(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5881044
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】固体抽出剤の調整方法及びパラジウムの抽出方法
(51)【国際特許分類】
G21F 9/06 20060101AFI20160225BHJP
G21C 19/46 20060101ALI20160225BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20160225BHJP
C22B 3/24 20060101ALI20160225BHJP
B01J 20/26 20060101ALI20160225BHJP
【FI】
G21F9/06 581H
G21C19/46 K
C09K3/00 108Z
C22B3/24 101
B01J20/26 E
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-128453(P2012-128453)
(22)【出願日】2012年6月5日
(65)【公開番号】特開2013-253816(P2013-253816A)
(43)【公開日】2013年12月19日
【審査請求日】2014年2月12日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行者名 :一般社団法人日本原子力学会 刊行物名 :2012年春の年会予稿集 発行年月日:平成24年3月2日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591031430
【氏名又は名称】株式会社千代田テクノル
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100080458
【弁理士】
【氏名又は名称】高矢 諭
(74)【代理人】
【識別番号】100076129
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 圭佑
(74)【代理人】
【識別番号】100089015
【弁理士】
【氏名又は名称】牧野 剛博
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 貞明
(72)【発明者】
【氏名】韓 立彪
(72)【発明者】
【氏名】内丸 祐子
【審査官】
藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】
特開平05−105973(JP,A)
【文献】
特開昭64−011640(JP,A)
【文献】
特開平07−300630(JP,A)
【文献】
特開平09−279264(JP,A)
【文献】
佐々木貞明,韓立彪,ポリマービーズ型抽出剤による白金属元素の分離・回収,日本原子力学会2011年秋の大会予稿集,日本,日本原子力学会,2011年 9月 2日,p.122
【文献】
佐々木貞明,韓立彪,ポリマー型抽出剤による白金属元素の分離・回収,日本原子力学会2011年春の年会予稿集,日本,日本原子力学会,2011年 3月11日,p.170
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/06
G21F 9/12
G21C 19/46
B01J 20/00−20/34
C09K 3/00
C22B 1/00−61/00
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液からパラジウムを抽出する際に使用する固体抽出剤の調整方法であって、
ポリフェニルビニルスルフィドのクロロホルム溶液にシリカゲルを加え、室温で一晩撹拌した後、真空下で溶媒を除去して、ポリフェニルビニルスルフィドが担持されたシリカゲルを得ることを特徴とする固体抽出剤の調整方法。
【請求項2】
次の(1)式の置換反応と次の(2)式の脱離反応により生成されるフェニルビニルスルフィド(モノマー)を、次の(3)式の重合反応により重合させて前記ポリフェニルビニルスルフィドを生成することを特徴とする請求項1に記載の固体抽出剤の調整方法。
【化1】
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法により調整された固体抽出剤に溶液を接触させ、該溶液からパラジウムを抽出することを特徴とするパラジウムの抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体抽出剤の調整方
法及びパラジウムの抽出方法に係り、特に高レベル放射性廃液等の溶液からパラジウムを効率良く抽出する際に適用して好適な固体抽出剤の調整方
法及びパラジウムの抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
使用済み核燃料の再処理工程等で発生する高レベル放射性廃液は、最終的にガラス固化体として処理されることになっている。
【0003】
このような高レベル放射性廃液中には、有用金属であるパラジウム(Pd)をはじめとする白金族元素(金属)が多く含まれているが、これら白金族元素は該廃液からガラス固化体を作製する際堆積し、ガラス固化を阻害する要因となっているために、該廃液から白金族元素を分離・回収する技術の開発が望まれていた。
【0004】
このような要望に応える技術としては、例えば特許文献1に開示されているポリジフェニルビニルホスフィンオキシド(PDPVPO)や特許文献2に開示されているポリジアルキルビニルホスフィンオキシド(PDAVPO)からなるポリマー型抽出剤を利用し、高レベル放射性廃液から白金族元素を分離・回収することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−91824号公報
【特許文献2】特開2010−179287号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】佐々木貞明,韓立彪「白金属元素に対するポリマー型抽出剤の適用性検討」日本原子力学会,2012年春の年会予稿集,第371頁
【非特許文献2】佐々木貞明,韓立彪「ポリマービーズ型抽出剤による白金属元素の分離・回収」日本原子力学会,2011年秋の年会予稿集,第122頁
【非特許文献3】佐々木貞明,韓立彪「ポリマー型抽出剤による白金属元素の分離・回収」日本原子力学会,2011年春の年会予稿集,第170頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されているPDPVPOや特許文献2に開示されているPDAVPOは抽出剤として有効ではあるものの、粉末状のポリマーであるために比重が小さいことから、水溶液等の溶液を混合等により接触させる際には、有機溶媒に溶かして液−液抽出を採用する必要があるため、抽出後に有機溶媒を分離・回収しなければならないという問題があった。
【0008】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、有機溶媒を使用しない液−固抽出ができるために有機溶媒を分離・回収する必要がない上に、パラジウムに対する抽出性能にも優れた固体抽出剤の調整方
法及びパラジウムの抽出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、有機溶媒を使用しない液−固抽出ができ、
パラジウムに対する抽出性能にも優れた技術を提供するべく、
ポリマー型抽出剤、ポリマー型抽出剤をビーズ化したポリマービーズ型抽出剤
、及び、ポリマー型抽出剤をシリカに適正な範囲に担持したシリカ担持ポリマー型抽出剤を検討した。この結果シリカ担持ポリマー型抽出剤であるポリフェニルビニルスルフィド(PPVS)が、有機溶媒を使用しない液−固抽出ができる上に、優れた抽出特性を備えていることを知見した。
【0010】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、溶液からパラジウムを抽出する際に使用する固体抽出剤の調整方法であって、ポリフェニルビニルスルフィドのクロロホルム溶液にシリカゲルを加え、室温で一晩撹拌した後、真空下で溶媒を除去して、ポリフェニルビニルスルフィドが担持されたシリカゲルを得ることにより、前記課題を解決したものである。
ここで、後出(1)式の置換反応と後出(2)式の脱離反応により生成されるフェニルビニルスルフィド(モノマー)を、後出(3)式の重合反応により重合させて前記ポリフェニルビニルスルフィドを生成することができ
る。
【0011】
本発明は、又、前記
方法により調整された固体抽出剤に溶液を接触させ、該溶液からパラジウムを抽出することにより、同様に前記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、固体抽出剤を、ポリフェニルビニルスルフィドをシリカ
に担持して調製したことにより、該固体抽出剤に溶液を混合等により接触させ、該溶液から
パラジウムを分離・回収する際、有機溶媒を使用せずに液−固抽出できる上に、優れた抽出率を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】ポリフェニルビニルスルフィド
(PPVS)のシリカに対する有効な担持範囲を示す線図
【
図2】
ポリマービーズ型PTPRSとシリカ担持型
PPVSによるパラジウムの抽出速度を
比較して示す線図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
本発明に係る固体抽出剤は、構造式
【化1】
で表されるポリフェニルビニルスルフィドを、シリカに担持して調製される。
【0017】
このPPVSは、(1)式の置換反応と(2)式の脱離反応により生成されるフェニルビニルスルフィド(モノマー)を、(3)式の重合反応により生成することができ、その後(4)式に示すように、シリカゲル(シリカ):SiO
2に担持させることにより前記固体抽出剤を生成することができる。
【実施例1】
【0019】
(1)式、(2)式により合成したモノマーを(3)式により重合させ、質量平均分子量(Mw)が36,900、分子量分布(Mw/Mn)が1.66のPPVSを得た。
【0020】
分子量は、カラムとして、Tosoh社製、商品名「GMHHR−H*2」を、溶媒としてN−メチル―2−ピロリドンを用い、ポリスチレンをスタンダードとしたゲルパーミエーションクロマトグラフィにより測定した。
【0021】
次いで得られたPPVSを、異なる割合でシリカに担持させた複数の固体抽出剤を調製し、パラジウムに対する抽出率の評価を行った。
【0022】
担持方法は、シリカとして、関東化学株式会社製 slica gel 60(シリカゲル,particle size 40-50μm)を使用し、前記(4)式に従ってPPVSのクロロホルム溶液に該シリカゲルを加え、室温で一晩攪拌した後、真空下で溶媒を除去して、PPVSが担持されたシリカゲルを得た。
【0023】
シリカに対するPPVSの担持割合が異なる9.1質量%と16.7質量%の各固体抽出剤について、1モルの硝酸溶液に金属量0.03mmolの硝酸パラジウムを溶解したサンプル溶液を、抽出剤量同等条件の0.03mmolの
PPVSと混合し、室温で12時間攪拌した後ろ別し、ろ液中のパラジウム濃度をIPC発光分光分析装置(HORIBA ULTMA2)により測定して抽出率を求めた。
【0024】
その結果を表1と
図1のグラフに示す。
【0025】
なお、この固体抽出剤は、1原子のパラジウムに2原子のイオウが配位する錯形成により該パラジウムを捕捉し、抽出するものと考えられる。
【0026】
【表1】
【0027】
この
図1から、PPVSをシリカに担持した固体抽出剤(以下、シリカ担持型抽出剤ともいう)としては、0.1質量%〜
25質量%の範囲の担持割合が有効であることがわかる。
【実施例2】
【0028】
担持割合が9.1質量%の固体抽出剤について、金属量0.005mmolのパラジウムイオンを含む1モルの硝酸酸性のサンプル溶液に対して0.03mmol
の抽出剤量を使用する、60倍の抽出剤量過剰条件の下で、実施例1と同様の方法で抽出し、求めた抽出率を非担持のポリマー型抽出剤による結果と対比して表2に示す。
【0029】
【表2】
【0030】
この表2は、次の構造式で表されるPVS−Co−5MMAとPDPVPOの各ポリマーについてシリカ担持したものと非担持のものについて同様に抽出した結果をも併記してある。
【0031】
【化3】
【0032】
表2より、シリカ担持ポリマー型抽出剤(PPVS,PVS−Co−5MMA)は、
非担持のポリマー型抽出剤と同等以上の抽出率を示している。
【0033】
表3には、前記表2に示したシリカ担持型と非担持のポリマー型の各PPVSについて、放射線(γ線)照射による抽出率への影響を評価した結果を示す。照射した線量は1.0MGyである。
【0034】
【表3】
【0035】
この表より、いずれの抽出剤もγ線照射による悪影響は認められず高い抽出率を示し、高レベル放射線廃液を処理する過酷な条件でも使用可能であることがわかる。
【0036】
なお、表3には、次式により得られるポリマービーズ型のPTPPS(Poly Tri Phenyl Phosphine Sulfide)についての結果も併記してある。
【0037】
【化4】
【0038】
図2には、同様の抽出剤量過剰条件で測定した抽出速度をポリマービーズ型PTPPSと対比して示した。
【0039】
この
図2より、ポリマービーズ型PTPPSの抽出速度は非常に緩やかで5時間でもパラジウムの抽出率が40%であったのに対し、シリカ担持型PPVSの抽出速度は非常に速く、1時間以内で抽出率が100%となった。
【0040】
また、表4には、ポリマービーズ型PTPPSとシリカ担持型PPVSによる抽出率と逆抽出率
及び繰り返し抽出率をそれぞれ示す。
【0041】
【表4】
【0042】
逆抽出率は、抽出後の抽出剤と溶液の混合系から水相を除去し、その抽出剤に3mlの1モル尿酸(1モル硝酸溶液)を加え、室温で24時間攪拌して溶解した後、その溶液のパラジウム濃度を測定して求めた。
【0043】
パラジウムに対する抽出率は、いずれの抽出剤でも100%であった。パラジウムの逆抽出については、シリカ担持型PPVSは100%であったが、ポリマービーズ型PTPPSは約77%と低かった。
【0044】
表4には、逆抽出後のポリマー型抽出剤を硝酸で洗浄した後、再度抽出を行った繰り返し抽出の結果についても併記してある。この繰り返し抽出率は、いずれの抽出剤も100%を示し、抽出剤の繰り返し使用が可能であることがわかった。以上の
図2、表4の結果については、非特許文献1にも記載されている。
【0045】
また表5には、同じ固体抽出剤について、他の白金族元素としてルテニウム(Ru)とロジウム(Rh)を含む溶液を、同様の条件により抽出率を測定した結果を示す。
【0046】
【表5】
【0047】
これにより、シリカ担持型PPVS及びポリマービーズ型PTPPSは、パラジウム抽出について高い選択性を備えていることがわかる。
【0048】
以上詳述したように、シリカにポリマー型抽出剤のPPVSを担持したシリカ担持型PPVSは、0.1質量%〜
25質量%の範囲の担持割合において、優れた抽出特性を有し
、パラジウムに対して有効な抽出剤であることがわかった。
【0049】
また、シリカ担持型PPVSは、抽出速度がポリマービーズ型PTPPSと比較して非常に速い上に、逆抽出率と繰り返し抽出率は共に100%を示し、しかもパラジウムに対して優れた選択性を示すことからパラジウムに対しては最適な抽出剤であることもわかった。
【0050】
なお、以上詳述したポリマー型抽出剤に関しては非特許文献3に、ポリマービーズ型抽出剤とシリカ担持ポリマー型抽出剤に関しては非特許文献2にも記載されている。