【実施例】
【0100】
次に、本発明を具体的な実施例で説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。各実施例及び比較例の評価は以下の通り行った。
[マンガン酸化物の評価方法]
(細孔分布測定)
本発明では、試料の細孔分布を水銀圧入法によって求めた。細孔分布測定は、マイクロメリティクス社製ポアサイザー9510(商品名)を用い、圧力範囲を大気圧から414MPaまで測定した。当該圧力範囲で測定できる細孔の直径の範囲は0.003μm以上400μm以下である。
【0101】
細孔分布測定により得られた細孔体積の累積に対する直径10μm以下の細孔の体積の割合を求め、これを直径10μm以下の細孔体積率とした。直径2μm以下の細孔体積率についても同様にして求めた。
【0102】
細孔分布測定により得られた細孔面積の累積に対する直径0.1μm以下の細孔の面積の割合を求め、これを10μm以下の細孔面積率とした。直径0.05μm以下の細孔面積率についても同様にして求めた。また、細孔分測定の前処理として、試料を100℃で静置乾燥した。
【0103】
(タップ密度)
試料5gを10mLメスシリンダーに充填し、200回タッピングした後の密度をタップ密度とした。
【0104】
(平均粒子径)
試料の平均粒子径として、最頻粒子径を測定した。最頻粒子径の測定にはMICROTRAC HRA 9320−X100(商品名、日機装株式会社)を用いた。なお、測定前に試料を純水に分散させて測定溶液とし、そこにアンモニア水を添加してpH8.5にした。その後、測定溶液を3分間の超音波分散をした後、最頻粒子径を測定した。
【0105】
(BET比表面積)
試料のBET比表面積は、BET1点法の窒素吸着により測定した。なお、BET比表面積の測定に使用した試料は、BET比表面積の測定に先立ち、150℃で40分間加熱して脱気処理を行った。
【0106】
(X線回折測定)
試料の結晶相をX線回折によって測定した。測定は一般的なX線回折装置で測定した。線源にはCuKα線(λ=1.5405Å)を用い、測定モードはステップスキャン、スキャン条件は毎秒0.04°、計測時間は3秒、および測定範囲は2θとして5°から80°の範囲で測定した。
【0107】
(化学組成分析)
試料を塩酸と過酸化水素の混合水溶液で溶解し、ICP法によりNa、Mg、Ca、Li、SO
42−及びMn含有量を求めた。
[マンガン酸化物の製造]
実施例1−1
内容積1Lの反応槽に純水500mLを入れた。この純水を攪拌及び還流しながら80℃に加温した。80℃に加温した純水の酸化還元電位は150mVであった。当該純水に、酸化還元電位が100±20mVになる様に酸素を吹き込みながら、後述する原料液を混合した。これによって、四三酸化マンガンを晶析させて、四三酸化マンガンが溶媒中に分散した反応スラリーを得た。
【0108】
原料液としては、マンガン塩水溶液とpHを調整するためのアルカリ水溶液とを用いた。マンガン塩水溶液としては2モル/Lの硫酸マンガン水溶液を、アルカリ水溶液としては2モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いた。
【0109】
硫酸マンガン水溶液は、反応槽の純水に一定の流量で連続的に添加した。一方、水酸化ナトリウム水溶液は、反応スラリーのpHが6.5で一定となるように適宜純水に添加した。
【0110】
反応スラリーの全量が1Lになったところで、反応槽から反応スラリーの抜液を開始した。反応スラリーの抜液は、反応スラリーの抜液量と原料液の添加量とが同量となるように連続的に行った。これにより、反応槽内における反応スラリー中の四三酸化マンガンの平均滞在時間を20時間とした。原料液の反応槽への供給を開始してから供給を停止するまでの時間は120時間であった。
【0111】
原料液の混合開始から100〜120時間の間に抜液された反応スラリーを回収、ろ過、洗浄して生成物を得た。得られた生成物を100℃で乾燥して実施例1−1のマンガン酸化物とした。その評価結果を表1に示す。
【0112】
得られたマンガン酸化物のX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.24−734のX線回折パターンと同等のパターンであり、その結晶相はスピネル構造であった。
【0113】
また、当該マンガン酸化物のマンガンの酸化度をMnO
xで表記した場合、x=1.33であった。これより、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単相であることが分かった。この四三酸化マンガンの粒度分布を
図1に、細孔径と細孔体積の分布を
図2に、細孔径と細孔面積の分布を
図3に、それぞれ示す。マンガン酸化物の直径2μm以下の細孔体積率は23.9%以下であった。
【0114】
得られたマンガン酸化物のタップ密度は1.8g/cm
3であった。また、得られたマンガン酸化物について、JIS R1628に準じた測定方法による密度(以下、JIS密度)を求めた。その結果、実施例1−1のマンガン酸化物のJIS密度は1.98g/cm
3であった。このように、実施例1−1のマンガン酸化物のJIS密度はタップ密度の1.1倍であった。
【0115】
実施例1−2
内容積1Lの反応槽に純水500mLを入れた。この純水を攪拌及び還流しながら90℃に加温した。90℃に加温した純水の酸化還元電位は150mVであった。
【0116】
当該純水に、実施例1−1と同様に原料液として2モル/Lの硫酸マンガン水溶液と2モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液を供給して、四三酸化マンガン粒子を晶析させて、四三酸化マンガンが溶媒中に分散した反応スラリーを得た。この際に、反応スラリーのpHが7.0±0.5の範囲で推移するように水酸化ナトリウム水溶液の添加量を調整したこと以外は、実施例1−1と同様にして原料液の添加を行なった。また、原料液を添加する際に、反応スラリーへの酸素の吹き込みは行わなかった。
【0117】
原料液の添加に伴い、反応スラリーの酸化還元電位が低下したため、反応スラリーの酸化還元電位が80mVとなったところで原料液の供給を止めた。
【0118】
原料液の供給を止めた後、反応スラリーの酸化還元電位を調整するため、反応スラリーに酸素を吹き込んだ。反応スラリーの酸化還元電位が120mVになったところで酸素の吹き込みを止め、その後、反応スラリーへの原料液の供給を再開した。
【0119】
上述の反応スラリーへの原料液の供給、及び反応スラリーへの酸素の吹き込みを交互に繰り返し行って、反応スラリーの全量が1000mLになったところで原料液の供給及び酸素の吹き込みを中断した。
【0120】
原料液の反応槽への供給を開始してから、反応スラリーの全量が1000mLになるまでの時間は30時間であった。反応スラリーの全量が1000mLとなった時点で、反応槽内の反応スラリー500mlを抜液した。
【0121】
抜液後、上述の原料液の供給及び酸素の吹き込みを交互に繰り返して行った。そして、反応スラリーの全量が1000mLとなったら、反応槽内の反応スラリー500mlを抜液した。原料液の供給、酸素の吹き込み、及び反応スラリーの抜液の一連の操作を5回繰り返して行った。
【0122】
5回目の抜液が終了した後、上述の原料液の供給、酸素の吹き込みを交互に繰り返した。そして、反応スラリーの全量が1000mLになった後、抜液を行なわずに反応スラリーの温度を90℃に維持した。
【0123】
反応スラリーを温度90℃に維持したまま、1時間撹拌して反応スラリーを熟成した。反応スラリーの熟成終了後、反応槽内の反応スラリーをろ過、洗浄して生成物を得た。得られた生成物を100℃で乾燥して実施例1−2の四三酸化マンガンとした。評価結果を表1に示した。
図7は、実施例1−2で得られたマンガン酸化物の走査型電子顕微鏡写真(倍率:2,000倍)である。
【0124】
得られたマンガン酸化物のX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.24−734のX線回折パターンと同等のパターンを示した。マンガン酸化物の結晶構造はスピネル構造であった。マンガン酸化物のマンガンの酸化度をMnO
xで表記した場合においてxはxは1.34であった。これより、得られた四三酸化マンガンは四三酸化マンガン単相であることが分かった。この四三酸化マンガンの粒度分布を
図4に、細孔径と細孔体積の分布を
図5に、細孔径と細孔面積の分布を
図6に、それぞれ示す。このマンガン酸化物の直径2μm以下の気孔体積率は21.3%であった。得られたマンガン酸化物のタップ密度は1.9g/cm
3であった。また、このマンガン酸化物のJIS密度は2.09g/cm
3であった。
【0125】
実施例1−3
原料液供給中における反応スラリーのpHを8.0、及び反応温度を70℃に維持したこと以外は、実施例1−1と同様の操作を行なって、実施例1−3のマンガン酸化物を得た。評価結果を表1に示す。
【0126】
得られた四三酸化マンガンのX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.24−734のX線回折パターンと同等のパターンを示し、当該マンガン酸化物の構造はスピネル構造であった。また、マンガン酸化物のマンガンの酸化度をMnO
xで表記した場合、xは1.34であった。これらの結果から、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単相であることが分かった。この四三酸化マンガンの粒度分布を
図8に、細孔径と細孔体積の分布を
図9に、細孔径と細孔面積の分布を
図10に、それぞれ示す。このマンガン酸化物の直径2μm以下の細孔体積率は27.6%であった。また、このマンガン酸化物のタップ密度は2.2g/cm
3であり、JIS密度は2.42/cm
3であった。このように、実施例1−3のマンガン酸化物のJIS密度はタップ密度の1.1倍であった。
【0127】
実施例1−4
原料供給中における反応スラリーのpHを7に維持したこと以外は、実施例1−1と同様の操作を行ない、実施例1−4のマンガン酸化物を得た。評価結果を表1に示す。
【0128】
得られたマンガン酸化物のX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.24−734のX線回折パターンと同等のパターンを示した。当該マンガン酸化物の構造はスピネル構造であった。また、マンガン酸化物のマンガンの酸化度をMnO
xで表記した場合、xは1.34であった。これより、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単相であることが分かった。この四三酸化マンガンの粒度分布を
図11に、細孔径と細孔体積の分布を
図12に、細孔径と細孔面積の分布を
図13に、それぞれ示す。
【0129】
さらに、得られた四三酸化マンガンのMg含有量が3重量ppm、Ca含有量が25重量ppm、Na含有量が41重量ppm、Fe含有量が3重量ppm、及び、SO
42−含有量が0.54重量%であった。これらの結果から、実施例1−4の四三酸化マンガンは不純物含有量が少ないことが分かった。
【0130】
実施例1−5
原料供給中における反応スラリーのpHを7.5に維持したこと以外は、実施例1−1と同様の操作を行なって、実施例1−5のマンガン酸化物を得た。評価結果を表1に示す。
【0131】
得られたマンガン酸化物のX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.24−734のX線回折パターンと同等のパターンを示した。当該マンガン酸化物の構造はスピネル構造であった。また、マンガン酸化物のマンガンの酸化度をMnO
xで表記した場合、xは1.33であった。これより、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単相であることが分かった。この四三酸化マンガンの粒度分布を
図14に、細孔径と細孔体積の分布を
図15に、細孔径と細孔面積の分布を
図16に、それぞれ示す。
【0132】
さらに、得られた四三酸化マンガンのMg含有量が25重量ppm、Ca含有量が76重量ppm、Na含有量が110重量ppm、及び、Fe含有量が1重量ppmであった。これらの結果から、実施例1−5の四三酸化マンガンは不純物含有量が少ないことが分かった。
【0133】
実施例1−6
原料液供給中における反応スラリーのpHを8に維持したこと以外は、実施例1−1と同様の操作を行ない、実施例1−6のマンガン酸化物を得た。評価結果を表1に示す。
【0134】
得られたマンガン酸化物のX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.24−734のX線回折パターンと同等のパターンを示した。当該マンガン酸化物の構造はスピネル構造であった。また、マンガン酸化物のマンガンの酸化度をMnO
xで表記した場合、xは1.34であった。これより、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単相であることが分かった。また、実施例1−6のマンガン酸化物のタップ密度は2.4g/cm
3であり、JIS密度は2.62/cm
3であった。このように、実施例1−6のマンガン酸化物のJIS密度はタップ密度の1.1倍であった。この四三酸化マンガンの粒度分布を
図17に、細孔径と細孔体積の分布を
図18に、細孔径と細孔面積の分布を
図19に、それぞれ示す。
【0135】
さらに、得られた四三酸化マンガンのMg含有量が184重量ppm、Ca含有量が274重量ppm、Na含有量が188重量ppm、Fe含有量が1重量ppm、及び、SO
42−含有量が0.16重量%であった。これより実施例1−6の四三酸化マンガンは不純物含有量が少ないことが分かった。
【0136】
実施例1−7
原料液供給中の反応スラリーのpHを7に維持したこと、及び、酸化還元電位が50mVに維持されるように酸素を吹き込みながら、原料液を供給したこと以外は、実施例1−1と同様の操作を行なった。これによって、実施例1−7のマンガン酸化物を得た。評価結果を表1に示す。
【0137】
得られたマンガン酸化物のX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.24−734のX線回折パターンと同等のパターンを示した。当該マンガン酸化物の構造はスピネル構造であった。また、マンガン酸化物のマンガンの酸化度をMnO
Xで表記した場合、xは1.33であった。これより、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単相であることが分かった。この四三酸化マンガンの粒度分布を
図20に、細孔径と細孔体積の分布を
図21に、細孔径と細孔面積の分布を
図22に、それぞれ示す。
【0138】
さらに、得られた四三酸化マンガンのMg含有量が12重量ppm、Ca含有量が10重量ppm、Na含有量が274重量ppm、及び、Fe含有量が2重量ppmであった。これらの結果から、実施例1−7の四三酸化マンガンは不純物含有量が少ないことが分かった。
【0139】
実施例1−8
原料供給中における反応スラリーのpHを7に維持したこと、及び、酸化還元電位が150mVに維持されるように酸素を吹き込みながら、原料液を供給したこと以外は、実施例1−1と同様の操作を行なった。これによって、実施例1−8の四三酸化マンガンを得た。評価結果を表1に示す。
【0140】
得られた四三酸化マンガンのX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.24−734のX線回折パターンと同等のパターンを示した。当該マンガン酸化物の構造はスピネル構造であった。これより、得られた四三酸化マンガンは四三酸化マンガン単相であることが分かった。この四三酸化マンガンの粒度分布を
図23に、細孔径と細孔体積の分布を
図24に、細孔径と細孔面積の分布を
図25に、それぞれ示す。
【0141】
さらに、得られた四三酸化マンガンのMg含有量が12重量ppm、Ca含有量が10重量ppm、Na含有量が274重量ppm、及び、Fe含有量が2重量ppmであった。これより実施例1−8の四三酸化マンガンは不純物含有量が少ないことが分かった。
【0142】
実施例1−9
原料液供給中の反応スラリーのpHを7としたこと、及び酸化還元電位が180mVになる様に酸素を吹き込みながら原料液を供給したこと以外は、実施例1−1と同様の操作を行なった。これによって、実施例1−9の四三酸化マンガンを得た。評価結果を表1に示す。
【0143】
得られた四三酸化マンガンのX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.24−734のX線回折パターンと同等のパターンを示した。当該マンガン酸化物の構造はスピネル構造であった。また、マンガン酸化物のマンガンの酸化度をMnO
xで表記した場合、xは1.35であった。これらの結果より、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単相であることが分かった。また、マンガン酸化物の直径2μm以下の細孔体積率は26.9%であった。この四三酸化マンガンの粒度分布を
図26に、細孔径と細孔体積の分布を
図27に、細孔径と細孔面積の分布を
図28に、それぞれ示す。
【0144】
さらに、得られた四三酸化マンガンのMg含有量が12重量ppm、Ca含有量が81重量ppm、Na含有量が146重量ppm、及び、Fe含有量が2重量ppmであった。これより実施例1−9の四三酸化マンガンは不純物含有量が少ないことが分かった。
【0145】
実施例1−10
反応温度を50℃としたこと、反応スラリーのpHを9としたこと、及び、酸化還元電位が60mVになる様に酸素を吹き込みながら原料液を供給したこと以外は、実施例1−1と同様の操作を行なった。これにより、実施例1−10のマンガン酸化物を得た。評価結果を表1に示す。
【0146】
得られたマンガン酸化物のX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.24−734のX線回折パターンと同等のパターンを示した。当該マンガン酸化物の構造はスピネル構造であった。また、マンガン酸化物のマンガンの酸化度をMnO
xで表記した場合、xは1.35であった。これより、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単相であることが分かった。また、得られた四三酸化マンガンのJIS密度は1.75g/cm
3であった。この四三酸化マンガンの粒度分布を
図29に、細孔径と細孔体積の分布を
図30に、細孔径と細孔面積の分布を
図31に、それぞれ示す。
【0147】
さらに、得られた四三酸化マンガンのMg含有量が500重量ppm、Ca含有量が450重量ppm、Na含有量が205重量ppm、及び、Fe含有量が7重量ppmであった。これらの値から、実施例1−10の四三酸化マンガンは不純物含有量が少ないことが分かった。
【0148】
比較例1−1
市販の電解二酸化マンガン(東ソー日向株式会社製)を粉砕及び分級して、最頻粒子径11μmの電解二酸化マンガン粒子を得た。評価結果を表1に示す。得られた電解二酸化マンガン粒子のタップ密度は1.9g/cm
3であったが、BET比表面積は40m
2/gであり、高い値を示した。
【0149】
電解二酸化マンガン粒子において、直径10μm以上である細孔の細孔体積率は22.8%であった。また、直径0.1μm以下である細孔の細孔面積率は81.3%であった。また、直径0.05μm以下である細孔の細孔面積率は77.6%であった。この電解二酸化マンガン粒子の粒度分布を
図32に、細孔径と細孔体積の分布を
図33に、細孔径と細孔面積の分布を
図34に、それぞれ示す。
【0150】
比較例1−2
比較例1−1の電解二酸化マンガン粒子を1050℃で焼成して、比較例1−2のマンガン酸化物を得た。評価結果を表1に示す。
【0151】
得られたマンガン酸化物のX線回折パタ−ンは、四三酸化マンガンであるJCPDSパターンのNo.24−734と同様なパターン、及び僅かながら三二酸化マンガンであるNo.41−1442と同様なパターンを示した。このように、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガンと三二酸化マンガンの混合物であった。当該マンガン酸化物のマンガンの酸化度をMnO
xで表記した場合、xは1.35であった。
【0152】
このマンガン酸化物のBET比表面積は0.3m
2/gであった。また、タップ密度は1.4g/cm
3であり、低い値であった。マンガン酸化物の最頻粒子径は13μmであり、直径10μm以上の大きな細孔の細孔体積率は66.1%であった。直径0.1μm以下の細孔は細孔面積率で0%であった。また、直径0.05μm以下の細孔の細孔面積率は0%であった。このように、電解二酸化マンガンを焼成して得られた四三酸化マンガンは直径10μm以上の細孔が多かった。この電解二酸化マンガン粒子の粒度分布を
図35に、細孔径と細孔体積の分布を
図36に、細孔径と細孔面積の分布を
図37に、それぞれ示す。
【0153】
比較例1−3
内容積1Lの反応槽に純水500mLを入れた。この純水に1L/分の流量で窒素ガスを1時間吹き込んだ。窒素ガスの吹き込む際、純水の温度は25℃とした。窒素ガスを吹き込んだ後の純水の酸化還元電位は−15mVであった。
【0154】
次に、原料液として、2モル/Lの硫酸マンガン水溶液と2モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液を、酸とアルカリが当量になるように同じ流量で純水に供給して混合し、反応スラリーを得た。なお、原料液の混合は、窒素ガスを吹き込みながら行なった。
【0155】
反応スラリーの量が1000mLになったところで原料液の混合を止めた。原料液の供給を開始してから終了するまでの時間は30時間であった。この間の反応スラリーのpHはpHが4〜12であり、酸化還元電位は酸化還元電位が−40〜−20mVであった。
【0156】
さらに、反応スラリーを温度25℃で撹拌しながら、6重量%過酸化水素水溶液200mlを2時間で添加して反応スラリーを酸化した。過酸化水素水溶液の添加終了後、さらに1時間撹拌して反応スラリーを熟成した。熟成後、反応槽内の反応スラリーをろ過、及び洗浄して生成物を得た。得られた生成物を100℃で乾燥し、比較例1−3のマンガン酸化物とした。評価結果を表1に示す。
【0157】
得られたマンガン酸化物のX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.24−734のX線回折パターンと同等のパターンを示した。当該マンガン酸化物の構造はスピネル構造であった。また、マンガンの酸化度をMnO
xと表記した場合、xは1.33であった。これらの結果から、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単相であることが分かった。しかしながら、当該マンガン酸化物のタップ密度は1.0g/cm
3と低かった。また、BET比表面積は18.9m
2/gであった。
【0158】
このマンガン酸化物の最頻粒子径は6.5μmであった。また、1μm付近および50μm付近にもピークが観測され、広い粒子径分布を有していた。1μm付近のピークは、水酸化マンガンから四三酸化マンガンへの構造変化時の未成長粒子に起因すると考えられる。一方、50μm付近のピークは酸化前の水酸化マンガン粒子の形骸、およびそれが酸化されたマンガン酸化物に起因すると考えられる。
【0159】
直径10μm以上の大きな細孔の細孔体積率は23.6%であり、直径0.1μm以下の細孔の細孔面積率は21.6%であった。また、直径0.05μm以下の細孔の細孔面積率は5.2%であった。
【0160】
さらに、原料液の供給終了後、かつ、過酸化水素水溶液の添加前の反応スラリーを一部回収し、速やかにろ過して洗浄し、80℃で乾燥して生成物を得た。
【0161】
当該生成物のXRDパターンを測定したところ、層状マンガン酸化物であるβ−MnOOHと四三酸化マンガンのピークが確認された。当該生成物はβ−MnOOHと四三酸化マンガンの混合物であった。これらは水酸化マンガンが不均一に酸化して生成したものであった。
【0162】
図41は、過酸化水素添加前の反応スラリーを乾燥して得られた生成物の走査型電子顕微鏡写真(倍率:10,000倍)である。
図42は、比較例1−3で得られたマンガン酸化物の走査型電子顕微鏡写真(倍率:10,000倍)である。
図42に示すように、SEM観察では、マンガン酸化物には水酸化マンガン結晶に由来する六角板状の粒子が観測された。この結果から、水酸化マンガンが析出したことが確認できた。
【0163】
したがって、比較例1−3のマンガン酸化物は、析出した層状の水酸化マンガンが酸化されることで得られた四三酸化マンガンであることが分かった。このように、水酸化マンガンから得られた四三酸化マンガンはタップ密度が著しく低く、かつ、広い細孔分布を有していた。このマンガン酸化物の粒度分布を
図38に、細孔径と細孔体積の分布を
図39に、細孔径と細孔面積の分布を
図40に、それぞれ示す。
【0164】
比較例1−4
過酸化水素水溶液による反応スラリーの酸化の際の温度を80℃とした以外は比較例1−3と同様な方法でマンガン酸化物を得た。評価結果を表1に示す。
【0165】
得られたマンガン酸化物のX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.24−734のX線回折パターンと同等のパターンを示した。マンガンの酸化度をMnO
xと表記した場合、xは1.34であった。これらの結果から、当該マンガン酸化物は四三酸化マンガン単相であることが分かった。
【0166】
このマンガン酸化物のタップ密度は0.9g/cm
3と低く、BET比表面積は37.0m
2/gであった。このマンガン酸化物の最頻粒子径は0.4μmであった。また、3μm付近および30μm付近にもピークが観測され、当該マンガン酸化物は広い粒子径分布を持っていた。
【0167】
直径10μm以上の細孔の細孔体積率は30.5%であり、直径0.1μm以下の細孔の細孔面積率は19.4%であった。また、直径0.05μm以下の細孔の細孔面積率は5.5%であった。
【0168】
当該マンガン酸化物は比較例1−3と同様に水酸化マンガンが酸化されて得られた四三酸化マンガンであった。このため、充填密度が低く、かつ、広い細孔分布を有していた。このマンガン酸化物の粒度分布を
図43に、細孔径と細孔体積の分布を
図44に、細孔径と細孔面積の分布を
図45に、それぞれ示す。
【0169】
比較例1−5
原料液供給中における反応スラリーのpHを7に維持したこと、及び、酸化還元電位が50mVに維持されるように酸素を吹き込みながら、原料液を供給したこと以外は実施例1−1と同様にしてマンガン酸化物を得た。
【0170】
得られたマンガン酸化物は密度が低く、なおかつ、その結晶相はMn
3O
4とバーネサイトの混相であった。バーネサイトは水酸化マンガンが酸化されたマンガン酸化物である。そのため、比較例1−5のマンガン酸化物は水酸化マンガンを経由して得られたものであることが分かった。このマンガン酸化物の粒度分布を
図46に、細孔径と細孔体積の分布を
図47に、細孔径と細孔面積の分布を
図48に、それぞれ示す。
【0171】
比較例1−6
原料供給中における反応スラリーの温度を50℃に維持したこと、pHを8に維持したこと、及び、アルカリ水溶液としてアンモニア水を使用したこと以外は実施例1−1と同様にしてマンガン酸化物を得た。
【0172】
得られたマンガン酸化物はMn
3O
4の単相であった。しかしながら、アンモニアが共存していたため、硫酸マンガンからMn
3O
4が直接晶析せず、水酸化マンガンを経由していた。このため、得られたマンガン酸化物の充填密度が低かった。このマンガン酸化物の粒度分布を
図49に、細孔径と細孔体積の分布を
図50に、細孔径と細孔面積の分布を
図51に、それぞれ示す。
【0173】
【表1】
【0174】
[リチウムマンガン系酸化物の合成]
実施例1−11
実施例1−1で得られた四三酸化マンガンと炭酸リチウムとを乳鉢で混合し、空気流中800℃で12時間焼成し、構成元素としてLi及びMnを有する複合酸化物を得た。
【0175】
得られたリチウムマンガン系複合酸化物はスピネル構造の単相であり、組成はLi
1.12Mn
1.88O
4であった。
【0176】
表2に得られたリチウムマンガン系複合酸化物の評価結果を示す。
【0177】
比較例1−7
比較例1−1で得られた四三酸化マンガンを使用した以外は、実施例1−11と同様の方法で構成元素としてLi及びMnを有する複合酸化物を得た。
【0178】
得られたリチウムマンガン系複合酸化物はスピネル構造の単相であり、組成はLi
1.12Mn
1.88O
4であった。
【0179】
表2に得られたリチウムマンガン系複合酸化物の評価結果を示す。
【0180】
【表2】
【0181】
[リチウム二次電池の作製]
実施例1−11および比較例1−7で得られたリチウムマンガン系複合酸化物と、導電剤であるアセチレンブラックと、結着剤であるポリフッ化ビニリデンと、溶媒であるNメチルピロリドンと、を混合した。混合の比率は以下のとおりとした。
【0182】
リチウムマンガン系複合酸化物:アセチレンブラック:ポリフッ化ビニリデン=66重量%:17重量%:17重量%である。
【0183】
得られた合剤スラリーをアルミニウム箔上に塗布した後、温度150℃で16時間真空乾燥し、正極合剤シートを作製した。乾燥した正極合剤シートのアルミニウム箔を除いた厚みは約40μmであった。
【0184】
この正極合剤シートを直径16mmの円形に打ち抜いて電池用正極を作製した。得られた電池用正極と金属リチウム箔(厚さ0.2mm)からなる負極、および電解液を用いて、
図52に示すリチウム二次電池のモデル電池を構成した。電解液は、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合溶媒に六フッ化リン酸リチウムを1mol/dm
3の濃度で溶解して調製した。
【0185】
図52に示すリチウム二次電池は、セパレーター6と、セパレーター6の一方面に、セパレーター6側から負極5と、負極集電体4と、が順次積層されるとともに、セパレーター6の他方面に、セパレーター6側から正極7と、正極集電体8と、が順次積層された積層構造を有する。また、このリチウム電池は、セパレーター6の一方面上に設けられ、負極5及び負極集電体4を覆う封口板1と、セパレーター6、正極7、及び正極集電体8のそれぞれの端面と封口板1の一部を覆うガスケット2と、を有する。
[リチウム二次電池特性の評価]
このモデル電池を用いて電池特性を次の条件で評価した。正極活性物質のリチウムマンガン系複合酸化物1g当たりの放電電流を一定の0.1A/gとし、電圧4.5〜3.0Vで定電流放電し、放電容量C
0.1(mAh/g)を測定した。一方、放電電流5A/g、電圧4.5〜1.0Vで定電流放電し、放電容量をC
5とした。得られた放電容量の割合(%)を求め利用率とした。また、電圧3.0〜4.5V、充放電電流を0.1A/gとして充放電を繰り返し、10回目の放電の際の放電容量に対する1000回目の放電の際の放電容量の割合をサイクル特性(%)として求めた。
【0186】
なお、利用率の測定に際し、C
5の測定の後、再度0.1A/gで測定し、いずれのリチウムマンガン系複合酸化物も放電容量に変化がないこと、及び利用率の測定においてリチウムマンガン系複合酸化物が劣化していないことを確認した。評価結果を表3に示す。
【0187】
【表3】
【0188】
実施例1−11のリチウムマンガン系複合酸化物を正極活物質として使用したリチウム二次電池は良好な電池特性を示した。特にサイクル特性及び出力特性に優れていた。
[マンガン酸化物の製造]
実施例2−1
(四三酸化マンガンの製造)
純水300mlに、2モル/Lの硫酸マンガン水溶液と2モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加し、酸素を吹き込みながら反応させた。反応は、反応温度を80℃に、pHをpH=6.5±0.5に維持して行なった。
【0189】
反応中、適宜反応液をサンプリングし、反応生成物を電子顕微鏡及びX線回折で観察した。反応生成物にはMn(OH)
2由来の六角板状粒子、或いはγ―MnOOH由来の針状粒子が含まれていなかった。この結果から、実施例2−1の反応生成物は、マンガン水酸化物を経由せずに生成したことが確認された。
【0190】
100時間の反応後、反応液を回収、ろ過、洗浄して生成物を得た。得られた生成物を100℃で乾燥して四三酸化マンガンを得た。得られた四三酸化マンガンの結晶相は、JCPDSパターンのNo.24−734と同等であり、Mn
3O
4の単相であった。当該四三酸化マンガンの酸化度をMnO
xで表記した場合、xは1.33であった。得られた四三酸化マンガンの評価結果を表4に示す。
【0191】
(三二酸化マンガンの製造)
得られた四三酸化マンガンを、大気中、600℃で6時間焼成し、 三二酸化マンガンを得た。評価結果を表5に示す。
【0192】
得られた 三二酸化マンガンのX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.41−1442のX線回折パターンと同等のパターンを示した。実施例2−1の三二酸化マンガンは、α型 三二酸化マンガンの単相であった。この三二酸化マンガンの粒度分布を
図53に、細孔径と細孔体積の分布を
図54に、細孔径と細孔面積の分布を
図55に、それぞれ示す。
【0193】
実施例2−2
反応中のpHをpH=7.5±0.3、反応温度を70℃とした以外は、実施例2−1と同様の操作を行なって、マンガン酸化物を得た。
【0194】
反応中、適宜反応液をサンプリングし、反応生成物を電子顕微鏡及びX線回折で観察した。反応生成物にはMn(OH)
2由来の六角板状粒子、或いはγ―MnOOH由来の針状粒子が含まれていなかった。この結果から、実施例2−1の反応生成物は、マンガン水酸化物を経由せずに生成したものであることが確認された。
【0195】
得られたマンガン酸化物の結晶相は、JCPDSパターンのNo.24−734と同等であり、Mn
3O
4の単相であった。当該四三酸化マンガンの酸化度をMnO
xで表記した場合、xは1.34であった。
【0196】
得られた四三酸化マンガンの評価結果を表4に示す。
【0197】
得られた四三酸化マンガンを実施例2−1と同様な条件で焼成して、三二酸化マンガンを得た。評価結果を表5に示す。
【0198】
得られた 三二酸化マンガンのX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.41−1442のX線回折パターンと同等のパターンを示した。実施例2−2の三二酸化マンガンは、α型 三二酸化マンガンの単相であった。この三二酸化マンガンの粒度分布を
図56に、細孔径と細孔体積の分布を
図57に、細孔径と細孔面積の分布を
図58に、それぞれ示す。
【0199】
実施例2−3
実施例2−1と同様な方法で得られた四三酸化マンガンを、大気中、800℃で6時間焼成して、三二酸化マンガンを得た。評価結果を表5に示す。
【0200】
得られた 三二酸化マンガンのX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.41−1442のX線回折パターンと同等のパターンを示した。実施例2−3の三二酸化マンガンは、α型 三二酸化マンガンの単相であった。この三二酸化マンガンの粒度分布を
図59に、細孔径と細孔体積の分布を
図60に、細孔径と細孔面積の分布を
図61に、それぞれ示す。
【0201】
実施例2−4
反応中のpHをpH=7.5±0.3、反応温度を50℃として、四三酸化マンガンを合成したこと以外は、実施例2−1と同様の方法で 三二酸化マンガンを得た。評価結果を表5に示す。
【0202】
実施例2−5
反応中のpHをpH=7.5±0.3、反応温度を60℃として四三酸化マンガンを合成したこと以外は、実施例2−1と同様な方法で 三二酸化マンガンを得た。評価結果を表5に示す。
【0203】
比較例2−1
市販の電解二酸化マンガン(東ソー日向株式会社製)を粉砕して、最頻粒子径10μmの電解二酸化マンガン粒子を得た。得られた電解二酸化マンガンを、大気中、600℃で6時間焼成し、 三二酸化マンガンを得た。評価結果を表5に示す。
【0204】
得られた 三二酸化マンガンのX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.41−1442のX線回折パターンと同等のパターンを示した。比較例2−1の三二酸化マンガンは、α型三二酸化マンガンの単相であった。この 三二酸化マンガンは、直径10μm以上の細孔は細孔体積率が高く、かつ、タップ密度が低いものであった。この三二酸化マンガンの粒度分布を
図62に、細孔径と細孔体積の分布を
図63に、細孔径と細孔面積の分布を
図64に、それぞれ示す。
【0205】
比較例2−2
市販の電解二酸化マンガン(東ソー日向株式会社製)を粉砕して、最頻粒子径20μmの電解二酸化マンガン粒子を得た。さらに、電解二酸化マンガンを、大気中、600℃で6時間焼成し、 三二酸化マンガンを得た。評価結果を表5に示す。
【0206】
得られた 三二酸化マンガンのX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.41−1442のX線回折パターンと同等のパターンを示した。比較例2−2の三二酸化マンガンは、α型三二酸化マンガンの単相であった。
【0207】
この 三二酸化マンガンの直径10μm以上の細孔の細孔体積率が27%であった。また、直径0.1μm以下の細孔の細孔面積率は71%であった。また、直径0.05μm以下の細孔の細孔面積率は4%であった。このように、得られた三二酸化マンガンのタップ密度は高かったが、10μm以上の細孔の細孔体積率及び0.1μm以下の細孔の細孔面積率も高かった。この三二酸化マンガンの粒度分布を
図65に、細孔径と細孔体積の分布を
図66に、細孔径と細孔面積の分布を
図67に、それぞれ示す。
【0208】
比較例2−3
80℃の純水に2モル/Lの硫酸マンガン水溶液と2モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加し、窒素ガスを吹き込みながらpHを4〜12に維持して水酸化マンガンを含む反応スラリーを得た。その後、この反応スラリーに6重量%過酸化水素水溶液200mlを添加して、反応スラリー中の水酸化マンガンを酸化した。
【0209】
酸化後の反応スラリーをろ過及び洗浄し、100℃で乾燥して水酸化マンガンを酸化した四三酸化マンガンを得た。評価結果を表4に示す。
【0210】
得られた四三酸化マンガンのX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.24−734のX線回折パターンと同等のパターンであった。比較例2−3の四三酸化マンガンは、スピネル構造の単相であった。また、マンガンの酸化度をMnO
xと表記した場合、xは1.33であった。
【0211】
この四三酸化マンガンを、大気中、600℃で6時間焼成して、三二酸化マンガンを得た。評価結果を表5に示す。得られた 三二酸化マンガンのX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.41−1442のX線回折パターンと同等のパターンを示した。これれの結果から比較例2−3の三二酸化マンガンは、α型 三二酸化マンガンの単相であった。
【0212】
10μm以上の細孔の細孔体積率が15%を越える四三酸化マンガンを原料として得られた三二酸化マンガンは、10μm以上の細孔の細孔体積率が高いだけでなく、タップ密度も低かった。この三二酸化マンガンの粒度分布を
図68に、細孔と細孔体積率の分布を
図69に、細孔径と細孔面積の分布を
図70に、それぞれ示す。
【0213】
比較例2−4
最頻粒子径2μm及びタップ密度1.1g/cm
3の炭酸マンガンを、窒素中(酸素濃度は1%以下)、650℃で1時間焼成した。その後、大気中(酸素濃度は21%)、650℃で2時間焼成し、三二酸化マンガンを得た。評価結果を表5に示した。また、この三二酸化マンガンの粒度分布を
図71に、細孔径と細孔体積の分布を
図72に、細孔径と細孔面積の分布を
図73に、それぞれに示す。
【0214】
得られた 三二酸化マンガンのX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.41−1442のX線回折パターンと同等のパターンを示した。これは、α型 三二酸化マンガンの単相であった。
【0215】
三二酸化マンガンの直径10μm以上の細孔の細孔体積率は35%であった。このように、酸素濃度を調整した雰囲気で炭酸マンガンを焼成して得られた三二酸化マンガンは、直径10μm以上の細孔体積率が30%以上と高い値であった。
【0216】
比較例2−5
化学合成二酸化マンガン(国際共通試料No.12)を粉砕及び分級して、最頻粒子径26μmの化学合成二酸化マンガン粒子を得た。
【0217】
得られた化学合成二酸化マンガンを、大気中、600℃で6時間焼成して、 三二酸化マンガンを得た。評価結果を表5に示す。
【0218】
得られた 三二酸化マンガンのX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.41−1442のX線回折パターンと同等のパターンを示した。これは、α型三二酸化マンガンの単相であった。
【0219】
三二酸化マンガンの直径10μm以上の細孔の細孔体積率は8%であった。化学合成二酸化マンガンを焼成して得られた三二酸化マンガンは、直径10μm以上の細孔の細孔体積率が低かったものの、タップ密度が低かった。さらに、その細孔のほとんどは直径0.1μm以下、さらには直径0.05μm以下の微細なものであった。この三二酸化マンガンの粒度分布を
図74に、細孔径と細孔体積の分布を
図75に、細孔径と細孔面積の分布を
図76に、それぞれ示す。
【0220】
【表4】
【0221】
【表5】
【0222】
[リチウムマンガン系複合酸化物の合成]
実施例2−6
実施例2−1で得られた三二酸化マンガンと炭酸リチウムとを乳鉢で混合して、空気流中800℃で12時間焼成し、構成元素としてLi及びMn有するリチウムマンガン系複合酸化物を得た。得られたリチウムマンガン系複合酸化物はスピネル構造の単相であった。この組成はLi
1.12Mn
1.88O
4であった。表6に得られたリチウムマンガン系複合酸化物の評価結果を示す。
【0223】
比較例2−6
実施例2−1で得られた三二酸化マンガンの代わりに比較例2−1で得られた三二酸化マンガンを使用した以外は、実施例2−6と同様の方法で構成元素としてLi及びMnを有するリチウムマンガン系複合酸化物を得た。表6に得られたリチウムマンガン系複合酸化物の評価結果を示す。
【0224】
比較例2−7
実施例2−1で得られた三二酸化マンガンの代わりに比較例2−2で得られた三二酸化マンガンを使用した以外は、実施例2−6と同様の方法で構成元素としてLi及びMnを有するリチウムマンガン系複合酸化物を得た。表6に得られたリチウムマンガン系複合酸化物の評価結果を示す。
【0225】
比較例2−8
実施例2−1で得られた三二酸化マンガンの代わりに比較例2−5で得られた三二酸化マンガンを使用した以外は、実施例2−6と同様な方法で構成元素としてLi及びMnを有するリチウムマンガン系複合酸化物を得た。表6に得られたリチウムマンガン系複合酸化物の評価結果を示す。
【0226】
【表6】
【0227】
[リチウム二次電池の作製]
(リチウム二次電池の作製)
実施例2−6および比較例2−6〜2−8で得られたリチウムマンガン系複合酸化物と、導電剤であるポリテトラフルオロエチレン及びアセチレンブラックとの混合物(商品名:TAB−2)とを、重量比で2:1の割合で混合した。この混合粉体を、1ton/cm
2(98.0665MPa)の圧力でペレット状に成型した。これをメッシュ(SUS316製)上に置いて150℃で減圧乾燥し、電池用正極を作製した。得られた電池用正極と金属リチウム箔(厚さ0.2mm)からなる負極、及びエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとの混合溶媒(体積比1:2)に六フッ化リン酸リチウムを1mol/dm
3の濃度で溶解した電解液を用いてCR2032型コインセルを構成した。
【0228】
この電池を用いて、0.4mA/cm
2(0.3時間放電率に相当)の定電流で電池電圧が4.3Vから3.0Vの間で1回充放電させ、初期充放電容量とした。次に、4.3Vから3.0Vの間で0.3時間充放電率で500回充放電させた。10回目の放電容量に対する500回目の放電容量の比率を放電容量維持率とした。温度は60℃とした。評価結果を表7に示す。
【0229】
【表7】
【0230】
これらの結果より、実施例2−6のリチウムマンガン系複合酸化物を正極活物質として使用したリチウム二次電池は、比較例と比べて、良好な電池特性、特に高温でも良好な放電容量維持率(サイクル特性)を示した。
【0231】
充填性が高くても、直径10μm以上の細孔の細孔体積率が高い三二酸化マンガンを原料として得られたリチウムマンガン系複合酸化物は、サイクル特性、特に高温でのサイクル特性が著しく低くなることがわかった。
【0232】
直径10μm以上の細孔の細孔体積率が10%より低くても、充填性が低い三二酸化マンガンを原料として得られたリチウムマンガン系複合酸化物は、サイクル特性、特に高温でのサイクル特性が著しく低くなることがわかった。
【0233】
これらの実施例及び比較例から、マンガン原料として、高い充填性を有しつつ、直径10μm以上の細孔の細孔体積率が低い三二酸化マンガンを用いることで、リチウムマンガン系複合酸化物のサイクル特性を向上できることが分かった。