特許第5879342号(P5879342)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5879342無水フタル酸を製造するための多層触媒、及び無水フタル酸の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5879342
(24)【登録日】2016年2月5日
(45)【発行日】2016年3月8日
(54)【発明の名称】無水フタル酸を製造するための多層触媒、及び無水フタル酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/02 20060101AFI20160223BHJP
   B01J 27/198 20060101ALI20160223BHJP
   C07D 307/89 20060101ALI20160223BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20160223BHJP
【FI】
   B01J35/02 Z
   B01J27/198 Z
   C07D307/89 C
   !C07B61/00 300
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-517626(P2013-517626)
(86)(22)【出願日】2011年6月28日
(65)【公表番号】特表2013-537476(P2013-537476A)
(43)【公表日】2013年10月3日
(86)【国際出願番号】IB2011052831
(87)【国際公開番号】WO2012001620
(87)【国際公開日】20120105
【審査請求日】2014年6月25日
(31)【優先権主張番号】10167826.6
(32)【優先日】2010年6月30日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】アルトヴァサー,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ツュールケ,ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】アルマン,ハンス−マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ロゾヴスキー,フランク
【審査官】 山口 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−501262(JP,A)
【文献】 特表2009−541245(JP,A)
【文献】 国際公開第98/017608(WO,A1)
【文献】 特表2009−537316(JP,A)
【文献】 特表2009−534184(JP,A)
【文献】 特表2007−533426(JP,A)
【文献】 特表2009−533211(JP,A)
【文献】 特表2008−520418(JP,A)
【文献】 特開昭56−073543(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J21/00−38/74
C07D307/00−307/94
C07B61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナフタレン又はo−キシレン/ナフタレン混合物を無水フタル酸に酸化させるための多層触媒であって、
少なくとも3個の触媒層を含み、
各層が、酸化バナジウム及び二酸化チタン並びに各層における触媒活性組成物の合計量に基づいて0.01〜0.50質量%の量の酸化ニオブ(Nbとして計算)を含み、且つ
a)反応器内全触媒充填高さの15〜30%の範囲の床長を有する一の触媒層Aの質量基準のアルカリ金属含量が最も高く、
b)流れ方向で触媒層Aに後から続く触媒層Zが、触媒層Aの質量基準のアルカリ金属含量の0〜10%の質量基準のアルカリ金属含量を有し、且つ
c)触媒層AとZの間に位置する触媒層が触媒層Aの質量基準のアルカリ金属含量の30〜90%の質量基準のアルカリ金属含量を有し、各触媒層の質量基準のアルカリ金属含量が流れ方向の次の触媒層の質量基準のアルカリ金属含量よりも高くなるように選択されたアルカリ金属含量を有することを特徴とする多層触媒。
【請求項2】
4個の層を有する請求項1に記載の多層触媒であって、
前記触媒層の質量基準のアルカリ金属含量が、
a)反応器内全触媒充填高さの15〜30%の範囲の床長を有する一の触媒層Aの質量基準のアルカリ金属含量が最も高く、
b)流れ方向で触媒層Aに続く触媒層Bが、触媒層Aの質量基準のアルカリ金属含量の60〜90%の質量基準のアルカリ金属含量を有し、
c)流れ方向で触媒層Bに続く触媒層Cが、触媒層Aの質量基準のアルカリ金属含量の30〜59%の質量基準のアルカリ金属含量を有し、
d)流れ方向で触媒層Cに続く触媒層Zが、触媒層Aの質量基準のアルカリ金属含量の0〜10%の質量基準のアルカリ金属含量を有するように選択された多層触媒。
【請求項3】
少なくとも3個の触媒層を含む多層触媒を用いてナフタレン又はo−キシレン/ナフタレン混合物を無水フタル酸に酸化させる方法であって、
各層が、酸化バナジウム及び二酸化チタン並びに各層における触媒活性組成物の合計量に基づいて0.01〜0.50質量%の量の酸化ニオブ(Nbとして計算)を含み、且つ
a)反応器内全触媒充填高さの15〜30%の範囲の床長を有する一の触媒層Aの質量基準のアルカリ金属含量が最も高く、
b)流れ方向で触媒層Aに後から続く触媒層Zが、触媒層Aの質量基準のアルカリ金属含量の0〜10%の質量基準のアルカリ金属含量を有し、
c)触媒層AとZとの間に位置する触媒層が触媒層Aの質量基準のアルカリ金属含量の30〜90%の質量基準のアルカリ金属含量を有し、各触媒層の質量基準のアルカリ金属含量が流れ方向の次の触媒層の質量基準のアルカリ金属含量よりも高くなるように選択されたアルカリ金属含量を有することを特徴とする方法。
【請求項4】
4層触媒を用いた請求項3に記載の方法であって、
前記触媒層の質量基準のアルカリ金属含量が、
a)反応器内全触媒充填高さの15〜30%の範囲の床長を有する一の触媒層Aの質量基準のアルカリ金属含量が最も高く、
b)流れ方向で触媒層Aに続く触媒層Bが、触媒層Aの質量基準のアルカリ金属含量の60〜90%の質量基準のアルカリ金属含量を有し、
c)流れ方向で触媒層Bに続く触媒層Cが、触媒層Aの質量基準のアルカリ金属含量の30〜59%の質量基準のアルカリ金属含量を有し、
d)流れ方向で触媒層Cに続く触媒層Zが、触媒層Aの質量基準のアルカリ金属含量の0〜10%の質量基準のアルカリ金属含量を有するように選択された方法。
【請求項5】
ナフタレン又はo−キシレン/ナフタレン混合物を無水フタル酸に酸化させるための、少なくとも3個の触媒層を含む多層触媒の使用方法であって、
各層が、酸化バナジウム及び二酸化チタン並びに各層における触媒活性組成物の合計量に基づいて0.01〜0.50質量%の量の酸化ニオブ(Nbとして計算)を含み、且つ
a)反応器内全触媒充填高さの15〜30%の範囲の床長を有する一の触媒層Aの質量基準のアルカリ金属含量が最も高く、
b)流れ方向で触媒層Aに後から続く触媒層Zが、触媒層Aの質量基準のアルカリ金属含量の0〜10%の質量基準のアルカリ金属含量を有し、且つ
c)触媒層AとZと間に位置する触媒層が触媒層Aの質量基準のアルカリ金属含量の30〜90%の質量基準のアルカリ金属含量を有し、各触媒層の質量基準のアルカリ金属含量が流れ方向の次の触媒層の質量基準のアルカリ金属含量より高くなるように選択されたアルカリ金属含量を有することを特徴とする使用方法。
【請求項6】
ナフタレン又はo−キシレン/ナフタレン混合物を無水フタル酸に酸化させるための、4層触媒の使用方法であって、
各触媒層が酸化バナジウム及び二酸化チタン並びに各層における触媒活性組成物の合計量に基づいて0.01〜0.50質量%の量の酸化ニオブ(Nbとして計算)を含み、且つ
前記各触媒層の質量基準のアルカリ金属含量が、
a)反応器内全触媒充填高さの15〜30%の範囲の床長を有する一の触媒層Aの質量基準のアルカリ金属含量が最も高く、
b)流れ方向で触媒層Aに続く触媒層Bが、触媒層Aの質量基準のアルカリ金属含量の60〜90%の質量基準のアルカリ金属含量を有し、
c)流れ方向で触媒層Bに続く触媒層Cが、触媒層Aの質量基準のアルカリ金属含量の30〜59%の質量基準のアルカリ金属含量を有し、
d)流れ方向で触媒層Cに続く触媒層Zが、触媒層Aの質量基準のアルカリ金属含量の0〜10%の質量基準のアルカリ金属含量を有するように選択されたことを特徴とする使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応管内に連続するように配置された複数の触媒層を有し、個々の触媒層が流れ方向に減少するアルカリ金属含有量を有する、無水フタル酸を製造するための多層触媒に関する。本発明はさらに、そのような多層触媒を通してナフタレン又はo−キシレン/ナフタレン混合物を酸化させる方法、及びナフタレン又はo−キシレン/ナフタレン混合物を無水フタル酸に酸化させるためのそのような多層触媒の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くのカルボン酸及び/又はカルボン酸無水物は、固定床反応器中で、ベンゼン、キシレン、ナフタレン、トルエン又はデュレン等の炭化水素の接触気相酸化により工業的に製造される。こうして、例えば、安息香酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸又は無水ピロメリットを得ることが可能である。一般に、酸素含有ガス及び酸化されるべき出発材料は触媒床が存在する管を通過する。温度を調節するために、その管は、溶融塩等の伝熱媒体によって覆われている。
【0003】
これらの酸化反応のために好適であるとわかった触媒は、触媒活性組成物がステアタイト等の不活性担体材料にシェル形態で施された被覆触媒である。一般に、二酸化チタンと五酸化バナジウムが、これらの被覆触媒の触媒活性組成物の触媒活性成分として用いられる。さらに、触媒の活性及び選択性に影響を与えるプロモーターとして作用する多くの他の酸化物化合物の少量を、触媒活性組成物中に含ませることができる。
【0004】
異なる触媒層中で、それらの触媒活性及び/又はそれらの活性組成物の化学的性質に関して異なる触媒を用いることが特に有利であることがわかった。2個の反応区域を用いる場合、第1反応区域、すなわち、反応ガスの入口の最寄りに位置する反応区域で好ましく用いられる触媒は、第2反応区域、すなわち、反応ガスの出口に最寄りの反応区域に存在する触媒よりも幾分低い触媒活性を有する。一般に、その反応は、反応ガス中に含まれる芳香族炭化水素の大部分が第1の区域内において最大収率で反応するような温度設定により調節される。3〜5個の層の触媒系が用いられることが好ましく、特に、3個と4個の層の触媒系が用いられることが好ましい。
【0005】
酸化バナジウム/二酸化チタン触媒系を通したo−キシレンの無水フタル酸(PAn)への酸化は、通常約4標準立方メートル毎時の空気流及び1標準立方メートル当たり最大100gのo−キシレン負荷で実施される。o−キシレン/ナフタレン混合物を酸化させるために、触媒が特定のo−キシレン/ナフタレン混合比に、又は狭い範囲のo−キシレン/ナフタレン混合比に非常に適するように、触媒は一般的に開発されている。o−キシレン/ナフタレン比が大きく変更する場合、PAnの収率は大きく減少し、生成物の品質が著しく悪化し、及び/又は触媒の適切に作用する寿命に悪影響を及ぼす。これはo−キシレン又はナフタレンの高負荷で特に著しい。o−キシレン及びナフタレンの総負荷が高いほど、o−キシレン/ナフタレン比の許容範囲はより狭くなる。
【0006】
EP539878には、2層触媒を通してo−キシレン/ナフタレン混合物を酸化させる方法が記載されている。10/90〜90/10の質量比が用いられ、及び一回の通過での最大限の総負荷は毎時3000のガス毎時空間速度(GHSV)で標準立方メートル当たり70gである。触媒及びo−キシレン/ナフタレン混合比に応じて、PAn収率は98.5〜111.5質量%の範囲である。
【0007】
EP744214には、わずか101質量%のPAn収率が、標準立方メートル当たり80gのナフタレン負荷及び毎時4標準立方メートルの空気で達成された。
【0008】
EP1082317に記載されたような2層触媒の場合には、110質量%のPAn収率が、標準立方メートル当たり65〜80gで、75質量%/25質量%のo−キシレン/ナフタレン混合物及び毎時4標準立方メートルの空気で達成された。o−キシレン/ナフタレン比の変更は行われなかった。
【0009】
EP286448では、2層触媒が標準立方メートル当たり70gのナフタレンを用い、毎時3000のGHSVで運転された。しかしながら、o−キシレン/ナフタレン比は、個々の触媒に対して100:0〜50:50又は50:50〜0:100に変化したのみであった。同一の触媒を用いた混合比の広範な変動は記載されていない。
【0010】
2個を超える触媒層を有する触媒が、毎時4標準立方メートルの空気で、標準立方メートル当たり最大100gのo−キシレンの非常に高い負荷でも、o−キシレンを無水フタル酸に酸化させることが記載されている。EP1084115に記載されるように、例として、o−キシレンからPAnへの酸化のための3個の層触媒系が挙げられている。しかしながら、これらの触媒は、毎時約4標準立方メートルの空気で、標準立方メートル当たり少なくとも80gの総負荷で、且つo−キシレン/ナフタレン比の広い変動を伴うo−キシレン/ナフタレン混合物の酸化のためには好適では無い。
【0011】
高選択性で非常に高い転化をもたらす気相酸化のための触媒が引き続き必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】EP539878
【特許文献2】EP744214
【特許文献3】EP1082317
【特許文献4】EP286448
【特許文献5】EP1084115
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、毎時約4標準立方メートルの空気で、標準立方メートル当たり少なくとも80gの総負荷でナフタレン又はo−キシレン/ナフタレン混合物を酸化させるための触媒であって、高いPAn収率及び良好な生成物品質でo−キシレン/ナフタレン比が広範囲で変動可能である触媒を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的は、ナフタレン又はo−キシレン/ナフタレン混合物を無水フタル酸に酸化させるための多層触媒であって、各触媒層が酸化バナジウム及び二酸化チタンを含み、且つその触媒層のアルカリ金属含量が流れ方向に層から層へと減少する多層触媒によって達成される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
したがって、本発明は、ナフタレン又はo−キシレン/ナフタレン混合物を無水フタル酸に酸化させるための多層触媒であって、少なくとも3個の触媒層を含み、
各層が、酸化バナジウム及び二酸化チタンを含み、且つ
a)一の触媒層Aのアルカリ金属含量が最も高く、
b)流れ方向で触媒層Aに後から続く触媒層Zが、触媒層Aのアルカリ金属含量の0〜10%のアルカリ金属含量を有し、且つ
c)触媒層AとZの間に位置する触媒層が触媒層Aのアルカリ金属含量の30〜90%のアルカリ金属含量を有し、各層のアルカリ金属含量が流れ方向の次の層のアルカリ金属含量よりも高くなるように選択されたアルカリ金属含量を有する多層触媒を提供する。
【0016】
本発明の好ましい実施の形態では、多層触媒層は3個、4個又は5個の層を有する。3個及び4個の層の触媒であることが特に好ましい。
【0017】
本発明に係る多層触媒は、例えば、高いホットスポット温度を回避するために、適宜に、好適な上流及び/又は下流床並びに中間層との組み合わせで用いることができ、その上流及び/又は下流床並びに中間層には、一般に触媒的に不活性な、或いは低活性の材料を含み得る。
【0018】
本発明のさらに好ましい実施の形態は、ナフタレン又はo−キシレン/ナフタレン混合物を無水フタル酸に酸化させるための4層触媒であって、各触媒層が酸化バナジウム及び二酸化チタンを含み、且つ
その触媒層のアルカリ金属含量が
a)一の触媒層Aのアルカリ金属含量が最も高く、
b)流れ方向で触媒層Aに続く触媒層Bが、触媒層Aのアルカリ金属含量の60〜90%のアルカリ金属含量を有し、
c)流れ方向で触媒層Bに続く触媒層Cが、触媒層Aのアルカリ金属含量の30〜59%のアルカリ金属含量を有し、
d)流れ方向で触媒層Cに続く触媒層Zが、触媒層Aのアルカリ金属含量の0〜10%のアルカリ金属含量を有するように選択された4層触媒である。
【0019】
本発明に係る触媒は、一般に、触媒活性組成物が不活性担体材料にシェル形態で施された被覆触媒である。
【0020】
不活性担体材料としては、芳香族炭化水素をアルデヒド、カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物に酸化させるための被覆触媒の製造の際に有利に用いられ得るような、石英(SiO)、磁器、酸化マグネシウム、二酸化スズ、炭化ケイ素、ルチル、アルミナ(Al)、ケイ酸アルミニウム、ステアタイト(ケイ酸マグネシウム)、ケイ酸ジルコニウム、ケイ酸セリウム又はこれらの担体材料の混合物等の実質的に先行技術の全ての担体材料を用いることができる。触媒担体は、例えば、球状、リング状、ペレット状、らせん状、管状、押出物状又は粉砕物状の材料の形態で用いられ得る。これらの触媒担体の寸法は、芳香族炭化水素の気相反応のための被覆触媒の製造のために慣習的に用いられる触媒担体に対応する。直径3〜6mmの球状、又は5〜9mmの外径と3〜8mmの長さと1〜2mmの壁厚とを有するリング状の形態のステアタイトを用いることが好ましい。
【0021】
本発明に係る触媒は、少なくとも酸化バナジウムと二酸化チタンとを含む触媒活性組成物を含み、担体材料に1個以上の層で施され得る。種々の層は、それらの組成物の点で異なり得る。
【0022】
触媒活性組成物は、好ましくは、触媒活性組成物の合計量に対してVとして計算して1〜40質量%の酸化バナジウム及びTiOとして計算して60〜99質量%の二酸化チタンを含む。好ましい実施の形態では、その触媒活性組成物は、Csとして計算して最大1質量%のセシウム化合物、Pとして計算して最大1質量%のリン化合物、及びSbとして計算して最大10質量%の酸化アンチモンをさらに含む。触媒活性組成物の化学組成の全ての数値は、後者の焼成状態、例えば、450℃で1時間の触媒の焼成後の状態に基づいている。
【0023】
二酸化チタンは、通常、触媒活性組成物のためのアナターゼ型で用いられる。二酸化チタンは、好ましくは15〜60m/gの、特に15〜45m/gの、特に好ましくは13〜28m/gのBET表面積を有する。使用される二酸化チタンは、単一の二酸化チタン又は二酸化チタンの混合物を含み得る。後者の場合、BET表面積の値は、個々の二酸化チタンの寄与の加重平均である。用いられる二酸化チタンは、例えば、5〜15m/gのBET表面積を有するTiO及び15〜50m/gのBET表面積を有するTiOの混合物を有利に含む。
【0024】
好適なバナジウム源は、特に、五酸化バナジウムとメタバナジン酸アンモニウムである。好適なアンチモン源は、様々なアンチモン源であり、特に、三酸化アンチモンである。バナジウム及びアンチモンはまた、アンチモン酸バナジウム化合物(vanadium antimonate compound)の形態で用いられ得る。少なくとも1個の層の活性組成物に導入されたアンチモン酸バナジウムは、任意のバナジウムとアンチモン酸化合物の反応により製造され得る。混合酸又はアンチモン酸バナジウムを形成するための酸化物の直接反応が好ましい。
【0025】
アンチモン酸バナジウムは、アンチモンに対するバナジウムの様々なモル比を有することができ、また任意にさらなるバナジウム又はアンチモン化合物を含み、さらにバナジウム又はアンチモン化合物と混合して用いられ得る。
【0026】
可能なリン源は、特に、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、リン酸アンモニウム又はリン酸エステルであり、特に、リン酸二水素アンモニウムである。可能なセシウム源は、その酸化物若しくは水素化物、又は、酸化物へと熱的に転化され得るカルボン酸塩、特に、酢酸塩、マロン酸塩若しくはシュウ酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩又は硝酸塩等の塩である。
【0027】
任意の添加物であるセシウム及びリンとは別に、触媒の活性及び選択性にその活性を低下させ、或いは増大させること等により影響を与えるプロモーターとして作用する多くの他の酸化物化合物の少量を、触媒活性組成物に含ませることができる。そのようなプロモーターの例は、アルカリ金属であり、特に、上述のセシウム並びに酸化物又は水素化物の形態で通常用いられるリチウム、カリウム及びルビジウムであり、タリウム(I)酸化物、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化マンガン、酸化スズ、酸化銀、酸化銅、酸化クロム、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化イリジウム、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化ヒ素、酸化アンチモン、酸化セリウムである。
【0028】
上述のプロモーターの中で、触媒活性組成物に基づいて0.01〜0.50質量%の量の添加物としてのニオブ及びタングステンの酸化物が好ましい。
【0029】
被覆触媒の層は、任意に上述のプロモーター成分源を含むTiO及びVの懸濁液を流動化担体上に噴霧することにより有利に施される。被覆作業の前に、懸濁物質の凝集物の分散のために及び均質な懸濁液を得るために、懸濁液は好ましくは十分に長時間、例えば、2〜30時間、特に、12〜25時間攪拌される。懸濁液は、典型的に20〜50質量%の固形分を有する。懸濁媒体は、一般に水性であり、例えば、水自体又はメタノール、エタノール、イソプロパノール、ホルムアミド等の水混和性有機溶媒との水性混合物である。
【0030】
一般に、有機バインダー、好ましくはコポリマー、有利にアクリル酸−マレイン酸、酢酸ビニル−ビニルラウレート、酢酸ビニル−アクリレート、スチレン−アクリレート又は酢酸ビニル−エチレンの水性分散液の形態で懸濁液に添加される。バインダーは、例えば、35〜65質量%の固形分を有する水性分散液として市販されている。そのような使用されるバインダー分散液の量は、懸濁液の質量に対して一般に2〜45質量%、好ましくは5〜35質量%、特に好ましくは7〜20質量%である。
【0031】
担体は、上昇ガス流、特に、大気中で、例えば、流動床又は移動床装置中で流動化される。装置は、通常、流動化ガスが浸漬管を介して底部又は上部から導入される円錐形又は球形の容器を含む。懸濁液は、流動床へとノズルを介して上部から、側部から、又は下部から噴霧される。浸漬管の中央に又は同心円状に配置された上昇管の使用が有利である。
【0032】
担体粒子を上方へ運搬する比較的高いガス速度は上昇管の範囲内で優勢である。外側のリングでは、そのガス速度は緩められた速度を少しだけ上回っている。粒子はこうして循環方式で垂直に移動する。好適な流動床装置は、例えば、DE−A4006935に記載されている。
【0033】
触媒活性組成物での触媒担体の被覆の際、20〜500℃の被覆温度が一般に採用され、被覆は大気圧下又は減圧下で実施され得る。一般に、被覆は0〜200℃で実施され、好ましくは20〜150℃、特に60〜120℃で実施される。
【0034】
触媒活性組成物の層厚は、一般に0.02〜0.2mmであり、好ましくは0.05〜0.15mmである。触媒における活性組成物の割合は、通常5〜25質量%、主に7〜15質量%である。
【0035】
こうして得られたプレ触媒の200℃超〜500℃の温度での熱処理の結果として、バインダーは熱分解及び/又は燃焼の結果として施された層から放出される。熱処理は、好ましくは気相酸化反応器中でその場で実施される。
【0036】
種々の触媒の区切られた層の代わりに、複数の層の間で偽連続的な遷移を得ることもまた可能であり、そうして、一の層から次の層への変わり目に連続触媒の混合物を含む区域を挿入することによりアルカリ金属含量の効果的な均一な減少を得ることができる。
【0037】
触媒層Aの床長は、好ましくは反応器内全触媒充填高さの10〜50%の範囲であり、特に好ましくは15〜30%の範囲である。触媒層A及びB、又は、A、B及びCの床高さは、有利に全触媒充填高さの60〜95%の範囲である。典型的な反応器は250cm〜350cmの充填高さを有する。触媒層はまた、所望であれば、複数の反応器に亘って分配することができる。
【0038】
本発明に係る触媒は、標準立方メートル当たり80〜100gの範囲の総負荷及び毎時約4標準立方メートルの空気流で、ナフタレン又はo−キシレン/ナフタレン混合物を無水フタル酸に酸化させるために特に好適である。
【0039】
本発明は、さらに少なくとも3個の層触媒を含む多層触媒を用いてナフタレン又はo−キシレン/ナフタレン混合物を無水フタル酸に酸化させる方法であって、
各層が、酸化バナジウム及び二酸化チタンを含み、且つ
a)一の触媒層Aのアルカリ金属含量が最も高く、
b)流れ方向で触媒層Aに後から続く触媒層Zが、触媒層Aのアルカリ金属含量の0〜10%のアルカリ金属含量を有し、
c)触媒層AとZとの間に位置する触媒層が触媒層Aのアルカリ金属含量の30〜90%のアルカリ金属含量を有し、各触媒層のアルカリ金属含量が流れ方向の次の層のアルカリ金属含量より高くなるように選択されたアルカリ金属含量を有する方法を提供する。
【0040】
本発明の好ましい実施の形態は、4層触媒を用いてナフタレン又はo−キシレン/ナフタレン混合物を無水フタル酸に酸化させる方法であって、
各触媒層が酸化バナジウム及び二酸化チタンを含み、且つ
その触媒層のアルカリ金属含量が、
a)一の触媒層Aのアルカリ金属含量が最も高く、
b)流れ方向で触媒層Aに続く触媒層Bが、触媒層Aのアルカリ金属含量の60〜90%のアルカリ金属含量を有し、
c)流れ方向で触媒層Bに続く触媒層Cが、触媒層Aのアルカリ金属含量の30〜59%のアルカリ金属含量を有し、
d)流れ方向で触媒層Cに続く触媒層Zが、触媒層Aのアルカリ金属含量の0〜10%のアルカリ金属含量を有するように選択された方法である。
【0041】
さらに本発明は、ナフタレン又はo−キシレン/ナフタレン混合物を無水フタル酸に酸化させるための、少なくとも3個の触媒層を含む多層触媒の使用方法であって、
各層が、酸化バナジウム及び二酸化チタンを含み、且つ
a)一の触媒層Aのアルカリ金属含量が最も高く、
b)流れ方向で触媒層Aに後から続く触媒層Zが、触媒層Aのアルカリ金属含量の0〜10%のアルカリ金属含量を有し、
c)触媒層AとZの間に位置する触媒層が触媒層Aのアルカリ金属含量の30〜90%のアルカリ金属含量を有し、各触媒層のアルカリ金属含量が流れ方向の次の触媒層のアルカリ金属含量よりも高くなるように選択されたアルカリ金属含量を有する多層触媒の使用方法を提供する。
【0042】
本発明の好ましい実施の形態は、ナフタレン又はo−キシレン/ナフタレン混合物を無水フタル酸に酸化させるための4層触媒の使用方法であって、
各触媒層が酸化バナジウム及び二酸化チタンを含み、且つ
その触媒層のアルカリ金属含量が
a)一の触媒層Aのアルカリ金属含量が最も高く、
b)流れ方向で触媒層Aに続く触媒層Bが、触媒層Aのアルカリ金属含量の60〜90%のアルカリ金属含量を有し、
c)流れ方向で触媒層Bに続く触媒層Cが、触媒層Aのアルカリ金属含量の30〜59%のアルカリ金属含量を有し、
d)流れ方向で触媒層Cに続く触媒層Zが、触媒層Aのアルカリ金属含量の0〜10%のアルカリ金属含量を有するように選択された4層触媒の使用方法である。
【実施例】
【0043】
第1触媒層CL1の製造:
流動床塗布装置内で、外径8mm、長さ6mm及び壁厚1.5mmのステアタイト(ケイ酸マグネシウム)リング2000gに、662.8gのアナターゼ(Fuji TA 100C、BET表面積20m/g)、29.52gの五酸化バナジウム、78.48gのシュウ酸、0.62gの硫酸カリウム、8.31gの硫酸セシウム、1.39gの五酸化ニオブ、0.79gのリン酸二水素アンモニウム、212.9gのホルムアミド、1000gの水及び67.5gのバインダー(49.4質量%の固形分を有する水性ポリマー溶液としての75/25の質量比のアクリル酸−マレイン酸コポリマー;このバインダーの製造はEP1091806に記載されている)の懸濁液900gを90℃で噴霧した。


【0044】
このように施された触媒活性組成物は、0.03質量%のリン(Pとして計算)、4.22質量%のバナジウム(Vとして計算)、0.87質量%のセシウム(Csとして計算)、0.2質量%のNb(Nbとして計算)、0.04質量%のK(Kとして計算)及び94.68質量%の二酸化チタンを含んでいた。450℃で1時間焼成後の活性組成物含量は8.9%であった。
【0045】
第2触媒層CL2の製造:
触媒を、CL1と比較して懸濁液の組成を変更することにより製造した。こうして施された触媒活性組成物は、0.03質量%のリン(Pとして計算)、4.22質量%のバナジウム(Vとして計算)、0.67質量%のセシウム(Csとして計算)、0.2質量%のNb(Nbとして計算)、0.03質量%のK(Kとして計算)及び94.85質量%の二酸化チタンを含んでいた。450℃で1時間焼成後の活性組成物含量は8.8%であった。
【0046】
第3触媒層CL3の製造:
触媒を、CL1と比較して懸濁液の組成を変更することにより製造した。こうして施された触媒活性組成物は、0.03質量%のリン(Pとして計算)、4.22質量%のバナジウム(Vとして計算)、0.45質量%のセシウム(Csとして計算)、0.2質量%のNb(Nbとして計算)、0.02質量%のK(Kとして計算)及び95.1質量%の二酸化チタンを含んでいた。450℃で1時間焼成後の活性組成物の含量は9.0質量%であった。
【0047】
第4触媒層CL4の製造:
触媒を、CL1と比較して懸濁液の組成を変更することにより製造した。こうして施された触媒活性物質は、0.02質量%のリン(Pとして計算)、4.22質量%のバナジウム(Vとして計算)、0.00質量%のセシウム(Csとして計算)、0.2質量%のNb(Nbとして計算)、0.00質量%のK(Kとして計算)及び95.56質量%の二酸化チタンを含んでいた。450℃で1時間焼成後の活性組成物の含量は9.6質量%であった。
【0048】
o−キシレンの無水フタル酸への酸化の説明
o−キシレンの無水フタル酸への接触酸化は、25mmの管の内径を有し、且つ塩浴を用いて冷却される管型反応器中で実施した。温度プロファイルを記録するために、その反応管は熱電対を備えていた。標準立方メートル当たり0〜85gのo−キシレン(純度約99質量%)負荷又はナフタレン(純度約97.5質量%)負荷を有する毎時4.0標準立方メートルの空気をその管に通した。PAn収率を反応器の出口ガスで測定し、100%の純粋なo−キシレン又は100%の純粋なナフタレンに対する質量%で記録した(反応したo−キシレン又はナフタレン(kg)当たりのPAn(kg))。
【0049】
結果及び例
例1(本発明による):
床長分布:ステアタイト予備床/CL1/CL2/CL3/CL4 5cm/80cm/80cm/90cm/90cm
標準立方メートル当たり80gのナフタレン負荷、毎時4標準立方メートルの空気及び360℃の塩浴温度で、105.6質量%のPAn収率及びそれぞれ0.00質量%と0.53質量%のフタリドとナフトキノン含量が達成された。標準立方メートル当たり80gの総負荷でo−キシレンとナフタレンの50:50の混合物、毎時4標準立方メートル及び362℃の塩浴温度で、110.1質量%のPAn収率及びそれぞれ0.06質量%と0.41質量%のフタリドとナフトキノン含量が達成された。標準立方メートル当たり30gのナフタレン負荷及び標準立方メートル当たり55gのo−キシレン負荷(総負荷:標準立方メートル当たり85g)、毎時4標準立方メートルの空気及び362℃の塩浴温度で、111.0質量%のPAn収率及びそれぞれ0.11質量%と0.34質量%のフタリドとナフトキノン含量が達成された。したがって、毎時4標準立方メートルの空気で、標準立方メートル当たり少なくとも80gの総負荷で、高PAn収率及び良好な製品範囲(フタリド及びナフトキノンの低い収率)を維持する一方で、o−キシレン/ナフタレン比を0:100%〜65:35%の範囲で変更することができた。ホットスポット温度は、全ての供給組成物で450℃未満であった。
【0050】
例2(本発明によらない):
床長分布:ステアタイト予備床/CL1/CL2/CL3/CL4 20cm/100cm/0cm/90cm/100cm
標準立方メートル当たり80gのナフタレン負荷、毎時4標準立方メートルの空気及び358℃の塩浴温度で、104.7質量%のPAn収率及びそれぞれ0.00質量%と0.55質量%のフタリドとナフトキノン含量を達成した。標準立方メートル当たり80gの総負荷でo−キシレン及びナフタレンの50:50混合物、毎時4標準立方メートルの空気及び364℃の塩浴温度では、109.6質量%のPAn収率及びそれぞれ0.03質量%と0.31質量%のフタリドとナフタレン含量を達成した。ホットスポット温度は全ての供給組成物で450℃未満であった。供給組成物を標準立方メートル当たり30gのナフタレン負荷及び標準立方メートル当たり55gのo−キシレン負荷(総負荷:標準立方メートル当たり85g)にさらに変更した場合、ホットスポット温度は465℃超に上昇した。触媒は、この供給組成物で安定的に機能することができなかった。したがって、高PAn収率及び良好な製品範囲(フタリド及びナフトキノンの低収率)を得る必要がある場合は、標準立方メートル当たり少なくとも80gの総負荷で、毎時4標準立方メートルの空気で、o−キシレン/ナフタレン比は0:100%〜50:50%の範囲内でしか変更することができなかった。