特許第5883531号(P5883531)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5883531防汚処理組成物、処理装置、処理方法および処理物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5883531
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月15日
(54)【発明の名称】防汚処理組成物、処理装置、処理方法および処理物品
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/18 20060101AFI20160301BHJP
   C09D 171/00 20060101ALI20160301BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20160301BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20160301BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20160301BHJP
   C03C 17/30 20060101ALI20160301BHJP
   C03C 17/32 20060101ALI20160301BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20160301BHJP
【FI】
   C09K3/18 102
   C09D171/00
   C09D5/16
   C09D5/00 Z
   C09D7/12
   C03C17/30 B
   C03C17/32 A
   B32B27/30 D
【請求項の数】48
【全頁数】42
(21)【出願番号】特願2015-144582(P2015-144582)
(22)【出願日】2015年7月22日
【審査請求日】2015年7月22日
(31)【優先権主張番号】特願2014-161771(P2014-161771)
(32)【優先日】2014年8月7日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-81249(P2015-81249)
(32)【優先日】2015年4月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100068526
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭生
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】伊丹 康雄
(72)【発明者】
【氏名】布瀬 暁志
(72)【発明者】
【氏名】乙骨 円華
(72)【発明者】
【氏名】木下 秀俊
(72)【発明者】
【氏名】深澤 辰哉
【審査官】 小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/046699(WO,A1)
【文献】 特開平10−270306(JP,A)
【文献】 特開平10−237047(JP,A)
【文献】 特開平06−157471(JP,A)
【文献】 特開平10−195424(JP,A)
【文献】 特開平11−012305(JP,A)
【文献】 Biomacromolecules,Vol.3, No.3,p.505-510 (2002).
【文献】 Langmuir,Vol.25, No.19,p.11592-11597 (2009).
【文献】 Physica Status Solidi C: Current Topics in Solid State Physics,Vol.7, No.3-4,p.720-723 (2010).
【文献】 Langmuir,Vol.23, No.6,p.3236-3241 (2007).
【文献】 Applied Physics Letters,Vol.82, No.5,p.808-810 (2003).
【文献】 Journal of Chemical Engineering of Japan,Vol.34, No.6,p.731-736 (2001).
【文献】 Langmuir,Vol.20, No.19,p.8200-8208 (2004).
【文献】 Carbon,2014年 5月16日,Vol.77,p.226-235 (2014).
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/18
C03C 17/00
C09D 1/00− 13/00
C09D 101/00−201/10
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子末端に炭素−炭素不飽和結合を、−Y−A(式中、Yは、単結合、酸素原子または2価の有機基を表し、Aは、−CH=CHまたは−C≡CHを表す。)で表される基として有する含フッ素化合物を含んで成る、表面にSi−H結合を有するガラス基材を処理するための表面処理剤であって、該含フッ素化合物が、ガラス基材に、ケイ素−炭素結合により結合することを特徴とする、表面処理剤
【請求項2】
分子末端に炭素−炭素不飽和結合を有する含フッ素化合物が、下記式(A1)、(A2)、(B1)、(B2)、(C1)、(C2)、(D1)および(D2):
【化1】
[式中:
Aは、各出現においてそれぞれ独立して、−CH=CHまたは−C≡CHを表し;
Yは、各出現においてそれぞれ独立して、単結合、酸素原子または2価の有機基を表し;
Rfは、それぞれ独立して、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基を表し;
PFPEは、それぞれ独立して、−(OC−(OC−(OC−(OCF−を表し、ここに、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して0以上200以下の整数であって、a、b、cおよびdの和は少なくとも1であり、a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意であり;
11は、それぞれ独立して、水素原子またはハロゲン原子を表し;
12は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
は、それぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表し;
は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または2価の有機基を表し;
tは、それぞれ独立して、1〜10の整数であり;
αは、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
α’は、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
は、それぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表し;
βは、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
β’は、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
は、それぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表し;
γは、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
γ’は、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
は、各出現においてそれぞれ独立して、−Z−SiR71727374を表し;
Zは、各出現においてそれぞれ独立して、酸素原子または2価の有機基を表し;
71は、各出現においてそれぞれ独立して、Ra’を表し;
a’は、Rと同意義であり;
中、Z基を介して直鎖状に連結されるSiは最大で5個であり;
72は、各出現においてそれぞれ独立して、−X−Y−Aを表し;
は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または2価の有機基であり;
73は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
74は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
pは、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
qは、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
rは、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
sは、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
ただし、p+q+r+sは、3であり;
は、各出現においてそれぞれ独立して、−X−Y−Aを表し;
は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
kは、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
lは、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
mは、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
nは、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
ただし、k+l+m+nは3であり、−(SiRにおいて、少なくとも1つのY−A基が存在し;
は、それぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表し;
δは、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
δ’は、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
91は、フッ素原子、−CHFまたは−CFを表し;
Rf’は、炭素数1〜20のパーフルオロアルキレン基を表す。]
のいずれかで表される少なくとも1種の化合物である、請求項1に記載の表面処理剤。
【請求項3】
Aが、−CH=CHである、請求項1または2に記載の表面処理剤。
【請求項4】
Yが、単結合、酸素原子または−CR14−であり、
14が、水素原子または低級アルキル基を表す、
請求項1〜3のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項5】
Rfが、炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基である、請求項2〜4のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項6】
PFPEが、下記式(a)〜(c):
(a)−(OC
(式(a)中、bは1以上200以下の整数である);
(b)−(OC−(OC−(OC−(OCF
(式(b)中、aおよびbは、それぞれ独立して、0以上30以下の整数であり、cおよびdは、それぞれ独立して、1以上200以下の整数であり、a、b、cおよびdの和は、10以上200以下の整数であり、添字a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。)
(c)−(OC−R15n”
(式(c)中、R15は、それぞれ独立して、OC、OCおよびOCから選択される基であり、n”は、2〜100の整数である。)
のいずれかである、請求項2〜5のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項7】
PFPEにおいて:
OCが、OCFCFCFCFであり、
OCが、OCFCFCFであり、
OCが、OCFCFである、
請求項2〜6のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項8】
、X、XおよびXが2〜4価の有機基であり、α、β、γおよびδが1〜3であり、α’、β’、γ’およびδ’が1である、請求項2〜7のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項9】
、X、XおよびXが2価の有機基であり、α、β、γおよびδが1であり、α’、β’、γ’およびδ’が1である、請求項2〜8のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項10】
、X、XおよびXが、それぞれ独立して、−(R31p’−(Xq’−R32
[式中:
31は、単結合、−(CHs’−(式中、s’は、1〜20の整数である)またはo−、m−もしくはp−フェニレン基を表し;
32は、単結合、−(CHt’−(式中、t’は、1〜20の整数である)またはo−、m−もしくはp−フェニレン基を表し;
は、−(Xr’−(式中、r’は、1〜10の整数である)を表し;
は、各出現においてそれぞれ独立して、−O−、−S−、o−、m−もしくはp−フェニレン基、−C(O)O−、−Si(R33−、−(Si(R33O)m’−Si(R33−(式中、m’は1〜100の整数である)、−CONR34−、−O−CONR34−、−NR34−および−(CHn’−(式中、n’は1〜20の整数である)からなる群から選択される基を表し;
33は、各出現においてそれぞれ独立して、フェニル基、C1−6アルキル基またはC1−6アルコキシ基を表し;
34は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フェニル基またはC1−6アルキル基を表し;
p’は、0または1であり;
q’は、0または1であり;
ここに、p’およびq’の少なくとも一方は1であり、p’およびq’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意であり;
31、R32およびXは、フッ素原子、C1−3アルキル基およびC1−3フルオロアルキル基から選択される1個またはそれ以上の置換基により置換されていてもよい。]
で表される基である、請求項2〜9のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項11】
、X、XおよびXが、それぞれ独立して:
−CHO(CH−、
−CHO(CH−、
−CHO(CH−、
−CHO(CHSi(CHOSi(CH(CH−、
−CHO(CHSi(CHOSi(CHOSi(CH(CH−、
−CHO(CHSi(CHO(Si(CHO)Si(CH(CH−、
−CHO(CHSi(CHO(Si(CHO)Si(CH(CH−、
−CHO(CHSi(CHO(Si(CHO)10Si(CH(CH−、
−CHO(CHSi(CHO(Si(CHO)20Si(CH(CH−、
−CHOCFCHFOCF−、
−CHOCFCHFOCFCF−、
−CHOCFCHFOCFCFCF−、
−CHOCHCFCFOCF−、
−CHOCHCFCFOCFCF−、
−CHOCHCFCFOCFCFCF−、
−CHOCHCFCFOCF(CF)CFOCF−、
−CHOCHCFCFOCF(CF)CFOCFCF−、
−CHOCHCFCFOCF(CF)CFOCFCFCF−、
−CHOCHCHFCFOCF−、
−CHOCHCHFCFOCFCF−、
−CHOCHCHFCFOCFCFCF−、
−CHOCHCHFCFOCF(CF)CFOCF−、
−CHOCHCHFCFOCF(CF)CFOCFCF−、
−CHOCHCHFCFOCF(CF)CFOCFCFCF
−CHOCH(CHCHSi(OCHOSi(OCH(CHSi(OCHOSi(OCH(CH−、
−CHOCHCHCHSi(OCHOSi(OCH(CH−、
−(CH−、
−(CH−、
−(CH−、
−(CH−、
−(CH−Si(CH−(CH
−CONH−(CH−、
−CON(CH)−(CH−、
−CON(Ph)−(CH−(式中、Phはフェニルを意味する)、
−CONH−(CH−、
−CON(CH)−(CH−、
−CON(Ph)−(CH−(式中、Phはフェニルを意味する)、
−CONH−(CHNH(CH−、
−CONH−(CHNH(CH−、
−CHO−CONH−(CH−、
−CHO−CONH−(CH−、
−S−(CH−、
−(CHS(CH−、
−CONH−(CHSi(CHOSi(CH(CH−、
−CONH−(CHSi(CHOSi(CHOSi(CH(CH−、
−CONH−(CHSi(CHO(Si(CHO)2Si(CH(CH−、
−CONH−(CHSi(CHO(Si(CHO)Si(CH(CH−、
−CONH−(CHSi(CHO(Si(CHO)10Si(CH(CH−、
−CONH−(CHSi(CHO(Si(CHO)20Si(CH(CH
−C(O)O−(CH−、
−C(O)O−(CH−、
−CH−O−(CH−Si(CH −(CH−Si(CH−(CH−、
−CH−O−(CH−Si(CH −(CH−Si(CH−CH(CH)−、
−CH−O−(CH−Si(CH −(CH−Si(CH−(CH−、
−CH−O−(CH−Si(CH −(CH−Si(CH−CH(CH)−CH−、
【化2】
からなる群から選択される、請求項2〜10のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項12】
が、−O−CFR13−(CF−であり、
13が、フッ素原子または低級フルオロアルキル基を表し、
eが、0または1である、
請求項2〜11のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項13】
が、−(CH−であり、
uが、0〜2の整数である、
請求項2〜12のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項14】
91が、フッ素原子またはCFである、請求項2〜13のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項15】
分子末端に炭素−炭素不飽和結合を有する含フッ素化合物が、式(A1)および(A2)のいずれかで表される少なくとも1種の化合物である、請求項2〜14のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項16】
分子末端に炭素−炭素不飽和結合を有する含フッ素化合物が、式(B1)および(B2)のいずれかで表される少なくとも1種の化合物である、請求項2〜14のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項17】
分子末端に炭素−炭素不飽和結合を有する含フッ素化合物が、式(C1)および(C2)のいずれかで表される少なくとも1種の化合物である、請求項2〜14のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項18】
分子末端に炭素−炭素不飽和結合を有する含フッ素化合物が、式(D1)および(D2)のいずれかで表される少なくとも1種の化合物である、請求項2〜14のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項19】
含フッ素オイル、シリコーンオイル、および触媒から選択される1種またはそれ以上の他の成分をさらに含有する、請求項1〜18のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項20】
含フッ素オイルが、式(3):
Rf−(OCa’−(OCb’−(OCc’−(OCFd’−RF
・・・(3)
[式中:
Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基を表し;
Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基、フッ素原子または水素原子を表し;
a’、b’、c’およびd’は、ポリマーの主骨格を構成するパーフルオロ(ポリ)エーテルの4種の繰り返し単位数をそれぞれ表し、互いに独立して0以上300以下の整数であって、a’、b’、c’およびd’の和は少なくとも1であり、添字a’、b’、c’またはd’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。]
で表される1種またはそれ以上の化合物である、請求項19に記載の表面処理剤。
【請求項21】
含フッ素オイルが、式(3a)または(3b):
Rf−(OCFCFCFb’’−Rf ・・・(3a)
Rf−(OCFCFCFCFa’’−(OCFCFCFb’’−(OCFCFc’’−(OCFd’’−Rf ・・・(3b)
[式中:
Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基を表し;
Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基、フッ素原子または水素原子を表し;
式(3a)において、b’’は1以上100以下の整数であり;
式(3b)において、a’’およびb’’は、それぞれ独立して0以上30以下の整数であり、c’’およびd’’は、それぞれ独立して1以上300以下の整数であり;
添字a’’、b’’、c’’またはd’’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。]
で表される1種またはそれ以上の化合物である、請求項19または20に記載の表面処理剤。
【請求項22】
さらに溶媒を含む、請求項1〜21のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項23】
防汚性コーティング剤または防水性コーティング剤として使用される、請求項1〜22のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項24】
ガラス基材と、該基材の表面に、請求項1〜23のいずれかに記載の表面処理剤より形成された層とを含む物品。
【請求項25】
ガラスが、ソーダライムガラス、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、クリスタルガラスおよび石英ガラスから成る群から選択されるガラスである、請求項24に記載の物品。
【請求項26】
前記物品が光学部材である、請求項24または25に記載の物品。
【請求項27】
ガラス基材の表面に表面処理層を形成する方法であって、
前記基材に対し、その表面に、分子末端に炭素−炭素不飽和結合を有する含フッ素化合物との結合サイトとしてSi−H結合を形成する前処理を行う工程と、
前処理された基材に、請求項1〜23のいずれかに記載の表面処理剤を供給して基材の表面に表面処理層を形成する工程と
を含む、表面処理層の形成方法。
【請求項28】
前処理を行う工程において、水素を含むプラズマにより、使用する表面処理剤に応じて、基材表面のHの量およびOの量を制御することを特徴とする、請求項27に記載の表面処理層の形成方法。
【請求項29】
前処理が、水素を含むプラズマを用いて行われ、このプラズマにより、基材表面に、分子末端に炭素−炭素不飽和結合を有する含フッ素化合物との結合サイトとして機能するSi−H結合が形成されることを特徴とする請求項27または28に記載の表面処理層の形成方法。
【請求項30】
前処理を、水素を含むプラズマにより行うことを特徴とする、請求項27に記載の表面処理層の形成方法。
【請求項31】
前処理を、水素および希ガスのプラズマ、または水素単独のプラズマにより行うことを特徴とする、請求項27または30に記載の表面処理層の形成方法。
【請求項32】
前処理を行う工程において、真空に保持されたチャンバに水素ガスを供給し、熱電子あるいはプラズマにより、水素分子を水素原子に解離させ、その水素原子を前記チャンバ内の基材の表面に吸着させることを特徴とする、請求項27に記載の表面処理層の形成方法。
【請求項33】
前処理を行う工程において、チャンバ内を水素雰囲気の真空状態とし、前記チャンバ内で基材を加熱して水素を基材表面に吸着させることを特徴とする請求項27に記載の表面処理層の形成方法。
【請求項34】
表面処理層が、有機単分子膜である、請求項2733のいずれかに記載の表面処理層の形成方法。
【請求項35】
表面処理層が、自己組織化単分子膜である、請求項2734のいずれかに記載の表面処理層の形成方法。
【請求項36】
ガラス基材の表面に表面処理層を形成する表面処理層形成装置であって、
前記基材に対し、その表面に、分子末端に炭素−炭素不飽和結合を有する含フッ素化合物との結合サイトとしてSi−H結合を形成する前処理を行う前処理部と、
前処理された基材に、請求項1〜23のいずれかに記載の表面処理剤を供給して基材の表面に表面処理層を形成する表面処理層形成部と
を有することを特徴とする表面処理層形成装置。
【請求項37】
前処理部において、水素を含むプラズマにより、使用する表面処理剤に応じて、基材表面のHの量およびOの量を制御することを特徴とする、請求項36に記載の表面処理層形成装置。
【請求項38】
前処理部における前処理が、水素を含むプラズマを用いて行われ、このプラズマにより、基材表面に、分子末端に炭素−炭素不飽和結合を有する含フッ素化合物との結合サイトとして機能するSi−H結合が形成されることを特徴とする、請求項36または37に記載の表面処理層形成装置。
【請求項39】
前処理部における前処理が、水素を含むプラズマにより行われることを特徴とする、請求項36に記載の表面処理層形成装置。
【請求項40】
前処理部における前処理が、水素および希ガスのプラズマ、または水素単独のプラズマにより行われることを特徴とする、請求項36または39に記載の表面処理層形成装置。
【請求項41】
前処理部における前処理が、真空に保持されたチャンバに水素ガスを供給し、熱電子あるいはプラズマにより、水素分子を水素原子に解離させ、その水素原子を前記チャンバ内の基材の表面に吸着させることにより行われることを特徴とする、請求項36に記載の表面処理層形成装置。
【請求項42】
前処理部における前処理が、チャンバ内を水素雰囲気の真空状態とし、前記チャンバ内で基材を加熱して水素を基材表面に吸着させることにより行われることを特徴とする、請求項36に記載の表面処理層形成装置。
【請求項43】
表面処理層が、有機単分子膜である、請求項3642のいずれかに記載の表面処理層形成装置。
【請求項44】
表面処理層が、自己組織化単分子膜である、請求項3643のいずれかに記載の表面処理層形成装置。
【請求項45】
表面にSi−H結合を有するガラス基材および該基材の表面を被覆する表面処理層を含む物品の製造方法であって、
請求項1〜23のいずれかに記載の表面処理剤を基材の表面に接触させて、表面処理剤に含まれる分子末端に炭素−炭素不飽和結合を有する含フッ素化合物と、基材表面のSi−H部とを反応させることにより、該基材の表面に表面処理層を形成する
ことを含む、製造方法。
【請求項46】
請求項2735のいずれかに記載の方法により、基材の表面に表面処理層を形成することを特徴とする、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
請求項3644のいずれかに記載の表面処理層形成装置を用いて、基材の表面に表面処理層を形成することを特徴とする、請求項45に記載の方法。
【請求項48】
基材表面にSi−H結合を有する層を形成することにより、Si−H結合を導入することを特徴とする、請求項45に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子末端に炭素−炭素不飽和結合を有する含フッ素化合物を含んで成る表面処理剤または防汚処理組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ある種の含フッ素化合物は、基材の表面処理に用いると、優れた撥水性、撥油性、防汚性などを提供し得ることが知られている。含フッ素シラン化合物を含む表面処理剤から得られる層(以下、「表面処理層」とも言う)は、いわゆる機能性薄膜として、例えばガラス、プラスチック、繊維、建築資材など種々多様な基材に施されている。
【0003】
そのような含フッ素化合物として、パーフルオロポリエーテル基を分子主鎖に有し、Si原子に結合した加水分解可能な基を分子末端または末端部に有するパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物が知られている(特許文献1〜2を参照のこと)。このパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物を含む表面処理剤を基材に適用すると、Si原子に結合した加水分解可能な基が基材との間および化合物間で反応して、−Si−O−Si−結合を形成することにより、表面処理層を形成し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−534696号公報
【特許文献2】国際公開第97/07155号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような表面処理層は、−Si−O−Si−結合により基材と結合しており、アルカリ環境下、特に強アルカリ環境下では、例えば汗が付着した場合、この結合が切断され、耐久性が低下する虞があった。
【0006】
従って、本発明は、より高いアルカリ耐性を有する層を形成することのできる、新規な表面処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、含フッ素化合物の分子末端に炭素−炭素不飽和結合を導入し、これを基材のSi−H結合またはC−H結合と反応させ、基材と表面処理層をSi−C結合またはC−C結合により結合させることにより、高いアルカリ耐性を有する表面処理層を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の第1の要旨によれば、分子末端に炭素−炭素不飽和結合を、−Y−A(式中、Yは、単結合、酸素原子または2価の有機基を表し、Aは、−CH=CHまたは−C≡CHを表す。)で表される基として有する含フッ素化合物を含んで成る表面処理剤が提供される。
【0009】
本発明の第2の要旨によれば、基材と、該基材の表面に、本発明の表面処理剤より形成された層とを含む物品が提供される。
【0010】
本発明の第3の要旨によれば、基材の表面に表面処理層を形成する方法であって、
前記基材に対し、その表面に、分子末端に炭素−炭素不飽和結合を有する含フッ素化合物との結合サイトを形成する前処理を行う工程と、
前処理された基材に、本発明の表面処理剤を供給して基材の表面に表面処理層を形成する工程と
を含む、表面処理層の形成方法が提供される。
【0011】
本発明の第4の要旨によれば、基材の表面に表面処理層を形成する表面処理層形成装置であって、
前記基材に対し、その表面に、分子末端に炭素−炭素不飽和結合を有する含フッ素化合物との結合サイトを形成する前処理を行う前処理部と、
前処理された基材に、本発明の表面処理剤を供給して基材の表面に表面処理層を形成する表面処理層形成部と
を有することを特徴とする表面処理層形成装置が提供される。
【0012】
本発明の第5の要旨によれば、基材および該基材の表面を被覆する表面処理層を含む物品の製造方法であって、
本発明の表面処理剤を基材の表面に接触させて、表面処理剤に含まれる分子末端に炭素−炭素不飽和結合を有する含フッ素化合物と、基材表面のSi−H部またはC−H部とを反応させることにより、該基材の表面に表面処理層を形成する
ことを含む、製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の分子末端に炭素−炭素不飽和結合を有する含フッ素化合物を含有する表面処理剤によれば、高いアルカリ耐性を有する表面処理層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、基板上に表面処理層を形成するための本発明の表面処理層形成装置の一態様を示すブロック図である。
図2図2は、図1に示す表面処理層形成装置の前処理部200の一態様を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の表面処理剤について説明する。
【0016】
本明細書において用いられる場合、「2〜10価の有機基」とは、炭素を含有する2〜10価の基を意味する。かかる2〜10価の有機基としては、特に限定されるものではないが、炭化水素基からさらに1〜9個の水素原子を脱離させた2〜10価の基が挙げられる。例えば、2価の有機基としては、特に限定されるものではないが、炭化水素基からさらに1個の水素原子を脱離させた2価の基が挙げられる。
【0017】
本明細書において用いられる場合、「炭化水素基」とは、炭素および水素を含む基を意味する。かかる炭化水素基としては、特に限定されるものではないが、1つまたはそれ以上の置換基により置換されていてもよい、炭素数1〜20の炭化水素基、例えば、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基等が挙げられる。上記「脂肪族炭化水素基」は、直鎖状、分枝鎖状または環状のいずれであってもよく、飽和または不飽和のいずれであってもよい。また、炭化水素基は、1つまたはそれ以上の環構造を含んでいてもよい。なお、かかる炭化水素基は、その末端または分子鎖中に、1つまたはそれ以上のN、O、S、Si、アミド、スルホニル、シロキサン、カルボニル、カルボニルオキシ等を有していてもよい。
【0018】
本明細書において用いられる場合、「炭化水素基」の置換基としては、特に限定されるものではないが、例えば、ハロゲン原子;1個またはそれ以上のハロゲン原子により置換されていてもよい、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、C3−10シクロアルキル基、C3−10不飽和シクロアルキル基、5〜10員のヘテロシクリル基、5〜10員の不飽和ヘテロシクリル基、C6−10アリール基、5〜10員のヘテロアリール基から選択される1個またはそれ以上の基が挙げられる。
【0019】
本発明は、分子末端に炭素−炭素不飽和結合を、−Y−A(式中、Yは、単結合、酸素原子または2価の有機基を表し、Aは、−CH=CHまたは−C≡CHを表す。)で表される基として有する含フッ素化合物を含んで成る表面処理剤を提供する。
【0020】
上記Yは、単結合、酸素原子または2価の有機基を表す。好ましくは、Yは、単結合、酸素原子または−CR14−である。
【0021】
上記R14は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表す。該低級アルキル基は、好ましくは炭素数1〜20のアルキル基、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基、さらに好ましくはメチル基である。R14は、好ましくは、水素原子である。
【0022】
上記Aは、−CH=CHまたは−C≡CHを表す。Aは、好ましくは、−CH=CHである。
【0023】
好ましい態様において、分子末端に炭素−炭素不飽和結合を有する含フッ素化合物は、下記式(A1)、(A2)、(B1)、(B2)、(C1)、(C2)、(D1)および(D2):
【化1】
のいずれかで表される化合物であり得る。以下、上記式(A1)、(A2)、(B1)、(B2)、(C1)、(C2)、(D1)および(D2)について説明する。
【0024】
式(A1)および(A2):
【化2】
【0025】
上記式中、Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基を表す。
【0026】
上記1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基における「炭素数1〜16のアルキル基」は、直鎖であっても、分枝鎖であってもよく、好ましくは、直鎖または分枝鎖の炭素数1〜6、特に炭素数1〜3のアルキル基であり、より好ましくは直鎖の炭素数1〜3のアルキル基である。
【0027】
上記Rfは、好ましくは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されている炭素数1〜16のアルキル基であり、より好ましくはCFH−C1−15フルオロアルキレン基であり、さらに好ましくは炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基である。
【0028】
該炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基は、直鎖であっても、分枝鎖であってもよく、好ましくは、直鎖または分枝鎖の炭素数1〜6、特に炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基であり、より好ましくは直鎖の炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基、具体的には−CF、−CFCF、または−CFCFCFである。
【0029】
上記式中、PFPEは、−(OC−(OC−(OC−(OCF−を表し、パーフルオロ(ポリ)エーテル基に該当する。ここに、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して0または1以上の整数であって、a、b、cおよびdの和が少なくとも1であれば特に限定されるものではない。好ましくは、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して0以上200以下の整数、例えば1以上200以下の整数であり、より好ましくは、それぞれ独立して0以上100以下の整数、例えば1以上100以下の整数である。さらに好ましくは、a、b、cおよびdの和は、10以上、好ましくは20以上であり、200以下、好ましくは100以下である。また、a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。これら繰り返し単位のうち、−(OC)−は、−(OCFCFCFCF)−、−(OCF(CF)CFCF)−、−(OCFCF(CF)CF)−、−(OCFCFCF(CF))−、−(OC(CFCF)−、−(OCFC(CF)−、−(OCF(CF)CF(CF))−、−(OCF(C)CF)−および−(OCFCF(C))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCFCFCFCF)−である。−(OC)−は、−(OCFCFCF)−、−(OCF(CF)CF)−および−(OCFCF(CF))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCFCFCF)−である。また、−(OC)−は、−(OCFCF)−および−(OCF(CF))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCFCF)−である。
【0030】
一の態様において、PFPEは、−(OC−(式中、bは1以上200以下、好ましくは10以上100以下の整数である)であり、好ましくは−(OCFCFCF−(式中、bは上記と同意義である)である。
【0031】
別の態様において、PFPEは、−(OC−(OC−(OC−(OCF−(式中、aおよびbは、それぞれ独立して0以上または1以上30以下、好ましくは0以上10以下の整数であり、cおよびdは、それぞれ独立して1以上200以下、好ましくは10以上100以下の整数である。a、b、cおよびdの和は、10以上、好ましくは20以上であり、200以下、好ましくは100以下である。添字a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である)であり、好ましくは−(OCFCFCFCF−(OCFCFCF−(OCFCF−(OCF−(式中、a、b、cおよびdは上記と同意義である)である。例えば、PFPEは、−(OCFCF−(OCF−(式中、cおよびdは上記と同意義である)であってもよい。
【0032】
さらに別の態様において、PFPEは、−(OC−R15n”−で表される基である。式中、R15は、OC、OCおよびOCから選択される基であるか、あるいは、これらの基から独立して選択される2または3つの基の組み合わせである。OC、OCおよびOCから独立して選択される2または3つの基の組み合わせとしては、特に限定されないが、例えば−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、および−OCOCOC−等が挙げられる。上記n”は、2〜100の整数、好ましくは2〜50の整数である。上記式中、OC、OCおよびOCは、直鎖または分枝鎖のいずれであってもよく、好ましくは直鎖である。この態様において、PFPEは、好ましくは、−(OC−OCn”−または−(OC−OCn”−である。
【0033】
上記式中、R11は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子またはハロゲン原子を表す。ハロゲン原子は、好ましくはヨウ素原子、塩素原子、フッ素原子である。
【0034】
上記式中、R12は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表す。低級アルキル基は、好ましくは炭素数1〜20のアルキル基、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基である。
【0035】
上記式(A1)および(A2)中、Xは、それぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表す。当該Xは、式(A1)および(A2)で表される化合物において、主に撥水性および表面滑り性等を提供するパーフルオロポリエーテル部(Rf−PFPE部または−PFPE−部)と、基材との結合能を提供する炭素−炭素不飽和結合を有する基(具体的には、A基またはA基を含む基)とを連結するリンカーと解される。従って、当該Xは、式(A1)および(A2)で表される化合物が安定に存在し得るものであれば、いずれの有機基であってもよい。
【0036】
上記式中のαは、1〜9の整数であり、α’は、1〜9の整数である。これらαおよびα’は、Xの価数に応じて決定され、式(A1)において、αおよびα’の和は、Xの価数の値である。例えば、Xが10価の有機基である場合、αおよびα’の和は10であり、例えばαが9かつα’が1、αが5かつα’が5、またはαが1かつα’が9となり得る。また、Xが2価の有機基である場合、αおよびα’は1である。式(A2)において、αはXの価数の値から1を引いた値である。
【0037】
上記Xは、好ましくは2〜7価、より好ましくは2〜4価、さらに好ましくは2価の有機基である。
【0038】
上記Xの例としては、特に限定するものではないが、例えば、下記式:
−(R31p’−(Xq’−R32
[式中:
31は、単結合、−(CHs’−またはo−、m−もしくはp−フェニレン基を表し、好ましくは−(CHs’−であり、
32は、単結合、−(CHt’−またはo−、m−もしくはp−フェニレン基を表し、好ましくは−(CHt’−であり、
s’は、1〜20の整数、好ましくは1〜6の整数、より好ましくは1〜3の整数、さらにより好ましくは1または2であり、
t’は、1〜20の整数、好ましくは2〜6の整数、より好ましくは2〜3の整数であり、
は、−(Xr’−を表し、
は、各出現においてそれぞれ独立して、−O−、−S−、o−、m−もしくはp−フェニレン基、−C(O)O−、−CONR34−、−O−CONR34−、−NR34−、−Si(R33−、−(Si(R33O)m’−Si(R33−、および−(CHn’−からなる群から選択される基を表し、
33は、各出現においてそれぞれ独立して、フェニル基、C1−6アルキル基またはC1−6アルコキシ基を表し、好ましくはC1−6アルキル基、より好ましくはメチル基であり、
34は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フェニル基またはC1−6アルキル基(好ましくはメチル基)を表し、
m’は、各出現において、それぞれ独立して、1〜100の整数、好ましくは1〜20の整数であり、
n’は、各出現において、それぞれ独立して、1〜20の整数、好ましくは1〜6の整数、より好ましくは1〜3の整数であり、
r’は、1〜10の整数、好ましくは1〜5の整数、より好ましくは1〜3の整数であり、
p’は、0または1であり、
q’は、0または1であり、
ここに、p’およびq’の少なくとも一方は1であり、p’またはq’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は任意である。]
で表される2価の基が挙げられる。
【0039】
好ましくは、上記Xは、
1−20アルキレン基、
−R31−X−R32−、または
−X−R32
[式中、R31およびR32は、上記と同意義である。]
であり得る。
【0040】
より好ましくは、上記Xは、
1−20アルキレン基、
−(CHs’−X−、
−(CHs’−X−(CHt’
−X−、または
−X−(CHt’
[式中、s’およびt’は、上記と同意義である。]
である。
【0041】
上記式中、Xは、
−O−、
−S−、
−C(O)O−、
−CONR34−、
−O−CONR34−、
−Si(R33−、
−(Si(R33O)m’−Si(R33−、
−O−(CHu’−(Si(R33O)m’−Si(R33−、
−CONR34−(CHu’−(Si(R33O)m’−Si(R33−、
−CONR34−(CHu’−N(R34)−、または
−CONR34−(o−、m−またはp−フェニレン)−Si(R33
[式中、R33、R34およびm’は、上記と同意義であり、
u’は1〜20の整数、好ましくは2〜6の整数、より好ましくは2〜3の整数である。]を表す。Xは、好ましくは−O−である。
【0042】
上記式中、Xは、
−S−、
−C(O)O−、
−CONR34−、
−CONR34−(CHu’−(Si(R33O)m’−Si(R33−、
−CONR34−(CHu’−N(R34)−、または
−CONR34−(o−、m−またはp−フェニレン)−Si(R33
を表す。
【0043】
より好ましくは、上記Xは、
1−20アルキレン基、
−(CHs’−X−(CHt’−、または
−X−(CHt’
[式中、各記号は、上記と同意義である。]
であり得る。
【0044】
さらにより好ましくは、上記Xは、
1−20アルキレン基、
−(CHs’−O−(CHt’−、
−(CHs’−Si(R33−(CHt’−、
−(CHs’−(Si(R33O)m’−Si(R33−(CHt’−、
−(CHs’−O−(CHu’−(Si(R33O)m’−Si(R33−(CHt’−、または
−(CHs’−O−(CHt’−Si(R33 −(CHu’−Si(R33−(Cv2v)−
[式中、各記号は、上記と同意義であり、vは1〜20の整数、好ましくは2〜6の整数、より好ましくは2〜3の整数である。]
である。
【0045】
上記式中、−(Cv2v)−は、直鎖であっても、分枝鎖であってもよく、例えば、−CHCH−、−CHCHCH−、−CH(CH)−、−CH(CH)CH−であり得る。
【0046】
上記X基は、フッ素原子、C1−3アルキル基およびC1−3フルオロアルキル基(好ましくは、C1−3パーフルオロアルキル基)から選択される1個またはそれ以上の置換基により置換されていてもよい。
【0047】
上記Xの具体的な例としては、例えば:
−CHO(CH−、
−CHO(CH−、
−CHO(CH−、
−CHO(CHSi(CHOSi(CH(CH−、
−CHO(CHSi(CHOSi(CHOSi(CH(CH−、
−CHO(CHSi(CHO(Si(CHO)Si(CH(CH−、
−CHO(CHSi(CHO(Si(CHO)Si(CH(CH−、
−CHO(CHSi(CHO(Si(CHO)10Si(CH(CH−、
−CHO(CHSi(CHO(Si(CHO)20Si(CH(CH−、
−CHOCFCHFOCF−、
−CHOCFCHFOCFCF−、
−CHOCFCHFOCFCFCF−、
−CHOCHCFCFOCF−、
−CHOCHCFCFOCFCF−、
−CHOCHCFCFOCFCFCF−、
−CHOCHCFCFOCF(CF)CFOCF−、
−CHOCHCFCFOCF(CF)CFOCFCF−、
−CHOCHCFCFOCF(CF)CFOCFCFCF−、
−CHOCHCHFCFOCF−、
−CHOCHCHFCFOCFCF−、
−CHOCHCHFCFOCFCFCF−、
−CHOCHCHFCFOCF(CF)CFOCF−、
−CHOCHCHFCFOCF(CF)CFOCFCF−、
−CHOCHCHFCFOCF(CF)CFOCFCFCF
−CHOCH(CHCHSi(OCHOSi(OCH(CHSi(OCHOSi(OCH(CH−、
−CHOCHCHCHSi(OCHOSi(OCH(CH−、
−(CH−、
−(CH−、
−(CH4−、
−(CH−、
−(CH−Si(CH−(CH
−CONH−(CH−、
−CON(CH)−(CH−、
−CON(Ph)−(CH−(式中、Phはフェニルを意味する)、
−CONH−(CH−、
−CON(CH)−(CH−、
−CON(Ph)−(CH−(式中、Phはフェニルを意味する)、
−CONH−(CHNH(CH−、
−CONH−(CHNH(CH−、
−CHO−CONH−(CH−、
−CHO−CONH−(CH−、
−S−(CH−、
−(CHS(CH−、
−CONH−(CHSi(CHOSi(CH(CH−、
−CONH−(CHSi(CHOSi(CHOSi(CH(CH−、
−CONH−(CHSi(CHO(Si(CHO)Si(CH(CH−、
−CONH−(CHSi(CHO(Si(CHO)Si(CH(CH−、
−CONH−(CHSi(CHO(Si(CHO)10Si(CH(CH−、
−CONH−(CHSi(CHO(Si(CHO)20Si(CH(CH
−C(O)O−(CH−、
−C(O)O−(CH−、
−CH−O−(CH−Si(CH −(CH−Si(CH−(CH−、
−CH−O−(CH−Si(CH −(CH−Si(CH−CH(CH)−、
−CH−O−(CH−Si(CH −(CH−Si(CH−(CH−、
−CH−O−(CH−Si(CH −(CH−Si(CH−CH(CH)−CH−、
【化3】
などが挙げられる。
【0048】
また、別のX基の例としては、例えば下記の基が挙げられる:
【化4】
【化5】
[式中、R41は、それぞれ独立して、水素原子、フェニル基、炭素数1〜6のアルキル基、またはC1−6アルコキシ基、好ましくはメチル基であり;
Dは、
−CHO(CH−、
−CHO(CH−、
−CFO(CH−、
−(CH−、
−(CH−、
−(CH4−、
−CONH−(CH−、
−CON(CH)−(CH−、
−CON(Ph)−(CH−(式中、Phはフェニルを意味する)、および
【化6】
(式中、R42は、それぞれ独立して、水素原子、C1−6のアルキル基またはC1−6のアルコキシ基、好ましくはメチル基またはメトキシ基、より好ましくはメチル基を表す。)
から選択される基であり、
Eは、−(CH−(nは2〜6の整数)であり、
Dは、分子主鎖のPFPEに結合し、Eは、PFPEと反対の基に結合する。]
【0049】
さらに別のX基の例として、下記の基が挙げられる:
【化7】
[式中、R41は、それぞれ独立して、水素原子、フェニル基、炭素数1〜6のアルキル基、またはC1−6アルコキシ基好ましくはメチル基であり;
各X基において、Tのうち任意のいくつかは、分子主鎖のPFPEに結合する以下の基:
−CHO(CH−、
−CHO(CH−、
−CFO(CH−、
−(CH−、
−(CH−、
−(CH4−、
−CONH−(CH−、
−CON(CH)−(CH−、
−CON(Ph)−(CH−(式中、Phはフェニルを意味する)、または
【化8】
[式中、R42は、それぞれ独立して、水素原子、C1−6のアルキル基またはC1−6のアルコキシ基、好ましくはメチル基またはメトキシ基、より好ましくはメチル基を表す。]
であり、別のTのいくつかは、分子主鎖のPFPEと反対の基に結合する−(CHn”−(n”は2〜6の整数)であり、存在する場合、残りは、それぞれ独立して、メチル基またはフェニル基である。
【0050】
別の態様において、Xは、式:−(R16−(CFR17−(CH−で表される基である。式中、x、yおよびzは、それぞれ独立して、0〜10の整数であり、x、yおよびzの和は1以上であり、括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。
【0051】
上記式中、R16は、各出現においてそれぞれ独立して、酸素原子、フェニレン、カルバゾリレン、−NR20−(式中、R20は、水素原子または有機基を表す)または2価の有機基である。好ましくは、R16は、酸素原子または2価の極性基である。
【0052】
上記Qにおける「2価の極性基」としては、特に限定されないが、−C(O)−、−C(=NR21)−、および−C(O)NR21−(これらの式中、R21は、水素原子または低級アルキル基を表す)が挙げられる。当該「低級アルキル基」は、例えば、炭素数1〜6のアルキル基、例えばメチル、エチル、n−プロピルであり、これらは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい。
【0053】
上記式中、R17は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子または低級フルオロアルキル基であり、好ましくはフッ素原子である。当該「低級フルオロアルキル基」は、例えば、炭素数1〜6、好ましくは炭素数1〜3のフルオロアルキル基、好ましくは炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基、より好ましくはトリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、さらに好ましくはトリフルオロメチル基である。
【0054】
この態様において、Xは、好ましくは、式:−(O)−(CF−(CH−(式中、x、yおよびzは、上記と同意義であり、括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である)で表される基である。
【0055】
上記式:−(O)−(CF−(CH−で表される基としては、例えば、−(O)x’−(CHz”−O−[(CHz’’’−O−]z’’’’、および−(O)x’−(CFy”−(CHz”−O−[(CHz’’’−O−]z’’’’(式中、x’は0または1であり、y”、z”およびz’’’は、それぞれ独立して、1〜10の整数であり、z’’’’は、0または1である)で表される基が挙げられる。なお、これらの基は左端がPFPE側に結合する。
【0056】
別の態様において、Xは、−O−CFR13−(CF−である。
【0057】
上記R13は、それぞれ独立して、フッ素原子または低級フルオロアルキル基を表す。低級フルオロアルキル基は、例えば炭素数1〜3のフルオロアルキル基、好ましくは炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基、より好ましくはトリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、更に好ましくはトリフルオロメチル基である。
【0058】
上記eは、それぞれ独立して、0または1である。
【0059】
一の具体例において、R13はフッ素原子であり、eは1である。
【0060】
上記式中、tは、それぞれ独立して、1〜10の整数であり、好ましくは1〜6の整数である。
【0061】
上記式中、Xは、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または2価の有機基を表す。Xは、好ましくは、炭素数1〜20のアルキレン基であり、より好ましくは、−(CH−(式中、uは、0〜2の整数である)である。
【0062】
上記式(A1)および(A2)で表される化合物は、例えば、Rf−PFPE−部分に対応するパーフルオロポリエーテル誘導体を原料として、末端にヨウ素を導入した後、−CHCR12(XYA)−に対応するビニルモノマーを反応させること等により得ることができる。
【0063】
また、Y−A部分が前駆体基である化合物を合成し、この前駆体基を、当該分野で公知の方法により、Y−A部分に変換することにより、製造することができる。
【0064】
上記の変換方法としては、特に限定されないが、例えば、炭素−炭素不飽和結合を形成する公知の反応、例えば脱水反応、脱ハロゲン化水素反応等の脱離反応を利用してもよく、あるいは、Y−A部分に対応する分子末端に炭素−炭素不飽和結合を有する化合物を付加する、またはこれで置換することにより、製造することもできる。当業者であれば、化合物の構造に応じて、適当な反応およびその反応条件を選択することができる。
【0065】
式(B1)および(B2):
【化9】
【0066】
上記式(B1)および(B2)中、Rf、PFPE、YおよびAは、上記式(A1)および(A2)に関する記載と同意義である。
【0067】
上記式中、Xは、それぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表す。当該Xは、式(B1)および(B2)で表される化合物において、主に撥水性および表面滑り性等を提供するパーフルオロポリエーテル部(Rf−PFPE部または−PFPE−部)と、基材との結合能を提供する炭素−炭素不飽和結合を有する基(具体的には、A基またはA基を含む基)とを連結するリンカーと解される。従って、当該Xは、式(B1)および(B2)で表される化合物が安定に存在し得るものであれば、いずれの有機基であってもよい。
【0068】
上記式中のβは、1〜9の整数であり、β’は、1〜9の整数である。これらβおよびβ’は、Xの価数に応じて決定され、式(B1)において、βおよびβ’の和は、Xの価数の値である。例えば、Xが10価の有機基である場合、βおよびβ’の和は10であり、例えばβが9かつβ’が1、βが5かつβ’が5、またはβが1かつβ’が9となり得る。また、Xが2価の有機基である場合、βおよびβ’は1である。式(B2)において、βはXの価数の値から1を引いた値である。
【0069】
上記Xは、好ましくは2〜7価、より好ましくは2〜4価、さらに好ましくは2価の有機基である。
【0070】
上記Xの例としては、特に限定するものではないが、例えば、Xに関して記載したものと同様のものが挙げられる。
【0071】
上記式(B1)および(B2)で表される化合物は、例えば、Rf−PFPE−部分に対応するパーフルオロポリエーテル誘導体を原料として、末端に水酸基を導入した後、−Y−A部分に対応する基、例えば末端にハロゲン化アルキルを有する化合物とWilliamson反応に付すこと等により得ることができる。
【0072】
また、Y−A部分が前駆体基である化合物を合成し、この前駆体基を、当該分野で公知の方法により、Y−A部分に変換することにより、製造することができる。
【0073】
上記の変換方法としては、特に限定されないが、例えば、炭素−炭素不飽和結合を形成する公知の反応、例えば脱水反応、脱ハロゲン化水素反応等の脱離反応を利用してもよく、あるいは、Y−A部分に対応する分子末端に炭素−炭素不飽和結合を有する化合物を付加する、またはこれで置換することにより、製造することもできる。当業者であれば、化合物の構造に応じて、適当な反応およびその反応条件を選択することができる。
【0074】
式(C1)および(C2):
【化10】
【0075】
上記式(C1)および(C2)中、RfおよびPFPEは、上記式(A1)および(A2)に関する記載と同意義である。
【0076】
上記式中、Xは、それぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表す。当該Xは、式(C1)および(C2)で表される化合物において、主に撥水性および表面滑り性等を提供するパーフルオロポリエーテル部(Rf−PFPE部または−PFPE−部)と、基材との結合能を提供する炭素−炭素不飽和結合を有する基(具体的には、A基またはA基を含む基(−SiR基))とを連結するリンカーと解される。従って、当該Xは、式(C1)および(C2)で表される化合物が安定に存在し得るものであれば、いずれの有機基であってもよい。
【0077】
上記式中のγは、1〜9の整数であり、γ’は、1〜9の整数である。これらγおよびγ’は、Xの価数に応じて決定され、式(C1)において、γおよびγ’の和は、Xの価数の値である。例えば、Xが10価の有機基である場合、γおよびγ’の和は10であり、例えばγが9かつγ’が1、γが5かつβ’が5、またはγが1かつγ’が9となり得る。また、Xが2価の有機基である場合、γおよびγ’は1である。式(C2)において、γはXの価数の値から1を引いた値である。
【0078】
上記Xは、好ましくは2〜7価、より好ましくは2〜4価、さらに好ましくは2価の有機基である。
【0079】
上記Xの例としては、特に限定するものではないが、例えば、Xに関して記載したものと同様のものが挙げられる。
【0080】
上記式中、Rは、各出現においてそれぞれ独立して、−Z−SiR71727374を表す。
【0081】
式中、Zは、各出現においてそれぞれ独立して、酸素原子または2価の有機基を表す。
【0082】
上記Zは、好ましくは、2価の有機基であり、式(C1)または式(C2)における分子主鎖の末端のSi原子(Rが結合しているSi原子)とシロキサン結合を形成するものを含まない。
【0083】
上記Zは、好ましくは、C1−6アルキレン基、−(CH−O−(CH−(式中、gは、0〜6の整数、例えば1〜6の整数であり、hは、0〜6の整数、例えば1〜6の整数である)または、−フェニレン−(CH−(式中、iは、0〜6の整数である)であり、より好ましくはC1−3アルキレン基である。これらの基は、例えば、フッ素原子、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、およびC2−6アルキニル基から選択される1個またはそれ以上の置換基により置換されていてもよい。
【0084】
式中、R71は、各出現においてそれぞれ独立して、Ra’を表す。Ra’は、Rと同意義である。
【0085】
中、Z基を介して直鎖状に連結されるSiは最大で5個である。即ち、上記Rにおいて、R71が少なくとも1つ存在する場合、R中にZ基を介して直鎖状に連結されるSi原子が2個以上存在するが、かかるZ基を介して直鎖状に連結されるSi原子の数は最大で5個である。なお、「R中のZ基を介して直鎖状に連結されるSi原子の数」とは、R中において直鎖状に連結される−Z−Si−の繰り返し数と等しくなる。
【0086】
例えば、下記にR中においてZ基を介してSi原子が連結された一例を示す。
【化11】
【0087】
上記式において、*は、主鎖のSiに結合する部位を意味し、…は、ZSi以外の所定の基が結合していること、即ち、Si原子の3本の結合手がすべて…である場合、ZSiの繰り返しの終了箇所を意味する。また、Siの右肩の数字は、*から数えたZ基を介して直鎖状に連結されたSiの出現数を意味する。即ち、SiでZSi繰り返しが終了している鎖は「R中のZ基を介して直鎖状に連結されるSi原子の数」が2個であり、同様に、Si、SiおよびSiでZSi繰り返しが終了している鎖は、それぞれ、「R中のZ基を介して直鎖状に連結されるSi原子の数」が3、4および5個である。なお、上記の式から明らかなように、R中には、ZSi鎖が複数存在するが、これらはすべて同じ長さである必要はなく、それぞれ任意の長さであってもよい。
【0088】
好ましい態様において、下記に示すように、「R中のZ基を介して直鎖状に連結されるSi原子の数」は、すべての鎖において、1個(左式)または2個(右式)である。
【化12】
【0089】
一の態様において、R中のZ基を介して直鎖状に連結されるSi原子の数は1個または2個、好ましくは1個である。
【0090】
式中、R72は、各出現においてそれぞれ独立して、−X−Y−Aを表す。YおよびAは、上記と同意義である。
【0091】
上記Xは、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または2価の有機基である。Xは、好ましくは、単結合、C1−6アルキレン基、−(CH−O−(CH−(式中、gは、1〜6の整数であり、hは、1〜6の整数である)または、−フェニレン−(CH−(式中、iは、0〜6の整数である)であり、より好ましくは単結合またはC1−3アルキレン基である。これらの基は、例えば、フッ素原子、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、およびC2−6アルキニル基から選択される1個またはそれ以上の置換基により置換されていてもよい。
【0092】
上記R72は、好ましくは、−CH−CH=CHである。
【0093】
式中、R73は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表す。
【0094】
上記「加水分解可能な基」とは、本明細書において用いられる場合、加水分解反応を受け得る基を意味する。加水分解可能な基の例としては、−OR、−OCOR、−O−N=C(R)、−N(R)、−NHR、ハロゲン(これら式中、Rは、置換または非置換の炭素数1〜4のアルキル基を示す)などが挙げられ、好ましくは−OR(アルコキシ基)である。Rの例には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基などの非置換アルキル基;クロロメチル基などの置換アルキル基が含まれる。それらの中でも、アルキル基、特に非置換アルキル基が好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましい。水酸基は、特に限定されないが、加水分解可能な基が加水分解して生じたものであってよい。
【0095】
好ましくは、R73は、−OR(式中、Rは、置換または非置換のC1−3アルキル基、より好ましくはメチル基を表す)である。
【0096】
式中、R74は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表す。該低級アルキル基は、好ましくは炭素数1〜20のアルキル基、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基、さらに好ましくはメチル基である。
【0097】
式中、pは、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;qは、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;rは、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;sは、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数である。ただし、p+q+r+s(p、q、rおよびsの合計)は、3である。
【0098】
好ましい態様において、R中の末端のR’(R’が存在しない場合、R)において、上記qは、好ましくは2以上、例えば2または3であり、より好ましくは3である。
【0099】
上記式中、Rは、各出現においてそれぞれ独立して、−X−Y−Aを表す。X、YおよびAは、上記と同意義である。Rは、好ましくは、−CH−CH=CHである。
【0100】
上記式中、Rは、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表す。
【0101】
上記Rは、好ましくは、水酸基、−OR、−OCOR、−O−N=C(R)、−N(R)、−NHR、ハロゲン(これら式中、Rは、置換または非置換の炭素数1〜4のアルキル基を示す)であり、好ましくは−ORである。Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基などの非置換アルキル基;クロロメチル基などの置換アルキル基が含まれる。それらの中でも、アルキル基、特に非置換アルキル基が好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましい。水酸基は、特に限定されないが、加水分解可能な基が加水分解して生じたものであってよい。より好ましくは、Rは、−OR(式中、Rは、置換または非置換のC1−3アルキル基、より好ましくはメチル基を表す)である。
【0102】
上記式中、Rは、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表す。該低級アルキル基は、好ましくは炭素数1〜20のアルキル基、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基、さらに好ましくはメチル基である。
【0103】
式中、kは、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;lは、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;mは、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;nは、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数である。ただし、k+l+m+n(k、l、mおよびnの合計)は、3である。
【0104】
上記式(C1)および(C2)において、−(SiRには、少なくとも1つのY−A基が存在する。
【0105】
上記式(C1)および(C2)で表される化合物は、例えば、Rf−PFPE−部分に対応するパーフルオロポリエーテル誘導体に、ヒドロシリル化等を利用して、−SiHal基(Halはハロゲン)を導入し、次いで、−Y−A部分に対応するグリニャール試薬、例えばHal−Mg−CH−CH=CH等と反応させることにより得ることができる。
【0106】
また、Y−A部分が前駆体基である化合物を合成し、この前駆体基を、当該分野で公知の方法により、Y−A部分に変換することにより、製造することができる。
【0107】
上記の変換方法としては、特に限定されないが、例えば、炭素−炭素不飽和結合を形成する公知の反応、例えば脱水反応、脱ハロゲン化水素反応等の脱離反応を利用してもよく、あるいは、Y−A部分に対応する分子末端に炭素−炭素不飽和結合を有する化合物を付加する、またはこれで置換することにより、製造することもできる。当業者であれば、化合物の構造に応じて、適当な反応およびその反応条件を選択することができる。
【0108】
式(D1)および(D2):
【化13】
【0109】
上記式(D1)および(D2)中、YおよびAは、上記式(A1)および(A2)に関する記載と同意義である。
【0110】
上記式中、Xは、それぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表す。当該Xは、式(D1)および(D2)で表される化合物において、主に撥水性等を提供するフルオロアルキル部(R91−Rf’−または−Rf’−部)と、基材との結合能を提供する炭素−炭素不飽和結合を有する基(具体的には、A基またはA基を含む基)とを連結するリンカーと解される。従って、当該Xは、式(D1)および(D2)で表される化合物が安定に存在し得るものであれば、いずれの有機基であってもよい。
【0111】
上記式中のδは、1〜9の整数であり、Xの価数に応じて決定される。例えば、Xが10価の有機基である場合、δは9であり、Xが2価の有機基である場合、δは1である。
【0112】
上記式中のδは、1〜9の整数であり、δ’は、1〜9の整数である。これらδおよびδ’は、Xの価数に応じて決定され、式(D1)において、δおよびδ’の和は、Xの価数の値である。例えば、Xが10価の有機基である場合、δおよびδ’の和は10であり、例えばδが9かつδ’が1、δが5かつβ’が5、またはδが1かつδ’が9となり得る。また、Xが2価の有機基である場合、δおよびδ’は1である。式(D2)において、δはXの価数の値から1を引いた値である。
【0113】
上記Xは、好ましくは2〜7価、より好ましくは2〜4価、さらに好ましくは2価の有機基である。
【0114】
上記Xの例としては、特に限定するものではないが、例えば、Xに関して記載したものと同様のものが挙げられる。
【0115】
上記式中、R91は、フッ素原子、−CHFまたは−CFを表し、好ましくはフッ素原子または−CFである。
【0116】
Rf’は、炭素数1〜20のパーフルオロアルキレン基を表す。Rf’は、好ましくは炭素数1〜12、より好ましくは炭素数1〜6、さらに好ましくは炭素数3〜6であることが好ましい。具体的なRf’の例としては、−CF−、−CFCF−、−CFCFCF−、−CF(CF)−、−CFCFCFCF−、−CFCF(CF)−、−C(CF)−、−(CFCF−、−(CFCF(CF)−、−CFC(CF)−、−CF(CF)CFCFCF−、−(CFCF−、−(CFCF(CF、−(CFCF(CF、−C17が挙げられ、中でも、直鎖の炭素数3〜6のパーフルオロアルキレン、例えば、−CFCFCFCF−、−CFCFCF−等が好ましい。
【0117】
上記式(D1)および(D2)で表される化合物は、例えば、Rf−PFPE−部分に対応するパーフルオロポリエーテル誘導体を原料として、末端にヨウ素を導入し、次いで、脱ハロゲン化水素反応に付すこと等により得ることができる。
【0118】
また、Y−A部分が前駆体基である化合物を合成し、この前駆体基を、当該分野で公知の方法により、Y−A部分に変換することにより、製造することができる。
【0119】
上記の変換方法としては、特に限定されないが、例えば、炭素−炭素不飽和結合を形成する公知の反応、例えば脱水反応、脱ハロゲン化水素反応等の脱離反応を利用してもよく、あるいは、Y−A部分に対応する分子末端に炭素−炭素不飽和結合を有する化合物を付加する、またはこれで置換することにより、製造することもできる。当業者であれば、化合物の構造に応じて、適当な反応およびその反応条件を選択することができる。
【0120】
本発明の表面処理剤は、溶媒で希釈されていてもよい。このような溶媒としては、特に限定するものではないが、例えば、パーフルオロヘキサン、CFCFCHCl、CFCHCFCH、CFCHFCHFC、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロオクタン、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタン(ゼオローラH(商品名)等)、COCH、COC、CFCHOCFCHF、C13CH=CH、キシレンヘキサフルオリド、パーフルオロベンゼン、メチルペンタデカフルオロヘプチルケトン、トリフルオロエタノール、ペンタフルオロプロパノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、HCFCFCHOH、メチルトリフルオロメタンスルホネート、トリフルオロ酢酸およびCFO(CFCFO)(CFO)CFCF[式中、mおよびnは、それぞれ独立して0以上1000以下の整数であり、mまたはnを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意であり、但しmおよびnの和は1以上である。]、1,1−ジクロロ−2,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン、1,2−ジクロロ−1,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン、1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロ−1−プロペン、1,1−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロ−1−プロペン、1,1,2−トリクロロ―3,3,3−トリフルオロ−1−プロペン、1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテンからなる群から選択される溶媒が挙げられる。これらの溶媒は、単独で、または、2種以上の混合物として用いることができる。
【0121】
本発明の表面処理剤は、分子末端に炭素−炭素不飽和結合を有する含フッ素化合物に加え、他の成分を含んでいてもよい。かかる他の成分としては、特に限定されるものではないが、例えば、含フッ素オイルとして理解され得る(非反応性の)フルオロポリエーテル化合物、好ましくはパーフルオロ(ポリ)エーテル化合物(以下、「含フッ素オイル」と言う)、シリコーンオイルとして理解され得る(非反応性の)シリコーン化合物(以下、「シリコーンオイル」と言う)、触媒などが挙げられる。
【0122】
上記含フッ素オイルとしては、特に限定されるものではないが、例えば、以下の一般式(3)で表される化合物(パーフルオロ(ポリ)エーテル化合物)が挙げられる。
Rf−(OCa’−(OCb’−(OCc’−(OCFd’−Rf ・・・(3)
式中、Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよいC1−16のアルキル基(好ましくは、C1―16のパーフルオロアルキル基)を表し、Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよいC1−16のアルキル基(好ましくは、C1−16のパーフルオロアルキル基)、フッ素原子または水素原子を表し、RfおよびRfは、より好ましくは、それぞれ独立して、C1−3のパーフルオロアルキル基である。
a’、b’、c’およびd’は、ポリマーの主骨格を構成するパーフルオロ(ポリ)エーテルの4種の繰り返し単位数をそれぞれ表し、互いに独立して0以上300以下の整数であって、a’、b’、c’およびd’の和は少なくとも1、好ましくは1〜300、より好ましくは20〜300である。添字a’、b’、c’またはd’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。これら繰り返し単位のうち、−(OC)−は、−(OCFCFCFCF)−、−(OCF(CF)CFCF)−、−(OCFCF(CF)CF)−、−(OCFCFCF(CF))−、−(OC(CFCF)−、−(OCFC(CF)−、−(OCF(CF)CF(CF))−、−(OCF(C)CF)−および−(OCFCF(C))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCFCFCFCF)−である。−(OC)−は、−(OCFCFCF)−、−(OCF(CF)CF)−および−(OCFCF(CF))−のいずれであってもよく、好ましくは−(OCFCFCF)−である。−(OC)−は、−(OCFCF)−および−(OCF(CF))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCFCF)−である。
【0123】
上記一般式(3)で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル化合物の例として、以下の一般式(3a)および(3b)のいずれかで示される化合物(1種または2種以上の混合物であってよい)が挙げられる。
Rf−(OCFCFCFb’’−Rf ・・・(3a)
Rf−(OCFCFCFCFa’’−(OCFCFCFb’’−(OCFCFc’’−(OCFd’’−Rf ・・・(3b)
これら式中、RfおよびRfは上記の通りであり;式(3a)において、b’’は1以上100以下の整数であり;式(3b)において、a’’およびb’’は、それぞれ独立して1以上30以下の整数であり、c’’およびd’’はそれぞれ独立して1以上300以下の整数である。添字a’’、b’’、c’’、d’’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。
【0124】
上記含フッ素オイルは、1,000〜30,000の平均分子量を有していてよい。これにより、高い表面滑り性を得ることができる。
【0125】
本発明の表面処理剤中、含フッ素オイルは、上記分子末端に炭素−炭素不飽和結合を有する含フッ素化合物の合計100質量部(それぞれ、2種以上の場合にはこれらの合計、以下も同様)に対して、例えば0〜500質量部、好ましくは0〜400質量部、より好ましくは5〜300質量部で含まれ得る。
【0126】
一般式(3a)で示される化合物および一般式(3b)で示される化合物は、それぞれ単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。一般式(3a)で示される化合物よりも、一般式(3b)で示される化合物を用いるほうが、より高い表面滑り性が得られるので好ましい。これらを組み合わせて用いる場合、一般式(3a)で表される化合物と、一般式(3b)で表される化合物との質量比は、1:1〜1:30が好ましく、1:1〜1:10がより好ましい。かかる質量比によれば、表面滑り性と摩擦耐久性のバランスに優れた表面処理層を得ることができる。
【0127】
一の態様において、含フッ素オイルは、一般式(3b)で表される1種またはそれ以上の化合物を含む。かかる態様において、表面処理剤中の分子末端に炭素−炭素不飽和結合を有する含フッ素化合物の合計と、式(3b)で表される化合物との質量比は、4:1〜1:4であることが好ましい。
【0128】
好ましい態様において、真空蒸着法により表面処理層を形成する場合には、分子末端に炭素−炭素不飽和結合を有する含フッ素化合物の平均分子量よりも、含フッ素オイルの平均分子量を大きくしてもよい。このような平均分子量とすることにより、より優れた摩擦耐久性と表面滑り性を得ることができる。
【0129】
また、別の観点から、含フッ素オイルは、一般式Rf−F(式中、RfはC5−16パーフルオロアルキル基である。)で表される化合物であってよい。また、クロロトリフルオロエチレンオリゴマーであってもよい。Rf−Fで表される化合物およびクロロトリフルオロエチレンオリゴマーは、末端がC1−16パーフルオロアルキル基である上記分子末端に炭素−炭素不飽和結合を有する含フッ素化合物で表される化合物と高い親和性が得られる点で好ましい。
【0130】
含フッ素オイルは、表面処理層の表面滑り性を向上させるのに寄与する。
【0131】
上記シリコーンオイルとしては、例えばシロキサン結合が2,000以下の直鎖状または環状のシリコーンオイルを用い得る。直鎖状のシリコーンオイルは、いわゆるストレートシリコーンオイルおよび変性シリコーンオイルであってよい。ストレートシリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイルが挙げられる。変性シリコーンオイルとしては、ストレートシリコーンオイルを、アルキル、アラルキル、ポリエーテル、高級脂肪酸エステル、フルオロアルキル、アミノ、エポキシ、カルボキシル、アルコールなどにより変性したものが挙げられる。環状のシリコーンオイルは、例えば環状ジメチルシロキサンオイルなどが挙げられる。
【0132】
本発明の表面処理剤中、かかるシリコーンオイルは、分子末端に炭素−炭素不飽和結合を有する含フッ素化合物の合計100質量部(2種以上の場合にはこれらの合計、以下も同様)に対して、例えば0〜300質量部、好ましくは0〜200質量部で含まれ得る。
【0133】
シリコーンオイルは、表面処理層の表面滑り性を向上させるのに寄与する。
【0134】
上記触媒としては、酸(例えば酢酸、トリフルオロ酢酸等)、塩基(例えばアンモニア、トリエチルアミン、ジエチルアミン等)、遷移金属(例えばTi、Ni、Sn等)等が挙げられる。
【0135】
触媒は、分子末端に炭素−炭素不飽和結合を有する含フッ素化合物が加水分解可能な基を有する場合、その加水分解および脱水縮合を促進し、表面処理層の形成を促進する。
【0136】
本発明の表面処理剤は、多孔質物質、例えば多孔質のセラミック材料、金属繊維、例えばスチールウールを綿状に固めたものに含浸させて、ペレットとすることができる。当該ペレットは、例えば、真空蒸着に用いることができる。
【0137】
上記した本発明の表面処理剤を用いて、基材の表面に表面処理層を形成することにより、高いアルカリ耐性を有し、それに加えて、使用する表面処理剤の組成にもよるが、撥水性、撥油性、防汚性(例えば指紋等の汚れの付着を防止する)、防水性(電子部品等への水の浸入を防止する)、表面滑り性(または潤滑性、例えば指紋等の汚れの拭き取り性や、指に対する優れた触感)、紫外線耐性などを有しする表面処理層を得ることができる。
【0138】
本発明に使用可能な基材は、例えば、無機材料(例えば、ガラス、サファイアガラス)、樹脂(天然または合成樹脂、例えば一般的なプラスチック材料、具体的にはアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂であってよく、板状、フィルム、その他の形態であってよい)、金属(アルミニウム、銅、鉄等の金属単体または合金等の複合体であってよい)、セラミックス、半導体(シリコン、ゲルマニウム等)、繊維(織物、不織布等)、毛皮、皮革、木材、陶磁器、石材等、建築部材等、任意の適切な材料で構成され得る。
【0139】
例えば、製造すべき物品が光学部材である場合、基材の表面を構成する材料は、光学部材用材料、例えばガラスまたは透明プラスチックなどであってよい。また、製造すべき物品が光学部材である場合、基材の表面(例えば、最外層)に何らかの層(または膜)、例えばハードコート層や反射防止層などを有していてもよい。反射防止層には、単層反射防止層および多層反射防止層のいずれを使用してもよい。反射防止層に使用可能な無機物の例としては、SiO、SiO、ZrO、TiO、TiO、Ti、Ti、Al、Ta、CeO、MgO、Y、SnO、MgF、WOなどが挙げられる。これらの無機物は、単独で、またはこれらの2種以上を組み合わせて(例えば混合物として)使用してもよい。多層反射防止層とする場合、その最外層にはSiOおよび/またはSiOを用いることが好ましい。製造すべき物品が、タッチパネル用の光学ガラス部品である場合、透明電極、例えば酸化インジウムスズ(ITO)や酸化インジウム亜鉛などを用いた薄膜を、基材(ガラス)の表面の一部に有していてもよい。また、基材は、その具体的仕様等に応じて、絶縁層、粘着層、保護層、装飾枠層(I−CON)、霧化膜層、ハードコーティング膜層、偏光フィルム、相位差フィルム、および液晶表示モジュールなどを有していてもよい。
【0140】
好ましい基材は、ガラスまたはサファイアガラスである。ガラスとしては、ソーダライムガラス、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、クリスタルガラス、石英ガラスが好ましく、化学強化したソーダライムガラス、化学強化したアルカリアルミノケイ酸塩ガラス、および化学結合したホウ珪酸ガラスが特に好ましい。
【0141】
基材の形状は特に限定されない。また、表面処理層を形成すべき基材の表面領域は、基材表面の少なくとも一部であればよく、製造すべき物品の用途および具体的仕様等に応じて適宜決定され得る。
【0142】
好ましい態様において、基材は、その表面にSi−H結合またはC−H結合を有する。
【0143】
上記Si−H結合またはC−H結合は、上記基材の表面を前処理することにより導入されたものであってもよい。例えば、Si−H結合またはC−H結合は、基材表面をプラズマ処理することにより、基材表面に導入することができる。
【0144】
また、上記Si−H結合またはC−H結合は、基材表面にSi−H結合またはC−H結合を有する層を形成することにより導入されたものであってもよい。例えば、基材表面に、二酸化ケイ素の層を形成し、上記のようにプラズマ処理することにより、あるいは、ダイヤモンドライクカーボン層を形成することにより、基材表面にSi−H結合またはC−H結合を有する層を形成することができる。
【0145】
一の態様において、基材は、その表面に、上記Si−H結合またはC−H結合に加え、水酸基を有するものであってもよい。このような基材を用いることにより、例えば、分子末端の炭素−炭素不飽和結合に加え、加水分解可能な基が結合したSi原子を含む表面処理剤を用いた場合に、より強固に基材と表面処理層を結合させることができる。
【0146】
上記のような基材の表面に、表面処理層を形成する方法としては、例えば、下記するような方法が挙げられる。
【0147】
表面処理層の形成は、上記の表面処理剤を基材の表面に対して、該表面を被覆するように適用することによって実施できる。被覆方法は、特に限定されない。例えば、湿潤被覆法および乾燥被覆法を使用できる。
【0148】
湿潤被覆法の例としては、浸漬コーティング、スピンコーティング、フローコーティング、スプレーコーティング、ロールコーティング、グラビアコーティングおよび類似の方法が挙げられる。
【0149】
乾燥被覆法の例としては、蒸着(通常、真空蒸着)、スパッタリング、CVDおよび類似の方法が挙げられる。蒸着法(通常、真空蒸着法)の具体例としては、抵抗加熱、電子ビーム、マイクロ波等を用いた高周波加熱、イオンビームおよび類似の方法が挙げられる。CVD方法の具体例としては、プラズマ−CVD、光学CVD、熱CVDおよび類似の方法が挙げられる。
【0150】
更に、常圧プラズマ法による被覆も可能である。
【0151】
湿潤被覆法を使用する場合、本発明の表面処理剤は、溶媒で希釈されてから基材表面に適用され得る。本発明の表面処理剤の安定性および溶媒の揮発性の観点から、次の溶媒が好ましく使用される:C5−12のパーフルオロ脂肪族炭化水素(例えば、パーフルオロヘキサン、パーフルオロメチルシクロヘキサンおよびパーフルオロ−1,3−ジメチルシクロヘキサン);ポリフルオロ芳香族炭化水素(例えば、ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン);ポリフルオロ脂肪族炭化水素(例えば、C13CHCH(例えば、旭硝子株式会社製のアサヒクリン(登録商標)AC−6000)、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタン(例えば、日本ゼオン株式会社製のゼオローラ(登録商標)H);ハイドロフルオロカーボン(HFC)(例えば、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC−365mfc));ハイドロクロロフルオロカーボン(例えば、HCFC−225(アサヒクリン(登録商標)AK225));ヒドロフルオロエーテル(HFE)(例えば、パーフルオロプロピルメチルエーテル(COCH)(例えば、住友スリーエム株式会社製のNovec(商標名)7000)、パーフルオロブチルメチルエーテル(COCH)(例えば、住友スリーエム株式会社製のNovec(商標名)7100)、パーフルオロブチルエチルエーテル(COC)(例えば、住友スリーエム株式会社製のNovec(商標名)7200)、パーフルオロヘキシルメチルエーテル(CCF(OCH)C)(例えば、住友スリーエム株式会社製のNovec(商標名)7300)などのアルキルパーフルオロアルキルエーテル(パーフルオロアルキル基およびアルキル基は直鎖または分枝状であってよい)、あるいはCFCHOCFCHF(例えば、旭硝子株式会社製のアサヒクリン(登録商標)AE−3000))、1,2−ジクロロ−1,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン(例えば、三井・デュポンフロロケミカル社製のバートレル(登録商標)サイオン)など。これらの溶媒は、単独で、または、2種以上を組み合わせて混合物として用いることができる。さらに、例えば、分子末端に炭素−炭素不飽和結合を有する含フッ素化合物の溶解性を調整する等のために、別の溶媒と混合することもできる。
【0152】
乾燥被覆法を使用する場合、本発明の表面処理剤は、そのまま乾燥被覆法に付してもよく、または、上記した溶媒で希釈してから乾燥被覆法に付してもよい。
【0153】
一の態様において、膜形成は、膜中で本発明の表面処理剤が、基材との反応、例えば基材のSi−H結合またはC−H結合との反応のための触媒と共に存在するように実施してもよい。簡便には、湿潤被覆法による場合、本発明の表面処理剤を溶媒で希釈した後、基材表面に適用する直前に、本発明の表面処理剤の希釈液に触媒を添加してよい。乾燥被覆法による場合には、触媒添加した本発明の表面処理剤をそのまま蒸着(通常、真空蒸着)処理するか、あるいは多孔体に、触媒添加した本発明の表面処理剤を含浸させたペレット状物質を用いて蒸着(通常、真空蒸着)処理をしてもよい。また、基材表面に表面処理剤を提供する前に、基材表面に触媒を存在させてもよい。
【0154】
触媒は、特に限定されないが、例えば金属触媒、具体的には白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウムを用いることができ、特に白金が好ましい。
【0155】
必要に応じて、膜を後処理してもよい。後処理を行うことにより、より表面処理層と基材との結合を強固にすることができ、耐久性が向上する。この後処理は、特に限定されないが、例えば、熱処理であってもよい。当該熱処理の温度は、特に限定されないが、60℃以上、好ましくは100℃以上であって、分子末端に炭素−炭素不飽和結合を有する含フッ素化合物が分解しない温度、例えば250℃以下、好ましくは180℃以下である。当該熱処理は、好ましくは不活性雰囲気下、より好ましくは真空下で行われる。
【0156】
好ましい態様において、基材の表面を表面処理剤で処理する前に、基材に表面に凹部を形成してもよい。基材の表面に凹部を形成することにより、基材の表面を表面処理剤で処理する際に、かかる凹部に表面処理剤が充填される。かかる凹部に充填された表面処理剤は、使用による摩耗等により表面処理層が消耗した場合に、この消耗した表面処理剤を補うように作用するため、表面処理剤の機能をより長期に亘り持続させることができる。
【0157】
上記凹部の形状、寸法および数量は特に限定されないが、凹部形成後、表面処理剤を適用する前の基材の表面状態が、基材の表面のRmax(最大高さ)の値が、Ra(中心線平均粗さ)の約10〜50倍、好ましくは20〜40倍となる状態であることが好ましい。尚、上記RaおよびRmaxは、JIS B0601:1982に規定されている。
【0158】
さらに、基材に透明性が用いられる場合には、Raの値は、好ましくは60nm以下、より好ましくは40nm以下であることが好ましい。Raの値を可視光波長の約1/10以下とすることにより、基材の透明度を確保することができる。
【0159】
基材表面に凹部を形成する方法は、特に限定されず、化学的方法または物理的方法のいずれを用いてもよく、具体的には、エッチング、スパッタリング等を用いることができる。
【0160】
好ましい態様において、表面処理層は、基材に対し、その表面に、使用する表面処理剤中の化合物との結合サイトを形成する前処理を行い、前処理された基材に、表面処理剤を供給して基材の表面に表面処理層を形成することにより形成される。
【0161】
従って、本発明は、基材の表面に表面処理層を形成する方法であって、
前記基材に対し、その表面に、炭素−炭素不飽和結合との結合サイトを形成する前処理を行う工程と、
前記前処理後の基材に、本発明の表面処理剤を供給して基材の表面に表面処理層を形成する工程と
を含む、表面処理層の形成方法をも提供する。
【0162】
また、本発明は、上記方法を実施するための装置、即ち、基材の表面に表面処理層を形成する表面処理層形成装置であって、
前記基材に対し、その表面に、分子末端に炭素−炭素不飽和結合を有する含フッ素化合物との結合サイトを形成する前処理を行う前処理部と、
前処理された基材に、本発明の表面処理剤を供給して基材の表面に表面処理層を形成する表面処理層形成部と
を有することを特徴とする表面処理層形成装置をも提供する。
【0163】
以下、図面を参照しながら、上記の本発明の表面処理層の形成方法および表面処理層の形成装置について説明する。
【0164】
図1は、基板上に表面処理層を形成するための本発明の表面処理層形成装置の一態様を示すブロック図である。図2は、前処理部200の一態様を示す断面図である。
【0165】
図1に示すように、表面処理層形成装置100は、基板の前処理を行う前処理部200と、前処理した後の基板上に表面処理層を形成するための表面処理層形成部300と、前処理部200および表面処理層形成部300に対する基板の搬送を行う基板搬送部400と、基板の搬入出を行う基板搬入出部500と、表面処理層形成装置100の各構成部を制御する制御部600とを有する。この表面処理層形成装置100は、マルチチャンバ型の装置として構成される。基板搬送部400は、真空に保持される搬送室と、搬送室内に設けられた基板搬送機構とを有している。基板搬入出部500は、基板保持部とロードロック室とを有し、基板保持部の基板をロードロック室へ搬送し、ロードロック室を介して基板の搬入出を行う。
【0166】
前処理部200は、基板の表面に、分子末端に炭素−炭素不飽和結合を有する含フッ素化合物との結合サイトを形成する前処理を行うものである。好ましい態様においては、表面処理層を形成する基板の表面状態が、使用する表面処理剤により高密度の表面処理層を形成できる状態となるように、基板の表面処理を行うものであり、本態様では基板220の表面部分のOとHの量を制御するプラズマ処理装置として構成される。
【0167】
この前処理部200は、チャンバ201と、チャンバ201内で基板220を保持する基板ホルダ202と、プラズマを生成してチャンバ201内にプラズマを供給するプラズマ生成部203と、チャンバ201内を真空排気するための排気機構204とを有する。
【0168】
チャンバ201の側壁には、搬送室に連通する、基板220を搬入出するための搬入出口211が設けられており、搬入出口211はゲートバルブ212により開閉可能となっている。
【0169】
プラズマ生成部203は、水素ガスを含む処理ガスが供給され、マイクロ波プラズマ、誘導結合プラズマ、容量結合プラズマ等の適宜の手法で水素を含むプラズマを生成してチャンバ201内に供給する。
【0170】
排気機構204は、チャンバ201の下部に接続された排気管213と、排気管213に設けられた圧力調整バルブ214と、排気管213を介してチャンバ201内を排気する真空ポンプ215とを有している。
【0171】
本態様においては、基板220を基板ホルダ202上に保持させ、チャンバ201内を所定の真空圧力に保持し、その状態でプラズマ生成部203から水素を含むプラズマをチャンバ201内に供給することにより、基板220の表面がプラズマにより処理される。水素を含むプラズマとしては、例えば、水素および希ガス(例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、またはキセノン)を含むプラズマあるいは水素単独のプラズマが挙げられる。
【0172】
次いで、前処理部200により表面処理された基板220を有機分子膜形成部300に移動させ、SAM材料ガスを基板220の近傍に供給することにより、基板220の表面に表面処理層としてSAMを形成する。
【0173】
制御部600は、装置100の各構成部を制御するマイクロプロセッサ(コンピュータ)を備えたコントローラを有している。コントローラは、例えば前処理部200の出力、ガス流量、真空度、表面処理層形成部300のキャリアガスの流量、真空度等を制御するようになっている。コントローラには、オペレータが装置100を管理するためにコマンドの入力操作等を行うキーボードや、装置100の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等を有するユーザーインターフェースが接続されている。また、コントローラには、装置100で実行される表面処理における所定の操作をコントローラの制御にて実現するための制御プログラムや処理条件に応じて装置100の各構成部に所定の処理を実行させるための制御プログラムである処理レシピや、各種データベース等が格納された記憶部が接続されている。処理レシピは記憶部の中の適宜の記憶媒体に記憶されている。そして、必要に応じて、任意の処理レシピを記憶部から呼び出してコントローラに実行させることで、コントローラの制御下で、装置100での所望の処理が行われる。
【0174】
本発明の表面処理層の形成方法および表面処理形成装置において用いられる基材は、特に限定されないが、少なくとも表面部分がSiとOとのネットワーク構造を有する基材が好ましい。かかる基材としては、例えばガラスが挙げられる。このような基材を用いることにより、前処理により基材表面にS−H結合を形成するのが容易になる。
【0175】
従って、好ましい態様において、本発明は:
少なくとも表面部分がSiとOとのネットワーク構造を有する基材の表面に表面処理層を形成する方法であって、
前記基材の表面にSi−H結合を形成する前処理を行う工程と、
前処理された基材に、分子末端に炭素−炭素不飽和結合を有する化合物を含む表面処理剤を供給して基材の表面に表面処理層を形成する工程と
を含むことを特徴とする、表面処理層の形成方法;ならびに
基材および該基材の表面を被覆する表面処理層を含む物品の製造方法であって、
本発明の表面処理剤を基材の表面に接触させて、表面処理剤に含まれる分子末端に炭素−炭素不飽和結合を有する含フッ素化合物と、基材表面のSi−H部またはC−H部とを反応させることにより、該基材の表面に表面処理層を形成する
ことを含む、製造方法をも提供する。
【0176】
本発明の表面処理剤は、分子末端に炭素−炭素不飽和結合を有する含フッ素化合物を含んでおり、基材の表面にこの炭素−炭素不飽和結合との結合サイトが存在すれば、上記のような表面処理層を形成することができる。従って、前処理としては、基材の表面にSi−H結合を形成することができればよく、例えば、下記する水素原子処理または水素雰囲気中での加熱処理を、前処置として行ってもよい。
【0177】
・水素原子処理
超高真空(1×10−6Pa以下)の真空チャンバに水素ガスを1×10−4Pa程度供給し、熱電子あるいはプラズマで水素分子を水素原子に解離させて水素原子を基板表面に吸着させる。
【0178】
・水素雰囲気中の加熱処理
真空引きの際に、水素をキャリアガスとして流すことでチャンバの大気を水素ガスに置換して水素雰囲気の真空状態(具体的には、10Pa以下の水素雰囲気)を作成し、この雰囲気中で基板を100〜400℃程度に加熱し、水素を基板表面に吸着させる。
【0179】
上記の表面処理層の形成方法または表面処理層形成装置を用いることにより、基材の表面に、表面処理層として有機単分子膜、好ましくは自己組織化単分子膜を形成することができる。
【0180】
別の態様において、上記の前処理に代えて、基材の表面にSi−H結合またはC−H結合を有する層を形成してもよい。例えば、基材表面に、二酸化ケイ素の層を形成し、上記のようにプラズマ処理することにより、あるいは、ダイヤモンドライクカーボン層を形成することにより、基材表面にSi−H結合またはC−H結合を有する層を形成することができる。
【0181】
上記のようにして、基材の表面に、本発明の表面処理剤の膜に由来する表面処理層が形成され、本発明の物品が製造される。
【0182】
従って、本発明の物品は、基材と、該基材の表面に本発明の表面処理剤より形成された層(表面処理層)とを含む。
【0183】
また、本発明は、基材および該基材の表面を被覆する表面処理層を含む物品の製造方法であって、本発明の表面処理剤を基材の表面に接触させて、表面処理剤に含まれる分子末端に炭素−炭素不飽和結合を有する含フッ素化合物と、基材表面のSi−H部またはC−H部とを反応させることにより、該基材の表面に表面処理層を形成することを含む、製造方法をも提供する。
【0184】
上記の本発明により得られる表面処理層は、基材と、Si−C結合またはC−C結合で結合されるため、物理的な強度が高いことに加え、アルカリおよび紫外線に対して高い耐性を有する。それに加えて、本発明により得られる表面処理層は、使用する表面処理剤の組成にもよるが、撥水性、撥油性、防汚性(例えば指紋等の汚れの付着を防止する)、表面滑り性(または潤滑性、例えば指紋等の汚れの拭き取り性や、指に対する優れた触感)などを有し得、機能性薄膜として好適に利用され得る。
【0185】
即ち、本発明はさらに、前記硬化物を最外層に有する光学材料をも提供する。
【0186】
光学材料としては、後記に例示するようなディスプレイ等に関する光学材料のほか、多種多様な光学材料が好ましく挙げられる:例えば、陰極線管(CRT;例、TV、パソコンモニター)、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、無機薄膜ELドットマトリクスディスプレイ、背面投写型ディスプレイ、蛍光表示管(VFD)、電界放出ディスプレイ(FED;Field Emission Display)などのディスプレイまたはそれらのディスプレイの保護板、またはそれらの表面に反射防止膜処理を施したもの。
【0187】
本発明によって得られる表面処理層を有する物品は、特に限定されるものではないが、光学部材であり得る。光学部材の例には、次のものが挙げられる:眼鏡などのレンズ;PDP、LCDなどのディスプレイの前面保護板、反射防止板、偏光板、アンチグレア板;携帯電話、携帯情報端末などの機器のタッチパネルシート;ブルーレイ(Blu−ray(登録商標))ディスク、DVDディスク、CD−R、MOなどの光ディスクのディスク面;光ファイバー;時計の表示面など。
【0188】
また、本発明によって得られる表面処理層を有する物品は、医療機器または医療材料であってもよい。
【0189】
表面処理層の厚さは、特に限定されない。光学部材の場合、表面処理層の厚さは、1〜50nm、1〜30nm、好ましくは1〜15nmの範囲であることが、光学性能、表面滑り性、摩擦耐久性および防汚性の点から好ましい。
【0190】
以上、本発明の表面処理剤を使用して得られる物品について詳述した。なお、本発明の表面処理剤の用途、使用方法ないし物品の製造方法などは、上記で例示したものに限定されない。
【実施例】
【0191】
実施例1
・表面処理層の形成
基材としてガラスを準備し、このガラスの表面をプラズマ処理し、ガラス表面にSi−H結合を形成した。処理されたガラスの表面に、下記平均組成を有する含フッ素化合物を含む表面処理剤を用いて、下記条件での真空蒸着法により、表面処理層を形成した。

含フッ素化合物:
CFCFCFO(CFCFCFO)CFCFOCHCH=CH
(式中、nは20の整数である。)

真空蒸着条件
装置真空度:1E−5Pa
蒸着時の化合物温度:200℃
基板温度:室温(制御せず)
蒸着時間:10分
【0192】
真空蒸着後、X線光電子分光(XPS)を用いて表面処理層のC1sの起動エネルギースペクトルを観察することにより、CFx膜の形成を確認した。また、この表面処理層の水の静的接触角を、接触角測定装置(協和界面科学社製)を用いて、25℃の環境下で水5μLにて測定した。結果は110°以上であった。
【0193】
試験例1(アルカリ耐性試験)
上記で得られた表面処理層を形成したガラスの表面に、アルカリ水溶液(pH14の25wt%KOH水溶液)を滴下し、30分間静置した。その後、XPS分析を用いて表面処理層を観察した。C1s軌道のピークシフトが変わらないことから、アルカリ水溶液滴下30分後も表面処理層の化学的な変化は確認できなかった。また、上記と同様に水の静的接触角を測定した。結果は110°以上であった。
【0194】
試験例2(人工汗耐性試験)
上記で得られた表面処理層を形成したガラスの表面に、JIS L 0848「汗に対する染色堅ろう度試験方法」で規定されているアルカリ性人工汗液を滴下し、2時間静置した。その後、エリプソメーターを利用して表面処理層膜厚を測定した。人工汗液滴下前後で膜厚変化は1nm以下であり、汗によって膜の劣化は見られなかった。
【0195】
また、滴下前後の表面処理層に対してXPS分析を用いて表面を観察した。C1s軌道のピークシフトが変わらないことから、人工汗液滴下2時間後も表面処理層の化学的な変化は確認できなかった。また、上記と同様に水の静的接触角を測定した。結果は110°以上であった。
【0196】
以上の結果から、本発明の表面処理剤を用いることにより、高いアルカリ耐性および高い汗耐性を有する表面処理層を形成することができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0197】
本発明は、基材、特に光学部材の表面に、表面処理層を形成するために好適に利用され得る。
【符号の説明】
【0198】
100 … 表面処理層形成装置
200 … 前処理部
300 … 表面処理層形成部
400 … 基板搬送部
500 … 基板搬入出部
600 … 制御部
201 … チャンバ
202 … 基板ホルダ
203 … プラズマ生成部
204 … 排気機構
211 … 搬入出口
212 … ゲートバルブ
213 … 排気管
214 … 圧力調整バルブ
215 … 真空ポンプ
220 … 基板
【要約】
【課題】本発明は、より高いアルカリ耐性を有する層を形成することのできる、新規な表面処理剤の提供。
【解決手段】分子末端に炭素−炭素不飽和結合を、−Y−A(式中、Yは、単結合、酸素原子または2価の有機基を表し、Aは、−CH=CHまたは−C≡CHを表す。)で表される基として有する含フッ素化合物を含んで成る表面処理剤。
【選択図】図1
図1
図2