【実施例】
【0048】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0049】
実施例1 ヒト間葉系幹細胞の分化誘導
試薬
実験には合成ペプチドを使用した。合成ペプチドDは配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるペプチドであり、9アミノ酸から構成され、二つのシステイン残基がジスルフィド結合により結合した環状ペプチドである。合成ペプチドDはRANKLに結合することが報告されている(Aokiら、J Clin Invest 116: 1525, 2006)。
培養細胞
ヒト間葉系幹細胞はLonza社から購入した。専用の継代培地はLonza社製品を使用した。
ヒト間葉系幹細胞の分化誘導
ヒト間葉系幹細胞を、5×10
4個/ウェルずつ48ウェルプレート(IWAKI)に播種した。24時間後に培養上清を除去し、軟骨細胞分化誘導培地(Lonza)に切換え、3〜4日毎に培地を交換した。
【0050】
同時に100μMの濃度でペプチドDを添加した(ペプチドD投与群)。さらに100μMのペプチドD及び1ng/mLのBMP-4(R&D)が共添加群についても検討を行った。陽性対照群には1ng/mLBMP-4を添加した。培地交換を繰り返しながら、14日間培養を行った後、10%ホルマリン中性緩衝液にて細胞の固定を行った。固定後、アルシアンブルー液にて4時間染色を行い、色素を洗浄後にプレートの写真を撮影し、さらに6Mグアニジン塩酸溶液を用いて、色素の溶出を行った。溶出液100μLを96ウェルプレートに移し、各ウェルの620nmにおけるOD値をマイクロプレートリーダー(BMG Labtech)にて測定した。
【0051】
・アルシアンブルー液 (pH2.5)
Alcian blue 8GX 1g
酢酸 3ml
蒸留水 97ml
【0052】
その結果
図1Aに示したように、対照群に対しペプチドD添加によりアルシアンブルー染色陽性細胞が増えていることが示され、さらに溶出液の620nmにおける吸光度を測定したところ、ペプチドD添加により有意な吸光度の上昇が認められた(
図1B)。これはペプチドDによりヒト間葉系幹細胞が軟骨細胞に分化したことを示す。一方でBMP-4との相乗効果は認められなかった。
【0053】
実施例2 ペプチドDによる軟骨前駆細胞の分化誘導
培養細胞
軟骨細胞マウスEC(胚性がん腫)由来のクローン化細胞株ATDC5は京都大学再生医学研究所の開先生・宿南先生から供与頂いた。継代培地は5%FBS(ニチレイ)を含むDMEM/F-12培地(cellgro)を用いた。
軟骨前駆細胞ATDC5細胞の分化誘導
ATDC細胞を、2×10
4個/ウェルずつ48ウェルプレート(IWAKI)に播種した。24時間後に培養上清を除去し、10ng/mLインスリン(Roche)を含むDMEM/F-12培地を添加した。3〜4日毎に培地を交換した。
【0054】
同時に25、100μMの濃度でペプチドDを添加した。陽性対照として1及び5ng/mLのBMP-4(R&D)を添加した。さらにペプチドDとBMP-4の相乗効果を確認するため、25μMのペプチドDと1ng/mLのBMP-4を共添加した。培地交換を繰り返しながら、14日間培養を行った後、10%ホルマリン中性緩衝液にて細胞の固定を行った。固定後、アルシアンブルー液にて4時間染色を行い、色素を洗浄後にプレートを乾燥させ、写真を撮影した。
【0055】
マウス軟骨前駆細胞ATDC5細胞においてもペプチドD添加により、アルシアンブルー陽性ノジュール形成が確認され、濃度依存的にその数は増加した(
図2)。これはペプチドDによりATDC5細胞が軟骨細胞に分化したことを示す。
ATDC5細胞を用いた場合でも、BMP-4との相乗効果は認められなかった。
【0056】
実施例3 ペプチドD添加時のマウスATDC5細胞における各因子の発現
RT-PCR解析
6cmディッシュ(IWAKI)に5×10
4個のマウス軟骨前駆細胞ATDC5を播種し、10ng/mLのインスリンを含む軟骨分化誘導培地存在下で7及び14日間培養した。ペプチドD添加群には200μMのペプチドDを添加し、陽性対照群には5ng/mLのBMP-4を添加した。培養後に細胞をPBSで洗浄し、TRIZOL(QIAGEN)1mLに細胞を溶解させ、溶液を回収した。室温で5分間溶液を放置後に0.2mLのクロロホルム(Wako)を添加し、激しく転倒混和させてから、4℃、12000×gの条件で15分間遠心を行い、上清を新しいチューブに移し、0.5mLのイソプロパノールを加えて転倒混和し、室温で10分間放置した。4℃、12000×gの条件で10分間遠心を行い、上清を除去後、70%エタノールにて脱塩処理を行った。乾燥後に87.5μL DEPC水にRNAを溶解し、10μL RDD buffer、2.5μL DNaseを加え室温で10分間放置した。RNeasy MinElute Cleanup Kit(キアゲン)を用いてRNA sampleを処理し、得られたRNAの濃度をナノドロップにて測定した。得られたRNA 250ngを1%アガロースゲルにて電気泳動を行い、RNA分解の有無を確認し、分解のないRNAそれぞれ250ngをRT-PCRに供した。RT-PCRはThermoScript RT-PCR System(Invitrogen)及びrandom primerを用いて行った。
【0057】
cDNA合成後に、マウスII型コラーゲンα1鎖(mCol 2α1)、マウスX型コラーゲン(mCol X)及びマウスアグリカン(mAggrecan)特異的なプライマーを用いてPCRを行った。標準化用にマウスGAPDH特異的なプライマーを用いてPCRを行った。用いたPCRプライマー配列は下に記載した。Ex Taq
TM Hot Start Version (Takara Bio Inc.)を用いて以下の条件でPCRを行った。
【0058】
マウスII型コラーゲンα1鎖(mCol 2α1)は95℃で3分初期熱変性を行った後、95℃で10秒、48℃で15秒、68℃で30秒を37サイクル行い、68℃で10分間伸長反応を行った。
【0059】
マウスX型コラーゲン(mCol X)は、95℃で3分初期熱変性を行った後、95℃で10秒、54℃で15秒、68℃で30秒を34サイクル行い、68℃で10分間伸長反応を行った。
【0060】
マウスアグリカン(mAggrecan)は、95℃で3分初期熱変性を行った後、95℃で10秒、54℃で15秒、68℃で30秒を40サイクル行い、68℃で10分間伸長反応を行った。
【0061】
マウスGAPDHは、95℃で3分初期熱変性を行った後、94℃で10秒、58℃で15秒、68℃で30秒を23サイクル行い、68℃で10分間伸長反応を行った。
【0062】
なお、day14のmCol Xについては37サイクルでデータを採取した。
PCRプライマー配列
mCol 2α1-F: 5’- GATGACATTATCTGTGAAG -3’(配列番号8)
mCol 2α1-R: 5’- ATCTCTGATATCTCCAGG -3’(配列番号9)
mCol X-F: 5’- CTTTGTGTGCCTTTCAATCG -3’(配列番号10)
mCol X-R: 5’- GTGAGGTACAGCCTACCAGTT -3’(配列番号11)
mAggrecan-F: 5’- AACTTCTTTGCCACCGGAGA -3’(配列番号12)
mAggrecan-R : 5’- GGTGCCCTTTTTACACGTGAA -3’(配列番号13)
mGAPDH-F : 5’- CACCATGGAGAAGGCCGGGG -3’(配列番号14)
mGAPDH-R : 5’- GACGGACACATTGGGGGTAG -3’(配列番号15)
【0063】
PCR反応後得られたサンプルは、2%アガロースゲルを用いて電気泳動を行い、エチジウムブロマイドを用いて、UV下で特異的なバンドが形成されていることを確認した(
図3A及び
図4A)。得られた画像は、CSAnalyzer(ATTO)を用いて解析した。また、GAPDHの発現量で標準化し、
図3B及び
図4Bに示した。
【0064】
その結果、ペプチドD添加によりATDC5細胞において7日目にアグリカンの発現が増加し、II型コラーゲンα鎖の発現が顕著に増加した(
図3A及びB)。また14日目になるとペプチドD添加により特にX型コラーゲンの発現が増加した。(
図4A及びB)これらの結果は、ペプチドDによりATDC5細胞において軟骨細胞分化に特有の遺伝子発現が上昇していることを示す。
【0065】
実施例4 ATDC細胞を用いたGeneChip解析
試薬/培養細胞
実施例1に記載したペプチドを使用した。培養細胞は実施例2に記載したATDC5を使用した。
【0066】
ATDC細胞を、1×10
5個/ウェルずつ6cm dish(IWAKI)に播種した。72時間後に培養上清を除去し、10ng/mLインスリン(Roche)及び10ng/mLトランスフェリン(Roche)を含むDMEM/F-12培地を添加した。3〜4日毎に培地を交換した。
【0067】
同時に100μMの濃度でペプチドDを添加した。分化誘導後4日目及び7日目において培地を除去し、PBSで細胞を洗浄後にabsolutely RNA Miniprep Kit(Stratagene)を用いてRNA抽出を行った。このRNAを用いてGeneChip解析(アフィメトリックス法:クラボウ)を行った。ペプチドD添加により発現が検定により有意に増加若しくは低下している各因子について、ペプチドD添加群のシグナル値を対照群のシグナル値で割った値を算出した。
【0068】
その結果を
図5に示した。軟骨の基質であるII、IX、XI型コラーゲンα鎖の発現が増加し、分化誘導に関与すると報告されているCTGF、PDGF、TGFβ1、ファイブロモデュリン等の因子や、それらの受容体であるPDGFR1、FGFR2などの発現も増加していた。また軟骨細胞分化を誘導するBMP-7の発現が上昇していた。
【0069】
さらに変形性関節症の悪化に関与していると報告のあったアスポリン、IGFbp2、IGFbp6やADAMTS5の発現がペプチドD添加により抑制されたことも確認できた。これらからペプチドD添加によりATDC細胞は軟骨細胞に分化していることが遺伝子発現からも確認できた。
【0070】
実施例5 ATDC細胞を用いた抗体による細胞増殖活性
試薬/培養細胞
培養細胞は実施例2に記載したATDC5を使用した。抗体は抗RANKLモノクローナル抗体mmB(クローン12A668,サンタクルズ)、1-12H(クローン1-12H,オリエンタル酵母)、mh2(クローン70513,R&D)、sc55(クローン4i167,サンタクルズ)、sc72(クローン500-M46,サンタクルズ)及びモノクローナル抗体FL317(サンタクルズ)を用いた。陽性対照として2x10
-8MのFGF2(フィブラストスプレー,科研製薬)を用いた。
【0071】
ATDC5細胞4x10
3個を96ウェルプレートに播種し、細胞が接着後に無血清培地に交換した。16時間後に各抗体を5μg/mLの濃度で添加し、72時間後に100μL当たり10μLのWST-1(Roche)を添加し、37℃でインキューベートしながら1〜4時間の間に経時的に450nmでの吸光度(参照波長595nm)についてマイクロプレートリーダーを用いて測定した。
【0072】
その結果、抗RANKLポリクローナル抗体FL317、RANKLモノクローナル抗体1-12H、mmBおよびmh2添加により、ATDC5の増殖活性が有意に上昇したことが明らかとなった(
図6)。
【0073】
実施例6 抗体による軟骨前駆細胞の分化誘導
試薬/培養細胞
培養細胞は実施例2に記載したATDC5を使用した。抗体は実施例4に記載のmmB抗体および抗RANKLモノクローナル抗体mmC(クローン12A380、ALEXIS)を用いた。
【0074】
ATDC5細胞を、2×10
4個/ウェルずつ48ウェルプレート(IWAKI)に播種した。72時間後に培養上清を除去し、実施例4に記載した分化誘導培地に切換え、3〜4日毎に培地を交換した。同時に0.5 μg/mLの濃度でmmB抗体およびmmC抗体を添加し、14日間培養を行った後、10%ホルマリン中性緩衝液にて細胞の固定を行った。固定後、実施例2に記載の方法でアルシアンブルー染色を行い、ノジュール形成を観察した。
【0075】
その結果を
図7に示した。mmB抗体添加により明らかにアルシアンブルー染色陽性細胞が増え、ノジュール形成が増加することが示された。以上から、mmB抗体添加によりATDC5細胞の軟骨細胞への分化が促進したことが明らかとなった。
【0076】
実施例7 ヒト間葉系幹細胞を用いた3次元培養
試薬/培養細胞
実施例1に記載したペプチドを使用した。ヒト間葉系幹細胞はLonza社から購入した。専用の継代培地はLonza社製品を使用した。
ヒト間葉系幹細胞の3次元培養
軟骨細胞を2次元で培養すると脱分化が起こることが知られている。より自然に近い軟骨細胞の培養系として、3次元培養という手法が採用されている。ヒト間葉系幹細胞を、2.5×10
5個ずつ15mLチューブ(TPP製)に分注し、1000rpmで4分間室温にて遠心を行った。上清を除去し、軟骨細胞分化誘導培地(Lonza)に10ng/mLTGF-β3(R&D)を添加したもの0.5mLに交換した。3〜4日毎に培地を交換した。同時に50μMおよび150μMの濃度でペプチドDを添加した(低用量および高用量ペプチドD群)。14日目に培養を終了し、4%PFA(Wako)で固定後、顕微鏡下で写真撮影を行った(
図8)。このペレットをパラフィン包埋後、標本を作製し、アルシアンブルー染色およびサフラニンO染色を行った(
図9)。その結果を
図8および9に示した。ペプチドを添加することにより、濃度依存的にペレットの大きさが増大することがわかった。またペプチド添加により増大した部分はアルシアンブルーやサフラニンO染色で陽性となっており、軟骨基質が産生されていることが確認された。3次元培養においてペレットの大きさを増大させたことから、より自然に近い軟骨を形成し、軟骨基質産生を増加させる能力をペプチドDが有していることが示唆された。
【0077】
次にペプチドDとTGF-β3との相乗効果についても検討を行った。軟骨分化誘導培地を用いて、ヒト間葉系幹細胞2.5×10
5個に対し、40μMのペプチドDおよび10ng/mLTGF-β3の共存下で培地交換を繰り返しながら、21日間培養を行い、3次元ペレットを作製した。4%PFA固定後に顕微鏡下で写真撮影を行い、ペレットの大きさを確認した(
図10)。さらにペレットをパラフィン包埋後、標本を作製し、アルシアンブルー染色およびサフラニンO染色を行った(
図11)。その結果を
図10および11に示した。TGF-β3単独ではペレットの大きさはコントロール群と比して変化はみられなかった。40μMのペプチドDをTGF-β3と共に添加することにより、ペレット自体の大きさが増大していた。さらに軟骨特異的なアルシアンブルーやサフラニンO染色で強い陽性となっており、TGF-β3とペプチドDが軟骨細胞分化や軟骨基質が産生において相乗効果を示すことが確認された(
図11)。
【0078】
さらにペプチドDとBMP-2との相乗効果についても検討を行った。軟骨分化誘導培地を用いて、ヒト間葉系幹細胞2.5×10
5個に対し、40μMのペプチドDおよび100ng/mLBMP-2(R&D)の共存下で培地交換を繰り返しながら、21日間培養を行い、3次元ペレットを作製した。4%PFA固定後に顕微鏡下で写真撮影を行い、ペレットの大きさを確認した(
図12)。さらにペレットをパラフィン包埋後、標本を作製し、アルシアンブルー染色およびサフラニンO染色を行った(
図13)。その結果を
図12および13に示した。BMP-2単独ではペレットの大きさは、コントロール群と比して変化がみられなかった。40μMのペプチドDをBMP-2と共に添加した場合にも、ペプチドD単独で形成されたペレットの大きさと変わりはなかった(
図12)。しかしながら、ペレットの標本染色を観察した結果、ペプチドとBMP-2を共添加した群では、アルシアンブルーおよびサフラニンO陽性となっていた。ペレットの大きさには効果はみられないが、BMP-2とペプチドDが軟骨細胞分化や軟骨基質が産生において相乗効果を示すことが確認された。
【0079】
実施例8 ヒト間葉系幹細胞を用いたGeneChip解析
試薬/培養細胞
実施例1に記載したペプチドを使用した。ヒト間葉系幹細胞はLonza社から購入した。専用の継代培地はLonza社製品を使用した。
【0080】
ヒト間葉系幹細胞を、1×10
5個/ウェルずつ6ウェルプレート(Nunc)に播種し、96時間後に培養上清を除去し、軟骨分化誘導培地を2mL添加した。コントロール群、40μMのペプチドDを添加したペプチドD群、10ng/mLTGF-β3を添加したTGF-β3群、および40μMのペプチドDおよび10ng/mLTGF-β3の共存培養を行った群(ぺプチドD+TGFβ3)の4群を用意した。培養後24時間および96時間で培地を除去し、TRIZOL(Invitrogen)1mLに細胞を溶解させ、RNA抽出を行った。このRNAを用いてGeneChip解析(アフィメトリックス法:クラボウ)を行った。各因子の添加により発現が検定により有意に増加もしくは低下している各因子について、各因子添加群のシグナル値を対照群のシグナル値で割った値を算出した。
その結果を
図14に示した。
【0081】
軟骨基質であるアグリカンの発現はペプチドD投与群によって24時間後に上昇し、96時間後にもその発現上昇は維持されていた。一方で、TGFβ3群ではアグリカンの発現は24時間後の発現は対照群と同レベルであったが、96時間後には対照群より発現が低下していた。ペプチドD+TGFβ3群ではTGFβ3による発現低下の影響を受けて、アグリカンの発現低下が示された。また、軟骨細胞分化に関与しているSox9(SRY (sex determining region Y)-box 9)の発現は、24時間および96時間後において3群共に対照群に比して上昇していた。24時間後にはIGF2Rおよびバーシカンの上昇が、さらに96時間後にはIGF-1、LTBP2、及びTGFβ1の発現上昇がペプチドD群で確認された。
なお、
図14中の略語については以下に記載した。
【0082】
ACAN : aggrecan
IGF1 : insulin growth factor 1
LTBP2 : latent transforming growth factor protein 2
SOX9 : SRY (sex determining region Y)-box 9
VCAN : vercican