特許第5885578号(P5885578)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5885578
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月15日
(54)【発明の名称】潤滑剤
(51)【国際特許分類】
   C10M 107/24 20060101AFI20160301BHJP
   C10M 173/02 20060101ALI20160301BHJP
   C10N 20/04 20060101ALN20160301BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20160301BHJP
   C10N 40/22 20060101ALN20160301BHJP
【FI】
   C10M107/24
   C10M173/02
   C10N20:04
   C10N30:06
   C10N40:22
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-110184(P2012-110184)
(22)【出願日】2012年5月14日
(65)【公開番号】特開2013-237738(P2013-237738A)
(43)【公開日】2013年11月28日
【審査請求日】2015年2月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅己
(72)【発明者】
【氏名】川越 雅子
【審査官】 馬籠 朋広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−051957(JP,A)
【文献】 特開昭60−260696(JP,A)
【文献】 特開2001−139973(JP,A)
【文献】 特開昭58−089695(JP,A)
【文献】 特表平07−509261(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00−177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で示されるポリオキシアルキレン基側鎖が主鎖に結合し、粘度平均重合度が200以上5000以下であり、けん化度が40モル%以上99.99モル%以下であり、ポリオキシアルキレン基変性率が0.05モル%以上10モル%以下であるポリオキシアルキレン変性ビニルアルコール系重合体を含有する潤滑剤。
【化1】
(一般式(I)中、Rは水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を表す。RおよびRは、いずれか一方がメチル基またはエチル基であり、他方が水素原子である。10≦m≦40であり、1≦n≦50である。Xは−O−、−CH−O−、−CO−、−(CH−、−CO−O−または−CO−NR−を表す。ここでRは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、1≦k≦15である。bは、2つの繰り返し単位がブロックを構成することを意味する。)」
【請求項2】
溶媒をさらに含有し、この溶媒の少なくとも一部が水である請求項1に記載の潤滑剤。
【請求項3】
前記溶媒100質量部に対する、前記ポリオキシアルキレン変性ビニルアルコール系重合体の含有量が1質量部以上70質量部以下である請求項2に記載の潤滑剤。
【請求項4】
請求項2または3に記載の潤滑剤からなる水系作動液。
【請求項5】
請求項2または3に記載の潤滑剤からなる水系切削剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑剤に関する。より詳細には、温度上昇時にも潤滑性に優れる潤滑剤に関する。
【背景技術】
【0002】
水系潤滑剤は、非水系の潤滑剤に比べて冷却性に優れ、不燃性であるため安全性が高いといった利点があり、作動油や、金属加工油等の切削油などとして広く利用されている。上記水系潤滑剤の基油には、エマルジョンとして含有される鉱物油やポリオレフィンなどの他、水溶性樹脂が用いられる。
【0003】
上記水溶性樹脂には、水溶性や増粘性等が要求される。そこで、上記水溶性樹脂として特定のポリアルキレングリコールを用いた水系潤滑剤が開発されている(特許文献1および2参照)。しかしながら、これらのポリアルキレングリコールを用いた水系潤滑剤も上記諸性能が十分であるとは言えない。また、ポリアルキレングリコールを用いた水系潤滑剤は高温下での粘度が低下するため、特に高温下で十分な潤滑性を得ることが困難であった。
【0004】
上述のような背景の中、上記水溶性樹脂として、水溶性に優れ、増粘性を有するビルアルコール系重合体(以下、「PVA」と略記することがある)を用いることも提案されている。しかしながら、一般的なPVAを基油として用いても、高温下での粘度が低下するため、特に高温下での十分な潤滑性等を有する潤滑剤を得ることは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−212578号公報
【特許文献2】特開2006−83378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の事情に基づいてなされたものであり、温度上昇時にも潤滑性に優れる潤滑剤およびそれからなる水系作動液または水系切削剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは鋭意検討した結果、水溶性および増粘性が高く感温増粘性を示す特定の変性PVAを基油として用いることにより上記課題が解決されることを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、
[1]下記一般式(I)で示されるポリオキシアルキレン(以下、「ポリオキシアルキレン」を「POA」と略記することがある)基側鎖が主鎖に結合し、粘度平均重合度が200以上5000以下であり、けん化度が40モル%以上99.99モル%以下であり、ポリオキシアルキレン基変性率が0.05モル%以上10モル%以下であるPOA変性PVAを含有する潤滑剤;
【化1】
(一般式(I)中、Rは水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を表す。RおよびRは、いずれか一方がメチル基またはエチル基であり、他方が水素原子である。10≦m≦40であり、1≦n≦50である。Xは−O−、−CH−O−、−CO−、−(CH−、−CO−O−または−CO−NR−を表す。ここでRは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、1≦k≦15である。bは、2つの繰り返し単位がブロックを構成することを意味する。
[2]溶媒をさらに含有し、この溶媒の少なくとも一部が水である上記[1]の潤滑剤;
[3]前記溶媒100質量部に対する、前記POA変性PVAの含有量が1質量部以上70質量部以下である上記[2]の潤滑剤;
[4]上記[2]または[3]の潤滑剤からなる水系作動液;
[5]上記[2]または[3]の潤滑剤からなる水系切削剤;
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の潤滑剤は、温度上昇時にも潤滑性に優れる。したがって、本発明の潤滑剤は、例えば、水系作動液(水系作動油)や水系切削剤(水系切削油)として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳説する。
【0011】
本発明の潤滑剤は、以下のPOA変性PVAを含有し、さらに溶媒を含有することが好ましい。当該POA変性PVAを含有することにより、これが潤滑剤の基油として作用することができ、温度上昇時にも潤滑性に優れる潤滑剤となる。
【0012】
<POA変性PVA>
上記POA変性PVAは、上記一般式(I)で示されるPOA基を側鎖に有する。当該POA変性PVAは、例えば、ポリオキシプロピレンブロック(一般式(I)中のRおよびRの一方がメチル基の場合)またはポリオキシブチレンブロック(一般式(I)中のRおよびRの一方がエチル基の場合)と(ポリ)オキシエチレンブロックとから構成される上記一般式(I)で示されるPOA基を側鎖に有する単量体単位とビニルアルコール単位(−CH−CHOH−)とを含む共重合体であり、さらに他の単量体単位を有していてもよい。
【0013】
上記POA変性PVAが側鎖に有する一般式(I)で示されるPOA基は、オキシプロピレンまたはオキシブチレンユニットの繰り返し単位数がmであるポリオキシプロピレンまたはポリオキシブチレンブロックとオキシエチレンユニットの繰り返し単位数がnである(ポリ)オキシエチレンブロックから構成され、なおかつ該(ポリ)オキシエチレンブロックがPOA基の末端側に配置されたものである。ここで、nが1である場合、上記POA基はポリオキシプロピレンまたはポリオキシブチレンブロックとオキシエチレンブロックとから構成されることになり、nが2以上である場合、上記POA基はポリオキシプロピレンまたはポリオキシブチレンブロックとポリオキシエチレンブロックとから構成されることになる。POA基がこのような構造を有することにより、POA基同士の相互作用が発現し、高温時における粘度低下が抑制され、温度上昇時にも高い潤滑性を発揮することができる。
【0014】
上記一般式(I)で示されるPOA基中のオキシプロピレンまたはオキシブチレンユニットの繰り返し単位数mは10≦m≦40である必要があり、15≦m≦38が好ましく、20≦m≦35がより好ましい。mが10未満の場合、POA基同士の相互作用が十分に発現せず、温度上昇時の潤滑性が十分に発揮されない。また、オキシエチレンユニットの繰り返し単位数nは1≦n≦50である必要があり、3≦n≦40が好ましく、5≦n≦10がより好ましい。nが0の場合や、50を超える場合、POA基同士の相互作用が十分に発現せず、潤滑剤としての機能が十分に発揮されない。
【0015】
上記一般式(I)で示されるPOA基中のRは水素原子または炭素数1〜8のアルキル基である。Rは、水素原子、メチル基またはブチル基が好ましく、水素原子またはメチル基がより好ましい。
【0016】
上記一般式(I)で示されるPOA基中の、RおよびRは、いずれか一方がメチル基またはエチル基であり、他方が水素原子である。このとき、Rがメチル基またはエチル基であり、Rが水素原子であることがPOA変性PVAを製造し易いため好ましく、Rがメチル基であり、Rが水素原子であることがより好ましい。なお、1つの上記POA基において、複数存在するRおよび複数存在するRは、それぞれ、典型的には互いに同じものであるが、例えば、複数存在するRのうちの一部がメチル基であり、残りがエチル基である場合のように、互いに同じものでなくてもよい。
【0017】
本発明の潤滑剤に含有されるPOA変性PVAの製造方法は特に制限されないが、上記一般式(I)で示されるPOA基を有する不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合を行い、得られるPOA変性ビニルエステル系重合体をけん化する方法が好ましい。
【0018】
ここで、上記不飽和単量体としては、下記一般式(II)で示される不飽和単量体が好ましい。したがって、POA変性PVAの製造方法としては、一般式(I)で示されるPOA基を有する、下記一般式(II)で示される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合を行い、得られるPOA変性ビニルエステル系重合体をけん化する方法がより好ましい。
【0019】
【化2】
【0020】
一般式(II)中、R、R、R、m、nは上記一般式(I)と同様である。Rは水素原子または−COOM基を表し、ここでMは水素原子、アルカリ金属またはアンモニウム基を表す。Rは水素原子、メチル基または−CH−COOM基を表し、ここでMは前記定義のとおりである。なお、RのMとRのMは同一であっても異なっていてもどちらでもよい。Xは−O−、−CH−O−、−CO−、−(CH−、−CO−O−または−CO−NR−、−CO−NR−CH−を表す。なお、Xが非対称の場合にその向きは限定されない。ここでRは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、1≦k≦15である。
【0021】
上記Xとしては、POA基側を「*」としたときに、−CO−NH−*または−CH−O−が好ましく、−CO−NH−*がより好ましい。
【0022】
上記一般式(II)で示される不飽和単量体において、R、R、R、m、nの好ましい例示や数値範囲は、一般式(I)の説明において上記したものと同様であり、特に一般式(II)で示される不飽和単量体の合成のしやすさの観点から、Rがメチル基またはエチル基であり、Rが水素原子であることが好ましく、Rがメチル基であり、Rが水素原子であることがより好ましい。
【0023】
また、上記一般式(II)で示される不飽和単量体において、Rが水素原子またはメチル基であり、Rが水素原子であり、Rが水素原子またはメチル基であることが好ましい。
【0024】
上記一般式(II)のRが水素原子、Rが水素原子、Rが水素原子またはメチル基の場合、一般式(II)で示される不飽和単量体としては、ポリオキシアルキレンモノ(メタ)アクリルアミド、ポリオキシアルキレンモノ(メタ)アリルエーテル、ポリオキシアルキレンモノビニルエーテル、ポリオキシアルキレンモノ(メタ)アクリレート等が挙げられ、具体的には、ポリオキシプロピレン(ポリ)オキシエチレンモノアクリルアミド、ポリオキシブチレン(ポリ)オキシエチレンモノアクリルアミド、ポリオキシプロピレン(ポリ)オキシエチレンモノメタクリルアミド、ポリオキシブチレン(ポリ)オキシエチレンモノメタクリルアミド、ポリオキシプロピレン(ポリ)オキシエチレンモノアリルエーテル、ポリオキシブチレン(ポリ)オキシエチレンモノアリルエーテル、ポリオキシプロピレン(ポリ)オキシエチレンモノメタリルエーテル、ポリオキシブチレン(ポリ)オキシエチレンモノメタリルエーテル、ポリオキシプロピレン(ポリ)オキシエチレンモノビニルエーテル、ポリオキシブチレン(ポリ)オキシエチレンモノビニルエーテル、ポリオキシプロピレン(ポリ)オキシエチレンモノアクリレート、ポリオキシブチレン(ポリ)オキシエチレンモノアクリレート、ポリオキシプロピレン(ポリ)オキシエチレンモノメタクリレート、ポリオキシブチレン(ポリ)オキシエチレンモノメタクリレート等が挙げられる。中でも、ポリオキシプロピレン(ポリ)オキシエチレンモノアクリルアミド、ポリオキシプロピレン(ポリ)オキシエチレンモノメタクリルアミド、ポリオキシプロピレン(ポリ)オキシエチレンモノアリルエーテルが好適に用いられ、ポリオキシプロピレン(ポリ)オキシエチレンモノメタクリルアミド、ポリオキシプロピレン(ポリ)オキシエチレンモノアリルエーテルが特に好適に用いられる。
【0025】
上記一般式(II)のRが炭素数1〜8のアルキル基の場合、一般式(II)で示される不飽和単量体として具体的には、一般式(II)のRが水素原子の場合に例示した上記の不飽和単量体の末端の水酸基が炭素数1〜8のアルコキシ基に置換されたものが挙げられる。中でも、ポリオキシプロピレン(ポリ)オキシエチレンモノメタクリルアミド、ポリオキシプロピレン(ポリ)オキシエチレンモノアリルエーテルの末端の水酸基がメトキシ基に置換された不飽和単量体が好適に用いられ、ポリオキシプロピレン(ポリ)オキシエチレンモノメタクリルアミドの末端の水酸基がメトキシ基に置換された不飽和単量体が特に好適に用いられる。
【0026】
上記一般式(II)で示される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合を行う際の温度は特に限定されないが、0℃以上200℃以下が好ましく、30℃以上140℃以下がより好ましい。共重合を行う温度が0℃より低い場合は、十分な重合速度が得られにくい。また、重合を行う温度が200℃より高い場合、本発明で規定するPOA基変性率を有するPOA変性PVAが得られにくい。共重合を行う際に採用される温度を0℃以上200℃以下に制御する方法としては、例えば、重合速度を制御することで、重合による発熱と反応器の表面からの放熱とのバランスをとる方法や、適当な熱媒を用いた外部ジャケットにより制御する方法等が挙げられるが、安全性の面からは後者の方法が好ましい。
【0027】
上記一般式(II)で示される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合を行うのに採用される重合方式としては、回分重合、半回分重合、連続重合、半連続重合のいずれでもよい。重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等、公知の方法の中から、任意の方法を採用することができる。その中でも、無溶媒またはアルコール系溶媒存在下で重合を行う塊状重合法や溶液重合法が好適に採用される。高重合度の共重合物の製造を目的とする場合は乳化重合法が採用される。塊状重合法または溶液重合法に用いられるアルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。またこれらの溶媒は2種類またはそれ以上を併用することができる。
【0028】
共重合に使用される開始剤としては、重合方法に応じて従来公知のアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤等を適宜選択すればよい。アゾ系開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等が挙げられ、過酸化物系開始剤としては、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート化合物;t−ブチルパーオキシネオデカネート、α−クミルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシデカネート等のパーエステル化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド;2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテートなどが挙げられる。さらには、上記開始剤に過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等を組み合わせて開始剤とすることもできる。また、レドックス系開始剤としては、上記の過酸化物と亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、L−アスコルビン酸、ロンガリット等の還元剤とを組み合わせたものが挙げられる。
【0029】
また、上記一般式(II)で示される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合を高い温度で行った場合、ビニルエステル系単量体の分解に起因するPOA変性PVAの着色等が見られることがある。その場合には着色防止の目的で重合系に酒石酸のような酸化防止剤を1ppm以上100ppm以下(ビニルエステル系単量体の質量に対して)程度添加すればよい。
【0030】
共重合に使用されるビニルエステル系単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニル等が挙げられる。中でも酢酸ビニルが最も好ましい。
【0031】
上記一般式(II)で示される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合に際して、本発明の趣旨を損なわない範囲で他の単量体を共重合してもよい。使用しうる単量体として、例えば、エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブチレン等のα−オレフィン;アクリル酸およびその塩;アクリル酸エステル類;メタクリル酸およびその塩;メタクリル酸エステル類;アクリルアミド;N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩またはその4級塩、N−メチロールアクリルアミドおよびその誘導体等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド;N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩またはその4級塩、N−メチロールメタクリルアミドおよびその誘導体等のメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル、2,3−ジアセトキシ−1−ビニルオキシプロパン等のビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;塩化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン類;酢酸アリル、2,3−ジアセトキシ−1−アリルオキシプロパン、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸およびその塩またはそのエステル;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニル等が挙げられる。
【0032】
また、上記一般式(II)で示される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合に際し、得られるPOA変性ビニルエステル系重合体の重合度を調節すること等を目的として、本発明の趣旨を損なわない範囲で連鎖移動剤の存在下で共重合を行ってもよい。連鎖移動剤としては、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等のアルデヒド類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;2−ヒドロキシエタンチオール等のメルカプタン類;トリクロロエチレン、パークロロエチレン等のハロゲン化炭化水素類;ホスフィン酸ナトリウム1水和物等のホスフィン酸塩類などが挙げられ、中でもアルデヒド類およびケトン類が好適に用いられる。連鎖移動剤の添加量は、添加する連鎖移動剤の連鎖移動定数および目的とするPOA変性ビニルエステル系重合体の重合度に応じて決定することもできるが、一般にビニルエステル系単量体に対して0.1質量%以上10質量%以下が望ましい。
【0033】
POA変性ビニルエステル系重合体のけん化反応には、従来公知の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド等の塩基性触媒またはp−トルエンスルホン酸等の酸性触媒を用いた加アルコール分解反応ないし加水分解反応を適用することができる。この反応に使用しうる溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素等が挙げられ、これらは単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。中でもメタノールまたはメタノール/酢酸メチル混合溶液を溶媒とし、水酸化ナトリウムを触媒に用いてけん化反応を行うのが簡便であり好ましい。
【0034】
上記POA変性PVAのPOA基変性率(S)は0.05モル%以上10モル%以下である必要があり、0.1モル%以上2モル%以下が好ましく、0.15モル%以上1.5モル%以下がより好ましい。POA基変性率が10モル%を超えると、POA変性PVA一分子あたりに含まれるPOA基の割合が高くなることで、POA変性PVAの水溶性が低下し、潤滑性が十分に発現しない。一方、POA基変性率が0.05モル%未満の場合、POA変性PVAの水溶性は優れているものの、該POA変性PVA中の一分子あたりに含まれるPOA基の割合が低く、POA基同士の相互作用に起因する物性が十分に発現しない。なお、このPOA基変性率は、POA変性PVAを構成する全単量体単位のモル数に占める、当該POA変性PVAが側鎖に有する上記一般式(I)で示されるPOA基のモル数の割合(モル%)である。POA基変性率は、POA変性PVAから求めても、その前駆体であるPOA変性ビニルエステル系重合体から求めてもどちらでもよく、いずれもプロトンNMRで求めることができる。
【0035】
例えば、POA変性PVAがビニルアルコール単位、酢酸ビニル単位および上記一般式(II)で示される不飽和単量体としてポリオキシプロピレン(ポリ)オキシエチレンモノメタクリルアミド単位のみからなる場合は、下記の方法によりPOA基変性率を算出することができる。すなわち、例えば、前駆体であるPOA変性ビニルエステル系重合体(POA変性ポリ酢酸ビニル)から求める場合、具体的には、まず、n−ヘキサン/アセトン混合溶媒を用いてPOA変性ビニルエステル系重合体の再沈精製を3回以上十分に行った後、50℃の減圧下で乾燥を2日間行い、分析用のPOA変性ビニルエステル系重合体のサンプルを作製する。次に、該サンプルをCDClに溶解させ、プロトンNMRを用いて室温で測定する。そして、ビニルエステル系単量体の主鎖メチンのプロトンに由来するピークα(4.7〜5.2ppm)の面積とオキシプロピレンユニットの末端メチル基のプロトンに由来するピークβ(0.8〜1.0ppm)の面積とから下記式を用いてPOA基変性率を算出することができる。なお、式中のmはオキシプロピレンユニットの繰り返し単位数を表す。

POA基変性率(S)(モル%)=[(ピークβの面積/3m)/{ピークαの面積+(ピークβの面積/3m)}]×100
【0036】
POA変性PVAが上記構造以外の構造を有する場合であっても、算出の対象とするピークや算出式を適宜変更することにより上記POA基変性率を容易に求めることができる。
【0037】
上記POA変性PVAの粘度平均重合度は200以上5000以下である必要があり、1000以上4000以下が好ましく、1500以上3500以下がより好ましい。POA変性PVAの粘度平均重合度が5000を超えると、該POA変性PVAの生産性が低下して実用的でない。また、POA変性PVAの粘度平均重合度が200未満の場合、得られる潤滑剤の粘度が低下し、潤滑性が十分に発現しない。
【0038】
POA変性PVAの粘度平均重合度は、JIS K6726に準じて測定される。すなわち、該POA変性PVAを再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](単位:デシリットル/g)から次式により求められる。

粘度平均重合度=([η]×10/8.29)(1/0.62)
【0039】
上記POA変性PVAのけん化度は、40モル%以上99.99モル%以下である必要があり、50モル%以上99.5モル%以下が好ましく、60モル%以上99モル%以下がよりに好ましい。POA変性PVAのけん化度が40モル%未満の場合には、上記POA変性PVAの水溶性等が低下すると共に、得られる潤滑剤の潤滑性等が低下する。逆に、POA変性PVAのけん化度が99.99モル%を超えると、POA変性PVAの生産が困難になるので実用的でない。なお、上記POA変性PVAのけん化度は、JIS K6726に準じて測定し得られる値である。
【0040】
POA変性PVAの4質量%水溶液の粘度を、ロータ回転数が6rpmの条件でBL型粘度計により測定したとき、20℃における粘度ηと40℃における粘度ηとの比η/ηは2.0以上が好ましく、3.0以上がより好ましく、5.0以上がさらに好ましく、8.0以上が特に好ましい。比η/ηが2.0未満の場合、POA基同士の相互作用が小さく、POA変性に伴う物性が十分に発現しない場合がある。比η/ηの上限は特に限定されないが、比η/ηは100以下であることが好ましい。
【0041】
<溶媒>
上記溶媒としては、特に限定されず、水、有機溶媒等を挙げることができるが、溶媒の少なくとも一部が水であることが好ましい。溶媒の少なくとも一部として水を用いることで、当該潤滑剤は水系潤滑剤として好適に用いることができる。
【0042】
上記溶媒における水の含有割合としては、10質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。
【0043】
上記有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、
メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒;
酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル系溶媒;
ジエチルエーテル、1,4−ジオキサン、メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、メチル−t−ブチルエーテル、ブチルカルビトール等のエーテル系溶媒;
アセトン、ジエチルケトン等のケトン系溶媒;
エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のグリコール系溶媒;
ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等のグリコールエーテル系溶媒;
エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のグリコールエステル系溶媒;
などを挙げることができる。
【0044】
これらの中でも、水溶性の有機溶媒が好ましく、グリコール系溶媒がより好ましい。
【0045】
本発明の潤滑剤において、上記溶媒100質量部に対する上記POA変性PVAの含有量は特に限定されないが、1質量部以上70質量部以下が好ましく、3質量部以上50質量部以下がより好ましく、4質量部以上20質量部以下がさらに好ましい。上記溶媒に対する上記POA変性PVAの含有量を上記範囲とすることで、潤滑性および作業性に優れる潤滑剤を容易に得ることができる。
【0046】
なお、当該潤滑剤は、例えば、上記溶媒に上記POA変性PVAを添加し、加熱撹拌することなどにより調製することができる。
【0047】
<他の基油>
本発明の潤滑剤は、本発明の趣旨を損なわない範囲で、他の潤滑剤基油を含んでいてもよい。当該他の潤滑剤基油としては、鉱油、合成油、油脂等を挙げることができる。
【0048】
上記鉱油は、天然の原油から分離されるものであり、通常、原油を蒸留、精製等することで製造される。鉱油の主成分は炭化水素(パラフィン類等)であり、その他ナフテン、芳香族成分等を含有している。これらを水素化精製、溶剤脱れき、溶剤抽出、溶剤脱ろう、水添脱ろう、接触脱ろう、水素化分解、アルカリ蒸留、硫酸洗浄、白土処理等の精製を行った基油も好ましく使用することができる。
【0049】
上記合成油とは、化学的に合成された油であって、例えば、ポリ−α−オレフィン、ポリイソブチレン(ポリブテン)、ジエステル、ポリオールエステル、リン酸エステル、ケイ酸エステル、本発明で用いられるPOA変性PVA以外のポリアルキレングリコール化合物、ポリフェニルエーテル、シリコーン、フッ素化化合物、アルキルベンゼン等を挙げることができる。
【0050】
上記油脂としては、例えば、
アマニ油、エノ油、オイチシカ油、オリーブ油、カカオ脂、カポック油、白カラシ油、ゴマ油、コメヌカ油、サフラワー油、シアナット油、シナキリ油、大豆油、茶実油、ツバキ油、コーン油、ナタネ油、パーム油、パーム核油、ひまし油、ひまわり油、綿実油、ヤシ油、木ロウ、落花生油等の植物性油脂;
馬脂、牛脂、牛脚脂、牛酪脂、豚脂、山羊脂、羊脂、乳脂、魚油、鯨油等の動物性油脂;
またはこれらの水素化物などを挙げることができる。
【0051】
<その他の添加剤>
本発明の潤滑剤は、本発明の趣旨を損なわない範囲で、通常の潤滑剤に用いられる添加剤をさらに含んでいてもよい。当該添加剤としては、例えば、油性剤、摩擦緩和剤、極圧剤、酸化防止剤、消泡剤、流動点降下剤、乳化剤、界面活性剤、防錆剤、防腐剤等を挙げることができる。
【0052】
上記油性剤としては、例えば、
ヘキサン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノレイン酸、12−ヒドロキシステアリン酸等の脂肪酸;
ダイマー酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、トリマー酸、ナフテン酸、9(または10)−(4−ヒドロキシフェニル)オクタデカン酸等の、脂肪酸以外のカルボン酸;
ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン等のアミン;
ラウリルアミド、ミリスチルアミド、パルミチルアミド、ステアリルアミド、オレイルアミド等のアミド;
またはこれらの塩などが挙げられる。
【0053】
これらの中でも、特に、当該潤滑剤を水系潤滑剤として用いる場合は、上記脂肪酸または脂肪酸以外のカルボン酸をアルカリ金属塩またはアルカノールアミン塩として用いることが好ましい。上記アルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等が挙げられる。アルカノールアミンとしては、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−シクロヘキシルジエタノールアミン、N,N,N’,N’−テトラキス(2−ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン等が挙げられる。なお、これらの化合物の中には、防錆性能、乳化性能を有するものもある。
【0054】
上記摩擦緩和剤としては、例えば、
ヘキサン酸(モノ、ジまたはトリ)グリセリド、オクタン酸(モノ、ジまたはトリ)グリセリド、デカン酸(モノ、ジまたはトリ)グリセリド、ラウリン酸(モノ、ジまたはトリ)グリセリド、ミリスチン酸(モノ、ジまたはトリ)グリセリド、パルミチン酸(モノ、ジまたはトリ)グリセリド、ステアリン酸(モノ、ジまたはトリ)グリセリド、オレイン酸(モノ、ジまたはトリ)グリセリド、リシノレイン酸または12−ヒドロキシステアリン酸重縮合物等のエステル類;
硫化オキシモリブデンジアルキルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジアルキルジチオホスフェート、ジンクジアルキルジチオホスフェート、ジンクジアルキルジチオカーバメート等の金属塩類;
(ポリ)グリセリンオレイルエーテル、(ポリ)グリセリンラウリルエーテル等の(ポリ)グリセリンエーテル;
などが挙げられる。これらの化合物の中には、防錆性能、酸化防止性能、乳化性能を有するものもある。
【0055】
上記極圧剤としては、例えば、
硫化オレフィン、硫化パラフィン、硫化ポリオレフィン、硫化ラード、硫化魚油、硫化鯨油、硫化大豆油、硫化ピネン油、硫化フェノール、硫化アルキルフェノール、硫化脂肪酸、ジアルキルポリスルフィド、ジベンジルジスルフィド、ジフェニルジスルフィド、ポリフェニレンスルフィド、アルキルメルカプタン、アルキルスルホン酸、ジチオカルバミン酸エステル、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール誘導体、チウラムジスルフィド、ジアルキルジチオリン酸2量体等の硫黄系化合物;
ブチル(チオもしくはジチオ)ホスフェートまたはホスファイト、ヘキシル(チオもしくはジチオ)ホスフェートまたはホスファイト、オクチル(チオもしくはジチオ)ホスフェートまたはホスファイト、2−エチルヘキシル(チオもしくはジチオ)ホスフェートまたはホスファイト、ノニル(チオもしくはジチオ)ホスフェートまたはホスファイト、デシル(チオもしくはジチオ)ホスフェートまたはホスファイト、ラウリル(チオもしくはジチオ)ホスフェートまたはホスファイト、ミリスチル(チオもしくはジチオ)ホスフェートまたはホスファイト、パルミチル(チオもしくはジチオ)ホスフェートまたはホスファイト、ステアリル(チオもしくはジチオ)ホスフェートまたはホスファイト、オレイル(チオもしくはジチオ)ホスフェートまたはホスファイト、フェニル(チオもしくはジチオ)ホスフェートまたはホスファイト、クレジル(チオもしくはジチオ)ホスフェートまたはホスファイト等の(チオもしくはジチオ)リン酸または亜リン酸系化合物;
などが挙げられる。これらの化合物の中には、酸化防止性能を有するものもある。
【0056】
上記酸化防止剤としては、例えば、
2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,6−ビス(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、3−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸オクチル、3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸オレイル、3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ドデシル、3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオン酸オクチル、3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオン酸オレイル、3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオン酸ドデシル、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,6−ジ−t−ブチル−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−(N,N’−ジメチルアミノメチル)フェノール、ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)サルファイド、トリス{(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル}イソシアヌレート、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾイル)イソシアヌレート、ビス{2−メチル−4−(3−n−アルキルチオプロピオニルオキシ)−5−t−ブチルフェニル}サルファイド、1,3,5−トリス(4−ジ−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート、テトラフタロイル−ビス(2,6−ジメチル−4−t−ブチル−3−ヒドロキシベンジルサルファイド)、6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−2,4−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−{ジエチル−ビス−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)}プロピオネート、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシナミド)、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル−リン酸ジエステル、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルベンジル)サルファイド等のフェノール系酸化防止剤;
1−ナフチルアミン、フェニル−1−ナフチルアミン、p−オクチルフェニル−1−ナフチルアミン、p−ノニルフェニル−1−ナフチルアミン、p−ドデシルフェニル−1−ナフチルアミン、フェニル−2−ナフチルアミン等のナフチルアミン系酸化防止剤;
N,N’−ジイソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジイソブチル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−β−ナフチル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N−シクロヘキシル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−1,3−ジメチルブチル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、ジオクチル−p−フェニレンジアミン、フェニルヘキシル−p−フェニレンジアミン、フェニルオクチル−p−フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン系酸化防止剤;
ジピリジルアミン、ジフェニルアミン、4,4’−ジ−n−ブチルジフェニルアミン、4,4’−ジ−t−ブチルジフェニルアミン、4,4’−ジ−t−ペンチルジフェニルアミン、4,4’−ジノニルジフェニルアミン、4,4’−ジデシルジフェニルアミン、4,4’−ジドデシルジフェニルアミン、4,4’−ジスチリルジフェニルアミン、4,4’−ジメトキシジフェニルアミン、4,4’−ビス(4−α,α−ジメチルベンゾイル)ジフェニルアミン、p−イソプロポキシジフェニルアミン等のジフェニルアミン系酸化防止剤;
ジオクチルチオジプロピオネート、ジデシルチオジプロピオネート、ジラウリルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ラウリルステアリルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジステアリル−β,β’−チオジブチレート、(3−オクチルチオプロピオン酸)ペンタエリスリトールテトラエステル、(3−デシルチオプロピオン酸)ペンタエリスリトールテトラエステル、(3−ラウリルチオプロピオン酸)ペンタエリスリトールテトラエステル、(3−ステアリルチオプロピオン酸)ペンタエリスリトールテトラエステル、(3−オレイルチオプロピオン酸)ペンタエリスリトールテトラエステル、2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプトメチルベンズイミダゾール、2−ベンズイミダゾールジスルフィド、ジラウリルサルファイド、アミルチオグリコレート等の硫黄系酸化防止剤;
ニッケルジチオカーバメート、ジンク−2−メルカプトベンズイミダゾール等の金属塩系酸化防止剤;
などが挙げられる。
【0057】
防錆剤としては、例えば、
カルシウムスルホネート、カルシウムフェネート、カルシウムサリシレート、マグネシウムスルホネート、マグネシウムフェネート、マグネシウムサリシレート、バリウムスルホネート、バリウムフェネート、バリウムサリシレート等が挙げられる。
【0058】
界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノアルキル(またはアリール)エーテル、ポリエチレングリコールジアルキル(またはアリール)エーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体、ポリオールエステル、ポリエーテルポリオール、アルカノールアミド、アルキル(ベンゼン)スルホン酸、石油スルホネート等が挙げられる。これら界面活性剤は油性剤または乳化剤としても作用することがある。
【0059】
<用途>
上述したように、本発明の潤滑剤は温度上昇時にも潤滑性に優れるため、例えば、工業用潤滑油、タービン油、マシン油、軸受油、圧縮機油、油圧油、作動油、内燃機関油、冷凍機油、ギヤ油、自動変速機用油(ATF)、連続可変無段変速機用油(CVT油)、トランスアクスル流体、コンプレッサー油、金属加工油、熱媒油等の各種潤滑剤として用いることができる。また、すべり軸受、転がり軸受、歯車、ユニバーサルジョイント、トルクリミッタ、自動車用等速ジョイント(CVJ)、ボールジョイント、ホイールベアリング、等速ギヤ、変速ギヤ等の各種グリース等として使用することもできる。
【0060】
また、本発明の潤滑剤は、水を含有する水系潤滑剤、具体的には、水系作動液、水系切削剤、水系研磨液、水系ダイキャスト潤滑剤、水系圧延液、水系鍛造用潤滑剤、水系焼入剤、水系熱伝導剤等として用いることができる。これらの中でも、本発明の効果をより一層発揮できる点から、水系作動液または水系切削剤として用いることが好ましい。
【実施例】
【0061】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の実施例および比較例において、「部」および「%」は、特に断りのない限り質量基準を意味する。
【0062】
下記の製造例により得られた各PVAについて、以下の方法にしたがって各測定または評価を行った。
【0063】
[粘度平均重合度およびけん化度]
PVAの粘度平均重合度およびけん化度は、JIS K6726に記載の方法により求めた。
【0064】
[POA基変性率]
PVAのPOA基変性率は、上述したプロトンNMRを用いた方法に準じて求めた。なお、プロトンNMRは、JEOL GX−500(500MHz)を用いた。
【0065】
[水溶液の感温増粘性]
蒸留水96gに対してPVA4gを室温で加え、30分間撹拌した。その後90℃まで昇温し、そのまま1時間撹拌した後、室温まで冷却することでPVAの4質量%水溶液を調製した。この水溶液についてBL型粘度計を用いて、ロータ回転数6rpmで温度が20℃における粘度ηおよび40℃における粘度ηを測定し、これらの粘度の比η/ηを求め、感温増粘性の指標とした。
【0066】
[水溶性]
上記水溶液の感温増粘性の評価において調製したPVAの4質量%水溶液を目視で観察し、以下の基準により、PVAの水溶性を評価した。
A:均一透明
B:やや青白い
C:白濁、一部不溶
D:不溶分が多い
【0067】
[製造例1]
PVA1の製造
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、単量体滴下口および開始剤の添加口を備えた3Lの反応器に、酢酸ビニル900g、メタノール100g、POA基を有する不飽和単量体である単量体A(単量体Aは一般式(II)で示され、R〜R、X、mおよびnは表2に示すとおりである。オキシプロピレンユニットとオキシエチレンユニットの配置は、ブロック状であり、オキシプロピレンユニットのブロックがオキシエチレンユニットのブロックに対して上記X側に位置する。)3.7gを仕込み、窒素バブリングをしながら30分間系内を窒素置換した。また、ディレー溶液として単量体Aをメタノールに溶解して濃度20%とした溶液を調製し、窒素ガスのバブリングにより窒素置換した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.25gを添加し重合を開始した。ディレー溶液を滴下して重合溶液中のモノマー組成(酢酸ビニルと単量体Aの比率)が一定となるようにしながら、60℃で3時間重合した後、冷却して重合を停止した。重合を停止するまでに使用した単量体Aの総量は17gであった。また重合停止時の固形分濃度は26.2%であった。続いて30℃、減圧下でメタノールを時々添加しながら未反応の酢酸ビニルの除去を行い、POA変性ビニルエステル系重合体(POA変性PVAc)のメタノール溶液(濃度35%)を得た。さらに、これにメタノールを加えて調製したPOA変性PVAcのメタノール溶液386g(溶液中のPOA変性PVAc100.0g)に、14.0gのアルカリ溶液(水酸化ナトリウムの10%メタノール溶液)を添加してけん化を行った(けん化溶液のPOA変性PVAc濃度25%、POA変性PVAc中の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比0.03)。アルカリ溶液を添加後、約1分でゲル状物が生成したので、これを粉砕器にて粉砕し、40℃で1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル500gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が終了したことを確認した後、濾別して白色固体を得、これにメタノール2000gを加えて室温で3時間放置する洗浄操作を行った。この洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られた白色固体を乾燥機中65℃で2日間放置して乾燥し、POA変性PVA(PVA1)を得た。
PVA1の粘度平均重合度、けん化度、POA基変性率、水溶液の感温増粘性および水溶性の各測定または評価結果を表3に示す。
【0068】
[製造例2〜13、16〜23および25]
PVA2〜13、16、i〜viiおよびixの製造
酢酸ビニルおよびメタノール(重合開始前)の仕込み量、重合時に使用するPOA基を有する不飽和単量体の種類(表2)およびその使用量、重合率、けん化時におけるPOA変性PVAcの濃度、酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比を表1に示すように変更したこと以外は、製造例1と同様の方法により各種のPOA変性PVA(PVA2〜13、16、i〜viiおよびix)を得た。
これらのPOA変性PVAの粘度平均重合度、けん化度、POA基変性率、水溶液の感温増粘性および水溶性の各測定または評価結果を表3に示す。
【0069】
[製造例14]
PVA14の製造
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管および開始剤の添加口を備えた3Lの反応器に、酢酸ビニル850g、メタノール150g、POA基を有する不飽和単量体である単量体I(単量体Iは一般式(II)で示され、R〜R、X、mおよびnは表2に示すとおりである。オキシプロピレンユニットとオキシエチレンユニットの配置は、ブロック状であり、オキシプロピレンユニットのブロックがオキシエチレンユニットのブロックに対して上記X側に位置する。)42gを仕込み、窒素バブリングをしながら30分間系内を窒素置換した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.25gを添加し重合を開始し、60℃で3時間重合した後、冷却して重合を停止した。重合停止時の固形分濃度は25.5%であった。続いて30℃、減圧下でメタノールを時々添加しながら未反応の酢酸ビニルの除去を行い、POA変性ビニルエステル系重合体(POA変性PVAc)のメタノール溶液(濃度30%)を得た。さらに、これにメタノールを加えて調製したPOA変性PVAcのメタノール溶液463.2g(溶液中のPOA変性PVAc120.0g)に、16.7gのアルカリ溶液(水酸化ナトリウムの10%メタノール溶液)を添加してけん化を行った(けん化溶液のPOA変性PVAc濃度25%、POA変性PVAc中の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比0.03)。アルカリ溶液を添加後、約1分でゲル状物が生成したので、これを粉砕器にて粉砕し、40℃で1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル500gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が終了したことを確認した後、濾別して白色固体を得、これにメタノール2000gを加えて室温で3時間放置する洗浄操作を行った。この洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られた白色固体を乾燥機中65℃で2日間放置して乾燥し、POA変性PVA(PVA14)を得た。
PVA14の粘度平均重合度、けん化度、POA基変性率、水溶液の感温増粘性および水溶性の各測定または評価結果を表3に示す。
【0070】
[製造例15および24]
PVA15およびviiiの製造
重合時に使用するPOA基を有する不飽和単量体の種類(表2)およびその使用量を表1に示すように変更したこと以外は、製造例14と同様の方法により各種のPOA変性PVA(PVA15およびviii)を得た。
これらのPOA変性PVAの粘度平均重合度、けん化度、POA基変性率、水溶液の感温増粘性および水溶性の各測定または評価結果を表3に示す。
【0071】
[製造例26および27]
PVAxおよびxiの製造
重合時に使用するPOA基を有する不飽和単量体として下記の構造を有する不飽和単量体(化合物IIIおよびIV)をそれぞれ使用し、その使用量、酢酸ビニルおよびメタノール(重合開始前)の仕込み量を表1に示すように変更したこと以外は、製造例1と同様の方法により各種のPOA変性PVA(PVAxおよびxi)を得た。
これらのPOA変性PVAの粘度平均重合度、けん化度、POA基変性率、水溶液の感温増粘性および水溶性の各測定または評価結果を表3に示す。
【0072】
【化3】
【0073】
(化合物IIIにおける、オキシプロピレンユニットとオキシエチレンユニットはそれぞれブロック状に配置されており、ポリオキシエチレンブロックとポリオキシプロピレンブロックの位置は上記式に記載されているとおりである。)
【0074】
【化4】
【0075】
(化合物IVにおける、オキシプロピレンユニットとオキシエチレンユニットはランダムに配置されている。)
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
[実施例1〜16および比較例1〜11]
水とプロピレングリコールとを1:1の質量比で混合して、混合溶媒を得た。この混合溶媒100部に対して、得られた表2に記載の各PVA5.3部を添加して、加熱撹拌して溶解させることで、実施例1〜16および比較例1〜11の潤滑剤(PVA固形分濃度:5%)を得た。
得られた各潤滑剤の温度上昇時の潤滑性を以下の方法にしたがって評価した。評価結果を表3に示す。
【0079】
[温度上昇時の潤滑性]
各潤滑剤について、振動摩擦摩耗試験機(オプチモール社製 SRV試験機)を用い、鋼球と平面の鋼ディスクとの点接触(荷重100N)における摩擦係数(10分間の平均値)を以下の条件で測定し、20℃と40℃の差(絶対値)を以下の基準にて評価した。
(試験条件)
振幅 :2mm
振動数 :50Hz
温度 :20℃、40℃
時間 :10分
(評価基準)
A:0.01未満
B:0.01以上0.03未満
C:0.03以上0.05未満
D:0.05以上
【0080】
【表3】
【0081】
上記表3に示されるように、実施例1〜16の各潤滑剤は、含有されるPOA変性PVAの水溶性、増粘性および感温増粘性が高く、、温度上昇時にも潤滑性に優れることが分かる。