特許第5884733号(P5884733)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5884733
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月15日
(54)【発明の名称】積層不織布とその製品
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/559 20120101AFI20160301BHJP
   B32B 5/26 20060101ALI20160301BHJP
【FI】
   D04H1/559
   B32B5/26
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-537702(P2012-537702)
(86)(22)【出願日】2011年10月3日
(86)【国際出願番号】JP2011072780
(87)【国際公開番号】WO2012046694
(87)【国際公開日】20120412
【審査請求日】2014年7月28日
(31)【優先権主張番号】特願2010-225691(P2010-225691)
(32)【優先日】2010年10月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】399120660
【氏名又は名称】JNCファイバーズ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】前田 範子
(72)【発明者】
【氏名】岩田 淳治
(72)【発明者】
【氏名】松田 康志
(72)【発明者】
【氏名】小島 満
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−527660(JP,A)
【文献】 特開2009−256856(JP,A)
【文献】 特開2010−155454(JP,A)
【文献】 特開2003−166161(JP,A)
【文献】 特開平05−171556(JP,A)
【文献】 国際公開第99/049120(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H1/00〜18/04
B32B1/00〜43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
120℃以下では溶融せず軟化もしない繊維からなる2層の繊維層Aに、120℃以下で溶融又は軟化する繊維を用いて得られた繊維層Bを挟んでなる積層不織布であって、それらが点熱圧着により一体化されており、繊維層Aと繊維層B間の層間剥離強力が0.3〜4.0N/25mmの範囲である、積層不織布。
【請求項2】
積層不織布表面に占める点熱圧着部の面積率が、2〜40%の範囲である、請求項1記載の積層不織布。
【請求項3】
点熱圧着部において、繊維層Aを構成する繊維は、繊維の形状を維持しており、繊維層Bを構成する繊維が、該不織布を構成する繊維との接着点において、不織布を構成する繊維の表面との接触面積を増すように変形し接着一体化している、請求項1または2記載の積層不織布。
【請求項4】
繊維層Bを構成する繊維が、エラストマー繊維である、請求項1〜3のいずれか1項記載の積層不織布。
【請求項5】
繊維層Bが、融点又は軟化点の異なる少なくとも2種のエラストマー繊維を混合してなる繊維層である、請求項1〜4のいずれか1項記載の積層不織布。
【請求項6】
繊維層Bを構成する繊維が、繊維径0.5〜15μmの極細長繊維である、請求項1〜5のいずれか1項記載の積層不織布。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の積層不織布を用いて得られた製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、120℃以下で溶融又は軟化する繊維を用いて得られた繊維層を含む積層不織布及びそれを用いて得られる製品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系の熱融着性繊維を用いた不織布は、ソフトな風合いと高い不織布強力等の特性が好まれ、使い捨てオムツや生理用品等の衛生材料用途に使用されている。一般的に熱融着性繊維を不織布とするための熱処理方法は、サクションバンドドライヤーやサクションドライヤー等による熱風接着法と、多数の凸部を持つ加熱されたエンボスロールとフラットロール(平滑ロール)の間にウェブを導入して不織布を得る、いわゆるエンボス加工による点熱圧着法とに大別できる。特に後者の点熱圧着法は熱風接着法に比べ生産性に優れるために、コスト的にも有利である。しかしながら、最近の傾向として衛生材料の表面材に用いられる点熱圧着加工で得られた不織布には、より柔らかい風合いが要求されている。そのため、加工温度を低く抑えた方法や点熱圧着部の面積率を小さくする方法等が検討されている。
【0003】
加工温度を低く抑える方法では、不織布内部の熱接着が不十分となり、不織布強力不足あるいは層間剥離へとつながり、これが毛羽発生の原因となるため、耐毛羽立ち性が悪化するという問題があった。
【0004】
一方、点熱圧着面積率を小さくする方法では、繊維の自由度が増し、風合いは向上するものの、層間剥離が生じ易く不織布強力が不十分となり、耐毛羽立ち性が悪化する方向であった。
【0005】
また、柔らかい風合いを有する不織布として、ポリエチレンテレフタレートを芯成分、高密度ポリエチレンを鞘成分とする長繊維(鞘芯型複合)で構成された層の間にポリエチレンテレフタレート長繊維で構成された層が存在している3層構造で、不織布全体が部分的に点熱圧着されている積層不織布が提案されている(例えば特許文献1を参照)。
この構成によれば、中層のポリエチレンテレフタレート長繊維が上下層の繊維より高い融点の樹脂成分からなるため、点熱圧着されても中層は繊維同士の接着が少なく、繊維が自由に移動しやすくなることから、不織布の柔軟性が保持される。しかし、一方で、充分な不織布強力は得られにくく、強力を得るために、上下層の繊維を高温処理しようとすると、エンボスロールへの融着が発生し易く、安定生産性(操縦性)の点で十分に満足できるものではなかった。そして、積層間の接着が不足がちであるために、不織布を擦り合わせた際に、積層間の剥離が起こり易く、結果、耐毛羽立ち性においても充分満足できるものとは言えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−33257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記課題が解消された、積層不織布及びこれを用いた製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、2層の繊維層Aの中間層として、繊維層Aを構成する繊維より融点または軟化点が低い繊維を用いて得られた繊維層Bを挟んでなる積層不織布が、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
従って本発明は、以下の構成を有する。
(1)120℃以下では溶融せず軟化もしない繊維を含む2層の繊維層Aに、120℃以下で溶融又は軟化する繊維を用いて得られた繊維層Bを挟んでなる積層不織布であって、それらが点熱圧着により一体化されており、繊維層Aと繊維層B間の層間剥離強力が0.3〜4.0N/25mmの範囲である、積層不織布。
(2)積層不織布表面に占める点熱圧着部の面積率が、2〜40%の範囲である、前記(1)記載の積層不織布。
(3)点熱圧着部において、繊維層Aを構成する繊維は、繊維の形状を維持しており、繊維層Bを構成する繊維が、該不織布を構成する繊維との接着点において、不織布を構成する繊維の表面との接触面積を増すように変形し接着一体化している、前記(1)または(2)記載の積層不織布。
(4)繊維層Bを構成する繊維が、エラストマー繊維である、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の積層不織布。
(5)繊維層Bが、融点又は軟化点の異なる少なくとも2種のエラストマー繊維を混合してなる繊維層である、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の積層不織布。
(6)繊維層Bを構成する繊維が、繊維径0.5〜15μmの極細長繊維である、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の積層不織布。
(7)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の積層不織布を用いて得られた製品。
【発明の効果】
【0010】
本発明の積層不織布は、充分な層間剥離強力を有する積層不織布である。
本発明の積層不織布の構成によれば、繊維層Bを構成する繊維が溶融または軟化する温度では溶融せず軟化もしない繊維を含む繊維層Aを外層とすることで、該不織布表面にダメージを与えず、点熱圧着の際の加工温度を高く設定することが可能となる。また、柔らかい風合いと、該風合いを損なわずに充分な層間剥離強力を有する、毛羽立ちの少ない積層体を得ることが可能となる。さらには、繊維層Bを構成する繊維が溶融または軟化する温度では溶融せず軟化もしない繊維を含む繊維層Aが外側にあることより、点熱圧着の際のエンボスロールへの融着・巻き付き等が発生しないため、長期の安定生産が可能となる。
又、吸水性が必要とされる用途には、液体成分の含浸量(保液量)が高い不織布を得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を発明の実施の形態に則して詳細に説明する。
本発明の積層不織布は、120℃以下では溶融せず軟化もしない繊維を含む繊維層Aと、繊維層Aより融点又は軟化点の低い(120℃以下で溶融または軟化する)繊維を用いた繊維層Bを含む。
本発明で用いる当該繊維層Aに含まれる繊維は、単一繊維であってもよいし、複合繊維、あるいは2種以上の繊維が混合されてなる混合繊維であってもよい。混合繊維である場合、それら2種以上の繊維は、ともに、120℃以下では溶融せず軟化もしない繊維であるのが好ましいが、本発明の効果を損なわない限り、120℃以下で溶融又は軟化する繊維が、当該繊維層Aの質量基準で、40質量%以下、さらには20質量%以下の割合で含まれていてもよい。但し、この場合、当該繊維は、繊維層Bを構成する繊維間の接着に関与する繊維成分よりも、低い融点または軟化点を持った繊維を用いることを妨げないが、その融点または軟化点の差は10℃未満であることが好ましい。さらに、融点または軟化点は、繊維層B内の繊維成分の融点または軟化点以上を有する成分であることがより好ましく、また、さらに繊維層B内の繊維成分よりも10℃以上高い融点または軟化点を有する成分であることが好ましい。混合する繊維としては、ポリエステル、ポリオレフィン、もしくはポリアミドなどを用いて得られた繊維、または、これらを2種類以上組み合わせた複合繊維などを例示することができる。
繊維層Aを構成する120℃以下では溶融せず軟化もしない繊維が、融点または軟化点を有する場合、その融点または軟化点は、積層不織布を点熱圧着する際にエンボスロール等への融着や巻き付きがなく、かつ、積層不織布が充分な層間剥離強力を有するような高温処理を可能ならしめるという点において、繊維層Bを構成する120℃以下で溶融または軟化する繊維の融点又は軟化点よりも、5℃以上高いことが好ましく、10℃以上高いことがより好ましい。
また、繊維層Aは本発明の効果を損なわない限り、2種類以上の樹脂を任意の混率で混合した繊維を用いることもできる。
120℃以下では溶融せず軟化もしない繊維としては、融点及び軟化点をともに有さない繊維、または、120℃より高温で溶融又は軟化する繊維が含まれる。このような繊維として、例えばコットン、麻等のセルロース繊維、ウール、シルク、レーヨン、キュプラ、パルプ及び、セルロースを用いて得られる半合成繊維、熱可塑性樹脂より得られる繊維等を挙げることができる。
本発明では、後述するように、効果的に繊維間空隙が確保されうるので、液体を含浸させる用途に好適な、保液性の良い不織布を効率的に得ることができる。この場合、特に、繊維層Aとして親水性繊維を用いることが好ましい。化粧液や薬液を含浸させる化粧用シート等の用途に好適に使用できる。
【0012】
繊維層Aを構成する熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネイト樹脂、変性ポリフェニレンエーテル、ナイロン等が例示できる。
【0013】
繊維層Aを構成する120℃以下では溶融せず軟化もしない繊維としては、特に限定はなく、短繊維でも長繊維でもよい。繊維層Aを構成する繊維が短繊維の場合、製造方法としては、短繊維が一方向に配列してなるカードウェブや、短繊維がランダムに集積しているエアレイウェブや湿式抄紙ウェブ、及び、これらの繊維をニードルパンチやスパンレース(水流交絡)等によって三次元交絡させて得られる不織布、などを挙げることができる。繊維層Aを構成する繊維が長繊維の場合、製造方法としては、メルトブロー法、スパンボンド法及びトウ開繊法等の長繊維を得る方法が例示できる。吸水性が必要とされる用途には、湿式抄紙ウェブまたはスパンレース不織布が好ましい。
【0014】
本発明で用いる120℃以下では溶融せず軟化もしない繊維を含む繊維層Aを構成する繊維の長さは特に限定されないが、充分な繊維交絡と均一な不織布を得るという点で、2〜100mmであるのが好ましい。120℃以下では溶融せず軟化もしない繊維として、繊維層を調整する際の具体的な手法、例えばカードウェブ、エアレイウェブ及び湿式抄紙ウェブ等の態様に応じて、通常使用されている長さの短繊維を使用できる。
【0015】
120℃以下では溶融せず軟化もしない繊維の断面形状は、特に限定されるものではないが、丸断面、扁平断面、異型断面、中空断面等を挙げることができる。120℃以下では溶融せず軟化もしない繊維の断面形状が丸断面の場合、その繊維径は、5μmより大きく50μm以下の範囲であることが好ましい。
【0016】
120℃以下では溶融せず軟化もしない繊維を用いて得られた繊維層Aの目付けは、積層不織布の、強度、点熱圧着時に繊維層Aに直接加えられる熱が繊維層Bに充分に伝播されるという点で、又特に液体を含浸させて使用する用途に用いる場合には、液体成分の含浸量(保液量)の点から、5〜95g/mであることが好ましく、さらに好ましいのは、10〜50g/mの範囲である。120℃以下では溶融せず軟化もしない繊維を用いて得られた不織布層の目付けが高い場合は、点熱圧着の際の加工温度を高くし、低い場合は、加工温度を低く抑えることで、対応することが可能である。
【0017】
本発明に用いる120℃以下では溶融せず軟化もしない繊維中には本発明の効果を妨げない範囲において、安定剤、難燃剤、抗菌剤、着色剤、滑剤、耐光剤、親水剤、帯電防止剤、帯電剤などが添加されていてもよい。また、本発明の積層不織布には必要に応じ、界面活性剤等の付着処理を行ってもよい。
【0018】
120℃以下で溶融又は軟化する繊維を用いて得られた繊維層Bを製造する方法としては、特に限定はされない。ステープルファイバーやチョップ等の短繊維を得る方法、並びにメルトブロー法、スパンボンド法、トウ開繊法等の長繊維を得る方法が例示できる。
【0019】
120℃以下で溶融又は軟化する繊維を用いて得られた繊維層Bは、120℃以下で溶融又は軟化する繊維が1種類以上含まれる。繊維層Bに含まれる120℃以下で溶融又は軟化する繊維の融点または軟化点は、この繊維が融点を持つ場合、融点の下限が40℃までの繊維を選択することができ、軟化点を持つ場合は軟化点の下限が20℃までの繊維を選択することができる。これらの場合、いずれも融点または軟化点の下限は45℃であることが好ましい。繊維層Bは、好ましくは、120℃以下で溶融又は軟化する繊維およびその繊維と融点または軟化点の異なる繊維の少なくとも2種の繊維を混合して含み、さらに好ましくは、ともに120℃以下で溶融又は軟化する繊維であって融点または軟化点が異なる少なくとも2種の繊維を混合して含む。繊維層Bに含まれる繊維が2種である場合、これら2種の繊維間の融点又は軟化点の差は、繊維層Bに含まれる繊維中、融点または軟化点が一番低い繊維が融点を持つ場合2〜80℃の範囲であるのが好ましく、さらに2〜50℃の範囲であるのが好ましい。繊維層Bに含まれる繊維中、融点または軟化点が一番低い繊維が軟化点を持つ場合は、2〜100℃の範囲であるのが好ましく、さらに2〜50℃の範囲であるのが好ましい。繊維層Bが120℃以下で溶融又は軟化する繊維を3種以上含む場合、融点または軟化点が一番高い繊維と一番低い繊維間の融点又は軟化点の差は、一番低い融点または軟化点を示す繊維が融点を持つ場合2〜80℃の範囲であるのが好ましく、一番低い融点または軟化点を示す繊維が軟化点を持つ場合2〜100℃の範囲であるのが好ましく、いずれの場合もさらに2〜50℃の範囲であるのが好ましい。融点または軟化点の差が2〜100℃の範囲であると、繊維層B内で、繊維間の溶融変形又は軟化変形の程度に差が生じ、溶融変形又は軟化変形が小さいほうの繊維によって、繊維層B内に繊維間空隙が確保されやすく、これにより、柔らかい風合いや、保液性や通気性が担保されうる。繊維層Bが本発明所望の機能を奏するためには、繊維層B内に、120℃以下で溶融又は軟化する繊維が、少なくとも5質量%以上含まれているのが好ましく、さらに20質量%以上含まれているのが好ましい。
120℃以下で溶融又は軟化する繊維の種類は特に限定されないが、エラストマー、ポリ塩化ビニル、低密度ポリエチレン、アクリル樹脂、ポリ酢酸ビニル等からその熱的性質の条件を満たすものを選ぶことができる。一般的に、エラストマー成分自身が粘着性を持っているため、エラストマー繊維であることによって、軟化接着力に加えて、さらに粘着力が付加されて積層一体化がより強固となるため、好ましくは120℃以下で溶融又は軟化する繊維を用いて得られた繊維層Bは、エラストマー繊維の層である。
このような強固な接合を介した一体化によって、高度に伸縮させても破断しにくい積層不織布の提供が可能となる。
【0020】
エラストマー繊維に用いるエラストマー樹脂としては、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、エステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、アミド系エラストマー及びこれらの混合物などから120℃以下で溶融又は軟化する繊維となるものを選ぶことができる。特に、液体を含浸させて使用する用途に用いる場合には、液体成分含浸時の積層不織布の柔軟性や伸縮性に伴う装着感や、伸縮性等に伴う装着安定性などの点で好ましいのは、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマーである。
【0021】
また、120℃以下で溶融又は軟化する繊維を用いて得られた繊維層を構成する繊維は、これら2種以上の融点又は軟化点の異なるエラストマー繊維が混合されていてもよい。軟化点の異なる2種の繊維を混合してなる繊維層の場合、軟化点の高い繊維を、その繊維形態を大きく損なうことなく、層中に存在させることが可能となり、これにより、不織布内空間容積が確保され、通気度や嵩高性、更に液体成分を含浸させた際の保持量向上に寄与できる。
例えば、1〜99質量%のスチレン系エラストマー繊維と、99〜1質量%のオレフィン系エラストマー繊維との混合、1〜99質量%のウレタン系エラストマー繊維と、99〜1質量%のオレフィン系エラストマー繊維との混合、1〜99質量%のオレフィン系エラストマー繊維と、99〜1質量%の他のオレフィン系エラストマー繊維との混合などを挙げることができる。このうち、2種のオレフィン系エラストマー繊維同士の具体的な混合の態様としては、例えば、ポリプロピレン系エラストマー繊維と、他のポリプロピレン系エラストマー繊維との混合、ポリプロピレン系エラストマー繊維とポリエチレン系エラストマー繊維との混合、ポリエチレン系エラストマー繊維と他のポリエチレン系エラストマー繊維との混合などを挙げることができる。これらを混合するエラストマー繊維の種類や量比によって、通気度や嵩高性、伸縮性、特に液体を含浸させ用いる場合には、液体成分含浸時の積層不織布の柔軟性や伸縮性に伴う装着感、及び、伸縮性等に伴う装着安定性を、比較的高い水準において、所望の範囲に調整することが可能となる。
また、繊維層Bは本発明の効果を損なわない限り、120℃以下で溶融又は軟化する樹脂とそれ以外の樹脂を任意の混率で混合した繊維を用いることもできる。
【0022】
本発明の120℃以下で溶融又は軟化する繊維の繊維径は、特に限定はされないが、好ましくは15μm以下の極細長繊維である。さらに好ましくは、繊維径が10μm以下である。繊維径が10μm以下であると、外層越しの伝導熱が、繊維層の繊維の軟化に効率よく使用されうるので好ましい。また、液体を含浸させて使用する用途に用いる場合には、湿潤状態での肌等への装着感がより優れたものになるので好ましい。120℃以下で溶融又は軟化する繊維が極細繊維である場合、繊維径の下限は特に定めないが、通常行われている極細繊維の一般的な製造法を考慮すると0.5μm程度である。
【0023】
本発明の積層不織布の繊維層Bの目付けは、特に限定はされないが、3g/m〜200g/mであることが、加工上の点で好ましい。さらに好ましいのは、5g/m〜100g/mの範囲である。繊維層Bの目付けが低い場合は、点熱圧着時の加工温度を上げる又は圧力をあげる等を行うことで、充分な層間剥離強力を有する積層不織布を作成することができる。
【0024】
繊維層Bを構成する繊維(樹脂)中には本発明の効果を妨げない範囲において、安定剤、難燃剤、抗菌剤、着色剤、滑剤、耐光剤、親水剤、帯電防止剤、帯電剤などが添加されていてもよい。
【0025】
本発明の積層不織布は、120℃以下では溶融せず軟化もしない繊維が120℃以下で溶融又は軟化する繊維よりも外層に有するゆえに、点熱圧着の際のエンボスロールへの融着・巻き付き等の発生が起こらないため、加工温度を高く設定することが可能となる。それゆえに、層間剥離強力において優れた性能を発揮する。従来は、点熱圧着部の面積率を低くした場合、点熱圧着の圧力を上げる必要があったが、圧力を上げると層間剥離強力は強くなるものの、エンボス部分が脆くなることがあった。本発明の積層不織布では、加工温度を上げることで、点熱圧着部の面積率が低い場合も充分な層間剥離強力が得られ、引張強度等も高い積層不織布を得ることが可能となる。
【0026】
本発明の積層不織布の繊維層Aと繊維層Bとの間の層間剥離強力は、0.3N/25mm以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.5N/25mm以上である。層間剥離強力が0.3N/25mm以上あれば、液体を含浸させて使用する用途に用いる場合でも、容易に剥離することはない。層間剥離しにくいことにより、毛羽立ちの発生も抑制される。また、充分な層間剥離強力を有するほうが好ましいが、4.0N/25mm以下とすることにより風合いを柔らかく保つことができる等の効果を得ることができる。
【0027】
本発明の積層不織布においては、120℃以下では溶融せず軟化もしない繊維を用いて得られた2層の繊維層Aと120℃以下で溶融又は軟化する繊維を用いて得られた繊維層Bが、点熱圧着により積層一体化されている。
本発明の積層不織布の製造時において、一体化する方法として、点熱圧着法を選ぶ理由は、点熱圧着加工は熱風処理法と比べ、熱と圧による加工方法であるため、溶着する樹脂の融点又は軟化点よりも低い温度で加工できるという利点がある。すなわち、点熱圧着により積層一体化する際、点熱圧着法は、点熱圧着時の繊維層Aへのダメージを抑制でき、なおかつ繊維層Bの接着力を充分に発揮できるため最も好ましい。
本発明の積層不織布の製造における点熱圧着は、特に限定されないが、ロール表面が凹凸形状に彫刻された加熱ロール(以降、「加熱エンボスロール」という場合がある。)を用いて好適に行うことができる。本発明において、エンボスロールを用いた点熱圧着は、その加熱エンボスロールを、積層不織布の表面に圧着することによって行う。このとき、積層不織布の他方の面、すなわち積層不織布のもう一方の面に露出する積層不織布の表面は、加熱されていてもよい平滑形状または凹凸形状に彫刻された表面を有するロール等に接して行われる。本発明の積層不織布の一方の面に露出する繊維層Aの表面には、この点熱圧着に起因する不連続で規則的な凹凸形状が形成される。一方、積層不織布の他方の面に露出する積層不織布の表面は、平滑ロールに接すること等に起因する平滑表面を形成していることが好ましい。
【0028】
本発明の積層不織布において、該不織布の一方の面に露出する繊維層Aの表面にある上記点熱圧着に起因する凹凸形状については、繊維層Aの当該表面に占めるそのエンボスロール(彫刻ロール)の凸部による圧着点の総面積率(点熱圧着部の面積率、以降、「圧着面積率」という場合がある。)は特に限定はされないが、2〜40%の範囲が好ましく、さらに好ましくは3〜30%である。
圧着面積率が2%以上であれば、充分な層間剥離強力および不織布強力が得られ、また、毛羽立ちも抑えられる。また、圧着面積率が40%以下であれば、層間剥離強力や不織布強力を充分に保ったまま、不織布の風合いも柔らかく保たれる。
また、該積層不織布の他方の面に露出する繊維層Aの表面においても、この点熱圧着に起因して形成される不連続で規則的な凹凸形状については、繊維層Aの当該表面に占めるエンボスロール(彫刻ロール)の凸部による圧着点の総面積率(「圧着面積率」)が、2〜40%を占めていてもよい。
本発明では、繊維層Bを構成する繊維として、120℃以下で溶融又は軟化する繊維を使用し、特にこれがエラストマー繊維であることによって、さらにまた、それが極細繊維であることによって、点熱圧着部における、繊維層Bの繊維の溶融又は軟化に伴う繊維間の接合力が強化されて耐層間剥離性が高まりうるので、相対的に、積層不織布表面に占める点熱圧着部の総面積率を低減することが可能となる、例えば、圧着面積率を2〜30%とすることが可能であり、さらに2〜25%とすることが可能となる。これによって、より柔らかい風合いを有する積層不織布を得ることが可能となる。また、積層不織布に、相応に広い面積を占める非圧着部が確保されるため、積層不織布中の繊維間空隙量が高く維持され、よって、保液量や通気性の高い不織布となる。
本発明の積層不織布は、120℃以下で溶融せず軟化もしない繊維を用いて得られた2層の繊維層Aが外層に有ることより、点熱圧着時の温度を高くすることが可能となる。内層に位置する繊維層Bの樹脂が、外層の繊維層Aの樹脂よりも融点又は軟化点が低いことより、点熱圧着加工した場合、繊維層Bの樹脂の軟化点以上の温度で加工することができる。さらに、表面に位置する繊維層Aが熱による過剰なダメージを受け難く、エンボスロールへの樹脂の融着(巻き付き)が抑制される。
【0029】
本発明に用いられるエンボスロールの凸部形状は、様々な形状に彫刻されたものが使用できる。例えば凸部先端面の平面形状は、円形、楕円形、正方形、長方形、平行四辺形、菱形、三角形、六角形等様々である。
【0030】
本発明の積層不織布は、上記凸部が存する部位の不織布の厚み方向において、少なくとも繊維層B中の120℃以下で溶融又は軟化する繊維がその溶融又は軟化によって繊維層Aを構成する繊維と接合し、これによって、不織布層と繊維層とが一体化されている。点熱圧着時の圧力及び温度は、繊維層Aと繊維層Bとが、繊維層B中の120℃以下で溶融又は軟化する繊維の溶融又は軟化によって一体化するような条件において適宜選択できるが、点熱圧着時の圧力が0.490〜9.80MPa(5〜100Kgf/cm)の範囲、熱圧着時の温度が50〜150℃の範囲であるのが好ましく、繊維層Aと繊維層Bの間に上記接合態様が形成されて、充分な層間剥離強力が得られる範囲であれば、特に限定はない。
本発明の積層不織布の点熱圧着時の温度は、積層不織布中の繊維層Bを構成する120℃以下で溶融又は軟化する繊維が溶融または軟化する温度であるという条件のもとで、50〜150℃の範囲から選択するのが好ましいが、さらに好ましくは、50〜150℃の範囲であって、かつ、繊維層B中の軟化点の最も低い樹脂の軟化点より10℃以上高い温度、さらには15℃以上高い温度、又は、融点の最も低い樹脂の融点より15℃低い温度以上の温度である。また、上限は150℃程度が好ましいが、繊維層Aに150℃以下で溶融又は軟化する繊維が含まれる場合は、エンボスロールへの融着が起こらない温度にて処理を行うことにより積層不織布を作成することができる。
【0031】
本発明の積層不織布は、吸収性物品、ワイパー等の繊維製品、化粧用シート等に好ましく利用できる。吸収性物品としては、例えば乳児用や大人用の使い捨てオムツ、ナプキン、吸汗パット、皮脂除去用シート材、お手拭き等の衛生材料の素材に特に好ましく利用できる。
【0032】
ワイパーとしては、例えば、家庭用使い捨て雑巾、窓拭き材、床拭き材、畳拭き材等の一部または全体の素材として好ましく利用できる。この他、飛行機や旅客車両の使い捨てシートカバー、使い捨て便座カバー、衣類の保温剤、型どり基材等としても使用できる。
【0033】
特に、繊維層Aに親水性繊維を用いることによって、積層不織布は充分な保液量を確保でき、液体を含浸させる用途に、より好適に使用されうるものとなる。例えば、化粧用シートとしては、化粧料や薬液等を含浸させたものを、人体のあらゆる部分、顔全体、鼻、目元、口元、首、腕、手、指、腰、腹部、太股、脹脛、膝、足首等に貼布するのに適しており、具体的にはフェイスマスク等に使用できる。その他、本発明の積層不織布の特性を生かして、使い捨てオムツ用伸縮性部材、オムツ用伸縮性部材、生理用品用伸縮性部材、使い捨てパンツ、オムツカバー用伸縮性部材等の衛生材料の伸縮性部材、伸縮性テープ、絆創膏、包帯、サポーター、サック、衣料用伸縮性部材等の他に、湿布材の基布、プラスター材の基布、滑り止めの基布等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の内容について実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
各実施例及び比較例で製造した積層不織布について調べた、各種物性の定義及び測定方法を以下に記す。
なお、以下の説明において、「MD」とあるのは、使用した不織布層の不織布を構成する一方向に配列している繊維の長さ方向と一致する方向を意味し、「CD」とあるのは、それと直角する方向を意味する。
(1)平均繊維径
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、不織布表面の拡大写真を撮影し、100本の繊維の直径を測定し、その算術平均値を平均繊維径とした。
(2)点熱圧着部の面積率(圧着面積率)
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、不織布表面の拡大写真を撮影し、単位圧着パターンあたりに圧着点が占める面積の割合を圧着面積率とした。
圧着面積率(%)=(単位圧着パターン中の圧着点の面積/単位圧着パターンの面積)×100
【0035】
(3)積層不織布の破断強伸度
JIS L1906「織物及び編物の生地試験方法」に準拠して測定した。幅25mm、長さ150mmの試験片を作成した。試験片は、シートから、その試験片の長さ方向を、繊維層Aを構成する繊維が一方向に配列している長さ方向(MD方向)と一致するように裁断して作成したもの、および、試験片の長さ方向をMD方向とは直角する方向(CD方向)と一致するように裁断して作成したものとからなる2種の試験片を準備した。引張試験機オートグラフAG−X(商品名、(株)島津製作所製)を用いて、チャック間を100mmに設定し試験片を固定した。引張速度200mm/分で伸長させ破断するまでの最大強度および最大伸度をそれぞれ破断強度および破断伸度とした。
【0036】
(4)目付け
JIS L1906「織物及び編物の生地試験方法」に準拠して測定した。不織布の任意2箇所から15cm×15cmのサイズの試験片を切り出した後、各試験片の重量を電子天秤にて測定し、その平均値を1m当たりの質量に換算して目付とした。
【0037】
(5)層間剥離強力
本発明において、繊維層Aと繊維層Bの間の層間剥離強力は、以下の方法にて測定した。幅25mm、長さ150mmの試験片を作成した。試験片は、シートから、その試験片の長さ方向を、繊維層Aを構成する繊維が一方向に配列している長さ方向(MD方向)と一致するように裁断して作成したもの、および、試験片の長さ方向をMD方向とは直角する方向(CD方向)と一致するように裁断して作成したものとからなる2種の試験片を準備した。各試験片の繊維層Aの両面に、幅25mm、長さ50mmの紙を24mm幅のセキスイ社製「セロテープ(登録商標)」No.252(粘着力3.10N/10mm)で貼り、一定の荷重をかけることで試験サンプルとした。引張試験機オートグラフAG−X(商品名、(株)島津製作所製)を用いて、チャック間を50mmに設定し試験片を固定した。引張速度100mm/分で剥がれる方の繊維層Aと繊維層Bの接着面を剥離させ、最大点荷重を測定し、それを積層不織布の層間剥離強力とした。なお、実施例および比較例で行ったこの剥離強力試験方法では、すべての試験片は片方の(剥がれる方の)繊維層Aと繊維層Bの接着面が剥離し、もう一方の接着面は接着されたまま保たれた。
【0038】
(6)軟化点
本発明において、軟化点は、TMA(熱機械分析)による熱応力−温度曲線のピーク温度とする。具体的には、TMA装置(例えば、セイコーインスツルメント社製TMA(SS120型))を使用し、測定モードは、引張り測定L制御モード、サンプル初期長を20mmとし、0.5%伸長して測定した。昇温速度は、20℃/分とした。
(7)融点
本発明において、融点は、JIS K7122に準拠して、DSCにより試料5mg、昇温速度10℃/minの条件で測定した。
【0039】
本発明において使用した原料樹脂の下記表中における略号と内容は以下の通りである。
A:エチレン・オクテン共重合体、EG8401((商品名)、ダウケミカル製、融点:76℃)
B:エチレン・オクテン共重合体、EG8402((商品名)、ダウケミカル製、融点:100℃)
C:プロピレン・エチレン共重合体、VM2125((商品名)、エクソンモービル製、融点:52℃)
D:スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、タフテックH1031((商品名)、旭化成ケミカルズ製、融点:69℃)
E:低密度ポリエチレン、ペトロセンPE202((商品名)、東ソー製、融点:82℃)
【0040】
[実施例1]
繊維層Bに、原料樹脂としてBとCを用い、以下の装置および方法で製造したメルトブローン不織布を用いた。メルトブローン装置としてスクリュー(50mm径)、加熱体およびギアポンプを有する2機の押出機、混繊用紡糸口金(孔径0.3mm、異なる成分の繊維を吐出するための紡糸孔が交互に1列に並んだ紡糸孔、孔数501ホール、有効幅500mm)、圧縮空気発生装置、空気加熱機、ポリエステル製ネットを備えた捕集コンベアー、巻取機からなる装置を用いた。それぞれの押出機にBとCを別々に投入し、加熱体によりそれぞれ250℃で加熱溶融させて、B/Cの比率(質量%)が50/50になるようにギアポンプを設定して、紡糸口金から単孔あたりB、C共に0.3g/分の紡糸速度で吐出させ、吐出した繊維を400℃に加熱した60kPa(ゲージ圧)の圧縮空気によって、走行速度16m/分で走行しているポリエステル製ネットの捕集コンベアー上に吹き付けることによって、繊維がランダムに集積した目付け20g/mの混繊メルトブローン不織布を得た。捕集コンベアーは、紡糸口金から19.5cmの距離に設置した。吹き付けた空気は捕集コンベアーの裏側に設けた吸引装置で除去した。
【0041】
繊維層Aとして、繊維長が51mmのレーヨン、繊維長が7mmのパルプで、繊維が一方向に配列している方向とは直角する方向に伸長性を有する、目付40g/mのレーヨン/パルプ/レーヨン(質量比25/50/25の積層繊維層)からなる、スパンレース不織布を使用し、その上に上記混繊メルトブローン不織布(繊維層B)を積層させた。さらにその上に同上の繊維層Aを重ね、繊維層A/繊維層B/繊維層Aの積層物を得た。この積層物に、表面に凹凸模様が彫刻された彫刻ロールと平滑ロールを持つポイントボンド加工機で、温度110℃、圧力1.96MPa(20Kgf/cm)で部分的熱圧着を行った。なお、上記彫刻ロールの凸部の面積率は25%であり、凸部の形状は菱形である。この積層不織布の物性等を表1に示す。
得られた積層不織布は、充分な層間剥離強力を有しており、層間剥離に伴う毛羽も観察されなかった。
【0042】
[実施例2]
繊維層Bに、原料樹脂としてAとBを用い、以下の装置および方法で製造したメルトブローン不織布を用いた。メルトブローン装置としてスクリュー(50mm径)、加熱体およびギアポンプを有する2機の押出機、混繊用紡糸口金(孔径0.3mm、異なる成分の繊維を吐出するための紡糸孔が交互に1列に並んだ紡糸孔、孔数501ホール、有効幅500mm)、圧縮空気発生装置、空気加熱機、ポリエステル製ネットを備えた捕集コンベアー、巻取機からなる装置を用いた。それぞれの押出機にAとBを別々に投入し、加熱体によりそれぞれ300℃で加熱溶融させて、A/Bの比率(質量%)が50/50になるようにギアポンプを設定して、紡糸口金から単孔あたりA、B共に0.3g/分の紡糸速度で吐出させ、吐出した繊維を400℃に加熱した94kPa(ゲージ圧)の圧縮空気によって、走行速度18m/分で走行しているポリエステル製ネットの捕集コンベアー上に吹き付けることによって、繊維がランダムに集積した目付け20g/mの混繊メルトブローン不織布を得た。捕集コンベアーは、紡糸口金から19.5cmの距離に設置した。吹き付けた空気は捕集コンベアーの裏側に設けた吸引装置で除去した。
【0043】
繊維層Aとして、セルロース長繊維不織布ベンリーゼ((商品名)、旭化成せんい製、キュプラ100%)を使用し、その上に上記混繊メルトブローン不織布(繊維層B)を積層させた。さらにその上に同上の繊維層Aを重ね、繊維層A/繊維層B/繊維層Aの積層物を得た。この積層物に、表面に凹凸模様が彫刻された彫刻ロールと平滑ロールを持つポイントボンド加工機で、温度80℃、圧力1.96MPa(20Kgf/cm)で部分的熱圧着を行った。なお、上記彫刻ロールの凸部の面積率は4%であり、凸部の形状は菱形である。この積層不織布の物性等を表1に示す。
得られた積層不織布は、充分な層間剥離強力を有していた。層間剥離に伴う毛羽も観察されなかった。
【0044】
[実施例3]
繊維層Bは、実施例2に準拠した混繊メルトブローン不織布を用いた。
繊維層Aとして、実施例1で用いたスパンレース不織布を使用し、その上に上記混繊メルトブローン不織布(繊維層B)を積層させた。さらにその上に同上の繊維層Aを重ね、繊維層A/繊維層B/繊維層Aの積層物を得た。この積層物に、表面に凹凸模様が彫刻された彫刻ロールと平滑ロールを持つポイントボンド加工機で、温度100℃、圧力1.96MPa(20Kgf/cm)で部分的熱圧着を行った。なお、上記彫刻ロールの凸部の面積率は4%であり、凸部の形状はドット状である。この積層不織布の物性等を表1に示す。
得られた積層不織布は、充分な層間剥離強力を有していた。層間剥離に伴う毛羽も観察されなかった。
【0045】
[実施例4]
繊維層Bに、原料樹脂としてAとBを用い、以下の装置および方法で製造したメルトブローン不織布を用いた。メルトブローン装置としてスクリュー(50mm径)、加熱体およびギアポンプを有する2機の押出機、混繊用紡糸口金(孔径0.3mm、異なる成分の繊維を吐出するための紡糸孔が交互に1列に並んだ紡糸孔、孔数501ホール、有効幅500mm)、圧縮空気発生装置、空気加熱機、ポリエステル製ネットを備えた捕集コンベアー、巻取機からなる装置を用いた。それぞれの押出機にAとBを別々に投入し、加熱体によりそれぞれ300℃で加熱溶融させて、A/Bの比率(質量%)が50/50になるようにギアポンプを設定して、紡糸口金から単孔あたりA、B共に0.3g/分の紡糸速度で吐出させ、吐出した繊維を400℃に加熱した94kPa(ゲージ圧)の圧縮空気によって、走行速度32m/分で走行しているポリエステル製ネットの捕集コンベアー上に吹き付けることによって、繊維がランダムに集積した目付け10g/mの混繊メルトブローン不織布を得た。捕集コンベアーは、紡糸口金から19.5cmの距離に設置した。吹き付けた空気は捕集コンベアーの裏側に設けた吸引装置で除去した。
【0046】
繊維層Aとして、実施例1で用いたスパンレース不織布を使用し、その上に上記混繊メルトブローン不織布(繊維層B)を積層させた。さらにその上に同上の繊維層Aを重ね、繊維層A/繊維層B/繊維層Aの積層物を得た。この積層物に、表面に凹凸模様が彫刻された彫刻ロールと平滑ロールを持つポイントボンド加工機で、温度100℃、圧力1.96MPa(20Kgf/cm)で部分的熱圧着を行った。なお、上記彫刻ロールの凸部の面積率は4%であり、凸部の形状はドット状である。この積層不織布の物性等を表1に示す。
得られた積層不織布は、充分な層間剥離強力を有していた。層間剥離に伴う毛羽も観察されなかった。
【0047】
実施例4で得られた積層不織布をフェイスマスク型に切り出し、この切り出したシートに、シートが充分に浸漬する量の保液化粧水を含浸させた。このフェイスマスクを10枚用意し、モニター10人の顔に10分間装着してもらい、密着性、乾燥性、肌の引き締め感等の装着安定性を評価した。その結果、いずれのモニターにおいても良好な装着安定性が得られた。
【0048】
[実施例5]
繊維層Bに、実施例2に準拠した混繊メルトブローン不織布を用いた。
繊維層Aとして、繊維が一方向に配列している方向とは直角する方向に伸長性を有する、目付30g/mのレーヨンからなる、スパンレース不織布を使用し、その上に上記混繊メルトブローン不織布(繊維層B)を積層させた。さらにその上に同上の繊維層Aを重ね、繊維層A/繊維層B/繊維層Aの積層物を得た。この積層物に、表面に凹凸模様が彫刻された彫刻ロールと平滑ロールを持つポイントボンド加工機で、温度130℃、圧力1.96MPa(20Kgf/cm)で部分的熱圧着を行った。なお、上記彫刻ロールの凸部の面積率は4%であり、凸部の形状はドット状である。この積層不織布の物性等を表1に示す。
得られた積層不織布は、充分な層間剥離強力を有していた。層間剥離に伴う毛羽も観察されなかった。
【0049】
[実施例6]
繊維層Bに、実施例2に準拠した混繊メルトブローン不織布を用いた。
繊維層Aとして、繊維が一方向に配列している方向とは直角する方向に伸長性を有する、目付38g/mのレーヨン/ポリエステル/ポリプロピレン(質量比48/50/2の積層繊維層)からなる、スパンレース不織布を使用し、その上に上記混繊メルトブローン不織布(繊維層B)を積層させた。使用したポリエステルの融点は237℃、ポリプロピレンは148℃であった。さらに同上の繊維層Aを重ね、繊維層A/繊維層B/繊維層Aの積層物を得た。この積層物に、表面に凹凸模様が彫刻された彫刻ロールと平滑ロールを持つポイントボンド加工機で、温度100℃、圧力1.96MPa(20Kgf/cm)で部分的熱圧着を行った。なお、上記彫刻ロールの凸部の面積率は4%であり、凸部の形状はドット状である。この積層不織布の物性等を表1に示す。
得られた積層不織布は、充分な層間剥離強力を有していた。層間剥離に伴う毛羽も観察されなかった。
【0050】
[実施例7]
繊維層Bに、実施例2に準拠した混繊メルトブローン不織布を用いた。
繊維層Aとして、繊維が一方向に配列している方向とは直角する方向に伸長性を有する、目付12.5g/mのパルプからなる、ティッシュ原紙を使用し、その上に上記混繊メルトブローン不織布(繊維層B)を積層させた。さらにその上に同上の繊維層Aを重ね、繊維層A/繊維層B/繊維層Aの積層物を得た。この積層物に、表面に凹凸模様が彫刻された彫刻ロールと平滑ロールを持つポイントボンド加工機で、温度120℃、圧力1.96MPa(20Kgf/cm)で部分的熱圧着を行った。なお、上記彫刻ロールの凸部の面積率は4%であり、凸部の形状はドット状である。この積層不織布の物性等を表1に示す。
得られた積層不織布は、充分な層間剥離強力を有していた。層間剥離に伴う毛羽も観察されなかった。
【0051】
[実施例8]
繊維層Bに、原料樹脂としてDを用い、以下の装置および方法で製造したメルトブローン不織布を用いた。メルトブローン装置としてスクリュー(50mm径)、加熱体およびギアポンプを有する2機の押出機、混繊用紡糸口金(孔径0.3mm、異なる成分の繊維を吐出するための紡糸孔が交互に1列に並んだ紡糸孔、孔数501ホール、有効幅500mm)、圧縮空気発生装置、空気加熱機、ポリエステル製ネットを備えた捕集コンベアー、巻取機からなる装置を用いた。それぞれの押出機にDを投入し、加熱体によりそれぞれ250℃で加熱溶融させて、紡糸口金から単孔あたり0.3g/分の紡糸速度で吐出させ、吐出した繊維を400℃に加熱した60kPa(ゲージ圧)の圧縮空気によって、走行速度3.8m/分で走行しているポリエステル製ネットの捕集コンベアー上に吹き付けることによって、繊維がランダムに集積した目付け100g/mのメルトブローン不織布を得た。捕集コンベアーは、紡糸口金から19.5cmの距離に設置した。吹き付けた空気は捕集コンベアーの裏側に設けた吸引装置で除去した。
【0052】
繊維層Aとして、実施例1で用いたスパンレース不織布を使用し、その上に上記メルトブローン不織布(繊維層B)を積層させた。さらにその上に上記メルトブローン不織布を積層させた。さらに同上の繊維層Aを重ね、繊維層A/繊維層B/繊維層Aの積層物を得た。この積層物に、表面に凹凸模様が彫刻された彫刻ロールと平滑ロールを持つポイントボンド加工機で、温度110℃、圧力1.96MPa(20Kgf/cm)で部分的熱圧着を行った。なお、上記彫刻ロールの凸部の面積率は4%であり、凸部の形状はドット状である。この積層不織布の物性等を表1に示す。
得られた積層不織布は、充分な層間剥離強力を有していた。層間剥離に伴う毛羽も観察されなかった。
【0053】
[実施例9]
繊維層Aに実施例1に準拠したスパンレース不織布を用い、その上に繊維層BとしてEを原料とした目付け30g/mのスパンボンド不織布を積層させた。さらに、同上の繊維層Aを重ね、繊維層A/繊維層B/繊維層Aの積層物を得た。この積層物に、表面に凹凸模様が彫刻された彫刻ロールと平滑ロールを持つポイントボンド加工機で、温度130℃、圧力1.96MPa(20Kgf/cm)で部分的熱圧着を行った。なお、上記彫刻ロールの凸部の面積率は4%であり、凸部の形状はドット状である。この積層不織布の物性等を表2に示す。
得られた積層不織布は、充分な層間剥離強力を有していた。層間剥離に伴う毛羽も観察されなかった。
【0054】
[実施例10]
繊維層Aとして、PPとco−PPを重量比60:40の割合の鞘芯構造の複合繊維を用いたポイントボンド不織布を用いた。スクリュー(30mm径)、加熱体、及びギアポンプを有する1機の押出機、紡糸口金(孔径0.6mm、孔数500ホール)、ゴデーロール及び巻取機からなる紡糸装置、更に熱ロール延伸装置により2.2dtex、38mm長の短繊維を用意した。次に得られた短繊維をカード機でカーディングしてウェブとし、該ウェブをポイントボンド加工機により、温度124℃で熱処理したポイントボンド不織布を得た。使用したPPの融点は160℃、co−PPの融点は134℃であった。
この繊維層Aの上に、繊維層Bとして、実施例2に準拠した混繊メルトブローン不織布を積層させた。さらに、同上の繊維層Aを重ね、繊維層A/繊維層B/繊維層Aの積層物を得た。この積層物に、表面に凹凸模様が彫刻された彫刻ロールと平滑ロールを持つポイントボンド加工機で、温度120℃、圧力1.96MPa(20Kgf/cm)で部分的熱圧着を行った。なお、上記彫刻ロールの凸部の面積率は25%であり、凸部の形状は菱形である。この積層不織布の物性等を表2に示す。
得られた積層不織布は、充分な層間剥離強力を有していた。層間剥離に伴う毛羽も観察されなかった。
【0055】
[実施例11]
繊維層Bに、原料樹脂としてAを用い、以下の装置および方法で製造したスパンボンド不織布を用いた。スクリュー(40mm径)、加熱体及びギアポンプを有する押出機、紡糸口金(孔径0.4mm、120ホール)、エアーサッカー、帯電法開繊機、ポリエステル製ネットを備えた捕集コンベアー、ポイントボンド加工機及び巻取機からなる装置を用いてスパンボンド不織布の製造を行った。
押出機に原料樹脂を投入し、加熱体により樹脂を230℃で加熱溶融させ、ギアポンプで紡糸口金から単孔当たり0.57g/分の紡糸速度で溶融樹脂を吐出させ、吐出した繊維をエアーサッカーに導入し直後に帯電法開繊機で開繊させ、捕集コンベアー上に捕集した。エアーサッカーの空気圧は、196kPaとした。捕集コンベアー上のウェブを上下ロール温度50℃に加熱したポイントボンド加工機(圧着面積率23%、凸部の形状は菱形)に投入し、加工後の不織布を巻取機でロール状に巻取った。
【0056】
繊維層Aとして、PP/PE系複合スパンボンド不織布EB40((商品名)、チッソ製、PP・PE)を使用し、その上に上記スパンボンド不織布(繊維層B)を積層させた。さらにその上に同上の繊維層Aを重ね、繊維層A/繊維層B/繊維層Aの積層物を得た。この積層物に、表面に凹凸模様が彫刻された彫刻ロールと平滑ロールを持つポイントボンド加工機で、温度110℃、圧力1.96MPa(20Kgf/cm)で部分的熱圧着を行った。なお、上記彫刻ロールの凸部の面積率は4%であり、凸部の形状はドット状である。この積層不織布の物性等を表2に示す。
得られた積層不織布は、充分な層間剥離強力を有していた。層間剥離に伴う毛羽も観察されなかった。
【0057】
[実施例12]
繊維層Bに、原料樹脂としてAとBを重量比50:50の割合でブレンドしたものを用い、以下の装置および方法で製造したスルーエアー不織布を用いた。スクリュー(30mm径)、加熱体、及びギアポンプを有する1機の押出機、紡糸口金(孔径0.6mm、孔数500ホール)、ゴデーロール及び巻取機からなる紡糸装置、更に熱ロール延伸装置により2.2dtex、51mm長の短繊維を用意した。次に得られた短繊維をカード機でカーディングしてウェブとし、該ウェブを熱風貫通式ドライヤーにより、温度50℃で熱処理したスルーエアー不織布を得た。
【0058】
繊維層Aとして、実施例1で用いたスパンレース不織布を使用し、その上に上記スルーエアー不織布(繊維層B)を積層させた。さらにその上に同上の繊維層Aを重ね、繊維層A/繊維層B/繊維層Aの積層物を得た。この積層物に、表面に凹凸模様が彫刻された彫刻ロールと平滑ロールを持つポイントボンド加工機で、温度110℃、圧力1.96MPa(20Kgf/cm)で部分的熱圧着を行った。なお、上記彫刻ロールの凸部の面積率は4%であり、凸部の形状はドット状である。この積層不織布の物性等を表2に示す。
得られた積層不織布は、充分な層間剥離強力を有していた。層間剥離に伴う毛羽も観察されなかった。
【0059】
[比較例1]
繊維層Bとして、実施例2に示した準拠した混繊メルトブローン不織布を用いた。
繊維層Aとして、実施例1で用いたスパンレース不織布を使用し、その上に上記混繊メルトブローン不織布(繊維層B)を積層させ、繊維層A/繊維層Bの2層積層物を得た。この積層物に、表面に凹凸模様が彫刻された彫刻ロールと平滑ロールを持つポイントボンド加工機で、彫刻ロール温度100℃、平滑ロール温度50℃、圧力1.96MPa(20Kgf/cm)で部分的熱圧着を行った。なお、上記彫刻ロールの凸部の面積率は4%であり、凸部の形状はドット状である。
その結果を表2に示す。このものは、部分的熱圧着の際、ロールへの融着は起きなかったが、充分な層間剥離強力が得られなかった。また、層間剥離に起因する毛羽が観察された。
【0060】
[比較例2]
繊維層Bとして、実施例2に示した準拠した混繊メルトブローン不織布を用いた。
繊維層Aとして、実施例1で用いたスパンレース不織布を使用し、その上に上記混繊メルトブローン不織布(繊維層B)を積層させ、繊維層A/繊維層Bの2層積層物を得た。この積層物に、表面に凹凸模様が彫刻された彫刻ロールと平滑ロールを持つポイントボンド加工機で、彫刻ロール温度100℃、平滑ロール温度72℃、圧力1.96MPa(20Kgf/cm)で部分的熱圧着を行った。なお、上記彫刻ロールの凸部の面積率は4%であり、凸部の形状はドット状である。
その結果を表2に示す。このものは、部分的熱圧着の際、ロールへの融着が発生した。また、充分な層間剥離強力は得られたが、風合いが硬くなった。
【0061】
[比較例3]
繊維層Aとして、実施例2に準拠した混繊メルトブローン不織布(実施例2では繊維層Bとして使用したもの)を用いた。
この混繊メルトブローン不織布の上に、繊維層Bとして、実施例1で用いたスパンレース不織布(実施例1では繊維層Aとして使用したもの)を積層させた。さらにその上に同上の混繊メルトブローン不織布を繊維層Aとして重ね、繊維層A/繊維層B/繊維層Aの積層物を得た。この積層物に、表面に凹凸模様が彫刻された彫刻ロールと平滑ロールを持つポイントボンド加工機で、温度70℃、圧力1.96MPa(20Kgf/cm)で部分的熱圧着を行った。なお、上記彫刻ロールの凸部の面積率は4%であり、凸部の形状はドット状である。
その結果を表2に示す。このものは、剥離強力は高いものであったが、点熱圧着の際にロールへの融着が起こった。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の積層不織布は、人体のあらゆる部分、顔全体、鼻、目元、口元、首、腕、手、指、腰、腹部、太股、脹脛、膝、足首等に貼布するのに適しており、具体的にはフェイスマスク、使い捨てオムツ用伸縮性部材、オムツ用伸縮性部材、生理用品用伸縮性部材、使い捨てパンツ、オムツカバー用伸縮性部材等の衛生材料の伸縮性部材、伸縮性テープ、絆創膏、包帯、サポーター、サック、衣料用伸縮性部材等の他に、湿布材の基布、プラスター材の基布、滑り止めの基布等を挙げることができるがこれらに限定されることではない。