特許第5880448号(P5880448)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5880448
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】R−T−B系焼結磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20160225BHJP
   H01F 1/057 20060101ALI20160225BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20160225BHJP
   H01F 1/08 20060101ALI20160225BHJP
   H01F 7/02 20060101ALI20160225BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20160225BHJP
【FI】
   H01F41/02 G
   H01F1/04 H
   B22F3/24 K
   H01F1/08 B
   H01F7/02 E
   !C22C38/00 303D
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-553761(P2012-553761)
(86)(22)【出願日】2012年1月19日
(86)【国際出願番号】JP2012051032
(87)【国際公開番号】WO2012099186
(87)【国際公開日】20120726
【審査請求日】2014年9月18日
(31)【優先権主張番号】特願2011-9186(P2011-9186)
(32)【優先日】2011年1月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(72)【発明者】
【氏名】國吉 太
【審査官】 堀 拓也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/102391(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/032426(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/064848(WO,A1)
【文献】 特開2006−303197(JP,A)
【文献】 特開昭63−192206(JP,A)
【文献】 特開2015−103799(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
B22F 3/24
H01F 1/057
H01F 1/08
H01F 7/02
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのR−T−B系焼結磁石素材(Rは希土類元素、TはFeまたはFeとCo)を準備する工程と、
重希土類元素RH(Dyおよび/またはTb)および30質量%以上80質量%以下のFeを含有し、各々の粒径が53μm超5600μm以下の複数のRH拡散源を準備する工程と、
前記R−T−B系焼結磁石素材、および、前記複数のRH拡散源を処理容器内に配置する配置工程であって、前記複数のRH拡散源の幾つかを前記R−T−B系焼結磁石素材に接触させる配置工程と、
前記処理容器内において、前記複数のRH拡散源の幾つかが接触した状態の前記R−T−B系焼結磁石素材、ならびに、前記R−T−B系焼結磁石素材に接触するRH拡散源および前記R−T−B系焼結磁石素材に接触していないRH拡散源に対して、圧力5000Pa以下の不活性雰囲気下、800℃以上1000℃以下の温度で熱処理を行うRH拡散工程と、
前記RH拡散工程後に、前記R−T−B系焼結磁石素材から前記複数のRH拡散源を離間させる分離工程と、
を含む、R−T−B系焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
前記配置工程は、前記複数のRH拡散源の集合体の内部に前記R−T−B系焼結磁石素材の少なくとも一部を埋設するように配置する工程である、請求項1に記載のR−T−B系焼結磁石の製造方法。
【請求項3】
前記配置工程は、前記複数のRH拡散源の集合体の内部に前記R−T−B系焼結磁石素材の全体を埋設するように配置する工程である、請求項2に記載のR−T−B系焼結磁石の製造方法。
【請求項4】
前記配置工程は、前記複数のRH拡散源の集合体の内部に複数の前記R−T−B系焼結磁石素材の少なくとも一部を埋設するように配置する工程である、請求項1に記載のR−T−B系焼結磁石の製造方法。
【請求項5】
前記配置工程は、複数の前記R−T−B系焼結磁石素材を配置した後、前記複数のR−T−B系焼結磁石素材の間隙を埋めるように前記複数のRH拡散源を配置させる工程を含む、請求項1に記載のR−T−B系焼結磁石の製造方法。
【請求項6】
前記配置工程は、前記複数のRH拡散源および前記R−T−B系焼結磁石素材を配置するための治具を用いて前記複数のRH拡散源および前記R−T−B系焼結磁石素材を配置した後、前記複数のRH拡散源および前記R−T−B系焼結磁石素材を前記治具とともに前記処理室内に移動させる工程を含む、請求項1から4のいずれかに記載のR−T−B系焼結磁石の製造方法。
【請求項7】
前記RH拡散工程の雰囲気圧力は0.1Pa以上である請求項1から6のいずれかに記載のR−T−B系焼結磁石の製造方法。
【請求項8】
前記分離工程は、前記RH拡散工程で使用した前記複数のRH拡散源を回収する工程を含む、請求項1から7のいずれかに記載のR−T−B系焼結磁石の製造方法。
【請求項9】
前記R−T−B系焼結磁石素材のうち、前記RH拡散工程で使用されなかったR−T−B系焼結磁石素材と、前記分離工程で回収された前記複数のRH拡散源を前記処理容器または他の処理容器内に配置する配置工程であって、前記複数のRH拡散源の幾つかを前記R−T−B系焼結磁石素材に接触させる第2の配置工程と、
前記処理容器または前記他の処理容器内において、前記複数のRH拡散源の幾つかが接触した状態の前記R−T−B系焼結磁石素材、ならびに、前記R−T−B系焼結磁石素材に接触するRH拡散源および前記R−T−B系焼結磁石素材に接触していないRH拡散源に対して、圧力5000Pa以下の不活性雰囲気下、800℃以上1000℃以下の温度で熱処理を行う第2のRH拡散工程と、
前記RH拡散工程後に、前記R−T−B系焼結磁石素材から前記複数のRH拡散源を離間させる第2の分離工程と、
を含む、請求項1から8のいずれかに記載のR−T−B系焼結磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、R214B型化合物を主相として有するR−T−B系焼結磁石(Rは希土類元素、TはFeまたはFeとCo)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
214B型化合物を主相とするR−T−B系焼結磁石は、永久磁石の中で最も高性能な磁石として知られており、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ(VCM)や、ハイブリッド車搭載用モータ等の各種モータや家電製品等に使用されている。
【0003】
R−T−B系焼結磁石は、高温で固有保磁力HcJ(以下、単に「HcJ」と表記する)が低下するため、不可逆熱減磁が起こる。不可逆熱減磁を回避するため、モータ用等に使用する場合、高温下でも高い保磁力を維持することが要求されている。
【0004】
R−T−B系焼結磁石は、R214B型化合物相中のRの一部を重希土類元素RH(Dy、Tb)で置換すると、保磁力が向上することが知られている。高温で高い保磁力を得るためには、R−T−B系焼結磁石中に重希土類元素RHを多く添加することが有効である。しかし、R−T−B系焼結磁石において、Rとして軽希土類元素RL(Nd、Pr)を重希土類元素RHで置換すると、保磁力が向上する一方、残留磁束密度Br(以下、単に「Br」と表記する)が低下してしまうという問題がある。また、重希土類元素RHは希少資源であるため、その使用量を削減することが求められている。
【0005】
そこで、近年、Brを低下させないように、より少ない重希土類元素RHによってR−T−B系焼結磁石の保磁力を向上させることが検討されている。本出願人は、既に特許文献1において、R−T−B系焼結磁石体表面にDy等の重希土類元素RHを供給しつつ、該表面から重希土類元素RHを焼結磁石体の内部に拡散させる方法(「蒸着拡散法」)を開示している。
【0006】
また、本出願人は、特許文献2において、R−T−B系焼結磁石体の表面にRH拡散源としてRHを含有する箔または粉末を接触させた状態で熱処理を行うことにより、前記箔または粉末からRHをR−T−B系焼結磁石体の内部に拡散させる方法を提案した。特許文献2の方法によれば、RH供給源が箔の場合は厚さ1〜50μmのものを用い、RH拡散源が粉末の場合は粒径が1〜50μmの粉末によって磁石表面上に厚さ1〜50μmの粉末層を形成する。こうして、少ない量のRHを効率よく活用し、R−T−B系焼結磁石体の内部に拡散させることが可能となる。実施例においては、RH拡散源として純Dyを使用している。
【0007】
一方、特許文献3には、RH拡散源として平均粒径が100nm〜50μmであるRH−Fe化合物の微粉末を用い、これを溶媒に分散させたスラリーをR−T−B系焼結磁石体の表面に塗布して熱処理する方法が開示されている。特許文献3の方法によれば、RH拡散源として鉄化合物を用いることにより、HcJを大きく向上させることができる。さらに、共晶点付近で融点が低下するため、熱処理温度を低くすることができ、熱処理時の温度ばらつきの影響を受けにくくなる。また、平均粒径が100nm〜50μmのRH化合物の微粉末が溶媒に分散されたスラリーを用いることにより、R−T−B系焼結磁石体に対して均一にRH化合物を付着させることができ、熱処理によるRHの拡散をより均一に生じさせることが可能となる。
【0008】
特許文献4には、希土類と希土類以外の元素の合金であるRH拡散源の粉末をR−T−B系焼結磁石体の表面に存在させた状態で熱処理を施す方法が記載されている。前記粉末中には、希土類、Fe、Co以外の元素である種々のM元素が必須で含有される。特許文献4においても、RH拡散源の粉末は有機溶媒または水中に分散させてR−T−B系焼結磁石体の表面に塗布される。粉末の平均粒径は小さいほど拡散効率が高くなるとされている。
【0009】
特許文献5には、RH拡散源として粒径10μm以下のRHと鉄族遷移元素を含有する合金の粉末を用い、バレルペインティング法などによってR−T−B系焼結磁石体の表面に塗布して熱処理する方法が開示されている。
【0010】
特許文献6には、熱処理用容器内面にRH酸化物の層を形成し、この熱処理容器内にR−T−B系焼結磁石体を配置して熱処理することにより、熱処理容器内面と焼結磁石体が接触していても両者は融着、付着することがなく、さらに、RH酸化物層のRHが還元されて焼結磁石内部に拡散侵入するためHcJの増加が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2007/102391号
【特許文献2】特開2007−258455号公報
【特許文献3】特開2009−289994号公報
【特許文献4】特開2008−263179号公報
【特許文献5】国際公開第2008/032426号
【特許文献6】特開昭63−219548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1および特許文献2に記載の方法は、どちらも有機溶媒、粘着剤などを使用することなく、RHを効率的に拡散させることができる。また、スパッタ法などに比べ、熱処理炉内壁に付着するなどのRHの無駄な消費がない。特許文献1および特許文献2に記載の方法は、RHが磁石表層部分の主相内部に拡散しにくいため、Brの低下が極力抑制できる優れた方法である。
【0013】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、R−T−B系焼結磁石体とRHバルク体を離間配置する必要があり、配置の為の工程に非常に手間がかかるという問題があった。
【0014】
また、特許文献2に記載の方法においては、RH拡散源として純Dyの箔や粉末を使用しているため、熱処理によって磁石表面に溶着しやすい。このため、RH拡散源は、熱処理後の分離が困難であるので再利用できず、完全に磁石内部に拡散させてしまう必要がある。
【0015】
特許文献3〜5に記載の方法においては、いずれも有機溶媒、粘着剤などの有機成分を使用してR−T−B系焼結磁石体の表面にRH拡散源の粉末を塗布している。粉末の塗布方法はいずれも簡易なものであるが、湿式の塗布工程が別途必要となり、生産効率がその分どうしても低くなってしまう。また、RH拡散源として粒径10μm以下の微粉末を用いている為、RH拡散源はR−T−B系焼結磁石体と反応して変質、および/または、R−T−B系焼結磁石体に溶着しやすく、熱処理後の分離が困難であるので再利用できず、完全に磁石内部に拡散させてしまう必要がある。
【0016】
特許文献6の方法は、R−T−B系焼結磁石体と融着、付着させないために、RH拡散源として、RHの酸化物を用いているため、拡散効率が悪く、HcJの増加はわずかである。
【0017】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、Brを低下させることなくDyやTbの重希土類元素RHをR−T−B系焼結磁石素材の表面から内部に拡散させることで高いHcJを得るR−T−B系焼結磁石の製造方法において、R−T−B系焼結磁石素材とRH拡散源を、煩雑な配置工程や、溶媒、粘着剤などを使用した塗布工程を経ることなく簡易な方法で接触配置させ、また、R−T−B系焼結磁石素材とRH拡散源が溶着することなくRH拡散源を繰り返し使用でき、かつ効果的にR−T−B系焼結磁石素材内部に拡散させることで、高いHcJを有するR−T−B系焼結磁石を高い生産効率で製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明のR−T−B系焼結磁石の製造方法は、少なくとも1つのR−T−B系焼結磁石素材(Rは希土類元素、TはFeまたはFeとCo)を準備する工程と、重希土類元素RH(Dyおよび/またはTb)および30質量%以上80質量%以下のFeを含有し、各々の粒径が53μm超5600μm以下の複数のRH拡散源を準備する工程と、前記R−T−B系焼結磁石素材、および、前記複数のRH拡散源を処理容器内に配置する配置工程であって、前記複数のRH拡散源の幾つかを前記R−T−B系焼結磁石素材に接触させる配置工程と、前記処理容器内において、前記複数のRH拡散源の幾つかが接触した状態の前記R−T−B系焼結磁石素材、ならびに、前記R−T−B系焼結磁石素材に接触するRH拡散源および前記R−T−B系焼結磁石素材に接触していないRH拡散源に対して、圧力5000Pa以下の不活性雰囲気下、800℃以上1000℃以下の温度で熱処理を行うRH拡散工程と、前記RH拡散工程後に、前記R−T−B系焼結磁石素材から前記複数のRH拡散源を離間させる分離工程とを含む。
【0019】
ある実施形態において、前記配置工程は、前記複数のRH拡散源の集合体の内部に前記R−T−B系焼結磁石素材の少なくとも一部を埋設するように配置する工程である。
【0020】
ある実施形態において、前記配置工程は、前記複数のRH拡散源の集合体の内部に前記R−T−B系焼結磁石素材の全体を埋設するように配置する工程である。
【0021】
ある実施形態において、前記配置工程は、前記複数のRH拡散源の集合体の内部に複数の前記R−T−B系焼結磁石素材の少なくとも一部を埋設するように配置する工程である。
【0022】
ある実施形態において、前記配置工程は、複数の前記R−T−B系焼結磁石素材を配置した後、前記複数のR−T−B系焼結磁石素材の間隙を埋めるように前記複数のRH拡散源を配置させる工程を含む。
【0023】
ある実施形態において、前記配置工程は、前記複数のRH拡散源および前記R−T−B系焼結磁石素材を配置するための治具を用いて前記複数のRH拡散源および前記R−T−B系焼結磁石素材を配置した後、前記複数のRH拡散源および前記R−T−B系焼結磁石素材を前記治具とともに前記処理室内に移動させる工程を含む。
【0024】
ある実施形態において、前記RH拡散工程の雰囲気圧力は0.1Pa以上である。
【0025】
ある実施形態において、前記分離工程は、前記RH拡散工程で使用した前記複数のRH拡散源を回収する工程を含む。
【0026】
ある実施形態において、前記R−T−B系焼結磁石素材のうち、前記RH拡散工程で使用されなかったR−T−B系焼結磁石素材と、前記分離工程で回収された前記複数のRH拡散源を前記処理容器または他の処理容器内に配置する配置工程であって、前記複数のRH拡散源の幾つかを前記R−T−B系焼結磁石素材に接触させる第2の配置工程と、前記処理容器または前記他の処理容器内において、前記複数のRH拡散源の幾つかが接触した状態の前記R−T−B系焼結磁石素材、ならびに、前記R−T−B系焼結磁石素材に接触するRH拡散源および前記R−T−B系焼結磁石素材に接触していないRH拡散源に対して、圧力5000Pa以下の不活性雰囲気下、800℃以上1000℃以下の温度で熱処理を行う第2のRH拡散工程と、前記RH拡散工程後に、前記R−T−B系焼結磁石素材から前記複数のRH拡散源を離間させる第2の分離工程とを含む。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、粒径が53μm超と比較的大きく、かつ、DyおよびTbの少なくとも一方からなる重希土類元素RHと30質量%以上80質量%以下のFeとを含有する複数のRH拡散源を用いるため、R−T−B系焼結磁石素材とRH拡散源を、煩雑な配置工程や、溶媒、粘着剤などを使用した塗布工程を経ることなく簡易な方法で接触配置させることができる。このため、配置の手間や余分な工程がかからず、生産効率が高い。
【0028】
また、上述したRH拡散源は、R−T−B系焼結磁石素材と溶着しにくい。このため、RH拡散工程後に、RH拡散源をR−T−B系焼結磁石体から容易に分離して回収できる。また、個々のRH拡散源のサイズが53μmを超える大きさを有しているため、1回のRH拡散工程によってRH拡散源の全てが消費されることを避けられる。このため、RH拡散源を繰り返して使用することができる。
【0029】
さらに、上記のRH拡散源を用いたRH拡散工程を、圧力5000Pa以下の不活性雰囲気下、800℃以上1000℃以下の熱処理条件で行うことにより、R−T−B系焼結磁石体とRH拡散源の接触点からの拡散(接触拡散)と、R−T−B系焼結磁石体に接触していないRH拡散源からのRHの気化・昇華による拡散(非接触拡散)の両方を同時に行うことができる。この結果、RHの供給不足および過剰を避けて、重希土類元素RHを磁石内に適切に導入しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の好ましい実施形態におけるR−T−B系焼結磁石素材とRH拡散源の配置例を示す図である。
図2】本発明の好ましい実施形態におけるR−T−B系焼結磁石素材とRH拡散源の他の配置例を示す図である。
図3】本発明の好ましい実施形態におけるR−T−B系焼結磁石素材とRH拡散源の更に他の配置例を示す図である。
図4】本発明の好ましい実施形態におけるR−T−B系焼結磁石素材とRH拡散源の更に他の配置例を示す図である。
図5】本発明の好ましい実施形態におけるR−T−B系焼結磁石素材とRH拡散源の更に他の配置例を示す図である。
図6A】本発明の好ましい実施形態で使用可能な治具の構成例を示す図である。
図6B】本発明の好ましい実施形態における治具とR−T−B系焼結磁石体とRH拡散源の配置例を示す図である。
図7】サンプル3〜5,6,8,10,14〜16において、RH拡散源の大きさ、RH拡散処理の温度とHcJの変化量との関係を示すグラフである。
図8】サンプル7〜9において、雰囲気ガスの圧力とHcJの変化量との関係を示すグラフである。
図9】RH拡散処理の繰り返し回数とHcJの変化量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明のR−T−B系焼結磁石の製造方法は、少なくとも1つのR−T−B系焼結磁石素材(Rは希土類元素、TはFe、またはFeとCo)を準備する工程と、重希土類元素RH(Dyおよび/またはTB)および30質量%以上80質量%以下のFeを含有し、各々の粒径が53μm超5600μm以下の複数のRH拡散源を準備する工程とを行う。そして、R−T−B系焼結磁石素材、および、複数のRH拡散源を処理容器内に配置する配置工程を行う。この配置工程では、複数のRH拡散源の幾つかをR−T−B系焼結磁石素材に接触させる。
【0032】
次に、処理容器内において、複数のRH拡散源の幾つかが接触した状態のR−T−B系焼結磁石素材、ならびに、R−T−B系焼結磁石素材に接触するRH拡散源およびR−T−B系焼結磁石素材に接触していないRH拡散源に対して熱処理を行い、RH拡散源からR−T−B系焼結磁石素材に重希土類元素RHを拡散させる(RH拡散工程)。このRH拡散工程は、圧力5000Pa以下の不活性雰囲気下、800℃以上1000℃以下の温度で熱処理を行う。
【0033】
上記のRH拡散工程後に、R−T−B系焼結磁石素材から複数のRH拡散源を離間させる分離工程を行う。離間された複数のRH拡散源は、再利用が可能であるため、好ましい実施形態では、回収され、次のRH拡散工程に使用され得る。
【0034】
本発明によれば、複数のRH拡散源のうちの幾つかがR−T−B系焼結磁石素材に接触し、複数のRH拡散源の残りは、R−T−B系焼結磁石素材に接触していない状態でRH拡散源からRHがR−T−B系焼結磁石素材の表面に供給されるとともに、磁石素材内部に拡散される。ここでの「接触」とは、RH拡散源の微粉末を磁石素材の表面に塗布した状態とは異なり、磁石素材からRH拡散源を容易に分離できるように一時的に接している状態である。従来の塗布によれば、粉末が素材表面に付着または固着しており、分離は容易ではない。
【0035】
上記の配置工程は、複数のRH拡散源の集合体の内部に1つまたは複数のR−T−B系焼結磁石素材の少なくとも一部を埋設するように配置する工程であってもよい。また、この配置工程は、複数の前記R−T−B系焼結磁石素材を配置した後、複数のR−T−B系焼結磁石素材の間隙を埋めるように複数のRH拡散源を配置させる工程であってもよい。更に、この配置工程は、複数のRH拡散源およびR−T−B系焼結磁石素材を配置するための治具を用いて複数のRH拡散源およびR−T−B系焼結磁石素材を配置した後、この治具とともに処理室内に移動させるようにしてもよい。
【0036】
R−T−B系焼結磁石素材と前記組成および大きさのRH拡散源をこのような関係に配置して上記熱処理条件で加熱することにより、重希土類元素RHが、R−T−B系焼結磁石素材とRH拡散源の接触点から直接、および、R−T−B系焼結磁石素材と接触していない部分のRH拡散源から気化・昇華して、R−T−B系焼結磁石素材の表面に供給される。また、重希土類元素RHはRH拡散源からR−T−B系焼結磁石素材の表面に供給されると同時にR−T−B系焼結磁石素材内部への拡散が実行される(RH拡散工程)。
【0037】
なお、本明細書においては、RH拡散工程を行う前の磁石体をR−T−B系焼結磁石素材、RH拡散工程を行った後の磁石体をR−T−B系焼結磁石と呼ぶこととする。
【0038】
本発明によれば、R−T−B系焼結磁石素材表面にRH粉末が分散した溶媒や粘着剤をR−T−B系焼結磁石素材表面に塗布するような手間のかかる工程が不要になる。したがって、従来技術に比べて簡易な方法でR−T−B系焼結磁石素材とRH拡散源を配置してRH拡散工程を行うことができる。このため、工程が短縮できる。また、R−T−B系焼結磁石素材とRH拡散源を所定位置に並べる必要もないので生産性が高い。
【0039】
本発明における複数のRH拡散源は、各々が比較的大きな粒径を有し、かつ、RHと30質量%以上80質量%以下のFeを含有する希土類鉄合金であるので、RH拡散工程においてR−T−B系焼結磁石と溶着しにくく、また、繰り返し再利用が可能である。
【0040】
また、本発明のRH拡散源は重希土類元素RHと鉄との化合物を多く含むことから、R−T−B系焼結磁石素材と反応しにくい。R−T−B系焼結磁石素材とRH拡散源との接触点も少ないため、800℃以上1000℃以下の温度でRH拡散処理を行っても、R−T−B系焼結磁石の表面に供給される重希土類元素RH(DyまたはTbの少なくとも一方)が供給過多とならない。これにより、RH拡散後のBrの低下を抑えながら、充分に高いHcJを得ることができる。
【0041】
以下、本発明の製造方法の実施形態をさらに詳細に説明する。
【0042】
[R−T−B系焼結磁石素材]
まず、本発明では、重希土類元素RHの拡散の対象とするR−T−B系焼結磁石素材を準備する。このR−T−B系焼結磁石素材は公知のものが使用でき、例えば以下の組成からなる。
希土類元素R:12〜17原子%
B(Bの一部はCで置換されていてもよい):5〜8原子%
添加元素M(Al、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Hf、Ta、W、Pb、およびBiからなる群から選択された少なくとも1種):0〜2原子%
T(Feを主とする遷移金属であって、Coを含んでもよい)および不可避不純物:残部
ここで、希土類元素Rは、主として軽希土類元素RL(Nd、Pr)から選択される少なくとも1種の元素であるが、重希土類元素を含有していてもよい。なお、重希土類元素を含有する場合は、DyおよびTbの少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0043】
上記組成のR−T−B系焼結磁石素材は、任意の製造方法によって製造される。
【0044】
[RH拡散源]
本発明のRH拡散源は、重希土類元素RH(Dy及びTbの少なくとも1種)と30質量%以上80質量%以下のFeを含有する希土類鉄合金である。この組成範囲であれば、RH拡散源はRHFe2などの重希土類元素RHと鉄との化合物を主に含有する。
【0045】
RH拡散源のFeの含有量が30質量%未満であると、R−T−B系焼結磁石素材に溶着しやすくなり、RHの供給量が安定しなくなったり、RH拡散源が再利用しにくくなったりする恐れがある。
【0046】
また、RH拡散源のFeの含有量が80質量%を超えるとRHの含有量が20質量%よりも少なくなるため、RH拡散源からの重希土類元素RHの供給量が小さくなり、所望の保磁力向上効果を得るためには処理時間が非常に長くなる為、量産には適しない。
【0047】
本発明のRH拡散源に含まれるFeの質量比率は、変質しにくい組成範囲であるという観点から、好ましくは40質量%以上60質量%以下である。好ましい範囲では、RH拡散源中に含まれるDyFe2等のRHFe2化合物および/またはDyFe3等のRHFe3化合物の体積比率が両者の合計で90%以上となる。これらの化合物の体積比率が合計で90%以上になると、R−T−B系焼結磁石体とほとんど反応しなくなるため、より溶着が発生しにくくなる。
【0048】
RH拡散源は、Dy、Tb、Fe以外に、本発明の効果を損なわない限りにおいて、Nd、Pr、La、Ce、およびCoからなる群から選択された少なくとも1種を含有してもよい。また、不可避不純物などとして、例えば、5質量%以下の、Al、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Ga、Nb、Mo、Zn、Zr、Sn、Ag、In、Hf、Ta、W、Pb、SiおよびBiからなる群から選択された少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0049】
本発明のRH拡散源は粒径が大きいので、一回のRH拡散工程を経てもその組成、粒径はほとんど変わらない。RH拡散源を繰り返し再利用する場合は、それらは、各々の粒径が53μm超5600μm以下の範囲に管理されていることが好ましい。
【0050】
本発明におけるRH拡散源の形態は、例えば、球状、線状、リン片状、塊状、粉末など任意であるが、その大きさは、粒径が53μm超5600μm以下である。RH拡散源の粒径は、JIS Z 2510記載の方法によって、JIS Z 8801−1に規定のふるいを用いて分級して所望の粒径に調整する。分級時にふるいきれなかったり、53μm超5600μm以下の粒子に付着するなどの不可避の理由で少量(例えば10mass%以下)の微粉が含まれていても良い。RH拡散源の作製方法は任意であるが、例えば、所定組成のRH−Fe合金のインゴット、鋳片、ワイヤーなどを切断したり、粉砕したりすることによって得ることができる。
【0051】
RH拡散源の粒径が53μm以下であると、本発明のRH拡散源の組成であってもR−T−B系焼結磁石素材との溶着が起こりやすく、RH拡散源再利用の面から好ましくない。RH拡散源の粒径が5600μm超であると、R−T−B系焼結磁石体表面に均一に接触しにくくなる。RH拡散源の粒径は100μm超4750μm以下であることが好ましく、500μm超4000μm以下であることがより好ましい。
【0052】
[配置工程]
好ましい実施形態では、以上に説明したR−T−B系焼結磁石素材とRH拡散源とを、R−T−B系焼結磁石素材の少なくとも一部に複数のRH拡散源の幾つかが接触するように配置する。このとき、RH拡散源同士間、およびRH拡散源とR−T−B系焼結磁石素材との間に、有機溶媒や粘着剤などの有機物質が存在することのないように配置することが好ましい。その後、所定の雰囲気圧力および温度で熱処理してRH拡散工程を行う。
【0053】
ここで、図1を参照しながら、R−T−B系焼結磁石素材およびRH拡散源の配置方法を説明する。
【0054】
図1に示す容器100は、上部に開口部を有する容器本体10と蓋体20とを備える耐熱性容器である。この容器100の内部は、本体10と蓋体20との間隙を介して外部と通気可能である。図1の例では、容器100の底部に、容器100とR−T−B系焼結磁石素材30が接しない程度の厚さになるように多数のRH拡散源40を入れている。複数のRH拡散源40の集合体の上に、間隔をあけて複数のR−T−B系焼結磁石素材30を並べている。さらにR−T−B系焼結磁石素材30が隠れる程度にRH拡散源40を入れることによって、R−T−B系焼結磁石素材30の全体をRH拡散源40の集合体中に埋設させている。
【0055】
R−T−B系焼結磁石素材30の全表面からRHを拡散させてHcJを向上させる場合に、図1に示すように、R−T−B系焼結磁石素材30の全体が多数のRH拡散源40の集合体によって覆われていることが好ましい。R−T−B系焼結磁石素材30の少なくとも一部(例えば、R−T−B系焼結磁石素材の表面積の50%以上)がRH拡散源40の集合体によって覆われていれば、本発明の効果を得ることが可能である。具体的には、処理容器100の内壁とR−T−B系焼結磁石素材30が接していたり、R−T−B系焼結磁石素材30同士が接触したりして、R−T−B系焼結磁石素材30の一部領域がRH拡散源40と直接接していなくとも本発明の効果は発揮される。
【0056】
本発明におけるR−T−B系焼結磁石素材30とRH拡散源40の配置形態は、図1の例に限定されない。図2に示すように、処理容器100内にRH拡散源40を配置し、その上にR−T−B系焼結磁石素材30を乗せていてもよい。
【0057】
図3に示すように、処理容器100の中にR−T−B系焼結磁石素材30を配列した後、その隙間を埋めるように多数のRH拡散源40を流し込んでもよい。
【0058】
図4に示すように、処理容器100の底面にR−T−B系焼結磁石素材30を配列した後、それらをRH拡散源40の集合体で覆ってもよい。
【0059】
図5に示すように、R−T−B系焼結磁石素材30の上部にRH拡散源40を配置してから、その上にさらにR−T−B系焼結磁石素材30とRH拡散源40を配置するなどして、R−T−B系焼結磁石素材30を上下方向に重なり合うように配置してもよい。
【0060】
R−T−B系焼結磁石素材30の配置方向は任意であり、例えば板状磁石の場合、横方向に並べても、縦方向に並べてもよいし、R−T−B系焼結磁石素材30が小型の場合にはランダムに配置しても良い。
【0061】
R−T−B系焼結磁石素材30を所定の間隔に並べる場合には、処理容器100内に、R−T−B系焼結磁石素材30とRH拡散源40のほか、配置作業を補助する治具が存在していてもよい。例えば、補助治具を使用してR−T−B系焼結磁石素材30を好適な間隔に並べてからRH拡散源40を入れてもよい。図6Aは、治具50によってR−T−B系焼結磁石素材30を好適な間隔に並べた状態を模式的に示す図である。治具は、耐熱性を有していれば、図示される構成を有するものに限定されず、種々の構成を採用し得る。図6Bは、治具50およびR−T−B系焼結磁石素材30が置かれた処理容器100内に多数のRH拡散源40を投入した状態を示す図である。
【0062】
本発明によれば、R−T−B系焼結磁石素材30の表面に粘着剤等を存在させることなくRH拡散源40を安定して接触させることができる。
【0063】
処理容器100はSUS材、Ti、Mo、Nb、FeCrAl合金、FeCoCr合金などの耐熱性金属または合金によって形成され得る。処理容器100の形状は、任意であり、箱型、筒型などであってもよい。熱処理炉全体をそのまま処理容器100として用いてもよい。作業効率を考えると、熱処理装置の外部でR−T−B系焼結磁石素材30とRH拡散源40とを配置した処理容器100を熱処理炉内に挿入することが好ましい。処理容器100は、その内部の雰囲気制御が可能なように、内部と外部と通気可能にする構成を有している。
【0064】
本発明の好ましい実施形態では、RH拡散源40を溶媒に分散させたり溶解させたりすることなくそのまま使用する。溶媒や粘着剤を使用しないので、RH拡散源40同士間、およびRH拡散源40とR−T−B系焼結磁石素材30との間には、常にRH拡散源40と雰囲気ガス以外の物質が存在しない。このため、R−T−B系焼結磁石素材30と接触していないRH拡散源40から気化・昇華したRHが、阻害されることなく、R−T−B系焼結磁石素材30の表面に供給される。
【0065】
ここで、R−T−B系焼結磁石素材30に接触するRH拡散源40の集合体の厚さは、500μm以上、さらには1000μm以上であることが好ましい。複数のR−T−B系焼結磁石素材を配置する場合は、R−T−B系焼結磁石素材が対向する面における前記RH拡散源40の集合体の厚さは、R−T−B系焼結磁石素材間の距離によって定義され得る。
【0066】
このように、有機物質を使用せずに、厚いRH拡散源40の集合体でR−T−B系焼結磁石素材30を覆うことにより、R−T−B系焼結磁石素材30と接触するRH拡散源40の接触点からの拡散とR−T−B系焼結磁石素材30に接触していないRH拡散源40からの拡散の両方の効果を得やすくなる。また、配置作業が容易で効率的であり、生産性が高い。
【0067】
[雰囲気]
RH拡散工程時の雰囲気は不活性ガス雰囲気が好ましく、雰囲気ガスの圧力は5000Pa以下とする。本発明ではRH拡散源の大きさを比較的大きくしてR−T−B系焼結磁石素材との接触点を少なくしたことから、RH拡散源の接触点から直接R−T−B系焼結磁石素材内部に拡散するRHの量は比較的少ないが、RH拡散工程における雰囲気ガスの圧力を5000Pa以下とすることにより、R−T−B系焼結磁石素材と接触していない部分のRH拡散源からRHが気化・昇華して、R−T−B系焼結磁石素材の表面に供給されR−T−B系焼結磁石素材内部に拡散し、接触点からの拡散との両方の効果により、効率の高いRH拡散処理を行うことが可能となる。雰囲気ガス圧力の下限は、例えば10-3Pa程度でRH拡散処理を行うことができるが、雰囲気ガス圧力が低いとRH拡散源とR−T−B系焼結磁石素材が溶着しやすくなることがあるため、雰囲気ガス圧力の下限は0.1Paであることが好ましく、5Paであることがより好ましい。
【0068】
[熱処理温度]
RH拡散工程時の熱処理温度は800℃以上1000℃以下とする。この温度範囲は、重希土類元素RHがR−T−B系焼結磁石素材の粒界相を伝って内部へ拡散するのに好ましい温度領域である。
【0069】
RH拡散源は重希土類元素RHと30質量%以上80質量%以下のFeとからなり、800℃以上1000℃以下でRH金属が供給過多にならない。
【0070】
熱処理温度が800℃未満では、気化・昇華するRH元素が少ないため拡散が起こりにくく、所望の保磁力向上効果を得ることができないか、もしくは所望の保磁力向上効果を得るためのRH拡散処理に長時間を要し、好ましくない。また、1000℃を超えるとR−T−B系焼結磁石素材とRH拡散源が溶着してしまう問題が生じやすくなる。
【0071】
熱処理の時間は、RH拡散処理をする際のR−T−B系焼結磁石素材およびRH拡散源の投入量の比率、R−T−B系焼結磁石素材の形状、RH拡散源の形状、および、RH拡散処理によってR−T−B系焼結磁石素材に拡散されるべき重希土類元素RHの量(拡散量)などを考慮して決められ、例えば10分から72時間である。好ましくは1時間から12時間である。
【0072】
[第1熱処理]
RH拡散工程後に、拡散された重希土類元素RHをより均質化する目的でR−T−B系焼結磁石素材に対する第1熱処理を行っても良い。第1熱処理は、例えばRH拡散源を回収した後、重希土類元素RHが実質的に拡散し得る700℃以上1000℃以下の範囲で行い、より好ましくは850℃以上950℃以下の温度で実行される。この第1熱処理では、R−T−B系焼結磁石素材内部において重希土類元素RHの拡散が生じ、焼結磁石の表面付近に拡散導入された重希土類元素RHがさらに奥深くに拡散し、磁石全体としてHcJを高めることが可能になる。第1熱処理の時間は、例えば10分から72時間である。好ましくは1時間から12時間である。
【0073】
ここで、第1熱処理を行なう熱処理炉の雰囲気は真空または不活性ガス雰囲気中で、雰囲気ガス圧力は、大気圧以下が好ましい。
【0074】
[第2熱処理]
また、必要に応じてさらに第2熱処理(400℃以上700℃以下)を行うが、第1熱処理と第2熱処理(400℃以上700℃以下)の両方を行う場合は、第2熱処理は第1熱処理(700℃以上1000℃以下)の後に行うことが好ましい。RH拡散処理、第1熱処理(700℃以上1000℃以下)および第2熱処理(400℃以上700℃以下)は、同じ処理室内で行っても良い。第2熱処理の時間は、例えば10分から72時間である。好ましくは1時間から12時間である。なお、第1熱処理を行わず、第2熱処理のみを行ってもよい。
【0075】
ここで、第2熱処理を行なう熱処理炉の雰囲気は真空または不活性ガス雰囲気中で、雰囲気ガス圧力は、大気圧以下が好ましい。
【0076】
このように、RH拡散源の組成、大きさ、RH拡散工程時の雰囲気ガスの圧力、熱処理温度を適正な範囲とし、上述のようなR−T−B系焼結磁石素材とRH拡散源の配置でRH拡散工程を行うことにより、RHが、R−T−B系焼結磁石素材とRH拡散源の接触点から直接、および、R−T−B系焼結磁石素材と接触していない部分のRH拡散源から気化・昇華して、R−T−B系焼結磁石素材の表面に供給と拡散を高い効率で行うことができる。
【0077】
[RH拡散源の再利用]
本発明におけるRH拡散源は、比較的大きな粒径を有し、かつ、RHと30質量%以上80質量%以下のFeを含有する希土類鉄合金であるので、RH拡散工程においてR−T−B系焼結磁石素材と溶着しにくく、容易に分離して回収可能である。また、RH拡散工程を経てもRH拡散源の組成、粒径はほとんど変わらないので、例えば、RH拡散工程で使用されていない、すなわち、RH拡散処理が施されていないR−T−B焼結磁石素材に対して、繰り返し再利用が可能である。RH拡散源は特別な処理を施すことなくそのまま再利用することができるので、希少なRHを無駄なく利用することができる。なお、RH拡散工程で使用したことのない新たなRH拡散源を混合して用いてもよい。
【実施例】
【0078】
(実験例1)
まず、組成比Nd=30.0、Dy=0.5、B=1.0、Co=0.9、Al=0.1、Cu=0.1、残部=Fe(質量%)のR−T−B系焼結磁石素材を作製した。これを機械加工することにより、30mm×30mm×3mmの板状のR−T−B系焼結磁石素材を得た。作製したR−T−B系焼結磁石素材の磁気特性をB−Hトレーサによって測定したところ、HcJは1050kA/m、Brは1.40Tであった。なお、磁気特性の測定は、後述の第2熱処理に相当する500℃、3時間の熱処理を行った後測定した。
【0079】
次に、表1に示す組成、大きさのRH拡散源を用意した。RH拡散源は、急冷法によって作製したRH−Fe合金の鋳片をピンミルで粉砕した後、分級により、表1に示す粒径を有するものを選別した。分級は、自動ふるい振とう機を用い、JIS Z 2510記載の方法によって行った。具体的には、JIS Z 8801−1に規定の目開きがそれぞれ53μm、300μm、500μm、850μm、2000μm、5600μmのふるいを用いて分級した。
【0080】
【表1】
【0081】
上記のR−T−B系焼結磁石素材およびRH拡散源を用意した後、図1の例に示すようにR−T−B系焼結磁石素材とRH拡散源とを処理容器内に配置した。具体的には、大きさ300mm×150mm×100mmのSUS製箱型処理容器の底部に1〜5mmの厚さにRH拡散源を入れ、その上に間隔をあけてR−T−B系焼結磁石素材を10個並べ、さらにR−T−B系焼結磁石素材が隠れる程度にRH拡散源を入れてから蓋をした。R−T−B系焼結磁石素材とRH拡散源を配置した処理容器を熱処理炉に収容し、Ar雰囲気中、表1に示す雰囲気圧力、拡散温度、拡散時間で熱処理を行った。
【0082】
熱処理は、室温から真空排気しながら昇温し、雰囲気圧力および温度が、表1に示す圧力、拡散温度に達してから、表1に示す拡散時間および拡散温度の条件でRH拡散処理を行った。その後、いったん室温まで降温してから処理容器を取り出してR−T−B系焼結磁石素材とRH拡散源を分離して回収した。ここで、サンプル1〜23、28においては、R−T−B系焼結磁石素材とRH拡散源は容易に分離できたが、サンプル24〜27、29はR−T−B系焼結磁石素材表面にRH拡散源が溶着しており、分離できなかった。
【0083】
回収したR−T−B系焼結磁石素材を処理容器内に戻し、再び熱処理炉に収容した。その後、RH拡散処理を行う場合と同様に真空排気しながら昇温し、第1熱処理温度に達してから所定時間その温度に保持して第1熱処理を行った。続いて、いったん室温まで降温してから第2熱処理温度まで昇温し、第2熱処理温度に達してから所定時間その温度に保持して第2熱処理を行った。なお、第1熱処理条件は900℃、3時間とし、第2熱処理条件は500℃、3時間とした。サンプル23は第1熱処理を行わずに第2熱処理のみを行った。なお、第1熱処理条件および第2熱処理条件は、これらの例に限定されない。
【0084】
R−T−B系焼結磁石素材とRH拡散源が分離回収できたサンプル1〜23、28について、磁気特性をB−Hトレーサによって測定し、HcJおよびBrの変化量を求めた。結果を表1に示す。
【0085】
サンプル1〜19およびサンプル21〜23より、RH拡散源のFe含有量が30質量%以上80質量%以下、RH拡散処理の温度が800℃以上1000℃以下の場合において、Brが大きく低下することなく、HcJは50kA/m以上増加しているのが確認された。
【0086】
図7は、サンプル3〜5,6,8,10,14〜16において、RH拡散源の大きさ、RH拡散処理の温度とHcJの変化量との関係を示したものである。いずれの場合においても、Brが大きく低下することなく、HcJは50kA/m以上増加しているのが確認された。
【0087】
図8は、サンプル7〜9において、雰囲気ガスの圧力とHcJの変化量との関係を示したものである。いずれの場合においても、Brが大きく低下することなく、HcJは50kA/m以上増加しているのが確認された。
【0088】
(実験例2)
実験例1のサンプル1〜23と同様にしてRH拡散処理を行った後、処理容器からR−T−B系焼結磁石素材を取り出してR−T−B系焼結磁石素材とRH拡散源を分離して回収した。実験例1で最初に用意したものと同じR−T−B系焼結磁石素材と、回収したRH拡散源を用い、実験例1と同じ方法でRH拡散処理を行った後、実験例1と同じ方法で磁気特性を測定したところ、全てのサンプルにおいて、Brが大きく低下することなく、HcJは実験例1と同程度増加しているのが確認された。
【0089】
(実験例3)
実験例1のサンプル10と同様にしてRH拡散処理を行った後、処理容器からR−T−B系焼結磁石素材を取り出してR−T−B系焼結磁石素材とRH拡散源を分離して回収した。実験例1で最初に用意したものと同じR−T−B系焼結磁石素材と、回収したRH拡散源とを用い、実験例1と同じ方法でRH拡散処理を行った。同様に11回RH拡散処理を繰り返し、合計13回RH拡散処理を行った。図9はRH拡散処理の繰り返し回数とHcJの変化量との関係を示すグラフである。RH拡散源を回収して繰り返し使用しても、HcJは実験例1と同程度増加しているのが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、希少な重希土類元素を効率的に利用するため、磁石特性に優れたR−T−B系焼結磁石の量産に好適に使用され得る。
【符号の説明】
【0091】
10 処理容器
20 蓋体
30 R−T−B系焼結磁石素材
40 RH拡散源
100 処理容器
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9