(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の実施の形態においては便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらは互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細、補足説明等の関係にある。また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも良い。
【0015】
さらに、以下の実施の形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。同様に、以下の実施の形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数値および範囲についても同様である。
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0017】
(実施の形態1)
例えば電子線検査装置や電子線測長装置などの半導体プロセス用途の顕微鏡では、試料に応じて光学条件の多様な制御が求められる。こうした中、前述した従来方式のレンズアレイは、中心軸に近いレンズの結像位置と、レンズアレイ像面(レンズアレイ結像面又はクロスオーバー像面)の曲率を独立に制御することが出来ないため、所望の光学条件と像面湾曲収差補正を両立することが困難となっている。本実施の形態1では、この点に着目して、中心軸に近いレンズの結像位置と、レンズアレイ像面の曲率の独立制御を行える電子線応用装置を実現する。その具体的手段の一つとして、詳細は後述するが、レンズアレイを形成する電極を少なくとも4枚とし、そのうち少なくとも2枚の電極には個別の電圧を印加出来るよう構成する。電圧が印加可能な2枚の電極に設けられた開口の大きさは互いに異なるものとし、2枚のうち少なくとも1枚の電極は開口径が中心軸からの距離に応じて異なるよう設定する。
【0018】
《電子線応用装置の全体構成および動作》
図1は、本発明の実施の形態1による電子線応用装置の概略構成例を示す図である。
図1において、一点鎖線は、略回転対称に形成された光学系の対称軸が一致するべき軸であり、一次電子ビーム光路の基準となる。以下、中心軸と呼ぶ。電子銃101は、仕事関数の低い物質よりなる陰極102、陰極102に対して高い電圧を持つ陽極105、陰極と陽極の間に形成される加速電界に磁界を重畳する磁界重畳レンズ104からなる。本実施の形態では、大きな電流が得やすく電子放出も安定したショットキー型の陰極を用いる。陰極102から放出された一次ビーム103は、磁界重畳レンズ(電磁レンズ)104による集束作用を受けながら陽極105の方向に加速される。
【0019】
106はクロスオーバーである。コンデンサレンズ107は、所望の倍率でクロスオーバー106を結像し、第一のクロスオーバー像を形成する。コリメータレンズ108は、第一のクロスオーバー像から広がった一次ビームを略平行に整える。本実施の形態においては、コンデンサレンズ107、コリメータレンズ108はともに電磁レンズである。109は、同一基板で開口を2次元に配列したアパーチャーアレイであり、一次ビームを複数に分割する。本実施の形態において、アパーチャーアレイは25個の開口を有し、一次ビームは25本に分割される。
図1においては、このうち3本のビームについて図示している。
【0020】
分割された一次ビームはレンズアレイ110によって個別に集束され、25個のクロスオーバー像がレンズアレイ像面(レンズアレイ結像面又はクロスオーバー像面)112上に形成される。レンズアレイ像面112は後に説明するように中心軸の周りで対称な曲面である。111a,111b,111cは図示した3本のビームについてクロスオーバー像を示したものである。25本のビームはレンズアレイの集束作用を受けた後、トランスファーレンズ113aおよび113bの集束作用により、トランスファーレンズ結像面115上に結像する。
【0021】
トランスファーレンズ結像面115の付近にはウィーンフィルター114が設けられている。ウィーンフィルター114は、中心軸に対して概略垂直な面内に互いに直交する磁界と電界を発生させることにより、通過する電子に対してそのエネルギーに対応した偏向角度を与える。本実施の形態では、一次ビームが直進するように磁界と電界の強さが設定される。
【0022】
116a,116bは対物レンズであり、対になった2つの電磁レンズである。試料120には負の電圧が印加されており、試料と接地電圧に接続された接地電極118の間には一次ビームを減速させる電界が形成されている。一方、表面電界制御電極119は試料120の表面付近の電界強度を調整するための電極である。接地電極118、表面電界制御電極119および試料120が形成する電界は一次ビームに対して静電レンズとして作用する。25本の一次ビームはこの静電レンズと対物レンズ116a,116bの集束作用を受け、最終的には試料120上に25個のクロスオーバー像が結ばれる。
【0023】
対物レンズ中には静電8極型の偏向器117が設置されている。走査信号発生回路135より発生した走査信号が偏向器117に入力されると、偏向器内に略一様な偏向電界が形成され、偏向器内を通過する25本の一次ビームは、略同一方向に且つ略同一角度の偏向作用を受け、試料120上を走査する。試料120はステージ制御装置136の制御により移動可能なステージ121上に搭載されているため、試料上の所望の位置が25本の一次ビームにより走査されることになる。
【0024】
試料120上に到達した一次ビームは試料表面を構成する物質と相互作用する。これにより試料120から発生する反射電子・二次電子・オージェ電子等の二次的な電子の流れのことを、以下、二次ビームと呼ぶ。本実施の形態では25本の一次ビームが試料に到達するため、発生する二次ビームも25本であるが、
図1では3本の一次ビームについて図示しているため、二次ビームについても、3本の二次ビームについて122の符号と点線で図示している。
【0025】
試料120から発生した二次ビームは、試料に負の電圧が印加されているため、対物レンズ116a,116bに向かって加速される。その後、二次ビームは対物レンズ116a,116bの集束作用を受け、さらに、ウィーンフィルター114の偏向作用を受ける。これにより、二次ビームの軌道は一次ビームの軌道と分離される。一次ビームの軌道と分離された二次ビームは二次ビームにのみ作用する電磁レンズ123の集束作用を受ける。振り戻し偏向器124は二次ビームを対応する検出器に常に入射させるための偏向器であり、偏向器117に入力される走査信号と同期した走査信号が走査信号発生回路135により入力される。即ち、電磁レンズ123と振り戻し偏向器124の集束・偏向作用により、二次ビーム(
図1に示した3本の二次ビーム)は、検出器125a,125b,125cにより、個別に検出される。
【0026】
検出器125a,125b,125cにより検出された信号は、増幅回路126a,126b,126cによりそれぞれ増幅され、A/D変換器127によりデジタル化される。デジタル化された信号はシステム制御部128内の記憶装置129に画像データとして一旦格納される。その後、演算部130が画像の各種統計量の算出を行う。算出された統計量は画像表示装置131に表示される。二次ビームの検出から統計量算出までの処理は検出器毎に並列に行われる。なお、133は、キーボード、マウス等の入力装置であり、システム制御部128に対するユーザインタフェースを担う。また、コンデンサレンズ107およびコリメータレンズ108は、主に電子銃101からの電子ビームを整える役目を担うことから照射光学系等と呼ばれ、トランスファーレンズ113a,113bおよび対物レンズ116a,116bは、主に照射光学系を介して得られた電子ビームを試料120上に投影する役目を担うことから投影光学系等と呼ばれる。
【0027】
次に、各光学素子の制御について説明する。光学系制御回路134は、システム制御部128内にインストールされた計測条件設定プログラム132に従い、各光学素子を統一的に制御する。具体的には、電子銃101内に実装された引出電極(図示せず)に印加する電圧、電子銃の加速電圧(陰極102と陽極105の間に印加される電圧)、および電子銃内に磁界を重畳する電磁レンズ104に印加する電流を制御する。また、コンデンサレンズ107、コリメータレンズ108に印加する電流、レンズアレイ110に印加する電圧を制御する。また、トランスファーレンズ113a,113b、対物レンズ116a,116bに印加する電流を制御する。また、接地電極118、表面電界制御電極119に印加する電圧を制御する。また、ウィーンフィルター114に印加する電圧および電流を制御する。また、電磁レンズ123に印加する電流を制御する。
【0028】
《像面湾曲収差の補正方式の概要》
ここで、
図2A〜
図2Eを用いて、像面湾曲収差の補正の概要について説明する。
図2A〜
図2Dは、比較例となるレンズアレイを用いた場合の像面湾曲収差の一例を示す図であり、
図2Eは、本実施の形態1によるレンズアレイを用いた場合の像面湾曲収差の一例を示す図である。これらの図では簡単のために、レンズアレイ像面(レンズアレイ結像面又はクロスオーバー像面)と試料の間に2つのレンズが図示されているが、これは必要最小限の構成を示したものであり、
図1等のように、レンズアレイ像面と試料の間に3つ以上のレンズが設けられた場合であっても、同様の効果を得ることが出来る。
【0029】
図2Aは、レンズアレイ110による像面湾曲収差の補正を行わない場合について各ビーム(この例では5本のビーム)の軌道を示したものである。ここでは、レンズアレイ110が5本のビーム全てに対して等しい集束作用を与えるため、レンズアレイ像面(レンズアレイ結像面又はクロスオーバー像面)201は平面をなしている。一方、レンズ202およびレンズ203の像面湾曲収差により、結像位置が中心軸からの距離に依存し縦方向に異なる。このため、試料上の結像面204において、中心のビームのフォーカスを試料面に合わせても、中心軸から離れたビームではフォーカスが試料面からずれてしまう。
【0030】
これに対して、
図2Bは、特許文献2(特開2007−123599)に開示された電子線露光装置における像面湾曲収差の補正方式を説明する図である。この方式では、レンズ202および203の像面湾曲収差を予め求めた上で、レンズアレイ110の開口径を調整することにより、レンズアレイ像面(レンズアレイ結像面又はクロスオーバー像面)201の曲率を制御している。その結果、試料上の結像面204において、全てのビームのフォーカスを中心軸からの距離に依存せずに試料面に合わせることができる。
【0031】
ここで、
図2C〜
図2Dを用いて、
図2Aおよび
図2Bに対してレンズ202,203の倍率を変化させることにより、試料上の結像面204におけるビームの間隔を変化させる場合について考える。このように、2つ以上のレンズの強度のバランスを変えることにより焦点の位置を変えずに倍率を変動させることはズームと呼ばれる。この時、新たな課題となるのが、倍率の変化に伴う像面湾曲収差の変化である。
図2Cは、レンズアレイ110による像面湾曲収差の補正を行わない場合の結像面204におけるビームの軌道を示した図であり、倍率変化前の
図2Aと比較すると、同様の像面湾曲収差が生じていると共にその曲率が異なっている。
【0032】
また、特許文献2の補正方式を用いた場合でも、特定の倍率を想定した上で像面湾曲収差を求め、それに基づいてレンズアレイ110の開口径を調整しているため、想定と異なる倍率設定では、最適な補正を行うことが困難となる。例えば、
図2Dのように過補正になり、試料上の結像面204において、中心のビームのフォーカスを試料面に合わせると、中心軸からの距離に依存してフォーカスが試料面からずれてしまう。また、図示は省略するが、逆に補正不足となる場合にも、中心軸からの距離に依存してフォーカスが試料面からずれてしまう。
【0033】
これに対して、本実施の形態1のレンズアレイ110では、ズームレンズの倍率を変化させた場合でも、試料上での像面湾曲が最小になるよう、レンズアレイ110の像面の曲率を最適に制御する。即ち、
図2Eに示すように、レンズ202,203の強度等の変化に伴う像面湾曲収差の変化に合わせてレンズアレイ像面(レンズアレイ結像面又はクロスオーバー像面)201の曲率を適宜調整可能なレンズアレイ110を設けることで、中心軸からの距離に依存せず全てのビームのフォーカスが試料面に合った結像面204を得る。
【0034】
《レンズアレイの詳細》
次に、
図3A〜
図3Cを用いて、本実施の形態1によるレンズアレイの構成例を説明する。
図3Aのレンズアレイは4枚の電極よりなり、上流(電子銃側)より順に第一電極301、第二電極302、第三電極303、第四電極304を備える。それぞれの電極は複数の開口を有する。
図3Aではビームの本数25本に対応して、25個の開口が形成されている。開口部の形状は円形であり、図中実線で示した25本のビーム軸が中心を貫くように各電極の開口が配置されている。第一電極301および第四電極304には共通の電圧(ここでは接地電圧(
図1の電子線応用装置の筐体電圧))が印加され、第二電極302および第三電極303にはそれぞれ独立に電源が接続される。第二電極302の電圧はV1、第三電極303の電圧はV2である。ここではV1とV2は同一の極性を持つ。
【0035】
図3Bは第一、第二および第四電極(301,302,304)の開口の径および配置の一例を示したものである。
図3Cは第三電極303の開口の径および配置の一例を示したものである。第一、第二および第四電極の開口は25個の開口径が全て等しい。これに対して第三電極の開口径は配列の中心から離れるに従って大きく作られている。
【0036】
図3Aのレンズアレイは、入口である第一電極301と出口である第四電極304が同一電圧であることから、アインツェルレンズの一種であると言える。アインツェルレンズはビームを加速または減速させながら、電極の開口部に形成される電場の漏れ(fringe)の回転対称性を利用して電子ビームに凸レンズの効果を与えるものであり、レンズ強度は電圧が印加される電極の開口径と電圧で決まる。
図3Aの場合は、電圧が印加される電極は第二電極302と第三電極303の2電極であるため、2段のレンズ、即ち、第二電極の電圧V1により強度が決定されるレンズと、第三電極の電圧V2により強度が決定されるレンズで近似できる。
【0037】
第二電極302の開口径は
図3Bに示したように全て等しいことから、V1により強度が決定されるレンズは25本のビームの全てにわたって同一のレンズ強度を持つ。一方、第三電極303の開口径は
図3Cに示したように配列の中心から離れるに従って大きく作られていることから、V2により強度が決定されるレンズは、中心軸上にあるビームに対しては大きいレンズ強度を持ち、中心軸以外のビームに対しては中心軸から離れるに従って小さいレンズ強度を持つ。
【0038】
次に
図4A〜
図4Dを用いて、本実施の形態1によるレンズアレイ110を用いたレンズアレイ像面(レンズアレイ結像面又はクロスオーバー像面)の曲率制御方式の原理を説明する。図中、レンズ401は第二電極の電圧V1により強度が決定されるレンズ、レンズ402は第三電極の電圧V2により強度が決定されるレンズである。
【0039】
図4Aは中心ビーム「c」と中心軸から離れたビーム「a」とで像面位置の差がdz1となるようにレンズアレイ像面(レンズアレイ結像面又はクロスオーバー像面)の曲率を調整した場合について、中心軸からの距離の異なる5本のビームの軌道を示した模式図である。
図4Bは中心ビーム「c」と中心軸から離れたビーム「a」とで像面位置の差がdz2となるようにレンズアレイ像面の曲率を調整した場合について、中心軸からの距離の異なる5本のビームの軌道を示した模式図である。dz1はdz2よりも大きく、
図4Aの方が
図4Bと比べてレンズアレイ像面の曲率が大きい。一方、中心ビームの結像位置は、
図4Aと
図4Bとで等しい。
【0040】
このような制御を行うためには、次のようにレンズ401およびレンズ402の強度を制御すれば良い。
図4Cは
図4Aに対応して、レンズ401の強度をP1、レンズ402の強度をP2として、ビーム毎のレンズ強度分布の一例をグラフで示したものである。
図3の説明で述べたように、P1は5本のビーム全てについて等しく、P2はビーム毎に異なる。結果的にレンズアレイ110は、中心軸からの距離に応じて異なったレンズ強度(P1+P2)を与えている。
【0041】
一方、
図4Dは
図4Bに対応して、ビーム毎のレンズ強度分布の一例をグラフで示したものである。
図4Aと比べて
図4Bでは形成するべきレンズアレイ像面(レンズアレイ結像面又はクロスオーバー像面)の曲率が小さい。これを実現するべく、
図4Dではレンズ強度P2を
図4Cよりも弱く設定する。その一方で、中心ビーム「c」の結像位置を一定に保つために、レンズ強度P1は
図4Cよりも強く設定することで、中心ビームに作用するレンズ強度の和を
図4Cと等しく設定する。
【0042】
以上のように、4枚の電極よりなるレンズアレイ110の第二電極(302,401)の開口径と第三電極(303,402)の開口径を異なる分布とし、第二電極に印加する電圧V1と第三電極に印加する電圧V2を適宜制御することにより、レンズアレイ像面の曲率と中心軸に近いレンズの結像位置とを独立に制御することが可能になる。すなわち、この例では、第三電極およびV2によってレンズアレイ像面(レンズアレイ結像面又はクロスオーバー像面)の曲率を制御し、第二電極およびV1によって中心軸に近いレンズの結像位置を制御する。これにより、各種光学条件(電子線応用装置を構成する他のレンズの焦点距離等)を変更する場合においても、それに対応するレンズアレイ像面を適宜設定することが可能となり、試料上における像面湾曲収差を常に最小にすることが出来る。
【0043】
なお、本実施の形態1においては、レンズアレイ像面(レンズアレイ結像面又はクロスオーバー像面)の曲率の調整に際して、中心ビームの結像位置を一定に保つよう、電圧V1およびV2の制御を行った。ただし、本実施の形態1の本質は、2つの電圧(V1,V2)の調整により、中心軸に近いレンズの結像位置と、レンズアレイ像面の曲率という2つのパラメータを独立に制御することであるから、中心ビームの結像位置は必ずしも一定ではなく、所望の値に都度調整することも可能である。
【0044】
また、本実施の形態1においては、4枚の電極よりなるレンズアレイの第二電極の開口径は全てのビームについて等しく設定を行った。ただし、本実施の形態1によるレンズアレイの原理は、2枚の異なる開口径分布を持った電極に印加する電圧を独立に制御することにより、レンズ強度の分布を制御することであるから、第二電極の開口径と第三電極の開口径とが異なってさえいれば、同様の効果を得ることが出来る。
【0045】
さらに、本実施の形態1では、レンズアレイ像面(レンズアレイ結像面又はクロスオーバー像面)を下流のレンズの像面湾曲と逆向き、即ち上に凸にするべく、第三電極の開口径は中心から離れるに従って大きく作られていた。ただし、例えば、レンズアレイ像面の湾曲の向きを下に凸にする場合などは、中心から離れるに従って小さな開口を持った電極を用いても良い。また、例えば、第二電極は中心から離れるに従って開口径を大きくし、第三電極は第二電極とは逆に中心から離れるに従って開口径を小さくするなどすれば、レンズアレイ像面の曲率をさらに精密に制御することが出来る。
【0046】
さらに、本実施の形態1では、下流のレンズが回転対称な電磁レンズであったため、像面湾曲収差も回転対称であったが、例えば四極子、八極子などの非回転対称なレンズを用いた場合など、下流のレンズの像面湾曲収差が回転対称ではない場合がある。このような場合は、レンズアレイの開口径の分布を中心軸からの距離のみに応じて変えるのではなく、方位に応じて変化させることにより、同様の効果を得ることが出来る。また、本実施の形態1では、対物レンズ116a,116bの倍率調整を目的として、これに伴う像面湾曲収差の変化を補正する方式について述べたが、試料に入射する一次ビームのエネルギーや、試料表面付近の電界強度の変更を目的とした場合であっても、これらに伴う像面湾曲収差の変化を補正する手段として本実施の形態1は有効である。
【0047】
またさらに、レンズアレイよりも上流のレンズにおける球面収差の補正手段としても、本実施の形態1によるレンズアレイ像面(レンズアレイ結像面又はクロスオーバー像面)の曲率制御方式は有効である。これに関して
図5を用いて説明する。
【0048】
球面収差は光軸上の一点から出た軌道が像面において1点で結像しない現象である。
図5Aはコンデンサレンズ107の球面収差と、レンズアレイ110によるレンズアレイ像面(レンズアレイ結像面又はクロスオーバー像面)の曲率との関係をしめす図である。クロスオーバー106から出たビームのうち、中心軸に近いビームと中心軸から離れたビームとが、球面収差によりdzだけ異なる位置に結像する。その結果、コリメータレンズ108およびレンズアレイ110が全てのビームに対して等しい集束作用を与えた場合、その複数のクロスオーバー像111a,111b,111cによって形成されるレンズアレイ像面は点線で示すように下に凸の曲面となってしまう。そこで、
図5Bでは、コンデンサレンズ107の球面収差による結像位置の差の影響を打ち消すように、レンズアレイ110の強度分布を調整している。その調整方法は
図4A〜
図4Dの説明と同様である。これにより、点線で示すように、レンズアレイ像面を平面状に形成することが出来る。
【0049】
なお、
図5Aおよび
図5Bではコンデンサレンズの球面収差の補正について説明したが、コンデンサレンズ以外のレンズアレイより上流の光学素子、例えば
図1に示された電子銃101、磁界重畳レンズ104、コリメータレンズ108などの球面収差についても同様に補正出来る。したがって、レンズアレイよりも上流のレンズの光学条件、例えば、電子銃の加速電圧やレンズの倍率を変更しても、本実施の形態によれば、常に、レンズアレイ像面(レンズアレイ結像面又はクロスオーバー像面)の曲率を所望の値に調整することが出来るので、光学条件の設定の幅を広げることが出来る。
【0050】
《電子線応用装置における光学条件の設定方法》
次に、本実施の形態1における光学条件の設定手順について、
図1の構成例および
図6のフローチャート例を用いて説明する。ステップS601では、入力装置133を通してオペレータが計測条件を入力する。あるいは「高速モード」「高分解能モード」等のメニューの中から選択することにより、予め設定された計測条件の組み合わせを選択する。計測条件とは、例えば、試料に照射するビームの電流、入射エネルギー、試料表面付近の電界強度などである。
【0051】
ステップS602では、S601で設定された計測条件を元に、システム制御部128にインストールされた計測条件設定プログラム132が、各光学素子のパラメータを決定する。当該パラメータの中には、例えば、コンデンサレンズ107の倍率、コリメータレンズ108の焦点距離、トランスファーレンズ113a,113bの倍率、対物レンズ116a,116bの倍率、表面電界制御電極119に印加する電圧、電磁レンズ123の焦点距離等が含まれる。また、電子銃101の加速電圧や、ウィーンフィルター114に印加する電流、電圧等が含まれる。
【0052】
ステップS603では、ステップS602で設定されたパラメータを元に、計測条件設定プログラム132の制御のもと、光学系制御回路134が各光学素子に印加する電圧・電流を設定する。
【0053】
ステップS604では、計測条件設定プログラム132は、予め入力された各レンズの倍率と像面湾曲との関係を参照して、ステップS602で設定されたパラメータを前提とした試料120上の像面湾曲を計算する。
【0054】
ステップS605では、計測条件設定プログラム132は、レンズアレイ像面(レンズアレイ結像面又はクロスオーバー像面)の最適な曲率を計算する。即ち、トランスファーレンズ113a,113b、対物レンズ116a,116bの縦倍率に基づき、S604で求められた試料120上の像面湾曲をレンズアレイ110の像面湾曲に換算する。
【0055】
ステップS606では、計測条件設定プログラム132は、
図3A〜
図3C等に示したようなレンズアレイ110の第二電極に印加する電圧V1および第三電極に印加する電圧V2を決定する。ここで、
図7Aおよび
図7Bのグラフを用いてV1およびV2の決定方法について説明する。
【0056】
図7Aは複数のビームのうち基準となるビームに対する、電圧V1,V2と結像位置zの関係であり、これは実測あるいは光学計算により求めることが出来る。ここでは、例えば
図4Aのビーム「c」に相当する中心軸上のビームを基準ビームとする。中心軸上にビームが配置されていない場合は、中心軸に最も近いビームを基準ビームとしても良い。基準ビームが通過するレンズアレイ110の各電極の開口径は決まっているため、
図7Aのグラフを用いれば、所望の結像位置zに対してV1とV2の関係を一意に定めることが出来る。一方、
図7Bは、
図7Aで定めたV1とV2の関係を前提として、レンズアレイ像面(レンズアレイ結像面又はクロスオーバー像面)の曲率とV2の関係を表したグラフである。所望の曲率に対してV2が一意に定まることを示している。即ち、基準ビームの結像位置zとレンズアレイ像面の曲率dzの所望の値が決まれば、V1およびV2が一意に定まることが分かる。
【0057】
ステップS607では、計測条件設定プログラム132は、耐圧の観点からレンズアレイ110の電圧設定が実現可能かどうかを判定する。すでに述べたようにレンズアレイは4枚の電極よりなり、それぞれに異なる電圧を印加することでレンズ作用が発生している。4枚の電極の間には絶縁部材が挟まれているが、電圧差が一定の値を越えると、放電が発生し、レンズとしての機能が損なわれたり、レンズアレイあるいは電源が破損したりする場合がある。したがって、電圧V1およびV2の絶対値、およびV1とV2の電圧差に制限を設ける必要がある。
【0058】
例えば、
図7Aに斜線で示された領域は、上記の観点から電圧設定に適さない領域である。そこで、当該ステップS607では、計測条件設定プログラム132は、S606で定められた電圧V1,V2が設定可能な範囲に入っているかどうかを判定する。設定可能な範囲に入っていると判定された場合はステップS608に進む。設定可能な範囲に入っていないと判定された場合はS602に戻り、V1,V2が設定可能な範囲に入るように、一部のレンズ条件を変更した上で、全てのレンズ条件を再決定する。例えば基準ビームのレンズアレイ110の結像位置zを変更してもよいし、レンズアレイ以外のレンズの条件を変えることでレンズアレイ像面(レンズアレイ結像面又はクロスオーバー像面)の最適な曲率を変えても良い。
【0059】
ステップS608では、光学系制御回路134は、計測条件設定プログラム132の制御のもと、レンズアレイ110の第二電極および第三電極にS606で決定した電圧V1およびV2を設定する。
【0060】
ステップS609では、電子線応用装置は、計測条件設定プログラム132の制御のもと、各ビームについて像面位置を測定することで、試料120上での像面湾曲を測定する。
図1には図示していないが、例えばステージ121上にはビームの形状を確認するための較正マークが設置されており、この較正マークを用いてビーム毎の結像位置を求める。具体的には、対物レンズ116bに印加する電流を変化させながら較正マーク上でビームを走査し、発生する二次ビーム信号のコントラストが高い対物レンズの電流値を探る。これをビーム毎に繰り返せば、ビーム毎に最適な対物レンズの電流値を求めることが出来る。対物レンズの電流値と試料の高さの関係は高さの異なる複数の較正マーク等を用いて予め求めることが出来るため、中心軸に近いビームと中心軸から離れたビームの対物レンズの電流値の差から試料上の像面湾曲を求めることが出来る。
【0061】
ステップS610では、計測条件設定プログラム132は、S609で測定された像面湾曲が許容範囲に入るかどうかを判定する。許容範囲に入らないと判定された場合は、S605に戻り、レンズアレイ像面(レンズアレイ結像面又はクロスオーバー像面)の最適な曲率を再計算する。許容範囲に入ると判定された場合は、光学条件の設定が完了したので、ステップS611において試料120の計測を開始する。
【0062】
以上のようなフローチャートを用いることで、様々な光学条件に対応して像面湾曲収差の補正を行うことが可能になる。さらに、この際には、レンズアレイ110の耐圧を考慮することでレンズアレイの保護が図れ、また、レンズアレイの電圧V1,V2の良否を試料120上の像面湾曲の実測に基づいて検証することで、より高精度な像面湾曲収差の補正が実現可能となる。なお、ここでは、ステップS609での像面位置の測定をステージ121上に設けられた較正マークを用いて行ったが、より感度良く測定したい場合などは、別の位置にビーム検出手段を設けても構わない。例えば、レンズアレイ像面の付近に鋭利な端面を持つアパーチャーを設置し、アパーチャー上で走査したビームをフォトダイオードやファラデーカップなどの検出器により検出すればナイフエッジ法によりアパーチャー上でのビーム形状を測定することが出来る。
【0063】
また、本実施の形態では、電子線応用装置の一例として、電子線測長装置を想定して各種説明を行ったが、複数のビームを個別に集束させるレンズアレイを用いた電子光学系を持つ全ての装置に対して同様に適用することができ、同様の効果を得ることが出来る。具体的には、例えば、試料上に形成されたパターン内における欠陥の有無を調べる検査装置、試料上に形成されたパターンの欠陥を観察するレビューSEM等の電子顕微鏡等に適用できる。また、例えば、電子顕微鏡を応用した電子線描画装置にも適用できる。
【0064】
(実施の形態2)
《レンズアレイの詳細(変形例[1])》
図8A〜
図8Cは、本発明の実施の形態2による電子線応用装置において、そのレンズアレイの構成例を示す概略図である。
図8Aに示すレンズアレイは、第一レンズアレイユニット801および第二レンズアレイユニット805の2ユニットより構成されている。第一レンズアレイユニット801は、3枚の電極よりなり、上流(電子銃側)より順に第一電極802、第二電極803、第三電極804を備える。それぞれの電極には25個の開口が形成されている。開口部の形状は円形であり、図中実線で示した25本のビーム軸が中心を貫くように各電極の開口が配置されている。第一電極802および第三電極804には共通の電圧(ここでは接地電圧)が接続され、第二電極803には電源より電圧V1が供給されている。
【0065】
第二レンズアレイユニット805も、3枚の電極よりなり、上流(電子銃側)より順に第一電極806、第二電極807、第三電極808を備える。それぞれの電極には25個の開口が形成されている。開口部の形状は円形であり、図中実線で示した25本のビーム軸が中心を貫くように各電極の開口が配置されている。第一電極806および第三電極808には共通の電圧(ここでは接地電圧)が接続され、第二電極807には電源より電圧V2が供給されている。
【0066】
ここで、
図8Bは第一レンズアレイユニット801を構成する電極の開口の径および配置を示したものであり、
図8Cは第二レンズアレイユニット805を構成する電極の開口の径および配置を示したものである。
図8Bに示すように、第一レンズアレイユニット801を構成する各電極の開口は5個の開口径が全て等しいのに対して、
図8Cに示すように、第二レンズアレイユニット805を構成する各電極の開口径は配列の中心から離れるに従って大きく作られている。
【0067】
この構成例は、
図3A〜
図3Cに示されたレンズアレイを第二電極302と第三電極303の間で2つに分け、最下流側と最上流側にそれぞれ1枚ずつ接地電圧を持つ電極を追加した構成と見なすことが出来る。この時、二つのレンズアレイユニットのレンズ強度は、第一レンズアレイユニット801の第二電極803に印加された電圧V1と第二レンズアレイユニット805の第二電極807に印加された電圧V2で決まる。このため、実施の形態1と同様に、レンズアレイ像面(レンズアレイ結像面又はクロスオーバー像面)の曲率を制御することが出来る。
【0068】
このようにレンズアレイを2つのユニットに分けるメリットは、2つのレンズアレイユニットの間にアライナー(図示せず)を設置することが出来る点である。即ち、2つのレンズアレイユニットの組立時にずれが発生した場合でも電子ビームの軌道を補正することが出来るので、複数のビームを良好に集束させることが出来る。
【0069】
(実施の形態3)
《レンズアレイの詳細(変形例[2])》
図9Aは、本発明の実施の形態3による電子線応用装置において、そのレンズアレイの構成例を示す概略図である。
図9Aのレンズアレイは、5枚の電極よりなり、上流(電子銃側)より順に第一電極901、第二電極902、第三電極903、第四電極904、第五電極905を備える。
図9Aのレンズアレイは、第三電極903を中心として上下対称に構成されており、第一電極901と第二電極902の間隔と、第四電極904と第五電極905の間隔は等しい。また、第二電極902と第三電極903の間隔と、第三電極903と第四電極904の間隔は等しい。それぞれの電極には、複数の円形開口(
図9Aでは25個)が、図中実線で示した25本のビーム軸によって中心を貫かれるように配置されている。
【0070】
第一および第三および第五電極(901,903,905)の開口は、
図3Bの構成例と同様に25個の開口径が全て等しい。一方、第二および第四電極(902,904)の開口は、
図3Cの構成例と同様に開口径が配列の中心から離れるに従って大きく作られている。第二電極と第四電極の開口径は等しい。第一電極901および第五電極905には共通の電圧(ここでは接地電圧)が接続され、第二電極902および第三電極903および第四電極904にはそれぞれ独立に電源が接続されている。第二電極902の電圧はV1、第三電極903の電圧はV2、第四電極904の電圧は第二電極902と等しく、V1である。
【0071】
次に
図9Cおよび
図9Dを用いて、
図9Aに示したレンズアレイにおけるレンズアレイ像面(レンズアレイ結像面又はクロスオーバー像面)の曲率制御方式について説明する。
図9Cは、中心ビーム「c」と中心軸から離れたビーム「a」とで像面位置の差がdz1となるようにレンズアレイ像面の曲率を調整した場合について、中心軸からの距離の異なる5本のビームの軌道を示した模式図である。
図9Aのレンズアレイは5枚の電極より構成されているが、レンズの強度は第二および第三および第四電極(902,903,904)に印加する電圧で調整出来るため、レンズアレイを3段のレンズの合成と近似することが出来る。
図9Cでは、この3段のレンズとして、第二電極の電圧V1により強度が決定されるレンズ906、第三電極の電圧V2により強度が決定されるレンズ907、第四電極の電圧V1により強度が決定されるレンズ908が示されている。
【0072】
図9Dは、
図9Cに対応して、レンズ906の強度をP1、レンズ907の強度をP2、レンズ908の強度をP3として、ビーム毎のレンズ強度分布をグラフで示したものである。
図9Aで述べたように、第二電極902の開口径は配列の中心から離れるに従って大きく作られているから、P1はビーム毎に異なる。レンズアレイは第三電極903を中心として上下対称に構成されているから、P3は常にP1に等しい。一方、第三電極903に形成される開口は全てのビームに対して等しいから、P2は5本のビーム全てについて等しい。
【0073】
本実施の形態3においても、実施の形態1と同様に、2つの電圧(V1,V2)の調整により、中心軸に近いレンズの結像位置と、レンズアレイ像面(レンズアレイ結像面又はクロスオーバー像面)の曲率という2つのパラメータを独立に制御することが可能である。これに加えて、本実施の形態3ではレンズ主面を独立に制御することが可能である。ここで、レンズ主面とは一本のビームが通過する経路上におけるレンズ強度の重心である。レンズ主面が変動すると像面でのビーム開き角が変動するため、ビームのボケ(収差)が変動し、試料上でのビーム径が変動する恐れがある。一方、本実施の形態3では、
図9Cに示すように、レンズアレイが第三電極903を中心として上下対称に構成されていることから、レンズ主面は一点鎖線で示したように、レンズ907(第三電極)の位置に形成される。この対称性はいかなるV1およびV2についても成立することから、中心軸に近いレンズの結像位置と、レンズアレイ像面の曲率を変化させた場合でも、常にレンズ主面を一定に保つことが出来ると言える。
【0074】
なお、
図9Aでは、第二電極902、第四電極904の開口径を配列の中心から離れるに従って大きく設定し、第三電極903に形成される開口は全てのビームに対して等しく設定した。ただし、これとは逆に、第二電極902、第四電極904の開口径を全てのビームに対して等しく設定し、第三電極903に形成される開口を配列の中心から離れるに従って大きく設定しても、同等の効果を得ることが出来る。また、本実施の原理は、上下対称な構造を持ったレンズアレイにおいて、2枚の異なる開口径分布を持った電極に印加する電圧を独立に制御することにより、レンズ強度の分布を制御することであるから、第二電極および第四電極の開口径が等しく、第三電極の開口径が両電極と異なってさえいれば、同様の効果を得ることが出来る。
【0075】
さらに、本実施の形態の本質は、レンズ主面を一定に保つことであるから、仮に第二電極902と第四電極904の電極径が異なっていても、電圧の制御によって
図9Dに示したようなレンズ強度分布を形成すれば、同様の効果を得ることが出来る。即ち、第二電極と第四電極の電極径が異なっていて、構造的には上下対称でなくても、電圧の制御により、レンズ強度の分布が
図9Cのように上下対称になっていれば十分である。この場合、第二電極902、第三電極903、第四電極904は、
図9Bに示すように、それぞれ個別の電源によって電圧V1,V2,V3が印加される必要がある。
【0076】
また、本実施の形態においては、全てのビームにわたってレンズ主面の位置を一定にするべくレンズアレイを構成したが、
図9Bのように第二電極902、第三電極903、第四電極904に印加する3つの電圧V1,V2,V3を個別に制御すれば、より自由度の高いレンズ主面の制御が可能となる。即ち、レンズ主面を所望の曲面状に形成することも可能である。
【0077】
(実施の形態4)
《像面湾曲収差の補正方式の概要(応用例[1])》
前述した実施の形態1および2では、補正の対象である像面湾曲収差は静的、即ち時間的に一定であり、したがって補正のためにレンズアレイに印加する電圧も時間的に一定なDC電圧であった。本実施の形態4では、試料上でのビーム走査に伴う像面湾曲収差の変化の動的な補正を行う。ここでは実施の形態1と同様に、電子線応用装置として電子線測長装置を例に説明を行うが、試料上でのビーム走査範囲が広い電子線検査装置や電子線露光装置においても特に有効である。
【0078】
実施の形態1の
図1で述べたように、試料120上のビーム走査は、対物レンズ116a,116b中に設置された偏向器117によりなされる。偏向器117は、走査信号発生回路135が発生した走査信号の入力により、偏向器内に略一様な偏向電界を形成し、偏向器内を通過する一次ビームを偏向する。この時、偏向に伴い発生する収差の中に、偏向像面湾曲収差とハイブリッド像面湾曲収差がある。このうち偏向像面湾曲収差は全てのビームに対して共通に発生するので、投影光学系に全てのビームに対して共通に作用するダイナミックフォーカスレンズ(図示せず)を設け、これに偏向と同期して電圧または電流を供給することで補正することが出来る。一方、ハイブリッド像面湾曲収差は、一次ビームの位置ベクトルと偏向ベクトルの双方により決まるため、全てのビームに対して共通に作用するダイナミックフォーカスレンズで補正することが出来ない。そこで、本実施の形態4においては、レンズアレイに偏向と同期した電圧を供給することにより、動的な像面湾曲収差の補正を実施する。
【0079】
ここで、ハイブリッド像面湾曲収差の補正の原理について説明する。ハイブリッド像面湾曲収差は、一次ビームと中心ビームの距離をR、方位角をθ、偏向距離をM、方位角をφ、ハイブリッド像面湾曲収差係数の絶対値をA、方位角をαとすると、A×M×R×cos(α−θ+φ)で表される。この場合、ハイブリッド像面湾曲収差は、α−θ+φ=0で最大となり、α−θ+φ=90°でゼロとなり、α−θ+φ=−180°で最小となる。簡単のためハイブリッド像面湾曲収差係数の方位角αが0の場合について考えると、ビームの位置ベクトルと偏向ベクトルが同じ方向を向いた時に像面湾曲が最大となり、ビームの位置ベクトルと偏向ベクトルが逆方向を向いた時に像面湾曲が最小となる。これを補正するためにはレンズアレイ像面(レンズアレイ結像面又はクロスオーバー像面)を、
図10Aに示すように傾ければよい。
【0080】
図10Aではレンズアレイ110の集束作用を2段のレンズで表している。1001は第二電極の電圧V1により強度が決定されるレンズ、1002は第三電極の電圧V2により強度が決定されるレンズである。ここでは、一方向に向けて段階的に強度が上がるレンズ1001と、その逆方向に向けて段階的に強度が上がるレンズ1002を設け、この2個のレンズの平均強度のバランスを電圧V1,V2により制御することでレンズアレイ像面(レンズアレイ結像面又はクロスオーバー像面)を傾けている。なお、通常のビーム走査では、一次ビームを左右あるいは上下に偏向するため、
図10Aの場合とは逆向きの偏向に対しては、
図10Bのようにレンズアレイ像面を逆方向に傾ける必要がある。
【0081】
《レンズアレイの詳細(応用例[1])》
図11A〜
図11Cは、本発明の実施の形態4による電子線応用装置において、そのレンズアレイの構成例を示す概略図である。前述したような像面湾曲収差の動的な補正を実現するためには、
図11A〜
図11Cのごときレンズアレイの構成が望ましい。
図11Aのレンズアレイは、実施の形態1のレンズアレイと同様、4枚の電極よりなり、上流(電子銃側)より順に第一電極1101、第二電極1102、第三電極1103、第四電極1104を備える。第一電極1101および第四電極1104には共通の電圧(ここでは接地電圧)が接続され、第二電極1102および第三電極1103にはそれぞれ独立に電源が接続されている。第二電極1102の電圧はV1、第三電極1103の電圧はV2である。
【0082】
第一および第四電極(1101,1104)の開口は、
図3Bと同様に25個全てにわたって開口径が等しい。一方、第二電極1102の開口径は、偏向方向を紙面左右とすると、
図11Bに示すように紙面右に向かって段階的に大きくなる。逆に、第三電極1103の開口径は
図11Cに示すように紙面左に向かって段階的に大きくなる。
【0083】
このようなレンズアレイの第二および第三電極(1102,1103)に対して走査信号に同期した信号を入力する。即ち、電圧V1,V2を一次ビームの左右の偏向に同期して制御する。V1とV2には、
図10Aおよび
図10Bに示したように、レンズアレイ像面(レンズアレイ結像面又はクロスオーバー像面)を双方向に傾ける作用があるから、例えば、偏向方向に応じて、V2よりもV1を大きくする、あるいは、逆にV1よりもV2が大きくするといった逆位相の制御を行う。以上の方法により、偏向位置に関わらず、像面湾曲収差の補正を実施することが出来る。
【0084】
なお、本実施の形態4では試料上でのビーム走査に伴うハイブリッド像面湾曲収差の補正についてのみ説明したが、実際には実施の形態1〜3で説明した静的な像面湾曲収差の補正や、ダイナミックフォーカスレンズによる偏向像面湾曲収差の補正を組み合わせることで、より好適に像面湾曲収差が補正できる。すなわち、例えば、
図1のレンズアレイ110の部分において、
図3A等のレンズアレイを配置すると共にそのビーム軸方向の上部又は下部に
図11Aのレンズアレイを配置したり、場合によっては
図3A等のレンズアレイを配置すると共にその最上部電極と最下部電極の間に
図11Bおよび
図11Cのような電極を挿入することも可能である。
【0085】
(実施の形態5)
《像面湾曲収差の補正方式の概要(応用例[2])》
本実施の形態5では、前述したようなレンズアレイ像面(レンズアレイ結像面又はクロスオーバー像面)の曲率制御方式を反射型電子線描画装置へ応用した例について説明する。反射型電子線描画装置とは、画素ごとに反射/吸収を制御可能な反射鏡を用いて、描画するべきパターンに応じた形状の電子ビームを反射させ、これを縮小結像することで所望のパターンをウェハ上に描画する描画装置のことである。反射鏡には微小電極が配列され、各微小電極に印加する電圧の制御により画素ごとに反射/吸収を制御する。
【0086】
図12は、本発明の実施の形態5による電子線応用装置において、それに含まれる反射鏡の構造例を示した模式図である。
図12において、入射するビームは紙面内で上から下に向かって進み、このうち、描画するべき画素に相当するビームのみが反射鏡によって反射され、紙面内で下から上に向かって戻る。なお、
図12では説明を簡単にするため25本のビームしか描かれていないが、高速描画を実現するためには数多くのビーム本数が必要であることは言うまでもない。
【0087】
当該反射鏡は、
図12に示すように、具体的にはレンズアレイとパターンジェネレータ1205の各部より構成され、レンズアレイは絶縁体(図示せず)を挟んで積層された4枚のレンズ電極1201〜1204よりなる。レンズ電極1201〜1204はそれぞれ図中実線で示した入射ビーム経路の周りに開口を備え、独立の電圧が印加される。パターンジェネレータ1205は、各ビームに対応する微小電極を備える。ここでは、その内の一部の微小電極1206a,1206b,1206c,1206d,1206eのみ図示している。
【0088】
各微小電極には、描画するべきパターンに従って、正または負の電圧が印加される。入射ビームのエネルギーよりも大きな負の電圧が印加されると、入射ビームは反射される。逆に正の電圧が印加されると入射ビームは微小電極に吸収される。各微小電極に印加する電圧はパターンジェネレータ制御回路1207によって制御される。反射されたビームは、紙面内で上側に設けられた縮小光学系(図示せず)を経てウェハ上に到達する。
【0089】
このような反射型の電子線装置においても、像面湾曲収差が問題となりうる。即ち、反射鏡で反射されたビームは面積的な広がりを持つため、これらをウェハ上に縮小結像する際に、縮小光学系の像面湾曲収差により、ウェハ上で中心軸に近い軌道を通るビームと中心軸から離れた軌道を通るビームとで結像位置が異なってしまう。これを防ぐために、本実施の形態5では、レンズ電極1202またはレンズ電極1203またはレンズ電極1204の開口径を、縮小光学系の中心軸からの距離に応じて異なるよう設定する。さらに、レンズ電極1201〜1204に印加する電圧を制御することで、中心軸に近いビームの結像位置とレンズアレイ像面の曲率を独立に制御する。
【0090】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。