【文献】
Y.Yokota,Effects of charge compensation by Na+ co-doping for Ce3+ doped LiCaAlF6 single crystals.,IEEE,2010年10月,223-225
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
シンチレーターとは、α線、β線、γ線、X線、中性子線等の放射線が当たった時に当該放射線を吸収して蛍光を発する物質のことである。光電子増倍管などの光検出器と組み合わせることで放射線検出に用いられ、断層撮影などの医療分野、非破壊検査などの工業分野、所持品検査などの保安分野、高エネルギー物理学などの学術分野等の多彩な応用分野を持っている。
【0003】
このシンチレーターとしては、放射線の種類や使用目的に応じてさまざまな種類のシンチレーターがある。具体的には、ビスマスゲルマニウムオキサイド(Bi
4Ge
3O
12)、セリウム含有ガドリウムシリコンオキサイド(Gd
2SiO
5:Ce)などの無機結晶、アントラセンなどの有機結晶、有機蛍光体を含有させたポリスチレンやポリビニルトルエンなどの高分子体、更には液体シンチレーターや気体シンチレーターがある。
【0004】
従来の中性子検出には、
3Heガスを用いた中性子線検出器が用いられてきたが、希少な
3Heガスの価格高騰により、代替技術への置き換えが求められている。固体中性子検出用シンチレーターを用いた中性子線検出器は、代替技術として有力な候補の一つである。
シンチレーターに求められる代表的な特性としては、高い発光量、高い放射線阻止能、早い蛍光の減衰などがあげられる。特に中性子線を検出対象とするシンチレーターにおいては、中性子とFe(鉄)、Pb(鉛)、Cd(カドミウム)、C(炭素)、N(窒素)などの、検出器素材や被検査対象物質に含まれる吸収物質との間で放射線捕獲反応が起こってγ線が生じやすいので、このγ線との弁別能が必要となる。
【0005】
中性子検出用固体シンチレーターとしては、潮解性がなく、高速応答性を有する材料として
6Liガラスシンチレーターが用いられてきた。しかし、製作工程が複雑であるため高価で、大型化にも限界があった。これに対して、フッ化物結晶からなる中性子検出用シンチレーターは、大型のシンチレーターを安価に製造できる利点があり、例えば、LiBaF
3結晶からなるシンチレーターが提案されている。しかしながら、該シンチレーターはγ線に対する感度が高く、γ線に由来するバックグラウンドノイズが大きいため、中性子検出用シンチレーターとして用いる際には特段の手段を講じる必要があった(非特許文献1参照)。
【0006】
かかる問題に鑑みて、本発明者らは種々のフッ化物結晶に中性子線を照射し、その中性子検出用シンチレーターとしての特性を評価した。その結果、ランタノイド元素を含有させたLiCaAlF
6結晶において、単位体積当たり1.1〜20原子(atom/nm
3)の
6Liを含有させることで、中性子検出用シンチレーターとして特に良好な特性を有することを見出した(特許文献1参照)。
当該ランタノイド元素を含有させたLiCaAlF
6結晶は、中性子線に対する検出効率が高く、且つ、中性子線とγ線の弁別能に優れているものの、前記
3Heガスを用いた中性子線検出器の代替を目的とした固体中性子検出用シンチレーターとして用いるにあたっては、弁別能に改善の余地があった。しかし、当該弁別能を予測するための一般に認められた理論は存在せず、したがって、種々の材料について、中性子線とγ線の弁別能を事前に予測するのは困難であった。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のコルキライト型結晶は、化学式LiM
1M
2X
6(ただし、M
1はMg、Ca、Sr及びBaからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属元素であり、M
2はAl、Ga及びScからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素であり、XはF、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種のハロゲン元素である)で表わされる金属ハロゲン化物からなる。
当該コルキライト型結晶は、空間群P31cに属する六方晶であって、粉末X線回折の手法によって容易に同定することができる。
【0015】
前記コルキライト型結晶の中でも、ハロゲン元素がFであるコルキライト型結晶が、潮解性がなく、化学的安定性に優れているため、最も好ましい。なお、当該ハロゲン元素がFであるコルキライト型結晶において、発光量等のシンチレーターとしての特性を改善する目的で、Fの一部をCl、BrまたはIで置換しても良い。
前記ハロゲン元素がFであるコルキライト型結晶の中でも、化学式LiCa
1−xSr
xAlF
6(ただし、xは0〜1である)で表わされるコルキライト型結晶が、大型の結晶を作製しやすく、また、シンチレーターとして用いた際の発光量を高めることができ、好ましい。さらに前記化学式中のxを0としたLiCaAlF
6は、有効原子番号が小さく、γ線に対する感度を低減することができるため、最も好ましい。なお、本発明において、有効原子番号とは下式で定義される指標である。
有効原子番号=(ΣW
iZ
i4)
1/4
式中、Wi及びZiは、それぞれシンチレーターを構成する元素のうちのi番目の元素の質量分率及び原子番号である。
【0016】
本発明のコルキライト型結晶は、
6Liの同位体比が20%以上であることを特徴とする。当該
6Liの同位体比は、全リチウム元素に占める
6Li同位体の比率であって、中性子線に対する検出効率に影響する。すなわち、コルキライト型結晶に入射した中性子は、当該
6Li同位体と核反応を起こすことによって検出されるため、
6Liの同位体比が高いほど、中性子検出用シンチレーターとして用いた際の中性子線に対する検出効率が向上する。検出効率が向上することによって、入射した中性子線をもれなく検出することができるため、かかる中性子検出用シンチレーターは、高い感度を要求される用途において特に好適に使用できる。
6Liの同位体比を20%以上とすることによって、得られるコルキライト型結晶の中性子線に対する検出効率を充分に高めることができるが、さらに検出効率を高める目的で、50%以上とすることが好ましく、90%以上とすることが最も好ましい。
【0017】
かかる
6Liの同位体比は、原料として用いるLiF等のハロゲン化リチウム(以下、LiXという)中の
6Liの同位体比を調整することによって適宜調整できる。
天然に存在するLiでは
6Liの同位体比は約7.6%にすぎないが、
6Li同位体を濃縮し
6Liの同位体比を高めた原料が市販されており、容易に入手することができる。
本発明において、
6Liの同位体比を調整する方法としては、
6Li同位体が所期の
6Liの同位体比まで濃縮された原料を用いる方法、或いはあらかじめ
6Liが所期の
6Liの同位体比以上に濃縮された原料を用意し、該濃縮された原料と天然の同位体比を有する汎用の原料を混合して調整する方法が挙げられる。
【0018】
本発明のコルキライト型結晶は、Ce、Pr及びNdから選ばれる少なくとも1種のランタノイド元素を含有することを特徴とする。当該ランタノイド元素は、中性子が入射した際に発光するための賦活剤として作用する。前記Ce、Pr及びNdは、いずれも5d準位から4f準位への電子遷移による発光を呈し、かかる発光は蛍光寿命が短いため、高速応答性に優れたシンチレーターを得ることができる。
前記ランタノイド元素の中でも、Ceが発光量が高いため好ましい。なお、本発明において、発光量とは放射線の入射によって生じるシンチレーション光の光子数であり、中性子線に対しては入射中性子あたりの光子数(photons/neutron)で表わし、γ線に対しては入射γ線のエネルギーあたりの光子数(photons/MeV)で表わす。
ランタノイド元素の含有量は、コルキライト型結晶に対して、0.01〜0.5mol%とすることが好ましい。0.01mol%以上とすることによって、シンチレーターとしての特性が良好なコルキライト型結晶を得ることができ、0.5mol%以下とすることによって、結晶の製造における結晶の白濁等の問題を回避することができる。なお、ランタノイド元素の含有量は、後述するように、コルキライト型結晶の製造において、混合原料に添加するランタノイド元素のハロゲン化物の混合比によって適宜調整できる。
【0019】
本発明のコルキライト型結晶は、Na、K、Rb及びCsから選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属元素を含有することを最大の特徴とする。当該アルカリ金属元素を含有せしめることによって、コルキライト型結晶をシンチレーターとして用いた際の発光量が増大するばかりでなく、中性子線とγ線との弁別能も向上する。
一般には、中性子の入射による発光量が増大した場合、γ線の入射による発光量も増大する。これに対して本発明のコルキライト型結晶は、前記アルカリ金属元素を含有することによって、中性子の入射による発光量は増大するものの、γ線の入射による発光量は増大しない。したがって、両者の発光量の差異がきわめて大きく、かかる発光量の差異を利用すれば、シンチレーターより生じる発光パルスの波高値に閾値を設け、当該閾値を超える発光パルスのみを中性子線の入射による信号として扱うこと、すなわち、中性子線とγ線とを弁別することが容易となる。
本発明のコルキライト型結晶は、前記のような中性子線とγ線との弁別能を特異的に示すが、その作用機構については明らかでない。
前記アルカリ金属元素の中でも、Naが最も好ましい。即ち、Naは原子番号が小さいためγ線と相互作用する確率が低く、また、潮解性の無いコルキライト型結晶を得ることができるため、好適である。
【0020】
アルカリ金属元素の含有量は、ランタノイド元素の場合と同じ理由で、コルキライト型結晶に対して、0.001〜10mol%であることが好ましく、0.01〜0.5mol%であることが特に好ましい。アルカリ金属元素の含有量は、後述するように、コルキライト型結晶の製造において、混合原料に添加するランタノイド元素のハロゲン化物の混合比によって適宜調整できる。
【0021】
本発明のコルキライト型結晶は、単結晶または多結晶のいずれの形態であってもよい。しかし、格子欠陥に起因する非輻射遷移や結晶粒界でのシンチレーション光の散逸などによるロスを生じることなく、発光量の高い中性子用シンチレーターとするためには、単結晶であることが好ましい。
【0022】
本発明のコルキライト型結晶は、無色ないしはわずかに着色した透明な結晶であり、シンチレーション光の透過性に優れる。また、良好な化学的安定性を有しており、通常の使用においては短期間での性能の劣化は認められない。更に、機械的強度及び加工性も良好であり、所望の形状に加工して用いることが容易である。
【0023】
本発明のコルキライト型結晶の製造方法は特に限定されず、公知の結晶製造方法によって製造することができるが、チョクラルスキー法、またはマイクロ引き下げ法によって製造することが好ましい。チョクラルスキー法、またはマイクロ引き下げ法で製造することにより、透明性等の品質に優れたコルキライト型結晶を製造することができる。マイクロ引下げ法によれば、結晶を特定の形状にて直接製造することができ、しかも短時間で製造することができる。一方、チョクラルスキー法によれば、直径が数インチの大型結晶を安価に製造することが可能となる。
【0024】
以下、チョクラルスキー法によってコルキライト型結晶を製造する際の、一般的な方法について説明する。
まず、所定量の原料を、坩堝1に充填する。原料の純度は特に限定されないが、99.99%以上とすることが好ましい。このような純度の高い原料を用いることにより、得られる結晶の純度を高めることができるため発光量等の特性が向上する。原料は、粉末状あるいは粒状の原料を用いても良く、あらかじめ焼結或いは溶融固化させてから用いてもよい。
【0025】
原料としては、目的とするコルキライト型結晶に応じて、LiX、前記アルカリ土類金属のハロゲン化物(例えば、MgF
2、CaF
2、SrF
2及びBaF
2等)、前記金属元素のハロゲン化物(例えば、AlF
3、GaF
3及びScF
3等)、前記アルカリ金属元素のハロゲン化物(例えば、NaF、KF、RbF及びCsF等)ならびに前記ランタノイド元素のハロゲン化物(例えば、CeF
3、PrF
3及びNdF
3等)を適宜混合した混合原料が用いられる。
【0026】
当該混合原料中のLiX、アルカリ土類金属のハロゲン化物及び金属元素のハロゲン化物の混合比は、1:1:1のモル比となるように調製する。ただし、前記チョクラルスキー法、またはマイクロ引き下げ法のような融液成長法によってコルキライト型結晶を製造する場合、LiX及び金属元素のハロゲン化物が揮発しやすいため、これらをそれぞれ1〜10%程度過剰にしてもよい。揮発量は、結晶の製造条件(温度・雰囲気・工程)によって全く異なるため、予めLiX及び金属元素のハロゲン化物の揮発量を調べて、原料の混合比を決めることが望ましい。
【0027】
コルキライト型結晶に含有せしめるアルカリ金属元素及びランタノイド元素の量は、前記混合原料に添加するアルカリ金属元素のハロゲン化物、及びランタノイド元素のハロゲン化物の混合比によって適宜調整できる。
アルカリ金属の添加量は偏析による結晶中に含まれるアルカリ金属元素量の変化を勘案して、コルキライト型結晶に対して0.001〜10mol%であることが好ましく、0.01〜5mol%であればさらに好ましい。
ランタノイド元素の添加量は、コルキライト型結晶に対して0.01〜0.5mol%であることが好ましい。
【0028】
次いで、上記原料を充填した坩堝1、ヒーター2、断熱材3、及び可動ステージ4を
図1に示すようにセットする。坩堝1の上に、底部に穴の開いた坩堝をもう一つ設置し、ヒーター2等に固定して吊るすことで、二重坩堝構造としてもよい。
種結晶5を自動直径制御装置6の先端に取り付ける。種結晶に替えて、高温下での耐蝕性に優れた白金などの金属を用いてもよいが、製造するコルキライト型結晶もしくはそれと近い結晶構造を持った単結晶を用いた方が、結晶の割れを回避することができ、好適である。
前記自動直径制御装置は、結晶の重量を測定するロードセルと、測定された重量をヒーター出力にフィードバックする回路系で構成されており、当該自動直径制御装置を用いることによって、所期の直径の結晶を精度よく安定して製造することができる。
【0029】
次に真空排気装置を用いて、チャンバー7の内部を1.0×10
−3Pa以下まで真空排気した後、高純度アルゴン等の不活性ガスをチャンバー内に導入してガス置換を行う。ガス置換後のチャンバー内の圧力は特に限定されないが、大気圧が一般的である。このガス置換操作によって、原料或いはチャンバー内に付着した水分を除去することができ、かかる水分に由来する結晶の劣化を妨げることができる。
上記ガス置換操作によっても除去できない水分による悪影響を避けるため、水分との反応性が高いスカベンジャーを用いることが好ましい。当該スカベンジャーは、四フッ化メタン等が好適に使用でき、上記不活性ガスに混合してチャンバー内に導入される。
【0030】
ガス置換操作を行った後、高周波コイル8、及びヒーター2によって原料を加熱して溶融させる。加熱方式は特に限定されず、例えば上記高周波コイルとヒーターを用いた誘導加熱方式に替えて、カーボンヒーター等を用いた抵抗加熱方式を適宜用いることができる。
次いで、溶融した原料融液を、種結晶と接触させる。種結晶と接触した部分が凝固する温度になるようヒーター出力を調整した後、自動直径制御装置6による制御の元、引き上げ速度を自動調整しながら結晶を引き上げる。なお、液面高さの調整のため可動ステージ4を上下方向に適宜動かしてもよい。高周波コイルの出力を適宜調整しながら連続的に引き上げ、所望の長さとなったところで液面から切り離し、結晶に割れが入らないように十分な時間をかけて冷却することで、コルキライト型結晶を得ることができる。
【0031】
フッ素原子の欠損あるいは熱歪に起因する結晶欠陥を除去する目的で、製造した結晶に対しアニール処理を行ってもよい。
得られたコルキライト型結晶は、良好な加工性を有しており、所望の形状に加工して中性子検出用シンチレーターとして用いることができる。加工に際しては、公知のブレードソー、ワイヤーソー等の切断機、研削機、或いは研磨盤を何ら制限無く用いる事ができる。
【0032】
本発明の中性子検出用シンチレーターの形状は特に制限されないが、後述する光検出器に対向する光出射面を有し、当該光出射面は光学研磨が施されていることが好ましい。かかる光出射面を有することによって、シンチレーターで生じた光を効率よく光検出器に入射できる。
前記光出射面の形状は限定されず、一辺の長さが数mm〜数百mm角の四角形、或いは直径が数mm〜数百mmの円形など、用途に応じた形状を適宜選択して用いることができる。
シンチレーターの中性子線入射方向に対する厚さは、検出対象とする中性子線のエネルギーによって異なるが、一般に数百μm〜数百mmである。
光検出器に対向しない面に、アルミニウム或いはテフロン(登録商標)等からなる光反射膜を施すことにより、シンチレーターで生じた光の散逸を防止することができ、好ましい。
【0033】
本発明の中性子検出用シンチレーターは、光検出器と組み合わせて中性子線検出器とすることができる。即ち、中性子線の照射により中性子検出用シンチレーターから発せられた光を、光検出器によって電気信号に変換することによって、中性子線の有無及び強度を電気信号として捉えることができる。本発明において、光検出器は特に限定されず、光電子増倍管、フォトダイオード等の従来公知の光検出器を何ら制限なく用いることができる。
【0034】
本発明の中性子検出用シンチレーターと光検出器とを組み合わせて中性子線検出器を製作する方法は特に限定されず、例えば、光検出器の光検出面に中性子検出用シンチレーターの光出射面を光学グリース等で接着し、光検出器に電源および信号読出し回路を接続して中性子線検出器を製作することができる。なお、前記信号読出し回路は、一般に前置増幅器、整形増幅器、多重波高分析器およびオシロスコープなどで構成される。
また、前記光反射膜が施されたシンチレーターを多数配列し、光検出器として位置敏感型光検出器を用いることにより、中性子検出器に位置分解能を付与することができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。また、実施例の中で説明されている特徴の組み合わせすべてが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。
【0036】
実施例1
〔コルキライト型結晶の製造および中性子検出用シンチレーターの作製〕
化学式LiCaAlF
6で表わされ、アルカリ金属元素及びランタノイド元素としてそれぞれNaおよびCeを含有するコルキライト型結晶を製造した。なお、
6Liの同位体比は95%とした。
図1に示すチョクラルスキー法による結晶製造装置を用いて、前記コルキライト型結晶を製造した。原料としては、純度が99.99%以上のLiF、CaF
2、AlF
3、NaFおよびCeF
3の高純度フッ化物粉末を用いた。また、LiFとしては、
6Liの同位体比が95%の市販品を用いた。坩堝1、ヒーター2、及び断熱材3は、高純度カーボン製のものを使用した。
【0037】
まず、LiF、CaF
2、AlF
3、NaFおよびCeF
3の混合比(モル比)が、1.01:1:1.03:0.02:0.02となるようにそれぞれ秤量し、よく混合して混合原料を調製した。なお、混合原料の総重量は3kgとした。得られた混合原料を坩堝1に充填し、当該坩堝1を可動ステージ4上に設置し、その周囲にヒーター2、及び断熱材3を順次セットした。次に種結晶5として、LiCaAlF
6単結晶を6×6×30mm
3の直方体形状に加工したものを自動直径制御装置の先端に取り付けた。
油回転ポンプ及び油拡散ポンプからなる真空排気装置を用いて、チャンバー6内を5.0×10
−4Paまで真空排気した後、四フッ化メタン−アルゴン混合ガスをチャンバー7内に大気圧まで導入し、ガス置換を行った。
【0038】
高周波コイル8に高周波電流を印加し、誘導加熱によって原料を加熱して溶融させた。種結晶5を移動し、種結晶5の6×6mm
2の面を、溶融した原料の液面に接触させた。種結晶と接触した部分が凝固する温度となるようヒーター出力を調整した後、自動直径制御装置6による制御のもと、結晶の直径を55mmまで徐々に拡大し、その後直径を55mmの一定に保ちながら、結晶を引き上げた。
育成中、液面高さが一定となるよう調整するため可動ステージ4を適宜動かし、高周波コイルの出力を適宜調整しながら連続的に引き上げ、約80mmの長さとなったところで液面から切り離し、約48時間かけて冷却することで、直径55mm、長さ約80mmの単結晶を得た。
当該単結晶の一部を粉砕し、得られた粉末についてX線回折測定を行った結果、当該単結晶はコルキライト型結晶の一種であるLiCaAlF
6単結晶であることが分かった。
【0039】
次いで、当該単結晶の一部を用いて、厚さが1mmで両面が光学研磨されたディスク状の試料を作製した。当該試料についてSEM−EDSによる測定を行った結果、Naが検出された。また、当該試料の吸収スペクトルを測定した結果、約270nmの波長領域にCeに由来する特徴的な吸収が見られた。ICPによる分析により結晶中の各種イオンの含有量を調べたところ、結晶中のCeの含有量は0.074mol%、Naの含有量は0.85mol%であった。
これらより、本実施例で製造された単結晶は、化学式LiCaAlF
6で表わされ、Na及びCeを含有し、且つ
6Liの同位体比が95%のコルキライト型結晶である。
得られたコルキライト型結晶を、ダイヤモンドワイヤーを備えたワイヤーソーによって切断した。次いで、当該結晶の全面を研磨盤によって研削および光学研磨し、10×10×4mm
3の形状に加工して、本発明の中性子検出用シンチレーターを得た。
【0040】
〔中性子線検出器の製作〕
まず、前記中性子検出用シンチレーターの10×10mm
2の面を光出射面とし、当該光出射面以外の面にテープ状のテフロン(登録商標)を巻いて光反射膜とした。次いで、光検出器として光電子増倍管(浜松ホトニクス社製 R7600U)を用意し、当該光電子増倍管の光検出面に、前記シンチレーターの光出射面を光学グリースで接着した。
前記光電子増倍管に電源および信号読出し回路を接続して中性子線検出器を製作した。なお、前記信号読出し回路として、光電子増倍管側から前置増幅器、整形増幅器及び多重波高分析器を接続した。
【0041】
〔中性子検出器の特性評価〕
中性子線検出器を遮光用のブラックシートで覆った後に、約1MBqの放射能の
252Cf密封線源からの中性子線を、40mmの厚みのポリエチレンブロックで減速して照射した。
光電子増倍管に接続された電源を用いて、650Vの高電圧を光電子増倍管に印加した。中性子の入射によって、シンチレーターで生じた発光パルスを光電子増倍管でパルス状の電気信号に変換し、当該電気信号を前置増幅器、整形増幅器を介して多重波高分析器に入力した。多重波高分析器に入力された電気信号を解析して波高分布スペクトルを作成した。次に、中性子線に替えて、約1kBqの放射能の
60Co密封線源からのγ線を照射する以外は、前記と同様にして波高分布スペクトルを作成した。
【0042】
得られた波高分布スペクトルを
図2に示す。
図2の実線および点線は、それぞれ中性子線およびγ線照射下での波高分布スペクトルである。なお、当該波高分布スペクトルの横軸は、パルス状の電気信号の波高値すなわちシンチレーターの発光量を表しており、ここでは、中性子線照射下での波高分布スペクトルのピークの波高値を1とした相対値で示した。また、縦軸は各波高値を示した電気信号の頻度を表し、ここでは、電気信号が計測された頻度(counts/sec)で示した。
図2より中性子線を検出した結果として生じる明瞭なピークが確認でき、中性子線検出器として動作していることがわかる。また、γ線の入射によって生じる電気信号の波高値は、中性子線の入射によって生じる電気信号の波高値に比較してはるかに低く、容易にγ線と中性子線を弁別できることが分かる。
【0043】
比較例1
化学式LiCaAlF
6で表わされ、前記アルカリ金属元素を含まず、ランタノイド元素としてCeを含有するコルキライト型結晶を製造した。なお、
6Liの同位体比は95%とした。
混合原料中にNaFを添加しない以外は、実施例1と同様にして単結晶を得た。得られた単結晶について、実施例1と同様の測定を行った結果、本比較例で製造された単結晶は、化学式LiCaAlF
6で表わされ、Ceを含有し、且つ
6Liの同位体比が95%のコルキライト型結晶であった。
実施例1と同様にして、得られた単結晶を加工し、シンチレーターとした後、中性子線検出器を製作した。得られた中性子線検出器を用いて、中性子線およびγ線照射下での波高分布スペクトルを作成した。
得られた波高分布スペクトルを
図3に示す。
図3の実線および点線は、それぞれ中性子線およびγ線照射下での波高分布スペクトルである。横軸および縦軸は
図2と同じである。
図3より、中性子線由来の明瞭なピークが確認でき、中性子線検出器として動作している。しかしながら、γ線由来の波高値は中性子線由来の波高値に比較して低いものの、その最大値は中性子の波高値に対して約0.6に達している。これに対して、実施例1の中性子線検出器ではγ線由来の波高値は約0.4にとどまっており、中性子線とγ線との弁別能が劣る。
【0044】
図4に、実施例1及び比較例1の中性子検出用シンチレーターに中性子線を照射して得られた波高分布スペクトルを示す。なお、ここでは、比較例1の中性子検出用シンチレーターで得られた波高分布スペクトルのピーク値を1とした相対値で示した。
図4より、実施例1の中性子検出用シンチレーターは従来と比較して、中性子線の入射による発光量が約1.2倍に達しており、本発明の中性子検出用シンチレーターは発光量にも優れることが分かる。
以上の説明より、本発明のコルキライト型結晶からなる中性子検出用シンチレーターは、中性子線とγ線との弁別能および中性子線が入射した際の発光量に優れており、また、当該中性子検出用シンチレーターを用いた中性子線検出器が有効であることが分かる。
【0045】
実施例2
図5に示す製造装置を用いて、Ce、およびNaを含有するフッ化リチウムカルシウムアルミニウムの結晶を製造した。原料としては、純度が99.99%のフッ化リチウム(
6Li同位体比95%)、及びフッ化カルシウム、フッ化アルミニウム、フッ化セリウム、フッ化ナトリウムを用いた。アフターヒーター10、ヒーター11、断熱材12、ステージ13、及び坩堝14は、高純度カーボン製のものを使用し、坩堝底部に設けた孔の形状は直径2.0mm、長さ0.5mmの円柱状とした。
まず、フッ化リチウム0.53g、及びフッ化カルシウム1.66g、フッ化アルミニウム1.87g、フッ化セリウム84mg、フッ化ナトリウム18mgをそれぞれ秤量し、よく混合した後に坩堝14に充填した。原料を充填した坩堝14を、アフターヒーター10の上部にセットし、その周囲にヒーター11、及び断熱材12を順次セットした。
次いで、油回転ポンプ及び油拡散ポンプからなる真空排気装置を用いて、チャンバー15内を5.0×10
−4Paまで真空排気を行った。同時に、真空排気時の坩堝内部の温度は570Kとなるよう、高周波コイル16を用いて加熱を行った。
【0046】
アルゴン95vol.%−四フッ化メタン5vol.%混合ガスをチャンバー15内に導入し、高周波コイル16を用いて、坩堝底部の温度を計測しながら、加熱温度が790Kとなるよう高周波加熱コイルの出力を調整した。混合ガス置換後のチャンバー15内の圧力は大気圧とし、この状態で30分加熱を継続した。次に、高周波加熱コイルによる過熱を継続したまま、真空排気を行い、さらにチャンバー15内にアルゴンガスを導入してガス置換を行った。アルゴンガス置換後のチャンバー15内の圧力は大気圧とした。同様の操作を2回行った。
高周波加熱コイル16を用いて、原料をフッ化リチウムカルシウムアルミニウムの融点まで加熱して溶融せしめた。次いで、高周波の出力を調整して原料融液の温度を徐々に上げながら、引下げロッド17の先端に設けたW−Re合金からなる金属ワイヤーを、坩堝14底部の孔に挿入し、引下げる操作を繰り返して、原料融液を上記孔より引き出した。この時点の温度が保たれるように高周波の出力を固定し、原料の融液を引き下げ、結晶の育成を開始した。1mm/hrの速度で連続的に14時間引き下げ、最終的に直径2.1mm、長さ40mmのCe、およびNaを含有するフッ化リチウムカルシウムアルミニウム単結晶を得た。
ICPによる分析により結晶中の各種イオンの含有量を調べたところ、結晶中のCeの含有量は0.082mol%、Naの含有量は0.91mol%であった。
【0047】
実施例1と同様にして、得られた単結晶を加工し、シンチレーターとした後、中性子線検出器を製作した。得られた中性子線検出器を用いて、中性子線およびγ線照射下での波高分布スペクトルを作成した。
得られた波高分布スペクトルを
図6に示す。
図6の実線および点線は、それぞれ中性子線およびγ線照射下での波高分布スペクトルである。横軸および縦軸は
図2と同じである。
図6より、中性子線由来の明瞭なピークが確認でき、中性子線検出器として動作していること、並びに容易にγ線と中性子線を弁別できることが分かる。
【0048】
実施例3
原料として、フッ化リチウム0.53g、及びフッ化カルシウム1.66g、フッ化アルミニウム1.88g、フッ化セリウム84mg、フッ化ナトリウム2.7mgとした以外は実施例1と同様に結晶育成を行い、最終的に直径2.1mm、長さ40mmのEuを含有するフッ化リチウムカルシウムアルミニウム結晶を得た。
ICPによる分析により結晶中の各種イオンの含有量を調べたところ、結晶中のCeの含有量は0.081mol%、Naの含有量は0.27mol%であった。
実施例1と同様にして、得られた単結晶を加工し、シンチレーターとした後、中性子線検出器を製作した。得られた中性子線検出器を用いて、中性子線およびγ線照射下での波高分布スペクトルを作成した。
得られた波高分布スペクトルを
図7に示す。
図7の実線および点線は、それぞれ中性子線およびγ線照射下での波高分布スペクトルである。横軸および縦軸は
図2と同じである。
図7より、中性子線由来の明瞭なピークが確認でき、中性子線検出器として動作していること、並びに容易にγ線と中性子線を弁別できることが分かる。