特許第5881012号(P5881012)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5881012磁性シート、コイル部品および磁性シートの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5881012
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】磁性シート、コイル部品および磁性シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20160225BHJP
   H01F 1/00 20060101ALI20160225BHJP
   H01F 3/02 20060101ALI20160225BHJP
【FI】
   H05K9/00 M
   H01F1/00 C
   H01F3/02
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-96548(P2012-96548)
(22)【出願日】2012年4月20日
(65)【公開番号】特開2013-225566(P2013-225566A)
(43)【公開日】2013年10月31日
【審査請求日】2015年3月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石田 徹
(72)【発明者】
【氏名】山本 義明
(72)【発明者】
【氏名】小湯原 徳和
【審査官】 遠藤 邦喜
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−218689(JP,A)
【文献】 特開2007−184492(JP,A)
【文献】 特開2009−182062(JP,A)
【文献】 特開平03−116094(JP,A)
【文献】 特開平04−326789(JP,A)
【文献】 実開平06−000802(JP,U)
【文献】 特開2010−041906(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
H01F 1/00
H01F 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状のフェライト焼結体と、
前記フェライト焼結体の少なくとも片方の主面に貼付された保護シートとを備えた磁性シートであって、
前記フェライト焼結体は、
互いに平行に形成された複数の分割線からなる第1の分割線群と、
互いに平行に、かつ前記第1の分割線群の分割線と交差する方向に形成された複数の分割線からなる第2の分割線群とを有し、
前記各分割線は、直線状に並んだ複数の帯状の貫通孔によって構成されており、
前記帯状の貫通孔の開口部は、長手方向の少なくとも一端が長手方向に垂直な幅方向に膨らんだ形状を有することを特徴とする磁性シート。
【請求項2】
前記帯状の貫通孔の開口部の、長手方向に垂直な方向の幅は、前記フェライト焼結体の一方の主面側よりも他方の主面側の方が小さく、
前記帯状の貫通孔の開口部の、長手方向の少なくとも一端が長手方向に垂直な幅方向に膨らんだ前記形状は、前記一方の主面側のみに形成されていることを特徴とする請求項1に記載の磁性シート。
【請求項3】
前記フェライト焼結体の一方の主面側では、前記貫通孔の開口部の長手方向に沿った縁は直線状であり、他方の主面側では、前記貫通孔の開口部の長手方向に沿った縁は破断線状であることを特徴とする請求項2に記載の磁性シート。
【請求項4】
前記フェライト焼結体が、前記保護シートが貼付された状態で前記第1の分割線群および前記第2の分割線群に沿って個片化されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の磁性シート。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の磁性シートと、前記磁性シートの主面に対向するように配置されたコイルとを備えたコイル部品。
【請求項6】
板状のフェライト焼結体と、
前記フェライト焼結体の少なくとも片方の主面に貼付された保護シートとを備えた磁性シートの製造方法であって、
前記フェライト焼結体の製造工程は、
フェライトグリーンシートに、互いに平行に形成された複数の分割線からなる第1の分割線群と、互いに平行に、かつ前記第1の分割線群の分割線と交差する方向に形成された複数の分割線からなる第2の分割線群を形成する第1の工程と、
前記第1および第2の分割線群が形成されたフェライトグリーンシートを焼成する第2の工程とを有し、
前記第1の工程において形成される第1および第2の分割線群の各分割線は、直線状に並んだ複数の帯状の貫通孔によって構成されており、
前記帯状の貫通孔は、フェライトグリーンシートの一方の主面側から帯状の刃先を有する刃を押し込むことで形成され、
前記刃として、帯状の刃先の長手方向の少なくとも一端側が、長手方向に垂直な刃厚方向に膨らんだ形状を有する刃を用いることで、長手方向の少なくとも一端が長手方向に垂直な幅方向に膨らんだ形状を有する開口部が形成されることを特徴とする磁性シートの製造方法。
【請求項7】
前記帯状の貫通孔は、フェライトグリーンシートの一方の主面側から帯状の刃先を有する刃を押し込み、他方の主面側では前記刃の押し込みによって破断させることで、前記一方の主面側では、開口部の長手方向に沿った縁は直線状に、他方の主面側では、開口部の長手方向に沿った縁は破断線状に形成されることを特徴とする請求項6に記載の磁性シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト焼結体を用いた磁性シートに関するものであり、例えば、磁気シールド、磁気ヨーク等として用いられる。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器、情報通信機器における電磁波干渉の抑制や磁気回路の一部(磁気ヨーク)を構成する目的で、シート状の磁性材料で構成された磁性シートが用いられている。例えば、RF−ID、非接触充電等の電子機器、情報通信機器における、アンテナ、磁気シールド、磁気ヨークなどには、フェライト焼結体を用いた磁性シートが広く適用されている。磁性シートには、使用される空間や貼付する対象の形状によって、ある程度の可撓性が要求される。この点、フェライト焼結体は、磁気特性やコストに優れるものの、セラミックスであるため可撓性に乏しい。そこで、溝や貫通孔列を設けた板状のフェライト焼結体を、保護シートを貼付した状態で個片化して、可撓性を付与することが行われている。
【0003】
かかる個片化によって可撓性を付与する例として、例えば、特許文献1では、円錐台形状の複数の貫通孔が形成された構成が開示されている。特許文献1によれば、かかる複数の貫通孔を仮想線上に断続的に形成することで、分割や折り曲げによって電子部品の複雑な形状に合わせて配設することができ、不定形な割れや欠けを防止できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−184492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複数の貫通孔を設ける方法は、溝を形成する場合のような複雑な深さ制御を必要とせず、簡易である点で優れる。しかしながら、特許文献1の構成においては、円錐台状の貫通孔を形成するため、フェライト焼結板の拡径する側は開口を挟んだ両側のフェライト間の距離が特に大きくなってしまう。一方、縮径する側においても、開口縁が円形であるため、開口を挟んだ両側のフェライト間の距離が大きくなってしまい、インダクタンスの低下が大きくなってしまう。また、所望の分割を行うためには、多くの円錐台状の貫通孔を形成する必要があるところ、かかる貫通孔はパンチ、ブラスト、レーザ等を用いて形成するため、貫通孔形成工程が煩雑なものとなってしまう。これに対して、刃等を用いて、帯状の貫通孔を設けることで、工程を簡略化するとともに、貫通孔の両側の離間距離を小さくすることが可能である。しかしながら、帯状の貫通孔を採用する場合は、その形状に起因して、製造工程において貫通孔の長手方向に予期せぬクラックが進行してしまうおそれがあった。
【0006】
そこで、上記課題に鑑み、本発明は、板状のフェライト焼結体と、前記フェライト焼結体の少なくとも片方の主面に貼付された保護シートとを備えた磁性シートにおいて、インダクタンス低下の抑制に有利な、帯状の貫通孔で構成された分割線を備えながら、貫通孔からの予期せぬクラックの進行を抑制できる構成を提供することを目的とした。さらに、かかる磁性シートを簡易な方法で提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の磁性シートは、板状のフェライト焼結体と、前記フェライト焼結体の少なくとも片方の主面に貼付された保護シートとを備えた磁性シートであって、前記フェライト焼結体は、互いに平行に形成された複数の分割線からなる第1の分割線群と、互いに平行に、かつ前記第1の分割線群の分割線と交差する方向に形成された複数の分割線からなる第2の分割線群とを有し、前記各分割線は、直線状に並んだ複数の帯状の貫通孔によって構成されており、前記帯状の貫通孔の開口部は、長手方向の少なくとも一端が長手方向に垂直な幅方向に膨らんだ形状を有することを特徴とする。かかる構成によれば、帯状の貫通孔によって分割線を構成する場合において、貫通孔からの予期せぬクラックの進行を抑制することができる。
【0008】
また、前記磁性シートにおいて、前記帯状の貫通孔の開口部の、長手方向に垂直な方向の幅は、前記フェライト焼結体の一方の主面側よりも他方の主面側の方が小さく、前記帯状の貫通孔の開口部の、長手方向の少なくとも一端が長手方向に垂直な幅方向に膨らんだ前記形状は、前記一方の主面側のみに形成されていることが好ましい。長手方向の先端が長手方向に垂直な幅方向に膨らんだ形状は、予期せぬクラックを抑制する一方で、フェライト焼結体を個片化する際には、それに抗する作用も有する。そこで、開口部の幅が大きい主面側ではクラックが進行しやすいため、長手方向の先端が長手方向に垂直な幅方向に膨らんだ形状をかかる主面側に配置するとともに、開口部の幅が小さい主面側には、配置しない構成にすることで、製造工程における予期せぬクラックの抑制と適正な個片化の双方に資する構成を提供することができる。
【0009】
さらに、前記磁性シートにおいて、前記フェライト焼結体の一方の主面側では、前記貫通孔の開口部の長手方向に沿った縁は直線状であり、他方の主面側では、前記貫通孔の開口部の長手方向に沿った縁は破断線状であることが好ましい。かかる構成によれば、磁性シートに可撓性等を付与するための分割線を貫通孔で構成する場合であっても、貫通孔の両側の離間距離が小さく抑えられるため、インダクタンスの低下が抑制される。
【0010】
さらに、前記磁性シートにおいて、前記フェライト焼結体が、前記保護シートが貼付された状態で前記第1の分割線群および前記第2の分割線群に沿って個片化されていることが好ましい。かかる構成によれば、優れた可撓性を有する磁性シートが提供される。
【0011】
本発明のコイル部品は、前記いずれかの磁性シートと、前記磁性シートの主面に対向するように配置されたコイルとを備えたことを特徴とする。
【0012】
本発明の磁性シートの製造方法は、板状のフェライト焼結体と、前記フェライト焼結体の少なくとも片方の主面に貼付された保護シートとを備えた磁性シートの製造方法であって、前記フェライト焼結体の製造工程は、フェライトグリーンシートに、互いに平行に形成された複数の分割線からなる第1の分割線群と、互いに平行に、かつ前記第1の分割線群の分割線と交差する方向に形成された複数の分割線からなる第2の分割線群を形成する第1の工程と、前記第1および第2の分割線群が形成されたフェライトグリーンシートを焼成する第2の工程とを有し、前記第1の工程において形成される第1および第2の分割線群の各分割線は、直線状に並んだ複数の帯状の貫通孔によって構成されており、前記帯状の貫通孔は、フェライトグリーンシートの一方の主面側から帯状の刃先を有する刃を押し込むことで形成され、前記刃として、帯状の刃先の長手方向の少なくとも一端側が、長手方向に垂直な刃厚方向に膨らんだ形状を有する刃を用いることで、長手方向の少なくとも一端が長手方向に垂直な幅方向に膨らんだ形状を有する開口部が形成されることを特徴とする。かかる構成によれば、磁性シートに可撓性等を付与するための分割線を帯状の貫通孔で構成する場合であっても、製造工程において予期せぬクラックが進行することを抑制することができる。
【0013】
また、前記磁性シートの製造方法において、前記帯状の貫通孔は、フェライトグリーンシートの一方の主面側から帯状の刃先を有する刃を押し込み、他方の主面側では前記刃の押し込みによって破断させることで、前記一方の主面側では、開口部の長手方向に沿った縁は直線状に、他方の主面側では、開口部の長手方向に沿った縁は破断線状に形成されることが好ましい。かかる構成によれば、貫通孔の両側の離間距離を小さく抑え、インダクタンスの低下が抑制された磁性シートを提供することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、板状のフェライト焼結体と、前記フェライト焼結体の少なくとも片方の主面に貼付された保護シートとを備えた磁性シートにおいて、インダクタンス低下の抑制に有利な帯状の貫通孔による分割線を備えながら、貫通孔からの予期せぬクラックの進行を抑制できる構成を提供することができる。さらに、かかる磁性シートを簡易な方法で提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る磁性シートの実施形態を示す図である。
図2】フェライト焼結体に形成された貫通孔の形態を示す図である。
図3】フェライト焼結体に形成された貫通孔の形態を示す図である。
図4】フェライト焼結体に形成された分割線群の形態を示す図である。
図5】フェライト焼結体に形成された分割線群の形態を示す図である。
図6】貫通孔を形成するための刃の一例を示す図である。
図7】フェライト焼結体に貫通孔を形成する工程示す図である。
図8】フェライト焼結体に形成された貫通孔の開口部を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る磁性シートの実施形態を、図を用いて具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、各実施形態において説明する構成は、他の実施形態の趣旨を損なわない限りにおいて他の実施形態においても適用することが可能であり、その場合、重複する説明は適宜省略する。
【0017】
(磁性シートの第1の実施形態)
図1(a)は本発明の磁性シートの実施形態を示す分解斜視図、(b)は磁性シートの用いられるフェライト焼結体の平面図である。図1に示す磁性シート1は、板状のフェライト焼結体2と、フェライト焼結体2の両方の主面に貼付された保護シート3、4を備える。図示されていないが保護シート3、4とフェライト焼結体2との間には、これらを一体化するための粘着層が設けられている。図1に示す磁性シートの外形は矩形であるが、磁性シートの外形はこれに限定されるものではないし、切り欠きや開口を備えた形状でもよい。フェライト焼結体2には、互いに平行に形成された複数の分割線からなる第1の分割線群5と、互いに平行に、かつ第1の分割線群5の分割線と交差する方向に形成された複数の分割線からなる第2の分割線群6とを有する。第1の分割線群と第2の分割線群の各分割線は直線状に並んだ複数の帯状の貫通孔7によって構成されている。個片化する前の段階では、各貫通孔7の間は分割線上においてもフェライト焼結体は連続しており、分割線を挟んだ両側のフェライト焼結体部分は一体となっている。第1の分割線群の分割線と第2の分割線群の分割線とは互いに交差するように形成すればよく、その交差角度は必要とされる可撓性の方向性等によって選択すればよい。但し、実用上は、可撓性は直交する二方向に設定するのが使いやすい。そこで図1に示す実施形態では、第1の分割線群の分割線と第2の分割線群の分割線とは互いに直交するように形成されている。以降の実施形態も同様である。
【0018】
保護シート3、4は、フェライト焼結体が割れたり、個片化された場合に、破片が飛散することを防ぐ。また、保護シート3、4によって、フェライト焼結体が個片化された場合等において、磁性シートの形状を維持されるとともに、可撓性も発揮される。かかる機能を発揮するものであれば、保護シートの種類や材質はこれを特に限定するものではない。各種の樹脂シートを用いることができるが、例えばPET(Polyethylene terephthalate)を用いればよい。また、図1に示す実施形態では、保護シートはフェライト焼結体の両方の主面側に貼付されているが、少なくとも片方の主面に貼付されていればよい。また、保護シートは、粘着層で構成することも可能である。フェライト焼結体は、Mn−Zn系、Ni−Zn系等のスピネルフェライト、Z型、Y型等の六方晶フェライト等、各種のフェライト材料から、要求される特性に応じて選択される。フェライト焼結体は薄すぎると製造自体が困難であり、厚すぎると個片化が困難になるため、その厚さは50μm〜1mm程度が実用的な範囲である。
【0019】
第1の分割線群と第2の分割線群の各分割線は直線状に並んだ複数の帯状の貫通孔7によってミシン目状に形成されているため、外力が加わった場合に、かかる分割線に沿って規則的に割れるようになるため、予期せぬ方向への割れを低減することができる。一方、あらかじめフェライト焼結体2を、保護シート3、4が貼付された状態で第1の分割線群5および第2の分割線群6に沿って個片化しておくことで、磁性シートに可撓性を付与することができる。
【0020】
上述の帯状の貫通孔7は例えば焼結前のフェライトグリーンシートに貫通孔7に対応した形状を有する刃を押し込むことによって形成される。かかる貫通孔の形成方法については別途後述する。貫通孔7の形態の例を図2に示す。図2は貫通孔の開口部の形状を示している。帯状の貫通孔7の開口部の、長手方向(x方向)に沿った縁は直線状である。かかる開口部は長手方向の両端が長手方向に垂直な幅方向(y方向)に膨らんだ形状を有し、直線部8と玉止め状の先端部9で構成されている。開口部は長手方向の先端が幅方向に膨らんだ形状を有しているため、開口部の直線部8の延長線上に予期せぬクラックが進行することを抑制することができる。幅方向に膨らんだ先端部9の形状は、図2に示した形状に限定されるものではなく、円形、楕円形、多角形等種々の形態を取ることができるが、クラックの起点になりにくいとう観点からは、円形や楕円形が好ましい。また、幅方向に膨らんだ先端部9の、開口部長手方向に垂直な幅方向の寸法W2は、直線部8の幅W1よりも大きければクラック抑制の効果が得られるが、これが大きすぎるとフェライト焼結体を個片化する際に、分割線以外の方向に割れる割合が増える。そこで、先端部9の、開口部長手方向に垂直な幅方向の寸法は、直線部の幅W1の5倍以下程度が好ましい。
【0021】
長手方向の先端が長手方向に垂直な幅方向(y方向)に膨らんだ形状は、開口部の少なくとも一端に形成されていれば予期せぬクラックの発生割合を低減することができるが、図2に示すように両端に形成することがより好ましい。また、図2に示す開口部の形状は、フェライト焼結体の両方の主面側に形成することもできるが、以下に示すような形態で、一方の主面側に設けることが好ましい。すなわち、帯状の貫通孔の開口部の、長手方向に垂直な方向の幅が、フェライト焼結体の一方の主面側よりも他方の主面側の方が小さくなるように貫通孔を形成する。かかる場合に、長手方向の先端が長手方向に垂直な幅方向(y方向)に膨らんだ図2に示す形状を、かかる一方の主面側のみに形成する。長手方向の先端が長手方向に垂直な幅方向に膨らんだ開口部形状は、予期せぬクラックを抑制する一方で、フェライト焼結体を個片化する際には、それに抗する作用も有する。かかる作用が大きくなると、先端部分を起点として分割線の延設方向以外の方向にクラックが生じる可能性がある。一方、開口部の幅が大きい主面側の方が、製造工程中に貫通孔の長手方向に予期せぬクラックが進行しやすい。そこで、長手方向の先端が長手方向に垂直な幅方向に膨らんだ形状を、かかる主面側に配置する。さらに、開口部の幅が小さい主面側には、長手方向の先端が長手方向に垂直な幅方向に膨らんだ開口部形状を配置しない構成にすることで、フェライト焼結体の適正な個片化にも対応できる。
【0022】
長手方向の先端が長手方向に垂直な幅方向に膨らんだ開口部形状をフェライト焼結体の一方の主面のみに設ける例を図3に示す。図3は貫通孔の開口部の形状を示し、(a)はフェライト焼結体の一方の主面側の開口部7a、(b)は他方の主面側の開口部7bを示している。開口部7aの方が開口部7bよりも長手方向に垂直な方向の幅が大きくなっている。フェライト焼結体の一方の主面側では、貫通孔7の開口部7aの長手方向に沿った縁は直線状であり(図3(a))、他方の主面側では、貫通孔7の開口部7bの長手方向に沿った縁は破断線状である(図3(b))。図3(a)に示す一方の主面側の開口部7aの形状は、焼結前のフェライトグリーンシートへの刃の押し込みによって形成される形状である。一方、図3(b)に示す他方の主面側の開口部7bの形状は、押し込まれた刃の進行方向前方におけるフェライトグリーンシートの破断によって形成される形状である。貫通孔を形成する場合、貫通孔を挟んだ両側のフェライト焼結体が離間し、その分インダクタンスが低下する傾向を示す。特に、上述の特許文献1の構成のように円錐台状の貫通孔を設けてしまうと、その部分でのフェライト焼結体の離間距離が大きくなってしまう。これに対して、帯状の貫通孔は、上記離間距離を小さくすることができる。また、帯状の貫通孔を設ける際にも、刃の形状に倣ったままの形状で貫通させてしまうと、フェライトの離間距離を十分に小さくすることが難しい。これに対して、図3に示すように、他方の主面側の開口部の形状を破断線状とすることで、他方の主面側での、貫通孔を挟んだフェライト焼結体の離間距離を極力小さくすることができる。刃の形状に倣って形成された開口部と異なり、破断によって形成された開口部では、その長手方向に垂直な方向の幅(離間距離)は非常に小さなものとなる。
【0023】
他方の主面側の開口部7bの、長手方向(x方向)に垂直な方向(y方向)の幅は非常に小さいため、フェライト焼結体部分が離間した孔として視認できない場合があるが、貫通孔の先端が他方の主面側に到達していればよいので、開口部7bが破断線状として認識できればよい。
【0024】
一方の主面側において、開口部7aのy方向の幅が大きくなって貫通孔の両側のフェライト焼結体の離間距離が大きくなるとインダクタンスの減少量が増える。また、かかる貫通孔を形成する場合には、他方の主面側の破断も予期せず広がるおそれがある。そのため、開口部7aの、長手方向に垂直な方向の幅はフェライト焼結体2の厚さの30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましい。また、分割線を形成した後に分割線で区画されたフェライト片が脱落することを防ぐため、開口部7aの長手方向の長さLは、少なくとも一方の分割線群においては、分割線のピッチよりも小さくする。一方、開口部7aの長手方向の長さLが小さくなりすぎると、分割線に沿って割れる機能(以下、分割性ともいう)を確保するためには、貫通孔の数をそれだけ増やす必要があり、開口部を形成するための工程・部材が複雑になってしまう。かかる観点からは、開口部7aの長手方向の長さLは分割線のピッチの1/10以上が好ましく、1/4以上がより好ましい。貫通孔7の長手方向の長さLに対する幅Wの比W1/Lは0.005〜0.05にするとよい。
【0025】
第1の分割線群と第2の分割線群とで、分割線のピッチは同じにしてもよいし、これを変えてもよい。また、各分割線群における分割線のピッチは、分割線以外の部分での割れを低減するとともに、より高い可撓性を得る観点からは、焼結体厚さの5〜50倍程度にするとよい。また、分割性の確保の観点からは、各分割線における、分割線全体に対する貫通孔7aの長手方向の長さの合計の割合は30%以上にすることが好ましい。一方、製造工程におけるハンドリング性の維持やインダクタンスの低減の抑制のためには、かかる割合は、70%以下にすることが好ましい。また、フェライト焼結体の面内方向における分割性のばらつきを抑える観点からは、各分割線における貫通孔のピッチは、分割性のピッチよりも小さくするとよい。
【0026】
図4には第1の分割線群5と第2の分割線群6の形成パターンの例を示してある。第1の分割線群における分割線のピッチP1と第2の分割線群の分割線のピッチP2は互いに異なるものにしてもよいが、図4の(a)〜(c)に示す各例では、x方向とy方向で可撓性に差が生じることを抑えるためにP1とP2は同じにしてある。図4に示すように、第1の分割線群5と第2の分割線群6との位置関係は種々のものを用いることができる。図4の(a)は第1の分割線群5の全ての分割線と第2の分割線群6の全ての分割線とが、互いの貫通孔7が形成されていない部分で交差する形態であり、(b)はそれらが互いに貫通孔が形成された部分で交差する形態である。また、(c)は、第1の分割線群5の全ての分割線は第2の分割線群6の分割線の貫通孔が形成されていない部分で交差し、第2の分割線群6の全ての分割線は第1の分割線群5の分割線の貫通孔が形成されている部分で交差する形態である。図4の(c)のように分割線を形成した場合、磁性シートでは、まず第1の分割線群5に沿ってフェライト焼結体を分割し、次に第2の分割線群に沿ってフェライト焼結体を分割するとよい。先に第2の分割性群に沿って分割すると、分割線群2の分割線上には、第1の分割線群の貫通孔と交差していない、直交する第1の分割線群の貫通孔が存在するため、第2の分割線群に沿った分割を阻害するおそれがあるからである。一方、図4の(a)および(b)の形態は、x方向とy方向との間で、貫通孔の配置に異方性がないため、第1の分割線群と第2の分割線群のいずれから分割しても、その後の分割を阻害することがないため、分割線群の配置として好ましい。
【0027】
また、図5は、フェライト焼結体の角の部分における分割線群の配置を示した図である。図5(b)に示すように、フェライト焼結体の端辺8と、それに隣接する第1の分割線群の分割線および第2の分割線群の分割線との間隔を、第1の分割線群の分割線および第2の分割線群の分割線のピッチと同じにして、貫通孔がフェライト焼結体の端辺8にかからないようにしてもよい。一方、図5(a)に示すように、フェライト焼結体の端辺と、それに隣接する第1の分割線群の分割線および第2の分割線群の分割線との間隔を、第1の分割線群の分割線および第2の分割線群の分割線のピッチよりも小さくし、貫通孔がフェライト焼結体の端辺にかかるようにして、フェライト焼結体端辺に、分割の際のクラックの起点となりやすい、フェライト焼結体の端辺に対してオープンな貫通孔を配置してもよい。なお、図5に示す例では分割線はフェライト焼結体の端辺と平行または垂直に配置されているが、磁性シートの外周の辺に対して可撓性を示す方向を変えるために、端辺に対して斜めに配置することも可能である。また、分割線のピッチはフェライト焼結体の部位によって変化させてもよい。
【0028】
次に、板状のフェライト焼結体と、前記フェライト焼結体の少なくとも片方の主面に貼付された保護シートとを備えた、本発明に係る磁性シートの製造方法を、図1図6および図7を参照しながら説明する。フェライト焼結体の製造工程は、フェライトグリーンシートに、互いに平行に形成された複数の分割線からなる第1の分割線群と、互いに平行に、かつ前記第1の分割線群の分割線と交差する方向に形成された複数の分割線からなる第2の分割線群を形成する第1の工程と、前記第1および第2の分割線群が形成されたフェライトグリーンシートを焼成する第2の工程とを有する。かかるフェライトグリーンシートに形成した第1の分割線群と第2の分割線群が図1に示すフェライト焼結体の第1の分割線群5と第2の分割線群6となる。以下、グリーンシートにおいても、焼結体と対応する部分に関しては同じ符号を用いて説明する。フェライトグリーンシートの製造方法は従来から知られている方法を採用すればよい。例えば、フェライトの原料粉末をバインダ、可塑剤等と混練してスラリーを形成し、該スラリーをドクターブレード法等によってシート成形することによって得られる。第1の工程において形成される第1および第2の分割線群5、6の各分割線は、直線状に並んだ複数の帯状の貫通孔7によって構成されている。これらの帯状の貫通孔7は、フェライトグリーンシートの一方の主面側から帯状の刃先を有する刃を押し込み、他方の主面側では前記刃の押し込みによって破断させることで、前記一方の主面側では、長手方向に沿った縁は直線状に、他方の主面側では、長手方向に沿った縁は破断線状に形成される。
【0029】
ここで第1の分割線群と第2の分割線群の分割線を形成する工程について詳述する。図6には、分割線の形成に使用する刃の一例を示した。図6の(a)は刃の主面を見た図であり、(b)はその厚さ方向の断面図、(c)はその断面の拡大図、(d)は刃先の一つの凸状部分を図のAの方向から見た拡大図である。刃9は鋭利な刃先10を有し、該刃先10は複数の貫通孔に対応して複数の凸状部分として形成されている。図6に示す例では、刃先10の各凸状部分の先端は直線状をなし、該凸状部分は矩形である。また、図6に示す例では(c)に示すように刃先10は両刃になっているが、刃先は片刃でもよい。図6(d)に示すように、貫通孔を形成する刃として、帯状の刃先の長手方向の先端が、長手方向に垂直な刃厚方向に膨らんだ形状を有する刃を用いることで、長手方向の先端が長手方向に垂直な幅方向に膨らんだ形状を有する開口部が形成される。図6に示す例は刃先の両端に刃厚方向に膨らんだ形状を備えているが、少なくとも一端側に該形状を備えていればよい。帯状の刃先の長手方向の先端が、長手方向に垂直な刃厚方向に膨らんだ形状は、例えば、刃先の両側を溶融させたり、刃先の両側に応力をかけて変形させる等して形成すればよい。その形状は、形成しようとする貫通孔の形状に応じて選択する。
【0030】
次に、貫通孔7の開口部において、一方の主面側では、長手方向に沿った縁を直線状に、他方の主面側では、長手方向に沿った縁を破断線状に形成する方法について図7を用いて説明する。フェライトグリーンシート11をベースシート12上に載置し(a)、フェライトグリーンシート11の法線方向から帯状の刃先を有する刃9を下降させてフェライトグリーンシート11の一方の主面側から押し込む(b)。フェライトグリーシート11は厚さの途中までは刃先の形状に倣って楔形に変形し、凹部が形成されるが、刃先が他方の主面に近づくと変形よりも破断の作用が勝り、他方の主面側では刃の押し込みによって、刃先の形状に沿って破断する(c)。刃9を上昇させると、一方の主面側では、長手方向に沿った縁が直線状で、他方の主面側では、長手方向に沿った縁が破断線状の開口部を有する貫通孔7が形成される(d)。第1の分割線群を形成した後、刃またはフェライトグリーシート側を回転させて、同様に第2の分割線群を形成する。
【0031】
刃先の角度が大きすぎると破断の作用が大きくなってしまい、貫通孔を形成する工程で他方の主面側の破断線状の開口部が拡大して分割線全体に渡って破断してしまう。したがって、図5に示す刃先の角度θは小さいことが好ましく、例えば、10〜40度の範囲のものを使用するとよい。
【0032】
第1の分割線群と第2の分割線群を形成する第1の工程を経たフェライトグリーンシートは焼成(第2の工程)に供される。かかる焼成を経て、一方の主面側では、長手方向に沿った縁が直線状で、他方の主面側では、長手方向に沿った縁が破断線状の帯状の開口部を有する貫通孔7が形成されたフェライト焼結体が得られる。上記貫通孔を形成した部分には、自由焼成面が形成される。すなわち、貫通孔を形成した部分では、自由焼成面を呈す壁面の端部に、グリーンシートにおいて形成した破断線状の縁が現れる。また、磁性シートにおいて、分割線に沿ってフェライト焼結体を個片化した場合は、貫通孔が形成されていた自由焼成面と、貫通孔と貫通孔の間のフェライト焼結体の破断面とが現れることになる。第2の工程を経て得られた板状のフェライト焼結体には、少なくとも片方の主面に保護シートが貼付されて磁性シートが構成される。フェライト焼結体を、保護シートが貼付された状態で第1の分割線群および第2の分割線群に沿って個片化することで、磁性シートに可撓性が付与される。なお、かかる個片化の際には貫通孔以外の焼結体部分の破断を伴うが、焼結体の破断面の凹凸は、貫通孔の破断線状の凹凸よりもはるかに小さなものになる。
【0033】
磁性シートは、例えば、粘着層を介して電子機器、情報通信機器内に貼着して用いられる。また、他の部品に直接貼着して用いることもできる。例えば、本発明に係る磁性シートと、該磁性シートの主面に対向するように配置された平面状のコイルを用いてコイル部品を構成してもよい。特にコイル自体も可撓性を有する場合に特に好適である。かかるコイル部品は、例えばアンテナや非接触充電装置などに用いることができる。
【実施例】
【0034】
図1に示す構成の磁性シートを作製した。Ni−Zn系フェライト材料の、厚さ120μmのグリーンシートに、図6に示す刃を用い、互いに平行な複数の分割線からなる第1の分割線群と、互いに平行で、かつ第1の分割線群の分割線と直交する方向に形成された複数の分割線からなる第2の分割線群を、それぞれ2.5mmの分割線ピッチで形成した。使用した刃の凸部の幅は1mm、凹部の幅は1mmであり、フェライトグリーンシートには2mmのピッチで帯状の貫通孔が形成された。また、刃先の角度は20度である。貫通孔を形成したグリーンシートを焼成し、一方の主面側では、貫通孔の開口部の長手方向に沿った縁は直線状であり、他方の主面側では、貫通孔の開口部の長手方向に沿った縁は破断線状である貫通孔を有するフェライト焼結体を得た。また、一方の主面側では、開口部の長手方向の両端に、幅方向の寸法が直線部の幅の約二倍の略楕円形の先端部が形成された。焼結体における分割線のピッチは2mm、一方の主面側の開口部の長手方向の長さは0.8mm、長手方向に垂直な方向の幅は11μm、開口部と開口部の間のフェライト焼結体部分は0.9mmであり、貫通孔のピッチは1.7mmmであった。また、フェライト焼結体の厚さは0.1mmであり、開口部の、長手方向に垂直な方向の幅は、フェライト焼結体の厚さの11%であった。貫通孔の、一方の主面側の開口部の形状の写真を図8(a)に、他方の主面側の開口部の形状の写真を図8(b)に示す。なお、図8に示す(a)および(b)は同一の貫通孔の写真ではないが、一方の主面側および他方の主面側において、それぞれ開口部の形態は図8(a)、(b)と同様である。図8(b)には紙面の横方向を長手方向とする貫通孔に加えて、紙面の上下方向を長手方向とする貫通孔の一部も示されている。図8(a)に示すように刃を入れた主面側では、開口部の長手方向に沿った縁は直線状に、他方の主面側では破断線状に形成されており、破断線状に形成された開口部の、長手方向に垂直な方向の幅が非常に小さなものになっていることがわかる。また、図8(a)刃を入れた一方の主面側では、長手方向の両端が長手方向に垂直な幅方向に膨らんだ形状を有している。
【0035】
得られたフェライト焼結体の一方の面には、厚さ30μmの粘着テープ付のPETシートを貼り合せた。また他方の面には厚さ30μmの両面テープを貼り合せて、磁性シートを得た。得られた磁性シートに外力を加えてフェライト焼結体を個片化した(No1)。また、得られた磁性シートを内径10mm、外径14mmのリング状に打ち抜き、6枚重ねて、1ターン、13.56MHzの条件でインダクタンス値を測定した。また、比較のために、分割線を設けないフェライト焼結体を用いて磁性シートを構成し(No2)、同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
No1の磁性シートは、第1、第2の分割線群に沿って個片化されており、良好な可撓性を示した。また、焼成までの工程においても、分割線群を設けたフェライトグリーンシートに、工程の障害となるような、分割線方向のクラックの発生は見られなかった。一方、分割線を施していないNo2の磁性シートは可撓性に劣り、焼結後のハンドリングの際に不定形に割れていた。また、No1の磁性シートは、貫通孔によって構成した分割線に沿ってフェライト焼結体が個片化されているにもかかわらず、個片化されていないNo2の磁性シートに比べて透磁率の低下は5%以下であり、ほとんど透磁率が低下していないことがわかる。また、分割性に沿って、フェライト焼結体を個片化することで、No2の磁性シートに比べてQは1.5倍以上に向上していることがわかる。
【符号の説明】
【0038】
1:磁性シート
2:フェライト焼結体
3、4:保護シート
5:第1の分割線群
6:第2の分割線群
7:貫通孔
8:フェライト焼結体の端辺
9:刃
10:刃先
11:フェライトグリーンシート
12:ベースシート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8