【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、大学発事業創出実用化研究開発事業「有機EL用燐光材料の実用的製造法の開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1〜3に記載の製造方法は、塩素架橋イリジウムダイマーなどのオルトメタル化イリジウム錯体と2‐フェニルピリジンなどの2座有機配位子とを混合した後、加熱反応させる方法である。しかし、これらの方法では、幾何異性体であるメリジオナル体が副生成物として生成するためフェイシャル体を高純度で得ることは容易ではない。一方、特許文献4に記載の製造方法は、予め反応溶媒であるグリセリンを加熱して放冷した後、イリジウム原料と2座有機配位子とを放冷したグリセリンに添加して加熱反応させる方法である。特許文献5に記載の製造方法は、予め2座有機配位子を含むグリセリンを加熱して放冷した後、イリジウム原料を放冷したグリセリンに添加して加熱反応させる方法である。特許文献4及び5に記載の製造方法は、本発明と類似しているが、予め行う反応溶媒であるグリセリンの加熱は、グリセリンに含まれる水を除くことを目的としており、本発明とは予備加熱の目的そのものが異なっている。また、使用可能なイリジウム原料がIr(acac)
3に限定され、一般性の高い製造方法とはいえず、その反応は、本発明に係る製造方法とは全く相違している。
【0011】
トリスオルトメタル化イリジウム錯体には、フェイシャル体及びメリジオナル体の2種類の幾何異性体が存在するが、フェイシャル体の方が発光効率及び安定性の点で優れていることが明らかになっている(例えば、非特許文献1を参照。)。しかし、フェイシャル体及びメリジオナル体の幾何異性体を簡便に分離するのは困難であり、フェイシャル体を得るためには、再結晶、カラムクロマトグラフィー、又は昇華精製など手間のかかる作業を組み合わせて繰り返す後処理を行う必要があった。前述した特許文献1〜3に記載された製造方法は、幾何異性体であるメリジオナル体が副生成物として生成する問題を完全に解決したとはいえない。したがって、トリスオルトメタル化イリジウム錯体の製造方法にあっては、有機電界発光素子材料としてあまり好ましくないメリジオナル体の生成を抑制し、フェイシャル体を選択的に製造する方法が渇望されている。
【0012】
本発明は、前記従来技術の事情に鑑みなされたものである。本発明の目的は、トリスオルトメタル化イリジウム錯体の中でも、とりわけ有機電界発光素子材料として好適に用いられるフェイシャル‐トリスオルトメタル化イリジウム錯体を、反応基質を混合した後で加熱して反応させる従来の製造方法と比較して、高選択的に得るための新たな製造方法を提供することである。
【0013】
本発明の第二の目的は、フェイシャル‐トリスオルトメタル化イリジウム錯体を高比率で含むトリスオルトメタル化イリジウム錯体を用いて、発光効率及び耐久性に優れた発光材料と、その発光材料を用いた発光素子とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記課題を解決すべく、トリスオルトメタル化イリジウム錯体の製造方法を鋭意検討してきた。その結果、前述した公知の製造方法におけるフェイシャル体とメリジオナル体との生成比率は、意外にもイリジウム原料であるオルトメタル化イリジウム錯体と2座有機配位子との添加方法に大きく依存することを見出した。すなわち、イリジウム原料と2座有機配位子との2種の反応基質のうち、少なくともいずれか一方の反応基質を予備加熱し、その後、イリジウム原料と2座有機配位子とを混合して反応させることで、特許文献1〜3に記載した製造方法のように2種の反応基質を混合した後で、加熱反応させる方法よりも、メリジオナル体の生成が抑制され、フェイシャル体の純度が大きく向上することを明らかにした。これまで、トリスオルトメタル化イリジウム錯体の幾何異性体であるフェイシャル体とメリジオナル体との生成比率について、イリジウム原料であるオルトメタル化イリジウム錯体と2座有機配位子との添加方法に依存することは開示されておらず、本実験事実は、発明者らの緻密な実験の積み重ねによって得られた重要、かつ、新たな知見である。このように、本発明者らは、有機電界発光素子材料として好適に用いられるフェイシャル‐トリスオルトメタル化イリジウム錯体を従来の製造方法よりも高純度に製造する方法を開発することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0015】
フェイシャル体のトリスオルトメタル化イリジウム錯体は、その幾何異性体であるメリジオナル体よりも発光効率及び安定性で優れていることが明らかにされているので、本発明によって製造されたトリスオルトメタル化イリジウム錯体を発光材料として用いることで、高効率、かつ、高耐久性の発光素子を作製することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
本発明に係るトリスオルトメタル化イリジウム錯体の製造方法は、反応基質として一般式(化4)で表されるオルトメタル化イリジウム錯体と一般式(化5)で表される2座有機配位子とを反応させて、一般式(化6)で表されるトリスオルトメタル化イリジウム錯体を製造する方法であって、オルトメタル化イリジウム錯体又は2座有機配位子の
うち2座有機配位子を予備加熱する工程(1)と、オルトメタル化イリジウム錯体と2座有機配位子とを混合する工程(2)と、オルトメタル化イリジウム錯体と2座有機配位子とを反応させる工程(3)と、を順次有
し、前記工程(1)の予備加熱温度が、前記工程(3)の反応温度以下であり、かつ、100〜300℃の範囲であることを特徴とする。
オルトメタル化イリジウム錯体又は2座有機配位子のうち2座有機配位子を予備加熱することで、より効率的に反応を行うことができる。工程(1)の予備加熱温度が、工程(3)の反応温度以下であり、かつ、100〜300℃の範囲であることで、フェイシャル体の生成比率をより高めることができる。
【化4】
(一般式(化4)中、L
aは配位子を表す。A
1は対アニオンを表す。m
1は1又は2を表す。m
2は0又は1を表す。Z
1及びZ
2は、それぞれ独立に、5員環又は6員環を形成するに必要な非金属原子群を表す。さらに、形成される環は更に別の環と縮合環を形成してもよい。L
1は単結合又は2価の基を表す。Y
1は窒素原子又は炭素原子を表す。Y
1が窒素原子のときは、Q
1は炭素原子とY
1とが単結合で結合していることを表す。Y
1が炭素原子のときは、Q
1は炭素原子とY
1とが2重結合で結合していることを表す。)
【化5】
(一般式(化5)中、Z
1、Z
2、Y
1、Q
1及びL
1は各々一般式(化4)の場合と同義である。)
【化6】
(一般式(化6)中、Z
1、Z
2、Y
1、Q
1及びL
1は各々一般式(化4)の場合と同義である。)
【0018】
本発明に係るトリスオルトメタル化イリジウム錯体の製造方法では、オルトメタル化イリジウム錯体が、一般式(化7)で表される化合物である形態を包含する。
【化7】
(一般式(化7)中、Xはハロゲン原子を表す。Z
1、Z
2、Y
1、Q
1及びL
1は各々一般式(化4)の場合と同義である。)
【0019】
本発明に係るトリスオルトメタル化イリジウム錯体の製造方法では、前記L
aが、モノアニオン性配位子である形態を包含する。
【0020】
本発明に係るトリスオルトメタル化イリジウム錯体の製造方法では、前記L
aが、中性配位子である形態を包含する。
【0021】
本発明に係るトリスオルトメタル化イリジウム錯体の製造方法では、オルトメタル化イリジウム錯体が、一般式(化8)で表わされる化合物である形態を包含する。
【化8】
(一般式(化8)中、R
1〜R
3は水素原子、重水素原子又は置換基を表す。Z
1、Z
2、Y
1、Q
1及びL
1は各々一般式(化4)の場合と同義である。)
【0022】
本発明に係るトリスオルトメタル化イリジウム錯体の製造方法では、オルトメタル化イリジウム錯体が、一般式(化9)で表わされる化合物である形態を包含する。
【化9】
(一般式(化9)中、A
1、Z
1、Z
2、Y
1、Q
1及びL
1は各々一般式(化4)の場合と同義である。)
【0023】
本発明に係るトリスオルトメタル化イリジウム錯体の製造方法では、2座有機配位子が、一般式(化10)に示す(7)〜(17)の中から選ばれる少なくとも1つである形態を包含する。
【化10】
(一般式(化10)に示す(7)〜(17)中、R
4〜R
102は水素原子、重水素原子又は置換基を表す。)
【0024】
本発明に係るトリスオルトメタル化イリジウム錯体の製造方法では、前記工程(3)の反応温度が、100〜300℃の範囲であることが好ましい。フェイシャル体の生成比率をより高めることができる。
【0027】
本発明に係るトリスオルトメタル化イリジウム錯体の製造方法では、前記工程(3)を、マイクロ波照射下で行うことが好ましい。短時間で昇温することができるため、フェイシャル体の生成比率をより高めることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、トリスオルトメタル化イリジウム錯体の中でも、とりわけ有機電界発光素子材料として好適に用いられるフェイシャル‐トリスオルトメタル化イリジウム錯体を、反応基質を混合した後で加熱して反応させる従来の製造方法と比較して、高選択的に得るための新たな製造方法を提供することができる。また、本発明は、フェイシャル‐トリスオルトメタル化イリジウム錯体を高比率で含むトリスオルトメタル化イリジウム錯体を用いて、発光効率及び耐久性に優れた発光材料と、その発光材料を用いた発光素子とを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0032】
本明細書において、一般式(化4)〜(化9)及び(化10)の(7)〜(17)に記載した記号(Z
1,Z
2,Y
1,Q
1,L
1、L
a、m
1、m
2、A
1、X、R
1〜R
102)について、次に詳しく説明する。
【0033】
Z
1及びZ
2はそれぞれ独立に、5員環又は6員環を形成するのに必要な非金属原子群を表す。形成される環は、置換基を有していてもよく、また更に別の環と縮合環を形成してもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、アルキル基、置換アルキル基、フェノキシ基、置換フェノキシ基、アリール基、置換アリール基、アルコキシ基、置換アルコキシ基、ジアルキルアミノ基又は置換ジアルキルアミノ基である。好ましくは、ハロゲン原子、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数1〜30の置換アルキル基、炭素数6〜30のフェノキシ基、炭素数6〜30の置換フェノキシ基、炭素数6〜30のアリール基、炭素数6〜30の置換アリール基、炭素数1〜30のアルコキシ基、炭素数1〜30の置換アルコキシ基、炭素数2〜30のジアルキルアミノ基又は炭素数2〜30の置換ジアルキルアミノ基である。より好ましくは、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10の置換アルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数6〜10の置換アリール基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数1〜10の置換アルコキシ基である。特に好ましくは、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4の置換アルキル基である。
【0034】
Z
1が形成する5員環又は6員環としては、芳香族環又は複素芳香族環が好ましく、芳香族環がより好ましい。Z
1が形成する5員環又は6員環は、例えば、キノリン環、ベンゾキノリン環、キノキサリン環、イソキノリン環、フェナントリジン環、フェナジン環、アクリジン環、トリアゾール環、イミダゾフェナントリジン環、フタラジン環、キナゾリン環、ナフチリジン環、シンノリン環、ペリミジン環、フェナントロリン環、ベンズイミダゾール環、ベンズオキサゾール環、ベンズチアゾール環、イミダゾール環、チアゾール環、オキサゾール環、ピロール環、オキサジアゾール環、チアジアゾール環、ピラゾール環、1,2,3‐トリアゾール環、1,2,4‐トリアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピリダジン環、フラン環、チオフェン環、ナフタレン環、フルオレン環、ジベンゾチオフェン環、ジベンゾフラン環、カルバゾール環又はベンゼン環が挙げられる。これらのうち、ピロール環、ピリジン環、ナフタレン環、フルオレン環、ジベンゾチオフェン環、ジベンゾフラン環、カルバゾール環又はベンゼン環が好ましい。ナフタレン環、フルオレン環、ジベンゾチオフェン環、ジベンゾフラン環、カルバゾール環又はベンゼン環がより好ましく、ベンゼン環が特に好ましい。
【0035】
Z
2が形成する5員環又は6員環としては、複素芳香族環が好ましい。Z
2が形成する5員環又は6員環は、例えば、イミダゾール環、チアゾール環、オキサゾール環、ピロール環、オキサジアゾール環、チアジアゾール環、ピラゾール環、1,2,3‐トリアゾール環、1,2,4‐トリアゾール環、セレナゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環又はピリダジン環が挙げられる。これらのうち、イミダゾール環、チアゾール環、1,2,3‐トリアゾール環、1,2,4‐トリアゾール環、オキサゾール環、ピロール環、ピラゾール環、ピリジン環又はピリミジン環が好ましく、ピラゾール環又はピリジン環がさらに好ましい。
【0036】
L
1は、単結合又は2価の基を表す。2価の基としては、例えば、−C(R)(R’)−,−N(R)−,−O−,−P(R)−又は−S−が挙げられる。ここで、R及びR’は水素原子又は置換基を表す。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、シアノ基、ニトロ基である。L
1は、好ましくは単結合、又は−C(R)(R’)−であって、R及びR’が水素原子、脂肪族基又は芳香族基の場合である。L
1として特に好ましくは単結合である。
【0037】
Y
1は、窒素原子又は炭素原子を表す。Y
1が窒素原子の時は、Q
1は炭素原子とY
1との間の結合が単結合であることを示す。Y
1が炭素原子の時は、Q
1は炭素原子とY
1との間が2重結合であることを示す。
【0038】
Q
1は、原子間の結合を表す。Y
1が窒素原子のときは、Q
1は炭素原子とY
1とが単結合で結合していることを表す。Y
1が炭素原子のときは、Q
1は炭素原子とY
1とが2重結合で結合していることを表す。
【0039】
L
aは配位子であれば、単座配位子又は2座配位子であることを問わない。L
aに金属(例えば、イリジウム)が含まれても構わなく、いわゆる複核錯体を形成してもよい。
【0040】
また、L
aは、アニオン性配位子又は中性配位子が好ましい。モノアニオン性配位子又は中性配位子が特に好ましい。
【0041】
次に、具体的に好ましいL
aの構造を示す。単座のアニオン性配位子としては、例えば、ハロゲン配位子、ヒドロキシ配位子、アルコキシド配位子、フェノキシド配位子、チオシアネート配位子、シアネート配位子又はイソシアネート配位子である。2座のアニオン性配位子としては、例えば、β‐ジケトナート配位子、アセチルアセトナート配位子、酢酸配位子又はピコリン酸配位子である。
【0042】
単座の中性配位子としては、ニトリル配位子(例えば、アセトニトリル配位子、プロピオニトリル配位子)、スルホキシド配位子(例えば、ジメチルスルホキシド配位子)、アミド配位子(例えば、ジメチルホルムアミド配位子)、エーテル配位子(例えば、テトラヒドロフラン配位子)、水配位子、アンモニア配位子、アミン配位子、ピペリジン配位子、ピリジン配位子、ピラジン配位子である。2座の中性配位子としては、例えば、ビピリジン配位子、フェナントロリン配位子、ジピリジルアミン配位子、エチレンジアミン配位子である。
【0043】
m
1は、1又は2を表す。L
aが単座配位子のときはm
1=2が好ましく、L
aが2座配位子のときはm
1=1が好ましい。
【0044】
m
2は、0又は1を表す。L
aが単座のモノアニオン性配位子のときはm
2=1が好ましく、L
aが2座のモノアニオン性配位子のときはm
2=0が好ましく、L
aが中性配位子のときはm
2=1が好ましい。
【0045】
A
1は、対アニオンを表す。対アニオンとしては、アニオン性であれば特に制限はないが、対モノアニオンが好ましい。対アニオンは、例えば、F
−,Cl
−,Br
−,I
−,BF
4−,PF
6−,ClO
4−、CF
3CF
2CF
2COO
−、CF
3SO
3−、CF
3CO
2−,CH
3CO
2−,SCN
−、CH
3SO
3−,ClO
4−,SbF
6−が挙げられる。この中でも好ましくは、Cl
−,PF
6−,BF
4−,PF
6−,CF
3SO
3−である。
【0046】
Xは、ハロゲン原子を表す。好ましくは塩素原子又は臭素原子であり、さらに好ましくは塩素原子である。
【0047】
R
1〜R
102は、水素原子、重水素原子又は置換基を表す。置換基としては、例えば、アルキル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜10であり、例えば、メチル、エチル、iso‐プロピル、tert‐ブチル、n‐オクチル、n‐デシル、n‐ヘキサデシル、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシルが挙げられる。)、アルケニル基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えば、ビニル、アリル、2‐ブテニル、3‐ペンテニルが挙げられる。)、アルキニル基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えば、プロパルギル、3‐ペンチニルが挙げられる。)、アリール基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えば、フェニル、p‐メチルフェニル、ナフチル、アントラニルが挙げられる。)、アミノ基(好ましくは炭素数0〜30、より好ましくは炭素数0〜20、特に好ましくは炭素数0〜10であり、例えば、アミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジベンジルアミノ、ジフェニルアミノ、ジトリルアミノが挙げられる。)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜10であり、例えば、メトキシ、エトキシ、ブトキシ、2‐エチルヘキシロキシが挙げられる。)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えば、フェニルオキシ、1‐ナフチルオキシ、2‐ナフチルオキシが挙げられる。)、ヘテロ環オキシ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えば、ピリジルオキシ、ピラジルオキシ、ピリミジルオキシ、キノリルオキシが挙げられる。)、アシル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えば、アセチル、ベンゾイル、ホルミル、ピバロイルが挙げられる。)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜12であり、例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニルが挙げられる。)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数7〜30、より好ましくは炭素数7〜20、特に好ましくは炭素数7〜12であり、例えば、フェニルオキシカルボニルが挙げられる。)、アシルオキシ基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えば、アセトキシ、ベンゾイルオキシが挙げられる。)、アシルアミノ基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えば、アセチルアミノ、ベンゾイルアミノが挙げられる。)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜12であり、例えば、メトキシカルボニルアミノが挙げられる。)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数7〜30、より好ましくは炭素数7〜20、特に好ましくは炭素数7〜12であり、例えば、フェニルオキシカルボニルアミノが挙げられる。)、スルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えば、メタンスルホニルアミノ、ベンゼンスルホニルアミノが挙げられる。)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0〜30、より好ましくは炭素数0〜20、特に好ましくは炭素数0〜12であり、例えば、スルファモイル、メチルスルファモイル、ジメチルスルファモイル、フェニルスルファモイルが挙げられる。)、カルバモイル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えば、カルバモイル、メチルカルバモイル、ジエチルカルバモイル、フェニルカルバモイルが挙げられる。)、アルキルチオ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えば、メチルチオ、エチルチオが挙げられる。)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えば、フェニルチオが挙げられる。)、ヘテロ環チオ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えば、ピリジルチオ、2‐ベンズイミゾリルチオ、2‐ベンズオキサゾリルチオ、2‐ベンズチアゾリルチオが挙げられる。)、スルホニル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えば、メシル、トシルが挙げられる。)、スルフィニル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えば、メタンスルフィニル、ベンゼンスルフィニルが挙げられる。)、ウレイド基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えば、ウレイド、メチルウレイド、フェニルウレイドが挙げられる。)、リン酸アミド基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えば、ジエチルリン酸アミド、フェニルリン酸アミドが挙げられる。)、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。)、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、トリフルオロメチル基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、ヘテロ環基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜12であり、ヘテロ原子としては、例えば、窒素原子、酸素原子、硫黄原子であり、具体的には、イミダゾリル、ピリジル、キノリル、フリル、チエニル、ピペリジル、モルホリノ、ベンズオキサゾリル、ベンズイミダゾリル、ベンズチアゾリル、カルバゾリル基、アゼピニル基などが挙げられる。)、シリル基(好ましくは炭素数3〜40、より好ましくは炭素数3〜30、特に好ましくは炭素数3〜24であり、例えば、トリメチルシリル、トリフェニルシリルが挙げられる。)、シリルオキシ基(好ましくは炭素数3〜40、より好ましくは炭素数3〜30、特に好ましくは炭素数3〜24であり、例えば、トリメチルシリルオキシ、トリフェニルシリルオキシが挙げられる。)が挙げられる。好ましい置換基は、シアノ基、トリフルオロメチル基、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基、又はヘテロ環基である。
【0048】
R
1及びR
3としては、R
1〜R
102として前記に例示した中でも炭素数1〜10のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜5のアルキル基が特に好ましい。アルキル基は、例えば、メチル、エチル、iso‐プロピル、tert‐ブチルである。この中で、メチル、tert‐ブチルがより好ましく、メチルが最も好ましい。
【0049】
R
2としては、R
1〜R
102として前記に例示した中でも水素原子、重水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基がより好ましく、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基が特に好ましく、水素原子が最も好ましい。
【0050】
R
4〜R
102としては、R
1〜R
102として前記に例示した中でも水素原子、重水素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、フッ素原子、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数1〜30のアルコキシ基、炭素数6〜30のアリール基、炭素数0〜30のアミノ基がより好ましく、水素原子、フッ素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数0〜20のアミノ基が特に好ましい。
【0051】
本実施形態に係るトリスオルトメタル化イリジウム錯体の製造方法は、反応基質として一般式(化4)で表されるオルトメタル化イリジウム錯体と一般式(化5)で表される2座有機配位子とを反応させて、一般式(化6)で表されるトリスオルトメタル化イリジウム錯体を製造する方法であって、オルトメタル化イリジウム錯体又は2座有機配位子の少なくともいずれか一方を予備加熱する工程(1)と、オルトメタル化イリジウム錯体と2座有機配位子とを混合する工程(2)と、オルトメタル化イリジウム錯体と2座有機配位子とを反応させる工程(3)と、を順次有する。
【0052】
一般式(化4)で表されるオルトメタル化イリジウム錯体は、一般式(化7)で表される化合物、一般式(化8)で表される化合物又は一般式(化9)で表わされる化合物であることが好ましい。
【0053】
一般式(化7)で表される化合物は、L
aとしてハロゲン配位子が配位したイリジウム二核錯体である。ハロゲン配位子としては、例えば、塩素、臭素、ヨウ素、フッ素である。この中で、塩素が配位した形態(以降、塩素架橋イリジウムダイマーということもある。)が特に好ましい。一般式(化8)で表される化合物は、L
aとしてβ‐ジケトナート配位子が配位したオルトメタル化イリジウム錯体である。一般式(化9)で表される化合物は、L
aとしてアセトニトリル配位子が配位したオルトメタル化イリジウム錯体である。
【0054】
一般式(化5)で表わされる2座有機配位子は、イリジウム‐窒素結合又はイリジウム‐炭素結合を形成し得る2座有機配位子であることを特徴としている。2座有機配位子は、一般式(化10)に示す(7)〜(17)の中から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。一般式(化10)に示す(7)、(8)、(9)又は(15)で表わされる2座有機配位子がより好ましく、一般式(化10)に示す(7)、(9)又は(15)で表わされる2座有機配位子が特に好ましく、一般式(化10)に示す(7)又は(15)で表わされる2座有機配位子がとりわけ好ましい。その他、2座有機配位子として、国際公開第01/041512号、国際公開第02/15645号及び特開2001−247859号に記載の2座有機配位子を挙げることができる。
【0055】
本発明において、工程(3)において所定の反応温度に昇温するための加熱手段は、特に限定されず、オイルバス、マントルヒーター、ブロックヒーター又は熱媒循環式ジャケットなどの従来の外部加熱方式又はマイクロ波照射方式のいずれも適用することができる。ただし、より短時間で、より高いフェイシャル体選択率を得るにはマイクロ波照射方式を選択することが好ましい。
【0056】
マイクロ波の周波数については、特に制限はないが、300MHz〜300GHzが好ましく、500MHz〜10000MHzがより好ましく、2000MHz〜3000MHzが特に好ましく、2400MHz〜2500MHzがとりわけ好ましい。
【0057】
マイクロ波照射方式による加熱の場合の反応時間は、マイクロ波反応装置の出力、有機配位子、用いる溶媒の種類及び液量に依存するが、1分〜180分が好ましく、3分〜120分がより好ましく、5分〜90分が特に好ましく、10分〜60分がとりわけ好ましい。
【0058】
マイクロ波は、所望の反応温度に達しても、出力を変動(低下)させることなく、所定の一定出力で照射し続けることが好ましい。マイクロ波の出力は、1W〜15kWであることが好ましい。より好ましくは、100W〜10kWであり、特に好ましくは、500W〜8kWであり、とりわけ好ましくは、1kW〜6kWである。
【0059】
一方、オイルバス、マントルヒーターなどによる外部加熱の場合には、反応時間は、有機配位子、用いる溶媒の種類及び液量に依存するが、10分〜96時間が好ましく、1時間〜72時間がより好ましく、1時間〜48時間が特に好ましく、1時間〜24時間がとりわけ好ましい。
【0060】
本実施形態では、反応を円滑に進めるために反応溶媒を用いることが好ましい。反応溶媒としては、特に制限はないが、アルコール系溶媒、プロトン性溶媒、非プロトン性溶媒、炭化水素系溶媒、ニトリル系溶媒、イオン性溶媒などが好ましく用いられる。用いられる反応溶媒の沸点としては、100℃〜300℃が好ましく、150℃〜285℃がより好ましく、160℃〜250℃が特に好ましく、180℃〜230℃がとりわけ好ましい。このような反応溶媒としては、例えば、2‐エトキシエタノール、DMF(N,N‐ジメチルホルムアミド)、ジグライム、ドデカン、エチレングリコール、1,2‐プロパンジオール、1,3‐プロパンジオール、1,3‐ブタンジオール、グリセリンが挙げられる。その中でも2‐エトキシエタノール、DMF、ジグライム、ドデカン、エチレングリコール、1,2‐プロパンジオール、1,3‐プロパンジオール、1,3‐ブタンジオールが好ましく、エチレングリコール、1,2‐プロパンジオール、1,3‐プロパンジオール、1,3‐ブタンジオールなどのジオールが特に好ましい。これらの反応溶媒は、単独で又は2種以上を含む混合溶媒として用いることができる。
【0061】
本実施形態においては、一般式(化4)で表わされるオルトメタル化イリジウム錯体と一般式(化5)で表わされる2座有機配位子との2種の反応基質のうち、少なくともいずれか一方の反応基質を予備加熱するが、この際、少なくともいずれか一方の反応基質を予め分散媒に均一に溶解又は均一に分散してもよい。分散媒は、前記反応溶媒で例示したものを1種又は2種以上を混合して利用できるが、反応溶媒と同種のものを選択することが好ましい。本実施形態に係るトリスオルトメタル化イリジウム錯体の製造方法では、工程(1)が、オルトメタル化イリジウム錯体又は2座有機配位子のいずれか一方を予備加熱する工程であることが好ましい。特には、予備加熱される反応基質が、一般式(化5)で表わされる2座有機配位子であることが好ましい。したがって、一般式(化5)で表わされる2座有機配位子又は一般式(化5)で表わされる2座有機配位子を含む反応溶液を予備加熱し、そこへ一般式(化4)で表わされるオルトメタル化イリジウム錯体又は一般式(化4)で表わされるオルトメタル化イリジウム錯体を含む反応溶液を添加し、加熱反応させることが、特に好ましい。また、一方だけを予備加熱する場合には、予備加熱しない方の反応基質を粉末として添加するか、又は予備加熱しない方の反応基質を溶解又は分散する分散媒の量を最小限とすることが好ましい。これによって、予備加熱された反応溶液の温度の低下を抑制することができる。
【0062】
本実施形態に係る製造方法では、工程(1)〜工程(3)を不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、窒素雰囲気下又はアルゴン雰囲気下で行うことが特に好ましい。
【0063】
本実施形態に係るトリスオルトメタル化イリジウム錯体の製造方法では、前記工程(3)の反応温度が、100℃〜300℃の範囲であることが好ましい。反応温度は、155℃〜300℃の範囲であることがより好ましく、155℃〜285℃の範囲であることが特に好ましく、160℃〜250℃の範囲であることがより特に好ましく、180℃〜230℃の範囲であることがとりわけ好ましい。反応温度が100℃未満では、メリジオナル体の生成比率が高くなる傾向にある。反応温度が300℃を超えると、分解反応が進行しやすくなり収率が低下するおそれがある。
【0064】
本実施形態に係るトリスオルトメタル化イリジウム錯体の製造方法では、前記工程(1)の予備加熱温度が、前記工程(3)の反応温度以下であり、予備加熱温度と反応温度との間の温度差が小さいことが好ましい。予備加熱温度と前記反応温度との間の温度差が、100℃以下であることが好ましく、50℃以下であることがより好ましく、20℃以下であることが特に好ましく、10℃以下であることがとりわけ好ましい。温度差が100℃を超えると、反応温度に達するまでの時間が長くなり、メリジオナル体の生成比率が高まり、フェイシャル体の生成比率が低くなるおそれがある。
【0065】
本実施形態に係るトリスオルトメタル化イリジウム錯体の製造方法では、前記工程(1)の予備加熱温度が、前記工程(3)の反応温度以下であり、かつ、100℃〜300℃の範囲であることが好ましい。予備加熱温度は、155℃〜300℃の範囲であることがより好ましく、155℃〜285℃の範囲であることが特に好ましく、160℃〜250℃の範囲であることがより特に好ましく、180℃〜230℃の範囲であることがとりわけ好ましい。予備加熱温度が、100℃未満では、メリジオナル体の生成比率が高くなる傾向にある。予備加熱温度が300℃を超えると、分解反応が進行しやすくなり収率が低下するおそれがある。
【0066】
本実施形態に係る製造方法では、予備加熱時間は、所望の温度に到達した後、60分未満であることが好ましく、30分未満がより好ましく、15分未満が特に好ましく、5分未満がより特に好ましい。本実施形態では、予備加熱の目的が、例えば反応溶媒中の水を除去することではなく、工程(2)への準備工程であるため、所望の温度に到達すれば、すぐに次の工程(2)へ進むことが好ましい。
【0067】
工程(1)において、予備加熱した後は、放冷工程を経ずに、続く工程(2)及び工程(3)を行うことが好ましい。ここで、放冷には、工程(1)と工程(2)との間にマイクロ波照射の中断したことによる温度低下、薬品を添加したことによる温度低下などの一時的な温度低下を含まない。すなわち、本明細書における放冷工程とは、所定の温度になるまで放置する又は冷却するなど意図して温度を低下させる工程をいう。したがって、温度低下は、例えば、30℃未満にとどめることが好ましく、より好ましくは、20℃未満、特に好ましくは、10℃未満である。本実施形態に係る製造方法は、フェイシャル体が生成する温度が、メリジオナル体が生成する反応温度よりも高いことを利用して、フェイシャル体の生成比率を高めるものである。したがって、2種の反応基質を混合した時を開始時とする反応の初期状態において、混合物の温度をより高い温度とすることが好ましい。具体的には、工程(2)において、反応基質を混合した時の混合物(溶媒を用いた場合には、反応溶液である。)の温度が105℃以上であることが好ましい。より好ましくは、155℃以上であり、特に好ましくは、180℃以上である。
【0068】
本実施形態に係る製造方法は、通常、常圧で行われるが、必要に応じ加圧下又は減圧下で行っても構わない。
【0069】
本実施形態に係る製造方法では、前記反応基質の他に、反応を促進させるために、アルカリ金属を含む無機塩基(例えば、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸水素カリウム)、又は有機アミン(例えば、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリイソブチルアミン、トリエタノールアミン)などの塩基を添加して行ってもよい。
【0070】
本実施形態に係る製造方法では、前記反応基質の他に、反応を促進させるために、AgCF
3SO
3、AgCF
3COO、AgClO
4、AgBF
4、AgBPh
4又はAgPF
6などの銀化合物を添加して行ってもよい。
【0071】
本実施形態に係る製造方法において、一般式(化5)で表わされる2座有機配位子の使用量は、一般式(化4)で表わされるオルトメタル化イリジウム錯体に対して、化学量論比以上であれば特に制限ないが、1〜100当量が好ましい。一般式(化4)で表わされるオルトメタル化イリジウム錯体が一般式(化7)である場合は、2〜100当量がより好ましく、5〜80当量が特に好ましく、10〜70当量がとりわけ好ましい。一般式(化4)で表わされるオルトメタル化イリジウム錯体が一般式(化8)である場合は、1〜30当量がより好ましく、1〜10当量が特に好ましく、1〜5当量がとりわけ好ましい。一般式(化4)で表わされるオルトメタル化イリジウム錯体が一般式(化9)である場合は、1〜30当量がより好ましく、1〜10当量が特に好ましく、1〜5当量がとりわけ好ましい。
【0072】
工程(1)の予備加熱の方法は、特に限定されず、例えば、オイルバス、マントルヒーター、ブロックヒーター又は熱媒循環式ジャケットなど従来の外部加熱方式又はマイクロ波照射方式である。この中で、より短時間で昇温できる点で、マイクロ波照射方式が好ましい。
【0073】
マイクロ波の出力は、反応溶液1リットル当たり0.2kW〜100kWの範囲が好ましく、反応溶液1リットル当たり0.5kW〜50kWの範囲がより好ましく、反応溶液1リットル当たり2kW〜20kWの範囲が特に好ましい。
【0074】
反応溶液の攪拌については、特に限定されないが、例えば、不活性ガスを通気することによって攪拌する方法、マグネチックスターラー、攪拌羽根などを用いる方法が好ましく用いられる。
【0075】
本実施形態に係る製造方法によって得られるトリスオルトメタル化イリジウム錯体については、フェイシャル体とメリジオナル体との幾何異性体が存在するが、その生成比率についてはプロトン核磁気共鳴(プロトンNMR:Nuclear Magnetic Resonance)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC:High performance liquid chromatography)などを用いて分析することができる。
【0076】
マイクロ波照射の方法として、シングルモード又はマルチモードが存在する。本実施形態に係る製造方法では、そのどちらとも利用できるが、マルチモードの方がより望ましい。
【0077】
本実施形態に係る製造方法で用いられるイリジウム原料及び生成物であるトリスオルトメタル化イリジウム錯体のイリジウムの価数については、3価であることが好ましい。
【0078】
本実施形態に係る製造方法で用いられるマイクロ波照射装置については、市販品又は従来公知のものが全て使用できる。また、マイクロ波照射装置の上部に冷却管を取り付けて反応を行うのが好ましい。
【0079】
本実施形態に係る製造方法で用いられる反応容器の材質については、特に限定されず、ホウケイ酸ガラス、石英ガラス、ポリテトラフルオロエチレン(例えば、テフロン(登録商標))などが挙げられる。
【0080】
一般式(化4)及び(化7)〜(化9)で表わされるオルトメタル化イリジウム錯体については、公知の方法で製造することができる。公知の方法は、例えば、特開2002−105055号、特表2008−505076号又はWO2009/073246号に記載の方法が挙げられる。
【0081】
本実施形態に係る製造方法によって、トリスオルトメタル化イリジウム錯体の中でも特に発光効率の高いフェイシャル体が、従来製造方法を用いた場合と比較して、純度良く得られる理由は明確ではないが、一般式(化4)で表わされるオルトメタル化イリジウム錯体及び一般式(化5)で表わされる2座有機配位子の反応を、少なくともいずれか一方の反応基質を予備加熱した後で、2種の反応基質を混合して行うことによって、熱平衡的に有利なフェイシャル体の生成確率が向上したためではないかと本発明者らは推測している。一方、従来の製造方法(イリジウム原料であるオルトメタル化イリジウム錯体と2座有機配位子との2種の反応基質を混合した後、加熱反応させる方法)を用いると、速度論的に有利なメリジオナル体が生成し易いものと考えられる。
【0082】
本実施形態に係る製造方法は、加熱手段としてマイクロ波照射法を採用したときに実用的な価値が高い。加熱手段としてマイクロ波照射法を用いてスケールアップする場合、そのままのマイクロ波出力では、反応溶液の昇温速度が遅くなり、所望の反応温度に到達するまでに、スケールアップ前と比較して長い時間がかかってしまう。トリスオルトメタル化イリジウム錯体の製造の場合、メリジオナル体はフェイシャル体より低い反応温度で生成しやすく、スケールアップを行うとメリジオナル体がより生成しやすくなる可能性がある。そこで、スケールアップ前と同じ昇温速度を保つためには、マイクロ波の照射エネルギーを反応液量に対応して大きくすることが必要であるが、マイクロ波発振器の出力を無制限に大きくすることはできないし、また製造コストの点でも不利となる。本発明の製造方法では、少なくともいずれか一方の反応基質を予備加熱した後、2種の反応基質を混合して反応させるので、所望の反応温度まで迅速に昇温させることができ、フェイシャル体選択性を高めることが可能となる。
【0083】
本実施形態に係る製造方法によって製造される一般式(化6)で表わされるトリスオルトメタル化イリジウム錯体の例を化学式(化11)の(T‐1)〜(T‐16)に示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【化11】
【0084】
本実施形態に係る発光材料は、本実施形態に係る製造方法で製造したトリスオルトメタル化イリジウム錯体からなる。発光材料は、例えば、有機電界発光素子の発光層の材料として好適である。
【0085】
本実施形態に係る発光素子は、本実施形態に係る発光材料を用いてなる。有機電界発光素子は、通常、ガラス板、プラスチック板などからなる基板上に陽極と、正孔輸送層と、発光層と、電子輸送層と、陰極とを、順次積層した構造を有する。発光層の形成方法は、特に限定されず、蒸着成膜法、湿式成膜法など公知の方法で形成することができる。本実施形態に係る製造方法で製造したトリスオルトメタル化イリジウム錯体を発光素子の発光層に含有することで、従来よりも発光効率及び耐久性に優れた発光素子とすることができる。したがって、本実施形態に係る発光素子は、例えば、OAコンピュータ、壁掛けテレビなどのフラットパネル・ディスプレイ、車載表示素子、携帯電話表示、複写機、液晶ディスプレイ、計器類のバックライト光源などの面発光体としての特徴を生かした光源、表示板、標識灯へ応用することができる。
【実施例】
【0086】
次に、実施例を示しながら本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に限定して解釈されない。
【0087】
<実施例1>トリスオルトメタル化イリジウム錯体(T−9)の製造
ベンゾ[h]キノリン1.15gと特級エチレングリコール50mLとを100mLの二口フラスコに入れ、この反応溶液にアルゴンガスを20分間吹き込んだ後、反応溶液を磁気攪拌しながら、オイルバスを用い30分かけて210℃(オイルバスの温度)まで昇温し予備加熱した。次いで、反応溶液に塩素架橋イリジウムダイマー(D−9)0.495gを粉末状態で添加し、アルゴン雰囲気下、210℃(オイルバスの温度)で1.5時間加熱還流させた。反応溶液を室温まで冷却した後、反応溶液を濾過し黄色固体を得た。この黄色固体をメタノール、純水、更にメタノールで洗浄後、真空乾燥し、化学式(化11)に記載のトリスオルトメタル化イリジウム錯体(T−9)を得た(収量0.584g、収率94%)。生成物をプロトンNMR(JEOL社製、JNM−ECX400:400MHz、DMSO‐d
6中)で分析した結果、フェイシャル体とメリジオナル体とが88:12(モル比)の混合物であった。反応スキームを反応式(化12)に示す。
【化12】
【0088】
<比較例1>トリスオルトメタル化イリジウム錯体(T−9)の製造
ベンゾ[h]キノリン1.15gと塩素架橋イリジウムダイマー(D−9)0.50gと特級エチレングリコール50mLとを100mLの二口フラスコに入れ、この反応溶液にアルゴンガスを20分間吹き込んだ後、反応溶液を磁気攪拌しながら、オイルバスを用い30分かけて210℃(オイルバスの温度)まで昇温し、アルゴン雰囲気下、210℃(オイルバスの温度)で1.5時間加熱還流させた。反応溶液を室温まで冷却した後、反応溶液を濾過し黄色固体を得た。この黄色固体をメタノール、純水、更にメタノールで洗浄後、真空乾燥し、化学式(化11)に記載のトリスオルトメタル化イリジウム錯体(T−9)を得た(収量0.561g、収率90%)。生成物をプロトンNMR(JEOL社製、JNM−ECX400:400MHz、DMSO‐d
6中)で分析した結果、フェイシャル体とメリジオナル体とが80:20(モル比)の混合物であった。
【0089】
<実施例2>トリスオルトメタル化イリジウム錯体(T−9)の製造
ベンゾ[h]キノリン13.7gと特級エチレングリコール240mLとを500mLの二口フラスコに入れ、マイクロ波反応装置(マイルストーンゼネラル社製、Microsynth)にセットした。この反応溶液にアルゴンガスを25分間吹き込んだ後、反応溶液を磁気攪拌しながら1kWのマイクロ波(2450MHz)を照射し、室温から沸騰状態(198℃〜200℃付近)まで約3分間で昇温させ予備加熱した。ここで、一旦マイクロ波照射を中断して、反応溶液に塩素架橋イリジウムダイマー(D−9)2.99gを粉末状態で添加し、更にアルゴン雰囲気下で1kWのマイクロ波を20分間照射して、198℃〜200℃付近で反応させた。反応溶液を室温まで冷却後、反応溶液を濾過し黄色固体を得た。この黄色固体をメタノール、純水、更にメタノールで洗浄後、真空乾燥し、化学式(化11)に記載のトリスオルトメタル化イリジウム錯体(T−9)を得た(収量3.54g、収率95%)。生成物をプロトンNMR(JEOL社製、JNM−ECX400:400MHz、DMSO‐d
6中)で分析した結果、フェイシャル体とメリジオナル体とが81:19(モル比)の混合物であった。反応スキームを反応式(化13)に示す。
【化13】
【0090】
<比較例2>トリスオルトメタル化イリジウム錯体(T−9)の製造
ベンゾ[h]キノリン14.3gと塩素架橋イリジウムダイマー(D−9)2.99gと特級エチレングリコール240mLとを500mLの二口フラスコに入れ、マイクロ波反応装置(マイルストーンゼネラル社製、Microsynth)にセットした。この反応溶液にアルゴンガスを25分間吹き込んだ後、反応溶液を磁気攪拌しながら1kWのマイクロ波(2450MHz)を照射し、室温から沸騰状態(198℃〜200℃付近)まで約3分間で昇温させ、更にアルゴン雰囲気下で1kWのマイクロ波を20分間照射して、198℃〜200℃付近で反応させた。反応溶液を室温まで冷却後、反応溶液を濾過し黄色固体を得た。この黄色固体をメタノール、純水、更にメタノールで洗浄後、真空乾燥し、化学式(化11)に記載のトリスオルトメタル化イリジウム錯体(T−9)を得た(収量3.48g、収率94%)。生成物をプロトンNMR(JEOL社製、JNM−ECX400:400MHz、DMSO‐d
6中)で分析した結果、フェイシャル体とメリジオナル体とが66:34(モル比)の混合物であった。
【0091】
<実施例3>トリスオルトメタル化イリジウム錯体(T−9)の製造
ベンゾ[h]キノリン2.34gと特級エチレングリコール50mLとを100mLの二口フラスコに入れ、この反応溶液にアルゴンガスを25分間吹き込んだ後、反応溶液を磁気攪拌しながら、オイルバスを用い30分かけて210℃(オイルバスの温度)まで昇温し予備加熱した。ここで反応溶液にイリジウム錯体(A−9)0.663gを粉末状態で添加し、アルゴン雰囲気下、210℃(オイルバスの温度)で30分間加熱還流させた。反応溶液を室温まで冷却した後、反応溶液を濾過し黄色固体を得た。この黄色固体をメタノール、純水、更にメタノールで洗浄後、真空乾燥し、化学式(化11)に記載のトリスオルトメタル化イリジウム錯体(T−9)を得た(収量0.575g、収率93%)。生成物をプロトンNMR(JEOL社製、JNM−ECX400:400MHz、DMSO‐d
6中)で分析した結果、フェイシャル体とメリジオナル体とが15:85(モル比)の混合物であった。反応スキームを反応式(化14)に示す。
【化14】
【0092】
<比較例3>トリスオルトメタル化イリジウム錯体(T−9)の製造
ベンゾ[h]キノリン2.30gとイリジウム錯体(A−9)0.665gと特級エチレングリコール50mLとを100mLの二口フラスコに入れ、この反応溶液にアルゴンガスを25分間吹き込んだ後、反応溶液を磁気攪拌しながら、オイルバスを用い1.5時間かけて210℃(オイルバスの温度)まで昇温し、アルゴン雰囲気下、210℃(オイルバスの温度)で30分間加熱還流させた。反応溶液を室温まで冷却した後、反応溶液を濾過し黄色固体を得た。この黄色固体をメタノール、純水、更にメタノールで洗浄後、真空乾燥し、化学式(化11)に記載のトリスオルトメタル化イリジウム錯体(T−9)を得た(収量0.587g、収率94%)。生成物をプロトンNMR(JEOL社製、JNM−ECX400:400MHz、DMSO‐d
6中)で分析した結果、フェイシャル体とメリジオナル体とが9:91(モル比)の混合物であった。
【0093】
<実施例4>トリスオルトメタル化イリジウム錯体(T−1)の製造
2‐フェニルピリジン300gと特級エチレングリコール3Lとを6Lのセパラブルフラスコに入れ、この反応溶液にアルゴンガスを25分間吹き込み、反応溶液を攪拌しながらキャビティ型マイクロ波反応装置(四国計測工業社製、SMW‐124)で6kWのマイクロ波(2450MHz)を照射し、室温から沸騰状態(198℃〜200℃付近)まで約6分間で昇温させた。ここで、一旦マイクロ波照射を中断して、反応溶液に塩素架橋イリジウムダイマー(D−1)30.4gを粉末状態で添加し、更にアルゴン雰囲気下で6kWのマイクロ波を1時間照射して、198℃〜200℃付近で反応させた。反応溶液を室温まで冷却後、反応溶液を濾過し黄色固体を得た。この黄色固体をメタノール、純水、更にメタノールで洗浄後、真空乾燥し、さらにDMFとメタノールの混合溶媒から再結晶することで、化学式(化11)に記載のトリスオルトメタル化イリジウム錯体(T−1)を得た(収量33.5g、収率90.0%)。生成物をHPLC(島津製作所社製 Prominence、検出波長:300nm)で分析した結果、フェイシャル体とメリジオナル体とが99.8:0.2(モル比)の混合物であった。反応スキームを反応式(化15)に示す。
【化15】
【0094】
<比較例4>トリスオルトメタル化イリジウム錯体(T−1)の製造
2‐フェニルピリジン300gと塩素架橋イリジウムダイマー(D−1)30.1gと特級エチレングリコール3Lとを6Lのセパラブルフラスコに入れ、キャビティ型マイクロ波反応装置(四国計測工業社製、SMW‐124)にセットした。この反応溶液にアルゴンガスを30分間吹き込んだ後、反応溶液を攪拌しながら6kWのマイクロ波(2450MHz)を照射し、室温から沸騰状態(198℃〜200℃付近)まで約6分間で昇温させ、更にアルゴン雰囲気下で6kWのマイクロ波を1時間照射して、198℃〜200℃付近で反応させた。反応溶液を室温まで冷却後、反応溶液を濾過し黄色固体を得た。この黄色固体をメタノール、純水、更にメタノールで洗浄後、真空乾燥し、さらにDMFとメタノールの混合溶媒から再結晶することで、化学式(化11)に記載のトリスオルトメタル化イリジウム錯体(T−1)を得た(収量33.5g、収率90.4%)。生成物をHPLC(島津製作所社製 Prominence、検出波長:300nm)で分析した結果、フェイシャル体とメリジオナル体とが99.2:0.8(モル比)の混合物であった。
【0095】
<実施例5>トリスオルトメタル化イリジウム錯体(T−6)の製造
2‐(2,4‐ジフルオロフェニル)ピリジン3.93gと特級エチレングリコール50mLとを100mLの2口フラスコに入れ、この反応溶液にアルゴンガスを20分間吹き込んだ後、反応溶液を磁気攪拌しながら、オイルバスを用い50分かけて210℃(オイルバスの温度)まで昇温し予備加熱した。次いで、反応溶液に塩素架橋イリジウムダイマー(D−6)0.499gを粉末状態で添加し、アルゴン雰囲気下、210℃(オイルバスの温度)で1.5時間加熱還流させた。反応溶液を室温まで冷却した後、反応溶液を濾過し淡黄色固体を得た。この淡黄色固体をメタノール、純水、更にメタノールで洗浄後、真空乾燥し、化学式(化11)に記載のトリスオルトメタル化イリジウム錯体(T−6)を得た(収量0.584g、収率93%)。生成物をプロトンNMR(JEOL社製、JNM−ECX400:400MHz、CDCl
3中)で分析した結果、フェイシャル体とメリジオナル体とが82:18(モル比)の混合物であった。反応スキームを反応式(化16)に示す。
【化16】
【0096】
<比較例5>トリスオルトメタル化イリジウム錯体(T−6)の製造
2‐(2,4‐ジフルオロフェニル)ピリジン3.93gと塩素架橋イリジウムダイマー(D−6)0.500gと特級エチレングリコール50mLとを100mLの2口フラスコに入れ、この反応溶液にアルゴンガスを20分間吹き込んだ後、反応溶液を磁気攪拌しながら、オイルバスを用い50分かけて210℃(オイルバスの温度)まで昇温し、アルゴン雰囲気下、210℃(オイルバスの温度)で1.5時間加熱還流させた。反応溶液を室温まで冷却した後、反応溶液を濾過し淡黄色固体を得た。この淡黄色固体をメタノール、純水、更にメタノールで洗浄後、真空乾燥し、化学式(化11)に記載のトリスオルトメタル化イリジウム錯体(T−6)を得た(収量0.582g、収率93%)。生成物をプロトンNMR(JEOL社製、JNM−ECX400:400MHz、CDCl
3中)で分析した結果、フェイシャル体とメリジオナル体とが76:24(モル比)の混合物であった。
【0097】
<実施例6>トリスオルトメタル化イリジウム錯体(T−3)の製造
2‐(4‐tert‐ブチルフェニル)ピリジン5.00gと特級エチレングリコール50mLとを100mLの2口フラスコに入れ、この反応溶液にアルゴンガスを20分間吹き込んだ後、反応溶液を磁気攪拌しながら、オイルバスを用い1時間かけて210℃(オイルバスの温度)まで昇温し予備加熱した。次いで、反応溶液に塩素架橋イリジウムダイマー(D−3)0.500gを粉末状態で添加し、アルゴン雰囲気下、210℃(オイルバスの温度)で1時間加熱還流させた。反応溶液を室温まで冷却した後、反応溶液を濾過し黄色固体を得た。この黄色固体をメタノール、純水、更にメタノールで洗浄後、真空乾燥し、化学式(化11)に記載のトリスオルトメタル化イリジウム錯体(T−3)を得た(収量0.453g、収率71%)。生成物をプロトンNMR(JEOL社製、JNM−ECX400:400MHz、CDCl
3中)で分析した結果、フェイシャル体とメリジオナル体とが100:0(モル比)であった。反応スキームを反応式(化17)に示す。
【化17】
【0098】
<比較例6>トリスオルトメタル化イリジウム錯体(T−3)の製造
2‐(4‐tert‐ブチルフェニル)ピリジン5.00gと塩素架橋イリジウムダイマー(D−3)0.500gと特級エチレングリコール50mLとを100mLの2口フラスコに入れ、この反応溶液にアルゴンガスを20分間吹き込んだ後、反応溶液を磁気攪拌しながら、オイルバスを用い1時間かけて210℃(オイルバスの温度)まで昇温し、アルゴン雰囲気下、210℃(オイルバスの温度)で1時間加熱還流させた。反応溶液を室温まで冷却した後、反応溶液を濾過し黄色固体を得た。この黄色固体をメタノール、純水、更にメタノールで洗浄後、真空乾燥し、化学式(化11)に記載のトリスオルトメタル化イリジウム錯体(T−3)を得た(収量0.422g、収率67%)。生成物をプロトンNMR(JEOL社製、JNM−ECX400:400MHz、CDCl
3中)で分析した結果、フェイシャル体とメリジオナル体とが100:0(モル比)であった。
【0099】
以上の実施例より、本発明に係る製造方法(実施例1〜5)は、従来の製造方法(比較例1〜5)と比較して、メリジオナル体の生成は抑制され、フェイシャル体の純度が向上することが明らかになった。フェイシャル体のトリスオルトメタル化イリジウム錯体は、その幾何異性体であるメリジオナル体よりも発光効率及び安定性で優れていることが明らかにされているので、本発明に係る製造方法で製造されたトリスオルトメタル化イリジウム錯体を発光素子材料として用いることで、高効率、かつ、高耐久性の発光素子を作製することができる。また、発光素子材料として好ましくないメリジオナル体を、種々の精製手法(再結晶、カラムクロマトグラフィー、昇華精製など)で低減することは、非常に手間と時間とを要することであることから、本発明の製造方法は、製造コスト低減にも大きく寄与でき、実用的利点は大である。
【0100】
実施例6及び比較例6は、共にフェイシャル体の生成比率が100%であったが、実施例6は、比較例6よりも、トリスオルトメタル化イリジウム錯体のフェイシャル体の収率(得られたトリスオルトメタル化イリジウム錯体の収率にフェイシャル体の生成比率を乗じた値)が高かった。