【実施例1】
【0018】
図3は、本発明に係るパルス生成回路の実施例1を説明するための回路構成図である。図中符号1は位相シフト回路、2は減衰器(Attenuator;アッテネータ)、3aは第1の微分器,3bは第2の微分器、4は加減算器を示している。
本発明のパルス生成回路は、制御信号によって間欠的に動作することで短パルス信号を生成するパルス生成回路である。第1の微分器3aは、入力信号101を直接的に微分してパルスの立ち上がりを捉えるものである。また、位相シフト回路1は、入力信号101の位相の変動量を位相変動量調整信号107によって調整してパルス幅を決定するものである。
【0019】
また、減衰器2は、位相シフト回路1からの信号102の振幅を利得調整信号108によって調整するものである。また、第2の微分器3bは、減衰器2からの信号103を微分してパルスの立ち下がりを捉えるものである。また、加減算器4は、第1の微分器3aからの信号104と第2の微分器3bからの信号105とを加減算して短パルス信号106を出力するものである。
【0020】
図4(a)乃至(f)は、
図3に示した本発明に係るパルス生成回路の各部のノード電圧を示す図で、
図4(a)は入力信号を示す図、
図4(b)は位相シフト回路からの信号を示す図、
図4(c)は減衰器からの信号を示す図、
図4(d)は第1の微分器からの信号を示す図、
図4(e)は第2の微分器からの信号を示す図、
図4(f)は減算器から出力される短パルス信号を示す図である。
【0021】
図4(a)に示した入力信号101の振幅はAである。
図4(b)に示した位相シフト回路1からの信号102は、位相シフト回路1の位相変動によりより短いパルスを生成することができ、入力信号101が位相シフト回路1を通過することでt1だけ遅延したことを示している。この信号102が減衰器2の入力信号になる。
また、
図4(d)に示した第1の微分器3aの信号104は、時刻t1において振幅がA×ATT(減衰率)となっている。また、
図4(c)に示した減衰器2からの信号103は、第2の微分器3bの入力がA×ATTとなるように調整される。
図4(c)に示した減衰器2の減衰率(ATT)は1以下である。
【0022】
また、
図4(e)に示した第2の微分器3bの出力信号105は、加減算器4に入力される。第1の微分器3aと第2の微分器3bとは同一の構造を有しているので、減衰器2と第2の微分器3bとの順番を入れ替えても動作に影響を与えない。また、
図4(d),(e)に示した第1の微分器13aからの信号104及びは第2の微分器13bからの信号105の傾きは、後述する
図5に示すように、容量素子C1と抵抗素子R1からなる微分器の時定数τが等しい時に、τ=R1C1によって決まる。
【0023】
また、
図4(f)に示した第1の微分器3aの出力104と第2の微分器3bの出力105との加減算を終えた出力信号106は、第1の微分器3aの信号104と比べると、加減算を終えた出力信号106のパリス幅の方が狭く、かつ立ち下がりのエッジが鋭くなっている。つまり、また、
図4(f)に示した減算器4から出力される短パルスの出力信号106は、第2の微分器13bからの信号105が立ち上がるタイミングの第1の微分器13aからの信号104の振幅と第2の微分器13bからの信号105のピーク振幅とが同じになるように減衰器2を調整することで立ち下りエッジもシャープな短パルスが得られる。
【0024】
入力信号101に繰り返し信号を用いる場合には、立ち上がり又は立ち下がりの一方をマスクする回路を前置する必要がある。マスク回路は、通常、信号パスに直列に挿入されたスイッチとそれをオン/オフする制御信号とからなる。
図5は、
図3に示した第1及び第2の微分器の具体的な回路構成図である。図中符号Vi(t)は入力電圧、i(t)は入力電流、Vc(t)はコンデンサ端子電圧、V
R(t)は抵抗端子電圧、q(t)はコンデンサの電荷を示している。
【0025】
図5においては、RとCとによる1次の微分器を示したが、LとCとによる2次の微分器でも、更に高次の微分器も用いることができる。つまり、第1及び第2の微分器3a,3bは、RC微分器であってもLC微分器であってもかまわない。この種の微分器を用いることの最大の利点は、エッジの強調機能である。これによって、スイッチング素子などを用いた一般的な短パルス発生器に比べて精度の良好な立ち上がりエッジを発生させることが可能になる。
【0026】
図5に示した微分器の時間応答は、V
R(t)=Vi(t)−Vc(t)となり、q(t)=0であるので、V
R(t)=0(t<0)、Eexp(−t/R
1C
1)(t≧0)で示される。
図6(a),(b)は、
図5に示した微分器のステップ応答を示す図で、
図6(a)は微分器のステップ入力信号、
図6(b)はそのステップ入力信号に対応する応答信号を示している。この
図6(a),(b)によると、ステップ応答は、入力の微係数に比例して立ち上がり、時定数R
1C
1を持ったエクスポネンシャル関数にしたがって減衰して0に漸近することがわかる。
【0027】
図7(a),(b)は、
図3に示した位相シフト回路の具体的な回路構成図で、
図7(a)は位相変動量調整信号がない状態の回路構成図で、
図7(b)は位相変動量調整信号がある場合の回路構成図を示している。この例では位相変動量調整信号107によって、R又はCに直列なSc,S
2Rをオン/オフさせることで位相変動量を可変としている。また、ScとC
2Bの代わりに可変容量制御回路(バラクタ)などの回路を用いてもよい。
【0028】
また、位相シフト回路1は、抵抗素子と容量素子を含む積分器(一次遅れ要素)の構成である。この場合の伝達関数は、
H(s)=V2/V1=1/(1+SC
2R
2)
で表される。
図8(a),(b)は、
図7(a),(b)に示した位相シフト回路における一次遅れ要素の利得−位相周波数特性を示す図である。
図8(a)は利得−周波数特性を示し、
図8(b)は位相−周波数特性を示している。上述した位相シフト回路は、極の周波数が1/2πR
2C
2において位相が45°遅れるという特徴を有する。
【0029】
図9(a),(b)は、
図3に示した位相シフト回路の他の例を示す具体的な回路構成図で、
図9(a)は位相変動量調整信号がない状態の回路構成図で、
図9(b)は位相変動量調整信号がある場合の回路構成図を示している。この位相シフト回路は、抵抗素子と容量素子を含むオールパスフィルタの構成である。
この例では位相変動量調整信号107によって、Cに直列なScのオン/オフを切り替えることで位相変動量を可変としている。この回路でも、
図7(b)のようにRを切り替えたり、Cを可変容量制御回路(バラクタ)に変更するなどしても同様の効果を奏する。
【0030】
図10(a),(b)は、
図9(a),(b)に示した位相シフト回路における利得−位相周波数特性を示す図である。
図10(a)は利得−周波数特性を示し、
図10(b)は位相−周波数特性を示している。
オールパスフィルタとは、
図10(a),(b)に示すように、利得−周波数特性がフラットで位相のみの変化するものの総称である。
図9(a),(b)に示した位相シフト回路にとどまらず多数の回路が存在する。
【0031】
この位相シフト回路も一次遅れ要素の回路と同様にR,Cを変化させることで任意の位相シフト量を得ることができる。
位相シフト量θは、θ=−2tan
−1(ω/2πα
0)で表される。
ω=0の時に、θ=0
ω=2πα
0の時に、θ=−90°
ω=∞の時に、θ=−180°
となる。
また、伝達関数は、
H(s)=(S−α
0)/(S+α
0) α
0=1/R
0C
0
θ=−2tan
−1(ω/2πα
0)
で表される。
【0032】
図11は、
図3に示した減衰器の具体的な回路構成図である。この減衰器2は、複数の抵抗素子Ra,Rb,Rcと複数のスイッチSa,Sb,Scを含む抵抗タップの構成である。
【0033】
この減衰器2の減衰量を遅延パルスの立ち上がりタイミングでの加減算器の入力の振幅が同じとなるように調整することで立ち下がりの鋭いパルスが得られる。このことは
図4(f)に示されている。
この場合の伝達関数は、
H(s)=V2/V1=1(Sa;閉時)=(Rc+Rb)/(Ra+Rb+Rc)(Sb;閉時)
で表される。
減衰器の利得調整信号Ca,Cb,CcとスイッチSa,Sb,Scの状態間の真理値表とそれに対応した伝達関数を以下の表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
図12(a),(b)は、加減算器としてのラットレースハイブリッドリングの構成図で、加減算器のポートAが入力の時の各ポートの状態を示す図で、
図12(a)はポートCとAとが絶縁されている図で、
図12(b)にはポートBとDにはポートA入力の−3dBされた信号が出力されている図である。
【0036】
図13(a),(b)は、加減算器としてのラットレースハイブリッドリングの構成図で、加減算器のポートCが入力の時の各ポートの状態を示す図で、
図13(a)はポートCとAとが絶縁されている図で、
図13(b)はポートBとDにはポートA入力の−3dBされた信号が出力されている図である。
上述した
図12(a),(b)及び
図13(a),(b)のいずれにおいても、絶縁を取るためには0(又は360°)位相の信号と180°位相の信号とを距離の関数として実現することで達成し、−3dB信号はλ/4×n(n=1、3、5・・・奇数)を同じく距離の関数として実現していることがわかる。
【0037】
ラットレースハイブリッドリングは、高周波回路においては一般的に知られた回路である。ポートA−B,B−C,C−D間はλ/4だけ離れて配置され、ポートA−D間は3λ/4離れて配置されている。この配置によって各ポート間の入出力関係は、以下の通りである。まず、ポートCに信号を入力した場合、ポートBには、ポートCから時計回りに5λ/4だけリングを進んだ波と、ポートCから反時計回りにλ/4進んだ波が到達する。これらの2波は同相になるので、足し合わされたものがポートBに出力される。ポートDもBも同様に、時計回りと反時計回りの波が足し合わされて出力される。ポートAには、ポートCから時計回りにλ進んだ波と、ポートCから反時計回りにλ/2進んだ波が到達する。これらの2波は逆相になるので打ち消され、ポートAはポートCからIsolateされた形になる。したがって、ポートAは全く関係なくなり、ポートCから見るとポートBとDの2つのポートが対称に配置された回路のようになる。つまり、ポートCからの入力は、ポートBとDに等分配されて出力される。この時、ポートBとDからの出力は同相になる。次に、ポートAに信号を入力した場合、同様にして、ポートCは全く関係なくなり、ポートAから見るとポートBとDの2つのポートが配置された回路のようになる。つまり、ポートAからの入力は、ポートBとDに分配されて出力される。この時、ポートBとDからの出力の位相は逆相(180°位相が異なる)になる。
【0038】
図14(a),(b)は、加減算器としての更に他のラットレースハイブリッドリングの構成図で、
図14(a)は出力ポートBの振る舞いを示す図で、
図14(b)は出力ポートDの振る舞いを示す図である。
ポートAを入力1、ポートCを入力2、ポートBを加算ポート、ポートDを減算ポートとして実現したものを加減算器として示している。ポートA,Cから同距離のポートBを位相の基準とすると、ポートCからの信号はポートBとDとで同位相となり、ポートAからの信号はポートBとDとで逆位相となっていることから、ポートBは加算、ポートDは減算であることがわかる。つまり、
図14(a)において、ポートAから第1の微分器3aからの信号104が入力され、ポートCから第2の微分器3bからの信号105が入力されると、ポートBから加算器4の加算出力106が出力される。また、
図14(b)において、ポートAから第1の微分器3aからの信号104が入力され、ポートCから第2の微分器3bからの信号105が入力されると、ポートDから減算器4の減算出力106が出力される。
【0039】
また、第1の微分器3aと第2の微分器3bと位相シフト回路1と減衰器2との少なくとも1つは受動素子からなっている。
【実施例2】
【0040】
図15は、本発明に係るパルス生成回路の実施例2を説明するための回路構成図である。図中符号11は位相シフト回路、12はATT(Attenuator;減衰器/アッテネータ)、13aは第1の可変位相微分器,13bは第2の可変位相微分器、14は加減算器を示している。つまり、
図3に示した第1の微分器3aと第2の微分器3bは、第1の可変位相微分器13aと第2の可変位相微分器13bで構成されている。
【0041】
本実施例2のパルス生成回路は、実施例1と同様に、制御信号によって間欠的に動作することで短パルス信号を生成するパルス生成回路である。第1の可変位相微分器13aは入力信号201を直接的に微分してパルスの立ち上がりを捉えるもので、第1の時定数調整信号209によって位相が可変されるものである。位相シフト回路11は、入力信号201の位相の変動量を位相変動量調整信号207によって調整してパルス幅を決定するものである。
【0042】
また、減衰器12は、位相シフト回路11からの信号202の振幅を利得調整信号208によって調整するものである。第2の可変位相微分器13bは、減衰器12からの信号203を微分してパルスの立ち下がりを捉えるもので、第2の時定数調整信号210によって位相が可変されるものである。減算器14は、第1の可変位相微分器13aからの信号204と第2の可変位相微分器13bからの信号205とを減算して短パルス信号を出力するものである。
【0043】
このように、実施例2におけるパルス生成回路は、2つの可変位相微分器13a,13bを用い、パルスエッジ間の包絡線の形を任意に設定できる。この2つの可変位相微分器13a,13bの時定数は、第1の時定数調整信号209と第2の時定数調整信号210とによってその時定数が変えられる。
図16(a)乃至(i)は、
図15に示した本発明に係るパルス生成回路の各部のノード電圧を示す図で、
図16(a)は入力信号を示す図、
図16(b)は位相シフト回路からの信号を示す図、
図16(c)は減衰器からの信号を示す図、
図16(d)は第1の可変位相微分器からの信号を示す図、
図16(e)は第2の可変位相微分器からの信号を示す図、
図16(f)は減算器から出力される短パルス信号を示す図、
図16(g)乃至
図16(i)は減衰器の減衰量を調整して、t=t1以降の出力のエネルギーを最小化する作業を説明するための図である。
【0044】
図16(a)に示した入力信号201の振幅はAである。
図16(b)に示した位相シフト回路11からの信号202は、位相シフト回路11の位相変動によりより短いパルスを生成することができ、入力信号201が位相シフト回路11を通過することでt1だけ遅延したことを示している。この信号202が減衰器12の入力信号になる。
また、
図16(d)に示した第1の可変位相微分器13aの信号204の時定数は、第2の可変位相微分器13bからの信号205の時定数より大きく選ぶことがパルス波形を矩形に近づける観点から好ましい。実施例1と同様に、t=t1での第1の可変位相微分器13aの出力振幅はA×ATT(減衰率)となっている。
【0045】
また、
図16(c)に示した減衰器12からの信号203は、第2の可変位相微分器13bの入力がA×ATTとなるように調整される。
また、
図16(e)に示した第2の可変位相微分器13bの出力信号205の時定数は、第1の可変位相微分器13aの時定数よりも小さく選ばれる。また、実施例2においても、実施例1と同様に、減衰器12と第2の可変位相微分器13bとの順番を入れ替えても動作に影響を与えない。
【0046】
また、
図16(f)に示した第1の可変位相微分器13aの信号204と第2の可変位相微分器13bの信号205との加減算を終えた出力信号206は、第1の可変位相微分器13aの時定数が、第2の可変位相微分器13bの時定数よりも大きいため、t>t1の領域で+の低周波信号が存在している。他方、パルスの形は矩形に近づいており、目的通りの動作をしていることがわかる。
【0047】
図16(g)に示した信号204’は、減衰器12の減衰量を調整して、ATT’<ATTとし、第2の可変位相微分器13bへの入力を大きくする。つまり、A×ATT<A×ATT’とする。
図16(h)に示した信号205’は、第2の可変位相微分器13bの出力で、減衰器12の減衰量を調整して、ATT’<ATTとし、第2の可変位相微分器13bの時定数を第1の可変位相微分器13aの時定数よりも小さくするという条件で調整されていることが重要である。この場合、実施例1と同様に、減衰器12と第2の可変位相微分器13bとの順番を入れ替えても動作に影響を与えない。
【0048】
図16(i)に示した信号206’は、ATT’<ATTとし、第2の可変位相微分器13bの時定数を第1の可変位相微分器13aの時定数よりも小さくするという条件があるので、t=t1において、出力は負の値をとる。しかし、第2の可変位相微分器13bの時定数は小さいので、加減算器の出力は正の値に一番振れた後、基準電圧に漸近する。この時、t>t1での負の領域と正の領域とが等しくなるようにATT’の値を調整する。なお、第2の可変位相微分器13bの時定数も併せて調整すると負の領域のピーク値がt=t1での値を小さくできる可能性がある。
【0049】
入力信号201に繰り返し信号を用いる場合には、実施例1と同様に、立ち上がり、もしくは立ち下がりの一方をマスクする回路を前置する必要がある。マスク回路は、通常信号パスに直列に挿入されたスイッチとそれをオン/オフする制御信号とからなる。
図17は、
図15に示した可変位相微分器の具体的な回路構成図である。この第1及び第2の可変位相微分器の時定数を位相変化量制御信号CntlAにしたがって、直列容量の値を切り替えることで位相変化量を変化させている。例えば、S
1Aがオンし、微分器の容量がC
1+C
1Aになった時に、微分器の減衰は容量がC1のみの時よりなだらかになる。ここでは「位相」を基準に時刻から一定時間経過した点にあける振幅及び振幅の集合体とする。これにより、時定数の大きい系は、位相が遅れることが理解できる。
可変位相微分器の動作真理値及び直列容量の値を以下の表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
なお、実施例2においても、実施例1と同様に位相シフト回路、減衰器、加減算器を用いることができることは言うまでもない。したがって、実施例2においても、上述した実施例1と同様な効果を奏することも明らかである。