特許第5881604号(P5881604)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5881604癌予後判定可能な抗体、および癌予後判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5881604
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】癌予後判定可能な抗体、および癌予後判定方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/30 20060101AFI20160225BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20160225BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20160225BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20160225BHJP
   G01N 33/577 20060101ALI20160225BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20160225BHJP
【FI】
   C07K16/30ZNA
   G01N33/53 D
   G01N33/53 Y
   G01N33/48 P
   G01N33/574 D
   G01N33/574 Z
   G01N33/577 B
   !C12P21/08
【請求項の数】15
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2012-520483(P2012-520483)
(86)(22)【出願日】2011年6月15日
(86)【国際出願番号】JP2011063746
(87)【国際公開番号】WO2011158883
(87)【国際公開日】20111222
【審査請求日】2014年4月22日
(31)【優先権主張番号】特願2010-136621(P2010-136621)
(32)【優先日】2010年6月15日
(33)【優先権主張国】JP
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-1090
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩文
【審査官】 松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】 Br. J. Cancer,2007年,vol.97,p.1146-56
【文献】 Gene,2001年,vol.262,p.35-41
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/30
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に示すアミノ酸配列の領域に特異的に結合する抗ヒトC4.4Aタンパク質抗体。
【請求項2】
ポリクローナル抗体である、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
モノクローナル抗体である、請求項1に記載の抗体
【請求項4】
受託番号:NITE BP-1090で特定されるハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体である、請求項3に記載のモノクローナル抗体。
【請求項5】
大腸癌又は食道癌の患者の予後を判定する方法であって、
(1)大腸癌又は食道癌の患者から採取した癌組織において、請求項1から4のいずれかに記載の抗体でヒトC4.4Aタンパク質の発現を検出する工程、
(2)前記工程(1)の検出結果に基づいて、癌浸潤先進部の細胞において、細胞膜と細胞質との間でヒトC4.4Aタンパク質の局在を比較し、かつ癌浸潤先進部と癌病巣の表層部または中層部との間で、ヒトC4.4Aタンパク質の発現量を比較する工程、および
(3)前記工程(2)の比較に基づいて、前記ヒトC4.4Aタンパク質が前記癌浸潤先進部の細胞の細胞膜上に集積し、かつ前記ヒトC4.4Aタンパク質の発現量が前記癌浸潤先進部の細胞において、前記癌病巣の表層部または中層部と比べて亢進している場合は、予後不良と判定する工程、を含む方法。
【請求項6】
予後が、癌再発リスクに基づく予後である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
癌再発が、血行性転移に起因する癌再発である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
患者が大腸癌の患者である請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
大腸癌又は食道癌の患者の予後を判定するためのキットであって、請求項1から4のいずれかに記載の抗体を含んでなるキット。
【請求項10】
予後が、癌再発リスクに基づく予後である、請求項9に記載のキット。
【請求項11】
癌再発が、血行性転移に起因する癌再発である、請求項10に記載のキット。
【請求項12】
患者が大腸癌の患者である、請求項9〜11のいずれか1項に記載のキット。
【請求項13】
請求項1から4のいずれかに記載の抗体を含む、大腸癌又は食道癌の再発リスクの診断試薬。
【請求項14】
癌再発が、血行性転移に起因する癌再発である、請求項13に記載の診断試薬。
【請求項15】
大腸癌再発リスクの診断試薬である、請求項13または14に記載の診断試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌患者の予後を簡便かつ信頼性よく判定するために使用可能な抗体、ならびに癌患者の予後を簡便かつ信頼性よく判定する方法、キットおよび診断薬に主に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は、世界中のヒトの主要な死亡原因の一つである。近年の技術進歩、特に化学療法の分野における進歩にも関わらず、癌による死者数は大変多い。例えば、大腸癌および直腸癌による総死者数は2009年においては約49,920人に上ると推定されている。
【0003】
癌は外科的手術または化学療法などによる治療を行った後も、しばしば再発および転移が起きることが知られている。そのため、治療後も経過を観察しながら、個々の患者に適したアフターケアを行っていくことが臨床的に大変重要である。治療前または治療直後に、癌再発および転移の危険性を簡便かつ信頼性よく判定することができれば、個々の患者の再発・転移の可能性に応じて、可能性が高い患者については慎重な経過観察や重点的な予防的措置を行い、可能性が高くない患者については過度な経過観察や予防的措置を行わないといった、個々の患者に応じたアフターケアを行っていくことが可能となる。
【0004】
このような状況の中で、癌再発および転移の危険性について、すなわち癌患者の予後が良好であるか不良であるかについて、簡便かつ信頼性よく判定する方法が広く求められている。癌再発および転移の危険因子の一つとして、浸潤細胞が知られている。しかし、癌、特に大腸癌において、浸潤細胞、特に血行性転移を生じうる活動性の浸潤細胞のみを検出する方法は、従来知られていなかった。
【0005】
大腸癌患者、特に手術後の患者において、従来リンパ節転移の有無が、予後の指標として広く用いられてきた。しかしながら、リンパ節転移の有無を指標とした場合、手術後の大腸癌患者が病理所見によりリンパ節転移陰性であっても、癌再発が生じる場合がある。また逆に、リンパ節転移陽性であっても癌再発が生じない場合がある。このように、リンパ節転移の有無を指標とした従来方法の元では、患者に適切な手術後のアフターケアが行えていなかった現状がある。このため、必要がない手術後のアフターケア(例えば、抗癌剤投与など)を患者に行なっている場合が多くあり、患者に対する肉体的、精神的および経済的負担の原因ならびに国などが支出する医療費の増大の原因となっている。
【0006】
一方、グリコシルフォスファチジルイノシトール(GPI)アンカー型膜タンパク質であるC4.4Aタンパク質は、当初、ラット由来の高度転移性の膵臓癌細胞において発現し、通常の癌細胞には発現しないタンパク質として見出された。ラットC4.4Aタンパク質と相同なヒトC4.4Aタンパク質が存在し同定されている(非特許文献1参照)。しかし、ヒトC4.4Aタンパク質の生理学的機能の多くは明らかにされていない。
【0007】
近年の研究結果より、ヒト悪性腫瘍の一部においても、ヒトC4.4A遺伝子の発現が見出されている(非特許文献2〜4参照)。さらに、ヒトC4.4A遺伝子転写産物の発現が、非小細胞肺癌患者の予後不良と相関しているという臨床結果もある(非特許文献5参照)。しかし、ヒトC4.4Aタンパク質を、どのようにして癌の予後を簡便かつ信頼性よく判定することに用い得るかは、全く知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Wurfel J, Seiter S, Stassar M, et al. Gene 2001; 262: 35-41.
【非特許文献2】Hansen LV, Gardsvoll H, Nielsen BS, et al. Biochem J 2004; 380: 845-857.
【非特許文献3】Seiter S, Stassar M, Rappl G, et al. J Invest Dermatol 2001; 116: 344-347.
【非特許文献4】Fletcher GC, Patel S, Tyson K, et al. Br J Cancer 2003; 88: 579-585.
【非特許文献5】Paret C, Hildebrand D, Weitz J, et al. Br J Cancer 2007; 97: 1146-1156.
【非特許文献6】Hansen LV, Skov BG, Ploug M, et al. Lung Cancer 2007; 58: 260-266.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、従来技術では、癌の浸潤細胞を特異的に検出することができないのが現状である。そこで、本発明は、上記従来技術の課題を解決することを目的とする。具体的には、癌の浸潤細胞を特異的に検出することで癌患者の予後を簡便かつ信頼性よく判定するために使用可能な抗体、ならびに癌患者の予後を簡便かつ信頼性よく判定する方法、キット、および診断薬を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、ヒトC4.4Aタンパク質のアミノ末端(N末端)部位を認識する抗体は癌細胞においてヒトC4.4Aタンパク質の発現を検出することができないが、ヒトC4.4Aタンパク質のカルボキシル末端(C末端)部位の特定配列を認識する抗体は癌細胞においてヒトC4.4Aタンパク質の発現を検出可能であることを見出した。さらに、前記ヒトC4.4Aタンパク質のC末端部位の特定配列を認識する抗体を用いて、ヒトC4.4Aタンパク質が癌の浸潤細胞に特異的に発現する様子を検出することが可能であり、かつヒトC4.4Aタンパク質の発現パターンが癌患者の予後と高く相関することを見出した。本発明は、かかる知見に基づいてさらに改良を重ねることによって完成したものである。
【0011】
すなわち、本発明は。下記態様の発明を包含する:
項1.配列番号1に示すアミノ酸配列の領域に特異的に結合する抗ヒトC4.4Aタンパク質抗体。
項2.ポリクローナル抗体である、項1に記載の抗体。
項3.モノクローナル抗体である、項1に記載の抗体
項4.受託番号:NITE BP-1090で特定されるハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体である、項3に記載のモノクローナル抗体。
項5−1.癌患者の予後を判定する方法であって、
(1)癌患者から採取した癌組織において、項1から4のいずれかに記載の抗体でヒトC4.4Aタンパク質の発現を検出する工程、
(2)前記工程(1)の検出結果に基づいて、癌浸潤先進部の細胞において、細胞膜と細胞質との間でヒトC4.4Aタンパク質の局在を比較し、かつ癌浸潤先進部と癌病巣の表層部または中層部との間で、ヒトC4.4Aタンパク質の発現量を比較する工程、および
(3)前記工程(2)の比較に基づいて、前記ヒトC4.4Aタンパク質が前記癌浸潤先進部の細胞の細胞膜上に集積し、かつ前記ヒトC4.4Aタンパク質の発現量が前記癌浸潤先進部の細胞において、前記癌病巣の表層部または中層部と比べて亢進している場合は、予後不良と判定する工程、を含む方法。
項5−2.癌患者の予後を判定する方法であって、
(1)癌患者から採取した癌組織において、項1から4のいずれかに記載の抗体を用いて免疫染色を行なう工程、
(2)前記工程(1)の免疫染色に基づいて、癌浸潤先進部の細胞において、細胞膜と細胞質との間でヒトC4.4Aタンパク質の染色強度を比較し、かつ癌浸潤先進部と癌病巣の表層部または中層部との間で、ヒトC4.4Aタンパク質の染色強度を比較する工程、および
(3)前記工程(2)の染色強度の比較に基づいて、前記ヒトC4.4Aタンパク質の染色強度が、前記癌浸潤先進部の細胞の細胞膜において、前記癌浸潤先進部の細胞の細胞質と比べて亢進、かつ前記ヒトC4.4Aタンパク質の染色強度が前記癌浸潤先進部の細胞において、前記癌病巣の表層部または中層部と比べて亢進している場合は、予後不良と判定する工程、を含む方法。
項5−3.癌患者の予後を判定する方法であって、
(1)癌患者から採取した癌組織を、前記抗体でヒトC4.4Aタンパク質について免疫測定を行う工程、
(2)前記工程(1)の免疫測定の結果について、癌浸潤先進部と癌病巣の表層部または中層部との間で、測定結果を比較する工程、および
(3)前記工程(2)の測定結果の比較に基づいて、前記ヒトC4.4Aタンパク質が前記癌浸潤先進部の細胞の細胞膜上に集積し、かつ前記ヒトC4.4Aタンパク質の発現量が前記癌浸潤先進部の細胞において前記癌病巣の表層部または中層部の細胞と比べて亢進している場合は、予後不良と判定する工程、を含む方法。
項5−4.癌患者の癌再発リスクを判定する方法であって、
(1)癌患者から採取した癌組織において、項1から4のいずれかに記載の抗体でヒトC4.4Aタンパク質の発現を検出する工程、
(2)前記工程(1)の検出結果に基づいて、癌浸潤先進部の細胞において、細胞膜と細胞質との間でヒトC4.4Aタンパク質の局在を比較し、かつ癌浸潤先進部と癌病巣の表層部または中層部との間で、ヒトC4.4Aタンパク質の発現量を比較する工程、および
(3)前記工程(2)の比較に基づいて、前記ヒトC4.4Aタンパク質が前記癌浸潤先進部の細胞の細胞膜上に集積し、かつ前記ヒトC4.4Aタンパク質の発現量が前記癌浸潤先進部の細胞において、前記癌病巣の表層部または中層部と比べて亢進している場合は、予後不良と判定する工程、を含む方法。
項6.予後が、癌再発リスクに基づく予後である、項5−1、項5−2または項5−3のいずれか1項に記載の方法。
項7.癌再発が、血行性転移に起因する癌再発である、項5−4または項6に記載の方法。
項8−1.癌患者が消化器系の癌の患者である、項5−1項、項5−2、項5−3、項5−4、項6または項7のいずれか1項に記載の方法。
項8−2.癌患者が大腸癌患者である、項5−1項、項5−2、項5−3、項5−4、項6または項7のいずれか1項に記載の方法。
項9―1.癌患者の予後を判定するためのキットであって、項1から4のいずれかに記載の抗体を含んでなるキット。
項9―2.癌患者の癌再発リスクを判定するためのキットであって、項1から4のいずれかに記載の抗体を含んでなるキット。
項10.予後が、癌再発リスクに基づく予後である、項9―1に記載のキット。
項11.癌再発が、血行性転移に起因する癌再発である、項9―2または項10に記載のキット。
項12−1.癌患者が消化器系の癌の患者である、項9−1、項9−2、項10または項11のいずれか1項に記載のキット。
項12−2.癌患者が大腸癌患者である、項9−1、項9−2、項10または項11のいずれか1項に記載のキット。
項13−1.項1から4のいずれかに記載の抗体を含む、癌再発リスクの診断試薬。
項13−2.項1から4のいずれかに記載の抗体を含む、癌診断試薬。
項14.癌再発が、血行性転移に起因する癌再発である、項13−1または項13−2に記載の診断試薬。
項15−1.癌が消化器系の癌の患である、項13−1、項13−2または項14のいずれか1項に記載の診断試薬
項15−2.癌が大腸癌である、項13−1、項13−2または項14のいずれか1項に記載の診断試薬。
【発明の効果】
【0012】
本発明の抗体は、癌浸潤細胞において特異的に発現するヒトC4.4Aタンパク質を検出することができる。
【0013】
また、本発明の抗体を用いて癌検体におけるヒトC4.4Aタンパク質の発現パターンを測定することで、癌患者の予後判定を簡便かつ信頼性よく行うことができる。かかる予後判定に基づいて、個々の癌患者に適した個々の患者に適したアフターケアを行っていくことができる。
【0014】
さらに、本発明のキットまたは癌診断試薬を用いて、前記の判定方法を容易に行うことが可能となる。
【0015】
本発明を用いることで、特に大腸がんなどの患者において、抗癌剤投与などの必要なアフターケアの要否について、精度が高い判定が可能となる。その結果、患者への負担となる治療を抑制し、ひいては社会保障費の削減へとつながることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、ヒトC4.4Aタンパク質のアミノ酸配列、および抗原として用いた2つの配列(太字)を示す。GPIアンカー付加シグナル配列は、四角で囲って示した。
【0017】
図2図2は、正常な食道組織検体、大腸がん由来細胞株(HCT116、KM12SM)試料、および3例の患者から採取した正常検体(N)および大腸がん組織検体(T)について、ヒトC4.4Aタンパク質のウェスタンブロット解析の結果を示す。食道上皮組織検体では、抗C4.4A−1ポリクローナル抗体および抗C4.4A−2ポリクローナル抗体は、分子量67kDa近傍に明確なバンドを示した。しかし、大腸がん由来細胞株試料と大腸組織検体の両方について、抗C4.4A−2ポリクローナル抗体のみが約40kDaの位置に顕著なバンドを示し、一方で抗C4.4A−1ポリクローナル抗体はバンドを示さなかった。アクチンの検出は、ローディングコントロールである。
【0018】
図3図3は、正常な食道粘膜の組織切片(A、B)および大腸癌組織切片(C、D)について、抗C4.4A−1ポリクローナル抗体(A,C)および抗C4.4A−2ポリクローナル抗体(B、D)を用いた免疫組織化学の結果を示す。(A、B)基底上の扁平上皮において染色が観察された。(C)大腸癌組織検体においては、抗C4.4A−1ポリクローナル抗体は何らシグナルが検出されなかった。(D)同じ試料において抗C4.4A−2抗体では染色シグナルが得られた。倍率:A、B:×100;C、D:×40。
【0019】
図4図4は、抗C4.4A−2ポリクローナル抗体を用いた、ヒトC4.4Aタンパク質の発現についての免疫組織化学解析の結果を示す。(A)大腸癌組織検体の癌浸潤先進部および浸潤部位における、ヒトC4.4Aタンパク質の特異的な発現パターンを示す。癌病巣の表層部または中層部においては、ヒトC4.4Aタンパク質の弱い発現がほとんどの場合は細胞質において検出され、一方癌浸潤先進部においては高頻度で細胞膜上にC4.4Aタンパク質の発現が検出された。膨大な数の癌組織検体のうちで、新生の間質に向かって面した細胞のみがヒトC4.4Aタンパク質を発現していた(左下パネル)。倍率:左上:×12.5;左下×40;右上、右下:×100。(B)腫瘍蔟出における免疫染色の結果を示す。蔟出細胞は、大腸癌組織の癌浸潤先進部から脱落している。これはA型の発現パターンとして分類した。倍率:×100。(C)蔟出頻度と、癌浸潤先進部におけるヒトC4.4Aタンパク質の発現パターンとの間に有意な相関関係が認められた(P<0.0001)。
【0020】
図5図5は、リンパ節転移部位および肺浸潤部位における、抗C4.4A−2ポリクローナル抗体による免疫組織化学の結果を示す。(A)リンパ節転移部位:繊維性被膜に浸潤する浸潤性腫瘍細胞が特異的に、ヒトC4.4Aタンパク質を強く、細胞膜上に発現していた。(B)肺浸潤部位:浸潤周縁部(矢印部位)における浸潤性腫瘍細胞は、同様な発現パターンを示した。倍率:左上:×12.5;左下:×40;右上、右下:×100。
【0021】
図6図6は、ヒトC4.4Aタンパク質の発現パターンと、患者の予後との関係(5年間全生存率)について示す。癌のステージがI期〜IV期の癌患者群(n=122)についての5年間全生存率を表すカプランマイヤープロットを示す。ヒトC4.4Aタンパク質の局在の変化(A+B1)または発現強度の変化(A+B2)のいずれとも、より短い5年間全生存率(OS)と相関する(P=0.014およびP=0.006)。より顕著な差が、A型と他の型の全体(B1+B2+C)との間で認められた(P=0.0009)。一方で、B1型およびB2型は、C型との間に顕著な差は認められなかった。
【0022】
図7図7は、ヒトC4.4Aタンパク質の発現パターンと、患者の予後との関係(5年間無病生存率)について示す。癌のステージがII期およびIII期の患者群(n=82)についての5年間無病生存率を示す。ステージII期およびIII期の患者群について外科治療後の5年間無病生存率について解析したところ、5年間全生存率と同様の結果が得られた(それぞれについて、P=0.011、P=0.0016、およびP=0.0004)。
【0023】
図8図8は、ヒトC4.4Aタンパク質のアミノ酸配列、および抗原として用いた2つの配列(太字)を示す。GPIアンカー付加シグナル配列は、四角で囲って示した。(i):C4.4A−1(配列番号2);(ii):C4.4A−2(配列番号1);(iii):C4.4A(119)(配列番号4);(iv):C4.4A(277)(配列番号5)。
【0024】
図9図9は、大腸癌組織検体(浸潤先進部)の連続切片における、抗C4.4A−2ポリクローナル抗体、抗C4.4A−2―2ポリクローナル抗体および抗C4.4A−2―3ポリクローナル抗体を用いた免疫組織化学解析の結果を示す。倍率:×10。
【0025】
図10図10は、大腸癌組織検体の浸潤先進部(Invasive front)(右列および中央列)ならびに中層部(Intermediate portion)(左列)の連続切片における、抗C4.4A−2ポリクローナル抗体(図中、C4.4A−2上段。)、抗C4.4A(119)ポリクローナル抗体(図中、C4.4A(119)、中段。)および抗C4.4A(277)ポリクローナル抗体(図中、C4.4A(119)、下段。)を用いた免疫組織化学解析の結果を示す。倍率:×10。
【0026】
図11図11AおよびBは、大腸癌組織検体(浸潤先進部)における、抗C4.4A−2ポリクローナル抗体(左側、polyclonal)および抗C4.4A−2モノクローナル抗体(右側、monoclonal)を用いた免疫組織化学解析の結果を示す。抗C4.4A−2モノクローナル抗体を用いた場合に、抗C4.4A−2ポリクローナル抗体と同様に、癌浸潤先進部においては細胞膜上にC4.4Aタンパク質の発現が検出された。倍率:×20。
【0027】
図12図12AおよびBは、大腸癌組織検体の連続切片における、抗C4.4A−2モノクローナル抗体(左側、mAb)および過剰量の標的ペプチドで予め処理した抗C4.4A−2モノクローナル抗体(右側、mAb + peptide)を用いた免疫組織化学解析の結果を示す。AおよびBは、それぞれ異なる連続切片試料を用いた結果を示す。過剰量の標的ペプチドで予め処理した抗C4.4A−2モノクローナル抗体を用いた場合には、染色が得られなかった。倍率:×20。
【0028】
図13図13は、ウェスタンブロット解析の結果を示す。一次抗体として、抗C4.4A−2ポリクローナル抗体(Polyclonal、Ab)および抗C4.4A−2モノクローナル抗体(Monoclonal、Ab)、ならびに、過剰量のヒトC4.4A−2抗原ペプチドにあらかじめ吸着させたこれらの抗体(Ab + peptide)を用いた。抗C4.4A−2モノクローナル抗体を用いて、抗C4.4A−2ポリクローナル抗体と同様に約40kDaの位置にバンド(図中、矢印で指し示すバンド)を検出することができた。アクチンの検出は、ローディングコントロールである。*で指し示すバンドは、非特異的に検出されるバンドである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、癌患者の予後を簡便かつ信頼性よく判定するための抗体、方法、およびキットを提供することを主な目的とする。以下、抗体、方法、キット、診断薬の順に説明する。
【0030】
1.抗体
本発明の抗体は、配列番号1に示すアミノ酸配列の領域に特異的に結合する抗体である。
【0031】
配列番号1に示すアミノ酸配列は、配列番号3に示すヒトC4.4Aタンパク質全長配列のうち、301〜316番目の領域である。ここで、ヒトC4.4Aタンパク質とは、配列番号3に示すアミノ酸配列を有するタンパク質、または配列番号1に示すアミノ酸配列の少なくとも1〜8番目のアミノ酸配列を含む、配列番号3の一部分のアミノ酸配列を有するタンパク質のいずれをも指すものとする。
【0032】
本抗体が配列番号1に示すアミノ酸配列の領域に特異的に結合することは、公知の方法で可視化することができる。例えば、試験管内の試料を対象とするイムノアッセイ法(例えば、ELISA法)、免疫電気泳動法(例えばウェスタンブロット法)、および組織または細胞を対象とする免疫組織化学などが例として挙げられるが、これらに限定されるものではない。可視化にあたっては、本発明の抗体が蛍光物質(例えば、フルオレセインイソチアネート)、放射性同位体(例えば、ヨウ素125)、酵素(例えば、アルカリフォスファターゼ、西洋ワサビペルオキシターゼ)、その他のタンパク質(例えば、アビジン)などの分子によって標識化されていてもよい。あるいは、本発明の抗体を特異的に認識する二次抗体を用いてもよい。
【0033】
本発明の抗体は、上記配列番号1に示すアミノ酸配列の領域と特異的に結合できる限りその免疫グロブリンクラスについては限定されるものではなく、例えばIgG、IgM、IgA、IgD、IgE、IgYなどが挙げられる。さらに、そのサブクラスも制限されない。好ましくは、IgGである。
【0034】
本発明の抗体は、抗体を産生しうる哺乳類(例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ)または鳥類(例えば、ニワトリ、ダチョウ)由来である。
【0035】
本発明の抗体は、ポリクローナル抗体であってもよいし、モノクローナル抗体であってもよい。さらには、モノクローナル抗体のうち、キメラ抗体、ヒト化抗体、またはヒト抗体であってもよい。ここで、キメラ抗体およびヒト化抗体とは、免疫グロブリンタンパク質のうち、抗原と結合可能な部位以外がヒト由来である抗体を指す。ヒト抗体は、ヒト由来の抗体、または完全なヒト由来の免疫グロブリン遺伝子を有するヒト抗体産生マウス由来である抗体を指す。キメラ抗体、ヒト化抗体、およびヒト抗体は、ヒトにおける免疫原性が低く、抗体を医療製剤などに用いるに当たって有用である。従って、本発明の抗体を医療製剤などに用いる場合にあっては、モノクローナル抗体が好ましく、ヒト化抗体またはヒト抗体が特に好ましい。
【0036】
本発明の抗体は、免疫グロブリンタンパク質全長であっても、抗原と結合可能な部位を含むそれらの断片(フラグメント)であってもよい。また、抗体を含む組成物、例えば抗血清などであってもよい。
【0037】
本発明の抗体は、抗原を免疫動物に投与することで作製することができる。抗原としては、配列番号1に示すアミノ酸配列を含むペプチドを用いることができる。抗原を免疫動物に投与する場合にあっては、ペプチドは分子量が小さく、免疫応答を十分に起こせない場合があるため、ペプチドを適当なタンパク質(例えば、アルブミン、サイログロブリン)に結合させて抗原として用いてもよい。好ましくは、抗原は配列番号1に示すアミノ酸配列を付加したサイログロブリンである。
【0038】
あるいは、多様な抗体またはその断片を産出しうる細胞またはファージなどのライブラリから、抗原と結合する抗体またはその断片を産出するものを探索することで、本発明の抗体を入手することもできる。この場合、抗原としては、配列番号1に示すアミノ酸配列の全長または6アミノ酸以上の一部を含むペプチドを用いることができる。好ましくは、配列番号1に示すアミノ酸配列のペプチドである。
【0039】
抗原として用いるペプチドの入手方法は、特に制限されず公知の方法によることができ、例えば天然由来、化学合成、無細胞系合成、組換えペプチドであってもよい。
【0040】
一般的な抗体の作製方法については、例えば、Harlowらの「Using Antibodies : A laboratory manual」(Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York(1998))などにも記載されているが、以下、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、およびヒト化抗体の各抗体の作製方法について簡単に説明する。
【0041】
(1)ポリクローナル抗体
ポリクローナル抗体の作製に際しては、免疫動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ニワトリ)に、通常の方法、例えば、免原溶液を等量のフロイントの完全アジュバント又は不完全アジュバントと乳化混合したものを接種(初回免疫)し、以後2〜4週間の間隔で数回免疫することによって行うことができる。その後、免疫した動物から血液を採取し、ポリクローナル抗体を含む抗血清を調製する。その後、DEAEイオン交換クロマトグラフィー又はプロテインGアフィニティークロマトグラフィー等により、抗血清からポリクローナル抗体を精製することができる。
【0042】
(2)モノクローナル抗体
モノクローナル抗体は、モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ(モノクローナル抗体産生細胞)を分離することで作製できる。または、ファージディスプレイ法、すなわち、多様な抗体または抗体断片を発現するファージライブラリより、抗原に対して特異的に結合する抗体または抗体断片を探索する方法によって作製することもできる。
【0043】
ハイブリドーマを分離する方法は、Kohlerら, Nature, 256: 495 (1975)などに記載されており公知であるが、以下に簡単に説明する。最終免疫して数日後の免疫動物(例えば、マウス)から脾臓を無菌的に摘出し、脾臓から脾臓細胞を調製する。脾臓細胞は、ミエローマ細胞(骨髄腫細胞)とともに、細胞融合工程に用いる。ミエローマ細胞としては例えば、NS−1、P3U1、SP2/0などを使用することができ、細胞融合の方法としては、例えば融合促進剤(ポリエチレングリコールなど)を含む培地中で、脾臓細胞とミエローマ細胞とを、常法の混合比率(約1/5〜1/10程度の割合)で混合することにより行うことができる。融合後、選択用培地(例えば、HAT培地)を用いて、ハイブリドーマのみを増殖させる。それらの内、培養上清中に目的のモノクローナル抗体を分泌しているハイブリドーマは、例えば、培養上清と配列番号1のアミノ酸配列のペプチドとの反応性を酵素結合免疫測定法(ELISA)でスクリーニングすることによって確認し、選択することができる。
【0044】
ハイブリドーマの産生するモノクローナル抗体は、これを培養することにより、容易に調製することができる。培養は適切な培地中(例えば、10%ウシ胎児血清を追加したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM))で、あるいは生体内(例えば、マウスの腹腔中)で行うことができる。培養上清、あるいは腹水などを出発材料として、抗体を精製することもできる。抗体の精製には、タンパク質の精製に一般的な方法、例えば硫安塩析、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、プロテインAもしくはプロテインG結合ポリマー等を用いるアフィニティークロマトグラフィー、または透析等の方法を適宜組み合わせて用いることができる。
【0045】
ファージディスプレイ法は、Clacksonら, Nature 352:624-8(1991)に記載され公知であるが、以下に簡単に説明する。あらかじめ作製した多様な抗体の抗原認識部位を提示するファージライブラリから、配列表1に示すアミノ酸配列のペプチドと結合する抗原認識部位を提示するファージを選択する。選択されたファージが提示する抗原認識部位をそのまま用いても良いし、遺伝子工学的手法によって完全長の抗体を産出可能なCHO細胞などに組み込むことで、完全長の抗体を得ることもできる。
【0046】
(3)ヒト化抗体、ヒト抗体
ヒト化抗体とは、抗体タンパク質のうち、抗原認識のために必要最小限な領域(相補性決定領域、complementarity-determining region:CDR)以外がヒト由来のものである。ヒト化抗体の製造方法は、例えば、EP0239400、US5585089号などに記載され公知である。
【0047】
ヒト抗体は、完全なヒト由来の免疫グロブリン遺伝子を有するヒト抗体産生マウスから得ることができる。ヒト抗体産生マウスについては、WO97/07671などに記載され公知である。
【0048】
本発明の抗体がモノクローナル抗体である場合、後述の実施例で得たハイブリドーマ(受託者が付した識別のための表示:CA4.4A Hybridoma 11A1)が産生するモノクローナル抗体が好適な例として挙げられる。該ハイブリドーマは、2011年4月27日(原寄託日)に、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8に住所を有する独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに受託され、2011年5月31日に原寄託よりブダペスト条約に基づく寄託への移管請求が受領されたハイブリドーマである。その受託番号は、NITE BP-1090である。換言すると、本発明の抗体がモノクローナル抗体である場合、好適な例として受託番号:NITE BP-1090で特定されるハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0049】
なお、該ハイブリドーマは、配列番号1に示すアミノ酸配列を有するポリペプチドを免疫したマウスの脾臓細胞から作製された、IgGサブタイプのモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマである。
【0050】
本発明の抗体は、配列番号1に示すアミノ酸配列の領域と特異的に結合し、ヒトC4.4Aタンパク質を特異的に検出することができる。その用途は限定されないが、癌患者の予後判定(例えば、癌再発のリスクに基づく予後、特に血行性転移に起因する癌再発のリスクに基づく予後の判定)や医薬製剤(例えば、癌再発リスクの診断薬、特に血行性転移に起因する癌再発リスクの診断薬)などに用いることができる。癌患者の予後判定については、下記に詳述する。本発明はまた、上記抗体の癌患者の予後を判定するための使用、上記抗体の医薬製剤の製造のための使用をも提供するものである。
【0051】
2.判定方法
本発明は、癌患者の予後を簡便かつ信頼性よく判定する方法を提供する。本発明の好ましい態様の1つにおいて、判定される癌患者の予後は、癌再発に基づく予後であり、特に血行性転移に起因する癌再発に基づく予後である。本発明はまた、癌再発のリスク、特に血行性転移に起因する癌再発リスクの判定方法でもある。
【0052】
ここで、本発明の方法が対象とする癌患者が患う癌は、その種類は限定されるものではなく、あらゆる種類の癌対象となり得る。特に、例えば、胃、大腸、肺、肝、前立腺、膵、食道、膀胱、胆嚢・胆管、乳房、子宮、甲状腺、卵巣等における固形癌が対象として好ましく、胃、大腸、食道などの消化器系の癌が特に好ましい。精度高い判定が可能な大腸癌が、対象としてより好ましい。なお、「大腸癌」とは、盲腸、結腸(上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸)、直腸S状部、直腸(上部直腸、下部直腸)、肛門管など、大腸のあらゆる部位の癌を含む。
【0053】
本発明の方法が対象とする癌患者として、予後の判定の必要性が高いとの観点から、TMN分類に基づく、ステージII期およびステージIII期の癌患者が特に好ましい。TMN分類とは、国際対がん連合(UICC)によって定められた、公知の癌の進行度分類の指標である。当業者(例えば、医師。)であれば、癌患者のTMN分類に基づく癌の進行度を診断することができる。TMN分類においては、癌の原発巣の大きさ(Tumor)、リンパ節転移の有無および個数(Node)、および遠隔転移の(Metastasis)遠隔転移の有無(Metastasis)に基づき、癌の進行がステージI〜IVに分類される。
【0054】
一般に、癌(例えば、大腸癌)の進行度がステージII期以上、特にステージII期およびIII期である患者においては、癌(腫瘍)を外科的手術により除去する治療が施される。従って、本発明が対象とする癌患者は、好ましくは外科的手術などの治療処置が既に施された患者であるが、これに限定されるものではない。
【0055】
また、癌患者の予後とは、ある時点、例えば癌診断時または治療時、から見て、癌の将来の状態についての予測を指し、癌の病状進行・再発・転移のリスク(可能性)が高いときは予後不良、癌の病状進行・再発・転移のリスク(可能性)が高くないときは予後良好という。
【0056】
なお、「癌再発のリスクがある」とは、特に限定されるものではないが、例えば大腸癌の進行度ステージI期の患者の場合は約1%(粘膜下層まで浸潤した場合)もしくは約6%(筋層以降へ浸潤した場合)、ステージII期の場合は約13%、ステージIII期の場合は約30%など、統計的に知られる再発率以上の確率で癌再発のおそれがある状態を指すことができる。
【0057】
予測の指標については特定されないが、例えば全生存率(overall survival;OS)や無病生存率(disease free survival;DFS)が好適である。ここで、「全生存率」とは、一般に、観察症例のうち、特定の観察開始時点から特定の期間経過の後に生存していることが確認できる割合を意味する。「無病生存率」とは、一般に、観察症例のうち、観察開始時点から特定の期間経過の後に癌の再発なく生存していることが確認できる割合を意味する。
【0058】
本発明の判定方法は、下記(1)〜(3)の工程からなる:
(1)癌患者から採取した癌組織において、前記抗体でヒトC4.4Aタンパク質の発現を検出する工程、
(2)前記工程(1)の検出結果に基づいて、癌浸潤先進部の細胞において、細胞膜と細胞質との間でヒトC4.4Aタンパク質の局在を比較し、かつ癌浸潤先進部と癌病巣の表層部または中層部との間で、ヒトC4.4Aタンパク質の発現量を比較する工程、および
(3)前記工程(2)の比較に基づいて、前記ヒトC4.4Aタンパク質が前記癌浸潤先進部の細胞の細胞膜上に集積し、かつ前記ヒトC4.4Aタンパク質の発現量が前記癌浸潤先進部の細胞において、前記癌病巣の表層部または中層部と比べて亢進している場合は、予後不良と判定する工程。
【0059】
上記の(1)〜(3)の工程は、下記のように換言することもできる。
(1)癌患者から採取した癌組織において、前記抗体を用いて免疫染色を行なう工程、
(2)前記工程(1)の免疫染色に基づいて、癌浸潤先進部の細胞において、細胞膜と細胞質との間でヒトC4.4Aタンパク質の染色強度を比較し、かつ癌浸潤先進部と癌病巣の表層部または中層部との間で、ヒトC4.4Aタンパク質の染色強度を比較する工程、および
(3)前記工程(2)の染色強度の比較に基づいて、前記ヒトC4.4Aタンパク質の染色強度が、前記癌浸潤先進部の細胞の細胞膜において、前記癌浸潤先進部の細胞の細胞質と比べて亢進、かつ前記ヒトC4.4Aタンパク質の染色強度が前記癌浸潤先進部の細胞において、前記癌病巣の表層部または中層部と比べて亢進している場合は、予後不良と判定する工程。さらに、上記の(1)〜(3)の工程は、下記の通り換言することもできる。
(1)癌患者から採取した癌組織を、前記抗体でヒトC4.4Aタンパク質について免疫測定を行う工程、
(2)前記工程(1)の免疫測定の結果について、癌浸潤先進部と癌病巣の表層部または中層部との間で、測定結果を比較する工程、および
(3)前記工程(2)の測定結果の比較に基づいて、前記ヒトC4.4Aタンパク質が前記癌浸潤先進部の細胞の細胞膜上に集積し、かつ前記ヒトC4.4Aタンパク質の発現量が前記癌浸潤先進部の細胞において前記癌浸潤先進部と癌病巣の表層部または中層部の細胞と比べて亢進している場合は、予後不良と判定する工程。
【0060】
以下、各工程について説明する。
【0061】
(1)癌患者から採取した癌組織において、前記抗体でヒトC4.4Aタンパク質の発現を検出する工程、について。
【0062】
癌患者から採取した癌組織においてヒトC4.4Aタンパク質の発現を検出、すなわち前記抗体を用いて免疫染色(免疫組織化学)を行なう方法は、公知の手法を用いて行なうことができる。
【0063】
例えば、免疫染色(免疫組織化学)を行う場合にあっては、組織検体を固定する場合もある。具体的には、検体をホルマリン溶液による固定、およびエタノール溶液による脱水を行うことが好適であるが、これに限定されない。さらに、固定化された検体は、パラフィンに包埋し、最終的にパラフィンブロックから試料切片を調製することができる。
【0064】
続いて、検体と抗体を接触させるが、この方法も公知である。例えば、0.1〜100mg/mlで抗体を含むPBS溶液と検体を接触させ、温度4〜37℃にて、60分〜一晩反応させてもよい。
【0065】
続いて、抗体とヒトC4.4Aタンパク質の結合の可視化を行なうが、この方法も公知である。方法の簡便性を考慮すると、標識化された二次抗体を用いることが好ましい。可視化を行うにあたり標識に用いた蛍光を検出する場合などにおいては、CCDカメラを備えた蛍光顕微鏡システムによって可視化を行うことができる。あるいは、現像写真を得ることもできる。
【0066】
かくして、工程(1)により、ヒトC4.4Aタンパク質の発現が検出される。
【0067】
(2)前記工程(1)の検出結果に基づいて、癌浸潤先進部の細胞において、細胞膜と細胞質との間でヒトC4.4Aタンパク質の局在を比較し、かつ癌浸潤先進部と癌病巣の表層部または中層部との間で、ヒトC4.4Aタンパク質の局在および発現量を比較する工程、について。
【0068】
工程(1)の結果を評価する。評価は、ヒトC4.4Aタンパク質が検出される細胞内の箇所および検出される相対物質量について行う。具体的には、工程(1)で得られるヒトC4.4Aタンパク質の発現パターンに基づき、ヒトC4.4Aタンパク質の局在および発現量を比較する。換言すると、工程(2)では、前記工程(1)の免疫染色に基づいて、癌浸潤先進部の細胞において、細胞膜と細胞質との間でヒトC4.4Aタンパク質の染色強度を比較し、かつ癌浸潤先進部と癌病巣の表層部または中層部との間で、ヒトC4.4Aタンパク質の染色強度を比較する
【0069】
ヒトC4.4Aタンパク質の局在および発現量を比較するための評価方法、すなわちヒトC4.4Aタンパク質の染色強度の評価方法は、当業者が適宜選択すればよい。
【0070】
ここで、「癌浸潤先進部」とは、病理学的所見により癌が癌化した組織の表層部から深部に向かって成長する最深部を指し、「癌病巣の表層部または中層部(中間部)」は、先進部以外の部位全体を指す。癌浸潤先進部の細胞の細胞膜および細胞質は、当業者が通常の手段(例えば、形態に基づく識別)により識別することができる。
【0071】
しばしば、消化器系などの組織においては、癌は器官の表層部(例えば、上皮、粘膜など)で生じる。当初癌化した箇所が原病巣である。その後、生じた癌は、細胞数を増大させながら、周辺部位へ向かって成長(すなわち、浸潤。)をしていく。周辺とは、例えば大腸においては、表層に近い順に、粘膜下層、筋層などを指す。成長をする癌病巣部において、粘膜下層、筋層などの癌化していない周辺部位と接する、癌病巣部の最深部を「癌浸潤先進部」という。さらに癌が成長をしていくと、以前には周辺部位と接していた部位が、もはや最深部ではなくなると、「中層部(中間部)」となる。
【0072】
比較に際して、「癌病巣の表層部または中層部」としては、表層部および中層部のいずれであってもよい。前述の通り、癌浸潤先進部と中層部とが位置関係が近い場合が多い。そのため、実用性の観点から、癌浸潤先進部と、癌病巣の中層部との間で比較を行なうことが好ましい。
【0073】
工程(1)の結果を、癌浸潤先進部の細胞において、細胞膜と細胞質との間、および、癌浸潤先進部と癌病巣の表層部または中層部との間で比較すると、比較結果は下記の4つのパターンに分類できる(後述の実施例2および図4参照):
(A) ヒトC4.4Aタンパク質が癌浸潤先進部の細胞の細胞膜上に集積し、かつヒトC4.4Aタンパク質の発現量が癌浸潤先進部の細胞において、癌病巣の表層部または中層部と比べて亢進している、
(B1)ヒトC4.4Aタンパク質が癌浸潤先進部の細胞の細胞膜上に集積しているが、ヒトC4.4Aタンパク質の発現量が癌浸潤先進部と癌病巣の表層部または中層部との間で同程度である
(B2)ヒトC4.4Aタンパク質が癌浸潤先進部の細胞の細胞膜上に集積していないが、ヒトC4.4Aタンパク質の発現量が癌浸潤先進部の細胞において、癌病巣の表層部または中層部と比べて亢進している、
(C) ヒトC4.4Aタンパク質が癌浸潤先進部の細胞の細胞膜上に集積しておらず、ヒトC4.4Aタンパク質の発現量が癌浸潤先進部と癌病巣の表層部または中層部との間で同程度である。
【0074】
比較結果は、以下のように換言することができる。
(A) ヒトC4.4Aタンパク質の染色強度が、癌浸潤先進部の細胞の細胞膜において、癌浸潤先進部の細胞の細胞質と比べて亢進、かつヒトC4.4Aタンパク質の染色強度が、癌浸潤先進部の細胞において、癌病巣の表層部または中層部と比べて亢進している、
(B1)ヒトC4.4Aタンパク質の染色強度が、癌浸潤先進部の細胞の細胞膜上において、癌浸潤先進部の細胞の細胞質と比べて亢進しているが、ヒトC4.4Aタンパク質の染色強度が、癌浸潤先進部と癌病巣の表層部または中層部との間で同程度である
(B2)ヒトC4.4Aタンパク質の染色強度が、癌浸潤先進部の細胞の細胞膜上において癌浸潤先進部の細胞の細胞質と比べて亢進していないが、ヒトC4.4Aタンパク質の染色強度が、癌浸潤先進部の細胞において、癌病巣の表層部または中層部と比べて亢進している、
(C)ヒトC4.4Aタンパク質の染色強度が、癌浸潤先進部の細胞の細胞膜上において、癌浸潤先進部の細胞の細胞質と比べて亢進しておらず、ヒトC4.4Aタンパク質の染色強度が、癌浸潤先進部と癌病巣の表層部または中層部との間で同程度である。
【0075】
なお、「ヒトC4.4Aタンパク質が癌浸潤先進部の細胞の細胞膜上に集積」とは、癌浸潤先進部の細胞の細胞膜において、癌浸潤先進部の細胞の細胞質と比べてヒトC4.4Aタンパク質の発現量が亢進している状態を指す。
【0076】
かくして、工程(1)の結果が評価され、ヒトC4.4Aタンパク質の発現パターンが比較される。
【0077】
(3)前記工程(2)の比較に基づいて、前記ヒトC4.4Aタンパク質が前記癌浸潤先進部の細胞の細胞膜上に集積し、かつ前記ヒトC4.4Aタンパク質の発現量が前記癌浸潤先進部の細胞において、癌病巣の表層部または中層部と比べて亢進している場合は、予後不良と判定する工程、について。
【0078】
上記工程(2)で分類される4パターンのうち、A型の発現パターンであった検体が由来した患者について、癌の予後が不良である、すなわち癌再発のリスクがある、と判定する。このことは、後述の実施例2、図6および図7において示すように、A型の発現パターンであることは、悪性浸潤の指標である腫瘍蔟出(tumor budding)が高頻度に検出されることとは統計学的に有意に相関すること、ならびに5年間全生存率(OS)および5年間無病生存率(DFS)について(B1+B2+C)型の発現パターンである場合と比べて統計学的に有意な予後不良が認められることに基づく。
【0079】
予後不良と判定された患者については、アフターケア(主に、手術後のアフターケア)として、慎重な経過観察および重点的な予防的措置を行うことが好ましい。慎重な経過観察および重点的な予防的措置の具体例として、フルオロウラシル(5−FU)、レボホリナート(LV;商品名:アイソボリン、ファイザー・インコーポレーテッド)、オキサリプラチン(L−OHP;商品名:エルプラット/Eloxatin、ヤクルト本社)などの抗癌剤を投与する等の措置が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0080】
発現パターンがB1型またはB2型であった場合には、ただちに予後不良とは判定されないものの、慎重な経過観察が望ましい。
【0081】
C型の発現パターンで合った場合は、ただちに予後不良であるとは判定されない。適度な経過観察や予防的措置のみを行い、経過に応じた措置を行っていくことが好ましい。
【0082】
また、本発明の判定方法の他の公知の、あるいは将来的に見出される癌の予後判定方法と組み合わせてもよい。例えば、癌検体の病理組織学的所見(具体的には、リンパ節転移の有無などが挙げられる。)、癌患者の遺伝的要因の検出などとの組み合わせが挙げられるが、これに限定されない。
【0083】
かくして、癌患者の予後不良が判定される。本発明の方法が、癌再発リスクの判定方法である場合は、癌再発のリスクの有無が判定される。
【0084】
3.キット
本発明のキットは、癌患者の予後を判定するためのキットであって、上記の抗体を含んでなるキットである。
【0085】
また、本発明のキットには、上記抗体以外に、必要に応じて他の成分を含めることができる。他の成分は、例えば免疫測定を行うために必要な試薬または器具であってもよい。具体的には、免疫組織化学を行う際の検体固定に用いる試薬(例えば、ホルマリン、エタノール)、検出に用いる試薬(例えば、2次抗体)、使用する器具(例えば、スライドガラス、カバーカラス)、もしくはポジティブコントロール試料およびネガティブコントロール試料などが挙げられるが、これに制限されない。さらに、上記判定方法を行うための手順を書き記した書面などを含むことができる。
【0086】
本発明のキットは、常法に従い、必要に応じて上記成分を備えることで作製することができる。
【0087】
キットの使用形態は特に限定されないが、上記判定方法に用いることが好ましい。上記判定方法に用いた場合、判定を容易に行うことが可能となる。本発明のキットの好ましい態様において、判定される癌患者の予後は、癌再発リスクに基づく予後であり、特に血行性転移に起因する癌再発リスクに基づく予後である。
【0088】
4.診断薬
本発明の癌診断薬は、上記の抗体を含んでなる。
【0089】
本発明の癌診断薬の好ましい態様の1つとして、癌再発リスクの診断薬が挙げられる。特に好ましい態様は、血行性転移に起因する癌再発リスクの診断薬である。
【0090】
また、本発明の診断薬には、抗体を不活性化させず、上記判定方法を行うに当たって支障がない限り、他の成分を含めることができる。具体的には、生理食塩水、緩衝液などが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0091】
本発明の診断薬は、常法に従い、必要に応じて上記成分を備えることで調製することができる。
【0092】
実施例
以下に、実施例等に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0093】
[実施例1]
ポリクローナル抗体の作製と特異性の検定
<I.実験材料と実験方法>
1.ポリクローナル抗体の作製
ウサギを、標的ペプチドを結合したサイログロブリンで免疫した。標的ペプチドは、ヒトC4.4Aタンパク質のN末端近傍の83〜97番目のアミノ酸配列に相当する配列番号2に示すアミノ酸配列を有するペプチド、およびヒトC4.4Aタンパク質のC末端の301〜316番目のアミノ酸配列に相当する、GPI付加シグナル配列の一部を含む配列番号1に示すアミノ酸配列を有するペプチドを用いた。(図1)。それぞれのウサギから採取した抗血清を、標的ペプチドが担体ビーズに結合されたカラムに通過させることで、ヒトC4.4Aタンパク質に対して特異的に結合するIgGを精製した。得られたN末端およびC末端に対する抗体を、それぞれ抗C4.4A−1抗体および抗C4.4A−2抗体と命名した。
【0094】
2.細胞株
ヒト大腸癌由来細胞株HCT116は、米国アメリカン・セル・タイプ・コレクション(米国バージニア州マナサス)より入手した。ヒト大腸癌由来細胞株KM12SMは、金沢大学癌研究所の源利成教授から分与されたものを用いた。これらの細胞株は、10%のウシ胎児血清(FBS)、100ユニット/mLのペニシリン、および100マイクログラム/mLのストレプトマイシンを追加したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中、ならびに温度37℃および空気中の二酸化炭素濃度5%の恒温恒湿槽中にて培養を行った。
【0095】
3.大腸癌組織検体
大腸癌組織検体は、インフォームドコンセントを行った大腸癌患者より、大阪大学外科学講座(n=122,1995〜2005)および九州大学生体防御医学研究所(n=108,1993〜1999)における手術時に採取されたものを使用した。採取された組織検体は、緩衝ホルマリン液で一晩、4℃にて固定した後、エタノール系列で脱水処理をし、パラフィンに包埋した。
【0096】
4.ウェスタンブロット法
ウェスタンブロット解析は常法に従って行った。以下にその概略を示す。タンパク質試料(20マイクログラム)を、12.5%ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離し、その後ポリフッ化ビニリデン(PVDF)メンブラン上に電気ブロッテイングした。メンブランは各々の抗体の至適濃度で1時間インキュベートした。タンパク質のバンドは、ECLウェスタンブロッティング検出システム(アマシャム社、米国ニュージャージー州)を用いて検出した。
【0097】
5.免疫組織化学
4マイクロミリメートル厚の組織切片を、パラフィン包埋ブロックより調製した。抗原賦活化処理を10mMクエン酸緩衝液中にて、温度95℃下で40分間行った後に、抗体染色をVetastain ABC peroxidase kit(Vector Labs社、米国カリフォルニア州)を用いて行った。スライドグラスを、50μg/mlの抗体原液を1:200に希釈した抗C4.4A−1抗体または抗C4.4−2抗体中で、一晩4℃にてインキュベートした。非免疫ウサギ由来IgG(Vector Laboratories社)をネガティブコントロールとして利用し、1次抗体の代わりに用いることで、2次抗体またはIgGの非特異的結合による偽陽性反応の可能性を排除した。
【0098】
<II.実験結果>
1.抗C4.4Aポリクローナル抗体の反応性:ウェスタンブロット法
作製した2種類の抗体についてウェスタンブロット解析を行ったところ、ポジティブコントロールの食道上皮検体については、両方の抗C4.4A抗体は、分子量67kDa近傍に明確なバンドを示した(図2)。しかし、大腸癌由来細胞株および大腸組織検体については、抗C4.4A−2ポリクローナル抗体のみが約40kDaの位置に顕著なバンドを示し、一方で抗C4.4A−1抗体はバンドを示さなかった(図2)。
【0099】
なお、ローディングコントロールとして用いたウサギ由来の抗ヒトアクチン抗体は、シグマアルドリッチ社(米国ミズーリ州セントルイス)から購入した。
【0100】
2.抗C4.4Aポリクローナル抗体の反応性:免疫組織化学
上記と一致した結果が、免疫組織化学によっても得られた。すなわち、両方の抗体について、基底上の扁平上皮において染色が観察された(図3A、B)。大腸癌組織検体においては、抗C4.4A−1抗体は何らシグナルが検出されなかったものの、抗C4.4A−2抗体では染色シグナルが得られた(図3C、D)。ネガティブコントロール検定を行ったところ、非免疫ウサギ由来IgGおよび過剰量のヒトC4.4A−2抗原ペプチドにあらかじめ吸着させた抗体の何れもが、食道上皮組織検体を染色しなかった。(データは示さない)。
【0101】
<III.考察>
このように、配列番号1に示すアミノ酸配列の領域に特異的に結合する抗C4.4A−2抗体は、大腸癌由来の試料において、ヒトC4.4Aタンパク質を特異的に検出することができた。一方、抗C4.4A−1抗体はヒトC4.4Aタンパク質の検出ができなかった。
【0102】
また、ヒトC4.4Aタンパク質は、配列番号3に示す全長配列の308番目と309番目とのアミノ酸残基の間で切断されて、GPIアンカーが付加されると予想されている。従って、本発明の抗体は配列番号3に示す全長配列の301〜308番目のアミノ酸配列の領域を認識していると推定される。
【0103】
[実施例2]
大腸癌組織検体におけるヒトC4.4Aタンパク質の検出、および生存率との相関
<I.実験方法>
1.大腸癌組織検体におけるヒトC4.4Aタンパク質の検出
実施例1に準じた方法で、大腸癌組織検体におけるヒトC4.4Aタンパク質の検出を、抗C4.4Aー2ポリクローナル抗体を用いて行った。
【0104】
2.腫瘍蔟出の測定
腫瘍蔟出は、腫瘍の悪性浸潤性の指標である。そこで、腫瘍蔟出のヒトC4.4Aタンパク質の発現パターンと腫瘍蔟出の関係を調べるために、腫瘍蔟出の測定を行った。腫瘍蔟出の評価は、Shintoら, Dis Colon Rectum49: 1422-1430 (2006)に記載の方法に従った。以下にその概略を記す。単一の孤立した癌細胞、または4以内の癌細胞からなる細胞集団を、腫瘍蔟出と定義した。20倍の対物レンズ下で観察したときに、最も高密度に腫瘍蔟出が観察される領域における腫瘍蔟出の出現頻度に応じて、癌組織を2つのグループに分類した。腫瘍蔟出の出現頻度が0から9である場合を低頻度蔟出とし、腫瘍蔟出の現頻度が10以上である場合を高頻度蔟出と定義した。
【0105】
3.統計解析
大腸癌組織検体におけるヒトC4.4Aタンパク質の発現パターンと生存率との相関を統計解析によって評価した。統計解析は、StatViewJ−5.0プログラム(アバカスコンセプツ社、米国カリフォルニア州バークレー)を用いて行った。大腸癌再発率の推定を行うためにはカプランマイヤー法を用い、統計的有意性の検定のためにはログランク検定を用いた。離散変数間の関連性は、カイ2乗検定を用いて評価した。平均値の比較は、マンホイットニー検定を用いて行った。スピアマンの順位相関検定を用いて、2因子間の相関関係を解析した。データは、中央値をもって表記した。P値が<0.05の場合を、統計的有意差があるとした。
【0106】
<II.実験結果>
1.大腸癌組織および浸潤部位におけるヒトC4.4Aタンパク質の発現パターン
【0107】
正常な大腸粘膜検体においては、ヒトC4.4Aタンパク質は大腸上皮の底部において検出される場合があった。一方、癌組織検体においては、大腸癌である大半の場合(122例中96例、78.7%)において、ヒトC4.4Aタンパク質の発現が検出された。癌病巣の表層部または中層部においては、ヒトC4.4Aタンパク質の弱い発現がほとんどの場合は細胞質において検出され、一方浸潤先進部においては高頻度で細胞膜上にC4.4Aタンパク質の発現が検出された(図4A)。注目すべき事実として、膨大な数の癌組織検体のうちで、新生の間質に向かって面した細胞のみがヒトC4.4Aタンパク質を発現していた(図4A、左下パネル)。リンパ節または肺への転移においても、ヒトC4.4Aタンパク質が浸潤周縁部において発現するという同様の発現パターンを示した。(図5
【0108】
癌病巣の表層部または中層部における場合比較とした、癌浸潤先進部における染色パターンに基づいて、大腸癌の122症例を、次の4つのカテゴリに分類した:
(A) ヒトC4.4Aタンパク質が癌浸潤先進部の細胞の細胞膜上に集積し、かつ癌浸潤先進部の細胞において癌病巣の表層部または中層部と比べて発現量が亢進している(n=31)、
(B1)集積しているが、発現量の亢進なし(n=11)、
(B2)集積していないが、発現量が亢進している(n=14)、
(C) 集積、発現量の亢進のいずれもない(n=66)。(表1)。
【0109】
【表1】
【0110】
A型の発現パターンと、他の型(B1+B2+C)とにおいて、表2に列挙する種々の臨床的および病理学的パラメーターについて比較したところ、A型はより高い腫瘍浸潤深度、リンパ節転移、および血行性転移(血管浸潤)と相関していた(それぞれについてP=0.049、P=0.036、P=0.002)。癌のステージがII期およびIII期の患者群(n=82)について性別、年齢、腫瘍サイズ、分化度、浸潤深度、リンパ節転移、および血行性転移(血管浸潤)について解析したところ、A型は血行性転移(血管浸潤)とのみ相関していた(P=0.0027)。
【0111】
【表2】
【0112】
2.腫瘍蔟出とヒトC4.4Aタンパク質の発現パターンとの関係
腫瘍蔟出は、腫瘍の悪性浸潤性の指標であり、腫瘍蔟出が高頻度に観察される場合(蔟出点数≧10)は、腫瘍蔟出が低頻度である場合(蔟出点数0〜9)と比べて、顕著に予後が不良である(全生存率についてはP=0.002[ステージI期〜IV期、n=122]、無病生存率についてはP=0.004[ステージII期およびIII期、n=82])ことは前出の報告の通りである。免疫染色を行ったところ、蔟出細胞においてヒトC4.4Aが細胞膜上で濃く染色されることが高頻度で観察された(図4B)。蔟出頻度と浸潤先進部におけるヒトC4.4Aの発現パターンの相関関係を調べたところ、2つの因子の間で顕著な相関関係が認められた(P<0.0001、図4C、表3)。
【0113】
【表3】
【0114】
3.生存率解析
前述の大阪大学外科学講座における手術時に、大腸癌患者より採取した122症例のヒトC4.4Aタンパク質の局在の変化(A+B1)または発現強度の変化(A+B2)のいずれとも、より短い5年間全生存率(OS)と相関する(P=0.014およびP=0.006、図6)ことを、生存率解析は示している。より顕著な差が、A型と他の型(B1+B2+C)の間で認められた(P=0.0009、図6)。B1型およびB2型は、C型との間に顕著な差は認められなかった(図6)。癌のステージがII期およびIII期の患者群について、外科治療後の5年間無病生存率(DFS)について解析したところ、同様の結果が得られた(図7)。
【0115】
一変量解析の結果は、腫瘍サイズが大きいこと、ならびにリンパ節転移、遠隔転移、および腹膜播種の存在、ならびに高頻度蔟出が、ヒトC4.4Aタンパク質のA型発現パターンに加えて、不良な5年間OSの前兆であることを示した。最も顕著な予後因子を判定するために多変量解析を行ったところ、ヒトC4.4Aタンパク質のA型発現パターン、腫瘍サイズが大きいこと、リンパ節転移、遠隔転移、および腹膜転移は独立した予後因子であると同定されたが、高頻度蔟出は保持されなかった(表4、5)。癌のステージがII期およびIII期の患者群(n=82)において、一変量解析によるヒトとC4.4Aタンパク質のA型発現パターン、高頻度蔟出、およびリンパ節転移の存在が短いDFSの前兆であった。多変量解析の結果によると、ヒトC4.4Aタンパク質のA型発現パターンのみが独立した予後因子であることが保持された(表6、7)。
【0116】
【表4】
【0117】
【表5】
【0118】
【表6】
【0119】
【表7】
【0120】
<III.考察>
このように、大腸癌患者の予後観察を行ったところ、癌組織献体においてヒトC4.4Aタンパク質のA型発現パターンが見られた患者においては、統計学的に有意に予後不良であった。すなわち、ヒトC4.4Aタンパク質のA型発現パターンを予後不良の判定基準として用いることができることがここに示されている。
【0121】
[実施例3]
標的ペプチドと染色パターンとの関係の検証
<I.実験材料と実験方法>
実施例1と同様にして、配列番号1に示すアミノ酸配列のペプチドを標的ペプチドとして、抗C4.4A−2抗体とは異なる2羽のウサギから、ポリクローナル抗体を得た。それぞれ、抗C4.4A−2−2ポリクローナル抗体および抗C4.4A−2−3ポリクローナル抗体と命名した。
【0122】
また、ヒトC4.4Aタンパク質の別の部位である、配列番号4に示すアミノ酸配列(C4.4A(119)ペプチド:ヒトC4.4Aタンパク質の119〜140番目のアミノ酸配列に相当)のペプチド、および配列番号5に示すアミノ酸配列(C4.4A(277)ペプチド:ヒトC4.4Aタンパク質の277〜297番目のアミノ酸配列に相当)のペプチドを標的ペプチドとしたポリクローナル抗体を得た。それぞれ、抗C4.4A(119)ポリクローナル抗体および抗C4.4A(277)ポリクローナル抗体と命名した。図8に、ヒトC4.4Aタンパク質における各々の標的ペプチドの部位を示す。
【0123】
得られた各々の抗体について、大腸癌患者由来の試料における免疫組織化学による染色パターンを、実施例1で取得した抗C4.4A−2抗体との染色パターンと比較した。免疫組織化学は、実施例1および2と同様にして行なった。
【0124】
<II.実験結果と考察>
図9に示すように、抗C4.4A−2−2ポリクローナル抗体および抗C4.4A−2−3ポリクローナル抗体については、浸潤先進部においては細胞膜上に染色が観察された。これは、抗C4.4A−2ポリクローナル抗体と同様の染色パターンであった。
【0125】
一方、図10に示すように、抗C4.4A(119)ポリクローナル抗体および抗C4.4A(277)ポリクローナル抗体を用いた場合は、癌浸潤先進部における特徴的な染色パターンは、観察されなかった。
【0126】
以上の結果は、実施例2で観察された癌浸潤先進部における染色パターンは、ヒトC4.4Aタンパク質の特定の部位を標的とする抗体において、特異的に観察されることを示している。
【0127】
[実施例4]
モノクローナル抗体の作製と特異性の検証
<I.実験材料と実験方法>
1.モノクローナル抗体の作製
下記の手順に従い、モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得た。
[1]標的ペプチドとして、配列番号1に示すアミノ酸配列を有するペプチドのN末端にシステインと1残基付した配列を有するペプチドを合成した。
[2]上記ペプチドをウシサイログロブリンへ結合し、これをマウスへ免疫した。
免疫動物は、以下の通りであるSPF/VAF B6D2F1/Crlj (BDF1マウス)雄、6週齢(日本チャールスリバーより取得)を2匹、およびSPF/VAF BALB/cAnNCrlCrlj (BALB/cマウス)雄、6週齢(日本チャールスリバーより取得)を2匹、である。
免疫条件は、50μg/匹/回 (初回FCA, 2回目以降FICAのエマルジョン)を腹部と背部の皮下および皮内へ7日毎に1回、計4回の免疫として行なった。
[3]試験採血を抗原固相ELISA及び免疫組織染色で評価し、抗体力価の亢進が見られた個体を選抜した。
[4]選抜したマウス個体から脾臓細胞およびリンパ節を調製し、ミエローマ(P3X63Ag8.653)と融合し、融合細胞(ハイブリドーマ)を得た。
[5]得られた融合細胞を限界希釈法による細胞播種を行った。ついで、培養上清を、標的ペプチドを固定した抗原固相プレートに対してELISA法を行い、標的力価に対する抗原力価が高い抗体を産生するハイブリドーマを選択した。
【0128】
得られたハイブリドーマの一つを11A1と命名し、以下の解析に用いた。
【0129】
なお、ハイブリドーマの作製およびモノクローナル抗体の精製は、株式会社免疫生物研究所に委託して行なった。
【0130】
作製したハイブリドーマ11A1は、2011年4月27日(原寄託日)に、日本国日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8に住所を有する独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受託され、2011年5月31日に原寄託よりブダペスト条約に基づく寄託への移管請求が受託された。その受託番号は、NITE BP-1090であり、受託者が付した識別のための表示は「CA4.4A Hybridoma 11A1」である。
【0131】
2.免疫組織化学
上記で得たハイブリドーマ11A1が産生するモノクローナル抗体(以下、抗C4.4A−2モノクローナル抗体と記載する。)を用いて、大腸癌患者由来の試料における免疫組織化学による染色パターンを、実施例1で取得した抗C4.4A−2抗体との染色パターンと比較した。
【0132】
また、下記の手法により、過剰量のヒトC4.4A−2抗原ペプチドにあらかじめ吸着させた抗C4.4A−2モノクローナル抗体を用いた染色パターンも得た。
[1]抗体希釈バッファー(1 % BSA in PBS)へ抗体およびペプチドを、抗体:ペプチドが1 mol : 20 molとなるように添加。対照として、ペプチドに代えて精製水を添加したものを用いる。
[2]4℃で一晩、転倒混和。
【0133】
3.ウェスタンブロット法
実施例1と同様にして、[1]抗C4.4A−2ポリクローナル抗体、[2]過剰量のヒトC4.4A−2抗原ペプチドにあらかじめ吸着させた抗C4.4A−2ポリクローナル抗体、[3]抗C4.4A−2モノクローナル抗体、および[4]過剰量のヒトC4.4A−2抗原ペプチドにあらかじめ吸着させた抗C4.4A−2モノクローナル抗体を用いて、ウェスタンブロットを行なった。試料として、大腸癌由来細胞株HCT116を用いた。
【0134】
<II.実験結果>
図11に、大腸癌患者由来の試料の連続切片における、抗C4.4A−2モノクローナル抗体と抗C4.4A−2ポリクローナル抗体の染色パターンを示す。抗C4.4A−2モノクローナル抗体により得られる染色パターンは、抗C4.4A−2ポリクローナル抗体の場合と同様に、癌浸潤先進部においては高頻度で細胞膜上に染色が観察された。
【0135】
図12に、過剰量のヒトC4.4A−2抗原ペプチドにあらかじめ吸着させた抗C4.4A−2モノクローナル抗体を用いた染色パターンを示す。癌浸潤先進部における特異的な染色パターンが、観察されなかった。
【0136】
図13に、ウェスタンブロット解析の結果を示す。抗C4.4A−2モノクローナル抗体を用いて、抗C4.4A−2ポリクローナル抗体と同様に約40kDaの位置にバンド(図中、矢印で指し示すバンド)を検出することができた。また、約40kDaの位置のバンドは、過剰量のヒトC4.4A−2抗原ペプチドにあらかじめ吸着させた抗C4.4A−2ポリクローナル抗体および過剰量のヒトC4.4A−2抗原ペプチドにあらかじめ吸着させた抗C4.4A−2モノクローナル抗体を用いた場合においては、検出されなかった。
【0137】
<III.考察>
以上の結果は、CA4.4A Hybridoma 11A1が産生するモノクローナル抗体が、配列番号1に示すアミノ酸配列のペプチドを特異的に認識する抗体であり、免疫組織化学およびウェスタンブロット解析において実施例1で得た抗C4.4A−2ポリクローナル抗体と同様の反応性を有する抗体である。すなわち、CA4.4A Hybridoma 11A1が産生するモノクローナル抗体は、本発明の予後判定方法において好適に使用することができる。
【0138】
[実施例5]
ヒトC4.4Aタンパク質の発現パターンと、リンパ節転移および血行性転移との相関
ヒトC4.4Aタンパク質の発現パターンと、リンパ節転移および血行性転移との相関をより詳細に検証するために、実施例3で用いた122症例の大腸癌組織検体に加えて、遠隔転移を生じた10症例(大阪大学外科学講座)の大腸癌組織検体を加えた計132症例について、実施例2と同様に統計解析をおこなった。統計解析の結果を、表8〜13に示す。
【0139】
【表8】
【0140】
【表9】
【0141】
【表10】
【0142】
【表11】
【0143】
【表12】
【0144】
【表13】
【0145】
特に着目すべき点として、遠隔転移を生じた10症例(大阪大学外科学講座)を加えた症例群の解析からは、ヒトC4.4Aタンパク質のA型発現パターンとリンパ節転移とは相関しないことが明らかとなった(表9、P値=0.133)。一方で、ヒトC4.4Aタンパク質のA型発現パターンと血行性転移との相関は保持された(表9、P値=0.003)。
【0146】
<総合考察>
以上の実施例により、癌組織献体においてヒトC4.4Aタンパク質のA型発現パターンが見られた患者においては、統計学的に有意に予後不良であった(実施例2)。また、詳細な解析の結果、ヒトC4.4Aタンパク質のA型発現パターンは、血行性転移とは相関するものの、リンパ節転移とは相関が小さいことが示唆された(実施例5)。また、ヒトC4.4Aタンパク質のA型発現パターンは、リンパ節転移と比べて、癌再発のリスクをより顕著に示す因子であることも示唆された。
【0147】
これらの結果は、ヒトC4.4Aタンパク質のA型発現パターンを予後不良の判定基準として用いることを示しており、さらには、ヒトC4.4Aタンパク質のA型発現パターンは血行性転移に起因する癌再発リスクの指標であることを示している。
【0148】
従来、リンパ節転移の有無が、外科手術後に抗癌剤投与などの癌再発を予防するためのアフターケアを行なうか否かの目安となっている。リンパ性転移陰性の場合は、予防的アフターケアを行なわないことが一般的であるが、リンパ性転移陰性において10〜20%程度の患者において癌が再発するに過ぎない。一方、リンパ性転移陽性の場合は、抗癌剤投与などの予防的アフターケアを行なっているものの、リンパ性転移陽性において癌が再発する割合は25〜40%程度である。これは、リンパ節転移の有無を指標とした場合には、本来予防的アフターケアを必要としない患者に、身体的、精神的および経済的な負担を強いていることを意味する。
【0149】
本発明の抗体を用いた方法は、ヒトC4.4Aタンパク質のA型発現パターンにより、血行性転移のリスクを検出できると考えられる。そのため、従来のリンパ節転移の有無を指標とした場合には検出することができなかった、血行性転移に起因する癌再発を予見できると考えられる。
【0150】
本発明の抗体を用いた方法により、癌手術後に癌再発のリスクが高い患者を、高い精度で予期することができる。すなわち、予防的アフターケアが必要でない患者においてはアフターケアを行なわず、真に予防的アフターケアを必要とする患者において重点的にアフターケアを行うことが容易となる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]