(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
導電性と光透過性とを兼ね備えた透明導電膜は、太陽電池、液晶表示素子、その他各種受光素子における電極などとして利用されているほか、自動車窓や建築用の熱線反射膜、帯電防止膜、冷凍ショーケースなどにおける防曇用透明発熱体など、幅広い用途に利用されている。特に、低抵抗で導電性に優れた透明導電膜は、太陽電池や、液晶、有機エレクトロルミネッセンス、無機エレクトロルミネッセンスなどの液晶表示素子や、タッチパネルなどに好適であることが知られている。
【0003】
従来、透明導電膜としては、例えば、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)膜やフッ素ドープ酸化スズ(FTO)膜などの酸化スズ(SnO
2)系の薄膜;アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)膜やガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)膜などの酸化亜鉛(ZnO)系の薄膜;そしてスズドープ酸化インジウム(ITO:Indium Tin Oxide)膜などの酸化インジウム(In
2O
3)系の薄膜が知られている。中でも、最も工業的に利用されているのは酸化インジウム系の透明導電膜であり、とりわけITO膜は、低抵抗で導電性に優れることから、幅広く実用化されている。
【0004】
例えば、ITOのような酸化物の膜をスパッタリング法で形成する際には、ターゲットとしては、一般に、膜を構成する金属元素からなる合金ターゲット(ITO膜を形成する場合にはIn−Sn合金)、または膜を構成する金属元素を含む酸化物を焼結もしくは混合してなる酸化物ターゲット(ITO膜を形成する場合にはIn−Sn−Oからなる焼結体や混合体)が用いられる。
【0005】
ただし、合金ターゲットを用いると、形成される膜中の酸素は全て雰囲気中の酸素ガスから供給されることになるため、雰囲気中の酸素ガス量が変動しやすくなる。その結果、雰囲気中の酸素ガス量に依存する成膜速度や得られる膜の特性(比抵抗、透過率)を一定に保つことが困難になる場合がある。
他方、酸化物ターゲットを用いると、膜に供給される酸素の一部は、ターゲット自体から供給され、不足分のみが雰囲気中の酸素ガスから供給されることになるので、雰囲気中の酸素ガス量の変動は、合金ターゲットを用いる場合に比べ抑えることができ、その結果、一定の膜厚を有し一定の膜特性を有する透明導電膜を容易に製造することが可能となる。
したがって、工業的に用いるターゲットとしては、酸化物ターゲット(すなわち酸化物焼結体または酸化物混合体)が用いられている。
【0006】
ところで、ITO膜などの酸化インジウム系の透明導電膜は、その必須原料であるIn(インジウム)が、希少金属であるため高価で且つ資源枯渇のおそれがあり、しかも毒性を有し環境や人体に対して悪影響を及ぼす可能性がある。そのため、近年、ITO膜に代替し得る工業的に汎用可能な透明導電膜が要望されている。そのような中、スパッタリング法による工業的製造も可能である酸化亜鉛系透明導電膜が注目されている。
一方、酸化亜鉛系透明導電膜を製膜する際には、酸化物ターゲットを用いるのが好ましく、酸素量を少なくした方が低抵抗となることが知られている。このため、一般にはスパッタリングガスに酸素は添加されない。これに加えて、ターゲット中に金属亜鉛を分散させ、スパッタ成膜を行うと、透明導電膜中の酸素量を減少させ、低抵抗の透明導電膜を得ることができることが知られている。(特許文献1、特許文献2)
【0007】
特許文献1に記載されたターゲットの製造においては、酸化亜鉛粉末、酸化スズ粉末及び金属亜鉛粉末を所定割合で配合した原料粉末を酸素ガス雰囲気中、1450℃で焼結し、加工したターゲットが記載されている。この焼結温度で原料粉末を焼結させる際に、金属成分として金属亜鉛を分散させる場合、金属亜鉛は、沸点が907℃であるために昇華してしまうか、あるいは焼結過程で酸化されてZnOとなる。従って、実際には金属亜鉛等の金属成分を分散させることは困難であり、低抵抗の透明導電膜を得ることは困難である。
【0008】
特許文献2に記載されたターゲットの製造においては、金属亜鉛を含有する原料粉末を金属亜鉛の沸点よりも300℃高い温度以下で、かつ非酸化性雰囲気で焼結を行った場合に、緻密であり、かつ金属亜鉛が分散された焼結体が得られることが記載されている。しかしながら、この製造方法では、原料粉末の段階にて金属亜鉛を含有させており、焼結過程では、金属亜鉛は当然溶融亜鉛状態となっており、当然液体状態である。そのため、金属亜鉛の流動性が高く、焼結過程の間に液体状態の金属亜鉛が流れてしまい、焼結体中に金属亜鉛が均一に分散した状態にはすることができず、金属亜鉛が偏析してしまい、金属亜鉛が均一に分散されたターゲットが得られない。また、金属亜鉛が焼結中、流動していることから金属亜鉛が流動した部分は空孔などになる。
このようなターゲットには、空孔が存在し、かつ金属亜鉛が偏析しているため、スパッタリングなどにより成膜する際、放電中で系のインピーダンスが不安定となり、異常放電が発生しやすい。すなわち、特許文献2に記載された製造方法では、ZnOを主成分とする緻密な焼結体中に金属成分を分散させることは困難であり、たとえ金属亜鉛を焼結体中に分散できたとしても、これによって得られる透明導電膜の比抵抗は充分低いものとはならなかった。
【0009】
従って、ZnOを主成分とする緻密な焼結体中に金属亜鉛を分散させた従来の製造方法で得られた酸化亜鉛系焼結体を加工したターゲットを用いて、スパッタリングなどにより成膜する際、低抵抗の透明導電膜を安定して得ることは困難であった。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(酸化亜鉛系焼結体)
本発明の酸化亜鉛系焼結体は、実質的に亜鉛、ドーパント元素および酸素からなり、金属亜鉛が偏析することなく焼結体中に均一に分散している。ここで、「実質的」とは、酸化亜鉛系焼結体を構成する全原子の99%以上が亜鉛、ドーパント元素および酸素からなることを意味する。
【0016】
本発明の酸化亜鉛系焼結体の密度は、通常5.3g/cm
3以上の高い密度を有する。酸化亜鉛系焼結体が5.3g/cm
3以上の密度を有する場合、相対密度が95%以上となる。本発明の酸化亜鉛系焼結体は、好ましくは5.3〜5.6g/cm
3、より好ましくは5.5〜5.6g/cm
3の密度を有する。
【0017】
焼結体の密度は、実施例に記載の評価方法によって測定することができる。相対密度とは、焼結体の原料である各金属酸化物の単体密度に各金属酸化物粉末の混合重量比をかけ、和をとった理論密度に対する、実際に得られた焼結体の密度の割合であり、例えば、焼結体が酸化亜鉛および酸化チタンからなる場合は、下記式から求められる。なお、本発明では、焼結体の理論密度は、焼結体は酸化亜鉛を主成分とするため、酸化亜鉛の理論密度と同程度であり、具体的には5.55〜5.60g/cm
3である。
相対密度=100×[(焼結体の密度)/(理論密度)]
理論密度=(酸化亜鉛の単体密度×混合重量比+酸化チタンの単体密度×混合重量比)
【0018】
本発明の酸化亜鉛系焼結体は、金属亜鉛が偏析することなく焼結体中に均一に分散している。酸化亜鉛系焼結体は、金属亜鉛が偏析することなく焼結体中に均一に分散し、かつ上述したように高密度であるため、この酸化亜鉛系焼結体を用いて成膜する際、安定にプラズマ放電させることができ、低抵抗の酸化亜鉛系透明導電膜が得られる。
ここで、焼結体中に金属亜鉛が偏析することなく均一に分散しているとは、X線回折により焼結体中に金属亜鉛の存在が確認でき、かつ焼結体の表面をデジタルマイクロスコープにて倍率100倍で観察した際に、金属亜鉛が均一に分散しているときは、金属亜鉛の粒子(白く見える)が小さすぎて100倍では殆んど観察されないことをいう(
図3を参照)。これに対して、金属亜鉛が均一に分散せず、偏析していると、デジタルマイクロスコープで倍率100倍に拡大して観察したとき、大きな粒子(白く見える)が観察され、金属亜鉛が不均一に分散していることが観察される(
図4を参照)。
【0019】
ドーパントとしては、例えば、チタン、マンガン、クロム、バナジウムなどの亜鉛よりイオン化傾向が高い卑金属などが挙げられ、なかでもチタンが好ましい。特に、ドーパントが、主原子価でない低原子価金属であるのがよい。なお、ドーパントは、1種のみの元素だけでなく、2種以上の元素から構成されていてもよい。
主原子価でない低原子価金属としては、例えば、後述する低原子価酸化チタン粉、低原子価酸化マンガン粉、低原子価酸化クロム粉、低原子価酸化バナジウム粉などの低原子価金属酸化物の粉末由来の金属をいう。
【0020】
前記した、亜鉛よりイオン化傾向が高い卑金属であるチタン、マンガン、クロム、バナジウムの中でも、チタンは酸化亜鉛のドーパントとして機能し、得られる透明導電膜に導電性付与するのに好適である。マンガン、クロム、バナジウムは酸化亜鉛に対する導電性付与としてのドーパントと作用しにくいが、焼結過程の中で金属亜鉛を析出させる作用としては優れている。従って、ドーパントとしてのチタンは導電性付与の目的も兼ねており、低原子価酸化チタンがより好ましい。
【0021】
酸化亜鉛系焼結体にチタンが含まれる場合、チタンは、上述したようにドーパントとして作用する。したがって、本発明の酸化亜鉛系焼結体に含まれるチタンは、後述する式:TiO
2−X(X=0.1〜1)で表される低原子価酸化チタン粉末由来のチタンが好ましい。
【0022】
本発明の酸化亜鉛系焼結体において、好ましくは、亜鉛とチタンとの合計に対するチタンの原子数比Ti/(Zn+Ti)が、0.02を超え0.1以下であるのがよい。チタンの原子数比Ti/(Zn+Ti)が上記範囲である場合、焼結体の強度が向上し、ターゲットへの加工が容易になる。さらに、形成される導電膜の化学的耐久性、導電性および透明性がより向上する。好ましくは、チタンの原子数比Ti/(Zn+Ti)は0.03〜0.09、より好ましくは、チタンの原子数比Ti/(Zn+Ti)は0.04〜0.08である。
【0023】
本発明の焼結体は、酸化亜鉛相と複合金属酸化物であるチタン酸亜鉛化合物相と金属亜鉛相とから構成されるのが好ましい。このように酸化亜鉛系焼結体中にチタン酸亜鉛化合物相が含まれていると、焼結体自体の強度が増すので、例えばターゲットとして過酷な条件(高電力など)で成膜してもクラックを生じることがない。
チタン酸亜鉛化合物相とは、具体的には、ZnTiO
3、Zn
2TiO
4のほか、これらの亜鉛サイトにチタン元素が固溶されたものや、酸素欠損が生じているものや、Zn/Ti比がこれらの化合物から僅かにずれた非化学量論組成のものも含む。
酸化亜鉛相とは、具体的には、ZnOのほか、これにチタン元素が固溶されたものや、酸素欠損が生じているものや、亜鉛欠損により非化学量論組成となったものも含む。なお、酸化亜鉛相は、通常ウルツ鉱型構造を有する。
【0024】
本発明の焼結体は、実質的に酸化チタンの結晶相を含有しないことが好ましい。焼結体に酸化チタンの結晶相が含まれていると、得られる膜が、比抵抗などの物性にムラがあり均一性に欠けるものとなるおそれがある。上述のように例えば、Ti/(Zn+Ti)を0.1以下の場合、通常、チタンが酸化亜鉛に完全に反応し、焼結体中に酸化チタン結晶相は生成されにくい。なお、酸化チタンの結晶相とは、具体的には、Ti
2O
3やTiO以外にも、これらの結晶にZnなど他の元素が固溶された物質も含む。
【0025】
本発明の酸化亜鉛系焼結体は、酸化亜鉛系透明導電膜形成材料として好適に用いられる。酸化亜鉛系透明導電膜形成材料としては、例えば、後述するようなターゲットなどが挙げられる。
【0026】
本発明の酸化亜鉛系焼結体を製造する方法は、特に限定されず、例えば、以下に詳述する製造方法によって好ましく得られる。なお、以下の説明においては、ドーパント粉として酸化チタン粉を用いた例を挙げているが、その他のドーパント粉であっても同様に適用可能である。
【0027】
(酸化亜鉛系焼結体の製造方法)
本発明に係る焼結体の製造方法(以下、単に「本発明の第1の製造方法」と記載する場合がある)は、以下の(A)または(B)を含む原料粉末を成形する工程、および得られた成形体を、非酸化性雰囲気中にて600〜1500℃で焼結する工程を含む。
(A)酸化チタン粉と酸化亜鉛粉との混合粉、
(B)酸化チタン粉と水酸化亜鉛粉との混合粉。
【0028】
本発明の第1の製造方法において、原料粉末としては、酸化チタン粉と酸化亜鉛粉との混合粉を含む粉末、もしくは酸化チタン粉と水酸化亜鉛粉との混合粉を含む粉末などが用いられる。さらに、原料粉末として、チタン酸亜鉛化合物粉を含む粉末を用いてもよい。
【0029】
酸化亜鉛粉としては、通常、ウルツ鉱構造を有するZnOなどの粉末が用いられ、さらにこのZnOを予め還元雰囲気で焼成して酸素欠損を生じさせたものを用いてもよい。
また、水酸化亜鉛粉としては、アモルファスでもよく、結晶構造を有するものであってもよい。
【0030】
ドーパント粉としては、後述するような、低原子価酸化チタン粉、低原子価酸化マンガン粉、低原子価酸化クロム粉、低原子価酸化バナジウム粉などの低原子価金属酸化物の粉末が好ましい。
主原子価でない低原子価金属酸化物を原料粉末に用いれば、原料粉末の段階で金属亜鉛が存在していなくても、焼結過程にて(i)低原子化金属酸化物が酸化亜鉛の一部を還元し、金属亜鉛を生成させ、(ii)ドーパントである金属酸化物が酸化亜鉛に固溶したり、酸化亜鉛と複合金属酸化物を生成させやすくなる。この両者の反応を同時に進行するため、金属亜鉛が偏析することなく、均一に焼結体中に分散した状態で、高密度の焼結体が得られる。
【0031】
酸化チタン粉としては、好ましくは式:TiO
2−X(X=0.1〜1)で表される低原子価酸化チタンの粉末が用いられ、より好ましくはTi
2O
3(III)またはTiO(II)の粉末が用いられ、特に好ましくはTi
2O
3(III)が用いられる。なぜなら、Ti
2O
3(III)の結晶構造は三方晶であり、通常これと混合する酸化亜鉛は、上記のように六方晶のウルツ鉱構造を有するため、結晶構造の対称性が一致し、固相焼結する際に置換固溶しやすいからである。
具体的に、低原子価酸化チタンは、TiO(II)およびTi
2O
3(III)のような整数の原子価を有する酸化チタンだけでなく、Ti
3O
5、Ti
4O
7、Ti
6O
11、Ti
5O
9、Ti
8O
15なども含み、これらの混合物であってもよい。
このような低原子価酸化チタンは、通常、二酸化チタン(TiO
2)を水素雰囲気などの還元雰囲気にて、還元剤としてカーボンなどを用いて、加熱することによって得られる。水素濃度、還元剤の量、加熱温度などを調節することにより、低原子価酸化チタンの混合物の割合を制御することができる。
この低原子価酸化チタンの構造は、X線回折装置(X‐Ray Diffraction、XRD)、X線光電子分光装置(X‐ray Photoelectron Spectroscopy、XPS)などの機器分析によって確認することができる。
【0032】
酸化マンガン粉としては、例えば、MnO(II),Mn
2O
3(III)、MnO
2(IV)、MnO
3(VI)、Mn
2O
7(VII)などの粉末が挙げられ、なかでも、MnO(II),Mn
2O
3(III)、MnO
2(IV)、MnO
3(VI)の低原子価酸化マンガンの粉末が好ましい。なお、マンガンの主原子価は7であるので、原子価が2,3,4,6であるマンガンの酸化物、具体的には、MnO(II),Mn
2O
3(III)、MnO
2(IV)、MnO
3(VI)を、本願では低原子価酸化マンガンという。
また、少量で酸化亜鉛を金属亜鉛に還元する効果が高いのは、最も低原子価であるMnO(II)である。マンガンは酸化亜鉛に導電性を付与するドーパントとしての効果は弱いので、酸化マンガン粉の添加量は、酸化亜鉛に対して0.5mol%以下が好ましい。0.5mol%以下であれば、導電性の低下に悪影響を及ぼさない。0.5mol%以上であると、キャリア電子の不純物散乱要因となり導電性の低下を及ぼすので好ましくない。
【0033】
なお、ドーパントとしてクロムを用いる場合、酸化クロム粉としては、例えば、CrO(II)、Cr
2O
3(III)、CrO
2(IV)、CrO
3(VI)などの粉末が挙げられ、なかでも、Cr
2O
3(III)の低原子価酸化クロムの粉末が好ましい。なお、クロムの主原子価は6であるので、原子価が2,3,4であるクロムの酸化物、具体的には、CrO(II)、Cr
2O
3(III)、CrO
2(IV)を、本願では低原子価酸化クロムという。
酸化クロム粉の添加量は、酸化亜鉛に対して0.5mol%以下が好ましい。
【0034】
ドーパントとしてバナジウムを用いる場合、酸化バナジウム粉としては、例えば、V
2O
5(V)、V
2O
4(IV)、V
2O
3(III)、VO(II)などの粉末が挙げられ、なかでも、VO(II)の低原子価酸化バナジウムの粉末が好ましい。なお、バナジウムの主原子価は5であるので、原子価が4,3,2であるバナジウムの酸化物、具体的には、V
2O
4(IV)、V
2O
3(III)、VO(II)を、本願では低原子価酸化バナジウムという。
酸化バナジウム粉の添加量は、酸化亜鉛に対して0.5mol%以下が好ましい。
【0035】
ドーパント粉として、酸化マンガン粉、酸化クロム粉、酸化バナジウム粉を用いて、金属亜鉛を生成させる場合は、導電性を付与するドーパントにはなりえないので、別途、導電性を付与するドーパント粉を添加する必要がある。
導電性を付与するドーパント粉としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化ガリウム等の粉末が挙げられる。
【0036】
酸化アルミニウムの粉末としては、例えば、Al
2O
3などの粉末が挙げられる。
酸化ガリウムの粉末としては、例えば、Ga
2O
3などの粉末が挙げられる。
導電性を付与するドーパント粉の添加量は、酸化亜鉛に対して2mol%以上4mol%以下が好ましい。
【0037】
原料粉末として用いる化合物(粉)の平均粒径は、それぞれ5μm以下であることが好ましい。
【0038】
混合粉における各粉の混合割合は、用いる化合物(粉)の種類に応じて、上述したように適宜設定され得る。例えば、最終的に得られる酸化亜鉛系焼結体において、ドーパントにチタンが含まれる場合、亜鉛とチタンとの合計に対するチタンの原子数比Ti/(Zn+Ti)が、上述の範囲となるように配合されるのが好ましい。その際、亜鉛はチタンに比べて蒸気圧が高く焼結した際に揮散しやすいことを考慮して、所望する酸化亜鉛系焼結体の目的組成(ZnとTiとの原子数比)よりも、予め亜鉛の量が多くなるように混合割合を設定しておくことが好ましい。
【0039】
具体的には、亜鉛の揮散のしやすさは、焼結する際の雰囲気によって異なり、例えば、酸化亜鉛粉を用いた場合、大気雰囲気や酸化雰囲気などの酸化性雰囲気では酸化亜鉛粉自体の揮散しか起こらないが、不活性雰囲気もしくは還元雰囲気などの非酸化性雰囲気で焼結すると、酸化亜鉛が還元されて、酸化亜鉛よりもさらに揮散しやすい金属亜鉛となるので、亜鉛の消失量が増すことになるのである(但し、後述のように、一旦焼結した後、還元雰囲気中でアニール処理を施す場合には、アニール処理を施す時点で既に複合酸化物となっているので、亜鉛が揮散しにくい)。したがって、目的組成に対してどの程度亜鉛の量を増やしておくかについては、焼結の雰囲気などを考慮して設定すればよく、例えば、酸化性雰囲気で焼結する場合には所望する原子数比となる量の1.0〜1.05倍程度、非酸化性雰囲気で焼結する場合には所望する原子数比となる量の1.1〜1.3倍程度とすればよい。なお、原料粉末として用いる化合物(粉)は、それぞれ1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
なお、不活性雰囲気としては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、真空、二酸化炭素などが挙げられる。
還元性雰囲気としては、例えば、水素、一酸化炭素、硫化水素、二酸化硫黄などが挙げられる。
【0040】
得られる成形体の密度をより均一化するなどのために、原料粉末を成形する前に、原料粉末を造粒して造粒物とし、この造粒物を成形して成形体としてもよい。
原料粉末を造粒物とする方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、原料粉末と水系溶媒とを混合し、得られたスラリーを十分に湿式混合によって混合した後、固液分離し、乾燥し、造粒する湿式造粒;原料粉末に強制的に外力や熱を加えて顆粒化する乾式造粒などが挙げられる。
【0041】
湿式混合は、例えば、硬質ZrO
2ボールなどを用いた湿式ボールミルや振動ミルなどにより行えばよく、湿式ボールミルや振動ミルを用いた場合の混合時間は、12〜78時間程度が好ましい。なお、原料粉末をそのまま乾式混合してもよいが、湿式混合の方がより好ましい。使用する粉砕ボールは、ボール径が1mmφ以上10mmφ以下であるのが好ましい。
固液分離、乾燥および造粒については、それぞれ公知の方法を採用すればよい。
なお、造粒物を得る際には、乾燥後、公知の方法で造粒すればよいのであるが、その場合、原料粉末とともにバインダーも混合することが好ましい。バインダーとして、例えば、ポリビニルアルコール、酢酸ビニル、エチルセルロースなどを用いることができる。
【0042】
得られた造粒物または原料粉末(以下、単に原料粉末という場合がある)を成形する方法としては、例えば、原料粉末を型枠に入れ、加圧することで、成形することができる。加圧する方法としては、冷間プレスや冷間静水圧プレスなどの冷間成形機を用いる方法や、一軸プレスを挙げることができる。冷間静水圧プレスであっても一軸プレスであっても、圧力が低すぎると、安定なプレス成型体ができないおそれがあり、圧力が高すぎると、成型体がもろくわれやすくなる。圧力は、冷間静水圧プレスの場合は通常50MPa以上200MPa以下、好ましくは100MPa以上200MPa以下であり、一軸プレスの場合は通常10MPa以上50MPa以下であり、好ましくは20MPa以上50MPa以下である。
【0043】
焼結を行う際の方法は、特に限定されず、例えば、常圧焼成法、マイクロ波焼結法、ミリ波焼結法などが挙げられる。
【0044】
得られた成形体の焼結は、非酸化性雰囲気中、600〜1500℃で行われる。
焼結温度が600℃未満であると、焼結が十分に進行しないので、得られるターゲットの密度が低くなり、一方、1500℃を超えると、酸化亜鉛自体が分解して消失してしまうこととなる。上記いずれの雰囲気においても、より好ましくは1000〜1300℃で焼結が行われる。なお、成形体を上記焼結温度まで昇温する際には、昇温速度を、600℃までは5〜10℃/分とし、600℃を超え1500℃までは1〜4℃/分とすることが、焼結密度を均一にするうえで好ましい。
非酸化性雰囲気としては、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオンなどの不活性雰囲気;真空、二酸化炭素、水素、アンモニアなどの還元性雰囲気などが挙げられ、なかでも窒素、アルゴン、ヘリウムおよび二酸化炭素からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0045】
いずれの雰囲気中で焼結する際も、焼結時間(すなわち、焼結温度での保持時間)は、3〜15時間とすることが好ましい。焼結時間が3時間未満であると、焼結密度が不十分となりやすく、得られる酸化亜鉛系焼結体の強度が低下する傾向があり、一方、15時間を超えると、焼結体の結晶粒成長が著しくなるとともに、空孔の粗大化、ひいては最大空孔径の増大化を招く傾向があり、その結果、焼結体の密度が低下するおそれがある。
【0046】
本発明の酸化亜鉛系焼結体の他の製造方法(以下、「第2の製造方法」と記載する場合がある)は、原料粉末を加圧焼結する工程を含む。
【0047】
原料粉末を加圧焼結する方法は、例えば、ホットプレス法、放電プラズマ焼結法、熱間等方圧加圧(HIP)法などが挙げられ、なかでも、ホットプレス法が好ましい。
加圧焼結を金型(ダイス)やパンチなどの型材を用いて行う場合は、その型材の材質は、黒鉛であるのが好ましい。
加圧焼結する際の雰囲気は、例えば、加圧焼結する方法によって適宜調整すればよく、真空(好ましくは、2Pa以下)、不活性雰囲気(窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン)などが挙げられ、ホットプレス法の場合は、真空が好ましい。
加圧焼結する際、原料粉末にかける圧力は、20〜150MPaが好ましく、30〜100MPaがより好ましい。
加圧焼結する際の焼成温度は、900〜1400℃が好ましく、1000〜1200℃がより好ましい。
焼成時間は、焼成温度や原料粉末の量などによって適宜調整すればよく、通常30分〜4時間、より好ましくは1時間〜2時間程度であるのがよい。
【0048】
上記のようにして得られた酸化亜鉛系焼結体は、比抵抗をさらに低下させるために、アニール処理を施してもよい。
アニール処理を施す方法としては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、二酸化炭素、水素、アンモニアなどの非酸化性ガスを導入しながら常圧で酸化亜鉛系焼結体を加熱する方法や、真空下(好ましくは、2Pa以下)で酸化亜鉛系焼結体を加熱する方法などが挙げられる。製造コストの観点から、非酸化性ガスを導入しながら常圧で行う方法が好ましい。
【0049】
アニール温度(加熱温度)は、好ましくは1000〜1400℃、より好ましくは1100〜1300℃である。アニール時間(加熱時間)は、好ましくは7〜15時間、より好ましくは8〜12時間である。アニール温度が1000℃未満である場合、アニール処理による酸素欠損が不十分になるおそれがあり、一方、アニール温度が1400℃を超える場合、亜鉛が揮散しやすくなり、ドーパントにチタンが含まれる場合、得られる酸化亜鉛系焼結体の組成(ZnとTiとの原子数比)が上述したような所望の比率と異なってしまうおそれがある。
【0050】
本発明の製造方法により得られた酸化亜鉛焼結体は、5.3g/cm
3以上の密度を有する。
【0051】
(ターゲット)
本発明のターゲットは、スパッタリング法、イオンプレーティング法、パルスレーザーデポジション(PLD)法またはエレクトロンビーム(EB)蒸着法などの各種成膜方法で好適に用いられるターゲットであり、特にスパッタリング法(好ましくは、量産性に優れているDCスパッタリング法)による成膜に用いられるターゲットである。
本発明のターゲットは、上述した本発明の酸化亜鉛系焼結体を、所定の形状および所定の寸法に加工して得られる。
【0052】
加工方法は、特に制限されず、適宜公知の方法を採用すればよい。例えば、酸化亜鉛系焼結体に平面研削などを施した後、所定の寸法に切断して支持台に貼着することにより、本発明のターゲットを得ることができる。必要に応じて、複数枚の酸化亜鉛系焼結体を分割形状に並べて、大面積のターゲット(複合ターゲット)としてもよい。
【0053】
本発明の酸化亜鉛系焼結体または本発明のターゲットを用いて形成された透明導電膜は、スパッタリング法によって、優れた導電性の膜を得ることができる。こうした低抵抗の透明導電膜が得られる理由は、ターゲット中に金属亜鉛が均一に分散させることにより、また、金属亜鉛が偏析しておらず、高密度であるので、安定した成膜が可能である。
【0054】
本発明の酸化亜鉛系透明導電膜の形成方法は、このようにして得られたターゲットを、スパッタリング法、イオンプレーティング法、PLD法またはEB蒸着法に供して、酸化亜鉛系透明導電膜を形成する工程を含む。
スパッタリング法、イオンプレーティング法、PLD法またはEB蒸着法の成膜する際の条件設定は、従来公知の条件で行えばよい。
【0055】
本発明の透明導電性基板は、透明基材と、この透明基材上に、上記形成方法によって形成された酸化亜鉛系透明導電膜とを少なくとも備える。
透明基材としては、例えば、無アルカリガラス、アルカリガラス等のガラス基板;ポリエチレンテレフタレート(PET)基板、ポリエチレンナフタレート(PEN)基板、ポリカーボネート(PC)基板、ポリイミド基板等の透明樹脂基板などが挙げられる。
【0056】
本発明の透明導電性基板は、例えば、太陽電池、液晶表示素子、その他各種受光素子における電極;自動車窓や建築用の熱線反射膜;帯電防止膜;冷凍ショーケースなどにおける防曇用透明発熱体などに用いられ、特に、低抵抗で導電性に優れた透明導電膜は、太陽電池や、液晶、有機エレクトロルミネッセンス、無機エレクトロルミネッセンスなどの液晶表示素子や、タッチパネルなどに好適に用いられる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例および比較例において、焼結体における密度、金属原子の原子数比、焼結体のモルフォロジー観察、焼結体の結晶構造および焼結体や透明導電膜の比抵抗は、以下の方法により求めた。
【0058】
<密度>
焼結体の焼結密度は、アルキメデス法により測定した。
<原子数比>
焼結体を構成する金属原子の原子数比は、エネルギー分散型蛍光X線装置((株)島津製作所製「EDX−700L」)を用いて分析した。
<モルフォロジー観察>
金属亜鉛の偏析の有無は、デジタルマイクロスコープ((株)ハイロックス製)により、焼結体の表面を拡大した画像(倍率100倍)を用いて目視により判断した。白く見える大きな粒子が観測されなかった場合は、焼結体に金属亜鉛の偏析が無く、均一に分散していると判断し、白く見える大きな粒子が観測された場合は、焼結体に金属亜鉛の偏析があると判断した。
<結晶構造>
焼結体の結晶構造は、X線回折装置(スペクトリス(株)製の「X‘Pert PRO」)を使って、CuKα線を用いて印加電圧45kV,印加電流40mAで、θ−2θ法により焼結体を分析し、特定した。
<比抵抗>
比抵抗は、抵抗率計(三菱化学(株)製「LORESTA‐GP、MCP‐T610」)を用いて、四端子四探針法により測定した。詳しくは、サンプルに4本の針状の電極を直線上に置き、外側の二探針間と内側の二探針間とに一定の電流を流し、内側の二探針間に生じる電位差を測定して抵抗を求めた。
【0059】
(実施例1)
酸化亜鉛粉末(ZnO、キシダ化学(株)製)および酸化チタン粉末(TiO(II)、(株)高純度化学研究所製)を、亜鉛元素とチタン元素の元素数比が97.0:3.0となるように秤量し、ポリプロピレン製の容器に入れ、更にこの容器に2mmΦジルコニア製ボールと混合溶媒としてエタノールを入れた。これを卓上型ボールミル回転架台に載置し、回転混合して、原料粉末スラリーを得た。
【0060】
混合操作後、ボールを篩いにより、エタノールをエバポレーターにより除去して得られた原料粉末を乾燥させた後、金型に入れ、一軸プレス機(エヌピーエーシステム(株)製の「MT−300AFD」)により40MPaの圧力で加圧し、円盤型の成形体を得た。
これを電気炉に入れ、Ar雰囲気下、1300℃で加熱処理を行い、酸化亜鉛系焼結体(1)を得た。この焼結体の相対密度を97.0%であった。また、電子顕微鏡にて酸化亜鉛系焼結体(1)を観察したところ、空孔もほとんどなく緻密な焼結体であった。
なお、相対密度は、下式に示すように、酸化亜鉛、酸化チタンの単体密度に混合の重量比をかけ、和をとったものを100%として求めた。
相対密度=100×[(焼結体の密度)/(理論密度)]
理論密度=(酸化亜鉛の単体密度×混合重量比+酸化チタンの単体密度×混合重量比)
【0061】
得られた焼結体(1)におけるZnとTiとの原子数比はZn:Ti=97:3(Ti/(Zn+Ti)=0.03)であった。
焼結体(1)の結晶構造を分析した結果を
図1および
図2に示す。
図1および
図2のX線回折プロファイルから、金属亜鉛相が確認された。
この焼結体(1)のモルフォロジー観察を行ったところ、
図3に示すように、特に金属亜鉛が偏析している状態は観察されなかった。
以上のことから金属亜鉛が焼結体(1)中に均一に分散しているといえる。
【0062】
次いで、焼結体(1)を研削、ついで表面研磨を施し、50.8mmφ、厚さ3mmの円盤状に加工してターゲットを得、このターゲットを用いてDCスパッタリング法により透明導電膜を成膜し、透明導電基板を得た。
すなわち、スパッタリング装置(キャノンアネルバエンジニアリング(株)製「E−200」)内に、透明基材(石英ガラス基板)と得られたターゲットとを設置し、Arガス(純度99.9995%以上、Ar純ガス=5N)を12sccmで導入して、圧力0.5Pa、電力70Wおよび基板温度250℃の条件下でスパッタリングを約3時間行い、基板上に500nmの膜厚を有する透明導電膜を形成した。
得られた透明導電膜の比抵抗は4.2×10
−4Ω・cmであり、低抵抗であった。また、成膜中に発生した異常放電に起因してスパッタリング装置の運転が停止した回数は、1時間あたり1回以内であった。
【0063】
このように、得られたターゲットはプラズマの安定性が良くDCスパッタリングにより十分安定して成膜可能であり、得られた透明導電膜は低抵抗であることがわかった。
【0064】
(実施例2)
酸化亜鉛粉末(ZnO;和光純薬工業(株)製、特級)および酸化チタン(II)粉末(TiO;(株)高純度化学研究所製、純度99.99%)を、原子数比でZn:Ti=97:3(Ti/(Zn+Ti)=0.03)となるように秤量し、ポリプロピレン製の容器に入れ、更にこの容器に2mmφジルコニア製ボールと混合溶媒としてエタノールを入れた。これを卓上型ボールミル回転架台に載置し、回転混合して、原料粉末スラリーを得た。混合操作後、ボールを篩いにより、エタノールをエバポレーターにより除去して得られた原料粉末を乾燥させた後、混合物を得た。
混合操作後、ボールとエタノールを除去して得られた原料粉末を黒鉛からなる金型(ダイス)に入れ、黒鉛からなるパンチにて40MPaの圧力で真空加圧し、1000℃、4時間、加熱処理を行い円盤型の酸化亜鉛系焼結体(2)を得た。(ホットプレス焼結)
【0065】
円盤型の酸化亜鉛系焼結体(2)の相対密度を実施例1と同様にして求めたところ、97.0%であった。また、電子顕微鏡にて酸化亜鉛系焼結体(2)を観察したところ、空孔もほとんどなく緻密な焼結体であった。
【0066】
得られた酸化亜鉛系焼結体(2)におけるZnとTiとの原子数比は、Zn:Ti=97:3(Ti/(Zn+Ti)=0.03)であった。酸化亜鉛系焼結体(2)の結晶構造を分析したところ、実施例1と同様に金属亜鉛相が確認された。この焼結体(2)のモルフォロジー観察を行ったところ、実施例1と同様に特に金属亜鉛が偏析している状態は観察されなかった。
このことから金属亜鉛が焼結体中に均一に分散しているといえる。
【0067】
次いで、酸化亜鉛系焼結体(2)を研削、ついで表面研磨を施し、50.8mmφ、厚さ3mmの円盤状に加工してターゲットを得、このターゲットを用いてDCスパッタリング法により実施例1と同様にして透明導電膜を成膜し、透明導電基板を得た。
得られた透明導電膜の比抵抗は4.2×10
−4Ω・cmであり、低抵抗であった。また、成膜中に発生した異常放電に起因してスパッタリング装置の運転が停止した回数は、1時間あたり1回以内であった。
【0068】
このように、得られたターゲットはプラズマの安定性が良くDCスパッタリングにより十分安定して成膜可能であり、得られた透明導電膜は低抵抗であることがわかった。
【0069】
(比較例1)
酸化亜鉛粉末(ZnO;和光純薬工業(株)製、特級)および金属亜鉛粉末(Zn;和光純薬工業(株)製、特級)をZnO:Zn=85:15となるように配合した亜鉛系粉末と、酸化チタン(IV)粉末(TiO
2;(株)和光純薬工業(株)製、純度99.99%)とを、原子数比でZn:Ti=97:3(Ti/(Zn+Ti)=0.03)となるように配合し、実施例2と同様にして円盤型の酸化亜鉛系焼結体(C1)を得た(ホットプレス焼結)。
【0070】
円盤型の酸化亜鉛系焼結体(C1)の相対密度は実施例1と同様にして求めたところ、91.1%であった。また、電子顕微鏡にて酸化亜鉛系焼結体(C1)を観察したところ、金属亜鉛が焼結中に溶融し移動したあるいは揮散した空孔が観察され、低密度な焼結体であった。
【0071】
得られた酸化亜鉛系焼結体(C1)におけるZnとTiとの原子数比は、Zn:Ti=94.7:5.3(Ti/(Zn+Ti)=0.053)であった。金属亜鉛が揮発したため、組成がずれた。酸化亜鉛系焼結体(C1)の結晶構造を分析したところ、実施例1と同様に金属亜鉛相が確認された。この焼結体(C1)のモルフォロジー観察を行ったところ、
図4に示すように金属亜鉛が偏析している状態が観察された。
このことから金属亜鉛が焼結体中に不均一に偏析しているといえる。
【0072】
次いで、酸化亜鉛系焼結体(C1)を研削、ついで表面研磨を施し、50.8mmφ、厚さ3mmの円盤状に加工してターゲットを得、このターゲットを用いてDCスパッタリング法により実施例1と同様にして透明導電膜を成膜し、透明導電基板を得た。
得られた透明導電膜の比抵抗は7.8×10
−4Ω・cmであり、高抵抗であった。また、成膜中に発生した異常放電に起因して、10分以内に1回、スパッタリング装置の運転が停止した。
【0073】
このように、得られたターゲットはプラズマの安定性が不安定でDCスパッタリングにより成膜には不向きであり、得られた透明導電膜は高抵抗であることがわかった。
【0074】
(実施例3)
酸化亜鉛粉末(ZnO;和光純薬工業(株)製、特級)、酸化アルミニウム粉末(Al
2O
3;住友化学(株)製、純度99.99%)および酸化クロム粉末(Cr
2O
3;和光純薬工業(株)製)を、原子数比でZn:Al:Cr=96.7:3.0:0.3となるように配合し、実施例2と同様にして円盤型の酸化亜鉛系焼結体(3)を得た(ホットプレス焼結)。
【0075】
円盤型の酸化亜鉛系焼結体(3)の相対密度は96.8%であった。また、電子顕微鏡にて酸化亜鉛系焼結体(3)を観察したところ、空孔もほとんどなく緻密な焼結体であった。
なお、相対密度は、下式に示すように、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化クロムの単体密度に混合の重量比をかけ、和をとったものを100%として求めた。
相対密度=100×[(焼結体の密度)/(理論密度)]
理論密度=(酸化亜鉛の単体密度×混合重量比+酸化クロムの単体密度×混合重量比+酸化アルミニウムの単体密度×混合重量比)
なお、焼結体の密度は、アルキメデス法により測定した。
【0076】
得られた酸化亜鉛系焼結体(3)におけるZnとAlとCrとの原子数比は、Zn:Al:Cr=96.7:3.0:0.3であった。酸化亜鉛系焼結体(3)の結晶構造を分析したところ、実施例1と同様に金属亜鉛相が確認された。この焼結体(3)のモルフォロジー観察を行ったところ、実施例1と同様に特に金属亜鉛が偏析している状態は観察されなかった。
このことから金属亜鉛が焼結体中に均一に分散しているといえる。
【0077】
次いで、酸化亜鉛系焼結体(3)を研削、ついで表面研磨を施し、50.8mmφ、厚さ3mmの円盤状に加工してターゲットを得、このターゲットを用いてDCスパッタリング法により実施例1と同様にして透明導電膜を成膜し、透明導電基板を得た。
得られた透明導電膜の比抵抗は3.1×10
−4Ω・cmであり、低抵抗であった。また、成膜中に発生した異常放電に起因してスパッタリング装置の運転が停止した回数は、1時間あたり1回以内であった。
【0078】
このように、得られたターゲットはプラズマの安定性が良くDCスパッタリングにより十分安定して成膜可能であり、得られた透明導電膜は低抵抗であることがわかった。
【0079】
(比較例2)
酸化亜鉛粉末(ZnO;和光純薬工業(株)製、特級)および金属亜鉛粉末(Zn;和光純薬工業(株)製、特級)をZnO:Zn=85:15となるように配合した亜鉛系粉末と、酸化アルミニウム粉末(Al
2O
3;住友化学(株)製、純度99.99%)とを、原子数比でZn:Al=97.0:3.0となるように配合し、実施例2と同様にして円盤型の酸化亜鉛系焼結体(C2)を得た。(ホットプレス焼結)
【0080】
円盤型の酸化亜鉛系焼結体(C2)の相対密度は91.1%であった。また、電子顕微鏡にて酸化亜鉛系焼結体(C2)を観察したところ、比較例1における酸化亜鉛系焼結体(C1)と同様に金属亜鉛が焼結中に溶融し移動したあるいは揮散した空孔が観察され、低密度な焼結体であった。
なお、相対密度は、下式に示すように、酸化亜鉛、金属亜鉛、酸化アルミニウムの単体密度に混合の重量比をかけ、和をとったものを100%として求めた。
相対密度=100×[(焼結体の密度)/(理論密度)]
理論密度=(酸化亜鉛の単体密度×混合重量比+金属亜鉛の単体密度×混合重量比+酸化アルミニウムの単体密度×混合重量比)
なお、焼結体の密度は、アルキメデス法により測定した。
【0081】
得られた酸化亜鉛系焼結体(C2)におけるZnとAlとの原子数比は、Zn:Al=95.1:4.9(Al/(Zn+Al)=0.049)であった。金属亜鉛が揮発したため、組成がずれた。酸化亜鉛系焼結体(C2)の結晶構造を実施例1と同様に分析したところ、金属亜鉛相が確認された。この焼結体(C2)のモルフォロジー観察を行ったところ、比較例(1)における酸化亜鉛系焼結体(C1)と同様に金属亜鉛が偏析している状態が観察された。
このことから金属亜鉛が焼結体中に不均一に偏析しているといえる。
【0082】
次いで、酸化亜鉛系焼結体(C2)を研削、ついで表面研磨を施し、50.8mmφ、厚さ3mmの円盤状に加工してターゲットを得、このターゲットを用いてDCスパッタリング法により透明導電膜を成膜し、透明導電基板を得た。
得られた透明導電膜の比抵抗は5.7×10
−4Ω・cmであり、高抵抗であった。また、成膜中に発生した異常放電に起因して、10分以内に1回、スパッタリング装置の運転が停止した。
【0083】
このように、得られたターゲットはプラズマの安定性が不安定でDCスパッタリングにより成膜には不向きであり、得られた透明導電膜は高抵抗であることがわかった。
【0084】
(比較例3)
酸化亜鉛粉末(ZnO;和光純薬工業(株)製、特級)および金属亜鉛粉末(Zn;和光純薬工業(株)製、特級)をZnO:Zn=85:15となるように配合した亜鉛系粉末と、酸化アルミニウム粉末(Al
2O
3;住友化学(株)製、純度99.99%)とを、原子数比でZn:Al=97.0:3.0となるように配合し、実施例1と同様にして円盤型の成形体を得た。
これを電気炉に入れ、Ar雰囲気下、1300℃で加熱処理を行ったところ、焼結中に金属亜鉛が溶融して流動し、円盤型の焼結体とならず、焼結体の体をなさなかった。