(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
LSIを高性能化するために、配線材料として従来のアルミニウム合金に替わって銅合金の利用が進んでいる。アルミニウム合金配線は、主としてドライエッチング法により微細加工されていたが、銅合金配線について同様の手法を適用することは困難である。
そこで、あらかじめ溝が形成された絶縁膜上に銅合金薄膜を堆積して埋め込み、溝部以外の銅合金薄膜をCMPにより除去して埋め込み配線を形成する、いわゆるダマシン法が、銅合金配線の微細加工に主として採用されている(特許文献1参照。)。
【0003】
銅合金等の金属CMPの一般的な方法は、円形の研磨定盤(プラテン)上に研磨パッドを貼り付け、研磨パッド表面を金属用研磨剤で浸し、基板の金属膜が形成された面を押し付けて、その裏面から所定の圧力(以下、「研磨圧力」という。)を加えた状態で研磨定盤を回し、研磨剤と金属膜の凸部との機械的摩擦によって凸部の金属膜を除去するものである。
【0004】
CMPに用いられる研磨剤は、一般には酸化剤及び砥粒からなるものであり、必要に応じてさらに酸化金属溶解剤、保護膜形成剤が添加される。
【0005】
このような研磨剤を用いたCMPにおいては、まず酸化剤によって金属膜表面が酸化され、その酸化層が砥粒によって削り取られることにより、金属膜が研磨されると考えられている。この際、凹部の金属表面の酸化層は研磨パッドにあまり触れず、砥粒による削り取りの効果が及ばないので、CMPの進行とともに凸部の金属層が除去されて基板表面は平坦化される(非特許文献1参照。)。
【0006】
一般にLSIの製造においてダマシン法を適用する場合には、使用される銅合金の膜厚は1μm(1000nm)程度であり、研磨速度が0.5μm/min(500nm/min)程度となる研磨剤が使用されている(特許文献2参照。)。
【0007】
一方、近年では銅のCMP処理はパッケージ基板等の高性能・微細配線板の製造や新しい実装方法として注目されているシリコン貫通ビア(TSV:Through Silicon Via)形成にも適用されようとしている。しかし、TSVにおいては、通常5μm以上、場合によっては10μm以上の膜厚の金属(銅合金)を研磨する必要があるため、従来のLSI用の研磨剤では研磨速度が充分でないという問題があり、より高い速度で研磨可能な研磨剤が求められている。
【0008】
これに対して、特許文献3には、従来よりも高い研磨速度(2.2〜2.9μm/min程度)で銅合金膜を研磨することが可能な研磨剤が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献3に記載の研磨剤はTSV用の研磨剤として適用し得るが、生産性の向上のために、さらに高い研磨速度で銅合金膜を研磨可能な研磨剤が求められている。
【0011】
そこで本発明は、銅膜(「銅合金膜」を含む。以下、同様。)を高研磨速度でかつ平滑に研磨することができ、高性能配線板やTSV等の厚い金属膜の研磨が必要とされる用途においても、短時間で研磨処理が可能で充分な生産性を確保することができる研磨剤及びこれを用いた研磨方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、無機酸、アミノ酸、保護膜形成剤、砥粒、酸化剤、有機酸及び水を含む組成物を、pHが1.5〜4となるように調整してなる研磨剤であって、上記有機酸を除く上記組成物(該組成物がアンモニア水溶液等のpH調整剤を含む場合には該pH調整剤も除く)のpHを4まで増加させるために要する水酸化カリウムの量が、上記有機酸を除く上記組成物1kg当たり0.10mol以上であり、上記有機酸はカルボキシル基を2つ以上含み、かつ、第1酸解離定数の逆数の対数(pKa1)が3以下である研磨剤を提供する。
【0013】
かかる研磨剤によれば、銅膜を高研磨速度でかつ平滑に研磨することができ、高性能配線板やTSV等の厚い金属膜の研磨が必要とされる用途においても、短時間で研磨処理が可能で充分な生産性を確保することができる。
【0014】
なお、「pKa1」の値については、化学便覧、基礎編II(改訂5版、丸善(株))を参照することができる。また、pHを1.5〜4に調整する際には、アンモニア等のpH調整剤を添加してもよく、組成物中の成分の含有率を調整してpHを1.5〜4としてもよい。
【0015】
上記有機酸は、研磨速度向上効果が大きい点で、シュウ酸、マレイン酸及びマロン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機酸であることが好ましい。
上記無機酸は、銅膜の表面粗さをさらに低減することができる点で、硫酸及びリン酸から選択される少なくとも一種を含むことが好ましく、硫酸及びリン酸を含むことがより好ましく、硫酸及びリン酸からなることがさらに好ましい。
上記アミノ酸のpKa1は、研磨剤のpHを1.5〜4に調整しやすい点で、2〜3であることが好ましい。
【0016】
上記保護膜形成剤は、研磨速度をさらに向上させることができる点で、ベンゾトリアゾール及びその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の保護膜形成剤であることが好ましい。
上記砥粒は、特に研磨特性に優れることから、平均粒径100nm以下のコロイダルシリカ及び/又はコロイダルアルミナであることが好ましい。
上記酸化剤は、研磨促進作用が特に高いことから、過酸化水素、過硫酸及び過硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸化剤であることが好ましい。
【0017】
また、本発明は、基板上に、銅を含む金属膜を積層する積層ステップと、上記本発明の研磨剤を用いて銅を含む金属膜を研磨し、当該金属膜の一部を除去する研磨ステップとを有することを特徴とする研磨方法を提供する。かかる研磨方法によれば、上記本発明の研磨剤を用いているので、高い研磨速度及び平滑な研磨を両立できるため、生産性の向上と、製品歩留まりの向上を両立させることができる。
【0018】
上記研磨方法では、高い研磨速度及び平滑な研磨を両立できるので、上記金属膜の最大厚みが5μm以上であるもの、特に10μm以上であるものに好適に適用することができる。なお、「金属膜の最大厚み」とは、研磨すべき部分の金属膜の厚みのうち最大であるものをいい、金属膜が基板の凹部上に形成されている場合における凹部の金属膜の厚さは含まない。
【0019】
さらに、上記研磨方法では、高い研磨速度及び平滑な研磨を両立できるので、研磨ステップにおける金属膜を研磨する際の研磨速度を5μm/min以上とすることができる。
【0020】
なお、本明細書中、特に断りがない限り、「銅」とは、銅を含む金属(例えば銅合金)も含むものとし、「銅を含む金属膜」とは、銅からなる金属膜、銅を含む金属膜(例えば銅合金膜)、及びそれらの金属膜と他の金属との積層膜をいう。
【発明の効果】
【0021】
本発明の研磨剤によれば、研磨後の表面の表面粗さを低く保ちつつ、銅に対して、通常の研磨剤よりも格段に速い研磨速度を示す。特に、本発明の研磨剤によれば、銅に対する研磨速度が4μm/min以上となるような高い研磨特性が得られるため、高性能配線板用途、TSV用途等の、短時間で大量に銅を研磨する用途に最適である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の研磨剤は、無機酸、アミノ酸、保護膜形成剤、砥粒、酸化剤、有機酸及び水を含む組成物を、pHが1.5〜4となるように調整してなる研磨剤である。以下、詳細に説明する。
【0024】
無機酸及び有機酸は、それぞれ単独で研磨剤に添加しても、ある程度の研磨速度の向上が見られ、それぞれ添加する量を増加させることで研磨速度も増加する傾向を有している。しかしながら、無機酸と特定の有機酸とを組み合わせて使用することで、より少ない添加量で高い研磨速度を得ることができる。言い換えれば、添加した量に対する研磨速度向上効率が高くなるという点で、より効果的に研磨速度を向上させることができる。
【0025】
無機酸に特定の有機酸をさらに加えることで上記効果を得ることができる理由は必ずしも明らかではないが、本発明者らは次のように考えている。すなわち、保護膜形成剤と無機酸との作用により、銅表面に、保護膜形成剤及び銅イオンを含む「反応層」が形成され、これが研磨されることにより研磨が進行する際に、添加した特定の有機酸が銅イオンにキレート化することで、反応層をより除去しやすい状態にして、研磨が促進されるものと考えられる。
【0026】
本発明における研磨剤のpHは、1.5〜4となるように調整される。これによれば、銅のCMPによる研磨速度が大きく、かつ銅膜の腐食を防止することができる。研磨剤のpHは2〜3であるとより好ましい。pH1.5未満では銅膜の表面粗さが大きくなり、またpH4を超えるとCMPによる研磨速度が遅く実用的な研磨剤とはなり得ない。研磨剤のpHは、無機酸、有機酸及びアミノ酸の添加量により調整することができ、また所望により後述するpH調整剤を添加して調整してもよい。
【0027】
(pH調整剤)
本実施形態の研磨剤においては、pHを調整するために、アルカリ成分をpH調整剤として添加することができる。このようなアルカリ成分としては例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等を挙げることができる。もちろん、pH調整剤を添加せずとも研磨剤のpHが1.5〜4の範囲にある場合には、pH調整剤の添加は必須ではない。
【0028】
研磨剤のpHは、pHメータ(例えば、横河電機株式会社製の型番PH81)で測定することができる。標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液pH:4.01(25℃)、中性りん酸塩pH緩衝液pH6.86(25℃))を用いて、2点校正した後、電極を研磨剤に入れて、2分以上経過して安定した後の値を採用する。
【0029】
(有機酸)
上記有機酸は、カルボキシル基を2つ以上含み、かつ、pKa1が3以下である有機酸である。このような有機酸は、上記のpH範囲において効率的に銅イオンとキレート化することにより、研磨速度向上に有効であると考えられる。
【0030】
カルボキシル基を2つ以上含み、かつ、pKa1が3以下の有機酸としては、わずかでも水に溶解するものであれば特に制限はないが、具体的には例えば、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸等が挙げられる。中でも、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸が、研磨速度向上効果が大きいという点で好ましい。これらは単独で又は二種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
有機酸の添加量は、研磨速度向上の効果が得られやすい点で、研磨剤全量に対して0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましい。また、上限は特にないが、ある程度の添加量を超えると研磨速度がそれ以上向上しない傾向がある。このような観点から、上限としては10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0032】
(無機酸)
上記無機酸としては、公知のものを特に制限なく使用することができ、具体的には例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、リン酸等が挙げられる。中でも、CMPによる研磨速度向上効果が大きく、銅膜の表面粗さを低減できるという点で、硫酸、リン酸、又は硫酸とリン酸の混合物が好ましい。これらは単独で又は二種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0033】
(アミノ酸)
上記アミノ酸は、pHを調整し、かつ銅を溶解させる目的で使用されるものである。このようなアミノ酸としては、わずかでも水に溶解するものであれば特に制限はなく、具体的には例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、シシチン、メチオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リシン、アルギニン、フェニルアラニン、チロシン、ヒスチジン、トリプトファン、プロリン、オキシプロリン等が挙げられる。これらは単独で又は二種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0034】
これらのアミノ酸の中でも、研磨剤のpHを1.5〜4に調整しやすい点で、pKa1が2〜3のアミノ酸を使用することが好ましい。上記の例示化合物の中では、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、メチオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リシン、アルギニン、トリプトファン等がこれに該当する。これらの中でも、研磨速度向上効果が高く、安価である点で、特にグリシンが好ましい。
【0035】
アミノ酸の添加量は、pH調整効果をより効果的に発揮させるために、研磨剤全量に対して2.0質量%以上であることが好ましく、3.0質量%以上であることがより好ましい。また、上限は特にないが、ある程度の添加量を超えるとpH調整効果がそれ以上向上しない傾向がある。このような観点から、上限としては15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0036】
(保護膜形成剤)
上記保護膜形成剤とは、銅表面に対して保護膜を形成する作用を有する物質をいう。ただし、上述のように保護膜形成剤は、研磨進行時に除去される「反応層」を構成していると考えられ、必ずしも銅が研磨されるのを防ぐための「保護膜」を形成するわけではない。
【0037】
保護膜形成剤としては、その効果を発揮するために有効な量の水溶性を有していれば、従来公知の物質を特に制限なく使用することができ、具体的には例えば、キナルジン酸、アントニル酸、サリチルアルドキシム、トリアゾール化合物、イミダゾール化合物、ピラゾール化合物、テトラゾール化合物等の含窒素化合物が挙げられる。中でも含窒素複素環化合物が好ましく、トリアゾール化合物が特に好ましい。
【0038】
トリアゾール化合物としては、例えば、1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1H−1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール誘導体;ベンゾトリアゾール、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、1−ジヒドロキシプロピルベンゾトリアゾール、2,3−ジカルボキシプロピルベンゾトリアゾール、4−ヒドロキシベンゾトリアゾール、4−カルボキシル(−1H−)ベンゾトリアゾール、4−カルボキシル(−1H−)ベンゾトリアゾールメチルエステル、4−カルボキシル(−1H−)ベンゾトリアゾールブチルエステル、4−カルボキシル(−1H−)ベンゾトリアゾールオクチルエステル、5−ヘキシルベンゾトリアゾール、[1,2,3−ベンゾトリアゾリル−1−メチル][1,2,4−トリアゾリル−1−メチル][2−エチルヘキシル]アミン、トリルトリアゾール、ナフトトリアゾール、ビス[(1−ベンゾトリアゾリル)メチル]ホスホン酸、3−アミノトリアゾール等のベンゾトリアゾール誘導体などが挙げられる。中でもベンゾトリアゾール誘導体を使用することがより好ましい。
【0039】
イミダゾール化合物としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、2−プロピルイミダゾール、2−ブチルイミダゾール、4−メチルイミダゾール、2、4−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−アミノイミダゾール等が挙げられる。
【0040】
ピラゾール化合物としては、例えば、3,5−ジメチルピラゾール、3−アミノ−5−メチルピラゾール、4−メチルピラゾール、3−アミノ−5−ヒドロキシピラゾール等が挙げられる。
【0041】
テトラゾール化合物としては、例えば1H−テトラゾール、5−アミノ−1H−テトラゾール、5−メチル−1H−テトラゾール、5−フェニル−1H−テトラゾール、1−(2−ジアミノエチル)−5−メルカプトテトラゾール等が挙げられる。
【0042】
保護膜形成剤の添加量は、金属の表面粗さをさらに小さくできる点で、研磨剤全量に対して、0.05質量%であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましい。また、研磨速度に優れる点で、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0043】
(砥粒)
上記砥粒としては、特に制限はなく、具体的には例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、セリア、チタニア、炭化珪素等の無機物砥粒、ポリスチレン、ポリアクリル、ポリ塩化ビニル等の有機物砥粒を挙げることができる。中でも、研磨剤中での分散安定性が良く、CMPにより発生する研磨傷(スクラッチ)の発生数が少ない点で、シリカ及びアルミナが好ましく、粒径の制御が容易であり、研磨特性により優れる点で、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナがより好ましい。コロイダルシリカは、例えばシリコンアルコキシドの加水分解又は珪酸ナトリウムのイオン交換により製造することができ、コロイダルアルミナは、例えば硝酸アルミニウムの加水分解により製造することができる。
【0044】
また、研磨速度と研磨後の表面粗さが低い点で、砥粒の平均粒径が100nm以下であることが好ましく、平均粒径が100nm以下であるコロイダルシリカ、コロイダルアルミナがより好ましい。なお、本明細書中、「平均粒径」とは、研磨剤をレーザ回折式粒度分布計で測定したときのD50の値(体積分布のメジアン径、累積中央値)をいう。上述の砥粒は単独で又は二種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0045】
砥粒の添加量は、物理的な研削作用が得られ研磨速度がより向上する点で、研磨剤全量に対して0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましい。また、大量に添加しても、研磨速度が飽和し、それ以上加えても研磨速度の増加は認められなくなる上、砥粒の凝集や研磨傷の増加につながる可能性があるため、上限としては10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0046】
(酸化剤)
上記酸化剤としては、銅に対する酸化作用を有するものであれば特に制限なく使用することができ、具体的には例えば、過酸化水素(H
2O
2)、過硫酸、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、過ヨウ素酸、過ヨウ素酸カリウム等が挙げられ、その中でも過酸化水素、過硫酸、過硫酸塩が好ましい。これらの酸化剤は単独で又は二種類以上組み合わせて使用することができる。
【0047】
酸化剤の添加量は、良好な研磨速度が得られやすい点で、研磨剤全量に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましい。また、過剰に添加しても研磨速度が向上しないか、又は、かえって低下する場合もあるため、上限としては20質量%以下とすることが好ましく、15質量%以下とすることがより好ましい。
【0048】
(無機酸の中和滴定等量)
本発明の研磨剤は、無機酸を含むpH緩衝溶液である。無機酸は一般に強酸であり、多量に添加するとpHが低下してしまいpH1.5〜4の範囲に調整するのは困難である。そこで無機酸にアミノ酸を添加することにより、研磨剤をpH1.5〜4のpH緩衝溶液とすることができる。
【0049】
本発明の研磨剤においては、無機酸、アミノ酸、保護膜形成剤、砥粒、酸化剤及び水を含む組成物(有機酸を除く組成物)のpHを4まで増加させるために要する水酸化カリウムの量(無機酸の水酸化カリウムによる中和滴定等量)が、有機酸を除く組成物1kg当たり0.10mol以上となるように無機酸を添加する。
【0050】
本発明の研磨剤において、無機酸の水酸化カリウムによる中和滴定等量を規定する理由は次の通りである。すなわち、本発明の研磨剤により研磨される金属膜に含まれる銅は、研磨されると研磨剤中に陽イオンとして溶解する。ここで無機酸の添加量が少なく、pH緩衝作用を有さない研磨剤であると、銅の溶解により水素イオンが消費され研磨剤のpHが上昇してしまい、研磨速度が低下すると考えられる。一方、充分な量の無機酸を含有し、pH緩衝作用のある研磨剤を使用した場合は、銅イオン等の金属イオンが多量に溶解しても、pHの上昇は抑制され、安定した研磨が可能になる。
【0051】
そのために必要な研磨剤中の無機酸の量は、研磨速度、研磨中における研磨剤流量によって多少のバラツキはあるものの、水酸化カリウムによる中和滴定等量で0.10mol/kg以上に相当する量であればよく、0.12mol/kg以上であるとより好ましく、0.15mol/kg以上であるとさらに好ましく、0.20mol/kg以上であると特に好ましい。
【0052】
なお、研磨液の中和滴定等量は、次のようにして求めることができる。すなわち、研磨液の組成から、有機酸及びアンモニア水溶液(pH調整剤)を除いた組成の「中和滴定量測定用の試験液」を調製する。次に、100ミリリットル程度のビーカーに試験液50ミリリットルを入れ、撹拌子により80rpmで撹拌しながら濃度20%水酸化カリウム水溶液を滴下し、pHの値が4.0となったときの水酸化カリウム水溶液の添加量から中和滴定等量を算出することができる。
【0053】
また、研磨液の組成が不明な場合は、測定精度10
−8g以上のイオンクロマトグラフィーによる分析で研磨液の組成と濃度を調べることができる。従って、その測定値から上記試験液を作成し、中和滴定量を測定することができる。
【0054】
上述の研磨剤であれば、例えば8インチ(20.3cm)の円盤状の基板を、研磨剤の流量を200ml/min付近と設定した場合に、高速で研磨できることが確認されている。なお、本発明の研磨剤において、「無機酸の水酸化カリウムによる中和滴定等量」は、研磨剤から上記有機酸及びpH調整剤を除いた成分である試験液1kgを別途用意し、この試験液のpH値を4まで増加するのに必要な水酸化カリウムのモル数として定義する。
【0055】
(研磨方法)
本発明の研磨方法は、基板上に、銅を含む金属膜を積層する積層ステップと、上記本発明の研磨剤を用いて銅を含む金属膜を研磨し、当該金属膜の一部を除去する研磨ステップ、を有することを特徴とする。
【0056】
本発明の研磨剤を用いた研磨方法は、従来の研磨方法と比較して、銅を含む金属膜の研磨速度が極めて速いという特徴を有しており、例えば、LSI等パッケージ基板等に代表される高性能・微細配線板の製造工程における厚い金属膜を研磨するのに特に好適に使用することができ、より具体的には、研磨されるべき銅を含む金属膜の厚みが4μm以上である基板を研磨する場合に特に好適に使用することができる。
【0057】
このように、非常に厚い金属膜を研磨する必要がある工程として、シリコン貫通ビア(TSV:Through Silicon Via)形成工程を挙げることができる。TSVの形成方法は様々な方法が提案されているが、具体例として、素子を形成した後にビアを形成するVIA−LASTといわれる方法がある。以下、
図1〜3の工程図(模式断面図)を参照しながら、本発明の研磨剤をVIA−LASTに用いた場合の使用方法について説明する。
【0058】
図1は、シリコン基板上に銅の膜を形成する工程を示す模式断面図である。
図1(a)に示すように、シリコン基板1上の所定の位置に、素子2を形成する。次に、
図1(b)に示すように、貫通ビアとするための凹部3をプラズマエッチング等の方法により形成する。次に、スパッタリングや電解メッキ等の方法により、凹部を埋め込むように銅を積層して銅層4を形成し、
図1(c)に示すような構造の基板100を得る。
【0059】
図2は、このようにして作製した基板100を研磨し、片面にバンプを形成する工程を示す模式断面図である。上記本発明の研磨剤を、
図2(a)における銅層4の表面と、研磨パッド(図示せず)の間に供給しながら、素子2が露出するまで銅層4を研磨する。
【0060】
より具体的には、基板100における銅層4と、研磨定盤上に貼付けられた研磨パッドの表面との間に上記本発明の研磨剤を供給しながら、押圧した状態で、研磨定盤と基板100とを相対的に動かすことによって銅層4を研磨する。研磨パッドの代わりに、金属製又は樹脂製のブラシを使用してもよい。また、研磨剤を所定の圧力で吹きつけることで研磨しても良い。
【0061】
研磨する装置としては、例えば研磨パッドにより研磨する場合、回転数が変更可能なモータ等に接続されていて研磨パッドを貼り付けることができる研磨定盤と、研磨される基板を保持できるホルダとを有する一般的な研磨装置が使用できる。研磨パッドとしては、一般的な不織布、発泡ポリウレタン、多孔質フッ素樹脂等が使用でき、特に制限はない。
【0062】
研磨条件には制限はないが、研磨定盤の回転速度は基板が飛び出さないように200min
−1以下の低回転が好ましい。被研磨面を有する基板の研磨パッドへの押し付け圧力(研磨圧力)は、1〜100kPaであることが好ましく、CMP速度の被研磨面内均一性及びパターンの平坦性を満足するためには、5〜50kPaであることがより好ましい。研磨している間、研磨パッドには研磨剤をポンプ等で連続的に供給する。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に研磨剤で覆われていることが好ましい。
【0063】
研磨終了後の基板は、流水中でよく洗浄後、スピンドライ等を用いて基板上に付着した水滴を払い落としてから乾燥させることが好ましい。研磨パッドの表面状態を常に同一にしてCMPを行うために、研磨の前に研磨パッドのコンディショニング工程を入れるのが好ましい。例えば、ダイヤモンド粒子のついたドレッサを用いて少なくとも水を含む液で研磨パッドのコンディショニングを行う。続いて本発明によるCMP研磨工程を実施し、さらに、基板洗浄工程を加えるのが好ましい。
【0064】
続いて、
図2(c)に示すように、露出した銅層4の部分に、電解メッキ等の方法によりバンプ5を形成し、片面にバンプを有する基板200を得る。バンプの材質としては、銅等を挙げることができる。
【0065】
図3は、もう一方の面にバンプを形成する工程を示す模式断面図である。
図3(a)に示す状態の基板200において、バンプ5の形成されていない面を、CMP等の方法により研磨し、銅層4を露出させる(
図3(b))。次に上記と同様の方法により、バンプ6を形成し、TSVが形成された基板300を得る(
図3(c))。
【実施例】
【0066】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
【0067】
(研磨剤の作製)
実施例1
濃度96%の硫酸10g、濃度85%のリン酸10g、グリシン50g、ベンゾトリアゾール(BTA)10g、シュウ酸10g、及びテトラエトキシシランのアンモニア溶液中での加水分解により作製した平均粒径70nmのコロイダルシリカ(固形分20%)50gを水550gに加えて、コロイダルシリカ以外の成分を溶解させた。さらに25%のアンモニア水溶液を添加して液のpHを2.6に調整した後、純水をさらに加えて全量を700gとした。これに、過酸化水素水(試薬特級、30%水溶液)300gを加えて、全量1000gの研磨剤1を得た。
【0068】
実施例2
シュウ酸の代わりにマロン酸を10g添加した以外は実施例1と同様にして研磨剤2を作製した。
実施例3
シュウ酸の代わりにマレイン酸を10g添加した以外は実施例1と同様にして研磨剤3を作製した。
実施例4
グリシンの代わりにアラニンを50g添加した以外は実施例1と同様にして研磨剤4を作製した。
実施例5
グリシンの代わりにセリンを50g添加した以外は実施例1と同様にして研磨剤5を作製した。
実施例6
添加する硫酸とリン酸の量をそれぞれ5gとした以外は実施例1と同様にして研磨剤6を作製した。
【0069】
比較例1
シュウ酸を加えないこと以外は実施例1と同様にして研磨剤X1を作製した。
比較例2
硫酸及びリン酸を加えず、シュウ酸の量を30gとした以外は実施例1と同様にして研磨剤X2を作製した。
比較例3
シュウ酸を加えないことに加えて、硫酸の量を20gに増量した以外は実施例1と同様にして研磨剤X3を作製した。
比較例4
添加する硫酸の量を1g、リン酸の量を5gとした以外は実施例1と同様にして研磨剤X4を作製した。
比較例5
シュウ酸の代わりにリンゴ酸を添加したこと以外は実施例1と同様にして研磨剤X5を作製した。
【0070】
(中和滴定量測定)
有機酸及び25%のアンモニア水溶液を添加しないこと以外は実施例1〜6及び比較例1〜5と同様にして、中和滴定量測定用の試験液(試験液1〜6及び試験液X1〜X5)を作成した。それぞれの試験液について、pHメータ(横河電機株式会社製 PH81)を使用し、25℃の恒温水槽中で、水酸化カリウムによる中和滴定等量を測定した。得られた値を表1及び表2に示す。なお比較例2については、シュウ酸及びアンモニア水を添加しない状態でのpHが4.0を超えていたため、中和滴定量を0(mol/kg)とした。
【0071】
なお、上記中和滴定等量は、次のようにして求めた。すなわち、100ミリリットルビーカーに試験液50ミリリットルを入れ、撹拌子により80rpmで撹拌しながら濃度20%水酸化カリウム水溶液を滴下し、pHの値が4.0となったときの水酸化カリウム水溶液の添加量から中和滴定等量を算出した。
【0072】
(基板の研磨)
直径8インチ(20.3cm)(φ)サイズのシリコン基板上に厚み20μmの銅膜を製膜した基板(アドバンテック社より購入)を用意した。この基板を使用し、上記研磨剤1〜6及び研磨剤X1〜X5を、研磨装置の定盤に貼り付けた研磨パッドに滴下しながら、CMP研磨を行った。
【0073】
なお、研磨条件は下記の通りである。
研磨装置:定盤寸法は直径600mm(φ)、ロータリータイプ
研磨パッド:独立気泡を持つ発泡ポリウレタン樹脂(IC−1010、ロームアンドハース社製)
研磨圧力:32kPa
定盤/ヘッド回転速度:93/87rpm
研磨剤流量:200ml/min
【0074】
(評価項目及び評価方法)
上述のようにして研磨した基板について、CMPによる銅の研磨速度(以下単に研磨速度という)及び表面粗さを測定した。
研磨速度:基板のCMP前後での膜厚差をシート抵抗変化から換算して求めた。測定装置はナプソン社製抵抗率測定器Model RT−7を用いた。なお、抵抗値としては、ウエハの直径方向77点(エッジから5mm部分除外)の平均値を用いた。
表面粗さ(算術平均粗さRa):研磨後の銅膜表面粗さをAFM(原子間力顕微鏡:SPA−400,エスアイアイナノテクノロジー社製)で測定した。測定は基板中央部から半径方向に50mm離れた箇所において、5μm×5μmの面積範囲で行った。
【0075】
得られた結果を表1及び表2に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
表1及び表2に示す結果より下記のことがわかる。すなわち、実施例1〜6におけるそれぞれの研磨剤は、良好な研磨速度及び表面粗さを示した。
実施例1の研磨剤からシュウ酸を除いた組成である比較例1の研磨剤X1は、実施例1と比較して表面粗さは維持したものの、研磨速度は低下した。
実施例1の研磨剤において硫酸及びリン酸をシュウ酸に置き換えた組成である比較例2の研磨剤X2は、実施例1と比較して、表面粗さは維持したものの、研磨速度は大幅に低下した。
実施例1の研磨剤において
シュウ酸を
硫酸に置き換えた組成である比較例3の研磨剤X3は、実施例1と比較して、表面粗さも研磨速度も低下した。また、比較例1と比較して、研磨速度は向上しているが4μm/minを下回る程度の速度であった。
また、研磨速度に着目すると、比較例1に対して1wt%のシュウ酸を加えた系である実施例1の研磨剤が6.0μm/minもの研磨速度を達成するのに対し、比較例1に対して1wt%の硫酸を追加した比較例3の研磨剤では、研磨速度が3.7μm/minにとどまることから、無機酸と有機酸を組み合わせることが研磨速度向上に有効であることが確認できる。
【0079】
実施例1の研磨剤1に対して、無機酸の量が少ないため中和滴定等量が0.10mol/kgを下回る比較例4の研磨剤X4は、実施例1と比較して研磨速度は大幅に低下した。
一方、無機酸の種類、無機酸と有機酸の量は実施例1と同じであるが、有機酸のpKaが3を上回る比較例5の研磨剤X5は、実施例1と比較して表面粗さは維持したものの、研磨速度は低下した。
【0080】
以上より、無機酸及び有機酸の量、組合せを最適化することによって、表面粗さを低く保ちつつ、銅に対して、通常の研磨剤よりも格段に速い研磨速度を示す研磨剤が得られることがわかる。特に、銅に対する研磨速度が4μm/min、より好適には5μm/minを超えるような研磨剤は、短時間で大量に銅を研磨する用途、例えばTSV形成用途に最適である。