(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る磁性材料のプラズマエッチング方法に関する一実施例を、
図1ないし
図7を用いて説明する。
【0014】
図1は、本発明で用いたプラズマエッチング装置の概略断面図である。プラズマエッチング装置は、石英(SiO
2)またはセラミック(Al
2O
3)の非導電性材料からなり、プラズマ生成部を形成する放電部2と、プラズマ7と誘導結合する誘導結合アンテナ1と、プラズマ7と容量結合するファラデーシールド9と、整合器4を介して誘導結合アンテナ1およびファラデーシールド9に高周波電力を供給する第一の高周波電源10と、被処理体である試料12を載置し、処理部3内に配置された電極6と、電極6に高周波電力を供給する第二の高周波電源11と、放電部2内に処理ガスを供給するガス供給装置5と、処理部3内を排気する排気装置8とを備える。
【0015】
処理部3はアースに設置されており、電極6は絶縁材を介して処理部3に取り付けられる。誘導結合アンテナ1は、コイル状の第一の誘導アンテナ1aと第一の誘導アンテナ1aの直径より大きくコイル状の第二の誘導アンテナ1bからなる。
【0016】
処理部3内には、ガス供給装置5から処理ガスが供給される一方で、排気装置8によって所定の圧力に減圧排気される。ガス供給装置5より処理部3内部に処理ガスを供給し、該処理ガスを誘導結合アンテナ1により発生する誘導磁場によりプラズマ化する。
【0017】
また、プラズマ7中に存在するイオンを試料12上に引き込むために電極6に第2の高周波電源11によりバイアス電圧を印加する。本プラズマエッチング装置は、不揮発性エッチング材料のエッチングに応じた構造を有しており、ファラデーシールド9へ高周波電圧を印加することによって、放電部2への反応生成物の付着抑制ならびに除去が可能である。
【0018】
次に、上記プラズマエッチング装置を用いた本発明のプラズマエッチング方法について説明する。
【実施例1】
【0019】
最初に、本発明で使用する試料12の膜構造を
図2(a)に示す。これは、MTJ素子形成用の試料12であり、シリコン基板18上に順次、下から下部電極であるTa膜17と、固定層であるCoFeB膜16と、障壁層であるMgO膜15と、可変層であるCoFeB膜14と、上部電極であるTa膜13とが積層されている。
【0020】
【表1】
【0021】
表1のステップ1に示すように、N
2ガスを80ml/min、処理圧力を0.3Pa、ソースRFパワーを1600W、バイアスRFパワーを450W、処理時間を115秒とし、Ta膜13をマスクとして、CoFeB膜14とMgO膜15とCoFeB膜16をエッチングすると、
図2(b)のようにテーパ形状となり、Ta膜13からCoFeB膜16までの側壁にTa成分を含有する反応生成物19が堆積する。ここで、ソースRFパワーとは、第一の高周波電源10から誘導結合アンテナ1に供給される高周波電力のことであり、バイアスRFパワーは、第二の高周波電源11から電極6に供給される高周波電力のことである。
【0022】
また、ステップ1の形状は、N
2ガスの化学的反応が乏しいため、バイアスRFパワーに依存する。
図3に示すようにバイアスRFパワーを200Wから450Wに増加させると、MTJ素子の形状の角度は、55度から73度へ向上する。しかし、バイアスパワーを450Wから700Wに増加させると、MTJ素子の形状の角度は、73度から75度となり、ほとんど向上していない。
【0023】
450Wから700Wの範囲のバイアスRFパワーにてMTJ素子の形状の角度があまり改善しない理由は、バイアスRFパワーを増加させると、マスクのTa膜13のエッチング速度が上昇し、マスクのTa膜13から発生した反応生成物のパターン近傍への付着量が増加したためと考えられる。
【0024】
図3の結果から、MTJ素子のエッチングは、低バイアスRFパワーより高バイアスRFパワーの方が垂直形状を得られ易いため、主にスパッタエッチングにて加工されていることがわかる。また、バイアスRFパワーが高すぎると、Ta膜13のマスクからの反応生成物の影響を受けてMTJ素子の形状の角度の改善がほとんど見られなくなったと考えられる。このようなことを考慮して、本実施例のステップ1では、バイアスRFパワーを450Wとした。
【0025】
また、バイアスRFパワー以外のエッチングパラメータとして、処理圧力は、試料12上に発生する反応生成物を効率よく排気するために、0.5Pa以下とするのが望ましい。N
2ガス及びソースRFパワーは、Ta膜13のマスクとの選択性が高いエッチングを実現するために、N
2ガスを50ml/min以上、ソースRFパワーを1500W以上にすることが望ましい。
【0026】
次に表1のステップ2に示すように、N
2ガスを80ml/min、Heガスを77ml/min、CH
4ガス3ml/min、処理圧力を0.3Pa、ソースRFパワーを1600W、バイアスRFパワーを200W、処理時間を60秒として、
図2(c)に示すようにTa膜13とCoFeB膜14とMgO膜15とCoFeB膜16の側壁に付着した反応生成物19の除去をする。
【0027】
反応生成物19は、ステップ1のエッチングによって生じたものであるため、マスクのTa膜13やCoFeB膜14とCoFeB膜16等を含んでいる。このため、反応生成物19を除去するには、スパッタエッチングが有効となる。しかし、主にスパッタエッチングにより反応生成物19を除去しようとすると、マスクのTa膜13も除去され易くなる。このようなことから、反応生成物19を除去するとともにマスクのTa膜13をあまり除去されないようにするために、炭素元素を含有する堆積性のガスをN
2ガスに添加しながら、反応生成物19を除去した。
【0028】
本実施例では、炭素元素を含有するガスとして、CH
4(メタン)ガスを用い、さらにHeガスを添加した。He(ヘリウム)ガスを添加することにより、N
2(窒素)ガスの分圧が下がり、反応生成物19を効率良く除去することができた。
【0029】
N
2ガスとHeガスとCH
4ガスの混合ガスを用いて、Heガスの流量とCH
4ガスの流量をそれぞれ変化させた場合のTa膜に対するCoFeB膜の選択比を求めた。N
2ガスの流量を80ml/minと固定し、Heガスの流量とCH
4ガスの流量をそれぞれ、0と0ml/min、77と3ml/min、154と6ml/minとした場合のTa膜に対するCoFeB膜の選択比を
図4に示す。
【0030】
図4に示すようにN
2ガスとHeガスとCH
4ガスの流量がそれぞれ、80ml/min、77ml/min、3ml/minの場合に、CoFeB膜のエッチング速度を維持したまま、Ta膜のエッチング速度をほぼ0ml/minとすることができた。
【0031】
次に表1のステップ3に示すように、N
2ガスを80ml/min、Heガスを77ml/min、CH
4ガスを3ml/min、処理圧力を0.3Pa、ソースRFパワーを1600W、バイアスRFパワーを200W、処理時間を120秒として、
図2(c)に示すようなCoFeB膜14とMgO膜15とCoFeB膜16のテーパ形状を
図2(d)に示すような垂直形状とするためにCoFeB膜14とMgO膜15とCoFeB膜16をプラズマエッチングする。
【0032】
ステップ3後のエッチング形状は、
図5に示すようにステップ3の処理時間を増加させるに従ってテーパ形状から垂直形状に近づき、処理時間が60秒の場合、エッチング形状の角度が82度、処理時間が120秒の場合、エッチング形状の角度が85度となる。
【0033】
以上、表1に示すステップ1ないしステップ3の処理を行うことにより、可動層と固定層を電気的にショートさせることなくMTJ素子を垂直にプラズマエッチングすることができた。
【0034】
また、
図4に示すようにTa膜に対するCoFeB膜の選択比を高くするためには、ステップ2及び3で用いるCH
4ガスの流量を3ml/min以上にすることが望ましい。また、本実施例のステップ2及び3にてN
2ガスとHeガスとCH
4ガスの混合ガスを用いたが、N
2ガスとCH
4ガスの混合ガスを用いても、本実施例と同様な効果を得ることができる。
【0035】
さらに、本実施例では、炭素元素を含有するガスとしてCH
4ガスを用いたが、C
2H
6(エタン)ガス、C
3H
8(プロパン)ガス、C
4H
10(ブタン)ガス、C
5H
12(ペンタン)ガス、C
2H
4(エチレン)ガス、C
2H
2(アセチレン)ガスの中で少なくともいずれか一つのガスを用いても良い。
【0036】
次に本実施例で用いたTa膜13のマスクの厚さを薄くしたMTJ素子形成用の試料12に本発明を適用した例について説明する。
【実施例2】
【0037】
最初に、本発明で使用する試料12の膜構造を
図6(a)に示す。これは、MTJ素子形成用の試料12であり、シリコン基板18上に順次、下から下部電極であるTa膜17と、固定層であるCoFeB膜16と、障壁層であるMgO膜15と、可変層であるCoFeB膜14と、上部電極であるTa膜21とが積層されている。尚、本実施例のTa膜21の厚さは、実施例1におけるTa膜13の厚さの半分としている。
【0038】
【表2】
【0039】
先ず、表2のステップ1に示すように、N
2ガスを80ml/min、処理圧力を0.3Pa、ソースRFパワーを1600W、バイアスRFパワーを450W、処理時間を115秒とし、Ta膜21をマスクとして、CoFeB膜14とMgO膜15とCoFeB膜16をエッチングすると、
図6(b)のようにテーパ形状となり、Ta膜21からCoFeB膜16までの側壁にTa成分を含有する反応生成物19が堆積する。ここで、ソースRFパワーとは、第一の高周波電源10から誘導結合アンテナ1に供給される高周波電力のことであり、バイアスRFパワーは、第二の高周波電源11から電極6に供給される高周波電力のことである。
【0040】
次に表2のステップ2に示すように、N2ガスを80ml/min、Heガスを77ml/min、CH
4ガスを3ml/min、処理圧力を0.3Pa、ソースRFパワーを1600W、バイアスRFパワーを200W、処理時間を30秒として
図6(c)に示すように反応生成物19を除去する。
【0041】
また、実施例1におけるステップ2の処理時間の60秒に対して本実施例のステップ2では、30秒に短縮することができた。これは、実施例1のTa膜13の厚さに対して本実施例のTa膜21の厚さが半分となったことにより、反応生成物19のTa膜13とCoFeB膜14とMgO膜15とCoFeB膜16の側壁への付着量が実施例1の場合より減少したためと考えられる。
【0042】
次に表2のステップ3に示すように、N
2ガスを80ml/min、Heガスを77ml/min、CH
4ガスを3ml/min、処理圧力を0.3Pa、ソースRFパワーを1600W、バイアスRFパワーを200W、処理時間を120秒としてテーパ形状のCoFeB膜14とMgO膜15とCoFeB膜16をプラズマエッチングすることにより、
図6(d)に示すようにCoFeB膜14とMgO膜15とCoFeB膜16を垂直にエッチングすることができた。
【0043】
以上、表2に示すステップ1ないしステップ3の処理を行うことにより、可動層と固定層を電気的にショートさせることなくMTJ素子を垂直にプラズマエッチングすることができた。また、ステップ1からステップ3までの合計の処理時間も実施例1より短縮することができた。
【0044】
また、
図4に示すようにTa膜に対するCoFeB膜の選択比を高くするためには、ステップ2及び3で用いるCH
4ガスの流量を3ml/min以上にすることが望ましい。また、本実施例のステップ2及び3にてN
2ガスとHeガスとCH
4ガスの混合ガスを用いたが、N
2ガスとCH
4ガスの混合ガスを用いても、本実施例と同様な効果を得ることができる。
【0045】
さらに、本実施例では、炭素元素を含有するガスとしてCH
4ガスを用いたが、C
2H
6(エタン)ガス、C
3H
8(プロパン)ガス、C
4H
10(ブタン)ガス、C
5H
12(ペンタン)ガス、C
2H
4(エチレン)ガス、C
2H
2(アセチレン)ガスの中で少なくともいずれか一つのガスを用いても良い。
【0046】
次に、実施例1と同じ膜構造の試料12に実施例1と異なるプラズマエッチングを適用した例について説明する。
【実施例3】
【0047】
最初に、本発明で使用する試料12の膜構造を
図7(a)に示す。これは、MTJ素子形成用の試料12であり、シリコン基板18上に順次、下から下部電極であるTa膜17と、固定層であるCoFeB膜16と、障壁層であるMgO膜15と、可変層であるCoFeB膜14と、上部電極であるTa膜13とが積層されている。
【0048】
【表3】
【0049】
先ず表3のステップ1に示すように、N
2ガスを80ml/min、Heガスを77ml/min、CH
4ガスを3ml/min、処理圧力を0.3Pa、ソースRFパワーを1600W、バイアスRFパワーを450W、処理時間を125秒とし、Ta膜13をマスクとして、CoFeB膜14とMgO膜15とCoFeB膜16をエッチングすると、
図7(b)のようにテーパ形状となり、Ta膜13からCoFeB膜16までの側壁に反応生成物20が堆積する。
【0050】
この場合の反応生成物20は、実施例1の反応生成物19と異なり炭素成分を含有する。ここで、ソースRFパワーとは、第一の高周波電源10から誘導結合アンテナ1に供給される高周波電力のことであり、バイアスRFパワーは、第二の高周波電源11から電極6に供給される高周波電力のことである。
【0051】
次に表3のステップ2に示すように、N
2ガスを80ml/min、処理圧力を0.3Pa、ソースRFパワーを1600W、バイアスRFパワーを200W、処理時間を20秒として、
図7(b)に示すようにTa膜13とCoFeB膜14とMgO膜15とCoFeB膜16の側壁に付着した反応生成物20の除去を行う。
【0052】
ここで、ステップ2の条件にてレジスト材料(炭素系材料)をエッチングした結果、200nm/min以上のエッチング速度が得られた。また、ステップ2の条件でのCoFeB膜のエッチング速度は、
図4に示すように6nm/min程度であるため、レジスト材料(炭素系材料)の方がCoFeB膜のエッチング速度より大幅に速い。
【0053】
このため、本実施例の反応生成物20は、磁性材料に比べて炭素成分を含有する反応生成物が多くパターン側壁に付着しているため、ステップ2により容易に除去することができる。また、炭素成分を含有する反応生成物中に磁性材料が含まれていれば、リフトオフの作用で、炭素成分を含有する反応生成物が除去されるとともに磁性材料も除去される。
【0054】
次に表3のステップ3に示すように、N
2ガスを80ml/min、Heガスを77ml/min、CH
4ガスを3ml/min、処理圧力を0.3Pa、ソースRFパワーを1600W、バイアスRFパワーを200W、処理時間を120秒として、テーパ形状のCoFeB膜14とMgO膜15とCoFeB膜16をプラズマエッチングすることにより、
図7(d)に示すようにCoFeB膜14とMgO膜15とCoFeB膜16を垂直にエッチングすることができた。
【0055】
以上、表3に示すステップ1ないしステップ3の処理を行うことにより、可動層と固定層を電気的にショートさせることなくMTJ素子を垂直にプラズマエッチングすることができた。
【0056】
また、本実施例のステップ2では、N
2ガスを用いたが、表4のステップ2に示すようにN
2ガスを130ml/min、Heガスを29ml/min、CH4ガスを1.0ml/minとする混合ガスを用いても本実施例と同等の効果を得ることができる。
【0057】
【表4】
【0058】
また、
図4に示すようにTa膜に対するCoFeB膜の選択比を高くするためには、ステップ1及び3で用いるCH
4ガスの流量を3ml/min以上にすることが望ましい。また、本実施例のステップ2及び3にてN
2ガスとHeガスとCH
4ガスの混合ガスを用いたが、N
2ガスとCH
4ガスの混合ガスを用いても、本実施例と同様な効果を得ることができる。
【0059】
さらに、本実施例では、炭素元素を含有するガスとしてCH
4ガスを用いたが、C
2H
6(エタン)ガス、C
3H
8(プロパン)ガス、C
4H
10(ブタン)ガス、C
5H
12(ペンタン)ガス、C
2H
4(エチレン)ガス、C
2H
2(アセチレン)ガスの中で少なくともいずれか一つのガスを用いても良い。
【0060】
上述した実施例1ないし実施例3は、可動層および固定層にCoFeB膜を用いた例で説明したが、本発明としては、Fe、Co、Ni、Pt,Mnの元素の中で少なくともいずれか一つの元素を含有する磁性膜であればよい。また、上述した実施例1ないし実施例3は、上部電極および下部電極にTa膜を用いた例で説明したが、本発明としては、Ta膜、TiN膜のいずれかの膜を少なくとも一つ含む膜であれば良い。
【0061】
さらに上述した実施例1ないし実施例3は、可動層が固定層の上方に配置されたMTJ素子の例について説明したが、本発明としては、固定層が可動層の上方に配置されたMTJ素子でも良い。
【0062】
上述した実施例1ないし実施例3では、誘導結合型プラズマ源のプラズマエッチング装置を用いた例で説明したが、本発明はこれに限らず、マイクロ波ECR(Electron Cyclotron Resonance)プラズマエッチング装置、容量結合型プラズマ源のプラズマエッチング装置、ヘリコン型プラズマエッチング装置を用いても良い。