(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づき具体的に説明する。
実施の形態1
図1はオンライン補正システムの構成の一例を示す図である。オンライン補正システムは補正値算出装置1、プロセスデータ保存システム2、HSMS(High Speed Message Services)通信中継システム3、プロセス装置4(製造装置)、MES(Manufacturing Execution System)5を含む。
【0023】
プロセスデータ保存システム2は過去のプロセスについてのデータを保存している。保存しているデータは、例えば、実行したプロセスのレシピ、プロセス実行パラメータの値、プロセス実行時に測定した温度センサ、圧力センサ、ガスセンサの計測値、プロセス結果の出来栄え指標などである。
HSMS通信中継システム3は装置間の通信メッセージシーケンスを中継するシステムである。HSMS通信中継システム3は特定の通信シーケンスを検知して、ネットワーク上の補正値算出装置1に対して、各種イベント送信(補正値算出用要求、モデル更新要求)及びリプライの受信が可能である。HSMS通信中継システム3は必要に応じて、独自にプロセス装置4、MES5等と通信を行う機能も有し、補正値算出装置1による補正値算出結果をプロセス装置4のプロセス実行パラメータに反映することが可能である。
プロセス装置4はプロセスを実行する装置である。プロセスとは例えば、成膜、エッチング、洗浄等である
MES5は半導体製造工程の全体を管理するシステムである。
【0024】
図2は補正値算出装置1のハードウェア構成の一例を示す図である。補正値算出装置1はサーバコンピュータ、パーソナルコンピュータ等の汎用のコンピュータにより構成することが可能である。補正値算出装置1は制御部10、RAM(Random Access Memory)11、記憶部12、操作部13、通信部14を含む。
【0025】
制御部10はCPU(Central Processing Unit)又はMPU(Micro Processor Unit)等である。制御部10は記憶部12に記憶されている制御プログラム12Pを適宜RAM11にロードして実行することにより上述した各部を制御することで補正値算出装置1として動作させる。
RAM11はSRAM(Static RAM)、DRAM(Dynamic RAM)、フラッシュメモリ等である。RAM11は制御部10による各種プログラムの実行時に発生する種々のデータを一時的に記憶する。
【0026】
記憶部12はEEPROM(Electrically Erasable and Programmable ROM)、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリである。記憶部12は制御部10が実行すべき制御プログラム及び各種データを予め記憶している。
【0027】
操作部13はユーザが各種の入力を行うキーボード、マウスなどである。通信部14はプロセス装置4、MES5と通信を行う。
【0028】
次に補正値算出装置1が用いるモデルについて説明する。モデルとは取得するデータの定義と、算出ロジックを定義したものである。補正値算出装置1はモデルにより様々な現象を捉え、数式として表現する。ここでは変動現象をプロセス要素に変換するモデル(以下「変動−プロセスモデル」と記す。)と、出来栄え変動をプロセス要素に変換するモデル(以下「出来栄え−プロセスモデル)とを、補正値算出装置1は用いる。
【0029】
変動現象とはプロセス装置4の状態変化によって観測される現象である。例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition)プロセス装置4におけるプロセスチューブの累積膜厚の変化である。プロセス要素とはプロセス装置4単体のプロセス結果(出来栄え)を左右する物理的要因、化学的要因、または要因となる装置のプロセスパラメータである。プロセスパラメータは、例えば、温度、ガス流量、圧力、電圧、プラズマ状態、薬液濃度である。出来栄え変動とは出来栄え指標値の変化である。
【0030】
変動−プロセスモデル(装置モデル)により、装置の変動現象をプロセス要素毎の変動量に換算することが可能となる。出来栄え−プロセスモデル(プロセスモデル)により、プロセス要素毎の変動を出来栄え指標の変動量に換算すること、出来栄え指標の変動をプロセス要素の変動量に換算することが可能となる。変動−プロセスモデルと出来栄え−プロセスモデルとにより、出来栄え指標の変動をプロセス要素の変動量に換算することが可能となる。
【0031】
図3は変動−プロセスモデル、出来栄え−プロセスモデルの一例を概念的に示す図である。モデル1、モデル2が変動−プロセスモデルである。モデル3からモデル7が出来栄え−プロセスモデルである。モデル1は変動現象Aがプロセス要素の温度、ガス分圧、圧力と関係することを示している。モデル3は出来栄え指標の膜厚がプロセス要素の温度、ガス分圧、圧力、電圧に関係することを示している。ここで、ある特定のプロセスについて、プロセス要素と出来栄え指標との関係を示すモデル、プロセス要素に影響を与える変動現象とプロセス要素との関係を示すモデルを定義したものをストラテジーという。
【0032】
以上に示す変動−プロセスモデル、出来栄え−プロセスモデル、ストラテジーは過去のプロセス結果を用いて、作成してあるものとする。
【0033】
図4は補正値算出装置1の制御部10により実現される機能を示す機能ブロック図である。制御プログラム12Pに含まれる各プログラムに基づき、モデル取得部10a、センサ値取得部10b、第1変換部10c、指標値取得部10d、第2変換部10e、変動量算出部10f、補正量算出部10g、補正値算出部10h、送信部10iとして機能する。
【0034】
次にオンライン補正システムの動作について説明する。
図5A、
図5Bはオンライン補正システムの動作の一例を示すシーケンスチャートである。MES5はプロセスの開始要求をHSMS通信中継システム3に送信する(ステップS1)。HSMS通信中継システム3はMES5よりプロセス開始要求を受信する(ステップS2)。HSMS通信中継システム3は補正値算出装置1に補正値算出要求を送信する(ステップS3)。補正値算出装置1は補正値算出要求をHSMS通信中継システム3より受信する(ステップS4)。補正値算出装置1は補正値算出のためのデータをプロセスデータ保存システム2より収集する(ステップS5)。ステップS5で、補正値算出装置1の制御部10(モデル取得部10a)は変動−プロセスモデル、出来栄え−プロセスモデル、ストラテジーを取得する。補正値算出装置1は補正値の算出を行う(ステップS6)。補正値算出装置1の制御部10(送信部10i)は算出した補正値をHSMS通信中継システム3に送信する(ステップS7)。HSMS通信中継システム3は補正値算出装置1より補正値を受信する(ステップS8)。HSMS通信中継システム3は受信した補正値に基づいてパラメータ(制御パラメータ)を変更するよう、プロセス装置4にパラメータ変更要求及び受信した補正値を送信する(ステップS9)。プロセス装置4はHSMS通信中継システム3からパラメータ変更要求及び補正値を受信する(ステップS10)。プロセス装置4はHSMS通信中継システム3から受信したパラメータ変更要求及び補正値に従い、パラメータの更新を行う(ステップS11)。プロセス装置4はパラメータを変更した旨の応答をHSMS通信中継システム3に送信する(ステップS12)。HSMS通信中継システム3はプロセス装置4からパラメータ変更した旨の応答を受信する(ステップS13)。HSMS通信中継システム3はプロセス開始要求をプロセス装置4に送信する(ステップS14)。プロセス装置4はプロセス開始要求を受信する(ステップS15)。プロセス装置4はプロセス開始応答をHSMS通信中継システム3に送信する(ステップS16)。プロセス装置4はステップS16後にプロセスを実行する(S18)。HSMS通信中継システム3はプロセス開始要求に対する応答を受信する(ステップS17)。HSMS通信中継システム3はプロセス開始要求に対する応答をMES5に送信する(ステップS19)。MES5はHSMS通信中継システム3よりプロセス開始要求に対する応答を受信する(ステップS20)。
【0035】
次に、補正値算出装置1が行う補正値算出処理について説明する。
図6は補正値算出装置1が行う補正値算出の処理手順を示すフローチャートである。補正値算出装置1の制御部10(センサ値取得部10b)はプロセス要素の変動を観測するセンサ又は変動を予測するためのセンサの値を取得する(ステップS21)。センサで観測可能であるプロセス要素は電圧、温度、ガス流量、圧力等である。センサの値より変動を予測するプロセス要素の一例はドライエッチング装置、プラズマCVD装置におけるプラズマ状態である。プラズマ状態は直接測ることができない。そのため、光センサでプラズマ光の発光強度を観測する。観測した発光強度よりプラズマ状態を特定する。プラズマ光を分光器に入力し、波長に対する発光強度の分布を観測する。波長に対する発光強度の分布によりプラズマ状態を特定する。
【0036】
制御部10(第1変換部10c)は取得したセンサ値より、変動−プロセスモデルを用いてプロセス要素の変動予測を行う(ステップS22)。
図3に示す例では、変動現象Aによる変動はモデル1を用いてプロセス要素の温度、ガス分圧、圧力の変動に変換されることとなる。変動現象Bによる変動はモデル2を用いてプロセス要素の温度、電圧などの変動に変換されることとなる。監視している全ての変動現象について、変動−プロセスモデルを用いて、プロセス要素の変動が求められたら、制御部10(変動量算出部10f)は出来栄え−プロセスモデルを用いて、プロセス要素の変動を出来栄えの指標の変動に変換する(ステップS23)。
【0037】
制御部10(指標値取得部10d)はプロセス状態の変動を示す指標値を取得する。指標値はプロセス装置4から取得しても良いし、プロセス装置4の動作履歴を保存するプロセスデータ保存システム2より取得しても良い。また、プロセス装置4、プロセスデータ保存システム2より指標値を算出するための数値を受け取り、制御部10(指標値取得部10d)が算出しても良い。指標値を元に制御部10はプロセス状態の変動検知・予測を行う(ステップS24)。プロセス状態の変動とはパーツや装置の経時変化や前プロセスの変動など、何らかの要因により、プロセス要素が間接的に受ける変動を定量化する。上記ステップS22がプロセス要素の直接的な変動を検知・予測するのに対し、ステップS24は間接的にプロセス要素に影響を与える現象を定義する。例えば、装置断熱材の劣化による温度影響の経時変化である。
【0038】
制御部10(第2変換部10e)はプロセス状態の変動検知・予測結果を変動−プロセスモデルを用いて、プロセス要素の変動に換算する(ステップS25)。
【0039】
制御部10(変動量算出部10f)は換算したプロセス要素の変動を出来栄え−プロセスモデルを用いて、出来栄え指標の変動に変換する(ステップS26)。
なお、ステップS24からS26はステップS21からS23より先に行うこととしても良い。また、制御部10の処理能力に余裕がある場合、ステップS21からS23までの処理とステップS24からS26までの処理を並列処理で行なっても良い。
【0040】
制御部10はステップS23で求めた出来栄え指標の変動と、ステップS26で求めた出来栄え指標の変動とを総合して、プロセスの出来栄えを予測する(ステップS27)。ここで、2つの出来栄え指標からどのような処理についてプロセスの出来栄えを予測するかについても、モデル、ストラテジーにより求めるようにしても良い。
【0041】
制御部10(補正量算出部10g)はプロセスの出来栄え予測の結果と、MES5より取得した各出来栄え指標の目標値及びレンジ(規格値)とを比較し、各出来栄え指標の補正量を算出する(ステップS28)。
【0042】
制御部10(補正値算出部10h)は出来栄え補正量をプロセス要素毎の補正量に変換する(ステップS29)。制御部10(補正値算出部10h)はステップS27にて算出済みのプロセス要素の変動補正を考慮した上で、出来栄え指標が目標とするレンジ内に収まるように補正量の最適化を行う。制御部10は補正値算出処理を終了する。ここで、複数の出来栄え指標値がトレード・オフの関係となるものが考えられる。そのような場合は、パレート最適解を使用して指標値のバランスを決定する。プロセス要素毎の補正量の算出、最適化処理はモデル、ストラテジーにて定義する。
【0043】
本実施の形態における補正値算出装置1は変動現象を根本要因であるプロセス要素で補正することにより、プロセス再現性が向上する。プロセス再現性の向上により、複数の出来栄え指標の変動も同時に低減させることとなる。
【0044】
次にバッチ炉によるCVD(Chemical Vapor Deposition)プロセスでの装置変動低減を例として、補正値算出装置1で用いるモデル、ストラテジーについて、説明する。
【0045】
プロセス要素の変動予測(
図6ステップS22)、出来栄えの予測1(ステップS23)において用いるモデルについて説明する。変動―プロセスモデルの一例として、ガスセンサの基準値変動とプロセス実行時のガスの実流量変動量の関係を表すモデルについて述べる。
【0046】
図7はガスセンサ値の基準値変動を示すグラフである。プロセスガスであるガスAを計測するガスセンサ値の基準値変動を示している。縦軸が出力値で単位はsccmである。横軸は実行ラン数(プロセスを実行した回数)である。基準値は例えばプロセス開始前などプロセス装置4の定常状態においてセンサが出力する値である。プロセス装置4及びガス流量センサが変動のない理想的なプロセス装置4及びガス流量センサであれば、基準値は常に同一の値となる。しかしながら、実際には実行ラン数が増えるに従い、
図7に示すように変動する。なお、基準値データはプロセスレシピに検出ステップを設け、その結果をプロセスデータ保存システム2に記憶しておく。
【0047】
図7に示すように実行ラン数が増える毎に基準値が増加するため、実際の流量よりもガス流量センサの出力は大きい値を出力する。それにより、プロセス実行時の実流量は基準値が増加するに従い、減少することが予測される。従って、ガスセンサの基準値変動とプロセス実行時の実流量変動量の関係を表す変動―プロセスモデルは、プロセス実行時の実流量=供給指示量−ガスセンサの基準値という式で表される。
図8は流量変動量の予測値を示すグラフである。縦軸はプロセス実行時の実流量変動量である。単位はsccmである。横軸は実行ラン数である。
【0048】
次に出来栄え−プロセスモデルの一例として、プロセス実行時のガス流量変動量と膜厚変動量の関係を示すモデルについて述べる。ガスの流量と成膜速度(≒膜厚)との関係を線形的に近似可能であることが知られている。そこで、別途実験により近似係数(Sensitivity)を求める。求めた近似係数により、ガス流量変動量と膜厚変動量の関係を示す出来栄え−プロセスモデルは、
膜厚変動量=Sensitivity × ガス流量変動量
と表される。
図9は膜厚変動量を示すグラフである。縦軸が膜厚変動量で、単位はnmである。横軸は実行ラン数である。
図8に示す流量変動量と上記出来栄え−プロセスモデルにより求めたものである。
【0049】
他のガス流量センサの基準値変動による出来栄え予測も同様に行う。また、ガス流量センサ以外の圧力センサや温度センサに対しても変動―プロセスモデル及び出来栄え−プロセスモデルを実験により求める。
【0050】
次にプロセス状態の変動検知・予測(ステップS24)より出来栄えの予測2(ステップS26)を行う場合に用いるモデルについて、説明する。一例としてチューブ累積膜厚の影響により、間接的にプロセス要素が変動する事例を説明する。チューブはバッチ炉の主要な部分であり、プロセスを行う空間を形成している。チューブは石英などを用いて形成する。
【0051】
チューブ累積膜厚はプロセスの実行に伴い、チューブ内壁及び各パーツに成膜される膜の厚さである。累積膜厚により、製品ウエハ上のプロセス状態が変化する。累積膜厚の影響を低減するためには、1ラン毎にクリーニングを実施することが考えられる。しかし、1ラン毎のクリーニングは、生産性の低下及びクリーニングガスの消費増、石英パーツの消耗等により生産コストの上昇につながる。そのため一般的には累積膜厚に依存する出来栄え変動を許容できる範囲内でプロセスを実行している。
【0052】
累積膜厚によるプロセス状態の変動の例として、ウエハ上温度の変動とウエハ上ガス濃度の変動を例とする。累積膜厚によりヒータ熱の透過率、吸収率、反射率が変化し、プロセス対象ウエハの表面温度が変化する。また、累積膜厚を除去するクリーニングプロセスにして、石英パーツが消耗し、熱影響やガス消費量に変化をもたらす。
【0053】
累積膜厚と実行ラン数との関係を実験等でモデル化する。累積膜厚は実行ラン数に比例して増加し、クリーニングにより減少する。
図10は累積膜厚平均値の変動を示すグラフである。縦軸は累積膜厚平均値であり、単位はnmである。横軸は実行ラン数である。
【0054】
次に累積膜厚を温度変動に変換する変動−プロセスモデルについて、説明する。
図11は累積膜厚とチューブ内観測温度との関係を示すグラフである。
図12は累積膜厚とウエハ上の観測温度との関係を示すグラフである。
図11、
図12の縦軸は共に温度であり、単位は摂氏温度である。
図11、
図12の横軸は共にチューブ累積膜厚であり、単位はnmである。
図11、
図12で示される関係をモデル化し、変動−プロセスモデルとする。
【0055】
以上に示したモデルにより、実行ラン数から累積膜厚が予測可能となる。予測した累積膜厚よりチューブ内の温度及びウエハ温度を予測可能となる。
なお、温度変化はプロセスの種類、装置構成、温度制御モードに依存して変化する。そのため、プロセスの種類、装置構成、温度制御モード毎にモデルを作成する必要がある。また、ウエハ上温度の予測モデルはスロット毎に作成する。予測したウエハ上温度は、チューブの上部から下部(ウエハの面間方向)にかけてのプロセス結果予測の説明変数として用いる。
【0056】
次にウエハ上のガス濃度の変動について説明する。チューブ内のある石英パーツ(パーツAとする)の劣化によりガス消費量が増大し、プロセス領域のウエハへのガス供給量が低下する。パーツAにガス消費量の変動をもたらすのは累積膜厚とクリーニング回数である。
図13はチューブ累積膜厚とパーツAのガス消費指数との関係を示すグラフである。縦軸はガス消費指数、横軸は累積膜厚である。
図14はクリーニング回数とパーツAのガス消費指数との関係を示すグラフである。縦軸はガス消費指数、横軸はクリーニング回数である。これらグラフで表した関係をモデルとして作成する。このように、チューブの累積膜厚は温度、ガスに影響を与えるというように、複数の現象が複合して発生するので、複数のモデルを組み合わせ、プロセス条件の変化を表現可能とするストラテジーが必須となる。上述したモデルにより、プロセス状態の変動を検知・予測することが可能となる。
【0057】
次にプロセス状態の変動をプロセス要素の変動に換算する変動−プロセスモデルについて説明する。上述のプロセス状態の変動をプロセス要素の変動、すなわち、制御、調整可能なパラメータの変動量に換算するのが、変動−プロセスモデルである。
【0058】
まず、チューブ累積膜厚をウエハ上温度変動に換算するモデルについて述べる。ここで想定するプロセスでは、チューブ内の温度を3つのゾーンで温度調整可能としてあるので、ウエハ上温度の変動をゾーン毎の制御対象(ヒータ出力、制御対象温度センサ等)の変動量に換算する。その際、複数の制御ゾーン間の干渉を考慮したプロセスモデルを使用して換算を行う。
【0059】
ヒータ干渉を考慮したプロセスモデルにより、各ゾーン(チューブ上部、チューブ中央部、チューブ下部)の温度設定に換算する。
図15はチューブ上部の温度設定値を示すグラフである。
図16はチューブ中央部の温度設定値を示すグラフである。
図17はチューブ下部の温度設定値を示すグラフである。
図15、
図16、
図17ともに横軸はチューブ累積膜厚で、単位はnmである。縦軸は制御対象温度、すなわちヒータの制御温度であり、単位は摂氏度である。
図15、
図16、
図17のグラフは先に示す
図12を元に、ヒータ間の干渉を考慮して、制御温度に変換したものである。
【0060】
次に、石英パーツ劣化によるウエハ上ガスの濃度変動をガス流量に換算する場合について説明する。上述したように石英パーツ劣化によるガス濃度変動は、チューブ累積膜厚(
図13参照)、クリーニング回数(
図14参照)の2つの要因に依存する。これら2つの要因を総合して、ガス供給量変動を求める。用いるガスが3種類(ガスA、ガスB、ガスC)であり、それらのガスの流量比が一定であるとすれば、それぞれのガス供給量の補正量を求めることが可能となる。
【0061】
次に、プロセス要素の変動量を出来栄え変動量に変換するための出来栄えプロセスモデルについて説明する。プロセス結果(膜厚、膜質等)の変動量は上述したウエハ上の温度変化、プロセスガス濃度変化、圧力変化により決まる。各プロセス要素が出来栄えに与える影響(Sensitivity)を定義したプロセスモデルを使用し、プロセス要素の変動予測量から、出来栄えの変動量を算出する。出来栄えの変動量はプロセス要素変動量と出来栄えに与える影響(Sensitivity)との積和式として表現できる。式で表すと、
出来栄え変動量 = Σ(プロセス要素変動量 × プロセスモデル(Sensitivity)) + Σ(プロセスモデル(交互作用))
となる。交互作用とはプロセス要素間で互いに影響を与え合うなどによる変動量を示す。
【0062】
次に、出来栄え指標の変動量推定について説明する。上述したモデルを用いて求めたプロセス要素の変動量を元に、プロセス結果(各出来栄え指標値)を推定する。実験計画や過去のプロセス結果を使用した別途生成するプロセスモデルを使用する。ここでは、プロセス要素パラメータの変動量を入力として、出来栄え指標の基準値からの変動量を算出する。
【0063】
ここでは、生成された出来栄え推定Model予測式の例を示す。部分最小二乗回帰(PLS-R
= Partial least squares regression)による成膜速度(D.R. = Deposition Rate)の推定式例を示す。成膜速度(Fdr)はプロセス要素毎の近似係数(a0、a1、a2、a3)とプロセス要素パラメータ、温度(Temp)、ガスAの流量(GasA)、ガスBの流量(GasB)、圧力(Press)の基準値からの変動量との積和(線形結合)で表現可能である。交互作用についても同様に近似係数と交互作用のパラメータ(interaction0、interaction1、…)との積和で表現可能である。交互作用のパラメータは例えば、Temp×GasAである。
Fdr(Temp, GasA, GasB, Press) = a0×Temp + a1×GasA + a2×GasB+ a3×Press + b0×interaction0 + b2×interaction1 + … 近似係数a0、a1、a2、a3、b0、b1、b2、…は部分最小二乗回帰により求める以外に、主成分回帰分析(PCR = Principal Components
Regression)、重回帰分析(MRA = Multiple Regression Analysis)を用いても良い。
【0064】
予測式は線形結合に限らず、非線形モデルを用いることが可能である。非線形モデルの一例はGA(Genetic Algorithms,遺伝的アルゴリズム)やGP(Genetic Programming,遺伝的プログラミング)を用いたモデルである。以下に示すのはGPにより求めた屈折率(R.I. = refractive index)を求める式である。以下の式はプログラミング言語Lispで用いられるS式で表現したものである。x1からx7がパラメータ、m0からm13が近似係数、c1からc15が定数である。また、funcx、funcyは事前に定義したひとまとまりの数式であり、例としては、三角関数(sin/cos/tan)等の数学公式に加え、熱・流体・電気・プラズマ等の物理公式が適用できる。
Fri() = (+ (× m0 (+ (×(×(- (+ (× m1 x7) c1) (+ (× m2 x2) c2)) (funcx (+ (× m3 x1) c3))) (+ (× m4 x4) c4)) (+ (+ (- (+ (× m5 x5) c5) (+ (× m6 x2) c6))
(- (funcy (+ (× m7 x1) c7)) (+ (× m8 x4) c8))) (+ (×(+ (× m9 x2) c9) (- c10
(+ (× m10 x3) c11))) (+ (+ (× m11 x6) c12) (- (+ (× m12 x5) c13) (+ (× m13 x4) c14))))))) c15)
なお、プロセス要素パラメータの基準値からの変動量ではなく、パラメータ設定値を入力とし、出来栄え指標値を予測するModelも生成可能である。また、出来栄えとしては、面内・面間均一性、膜組成比、膜不純物量、後続のプロセスへの影響度を表す指数としてのエッチング耐性指数等のモデル化が可能である。
【0065】
次に、出来栄えが目標レンジ内となる様、パラメータ補正量を決定するアルゴリズムについて説明する。ここでは説明の簡単のため、成膜速度についての目的関数Fdr()、屈折率についての目的関数Fri()の2つの目的関数を最適化する場合を述べる。目的関数は3つ以上でも良い。各プロセス要素パラメータの分解能を考慮したパラメータ補正量の集合をxとする。成膜速度、屈折率の目標レンジをDRrange、RIrangeとする。以上を式で表すと以下のようになる。
f(x) = min(Fdr(xdr), Fri(xri))
Fdr(xdr) ≦|DRrange|
Fri(xri) ≦|RIrange|
【0066】
図18は目的空間を表した図である。目的関数が2つの場合、
図18に示すように目的空間を2次元で表現できる。
図18に示す曲線cが最適解の集合(パレート解)となり、2つの目的関数Fdr()、Fri()のトレード・オフ関係、すなわち一方を改善すると、他方が改悪する関係を示している。上述のDRrange、RIrangeで表す、Fdr()、Fri()の許容範囲s内の点が選択可能なパラメータ設定値の解集合となる。
【0067】
最適化手法(多目的最適化手法)としては、準ニュートン法、逐次2次計画法、GA(Genetic Algorithm = 遺伝的アルゴリズム)、GP(Genetic Programing=遺伝的プログラミング)、ニューラルネットワーク等を用いても良い。
【0068】
2つの目的関数Fdr()、Fri()はプロセス要素毎の変動量引数とする関数であるから、解集合はプロセス要素毎のパラメータ補正量の集合である。求まったパラメータ補正量はHSMS通信中継システム3を経由して、プロセス装置4に送信される。
【0069】
図19は補正値算出装置1による補正値を適用しない場合の成膜速度についてのグラフである。縦軸は成膜速度で単位はnm/minである。横軸はラン回数である。
図20は補正値算出装置1による補正値を適用した場合の成膜速度についてのグラフである。縦軸、横軸は
図19と同様である。
図19と
図20とを比較すると明らかのように、補正値算出装置1による補正値を適用した場合は、成膜速度が目標レンジ内に収まっていることが分かる。
【0070】
図21は補正値算出装置1による補正値を適用しない場合の屈折率についてのグラフである。縦軸は屈折率、単位は無次元である。横軸はラン回数である。
図22は補正値算出装置1による補正値を適用した場合の屈折率についてのグラフである。縦軸、横軸は
図21と同様である。
図21と
図22とを比較すると明らかのように、補正値算出装置1による補正値を適用した場合は、屈折率が目標レンジ内に収まっていることが分かる。
【0071】
図23は補正値算出装置1による補正値を適用しない場合の面間均一性についてのグラフである。
図24は補正値算出装置1による補正値を適用した場合の面間均一性についてのグラフである。
図23及び
図24の縦軸は共に面間均一性(ウエハ間の平均膜厚の均一性)である。横軸は共にラン回数である。
図25は補正値算出装置1による補正値を適用しない場合の面内均一性についてのグラフである。
図26は補正値算出装置1による補正値を適用した場合の面内均一性についてのグラフである。
図25及び
図26の縦軸は共に面内均一性である。横軸は共にラン回数である。
図23から
図26を参照すると明らかなように、補正値算出装置1による補正値を適用した場合であっても、面間均一性、面内均一性は共に性能を維持または改善していることが分かる。すなわち、補正値算出装置1による補正値を適用して、成膜速度、屈折率が目標レンジ内に収まるようにプロセス装置4を制御しても、その副作用により面間均一性、面内均一性など他の評価指標が悪化はしないことが分かる。
【0072】
上述したモデルの設計時には、人が各出来栄え指標の値を見つつ、モデルの最適化を行う。その後は、最適化したモデルを用いて、人の介在なしで補正値算出装置1が補正値の算出を行うことが可能となる。
【0073】
なお、上述の説明において、例として、補正値算出装置1は成膜装置としてのプロセス装置4へ補正値を送信するものとしたが、エッチング装置、フォトレジスト装置、洗浄装置など他装置での補正値算出のための入力変数としても良い。
【0074】
また、上述したモデルをエッチング装置、フォトレジスト装置、洗浄装置など他のプロセス装置4を表現するものとすることにより、補正値算出装置1は他のプロセス装置4に用いる補正値を算出することが可能となる。プラズマエッチング装置であれば、変動現象として、処理室内のパーツの劣化、センサの劣化が考えられる。プロセス要素として、処理ガス,添加ガスの流量比、処理室内圧力、上部高周波電力、下部高周波電力、上部電極温度、下部電極温度などが考えられる。また、出来栄え指標として、線幅(縦、横、深さ)、サイドウォールの角度などが考えられる。
【0075】
実施の形態2
図27は実施の形態2に係る補正値算出装置1のハードウェア構成の一例を示す図である。補正値算出装置1はサーバコンピュータ、パーソナルコンピュータ等の汎用のコンピュータにより構成することが可能である。補正値算出装置1は制御部10、RAM(Random Access Memory)11、記憶部12、操作部13、通信部14、読み取り部15を含む。
【0076】
補正値算出装置1を動作させるための制御プログラムは、ディスクドライブ等の読み取り部15にCD-ROM、DVD(Digital Versatile Disc)ディスク、メモリーカード、またはUSB(Universal Serial Bus)メモリ等の可搬型記録媒体15Aを読み取らせて記憶部12に記憶しても良い。また当該プログラムを記憶したフラッシュメモリ等の半導体メモリ15Bを補正値算出装置1に実装しても良い。さらに、当該プログラムは、インターネット等の通信網を介して接続される他のサーバコンピュータ(図示せず)からダウンロードすることも可能である。以下に、その内容を説明する。
【0077】
図27に示す補正値算出装置1は、上述した各種ソフトウェア処理を実行するプログラムを、可搬型記録媒体15Aまたは半導体メモリ15Bから読み取り、或いは、通信網を介して他のサーバコンピュータ(図示せず)からダウンロードする。当該プログラムは、制御プログラム12Pとしてインストールされ、RAM11にロードして実行される。これにより、上述した補正値算出装置1として機能する。
【0078】
本実施の形態2は以上の如きであり、その他は実施の形態1と同様であるので、対応する部分には同一の参照番号を付してその詳細な説明を省略する。
【0079】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものでは無いと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味では無く、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。