mol/Lを超えると、粘度が上昇し、イオンの移動度を充分に確保できなくなるため、非水電解液の導電性等を充分に確保することができず、非水電解液二次電池等の蓄電デバイスに用いた場合に充放電特性等に支障をきたすおそれがある。前記電解質の濃度のより好ましい下限は0.5mol/L、より好ましい上限は1.5mol/Lである。
【0049】
本発明の非水電解液、正極、及び、負極を備えた蓄電デバイスもまた、本発明の1つである。蓄電デバイスとしては、非水電解液二次電池や電気二重層キャパシタ等がある。これらの中でもリチウムイオン電池、リチウムイオンキャパシタが好適である。
図1は、本発明にかかる非水電解液二次電池の一例を模式的に示した断面図である。
図1において、非水電解液二次電池1は、正極集電体2の一方面側に正極活物質層3が設けられてなる正極板4、及び、負極集電体5の一方面側に負極活物質層6が設けられてなる負極板7を有する。正極板4と負極板7とは、本発明の非水電解液8と非水電解液8中に設けたセパレータ9を介して対向配置されている。
【0050】
本発明にかかる非水電解液二次電池において、正極集電体2及び負極集電体5としては、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス等の金属からなる金属箔を用いることができる。
【0051】
本発明にかかる非水電解液二次電池において、正極活物質層3に用いる正極活物質としては、リチウム含有複合酸化物が好ましく用いられ、例えば、LiMnO、LiFeO、LiCoO、LiMn、LiFeSiO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiFePO等のリチウム含有複合酸化物が挙げられる。
【0052】
本発明にかかる非水電解液二次電池において、負極活物質層6に用いる負極活物質としては、例えば、リチウムを吸蔵、放出することができる材料が挙げられる。このような材料としては、黒鉛、非晶質炭素等の炭素材料や、酸化インジウム、酸化シリコン、酸化スズ、酸化亜鉛、及び酸化リチウム等の酸化物材料等が挙げられる。
また、負極活物質として、リチウム金属、及び、リチウムと合金を形成することができる金属材料を用いることもできる。前記リチウムと合金を形成することができる金属としては、例えば、Cu、Sn、Si、Co、Mn、Fe、Sb、Ag等が挙げられ、これらの金属とリチウムを含む2元又は3元からなる合金を用いることもできる。
これらの負極活物質は単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0053】
本発明にかかる非水電解液二次電池において、セパレータ9としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂等からなる多孔質フィルムを用いることができる。なお、本実施形態においては、非水電解液二次電池を例示したが、これに限定されることはなく、本発明は、その他の電気二重層キャパシタ等の蓄電デバイスにも適用できる。
【発明の効果】
【0054】
本発明によれば、新規のリン含有スルホン酸アミド化合物を提供することができる。また、本発明によれば、非水電解液二次電池等の蓄電デバイスに用いた場合に、電極表面上に安定なSEIを形成してサイクル特性、充放電容量、内部抵抗等の電池特性を改善することができる非水電解液用添加剤を提供することができる。更に、本発明によれば、該非水電解液用添加剤を用いた非水電解液、及び、該非水電解液を用いた蓄電デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1】本発明の非水電解液二次電池の一例を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0057】
(実施例1)
(式(2)におけるRがエチル基、Rがエチル基、Rがエチレン基、Rがエチレン基、Xが水素、Xが水素、Yが水素であるリン含有スルホン酸アミド化合物(化合物1)の作製)
撹拌機、冷却管、温度計及び滴下ロートを備え付けた200mL容の4つ口フラスコに、ブロモ酢酸13.9g(0.1モル)及びジメトキシエタン70.0gを仕込み、ジメトキシエタン20.0gに混合させた亜リン酸トリエチル16.6g(0.1モル)を0℃で2時間かけて滴下した。温度を徐々に室温にあげ、一晩撹拌したのち、水、及び飽和食塩水で洗浄後、ジメトキシエタンを留去し、反応物30gを得た。
次に、撹拌機、冷却管、温度計及び滴下ロートを備え付けた200mL容の4つ口フラスコに、塩化ホスホリル46gを仕込み、次いでクロロスルホン酸23.3g(0.2モル)を1時間かけて滴下し、引き続き上記で得られた反応物30gを1時間かけて滴下した。その後、2時間かけて100℃まで昇温し、同温度にて20時間撹拌を行った。その後、常圧留去により塩化ホスホリルを除去し、油状反応物25gを得た。
次に、撹拌機、冷却管、温度計及び滴下ロートを備え付けた200mL容の4つ口フラスコにジメトキシエタン70g及びN,N’−ジエチルメチレンジアミン10.2g(0.1モル)を仕込み0℃に冷却した。これに上記で得られた油状反応物25gを2時間かけて滴下したのち、トリエチルアミン30.4g(0.3モル)を2時間かけて滴下した。更に10時間撹拌を続け、反応終了後、反応液をろ過した後、トルエン100g、及び水25gを添加して分液し、得られた有機層から減圧留去によりトルエンを除去した。続いて、0℃に冷却し、メタノール40gを3時間かけて滴下することで結晶を析出させた。結晶をろ過したのち、減圧乾燥することにより、式(2)におけるRがエチル基、Rがエチル基、Rがエチレン基、Rがエチレン基、Xが水素、Xが水素、Yが水素であるリン含有スルホン酸アミド化合物(化合物1)5gを取得した。化合物1の収率は、ブロモ酢酸に対して14%であった。
【0058】
(非水電解液の調製)
炭酸エチレン(EC)と炭酸ジエチル(DEC)とを、EC:DEC=30:70の体積組成比で混合して得られた混合非水溶媒に、電解質としてLiPFを1.0mol/Lの濃度となるように溶解し、該混合非水溶媒と該電解質とからなる溶液全重量に対し、非水電解液用添加剤として作製した化合物1を、含有割合が0.5質量%となるように添加し、非水電解液を調製した。
【0059】
(実施例2)
「非水電解液の調製」において、化合物1の含有割合を1.0質量%となるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解液を調製した。
【0060】
(実施例3)
(式(2)におけるRがエチル基、Rがエチル基、R及びRが炭素数0のアルキレン基として省略され、Xがフェニル基、Xがフェニル基、Yが水素であるリン含有スルホン酸アミド化合物(化合物2)の作製)
撹拌機、冷却管、温度計及び滴下ロートを備え付けた200mL容の4つ口フラスコに、ブロモ酢酸13.9g(0.1モル)及びジメトキシエタン70.0gを仕込み、ジメトキシエタン20.0gに混合させた亜リン酸トリエチル16.6g(0.1モル)を、0℃で2時間かけて滴下した。温度を徐々に室温にあげ、一晩撹拌したのち、水、及び飽和食塩水で洗浄後、ジメトキシエタンを留去し、反応物30gを得た。
次に、撹拌機、冷却管、温度計及び滴下ロートを備え付けた200mL容の4つ口フラスコに、塩化ホスホリル46gを仕込み、次いでクロロスルホン酸23.3g(0.2モル)を1時間かけて滴下し、引き続き上記で得られた反応物30gを1時間かけて滴下した。その後、2時間かけて100℃まで昇温し、同温度にて20時間撹拌を行った。その後、その後、常圧留去により塩化ホスホリルを除去し、油状反応物25gを得た。
次に、撹拌機、冷却管、温度計及び滴下ロートを備え付けた200mL容の4つ口フラスコに、ジメトキシエタン70g及びメチレンジアニリド19.8g(0.10モル)を仕込み0℃に冷却した。これに上記で得られた油状反応物25gを2時間かけて滴下したのち、トリエチルアミン22.3g(0.22モル)を2時間滴下した。更に10時間撹拌を続け、反応終了後、反応液をろ過した後、トルエン100g、及び水25gを添加して分液し、得られた有機層から減圧留去によりトルエンを除去した。続いて、0℃に冷却し、メタノール40gを3時間かけて滴下することで結晶を析出させた。結晶をろ過したのち、減圧乾燥することにより、Rがエチル基、Rがエチル基、R、Rが炭素数0で省略、Xがフェニル基、Xがフェニル基、Yが水素であるリン含有スルホン酸アミド化合物(化合物2)5gを取得した。化合物2の収率は、ブロモ酢酸に対して11%であった。
【0061】
(非水電解液の調製)
炭酸エチレン(EC)と炭酸ジエチル(DEC)とを、EC:DEC=30:70の体積組成比で混合して得られた混合非水溶媒に、電解質としてLiPFを1.0mol/Lの濃度となるように溶解し、該混合非水溶媒と該電解質とからなる溶液全重量に対し、非水電解液用添加剤として作製した化合物2を、含有割合が1.0質量%となるように添加し、非水電解液を調製した。
【0062】
(実施例4)
(式(3)におけるRがエチル基、Rがエチル基、R及びRが炭素数0のアルキレン基として省略され、Rがメチル基、Rがメチル基、Xがフェニル基、Xがフェニル基、Yが水素であるリン含有スルホン酸アミド化合物(化合物3)の作製)
撹拌機、冷却管、温度計及び滴下ロートを備え付けた200mL容の4つ口フラスコに、ブロモ酢酸13.9g(0.1モル)及びジメトキシエタン70.0gを仕込み、ジメトキシエタン20.0gに混合させた亜リン酸トリエチル16.6g(0.1モル)を、0℃で2時間かけて滴下した。温度を徐々に室温にあげ、一晩撹拌したのち、水、及び飽和食塩水で洗浄後、ジメトキシエタンを留去し、反応物30gを得た。
次に、撹拌機、冷却管、温度計及び滴下ロートを備え付けた200mL容の4つ口フラスコに、塩化ホスホリル46gを仕込み、次いでクロロスルホン酸23.3g(0.2モル)を1時間かけて滴下し、引き続き上記で得られた反応物30gを1時間かけて滴下した。その後、2時間かけて100℃まで昇温し、同温度にて20時間撹拌を行った。その後、常圧留去により塩化ホスホリルを除去し、油状反応物25gを得た。
次に、撹拌機、冷却管、温度計及び滴下ロートを備え付けた200mL容の4つ口フラスコに、ジメトキシエタン70g及びメチルフェニルアミン21.4g(0.20モル)を仕込み0℃に冷却した。これに上記で得られた油状反応物25gを2時間かけて滴下したのち、トリエチルアミン22.3g(0.22モル)を2時間滴下した。更に10時間撹拌を続け、反応終了後、反応液をろ過した後、トルエン100g、及び水25gを添加して分液し、得られた有機層から減圧留去によりトルエンを除去した。続いて、0℃に冷却し、メタノール40gを3時間かけて滴下することで結晶を析出させた。結晶をろ過したのち、減圧乾燥することにより、Rがエチル基、Rがエチル基、R及びRが炭素数0のアルキレン基として省略され、Rがメチル基、Rがメチル基、Xがフェニル基、Xがフェニル基、Yが水素であるリン含有スルホン酸アミド化合物(化合物3)7gを取得した。化合物3の収率は、ブロモ酢酸に対して14%であった。
【0063】
(非水電解液の調製)
炭酸エチレン(EC)と炭酸ジエチル(DEC)とを、EC:DEC=30:70の体積組成比で混合して得られた混合非水溶媒に、電解質としてLiPFを1.0mol/Lの濃度となるように溶解し、該混合非水溶媒と該電解質とからなる溶液全重量に対し、非水電解液用添加剤として作製した化合物3を、含有割合が1.0質量%となるように添加し、非水電解液を調製した。
【0064】
(実施例5)
(式(3)におけるRがエチル基、Rがエチル基、Rがメチレン基、Rがメチレン基、Rがメチル基、Rがメチル基、Xがフェニル基、Xがフェニル基、Yが水素であるリン含有スルホン酸アミド化合物(化合物4)の作製)
実施例4において、メチルフェニルアミン21.4g(0.20モル)に代えて、ベンジルメチルアミン24.2g(0.20モル)を用いた以外は実施例4と同様にして、Rがエチル基、Rがエチル基、Rがメチレン基、Rがメチレン基、Rがメチル基、Rがメチル基、Xがフェニル基、Xがフェニル基、Yが水素であるリン含有スルホン酸アミド化合物(化合物4)6gを取得した。化合物4の収率は、ブロモ酢酸に対して12%であった。
【0065】
(非水電解液の調製)
炭酸エチレン(EC)と炭酸ジエチル(DEC)とを、EC:DEC=30:70の体積組成比で混合して得られた混合非水溶媒に、電解質としてLiPFを1.0mol/Lの濃度となるように溶解し、該混合非水溶媒と該電解質とからなる溶液全重量に対し、非水電解液用添加剤として作製した化合物4を、含有割合が1.0質量%となるように添加し、非水電解液を調製した。
【0066】
(比較例1)
化合物1を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして非水電解液を調製した。
【0067】
(比較例2)
化合物1に代えて1,3−プロパンスルトンを用いたこと以外は、実施例2と同様にして非水電解液を調製した。
【0068】
(比較例3)
化合物1に代えてビニレンカーボネート(VC)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして非水電解液を調製した。
【0069】
(比較例4)
ビニレンカーボネート(VC)の含有割合を2.0質量%となるようにしたこと以外は、比較例3と同様にして非水電解液を調製した。
【0070】
(比較例5)
化合物1に代えてフルオロエチレンカーボネート(FEC)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして非水電解液を調製した。
【0071】
(比較例6)
フルオロエチレンカーボネート(FEC)の含有割合を2.0質量%となるようにしたこと以外は、比較例5と同様にして非水電解液を調製した。
【0072】
<評価>
(LUMOエネルギーの測定)
実施例及び比較例で得られた化合物1〜4について、LUMO(最低空分子軌道)エネルギーを測定するため、Gaussian03ソフトウェアにより、半経験的分子軌道計算を行った。軌道計算により得られた化合物1〜4のLUMOエネルギーを表1に示した。
【0073】
【表1】
【0074】
表1より、式(1)で表されるリン含有スルホン酸アミド化合物(化合物1〜4)のLUMOエネルギーは負の値を示す約−0.14eVから約−0.86eVであり、本発明の非水電解液用添加剤に係るこれらのリン含有スルホン酸アミド化合物は、低いLUMOエネルギーを有していることがわかる。そのため、化合物1〜4を非水電解液用添加剤として非水電解液二次電池等の蓄電デバイスに用いた場合、非水電解液の溶媒(例えば、環状カーボネートや鎖状カーボネート:LUMOエネルギー約1.2eV)よりも先に化合物1〜4の電気化学的還元が起こり、電極上にSEIが形成されるため電解液中の溶媒の分解を抑制することができる。その結果、高い抵抗を示す溶媒の分解被膜が電極上に形成されにくくなり電池特性の向上が期待される。
以上より、本発明の非水電解液用添加剤にかかる式(1)で表されるリン含有スルホン酸アミド化合物は充分に低いLUMOエネルギーを有しており、非水電解液二次電池等の蓄電デバイスの電極上に安定なSEIを形成する新規の非水電解液用添加剤として有効であることを示している。
【0075】
(電池の作製)
正極活物質としてLiMn、及び、導電性付与剤としてカーボンブラックを乾式混合し、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を溶解させたN−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に均一に分散させ、スラリーを作製した。得られたそのスラリーを正極集電体となるアルミ金属箔(角型、厚さ20μm)上に塗布後、NMPを蒸発させることにより正極シートを作製した。得られた正極シート中の固形分比率は、質量比で、正極活物質:導電性付与剤:PVDF=80:10:10とした。
一方、負極シートとして、市販の黒鉛塗布電極シート(宝泉社製)を用いた。
各実施例及び各比較例で得られた非水電解液中にて、負極シートと正極シートとを、ポリエチレンからなるセパレータを介して積層し、円筒型二次電池を作製した。
【0076】
(放電容量維持率及び内部抵抗比の測定)
得られた各円筒型二次電池に対して、25℃において、充電レートを0.3C、放電レートを0.3C、充電終止電圧を4.2V、及び、放電終止電圧を2.5Vとして充放電サイクル試験を行った。200サイクル後の放電容量維持率(%)及び内部抵抗比を表2に示した。なお、200サイクル後の「放電容量維持率(%)」とは、200サイクル試験後の放電容量(mAh)を、10サイクル試験後の放電容量(mAh)で割った値に100をかけたものである。また、200サイクル後の「内部抵抗比」とは、サイクル試験前の抵抗を1としたときの、200サイクル試験後の抵抗を相対値で示したものである。
【0077】
【表2】
【0078】
表2から、実施例のリン含有スルホン酸アミド化合物を含む非水電解液を用いた円筒型二次電池は、比較例の非水電解液を用いた円筒型二次電池と比較して、サイクル試験時における放電容量維持率が高いことが分かる。従って、実施例のリン含有スルホン酸アミド化合物からなる非水電解液用添加剤を含む非水電解液を非水電解液二次電池等に用いた場合、比較例の非水電解液を用いた場合と比較して、非水電解液二次電池等の電極表面上に充放電サイクルに対して安定なSEIを形成していることがわかる。また、実施例のリン含有スルホン酸アミド化合物を用いた非水電解液は、内部抵抗比が比較例の非水電解液に比べて、低い値を維持することが可能で、サイクル時による内部抵抗の増加を抑制できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、新規のリン含有スルホン酸アミド化合物を提供することができる。また、本発明によれば、非水電解液二次電池等の蓄電デバイスに用いた場合に、電極表面上に安定なSEIを形成してサイクル特性、充放電容量、内部抵抗等の電池特性を改善することができる非水電解液用添加剤を提供することができる。更に、本発明によれば、該非水電解液用添加剤を用いた非水電解液、及び、該非水電解液を用いた蓄電デバイスを提供することができる。
【符号の説明】
【0080】
1 非水電解液二次電池
2 正極集電体
3 正極活物質層
4 正極板
5 負極集電体
6 負極活物質層
7 負極板
8 非水電解液
9 セパレータ
図1