(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
1次粒子の平均粒径が1〜10μmであり、この1次粒子が接着した2次粒子の平均粒径が20〜150μmであり、粒径が20〜150μmである2次粒子の割合が全体の70質量%以上であり、上記1次粒子はモリブデン粉末またはタングステン粉末のいずれか1種と、Ni、Co、Cr、希土類元素およびこれら元素の化合物の少なくとも1種以上の第二成分粉末を0.005〜30質量%の割合で混合されており、上記モリブデン粉末またはタングステン粉末の平均粒径よりも第二成分粉末の平均粒径の方が小さいことを特徴とする溶射用高融点金属粉末。
前記1次粒子は純度が99.9質量%以上であるモリブデン粉末またはタングステン粉末のいずれか1種であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の溶射用高融点金属粉末。
【背景技術】
【0002】
溶射とは、セラミックス材料または金属材料を加熱・溶融して、基材(被施工物)の表面に吹き付けて被膜を形成する成膜方法である。加熱用の熱源としては、燃焼炎やプラズマなどが使用される。溶射方式は、フレーム溶射、爆発溶射、電気式溶射、高速フレーム溶射などがあり、近年は材料を溶融しないで被膜を形成するコールドスプレー法も開発されている。
【0003】
溶射は、溶融する材料であれば適用できるため、金属、セラミックス、サーメットやプラスチックなど様々な材料が使用されている。そのため、溶射した被膜の用途も様々であり、耐摩耗性膜、耐食性膜、耐熱性膜等として利用され、自動車部品、産業機械部品、成膜装置用部品など種々の産業分野に適用されている。
【0004】
ところで、溶射を行うには、溶射材料を粉末または線材(ワイヤー状、棒状)にして加熱源に供給することになる。フレーム溶射を例に挙げると、線状の溶射材料を使う方式を溶線式フレーム溶射(wire flame spraying)法と呼び、粉末状の溶融材料を使う方式を粉末式フレーム溶射(powder flame spraying)法と呼ばれている。
【0005】
上記溶線式フレーム溶射法によれば、燃焼炎に線状溶射材料を連続的に供給できることから、材料の供給量を一定にコントロールし易く均一な溶射膜が得られ易いという利点がある。
【0006】
しかしながら、溶射材料を線材に加工しなければならないことから、炭素鋼、アルミニウムや亜鉛など比較的加工し易い材料には好適であるが、モリブデンやタングステンなどの硬い高融点金属に適用する場合はコストアップの要因となっていた。
【0007】
このため、高融点金属を溶射するときは粉末式フレーム溶射法が適用されることが多かった。溶射用粉末として、例えば、特開2004−300555号公報(特許文献1)が開示されている。特許文献1では、平均粒径が10μm以下のMo粉末を造粒焼結法によって粒径範囲(粒度範囲)が5〜75μmである溶射用粉末や45〜250μmの溶射用粉末を得ていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のような従来の溶射用粉末の調製方法によれば、微細な原料粉末を造粒焼結法により処理して平均粒径を増大化させることにより、溶射ノズル(燃焼炎)への溶射材料の供給量を大きくすることが可能であるため、成膜量および成膜速度を増加させることはできる。
【0010】
しかしながら、造粒焼結法により得た粒径範囲は、5〜75μmまたは45〜250μmとなるように粒径のばらつきが大きい。例えば、粒径範囲が5〜75μmである場合、5μmの粉末と75μmの粉末とが混在した状態となる。小さな粒子と大きな粒子が混在した状態で溶射を行うと、瞬間的な溶射用粉末の供給量にばらつきが生じてしまうため厚さが均一な膜が得られ難いという問題が生じていた。また、造粒した粉末を焼結により一体化すると、焼結する工程が必要なためコストアップの要因となっていた。
【0011】
本発明は、上記従来の問題点を解決するためになされたものであり、取扱い性および成膜性が良好であり、粒径のばらつきが少なく厚さが均一な溶射膜が得られ易く、また焼結操作が不要であり調製が容易な溶射用高融点金属粉末およびそれを用いた高融点金属溶射膜並びに溶射部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る溶射用高融点金属粉末は、1次粒子の平均粒径が1〜10μmであり、この1次粒子が接着した2次粒子の平均粒径が20〜150μmであり、粒径が20〜150μmである2次粒子の割合が全体の70質量%以上であ
り、上記1次粒子はモリブデン粉末またはタングステン粉末のいずれか1種と、Ni、Co、Cr、希土類元素およびこれら元素の化合物の少なくとも1種以上の第二成分粉末を0.005〜30質量%の割合で混合されており、上記モリブデン粉末またはタングステン粉末の平均粒径よりも第二成分粉末の平均粒径の方が小さいことを特徴とする。
【0013】
また上記溶射用高融点金属粉末において、前記粒径が20〜150μmである2次粒子の割合が90〜100質量%であることがより好ましい。さらに上記溶射用高融点金属粉末において、前記2次粒子が、1次粒子を樹脂バインダーにより接着して調製されていることが好ましい。
【0014】
さらに上記溶射用高融点金属粉末において、前記1次粒子の純度が99.9質量%以上であるモリブデン粉末またはタングステン粉末のいずれか1種であることが好ましい。また、前記1次粒子はモリブデン粉末またはタングステン粉末のいずれか1種と、Ni、Co、Cr、希土類元素およびこれら元素の化合物の少なくとも1種以上の第二成分粉末を0.005〜30質量%の割合で混合されていることが好ましい。
【0015】
また上記溶射用高融点金属粉末において、前記モリブデン粉末またはタングステン粉末の平均粒径よりも第二成分粉末の平均粒径の方が小さいことが好ましい。さらに前記2次粒子のかさ密度が1〜5g/cm
3であることが好ましい。
【0016】
さらに上記溶射用高融点金属粉末において、前記溶射用高融点金属粉末の流動性が50sec/50g以下であることが好ましい。
【0017】
また、本発明に係る高融点金属溶射膜は、上記の溶射用高融点金属粉末を溶射して基材上に形成されていることを特徴とする。
【0018】
さらに本発明に係る溶射部品は、上記の高融点金属溶射膜を基材表面に具備したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る溶射用高融点金属粉末によれば、所定粒径範囲を有する2次粒子の重量割合を多く規定しているので、溶射ノズルに対する溶射用粉末の供給量を一定に制御することが可能であり、また制御管理が容易になるため、厚さが均一な高融点金属溶射膜を得ることができる。また、焼結操作を実施せず、1次粒子を接着した2次粒子を使用しているために、コストアップを防止することも可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る溶射用高融点金属粉末は、1次粒子の平均粒径が1〜10μmであり、この1次粒子が接着した2次粒子の平均粒径が20〜150μmであり、粒径が20〜150μmである2次粒子の割合が全体の70質量%以上であることを特徴とする。また上記溶射用高融点金属粉末において、前記粒径が20〜150μmである2次粒子の割合が90〜100質量%であることが好ましい。
【0022】
ここで高融点金属とは、タングステン(融点3400℃)、モリブデン(融点2620℃)、レニウム(融点3180℃)、ハフニウム(融点2230℃)など、融点が2000℃以上の金属を示す。また、1次粒子とは高融点金属粉末1個のことを示し、2次粒子とは1次粒子が複数個固まった粒子のことを示す。1次粒子が固まるとは、凝集して固まった状態や、接着剤またはバインダーなどを介して相互に接着した状態を示す。
【0023】
図1は1次粒子1と二次粒子2とが混在した状態の一例を示す。図中、符号1が溶射用高融点金属粉末の1次粒子であり、符号2が溶射用高融点金属粉末の2次粒子である。
【0024】
本発明の溶射用高融点金属粉末では、1次粒子の平均粒径が1〜10μmであり、この平均粒径1〜10μmの粒子同士を接着して結合した2次粒子の平均粒径が20〜150μmであり、粒径20〜150μmの2次粒子の割合が全体で70質量%以上であることを特徴とするものである。
【0025】
1次粒子が接着した2次粒子は、接着剤やバインダーなどの有機物を使用して1次粒子を接着して調製することが好ましい。有機物であれば溶射工程の熱により焼失するので高融点金属粉末の特性に悪影響を与えることが少ない。
【0026】
また、1次粒子の平均粒径が1μm未満となる場合では、個々の粉末が過度に微細であり取扱い性が悪化してしまう一方、平均粒径が10μmを超えて粗大になると、2次粒子のサイズが必要以上に大きくなり、溶射材料の供給速度が不安定になってしまうおそれがある。また、2次粒子の平均粒径が20μm未満では2次粒子とする効果が小さい一方、平均粒径が150μmを超えるとサイズが過大であるため、溶射工程における材料供給量のばらつきを招き、均一な成膜操作が困難になる。
【0027】
本発明では、粒径が20〜150μmである2次粒子の重量割合が80質量%以上となるように規定される。さらに、この粒径が20〜150μmである2次粒子の重量割合が、さらには90質量%以上100質量%以下であることが好ましい。
【0028】
ところで、フレーム溶射などの溶射工程では、溶射炎中に溶射材料を供給することになる。しかしながら、溶射材料が粉末である場合には、溶射材料の粉末サイズの大小によって、得られる溶射膜の膜厚や成膜速度が変化してしまう。つまり、同じ組成の溶射材料を使用した場合においても、粒径が1μmの溶射材料と粒径が20μmの溶射材料とでは、成膜量が大きく異なる。
【0029】
溶射炎へ溶射材料を安定的に供給するためには、高融点金属を線材または棒材にすることが従来から採用されているが、高硬度の高融点金属を線材または棒材に加工するためには複雑な工程が必要であり、溶射操作のコストアップ要因となる。
【0030】
これに対して、本発明では、微細な1次粒子を、ある程度の粒径を有する2次粒子に加工し、その2次粒子の割合を多くすることにより、溶射炎への高融点金属粉末の供給量を安定化させている。溶射炎への高融点金属粉末の供給量が安定することにより、成膜量も安定するため膜厚が均一な高融点金属膜が容易に得られる。また、線材や棒材よりも粉末状の溶射材料の方が溶融しやすいので、同じ燃焼炎(溶射炎)であれば成膜速度を上昇されることが可能である。
【0031】
高融点金属粉末の粒径の絶対値が、本発明で規定した範囲であれば、溶射材料としての高融点金属粉末の供給のばらつきを低減することが可能となる。
図2および
図3は本発明に係る溶射用高融点金属粉末の2次粒子の構成例を示した。
【0032】
図2および
図3において、符号2が溶射用高融点金属粉末の2次粒子である。
図3には2次粒子の粒径を示すLを記載した。溶射用高融点金属粉末の1次粒子および2次粒子の粒径は、簡易的には以下の方法で測定できる。すなわち、それぞれの粉末群の拡大写真を撮り、そこに写る粒子の最大径を粒径とし、それぞれ50個の粒子について測定しそれを平均粒径とする方法である。1次粒子径についてはFSSS粒径を用いてもよい。
【0033】
また、複数個の1次粒子を樹脂バインダーにより相互に接着した2次粒子を用いることが好ましい。2次粒子は前述の通り、1次粒子同士が接着したものであるが、この接着態様としては、応力による接合や樹脂バインダーによる接合など様々な態様がある。樹脂バインダーによって接着した金属粉末であれば、溶射炎に投入したときに樹脂バインダーが焼失するので溶融した1次粒子成分を成膜できる。一方、応力により接合した金属粉末の場合には、2次粒子そのものが溶融して成膜されるので、2次粒子のサイズが過大であると成膜の厚さや成膜量のばらつきにつながる。
【0034】
樹脂バインダーは、樹脂であれば特に限定されるものではないが、ポリビニルアルコール(PVA)、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂など1000℃以上の溶射炎で焼失するものであれば好適である。
【0035】
また、高融点金属粉末は、1次粒子が純度99.9質量%以上のモリブデン粉末またはタングステン粉末のいずれか1種で構成されていることが好ましい。高融点金属の純度は、求める溶射膜の特性に応じて定められるが、純度が高い方が融点のばらつきが少ないため安定した溶射膜がより得易くなる。特に、高融点金属は線材や棒材への加工が困難であり、モリブデンやタングステンは粉末状態で使用する方がより好ましい。
【0036】
また、高融点金属粉末の1次粒子は、モリブデン粉末またはタングステン粉末のいずれか1種と、Ni、Co、Cr、希土類元素およびこれら元素の化合物の少なくとも1種以上の第二成分粉末を0.005〜30質量%混合したものであってもよい。
【0037】
溶射膜に求められる特性に応じて、Ni、Co、Cr、希土類元素およびこれら元素の化合物の少なくとも1種以上の第二成分粉末を0.005〜30質量%の割合で混合することも効果的である。
【0038】
混合としては、高融点金属粉末に第二成分の粉末を混合する方式が好ましい。例えば、高融点金属と第二成分の合金粉末とを予め製造してもよいが、合金化工程がコストアップの要因となる。一方、第二成分の粉末を混合する方式であれば、粉末を混合するだけでよいので、溶射用高融点金属粉末の調製が極めて簡単になる。また、高融点金属粉末を溶射する溶射炎は非常に高温であるから、第二成分粉末は溶射炎により溶射される。
【0039】
また、第二成分粉末の平均粒径は高融点金属粉末と同様に、1〜10μmの範囲が好ましい。また、モリブデン粉末またはタングステン粉末の平均粒径よりも第二成分粉末の平均粒径の方が小さいことが好ましい。第二成分の平均粒径が高融点金属粉末(モリブデン、タングステンなど)よりも大きいと、混合粉末中に第二成分が均一に混合されない領域が生じるおそれがある。第二成分は一般的に高融点金属粉末よりも融点が低い。そのため、あまり粒径が大きいと溶射膜の組成ばらつきの原因になる。溶射膜の組成ばらつきを低減するためには第二成分粉末の混合量は10質量%以下が好ましい。
【0040】
また、2次粒子のかさ密度が1〜5g/cm
3であることが好ましい。本発明では2次粒子の割合がより多い方が好ましい。しかしながら、2次粒子のかさ密度が1g/cm
3未満と過度に低いと、相対的に樹脂バインダー量が過多となり、高融点金属粉末の溶射炎への供給量が低下してしまう。
【0041】
一方、上記2次粒子のかさ密度が5g/cm
3を超えて高い場合には、1次粒子間に樹脂バインダーが入り込まず、1次粒子同士が応力により直接接合した状態となり易いので好ましくない。上記2次粒子のかさ密度は、アルキメデス法により測定可能である。
【0042】
また、溶射用高融点金属粉末の流動性が50sec/50g以下であることが好ましい。この場合の流動性は、溶射装置における溶射材料の流れ方を示す指標となり、溶射用高融点金属粉末のみから成る場合や高融点金属粉末と樹脂バインダーとを混合した場合など、いずれの場合においても管理項目となる。
【0043】
すなわち、溶射炎への溶射材料の供給は、溶射ノズル近傍に設けた供給口に溶射材料を投入しながら実施される。このとき、溶射材料にある程度の流動性が付与されていれば、供給口に若干の傾斜を持たせることにより、重力によって自然流下するので、溶射材料の安定供給が実現し、成膜量の安定化につながる。また、溶射材料に流動性を付与した場合には、溶射用高融点金属粉末の溶射炎への供給システムも自動化し易い。
【0044】
なお、上記流動性の測定操作は、JIS−K−6760に準じた押し出し型プラストメーターを用い、樹脂バインダーと溶射用高融点金属粉末との混合物50gが所定孔から押し出されるまでに要する時間(秒)で測定することにより実施できる。
【0045】
本発明に係る溶射用高融点金属粉末を使用した場合には、線材を用いる場合と比較して大幅なコストダウンを可能とした上で、成膜量の均一化を図ることができる。また、第二成分を混合した溶射膜を形成する場合においても、高融点金属粉末に第二成分粉末を混合するだけで溶射用金属粉末を簡単に調製できるので、成膜材料の変更にも柔軟に対応できる。また、溶射用高融点金属粉末のかさ密度や流動性を制御することにより、成膜量の均一化のみならず、成膜工程の自動化など、溶射設備の簡素化および溶射用高融点金属粉末の取扱い性も向上させることができる。
【0046】
このような溶射用高融点金属粉末を溶射して基材上に成膜することにより、様々な高融点金属溶射膜を得ることができる。また、このような溶射膜を具備する様々な溶射部品に適用することが可能となる。
【0047】
溶射部品は、溶射膜を有する部品であれば特に限定されるものではないが、耐摩耗性膜、耐食性膜、耐熱性膜などの機能を備えた自動車部品、産業機械部品、成膜装置用部品など種々の分野に適用可能である。また、溶射膜の膜厚は、特に限定されるものではなく、10〜500μmの範囲が好適である。より好ましくは20〜400μmの範囲である。
【0048】
次に、本発明に係る溶射用高融点金属粉末の製造方法について説明する。本発明に係る溶射用高融点金属粉末は前述の構成を有するものである限り、その製造方法は特に限定されるものではないが、高い効率で製造するための方法として、次の方法が挙げられる。
【0049】
まず、平均粒径が1〜10μmである高融点金属粉末を用意する。例えば、目的とする材料が高純度Mo粉末である場合には、予め純度が99.9%以上であるMo粉末を用意する。
【0050】
通常、1次粒子の平均粒径が1〜10μmである高融点金属粉末であっても、一部が結合した2次粒子が混在している粉末が多い。この2次粒子は1次粒子が応力により結合したものである。そのため、1次粒子を十分に解砕しほぐすために、回転式アトマイザーなどにより粉砕工程を実施する。また、第二成分を使用する場合は、第一成分としての高融点金属粉末に第二成分粉末を混合する方法が好適である。
【0051】
次にスプレードライヤーなどの造粒機を使用して2次粒子を形成し直す。このとき、必要に応じて樹脂バインダーを混合すると、樹脂バインダーにより1次粒子を接着した2次粒子を容易に得ることができる。上記樹脂バインダーの添加量については任意であるが、2次粒子のかさ密度が1〜5g/cm
3の範囲となり、流動性が50sec/50g以下になるように混合することが好ましい。
【0052】
次に得られた2次粒子の平均粒径が20〜150μmであれば、そのまま完成品としてもよいし、更に粒径を絶対値で20〜150μmにしたい場合は、粒径が20μm以上の粒子を通さない篩および粒径が150μmを超えた粒子を通さない篩の2種の篩を使用した篩分け工程を実施することが効果的である。
【0053】
[実施例]
(実施例1〜5および比較例1)
原料粉末として表1に示す平均粒径を有し、純度が99.9質量%以上であるモリブデン粉末を用意した。次に、表1に示すように、必要に応じ、第二成分粉末を添加した。これらの原料粉末をスプレードライヤーを使用して、樹脂バインダーと混合した。次に、必要に応じ、粒径が20μm未満および150μmを超えるものを除外する篩分け工程を実施した。これらの工程により表1に示すような溶射用高融点金属粉末を調製した。得られた溶射用高融点金属粉末の2次粒子は樹脂バインダーにより接着された粒子であった。
【0054】
また、比較例1として樹脂バインダーと混合工程を行う前の実施例1と同じMo原料粉末を用意した。各実施例および比較例に係る溶射用高融点金属粉末における2次粒子の平均粒径、2次粒子の全粒子の割合(wt%)、2次粒子のかさ密度および流動性を調査測定した。
【0055】
また、実施例4の第二成分であるCo粉末の平均粒径は3μm、実施例5のY
2O
3粉末の平均粒径は5μmとした。
【0056】
ここで2次粒子の平均粒径は、拡大写真により50個以上の2次粒子を撮影し、各写真に写る2次粒子の最大径を粒径とし、50個の平均値を2次粒子の平均粒径とした。また、2次粒子が50個以上写る拡大写真中に存在する1次粒子と2次粒子の個数を調べて、2次粒子の割合を質量%(wt%)で計算した。また2次粒子の密度はアルキメデス法で調査した。流動性は前述した押し出し型プラストメーターを使用して調査した。その調査測定結果を下記表1に示す。
【0058】
(実施例6〜10および比較例2)
原料粉末として表2に示すような平均粒径を有し、純度が99.9質量%以上であるタングステン粉末を用意した。次に、表2に示すように必要に応じ、第二成分粉末を添加した。これらの各金属粉末を、スプレードライヤーを使用して樹脂バインダーと混合した。
【0059】
次に、必要に応じ、粒径が20μm未満および粒径が150μmを超える金属粉末を除外する篩分け工程を実施した。これらの処理工程により表2に示すような各実施例及び比較例に係る溶射用高融点金属粉末を調製した。
【0060】
なお、得られた溶射用高融点金属粉末は、その2次粒子は樹脂バインダーにより接着された粒子であった。また、実施例9における第二成分であるNi粉末は平均粒径が2μmであり、実施例10における第二成分であるCr粉末の平均粒径は1μmとした。
【0061】
なお、比較例2として樹脂バインダーと混合工程を行う前の実施例6と同じMo原料粉末を用意した。各実施例にかかる溶射用高融点金属粉末中の2次粒子の平均粒径、2次粒子の全粒子に対する重量割合(wt%)、2次粒子のかさ密度および流動性を調査測定した。
【0062】
すなわち、2次粒子の平均粒径は以下のように測定した。すなわち、拡大写真により50個以上の2次粒子を撮影し、各写真に写る2次粒子の最大径を粒径とし、50個の平均値を2次粒子の平均粒径とした。また、2次粒子が50個以上写る拡大写真中に存在する1次粒子および2次粒子の個数を計数して、2次粒子の重量割合を質量%(wt%)で示した。また、2次粒子のかさ密度はアルキメデス法で調査した。さらに流動性は前述の押し出し型プラストメーターにより調査した。それらの調査測定結果を下記表2に示す。
【0064】
次に、上記実施例1〜10および比較例1〜2に係る溶射用高融点金属粉末を用いて溶射膜を形成した。具体的には粉末式フレーム溶射装置(powder flame spraying device)を用いて成膜した。基材として縦30cm×横30cm×厚さ2mmのステンレス鋼(SUS)を用いた。そして基材表面上に縦5cm×横5cmの溶射膜を一定時間かけて溶射処理をしたときの膜厚のばらつきを調査した。縦5×横5cmの溶射膜を5か所に形成し、膜厚の最大値と最小値との差を求め、下記の算式に代入して溶射膜の膜厚のばらつきを計算した。
【0065】
溶射膜の厚さのばらつき(%)=[(膜厚の最大値−膜厚の最小値)/(膜厚の最大値+膜厚の最小値)]×100(%)。
【0068】
上記表3に示す結果から明らかなように、各実施例に係る溶射用高融点金属粉末を用いて形成された溶射膜においては、溶射膜の膜厚のばらつきが8%以下と小さく、均一な溶射膜が形成されていることが判明した。また、2次粒子のかさ密度が1〜5g/cm
3であり、かつ流動性が50sec/50g以下である実施例1〜9に係る溶射膜では、膜厚のばらつきが5%以下であり、さらに均一成膜性が改善されていた。
【0069】
一方、2次粒子の粒径やその重量割合を制御していない比較例に係る溶射膜においては、膜厚のばらつきが大きく、均一成膜性は得られなかった。これは溶射材料の供給量のばらつきに起因するものである。また、各比較例の溶射膜においては、各実施例の溶射膜と比較して、膜厚が薄い部分が多く検出された。
【0070】
次に実施例1〜5および比較例1において調製した各溶射用高融点金属粉末を使用して、膜厚200μm×縦5cm×横5cmの寸法の溶射膜を得たときの成膜時間を測定した。
【0071】
各成膜時間は、実施例1において調製した溶射用高融点金属粉末を使用した場合を基準値(100)として相対的な時間比を調査した。すなわち、時間比が100より大きい場合は、同一寸法(膜厚200μm×縦5cm×横5cm)の溶射膜を形成する場合に、実施例1よりも多くの溶射時間が必要になることを示すものである。その測定結果を下記表4に示す。
【0073】
上記表4に示す結果から明らかなように、各実施例に係る溶射用高融点金属粉末を使用して形成された溶射被膜は、比較例1の溶射被膜と比較して、成膜速度が約30%も改善されていることが判明した。