(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5885312
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月15日
(54)【発明の名称】セパレータの製造方法、その方法によって形成されたセパレータ、及びそれを含む電気化学素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 2/16 20060101AFI20160301BHJP
【FI】
H01M2/16 L
H01M2/16 P
H01M2/16 M
【請求項の数】18
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-80415(P2014-80415)
(22)【出願日】2014年4月9日
(62)【分割の表示】特願2012-551928(P2012-551928)の分割
【原出願日】2011年2月25日
(65)【公開番号】特開2014-160665(P2014-160665A)
(43)【公開日】2014年9月4日
【審査請求日】2014年5月9日
(31)【優先権主張番号】10-2011-0016506
(32)【優先日】2011年2月24日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2010-0016989
(32)【優先日】2010年2月25日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100167933
【弁理士】
【氏名又は名称】松野 知紘
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100109841
【弁理士】
【氏名又は名称】堅田 健史
(73)【特許権者】
【識別番号】510157580
【氏名又は名称】東レバッテリーセパレータフィルム株式会社
(72)【発明者】
【氏名】リー、ジョー‐スン
(72)【発明者】
【氏名】ホン、ジャン‐ヒュク
(72)【発明者】
【氏名】キム、ジョン‐フン
(72)【発明者】
【氏名】リュ、ボ‐キュン
【審査官】
山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】
特許第5525066(JP,B2)
【文献】
特表2009−535764(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/14−2/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学素子用セパレータの製造方法であって、
(S1)多数の気孔を有する平面状の多孔性基材を用意する段階と、
(S2)無機物粒子が分散され、第1バインダー高分子及び第2バインダー高分子を含むバインダー高分子を溶媒に溶解したスラリーを、第1吐出口を通じて前記多孔性基材にコーティングしながら、前記第2バインダー高分子を溶解しない非溶媒を、前記第1吐出口と隣接する第2吐出口を通じて前記多孔性基材にコーティングしたスラリー上に連続的にコーティングする段階と、
(S3)前記溶媒及び非溶媒を同時に乾燥処理する段階とを含んでなる、セパレータの製造方法。
【請求項2】
前記多孔性基材が、ポリオレフィン系多孔性膜であることを特徴とする、請求項1に記載のセパレータの製造方法。
【請求項3】
前記多孔性基材の厚さが、1ないし100μmであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のセパレータの製造方法。
【請求項4】
前記無機物粒子の平均粒径が、0.001ないし10μmであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のセパレータの製造方法。
【請求項5】
前記無機物粒子が、誘電率が5以上の無機物粒子、リチウムイオン伝達能力を有する無機物粒子、及びこれらの混合物からなる群より選択された無機物粒子であることを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載のセパレータの製造方法。
【請求項6】
前記誘電率が5以上の無機物粒子は、BaTiO3、Pb(Zr,Ti)O3(PZT)、Pb1-xLaxZr1-yTiyO3(PLZT、0<x<1、0<y<1)、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3‐PbTiO3(PMN‐PT)、ハフニア(HfO2)、SrTiO3、SnO2、CeO2、MgO、NiO、CaO、ZnO、ZrO2、Y2O3、Al2O3、SiC及びTiO2からなる群より選択されたいずれか1つの無機物粒子またはこれらのうち2種以上の混合物であることを特徴とする、請求項5に記載のセパレータの製造方法。
【請求項7】
前記リチウムイオン伝達能力を有する無機物粒子が、リチウムホスフェート(Li3PO4)、リチウムチタンホスフェート(LixTiy(PO4)3、0<x<2、0<y<3)、リチウムアルミニウムチタンホスフェート(LixAlyTiz(PO4)3、0<x<2、0<y<1、0<z<3)、(LiAlTiP)xOy系列ガラス(0<x<4、0<y<13)、リチウムランタンチタネート(LixLayTiO3、0<x<2、0<y<3)、リチウムゲルマニウムチオホスフェート(LixGeyPzSw、0<x<4、0<y<1、0<z<1、0<w<5)、リチウムナイトライド(LixNy、0<x<4、0<y<2)、SiS2系列ガラス(LixSiySz、0<x<3、0<y<2、0<z<4)、P2S5系列ガラス(LixPySz、0<x<3、0<y<3、0<z<7)からなる群より選択されたいずれか1つの無機物粒子またはこれらのうち2種以上の混合物であることを特徴とする、請求項5又は6に記載のセパレータの製造方法。
【請求項8】
前記第1バインダー高分子が、シアノ基を有する高分子であることを特徴とする、請求項1〜7の何れか一項に記載のセパレータの製造方法。
【請求項9】
前記シアノ基を有する高分子が、シアノエチルプルラン、シアノエチルポリビニルアルコール、シアノエチルセルロース、シアノアクリレート、及びシアノエチルスクロースからなる群より選択されたいずれか1つまたはこれらのうち2種以上の混合物であることを特徴とする、請求項8に記載のセパレータの製造方法。
【請求項10】
前記第1バインダー高分子が、ポリアクリルアミド‐アクリレートであることを特徴とする、請求項1〜7の何れか一項に記載のセパレータの製造方法。
【請求項11】
前記溶媒と前記第1バインダー高分子との溶解度指数差、及び前記溶媒と前記第2バインダー高分子との溶解度指数差が、それぞれ5.0MPa0.5以下であることを特徴とする、請求項1〜10の何れか一項に記載のセパレータの製造方法。
【請求項12】
前記溶媒が、アセトン、N,N‐ジメチルアセトアミド、N,N‐ジメチルホルムアミド、N‐メチル‐2‐ピロリドン、及びメチルエチルケトンからなる群より選択されたいずれか1つまたはこれらのうち2種以上の混合物であることを特徴とする、請求項11に記載のセパレータの製造方法。
【請求項13】
前記第2バインダー高分子が、ポリフッ化ビニリデン‐ヘキサフルオロプロピレン、ポリフッ化ビニリデン‐トリクロロエチレン、及びポリメチルメタクリレートからなる群より選択されたいずれか1つまたはこれらのうち2種以上の混合物であることを特徴とする、請求項1〜12の何れか一項に記載のセパレータの製造方法。
【請求項14】
前記非溶媒と前記第2バインダー高分子との溶解度指数差が、8.0MPa0.5以上であることを特徴とする請求項1〜13の何れか一項に記載のセパレータの製造方法。
【請求項15】
前記非溶媒が、水、メタノール、及びエタノールからなる群より選択されたいずれか1つまたはこれらのうち2種以上の混合物であることを特徴とする、請求項14に記載のセパレータの製造方法。
【請求項16】
前記第1バインダー高分子と第2バインダー高分子との重量比が、75:25ないし10:90であることを特徴とする、請求項1〜15の何れか一項に記載のセパレータの製造方法。
【請求項17】
前記無機物粒子とバインダー高分子との重量比が、50:50ないし99:1であることを特徴とする、請求項1〜16の何れか一項に記載のセパレータの製造方法。
【請求項18】
電気化学素子の製造方法であって、
セパレータを製造し、正極と負極との間に前記セパレータを介在させてラミネートする段階を含んでなり、
前記セパレータを請求項1〜17の何れか一項に記載のセパレータの製造方法によって製造することを特徴とする、電気化学素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池のような電気化学素子のセパレータ製造方法、その方法によって形成されたセパレータ、及びそれを含む電気化学素子の製造方法に関し、より詳しくは、無機物粒子とバインダー高分子との混合物からなる多孔性有機無機複合層が多孔性基材にコーティングされたセパレータの製造方法、その方法によって形成されたセパレータ、及びそれを含む電気化学素子の製造方法に関する。
【0002】
本出願は、2010年02月25日出願の韓国特許出願第10−2010−0016989号及び2011年02月24日出願の韓国特許出願第10−2011−0016506号に基づく優先権を主張し、該当出願の明細書及び図面に開示された内容は、すべて本出願に援用される。
【背景技術】
【0003】
近年、エネルギー貯蔵技術に対する関心が高まりつつある。携帯電話、カムコーダー、及びノートパソコン、さらには電気自動車のエネルギーまで適用分野が拡がるとともに、電気化学素子の研究と開発に対する努力が次第に具体化されている。電気化学素子はこのような面で最も注目される分野であり、その中でも、充放電可能な二次電池の開発に関心が寄せられている。このような電池の開発において、容量密度及び比エネルギーを向上させるために、新たな電極と電池の設計に対する研究開発が行われている。
【0004】
1990年代の初めに開発されたリチウム二次電池は、水溶液電解液を用いるニッケル‐マンガン、ニッケル‐カドミウム、硫酸‐鉛電池などの従来型電池に比べて作動電圧が高くエネルギー密度が格段に高いという長所から、現在使用されている二次電池のうち最も脚光を浴びている。しかし、このようなリチウムイオン電池は、有機電解液を用いることによる発火及び爆発などの安全問題を抱えており、またその製造に手間がかかるという短所がある。最近のリチウムイオン高分子電池は、上記のようなリチウムイオン電池の短所を改善し、次世代電池の1つとして挙げられているが、未だ電池の容量がリチウムイオン電池と比べて相対的に低く、特に低温における放電容量が不十分であるため、それに対する改善が至急に求められている。
【0005】
上記のような電気化学素子は多くのメーカにおいて生産中であるが、それらの安全性特性は相異なる様相を呈している。電気化学素子の安全性の評価及び安全性の確保は最も重要に考慮すべき事項である。特に、電気化学素子の誤作動によりユーザが傷害を被ることはあってはならなく、ゆえに、安全規格は電気化学素子内の発火及び発煙などを厳格に規制している。電気化学素子が過熱し、熱暴走が起きるか又はセパレータが貫通される場合は、爆発が起きる恐れが大きい。特に、電気化学素子のセパレータとして通常使用されるポリオレフィン系多孔性膜は、材料特性及び延伸を含む製造工程上の特性から100℃以上の温度で甚だしい熱収縮挙動を見せ、正極と負極との間の短絡を起こすという問題がある。
【0006】
このような電気化学素子の安全性問題を解決するために、多数の気孔を有する多孔性基材の少なくとも一面に、無機物粒子とバインダー高分子との混合物をコーティングして多孔性有機無機複合コーティング層を形成したセパレータが提案された。例えば、特許文献1には、多孔性基材上に無機物粒子とバインダー高分子との混合物で形成された多孔性コーティング層を設けたセパレータに関する技術が開示されている。
【0007】
有機無機複合多孔性コーティング層が形成されたセパレータにおいて、多孔性基材上に形成された多孔性コーティング層に存在する無機物粒子が、多孔性コーティング層の物理的形態を維持する一種のスペーサの役割をすることで、電気化学素子が過熱したとき、多孔性基材の熱収縮を抑制するか、または、熱暴走時の両電極の短絡を防止するようになる。また、無機物粒子同士の間には空き空間(インタースティシャル・ボリューム、interstitial volume)が存在し、微細気孔を形成する。
【0008】
多孔性基材に形成された有機無機複合多孔性コーティング層が、上記のような機能を良好に発現するためには、無機物粒子が所定含量以上に十分含まれていなければならない。しかし、無機物粒子の含量が多くなれば、バインダー高分子の含量は相対的に少なくなるため、電極との結着性が低下し、巻取など電気化学素子の組立て過程で発生する応力や外部との接触によって多孔性コーティング層の無機物粒子が脱離し易い。セパレータの電極に対する結着性が低下すれば電気化学素子の性能が低下し、脱離した無機物粒子は電気化学素子の局所的な欠陥として作用して電気化学素子の安全性に悪影響を及ぼすことになる。
【0009】
本出願人は、特定の高分子をバインダー高分子として用いてセパレータを製造することで、このような問題点を解決したが(特許文献2)、より改善された性能を備えるセパレータの製造方法が必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】韓国特許公開第10−2007−0000231号公報
【特許文献2】韓国特許第10−0754746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、電極に対する結着性が良好であって、電気化学素子の組立て過程で無機物粒子が脱離する問題点が改善されたセパレータを容易に製造する方法、その方法によって形成されたセパレータ、及びそれを含む電気化学素子の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明のセパレータ製造方法は、
(S1)多数の気孔を有する平面状の多孔性基材を用意する段階;
(S2)無機物粒子が分散され、第1バインダー高分子及び第2バインダー高分子を含むバインダー高分子が溶媒に溶解されたスラリーを、第1吐出口を介して(通じて)前記多孔性基材にコーティングしながら、前記第2バインダー高分子は溶解させない非溶媒を、前記第1吐出口と隣接する第2吐出口を介して(通じて)前記多孔性基材にコーティングされたスラリー上に連続的にコーティングする段階;及び
(S3)前記溶媒及び非溶媒を同時に乾燥処理する段階を含む。
【0013】
本発明のセパレータ製造方法において、前記多孔性基材はポリオレフィン系多孔性膜であることが望ましく、多孔性基材の厚さは1ないし100
μmであることが望ましい。
【0014】
本発明のセパレータ製造方法において、無機物粒子の平均粒径は0.001ないし10
μmであることが望ましい。また、無機物粒子としては、誘電
率が5以上の無機物粒子またはリチウムイオン伝達能力を有する無機物粒子をそれぞれ単独でまたはこれらを混合して使用することができる。
【0015】
本発明のセパレータ製造方法において、前記第1バインダー高分子はシアノ基を有する高分子であることが望ましい。シアノ基を有する高分子としては、シアノエチルプルラン、シアノエチルポリビニルアルコール、シアノエチルセルロース、シアノアクリレート、シアノエチルスクロースなどが挙げられる。
【0016】
本発明のセパレータ製造方法において、スラリーの製造に使用される溶媒としては、前記第1バインダー高分子との溶解度指数差及び前記第2バインダー高分子との溶解度指数差がそれぞれ5.0MPa
0.5以下の溶媒が望ましく、アセトン、N,N‐ジメチルアセトアミド、N,N‐ジメチルホルムアミド、N‐メチル‐2‐ピロリドン、メチルエチルケトンなどを使用することがさらに望ましい。
【0017】
本発明のセパレータ製造方法において、第2バインダー高分子としては、ポリフッ化ビニリデン‐ヘキサフルオロプロピレン、ポリフッ化ビニリデン‐トリクロロエチレン、ポリメチルメタクリレートなどが挙げられる。前記非溶媒としては、前記第2バインダー高分子との溶解度指数差が8.0MPa
0.5以上の非溶媒が望ましく、特に水、メタノール、エタノールなどを使用することがさらに望ましい。
【0018】
このような方法で製造された本発明のセパレータは、多孔性基材の表面に無機物粒子とバインダー高分子との混合物で形成された多孔性コーティング層を備える。このようなセパレータは正極と負極との間に介在させて電極とラミネートすることで、リチウム二次電池やスーパーキャパシタ素子のような電気化学素子を製造することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によって製造されたセパレータは、次のような効果を奏する。
【0020】
第一、スラリー上にコーティングされた非溶媒は第2バインダー高分子の相分離を促進することで、第2バインダー高分子を多孔性コーティング層の表面部により多く存在させる。これにより、セパレータの電極に対する結着性が増大するので、ラミネーションが容易になる。また、無機物粒子の脱離による問題が低減する。
【0021】
第二、電極に対する十分な結着力が確保されることで、多孔性コーティング層内の無機物粒子の含量を高めることができ、セパレータの安定性が一層向上する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施例によってセパレータを製造する方法を示した概略工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳しく説明する。これに先立ち、本明細書及び請求範囲に使われた用語や単語は通常的や辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者自らは発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義できるという原則に則して本発明の技術的な思想に応ずる意味及び概念で解釈されねばならない。したがって、本明細書に記載された実施例に示された構成は、本発明のもっとも望ましい一実施例に過ぎず、本発明の技術的な思想のすべてを代弁するものではないため、本出願の時点においてこれらに代替できる多様な均等物及び変形例があり得ることを理解せねばならない。
【0024】
本発明によるセパレータ製造方法を詳しく説明すれば、次のようである。
【0025】
まず、多数の気孔を有する平面状の多孔性基材を用意する(S1段階)。
【0026】
多孔性基材としては、多様な高分子で形成された多孔性膜や不織布など通常電気化学素子に使用される平面状の多孔性基材であれば全て使用することができる。例えば、電気化学素子、特に、リチウム二次電池の分離膜として使用されるポリオレフィン系多孔性膜や、ポリエチレンテレフタレート繊維からなる不織布などを使用でき、その材質や形態は目的に応じて多様に選択することができる。例えば、ポリオレフィン系多孔性膜は、高密度ポリエチレン、線形低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンのようなポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリペンテンなどのポリオレフィン系高分子をそれぞれ単独でまたはこれらを混合した高分子で形成でき、不織布もポリオレフィン系高分子またはこれより耐熱性が高い高分子を用いた繊維で製造することができる。多孔性基材の厚さは特に制限されないが、望ましくは1ないし100
μm、より望ましくは5ないし50
μmである。多孔性基材に存在する気孔の大きさ及び気孔度も特に制限されないが、それぞれ0.001ないし50
μm及び10ないし95%であることが望ましい。
【0027】
次いで、無機物粒子が分散され、第1バインダー高分子及び第2バインダー高分子を含むバインダー高分子が溶媒に溶解されたスラリーを、第1吐出口を通して前記多孔性基材にコーティングしながら、前記第2バインダー高分子は溶解させない非溶媒を、前記第1吐出口と隣接する第2吐出口を通して前記多孔性基材にコーティングされたスラリー上に連続的にコーティングする(S2段階)。
【0028】
本段階で使用されるスラリーの構成成分について説明すれば、次のようである。
【0029】
無機物粒子は電気化学的に安定していれば、特に制限されない。すなわち、本発明で使用する無機物粒子は、適用する電気化学素子の作動電圧範囲(例えば、Li/Li
+基準で0〜5V)で酸化及び/または還元反応を起こさないものであれば、特に制限されない。特に、無機物粒子として誘電率の高い無機物粒子を使用する場合、液体電解質内の電解質塩、例えばリチウム塩の解離度増加に寄与し、電解液のイオン伝導度を向上させることができる。
【0030】
上述した理由から、前記無機物粒子は誘電
率が5以上、望ましくは10以上の高誘電率無機物粒子を含むことが望ましい。誘電
率が5以上の無機物粒子の非制限的な例としては、BaTiO
3、Pb(Zr,Ti)O
3(PZT)、Pb
1-xLa
xZr
1-yTi
yO
3(PLZT)、Pb(Mg
1/3Nb
2/3)O
3‐PbTiO
3(PMN‐PT)、ハフニア(HfO
2)、SrTiO
3、SnO
2、CeO
2、MgO、NiO、CaO、ZnO、ZrO
2、Y
2O
3、Al
2O
3、TiO
2、SiCまたはこれらの混合体などがある。
【0031】
また、無機物粒子としては、リチウムイオン伝達能力を有する無機物粒子、すなわちリチウム元素を含むが、リチウムを貯蔵せず、リチウムイオンを移動させる機能を有する無機物粒子を使用することができる。リチウムイオン伝達能力を有する無機物粒子の非制限的な例としては、リチウムホスフェート(Li
3PO
4)、リチウムチタンホスフェート(Li
xTi
y(PO
4)
3、0<x<2、0<y<3)、リチウムアルミニウムチタンホスフェート(Li
xAl
yTi
z(PO
4)
3、0<x<2、0<y<1、0<z<3)、14Li
2O‐9Al
2O
3‐38TiO
2‐39P
2O
5などのような(LiAlTiP)
xO
y系列ガラス(0<x<4、0<y<13)、リチウムランタンチタネート(Li
xLa
yTiO
3、0<x<2、0<y<3)、Li
3.25Ge
0.25P
0.75S
4などのようなリチウムゲルマニウムチオホスフェート(Li
xGe
yP
zS
w、0<x<4、0<y<1、0<z<1、0<w<5)、Li
3Nなどのようなリチウムナイトライド(Li
xN
y、0<x<4、0<y<2)、Li
3PO
4‐Li
2S‐SiS
2などのようなSiS
2系列ガラス(Li
xSi
yS
z、0<x<3、0<y<2、0<z<4)、LiI‐Li
2S‐P
2S
5などのようなP
2S
5系列ガラス(Li
xP
yS
z、0<x<3、0<y<3、0<z<7)またはこれらの混合物などが挙げられる。
【0032】
また、無機物粒子の平均粒径には特別な制限がないが。均一な厚さのコーティング層の形成及び適切な孔隙率のため、0.001ないし10
μmであることが望ましい。0.001
μm未満の場合は分散性が低下し、10
μmを超過すれば、形成されるコーティング層の厚さが増加する恐れがある。
【0033】
第1バインダー高分子は、特に制限されないが、シアノ基を有する高分子であることが望ましい。シアノ基を有する高分子としては、シアノエチルプルラン、シアノエチルポリビニルアルコール、シアノエチルセルロース、シアノアクリレート、シアノエチルスクロースなどをそれぞれ単独でまたはこれらを2種以上混合して使用することができる。また、第1バインダー高分子としては、共重合体であるポリアクリルアミド‐アクリレート(polyacrylamide−co−acrylate)を使用することが望ましい。
【0034】
第2バインダー高分子としては、ポリフッ化ビニリデン‐ヘキサフルオロプロピレン、ポリフッ化ビニリデン‐トリクロロエチレン、ポリメチルメタクリレートなどをそれぞれ単独でまたはこれらを2種以上混合して使用することができる。
【0035】
前記第1バインダー高分子と第2バインダー高分子との重量比は、75:25ないし10:90であることが本発明の目的を達成するために好適である。また、無機物粒子とバインダー高分子(第1バインダー高分子と第2バインダー高分子との和)との重量比は、例えば50:50ないし99:1が望ましく、より望ましくは70:30ないし95:5である。無機物粒子の含量が50重量部未満であれば、バインダー高分子の含量が多くなって形成される多孔性コーティング層の気孔の大きさ及び気孔度が減少し、99重量部を超過すれば、バインダー高分子の含量が少ないため形成される多孔性コーティング層の耐剥離性が弱化することがある。
【0036】
スラリー製造に使用される溶媒は、第1バインダー高分子及び第2バインダー高分子を両方とも溶解させる。このような溶媒としては、前記第1バインダー高分子に対する溶解度指数差及び前記第2バインダー高分子に対する溶解度指数差がそれぞれ5.0MPa
0.5以下である溶媒を使用することが望ましく、アセトン、N,N‐ジメチルアセトアミド、N,N‐ジメチルホルムアミド、N‐メチル‐2‐ピロリドン、メチルエチルケトンなどをそれぞれ単独でまたはこれらを2種以上混合して使用することができる。
【0037】
無機物粒子が分散され、バインダー高分子が溶媒に溶解されたスラリーは、第1バインダー高分子と第2バインダー高分子を溶媒に溶解させた後、無機物粒子を添加し、それを分散させることで製造することができる。無機物粒子は適正の大きさに破砕した状態で添加し得るが、バインダー高分子の溶液に無機物粒子を添加した後、無機物粒子をボールミル法などで破砕しながら分散させることが望ましい。
【0038】
上記の方法で用意したスラリーは、コーティング機に投入されて吐出口(第1吐出口)を通して前記多孔性基材にコーティングする。多孔性基材にコーティングするスラリーのローディングレベル(loading level)は、コーティング層の機能及び高容量電池に対する適合性を考慮して、最終的に形成される多孔性コーティング層が5ないし20g/m
2の範囲になるように調節することが望ましい。
【0039】
一方、多孔性基材にコーティングされたスラリー上には、前記第1吐出口と隣接する第2吐出口を通して非溶媒を連続的にコーティングする。ここで、「連続的に」とは、スラリー内の溶媒が乾燥する前に非溶媒をコーティングすることを意味する。また、非溶媒(non−solvent)とは、前記第2バインダー高分子を溶解させない溶媒を意味する。このような非溶媒としては、前記第2バインダー高分子との溶解度指数差が8.0MPa
0.5以上の非溶媒を使用することが望ましく、特に、水、メタノール、エタノールなどがさらに望ましい。
【0040】
上記(S2)のコーティング段階は、スロットダイコーティングなど多様な方法で連続的に行うことができ、望ましい例が
図1に示されている。
【0041】
図1を参照すれば、(S2)コーティング段階を行うために2つのスロット3a、3bを有するダイ1が用られる。無機物粒子が分散され、第1バインダー高分子及び第2バインダー高分子を含むバインダー高分子が溶媒に溶解されたスラリー7が、第1スロット3aを通して吐出され、多孔性基材9上にコーティングされる。また、第2スロット3bを通して非溶媒5がスラリー7上に吐出されてコーティングされる。すなわち、回転するローラーに多孔性基材9が供給されれば、多孔性基材9上にスラリー7がコーティングされ、連続的にスラリー7上に非溶媒5がコーティングされる。
【0042】
スラリー上にコーティングされた非溶媒はスラリー内の第2バインダー高分子の相分離を促すことで、第2バインダー高分子を多孔性コーティング層の表面部により多く存在させる。これにより、後述する(S3)の乾燥処理後、セパレータの電極に対する結着性が増大するため、ラミネーションが容易になる。また、無機物粒子の脱離による問題が減少する。また、電極に対する十分な結着力が確保されることで、多孔性コーティング層内の無機物粒子含量が高められるため、セパレータの安定性が一層向上する。
【0043】
最後に、多孔性基材上にコーティングされたスラリーの溶媒及び非溶媒を同時に乾燥処理する(S3段階)。スラリーの溶媒と非溶媒を同時に乾燥処理することで、第2バインダー高分子が多孔性コーティング層の表面部の最外層により多く存在する状態で多孔性コーティング層が形成される。すなわち、多孔性コーティング層の表面部がその下部よりバインダー高分子をより多く含む状態になるため、上述した電極に対する結着力などが向上する。
【0044】
一方、本発明とは違って、スラリーコーティング層を先に乾燥し、その後非溶媒をコーティングするようになれば、第2バインダー高分子に対する非溶媒の機能を期待できない。
【0045】
本発明の製造方法によって形成されたセパレータは、多孔性基材及びその上に形成された多孔性コーティング層を備える。多孔性コーティング層で、バインダー高分子は、無機物粒子同士が結着した状態を維持できるように、これらを相互付着(すなわち、バインダー高分子が無機物粒子同士の間を連結及び固定)させる。また、多孔性コーティング層は、バインダー高分子によって多孔性基材と結着した状態を維持することが望ましい。これにより、多孔性コーティング層の無機物粒子は相互接触した状態で存在し、無機物粒子が接触した状態で生ずる空き空間(インタースティシャル・ボリューム)が多孔性コーティング層の気孔になることが望ましい。このとき、空き空間の大きさは無機物粒子の平均粒径以下になる。
【0046】
上述した方法によって製造したセパレータを正極と負極との間に介在させてラミネートすることで電気化学素子を製造することができる。電気化学素子は電気化学反応を行うあらゆる素子を含み、具体的には、あらゆる種類の一次電池、二次電池、燃料電池、太陽電池またはスーパーキャパシタ素子のようなキャパシタなどが挙げられる。特に、前記二次電池のうちリチウム金属二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池またはリチウムイオンポリマー二次電池などを含むリチウム二次電池が望ましい。
【0047】
本発明のセパレータと共に使用する正極と負極の両電極は、特に制限されず、当業界で周知の通常の方法によって電極活物質を電極電流集電体に結着した形態で製造することができる。前記電極活物質のうち正極活物質の非制限的な例としては、従来電気化学素子の正極に使用される通常の正極活物質が使用でき、特にリチウムマンガン酸化物、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウム鉄酸化物、またはこれらを組み合わせたリチウム複合酸化物を使用することが望ましい。負極活物質の非制限的な例としては、従来電気化学素子の負極に使用される通常の負極活物質が使用でき、特にリチウム金属またはリチウム合金、炭素、石油コーク(petroleum coke)、活性化炭素、グラファイトまたはその他炭素類などのようなリチウム吸着物質などが望ましい。正極電流集電体の非制限的な例としては、アルミニウム、ニッケル、またはこれらの組合せによって製造されるホイルなどがあり、負極電流集電体の非制限的な例としては、銅、金、ニッケル、銅合金またはこれらの組合せによって製造されるホイルなどがある。
【0048】
本発明の電気化学素子で使用できる電解液は、A
+B
−のような構造の塩であり、A
+はLi
+、Na
+、K
+のようなアルカリ金属陽イオンまたはこれらの組合せからなるイオンを含み、B
−はPF
6−、BF
4−、Cl
−、Br
−、I
−、ClO
4−、AsF
6−、CH
3CO
2−、CF
3SO
3−、N(CF
3SO
2)
2−、C(CF
2SO
2)
3−のような陰イオンまたはこれらの組合せからなるイオンを含む塩を、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、N‐メチル‐2‐ピロリドン(NMP)、エチルメチルカーボネート(EMC)、γ‐ブチロラクトンまたはこれらの混合物からなる有機溶媒に溶解または解離したものであるが、これに限定されることはない。
【0049】
前記電解液の注入は、最終製品の製造工程及び求められる物性に応じて、電池製造工程のうち適宜な段階において行えばよい。すなわち、電池組立ての前または電池組立ての最終段階などにおいて注入すればよい。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を具体的な実施例を挙げて説明する。しかし、本発明による実施例は多くの他の形態に変形され得、本発明の範囲が後述する実施例に限定されると解釈されてはならない。本発明の実施例は当業界で平均的な知識を持つ者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0051】
実施例1
第1バインダー高分子であるシアノエチルプルラン及び第2バインダー高分子であるポリフッ化ビニリデン‐ヘキサフルオロプロピレン(PVdF‐HFP)を2:10の重量比でそれぞれアセトンに添加し、50℃で約12時間以上溶解させて高分子溶液を製造した。製造された高分子溶液にチタン酸バリウム(BaTiO
3)粉末を高分子混合物/活性炭素粉末=10/90の重量比になるように添加し、12時間以上ボールミル法で無機物粒子を破砕及び分散してスラリーを製造した。製造されたスラリーの無機物粒子の粒径は平均600nmであった。
【0052】
また、第2バインダー高分子の非溶媒としては蒸留水を使用した。
【0053】
製造されたスラリーと非溶媒を、
図1に示されたスロットダイを用いて厚さ12
μmのポリエチレン多孔性膜(気孔度45%)の一面に連続的にコーティングした。このとき、スラリーと非溶媒の湿潤厚さ(wet thickness)はそれぞれ75
μm及び10
μmになるように調節した。
【0054】
次いで、コーティングが完了した基材を乾燥機に通過させることでスラリーの溶媒と非溶媒を乾燥させ、厚さ12.5
μmの多孔性コーティング層が形成されたセパレータを完成した。
【0055】
完成したセパレータのガーレー(Gurley)値は387.3sec/100mLと良好であった。
【0056】
一方、セパレータの結着性を評価するため、実施例1による2枚のセパレータを100度でラミネートした後、結着力を測定した結果、12.58gf/cmと優れた結着力を見せた。このことから実施例1のセパレータは電極との結着性に優れることが分かる。
【0057】
実施例2
非溶媒の種類を蒸留水とメタノールが5:5(v/v)で混合された混合非溶媒に変更したことを除き、実施例1と同様の方法でセパレータを製造した。得られたセパレータのガーレー値及び結着力は、それぞれ367.6sec/100mL及び9.81gf/cmであった。
【0058】
実施例3
第1バインダー高分子をシアノアクリレートに変更したことを除き、実施例1と同様の方法でセパレータを製造した。得られたセパレータのガリー値及び結着力はそれぞれ375.4sec/100mL及び13.94gf/cmであった。
【0059】
実施例4
第1バインダー高分子をアクリルアミド‐アクリレートの共重合体に変更したことを除き、実施例1と同様の方法でセパレータを製造した。得られたセパレータのガリー値及び結着力はそれぞれ349.1sec/100mL及び10.47gf/cmであった。
【0060】
比較例1
非溶媒である蒸留水をコーティングする代わりに溶媒であるアセトンをコーティングしたことを除き、実施例1と同様の方法で実施した。
【0061】
得られたセパレータのガーレー値は391.5sec/100mLと良好であったが、結着力は2.19gf/cmであって実施例1ないし4より非常に低い結着力を見せた。