特許第5880950号(P5880950)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5880950
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】水性樹脂組成物及び鋼板表面処理剤
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/44 20060101AFI20160225BHJP
   C08L 75/04 20060101ALI20160225BHJP
   C08L 33/00 20060101ALI20160225BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20160225BHJP
【FI】
   C08F2/44 C
   C08L75/04
   C08L33/00
   C23C26/00 A
【請求項の数】5
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2012-57201(P2012-57201)
(22)【出願日】2012年3月14日
(65)【公開番号】特開2013-189559(P2013-189559A)
(43)【公開日】2013年9月26日
【審査請求日】2015年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124970
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 通洋
(72)【発明者】
【氏名】片上 保之
(72)【発明者】
【氏名】船ヶ山 勝也
(72)【発明者】
【氏名】長尾 憲治
【審査官】 繁田 えい子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−197669(JP,A)
【文献】 特表平10−511417(JP,A)
【文献】 特開昭57−018709(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2
C08L
C23C
B05D
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[I]で示される構造を有するカチオン性ウレタン樹脂(a1)とビニル重合体(a2)とから構成される複合樹脂粒子(A)が、水性媒体(B)に分散したものであることを特徴とする水性樹脂組成物。
〔式[I]中、R1は、脂肪族または脂肪族環式構造を有するアルキレン基、2価フェノール類の残基、又はポリオキシアルキレン基を、R及びRは、互いに独立して脂肪族または脂肪族環式構造を有するアルキル基を、Rは、水素原子又は4級化反応により導入された4級化剤の残基を、Xはアニオン性の対イオンを表す。〕
【請求項2】
前記複合樹脂粒子(A)は、前記カチオン性ウレタン樹脂(a1)粒子中に前記ビニル重合体(a2)の一部または全部が内在したものである請求項1に記載の水性樹脂組成物。
【請求項3】
前記カチオン性ウレタン樹脂(a1)が、下記一般式[II]で表される構造単位を有するものである請求項1に記載の水性樹脂組成物。
(式[II]中、Rはアルキル基、アリール基又はアラルキル基等の1価の有機基を、Rはハロゲン原子、アルコキシ基、アシロキシ基、フェノキシ基、アリールオキシ基、メルカプト基、アミノ基、アミド基、アミノオキシ基、イミノオキシ基又はアルケニルオキシ基である。またxは0〜2の整数である。)
【請求項4】
前記ビニル重合体(a2)が酸基またはケイ素原子含有基を有するものである請求項1に記載の水性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物を含有する鋼板表面処理剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば鋼板表面処理剤をはじめとするコーティング剤や接着剤等の様々な用途に使用可能な水性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
コーティング剤には、各種基材表面へ意匠性等を付与できるとともに、基材表面の保護機能等を付与しうる塗膜を形成できることが求められている。例えば、近年、金属需要の増加に伴って、鋼板をはじめとする金属基材の表面保護用コーティング剤の需要も高まっており、かかるコーティング剤には、金属の錆等を防止する観点から優れた耐水性を備えた塗膜を形成できることが求められている。
【0003】
前記金属基材の表面保護用コーティング剤としては、通常、リン酸塩等の防錆剤を含むものが多く、かかる防錆剤によって、形成される塗膜に優れた防錆性を付与している。
【0004】
しかし、前記リン酸塩等は、例えば前記コーティング剤のバインダー樹脂としてのアニオン性樹脂の存在下において電子的に不安定となり、その結果、凝集物の発生等を引き起こすなど保存安定性の点で十分でない場合があった。
【0005】
そこで、前記コーティング剤としては、バインダー樹脂としてカチオン性樹脂を使用することが検討されており、例えばカチオン的に安定化したポリウレタンが乳化剤として存在する水中で1種類以上のビニルモノマーを遊離基開始剤で乳化重合することによって得られる水性分散物が知られている(例えば特許文献1参照。)。
【0006】
しかし、前記水性分散物を用いて形成された塗膜は、金属基材をはじめとする各種基材に対する密着性の点で未だ十分でなく、耐水性も実用上十分なレベルのものでない場合があった。また、前記水性分散物は、長期間の保存等によって凝集物の発生を引き起こす場合があるため、保存安定性の点でも十分でない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表平10−511417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、保存安定性に優れ、かつ、耐水性と基材密着性とに優れた塗膜を形成可能な水性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、前記課題を解決すべく検討を進めた結果、ウレタン樹脂とビニル重合体という異なる樹脂を複合化し、かつ、前記ウレタン樹脂として、側鎖にカチオン性基を備えた特定のカチオン性ウレタン樹脂を組み合わせ使用して得られた水性樹脂組成物であれば、水性媒体中における優れた保存安定性と、形成する塗膜の優れた密着性と耐水性とを両立できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、下記一般式[I]で示される構造を有するカチオン性ウレタン樹脂(a1)とビニル重合体(a2)とから構成される複合樹脂粒子(A)が、水性媒体(B)に分散したものであることを特徴とする水性樹脂組成物及び鋼板表面処理剤に関するものである。
【0011】
【0012】
〔式[I]中、R1は、脂肪族または脂肪族環式構造を有するアルキレン基、2価フェノール類の残基、又はポリオキシアルキレン基を、R及びRは、互いに独立して脂肪族または脂肪族環式構造を有するアルキル基を、Rは、水素原子又は4級化反応により導入された4級化剤の残基を、Xはアニオン性の対イオンを表す。〕
【発明の効果】
【0013】
本発明の水性樹脂組成物であれば、水性媒体中における優れた保存安定性と、形成する塗膜の優れた耐水性と基材密着性とを両立できることから、もっぱら鋼板表面処理剤をはじめとするコーティング剤や、接着剤等の幅広い分野に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の水性樹脂組成物は、下記一般式[I]で示される構造を有するカチオン性ウレタン樹脂(a1)とビニル重合体(a2)とから構成される複合樹脂粒子(A)が、水性媒体(B)に分散したものである。
【0015】
はじめに前記複合樹脂粒子(A)について説明する。
本発明で使用する複合樹脂粒子(A)は、カチオン性ウレタン樹脂(a1)と前記ビニル重合体(a2)とを含むものである。前記カチオン性ウレタン樹脂(a1)と前記ビニル重合体(a2)とは、水性媒体(B)中でそれぞれ独立して存在するのではなく、前記カチオン性ウレタン樹脂(a1)が形成する樹脂粒子内部に前記ビニル重合体(a2)の一部または全部が内在し複合樹脂粒子(A)を形成することが好ましい。より具体的には、前記ビニル重合体(a2)が、前記カチオン性ウレタン樹脂(a1)粒子内に、単一または複数の粒子状に分散したものであることが好ましく、シェル層としての前記カチオン性ウレタン樹脂(a1)とコア層としての前記ビニル重合体(a2)とから構成されるコア・シェル型の複合樹脂粒子を形成することが好ましい。なお、前記複合樹脂粒子(A)としては、前記ビニル重合体(a2)が前記カチオン性ウレタン樹脂(a1)によってほぼ完全に覆われていることが好ましいが、必須ではなく、本発明の効果を損なわない範囲で、前記ビニル重合体(a2)の一部が前記複合樹脂粒子(A)の最外部に存在してもよい。
【0016】
一方、前記カチオン性ウレタン樹脂(a1)と前記ビニル重合体(a2)とが複合樹脂粒子(A)を形成せず、それぞれ別々に独立して水性媒体(B)中に分散した水性樹脂組成物では、優れた耐水性や基材密着性を付与できない場合がある。
【0017】
また、前記カチオン性ウレタン樹脂(a1)と前記ビニル重合体(a2)とは、耐水性や基材密着性に優れた塗膜を形成する観点から、化学的に結合していないものであることが好ましい。
【0018】
ここで、前記「化学的に結合していない」とは、複合樹脂粒子(A)の内部、具体的にはシェル層を構成するカチオン性ウレタン樹脂(a1)とコア層を形成する前記ビニル重合体(a2)と間で共有結合を形成していない、または、本発明の水性樹脂組成物の効果を阻害しない程度の微少の共有結合を形成した状態を指す。かかる複合樹脂粒子(A)内部の架橋密度は、本発明の水性樹脂組成物の良好な保存安定性を損なうことなく、造膜性を向上させ、耐水性や基材密着性等に優れた塗膜を形成するうえで、できるだけ低いことが好ましく、前記化学的な結合を形成していないことがより好ましい。
【0019】
前記複合樹脂粒子(A)内部の架橋の程度は、前記複合樹脂粒子(A)の有機溶剤への溶解しやすさを調べることによって評価することができる。具体的には、後述する実施例でも述べるが、複合樹脂粒子(A)の水分散液とテトラヒドロフランとの混合液の光透過率(透明性)に基づいて評価することができる。前記複合樹脂粒子(A)の濃度が4質量%である前記混合液の光透過率(波長640nm)が70%以上である場合、前記複合樹脂粒子(A)内部で全く架橋構造を形成していない、または、架橋構造を形成していても、その程度は非常に小さく、実質的に架橋構造を形成していないものであるといえる。
【0020】
なお、前記光透過率は、複合樹脂粒子(A)の内部で全く架橋構造が形成されていない場合であっても、100%とならない場合がある。これは、分子鎖間の絡みに起因したものであると考えられる。したがって、前記光透過率が100%未満であっても、前記複合粒子内部で架橋構造が形成されていない場合はある。
【0021】
前記複合樹脂粒子(A)は、優れた保存安定性を損なうことなく、造膜性に優れ、耐水性や基材密着性に優れた塗膜を形成可能な水性樹脂組成物を得る上で、5nm〜100nmの範囲の平均粒子径であることが好ましい。ここで言う平均粒子径とは、後述する実施例でも述べるが、動的光散乱法により測定した体積基準での平均粒子径を指す。
【0022】
また、前記複合樹脂粒子(A)としては、前記カチオン性ウレタン樹脂(a1)と前記ビニル重合体(a2)との質量割合[(a1)/(a2)]が10/90〜70/30であるものを使用することが好ましく、20/80〜55/45あるものを使用することが、良好な保存安定性を損なうことなく、造膜性に優れ、耐水性や基材密着性に優れた塗膜を形成可能な水性樹脂組成物を得るうえで特に好ましい。
【0023】
また、前記複合樹脂粒子(A)は、水性媒体(B)中に分散するために必要な親水性基を有する。前記親水性基は、前記カチオン性ウレタン樹脂(a1)によって供給されることが好ましい。
【0024】
前記親水性基としてのカチオン性基は、例えば3級アミノ基等を使用することができる。前記3級アミノ基は、その一部又は全てが酢酸やプロピオン酸等で中和されたものであっても良い。
【0025】
前記カチオン性基は、複合樹脂粒子(A)全体に対して50mmol/kg〜1,000mmol/kgの範囲で存在することが、水性媒体(B)中における複合樹脂粒子(A)の良好な水分散安定性を付与するうえで好ましい。
【0026】
次に、前記複合樹脂粒子(A)を形成するカチオン性ウレタン樹脂(a1)について説明する。
【0027】
前記複合樹脂粒子(A)を構成するカチオン性ウレタン樹脂(a1)は、下記一般式[I]で示される構造を有するものである。
【0028】
【化1】
【0029】
〔式中、R1は、脂肪族または脂肪族環式構造を有するアルキレン基、2価フェノール類の残基、又はポリオキシアルキレン基を、R及びRは、互いに独立して脂肪族または脂肪族環式構造を有するアルキル基を、Rは、水素原子又は4級化反応により導入された4級化剤の残基を、Xはアニオン性の対イオンを表す。〕
【0030】
上記一般式[I]で示される構造は、前記カチオン性ウレタン樹脂(a1)に水分散性を付与し、得られる塗膜の耐水性を向上させるうえで必須の構造である。
【0031】
ここで、前記カチオン性ウレタン樹脂(a1)の代わりに、前記一般式[I]で示される構造を有さないカチオン性ウレタン樹脂を使用し、その他は本願発明と同様の組成で得られた水性樹脂組成物では、優れた保存安定性と、塗膜の優れた耐水性とを両立できない場合がある。
【0032】
前記一般式[I]で示される構造が有するカチオン性アミノ基は、前記カチオン性ウレタン樹脂(a1)全量に対して、0.005〜1.5当量/kgの範囲で含まれることが好ましい。
【0033】
また、前記カチオン性ウレタン樹脂(a1)は、加水分解性シリル基及びシラノール基からなる群より選ばれる1種以上を有していてもよい。
【0034】
加水分解性シリル基は、加水分解性基が珪素原子に直接結合した官能基であり、例えば、下記の一般式で表される官能基が挙げられる。加水分解性シリル基は、加水分解されることで後述するシラノール基となる。
【0035】
【化2】
【0036】
(式[II]中、Rはアルキル基、アリール基又はアラルキル基等の1価の有機基を、Rはハロゲン原子、アルコキシ基、アシロキシ基、フェノキシ基、アリールオキシ基、メルカプト基、アミノ基、アミド基、アミノオキシ基、イミノオキシ基又はアルケニルオキシ基である。またxは0〜2の整数である。)
【0037】
前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、ヘキシル基、イソヘシル基等が挙げられる。
【0038】
前記アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、2−メチルフェニル基等が挙げられ、前記アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、ジフェニルメチル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。
【0039】
前記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0040】
前記アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
【0041】
前記アシロキシ基としては、例えば、アセトキシ、プロパノイルオキシ、ブタノイルオキシ、フェニルアセトキシ、アセトアセトキシ等が挙げられ、前記アリールオキシ基としては、例えば、フェニルオキシ、ナフチルオキシ等が挙げられ、前記アルケニルオキシ基としては、例えば、アリルオキシ基、1−プロペニルオキシ基、イソプロペニルオキシ基等が挙げられる。
【0042】
前記R6としては、複合樹脂粒子(A)内部の架橋の程度を低く抑制することと、塗膜形成時に架橋を進行させる観点から、アルコキシ基であることが好ましく、特にエトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基であることが好ましい。
【0043】
また、前記シラノール基は、水酸基が直接珪素原子に結合した官能基であって、主に前記した加水分解性シリル基が加水分解して生じる官能基である。
【0044】
前記加水分解性シリル基またはシラノール基としては、トリイソプロポキシシリル基、メチルジエトキシシリル基、メチルジイソプロポキシシリル基等の、比較的嵩高い官能基であることが好ましい。
【0045】
このような官能基を有する複合樹脂粒子(A)を含む水性樹脂組成物は、前記加水分解性シリル基またはシラノール基の官能基間で架橋反応が進行するため、より一層優れた耐水性等を有する塗膜を形成することが可能である。また、前記加水分解性シリル基またはシラノール基は、塗膜の金属基材に対する密着性を向上させ、かつ塗膜の耐食性を一層向上させることができる。
【0046】
前記加水分解性シリル基及びシラノール基は、前記カチオン性ウレタン樹脂(a1)全体に対して10mmol/kg〜400mmol/kg存在することが、造膜性に優れ、かつ耐水性に優れた塗膜を形成可能な水性樹脂組成物を得るうえで好ましい。
【0047】
また、前記カチオン性ウレタン樹脂(a1)は、5,000〜500,000の範囲の重量平均分子量を有するものを使用することが好ましく、20,000〜100,000のものを使用することが、造膜性に優れ、耐水性に優れた塗膜を形成可能な水性樹脂組成物を得るうえで好ましい。
【0048】
次に、前記複合樹脂粒子(A)を構成するビニル重合体(a2)について説明する。
前記複合樹脂粒子(A)を構成するビニル重合体(a2)は、前記カチオン性ウレタン樹脂(a1)と組み合わせ使用することが、本発明の効果を奏するうえで必須である。ここで、前記ビニル重合体(a2)のみを使用した樹脂粒子等を含有する水性樹脂組成物では、金属等への基材密着性が不十分な場合がある。また、カチオン性ウレタン樹脂(a1)のみを使用した樹脂粒子等を含有する水性樹脂組成物では、耐熱変色性が不十分な場合がある。
【0049】
前記ビニル重合体(a2)としては、酸基や、ケイ素原子含有基等を有するものを使用することが、基材密着性や耐食性や耐アルカリ性等の優れた塗膜を形成するうえで好ましい。
【0050】
前記酸基としては、カルボキシル基やスルホン酸基、それらが塩基性化合物等によって中和されたカルボキシレート基やスルホネート基を使用することができる。
【0051】
また、前記ケイ素原子含有基としては、例えば、前記カチオン性ウレタン樹脂(a1)が有していてもよい官能基として例示した前記一般式(II)で表される官能基と同様のものが挙げられる。
【0052】
また、前記ビニル重合体(a2)は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体であることが、より一層優れた耐水性を有する塗膜を形成できるため好ましい。
【0053】
前記ビニル重合体(a2)の重量平均分子量は、塗膜の耐水性を向上する観点から、100,000〜2000,000の範囲であることが好ましい。
【0054】
次に、前記複合樹脂粒子(A)の製造方法について説明する。
前記複合樹脂粒子(A)は、例えば、カチオン性ウレタン樹脂(a1)の水分散体を製造する工程(W)、及び前記水分散体中でビニル単量体を重合しビニル重合体(a2)を製造する工程(X)により製造することができる。
【0055】
はじめに、前記工程(W)について説明する。
前記工程(W)は、カチオン性ウレタン樹脂(a1)を製造する工程と、前記で得たカチオン性ウレタン樹脂(a1)を水性媒体(B)中に分散し水分散体を得る工程とを含む。
【0056】
前記カチオン性ウレタン樹脂(a1)は、例えば、無溶剤下または有機溶剤の存在下または反応性希釈剤の存在下、下記一般式[III]で示される1分子中にエポキシ基を2個有する化合物(a2−1)と2級アミン(a2−2)とを反応させて得られる3級アミノ基含有ポリオール(a2−3)を含むポリオール(a2−4)と、後述するポリイソシアネート(a2−5)とを反応させる方法によって製造することができる。
【0057】
【化3】
【0058】
〔式[III]中、Rは、脂肪族または脂肪族環式構造を有するアルキレン基、2価フェノール類の残基、又はポリオキシアルキレン基を表す。〕
【0059】
前記3級アミノ基含有ポリオール(a2−3)は、得られるウレタン樹脂に水分散性を付与するための3級アミノ基の中和塩や4級アミノ基なるカチオン性基を、ウレタン樹脂骨格の側鎖に導入するために用いる化合物である。また、前記3級アミノ基含有ポリオール(a2−3)は、その分子内に含有する3級アミノ基を、酸による中和、あるいは4級化剤による4級化によってカチオン性基を発生させるための前駆体である。
【0060】
前記3級アミノ基含有ポリオール(a2−3)は、例えば、1分子中にエポキシ基を2個有する化合物(a2−1)と2級アミン(a2−2)とを、エポキシ基1当量に対してNH基1当量となるように配合し、無触媒で、常温下又は加熱下で開環付加反応させることにより容易に得られる。
【0061】
前記一般式[III]で示される1分子中にエポキシ基を2個有する化合物(a2−1)としては、下記の化合物を使用することができる。
【0062】
前記Rが、脂肪族または脂肪族環式構造を有するアルキレン基であるものとしては、例えばエタンジオール−1,2−ジグリシジルエーテル、プロパンジオール−1,2−ジグリシジルエーテル、プロパンジオール−1,3−ジグリシジルエーテル、ブタンジオール−1,4−ジグリシジルエーテル、ペンタンジオール−1,5−ジグリシジルエーテル、3−メチル−ペンタンジオール−1,5−ジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコール−ジグリシジルエーテル、ヘキサンジオール−1,6−ジグリシジルエーテル、ポリブタジエン−ジグリシジルエーテル、シクロヘキサン−1,4−ジグリシジルエーテル、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)−プロパン(水素添加ビスフェノールA)のジグリシジルエーテル、水素添加ジヒドロキシジフェニルメタンの異性体混合物の(水素添加ビスフェノールF)のジグリシジルエーテル等を使用することができる。
【0063】
また、Rが2価フェノール類の残基であるものとしては、例えばレゾルシノール−ジグリシジルエーテル、ハイドロキノン−ジグリシジルエーテル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン(ビスフェノールA)のジグリシジルエーテル、ジヒドロキシジフェニルメタンの異性体混合物(ビスフェノールF)のジグリシジルエーテル、4,4−ジヒドロキシ−3−3’−ジメチルジフェニルプロパンのジグリシジルエーテル、4,4−ジヒドロキシジフェニルシクロヘキサンのジグリシジルエーテル、4,4−ジヒドロキシジフェニルのジグリシジルエーテル、4,4−ジヒドロキシジベンゾフェノンのジグリシジルエーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−エタンのジグリシジルエーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタンのジグリシジルエーテル、ビス(4−ヒドロキシ−3−第3ブチルフェニル)−2,2−プロパンのジグリシジルエーテル、ビス(2−ヒドロキシナフチル)メタンのジグリシジルエーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン(ビスフェノールS)のジグリシジルエーテル等を使用することができる。
【0064】
また、Rがポリオキシアルキレン基であるものとしては、例えばジエチレングリコール−ジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコール−ジグリシジルエーテル、更にオキシアルキレンの繰り返し単位数が3〜60のポリオキシアルキレングリコール−ジグリシジルエーテル、例えば、ポリオキシエチレングリコール−ジグリシジルエーテル及びポリオキシプロピレングリコール−ジグリシジルエーテル、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体のジグリシジルエーテル、ポリオキシテトラエチレングリコール−ジグリシジルエーテル等を使用することができる。
【0065】
これらの中でも、カチオン性ウレタン樹脂(a1)の水分散性をより向上させることができ、耐アルカリ性や耐熱変色性も向上できることから、上記一般式[III]のRが、ポリオキシアルキレン基であるポリオキシアルキレングリコールのジグリシジルエーテル、特に、ポリエチレングリコール−ジグリシジルエーテル、及び/又はポリプロピレングリコール−ジグリシジルエーテル、及び/又はエチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体のジグリシジルエーテルが好適である。
【0066】
前記一般式[III]のRがポリオキシアルキレン基であるポリオキシアルキレングリコールのジグリシジルエーテルのエポキシ当量は、前記カチオン性ウレタン樹脂水分散体の種々の機械的特性や熱特性等の物性への影響を最小限に抑制し、カチオン性ウレタン樹脂(a1)水分散体中のカチオン濃度の設計を広範囲に行える点で、好ましくは1000g/当量以下、より好ましくは500g/当量以下、特に好ましくは300g/当量以下である。
【0067】
また、前記2級アミン(a2−2)としては、公知の化合物を使用できるが、反応制御の容易さの点で、分岐状又は直鎖状の脂肪族2級アミンが好ましい。
【0068】
かかる2級アミンとして使用することができるものとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジ−tert−ブチルアミン、ジ−sec−ブチルアミン、ジ−n−ペンチルアミン、ジ−n−ペプチルアミン、ジ−n−オクチルアミン、ジイソオクチルアミン、ジノニルアミン、ジイソノニルアミン、ジ−n−デシルアミン、ジ−n−ウンデシルアミン、ジ−n−ドデシルアミン、ジ−n−ペンタデシルアミン、ジ−n−オクタデシルアミン、ジ−n−ノナデシルアミン、ジ−n−エイコシルアミンなどが挙げられる。
【0069】
これらの中で、3級アミノ基含有ポリオール(a2−3)を製造する際に揮発し難いこと、あるいは、含有する3級アミノ基の一部又は全てを酸で中和、又は4級化剤で4級化する際に立体障害を軽減できること、などの理由から、炭素数2〜18の範囲の脂肪族2級アミンが好ましく、炭素数3〜8の範囲の脂肪族2級アミンがより好ましい。
【0070】
3級アミノ基含有ポリオール(a2−3)が有する3級アミノ基の一部又は全てを、酸で中和、又は4級化剤で4級化することにより、3級アミノ基含有ポリオール(a2−3)とポリイソシアネート(a2−4)と反応せしめて得られるカチオン性ウレタン樹脂(a1)に水分散性を付与することができる。
【0071】
上記の3級アミノ基の一部又は全てを中和する際に使用することができる酸としては、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グルタル酸、酪酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、マロン酸、アジピン酸などの有機酸類や、スルホン酸、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等の有機スルホン酸類、及び、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、硼酸、亜リン酸、フッ酸等の無機酸等を使用することができる。
【0072】
また、前記3級アミノ基の一部又は全てを4級化する際に使用することができる4級化剤としては、例えば、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸等のジアルキル硫酸類や、メチルクロライド、エチルクロライド、ベンジルクロライド、メチルブロマイド、エチルブロマイド、ベンジルブロマイド、メチルヨーダイド、エチルヨーダイド、ベンジルヨーダイドなどのハロゲン化アルキル類、メタンスルホン酸メチル、パラトルエンスルホン酸メチル等のアルキル又はアリールスルホン酸メチル類、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、エピクロルヒドリン、アリルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル等のエポキシ類などを使用することができる。
【0073】
本発明において、3級アミノ基の中和又は4級化に使用する酸や4級化剤の量は、カチオン性ウレタン樹脂(a1)の水分散体の優れた保存安定性を発現させるために、3級アミノ基1当量に対して、0.1〜3当量の範囲であることがこのましく、0.3〜2.0当量の範囲であることがより好ましい。
【0074】
前記1分子中にエポキシ基を2個有する化合物(a2−1)と前記2級アミン(a2−2)との反応は、前記化合物(a2−1)が有するエポキシ基と前記2級アミン(a2−2)が有するNH基との反応比率[NH基/エポキシ基]当量比が、0.5/1〜1.1/1の範囲で行うことが好ましく、0.9/1〜1/1の範囲で行うことがより好ましい。
【0075】
前記化合物(a2−1)と前記2級アミン(a2−2)との反応は、無溶剤条件下にて行うこともできるが、反応制御を容易にする目的で、あるいは粘度低下による撹拌負荷の低減や均一に反応させる目的で、有機溶剤を使用し行うこともできる。
【0076】
かかる有機溶剤としては、反応を阻害しない有機溶剤であればよく、例えばアセトンやメチルエチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン等のエーテル類、酢酸エチル等の酢酸エステル類、n−ヘキサンやトルエン等の炭化水素類、ジクロロメタン等の塩素化炭化水素類、ジメチルホルムアミド等のアミド類などを使用することができる。
【0077】
前記した有機溶剤のうち、低沸点を有する有機溶剤を使用する場合は、揮発による飛散を防止するために、密閉系により加圧反応をすることが好ましい。
【0078】
1分子中にエポキシ基を2個有する化合物(a2−1)と2級アミン(a2−2)とは、反応容器中に一括供給し反応させてもよく、また、1分子中にエポキシ基を2個有する化合物(a2−1)と2級アミン(a2−2)の何れか一方を反応容器に仕込み、他方を滴下することにより反応させてもよい。
【0079】
1分子中にエポキシ基を2個有する化合物(a2−1)と2級アミン(a2−2)との反応は、反応性が高いため通常は触媒を必要としない。しかし、2級アミン(a2−2)の窒素原子が有する脂肪族などの置換基が大きく、前記化合物(a2−1)との反応が、立体障害により遅くなる場合には、フェノール、酢酸、水、アルコール類などに代表されるプロトン供与性物質を触媒として使用してもよい。
【0080】
また、反応温度は、好ましくは室温〜160℃の範囲であり、より好ましくは60〜120℃の範囲である。また、反応時間は、特に限定しないが、通常30分〜14時間の範囲である。また、反応終点は、赤外分光法(IR法)にて、エポキシ基に起因する842cm−1付近の吸収ピークの消失によって確認できる。
【0081】
前記3級アミノ基含有ポリオール(a2−3)は、優れた保存安定性を付与する観点から、前記カチオン性ウレタン樹脂(a1)の製造に使用する前記ポリオール(a2−4)の全量に対して0.5質量%〜10質量%の範囲で使用することが好ましい。
【0082】
前記カチオン性ウレタン樹脂(a1)を製造する際に使用可能なポリオール(a2−4)としては、前記3級アミノ基含有ポリオール(a2−3)の他に、目的、用途に応じて一般にウレタン樹脂の合成に利用されるその他のポリオールを用いることができる。
【0083】
前記その他のポリオールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコ−ル、1,3−プロパンジオ−ル、1,4−ブタンジオ−ル、1,5−ペンタンジオ−ル、1,6−ヘキサンジオ−ル、ネオペンチルグリコ−ル、1,8−オクタンジオ−ル、ジエチレングリコ−ル、トリエチレングリコ−ル、テトラエチレングリコ−ル、ポリエチレングリコ−ル(分子量300〜6,000)、ジプロピレングリコ−ル、トリプロピレングリコ−ル、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、ビスフェノ−ルA、ハイドロキノンおよびそれらのアルキレンオキシド付加体等の比較的低分子量のポリオールや、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリアセタールポリオール、ポリアクリレートポリオール、ポリエステルアミドポリオール、ポリチオエーテルポリオール、ポリブタジエン等のポリオレフィンポリオール等の高分子量ポリオールを使用しても良い。
【0084】
前記ポリエステルポリオールとしては、例えば低分子量のポリオールとポリカルボン酸とをエステル化反応して得られるものや、ε−カプロラクトン等の環状エステル化合物を開環重合反応して得られるポリエステルや、これらの共重合ポリエステル等を使用することができる。
【0085】
前記ポリエーテルポリオールとしては、例えばエチレングリコールやジエチレングリコール等の活性水素原子を2個以上有する化合物の1種または2種以上を開始剤として、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加重合させたものを使用することができる。
【0086】
また、前記ポリカーボネートポリオールとしては、1,4−ブタンジオールや1,5−ペンタンジオール等のグリコールと、ジメチルカーボネートやホスゲン等とを反応して得られたものを使用することができる。
【0087】
また、前記カチオン性ウレタン樹脂(a1)を製造する際に使用するポリイソシアネート(a2−5)としては、例えばフェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートや、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の脂肪族または脂肪族環式構造含有ジイソシアネート等を、単独で使用または2種以上を併用して使用することができる。なかでも、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネートを使用することが、耐食性に優れた塗膜を形成するうえでより好ましい。
【0088】
また、前記カチオン性ウレタン樹脂(a1)として前記加水分解性シリル基やシラノール基を有するものを製造する場合には、前記ポリオール(a2−4)やポリイソシアネート(a2−5)とともに、下記一般式[IV]で示される化合物を反応させる。
【0089】
【化4】
【0090】
(式[IV]中、Rは水素原子、アルキル基、アリール基及びアラルキル基からなる群より選ばれる一価の有機残基を、Rはハロゲン原子、アルコキシル基、アシロキシ基、フェノキシ基、イミノオキシ基又はアルケニルオキシ基からなる群より選ばれる官能基を、nは0〜2の整数を、Yはアミノ基を少なくとも1個以上含有する有機残基を表す。)
【0091】
前記一般式[IV]で示される化合物としては、例えば、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−ヒドロキシルエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(2−ヒドロキシルエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシアミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(2−ヒドロキシルエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−ヒドロキシルエチル)アミノプロピルメチルジエトキシシランまたはγ−(N,N−ジ−2−ヒドロキシルエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシランまたはγ−(N−フェニル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトフェニルトリメトキシシラン等を使用することができ、γ−アミノプロピルトリアルコキシシランを使用することが、塗膜の耐食性や耐熱変色性を向上するうえで好ましい。
【0092】
また、前記一般式[IV]で示される化合物は、前記ポリオール(a2−4)とポリイソシアネート(a2−5)との合計量に対して、0.1質量%〜10質量%の範囲であることが好ましい。
【0093】
前記カチオン性ウレタン樹脂(a1)は、無溶剤下または有機溶剤の存在下または反応性希釈剤の存在下、前記3級アミノ基含有ポリオール(a2−4)を含むポリオール(a2−4)とポリイソシアネート(a2−5)と、必要に応じて前記一般式[III]で示される化合物とを、反応容器中に一括又は分割して仕込み、反応させることによりウレタン樹脂を製造し、得られたウレタン樹脂中の3級アミノ基の一部又は全てを酸で中和、及び/又は4級化剤で4級化することによって製造することができる。
【0094】
前記反応は、前記3級アミノ基含有ポリオール(a2−4)を含むポリオール(a2−4)の水酸基と、前記ポリイソシアネート(a2−5)のイソシアネート基との当量比〔イソシアネート基/水酸基〕が、0.9/1〜1.1/1の範囲で行うことが好ましい。
【0095】
また、前記反応は、20℃〜120℃の温度範囲で行うことが好ましく、30℃〜100℃の温度範囲で行うことがより好ましい。
【0096】
前記反応を行う際、溶媒に使用可能な前記有機溶剤としては、例えばアセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル等の酢酸エステル類;アセトニトリル等のニトリル類;n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素類;四塩化炭素、ジクロロメタン、クロロホルム、トリクロロエタン等の塩素化炭化水素類;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類等を使用することができる。前記有機溶剤は、必要により、反応の途中又は反応終了後に、例えば減圧加熱などの方法により除去することが好ましい。
【0097】
また、前記反応を行う際、溶媒に使用可能な反応性希釈剤としては、前記ビニル重合体(a2)の製造に使用できるビニル単量体を使用することが好ましい。
【0098】
前記カチオン性ウレタン樹脂(a1)を製造する際には、種々の機械的特性や熱特性等の物性を有するウレタン樹脂の設計を行う目的で、ポリアミンを鎖伸長剤として使用してもよい。
【0099】
前記ポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン等のジアミン類;N−ヒドロキシメチルアミノエチルアミン、N−ヒドロキシエチルアミノエチルアミン、N−ヒドロキシプロピルアミノプロピルアミン、N−エチルアミノエチルアミン、N−メチルアミノプロピルアミン等の1個の1級アミノ基と1個の2級アミノ基を含有するジアミン類;ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のポリアミン類;ヒドラジン、N,N’−ジメチルヒドラジン、1,6−ヘキサメチレンビスヒドラジン等のヒドラジン類;コハク酸ジヒドラジッド、アジピン酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等のジヒドラジド類;β−セミカルバジドプロピオン酸ヒドラジド、3−セミカルバジド−プロピル−カルバジン酸エステル、セミカルバジッド−3−セミカルバジドメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン等のセミカルバジド類を使用することができる。
【0100】
前記ポリアミンは、ポリアミンが有するアミノ基と、ウレタン樹脂の有するイソシアネート基との当量比が、1.9以下(当量比)となる範囲で使用することが好ましく、0.5〜1.5(当量比)の範囲で使用することがより好ましい。
【0101】
前記方法で得られたカチオン性ウレタン樹脂(a1)を用い、その水分散体を製造する方法としては、例えば、前記カチオン性ウレタン樹脂(a1)と水性媒体(B)を混合、攪拌することによって製造することができる。前記カチオン性ウレタン樹脂(a1)と水性媒体(B)との混合は、必要に応じてホモジナイザー等の機械を用いて行ってもよい。
【0102】
前記方法で得られたカチオン性ウレタン樹脂(a1)の水分散体は、前記カチオン性ウレタン樹脂(a1)を10質量%〜65質量%含むものであることが好ましく、15質量%〜35質量%含むものであることがより好ましい。
【0103】
次に、前記工程(W)で得られたカチオン性ウレタン樹脂(a1)の水分散体中でビニル単量体を重合しビニル重合体(a2)を製造する工程(X)について説明する。
【0104】
本発明で使用する複合樹脂粒子(A)を構成するビニル重合体(a2)としては、各種ビニル単量体を、重合開始剤の存在下でラジカル重合して得られるものを使用することができる。
【0105】
前記ビニル単量体としては、例えば酸基含有ビニル単量体、ケイ素原子含有基を有するビニル単量体等を使用することができる。
【0106】
なかでも、酸基含有ビニル単量体を使用することが、造膜性に優れ、且つ強靭な塗膜を形成するうえで好ましい。
【0107】
前記酸基含有ビニル単量体としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸を使用することができる。なかでも、メタクリル酸を使用することが、後述するその他のビニル単量体として(メタ)アクリル酸エステルを使用する場合に共重合しやすく、且つ優れた耐水性を発揮するうえで好ましい。
【0108】
また、前記ケイ素原子含有基を有するビニル単量体としては、例えば、3−(メタ)アクリロイルオキシエチル−トリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシエチル−トリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−トリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−トリエトキシシラン等の3−(メタ)アクリロイルオキシアルキル−トリアルコキシシラン;3−(メタ)アクリロイルオキシエチル−メチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシエチル−メチルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−メチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−メチルジエトキシシラン等の3−(メタ)アクリロイルオキシアルキル−アルキルジアルコキシシラン;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニルトリアルコキシシラン;ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルエチルジエトキシシラン等のビニルアルキルジアルコキシシランを使用することができる。なかでも、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−トリアルコキシシランを使用することが、基材密着性と塗膜の強靭性を両立させるうえで好ましい。
【0109】
前記酸基含有ビニル単量体は、ビニル重合体(a2)の製造に使用するビニル単量体の全量に対して、0.1質量%〜10質量%の範囲で使用することが好ましい。
【0110】
前記ビニル重合体(a2)の製造には、前記酸基含有ビニル単量体等のほかに、必要に応じてその他のビニル単量体を併用することができる。
【0111】
前記その他のビニル単量体としては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロヘキシル(メタ)アクリレート等のフッ素含有ビニル単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;(メタ)アクリロニトリル等の不飽和カルボン酸のニトリル類;スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルスチレン等の芳香族環を有するビニル化合物;イソプレン、クロロプレン、ブタジエン、エチレン、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、N−ビニルピロリドン等、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有重合性単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有重合性単量体;N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレートのアクリレート等の3級アミノ基含有重合性単量体;(メタ)アクリルアミド、N−モノアルキル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有重合性単量体;N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−イソプロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のメチロールアミド基及びそのアルコキシ化物含有重合性単量体;2−アジリジニルエチル(メタ)アクリレート等のアジリジニル基含有重合性単量体;(メタ)アクリロイルイソシアナート、(メタ)アクリロイルイソシアナートエチルのフェノール付加物等のイソシアナート基及び/またはブロック化イソシアナート基含有重合性単量体;2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−オキサゾジニルエチル(メタ)アクリレート等のオキサゾリン基含有重合性単量体;ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート等のシクロペンテニル基含有重合性単量体;アクロレイン、ジアセトン(メタ)アクリルアミド等のカルボニル基含有重合性単量体;アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等のアセトアセチル基含有重合性単量体等を挙げることができ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。
【0112】
なかでも、前記その他のビニル単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル単量体を使用することが好ましく、それらをビニル重合体(a2)の製造に使用するビニル単量体全量に対して50質量%〜99質量%の範囲で使用することが、得られる塗膜の耐水性等の性能のバランスに優れるため好ましい。
【0113】
また、前記ビニル重合体(a2)の重合は、前記カチオン性ウレタン樹脂(a1)の水分散体中にビニル単量体及び重合開始剤をそれぞれ別々に、またはそれらの混合物を、一括または分割して供給し、水系媒体中に分散したカチオン性ウレタン樹脂(a1)粒子内で前記ビニル単量体を重合する方法が挙げられる。
【0114】
このとき、前記ビニル単量体は、カチオン性ウレタン樹脂(a1)の水分散体中に、界面活性剤を使用せずに単独で供給することが好ましい。これにより、ビニル単量体は、水性媒体(B)中で安定して存在できず、既に存在するカチオン性ウレタン樹脂(a1)粒子の内部で重合する。その結果、カチオン性ウレタン樹脂(a1)をシェル層に有し、ビニル重合体(a2)をコア層に有する複合樹脂粒子(A)を製造することができる。
【0115】
前記ビニル重合体(a2)を製造する際に使用可能な重合開始剤としては、例えば過硫酸塩類、有機過酸化物類、過酸化水素等のラジカル重合開始剤や、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩等のアゾ開始剤を使用することができる。また、前記ラジカル重合開始剤は、後述する還元剤と併用しレドックス重合開始剤として使用しても良い。
【0116】
前記重合開始剤の代表的なものである過硫酸塩類としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等が挙げられ、有機過酸化物類として、具体的には、例えば、過酸化ベンゾイル、ラウロイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等のパーオキシエステル類、クメンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類等を使用することができる。
【0117】
また、前記還元剤としては、例えば、アスコルビン酸及びその塩、エリソルビン酸及びその塩、酒石酸及びその塩、クエン酸及びその塩、ホルムアルデヒドスルホキシラートの金属塩、チオ硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム等を使用することができる。
【0118】
重合開始剤の使用量は、重合が円滑に進行する量を使用すれば良いが、得られる塗膜の優れた耐水性を維持する観点から、少ない方が好ましく、ビニル重合体(a2)の製造に使用するビニル単量体の全量に対して、0.01質量%〜0.5質量%とすることが好ましい。また、前記重合開始剤を前記還元剤と併用する場合には、それらの合計量の使用量も前記した範囲内であることが好ましい。
【0119】
また、本発明で使用する水性媒体(B)としては、水、水と混和する有機溶剤、及び、これらの混合物が挙げられる。水と混和する有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n−及びイソプロパノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;ポリアルキレングリコールのアルキルエーテル類;N−メチル−2−ピロリドン等のラクタム類、等が挙げられる。本発明では、水のみを用いても良く、また水及び水と混和する有機溶剤との混合物を用いても良く、水と混和する有機溶剤のみを用いても良い。安全性や環境に対する負荷の点から、水のみ、又は、水及び水と混和する有機溶剤との混合物が好ましく、水のみが特に好ましい。
【0120】
本発明では、前記複合樹脂粒子(A)を製造する過程で、溶媒として前記水性媒体(B)を使用した場合には、かかる水性媒体(B)を引き続き使用することができる。
【0121】
前記水性媒体(B)は、製造の際の急激な粘度上昇を抑制し、かつ、水性樹脂組成物の生産性や、その塗工のしやすさや乾燥性等を向上する観点から、本発明の水性樹脂組成物の全量に対して20質量%〜70質量%の不揮発分であることが好ましく、25質量%〜60質量%の範囲であることがより好ましい。
【0122】
前記方法で得られた本発明の水性樹脂組成物には、必要に応じて各種添加物を併用することができる。なかでも、耐溶剤性に優れた架橋塗膜を形成する観点から、硬化触媒を併用することが好ましい。
【0123】
前記硬化触媒としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸カリウム、ナトリウムメチラート、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、オクチル酸錫、オクチル酸鉛、オクチル酸コバルト、オクチル酸亜鉛、オクチル酸カルシウム、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、ジ−n−ブチル錫ジアセテート、ジ−n−ブチル錫ジオクトエート、ジ−n−ブチル錫ジラウレート、ジ−n−ブチル錫マレエート、p−トルエンスルホン酸、トリクロル酢酸、燐酸、モノアルキル燐酸、ジアルキル燐酸、モノアルキル亜燐酸、ジアルキル亜燐酸等を使用することができる。
【0124】
また、本発明の水性樹脂組成物は、必要に応じて乳化剤、分散安定剤やレベリング剤を含んでいても良いが、架橋塗膜の耐水性の低下を抑制する観点から、できるだけ含まないことが好ましく、前記水性樹脂組成物の固形分に対して0.5質量%以下であることが好ましい。
【0125】
このように、本発明の水性樹脂組成物は、耐熱性や耐水性、耐溶剤性等に優れた塗膜を形成できることから、各種基材の表面保護や、各種基材への意匠性付与を目的に使用するコーティング剤に使用することができる。
【0126】
前記基材としては、例えば各種プラスチックやそのフィルム、金属、ガラス、紙、木材等が挙げられる。特に各種プラスチック基材に本発明のコーティング剤を使用した場合、比較的低温の乾燥工程においても優れた耐溶剤性、耐水性を有する塗膜を形成でき、かつ該塗膜のプラスチック基材からの剥離を防止することができる。
【0127】
プラスチック基材としては、一般に、携帯電話、家電製品、自動車内外装材、OA機器等のプラスチック成型品に採用されている素材として、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)、ABS/PC樹脂、ポリスチレン樹脂(PS樹脂)、ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA樹脂)、アクリル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂等が挙げられ、プラスチックフィルム基材としては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、TAC(トリアセチルセルロース)フィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム等を使用することができる。
【0128】
また、本発明のコーティング剤は、金属材料自体の腐食を抑制し得る緻密に造膜した架橋塗膜を形成できるため、金属基材用コーティング剤、即ち、鋼板表面処理剤に好適に使用することができる。
【0129】
金属基材としては、例えば、自動車、家電、建材等の用途に使用される亜鉛めっき鋼板、アルミニウム−亜鉛合金鋼板等のめっき鋼板や、アルミ板、アルミ合金板、電磁鋼板、銅板、ステンレス鋼板等を使用することができる。
【0130】
本発明のコーティング剤は、その架橋塗膜が5μm程度の膜厚であっても、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、トルエン等の有機溶剤に対してきわめて優れた耐溶剤性を発現することが可能である。また、本発明のコーティング剤は、1μm程度の膜厚であっても、耐酸性や耐アルカリ性等を含む耐薬品性に優れた塗膜を形成することができる。
【0131】
本発明のコーティング剤は、基材上に塗工し、乾燥、硬化することによって塗膜を形成することができる。
【0132】
コーティング剤の塗工方法としては、例えばスプレー法、カーテンコーター法、フローコーター法、ロールコーター法、刷毛塗り法、浸漬法等が挙げられる。
【0133】
前記乾燥は、常温下で自然乾燥でも良いが、加熱乾燥させることもできる。加熱乾燥は、通常、40℃〜250℃で、1〜600秒程度の時間で行うことが好ましい。
【0134】
なお、基材がプラスチック基材等のように熱によって変形しやすいものである場合には、塗膜の乾燥温度を概ね80℃以下に調整することが好ましい。ここで、従来のコーティング剤を80℃以下の低温で乾燥して得られた塗膜は、十分な耐溶剤性を有さない場合がある。それに対して、本発明のコーティング剤であれば、80℃以下の低温で、数秒程度の短時間乾燥した場合であっても、塗膜の架橋反応が乾燥後に低温(常温)で進行するため、優れた耐溶剤性、耐水性や耐薬品性を示す架橋塗膜を形成することができる。
【実施例】
【0135】
以下、実施例と比較例とにより、本発明を具体的に説明する。
【0136】
〔合成例1〕3級アミノ基含有ポリオール(E)−Iの合成
温度計、撹拌装置、還流冷却管及び滴下装置を備えた4ツ口フラスコに、ポリプロピレングリコール−ジグリシジルエーテル(エポキシ当量201g/当量)590質量部を仕込んだ後、フラスコ内を窒素置換した。次いで、前記フラスコ内の温度が70℃になるまでオイルバスを用いて加熱した後、滴下装置を使用してジ−n−ブチルアミン380質量部を30分間で滴下し、滴下終了後、90℃で10時間反応させた。反応終了後、赤外分光光度計(FT/IR−460Plus、日本分光株式会社製)を用いて、反応生成物のエポキシ基に起因する842cm−1付近の吸収ピークが消失していることを確認し、3級アミノ基含有ポリオール(E)−I(アミン当量339g/当量、水酸基当量339g/当量。)を調製した。
【0137】
〔合成例2〕3級アミノ基含有ポリオール(E)−IIの合成
ポリプロピレングリコール−ジグリシジルエーテル(エポキシ当量201g/当量)の代わりに、ポリエチレングリコール−ジグリシジルエーテル(エポキシ当量185g/当量。)543質量部を使用する以外は、合成例1と同様の方法で、3級アミノ基含有ポリオール(E)−II(アミン当量315g/当量、水酸基当量315g/当量。)を調製した。
【0138】
〔実施例1〕
温度計、撹拌装置、還流冷却管及び滴下装置を備えた4ツ口フラスコに、「ニッポラン981」〔日本ポリウレタン工業株式会社製、1,6−ヘキサンジオールとジメチルカーボネートとを反応させて得られるポリカーボネートポリオール、水酸基当量501g/当量。〕を120質量部、ネオペンチルグリコ−ルと1,4−ブタンジオールとテレフタル酸とアジピン酸とを反応させて得られるポリエステルポリオール(水酸基当量951g/当量。)を342質量部加え、減圧度0.095MPaにて120℃〜130℃で脱水した。
【0139】
脱水後、70℃に冷却し、酢酸エチル316質量部を加え、50℃まで冷却しながら十分に撹拌混合した。撹拌混合後、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(4,4−H−MDI)236質量部とオクチル酸第一錫0.2質量部とを加え、70℃で2時間反応させた。
【0140】
反応終了後、合成例1で得られた3級アミノ基含有ポリオール(E)−Iを41質量部添加し、4時間反応させた後、55℃に冷却し、酢酸エチル384質量部、N−メチル−2−ピロリドン38質量部を加え、末端イソシアネ−ト基を有するウレタンプレポリマー溶液を調製した。次いで、前記ウレタンプレポリマー溶液にヒドラジン水和物24質量部を加え、鎖伸長反応を1時間行った。
【0141】
次いで、89質量%リン酸水溶液を12質量部添加して、55℃で1時間保持した後、40℃に冷却し、イオン交換水2844質量部を添加することにより、水分散体を調製した。この水分散体を減圧蒸留することにより、不揮発分が25質量%で、pHが4.0である、カチオン性ウレタン樹脂水分散体(I)を調製した。なお、pHは、pHメーター(株式会社堀場製作所製、M−12)を用い、25℃の環境下で測定した値である。以下、同様の方法で、pHを測定した。
【0142】
次いで、前記で得たカチオン性ウレタン樹脂水分散体(I)900質量部にイオン交換水358質量部を加え、窒素ガスを吹き込みながら80℃まで加熱し、撹拌下、メチルメタクリレート146質量部とn−ブチルアクリレート79質量部とを含むビニル単量体混合物と、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ニ塩酸塩水溶液(濃度:2.5質量%)19質量部とを、別々の滴下漏斗から、反応容器内温度を80±2℃に保ちながら120分間かけて滴下し重合した。滴下終了後、前記温度で60分間撹拌した後、水性媒体により不揮発分を調整することによって、前記ビニル単量体混合物が重合して形成したビニル樹脂が、前記カチオン性ウレタン樹脂粒子中に内在したウレタン−ビニル複合樹脂の水性分散液からなる、不揮発分が30質量%で、pHが4.0である水性樹脂組成物(I−1)を得た。
【0143】
〔実施例2〕
メチルメタクリレート146質量部とn−ブチルアクリレート79質量部とを含むビニル単量体混合物の代わりに、メチルメタクリレート180質量部とn−ブチルアクリレート45質量部とを含むビニル単量体混合物を使用すること以外は、実施例1と同様の方法で、前記ビニル単量体混合物が重合して形成したビニル樹脂が、前記カチオン性ウレタン樹脂粒子中に内在したウレタン−ビニル複合樹脂の水性分散液からなる、不揮発分が30質量%で、pHが4.0である水性樹脂組成物(I−2)を得た。
【0144】
〔実施例3〕
メチルメタクリレート146質量部とn−ブチルアクリレート79質量部とを含むビニル単量体混合物の代わりに、メチルメタクリレート146質量部とn−ブチルアクリレート77質量部と3−メタアクリロイルオキシプロピル−トリアルコキシシラン2質量部を含むビニル単量体混合物を使用すること以外は、実施例1と同様の方法で、前記ビニル単量体混合物が重合して形成したビニル樹脂が、前記カチオン性ウレタン樹脂粒子中に内在したウレタン−ビニル複合樹脂の水性分散液からなる、不揮発分が30質量%で、pHが4.0である水性樹脂組成物(I−3)を得た。
【0145】
〔実施例4〕
カチオン性ウレタン樹脂水分散体(I)900質量部の代わりに、後述するカチオン性ウレタン樹脂水分散体(II)900質量部を使用すること以外は、実施例1と同様の方法で、前記ビニル単量体混合物が重合して形成したビニル樹脂が、前記カチオン性ウレタン樹脂粒子中に内在したウレタン−ビニル複合樹脂の水性分散液からなる、不揮発分が30質量%で、pHが4.0である水性樹脂組成物(I−4)を得た。
【0146】
前記カチオン性ウレタン樹脂水分散体(II)は、以下の方法によって製造することができた。
【0147】
温度計、撹拌装置、還流冷却管及び滴下装置を備えた4ツ口フラスコに、「ニッポラン981」〔日本ポリウレタン工業株式会社製、1,6−ヘキサンジオールとジメチルカーボネートとを反応させて得られるポリカーボネートポリオール、水酸基当量501g/当量。〕を120質量部、ネオペンチルグリコ−ルと1,4−ブタンジオールとテレフタル酸とアジピン酸とを反応させて得られるポリエステルポリオール(水酸基当量951g/当量。)を342質量部加え、減圧度0.095MPaにて120℃〜130℃で脱水した。
【0148】
脱水後、70℃に冷却し、酢酸エチル316質量部を加え、50℃まで冷却しながら十分に撹拌混合した。撹拌混合後、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(4,4−H−MDI)236質量部とオクチル酸第一錫0.2質量部とを加え、70℃で2時間反応させた。
【0149】
反応終了後、合成例1で得られた3級アミノ基含有ポリオール(E)−Iを41質量部添加し、4時間反応させた後、55℃に冷却し、「アミノシランA1100」〔日本ユニカー株式会社製、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン〕24質量部を添加して、1時間反応させた後、酢酸エチル384質量部、N−メチル−2−ピロリドン38質量部を加えることによって、末端イソシアネ−ト基を有するウレタンプレポリマー溶液を調製した。次いで、前記ウレタンプレポリマー溶液にヒドラジン水和物24質量部を加え、鎖伸長反応を1時間行った。
【0150】
次いで、89質量%リン酸水溶液を12質量部添加して、55℃で1時間保持した後、40℃に冷却し、イオン交換水2844質量部を添加することにより、水分散体を調製した。この水分散体を減圧蒸留することにより、不揮発分が25質量%で、pHが3.9である、カチオン性ウレタン樹脂水分散体(II)を調製した。
【0151】
〔実施例5〕
カチオン性ウレタン樹脂水分散体(I)900質量部の代わりにカチオン性ウレタン樹脂水分散体(II)900質量部を使用し、かつ、メチルメタクリレート146質量部とn−ブチルアクリレート79質量部とを含むビニル単量体混合物の代わりに、メチルメタクリレート146質量部とn−ブチルアクリレート74質量部とメタクリル酸5質量部を含むビニル単量体混合物を使用すること以外は、実施例1と同様の方法で、前記ビニル単量体混合物が重合して形成したビニル樹脂が、前記カチオン性ウレタン樹脂粒子中に内在したウレタン−ビニル複合樹脂の水性分散液からなる、不揮発分が30質量%で、pHが3.8である水性樹脂組成物(I−5)を得た。
【0152】
〔実施例6〕
カチオン性ウレタン樹脂水分散体(II)の使用量を900質量部から3600質量部に変更すること以外は、実施例5と同様の方法で、前記ビニル単量体混合物が重合して形成したビニル樹脂が、前記カチオン性ウレタン樹脂粒子中に内在したウレタン−ビニル複合樹脂の水性分散液からなる、不揮発分が27質量%で、pHが3.8である水性樹脂組成物(I−6)を得た。
【0153】
〔実施例7〕
メチルメタクリレート146質量部とn−ブチルアクリレート79質量部とを含むビニル単量体混合物の代わりに、メチルメタクリレート45質量部とn−ブチルアクリレート175質量部とメタクリル酸5質量部を含むビニル単量体混合物を使用すること以外は、実施例1と同様の方法で、前記ビニル単量体混合物が重合して形成したビニル樹脂が、前記カチオン性ウレタン樹脂粒子中に内在したウレタン−ビニル複合樹脂の水性分散液からなる、不揮発分が30質量%で、pHが3.7である水性樹脂組成物(I−7)を得た。
【0154】
〔実施例8〕
温度計、撹拌装置、還流冷却管及び滴下装置を備えた4ツ口フラスコに、「ニッポラン981」〔日本ポリウレタン工業株式会社製、1,6−ヘキサンジオールとジメチルカーボネートとを反応させて得られるポリカーボネートポリオール、水酸基当量501g/当量。〕を120質量部、ネオペンチルグリコ−ルと1,4−ブタンジオールとテレフタル酸とアジピン酸とを反応させて得られるポリエステルポリオール(水酸基当量951g/当量。)を342質量部加え、減圧度0.095MPaにて120℃〜130℃で脱水した。
【0155】
脱水後、70℃に冷却し、酢酸エチル316質量部を加え、50℃まで冷却しながら十分に撹拌混合した。撹拌混合後、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(4,4−H−MDI)236質量部とオクチル酸第一錫0.2質量部とを加え、70℃で2時間反応させた。
【0156】
反応終了後、合成例1で得られた3級アミノ基含有ポリオール(E)−IIを38質量部添加し、4時間反応させた後、55℃に冷却し、「アミノシランA1100」〔日本ユニカー株式会社製、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン〕24質量部を添加して、1時間反応させた後、酢酸エチル384質量部、N−メチル−2−ピロリドン38質量部を加えることによって、末端イソシアネ−ト基を有するウレタンプレポリマー溶液を調製した。次いで、前記ウレタンプレポリマー溶液にヒドラジン水和物24質量部を加え、鎖伸長反応を1時間行った。
【0157】
次いで、89質量%リン酸水溶液を12質量部添加して、55℃で1時間保持した後、40℃に冷却し、イオン交換水2844質量部を添加することにより、水分散体を調製した。この水分散体を減圧蒸留することにより、不揮発分が25質量%で、pHが4.0である、カチオン性ウレタン樹脂水分散体(III)を調製した。
【0158】
次いで、前記で得たカチオン性ウレタン樹脂水分散体(III)900質量部にイオン交換水358質量部を加え、窒素ガスを吹き込みながら80℃まで加熱し、撹拌下、メチルメタクリレート146質量部とn−ブチルアクリレート74質量部とメタクリル酸5質量部とを含むビニル単量体混合物と、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩水溶液(濃度:2.5質量%)19質量部とを、別々の滴下漏斗から、反応容器内温度を80±2℃に保ちながら120分間かけて滴下し重合した。滴下終了後、前記温度で60分間撹拌した後、水性媒体により不揮発分を調整することによって、前記ビニル単量体混合物が重合して形成したビニル樹脂が、前記カチオン性ウレタン樹脂粒子中に内在したウレタン−ビニル複合樹脂の水性分散液からなる、不揮発分が30質量%で、pHが3.8である水性樹脂組成物(I−8)を得た。
【0159】
〔実施例9〕
温度計、撹拌装置、還流冷却管及び滴下装置を備えた4ツ口フラスコに、「ニッポラン981」〔日本ポリウレタン工業株式会社製、1,6−ヘキサンジオールとジメチルカーボネートとを反応させて得られるポリカーボネートポリオール、水酸基当量501g/当量。〕を120質量部、ネオペンチルグリコ−ルと1,4−ブタンジオールとテレフタル酸とアジピン酸とを反応させて得られるポリエステルポリオール(水酸基当量951g/当量。)を342質量部加え、減圧度0.095MPaにて120℃〜130℃で脱水した。
【0160】
脱水後、70℃に冷却し、酢酸エチル316質量部を加え、50℃まで冷却しながら十分に撹拌混合した。撹拌混合後、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(4,4−H−MDI)157質量部と、トリレンジイソシアネート52質量部とオクチル酸第一錫0.2質量部とを加え、70℃で2時間反応させた。
【0161】
反応終了後、合成例1で得られた3級アミノ基含有ポリオール(E)−IIを49質量部添加し、4時間反応させた後、55℃に冷却し、「アミノシランA1100」〔日本ユニカー株式会社製、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン〕35質量部を添加して、1時間反応させた後、酢酸エチル384質量部、N−メチル−2−ピロリドン38質量部を加えることによって、末端イソシアネ−ト基を有するウレタンプレポリマー溶液を調製した。次いで、前記ウレタンプレポリマー溶液にヒドラジン水和物20質量部を加え、鎖伸長反応を1時間行った。
【0162】
次いで、89質量%リン酸水溶液を18質量部添加して、55℃で1時間保持した後、40℃に冷却し、イオン交換水2844質量部を添加することにより、水分散体を調製した。この水分散体を減圧蒸留することにより、不揮発分が25質量%で、pHが4.0である、カチオン性ウレタン樹脂水分散体(IV)を調製した。
【0163】
次いで、前記で得たカチオン性ウレタン樹脂水分散体(IV)900質量部にイオン交換水358質量部を加え、窒素ガスを吹き込みながら80℃まで加熱し、撹拌下、メチルメタクリレート146質量部とn−ブチルアクリレート74質量部とメタクリル酸5質量部とを含むビニル単量体混合物と、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩水溶液(濃度:2.5質量%)19質量部とを、別々の滴下漏斗から、反応容器内温度を80±2℃に保ちながら120分間かけて滴下し重合した。滴下終了後、前記温度で60分間撹拌した後、水性媒体により不揮発分を調整することによって、前記ビニル単量体混合物が重合して形成したビニル樹脂が、前記カチオン性ウレタン樹脂粒子中に内在したウレタン−ビニル複合樹脂の水性分散液からなる、不揮発分が30質量%で、pHが3.8である水性樹脂組成物(I−9)を得た。
【0164】
〔実施例10〕
カチオン性ウレタン樹脂水分散体(I)900質量部の代わりに、後述するカチオン性ウレタン樹脂水分散体(V)900質量部を使用し、かつ、メチルメタクリレート146質量部とn−ブチルアクリレート79質量部とを含むビニル単量体混合物の代わりに、メチルメタクリレート146質量部とn−ブチルアクリレート74質量部とメタクリル酸5質量部を含むビニル単量体混合物を使用すること以外は、実施例4と同様の方法で、前記ビニル単量体混合物が重合して形成したビニル樹脂が、前記カチオン性ウレタン樹脂粒子中に内在したウレタン−ビニル複合樹脂の水性分散液からなる、不揮発分が30質量%で、pHが3.8である水性樹脂組成物(I−10)を得た。
【0165】
〔比較例1〕
3級アミノ基含有ポリオール(E)−Iの41質量部の代わりに、N−メチルジエタノールアミン14質量部を使用すること以外は、実施例1と同様の方法で、前記ビニル単量体混合物が重合して形成したビニル樹脂が、前記カチオン性ウレタン樹脂粒子中に内在したウレタン−ビニル複合樹脂の水性分散液からなる、不揮発分が30質量%で、pHが3.9である水性樹脂組成物(I’−1)を得た。
【0166】
〔比較例2〕
温度計、撹拌装置、還流冷却管及び滴下装置を備えた4ツ口フラスコに、イオン交換水508質量部とヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド1質量部を加え、窒素ガスを吹き込みながら80℃まで加熱し、撹拌下、メチルメタクリレート146質量部とn−ブチルアクリレート79質量部とを含むビニル単量体混合物と、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩水溶液(濃度:2.5質量%)19質量部とを、別々の滴下漏斗から、反応容器内温度を80±2℃に保ちながら120分間かけて滴下し重合した。滴下終了後、前記温度で60分間撹拌した後、水性媒体により不揮発分を調整することによって、不揮発分が30質量%で、pHが6.8である前記ビニル単量体混合物が重合して形成したビニル樹脂水分散体(III)を得た。次いで、前期で得たビニル樹脂水分散体(III)にカチオン性ウレタン樹脂水分散体(I)900質量部を加えることによって、前記カチオン性ウレタン樹脂水分散体とビニル樹脂水分散体が混在した、不揮発分が27質量%で、pHが5.2である水性樹脂組成物(I’−2)を得た。
【0167】
[保存安定性の評価方法]
140mLのガラス製サンプルビン内に、実施例及び比較例で得た水性樹脂組成物を100mL入れ、密栓したものを、40℃の環境下に3ヶ月間放置した。放置後の水性樹脂組成物の、沈殿及び凝集物の有無を目視で確認した。沈殿と凝集物が見られない場合は「○」、沈殿または凝集物が見られる場合は「×」と評価した。
【0168】
[耐水性(耐温水性)]
A4サイズのガラス板に、高さ1mmの外枠を有するポリプロピレンフィルムを貼付し、該ポリプロピレンフィルム上に、実施例及び比較例で得た水性樹脂組成物を6g/100cm2となるように流し込み、25℃で1日乾燥させることにより、厚さ約150μmからなる塗膜を作製した。ついで、前記ポリプロピレンフィルムから塗膜を剥離し、縦3.0cm、横3.0cmに裁断したものを試験片とした。前記試験片の質量[V]を測定した後、前記試験片を40℃の温水に24時間浸漬し、両辺の寸法、縦[X]cm、横[Y]cmを測定した。浸漬前後の試験片の寸法[X]及び[Y]と、式{([X]×[Y])/(3.0×3.0)−1}×100に基づいて試験片の面積膨潤率を算出した。
【0169】
面積膨潤率5%未満を「◎」、5%以上10%未満を「○」、10%以上30%未満を「△」、30%以上を「×」と評価した。
【0170】
また、浸漬後の試験片を108℃の条件下で1時間乾燥させ、該試験片の質量[Z]を測定した。浸漬前後の試験片の質量[V]及び[Z]と、式(1−質量[Z]/質量[V])×100に基づいて試験片の溶出率を算出した。溶出率が0.5質量%未満を「◎」、溶出率が0.5質量%以上1質量%未満を「○」、1質量%以上5質量%未満を「△」、5質量%以上を「×」と評価した。
【0171】
[金属基材に対する密着性]
フィルムアプリケーターを用いて、アルミニウム板、亜鉛めっき鋼板それぞれに、製造直後の実施例及び比較例で得た水性樹脂組成物を0.4g/100cm2の塗布量になるようにそれぞれ塗布し、100℃で1分間乾燥することにより2種の試験片を作製した。次いで、該試験片上に形成された塗膜に、1mm角の碁盤目100個を刻み、形成された碁盤目上にセロハン粘着テープを貼着した。次いで、該粘着テープを180度方向に剥離し、金属基材上に残った塗膜からなる碁盤目の数をもとに、金属基材に対する密着性を評価した。密着性は、前記碁盤目100個のうち、100個全てが金属基材上に残ったものを「◎」、90個以上100個未満が金属基材上に残ったものを「○」、70個以上90個未満が金属基材上に残ったものを「△」、70個未満が金属基材上に残ったものを「×」と評価した。
【0172】
[耐食性]
フィルムアプリケーターを用いて、亜鉛メッキ鋼板に製造直後の実施例及び比較例で得た水性樹脂組成物を0.4g/100cm2の塗布量になるようにそれぞれ塗布し、100℃で1分間乾燥することにより試験片を作製した。
【0173】
次いで、JIS Z2371に記載されている塩水噴霧試験方法に準じて、雰囲気温度35℃で、5%NaCl水溶液を前記試験片に吹き付け、120時間後の白錆発生率を測定し以下の基準に基づいて評価した。尚、水性樹脂組成物の未塗工部(端面部、裏面部)はテープシールを行った。白錆が全く発生していなかったものを「◎」、白錆の発生した面積が、塩水の噴霧された塗布面積全体の5%未満であったものを「○」、白錆の発生した面積が、塗布面積全体の5%以上20%未満であったものを「△」、白錆の発生した面積が、塗布面積全体の20%以上であったものを「×」と評価した。
【0174】
[耐アルカリ性]
亜鉛めっき鋼板の表面に、製造直後の実施例及び比較例で得た水性樹脂組成物を0.4g/100cm2の塗布量になるように、フィルムアプリケーターを用いてそれぞれ塗布し、100℃で1分間乾燥することにより試験片を作製した。
【0175】
前記試験片の塗膜表面に5質量%水酸化ナトリウム水溶液を0.5mL滴下し15分間放置した。
【0176】
放置後、前記試験片の塗膜表面の外観を目視で観察し、以下の基準によって塗膜の耐アルカリ性を評価した。塗膜表面の外観変化が全くなかったものを「◎」、前記水酸化ナトリウム水溶液と接触した塗膜の面積のうち10%未満の範囲で、塗膜の黒色変化又は溶解がみられたものを「○」、10%以上30%未満の範囲で、塗膜の黒色変化又は溶解がみられたものを「△」、30%以上の範囲で、塗膜の黒色変化又は溶解がみられたものを「×」と評価した。
【0177】
[耐熱変色性]
A4サイズのガラス板に、高さ1mmの外枠を有するポリプロピレンフィルムを貼付し、該ポリプロピレンフィルム上に、実施例及び比較例で得られたカチオン性ウレタン樹脂組成物を6g/100cm2となるように塗布し、25℃で1日乾燥させることにより、厚さ約150μmからなる塗膜を作製した。
【0178】
前記塗膜を108℃で2時間、加熱処理した後、前記ポリプロピレンフィルムから剥離することによって得られた塗膜を、試験用フィルムとした。
【0179】
前記で得た試験用フィルムを、200℃の温度下に30分放置する耐熱変色試験を行い、試験後のフィルムの変色の程度を、コニカミノルタ(株)製の分光測色計(CM−3500d)を用い以下の基準に基づいて評価した。前記試験用フィルムのΔb値が5未満であったものを「◎」、Δb値が5以上10未満であったものを「○」、Δb値が10以上15未満であったものを「△」、Δb値が15以上であったものを「×」と評価した。
【0180】
【表1】
【0181】
【表2】