【文献】
化学便覧 基礎編,日本,2004年,改訂5版,I-774,776,第5章 化学実験用材料−特性と実験データ 表5.156
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記非水溶媒が、1,2−ジメトキシエタン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、又はスルホランである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の二次電池。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯電話やノートパソコン、電気自動車等の分野における主要な蓄電デバイスとしてリチウムイオン二次電池が用いられてきたが、近年はより小型・軽量の二次電池が求められるようになっている。そのため、リチウムイオン二次電池を上回る高いエネルギー密度を有する次世代二次電池の研究が盛んになされ、さまざまな試みが行われている。なかでも、正極活物質に空気中の酸素を用い、負極活物質としてリチウム金属を用いるリチウム−空気電池は、正極活物質である酸素を電池内に内蔵する必要がないため理論上非常に大きな放電容量を示し得る点でポストリチウムイオン二次電池として、次世代電気自動車や太陽光・風力発電施設における蓄電システム等への応用が期待されているが、現状では可逆的に安定な充放電を行うことが困難であり、実用化の目処は立っていない。
【0003】
リチウム−空気電池では、正極で酸素還元(放電)及び酸素発生(充電)、負極でリチウムの溶解(放電)・析出(充電)が起こり、充放電が可能となる仕組みである。具体的には、正極において以下のような酸素還元反応が進行するが、
【数1】
電解液中の溶媒がラジカルに対して不安定な場合には、Li
2O
2は生成せずに、溶媒の分解反応が起こることが知られている(非特許文献1)。従って、可逆的な正極反応のためには、上記ラジカルに対して安定な溶媒を用いることが不可欠であるが、従来のリチウムイオン電池で用いられているカーボネート系溶媒(プロピレンカーボネート等)は酸素ラジカルと反応するため、正極での反応が不可逆となることが報告されている(非特許文献2及び3)。
【0004】
従って、上記正極反応を可逆的に進行させ、二次電池として使用するためには、電解液の選択が非常に重要となる。そのような可逆的な正極反応が可能な溶媒としては、1,2−ジメトキシエタン、アセトニトリル、イオン液体などが検討されている(非特許文献2、3、及び4)。しかしながら、これらの溶媒の使用によって正極側の可逆性の問題が解決されたとしても、未だ負極側の問題、すなわち、負極としてリチウム金属を用いた場合に充電時において金属リチウムが樹枝状(デンドライト)に析出し、充放電を繰り返すことによってデンドライトが正極まで成長して、最終的に短絡するという問題は解決していない。また、アセトニトリルを溶媒として用いる場合には、リチウム金属との反応性が高いため、リチウム金属を負極とする空気電池に用いることができないという問題があった。このため、現状では、負極にリチウム金属を用いるリチウム−空気電池の実用化への障壁は極めて高い状況である。
【0005】
これに対し、リチウムイオン電池においては、かかる負極でのデンドライト析出の問題を、負極活物質としてグラファイト等の炭素材料を用いることで解決したことが知られているところである。しかしながら、上記1,2−ジメトキシエタン、アセトニトリル、イオン液体などの正極活物質に酸素を用いた正極における可逆反応に必要な電解液溶媒では、負極炭素材料への可逆的なリチウムイオンの挿入・離脱を起こすことができないと一般に考えられていたため、空気電池においては炭素材料の負極は研究の対象外となっていた。より詳細には、炭素材料の負極におけるリチウムイオンの挿入離脱反応は、カーボネート系の溶媒の存在下でのみ達成できると一般に考えられていたことに加えて、溶媒の性質として、アセトニトリルは、還元に弱く、リチウムイオン挿入の電位まで耐えられず;1,2−ジメトキシエタンでは、負極へリチウムイオンと共に挿入してしまい;同様に、イオン液体では、負極へカチオン種が挿入されてしまうという好ましくない現象をもたらすと考えられていたことがその理由である。
【0006】
これらを背景に、可逆的な正極反応を維持可能な溶媒を用いつつ、負極でのデンドライト析出の問題を解決した空気電池の構築が強く求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、リチウム二次電池用の新たな電解液系を提供することを課題とするものである。1つには、上記にもかかわらず、リチウム−空気電池における正極の構成を維持しつつ、上記負極におけるデンドライト析出の問題を解決するためにリチウムイオン電池で用いられている負極材料である炭素材料を採用する新たな着想を試みたものであり、かかる構成の電池及びそれを実現するための電解液系を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、高濃度のリチウム塩を含む電解液において特異的な電気化学的性質がもたらされ、かかる電解液を用いることによって上記構成の正極及び負極における可逆的反応が実現できることを見出した。より詳細には、高濃度のリチウム塩を含むことにより非水溶媒溶媒の電解液中において負極炭素材料へのリチウムイオンの可逆的な挿入脱離反応が可能となること、及び、当該電解液の酸化耐性の向上がもたらされることを見出した。これらの知見により、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、非水溶媒とリチウム塩を含むリチウム二次電池用電解液であって、前記リチウム塩1molに対する前記非水溶媒の量が3mol以下の割合で混合されていることを特徴とする電解液に関する。
【0011】
上記リチウム塩1molに対する前記非水溶媒の量は、好ましくは、1mol以上3mol以下の割合であり、より好ましくは、1.5mol以上2.5mol以下の割合である。
【0012】
上記リチウム塩は、好ましくは、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(Li[N(CF
3SO
2)
2])、リチウムビス(パーフルオロエチルスルホニル)アミド(Li[N(C
2F
5SO
2)
2)、又はリチウムビス(フルオロスルホニル)アミド(LiN(SO
2F)
2)である。より好ましくは、上記リチウム塩は、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(Li[N(CF
3SO
2)
2])である。
【0013】
また、上記非水溶媒は、好ましくは非プロトン性溶媒であり、より好ましくは、1,2−ジメトキシエタン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、又はスルホランである。
【0014】
別の態様において、本発明は、正極活物質を含む正極と、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極活物質を含む負極と、上記電解液を有する二次電池に関する。
【0015】
好ましくは、上記正極活物質は酸素である。好ましくは、上記負極活物質は炭素材料であり、より好ましくは、当該炭素材料はグラファイトである。また、別の好ましい態様では、上記負極活物質は金属リチウム又はリチウム合金である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高濃度のリチウム塩を含む電解液を用いることによって、従来の溶媒系では困難であったリチウム金属負極におけるデンドライト析出の問題を解決するために負極として炭素材料を採用することを可能とし、かつ、空気中の酸素を正極活物質とする正極の構成(いわば、リチウムイオン−空気電池)の採用を可能するものである。これは、酸素正極での可逆反応に適切な1,2−ジメトキシエタンやアセトニトリル等の非水溶媒では、負極に炭素材料を用いた場合にリチウムイオンの可逆的な挿入脱離反応が困難であるとこれまで考えられていた技術常識を覆すものであり、従来のリチウムイオン二次電池とリチウム金属−空気電池における双方のメリットを発現させたものといえる。
【0017】
かかる構成を可能とすることで、従来のリチウム−空気電池における実用化の主要な課題となっていた金属負極の問題を解決しつつ、正極では空気電池の構成を維持できるため、現状のリチウムイオン電池よりも高容量が実現できるという効果を奏する。また、電池内にリチウム金属を使用しないため高い安全性を有する点で、空気電池の実用化に資するものである。
【0018】
また、従来は、リチウム金属との反応性が高いためリチウム金属を負極とする空気電池に用いることが困難であると考えられていたアセトニトリルについても、高濃度のリチウム塩を含むことによってリチウム金属の溶解を抑制できるため、アセトニトリル電解液を用いたリチウム−空気電池が可能となる。
【0019】
比較的安価な1,2−ジメトキシエタンやアセトニトリル等を電解液溶媒として用いることができ、イオン液体等と比してコストの面でも有意義であるのみならず、これらの溶媒は低い融点を有している点で、現在、リチウムイオン電池で主に用いられているエチレンカーボネートよりも優れている。
【0020】
さらに、高濃度のリチウム塩を含むことによって、電解液の耐酸化性の向上が見られたことから、正極における溶媒の分解反応が抑制されるという効果を奏する。加えて、かかる高い塩濃度によって、電解液の揮発性の低下、及び熱安定性の向上という効果も得られる。前者は、電解液の揮発を抑制できるため開放系の空気電池において特に好適であり、後者は安全性の面でも有利である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。
【0023】
1.電解液
(1)溶媒
本発明の電解液において用いられる溶媒は、非水溶媒を用いることができ、例えば、エチルメチルエーテル、ジプロピルエーテル等のエーテル類;メトキシプロピオニトリルのニトリル類;酢酸メチル等のエステル類;トリエチルアミン等のアミン類;メタノール等のアルコール類;アセトン等のケトン類;含フッ素アルカン等が挙げられる。これらのうち1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ただし、これらに限定されるものではない。
【0024】
上記非水溶媒は、非プロトン性有機溶媒であることが好ましく、そのような例として、1,2−ジメトキシエタン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、及びスルホランが挙げられる。特に、1,2−ジメトキシエタン(DME)又はアセトニトリル(AN)を主成分とする溶媒系が好適であるが、これに加えて、その他の非水溶媒を含む混合溶媒とすることも可能である。。
【0025】
(2)リチウム塩
本発明の電解液において支持電解質として用いられるリチウム塩は、電解液中で解離してリチウムイオンを供給するものである。当該リチウム塩としては、特に限定されるものではないが、例えば、LiN(CF
3SO
2)
2(以下、「LiTFSA」「LiTFSI」と呼ぶこともある。)、LiN(C
2F
5SO
2)
2(以下、「LiBETI」と呼ぶこともある。)、LiCF
3SO
3、LiC
4F
9SO
3、LiC(CF
3SO
2)
3、LiN(CF
3SO
2)(C
2F
5SO
2)、LiN(CF
3SO
2)(C
3F
7SO
2)、LiN(CF
3SO
2)(C
4F
9SO
2)、LiN(SO
2F)
2(以下、「LiFSA」と呼ぶこともある。)、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、及びこれらの任意の組み合わせから選択されるものが挙げられる。好ましくは、LiN(CF
3SO
2)
2、LiN(C
2F
5SO
2)
2、LiN(SO
2F)
2であり、より好ましくは、LiN(CF
3SO
2)
2である。
【0026】
上記電解液中におけるリチウム塩の濃度範囲は、当該リチウム塩の析出等が発生しない限り、負極炭素材料へのリチウムイオンの可逆的な挿入脱離反応を可能とする高い濃度であることができるが、リチウム塩1molに対する非水溶媒の量が3mol以下の割合があることが好ましい。より好ましくは、リチウム塩1molに対する非水溶媒の量が1mol以上3mol以下の割合、更に好ましくは、1.5mol以上2.5mol以下の割合である。
【0027】
(3)その他の成分
また、本発明の電解液は、その機能の向上等の目的で、必要に応じて他の成分を含むこともできる。他の成分としては、例えば、従来公知の過充電防止剤、脱水剤、脱酸剤、高温保存後の容量維持特性およびサイクル特性を改善するための特性改善助剤が挙げられる。
【0028】
過充電防止剤としては、例えば、ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t−ブチルベンゼン、t−アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物;2−フルオロビフェニル、o−シクロヘキシルフルオロベンゼン、p−シクロヘキシルフルオロベンゼン等の前記芳香族化合物の部分フッ素化物;2,4−ジフルオロアニソール、2,5−ジフルオロアニソールおよび2,6−ジフルオロアニオール等の含フッ素アニソール化合物が挙げられる。過充電防止剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
電解液が過充電防止剤を含有する場合、電解液中の過充電防止剤の含有量は、0.01〜5質量%であることが好ましい。電解液に過充電防止剤を0.1質量%以上含有させることにより、過充電による二次電池の破裂・発火を抑制することがさらに容易になり、二次電池をより安定に使用できる。
【0030】
脱水剤としては、例えば、モレキュラーシーブス、芒硝、硫酸マグネシウム、水素化カルシウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化リチウムアルミニウム等が挙げられる。本発明の電解液に用いる溶媒は、前記脱水剤で脱水を行った後に精留を行ったものを使用することもできる。また、精留を行わずに前記脱水剤による脱水のみを行った溶媒を使用してもよい。
【0031】
高温保存後の容量維持特性やサイクル特性を改善するための特性改善助剤としては、例えば、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、無水ジグリコール酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、フェニルコハク酸無水物等のカルボン酸無水物;エチレンサルファイト、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、メタンスルホン酸メチル、ブスルファン、スルホラン、スルホレン、ジメチルスルホン、ジフェニルスルホン、メチルフェニルスルホン、ジブチルジスルフィド、ジシクロヘキシルジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、N,N−ジメチルメタンスルホンアミド、N,N−ジエチルメタンスルホンアミド等の含硫黄化合物;1−メチル−2−ピロリジノン、1−メチル−2−ピペリドン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルスクシイミド等の含窒素化合物;ヘプタン、オクタン、シクロヘプタン等の炭化水素化合物;フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、ベンゾトリフルオライド等の含フッ素芳香族化合物が挙げられる。これら特性改善助剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。電解液が特性改善助剤を含有する場合、電解液中の特性改善助剤の含有量は、0.01〜5質量%であることが好ましい。
【0032】
2.二次電池
本発明の二次電池は、正極及び負極と、本発明の電解液を備えるものである。
【0033】
(1)負極
本発明の二次電池における負極としては、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵・放出できる負極活物質を含む電極が挙げられる。このような負極活物質としては、公知のリチウムイオン二次電池用負極活物質を用いることができ、例えば、天然グラファイト(黒鉛)、高配向性グラファイト(Highly Oriented Pyrolytic Graphite;HOPG)、非晶質炭素等の炭素質材料が挙げられる。さらに他の例として、リチウム金属、又はリチウム元素を含む合金、金属酸化物(例えばLi
4Ti
6O
12等のチタン酸リチウム)、金属硫化物、金属窒化物のような金属化合物が挙げられる。例えば、リチウム元素を有する合金としては、例えばリチウムアルミニウム合金、リチウムスズ合金、リチウム鉛合金、リチウムケイ素合金等を挙げることができる。また、リチウム元素を有する金属酸化物としては、例えばリチウムチタン酸化物(Li
4Ti
6O
12等)等を挙げることができる。また、リチウム元素を含有する金属窒化物としては、例えばリチウムコバルト窒化物、リチウム鉄窒化物、リチウムマンガン窒化物等を挙げることができる。これら負極活物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
なかでも、負極活物質としては、グラファイト等の炭素質材料が好ましい。また、炭素質材料としては、黒鉛、および黒鉛の表面を該黒鉛に比べて非晶質の炭素で被覆した炭素質材料が特に好ましい。
【0035】
上記負極は、負極活物質のみを含有するものであっても良く、負極活物質の他に、導電性材料および結着材(バインダ)の少なくとも一方を含有し、負極合材として負極集電体に付着させた形態であるものであっても良い。例えば、負極活物質が箔状である場合は、負極活物質のみを含有する負極とすることができる。一方、負極活物質が粉末状である場合は、負極活物質および結着材(バインダ)を有する負極とすることができる。粉末状の負極活物質を用いて負極を形成する方法としては、ドクターブレード法や圧着プレスによる成型方法等を用いることができる。
【0036】
導電性材料としては、例えば、炭素材料、金属繊維等の導電性繊維、銅、銀、ニッケル、アルミニウム等の金属粉末、ポリフェニレン誘導体等の有機導電性材料を使用することができる。炭素材料として、黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー等を使用することができる。また、芳香環を含む合成樹脂、石油ピッチ等を焼成して得られたメソポーラスカーボンを使用することもできる。
【0037】
結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)等のフッ素系樹脂、或いは、ポリエチレン、ポリプロピレンなどを好ましく用いることができる。負極集電体としては、銅、ニッケル、アルミニウム、ステンレススチール等を主体とする棒状体、板状体、箔状体、網状体等を使用することができる。
【0038】
(2)正極
本発明の二次電池の正極では、正極活物質として酸素が使用されることが好ましい。当該正極は、空気電池の正極として通常用いられるものであることができ、酸素及びリチウムイオンが移動できる空隙を有する導電性材料を含み、結着剤を含有してもよい。また、酸素の酸化還元反応を促進する触媒を含有してもよい。
【0039】
導電性材料及び結着剤(バインダ)としては、上記負極と同様のものを用いることができる。
【0040】
酸素の還元・酸化反応を高率良く行うための触媒として、MnO
2、Fe
2O
3、NiO、CuO、Pt、Co等を用いることができる。また、結着剤(バインダ)としては、上記負極と同様のバインダを用いることができる。
【0041】
正極集電体としては、酸素の拡散を高めるため、メッシュ(グリッド)状金属、スポンジ状(発泡)金属、パンチドメタル、エクスパンディドメタル等の多孔体が使用される。金属は、例えば、銅、ニッケル、アルミニウム、ステンレススチール等である。
【0042】
(3)セパレータ
本発明の二次電池において用いられるセパレータとしては、正極層と負極層とを電気的に分離する機能を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂からなる多孔質シートや、不織布、ガラス繊維不織布等の不織布等の多孔質絶縁材料等を挙げることができる。
【0043】
(4)形状等
本発明の二次電池の形状は、正極、負極、及び電解液を収納することができれば特に限定されるものではないが、例えば、円筒型、コイン型、平板型、ラミネート型等を挙げることができる。
【0044】
また、電池を収納するケースは、大気開放型の電池ケースであっても良く、密閉型の電池ケースであっても良い。なお、大気開放型の電池ケースである場合は、大気が出入りできる通風口を有し、大気が上記空気極と接触可能な電池ケースである。一方、電池ケースが密閉型電池ケースとしては、密閉型電池ケースに、気体(空気)の供給管および排出管を設けることが好ましい。この場合、供給・排出する気体は、乾燥気体であることが好ましく、なかでも、酸素濃度が高いことが好ましく、純酸素(99.99%)であることがより好ましい。また、放電時には酸素濃度を高くし、充電時には酸素濃度を低くすることが好ましい。
【0045】
なお、本発明の電解液及び二次電池は、二次電池としての用途に好適ではあるが、一次電池として用いることを除外するものではない。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【実施例1】
【0047】
1.黒鉛電極におけるリチウム挿入脱離挙動の評価(サイクリックボルタンメトリー)
本発明の電解液の炭素材料負極への適用性を実証するため、電解質としてリチウム塩を含む1,2−ジメトキシエタン(DME)を用いてサイクリックボルタンメトリーを行い電流変化を調べた。測定は、作用極に天然黒鉛(平均粒径10μm)、対極及び参照電極に金属リチウムを備えた3極式電気化学セルを用いて行った。電位領域は0〜3.0V(vs Li/Li
+)、掃引速度0.1mV/秒とした。得られた結果を
図1に示す。
【0048】
図1に示すように、3.2MのLiTFSAを含むDME溶液(モル比LiTFSA:DME=1:1.6)では、黒鉛電極へのリチウムの挿入と脱離が観測された。一方で、1.0MのLiTFSAを含むDME溶液(モル比LiTTFSA:DME=1:8.3)の場合には、そのような挿入脱離を示すピークが見られず、リチウムと溶媒分子との共挿入と考えられる挙動のみが観測された。この結果から、高濃度のリチウム塩を溶媒に添加することで、溶媒分子との共挿入を抑制するとともに、従来は困難と考えられていた1,2−ジメトキシエタン溶媒中においても黒鉛電極への可逆的なリチウム挿入脱離が可能であることが示された。
【0049】
溶媒をDMEに換えて、テトラヒドロフラン(THF)、γ−ブチロラクトン(GBL)、ジメチルスルホキシド(DMSO)を用いて同様の測定を行った結果をそれぞれ
図2〜4に示す。THF及びGBLでは、1.0MのLiTFSAの場合にはサイクルによる劣化が激しかったのに対し、より高濃度の3.0MのLiTFSAの場合にはサイクルによる劣化が抑制されるという結果が得られた。DMSOでは、LiTFSA:DMSOが1:12の場合には、上記DMEと同様に酸化ピークが見られず不可逆反応となったのに対し、LiTFSA:DMSOが1:2.3とした場合には可逆反応が観測された。
【実施例2】
【0050】
2.負極における溶媒共挿入の検証
本発明の電解液の用いた際の負極における溶媒共挿入挙動を検証するため、負極の黒鉛の粉末X線回折(XRD)測定を行った。測定に用いた装置は、Bruker AXS社製、D8 ADVANCEである。1.0M及び3.2MのLiTFSAを含むDME電解液中で0.03V及び1.0V(vs.Li/Li
+)で保持した黒鉛の回折パターンを
図5に示す。
【0051】
図5より、1.0Mのリチウム塩溶液中(モル比LiTTFSA:DME=1:8.3)では、黒鉛002面の回折ピークが減少・低角シフトし、0.03V及び1.0Vのいずれにおいても何らかの挿入種があることが示唆される。当該ピークは、リチウム−溶媒の共挿入が発生したことを示すものであることが報告されている(T.Abeら、J.Electrochem.Soc.、2004、151、A1120)。一方、Liが挿入された黒鉛(LiC
6)に由来するピークは見られなかった。
【0052】
それに対して、3.2Mのリチウム塩溶液中(モル比LiTFSA:DME=1:1.6)では、0.03Vにおいて、Liが挿入された黒鉛(LiC
6)に由来するピークが観測された。一方、1.0Vでは、002面にピークの変化は観測されず、負極における副反応である溶媒共挿入は起こっていないことが示唆される。
【0053】
これらの結果から、高濃度のリチウム塩を含む本発明の電解液では、黒鉛への溶媒共挿入が抑制され、かつ、黒鉛へのLiの挿入が生じ、それによって、従来は当該溶媒共挿入によって黒鉛負極には適用できかったDMEにおいても可逆的なリチウムイオン挿入・脱離が可能となったものといえる。
【実施例3】
【0054】
3.黒鉛電極における可逆的充放電反応の評価(充放電試験)
次に、1.0M及び3.2MのLiTFSAを含む電解液を用いて、黒鉛電極における単極電位を測定し充放電挙動の比較を行った。測定は、充放電測定装置を用いた。(BioLogic社製、VMP−3)電極の条件は実施例1と同様である。得られた結果を
図6a及び6bに示す。
【0055】
図6aの結果から、3.2MのLiTFSAを含むDME溶液(モル比LiTTFSA:DME=1:1.6)では、初回不可逆容量は多少大きくなるものの、黒鉛電極の理論容量(372mAhg
−1)に近い、約340mAhg
−1の放電容量で可逆的な充放電が得られることが分かった。これは、リチウムイオン電池において慣用されているエチレンカーボネート溶媒や添加剤としてビニレンカーボネートを含まない電解液としては、従来にない高性能といえるものである。一方、
図6bの結果から、1.0MのLiTFSAを含むDME溶液(モル比LiTTFSA:DME=1:8.3)の場合には、そのような放電容量は得られなかった。
【0056】
また、上記充放電試験における放電容量のサイクル特性を
図6cに示す。3.2MのLiTFSAを含むDME溶液では、サイクル数が増えても放電容量の減少はほぼ見られず、サイクル劣化も生じていないことが示された。
【0057】
以上に示した放電容量の塩濃度の依存性、またDMEにビニレンカーボネートを添加したのみではかかる放電容量は得られないことから、当該放電容量は、高濃度のリチウム塩の存在に起因するものであることが示唆される。この結果は、高濃度のリチウム塩を含む本発明の電解液による負極反応の有効性を実証するものである。
【0058】
アセトニトリル(AN)を溶媒に用いた場合についても、同様の条件で充放電試験を行った結果を
図7a及び7bに示す。
図7aの結果から、4.2MのLiTFSAを含むAN液(モル比LiTFSA:AN=1:1.9)では、約300mAhg
−1の放電容量で可逆的な充放電が得られることが分かった。一方、
図7bの結果から、2.0MのLiTFSAを含むAN溶液(モル比LiTFSA:AN=1:6)の場合には、そのような放電容量は得られなかった。この結果から、DMEの場合と同様に、アセトニトリルを用いる本発明の電解液によって負極反応の有効性が実証された。
【0059】
さらに、THF、DMSO、及びSLを溶媒に用いた場合についても、同様に充放電試験を行った(それぞれ、
図8、9、及び
図10)。Li塩が高濃度の場合(モル比LiTFSA:DMSO=1:2.3、LiTFSA:SL=1:1.9)にはいずれも可逆的に作動し、特にDMSO及びSLでは黒鉛電極の理論容量に近い放電容量で可逆的な充放電が得られることが分かった。一方、Li塩が低濃度の場合(モル比LiTFSA:DMSO=1:12、LiTFSA:SL=1:8.9)にはいずれも不可逆であった。また、
図10(右図)に示すSLの場合には、商用されているEC:DEC混合溶媒系と同等のサイクル特性を示すことも明らかとなった。
【実施例4】
【0060】
4.空気正極における充放電試験
本発明の電解液の空気正極への適用性を確認するため、本発明の電解液を用いて空気正極における充放電試験を行った。測定は、正極にカーボンブラック(Vulcan XC−72):PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)=90:10(重量%)、負極に金属リチウムを用いた開放型コインセルを用いて行った。電解液は、3.2MのLiTFSAを含むDME溶液(モル比LiTFSA:DME=1:1.6)、電流値は、10mA/gである。得られた結果を
図11に示す。
【0061】
図11の結果から、高濃度のリチウム塩を含むDME電解液を用いた場合でも、空気正極における可逆的な酸素還元発生反応、すなわち可逆的な充放電が得られることが確認された。
【0062】
また、AN及びDMSOを溶媒に用いた場合についても、同様に空気正極における充放電試験を行った。結果を
図12及び13に示す。
【0063】
図12の結果、高濃度のリチウム塩を含むAN電解液(モル比LiTFSA:AN=1:1.9)でも、
図11と同様に可逆的な充放電が確認された。加えて、放電後の正極電極におけるXRD測定(
図12)によって、Li
2O
2のピークが得られたことから、正極において
O
2+2Li
++2e
− → Li
2O
2
の反応が起こっているものと認められる。
【0064】
また、
図13に示すとおり、高濃度のリチウム塩を含むDMSO電解液(モル比LiTFSA:DMSO=1:2.3)においても、サイクル劣化のない、極めて可逆的な充放電が確認された。
【0065】
これらの結果から、実施例1〜3に示した負極の結果と同様に、本発明の電解液を用いた場合における正極反応の有効性が実証された。
【0066】
以上、実施例1〜4により、本発明の電解液を用いることによって、「リチウムイオン−空気電池」構成における正極及び負極の両方について可逆的反応が達成できることが示された。
【実施例5】
【0067】
5.DMEの耐酸化性向上の検証
本発明の電解液における溶媒の電気化学的安定性を評価するため、各リチウム塩濃度におけるDMEの酸化電位を測定した。酸化電位の測定は、作用極に白金、対極及び参照極に金属リチウムを備えた3極式セルを用いて、リニアスイープボルタンメトリー法により行った。測定の際、作用極の電位を浸漬電位から高電位側に掃引した。掃引速度は、1mV/秒とした。その結果(LSV曲線)を
図14に示す。
【0068】
図14に示されるように、塩濃度が1.0M(モル比LiTFSA:DME=1:8.3)及び2.0M(モル比LiTFSA:DME=1:3.5)の場合には、電位が約3.7V付近から電流値の上昇が見られた。一方、塩濃度が3.2M(モル比LiTFSA:DME=1:1.6)の場合には、電位が4.2V付近でもほとんど電流が流れず、DMEの酸化電位が貴な方向にシフトしていることが観測された。作用極に白金を用いる場合には、電極及び溶液中に活性な酸化還元系が有意に存在しないため、ここで観測された電流は電解液溶媒自身の酸化分解によるものと考えられる。従って、本発明の電解液では、高濃度のリチウム塩を添加することで、酸化耐性が向上することが明らかとなった。
【0069】
この点に関し、電解液のラマンスペクトル及び密度汎関数法による軌道エネルギー計算の結果から、3Mの塩濃度の溶液ではほぼ全てのDME分子がリチウムイオンに溶媒和しておりフリーのDME分子は存在しないこと、また、当該リチウムイオンへの溶媒和(錯形成)によってHOMOが大きく低下すること、すなわち溶媒和状態のDMEは酸化に対して安定化することが判明した。このことからも、上記酸化耐性の向上が裏付けられるものといえる。
【0070】
溶媒としてGBLを用いた系でも酸化電位のリチウム塩濃度依存性を測定した。
図15に示すように、塩濃度が1.0Mの場合には、電位が約4.0V付近から電流値の上昇が見られたのに対し、塩濃度が3.0Mの場合には、電位が4.0V付近でもほとんど電流が流れず、GBLの酸化電位が貴な方向にシフトしていることが観測され、上記DMEの場合と同様に、高濃度のリチウム塩を添加することで酸化耐性の向上が見られた。
【実施例6】
【0071】
6.黒鉛−O
2空気電池フルセルでの充放電試験
正極として、カーボンブラック(Vulcan XC−72):PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)=90:10(重量%)、負極としてリチウムドープの黒鉛(LiC
6)を用いた開放型コインセルを作成し、充放電試験を行った。電解液は、4.2MのLiTFSAを含むAN溶液、及び3.2MのLiTFSAを含むDMSO溶液を用いた。得られた結果を
図16に示す。いずれの溶媒系においても、可逆的な充放電が確認された。
【実施例7】
【0072】
7.リチウム塩を含むアセトニトリル溶液とリチウム金属との反応性の検証
1.0〜5.0mol/LのLiTFSA(LiN(CF
3SO
2)
2)を含むアセトニトリル溶液を調製し、各溶液中にリチウム金属片を浸漬し、当該リチウム金属の反応を観測した。それらの結果を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
表1に示すように、リチウム塩濃度が増加するに従い、アセトニトリル中へのリチウム金属の溶解が見れられなくなった。この結果から、高濃度のリチウム塩を添加することで、アセトニトリルとリチウム金属との反応性が低下し、溶液中でアセトニトリルが安定に存在できるようになることが示された。反応性が著しく低下する4.2M溶液におけるリチウム塩と溶媒のモル比はLiTFSA:AN=1:1.9である。
【実施例8】
【0075】
8.リチウム塩を含むアセトニトリル電解液中におけるリチウム析出溶解反応の解析
本発明の電解液のリチウム金属負極への適用性を実証するため、電解質としてリチウム塩を含むアセトニトリル電解液を用いてサイクリックボルタンメトリーを行い電流の変化を調べた。測定は、作用極にニッケル電極、対極及び参照電極に金属リチウムを備えた3極式電気化学セルを用いて行った。電位領域は−0.5〜2.0v(vs Li/Li
+)、掃引速度は1mV/秒又は10mV/秒とした。得られた結果を
図17に示す。
【0076】
図17aに示すように、4.2mol/LのLiTFSAを含むアセトニトリル溶液(モル比LiTFSA:AN=1:1.9)では、リチウム金属が電解液中に安定に存在するため、電位を逆掃引すると、リチウムの溶解反応を示すピーク(酸化ピーク)が観測された。一方で、
図17bに示す1.0mol/LのLiTFSAを含むアセトニトリル溶液(モル比LiTFSA:AN=1:16)の場合には、そのようなリチウム溶解反応を示すピークを見らなかった。これは、リチウム金属が電解液中のアセトニトリルと自然反応するため、大量の電流が流れ、析出したリチウムが自然溶解してしまうことによるものと考えられる。これらの結果から、高濃度のリチウム塩を含むアセトニトリル電解液を用いることで、これまで不可能と考えられていたアセトニトリル中におけるリチウム析出溶解反応が可能となることが示された。
【0077】
また、その他の濃度のLiTFSA溶液において同様の測定を行った結果を
図18に示す。掃引速度は図中に示している。2.0mol/L(モル比LiTFSA:AN=1:6)及び3.0mol/L(モル比LiTFSA:AN=1:3.5)の濃度(それぞれ
図18a及び
図18b)では、明確な溶解ピークが観測されなかったが、3.6mol/Lの濃度(モル比LiTFSA:AN=1:2.5)(
図18c)では溶解ピークが見られたことから、リチウム塩としてLiTFSAを用いる場合には、モル比LiTFSA:AN=1:2.5より高い塩濃度が好ましいことが分かる。一方、5.0mol/Lの濃度(モル比LiTFSA:AN=1:1)(
図18d)では、溶解ピークが観測されたものの、副反応と考えられる挙動も見られるため、モル比LiTFSA:AN=1:1.2以下の塩濃度がより好ましいものといえる。
【0078】
さらに、
図19に、LiTFSAとは異なるリチウム塩であるLiBETI(LiN(C
2F
5SO
2)
2)を含むアセトニトリル電解液(モル比LiBETI:AN=1:2)中でも同様の測定を行った結果を示す。その結果、明確な溶解ピークが観測され、LiTFSA以外のリチウム塩でも同様の効果が得られることが分かった。
【0079】
実施例7及び8の結果は、高濃度のリチウム塩を含むアセトニトリル中では、リチウム塩が安定に存在し、かつ電位掃引において析出溶解反応が起こることから、本発明の電解液が従来のアセトニトリル系電解液のリチウム金属負極における問題を解決することができ、好適な電解液として機能し得ることを実証するものである。
【0080】
以上、本発明の具体的態様を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。また、特許請求の範囲に記載の発明には、以上の例示した具体的態様を種々変更したものが含まれ得る。