特許第5881283号(P5881283)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5881283
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】有機薄膜太陽電池用n型半導体材料
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/46 20060101AFI20160225BHJP
【FI】
   H01L31/04 154F
【請求項の数】6
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2010-232149(P2010-232149)
(22)【出願日】2010年10月15日
(65)【公開番号】特開2012-89538(P2012-89538A)
(43)【公開日】2012年5月10日
【審査請求日】2013年7月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永井 隆文
(72)【発明者】
【氏名】安蘇 芳雄
(72)【発明者】
【氏名】家 裕隆
(72)【発明者】
【氏名】辛川 誠
【審査官】 井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−009731(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/107101(WO,A1)
【文献】 Maria Sierra, M. Angeles Herranz, Sheng Zhang, Luis Sanchez, Nazario Martin, and Luis Echegoyen,Self-Assembly of C60 π-Extended Tetrathiafulvalene (exTTF) Dyads onGold Surfaces,Langmuir,2006年 9月 2日,Volume 22,Pages 10619-10624
【文献】 Alexander F. Khlebnikov et al.,Stereoselective Cycloaddition of Dibenzoxazepinium Ylides to Acetylenes and Fullerene C60. Conformational Behavior of 3-Aryldibenzo[b,f]pyrrolo[1,2-d][1,4]oxazepine Systems,J. Org. Chem. ,2010年 7月,Vol.75,PP.5211-5215
【文献】 Gianluca Accorsi et al.,Controlling photoinduced energy and electron transfer in a multicomponent fullerene array,Electrochemical Society Proceedings ,2002年
【文献】 TONG, Chen-Hua et al.,N-Unsubstituted and N-Arylated Fulleropyrrolidines:New Useful Building Blocks for C60 Functionalization,Chinese Journal of Chemistry,2006年,Vol.24,P.1175-1179
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/02−31/078、31/18−31/20、
51/42−51/48
H02S 10/00−50/15
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
Science Direct
IEEE Xplore
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】
(式中、
Arが置換基としてフェニル基、シアノ基、アルコキシ基(当該基のアルキル基部分の炭素数は1〜20である。)、アルコシキカルボニル基(当該基のアルキル基部分の炭素数は1〜20である。)、又は炭素数1〜20のアルキル基を有するか、又は無置換であるフェニル基であって、
R1及びR2のいずれか一方が水素原子であり、
他方が、炭素数1〜6のアルキル基、置換基としてアルコキシカルボニル基(当該基のアルキル基部分の炭素数は1〜6である。)を有する炭素数1〜6のアルキル基、置換基としてアルコキシ基(当該基のアルキル基部分の炭素数は1〜6である。)を有する炭素数1〜6のアルキル基、置換基としてポリエーテル基(当該基のアルキル基部分の炭素数は1〜6である。)を有する炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基、置換基として炭素数1〜6のアルキル基を有するフェニル基、置換基としてアルコキシカルボニル基(当該基のアルキル基部分の炭素数は1〜6である。)を有するフェニル基、又は置換基としてアルコキシ基(当該基のアルキル基部分の炭素数は1〜6である。)を有するフェニル基である。ここで、Ar、R1及びR2は、それぞれ互いに連結しない。また、式中
【化2】
で表される部分は、炭素原子数60個のフラーレン骨格を示す)で表されるフラーレン誘導体からなる有機薄膜太陽電池用n型半導体材料。
【請求項2】
R1及びR2のいずれか一方が水素原子であり、他方が、炭素数1〜6のアルキル基、置換基としてアルコキシカルボニル基(当該基のアルキル基部分の炭素数は1〜6である。)を有する炭素数1〜6のアルキル基、置換基としてアルコキシ基(当該基のアルキル基部分の炭素数は1〜6である。)を有する炭素数1〜6のアルキル基、置換基としてポリエーテル基(当該基のアルキル基部分の炭素数は1〜6である。)を有する炭素数1〜6のアルキル基、又はフェニル基である、請求項1に記載の有機薄膜太陽電池用n型半導体材料。
【請求項3】
R1及びR2のいずれか一方が水素原子であり、他方が、炭素数1〜6のアルキル基、置換基としてアルコキシカルボニル基(当該基のアルキル基部分の炭素数は1〜6である。)を有する炭素数1〜6のアルキル基、置換基としてポリエーテル基(当該基のアルキル基部分の炭素数は1〜6である。)を有する炭素数1〜6のアルキル基、又はフェニル基である、請求項1に記載の有機薄膜太陽電池用n型半導体材料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のn型半導体材料を含む光変換層を有する有機薄膜太陽電池。
【請求項5】
光変換層が、バルクヘテロジャンクション構造を有するものである請求項4に記載の有機薄膜太陽電池。
【請求項6】
光変換層が、請求項1〜3のいずれか一項に記載のn型半導体材料とポリ−3−ヘキシルチオフェンからなるp型半導体材料を含むものである、請求項4又は5に記載の有機薄膜太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜太陽電池用n型半導体材料、及び該n型半導体材料を用いた太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
有機薄膜太陽電池は、光変換材料として有機化合物を用い、溶液からの塗布法によって形成されるものであり、1)デバイス作成時のコストが低い、2)大面積化が容易である、3)シリコン等の無機材料と比較してフレキシブルであり使用できる場所が広がる、4)資源枯渇の心配が少ない、等の各種の利点を有するものである。このため、近年、有機薄膜太陽電池の開発が進められており、特に、バルクヘテロジャンクション構造を採用することによって変換効率を大きく向上させることが可能となり、広く注目を集めるに至っている。
【0003】
有機薄膜太陽電池に用いる光変換素地用材料の内で、p型半導体については、特に、ポリ−3−ヘキシルチオフェン(P3HT)が優れた性能を有するp型半導体材料として知られている。最近では、より高機能を目指して、太陽光の広域の波長を吸収できる構造やエネルギー準位を調節した構造を有する化合物が開発され、性能向上に大きく貢献している。
【0004】
一方、n型半導体に関しては、フラーレン誘導体が盛んに検討されており、優れた光変換性能を有する材料として、[6,6]-フェニルC61-酪酸メチルエステル (PCBM)が報告されている(下記特許文献1,2等参照)。しかしながら、PCBM以外のフラーレン誘導体に関しては、安定して良好な変換効率を達成できることが実証された例は殆どない。
【0005】
フラーレン誘導体の合成方法に関しては、幾つかの合成方法が提案されており、収率、純度の点から、ジアゾ化合物を用いた3員環構造を有する誘導体の合成方法と、グリシン誘導体とアルデヒドから発生させたアゾメチンイリドを付加させた5員環構造を有する誘導体の合成方法が優れた方法として知られている。
【0006】
前述したPCBMは、3員環構造を有するフラーレン誘導体であり、フラーレン骨格にカルベン中間体が付加した3種類の生成物の混合物を得た後、光照射或いは加熱処理による変換反応を経由することによって得られるものである。しかしながら、この製造方法で得られる3員環構造の誘導体は、置換基の導入位置、個数に関して制限が有るために、新規なn型半導体の開発には大きな制約がある。
【0007】
一方、5員環構造を有する誘導体に関しては、構造上の多様性面で優れていると考えられるが、有機薄膜太陽電池のn型半導体として優れた性能を有する誘導体についての報告は殆どない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−8426号公報
【特許文献2】特開2010―92964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされてものであり、その主な目的は、有機薄膜太陽電池の光変換素子用のn型半導体として優れた性能を有する材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。そして、5員環構造を有するフラーレン誘導体は、グリシン誘導体とアルデヒド誘導体の組合せにより一工程で得ることができ、これら2つの原料の組合せの選択肢が多いことから、構造上の多様性面で優れているという点に着目し、各種の誘導体について有機薄膜太陽電池用n型半導体材料としての性能に関して検討を重ねてきた。その結果、ピロリジン骨格を有するC60フラーレン誘導体の内で、特に、窒素原子に直接結合したアリール基を有する化合物は、その他のフラーレン誘導体と比較して、非常に高い変換効率を有するという従来全く知られていない事実を見出すに至った。本発明は、かかる知見に基づいて鋭意研究を重ねた結果、完成されたものである。
【0011】
即ち、本発明は、下記の有機薄膜太陽電池用n型半導体材料及び該n型半導体材料を用いる有機薄膜太陽電池を提供するものである。
項1. 一般式(1)
【0012】
【化1】
【0013】
(式中、R1及びR2は、同一又は相異なって、水素原子、置換基を有することのあるアルキル基、置換基を有することのあるアルケニル基、置換基を有することのあるアルキニル基、置換基を有することのあるアリール基、又は置換基を有することのあるアラルキル基を示し、Arは置換基を有することのあるアリール基を示す。但し、R1とR2が同時に水素原子であることはない。また、式中
【0014】
【化2】
【0015】
で表される部分は、炭素原子数60個のフラーレン骨格を示す)で表されるフラーレン誘導体からなる有機薄膜太陽電池用n型半導体材料。
項2. Arが、置換基を有することのあるフェニル基であって、R1及びR2のいずれか一方が水素原子であり、他方が、置換基としてアルコキシカルボニル基を有するアルキル基、置換基としてアルコキシ基を有するアルキル基、置換基としてポリエーテル基を有するアルキル基、置換基としてアミノ基を有するアルキル基、又は置換基を有することのあるフェニル基である、上記項1に記載の有機薄膜太陽電池用n型半導体材料。
項3. Arが置換基としてフェニル基、シアノ基、アルコキシ基、アルコシキカルボニル基、又はアルキル基を有することのあるフェニル基であって、R1及びR2のいずれか一方が水素原子であり、他方が、置換基としてアルコキシカルボニル基を有するアルキル基、置換基としてアルコキシ基を有するアルキル基、置換基としてポリエーテル基を有するアルキル基、フェニル基、置換基としてアルキル基を有するフェニル基、置換基としてアルコキシカルボニル基を有するフェニル基、又は置換基としてアルコキシ基を有するフェニル基である、上記項1又は2に記載の有機薄膜太陽電池用n型半導体材料。
項4. 上記項1〜3のいずれか一項に記載のn型半導体材料を含む光変換層を有する有機薄膜太陽電池。
項5. 光変換層が、バルクヘテロジャンクション構造を有するものである上記項4に記載の有機薄膜太陽電池。
項6. 光変換層が、上記項1〜3のいずれか一項に記載のn型半導体材料とポリ−3−ヘキシルチオフェンからなるp型半導体材料を含むものである、上記項4又は5に記載の有機薄膜太陽電池。
【0016】
以下、本発明の有機薄膜太陽電池用n型半導体材料について具体的に説明する。
【0017】
n型半導体材料
本発明の有機薄膜太陽電池用n型半導体材料は、下記一般式(1)で表されるフラーレン誘導体からなるものである。
【0018】
【化3】
【0019】
上記一般式(1)において、R1及びR2は、同一又は相異なって、水素原子、置換基を有することのあるアルキル基、置換基を有することのあるアルケニル基、置換基を有することのあるアルキニル基、置換基を有することのあるアリール基、又は置換基を有することのあるアラルキル基を示し、Arは置換基を有することのあるアリール基を示す。但し、R1とR2が同時に水素原子であることはない。
【0020】
また、一般式(1)において、
【0021】
【化4】
【0022】
で表される部分は、炭素原子数60個のフラーレン(C60フラーレン)骨格を示すものであり、後述する全ての化学式において同じ意味である。
【0023】
上記一般式(1)で表されるフラーレン誘導体は、各種の有機溶媒に対して良好な溶解性を示すために塗布法による薄膜の形成が容易な化合物であり、更に、n型半導体材料として用いてバルクバルクヘテロジャンクション構造を有する光変換層を形成した際に高い変換効率を発現する化合物である。このため、該フラーレン誘導体は、有機薄膜太陽電池用のn型半導体材料として優れた性能を有する化合物である。
【0024】
上記一般式(1)において、Arで表されるアリール基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基、アントラリル基、フェナントリル基などを挙げることができる。特に、フェニル基が好ましい。
【0025】
Arで表される置換基を有することのあるアリール基の置換基としては、例えば、アリール基、アルキル基、シアノ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基等を例示できる。これらの置換基の内で、アリール基としては、フェニル基等を例示できる。アルキル基、及びアルコキシ基のアルキル基部分としては、後述するR1及びR2で表されるアルキル基と同様に炭素数1〜20程度のアルキル基を例示できる。これらの置換基の数、及び置換位置については特に限定ないが、例えば、1〜3個程度の置換基がArで表されるアリール基の任意の位置に存在することができる。
【0026】
R1及びR2で表される基の内で、アルキル基としては、炭素数1〜20程度のアルキル基が好ましく、炭素数1〜12程度のアルキル基が好ましく、炭素数6〜12程度のアルキル基が特に好ましい。これらのアルキル基は、直鎖状及び分枝鎖状のいずれでもよいが、特に、直鎖状であることが好ましい。尚、アルキル基には、炭素鎖中に更にS、Oなどの異種元素が一個又は二個以上含まれていても良い。
【0027】
R1及びR2で表される基の内で、アルケニル基としては、炭素数2〜10程度のアルケニル基が好ましく、特に好ましい具体例としては、ビニル基、1−プロペニル基、アリル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1−メチル−2−プロペニル基、1,3−ブタジエニル基等の炭素数2〜4の直鎖状又は分岐鎖状アルケニル基を挙げることができる。
【0028】
R1及びR2で表される基の内で、アルキニル基としては、炭素数1〜10程度のアルキニル基が好ましく、特に好ましい具体例として、エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、1−メチル−2−プロピニル基、1−ブチニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基等の炭素数2〜4の直鎖状又は分岐鎖状アルキニル 基を挙げることができる。
【0029】
R1及びR2で表される基の内で、アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラリル基、フェナントリル基などを例示できる。
【0030】
R1及びR2で表される基の内で、アラルキル基としては、2−フェニルエチル、ベンジル、1−フェニルエチル、3−フェニルプロピル、4−フェニルブチル等の炭素数7〜20程度のアラルキル 基を例示できる。
【0031】
R1及びR2で表される基が有してもよい置換基としては、アルキル基、アルコキシカルボニル基、ポリエーテル基、アルカノイル基、アミノ基、アミノカルボニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、基:−CONHCOR’(式中、R’はアルキル基である)、基:−C(=NR’)−R’’(式中、R’及びR’’はアルキル基である)、基:−NR’=CR’’R’’’(式中、R’、R’’及びR’’’はアルキル基である)などを例示できる。
【0032】
これらの置換基の内で、ポリエーテル基としては、例えば、式:R−(OR−O−で表される基を例示できる。ここで、Rはアルキル基等の一価の炭化水素基であり、Rは、二価の脂肪族炭化水素基である。上記式で表されるポリエーテル基において、−(OR−で表される繰り返し単位の具体例としては、−(OCH−、−(OC−、−(OC−等のアルコキシ鎖が挙げられる。これらの繰り返し単位の繰り返し数nは、1〜20程度であることが好ましく、1〜5程度であることがより好ましい。−(OR−で表される繰り返し単位には、同一の繰り返し単位だけではなく、二種以上の異なる繰り返し単位が含まれていてもよい。上記した繰り返し単位の内で、−OC−及び−OC−については、直鎖状及び分枝鎖状のいずれであっても良い。
【0033】
また、前記置換基の内で、アルキル基と、アルコキシカルボニル基、アルカノイル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、ポリエーテル基、基:−CONHCOR’、基:−C(=NR’)−R’’、及び基:−NR’=CR’’R’’’におけるアルキル基部分は、前述したアルキル基と同様に、炭素数1〜20程度のアルキル基が好ましく、炭素数1〜12程度のアルキル基がより好ましく、炭素数6〜12程度のアルキル基が特に好ましい。
【0034】
アミノ基、及びアミノカルボニル基におけるアミノ基部分としては、特に、炭素数1〜20程度のアルキル基が一個又は二個結合したアミノ基が好ましい。
【0035】
上記一般式(1)で表されるフラーレン誘導体の内で、好適な性能を有する化合物の例としては、Arが、置換基を有することのあるフェニル基であって、R1及びR2のいずれか一方が水素原子であり、他方が、置換基としてアルコキシカルボニル基を有するアルキル基、置換基としてアルコキシ基を有するアルキル基、置換基としてポリエーテル基を有するアルキル基、置換基としてアミノ基を有するアルキル基、又は置換基を有することのあるフェニル基である化合物を例示できる。
【0036】
このような化合物の内で、特に優れた性能を有する化合物の一例としては、Arが置換基としてフェニル基、シアノ基、アルコキシ基、アルコシキカルボニル基、又はアルキル基を有することのあるフェニル基であって、R1及びR2のいずれか一方が水素原子であり、他方が、置換基としてアルコキシカルボニル基を有するアルキル基、置換基としてアルコキシ基を有するアルキル基、置換基としてポリエーテル基を有するアルキル基、フェニル基、置換基としてアルキル基を有するフェニル基、置換基としてアルコキシカルボニル基を有するフェニル基、又は置換基としてアルコキシ基を有するフェニル基である化合物を挙げることができる。これらの化合物は、ピロリジン骨格上に適度な極性を有する基を含むものであり、自己組織化性が良好であるために、バルクヘテロジャンクション構造の光変換層を形成する際に、適切な層分離構造を有するバルクヘテロジャンクション構造の光変換部を形成でき、これにより電子移動度などが向上して高い変換効率が発現されるものと考えられる。
【0037】
フラーレン誘導体の製造方法
上記一般式(1)で表されるフラーレン誘導体は、公知のフラーレン誘導体の製造方法または、これに準じた方法によって製造することができる。
【0038】
例えば、一般式(2):Ar-NH-CHR1COOHで表されるグリシン誘導体、一般式(3):R2CHOで表されるアルデヒド化合物、及びC60フラーレンを反応させることによって、目的とする一般式(1)で表されるフラーレン誘導体を得ることができる。一般式(2)におけるAr及びR1と、一般式(3)におけるR2は、それぞれ、一般式(1)におけるAr、R1及びR2と同義であり、目的物における各基に対応するものである。
【0039】
上記反応は、無溶媒又は溶媒中で行うことができる。溶媒としては、二硫化炭素、クロロホルム、ジクロロエタン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどを用いることができる。特に、トルエン、クロロベンゼンなどが好ましい。これらの溶媒は、一種単独又は二種以上混合して用いても良い。
【0040】
一般式(2)で表されるグリシン誘導体、一般式(3)で表されるアルデヒド化合物及びC60フラーレンの混合割合は、特に限定的ではないが、収率を高くする観点から、該グリシン誘導体と該アルデヒド化合物の量は、それぞれC60フラーレン1モルに対して、0.1〜10モル程度とすることが好ましく、0.5〜2モル程度とすることがより好ましい。
【0041】
反応温度は、通常、室温〜150℃程度とすればよく、80〜120℃程度とすることが好ましい。例えば、溶媒を用いる場合には、用いた溶媒の沸点程度で反応を行えばよい。
【0042】
反応時間は、通常、1〜48時間程度、好ましくは10〜24時間程度とすればよい。
【0043】
上記方法によって得られる一般式(1)で表されるフラーレン誘導体は、必要に応じて、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製後に、HPLCで更に精製することができる。この際、シリカゲルカラムクロマトグラフィーの展開溶媒としては、ヘキサン−クロロホルム、ヘキサン−トルエン、ヘキサン−二硫化炭素などを用いることができ、HPLCの展開溶媒としては、クロロホルム、トルエンなどを用いることができる。
【0044】
上記したフラーレン誘導体の製造方法で用いる原料の内で、一般式(2):Ar-NH-CHR1COOHで表されるグリシン誘導体は、公知化合物又は公知の方法によって容易に得ることができる化合物であり、例えば、下記の方法で合成することができる。尚、下記の反応式において、Arは置換基を有することのあるアリール基であり、目的とするフラーレン誘導体のArに対応するものである。
【0045】
(1)アニリン誘導体とハロゲン化酢酸とを反応させる方法。
【0046】
【化5】
【0047】
上記反応は、水、メタノール、エタノールなどを溶媒として行うことができ、必要に応じて塩基を共存させることができる。
【0048】
(2)アニリン誘導体とハロゲン化酢酸エステルを反応させた後、得られたグリシン誘導体エステルを加水分解する方法。
【0049】
【化6】
【0050】
この方法において、アニリン誘導体とハロゲン化酢酸エステルの反応は、メタノール、エタノールなどを溶媒として、酢酸塩、炭酸塩、リン酸塩、3級アミンなどの塩基の存在下に行うことができる。グリシン誘導体エステルの加水分解は、通常、水溶性アルカリの存在下に室温で行うことができる。
【0051】
(3)芳香族ハロゲン化物とグリシンとを反応させる方法。
【0052】
【化7】
【0053】
この反応は、例えば、触媒として一価銅を用い、これにバルキーなアミン、アミノ酸、アミノアルコールなどを共存させた状態で行うことができる。反応溶媒は水、メタノール、エタノールが好ましく用いられる。また反応温度は、室温〜100℃程度である。
【0054】
また、上記したフラーレン誘導体の製造方法で用いる原料の内で、一般式(3):R2CHOで表されるアルデヒド化合物も、公知化合物又は公知の方法によって容易に得ることができる化合物であり、例えば、下記の方法で合成することができる。尚、下記の反応式において、R2は前記一般式(1)におけるR2と同義であり、目的とするフラーレン誘導体のR2に対応するものである。
【0055】
(1)R2CH2OHで表されるアルコールを酸化させる方法。
【0056】
この方法では、アルコールの酸化反応は公知の方法に従って行うことができる。例えば、酸化剤としてクロム酸、酸化マンガン等を用いる方法;ジメチルスルホキシドを酸化剤とするスワーン(swern)酸化;触媒共存下に過酸化水素、酸素、空気等を用いて酸化する方法などを適用できる。
【0057】
(2)R2COOHで表されるカルボン酸、又はこの酸ハライド、エステル、酸アミドなどを還元する方法。
【0058】
この方法では、還元剤として金属水素化物を用いる方法;触媒存在下に水素還元する方法;ヒドラジンを還元剤とする方法などを適用できる。
【0059】
(3)ハロゲン化物のカルボニル化反応。
【0060】
【化8】
【0061】
この方法では、上記反応式に従ってハロゲン化物からアニオンを形成し、これをカルボニル化する方法を適用できる。ここでのカルボニル基導入試薬としては、DMF或いはピペリジン、モルホリン、ピペラジン、またはピロリジンのN−ホルミル誘導体などのアミド化合物が用いられる。
【0062】
フラーレン誘導体の用途
上記一般式(1)で表されるフラーレン誘導体は、有機薄膜太陽電池用n型半導体として有用である。該フラーレン誘導体は、太陽電池の光変換層のn型半導体として高い変換効率を示すと共に、クロロホルム、クロロベンゼンなどの各種の有機溶媒に対する溶解性が良好であるために、スピンコート法等の塗布法を適用した公知の薄膜形成方法によって、各種の基板上に該フラーレン誘導体をn型半導体として含む光変換層を形成することができる。
【0063】
一般式(1)で表されるフラーレン誘導体をn型半導体として用いる有機薄膜太陽電池の構造については特に限定はなく、公知の有機薄膜太陽電池と同様の構造とすればよく、公知の製造方法に従って作製することができる。
【0064】
該フラーレン誘導体を含む有機薄膜太陽電池の一例としては、例えば、基板上に、透明電極、正孔輸送層、光変換層、電子輸送層及び対極が順次積層された構造の太陽電池を例示できる。このような構造の太陽電池において、光変換層以外の各層の材料としては、公知の材料を適宜用いることができる。
【0065】
光変換層については、一般式(1)で表されるフラーレン誘導体をn型半導体として用いることが必要である。p型半導体については、公知の有機p型半導体材料を用いることができる。例えば、ポリ−3−ヘキシルチオフェン、ポリ−p−フェニレンビニレン、ポリ−アルコキシ−p−フェニレンビニレン、ポリ−9,9−ジアルキルフルオレンなどが好ましいが、特に、有機薄膜太陽電池用p型半導体として優れた性能を有するポリ−3−ヘキシルチオフェン(P3HT)を用いてバルクヘテロジャンクション構造の光変換層を形成することによって、高い変換効率を有する有機薄膜太陽電池を得ることができる。このような高い変換効率を示す理由については、上記一般式(1)で表されるフラーレン誘導体は、P3HTと良好な親和性を有すると共に、適度な自己凝集性を有するために、P3HTと混合してバルクヘテロジャンクション構造の光変換層を形成する際に、適切な層分離構造を有するバルクヘテロジャンクション構造の光変換層が形成され、これにより電子移動度が向上することが要因の一つと考えられる。
【発明の効果】
【0066】
本発明のn型半導体材料の有効成分である一般式(1)表されるフラーレン誘導体は、各種の有機溶媒に対して良好な溶解性を示す化合物であり、塗布法による光変換層の形成が可能であり、形成される光変換層は大面積化も容易である。
【0067】
また、該フラーレン誘導体は、p型半導体材料との相溶性が良好であって、且つ適度な自己凝集性を有する化合物である。このため、該フラーレン誘導体をn型半導体材料としてバルクジャンクション構造の光変換層を形成することによって、高い変換効率を有する有機薄膜太陽電池を得ることができる。
【0068】
更に、該フラーレン誘導体は、グリシン誘導体とアルデヒド誘導体を原料として簡単な方法で合成可能な化合物である。
【0069】
よって、該フラーレン誘導体をn型半導体材料として用いることによって、低コストで優れた性能を有する有機薄膜太陽電池を作製することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0070】
以下、本発明のn型半導体材料の有効成分であるフラーレン誘導体の合成例及び性能試験例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0071】
合成例1(化合物1の合成)
【0072】
【化9】
【0073】
(1)メチル5−オキソペンタノエート(methyl 5-oxopentanoate)の合成工程
J.Chem.Soc. PERKIN TRANS.1, 1986年, 567頁に記載された方法に従って、下記の方法でメチル5−オキソペンタノエートを合成した。
【0074】
δ-バレロラクトン(10g, 100mmol)とナトリウムメトキシド(1.08g, 20mmol)をメタノール(50mL)中で8時間加熱還流下に撹拌した。冷却後、反応液を水200mLで薄めて、ジイソプロピルエーテルで抽出した。溶媒を溜去後、反応物をこのままPCC(2当量)の塩化メチレン(40mL)中に加えて、室温で3時間撹拌した。反応液をジイソプロピルエーテルで抽出、溶媒を溜去後、減圧下に蒸留し(bp 48℃ 1mmHg)、メチル5−オキソペンタノエートを得た(6.5g、50%)。
【0075】
(2)化合物2の合成工程
上記方法で合成したメチル5−オキソペンタノエート (65mg, 0.5mmol)、N-フェニルグリシン (151mg, 1mmol)及びC60フラーレン (350mg, 0.5mmol) を、トルエン150mL中で100℃で15時間撹拌した。冷却後、溶媒を溜去し、反応物をカラムクロマトグラフィー(SiO2, n-ヘキサン:トルエン=1:1〜トルエン)により分離して、化合物(1)を得た後(176mg, 37%)、さらに分取GPC(クロロホルム)で精製した。
1H-NMR (CDCl3)δ: 2.04-2.22 (2H, m), 2.45-2.57 (3H, m), 2.60-2.72 (1H, m), 3.71 (3H, s), 5.08 (1H, d, J=10.6Hz), 5.40 (1H, d, J=10.6Hz), 5.69 (1H, d-d, J=7.3, 5.5Hz), 7.01 (1H, d-d, J=7.3, 7.3Hz), 7.31 (2H, d, J=7.8Hz), 7.45 (2H, d-d, 7.8, 7.3Hz)。
【0076】
合成例2(化合物2の合成)
【0077】
【化10】
【0078】
ヘプタナール (28.5mg, 0.25mmol), N-フェニルグリシン (76mg, 0.5mmol), 及びC60フラーレン (175mg, 0.25mmol) を、トルエン100ml中で110℃で24時間撹拌した。冷却後、溶媒を溜去し、反応物をカラムクロマトグラフィー(SiO2, n-ヘキサン:トルエン=10:1)により分離し、化合物2(163mg, 70.6%)を得た後、さらに分取GPC(クロロホルム)で精製した。
1H-NMR (CDCl3)δ: 0.88 (3H, t, J=6.9Hz), 1.25-1.40 (4H, m), 1.40-1.60 (2H, m), 1.72-1.86 (2H, m), 2.40-2.52 (1H, m), 2.58-2.70 (1H, m), 5.09 (1H, d, J=10.5Hz), 5.39 (1H, d, J=10.5Hz), 5.66 (1H, d-d, J=7.8, 5.0Hz), 7.00 (1H, d-d, J=7.3, 7.3Hz), 7.30 (2H, d, J=7.3Hz), 7.45 (2H, d-d, J=7.3, 7.3Hz)。
【0079】
合成例3(化合物3の合成)
【0080】
【化11】
【0081】
C60フラーレン(175mg, 0.25mmol)、 ベンツアルデヒド(27mg, 0.25mmol)及び N-フェニルグリシン(76mg, 0.5mmol)をトルエン(100mL)中で、還流下で24時間撹拌した。冷却後、溶媒を溜去して、生成物をシリカゲルカラムクロマト(n-ヘキサン:トルエン=20:1〜10:1)で分離し、さらに分取GPC(クロロホルム)で精製した。収率29.7%。
1H-NMR(CDCl3):δ5.00 (1H, d, J=10.5Hz), 5.68 (1H, d, J=10.5Hz), 6.08 (1H, s), 7.02-7.10 (1H, m), 7.22-7.40 (7H, m), 7.70-7.81 (2H, m)。
【0082】
合成例4(化合物4の合成)
【0083】
【化12】
【0084】
(1)N−(4-シアノフェニル)グリシンの合成工程
Journal of Organic Chemistry, 1957年, 22巻, 78頁に記載の方法に従って、下記の方法でN−(4-シアノフェニル)グリシンを合成した。
【0085】
まず、4−アミノベンゾニトリル(6g、50mmol)とクロロ酢酸(10g, 110mmol)を水150mL中で24時間過熱還流した。冷却後、析出した結晶を水から再結晶してN−(4-シアノフェニル)グリシンを得た。
1H-NMR(CD3OD):δ 3.93 (2H, bs), 6.63 (2H, d, J=8.9Hz), 7.40 (2H, d, J=8.9Hz)。
【0086】
(2)化合物4の合成工程
C60フラーレン(175mg, 0.25mmol)、ペンタナール(28mg, 0.25mmol)及び上記方法で合成したN−(4-シアノフェニル)グリシン(88mg, 0.5mmol)をトルエン(100mL)中、還流下で24時間撹拌した。冷却後、溶媒を溜去して、生成物をシリカゲルカラムクロマト(n-hexane:toluene=2:1)で分離し、さらに分取GPC(クロロホルム)で精製した。収率27.4%。
1H-NMR(CDCl3):δ0.90 (3H, t, J=6.9Hz), 1.25-1.40 (4H, m), 1.43-1.70 (2H, m), 1.75-1.86 (2H,m), 2.45-2.60 (1H, m), 2.62-2.75 (1H, m), 5.16 (1H, d, J=10.5Hz), 5.53 (1H, d, J=10.5Hz), 5.82 (1H, t, J=7.8Hz), 7.25 (2H, d, J=7.3Hz), 7.70 (2H, d, J=7.3Hz)。
【0087】
合成例5(化合物5の合成)
【0088】
【化13】
【0089】
(1)N-(4-メトキシフェニル) グリシンの合成工程
Eurpean Journal of Medicinal Chemistry, 2008年, 43巻, 1715頁に記載の方法に従って、下記の方法でN-(4-メトキシフェニル) グリシンを合成した。
【0090】
【化14】
【0091】
まず、4−アミノアニソール(1.23g, 10mmol)、ブロモ酢酸エチル(1.67g, 10mmol)及び酢酸ナトリウム(820mg, 10mmol)を、エタノール1mL中で15時間過熱還流した。冷却後、溶媒を溜去して、生成物をシリカゲルカラムクロマト(n-ヘキサン:酢酸エチル=10:1)で分離し、N-(4-メトキシフェニル) グリシンエチルエステルを得た(1.02g, 49%)。
1H-NMR(CD3OD):δ 3.69 (2H, bs), 6.62 (2H, d, J=8.8Hz), 6.75 (2H, d, J=8.8Hz)。
【0092】
(2)化合物5の合成工程
C60フラーレン(175mg, 0.25mmol)、 ペンタナール(57mg, 0.5mmol)及び 上記方法で得たN-(4-メトキシフェニル)グリシン(90mg, 0.5mmol)をクロロベンゼン(100mL)中で120℃で48時間撹拌した。これを冷却後、溶媒を溜去し、生成物をシリカゲルカラムクロマト(n-hexane:toluene=3:1〜2:1)で分離し、目的物を93mg得た後(収率39%)、さらに分取GPC(クロロホルム)で精製した。
1H-NMR(CDCl3):δ0.86 (3H, t, J=7.1Hz), 1.20-1.35 (4H, m), 1.35-1.55 (2H, m), 1.60-1.80 (2H, m), 2.30-2.42 (1H, m), 2.50-2.63 (1H, m), 3.89 (3H, s), 5.03 (1H, d, J=10.5Hz), 5.14 (1H, d, J=10.5Hz), 5.32 (1H, d-d, J=7.3, 4.6Hz), 7.03 (2H, d, J=9.2Hz), 7.34 (2H, d, J=9.2Hz)。
【0093】
合成例6(化合物6の合成)
【0094】
【化15】
【0095】
(1)N-(4-ビフェニル) グリシンの合成工程
Tetrahedron Letters, 2005年, 46巻, 2997頁に記載の方法に従って、下記の方法でN-(4-ビフェニル) グリシンを合成した。
【0096】
【化16】
【0097】
まず、4−ビフェニルヨージド(2.48g、8.9mmol)、グリシン(2.0g, 27mmol)、ヨウ化第一銅(190mg, 1mmol)、リン酸カリウム(13.3g, 63mmol)、2−(ジメチルアミノ)エタノール(3mL)及び水(10mL)の混合物を90℃で3日間撹拌した。冷却後、反応液を水で薄めてからジイソプロピルエーテルで2回洗浄した。残った水相を5%塩酸でpH3に調製した後、酢酸エチルで3回抽出した。有機相を減圧下に濃縮して、N-(4-ビフェニル)グリシンを得た。
1H-NMR(CD3OD):δ 3.95 (2H, s), 6.72 (2H, d, J=7.3Hz), 7.20 (1H, t, J=7.3Hz), 7.34 (2H, d-d, J=7.3, 7.3Hz), 7.42 (2H, d, J=7.3Hz), 7.52 (2H, d, J=7.3Hz)。
【0098】
(2)化合物6の合成工程
C60フラーレン(90mg, 0.125mmol)、ペンタナール(14.3mg, 0.12mmol)及び上記方法で合成した N-(4-ビフェニル)グリシン(28.5mg, 0.12mmol)をクロロベンゼン(50mL)中で120℃で70時間撹拌した。これを冷却後、溶媒を溜去して、生成物をシリカゲルカラムクロマト(n-ヘキサン:トルエン=10:1)で分離し、化合物6を9mg(収率9%)得た後、さらに分取GPC(クロロホルム)で精製した。
1H-NMR(CDCl3):δ0.88 (3H, t, J=7.0Hz), 1.15-1.40 (4H, m), 1.40-1.60 (2H, m), 1.75-1.90 (2H, m), 2.40-2.60 (1H, m), 2.60-2.75 (1H, m), 5.12 (1H, d, J=11.0Hz), 5.44 (1H, d, J=11.0Hz), 5.72 (1H, d-d, J=7.3, 5.5Hz), 7.10-7.20 (2H, m), 7.20-7.30 (2H, m), 7.30-7.40 (2H, m), 7.44-7.50 (1H, m), 7.64-7.73 (2H, m)。
【0099】
合成例7(化合物7の合成)
【0100】
【化17】
【0101】
(1)m-ラウリルベンツアルデヒドの合成工程
Bioorganic&Medicinal chemistry Letters, 2000年, 10巻, 2101頁に記載の方法に従って、下記の方法で3−ドデシルベンツアルデヒドを合成した。
【0102】
【化18】
【0103】
3-ブロモベンツアルデヒド(832mg, 4.5mmol)、Pd(OAc)2(51.6mg, 0.23mmol)、PPh3 (0.46mmol)、及び1-ドデシン(896mg, 5.4mmol)をトリエチルアミン(10mL)中で、過熱還流下に5時間反応させた。尚、Acはアセチル基、Phはフェニル基をそれぞれ示す。
【0104】
冷却後、溶媒を溜去し、反応物をシリカゲルカラムクロマト(溶離液、n-ヘキサン:酢酸エチル=100:1)で分離し、3-(ドデシン-1-イル)ベンツアルデヒド(3-(dodecyne-1yl)benzaldehyde)を得た(810mg、67%)。MS(m/z): 270 (M+)。
次いで、3-(ドデシン-1-イル)ベンツアルデヒド(800mg, 2.96mmol)を酢酸エチル(50mL)中で、Pd-Al2O3 (50mg)を触媒として用い、1気圧の水素雰囲気下に、室温で3日間撹拌した。セライトで触媒をろ別し、溶媒を溜去後に、反応物をシリカゲルカラムクロマト(溶離液、n-ヘキサン:酢酸エチル=30:1)により精製し、3-ドデシルベンツアルデヒドを得た(273mg, 34%)。
1H-NMR(CDCl3):δ0.88 (3H, t, J=7.6Hz), 1.15-1.45 (18H, m), 1.57-1.70 (2H, m), 2.68 (2H, t, J=7.9Hz), 7.42-7.48 (2H, m), 7.67-7.73 (2H, m), 10.00 (1H, s)。
【0105】
(2)化合物7の合成工程
C60フラーレン(180mg, 0.25mmol)、上記方法で合成した3-ドデシルベンツアルデヒド(66mg, 0.24mmol)及び N-フェニルグリシン(76mg, 0.5mmol)をトルエン(100mL)中で130℃で72時間撹拌した。冷却後、溶媒を溜去して、生成物をシリカゲルカラムクロマト(n-ヘキサン:トルエン=20:1)で分離し、化合物7を52mg(収率20.2%)得た後、さらに分取GPC(クロロホルム)で精製した。
1H-NMR(CDCl3):δ0.88 (3H, t, J=7.3Hz), 0.95-1.35 (18H, m), 1.43 (2H, t-t, J=7.3, 7.3Hz), 2.56 (2H, t, J=7.3Hz), 5.00 (1H, d, J=10.1Hz), 5.68 (1H, d, J=10.1Hz), 6.04 (1H, s), 7.00-7.10 (2H, m), 7.20-7.30 (2H, m), 7.30-7.40 (4H, m), 7.55-7.65 (2H, m)。
【0106】
合成例8(化合物8の合成)
【0107】
【化19】
【0108】
(1)N-(4-ヘキシルフェニル) グリシンの合成工程
Journal of Organic Chemistry, 1958年, 23巻, 186頁に記載の方法に従って、下記の方法でN-(4-ヘキシルフェニル) グリシンを合成した。
【0109】
【化20】
【0110】
4-ヘキシルアニリン(3.55g, 20mmol)、ブロモ酢酸エチル(3.34g, 20mmol)、酢酸ナトリウム(1.64g, 20mmol)を、エタノール(4mL)中で2日間還流下に反応させた。冷却後、溶媒を溜去し、反応物をシリカゲルカラムクロマト(溶離液、n-ヘキサン:酢酸エチル=20:1)により精製し、N-(4-ヘキシルフェニル) グリシンエチルエステルを得た(600mg、11.4%)。
【0111】
次いで、N-(4-ヘキシルフェニル) グリシンエチルエステル(600mg、2.3mmol)を水−エタノール混合液(1:1)中で水酸化ナトリウムを添加して、室温で24時間撹拌して加水分解した。反応液をジイソプロピルエーテルで抽出し、残った水相を5%塩酸でpH4に調製した。これを酢酸エチルで抽出し、N-(4-ヘキシルフェニル) グリシンを得た(453mg、85%)。
1H-NMR(CDCl3):δ 0.88 (3H, t, J=6.8Hz), 1.20-1.43 (6H, m), 1.50-1.70 (2H, m), 2.49 (2H, t, J=7.8Hz), 3.90 (2H, s), 4.92 (2H, bs), 6.57 (2H, d, J=8.2Hz), 7.00 (2H, d, J=8.2Hz)。
【0112】
(2)化合物8の合成工程
上記方法で合成したN-(4-ヘキシルフェニル) グリシン(47mg、0.2mmol)、C60フラーレン(72mg, 0.1mmol)及びベンツアルデヒド(33mg, 0.1mmol)をクロロベンゼン(50mL)中で120℃で72時間撹拌した。冷却後、溶媒を溜去して、生成物をシリカゲルカラムクロマト(n-hexane:toluene=20:1)で分離し、化合物8を10mg(収率8.2%)得た後、さらに分取GPC(クロロホルム)で精製した。
1H-NMR(CDCl3):δ0.90 (3H, t, J=7.3Hz), 1.20-1.45 (6H, m), 1.50-1.75 (2H, m), 2.60 (2H, t, J=7.8Hz), 4.95 (1H, d, J=9.6Hz), 5.63 (1H, d, J=9.6Hz), 6.09 (1H, s), 7.18 (2H, d, J=8.7Hz), 7.27 (2H, d, J=8.2Hz), 7.55 (2H, d, J=8.7Hz), 7.95 (2H, d, J=8.2Hz).
19F-NMR(CDCl3):δ -80.85 (3F, t-t, J=9.4, 2.2Hz), -111.39 (2F, t, J=14.1Hz), -122.40-122.60 (2F, m), -125.30-125.50 (2F, m)。
【0113】
合成例9(化合物9の合成)
【0114】
【化21】
【0115】
(1)2,5,8-トリオキサデカナールの合成工程
Journal of Organic Chemistry 1996年61巻9070頁に記載の方法に従って、下記の方法で2,5,8-トリオキサデカナールを合成した。
【0116】
まず、塩化オキサリル(3mL)の塩化エチレン溶液(75mL)中にジメチルスルホキシド(DMSO)(5mL)の塩化エチレン溶液(15mL)を-78℃で滴下した。これに-78℃で2,5,8-トリオキサデカノール(5mL)及び塩化エチレン溶液(30mL)を加え、この温度でさらにトリエチルアミン(20mL)を加えて30分間撹拌した後、室温で15時間撹拌した。溶媒を溜去し、反応物をシリカゲルカラムクロマト(溶離液CH2Cl2:EtOH=10:1)で分離し、2,5,8-トリオキサデカナールを得た。
1H-NMR(CDCl3):δ 3.34 (3H, s), 3.45-3.75 (8H, m), 4.16 (2H, bs), 9.80 (1H, s)。
【0117】
(2)化合物9の合成工程
N-フェニルグリシン(76mg、0.5mmol)、C60フラーレン(360mg, 0.5mmol)及び上記方法で合成した2,5,8-トリオキサデカナール(324mg, 0.5mmol)をクロロベンゼン(200mL)中で120℃で72時間撹拌した。冷却後、溶媒を溜去して、生成物をシリカゲルカラムクロマト(トルエン:酢酸エチル=50:1)で分離し、化合物9を194mg得た後(収率40.0%)、さらに分取GPC(クロロホルム)で精製した。
1H-NMR(CDCl3):δ 3.34 (3H, s), 3.45-3.76 (8H, m), 4.40 (1H, d-d, J=10.3, 2.8Hz), 4.59 (1H, d-d, J=10.3, 6.2Hz), 5.30 (2H, s), 5.84 (1H, d, J=6.2, 2.8Hz), 7.01 (1H, t, J=7.7Hz), 7.28 (2H, d, J=8.0Hz), 7.47 (2H, d-d, J=8.0, 7.7Hz)。
【0118】
参考例1(比較化合物1の合成)
【0119】
【化22】
【0120】
(1)N-ラウリルグリシンの合成工程
Chemistry a Eurpean Journal, 2006年, 12巻, 3869頁に記載の方法に従って、N-ラウリルグリシンを合成した。
1H-NMR(CD3OD):δ 0.87 (3H, t, J=8.8Hz), 1.20-1.50 (18H, m), 1.60-1.75 (2H, m), 2.98 (2H, t, J=7.6Hz), 3.47 (2H, s)。
【0121】
(2)比較化合物1の合成工程
メチル5−オキソペンタノエート(32mg, 0.25mmol)、N-ラウリルグリシン (122mg, 0.5mmol), 及びC60フラーレン (175mg, 0.25mmol) を、トルエン100ml中で100℃で20時間撹拌した。冷却後、溶媒を溜去し、反応物をカラムクロマトグラフィー(SiO2, トルエン〜トルエン:酢酸エチル=100:1)により分離して、比較化合物1を得た。さらにこれをGPCにより精製し(121mg, 47%)、後述する太陽電池の性能試験に用いた。
1H-NMR(CDCl3):δ0.89 (3H, t, J=6.8Hz), 1.23-1.70 (12H, m), 1.85-2.03 (2H, m), 2.17-2.30 (2H,m), 2.38-2.60 (4H, m), 2.82-2.93 (1H, m), 3.48-3.60 (1H, m), 3.68 (3H, s), 4.13 (1H, d, J=10.1Hz), 4.16 (1H, d-d, J=5.5, 4.6Hz), 4.92 (1H, d, J=10.1Hz)。
【0122】
参考例2(比較化合物2の合成)
【0123】
【化23】
【0124】
(1)N-(カルボキシメチル)アミノ酪酸メチルエステルの合成工程
4-アミノ酪酸メチルエステル塩酸塩(1.53g, 10mmol)及びトリエチルアミン(2.02g, 20mmol)のTHF溶液(30mL)に、ブロモ酢酸t-ブチルエステル(1.95g, 10mmol)のTHF溶液(10mL)を、0℃で滴下した。室温で15時間撹拌し、反応液を減圧下に濃縮した。目的物の生成をH-NMRで確認した後、反応物を塩化メチレン10mLに溶解させ、これにトリフルオロ酢酸4.5mLを室温で滴下し、15時間撹拌した。TLCにより原料の消失を確認後、反応液を減圧下に濃縮して、N-(カルボキシメチル)アミノ酪酸メチルエステルを得た。
1H-NMR(CDCl3):δ2.02-2.11 (2H, m), 2.15-2.25 (2H, m), 2.64 (2H, t, J=7.8Hz), 3.27 (2H, bs), 3.72 (3H, s)。
【0125】
(2)比較化合物2の合成工程
上記方法で得られたN-(カルボキシメチル)アミノ酪酸メチルエステル(474mg, 2mmol)のトルエン溶液(200mL)を、C60フラーレン(360mg、0.5mmol)、ベンツアルデヒド(53mg, 0.5mmol)及びトリエチルアミン(202mg, 2mmol)のトルエン溶液(100mL)中に100℃で滴下した。滴下後、反応液を110℃で20時間撹拌した。冷却後、溶媒を減圧下で溜去し、反応物をカラムクロマトグラフィー(SiO2, n-ヘキサン:トルエン=1:1〜トルエン)により分離し、比較化合物2を得た(58mg, 12.4%)。さらにこれをGPCにより精製し、後述する太陽電池の性能試験に用いた。
1H-NMR(CDCl3):δ2.14-2.28 (1H, m), 2.28-2.42 (1H, m), 2.62-2.70 (2H, m), 2.76-2.88 (1H, m), 3.20-3.29 (1H, m), 3.76 (3H, s), 4.11 (1H, d, J=9.2Hz), 5.08 (1H, s), 5.12 (1H, d, J=9.2Hz), 7.10-7.43 (5H, m)。
【0126】
性能試験例
上記合成例及び参考例で得た各フラーレン誘導体をn型半導体材料として用いて、下記の方法で太陽電池を作製し、各フラーレン誘導体の機能を評価した。
【0127】
p型半導体材料としてはP3HT(ポリ3-ヘキシルチオフェン)、電荷輸送層材料としてはPEDOT:PSS(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリ(4-スチレンスルフォネート))、電極としてはITO(酸化インジウムスズ)(陽極)、アルミニウム(陰極)をそれぞれ用いた。
【0128】
(1)試験用太陽電池の作製
以下の手順により試験用太陽電池を作製した。
1)基板前処理
予めパターニングされているITOガラス板をHARRICK PLASMA/Plasma Cleaner PDC-32G装置中に入れて、酸素ガスをフローしながら3−5分間プラズマ処理した。
【0129】
2)PEDOT:PSS薄膜の作製
ABLE/ASS−301型のスピンコート法製膜装置を用い、PEDOT:PSS混合溶液を用いて、上記で前処理を施したITOガラス板上にPEDOT:PSS薄膜を形成した。スピンコート条件は、500rpm(5秒)および3000rpm(3分間)とした。形成されたPEDOT:PSSの膜厚は約30nmであった。
【0130】
3)アニーリング
135℃、大気雰囲気でホットプレートの上において、前記2)でPEDOT:PSS薄膜を製膜したITO板を10分間でアニーリングした。アニーリング後、室温まで冷却した。
【0131】
4)有機半導体膜の作製
MIKASA/MS-100型のスピンコート法製膜装置を用い、事前に溶かしたP3HTとフラーレン誘導体を含む溶液をPEDOT:PSS薄膜の上に1500rpm、1分間スピンコートし、約120〜150nmの有機半導体薄膜(光変換層)を得た。上記溶液における溶媒としては、フラーレン誘導体の種類に応じて、クロロホルム、トルエン、クロロベンゼン、又はこれらの混合溶媒を用いた。
【0132】
5)金属電極の真空蒸着
ULVAC/VPC−260Fの小型高真空蒸着装置を用い、上記で作製した積層膜を形成したITOガラス基板を高真空蒸着装置中のマスクの上に置き、100nmのアルミニウムを蒸着した。
【0133】
(2)擬似太陽光照射による電流測定
ソースメーター(keithley社、型番2400)、電流電圧計測ソフトおよび疑似太陽光照射装置(三永電気製作所、XES-301S)を用いた。上記した方法で作製した試験用太陽電池に対して一定量の疑似太陽光を照射して、発生した電流と電圧を測定して、以下の式によりエネルギー変換効率を算出した。
【0134】
短絡電流、開放電圧、曲線因子(FF)及び変換効率の測定結果を下記表1に示す。尚、変換効率は、下記式により求めた値である。
【0135】
変換効率η(%)=FF(Voc・Jsc / Pin)x 100
FF: 曲線因子、Voc:開放電圧、Jsc:短絡電流、Pin:入射光強度(密度)
【0136】
【表1】
【0137】
以上の結果から明らかなように、ピロリジン骨格を有するC60フラーレン誘導体の内で、窒素原子に直接結合したアリール基を有する化合物は、太陽電池のn型半導体として用いた場合に、高い変換効率を有するものとなる。